IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヨツン エーエスの特許一覧

<図面はありません>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】防汚組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/04 20060101AFI20231117BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20231117BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231117BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231117BHJP
   C09D 133/14 20060101ALI20231117BHJP
   C09D 143/04 20060101ALI20231117BHJP
   C09D 193/04 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
C09D133/04
C09D5/16
C09D7/61
C09D7/63
C09D133/14
C09D143/04
C09D193/04
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018213631
(22)【出願日】2018-11-14
(65)【公開番号】P2019090020
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-10-08
(31)【優先権主張番号】1718891.3
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】510326647
【氏名又は名称】ヨツン エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】シェイムス マイケル、ジャクソン
(72)【発明者】
【氏名】ヘニング、ヨンセン
(72)【発明者】
【氏名】メリト、ダーリング
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-503115(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105122(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094767(WO,A1)
【文献】特開2002-241676(JP,A)
【文献】特表2003-524039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防汚コーティング組成物用バインダーであって、
(i)少なくとも0℃のガラス転移温度を有する親水性コポリマーであって、15~65重量%の少なくとも1つの式(I)
【化9】
(式中、R1は、HまたはCH3であり、R2は、少なくとも1つの酸素または窒素原子を有するC3~C18置換基であるか、またはR2はポリ(アルキレングリコール)鎖である)のモノマー、
および85~35重量%の少なくとも1つの式(II)
【化10】
(式中、R1'はHまたはCH3であり、R2'はC1~C20のヒドロカルビルである)のモノマーを含み、
式(I)または(II)のもの以外のコモノマーを15重量%未満含む前記親水性コポリマーと、
(ii)ロジンまたはその誘導体と、
(iii)少なくとも15重量%のシリルエステルモノマーを含むシリルエステルコポリマーであって、前記シリルエステルモノマーがトリイソプロピルシリルメタクリレート(TISMA)またはトリイソプロピルシリルアクリレート(TISA)から選択されるシリルエステルコポリマーおよび/または
10重量%未満の式(I)のモノマーと少なくとも50重量%の前記に定義した式(II)のモノマーとを含む非親水性(メタ)アクリルポリマーと、を含み、
バインダー中の成分(i)の量は、20~60重量%(乾燥固形分)の範囲であり、バインダー中の成分(ii)の量は、10~70重量%(乾燥固形分)の範囲であり、バインダー中の成分(iii)の量は、5~70重量%(乾燥固形分)の範囲である、バインダー。
【請求項2】
2が式(CH2CH2O)n-R3(式中、R3はC1~C10のアルキルまたはC6~C10のアリール置換基であり、nは1~6の範囲の整数である)の基である、請求項1に記載のバインダー。
【請求項3】
式(I)の前記モノマーが、2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)、2-メトキシエチルアクリレート(MEA)、2-エトキシエチルメタクリレート(EEMA)、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート(EDEGA)、およびテトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)である、請求項1または2に記載のバインダー。
【請求項4】
式(II)の前記モノマーが、メチルメタクリレート(MMA)、n-ブチルメタクリレート(n-BMA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)およびn-ブチルアクリレート(n-BA)である、請求項1~3のいずれかひとつに記載のバインダー。
【請求項5】
シリルエステルコポリマー(iii)および前記非親水性(メタ)アクリルポリマーを含む、請求項1~4のいずれかひとつに記載のバインダー。
【請求項6】
前記非親水性(メタ)アクリル酸コポリマー(iii-2)を含む、請求項1~5のいずれかひとつに記載のバインダー。
【請求項7】
10~60重量%の成分(iii)(乾燥固形分)を含む、請求項1~6のいずれかひとつに記載のバインダー。
【請求項8】
前記非親水性(メタ)アクリルポリマー(iii-2)のTgが0℃未満である、請求項1~7のいずれかひとつに記載のバインダー。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかひとつに記載のバインダーと、少なくとも1つの防汚剤と、を含む防汚コーティング組成物。
【請求項10】
前記防汚剤が、酸化第一銅および/または銅ピリチオンおよび/または亜鉛エチレンビス(ジチオカルバマート)を含む、請求項9に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項11】
前記防汚コーティング組成物が、15~50重量%のバインダーを含む、請求項9または10に記載の防汚コーティング組成物。
【請求項12】
物体を汚損から保護するためのプロセスであって、請求項9~11のいずれかひとつに記載の防汚コーティング組成物を用いて、汚損を受けている前記物体の少なくとも一部をコーティングすることを含む、プロセス。
【請求項13】
請求項9~11のいずれかひとつに記載の防汚コーティング組成物でコーティングされた物体。
【請求項14】
前記物体が、防食コーティング層、結合層、および請求項9~11のいずれかひとつに記載の防汚コーティング組成物でコーティングされている、請求項13に記載の物体。
【請求項15】
前記物体が、基材上の既存の防汚コーティング組成物を覆う請求項9~11のいずれかひとつに記載の防汚コーティング組成物でコーティングされている、請求項13に記載の物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海洋防汚コーティング組成物のためのバインダーに関し、より詳しくは、親水性(メタ)アクリレートコポリマー、環状モノカルボン酸およびシリルエステルまたは(メタ)アクリルポリマーをベースとする3成分バインダーを含む海洋防汚コーティング組成物に関する。本発明は、物体を汚損から保護する方法、および本発明の防汚組成物でコーティングされた物体にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
海水に浸漬された表面は、緑藻類、褐藻類、フジツボ、ムラサキイガイ、棲管虫などの海洋生物によって汚損を受ける。船舶、石油プラットフォーム、ブイなどの海洋構造物では、そのような汚損は望ましくなく、経済的影響を有する。汚損は、表面の生物学的分解、負荷の増大、および腐食の加速をもたし得る。船舶では、汚損により摩擦抵抗が増加し、速度の低下および/または燃料消費の増大を引き起こす。また、運動性も低下し得る。
【0003】
海洋生物の定住および成長を防ぐために防汚塗料が使用される。これらの塗料は、一般に、顔料、充填剤、溶剤および生物学的活性物質などの異なる成分と共に、膜形成バインダーを含む。
【0004】
現在市販されている最も成功している自己研磨防汚システムは、シリルエステル官能性(メタ)アクリルコポリマーをベースにしている。シリルエステル官能性(メタ)アクリルコポリマーは、多くの場合、アクリレートおよびロジンまたはロジン誘導体などの他のバインダーと一緒に使用され、防汚コーティング膜の自己研磨特性および機械的特性を調整する。
【0005】
海洋防汚塗料は海水中で作用するように設計されているが、これらのコーティングが淡水で作用することも重要である。特に、コーティングが淡水中で過度の水の吸収を受けないことが重要である。
【0006】
淡水での水の吸収が海上で運用される船舶でのコーティングにとって重要である理由は、すぐには明らかになり得ない。しかし、多くの船舶はある期間、淡水において通商を行う。例えば、パナマ運河には淡水が含まれている。また、中国の淡水河には、多くの新しい建造物が整備されている。これらの場合、過剰な水の吸収が過度の膨潤をもたらし、最悪の場合には塗膜の破壊を招くおそれがある。
【0007】
淡水中において水の吸収に抵抗する能力は、海水中における運用にとっても、重要な指標である。コーティングが長期間の安定性を有することは良好な指標である。海水では塗膜が水を吸収するが、浸透圧が低いために速度が低下し、量が減少する。淡水において過度に水が吸収されることで、長期的には、海水中での水の吸収が増加することを示している。
【0008】
防汚コーティングは、最長7.5年間使用できるように設計されている。この期間を通して最小限の水の吸収を維持することは、コーティングからの活性成分の放出を制御するにあたって、重要因子である。任意のタイプの防汚技術の中では、長期にわたって信頼できる性能と水の吸収との間に明確な関係がある。過度の水の吸収は、所望よりも活性成分の放出速度が早くなり、コーティングの全寿命において性能が低下する。使用されるバインダー系の種類によって水の吸収量が増加することにより、加水分解の加速、過剰な侵食、活性成分の浸出の加速を引き起こす可能性があり、その結果コーティングの表面に向かって厚い欠乏層(浸出層)が形成され得る。すべての場合において、水の吸収の制御は、新しい構築およびドライドッキングのためのものなどの高性能防汚コーティングを設計する際の重要なパラメータである。
【0009】
本発明者らは、防汚塗料中に特定のバインダーを使用することで、淡水における水の吸収を驚くほど減少させることを見出した。バインダーは、3つの成分、特定の親水性モノマーを含む親水性(メタ)アクリレートコポリマー、環状モノカルボン酸成分およびアクリル/シリルエステルコポリマー成分を含むものである。バインダーが防汚コーティング組成物中で一緒に使用される場合、バインダーにより、膜によって吸収される水の量が減少する。したがって、本発明のバインダーを含む防汚コーティングにより、使用間隔が長期わたることになる。
【0010】
