(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B60W 30/20 20060101AFI20231117BHJP
A01B 63/10 20060101ALI20231117BHJP
B60W 10/00 20060101ALI20231117BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20231117BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20231117BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20231117BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20231117BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
B60W30/20
A01B63/10 A
B60W10/00 148
B60W10/06
B60W10/10
B60W10/30
B60W50/14
F02D29/00 B
(21)【出願番号】P 2018117256
(22)【出願日】2018-06-20
【審査請求日】2021-01-12
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167302
【氏名又は名称】種村 一幸
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(72)【発明者】
【氏名】三輪 敏之
【合議体】
【審判長】山本 信平
【審判官】河端 賢
【審判官】星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-214071(JP,A)
【文献】特開平11-311320(JP,A)
【文献】特開2001-132501(JP,A)
【文献】特開2012-91751(JP,A)
【文献】特開2012-92946(JP,A)
【文献】特開平10-159604(JP,A)
【文献】実開昭59-70405(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
F02D 29/00-29/06
A01B 63/00-63/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン制御部によってエンジン回転数が変更されるエンジンと、
変速制御部によって走行用の動力を変速する走行用変速装置と、
車体の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサの検出値が閾値以上のときに車体の振動を低下させる振動抑制制御を行う振動抑制制御部とを備え、
前記振動抑制制御部は、前記振動抑制制御で実行する複数の振動抑制処理として、少なくとも、
前記エンジン制御部に前記エンジンを制御させて前記エンジン回転数を変更する回転数変更処理と、
前記変速制御部に前記走行用変速装置を制御させて前記走行用の動力を変速する走行動力変速処理とを有し、前記振動抑制制御においては、前記複数の振動抑制処理のうちの
前記回転数変更処理と前記走行動力変速処理との一方からなる振動抑制処理を実行し、その実行後も前記振動センサの検出値が前記閾値以上のときは、前記複数の振動抑制処理のうち
前記回転数変更処理と前記走行動力変速処理との他方からなる未実行
の振動抑制処理を実行す
る作業車両。
【請求項2】
電子制御によって作業用の動力を変速する作業用変速装置を備え、
前記複数の振動抑制処理には、前記作業用の動力を変速する作業動力変速処理が含まれている請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
電子制御によってエンジン回転数が変更されるエンジンと、
電子制御によって走行用の動力を変速する走行用変速装置と、
車体の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサの検出値が閾値以上のときに車体の振動を低下させる振動抑制制御を行う振動抑制制御部とを備え、
前記振動抑制制御部は、前記振動抑制制御で実行する複数の振動抑制処理として、少なくとも、前記エンジン回転数を変更する回転数変更処理と、前記走行用の動力を変速する走行動力変速処理とを有し、前記振動抑制制御においては、前記複数の振動抑制処理のうちのいずれかの振動抑制処理を実行し、その実行後も前記振動センサの検出値が前記閾値以上のときは、前記複数の振動抑制処理のうちの未実行のいずれかの振動抑制処理を実行する制御作動を繰り返し、
作業の種類を取得する業種取得部を備え、
前記振動抑制制御部は、前記業種取得部が取得した作業の種類に基づいて前記振動抑制制御で実行する前記複数の振動抑制処理の優先順位を決定する優先順位決定処理を実行す
る作業車両。
【請求項4】
車体のロール角を検出する傾斜センサと、
車体の後部にローリング可能に連結された作業装置をロール方向に駆動するローリング駆動機構と、
前記傾斜センサの検出に基づいて前記ローリング駆動機構の作動を制御することで前記作業装置のロール角を設定角度に維持するローリング制御を実行する作業装置制御部とを備え、
前記複数の振動抑制処理には、前記ローリング制御における制御感度を鈍感にする感度低下処理が含まれている請求項1~3のいずれか一項に記載の作業車両。
【請求項5】
電子制御によってエンジン回転数が変更されるエンジンと、
電子制御によって走行用の動力を変速する走行用変速装置と、
車体の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサの検出値が閾値以上のときに車体の振動を低下させる振動抑制制御を行う振動抑制制御部とを備え、
前記振動抑制制御部は、前記振動抑制制御で実行する複数の振動抑制処理として、少なくとも、前記エンジン回転数を変更する回転数変更処理と、前記走行用の動力を変速する走行動力変速処理とを有し、前記振動抑制制御においては、前記複数の振動抑制処理のうちのいずれかの振動抑制処理を実行し、その実行後も前記振動センサの検出値が前記閾値以上のときは、前記複数の振動抑制処理のうちの未実行のいずれかの振動抑制処理を実行する制御作動を繰り返し、
前記振動抑制制御として、前記複数の振動抑制処理を作業に適した適正範囲内で行う第1振動抑制制御と、前記複数の振動抑制処理を前記適正範囲よりも広い許容範囲内で行う第2振動抑制制御とを有し、
前記第2振動抑制制御の実行の要否選択を促す報知装置と、前記第2振動抑制制御の実行の要否選択を可能にする選択スイッチとを備え、
前記振動抑制制御部は、前記振動センサの検出値が閾値以上のときに、先ず前記第1振動抑制制御を実行し、前記第1振動抑制制御の終了後も前記振動センサの検出値が前記閾値以上のときは、前記報知装置を作動させる報知処理を実行し、前記報知処理の実行後に、前記選択スイッチによって前記第2振動抑制制御の実行が選択されたときに前記第2振動抑制制御を実行す
る作業車両。
【請求項6】
電子制御によってエンジン回転数が変更されるエンジンと、
電子制御によって走行用の動力を変速する走行用変速装置と、
車体の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサの検出値が閾値以上のときに車体の振動を低下させる振動抑制制御を行う振動抑制制御部とを備え、
前記振動抑制制御部は、前記振動抑制制御で実行する複数の振動抑制処理として、少なくとも、前記エンジン回転数を変更する回転数変更処理と、前記走行用の動力を変速する走行動力変速処理とを有し、前記振動抑制制御においては、前記複数の振動抑制処理のうちのいずれかの振動抑制処理を実行し、その実行後も前記振動センサの検出値が前記閾値以上のときは、前記複数の振動抑制処理のうちの未実行のいずれかの振動抑制処理を実行する制御作動を繰り返し、
前記振動抑制制御部は、前記振動抑制制御において、前記振動センサの検出値が前記閾値よりも大きい制限値を超えた状態が所定時間継続されたときに前記エンジンを停止させるエンジン停止処理を実行す
る作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御によってエンジン回転数が変更されるエンジンと、電子制御によって走行用の動力を変速する走行伝動系とを備えた作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
