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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】L体環状アミノ酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20231117BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 9/06 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20231117BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231117BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20231117BHJP
   C12P 13/04 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
C12N15/53 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N9/06 Z
C12N15/29
C12N15/63 Z
C12P1/00 Z
C12P13/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019084234
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020178627
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】396020464
【氏名又は名称】株式会社エーピーアイ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水谷 正治
(72)【発明者】
【氏名】三宅 良磨
(72)【発明者】
【氏名】川端 潤
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】The Plant Journal,2018年,Vol. 96,p.5-21,DOI: 10.1111/tpj.14037
【文献】Plant Physiology,2017年,Vol. 174,p.124-153,DOI: 10.1104/pp.17.00222
【文献】The Plant Cell,2016年,Vol. 28,p.2603-2615,DOI: 10.1105/tpc.16.00486
【文献】DEFINITION PREDICTED: Morus notabilis protein SAR DEFICIENT 4 (LOC21397372), mRNA,Database GenBank [online],ACCESSION XM_010107433,2018年,[retrieved on 2023-04-28],URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/1350290039?sat=4&satkey=214434102
【文献】Organic Letters,2018年,Vol. 20,p.2195-2198,DOI: 10.1021/acs.orglett.8b00523
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/53
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 9/06
C12N 15/29
C12N 15/63
C12P 1/00
C12P 13/04
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記
【化1】
で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸に、以下の(A)、(B)又は(C)に示すポリペプチド、前記ポリペプチドを生産する能力を有する若しくは前記ポリペプチドを含む微生物若しくは細胞、前記微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は前記微生物若しくは細胞を培養して得られた前記ポリペプチドを含む培養液を接触させて、下記
【化2】
で表されるL体環状アミノ酸を生成させることを特徴とする、L体環状アミノ酸の製造方法:
(A)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列において1~個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ下記式()に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド:
【化3】
;又は
(C)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ前記式()に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドは、以下の(D)又は(E)示す核酸にコードされるものである、請求項1に記載の製造方法:
(D)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列を含む核酸;又は
(E)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列において、1~15個の塩基が置換、欠失及び/又は付加された塩基配列であって、かつ上記式()に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドをコードする核酸
【請求項3】
下記
【化4】
で表される鎖状のα,ω-ジアミノ酸に、ジアミノ酸のα位のアミノ基をケト基に変換しαケト酸を生成することのできる酵素を反応させ、下記
【化5】
で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸を生成させた後、
得られた1位に二重結合を有する環状アミノ酸を、請求項1又は2に記載の方法により、下記
【化6】
で表されるL体環状アミノ酸を生成させることを特徴とする、L体環状アミノ酸の製造方法。
【請求項4】
ジアミノ酸のα位のアミノ基をケト基に変換しαケト酸を生成することのできる酵素が、D-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、D-アミノ酸トランスフェラーゼ及びL-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる一種以上の酵素である、請求項3に記載のL体環状アミノ酸の製造方法。
【請求項5】
(a)配列番号4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列において1~個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ下記式()に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド:
【化7】
;又は
(c)配列番号26、8、もしくは12に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列又は配列番号4、もしくは10に示すアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ前記式()に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド。
【請求項6】
請求項に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項7】
前記核酸が、以下の(d)又は(e)示すものである、請求項に記載の核酸:
(d)配列番号3、5、7、9又は11で表される塩基配列を含む核酸;又は
(e)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列において、1~15個の塩基が置換、欠失及び/又は付加された塩基配列であって、かつ上記式()に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドをコードする核酸
【請求項8】
請求項6又は記載の核酸を含む組換えベクター。
【請求項9】
請求項に記載の組換えベクターを含む形質変換体。
【請求項10】
以下の(A)、(B)又は(C)に示すポリペプチド、前記ポリペプチドを生産する能力を有する若しくは前記ポリペプチドを含む微生物若しくは細胞、前記微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は前記微生物若しくは細胞を培養して得られた前記ポリペプチドを含む培養液を含み、下記