文献には、防汚コーティングのためのバインダーポリマーの多くの開示が含まれている。特にシリルエステルコポリマーおよびアクリレートベースのポリマーは周知である。しかし、本発明で必要とされる3種のバインダー成分のブレンドを含むバインダーの開示はほとんどない。
【0011】
欧州特許第2128208号(特許文献1)では、シリルエステルコポリマー、ロジン成分および非常に低いガラス転移温度の可塑性樹脂を含む防汚コーティング組成物が調製されている。実施例において確立したように、親水性(メタ)アクリレートポリマーが低いTgを有する場合、バインダーでは、高い吸水性が問題となる。
【0012】
国際公開第3070832号(特許文献2)では、コポリマーA(シリルコポリマー)、ポリマーB(コポリマーAと非相溶性であり、親水性コモノマーを含んでいてもよい)および任意によりポリマーC(多くの場合非疎水性コポリマーである)を含むコーティング組成物について記載している。いずれの塗料の例も、環状モノカルボン酸を使用していない。このような酸などを使用することで、コーティング組成物の粘度を低下させ、したがってより低いVOCを有するコーティング組成物を製造できるようになるため、有利である。
【0013】
国際公開第2014175246号(特許文献3)には、スチレンおよびグリシジル(メタ)アクリレート、シリルエステルコポリマーをベースとするコポリマーに基づくバインダーを含む防汚コーティング組成物が記載されている。実施例15ではロジンが使用されているが、大量に過剰のスチレンが存在するために、本発明で必要とされるコポリマー(i)は開示されていない。その中でコポリマー、例えばA-13は、0℃よりかなり低いTgを有する。
【0014】
国際公開第97/44401号(特許文献4)には、防汚コーティング組成物中のロジンまたはロジン等価物、繊維およびポリマー柔軟剤の使用が記載されている。2つの種類の(メタ)アクリルコポリマーを含む塗料例は存在していない。
【0015】
欧州特許第1288234号(特許文献5)では、加水分解性の低いモノマー含有量を有するバインダーから調製された膜形成ポリマーについて記載している。例示された唯一の親水性コモノマーは、ビニルピロリドンおよびメタクリル酸であり、アクリルコポリマーの組み合わせに基づく例は存在していない。
【0016】
国際公開第2005/005516号(特許文献6)には、低いMwを有するシリルエステルコポリマーおよび防汚コーティングにおけるその使用について記載されている。実施例7には、未確認のシリルエステルコポリマー、ロジンおよびデガランLP64/12(非親水性BMA/MMAコポリマー)に基づくバインダーを含むコーティング組成物が記載されている。開示されているシリルコポリマーはいずれも、10重量%を超える親水性モノマー含有量を有さず、すなわち、本発明の親水性バインダー成分は存在していない。
【0017】
国際公開第2011/131721号(特許文献7)には、異なる成分を特定の順序で添加することによって製造されるコーティング組成物(例えば、乾燥剤)について記載されている。実施例において、ロジンはNeocryl B725(非親水性BMA/MMAコポリマー)およびPolyace NSP-100(シリルアクリレート)と共に使用されている。親水性コモノマーは、Neocryl B725には使用されていない。
【0018】
国際公開第2014/175140号(特許文献8)には、特定の末端基を有するシリルコポリマーが記載されている。
【0019】
欧州特許第3078715号(特許文献9)は、シリルエステルコポリマー、トラロピルリルおよび安定剤を含む防汚コーティング組成物を対象としている。実施例では、トリイソプロピルシリルメタクリレートコポリマー、ガムロジンおよびアクリルポリマーが使用されている。モノマー組成物またはアクリルコポリマーのポリマー特性は特定されていない。
【0020】
国際公開第2009/149919号(特許文献10)では、シリルコポリマー中のカプロラクトン変性コモノマーの使用を対象としている。追加のアクリルポリマーは使用していない。
【0021】
欧州特許第2489710号(特許文献11)では、防汚コーティングを例示し、2つのアクリル酸コポリマーT3およびT4を例示している。これらは、ロジンおよび塩化ビニル-イソブチルビニルエーテルコポリマーと組み合わされる)。
【0022】
欧州特許第2161316号(特許文献12)および関連米国公開第2011/0166253では、バインダーは、ロジン成分およびシリルエステル成分をベースとしており、すなわち本発明の第3のバインダー成分は存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【文献】欧州特許第2128208号
【文献】国際公開第3070832号
【文献】国際公開第2014175246号
【文献】国際公開第97/44401号
【文献】欧州特許第1288234号
【文献】国際公開第2005/005516号
【文献】国際公開第2011/131721号
【文献】国際公開第2014/175140号
【文献】欧州特許第3078715号
【文献】国際公開第2009/149919号
【文献】欧州特許第2489710号
【文献】欧州特許第2161316号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
特許請求の範囲で必要とされる成分の組み合わせは新規であり、顕著な結果をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0025】
第1の態様において、本発明は、防汚コーティング組成物用のバインダーであって、
(i)少なくとも0℃のガラス転移温度を有し、少なくとも1種の式(I)
【0026】
【化1】
【0027】
(式中、Rは、HまたはCHであり、Rは少なくとも1個の酸素または窒素原子、好ましくは少なくとも1個の酸素原子を有するC3~C18置換基であるか、またはRはポリ(アルキレングリコール)鎖である)のモノマーを少なくとも10重量%含み、
および少なくとも1種の式(II)
【0028】
【化2】
【0029】
(式中、R1’はHまたはCHであり、R2’はC~C20のヒドロカルビルである)のモノマーを含み、
式(I)または(II)のもの以外のコモノマーを15重量%未満含む親水性コポリマーと、
(ii)ロジンまたはその誘導体(例えば、その塩)などの環状モノカルボン酸と、
(iii)式(I)によるモノマーを10重量%未満、式(I)のモノマーを好ましくは5重量%未満、最も好ましくは0重量%含むシリルエステルモノマーおよび/または非親水性(メタ)アクリルポリマーを少なくとも15重量%含む、シリルエステルコポリマー、とを含む、バインダーを提供する。
【0030】
バインダー中の成分(i)の量は、好ましくは20~60重量%(乾燥固形分)の範囲である。バインダー中の成分(ii)の量は、好ましくは10~70重量%(乾燥固形分)の範囲である。バインダー中の成分(iii)の量は、好ましくは5~70重量%(乾燥固形分)の範囲である。
【0031】
本発明はまた、好ましくは溶媒に分散した、本明細書に記載のバインダーを含む防汚コーティング組成物を提供する。防汚コーティングは、防汚剤、好ましくは酸化第一銅、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバマート)および/または銅ピリチオンをさらに含んでもよい。
【0032】
本発明はまた、汚損から物体を保護するためのプロセスを提供し、このプロセスは、汚損にさらされる物体の少なくとも一部を、本明細書で定義される防汚コーティング組成物でコーティングすることを含む。
【0033】
本発明はまた、本明細書で定義される防汚コーティング組成物でコーティングされている物体、または汚損から海洋表面を保護するための本発明の防汚組成物の使用に関する。
定義
「海洋防汚コーティング組成物」、「防汚コーティング組成物」または単に「コーティング組成物」は、海洋環境での使用に好適である組成物を指す。防汚コーティング組成物は、好ましくは防汚剤、例えば殺生物剤を含有する。
【0034】
用語ヒドロカルビル基は、C原子およびH原子のみを含む任意の基を意味し、したがって、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アリールアルキル基などを包含する。
【0035】
用語「(メタ)アクリレート」は、メタクリレートまたはアクリレートを意味する。
【0036】
用語「ポリ(アルキレンオキシド)」は、-[アルキレン-O]-繰り返し単位を含む化合物を指す。典型的には、アルキレンは、エチレンまたはプロピレンである。
【0037】
以下で使用される用語「ロジン」は、ロジンまたはその誘導体を包含するために使用されている。
【0038】
用語「バインダー」は、コポリマーおよび環状モノカルボン酸を含む組成物の一部、ならびに一緒に組成物に対して物質および強度を付与するマトリックスを形成する任意の他の成分を定義する。「バインダー」は、環状モノカルボン酸(ii)と共にポリマー成分(i)および(iii)を含む。
【0039】
非親水性(メタ)アクリルポリマーという用語は、少なくとも1つの(メタ)アクリル酸モノマーまたは少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマー(または潜在的に両方の)を含むが、式(I)によるモノマーを10重量%未満、好ましくは5重量%未満、最も好ましくは0重量%の式(I)のモノマーを含むポリマーを定義している。10重量%未満の式(I)のモノマーが存在する場合、これは非親水性であるとみなされる。
【0040】
所与のモノマーの重量%が与えられている場合、その重量%は、コポリマー中に存在する各モノマーの合計(重量)に対するものである。従って、2-メトキシエチルアクリレート(MEA)およびメチルメタクリレート(MMA)がコポリマー成分(i)中の唯一のモノマーである場合、MEAの重量%は(MEA(重量)/(MEA(重量)+MMA(重量)))×100%として計算される。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明は、淡水中での水吸収が著しく低い海洋防汚コーティング用バインダーに関する。したがって、これらの組成物は、耐用年数が長くなる。本発明の防汚コーティング組成物は、少なくとも3つの成分を含有するバインダーを含む。
【0042】
コポリマー成分(i)
本発明は、特定の親水性(メタ)アクリレート系コポリマーを使用することを必要とする。用語親水性は、少なくとも10重量%の少なくとも1種の式(I)のモノマーの存在を意味するために本明細書で使用されている。したがって、コポリマー成分(i)は、少なくとも1種の式(I):
【0043】
【化3】
【0044】
(式中、RはHまたはCHであり、Rは少なくとも1個の酸素または窒素原子、好ましくは少なくとも1個の酸素原子を含むC3~C18置換基であるか、またはRはポリ(アルキレングリコール)基を表す)のモノマーを含む。本明細書で使用される場合、この構造は、親水性の(メタ)アクリレートモノマーを定義する。
【0045】
上記の式に示されるように、用語「親水性(メタ)アクリレート」は、式(I)のR基が少なくとも1個の酸素または窒素原子、好ましくは少なくとも1個の酸素原子を含むことを必要とする。以下に詳細に説明するように、式(II)のモノマーとして、バインダーの成分(i)中には、追加の非親水性(メタ)アクリレートモノマーも存在し、式中、R2’単位は、C原子およびH原子のみからなる。
【0046】