作業車両の一例である乗用田植機においては、電子ガバナ機構付きのエンジンを機体に防振搭載し、エンジン回転数をセンサで検知し、機体に振動センサを配置して、それぞれの値をコントローラに入力し、機体の振動レベルが設定値以上になると、コントローラがエンジン回転数を変更することで機体の振動を抑制するようにしたものがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の発明においては、機体の振動レベルが設定値以上になるのは、エンジン回転数が特定の回転数に変更されたときのエンジンの振動に機体が共振したためであると考えて、機体の振動レベルが設定値以上になったときには、エンジン回転数を変更することで、エンジンの振動に機体が共振することを回避して、機体の振動レベルを設定値未満に低下させるようにしている。
【0005】
トラクタや乗用田植機などの作業車両には、エンジンからの動力を車輪やクローラなどの走行装置に伝える走行伝動系と、エンジンからの動力を作業動力取り出し用のPTO軸に伝える作業伝動系とが備えられている。そして、PTO軸から取り出された作業用の動力がロータリ耕耘装置や苗植付装置などの作業装置に伝えられている。そのため、このような作業車両においてエンジン回転数が変更された場合は、走行伝動系を経由したエンジンからの動力で得られる車速と、作業伝動系を経由したエンジンからの動力で得られる作業速度とが、同調した状態で変更されることになる。その結果、作業車両が、特許文献1に記載されたような乗用田植機であれば、苗植付装置による苗の植え付け間隔(株間)を一定に維持することができる。
【0006】
つまり、特許文献1に記載の発明は、乗用田植機に関するものであることから、機体の振動レベルが設定値以上になったときは、エンジン回転数を変更することで、苗植付装置による苗の植え付け間隔(株間)を一定に維持しながら、エンジンの振動に機体が共振することを回避することができ、機体の振動レベルを設定値未満に低下させることができる。
【0007】
ところで、作業車両の振動には、エンジンの振動だけでなく、例えば、エンジンからの動力を走行用として変速する走行用変速装置の振動や、エンジンからの動力を作業用として変速する作業用変速装置の振動なども関与している。そして、走行用変速装置や作業用変速装置なども固有振動数を有していることから、作業車両の振動レベルが設定値以上になるのは、単に、エンジン回転数が特定の回転数に変更されたときのエンジンの振動に車体が共振した場合だけでなく、例えば、走行用変速装置が特定の変速状態に変速されたときの走行用変速装置の振動に車体が共振した場合や、作業用変速装置が特定の変速状態に変速されたときの作業用変速装置の振動に車体が共振した場合、なども考えられる。
【0008】
これに対し、特許文献1に記載の発明においては、車体(機体)の振動レベルが設定値以上になるときにエンジン回転数を変更するようにしていることから、走行用変速装置の振動などに車体が共振することで車体の振動レベルが設定値以上になった場合においてもエンジン回転数を変更するだけになる。これでは車体の振動レベルを設定値未満に低下させることができないことから、車体の振動を抑制する上において改善の余地がある。
【0009】
この実情に鑑み、本発明の主たる課題は、作業車両の振動をより確実に抑制することができるようにする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1特徴構成は、作業車両において、
電子制御によってエンジン回転数が変更されるエンジンと、
電子制御によって走行用の動力を変速する走行用変速装置と、
車体の振動を検出する振動センサと、
前記振動センサの検出値が閾値以上のときに車体の振動を低下させる振動抑制制御を行う振動抑制制御部とを備え、
前記振動抑制制御部は、前記振動抑制制御で実行する複数の振動抑制処理として、少なくとも、前記エンジン回転数を変更する回転数変更処理と、前記走行用の動力を変速する走行動力変速処理とを有し、前記振動抑制制御においては、前記複数の振動抑制処理のうちのいずれかの振動抑制処理を実行し、その実行後も前記振動センサの検出値が前記閾値以上のときは、前記複数の振動抑制処理のうちの未実行のいずれかの振動抑制処理を実行する制御作動を繰り返す点にある。
【0011】
本構成によれば、例えば、エンジンの振動に車体などが共振することで振動センサの検出値が閾値以上になっている状態では、振動抑制制御部が振動抑制制御において複数の振動抑制処理のうちの回転数変更処理を実行したときに、エンジンの振動を車体などの共振点からずらすことができ、これにより、車体の振動を閾値未満に低下させることができる。
【0012】
又、例えば、走行用変速装置の振動に車体などが共振することで振動センサの検出値が閾値以上になっている状態では、振動抑制制御部が振動抑制制御において複数の振動抑制処理のうちの走行動力変速処理を実行したときに、走行用変速装置の振動を車体などの共振点からずらすことができ、これにより、車体の振動を閾値未満に低下させることができる。
【0013】
つまり、振動センサの検出値が閾値未満に低下しない間は、振動抑制制御部が、振動抑制制御において異なる振動抑制処理を次々と実行していくことから、作業車両の振動をより確実に抑制することができる。
【0014】
本発明の第2特徴構成は、
電子制御によって作業用の動力を変速する作業用変速装置を備え、
前記複数の振動抑制処理には、前記作業用の動力を変速する作業動力変速処理が含まれている点にある。
【0015】
本構成によれば、例えば、作業用変速装置の振動に車体などが共振することで振動センサの検出値が閾値以上になっている状態では、振動抑制制御部が振動抑制制御において作業動力変速処理を実行したときに、作業用変速装置の振動を車体などの共振点からずらすことができ、これにより、車体の振動を閾値未満に低下させることができる。
その結果、作業用変速装置の振動に車体などが共振することによる作業車両の振動を抑制することができる。
【0016】
本発明の第3特徴構成は、
作業の種類を取得する業種取得部を備え、
前記振動抑制制御部は、前記業種取得部が取得した作業の種類に基づいて前記振動抑制制御で実行する前記複数の振動抑制処理の優先順位を決定する優先順位決定処理を実行する点にある。
【0017】
本構成によれば、例えば、作業の種類が、苗植付装置による苗植え付け作業や施肥装置による施肥作業などのように、車速と作業速度とが正比例することで単位面積当たりの苗植え付け量や施肥量などを一定にすることができる作業である場合は、振動抑制制御部が、優先順位決定処理において、振動抑制制御の開始に伴って複数の振動抑制処理のうちの回転数変更処理が最優先で実行されるように複数の振動抑制処理の優先順位を決定する。そして、この優先順位に基づく振動抑制制御において、振動抑制制御部が回転数変更処理を実行することで振動センサの検出値が閾値未満になれば、車速と作業速度とが正比例する関係が維持されていることから、単位面積当たりの苗植え付け量や施肥量などを一定にすることができる高い作業精度を維持することができる。
【0018】
又、例えば、作業の種類が、ロータリ耕耘装置による耕耘作業や草刈装置による草刈り作業などのように、車速にかかわらず作業速度を一定に維持することで高い作業精度を維持することができる作業である場合は、振動抑制制御部が、優先順位決定処理において、振動抑制制御の開始に伴って複数の振動抑制処理のうちの走行動力変速処理が最優先で実行されるように複数の振動抑制処理の優先順位を決定する。そして、この優先順位に基づく振動抑制制御において、振動抑制制御部が走行動力変速処理を実行することで振動センサの検出値が閾値未満になれば、作業速度が一定に維持される状態が継続されていることから、高い作業精度を維持することができる。
【0019】
更に、例えば、作業の種類が、プラウによる耕耘作業などのようにエンジンからの動力を必要としない牽引作業である場合は、振動抑制制御部が、優先順位決定処理において、振動抑制制御の開始に伴って複数の振動抑制処理のうちの回転数変更処理と走行動力変速処理とが最優先で背反的に実行されるように複数の振動抑制処理の優先順位を決定する。そして、この優先順位に基づく振動抑制制御において、振動抑制制御部が回転数変更処理と走行動力変速処理とを背反的に実行することで振動センサの検出値が閾値未満になれば、作業中の車速を一定に維持することができ、車速の低下による作業効率の低下を回避することができる。