【化8】
で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸から、下記
【化9】
で表されるL体環状アミノ酸を生成させる能力を有する酵素剤組成物:
(A)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列において1~個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ下記式()に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド:
【化10】
;又は
(C)配列番号26、8、もしくは12に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列又は配列番号4、もしくは10に示すアミノ酸配列と98%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ前記式()に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業的に有用であるL体環状アミノ酸の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
L体環状アミノ酸は、トロンビン阻害剤、HIVプロテアーゼ阻害剤、NMDA受容体拮抗剤、TNF-α変換酵素阻害剤、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、抗炎症剤などの医薬中間原料として有用な物質である。
【0003】
L体環状アミノ酸としては、下記の化学式に示すようなL-プロリン(L-Proline)、L
-ヒドロキシプロリン(L-hydroxyproline)などの5員環アミノ酸、L-ピペコリン酸(L-Pipecolic acid)などの6員環アミノ酸、アゼチジン-2-カルボン酸(Azetidine-2-carboxylic acid)などの4員環アミノ酸などのアミノ酸が知られている。
【0004】
【化1】
【0005】
また、複素環であるL-チオプロリン(L-Thioproline)、L-モルフォリンカルボン酸(L-3-Morpholine carboxylic acid)、L-チオモルフォリンカルボン酸(L-3-Thiomor pholine carboxylic acid)なども医薬中間原料として有用な物質として知られている。
【0006】
【化2】
【0007】
L体環状アミノ酸の製造方法としては、有機合成的な方法や生物化学的な方法が知られている。
【0008】
有機合成的にL体環状アミノ酸を製造する方法としては、Garciaらによるピペコリン酸(pipecolic acid)の製法(非特許文献1)などが知られている。しかしながら、これらの方法は、光学純度や収率が共に工業的に実用化可能な方法とは言い難い。
【0009】
生物化学的にL体環状アミノ酸を製造する方法としては、ピロリン-5-カルボン酸レダクターゼ(EC 1.5.1.2)を利用したL-リジン(L-lysine)からのL-ピペコリン酸(L-pipecolic acid)の製造方法(非特許文献2)、オルニチンシクロデアミナーゼによるL-オルニチンからのL-プロリンの製法(非特許文献3)、オルニチンシクロデアミナ
ーゼによる各種ジアミノ酸(diamino acid)からの各種環状アミノ酸の製法(特許文献1)などが知られている。
【0010】
Fujiiら(非特許文献2)により報告されている方法は、L-リジンにL-lysine 6-aminotransferaseを用い、中間体としてΔ-piperidine-6-carboxylic acidを生成させ、さらにそれに還元酵素を接触させてL-ピペコリン酸(L-pipecolic acid)を得るものであるが、この方法は原料がL-リジンの場合しか対応できず、他のL体環状アミノ酸の製造には適応できない。
【0011】
Costilowら(非特許文献3:Journal of Biological Chemistry (1971))により報告されている方法は、L-オルニチン(L-ornithine)にOrnithine Cyclaseを用いL-プロリン(L-Proline)を得るものであるが、プロリン以外の生成物に関しては記載がない。
【0012】
Denisら(特許文献1)は、Ornithine Cyclaseを用いL-ピペコリン酸(L-pipecolic acid)、L-チオモルフォリン-2-カルボン酸(L-Thiomorpholine-2-carboxylic acid)
、5-ヒドロキシ-L-ピペコリン酸(5-hydroxy-L-pipecolic acid)などを得る方法を報告しているが、収率や光学純度などについての記載はない。
【0013】
また、上記いずれの方法も、生成物であるL体環状アミノ酸の光学純度は原料のアミノ酸の光学純度によるものであり、ラセミ体の原料から高効率でL体環状アミノ酸を得ることは難しいと思われる。
【0014】
一方、中間体として1位に二重結合を有する環状アミノ酸を経る方法は、原料にラセミ体の環状アミノ酸や、ジアミノ酸を用いることができるため工業的に有利である。
【0015】
例えば、1位に二重結合を有する環状アミノ酸を還元する酵素としては、例えば、動物由来又はカビ由来のピロリン-2-カルボン酸還元酵素(pyrroline-2-carboxylate reductase : EC 1.5.1.1)が、Δ-ピロリン-2-カルボン酸(Δ-pyrroline-2-carboxylic acid)を還元してプロリンが生成すること及びΔ-ピペリジン-2-カルボン酸(Δ-piperidine-2-carboxylic acid)を還元してピペコリン酸が生成することが報告さ
れている(非特許文献4)。
【0016】
また、D-リジンからΔ-ピペリジン-2-カルボン酸(Δ-piperidine-2-carboxylic acid)を中間体としてL-ピペコリン酸を生成するというシュードモナス(Pseudomonas)属細菌の代謝の報告があり、その中でピペリジン-2-カルボン酸還元酵素(piperideine-2-carboxylate reductase : EC 1.5.1.21)が還元反応を行っているとの報告もあ
る(非特許文献5)。
【0017】
しかしながら、これらの報告は、酵素反応が生化学的に確認されているのみであり、工業的な生産の例ではない。
【0018】
また、動物由来の酵素は非常に不安定であるとの記載もあり、これらの酵素を用いての工業的な生産の実用化は困難であった。
【0019】
特許文献2には、ジアミノ酸やラセミ体の環状アミノ酸から中間体として1位に二重結合を有する環状アミノ酸を得て、これをシュードモナス属細菌由来のN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼを用いて還元し、L体環状アミノ酸を製造することが記載されている。この方法は、安価で高純度なL体環状アミノ酸を生産する方法を提供しようとするものであるが、工業的に実用化するためには、より高効率でL体環状アミノ酸を生成することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】WO 02/101003
【文献】特許第4590981号
【非特許文献】
【0021】
【文献】Concepcion F Garcia et al., Tetrahydron Asymmetry (1995) vol.6, pp.2905-2906
【文献】Tadashi Fujii et al., Bioscience Biotechnology Biochem (2002) vol.66, pp.1981-1984
【文献】Ralph N Costilow et al., Journal of Biological Chemistry (1971) vol.246, pp.6655-6660
【文献】Alton Meister et al., Journal of Biological Chemistry (1957) vol.229, pp.789-800
【文献】Cecil W Payton et al., Journal of Bacteriology (1982) vol.149, pp.864-871
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、1位に二重結合を有する環状アミノ酸から高純度のL体環状アミノ酸を、より安価に高効率で工業的に製造する方法を提供することを課題とするものである。さらに、本発明は、安価なジアミノ酸から中間体として1位に二重結合を有する環状アミノ酸を得て、これを生物化学的な方法で還元することにより、高純度のL体環状アミノ酸をより安価に高効率で工業的に製造する方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