一実施形態では、バインダーコポリマー組成物(i)は、R基が式(CHCHO)-Rである上記の式(I)の少なくとも1つのポリマーを含む(式中、RはC1~C10ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1~C10のアルキル、またはC6~C10のアリール置換基であり、nは1~5の範囲、好ましくは1~3の整数である)。
【0047】
好ましくは、Rは、式(CHCHO)n-R(式中、RはC1~C10アルキル置換基、好ましくはCHまたはCHCHであり、nは1~3の範囲の整数、好ましくは1または2である)である。このようなモノマーは、2-メトキシエチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-ブトキシエチルアクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-ブトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルアクリレート、2-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]エチルアクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-ブトキシエチルメタクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-ブトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エチルメタクリレート、2-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]エチルメタクリレートであってもよい。
【0048】
一実施形態では、コポリマー成分(i)は、2-メトキシエチルアクリレート(MEA)、2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)、2-エトキシエチルメタクリレート(EEMA)、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート(EDEGA)、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート(EDEGMA)のうちの1つ以上を含む。
【0049】
別の実施形態において、コポリマー成分(i)は、R基がポリ(エチレングリコール)基などのポリ(アルキレングリコール)基である、上記式(I)の少なくとも1つのモノマーを含む。このような基は、式(CHCHO)-R13または(CHCH(CH)O)-R13を有し得る(式中、R13はC1~C10ヒドロカルビル置換基であり、好ましくはC1~C10アルキルまたはC6~C10アリール置換基であり、mは5~100、好ましくは5~20の範囲の整数である)。こうしたモノマーは、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)エチルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート、ポリ(エチレングリコール)エチルエーテルメタクリレートであり得る。このようなモノマーとしては、好ましくは、数平均分子量(Mn)300~4000、より好ましくは300~1000を有する。
【0050】
一実施形態では、コポリマー成分(i)は、R基が少なくとも1つの酸素または窒素原子、好ましくは少なくとも1つの酸素原子を含む飽和環式基である、上記式(I)の少なくとも1つのモノマーを含む。より好ましくは、Rは、W-R10基であり、式中、R10が環状エーテル(例えば、任意によりアルキル置換されたオキソラン、オキザン、ジオキソラン、ジオキサン)であり、WがC1~C4アルキレンである。このようなモノマーは、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、(1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルアクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチルメタクリレートであってもよい。好ましい環状エーテルは、環中に少なくとも4個の原子を含むものとする。最も好ましくは、この実施形態において、式(I)の化合物は、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)およびテトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)である。
【0051】
一実施形態では、親水性コポリマー成分(i)はグリシジル基を含まない。
【0052】
式(I)のモノマーは、好ましくはコポリマー(i)の少なくとも15重量%を形成する。バインダー成分(i)中の式(I)の親水性(メタ)アクリレートモノマーの特に好ましい量は、15~65重量%、好ましくは18~62重量%、例えば20~50重量%である。式(I)のモノマーの混合物が存在する場合、これらの量は、コポリマー中の式(I)のモノマーの合計重量割合に関係している。
【0053】
式(I)のコモノマーは、好ましくは、2-メトキシエチルアクリレート(MEA)、2-メトキシエチルメタクリレート(MEMA)、2-エトキシエチルメタクリレート(EEMA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアクリレート(EDEGA)、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート(EDEGMA)である。
【0054】
非親水性(メタ)アクリレートモノマー(複数可)
本発明のコポリマー成分(i)はまた、1種以上の式(II)
【0055】
【化4】
【0056】
(式中、R1’は、HまたはCHであり、R2’はC1~C20ヒドロカルビル置換基、好ましくはC1~8アルキル置換基、最も好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、n-ブチルまたは2-エチルヘキシルである)の非親水性(メタ)アクリレートモノマーを含む。式(II)によるモノマーは、本明細書において「非親水性」モノマーと称される。
【0057】
本発明のすべての実施形態において、コポリマー成分(i)は、式(I)の少なくとも1つのモノマーと共に、少なくとも1つの非親水性メタクリレートおよび/または非親水性アクリレートモノマー(II)を含む。式(II)のモノマーは、好ましくは、最大で85重量%の成分(i)、好ましくは35~85重量%、例えば38~82重量%、例えば40~80重量%の範囲である。式(II)のモノマーの混合物が存在する場合、これらの好ましい量は、コポリマー中の式(II)のモノマーの合計重量割合に関係している。
【0058】
好ましい実施形態では、コポリマー成分(i)は、式(I)および(II)のみのモノマーからなる。
【0059】
好ましい実施形態では、式(I)よりも多くの式(II)の重量%のモノマーが存在する。
【0060】
式(II)のモノマーの好ましい選択肢としては、メチルメタクリレート(MMA)、n-ブチルアクリレート(n-BA)、n-ブチルメタクリレート(n-BMA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)または2-エチルヘキシルメタクリレート(2-EHMA)が挙げられる。本発明のすべての実施形態では、メチルメタクリレート(MMA)またはn-ブチルアクリレート(n-BA)がコポリマー成分(i)に含まれることが好ましい。
【0061】
一実施形態では、コポリマーは、親水性モノマーMEA、EDEGA、EEMA、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレートまたはTHFAおよび少なくとも1つの非親水性(メタ)アクリレートモノマーMMAまたはn-BAのうちの1つ以上を含む。
【0062】
コポリマー成分(i)は、上記式(I)および(II)のモノマー以外の任意のモノマーを15重量%未満含有する。したがって、コポリマー成分(i)は、以下に定義される式(III)の任意のシリルエステルモノマー15重量%未満、好ましくは以下に定義される式(III)の任意のシリルエステルモノマー10重量%未満を含有することが求められる。いくつかの実施形態において、成分(i)は、式(I)および(II)のみのモノマーから構成され得る。
【0063】
コポリマー成分(I)は、好ましくは、任意の(メタ)アクリル酸コモノマーを含まない。
【0064】
コポリマー成分(i)は、好ましくは、いずれの金属イオン含有コモノマーも含まない。
【0065】
好ましい実施形態では、親水性コポリマー(i)は、
(i)少なくとも1種の式(I)
【0066】
【化5】
【0067】
(式中、Rは、HまたはCHであり、Rは少なくとも1個の酸素または窒素原子、好ましくは少なくとも1個の酸素原子を有するC3~C18置換基であるか、またはRはポリ(アルキレングリコール)鎖である)のモノマーを15~65重量%、
少なくとも1種の式(II)
【0068】
【化6】
【0069】
(式中、R1’はHまたはCHであり、R2’はC~C20のヒドロカルビルである)のモノマーを35~85重量%含み、
また、式(I)または(II)のもの以外のコモノマーを15重量%未満含む。
【0070】
コポリマー成分(i)の特性
コポリマーは、好ましくは5,000~70,000、より好ましくは10,000~60,000、特に15,000~40,000の重量平均分子量(Mw)を有する。Mwは、実施例の項に記載したように測定する。
【0071】
コポリマーは、好ましくは、1.5~5.0の多分散指数(PDI)を有する。
【0072】
コポリマー成分(i)は、好ましくは、少なくとも0℃のガラス転移温度(Tg)を有する。コポリマーは、好ましくは、少なくとも5℃、好ましくは少なくとも10℃、例えば少なくとも15℃のガラス転移温度(Tg)を有し、すべての値は実施例の項に記載のTg試験に従って測定される。75℃未満などの80℃未満の値、例えば50℃未満が好ましい。理論によって制限されることを望むものではないが、より高いTgは、実施例において観察される水の吸収の減少に寄与すると考えられている。Tgが0℃未満である場合、水の吸収はより高くなる。
【0073】
コポリマー成分(i)は、好ましくは、他のバインダー成分のブレンドに、部分的にまたは完全に相溶することはない。相溶しないこととは、以下の実施例の項で説明する試験方法によると、バインダー成分が相溶しないことを意味する。
【0074】
バインダー中のコポリマー成分(i)の量は、好ましくは20~60重量%、例えば30~50重量%(乾燥固形分)の範囲である。
【0075】
本発明の最終防汚コーティング組成物は、コポリマー成分(i)を0.5~45重量%(乾燥固形分)、例えば1.0~30重量%、特に5.0~25重量%含むことが好ましい。
【0076】
本発明の防汚コーティング組成物は、任意により、本発明のコポリマー成分(i)の混合物を含み得る。
【0077】
ポリマー成分(iii)
本発明のバインダーは、ポリマー成分(iii)をさらに含む。この成分は、成分(i)とは異なる。成分(iii)は、非親水性(メタ)アクリル酸ポリマー、非親水性(メタ)アクリレートポリマー(iii-2)または少なくとも15重量%のシリルエステルモノマーを含むシリルエステルコポリマー(iii-1)をベースとしてもよい。成分(iii)は、非親水性(メタ)アクリルポリマー(本明細書において(iii-2)と称する)であってもよい。成分(iii)は、コポリマー(iii-1)およびポリマー(iii-2)の混合物であってもよい。従って、成分(iii)は成分(i)とは異なる。
【0078】