【0020】
その結果、高い作業精度を維持しながら、又は、作業効率の低下を回避しながら、作業車両の振動をより確実に抑制することができる。
【0021】
本発明の第4特徴構成は、
車体のロール角を検出する傾斜センサと、
車体の後部にローリング可能に連結された作業装置をロール方向に駆動するローリング駆動機構と、
前記傾斜センサの検出に基づいて前記ローリング駆動機構の作動を制御することで前記作業装置のロール角を設定角度に維持するローリング制御を実行する作業装置制御部とを備え、
前記複数の振動抑制処理には、前記ローリング制御における制御感度を鈍感にする感度低下処理が含まれている点にある。
【0022】
例えば、路面状況が悪くて車体がロール方向に激しく揺れ動くような作業地において作業車両が走行して作業を行う場合には、このときの走行に伴って車体が激しく振動するだけでなく、このときのローリング制御によって作業装置がロール方向に頻繁に激しく駆動されることで車体の振動が更に激しくなることがある。これに加えて、走行時の車体の振動が傾斜センサに及ぶことで、傾斜センサが車体のロール角を大きく誤検出することがあり、この場合、このときのローリング制御によって作業装置がロール方向に更に激しく駆動されることになる。その結果、路面状況の悪い作業地で作業車が走行して作業を行う場合には、振動センサの検出値が閾値以上になることがある。
【0023】
このような場合、本構成によれば、振動抑制制御部が振動抑制制御において感度低下処理を実行したときに、ローリング制御によって作業装置がロール方向に頻繁に激しく駆動されることを抑制することができる。これにより、作業装置のロール方向への駆動で車体の振動が助長されることを抑制することができ、車体の振動を閾値未満に低下させることができる。
その結果、路面状況の悪い作業地において作業車両が走行して作業を行う場合に生じる作業車両の振動を抑制することができる。
【0024】
本発明の第5特徴構成は、
前記振動抑制制御として、前記複数の振動抑制処理を作業に適した適正範囲内で行う第1振動抑制制御と、前記複数の振動抑制処理を前記適正範囲よりも広い許容範囲内で行う第2振動抑制制御とを有し、
前記第2振動抑制制御の実行の要否選択を促す報知装置と、前記第2振動抑制制御の実行の要否選択を可能にする選択スイッチとを備え、
前記振動抑制制御部は、前記振動センサの検出値が閾値以上のときに、先ず前記第1振動抑制制御を実行し、前記第1振動抑制制御の終了後も前記振動センサの検出値が前記閾値以上のときは、前記報知装置を作動させる報知処理を実行し、前記報知処理の実行後に、前記選択スイッチによって前記第2振動抑制制御の実行が選択されたときに前記第2振動抑制制御を実行する点にある。
【0025】
本構成によれば、振動抑制制御部は、振動センサの検出値が閾値以上になっている場合には、先ず、少なくとも、エンジン回転数を作業に適した適正範囲内で変更する回転数変更処理と、走行用の動力を作業に適した適正範囲内で変速する走行動力変速処理と、を含む第1振動抑制制御を実行する。この第1振動抑制制御において作業車両の振動を閾値未満に低下させることができれば、エンジン回転数や走行用の動力などが作業に適した適正範囲内であることから、高い作業性能を維持した状態で作業車両の振動を抑制することができる。
【0026】
第1振動抑制制御において車体の振動を閾値未満に低下させることができなければ、第2振動抑制制御を行うことになるが、第2振動抑制制御は、エンジン回転数を変更する回転数変更処理や、走行用の動力を変速する走行動力変速処理などを、作業に適した適正範囲よりも広い許容範囲内で行うことから、高い作業性能を維持することができなくなる虞がある。
そこで、本構成では、第2振動抑制制御を行う前の段階において、振動抑制制御部が、報知処理によってユーザに第2振動抑制制御の実行の要否選択を促し、これに応じて、ユーザが選択スイッチを操作して第2振動抑制制御の実行を選択した場合に第2振動抑制制御を実行するようにしている。
【0027】
これにより、ユーザは、高い作業性能の維持を優先するか、作業車両の振動抑制を優先するかを選択することができる。そして、ユーザが高い作業性能の維持を優先する場合は、選択スイッチを操作して第2振動抑制制御の実行不要を選択すれば、振動抑制制御部が第2振動抑制制御を実行しなくなることから、作業車両の振動は閾値以上になるが、高い作業性能を維持することができる。一方、ユーザが作業車両の振動抑制を優先する場合は、選択スイッチを操作して第2振動抑制制御の実行を選択すれば、振動抑制制御部が第2振動抑制制御を実行し、この第2振動抑制制御において作業車両の振動を閾値未満に低下させることができれば、エンジン回転数や走行用の動力などが適正範囲から外れた許容範囲内になることで高い作業性能を維持することは難しくなるが、作業性能の低下を抑制しながら作業車両の振動を抑制することができる。
【0028】
つまり、作業車両の振動を抑制する上において、作業性能の低下を招く虞のある第2振動抑制制御の実行が必要になった段階においては、ユーザの選択に応じて第2振動抑制制御を実行するか否かを決定することができる。
【0029】
本発明の第6特徴構成は、
前記振動抑制制御部は、前記振動抑制制御において、前記振動センサの検出値が前記閾値よりも大きい制限値を超えた状態が所定時間継続されたときに前記エンジンを停止させるエンジン停止処理を実行する点にある。
【0030】
本構成によれば、作業車両の振動が制限値を超える状態が長く継続されることで、作業車両の各機器において故障が生じる虞を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】自動走行システムの概略構成を示すブロック図
【
図3】振動抑制制御に関する概略構成を示すブロック図
【
図6】別実施形態での振動抑制制御のフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態の一例として、本発明を、作業車両の一例であるトラクタに適用した実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、本発明は、トラクタ以外の、例えば乗用草刈機、乗用田植機、コンバイン、運搬車、ホイールローダ、除雪車、などの乗用作業車両に適用することができる。
【0033】
図1~2に示すように、本実施形態で例示されたトラクタ1は、作業地の一例である圃場などにおいて、作業車両用の自動走行システムによる自動走行が可能に構成されている。自動走行システムは、トラクタ1に搭載された自動走行ユニット2、及び、自動走行ユニット2と無線通信可能に通信設定された携帯通信端末3、などを備えている。携帯通信端末3には、マルチタッチ式の表示部(例えば液晶パネル)4などを有するタブレット型のパーソナルコンピュータやスマートフォンなどを採用することができる。
【0034】
図1に示すように、トラクタ1は、その後部に3点リンク機構5を介して、作業装置の一例であるロータリ耕耘装置6が昇降可能かつローリング可能に連結されている。これにより、このトラクタ1はロータリ耕耘仕様に構成されている。
なお、トラクタ1の後部には、ロータリ耕耘装置6に代えて、プラウ、ディスクハロー、カルチベータ、サブソイラ、播種装置、散布装置、草刈装置などの各種の作業装置を連結することができる。
【0035】
図1~3に示すように、トラクタ1には、ホイール式の走行装置として機能する駆動可能で操舵可能な左右の前輪10と駆動可能な左右の後輪11、搭乗式の運転部12を形成するキャビン13、コモンレールシステムを有する電子制御式のディーゼルエンジン(以下、エンジンと称する)14、エンジン14からの動力を変速する変速ユニット15、左右の前輪10を操舵する全油圧式のパワーステアリング機構16、左右の後輪11を制動する左右のサイドブレーキの油圧操作を可能にする電子制御式のブレーキ操作機構17、ロータリ耕耘装置6を昇降駆動する電子油圧制御式の昇降駆動機構19、ロータリ耕耘装置6をロール方向に駆動する電子油圧制御式のローリング駆動機構20、トラクタ1における各種の設定状態や各部の動作状態などを検出する各種のセンサやスイッチなどを含む車両状態検出機器21、エンジン14などの制御対象機器の作動を制御する車載制御システム22、及び、トラクタ1の現在位置や現在方位などを測定する測位ユニット23、などが備えられている。