1位に二重結合を有する環状アミノ酸を還元してL体環状アミノ酸を生成する触媒性能を有するイミノ酸還元酵素であって、酵素学的に安定で前記触媒性能が高い酵素を用いることにより、上記課題が解決され、高純度のL体環状アミノ酸をより安価に高効率で工業的に製造することができると考えられる。
【0024】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、シロイヌナズナ、ハマエンドウ又はクワ由来のイミノ酸還元酵素が、公知の酵素より高い触媒効率で1位に二重結合を有する環状アミノ酸を還元することを見出した。
【0025】
また、1位に二重結合を有する環状アミノ酸は、安価なジアミノ酸から公知の酵素を用いて効率的に製造することができる。したがって、ジアミノ酸から1位に二重結合を有する環状アミノ酸を製造する方法と、高い触媒効率で1位に二重結合を有する環状アミノ酸を還元する方法を組み合わせることにより、安価なジアミノ酸から医薬中間原料として有用な高純度のL体環状アミノ酸をより安価に高効率で工業的に製造することができることを見出した。
【0026】
本発明は、これらの知見に基づいて成し遂げられたものである。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0027】
[1] 下記一般式(I):
【0028】
【化3】
【0029】
(式中、Aは、鎖長が1~4原子であり、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を鎖中又は末端に含んでいてもよく、かつ置換基
を有していてもよいアルキレン鎖を示す。)
で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸に、以下の(A)、(B)又は(C)に示すポリペプチド、前記ポリペプチドを生産する能力を有する若しくは前記ポリペプチドを含む微生物若しくは細胞、前記微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は前記微生物若しくは細胞を培養して得られた前記ポリペプチドを含む培養液を接触させて、下記一般式(II):
【0030】
【化4】
【0031】
(式中、Aは前記と同義である。)
で表されるL体環状アミノ酸を生成させることを特徴とする、L体環状アミノ酸の製造方法:
(A)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列において1~複数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ下記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド:
【0032】
【化5】
【0033】
(式中、Aは前記と同義である。);又は
(C)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ前記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド。
[2] 前記ポリペプチドは、以下の(D)、(E)又は(F)に示す核酸にコードされるものである、[1]に記載の製造方法:
(D)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列を含む核酸;
(E)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が置換、欠失及び/又は付加された塩基配列であって、かつ上記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドをコードする核酸;又は
(F)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、且つ上記式(1)に示す反応を触
媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドをコードする核酸。
[3] 下記一般式(III):
【0034】
【化6】
【0035】
(式中、Aは、鎖長が1~4原子であり、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を鎖中又は末端に含んでいてもよく、かつ置換基
を有していてもよいアルキレン鎖を示す。)
で表される鎖状のα,ω-ジアミノ酸に、ジアミノ酸のα位のアミノ基をケト基に変換しαケト酸を生成することのできる酵素を反応させ、下記一般式(I):
【0036】
【化7】
【0037】
(式中、Aは前記と同義である。)
で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸を生成させた後、
得られた1位に二重結合を有する環状アミノ酸を、[1]又は[2]に記載の方法により、下記一般式(II):
【0038】
【化8】
【0039】
(式中、Aは前記と同義である。)
で表されるL体環状アミノ酸を生成させることを特徴とする、L体環状アミノ酸の製造方法。
[4] ジアミノ酸のα位のアミノ基をケト基に変換しαケト酸を生成することのできる酵素が、D-アミノ酸オキシダーゼ、L-アミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ、D-アミノ酸トランスフェラーゼ及びL-アミノ酸トランスフェラーゼよりなる群から選ばれる一種以上の酵素である、[3]に記載のL体環状アミノ酸の製造方法。
[4] 前記一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸がΔ-ピペリジン-2-カルボン酸であり、前記一般式(II)で表されるL体環状アミノ酸がL-ピペコリン酸である、[1]~[4]のいずれかに記載のL体環状アミノ酸の製造方法。
【0040】
[6](a)配列番号4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(b)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列において1~複数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ下記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド:
【0041】
【化9】
【0042】
(式中、Aは、鎖長が1~4原子であり、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を鎖中又は末端に含んでいてもよく、かつ置換基
を有していてもよいアルキレン鎖を示す。);又は
(c)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ前記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド。
【0043】
[7] [6]に記載のポリペプチドをコードする核酸。
[8] 核酸が植物由来である、[7]に記載の核酸。
[9] 植物がクワ又はハマエンドウである、[8]に記載の核酸。
[10] 前記核酸が、以下の(d)、(e)又は(f)に示すものである、[7]~[9]のいずれかに記載の核酸:
(d)配列番号3、5、7、9又は11で表される塩基配列を含む核酸;
(e)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が置換、欠失及び/又は付加された塩基配列であって、かつ上記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドをコードする核酸;又は
(f)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、且つ上記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドをコードする核酸。
【0044】
[11] [7]~[10]のいずれかに記載の核酸を含む組換えベクター。
[12] [11]に記載の組換えベクターを含む形質変換体。
[13] 以下の(A)、(B)又は(C)に示すポリペプチド、前記ポリペプチドを生産する能力を有する若しくは前記ポリペプチドを含む微生物若しくは細胞、前記微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は前記微生物若しくは細胞を培養して得られた前記ポリペプチドを含む培養液を含み、下記一般式(I):
【0045】
【化10】
【0046】
