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特許7386606付加製造材料の微細構造を機械加工により改良する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】付加製造材料の微細構造を機械加工により改良する方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/30 20210101AFI20231117BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20231117BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20231117BHJP
   B23K 31/00 20060101ALI20231117BHJP
   B24C 1/10 20060101ALI20231117BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231117BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20231117BHJP
   C21D 7/04 20060101ALI20231117BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
B22F10/30
B22F3/105
B22F3/16
B23K31/00 F
B24C1/10 A
B33Y10/00
B33Y30/00
C21D7/04 Z
C21D7/06 Z
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018221186
(22)【出願日】2018-11-27
(65)【公開番号】P2019189938
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】15/827,024
(32)【優先日】2017-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500520743
【氏名又は名称】ザ・ボーイング・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】The Boeing Company
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ガブチ, アラシュ
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー, クリストファー エー.
(72)【発明者】
【氏名】コットン, ジェームズ ディー.
(72)【発明者】
【氏名】クリル, マシュー ジェー.
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/152259(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/092253(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/140994(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0122560(US,A1)
【文献】英国特許出願公開第02491472(GB,A)
【文献】中国特許出願公開第107225244(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 3/105,3/16,10/00
B23K 26/34,31/00
B24C 1/10
B33Y 10/00,30/00
C21D 7/04,7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上の相互接続された構成要素を有する一体物(114)の第1の層(116)を生成すること(102)であって、前記第1の層(116)は、第1の配列の構造を有する第1の複数の粒子を含む材料を用いて生成され、前記材料は、前記第1の層(116)上に生成される後続の層に連結されて前記一体物(114)の一部を形成するように構成可能である、第1の層(116)を生成すること(102)と、
前記一体物(114)の前記第1の層(116)を生成してから閾値期間が経過した後、前記第1の層(116)の少なくとも一部に外力を印加すること(104)であって、前記外力の印加によって、前記材料の前記第1の複数の粒子の前記第1の配列に一以上の変形を生じさせる、外力を印加すること(104)と、
前記一体物(114)の前記第1の層(116)に連結された第2の層(118)を生成すること(106)であって、前記第2の層(118)を生成することによって、前記第1の層(116)の前記材料に、第2の複数の粒子(136、138)を再結晶化させて、前記第1の複数の粒子のうち前記一以上の変形の近傍にある一以上の粒子の組を置き換え、前記第2の複数の粒子(136、138)が、前記第1の配列とは異なる第2の配列の構造を有する、第2の層(118)を生成すること(106)と
を含み、
前記材料が金属および/または合金であり、
前記外力を印加すること(104)において、付加製造中の前記第1の層の塑性変形に用いる冷間加工技術のタイプ、持続時間、および量は前記第1の層のサイズおよび形状、ならびに用いる材料のタイプに依存し、
複数の冷間加工技術が前記第1の層の異なる部分に使用される、方法(100)。
【請求項2】
前記第1の配列の構造を有した前記第1の複数の粒子を含む前記一体物(114)の前記第1の層(116)を生成することが、エピタキシャル成長から複数の伸長粒(128-132)が生じるように、前記第1の層(116)を堆積することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の配列の構造を有した前記第1の複数の粒子を含む前記一体物(114)の前記第1の層(116)を生成することが、前記第1の複数の粒子の前記伸長粒(128-132)が、前記材料の前記第1の層(116)に異方性を付与する柱状配向を有するように、前記第1の層(116)を堆積することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記一体物(114)の前記第1の層(116)に連結された前記第2の層(118)を生成することが、前記第2の配列の構造を有する前記第2の複数の粒子(136、138)が、前記第1の複数の粒子の前記複数の伸長粒(128-132)の粒子サイズよりも小さい粒子サイズをそれぞれ有するように、前記第2の層(118)を堆積することを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記一体物(114)の前記第1の層(116)を生成してから閾値期間が経過した後、前記第1の層(116)の少なくとも一部に外力を印加することが、前記第1の層(116)の前記材料が前記第1の層(116)の前記材料の再結晶温度未満に降温するのに必要な時間量に依存する所与の閾値期間の後、前記第1の層(116)の少なくとも一部に外力を印加することを含む、