シリルエステルコモノマー成分(iii-1)
成分(iii-1)は、少なくとも1種のシリル(メタ)アクリレートモノマーを含む。成分(iii)に使用するのに好適であるシリル(メタ)アクリレートモノマーは、好ましくは式(III)
【0079】
【化7】
【0080】
(式中、
は、HまたはCHであり;
は、それぞれ独立して、直鎖または分枝鎖C1~4アルキル基から選択され、
は、直鎖または分枝鎖C~C20アルキル基、C~C12シクロアルキル基、任意により置換されたC~C20アリール基および-OSi(R基からなる群からそれぞれ独立して選択され、
各Rは、独立して、直鎖または分枝鎖C~Cアルキル基であり、
pは0~5の整数である)のものである。
【0081】
用語「アルキル」は、メチル、エチル、イソプロピル、プロピル、ブチルおよびtert-ブチルなどの直鎖または分枝鎖アルキル基の両方を包含するものとする。特に好ましいシクロアルキル基としては、シクロヘキシルおよび置換シクロヘキシルが挙げられる。
【0082】
置換アリール基の例としては、ハロゲン、1~約8個の炭素原子を有するアルキル基、アシル基またはニトロ基から選択される少なくとも1つの置換基で置換されたアリール基が挙げられる。特に好ましいアリール基としては、置換および非置換フェニル、ベンジル、フェナンアルキル(phenalkyl)、またはナフチルが挙げられる。
【0083】
理想的には、好ましいシリルエステルモノマーは、pが0である式(III)の化合物をベースとする。
【0084】
より好ましくは、シリルエステルモノマーは、式(IV)
【0085】
【化8】
【0086】
(式中、Rは、HまたはCHであり、
は、それぞれ独立して、直鎖または分枝鎖C~C10アルキル基からなる群から選択される)のものである。
【0087】
シリルエステル官能基を含有するモノマーの例は周知である。一般式(III)によって定義されるモノマーとしては、
例えばトリ-n-プロピルシリル(メタ)アクリレート、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ-n-ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソブチルシリル(メタ)アクリレート、tert-ブチルジメチルシリル(メタ)アクリレート、テキシルジメチルシリル(メタ)アクリレート、tert-ブチルジフェニルシリル(メタ)アクリレート、ノナメチルテトラシロキサニル(メタ)アクリレート、ビス(トリメチルシロキシ)メチルシリル(メタ)アクリレート、トリス(トリメチルシロキシ)シリル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸およびメタクリル酸のシリルエステルモノマーが挙げられる。
【0088】
トリイソプロピルシリルアクリレート(TISA)またはトリイソプロピルシリルメタクリレート(TISMA)の使用が好ましい。
【0089】
好ましくは、成分(iii-1)は、シリルエステルモノマーを少なくとも15重量%、好ましくは15~65重量%、特に35~60重量%含む。
【0090】
好ましくは、シリルエステルモノマー(複数可)と同様に、シリルエステルコポリマー成分(iii-1)は、シリルエステルモノマー以外の第2のコモノマーを含む。第2のコモノマーは、好ましくは、本明細書の上記に定義した式(I)または(II)のものである。シリルエステルコポリマー成分(iii-1)はまた、上記で定義した式(I)のモノマーおよび式(II)のモノマーを含むことができる。
【0091】
シリルエステルコポリマー成分(iii)に使用する式(I)の好ましいモノマーは、EDEGA、THFA、MEAおよびMEMA、特にEDEGAおよびTHFAである。好ましい疎水性コモノマーとしては、MMA、n-BA、n-BMAおよび2-EHAが挙げられる。
【0092】
シリルエステルコモノマーは、好ましくは、少なくとも、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートモノマー、式(I)のモノマーおよび式(II)のモノマーを含む。上記式(I)および(II)の好ましい選択肢は、成分(iii)の実施形態に独立して適用される。式(II)のモノマーの好ましい選択肢としては、メチルメタクリレート(MMA)、n-ブチルアクリレート(n-BA)、n-ブチルメタクリレート(n-BMA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)または2-エチルヘキシルメタクリレート(2-EHMA)が挙げられる。本発明のすべての実施形態では、メチルメタクリレート(MMA)またはブチルアクリレート(n-BA)がコポリマー成分(iii)に含まれることが好ましい。
【0093】
好ましくは、シリルエステルコポリマー成分(iii)は、少なくとも15重量%、特に15~65重量%の式(II)成分のモノマーを含む。
【0094】
好ましくは、シリルエステルコポリマー成分(iii)は、5~30重量%の式(I)のモノマーを含む。
【0095】
シリルエステルコポリマーは、好ましくは、少なくとも15℃、好ましくは少なくとも20℃、例えば少なくとも25℃のガラス転移温度(Tg)を有し、すべての値は実施例の項に記載されているTg試験に従って測定される。75℃未満などの80℃未満の値、例えば50℃未満が好ましい。
【0096】
シリルエステルコポリマー成分(iii)は、好ましくは5,000~70,000、好ましくは10,000~60,000、特に20,000~50,000の重量平均分子量を有する。Mwは、実施例の項に記載したように測定する。
【0097】
シリルエステルコポリマーは、好ましくは2~6のPDIを有する。
【0098】
バインダー中のシリルエステル成分(iii)の量は、好ましくは10~60重量%、好ましくは15~50重量%(乾燥固形分)の範囲である。
【0099】
(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)
代替的または追加的に、成分(iii)は、少なくとも1つの(メタ)アクリル酸モノマーまたは少なくとも1つの(メタ)アクリレートモノマー(または両方)、例えば、式(II)のものを含む非親水性(メタ)アクリルポリマーを含む。成分(iii-2)は、ホモポリマーまたはコポリマー、好ましくはコポリマーであり得る。特に、(メタ)アクリル酸モノマーが存在する場合、第2のモノマーが存在する場合には、コポリマーを形成することが好ましい。この実施形態における第2のモノマーは、好ましくは、本明細書で定義される式(II)のモノマーである。
【0100】
非親水性(メタ)アクリルポリマーは、10重量%未満の式(I)の任意のモノマーを含み、好ましくは式(I)の任意のモノマーを含まない。非親水性(メタ)アクリルポリマーは、また、好ましくはいかなるシリルエステルモノマーも含まない。
【0101】
好ましくは、(メタ)アクリル酸は、非親水性(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)中に存在する。好ましくは、(メタ)アクリル酸は、非親水性(メタ)アクリルコポリマー成分(iii-2)中に、特に式(II)の第2のコモノマーと共に存在する。
【0102】
(メタ)アクリル酸との組み合わせの好ましい選択肢としては、MMA、n-BMAおよびn-BAなどの式(II)のモノマーが挙げられる。
【0103】
コポリマー成分(iii-2)中の(メタ)アクリル酸の含有量は、0.5~10重量%の範囲であることが好ましい。式(II)のモノマーは、好ましくは(メタ)アクリル酸コポリマーの少なくとも50重量%、例えば少なくとも75重量%、特に90~99.5重量%を形成する。
【0104】
あるいは、非親水性(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)は、1種以上の式(II)のモノマーを含むことができる。したがって、一実施形態では、非親水性(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)は、例えば式(II)のモノマーなどの(メタ)アクリレートホモポリマーである。
【0105】
本実施形態では、式(II)のモノマーは、好ましくは(メタ)アクリルポリマーの少なくとも50重量%、例えば少なくとも75重量%、特に90~100重量%を形成する。式(II)の好ましい選択肢としては、メチルメタクリレート(MMA)、n-ブチルアクリレート(n-BA)、n-ブチルメタクリレート(n-BMA)、2-エチルヘキシルアクリレート(2-EHA)または2-エチルヘキシルメタクリレート(2-EHMA)など、成分(i)に関連して上述したものが挙げられる。
【0106】
本発明のすべての実施形態では、メチルメタクリレート(MMA)またはn-ブチルアクリレート(n-BA)がコポリマー成分(iii-2)に含まれることが好ましい。
【0107】
(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)は、好ましくは0℃未満、好ましくは-20℃未満、例えば-22℃未満のガラス転移温度(Tg)を有し、すべての値は実施例の項に記載されているTg試験に従って測定される。-60℃を超える値、例えば-50℃を超える値が好ましい。
【0108】
(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)は、好ましくは5,000~70,000、好ましくは10,000~60,000、特に、15,000~35,000の重量平均分子量を有する。Mwは、実施例の項に記載したように測定する。
【0109】
(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)は、1.5~5.0のPDIを有することが好ましい。
【0110】
本発明のバインダー組成物は、好ましくは、存在する場合、(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)を0.5~25重量%(乾燥固形分)、例えば、1.0~22重量%、特に2.0~18重量%含む。
【0111】
一般に、バインダー中の成分(iii)の量((iii-1)+(iii-2)の合計量)は、好ましくは5~70重量%、好ましくは10~60重量%、好ましくは10~50重量%、特に15~50重量%(乾燥固形分)の範囲である。
【0112】
(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)が存在すると好ましい。シリルエステルコポリマー成分(iii-1)が存在する場合、(メタ)アクリルポリマー成分(iii-2)が存在することも好ましい。これらの成分の重量比は、成分(iii-1)~(iii-2)が95~50:50~5、好ましくは90~60:40~10であってもよい。したがって、(iii-1)および(iii-2)の両方が存在する場合、過剰の成分(iii-1)が存在することが好ましい。
【0113】
本発明の防汚コーティング組成物は、好ましくは少なくとも0.5重量%、例えば少なくとも1重量%の成分(iii)(乾燥固形分)を含む。成分(iii)の上限は、20重量%、例えば15重量%であってもよい。
【0114】
コポリマー成分(i)およびポリマー成分(iii)の調製