(式中、Aは、鎖長が1~4原子であり、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を鎖中又は末端に含んでいてもよく、かつ置換基
を有していてもよいアルキレン鎖を示す。)
で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸から、下記一般式(II):
【0047】
【化11】
【0048】
(式中、Aは前記と同義である。)
で表されるL体環状アミノ酸を生成させる能力を有する酵素剤組成物:
(A)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列において1~複数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ下記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド;
【0049】
【化12】
【0050】
(式中、Aは前記と同義である。);又は
(C)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ前記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、1位に二重結合を有する環状アミノ酸を還元してL体環状アミノ酸を生成する触媒性能を有する酵素であって、酵素学的に安定で前記触媒性能が高い酵素を用いることにより、高純度のL体環状アミノ酸をより安価に高効率で工業的に製造することができる。また、ジアミノ酸から1位に二重結合を有する環状アミノ酸を製造する方法と、高い触媒効率で1位に二重結合を有する環状アミノ酸を還元する方法を組み合わせることにより、安価なジアミノ酸から医薬中間原料として有用な高純度のL体環状アミノ酸をより安価に高効率で工業的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】実施例2の(2)酵素反応物の解析における、生成したピペコリン酸のHPLC分析結果を示す図である。
図2】実施例2の(3)酵素活性触媒の解析における、Hanes-Woolf plotの線形近似線を示す図である。
図3】実施例2の(3)酵素活性触媒の解析における、ANEMONAによるMichaelis-Menten modelを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の一般式(I)、(II)及び(III)において、Aは、鎖長が1~4原子であり
、硫黄原子、酸素原子及び窒素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子
を鎖中又は末端に含んでいてもよく、かつ置換基を有していてもよいアルキレン鎖を示す。
【0054】
アルキレン鎖としては、例えば、-CH-、-C-、-C-、-CCH-、-C-、-CCH-、-CHCHCHCH-などの炭素数1~4の直鎖状又は分岐アルキレン鎖が挙げられる。これらの中で、5員環、6員環又は7員環のL体環状アミノ酸を形成することができる炭素数2~4の直鎖状アルキレン鎖が好ましい。例えば、Aが炭素数2の場合はL-プロリン(Proline)などの5員環ア
ミノ酸、炭素数3の場合はL-ピペコリン酸(pipecolic acid)などの6員環アミノ酸、炭素数4の場合はアゼパン-2-カルボン酸(azepane-2-carboxylic acid)などの7員
環アミノ酸が形成される。これら化合物の化学式を次に示す。
【0055】
【化13】
【0056】
また、アルキレン鎖中には硫黄原子、酸素原子、窒素原子などのヘテロ原子を鎖中又は末端に含んでいてもよい。これらへテロ原子を含むアルキレン鎖により複素環が形成される。アルキレン鎖中には、硫黄原子、酸素原子、窒素原子などのヘテロ原子が1種又は複数種もしくは1個又は複数個含まれていてもよい。含まれるヘテロ原子の数としては、1~3個が好ましい。ヘテロ原子を含むアルキレン鎖としては、例えば、-CHOHCH-、-CHCHOHCH-、-SCH-、-SC-、-SC-、-OCH-、-OC-、-OC-、-NHCH-、-NHC-、-NHC-、-NHCHCHCOOH-、-CNHCO-、-CNHCN-、-CCHCOOH-、-SCHCHCOOH-、-SCCHCOOH-、-NHCHCOOHCH-などが挙げられる。
【0057】
Aが、硫黄原子を含むアルキレン鎖の場合、L体環状アミノ酸としては、チオプロリン、3-チオモルフォリンカルボン酸、[1,4]チアゼパン-3-カルボン酸([1,4]thiazepane-3-carboxylic acid)などが挙げられる。Aが、酸素原子を含むアルキレン鎖の場合、L体環状アミノ酸としては、4-オキザゾリジンカルボン酸、3-モルフォリンカルボン酸などが挙げられる。Aが、窒素原子を複数含むアルキレン鎖の場合、L体環状アミノ酸としては、ピペラジン-2-カルボン酸などが挙げられる。これら化合物の化学式を次に示す。
【0058】
【化14】
【0059】
また、上記アルキレン鎖又はヘテロ原子を含むアルキレン鎖は置換基を有していてもよい。置換基としては、反応に悪影響を与えない基であれば特に限定されない。具体的には、限定されないが、炭素数1~4のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~4のアルコキシ基、カルボキシル基、ハロゲン基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基などが挙げられ、好ましくはヒドロキシル基である。置換基を含むL体環状アミノ酸としては、例えばヒドロキシプロリン(hydroxyproline)、ヒドロキシピペコリン酸などが挙げられる。これらの化学式を次に示す。
【0060】
【化15】
【0061】
これらのうち、Aとしては炭素数2~4の直鎖状のアルキレン鎖が好ましく、特に炭素数3の直鎖状のアルキレン鎖が好ましい。
【0062】
1.イミノ酸還元酵素
本発明で使用するイミノ酸還元酵素は、下記式(1)で表される反応を触媒する酵素である。
【0063】
【化16】
(式中、Aは前記と同義である。)
【0064】
上記一般式(I)で表される反応を触媒する酵素とは、上記一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸に、イミノ酸還元酵素(ポリペプチド)、前記ポリペプチドを生産する能力を有する若しくは前記ポリペプチドを含む微生物若しくは細胞、前記微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は前記微生物若しくは細胞を培養して得られた前記ポリペプチドを含む培養液を接触させて、上記一般式(II)で表されるL体環状アミノ酸を生成する性能を有する酵素を意味する。
「一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸から、一般式(II)で表されるL体環状アミノ酸を生成する性能」を有するか否かは、例えば、Δ-ピペリジン-2-カルボン酸を基質として含有し、さらにNAD(P)又はNAD(P)Hを補酵素として含有する反応系において、Δ-ピペリジン-2-カルボン酸に、測定の対象とする酵素を作用させ、Δ-ピペリジン-2-カルボン酸を還元し生成されたL-ピペコリン酸の量を直接的に測定することにより確認することができる。
【0065】
接触方法は特に限定されず、例えば、イミノ酸還元酵素を含む液体に、上記一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸を加え、適当な温度(例えば、10℃~45℃程度)や圧力(例えば大気圧程度)で反応させることなどが挙げられる。反応時間についても、酵素種、目的産物などに応じて適宜設定可能な範囲である。
【0066】
本発明においては、特に、下記式(2)で表される反応(Δ-ピペリジン-2-カルボン酸(Δ-piperidine-2-carboxylic acid)を還元してL-ピペコリン酸を生成する
反応)を触媒する酵素が好ましい。
【0067】
【化17】
【0068】
また、当該イミノ酸還元酵素は、例えば、還元型ニコチンアミドアデニンヌクレオチド(NADH)又は還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)(以下、両者をまとめて「NAD(P)H」と略記することがある)を補酵素として、一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸を還元して一般式(II)で表されるL体環状アミノ酸を生成する酵素であることが好ましい。
【0069】
このようなイミノ酸還元酵素は、例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、ミヤマハタザオ、ハクサンハタザオなどのシロイヌナズナ属(genus Arabidopsis)の植