なお、エンジン14には、電子ガバナを有する電子制御式のガソリンエンジンなどを採用してもよい。パワーステアリング機構16には、電動モータを備えた電動式のパワーステアリング機構などを採用してもよい。
【0036】
図1に示すように、運転部12には、パワーステアリング機構16を介した左右の前輪10の手動操舵を可能にするステアリングホイール24、搭乗者用の座席25、及び、自動走行に関する情報を含む各種の情報を表示するとともに入力操作を可能にするマルチタッチ式の液晶モニタ26(
図2~3参照)、が備えられている。又、運転部12には、アクセルレバーや主変速レバーなどの各種の操作レバー、アクセルペダルやクラッチペダルなどの各種の操作ペダル、及び、エンジン回転数などを表示する表示パネル、などが備えられている。
【0037】
図1に示すように、トラクタ1の前部側には、後フレームを兼ねる変速ユニット15のケーシング15Aに連結された前フレーム27と、エンジン14を覆うボンネット28とが備えられている。キャビン13は、前フレーム27と変速ユニット15とに防振ゴムなどを介して防振支持されている。エンジン14は、前フレーム27に防振ゴムなどを介して防振支持されている。
【0038】
トラクタ1には、エンジン14からの動力を左右の前輪10及び左右の後輪11に伝える走行伝動系と、エンジン14からの動力を作業動力取り出し用のPTO軸に伝える作業伝動系とが備えられている。そして、PTO軸から取り出された作業用の動力がロータリ耕耘装置に伝えられている。
【0039】
走行伝動系には、エンジン14からの走行用の動力を変速する電子制御式の主変速装置(走行用変速装置の一例:
図2~3参照)30、主変速装置30による変速後の動力を高速前進用と低速前進用と後進用とに切り換える電子油圧制御式の前後進切換装置、前後進切換装置からの動力を超低速に減速する状態と減速しない状態とに切り換えるシンクロメッシュ式のクリープ変速装置、クリープ変速装置からの動力を高低2段に変速するシンクロメッシュ式の副変速装置、副変速装置から左右の前輪10に対する伝動状態を切り換える電子油圧制御式の伝動切換装置、及び、左右の後輪11の差動を許容しながら副変速装置からの動力を左右の後輪11に伝える後輪用差動装置、などが含まれている。作業伝動系には、エンジン14からロータリ耕耘装置6への伝動を断続する電子油圧制御式の作業クラッチ、及び、作業クラッチを経由した作業用の動力を変速する電子制御式の作業用変速装置31(
図2~3参照)、などが含まれている。
【0040】
主変速装置30には、静油圧式無段変速装置(HST:Hydro Static Transmission、)よりも伝動効率が高い油圧機械式無段変速装置の一例であるI-HMT(Integrated Hydro-static Mechanical Transmission)が採用されている。前後進切換装置は、左右の前輪10及び左右の後輪11への伝動を断続する走行クラッチを兼ねている。伝動切換装置は、左右の前輪10に対する伝動状態を、副変速装置から左右の前輪10への伝動を遮断する遮断状態(トラクタ1の二輪駆動状態)と、左右の前輪10の周速を左右の後輪11の周速と同じにする等速伝動状態(トラクタ1の四輪駆動状態)と、左右の前輪10の周速を左右の後輪11の周速の約2倍にする倍速伝動状態(トラクタ1の前輪倍速状態)とに切り換える。
【0041】
主変速装置30には、I-HMTの代わりに、油圧機械式無段変速装置の一例であるHMT(Hydraulic Mechanical Transmission)、静油圧式無段変速装置(HST:Hydro Static Transmission、)、ベルト式無段変速装置、又は、複数の電磁バルブを制御して複数の油圧クラッチを断続させることで変速段を切り換える電子油圧制御式の有段変速装置、などを採用してもよい。作業用変速装置31には、電子制御式の無段変速装置や電子油圧制御式の有段変速装置などを採用してもよい。
【0042】
図2~3に示すように、車載制御システム22には、エンジン14に関する制御を行うエンジン制御部22A、主変速装置30や前後進切換装置などの走行伝動系に関する制御を行う変速制御部22B、パワーステアリング機構16やブレーキ操作機構17などに関する制御を行うステアリング制御部22C、ロータリ耕耘装置6などの作業装置に関する制御を行う作業装置制御部22D、自動走行に関する制御を行う自動走行制御部22E、及び、予め生成された自動走行用の目標走行経路などを記憶する不揮発性の車載記憶部22F、などが含まれている。各制御部22A~22Eは、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどによって構築されている。各制御部22A~22Eは、CAN(Controller Area Network)を介して相互通信可能に接続されている。
【0043】
車両状態検出機器21は、トラクタ1の各部に備えられた各種のセンサやスイッチなどの総称である。
図3に示すように、車両状態検出機器21には、アクセルレバー及びアクセルペダルの操作位置を検出するアクセルセンサ40、主変速レバーの操作位置を検出する主変速センサ41、前後進切り換え用のリバーサレバーの操作位置を検出するリバーサセンサ42、作業用変速レバーの操作位置を検出する作業用変速センサ43、エンジン14の出力回転数(エンジン回転数)を検出する回転センサ44、トラクタ1の車速を検出する車速センサ45、前輪10の操舵角を検出する舵角センサ46、トラクタ1のロール角を検出する傾斜センサ47、及び、ロータリ耕耘装置6による耕深を検出する耕深センサ48、などが含まれている。
【0044】
図3に示すように、運転部12には、トラクタ1の駆動モードを設定する駆動モード設定器50、作業クラッチの断続を指令するPTOスイッチ51、ロータリ耕耘装置6のロール方向での制御目標角度を設定するロール角設定器52、及び、ロータリ耕耘装置6の制御目標耕深を設定する耕深設定器53、などが備えられている。
【0045】
駆動モード設定器50で設定されるトラクタ1の駆動モードとしては、左右の後輪11を駆動する二輪駆動モード、左右の前輪10と左右の後輪11とを駆動する四輪駆動モード、左右の前輪10が設定角度以上に操舵された場合に旋回内側の後輪11を制動するオートブレーキモード、及び、左右の前輪10が設定角度以上に操舵された場合に左右の前輪10の周速を左右の後輪11の周速の約2倍にする前輪倍速モード、などがある。
【0046】
エンジン制御部22Aは、アクセルセンサ40の検出と回転センサ44の検出とに基づいて、エンジン回転数をアイドリング回転数からアクセルレバー又はアクセルペダルの操作量に応じた回転数に変更するエンジン回転数変更制御、などを実行する。
【0047】
変速制御部22Bは、主変速センサ41の検出と車速センサ45の検出などに基づいて、トラクタ1の車速が主変速レバーの操作量に応じた速度に変更されるように主変速装置30の変速状態を制御する車速制御、リバーサセンサ42の検出に基づいて前後進切換装置の伝動状態を切り換える前後進切り換え制御、及び、駆動モード設定器50の人為操作などに基づいて伝動切換装置の伝動状態を切り換えてトラクタ1の駆動モードを変更する駆動モード変更制御、などを実行する。
【0048】
ステアリング制御部22Cは、駆動モード設定器50の人為操作によってトラクタ1の駆動モードが倍速駆動モードに変更された状態において、舵角センサ46の検出に基づいて左右の前輪10が設定角度以上に操舵されたことを検知した場合に、伝動切換装置の等速伝動状態から倍速伝動状態への切り換えを変速制御部22Bに指令し、かつ、その指令後に、舵角センサ46の検出に基づいて左右の前輪10が設定角度未満に操舵されたことを検知した場合に、伝動切換装置の倍速伝動状態から等速伝動状態への切り換えを変速制御部22Bに指令する前輪変速指令制御、及び、駆動モード設定器50の人為操作によってトラクタ1の駆動モードがオートブレーキモードに変更された状態において、舵角センサ46の検出に基づいて左右の前輪10が設定角度以上に操舵されたことを検知した場合に、ブレーキ操作機構17の作動を制御して旋回内側のサイドブレーキを制動状態に切り換え、かつ、その後、舵角センサ46の検出に基づいて左右の前輪10が設定角度未満に操舵されたことを検知した場合に、ブレーキ操作機構17の作動を制御して旋回内側のサイドブレーキを制動解除状態に切り換えるブレーキ旋回制御、などを実行する。