ポリマーは、当技術分野で公知の重合反応を用いて調製することができる。アクリルポリマーは、好ましくは付加重合または連鎖成長重合を用いて調製される。好適な付加重合技術の例としては、フリーラジカル重合、アニオン重合および適切に制御された重合技術が挙げられる。ポリマーは、例えば、重合開始剤および任意により連鎖移動剤の存在下で、従来の様式における溶液重合、塊状重合、乳化重合、および懸濁重合などの様々な方法のいずれかによって、または制御された重合技術によって、モノマー混合物を重合させることにより得ることができる。このポリマーを用いてコーティング組成物を調製する際には、ポリマーを有機溶剤で希釈して適切な粘度を有するポリマー溶液を得ることが好ましい。この観点から、溶液重合を用いることが望ましい。
【0115】
フリーラジカル重合のための重合開始剤の例としては、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオナート)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、および1,1’-アゾビス(シアノシクロヘキサン)などのアゾ化合物、ならびにtert-ブチルペルオキシピバラート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノアート、tert-ブチルペルオキシジエチルアセタート、tert-ブチルペルオキシイソブチラート、ジ-tert-ブチルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾアート(tert-butyl peroxybenozate)、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、tert-アミルペルオキシピバラート、tert-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノアート、1,1-ジ(tert-アミルペルオキシ)シクロヘキサンおよびジベンゾイルペルオキシドなどの過酸化物が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2種以上の混合物として使用される。
【0116】
有機溶媒の例としては、キシレン、トルエン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸ブチル、酢酸tert-ブチル、酢酸アミル、エチレングリコールメチルエーテルアセタート、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチルなどのエステル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;n-ブタノール、イソブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類;ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール類;d-リモネンなどの環状テルペン類;ホワイトスピリットなどの脂肪族炭化水素;および任意により2種以上の溶媒が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2種以上の混合物として使用される。コポリマー成分(i)または(iii)は、好ましくはランダムコポリマーである。
【0117】
環状モノカルボン酸成分(ii)
本発明のバインダーは、少なくとも1種の環状モノカルボン酸を含む。環状モノカルボン酸は、単一のカルボキシル官能基(その塩形態であってもよい)を含有する。環状モノカルボン酸は、1つの環または複数の環状環を含んでもよい。特に、このような環は縮合環であってもよい。環状モノカルボン酸は、好ましくは、樹脂酸、樹脂酸の誘導体、C6~20の環状カルボン酸およびこれらの混合物から選択される。好適なモノカルボン酸としては、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸、パルストリン酸、レボピマル酸、ピマル酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸、コムニン酸などの樹脂酸;ナフテン酸;1-メチル-3-(4-メチル-3-ペンテニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、1-メチル-4-(4-メチル-3-ペンテニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸などのメチルイソヘキセニルシクロヘキセンカルボン酸;1,4,5-トリメチル-2-(2-メチル-1-プロペニル)-3-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸、および1,5,6-トリメチル-3-(2-メチル-1-プロペニル)-4-シクロヘキセン-1-イル-カルボン酸などのトリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸;およびそれらの混合物が挙げられる。理想的には、環式モノカルボン酸は、ロジンまたはその誘導体である。
【0118】
モノカルボン酸を用いて、防汚コーティング膜の自己研磨特性および機械的特性を調整することができる。バインダー中の成分(ii)の量は、好ましくは10~70重量%(乾燥固形分)、好ましくは20~50重量%の範囲である。
【0119】
本発明において使用するロジンは、ロジンまたはその誘導体(例えば、以下に記載されるようなその塩など)であり得る。ロジン材料の例としては、木材ロジン、トール油ロジンおよびガムロジン;水素化および部分的に水素化されたロジン、不均化ロジン、マレイン酸変性ロジン、フマル酸変性ロジンなどのロジン誘導体;樹脂酸銅、樹脂酸亜鉛、樹脂酸カルシウム、樹脂酸マグネシウムなどのロジンおよびロジン誘導体の金属塩;ならびに国際公開第97/44401号に記載の他のロジンが挙げられる。好ましいのは、ガムロジンおよびガムロジンの誘導体である。
【0120】
本発明において、防汚組成物は、環状モノカルボン酸物質を0.5~25重量%、好ましくは1~20重量%(乾燥固形分)、好ましくは3~15重量%(乾燥固形分)で含むことが好ましい。
【0121】
したがって、本発明のバインダーの一実施形態では、成分(i)の量は、バインダー(乾燥固形分)の20~60重量%の範囲にあり、
成分(ii)の量は、バインダーの10~70重量%(乾燥固形分)の範囲にあり、
成分(iii)の量は、10~60重量%(乾燥固形分)の範囲にある。
【0122】
防汚コーティングの特性は、バインダーコポリマーおよびロジン成分の相対量を変化させることによって調整することができる。
【0123】
他のバインダー成分
上記成分(i)~(iii)に加えて、追加のバインダー成分を用いて防汚コーティング膜の特性を調節することができる。使用することができるバインダーの例としては、
メチルエステル、グリセロールエステル、ポリ(エチレングリコール)エステル、ペンタエリスリトールエステルなどのロジンおよび水素添加ロジンのエステル、好ましくは、ガムロジンおよび水素化ガムロジンのエステル;
二量化ロジンおよび重合ロジン;
酸基が1価の有機残基に結合した2価の金属、またはヒドロキシル残基に結合した2価の金属でブロックされている酸官能性ポリマー;
親水性コポリマー、例えばポリ(N-ビニルピロリドン)コポリマーおよびポリ(エチレングリコール)コポリマーなどの(メタ)アクリレートコポリマー;
ポリ(メチルビニルエーテル)、ポリ(エチルビニルエーテル)、ポリ(イソブチルビニルエーテル)、ポリ(塩化ビニル-コ-イソブチルビニルエーテル)などのビニルエーテルポリマーおよびコポリマー;
ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(2-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、ポリ(4-ヒドロキシ吉草酸)、ポリカプロラクトン、および上記単位から選択される単位の2つ以上を含む脂肪族ポリエステルコポリマーなどの脂肪族ポリエステル;ならびにポリオキサレートなどの他の縮合ポリマー;
アルキド樹脂および変性アルキド樹脂;
C5脂肪族モノマー、C9芳香族モノマー、インデンクマロンモノマー、もしくはテルペン、またはそれらの混合物から選択される少なくとも1つのモノマーの重合からのみ形成された炭化水素樹脂などの炭化水素樹脂が挙げられる。
【0124】
非環式モノカルボン酸
一実施形態では、本発明の防汚コーティングは、液体のC12~C24モノカルボン酸またはその塩、すなわち分子内に単一の-COOH部分含む酸、またはその塩を含むことができる。このような酸は、酸性の「頭部基」と、好ましくは炭素原子の分岐鎖である非極性の「尾部基」とを含む。モノカルボン酸は、好ましくはC、HおよびO原子のみを含有する。
【0125】
このような材料の使用は、酸成分非含有比較組成物よりも、浸出層形成の制御を改善する(厚さを低減する)ことができる。さらに、酸成分を含有する組成物は、塗料の粘度を維持し、またはさらには低下させながら、同様のレベルの研磨を示すものとする。
【0126】
この成分は、液体の非環式飽和C12~C24モノカルボン酸、または液体の非環式分岐鎖C12~C24モノカルボン酸から選択される1つ以上のモノカルボン酸を含み得る。したがって、酸は直鎖不飽和カルボン酸であってはならない。酸が飽和しているのが好ましい。
【0127】
モノカルボン酸は、理想的には式R11COOHであり、式中、R11はC11~23の非環式分岐鎖アルキルもしくはアルケニル基、またはC11~23の非環式飽和直鎖もしくは分岐鎖アルキル基である。R11は、C11~23の非環式分岐鎖アルキル基であることが好ましい。
【0128】
最も好ましくは、非環式モノカルボン酸は、分枝鎖C12~24の脂肪酸またはその混合物である。
【0129】
酸は、室温および圧力(23℃および1気圧)において液体であることが好ましい。
【0130】
酸成分は、分岐状であるのが好ましい。分枝鎖酸は、その尾部基に第3級または第4級炭素原子を含まなければならない。
【0131】
酸の多くは天然源由来であってもよく、その場合、それらは単離された形態では、典型的には、様々な分枝鎖度を有し、鎖長が異なる酸の混合物として存在することが理解される。使用される酸が成分の混合物である場合、酸は50%超、好ましくは70%超、80%超、または90%超の分枝鎖度を有してもよい。ここでのパーセントは重量%(wt%)である。一例として、少なくとも50%の分枝鎖度を有するC18酸成分は、50質量部以下の直鎖C18の酸(n-ステアリン酸、n-オレイン酸、n-リノール酸など)を含有しており、残りは分枝鎖C18の酸(一般的には「イソステアリン酸」、「イソオレイン酸」、「イソリノール酸」)などである。
【0132】
好ましい態様では、酸は、非環式C14~C20モノカルボン酸、好ましくは非環式C16~C20モノカルボン酸、特に非環式C16~18モノカルボン酸である。炭素鎖が偶数である炭素原子を含むのが好ましい。好ましい態様では、酸は350g/モル未満、特に320g/モル未満、特に300g/モル未満の分子量を有する。
【0133】
好ましい態様では、酸は310未満、特に300未満、例えば290未満、またはさらには280未満の酸価を有する。「酸価」は公知のパラメータであり、1グラムの酸を中和するのに必要なKOHの質量(mg(ミリグラム))である(ISO660:2009)。
【0134】
好ましい態様において、酸は50未満、例えば40未満、30未満、または20未満のヨウ素価を有する。いくつかの実施形態において、酸は、0のヨウ素価を有する飽和酸であり得る。「ヨウ素価」は、公知のパラメータであり、100グラムの酸と反応するヨウ素の質量(g(グラム))(AOCS Tg 1a-64)である。
【0135】