物、クワ、カラヤマグワ(Morus alba)、ログワなどのクワ属(genus Morus)の植物又
はハマエンドウ(Lathyrus japonicus)、レンリソウ、スイートピーなどのレンリソウ属(genus Lathyrus)などの植物から、公知の方法により抽出、精製して得ることができる
【0070】
イミノ酸還元酵素は、特に、シロイヌナズナ、カラヤマグワ又はハマエンドウ由来のイミノ酸還元酵素が好ましい。例えば、シロイヌナズナ、カラヤマグワ又はハマエンドウから抽出、精製して得られるイミノ酸還元酵素が好ましい。また、本発明によりシロイヌナズナ、カラヤマグワ又はハマエンドウ由来のイミノ酸還元酵素の配列が明らかにされたため、同配列を用いて公知の方法により合成されるイミノ酸還元酵素も好ましく用いられる。
【0071】
植物からの酵素の抽出は、一般的な植物酵素の抽出方法(例えば、瓜谷郁三,志村憲助,中村道徳,船津 勝編、生物化学実験法14 高等植物の二次代謝研究法(1981)学会出版センター;堀尾武一,山下仁平編、蛋白質・酵素の基礎実験法(1981)南江堂)に準じて行うことができる。
【0072】
得られた抽出物から残渣を除くために、濾過、遠心分離などの固液分離手段を適用して粗酵素抽出液とする。粗酵素抽出液からの目的とする酵素の精製は、公知の分離・精製方法が適用できる。例えば、粗酵素抽出液から硫安塩析法、有機溶媒沈殿法などにより粗酵素蛋白質を得、さらにこれをイオン交換、ゲル濾過、アフィニティなどの各種クロマトグラフィーを適宜組み合わせることによって精製酵素を得ることができる。
【0073】
本発明で使用するイミノ酸還元酵素は、具体的には、配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むもの、又は当該アミノ酸配列と高い同一性を有するアミノ酸配列(以下、「アミノ酸配列のホモログ」という場合がある。)からなり、上記式(1)で表される反応を触媒する、L体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドを含むもの(以下、「イミノ酸還元酵素のホモログ」という場合がある。)である。
【0074】
さらに具体的には、以下の(A)、(B)又は(C)に示すポリペプチドを含むものである。
(A)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチド;
(B)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列において1~複数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ下記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド;又は
【0075】
【化18】
【0076】
(式中、Aは前記と同義である。)
(C)配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ前記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチド。
【0077】
本発明において、配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するイミノ酸還元酵素のホモログは、上記ポリペプチド(B)又は(C)に示すポリペプチド
を含むものである。
【0078】
(B)に示すポリペプチドは、配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列において1~複数個のアミノ酸が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ前記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドである。
【0079】
置換の場合は、1~複数個のアミノ酸が保守的に置換されたものが好ましい。本明細書において、「アミノ酸が保守的に置換された」とは、化学的性質などが類似するアミノ酸同士の置換を意味し、例えば、塩基性アミノ酸を塩基性アミノ酸で置換すること、酸性アミノ酸を酸性アミノ酸で置換することなどが挙げられる。
【0080】
「1~複数個のアミノ酸」とは、通常1個~100個、好ましくは1個~50個、より
好ましくは1個~20個、さらに好ましくは1個~10個、特に好ましくは1個~5個、最も好ましくは1個~3個のアミノ酸である。
【0081】
(C)に示すポリペプチドは、配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつ前記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドである。好ましくは、配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列と全長と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列有し、かつ前記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドである。
【0082】
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性(同一性又は類似性ともいう)は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST (National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、例えば、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配
列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLAST及びXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら, Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら,J. Mol. Biol., 48: 444-453 (1970)に記
載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、Myers及びMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version2.0)に組み込まれている]、Pearsonら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケー
ジ中のFASTAプログラムに組み込まれている]などが挙げられ、それらも同様に好ましく
用いられ得る。
【0083】
また、本発明のイミノ酸還元酵素は、それをコードする核酸を含有する形質転換体を培養し、得られる培養物から該イミノ酸還元酵素を分離精製することによって製造することもできる。本発明のイミノ酸還元酵素をコードする核酸はDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられ
る。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNA又はDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(すなわち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(すなわち、非コード鎖)であってもよい。
【0084】
本発明のイミノ酸還元酵素をコードするDNAとしては、合成DNAなどが挙げられる
。例えば、シロイヌナズナ、クワ(ヤマグワ)又はハマエンドウ由来の細胞若しくは組織より調製した全RNA若しくはmRNA画分を鋳型として用い、Reverse Transcriptase-PCRによって直接増幅した全長イミノ酸還元酵素 cDNAを、公知のキット、例えば、MutanTM-super Express Km(TAKARA BIO INC.)、MutanTM-K(TAKARA BIO INC.)などを用
いて、ODA-LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法などの公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って変換することによって取得することができる。あるいは、上記した全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法又はPCR法などにより、クローニングしたcDNAを、上記の方法に従って変換することによっても取得することができる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