請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記一体物(114)の前記第1の層(116)に連結された前記第2の層(118)を生成することは、
前記第2の配列の構造を有する前記第2の複数の粒子(136,138)が、前記材料の前記第1の層(116)に等方性を付与するランダムな結晶方位と等軸粒子構造とを有するように、前記第2の層(118)を堆積することを含む、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の層(116)の少なくとも一部に外力を印加することが、
ショットピーニング処理を用いて外力を印加することを含み、前記ショットピーニング処理は、前記材料の前記第1の層(116)に1組の物体を投射して、前記材料の前記第1の複数の粒子の前記第1の配列に前記一以上の変形を生じさせることを含む、請求項1から6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の層(116)の少なくとも一部に外力を印加することが、
回転フラッパを用いて外力を印加することを含み、前記回転フラッパは、前記回転フラッパを前記第1の層(116)から閾値の距離内に配置し動かすと前記材料の前記第1の複数の粒子の前記第1の配列に前記一以上の変形を生じさせるように構成された、一以上のフラップを含む、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の層(116)の少なくとも一部に外力を印加することが、
超音波ピーニングを用いて外力を印加することを含み、前記超音波ピーニングは、前記材料の前記第1の層(116)の一以上の部分に音波衝撃を投射して、前記材料の前記第1の複数の粒子の前記第1の配列に前記一以上の変形を生じさせることを含む、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記一体物(114)の前記第1の層(116)に連結された前記第2の層(118)を生成することが、前記一体物(114)の前記第1の層(116)の前記材料に対応する材料を用いて前記第2の層(118)を生成することを含む、請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記一体物(114)の前記第1の層(116)に連結された前記第2の層(118)を生成することが、前記一体物(114)の前記第1の層(116)の前記材料とは異なる第2の材料を用いて前記第2の層(118)を生成することを含む、請求項1から10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記一体物(114)の前記第1の層(116)に連結された前記第2の層(118)を生成してから第2の閾値期間が経過した後、前記第2の層(118)の少なくとも一部に外力を印加することと、
前記第2の層(118)に連結された第3の層(120)を生成することと
を更に含み、
前記第3の層(120)を生成することによって、前記第2の層(118)の材料に第3の複数の粒子を再結晶化させて、所与の複数の粒子のうち、前記第2の層(118)の前記材料の前記所与の複数の粒子の配列において前記外力の印加によって生じた一以上の変形の近傍にある一以上の粒子の組を置き換え、
前記第3の複数の粒子が、前記第2の複数の粒子(136,138)の前記第2の配列と同様の第3の配列の構造を有する、請求項1から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
付加製造は、1つまたは複数の金属材料の前記第1の層、前記第2の層および前記第3の層を共に堆積させ、3Dデータのモデルに従って所望の一体物を形成することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記金属材料は、鉄、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スカンジウム、亜鉛、マグネシウム、金、及び銀の卑金属の純なものか合金を含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、広くは付加製造プロセスに関し、具体的には、付加製造に用いられる金属材料の微細構造の改良技術に関する。
【背景技術】
【0002】
バルク形状から材料を取り除いて最終形状に至る除去加工(例えば切削や削孔)に依存する従来型の製造とは異なり、付加製造は、3次元(3D)のデジタルモデルに従って材料の層を精密に付加して固結することにより形状を構築する。下層として用いられる材料に応じ、粉末床溶融、直接エネルギー堆積(溶接、電子ビーム及びレーザー処理)、光重合、材料噴射、結合剤噴射、及び押出といった、所望の構造を付加的に作製するための様々な固結技術が用いられ得る。
【0003】
付加製造は、しばしば、ポリマー材料から機能プロトタイプまたは部品を作り出すのに用いられる。通常は、プラスチック、ゴム、及び他のポリマー材料が使用される。これらの材料の混合層を固結する技術は、経済的であり、容易に利用可能だからである。一方、金属材料(例えば金属、合金、化合物)の層を固結することに関する冶金の課題や性能低下によって、金属材料の付加製造への利用は、抑制され避けられることさえある。結果として、付加製造の金属材料での実用性は、医療、航空その他の特殊な用途などの高度かつ特殊な部品に限られている。
【0004】
金属材料が固結技術に向かない主な理由の1つは、材料に内在する微細構造である。具体的には、金属及び合金は不規則な形状を持つ多数の結晶(本明細書では粒子ともいう)からなる。肉眼では視認できないものの、これら粒子のサイズや配列が、材料の強度、延性、疲労耐久性、ひずみ速度、耐クリープ変形、その他の特性を支配している。したがって、粒子サイズや粒子配列は典型的に金属材料の熱的及び変形履歴に依存している。