【0049】
作業装置制御部22Dは、PTOスイッチ51の人為操作などに基づいて作業クラッチの作動を制御してロータリ耕耘装置6への伝動を断続する作業動力断続制御、作業用変速センサ43の検出などに基づいて作業用変速装置31の作動を制御する作業動力変速制御、ロール角設定器52の人為操作で設定された制御目標角度や傾斜センサ47の検出などに基づいてローリング駆動機構20の作動を制御してロータリ耕耘装置6のロール角を制御目標角度(設定角度)に維持するローリング制御、及び、耕深設定器53の人為操作で設定された制御目標耕深や耕深センサ48の検出などに基づいて昇降駆動機構19の作動を制御してロータリ耕耘装置6による耕深を制御目標耕深に維持する耕深維持制御、などを実行する。
【0050】
図3に示すように、運転部12には、作業装置制御部22Dのローリング制御での制御感度を設定するローリング感度設定器54と、作業装置制御部22Dの耕深維持制御での制御感度を設定する耕深感度設定器55とが備えられている。作業装置制御部22Dは、ローリング感度設定器54の人為操作などに基づいて制御目標角度の不感帯幅を変更することでローリング制御での制御感度を設定するローリング感度設定処理を実行する。作業装置制御部22Dは、耕深感度設定器55の人為操作などに基づいて制御目標耕深の不感帯幅を変更することで耕深維持制御での制御感度を設定する耕深感度設定処理を実行する。
【0051】
図2に示すように、測位ユニット23は、衛星測位システム(NSS:Navigation Satellite System)の一例であるGPS(Global Positioning System)を利用してトラクタ1の現在位置と現在方位とを測定する衛星航法装置32、及び、3軸のジャイロスコープ及び3方向の加速度センサなどを有してトラクタ1の姿勢や方位などを測定する慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)33、などを有している。GPSを利用した測位方法には、DGPS(Differential GPS:相対測位方式)やRTK-GPS(Real Time Kinematic GPS:干渉測位方式)などがある。本実施形態においては、移動体の測位に適したRTK-GPSが採用されている。そのため、
図1に示すように、圃場周辺の既知位置には、RTK-GPSによる測位を可能にする基準局7が設置されている。
【0052】
図1~2に示すように、トラクタ1と基準局7とのそれぞれには、GPS衛星60(
図1参照)から送信された電波を受信するGPSアンテナ61,62、及び、トラクタ1と基準局7との間における測位データを含む各種データの無線通信を可能にする通信モジュール63,64、などが備えられている。これにより、測位ユニット23の衛星航法装置32は、トラクタ側のGPSアンテナ61がGPS衛星60からの電波を受信して得た測位データと、基地局側のGPSアンテナ62がGPS衛星60からの電波を受信して得た測位データとに基づいて、トラクタ1の現在位置及び現在方位を高い精度で測定することができる。又、測位ユニット23は、衛星航法装置32と慣性計測装置33とを有することにより、トラクタ1の現在位置、現在方位、姿勢角(ヨー角、ロール角、ピッチ角)を高精度に測定することができる。
【0053】
このトラクタ1において、慣性計測装置33、GPSアンテナ61、及び、通信モジュール63は、
図1に示すアンテナユニット65に含まれている。アンテナユニット65は、キャビン13の前面側における上部の左右中央箇所に配置されている。
【0054】
図2~3に示すように、携帯通信端末3には、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどを有する端末制御ユニット70、及び、トラクタ側の通信モジュール63との間における測位データを含む各種データの無線通信を可能にする通信モジュール71、などが備えられている。端末制御ユニット70は、自動走行用の目標走行経路を生成する走行経路生成部70A、及び、走行経路生成部70Aが生成した目標走行経路などを記憶する不揮発性の端末記憶部70B、などを有している。
【0055】
目標走行経路には、トラクタ1の作業幅に対応する一定間隔で平行に配置設定された複数の作業経路部や、隣接する作業経路部の終端と始端とを走行順に接続する非作業用の複数の旋回経路部などの各種の走行経路部に加えて、各種の走行経路部でのトラクタ1の走行形態などに応じて設定された適正エンジン回転数や適正車速、各種の走行経路部に応じて設定されたトラクタ1の進行方向や前輪操舵角、及び、作業の種類などに応じて設定されたトラクタ1の駆動モード、などが含まれている。
【0056】
自動走行制御部22Eは、トラクタ1の走行モードが手動走行モードから自動走行モードに切り換えられた状態において、搭乗者や車外の管理者などのユーザによって携帯通信端末3の表示部4が操作されて自動走行の開始が指令された場合に、測位ユニット23にてトラクタ1の現在位置を取得しながら目標走行経路に沿ってトラクタ1を自動走行させる自動走行制御を開始する。
【0057】
自動走行制御部22Eによる自動走行制御には、エンジン14に関する自動走行用の制御指令をエンジン制御部22Aに送信するエンジン用自動制御処理、主変速装置30や前後進切換装置などの走行伝動系に関する自動走行用の制御指令を変速制御部22Bに送信する走行用自動制御処理、ステアリングに関する自動走行用の制御指令をステアリング制御部22Cに送信するステアリング用自動制御処理、及び、ロータリ耕耘装置6などの作業装置に関する自動走行用の制御指令を作業装置制御部22Dに送信する作業用自動制御処理、などが含まれている。
【0058】
自動走行制御部22Eは、エンジン用自動制御処理においては、目標走行経路に含まれた適正エンジン回転数などに基づいてエンジン回転数の変更を指示するエンジン回転数変更指令、などをエンジン制御部22Aに送信する。
【0059】
自動走行制御部22Eは、走行用自動制御処理においては、目標走行経路に含まれた適正車速などに基づいて主変速装置30の変速操作を指示する変速操作指令、目標走行経路に含まれたトラクタ1の進行方向などに基づいて前後進切換装置の前後進切り換え操作を指示する前後進切り換え指令、及び、目標走行経路に含まれたトラクタ1の駆動モードに基づいて伝動切換装置の切り換え操作を指示する伝動切り換え指令、などを変速制御部22Bに送信する。
【0060】
自動走行制御部22Eは、ステアリング用自動制御処理においては、目標走行経路に含まれた前輪操舵角などに基づいて左右の前輪10の操舵を指示する操舵指令、及び、目標走行経路に含まれたトラクタ1の駆動モード、などをステアリング制御部22Cに送信する。
【0061】
自動走行制御部22Eは、作業用自動制御処理においては、目標走行経路に含まれた作業開始地点に基づいてロータリ耕耘装置6の作業状態への切り換えを指示する作業開始指令、目標走行経路に含まれたロータリ耕耘装置6のロール方向での制御目標角度、目標走行経路に含まれたロータリ耕耘装置6の制御目標耕深、及び、目標走行経路に含まれた作業停止地点に基づいてロータリ耕耘装置6の非作業状態への切り換えを指示する作業停止指令、などを作業装置制御部22Dに送信する。
【0062】
エンジン制御部22Aは、自動走行制御部22Eから送信されたエンジン回転数変更指令などのエンジン14に関する各種の制御指令に応じて、エンジン回転数を自動で変更する自動エンジン回転数変更制御などのエンジン14に関する各種の自動制御を実行する。
【0063】
変速制御部22Bは、自動走行制御部22Eから送信された変速操作指令や前後進切り換え指令などの走行伝動系に関する各種の制御指令に応じて、主変速装置30の変速状態を自動で制御する自動変速制御、前後進切換装置の伝動状態を自動で切り換える自動前後進切り換え制御、及び、伝動切換装置の伝動状態を自動で切り換えてトラクタ1の駆動モードを自動で変更する自動駆動モード変更制御、などの走行伝動系に関する各種の自動制御を実行する。
【0064】
ステアリング制御部22Cは、自動走行制御部22Eから送信された操舵指令やトラクタ1の駆動モード、及び、舵角センサ46の検出、などのステアリングに関する各種の制御指令や情報に応じて、パワーステアリング機構16の作動を制御して左右の前輪10を操舵する自動操舵制御、前述した前輪変速指令制御、及び、前述したブレーキ旋回制御、などのステアリングに関する各種の自動制御を実行する。