【0085】
また、本発明のイミノ酸還元酵素は、精製を容易にすることや性質をより好ましい状態に維持することを目的として、親和性ポリペプチドとの融合タンパク質であってもよい。このような融合タンパク質としては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、ヒスチジンタグ、マルトース結合タンパク質(MBP)、HAタグ、FLAGタグ、ビオチン化ペプチド、緑色蛍光タンパク質など公知の親和性ポリペプチドとの融合タンパク質が挙げられる。このような融合タンパク質は、アフィニティ精製などにより得ることができる。
【0086】
本発明においては、GSTとの融合タンパク質が好ましい。配列番号8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドは、配列番号2、4又は6に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドとGSTをそれぞれ融合させた融合タンパク質である。
【0087】
配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする核酸としては、それぞれ、配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列を含む核酸が挙げられる。式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする限り、配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列と高い同一性を有する塩基配列を含む核酸(以下、「核酸のホモログ」という場合がある)でもよい。即ち、該ポリペプチドをコードする核酸としては、以下の(D)、(E)又は(F)に示す塩基配列を有するものが挙げられる。
【0088】
(D)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列を含む核酸;
(E)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列において、1又は複数個の塩基が置換、欠失及び/又は付加された塩基配列であって、かつ上記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドをコードする核酸;又は
(F)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、且つ上記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドをコードする核酸。
【0089】
前記(E)に示す核酸のホモログとしては、配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列において、1~複数個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列を含み、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコー
ドする核酸が挙げられる。置換、挿入又は付加の場合は、1~複数個の塩基が置換、挿入又は付加されたものが好ましい。ここで、「1~複数個の塩基」とは、例えば、1個~300個、好ましくは1個~150個、より好ましくは1個~60個、さらに好ましくは1個~30個、特に好ましくは1個~15個、最も好ましくは1個~5個の塩基である。
【0090】
なお、配列番号1、3、5で表される塩基配列は、それぞれシロイヌナズナ、クワ(ヤマグワ)、ハマエンドウ由来のイミノ酸還元酵素の遺伝子を大腸菌発現用にコドンを最適
化した塩基配列である。このように形質転換対象の宿主に応じてコドンが最適化されたDNAも、当然に本発明に使用し得る上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする核酸に包含される。
【0091】
前記(F)に示す核酸のホモログとしては、(F)配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列であって、且つ上記式(1)に示す反応を触媒するL体環状アミノ酸生成能を有するポリペプチドをコードする核酸が挙げられる。好ましくは、配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列と80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、なお一層好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の相同性(同一性ともいう)を有する塩基配列を有し、かつ上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする核酸である。
【0092】
本明細書における塩基配列の相同性(同一性ともいう)は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、例えば、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング
=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
【0093】
前記(F)に示す核酸のホモログとしては、上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドをコードする限り、配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸であってもよい。ここで、「ストリンジェントな条件」としては、既報の条件(例:Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, 6.3.16.3.6, 1999)を参考に適宜設定する
ことができ、具体的には、例えば、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗浄条件である60℃、1 x SSC、0.1% SDS、好ましくは、0.1 x SSC、0.1% SDS、さらに好ましくは、65℃、0.1 x SSC、0.1% SDSや68℃、0.1 x SSC、0.1% SDSなど(高ストリンジェントな条件)に相当する塩濃度及び温度で、1回、より好ましくは2~3回洗浄する条件などが挙
げられる。
【0094】
当業者であれば、配列番号1、3、5、7、9又は11で表される核酸に部位特異的変異導入法(Nucleic Acids Res.10,pp.6487(1982)、Methods in Enzymol.100,pp.448(1983)、Molecular Cloning、PCR A Practical Approach IRL Press pp.200(1991))などを用
いて、適宜、置換、欠失、挿入及び/又は付加を行い、所望の変異を導入することにより、上記のような核酸のホモログを得ることが可能である。
【0095】
本発明の核酸は、上記式(1)に示す反応を触媒する活性を有するポリぺプチドをコードし得る。本発明の核酸が、配列番号1、3、5、7、9若しくは11に示す塩基配列、又は配列番号1、3、5、7、9若しくは11に示す塩基配列と高い同一性を有する塩基配列を有する場合、該核酸によりコードされるポリペプチドを含むイミノ酸還元酵素のL体環状アミノ酸生成能の程度は、配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むもの、又は該アミノ酸配列のホモログを有するポリペプチドを含むものと定量的に同等であり得るが、許容し得る範囲(例えば、配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むイミノ酸還元酵素、又は該アミノ酸配列のホモログを有するポリペプチドを含むイミノ酸還元酵素のアミノ酸生成能の約0.1~約5倍、好ましくは約0.3~約3倍)で異なってもよい。
【0096】
また、配列番号2、4、6、8、10又は12に示すアミノ酸配列又はその一部や、配列番号1、3、5、7、9又は11で表される塩基配又はその一部をもとに、例えばDNA
Databank of JAPAN(DDBJ)などのデータベースに対してホモロジー検索を行って、式(
1)に示す反応を触媒する活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列情報又はそれをコードするDNAの塩基配列情報を手に入れることも可能である。
【0097】