【0005】
付加製造によって金属の物体を製造する際は通常、材料を加熱して層状に堆積させて所望の構造を形成する。例えば、基材や先行する層の上に加熱した金属材料の新しい層を堆積することにより、材料の粒子の一部がエピタキシャル成長によって伸長して成長することが可能となる。伸長粒は典型的に、基材や先行する層の上に対して明確に規定された一配向(例えば、柱状配向)に成長し、交差する方向に配列している他の粒子の成長速度を低減することがある。結果として、堆積層の微細構造が同様の結晶方位を有した幾つかの伸長粒によって支配されてしまい、層が異方性を有する(すなわち、物理的および機械的特性が測定方向に依存して変化する)こととなる。同様に成長する層を追加すればするほど異方性の度合いが増すので、付加製造された構造では、従来型の鍛造や鋳造といった選択肢と比較して引張強度、延性その他の特性が変化することがあり、実用性に望ましくない影響が及び得る。そのような不備によって、多くのタイプの構造物、例えば設計上のマージンがごく小さい構造物などの付加製造において金属材料の使用が避けられることがある。
【0006】
現在、堆積層の異方性の低減に用いられている技術のひとつに、次の層を付加する前に各層に回転ホイールをかけて表面に変形を付与するものがある。この回転ホイール技術によって堆積層内の粒子の再結晶化を促進することができるが、回転ホイールの使用は、必要な大きさや空間によって総合的に、厚みのある特徴部や単純な形状で材料を堆積する付加製造プロセスへの利用に限定されている。したがって、付加製造において、金属材料の堆積層の微細構造を改良できる、汎用的な規模および設計タイプの構造物に対処可能な技術が求められている。
【発明の概要】
【0007】
一実施例では、方法が記載される。本方法は、一以上の相互接続された構成要素を有した一体物の第1の層を生成することを含む。第1の層は、第1の配列の構造を有した第1の複数の粒子を含む材料であって、第1の層上に生成される後続の層に連結して一体物の一部を形成するように構成可能な材料を用いて、生成される。方法は、一体物の第1の層を生成してから閾値期間が経過した後、第1の層の少なくとも一部に外力を印加することを更に含む。外力を印加することにより、材料の第1の複数の粒子の第1の配列に、一以上の変形が生じる。方法は、一体物の第1の層に連結された第2の層を生成することも含む。具体的には、第2の層を生成することにより、第1の層の材料に第2の複数の粒子を再結晶化させて、第1の複数の粒子のうち一以上の変形の近傍にある一以上の粒子の組を置き換える。第2の複数の粒子は、第1の配列とは異なる第2の配列の構造を有する。
【0008】
別の実施例では、器具が記載される。器具は、相互接続された1つ以上の構成要素を有する一体物を含む。一体物は、第1の配列構造の第1の複数の粒子を含む材料を用いて生成された、第1の層を含む。材料は、第1の層上に生成される後続の層に連結して、一体物の一部を形成するように構成可能である。第1の層の生成から閾値時間が経った後、第1の層の少なくとも一部に外力が印加されて、材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせる。一体物は、一体物の第1の層に連結された第2の層を更に含む。第2の層の生成により、第1の層の材料が第2の複数の粒子を再結晶化して、第1の複数の粒子のうち一以上の変形の近傍にある一以上の粒子の組を置き換える。第2の複数の粒子は、第1の配列とは異なる第2の配列構造を有する。
【0009】
別の実施例では、方法が記載される。本方法は、一以上の相互接続された構成要素を有した一体物の第1の層を生成することを含む。第1の層は、金属の第1の層に異方性を生じさせる柱状の配向を有した伸長粒を含む金属を用いて、生成される。金属は、第1の層上に生成される後続の層に連結して、一体物の一部を形成するように構成可能である。一体物の第1の層を生成してから閾値期間が経つと、第1の層の少なくとも一部に外力を印加する。外力の印加により、金属の伸長粒の柱状配向に一以上の変形が生じる。方法は、一体物の第1の層に連結された、第2の層を生成することを更に含む。第2の層の生成により、第1の層の金属に等軸粒子を再結晶化させて、第1の層の金属の、一以上の変形の近傍にある一以上の伸長粒を置き換える。等軸粒子により、第1の金属の層が等方性を有する。
【0010】
上記で検討されてきた特徴、機能、及び利点は、様々な実施例において個別に実現可能であるか、または、さらに別の実施例において組み合わせることが可能である。これらの実施例のさらなる詳細は、下記の説明及び図面を参照することによって理解することが可能である。
【0011】
例示的な実施例の特性と考えられる新規の特徴は、添付の特許請求の範囲に明記されている。しかし、例示的な実施例、並びに好適な使用態様、それらのさらなる目的及び説明は、添付の図面と併せて本開示の例示的な実施例についての以下の詳細な説明を読むことによって最もよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】例示的な一実施形態による、付加製造に用いられる金属の微細構造を改良する、例示的な方法のフロー図を示す。
図2】例示の一実行形態による、図1に示す方法とともに使用される例示の方法を示すフロー図である。
図3】例示的な一実施形態による、付加製造中に微細構造を改良する技術を用いて生成された器具の図である。
図4】例示的な一実施形態による、堆積層の微細構造の一部を構成する結晶方位が整列した伸長粒の図である。
図5】例示的な一実施形態による、図4に示す堆積層の微細構造内の一部分を構成する、ランダムな結晶方位を有する改良された粒子の図である。
図6】例示的な一実施形態による、付加製造に用いられる金属材料の微細構造を改良する例示的な方法のフロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
これより添付図面を参照しつつ開示されている実施例についてより網羅的に説明するが、添付図面に示すのは開示されている実施例の一部であって全てではない。実際には幾つかの異なる実施例を説明することがあるが、これらの実施例が本明細書に明記されている実施例に限定されると解釈すべきではない。むしろ、これらの実施例が記載されているのは、本開示が包括的且つ完全となり本開示の範囲を当業者に十分に示すためである。
【0014】