【0065】
作業装置制御部22Dは、自動走行制御部22Eから送信された作業開始指令や制御目標角度、及び、傾斜センサ47や耕深センサ48の検出、などのロータリ耕耘装置6に関する各種の制御指令や情報に応じて、昇降駆動機構19と作業クラッチの作動を制御してロータリ耕耘装置6を作業高さまで下降させて作動させる自動作業開始制御、昇降駆動機構19と作業クラッチの作動を制御してロータリ耕耘装置6を停止させて非作業高さまで上昇させる自動作業停止制御、前述したローリング制御、及び、前述した耕深維持制御、などのロータリ耕耘装置6に関する各種の自動制御を実行する。
【0066】
つまり、前述した自動走行ユニット2には、パワーステアリング機構16、昇降駆動機構19、ローリング駆動機構20、車両状態検出機器21、車載制御システム22、測位ユニット23、及び、通信モジュール63、などが含まれている。そして、これらが適正に作動することにより、トラクタ1を目標走行経路に沿って精度よく自動走行させることができるとともに、ロータリ耕耘装置6による耕耘を適正に行うことができる。
【0067】
図3に示すように、車両状態検出機器21には、車体の振動を検出する振動センサ49が含まれている。振動センサ49には、傾斜センサ47とユニット化された加速度センサが採用されており、これにより、傾斜センサ47と振動センサ49とを個別に備える場合に必要となる、振動センサ専用の取り付け構造や配線を不要にすることができる。振動センサ49は、傾斜センサ47とともに変速ユニット15の上面に配置されており、これにより、変速ユニット15の振動や、変速ユニット15に連結された前フレーム27に支持されたエンジン14の振動を直接的に検出することができる。
【0068】
図2~3に示すように、車載制御システム22には、トラクタ1が行う作業の種類を取得する業種取得部22G、及び、振動センサ49が検出する車体の振動レベル(検出値)が振動抑制の対象となる閾値(
図4参照)以上のときに車体の振動を低下させる振動抑制制御を行う振動抑制制御部22H、が含まれている。
【0069】
図3に示すように、業種取得部22Gは、ロータリ耕耘装置6などの作業装置に備えられた装置側制御ユニット80とのCAN通信、及び、携帯通信端末3との無線通信、などによってトラクタ1が行う作業の種類を取得する。装置側制御ユニット80は、マイクロコントローラなどが集積された電子制御ユニットや各種の制御プログラムなどによって構築されている。
【0070】
図5に示すように、振動抑制制御部22Hは、振動抑制制御で実行する複数の振動抑制処理として、エンジン回転数を設定範囲内で変更する回転数変更処理、走行用の動力を設定範囲内で変速する走行動力変速処理、作業用の動力を設定範囲内で変速する作業動力変速処理、前述したローリング制御における制御感度を設定範囲内で鈍感にするローリング感度低下処理、及び、前述した耕深維持制御における制御感度を設定範囲内で鈍感にする耕深感度低下処理、を有している。
なお、上記の設定範囲には、作業に適した適正範囲、又は、その適正範囲よりも範囲の広い許容範囲、などを採用することができる。
【0071】
振動抑制制御部22Hは、回転数変更処理においては、エンジン回転数の設定範囲内での変更を指示するエンジン回転数変更指令をエンジン制御部22Aに送信する。エンジン制御部22Aは、振動抑制制御部22Hからのエンジン回転数変更指令に応じてエンジン回転数を設定範囲内で変更する振動抑制用のエンジン回転数変更制御を実行する。
これにより、エンジン14の振動に車体などが共振することで振動センサ49の検出値が閾値以上になっている状態では、振動抑制制御部22Hが振動抑制制御において回転数変更処理を実行したときに、エンジン14の振動を車体などの共振点からずらすことができる。その結果、車体の振動を閾値未満に低下させることができる。
【0072】
振動抑制制御部22Hは、走行動力変速処理においては、走行用の動力の設定範囲内での変更を指示する走行動力変速操作指令を変速制御部22Bに送信する。変速制御部22Bは、振動抑制制御部22Hからの走行動力変速操作指令に応じて、主変速装置30の変速状態を制御して走行用の動力を設定範囲内で変更する振動抑制用の走行動力変速制御を実行する。
これにより、主変速装置30の振動に車体などが共振することで振動センサ49の検出値が閾値以上になっている状態では、振動抑制制御部22Hが振動抑制制御において走行動力変速処理を実行したときに、主変速装置30の振動を車体などの共振点からずらすことができる。その結果、車体の振動を閾値未満に低下させることができる。
【0073】
振動抑制制御部22Hは、作業動力変速処理においては、作業用の動力の設定範囲内での変更を指示する作業動力変速操作指令を変速制御部22Bに送信する。変速制御部22Bは、振動抑制制御部22Hからの作業動力変速操作指令に応じて、作業用変速装置31の変速状態を制御して作業用の動力を設定範囲内で変更する振動抑制用の作業動力変速制御を実行する。
これにより、作業用変速装置31の振動に車体などが共振することで振動センサ49の検出値が閾値以上になっている状態では、振動抑制制御部22Hが振動抑制制御において作業動力変速処理を実行したときに、作業用変速装置31の振動を車体などの共振点からずらすことができる。その結果、車体の振動を閾値未満に低下させることができる。
【0074】
振動抑制制御部22Hは、ローリング感度低下処理においては、ローリング制御における制御感度の設定範囲内での低下を指示するローリング感度低下指令を作業装置制御部22Dに送信する。作業装置制御部22Dは、振動抑制制御部22Hからのローリング感度低下指令に応じて、制御目標角度の不感帯幅を設定範囲内で広げることでローリング制御における制御感度を設定範囲内で鈍感にする振動抑制用のローリング感度調節処理を実行する。
これにより、路面状況が悪くて車体がロール方向に激しく揺れ動くような圃場においてトラクタ1がロータリ耕耘装置6による耕耘作業を行うときに、このときのローリング制御によってロータリ耕耘装置6がロール方向に頻繁に激しく駆動されることで車体の振動が更に激しくなって振動センサ49の検出値が閾値以上になっている状態では、振動抑制制御部22Hが振動抑制制御においてローリング感度低下処理を実行したときに、ローリング制御によってロータリ耕耘装置6がロール方向に頻繁に激しく駆動されることを抑制することができる。その結果、車体の振動を閾値未満に低下させることができる。
【0075】
振動抑制制御部22Hは、耕深感度低下処理においては、耕深維持制御における制御感度の設定範囲内での低下を指示する耕深感度低下指令を作業装置制御部22Dに送信する。作業装置制御部22Dは、振動抑制制御部22Hからの耕深感度低下指令に応じて、制御目標耕深の不感帯幅を設定範囲内で広げることで耕深維持制御における制御感度を設定範囲内で鈍感にする振動抑制用の耕深感度調節処理を実行する。
これにより、路面状況が悪くて車体がピッチ方向に激しく揺れ動くような圃場においてトラクタ1がロータリ耕耘装置6による耕耘作業を行うときに、このときの耕深維持制御によってロータリ耕耘装置6が上下方向に頻繁に激しく駆動されることで車体の振動が更に激しくなって振動センサ49の検出値が閾値以上になっている状態では、振動抑制制御部22Hが振動抑制制御において耕深感度低下処理を実行したときに、耕深維持制御によってロータリ耕耘装置6が上下方向に頻繁に激しく駆動されることを抑制することができる。その結果、車体の振動を閾値未満に低下させることができる。
【0076】
振動抑制制御部22Hは、業種取得部22Gが取得した作業の種類に基づいて振動抑制制御で実行する回転数変更処理などの各振動抑制処理の優先順位を決定する優先順位決定処理を実行する。本実施形態では、トラクタ1にロータリ耕耘装置6が連結されていることから、業種取得部22Gは、ロータリ耕耘装置6の装置側制御ユニット80とのCAN通信などから、作業の種類がロータリ耕耘装置6による耕耘作業であることを取得することができる。振動抑制制御部22Hは、業種取得部22Gが取得した作業の種類が、車速にかかわらず作業速度を一定に維持することで高い作業精度を維持することができるロータリ耕耘装置6による耕耘作業であることに基づいて、優先順位決定処理においては、振動抑制制御で実行する複数の振動抑制処理の優先順位を、走行動力変速処理、回転数変更処理、作業動力変速処理、ローリング感度低下処理、耕深感度低下処理の順に決定する。