後述する本発明の製造方法においては、イミノ酸還元酵素を上記式(1)で表される反応に直接使用してもよいが、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を用いることが好ましい。
【0098】
本発明のイミノ酸還元酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞としては、もともと当該イミノ酸還元酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞を用いてもよいし、育種により前記生産能力を付与した微生物若しくは細胞であってもよい。微生物若しくは細胞としては、その生死は問わず、例えば、休止菌体などを好適に用いることができる。本発明のイミノ酸還元酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞の種類としては、「宿主微生物」又は「宿主細胞」として後述するものが挙げられる。
【0099】
育種により前記生産能力を付与する手段としては、遺伝子組換え処理(形質転換)や変異処理など、公知の方法を採用することができる。形質転換の方法としては、目的とするDNAを導入する方法、染色体上でプロモーターなどの発現調節配列を改変して目的とするDNAの発現を強化する方法などが挙げられる。
【0100】
これらのうち、前記の本発明のポリペプチドをコードするDNAで形質転換された微生物若しくは細胞を用いることが好ましい。
【0101】
本発明のポリペプチド(イミノ酸還元酵素)をコードする核酸(DNA)は、前記の通り、例えば、シロイヌナズナ、カラヤマグワ又はハマエンドウ由来の染色体DNAを鋳型として用い、適切なプライマーを用いてPCRを行うことでクローニングできる。
【0102】
また、本発明のポリペプチド(イミノ酸還元酵素)をコードする核酸(DNA)は、前記の通り、例えば、シロイヌナズナ、クワ(ヤマグワ)又はハマエンドウ由来の全RNA若しくはmRNAを鋳型として用い、RT-PCR法によって直接増幅した全長イミノ酸還元酵素cDNAを調製した後、適切なプライマーを用いてPCRを行うことによりクローニングできる。
【0103】
例えば、上記のようにして得た本発明のポリペプチドをコードするDNAを公知の発現ベクターに発現可能な配置で挿入することにより、本発明のポリペプチド遺伝子発現ベクターが提供される。そして、該発現ベクターで宿主微生物若しくは細胞を形質転換することにより、本発明のポリペプチドをコードするDNAが導入された形質転換体を得ることができる。形質転換体は、宿主の染色体DNAに本発明のポリペプチドをコードするDNAを相同組み換えなどの手法によって発現可能に組み込むことによっても得ることができる。
【0104】
本明細書において「発現ベクター」とは、所望の機能を有するタンパク質をエンコードするポリヌクレオチドを組み込み宿主微生物若しくは細胞へ導入することにより、所望の機能を有するタンパク質を前記宿主微生物若しくは細胞において複製及び発現させるために用いられる遺伝因子である。例えば、プラスミド、ウイルス、ファージ、コスミドなどが挙げられるがこれらに限定されない。好ましくは、発現ベクターはプラスミドである。
【0105】
本明細書において、「形質転換体」とは、前記発現ベクターなどを用いて目的の遺伝子が導入され、所望の機能を有するタンパク質に関連する所望の形質を表すことができるよ
うになった微生物又は細胞を意味する。
【0106】
形質転換体の作製方法としては、具体的には、限定されないが、宿主微生物又は宿主細胞において安定に存在するプラスミドベクターやファージベクターやウイルスベクター中に、本発明のポリペプチドをコードするDNAを導入し、構築された発現ベクターを該宿主微生物又は宿主細胞中に導入する方法や直接宿主ゲノム中に該DNAを導入し、その遺伝情報を転写・翻訳させる方法が例示される。この場合、宿主において適当なプロモーターをDNAの5'-側上流に連結させることが好ましく、さらに、ターミネーターを3'-側下流に連結させることがより好ましい。このようなプロモーター及びターミネーターとしては、宿主として利用する細胞中において機能することが知られているプロモーター及びターミネーターであれば特に限定されず、例えば、「微生物学基礎講座8遺伝子工学・共立出版」に詳述されているベクター、プロモーター及びターミネーターを使用することができる。
【0107】
本発明のイミノ酸還元酵素を発現させるための形質転換の対象となる宿主微生物としては、宿主自体が原料や中間生成物に悪影響を与えない限り特に限定されることはなく、例えば、以下に示すような微生物を挙げることができる。
【0108】
エシェリヒア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、セラチア(Serratia)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ラク
トバチルス(Lactobacillus)属などに属する宿主ベクター系の確立されている細菌。
【0109】
ロドコッカス(Rhodococcus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属などに属す
る宿主ベクター系の確立されている放線菌。
【0110】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、クルイベロマイセス(Kluyveromyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、チゴサッカロマイセス(Zygosaccharomyces)属、ヤロウイア(Yarrowia)属、トリコスポロン(Trichosporon)属、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、ピキア(Pichia)属、キャ
ンディダ(Candida)属などに属する宿主ベクター系の確立されている酵母。
【0111】
ノイロスポラ(Neurospora)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、セファロスポリ
ウム(Cephalosporium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属などに属する宿主ベクター
系の確立されているカビ。
【0112】
形質転換体作製のための手順、宿主に適合した組換えベクターの構築及び宿主の培養方法は、分子生物学、生物工学、遺伝子工学の分野において慣用されている技術に準じて行うことができる(例えば、Molecular Cloningに記載の方法)。
【0113】
以下、具体的に、好ましい宿主微生物、各微生物における好ましい形質転換の手法、ベクター、プロモーター、ターミネーターなどの例を挙げるが、本発明はこれらの例に限定されない。
【0114】
エシェリヒア属、特にエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)においては、プラスミドベクターとしては、pBR、pUC系プラスミドなどが挙げられ、lac(β-ガラクトシダーゼ)、trp(トリプトファンオペロン)、tac、trc(lac、trpの融合)、λファージPL、PRなどに由来するプロモーターなどが挙げられる。また、ターミネーターとしては、trpA由来、ファージ由来、rrnBリボソーマルRNA由来のターミネーターなどが挙げられる。
【0115】
バチルス属においては、ベクターとしては、pUB110系プラスミド、pC194系プラスミドなどを挙げることができ、また、染色体にインテグレートすることもできる。プロモーター及びターミネーターとしては、アルカリプロテアーゼ、中性プロテアーゼ、α-アミラーゼなどの酵素遺伝子のプロモーターやターミネーターなどが利用できる。
【0116】
シュードモナス属においては、ベクターとしては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)などで確立されてい
る一般的な宿主ベクター系や、トルエン化合物の分解に関与するプラスミド、TOLプラスミドを基本にした広宿主域ベクター(RSF1010などに由来する自律的複製に必要な遺伝子を含む)pKT240(Gene,26,273-82(1983))などを挙げることができる。
【0117】
ブレビバクテリウム属、特にブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)においては、ベクターとしては、pAJ43(Gene 39,281(1985))などのプラスミドベクターを挙げることができる。プロモーター及びターミネーターとしては、大腸菌で使用されている各種プロモーター及びターミネーターが利用可能である。
【0118】