実施例は、付加製造に用いる金属材料の微細構造を改良するための技術に関する。特に、幾つかの実施例では、付加製造プロセス中に冷間加工を施して金属材料の堆積層の微細構造を再構成することを含む。冷間加工では外力を印加して堆積層に変形を生じさせ得る。後続の再結晶化により、冷間加工した層の微細構造を再構成し得る。したがって、各堆積層(または層のサブセット)の微細構造を再構成することで、付加製造された構造物の強度その他の特性を向上させることができる。
【0015】
上記のように、付加製造は、3D設計モデルにしたがい材料を堆積し固結して所望の構造物を作製することを含む。所望の構造物を生成する技術には例えば、ワイヤ供給又は粉末供給による付加製造プロセスが含まれ得る。金属材料層の堆積後、材料に内在する粒子は不均一に成長するのが典型的である。具体的には、基材又は先行する層上で材料がエピタキシャル且つ優先成長することにより、粒子の一部が伸長した形となることがある。これらの伸長粒は特定の配向(例えば、柱状)に共に成長することが多く、他の配向の粒子が大きく成長することを防げる。材料の微細構造における粒子のこのような不均一な成長によって、層の強度及び有効性に望ましくない影響を及ぼし得る異方性を、層が有することとなる。変態させずにおくと、異方性層からなる付加製造構造物は、所望の用途について特性が低下しやすくなる。
【0016】
層、及び付加製造構造物の特性を全体として向上させるために、各層をなしている材料の微細構造を変態させる冷間加工が用いられる。冷間加工は、金属材料の再結晶温度未満での塑性変形である。具体的には、冷間加工により外的な力を印加して、金属材料の堆積層の微細構造を変化させる。外力は塑性変形を引き起こし(冷間加工ともいう)、堆積層の粒子配列において、「転位」と称されるナノメートル規模のリニアな不良の形態として現れ、これが材料の特性に影響を及ぼす。したがって、冷間加工により転位密度を増大させ粒子サイズ分布を変化させて、次に堆積する層による再結晶化を可能にする。冷間加工を施す技術は、表1に例示するように幾つか存在する。
【0017】
上記のように、冷間加工の積み重ねにおいては、金属材料が静的再結晶温度より低温である必要がある。したがって、付加製造プロセス中に冷間加工を施す際には、新たに堆積した金属材料層の温度が冷間加工の前に十分下がるよう、冷却が必要となり得る。堆積層に外力を印加する前に層の温度を下げることにより、層に対する潜在的な外乱や望ましくない変形を回避することができる。
【0018】
堆積層の温度を下げるには、時間がかかるか或いは所定の冷却技術が求められるが、冷間加工には熱間加工に比べ多くの利点がある。具体的には、熱間加工が後続の再結晶に対して十分な変形を付与しないことがある。冷間加工は更に、粒子成長を生じさせる可能性がなく、熱源を必要としないうえ、熱間加工と比較して精密な寸法制御が可能であり、より良好な表面仕上げを生み出すことができる。最終形態の製品の強度特性が向上する一方で金属材料の配向特性が最小限に抑えられる。
【0019】
ある実施例で、材料が再結晶温度よりも低くなった後、堆積した金属材料層をピーニングすることで冷間加工が施される。ショットピーニングでは、1組の物体(例えば、金属球)を層に投射して金属材料を粒子レベルで変形させることを含む。ショットピーニングと同じく超音波ピーニングも、堆積層に外力を印加することのできる別のタイプのピーニングである。ショットピーニングとは異なり、超音波ピーニングは堆積層に変形を生じさせるために音波衝撃を投射することを含む。
【0020】
このような冷間加工技術やその他の技術により、局所的な熱応力勾配の再分布を堆積層において機械的に生じさせることで、付加製造中の他の応力緩和の必要を減じるか或いは実質上なくすことができる。そして処理手順を省くことで全体的なコストおよび作業時間が削減される。また、回転ホイール技術とは異なり、ピーニングや表1に示した他のタイプの冷間加工技術では、付加製造構造物の形状デザインにおいて形状やサイズに制限が設けられない。
【0021】
冷間加工した層に次の層を堆積する際に、新しい層からの熱が冷間加工層を再結晶化し得る。再結晶化は、新しい粒子の核生成であり成長である。再結晶化により、冷間加工した層が、歪んだ粒子を歪みのない粒子に置き換える。置き換えの対象である大型の伸長粒とは異なり、これらの新しい歪みのない粒子は、ナノメートル規模の寸法で核生成し、同様の大きさ(例えば、平均粒径)及び形態を維持するよう成長するのが典型的である。例えば、新しい粒子は、伸長粒に対してより小さく球形の粒子サイズを有し得る。また、再結晶化した粒子はよりランダムな方向に成長する傾向にあることで、層がより等方性を有し得る。等方性とは、層の特性が測定方向とは無関係に一定であることを示している。
【0022】
付加製造した構造物の特性を向上させるために、付加製造中、冷間加工と再結晶化を含む上記の技術がすべての層(又は層のサブセット)に施される。結果として、測定方法によらず強度、延性、耐久性が向上し均整のとれた機械的特性を有する改良された微細構造が生み出される。したがって、冷間加工と再結晶化によって、金属材料から作製した付加製造構造物に破損や不良を生じにくくなり、信頼性の高い軽量かつ費用効果の高い製品を提供することができる。
【0023】
ここで図面を参照すると、図1は、付加製造に用いられる金属の微細構造を改良する例示的な方法のフロー図を示す。図1に示す方法100は、付加製造中に用いられ得る1つ以上の材料の微細構造を改良するのに使用され得る、方法の一例を提示している。
【0024】
方法100は、ブロック102、104、及び106のうちの1つ以上に示された一以上の工程、機能、または動作を含み得る。ブロックは順番に示されているが、これらのブロックが並行して実施されてもよいか、且つ/或いは本明細書に記載の順序とは別順で実施されてもよい。また、所望の実施形態によっては、様々なブロックが組み合わされて数が減るか、分割されて数が増えるか、且つ/或いは除かれることがある。
【0025】
ブロック102で、方法100は、一以上の相互接続された構成要素を有する一体物の第1の層を生成することを含む。一体物は、一以上の構成要素が単一のピースとして一体形成された構造物である。一体物は例えば、構成要素、部品、物品、又はその他のタイプの物体であり得る。付加製造における層形成及び固結処理によって、様々な形状及びデザインの広範な一体物の生産が可能となる。従来型の製造とは異なり、付加製造された物体は、複数の要素を接続するのにファスナ(例えばネジ、釘)を必要としない。
【0026】