使用に特に好ましい酸としては、イソパルミチン酸またはイソステアリン酸またはそれらの混合物からなる群から選択される1種以上が含まれる。それぞれの場合、酸は天然または合成であってもよい。イソステアリン酸とイソパルミチン酸とのブレンドは、好適な分枝鎖度で、名称Radiacid 0906、Radiacid 0907、およびRadiacid 0909(Oleon)が利用可能である。特に高級分枝鎖イソステアリン酸は、ファインオキソコールイソステアリン酸N製品(Nissan Chemicals)である。
【0136】
特に好ましい酸は、イソステアリン酸およびイソパルミチン酸であり、いずれの場合も70%を超える分枝鎖度、および30未満のヨウ素価を有する。特に好適な成分は、ファインオキソコールイソステアリン酸N(Nissan Chemicals)およびRadiacid 0906、Radiacid 0907、またはRadiacid 0909(Oleon)である。
【0137】
金属イオンが存在する場合、任意の酸が塩を形成し得ることが理解されるであろう。本発明者らは酸をその酸形態で添加することを提案しているが、酸をその塩形態で添加することも可能である。酸は、組成物中で塩形態に変換することもできる。組成物中に添加される酸の重量%は、酸が酸の形態であると仮定して計算されるものとする。
【0138】
さらなるバインダー成分が存在する場合、これは理想的にはバインダーの10重量%未満、理想的には5重量%未満を形成する。好ましい実施形態では、追加のバインダー成分は存在せず、バインダーは成分(i)~(iii)のみからなる。
【0139】
バインダーの好ましい実施形態では、コポリマー(i):成分(ii)の重量比(乾燥固形分)は、20:80~80:20、好ましくは30:70~70:30、より好ましくは40:60から60:40の範囲であってもよい。
【0140】
バインダーの好ましい態様では、ポリマー(i)+(iii):成分(ii)の重量比(乾燥固形分)は、35:65~85:15、好ましくは40:60~80:20、より好ましくは45:55~75:25の範囲であってもよい。
【0141】
一実施形態では、実験の項の方法によって決定された場合(成分(i)、(ii)および(iii)のバインダー混合物中での親水性コポリマーの非相溶性の決定)、バインダーの成分(i)は、部分的にまたは完全に非相溶性であり、すなわち、存在する他のバインダー成分と均一な混合物を形成することはない。
【0142】
本発明のバインダー組成物は、理想的には、防汚コーティング組成物に組み込まれる。本発明の防汚コーティング組成物は、バインダー15~50重量%を含むことができ、特に本発明の防汚コーティング組成物は、請求項1に記載のバインダー成分(i)~(iii)15~50重量%を含む。
【0143】
殺生物剤
防汚コーティングは、好ましくは、表面の海洋汚損を防止するか、または表面から海洋汚損を除去することができる化合物をさらに含む。用語「防汚剤(antifouling agent)」、「防汚剤(antifoulant)」、「殺生物剤」、「毒物」は、表面の海洋汚損を防止するように作用する既知の化合物を記載するために産業界で使用されている。本発明の防汚剤は、海洋防汚剤である。
【0144】
防汚剤は、無機、有機金属または有機であってもよい。好適な防汚剤は市販されている。
【0145】
無機系防汚剤の例としては、銅および酸化銅などの銅化合物、例えば酸化銅(I)および酸化銅(II);銅-ニッケル合金などの銅合金;チオシアン酸銅(I)および硫化銅などの銅塩が挙げられる。有機金属海洋防汚剤の例としては、亜鉛2ピリジンチオール-1-オキシド[亜鉛ピリチオン];銅2-ピリジンチオール-1-オキシド[銅ピリチオン]、酢酸銅、ナフテン酸銅、銅8-キノリノナート[オキシン-銅]、銅ノニルフェノールスルホネート、銅ビス(エチレンジアミン)ビス(ドデシルベンゼンスルホネート)および銅ビス(ペンタクロロフェノラート)などの有機銅化合物;亜鉛ビス(ジメチルジチオカルバマート)[ジラム]、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバマート)[ジネブ]、マンガンエチレンビス(ジチオカルバマート)[マネブ]、および亜鉛塩とのマンガンエチレンビス(ジチオカルバマート)錯体[マンコゼブ]などのジチオカルバマート化合物が挙げられる。
【0146】
有機海洋防汚剤の例としては、2-(tert-ブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミノ)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[シブトリン]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、2-(チオシアナトメチルチオ)-1,3-ベンゾチアゾール[ベンチアゾール]、3-ベンゾ[b]チエン-2-イル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-オキサチアジン4-オキシド[ベトキサジン(bethoxazin)]および2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルホニル)ピリジン;尿素誘導体、例えば3-(3,4-ジクロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素[ジウロン];アミドおよびカルボン酸、スルホン酸、およびスルフェン酸のイミド、例えばN-(ジクロロフルオロメチルチオ)フタルイミド、N’-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-フェニルスルファミド[ジクロフルアニド]、N’-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]およびN-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド;他の有機化合物、例えばピリジントリフェニルボラン、アミントリフェニルボラン、3-ヨード-2-プロピニルN-ブチルカルバマート[ヨードカルブ]、2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル[クロロタロニル]、p-((ジヨードメチル)スルホニル)トルエンおよび4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トロピオピル]などの複素環式化合物が挙げられる。
【0147】
海洋防汚剤の他の例としては、テトラアルキルホスホニウムハロゲン化物、グアニジン誘導体;4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]などのイミダゾール含有化合物およびその誘導体;アベルメクチンおよびイベルメクチン(ivermectine)などのその誘導体を含む大環状ラクトン;スピノシンおよびスピノサドなどの誘導体;カプサイシンおよびフェニルカプサイシンなどのその誘導体;ならびにオキシダーゼ、タンパク質分解活性酵素、ヘミセルロース分解活性酵素、セルロース分解活性酵素、脂肪分解活性酵素、およびデンプン分解活性酵素などの酵素であってもよい。
【0148】
伝統的に、防汚コーティング組成物は、金属銅、酸化第一銅、チオシアン酸銅などの銅殺生物剤を含有する。
【0149】
酸化第一銅材料は、典型的な粒径分布が0.1~70μm、平均粒径(d50)が1~25μmである。酸化第一銅材料は、表面の酸化および固化を防止するための安定剤を含んでもよい。商業的に入手可能な酸化第一銅としては、Nordox Cuprous Oxide Red Paint Grade、Nordox XLT(Nordox AS)、Cuprous oxide(Furukawa Chemicals Co.,Ltd.);Red Copp 97N、Purple Copp、Lolo Tint 97N、Chemet CDC、Chemet LD(American Chemet Corporation);Cuprous Oxide Red(Spiess-Urania);Cuprous oxide Roast、Cuprous oxide Electrolytic(Taixing Smelting Plant Co.,Ltd.)が挙げられる。
【0150】
銅殺生物剤の代わりに、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]および4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トラロピリル]などの一連の有機殺生物剤を使用することができる。いずれの既知の殺生物剤も本発明に使用することができる。
【0151】
好ましい殺生物剤は、酸化第一銅、チオシアン酸銅、亜鉛ピリチオン、銅ピリチオン、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバマート)[ジネブ]、2-(tert-ブチルアミノ)-4-(シクロプロピルアミノ)-6-(メチルチオ)-1,3,5-トリアジン[シブトリン(cubutryne)]、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン[DCOIT]、N’-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-フェニルスルファミド[ジクロロフルアニド]、N’-ジクロロフルオロメチルチオ-N’,N’-ジメチル-N-p-トリルスルファミド[トリルフルアニド]、4-[1-(2,3-ジメチルフェニル)エチル]-1H-イミダゾール[メデトミジン]、トリフェニルボランピリジン[TPBP]、および4-ブロモ-2-(4-クロロフェニル)-5-(トリフルオロメチル)-1H-ピロール-3-カルボニトリル[トラロピリル]である。
【0152】
異なる殺生物剤が異なる海洋汚損生物に対して作用することから、当該技術分野で公知であるように、殺生物剤の混合物を使用することができる。防汚剤の混合物が一般に好ましい。
【0153】
一実施形態では、防汚コーティング組成物は、酸化第一銅および/またはチオシアン酸銅、ならびに銅ピリチオン、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバマート)、4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよびメデトミジンから選択される1種以上の殺生物剤を含む。
【0154】
代替的実施形態では、防汚コーティングは無機銅殺生物剤を含まない。この実施形態において、好ましい殺生物剤の組み合わせは、トラロピリルと、亜鉛ピリチオン、亜鉛エチレンビス(ジチオカルバマート)、4,5-ジクロロ-2-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよびメデトミジンから選択される1つ以上との組み合わせを含む。
【0155】
存在する場合、殺生物剤を組み合わせた量は、コーティング組成物の70重量%まで、例えば4~60重量%、例えば5~60重量%となり得る。銅が存在する場合、好適な量の殺生物剤は、コーティング組成物中に20~60重量%であり得る。銅が回避される場合、0.1~20重量%などの少量(例えば0.2~15重量%)が使用され得る。殺生物剤の量は、最終用途および使用される殺生物剤に依存して変化することは理解されよう。
【0156】
いくつかの殺生物剤は、放出を制御するために、不活性担体にカプセル化されるかもしくは吸着されるか、または他の物質に結合され得る。これらのパーセンテージは、存在する活性殺生物剤の量を指すものであり、したがって、使用される任意の担体に対するものではない。
【0157】
他の成分