これにより、この優先順位に基づく振動抑制制御において、振動抑制制御部22Hが走行動力変速処理を実行することで振動センサ49の検出値が閾値未満になれば、作業速度が一定に維持される状態が継続されていることから、ロータリ耕耘装置6による耕耘作業を、作業速度の変化による耕耘斑のない高い作業精度で行うことができる。
又、振動抑制制御部22Hが回転数変更処理を実行することで振動センサ49の検出値が閾値未満になれば、車速と作業速度とが正比例する関係が維持されていることから、車速と作業速度との差が大きくなることに起因したロータリ耕耘装置6による耕耘作業での作業精度の低下を防止することができる。
【0077】
ちなみに、振動抑制制御部22Hは、トラクタ1に播種装置や薬剤散布装置などの作業装置が連結されている場合は、この場合の作業の種類が、車速と作業速度とが正比例することで単位面積当たりの播種量や薬剤散布量などを一定にすることができる播種作業や薬剤散布作業であることから、優先順位決定処理においては、振動抑制制御の開始に伴って回転数変更処理が最優先で実行されるように、振動抑制制御で実行される各振動抑制処理の優先順位を決定する。そして、この優先順位に基づく振動抑制制御において、振動抑制制御部22Hが回転数変更処理を実行することで振動センサ49の検出値が閾値未満になれば、車速と作業速度とが正比例する関係が維持されていることから、単位面積当たりの播種量や薬剤散布量などを一定にすることができる高い作業精度を維持することができる。
【0078】
又、振動抑制制御部22Hは、トラクタ1にプラウなどの牽引式の作業装置が連結されている場合は、この場合の作業の種類が、エンジン14に高い作業負荷がかかる牽引作業であることから、優先順位決定処理においては、振動抑制制御の開始に伴って走行動力変速処理が最優先で実行されるように、振動抑制制御で実行される各振動抑制処理の優先順位を決定する。そして、この優先順位に基づく振動抑制制御において、振動抑制制御部が走行動力変速処理を実行することで振動センサの検出値が閾値未満になれば、回転数変更処理においてエンジン回転数が低下された場合に招く虞のあるエンジンストールを回避することができる。
【0079】
なお、振動抑制制御において実行される振動抑制処理の種類は、トラクタ1が行う作業の種類に応じて変更される。例えば、トラクタ1が行う作業の種類が、プラウによる耕耘作業などのようにエンジン14からの動力を必要としない作業である場合は、振動抑制制御で実行される複数の振動抑制処理から回転数変更処理が除かれることになる。又、トラクタ1が行う作業の種類が、薬剤散布装置による薬剤散布作業などのように、ローリング制御や耕深維持制御が不要な作業である場合は、振動抑制制御で実行される複数の振動抑制処理からローリング感度低下処理と耕深感度低下処理とが除かれることになる。
【0080】
又、回転数変更処理と走行動力変速処理と作業動力変速処理とに関しては、エンジン回転数の変更や走行用動力の変速などが、例えば、作業効率の向上などを図るために上昇優先で行われるようにしてもよく、逆に、燃費の向上などを図るために下降優先で行われるようにしてもよい。又、上昇優先と下降優先との任意選択を可能にする選択スイッチなどを備えるようにしてもよい。
【0081】
振動抑制制御部22Hは、振動抑制制御において、振動センサ49が検出する車体の振動レベルが閾値よりも大きい制限値(
図4参照)を超えた状態が所定時間(例えば1分間)継続されたときにエンジン14を停止させるエンジン停止処理を実行する。振動抑制制御部22Hは、エンジン停止処理においてはエンジン停止指令をエンジン制御部22Aに送信する。エンジン制御部22Aは、振動抑制制御部22Hからのエンジン停止処理に応じてエンジン14を停止させるエンジン停止制御を行う。
これにより、車体の振動が制限値を超える状態が長く継続されることで、トラクタ1の各機器やロータリ耕耘装置6などの作業装置において故障が生じる虞を回避することができる。
【0082】
図3に示すように、運転部12及び携帯通信端末3には、振動抑制制御の要否を選択する選択スイッチ56,72が備えられている。これにより。ユーザが車体の振動抑制を望む場合は、運転部12の選択スイッチ56又は携帯通信端末3の選択スイッチ72を操作して振動抑制制御の実行を選択することにより、振動抑制制御による車体の振動抑制を可能にすることができる。又、ユーザが作業の継続を優先する場合は、運転部12の選択スイッチ56又は携帯通信端末3の選択スイッチ72を操作して振動抑制制御の実行停止を選択することにより、作業の継続を優先することができる。
【0083】
図5に示すフローチャートに基づいて、作業の種類がロータリ耕耘装置6による耕耘作業である場合の振動抑制制御での振動抑制制御部22Hの制御作動について説明する。
【0084】
振動抑制制御部22Hは、振動センサ49の検出に基づいて、車体の振動レベルが振動抑制の対象となる閾値以上で、かつ、閾値よりも大きい制限値以下かを判定する第1判定処理を実行する(ステップ#1)。
振動抑制制御部22Hは、ステップ#1の第1判定処理において、車体の振動レベルが閾値以上でかつ制限値以下であると判定したときは、優先順位決定処理で決定した優先順位に基づいて走行動力変速処理を実行するとともに、前述した第1判定処理を実行する(ステップ#2、#3)。
振動抑制制御部22Hは、ステップ#3の第1判定処理において、車体の振動レベルが閾値以上でかつ制限値以下であると判定したときは、優先順位決定処理で決定した優先順位に基づいて回転数変更処理を実行するとともに、前述した第1判定処理を実行する(ステップ#4、#5)。
振動抑制制御部22Hは、ステップ#5の第1判定処理において、車体の振動レベルが閾値以上でかつ制限値以下であると判定したときは、優先順位決定処理で決定した優先順位に基づいて作業動力変速処理を実行するとともに、前述した第1判定処理を実行する(ステップ#6、#7)。
振動抑制制御部22Hは、ステップ#7の第1判定処理において、車体の振動レベルが閾値以上でかつ制限値以下であると判定したときは、優先順位決定処理で決定した優先順位に基づいてローリング感度低下処理を実行するとともに、前述した第1判定処理を実行する(ステップ#8、#9)。
振動抑制制御部22Hは、ステップ#9の第1判定処理において、車体の振動レベルが閾値以上でかつ制限値以下であると判定したときは、優先順位決定処理で決定した優先順位に基づいて耕深感度低下処理を実行するとともに、前述した第1判定処理を実行する(ステップ#10、#11)。
振動抑制制御部22Hは、ステップ#11の第1判定処理において、車体の振動レベルが閾値以上でかつ制限値以下であると判定したときは、携帯通信端末3の表示部4や運転部12の液晶モニタ26などにおいて、一巡の振動抑制処理では車体の振動レベルが閾値未満に低下しなかったことを知らせるとともに、運転部12の選択スイッチ56又は携帯通信端末3の選択スイッチ72の操作による振動抑制制御の要否選択をユーザに促す第1報知処理を実行する(ステップ#12)。そして、第1報知処理の実行後に、振動抑制制御の要否を確認する要否確認処理を実行する(ステップ#13)。
振動抑制制御部22Hは、要否確認処理において、振動抑制制御が必要なことを確認したときは、走行動力変速処理などの振動抑制処理において変更される走行用の動力などの変更可能な設定範囲を広げる設定範囲拡張処理を実行する(ステップ#14)。そして、設定範囲拡張処理の実行後にステップ#2へ移行する。
振動抑制制御部22Hは、前述したいずれかの第1判定処理において、車体の振動レベルが閾値以上でかつ制限値以下ではないと判定したときは、振動センサ49の検出に基づいて、車体の振動レベルが閾値未満か否かを判定する第2判定処理を実行する(ステップ#15)。
振動抑制制御部22Hは、第2判定処理において、車体の振動レベルが閾値未満であると判定したときはステップ#1に戻る。
振動抑制制御部22Hは、第2判定処理において、車体の振動レベルが閾値未満でないと判定したときは、車体の振動レベルが制限値を超えていることから、計時処理を開始するとともに(ステップ#16)、この状態が所定時間継続されたか否かを判定する第3判定処理を実行する(ステップ#17)。