上記のように、付加製造は、1つまたは複数の金属材料の層を共に堆積させ、3Dデータのモデルに従って所望の一体物を形成することを含む。利用できる金属材料の例は、非限定的に、鉄、ニッケル、コバルト、銅、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スカンジウム、亜鉛、マグネシウム、金、及び銀などの主要成分金属の純なものか合金である。ある例では材料の化合物が使用されてもよい。例えば、化合物が、物理的或いは化学的に組み合わせた複数の金属を含んでいてもよい。付加製造される物体用に選択される材料は、通常、材料のコスト及び寸法、並びに物体の所望の利用法に依存する。
【0027】
層の堆積中、金属材料が加熱され成形される。例えばレーザーで金属材料を溶解し、構成要素の所望の形状を形成することができる。構造物の部分を形成するために、第1の層(及びさらなる層)用に選択された一又は複数の材料は、後続の層と連結される(すなわち、混合されて単一の部分を形成する)ように構成される。層は溶融/固結されて、要素間を接続するファスナを必要としないシームレスな最終構造が作製される。
【0028】
上述のように、金属材料の層を基材や先行層上に堆積する際、幾らかの粒子が成長を支配し伸長した形となることがある。このような伸長粒はエピタキシャル成長に起因し、他の配向の粒子の成長を制限する。伸長粒は特定の粒子方向(例えば、柱状配向)及び結晶方位に成長する傾向があるので、均整のとれていない粒子構造により層が異方性を有することになる。
【0029】
ブロック104で、方法100は、第1の層の少なくとも一部に外力を印加することを含む。金属材料の第1の層の堆積後、長形粒子のエピタキシャル成長の結果、層は異方性を有し得る。異方性を低減するために第1の層に冷間加工を施す。
【0030】
上述のように、冷間加工は、粒子の配列に一以上の変形を生じさせるべく堆積層の部分に外力を印加することを含む。ある実施例では、層のうちのある割合が変形を受けるようなレートと強度で、冷間加工が施される。例えば、堆積層の20パーセント(20%)が変形を受けるように冷間加工が施され得る。他の例では、その他の量の堆積層が変形に耐えるような別のレート又は強度で、冷間加工を施すことを含み得る(例えば、冷間加工の結果、層の50%が変形を受け得る)。
【0031】
その他の例では、層の変形割合が、層の材料のタイプや結晶構造に依存し得る。しかし、冷間加工の積み重ねにおいては、堆積層の温度が材料の再結晶温度未満である必要がある。そうでないと動的再結晶化が生じて微細構造の改良が一部失われてしまい制御困難となり得る。
【0032】
ある実施例で、堆積層の生成から閾値期間を経た後、層に冷間加工が施される。この閾値期間は、堆積層の材料が自身の再結晶温度よりも低温となるのに必要な時間に依存し得る。例えば、チタンが再結晶温度よりも低温となるのに必要な閾値期間は、アルミニウムが再結晶温度よりも低温となるのに必要な閾値期間とは、異なり得る。具体的には、例えばチタン合金が、チタンのα‐β温度範囲の上限まで加熱される。ある例では、再結晶温度が、用いられる合金又は金属のタイプや化学的性質、施される冷間加工の量(すなわち、冷間加工が多いほど必要な温度が下がる)、及び層が再結晶温度であることのできる時間、などの様々な要因に大きく依存する。
【0033】
更なる例では、材料の第1の層の上面に外力が印加されて、第1の層の粒子配列の複数の位置で変形を生じさせる。例えば、第1の層の材料が粒子の再結晶化に要する時間量に基づく閾値期間の後、外力が加えられることで、改良された粒子が、第1の層を構成していた粒子の少なくとも閾値部分を置き換える。
【0034】
このように、層が十分冷えた後に冷間加工が施される。層が十分に冷えたことを温度センサで示すことができる。その他の例では、プロセスが、材料のタイプに応じた閾値期間、層を冷却させることを含み得る。具体的には、閾値期間は、事前のテストや測定に基づいて層の温度が冷間加工を浮けるのに十分低下するのに必要な期間を決めたものであり得る。ある例では、冷却ガスその他の技術を用いて、堆積した材料を再結晶温度未満の温度とする。
【0035】
表1に示すように、様々な冷間加工技術で堆積層に外力を印加することができる。例えば、ショットピーニングは、1組の物体(例えば金属ビーズ)を堆積層に投射して変形を生じさせるプロセスである投射は堆積面の上面全体、複数の表面、又は層のうち選択した部分に向けられてよい。同様に、超音波ピーニングは、堆積層の部分に物体ではなく音波衝撃を当てて変形を生じさせることを含む別のタイプのピーニングである。
【0036】
別の冷間加工技術は、回転式のフラッパを用いて堆積層に外力を印加することを含む。回転フラッパは、回転フラッパが層に対してかつ層から閾値分の距離動くと、粒子構造に係合して変形を生じさせるのに充分硬い金属又は他の硬質の材料を含む複数のフラップを有して構成されている。フラッパは、損傷することなく堆積層に変形を生じさせるのに十分な強度を有する必要がある。閾値分の距離は、フラップのサイズ、所望の変形量、及びその他の潜在的要因に依存する。他の冷間加工技術が用いられてもよい。
【0037】
ブロック106で、方法100は、一体物の第1の層に連結された第2の層を生成することを含む。一体物は、一以上の相互接続された構成要素が単一のピースとして一体形成された構造物に相当し得る。一体物を生産するために、一体物の構造が完全に形成されるまで、さらなる層が堆積される。さらなる層は、先行の層と同じ材料から、または先行の層とは異なる一又は複数の材料から、形成され得る。
【0038】
第1の層上に第2の層を堆積するとき、第2の層からの熱によって第1の層が再結晶化し得る。第2の層が第1の層に供給する熱の量は、個々の例において異なり得る。例えば、充分な熱と時間によって第1の層の再結晶が可能となるように、供給される熱はエネルギーの供給レート及び第2の層の堆積速度に依存し得る。
【0039】
上述のように、再結晶によって、変形した粒子が新しい粒子の組に置き換えられる。新しい粒子はまず核生成し、変形した粒子が完全に消費されるまで成長する。再結晶化の結果、冷間加工した層の粒子構造が、冷間加工と再結晶化の前の層の初期配列とは異なるものとなる。具体的には、再結晶によって、伸長粒に置き換わるランダムな結晶方位に配向した(粒子構造がほぼ等しい寸法形状の等軸粒子構造を有した)、より小さく丸い粒子が作製され得る。このようなより小さくランダムな配向の粒子からなる粒子配列によって、層が等方性を有し、全体として一連の特性が向上する。ある例では、一体物の第1の層に連結された第2の層を生成することが、再結晶化の後第1の層の第2の配列の粒子が再結晶化前の第1の層の粒子の伸長粒サイズよりも小さい粒子サイズをそれぞれ有するように、第2の層を堆積することを含み得る。