本発明による防汚コーティング組成物は、バインダーおよび上記の任意の成分に加えて、任意により、他のバインダー、無機顔料または有機顔料、増量剤および充填剤、添加剤、溶剤、ならびにシンナーから選択される1種以上の成分をさらに含むことができる。
【0158】
顔料、増量剤および充填剤
顔料は、無機顔料、有機顔料またはそれらの混合物であってもよい。無機顔料が好ましい。無機顔料の例としては、二酸化チタンおよび酸化鉄が挙げられる。有機顔料としては、フタロシアニン化合物、アゾ顔料、カーボンブラックが挙げられる。
【0159】
増量剤および充填剤の例は、ドロマイト、plastorite、カルサイト、石英、バライト、マグネサイト、アラゴナイト、シリカ、ウォラストナイト、タルク、亜塩素酸塩、雲母、カオリン、粉砕シリカおよび長石などのミネラル;酸化亜鉛、リン酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、ケイ酸カルシウム粉砕シリカおよび沈降シリカなどの合成無機化合物;ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(メチルメタクリレート-コ-エチレングリコールジメタクリレート)、ポリ(スチレン-コ-エチレングリコールジメタクリレート)、ポリ(スチレン-コ-ジビニルベンゼン)、ポリスチレン、ポリ(塩化ビニル)などのポリマー材料の例えば非コーティング、もしくはコーティング中空固体ガラスビーズ、非コーティング、もしくはコーティング中空固体セラミックビーズ、多孔質、およびコンパクトビーズなどのポリマーミクロスフェアおよび無機ミクロスフェアである。
【0160】
好ましくは、本発明の組成物中に存在する増量剤、充填剤および/または顔料の総量は、組成物の総重量に基づいて、0~70重量%、より好ましくは1~60重量%、さらにより好ましくは2~50重量%である。当業者であれば、増量剤および顔料の含有量は、存在する他の成分およびコーティング組成物の最終用途に依存して変化することを理解するであろう。
【0161】
脱水剤
本発明の防汚コーティング組成物は、任意により、水捕捉剤または乾燥剤とも呼ばれる脱水剤を含む。好ましくは、脱水剤は、水が存在している組成物から水を除去する化合物である。脱水剤は、顔料および溶剤などの原料から導入された水分、または防汚コーティング組成物中においてカルボン酸化合物と特定の化合物(例えば、金属酸化物)との反応によって生成された水を除去することにより、例えばシリルエステルコポリマーなどの水反応性化合物を含む防汚コーティング組成物の貯蔵安定性を向上させる。防汚コーティング組成物に使用され得る脱水剤および除湿乾燥剤としては、有機および無機化合物が挙げられる。
【0162】
脱水剤は、水を吸収する吸湿性材料、または多くの場合除湿乾燥剤と呼ばれる結晶水として水と結合することができる。除湿乾燥剤の例としては、硫酸カルシウム半水和物、無水硫酸カルシウム、無水硫酸マグネシウム、無水硫酸ナトリウム、無水硫酸亜鉛、分子ふるいおよびゼオライトが挙げられる。
【0163】
脱水剤は、水と化学的に反応する化合物であってもよい。水と反応する脱水剤の例は、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルトギ酸トリプロピル、オルトギ酸トリイソプロピル、オルトギ酸トリブチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、オルト酢酸トリブチルおよびオルトプロピン酸トリエチルなどのオルトエステル;ケタール;アセタール;エノールエーテル;オルトホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリブチルおよびホウ酸トリ-t-ブチルなどのオルトホウ酸塩;トリメトキシメチルシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランおよびエチルポリシリケートなどのオルガノシランである。
【0164】
好ましい脱水剤は、水と化学的に反応するものである。特に好ましい脱水剤は、オルガノシランである。
【0165】
好ましくは、脱水剤は、本発明の組成物中に、組成物の総重量に基づいて、0~5重量%、より好ましくは0.5~2.5重量%、さらにより好ましくは1.0~2.0重量%の量で存在する。
【0166】
溶剤およびシンナー
防汚組成物は、溶剤を含有することが非常に好ましい。この溶媒は好ましくは揮発性であり、好ましくは有機である。有機溶剤とシンナーの例は、キシレン、トルエン、メシチレンなどの芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、ジイソブチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸ブチル、酢酸tert-ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、エチレングリコールメチルエーテルアセタート、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、イソ酪酸イソブチルなどのエステル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;n-ブタノール、イソブタノール、ベンジルアルコールなどのアルコール類;ブトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノールなどのエーテルアルコール類;d-リモネンなどの環状テルペン類;ホワイトスピリットなどの脂肪族炭化水素;および任意により2種以上の溶媒およびシンナーの混合物である。他のシンナーの例としては、水が挙げられる。
【0167】
好ましい溶媒は、芳香族溶媒および1-メトキシ-2-プロパノール、特にキシレン、および芳香族炭化水素と1-メトキシ-2-プロパノールとの混合物である。
【0168】
溶媒の量は、可能な限り少ないことが好ましい。溶媒含有量は、組成物の50重量%まで、好ましくは組成物の45重量%まで、例えば40重量%までであってもよいが、15重量%以下、例えば10重量%以下ほど少なくてもよい。ここでも、当業者は、溶媒含有量が、存在している他の成分およびコーティング組成物の最終用途に依存して変化することを理解するであろう。
【0169】
あるいは、コーティングは、コーティング組成物または水性分散液中の膜形成成分のための有機非溶媒中に分散させることができる。
【0170】
本発明の防汚コーティング組成物は、好ましくは、40体積%超、例えば45体積%超、例えば50体積%超、好ましくは55体積%超などの固形分を有するものとする。
【0171】
より好ましくは、防汚コーティング組成物は、500g/L未満、好ましくは400g/L未満、例えば390g/L未満などの揮発性有機化合物(VOC)の含有量を有するものとする。VOC含有量は計算(ASTM D5201-01)または測定(US EPA法24またはISO 11890-1)され得る。
【0172】
他の添加剤
防汚コーティング組成物に添加することができる他の添加剤の例は、補強剤、チクソトロピー剤、増粘剤、沈降防止剤、湿潤剤および分散剤、可塑剤、ならびに安定剤である。
【0173】
補強剤の例は、フレークおよび繊維である。繊維には、ケイ素含有繊維、炭素繊維、酸化物繊維、炭化物繊維、窒化物繊維、硫化物繊維、リン酸塩繊維、ミネラル繊維などの天然および合成無機繊維;金属繊維;セルロース繊維、ゴム繊維、アクリル繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド、ポリエステル繊維、ポリヒドラジド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維などの自然および合成有機繊維、国際公開第00/77102号パンフレットに記載されている繊維などが挙げられる。好ましくは、繊維の平均長さは25~2000μm、平均厚さは1~50μmであり、平均長さと平均厚さとの比は少なくとも5である。
【0174】
チクソトロピー剤、増粘剤および沈降防止剤の例は、ヒュームドシリカなどのシリカ、有機変性クレー、アミドワックス、ポリアミドワックス、アミド誘導体、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、硬化ヒマシ油ワックス、エチルセルロース、ステアリン酸アルミニウム、およびそれらの混合物である。
【0175】
可塑剤の例は、塩素化パラフィン、フタル酸塩、リン酸エステル、スルホンアミド、アジピン酸、およびエポキシ化植物油である。
【0176】
防汚コーティング組成物の貯蔵安定性に寄与する安定剤の例は、ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドおよびポリ(1,3,5-トリイソプロピルフェニレン-2,4-カルボジイミド)などのカルボジイミド化合物および欧州特許第2725073号に記載されている他のものである。
【0177】
一般に、これらの任意の成分は、防汚組成物の0.1~20重量%、典型的には0.5~20重量%、好ましくは0.75~15重量%の範囲の量で存在してもよい。これらの任意の成分の量は、最終用途に応じて変化することは理解されよう。
【0178】
本発明の防汚コーティング組成物は、汚損の影響を受けやすいあらゆる物体表面の全体または一部に塗布することができる。表面は、恒久的にまたは間欠的に(例えば、潮の動き、異なる貨物の積載または膨潤によって)水中であってもよい。物体表面は、典型的には、船舶の船体、固定された海洋物の表面(例えば石油プラットフォームまたはブイなど)である。コーティング組成物の塗布は、任意の好都合な手段、例えば塗装(例えば、ブラシもしくはローラーによる)、またはコーティングを物体に噴霧することによって達成することができる。典型的には、コーティングできるようにするために、表面を海水から分離する必要がある。コーティングの塗布は、当該技術分野において従来から公知であるように達成することができる。
【0179】
防汚コーティングを物体(例えば、船体)に塗布するとき、物体の表面は、典型的には、単一の防汚コーティングによって単独で保護されることはない。表面の性質に依存して、防汚コーティングは、既存のコーティングシステムに直接塗布することができる。そのようなコーティングシステムは、異なる一般的なタイプの塗料のいくつかの層(例えば、エポキシ、ポリエステル、ビニル、もしくはアクリル、またはそれらの混合物)を含むことができる。表面がきれいであり、表面上で以前に塗布した防汚コーティングが無傷である場合、新しい防汚塗料は、典型的には、さらに1つまたは2つ、例外的にはそれ以上のコーティングとして直接塗布することができる。
【0180】
あるいは、当業者は、非コーティング表面(例えば、スチール、アルミニウム、プラスチック、複合材、ガラス繊維または炭素繊維)で始めてもよい。このような表面を保護するために、完全コーティングシステムは、典型的には、防食コーティングの1つまたは2つの層、結合コートの1つの層、および防汚塗料の1つまたは2つの層を含む。当業者は、これらのコーティング層に精通しているであろう。
【0181】
例外的な場合には、追加の防汚塗料層を塗布することができる。
【0182】
したがって、さらなる実施形態では、本発明は、エポキシプライマー、結合層および本明細書で定義された防汚コーティング組成物などの防食コーティング層を上部にコーティングした基材を提供する。
【0183】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照して定義される。
材料および方法
【0184】
【0185】
ポリマー溶液粘度の測定