振動抑制制御部22Hは、第3判定処理において、車体の振動レベルが制限値を超えている状態が所定時間継続されたと判定したときは、携帯通信端末3の表示部4や運転部12の液晶モニタ26などにおいて、車体の振動レベルが制限値を超えている状態が所定時間継続されたことを知らせる第2報知処理を実行する(ステップ#18)。そして、第2報知処理の実行後にエンジン14を停止させるエンジン停止処理を実行し(ステップ#19)、その実行後に振動抑制制御を終了する。
振動抑制制御部22Hは、要否確認処理において振動抑制制御が不要なことを確認したときは振動抑制制御を終了する。
【0085】
振動抑制制御部22Hは、作業時に設定されているエンジン回転数、主変速装置30の変速状態、作業用変速装置31の変速状態、駆動モード設定器50で設定されるトラクタ1の駆動モード、ローリング感度設定器54で設定されるローリング制御での制御感度、耕深感度設定器55で設定される耕深維持制御での制御感度、及び、トラクタ1に連結される作業装置の種類、などの作業用の設定条件に応じて異なる振動センサ49の検出値(車体の振動レベル)や閾値以上の高い振動レベルの発生頻度などを記憶する記憶処理と、この記憶処理で得た情報から、予め設定された頻度よりも高い頻度で振動レベルの高い振動が発生する作業用の設定条件を割り出す高振動条件割り出し処理とを行う。そして、この高振動条件割り出し処理で判明した高振動条件が作業前の条件設定時に手動設定された場合には、この段階において、作業用の設定条件に含まれているエンジン回転数や主変速装置30の変速状態などのいずれかを、トラクタ1が行う作業の種類などを考慮して自動で変更する設定条件変更処理を行う。
【0086】
これにより、作業前の条件設定段階において、作業中に車体が高い振動レベルで振動しないようにするための手立てを講じることができる。その結果、作業用の設定条件を作業中に変更することによる作業精度の変動などを防止しながら、作業中に発生する車体の振動を抑制することができる。
【0087】
〔別実施形態〕
本発明の他の実施形態について説明する。
なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用することに限らず、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0088】
(1)作業車両の構成に関する代表的な別実施形態は以下の通りである。
例えば、作業車両は、左右の後輪11に代えて左右のクローラを備えるセミクローラ仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両は、左右の前輪10及び左右の後輪11に代えて左右のクローラを備えるフルクローラ仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両は、エンジン14と電動モータとを備えるハイブリッド仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両は、キャビン13に代えて、車体から上方に延びる保護フレームを備えるロプス仕様に構成されていてもよい。
例えば、作業車両は、自動走行システムを備えていない構成であってもよい。
【0089】
(2)振動抑制制御部22Hに関する代表的な別実施形態は以下の通りである。
例えば、振動抑制制御部22Hは、振動抑制制御で行う回転数変更処理や走行動力変速処理などの複数の振動抑制処理を、作業車両が行う作業の種類などに関係なく、予め設定された順位で行うように構成されていてもよい。
例えば、振動抑制制御部22Hは、作業中に消費される薬剤などの資材や燃料などの消費量、又は、作業中に貯留される収穫物などの貯留量などに応じて変動する車重と、エンジン14や走行用変速装置30などの共振関係を割り出し、振動抑制制御においては、その割り出した共振関係に基づいて回転数変更処理や走行動力変速処理などを行うように構成されていてもよい。
例えば、振動抑制制御部22Hは、車体の振動レベルが閾値以上でかつ制限値以下になる状態が設定時間(例えば1時間)継続された場合に、前述したエンジン停止処理を実行するように構成されていてもよい。
例えば、振動抑制制御部22Hは、例えば、振動抑制制御において、回転数変更処理や走行動力変速処理などを含む全ての振動抑制処理を行っても車体の振動レベルが閾値未満に低下しなかったとき(例えば、
図5のフローチャートにおけるステップ#11の第1判定処理での「Yes」のとき)には、閾値(
図4参照)を制限値側に所定量だけ上方修正する閾値修正処理を行った後に、再び回転数変更処理や走行動力変速処理などの振動抑制処理を実行するように構成されていてもよい。
例えば、振動抑制制御部22Hは、エンジン14や変速ユニット15などに備えられた複数の振動センサ49の検出に基づいて振動抑制制御を行うことで、車体の振動を抑制するように構成されていてもよい。
例えば、振動抑制制御部22Hは、キャビン13に備えられた振動センサ49の検出に基づいて振動抑制制御を行うことで、キャビン13での振動を抑制するように構成されていてもよい。
例えば、振動抑制制御部22Hは、振動センサ49の検出値を周波数分析し、周波数ごとに設定された閾値に基づいて振動抑制制御を行うように構成されていてもよい。
【0090】
(3)
図6のフローチャートに示すように、振動抑制制御として、前述した回転数変更処理などの複数の振動抑制処理におけるエンジン回転数の変更などを作業に適した適正範囲内で行う第1振動抑制制御と、複数の振動抑制処理におけるエンジン回転数の変更などを適正範囲よりも広い許容範囲内で行う第2振動抑制制御とを備えるようにしてもよい。
この別実施形態で例示する第1振動抑制制御及び第2振動抑制制御には、上記の実施形態で例示した
図5のフローチャートに記載のステップ#1~#11とステップ#15~#19の各処理が含まれている。
この別実施形態においては、上記の実施形態で例示した携帯通信端末3の表示部4及び運転部12の液晶モニタ26が、第2振動抑制制御の実行の要否選択をユーザに促す報知装置として機能する。又、上記の実施形態で例示した運転部12の選択スイッチ56及び携帯通信端末3の選択スイッチ72が、第2振動抑制制御の実行の要否選択を可能にする選択スイッチとして機能する。
図6に示すフローチャートに基づいて、この別実施形態の振動抑制制御での振動抑制制御部22Hの制御作動について説明する。
振動抑制制御部22Hは、振動センサ49で検出される車体の振動レベルが閾値以上のときに、先ず第1振動抑制制御を実行する(ステップ#21)。
振動抑制制御部22Hは、第1振動抑制制御の実行後も振動センサ49で検出される車体の振動レベルが閾値以上のときは、携帯通信端末3の表示部4及び運転部12の液晶モニタ26によって、第1振動抑制制御での各振動抑制処理では車体の振動レベルが閾値未満に低下しなかったことを知らせるとともに、運転部12の選択スイッチ56又は携帯通信端末3の選択スイッチ72の操作による第2振動抑制制御の実行の要否選択をユーザに促す第1報知処理を実行し(ステップ#22)、第1報知処理の実行後に、第2振動抑制制御の実行の要否を確認する要否確認処理を実行する(ステップ#23)。
振動抑制制御部22Hは、要否確認処理において、第2振動抑制制御の実行が選択されたことを確認したときに第2振動抑制制御を実行する(ステップ#24)。そして、第2振動抑制制御の実行後も振動センサ49で検出される車体の振動レベルが閾値以上のときは、携帯通信端末3の表示部4及び運転部12の液晶モニタ26によって、第2振動抑制制御での各振動抑制処理でも車体の振動レベルが閾値未満に低下しなかったことを知らせる第2報知処理を実行し(ステップ#25)、第2報知処理の実行後に振動抑制制御を終了する。
振動抑制制御部22Hは、要否確認処理において、第2振動抑制制御の実行停止が選択されたことを確認したときは振動抑制制御を終了する。
【0091】
(4)振動センサ49及び傾斜センサ47には、慣性計測装置33に備えられたジャイロスコープ及び加速度センサを利用するようにしてもよい。
【0092】
(5)報知装置4,26には、ブザー、ランプ、音声合成装置、などを採用してもよい。
【符号の説明】
【0093】
4 報知装置(表示部)
6 作業装置(ロータリ耕耘装置)
14 エンジン
20 ローリング駆動機構
22D 作業装置制御部
22G 業種取得部
22H 振動抑制制御部
26 報知装置(液晶モニタ)
30 走行用変速装置(主変速装置)
31 作業用変速装置
47 傾斜センサ
49 振動センサ
56 選択スイッチ
72 選択スイッチ