【0040】
図2は、例示の実施形態による、方法100で用いる例示的な方法のフロー図である。ブロック108で、機能は、第2の層の少なくとも一部に外力を印加することを含む。印加する外力の量は、第1の層に印加する外力の量を反映したものであり得る。他の場合には、力の量が異なり得る。例えば、第2の層が、より大きな外力を要する別の材料で構成されていてもよい。
【0041】
上記のように、付加製造は材料の複数の層を固結することで一体物を生成する。したがって、一体物を形成して完成させるには、先行する層の上に追加の層を一体物が完成するまで堆積する。追加の層それぞれの量、サイズ、及び形状は、一体物の寸法やデザインに依存する。具体的には、一体物の設計に応じて、幾つかの層が、別々の形状のより多いか又はより少ない材料を有していてもよい。
【0042】
追加の層が確実に所望の特性(例えば、強度、延性)を維持しているようにするには、これらの層にも同様に冷間加工が施される。用いられる冷間加工技術が層によって同じであっても異なっていてもよい。表1に示すように、冷間加工には多数の選択肢が存在する。ある実施例では各層に同じ冷間加工技術(例えば、ピーニング)が施される。その他の例では、層の生成において別々の冷間加工技術が用いられる。例えば、第1の層の冷間加工にショットピーニングを用い、第2の層の冷間加工に回転フラッパが用いられてもよい。
【0043】
ある例では、各層への冷間加工に複数の冷間加工技術が用いられる。一例として、物体を付加製造する際に各堆積層に外力を印加するのに、ショットピーニングと超音波ピーニングの両方が用いられる。付加製造中の層の塑性変形に用いる冷間加工技術のタイプ、持続期間、及び量は、層のサイズや形状、用いる材料のタイプ、及びその他の潜在的要因に依存し得る。更なる例では、堆積層の種々の部分で複数の冷間加工技術が用いられる。
【0044】
上記のように、冷間加工では金属材料が自身の再結晶温度より低温である必要がある。したがって、第2の層の生成後、材料の再結晶温度よりも低温まで第2の層を十分冷却させるため、冷間加工は第2の閾値期間が経過するまで施されないことがある。ある例では、閾値期間が、後続の層の堆積に関連した熱インプット、第2の層の材料の熱伝導性、及び外的冷却の有無などの複数の要因に依存し得る。第2の閾値期間は、第2の層の材料、及び、第2の層を堆積した後の材料の初期温度に依存し得る。ある実施例で、新しく堆積させた第2の層の温度を下げるのに冷却スプレーその他の技術が用いられる。
【0045】
ブロック110で、機能は、一体物の第2の層に連結された一体物の第3の層を生成することを含む。第3の層は第1及び第2の層と固結されて一体物を更に形成する。第3の層を堆積することで、熱を供給する。熱は冷間加工した第2の層の材料を再結晶化するよう励起し、ひずんで変形した粒子を、ランダムな結晶方位に配向したより小さく丸い新しい粒子の組に置き換える。堆積した第3の層によって供給される熱の量により、冷間加工した層を再結晶化に適した温度へと昇温させる。したがって、第3の層によって供給される熱の量は第2の層を構成する材料に依存し得る。
【0046】
上述のように、再結晶化によって、冷間加工した層の粒子配列やサイズが再構成され、等方性が得られ強度が向上する。層の堆積を繰り返し、所望の最終構造物が作製される。したがって、各層の特性は、各層に施す冷間加工の量、各層の形状や厚さ、用いる材料のタイプ、堆積や再結晶化の期間などの様々な要因に依存し得る。
【0047】
図3は、付加製造中に微細構造を改良する技術を用いて生成された器具112の図である。器具112は、付加製造中に生成され混合された、相互接続された1つ以上の構成要素からなる一体物114を含む。図示のように、一体物114は第1の層116、第2の層118、第3の層120、第4の層122、及び第5の層124からなる。付加製造された他の一体物は、他の構成で成形されたより多いかまたはより少ない層を有することができる。
【0048】
器具112は付加製造された花瓶であり、花を保持して陳列するように構成されている。図1及び2に示す方法100、または他の付加製造技術が、器具112を作製することができる。各堆積層(即ち、層116-124)は、層116-124の配置を示す図解の目的で、識別可能な接続部分と共に示されている。層116-124は、アルミニウム、チタニウム、合金などといった様々な金属材料からなることができる。また、図解のために層116-124の高さや幅は図3では誇張されており実際にはより小さくてもよい。
【0049】
器具112を付加製造する際、一体物114の各層は、堆積、冷却、そして冷間加工され、その後次の層を堆積する。例えば、器具112の生成は、最初に、基板上に第1の層116を堆積して形成することを含む。基板に対するエピタキシャル成長は、第1の層116の特性に影響する不均衡な粒子成長を生じさせ得る。結果として、第1の層116の堆積後、冷間加工を施す前に第1の層116が冷却させられる。第1の層116は、材料の温度が再結晶温度未満まで下がるように、別の技術(例えばファン)を用いて経時的に冷却してもよい。冷却時、一以上の冷間加工技術が施されて第1の層116の粒子構造に変形を生じさせる。第1の層116の全体、あるいは特定の部分(例えば、上面)に冷間加工が施される。
【0050】
第1の層116を冷間加工した後、一体物114の一部を形成するために、第1の層116上に第2の層118を堆積する。ある例では、第1の層116が冷間加工を受けた直後に第2の層118を堆積する。他の場合では、第2の層118の堆積前に、第1の層116が冷却されて冷間加工で残ったエネルギーが幾らか放出される。したがって、第2の層118の堆積によって第1の層116の再結晶が促進されて、変形した粒子が新しい粒子の組で置き換えられる。新しい粒子の組は、ランダムな結晶方位に配向したより小さく丸い粒子を有し、第1の層116の強度やバランスを向上させる。
【0051】
上記のプロセスを繰り返し、追加の層(例えば、第3の層120、第4の層122、及び第5の層124)を堆積して層が強化される。複数の層にわたるこの繰り返しによって、器具112の全体の強度が向上し、層を追加しても一体物114が弱められないことが確保される。
【0052】