ポリマーの粘度は、ASTM D2196-15試験方法Aに従って、12rpmでLV-2またはLV-4スピンドルを備えたBrookfield DV-I粘度計を用いて測定した。測定前に、ポリマーを23.0℃~0.5℃に調節した。
【0186】
ポリマー溶液の不揮発物質含有量の測定
ポリマー溶液の不揮発物質含有量は、ISO 3251に従って決定した。0.5g±0.1gの試験サンプルを取り出し、換気オーブンにおいて105℃で3時間乾燥させた。残留物の重量は不揮発性物質(NVM)であるとみなす。不揮発性物質含有量は、重量%で表される。与えられた値は、3回並行した平均値である。
【0187】
ポリマー平均分子量分布の測定
ポリマーは、ゲル透過クロマトグラフィー(GPC)測定によって特徴を明らかにした。分子量分布(MWD)は、Malvern Omnisec Resolve and Revealシステムを使用し、2本のPLgel5μm Mixed-Dカラム(Agilent)を直列に使用して測定した。カラムは、狭いポリスチレン標準を使用する従来の較正によって較正した。
【0188】
試料は、乾燥ポリマー25mgに相当する量のポリマー溶液を5mLのTHFに溶解することによって調製した。試料は、GPC測定のためのサンプリング前に室温で最低3時間保持した。分析前に、試料を0.45μmのナイロンフィルターを通してろ過した。重量平均分子量(Mw)およびMw/Mnとして示される多分散指数(PDI)が記録されている。
【0189】
分析条件を以下に示す。
【0190】
【0191】
ガラス転移温度の測定
ガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)測定によって得られる。DSC測定はTA Instruments DSC Q200で行った。100μmのギャップサイズを有するアプリケータを使用して、ガラスパネル上にドローダウンすることによって試料を調製した。ガラスパネルを23℃で24時間、50℃で24時間、換気加熱キャビネットで乾燥させた。約10mgの乾燥ポリマー材料をガラスパネルから収集し、蓋付きアルミニウムパンに移した。測定は、加熱速度10℃/分、冷却速度10℃/分の加熱-冷却-加熱手順(-80℃~120℃)により行った。空のパンを基準として使用する。データは、Universal Analysisソフトウェア(TA Instruments)を使用して処理した。2回目の加熱のASTM E1356-08で定義されたガラス転移範囲の変曲点は、ポリマーのTgとして記録されている。
【0192】
円錐平板粘度計を用いた塗料粘度の測定
防汚塗料組成物の粘度は、ISO 2884-1:1999に準拠し、温度23℃のデジタル円錐平板粘度計を用いて、10000s-1のせん断速度で作動させ、粘度測定範囲0~10Pを得た。結果は3回の測定の平均として示す。
その結果を表8~13に示す。
【0193】
淡水/脱イオン水中の重量法による水吸収
コーティング膜中の水の吸収は、重量法によって測定した。塗料は、300μmのギャップサイズを有するフィルムアプリケータを使用して、事前に秤量し番号を付けたサンドブラスト処理済みガラスパネル(5.0×7.5cm)に塗布した。膜を周囲条件下で少なくとも1日間、50℃で一晩乾燥させ、次いでデシケーター中で24時間真空乾燥させた。乾燥後、コーティングしたガラスパネルを秤量し、蒸留水が満たされている容器に入れた。読み取り時に、パネルおよび塗料表面は圧縮空気を用いて迅速に乾燥させた。パネルを秤量(mdirectly)し、その後、周囲条件下で2日間乾燥させ、次にデシケーター中に真空下で24時間置いた後、再び秤量した(mdry)。暴露後の塗料の膜の乾燥重量に対する乾燥前後での重量差は、吸水率(パーセンテージ)として表される。
吸水量=(mdirectly-mdry)/(mdry-mempty panel
読み取りは34日後に行った。その結果を表8~13に示す。
【0194】
防汚コーティング組成物の揮発性有機化合物(VOC)含有量の計算
防汚コーティング組成物の揮発性有機化合物(VOC)含有量は、ASTM D5201に従って計算される。
成分(i)、(ii)および(iii)のバインダー混合物中の親水性コポリマー(i)の
非相溶性の決定
バインダー成分(i)、(ii)、(iii)およびIrgazin Red L 3670 HDの混合物を10mlガラスバイアル中で混合した。比率は、表3~7に示されている。バイアルは、Collomix Viba振動シェーカーを用いて3分間混合した。試料を室温で少なくとも24時間放置した後、非相溶性を目視で評価した。コポリマー(i)は、少なくとも2つの異なる相が見られる場合には、非相溶性であるとみなされる。Irgazin Red L 3670 HDを添加して、相分離をより視覚的に明確にした。結果は、表3~7において非相溶(I)または相溶(C)として示す。バインダー混合物は、52~57重量%の固形分を有するものとする。キシレン:PMは、85:15~95:5の重量比で使用するものとする。
【0195】
海水中における回転円板上での防汚コーティング膜の研磨の測定
研磨は、コーティング膜の膜厚の減少を測定することにより行った。この試験では、PVCディスクを使用した。コーティング組成物は、フィルムアプリケータを使用してディスク上に放射状ストライプとして塗布した。乾燥コーティング膜の厚さは、表面プロファイラによって測定した。PVCディスクをシャフトに取り付け、海水が流れている容器内で回転させた。天然海水は、ろ過され、温度を25℃±2℃に調整したものを使用した。回転シャフトの速度により、ディスク上では平均16ノットのシミュレーション速度となった。PVCディスクは、膜厚を測定するために取り出した。ディスクをすすぎ、室温で一晩乾燥させた後、膜厚を測定した。結果は、膜の減少量、すなわち、初期の膜厚と所定の時間において測定された厚さとの間の差として得られた。
【0196】
コポリマー溶液P1~P12およびC1~C8(コポリマー成分(i))の一般的な調製手順
試験したポリマーはすべて、スターラ、還流冷却器、窒素導入口および供給口を備えた温度制御反応容器に、キシレン28.84部およびPM6.75部を充填することによって同じ様式で製造した。反応容器を加熱し、95℃に維持した。モノマーのプレミックス、キシレン6.57部、PM3.25部および開始剤を調製し、窒素雰囲気下で2時間30分かけて一定速度で反応容器に入れた。さらに1時間反応させた後、開始剤のブースト開始剤溶液およびキシレン4.6部の後添加分を、15分間にわたって一定速度で反応容器に入れた。反応容器を反応温度でさらに1時間維持し、次いで室温まで冷却した。この例外として、ポリマーP4およびP6がそれぞれ105℃および85℃の反応温度を有した。
合成された異なるポリマーの概要は、表1および2に示す。構成成分の量は、重量部で示されている。
【0197】
アクリルコポリマー溶液A-1(ポリマー成分(iii-2))の調製
スターラ、還流冷却器、窒素導入口および供給口を備えた温度制御反応容器に、キシレン19.20部および1-メトキシ-2-プロパノール7.70部を入れた。反応容器を加熱し、85℃に維持した。n-ブチルアクリレート53.80部、n-ブチルメタクリレート3.40部、メチルメタクリレート2.40部、メタクリル酸0.40部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.93部およびキシレン8.00部のプレミックスを調製し、窒素雰囲気下で、2時間30分かけて一定速度で反応容器に入れた。さらに1時間反応させた後、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.20部およびキシレン4.00部のブースト開始剤溶液の後添加を、15分間かけて一定速度で反応容器に入れた。反応容器を反応温度でさらに1時間維持し、次いで室温まで冷却した。構成成分の量は、重量部で示されている。
【0198】
コモノマー溶液A-1は、327cPの粘度、61.7重量%の不揮発含有量、Mw36200、PDI3.23およびTg-39℃を有していた。
【0199】
シリルエステルアクリルコポリマー溶液A-2(ポリマー成分(iii-1))の調製
スターラ、還流冷却器、窒素入口および供給口を備えた温度制御反応容器にキシレン35.00部を入れた。反応容器を加熱し、85℃に維持した。メチルメタクリレート16.50部、2-メトキシエチルアクリレート3.50部、トリイソプロピルシリルアクリレート30.00部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.50部およびキシレン5.00部のプレミックスを調製し、窒素雰囲気下で2時間かけて一定速度で反応容器に入れた。さらに1時間反応させた後、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.10部およびキシレン5.00部のブースト開始剤溶液の後添加を、15分間かけて一定速度で反応容器に入れた。反応容器を反応温度でさらに2時間維持した。反応容器の温度を120℃まで上昇させ、30分間維持し、次いで室温まで冷却した。構成成分の量は、重量部で示されている。
【0200】
コポリマー溶液A-2は、粘度152cP、不揮発含有量50.5重量%、Mw28000、PDI3.61およびTg35℃を有していた。
【0201】
シリルエステルアクリルコポリマー溶液A-3(ポリマー成分(iii-1))の調製
スターラ、還流冷却器、窒素入口および供給口を備えた温度制御反応容器に、キシレン35.50部を入れた。反応容器を加熱し、85℃に維持した。メチルメタクリレート11.83部、n-ブチルアクリレート2.96部、テトラヒドロフルフリルアクリレート11.83部、トリイソプロピルシリルメタクリレート32.54部および2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.71部のプレミックスを調製し、窒素雰囲気下で2時間かけて一定速度で反応容器に入れた。さらに0,5時間反応させた後、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)0.12部およびキシレン4.50部のブースト開始剤溶液の後添加を、20分間かけて一定速度で反応容器に入れた。反応容器を反応温度でさらに2時間維持した。反応容器の温度を110℃まで上昇させ、30分間維持し、次いで室温まで冷却した。構成成分の量は、重量部で示されている。
【0202】
コポリマー溶液A-3は、粘度1275cP、不揮発含有量60.2重量%、Mw31000、PDI3.10およびTg46℃を有していた。
【0203】
防汚コーティング組成物の調製のための一般的手順
これらの成分を表8~13に示す割合で混合した。この混合物は、振動シェーカーを使用して、250ml塗料缶中においてガラスビーズ(直径約2mm)の存在下で、15分間分散させた。ガラスビーズは、試験前にろ過した。
【0204】
【表1】
【0205】
【表2】
【0206】
【表3】
【0207】
【表4】
【0208】
【表5】
【0209】
【表6】
【0210】
【表7】
【0211】
【表8】
【0212】
【0213】
【表9】
【0214】
【0215】
【表10】
【0216】
【0217】
【表11】
【0218】
【0219】
【表12】
【0220】
【0221】
バインダー成分(i)、成分(ii)および成分(iii)の組み合わせは、コーティングの親水性/疎水性バランスを微調整するために必要である。このバランスは、水の吸収、研磨速度、耐クラック性および塗料粘度などのコーティング特性に影響を与える。親水性モノマーが非常に少ない場合(比較例C8参照)、研磨は遅い。バインダー中に成分(i)+(ii)のみが使用される場合(比較例CP19参照)、水の吸収が高い。