図4は例示的な一実施形態による、堆積層の微細構造の一部を構成する伸長粒の図であり、結晶方位が整列している。図4に示す堆積層の一部126は、柱状配向に配列された、伸長粒128、伸長粒130、及び伸長粒132を含む。付加製造中の層の堆積後、エピタキシャル成長によって一部の粒子が成長を支配し長形となる。図4に示すように、これらの伸長粒128-132は、しばしば特定の配向で共に成長し、堆積層の強度に負のインパクトを与え得る異方性を有せしめる。これらの伸長粒128-132の成長はまた、層内で別の配向の他の粒子が同様に成長するのを妨げる。このため、冷間加工を用いて粒子を変形及び再構成させて異方性を低減する。
【0053】
図5は、例示的な一実施形態による、図4に示す堆積層の微細構造内の一部分を構成する、さらにランダムな結晶方位を有する改良された粒子の図である。具体的には、部分134が、図4に示す堆積層が冷間加工及び再結晶を経た後のものを表す。
【0054】
上述のように、冷間加工が施されて堆積層の粒子構造に変形を生じさせてから、冷間加工した層に新しい層を堆積させる。新しい層からの熱が、冷間加工した層の材料を新しい粒子へと再結晶させ、変形した粒子を冷間加工によって置き換える。図5の部分134に示すように、再結晶によって、矢印が示すようなランダムな結晶方位を有したより小さい粒子(例えば、粒子136、粒子138)が作製される。これらの、丸くより小さい粒子が図4に示す伸長粒128-132に置き換わり、層の強度が増大する。結果として、層が強化してより強い付加製造構造物が実現する。
【0055】
図6は、付加製造に用いられる金属の微細構造を改良する例示的な方法のフロー図を示す。図6に示す方法140は、付加製造中に用いられ得る金属または別の材料の微細構造を改良するのに使用され得る、方法の別の例を提示している。
【0056】
方法140は、ブロック142、144、及び146のうちの1つ以上に示されている、1つ以上の工程、機能、または動作を含み得る。ブロックは順番に示されているが、これらのブロックは、並行して実施されてもよいか、及び/または、本明細書に記載の順序とは別順で実施されてもよい。また、所望の実施形態に基づいて、様々なブロックは組み合わされて数が減るか、分割されて数が増えるか、及び/または除外され得る。
【0057】
ブロック142で、方法140は、一以上の相互接続された構成要素を有する一体物の第1の層を生成することを含む。具体的には、第1の層は、ある1組の粒子が全体的な成長を支配するように成長する金属(例えばチタニウム、アルミニウム)を用いて堆積される。例えば、伸長粒は柱状配向に成長し得る。柱状配向は、反対の配向にある他の粒子が大きく成長することを妨げる。結果として、金属の堆積層は異方性を有し得る。
【0058】
ブロック144で、方法140は、第1の層の少なくとも一部に外力を印加することを含む。第1の層を冷却する閾値期間の待機後、一以上の冷間加工技術が施されて金属の伸長粒の柱状配向に変形を生じさせる。上述のように、閾値期間は短縮されるか、あるいは冷却スプレーやその他の技術によって代替されてもよい。
【0059】
方法140は、ブロック146において、一体物の第1の層に連結された、一体物の第2の層を生成することを含む。具体的には、第2の層の生成により、第1の層の金属を等軸粒子へと再結晶化して、第1の層の金属の、一以上の変形の近傍にある伸長粒のうち一以上を置き換える。これらの等軸粒子はより小さく丸い粒子サイズを有しランダムな結晶方位で配向する。新しい粒子構造によって金属の堆積層が等方性を有し、層の強度と耐久性が向上する。
【0060】
更に、本開示は以下の条項による例を含む。
【0061】
条項1
一以上の相互接続された構成要素を有する一体物の第1の層を生成することであって、第1の層は、第1の配列の構造を有した第1の複数の粒子を含む材料を用いて生成され、材料は、第1の層上に生成される後続の層に連結されて一体物の一部を形成するように構成可能である、第1の層を生成することと、一体物の第1の層を生成してから閾値期間が経過した後、第1の層の少なくとも一部に外力を印加することであって、外力の印加によって、材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせる、外力を印加することと、一体物の第1の層に連結された第2の層を生成することであって、第2の層を生成することによって、第1の層の材料に、第2の複数の粒子を再結晶化させて、第1の複数の粒子のうち該一以上の変形の近傍にある一以上の粒子の組を置き換え、第2の複数の粒子が、第1の配列とは異なる第2の配列の構造を有する、第2の層を生成することとを含む、方法。
【0062】
条項2
材料が金属であり、一体物の第1の層を生成することが、ワイヤ供給による付加製造を用いることを含む、条項1に記載の方法。
【0063】
条項3
材料が合金であり、一体物の第1の層を生成することが、粉末供給による付加製造を用いることを含む、条項1に記載の方法。
【0064】
条項4
第1の配列の構造を有した第1の複数の粒子を含む一体物の第1の層を生成することが、エピタキシャル成長から複数の伸長粒が生じるように、第1の層を堆積することを含む、条項1から3の何れか一項に記載の方法。
【0065】
条項5
第1の配列の構造を有した第1の複数の粒子を含む一体物の第1の層を生成することが、第1の複数の粒子の伸長粒が、材料の第1の層に異方性を付与する柱状配向を有するように、第1の層を堆積することを含む、条項4に記載の方法。
【0066】
条項6
一体物の第1の層に連結された第2の層を生成することが、第2の配列の構造を有する第2の複数の粒子が、第1の複数の粒子の複数の伸長粒の粒子製サイズよりも小さい粒子サイズをそれぞれ有するように、第2の層を堆積することを含む、条項4又は5に記載の方法。
【0067】
条項7
一体物の第1の層を生成してから閾値期間が経過した後、第1の層の少なくとも一部に外力を印加することが、第1の層の材料が第1の層の材料の再結晶温度未満に降温するのに要する時間量に依存する所与の閾値期間の後、第1の層の少なくとも一部に外力を印加することを含む、条項1から6の何れか一項に記載の方法。
【0068】
条項8
一体物の第1の層に連結された第2の層を生成することは、第2の配列の構造を有する第2の複数の粒子が、材料の第1の層に等方性を付与するランダムな結晶方向及び等軸粒子構造を有するように、第2の層を堆積することを含む、条項1から7の何れか一項に記載の方法。
【0069】
条項9
第1の層の少なくとも一部に外力を印加することが、ショットピーニング処理を用いて外力を印加することを含み、ショットピーニング処理は、材料の第1の層に1組の物体を投射して材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせることを含む、条項1から8の何れか一項に記載の方法。
【0070】
条項10
第1の層の少なくとも一部に外力を印加することが、回転フラッパを用いて外力を印加することを含み、回転フラッパは、回転フラッパを第1の層からの閾値距離内に配置し動かすと材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせるように構成された、一以上のフラップを含む、条項1から9の何れか一項に記載の方法。
【0071】
条項11
第1の層の少なくとも一部に外力を印加することが、超音波ピーニングを用いて外力を印加することを含み、超音波ピーニングは、材料の第1の層の一以上の部分に音波衝撃を投射して、材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせることを含む、条項1から10の何れか一項に記載の方法。
【0072】
条項12
外力を印加することが、材料の第1の層に、該一以上の変形において再結晶化を刺激する熱を供給することを含む、条項1から11の何れか一項に記載の方法。
【0073】
条項13
一体物の第1の層に連結された第2の層を生成することが、一体物の第1の層の材料に対応する材料を用いて第2の層を生成することを含む、条項1から12の何れか一項に記載の方法。
【0074】
条項14
一体物の第1の層に連結された第2の層を生成することが、一体物の第1の層の材料とは異なる材料を用いて第2の層を生成することを含む、条項1から13の何れか一項に記載の方法。
【0075】
条項15
第1の層の少なくとも一部に外力を印加することが、材料の第1の層の上面に外力を印加して、材料の第1の複数の粒子の第1の配列の複数の位置で複数の変形を生じさせることを含み、閾値期間は、第1の複数の粒子の少なくとも閾値部分が第2の複数の粒子によって置き換えられるように第1の層の材料が第2の複数の粒子を再結晶化するのに必要な時間に基づいている、条項1から14の何れか一項に記載の方法。
【0076】
条項16
一体物の第1の層に連結された第2の層を生成してから第2の閾値期間が経過した後、第2の層の少なくとも一部に外力を印加することと、第2の層に連結された第3の層を生成することとを更に含み、第3の層を生成することにより、第2の層の材料に、第3の複数の粒子を再結晶化させて、第2の層の材料の所与の複数の粒子の配列において外力の印加によって生じた一以上の変形の近傍にある所与の複数の粒子のうち一以上の粒子の組を置き換え、
第3の複数の粒子が、第2の複数の粒子の第2の配列と同様の第3の配列の構造を有する、条項1から15の何れか一項に記載の方法。
【0077】
条項17
一以上の相互接続された構成要素を有する一体物を含む器具であって、一体物は、第1の層及び第2の層を含み、第1の層は、第1の配列構造の第1の複数の粒子を含む材料を用いて生成され、材料は、第1の層上に生成される後続の層に連結されて一体物の一部を形成するように構成可能であり、一体物の第1の層を生成してから閾値期間が経過した後、第1の層の少なくとも一部に外力を印加して、材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせ、第2の層は、一体物の第1の層に連結され、第2の層を生成することによって、第1の層の材料に、第2の複数の粒子を再結晶化させて、第1の複数の粒子のうち該一以上の変形の近傍にある一以上の粒子の組を置き換え、第2の複数の粒子の配列の構造が第1の配列とは異なる第2の配列である、器具。
【0078】
条項18
第1の層の少なくとも一部に外力を印加して材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせることが、回転フラッパの使用を含み、回転フラッパは、回転フラッパを第1の層から閾値の距離内に配置し動かすと材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせる、一以上のフラップを含む、条項17に記載の器具。
【0079】
条項19
第1の層の少なくとも一部に外力を印加することにより、材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせることが、超音波ピーニングを用いることを含み、超音波ピーニングは、材料の第1の層の一以上の部分に音波衝撃を投射して、材料の第1の複数の粒子の第1の配列に一以上の変形を生じさせることを含む、条項17又は18に記載の器具。
【0080】
条項20
一以上の相互接続された構成要素を有する一体物の第1の層を生成することであって、第1の層は、金属の第1の層に異方性を付与する柱状配向を有した伸長粒を含む金属を用いて生成され、金属は、第1の層上に生成される後続の層に連結して一体物の一部を形成するように構成可能である、一体物の第1の層を生成することと、一体物の第1の層を生成してから閾値期間が経過した後、第1の層の少なくとも一部に外力を印加することであって、外力を印加することにより、金属の伸長粒の柱状配向に一以上の変形を生じさせる、外力を印加することと、一体物の第1の層に連結された第2の層を生成することであって、第2の層を生成することにより、第1の層の金属に等軸粒子を再結晶化させて、第1の層の金属の伸長粒のうち一以上の変形の近傍にある一以上を置き換え、等軸粒子が金属の第1の層に等方性を付与する、第2の層を生成することと含む、方法。
【0081】
本書で使用されている「ほぼ(substantially)」または「約(about)」という語は、記載されている特性、パラメータ、または値が、厳密に実現される必要はなく、特性によって得られることになっている効果を除外しない、及び/または排除しない量の、測定誤差、測定精度限界、及び、当業者には既知のその他の要因などを含む、逸脱または差異が発生してよいことを、意味している。
【0082】
種々の有利な構成の説明は、例示及び説明の目的で提示されており、網羅的であったり、開示された形態の実施例に限定したりする意図はない。当業者には、多くの修正形態及び変形形態が自明であろう。更に、種々の有利な実施例には、他の有利な実施例とは異なる利点が記載されていてよい。選択された単数または複数の実施例が選択され記載されているのは、実施例の原理と実際的な用途を最もよく説明するため、及び、様々な実施例の開示内容と、検討される特定の用途に適した様々な修正例とが当業者に理解され得るようにするためである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6