コリネバクテリウム属、特にコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)においては、ベクターとしては、pCS11(特開昭57-183799号公報)、pCB101(Mol.Gen.Genet.196,175(1984))などのプラスミドベクターが挙げ
られる。
【0119】
サッカロマイセス(Saccharomyces)属、特にサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)においては、ベクターとしては、YRp系、YEp系、YCp系、
YIp系プラスミドなどが挙げられる。また、アルコール脱水素酵素、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素、酸性フォスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、ホスホグリセレートキナーゼ、エノラーゼといった各種酵素遺伝子のプロモーター、ターミネーターが利用可能である。
【0120】
シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属においては、ベクターとしては、Mol.Cell.Biol.6,80 (1986)に記載のシゾサッカロマイセス・ポンベ由来のプラスミドベクターなどを挙げることができる。特に、pAUR224は、タカラバイオ株式会社から市販されており容易に利用できる。
【0121】
アスペルギルス(Aspergillus)属においては、アスペルギルス・ニガー(Aspergillusniger)、アスペルギルス・オリジー(Aspergillus oryzae)などがカビの中で最もよく
研究されており、プラスミドや染色体へのインテグレーションが利用可能であり、菌体外プロテアーゼやアミラーゼ由来のプロモーターが利用可能である(Trendsin Biotechnology 7,283-287(1989))。
【0122】
また、上記以外でも、各種微生物に応じた宿主ベクター系が確立されており、それらを適宜使用することができる。
【0123】
また、微生物以外でも、植物、動物において様々な宿主・ベクター系が確立されており、特に昆虫(例えば、蚕)などの動物中(Nature 315,592-594(1985))や、菜種、トウモロコシ、ジャガイモなどの植物中に大量に異種タンパク質を発現させる系、及び大腸菌無細胞抽出液や小麦胚芽などの無細胞タンパク質合成系を用いた系が確立されており、好適に利用できる。
【0124】
本発明のイミノ酸還元酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞の処理物としては、例えば、該微生物若しくは細胞をアセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエンなどの有機溶媒や界面活性剤により処理したもの、凍結乾燥処理したもの、物理的又は酵素的に破砕したものなどの細胞調製物、微生物若しくは細胞中の酵素画分を粗製物あるいは精製物として取り出したもの、さらには、これらをポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲルなどに代表される担体に固定化したものなどを挙げることができる。
【0125】
本発明のイミノ酸還元酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液としては、例えば、該微生物若しくは細胞と液体培地の懸濁液や、該細胞が分泌発現型細胞である場合は該細胞を遠心分離などで除去した上清やその濃縮物を挙げることができる。
【0126】
本発明のイミノ酸還元酵素は、Δ-ピペリジン-2-カルボン酸を還元してL-ピペコリン酸を製造する方法に、特に好適に用いることができる。
【0127】
本発明で用いる形質転換体が大腸菌などの原核生物、酵母菌などの真核生物である場合、これら微生物を培養する培地は、該微生物が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類などを含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれでもよい。培養は、振盪培養又は深部通気撹拌培養などの好気的条件下で行うことが好ましく、培養温度は通常15~40℃であり、培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中pHは、3.0~9.0に保持する。pHの調整は、無機あるいは有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニアなどを用いて行う。また培養中必要に応じて、アンピシリンやテトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加してもよい。
【0128】
形質転換体の培養物から、上記のイミノ酸還元酵素を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いればよい。
【0129】
例えば、上記のイミノ酸還元酵素が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー、ダイノミルなどにより細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安などによる塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース、DIAION HPA-75(三菱化学社製)などレジン
を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(ファルマシア社製)などのレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロースなどのレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ一法、クロマトフォーカシング法、など電点電気泳動などの電気泳動法などの手法を単独あるいは組み合わせて用い、精製標品を得ることができる。
【0130】
また、上記のイミノ酸還元酵素が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈殿画分より、通常の方法により該イミノ酸還元酵素を回収後、該N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼの不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。該可溶化液を、タンパク質変性剤を含まないあるいはタンパク質変性剤の濃度がN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼが変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、該イミノ酸還元酵素を正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
【0131】
2.本発明の組成物
本発明の組成物(酵素剤)は、本発明のイミノ酸還元酵素、該酵素を生産する能力を有
する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた前記酵素を含む培養液を含み、上記L体環状アミノ酸生成性能を有するものである。本発明の組成物は、触媒として使用することで、高純度のL体環状アミノ酸をより安価に高効率で工業的に製造することができるため、有用である。
【0132】
本発明の組成物は、有効成分(酵素など)の他、賦形剤、緩衝剤、懸濁剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水などを含有していてもよい。賦形剤としては乳糖、ソルビトール、D-マンニトール、白糖などを用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩などを用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸などを用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベンなどを用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノールなどと用いることができる。
【0133】
3.L体環状アミノ酸の製造方法
本発明によれば、下記一般式(I):
【0134】
【化19】
【0135】
(式中、Aは前記と同義である。)
で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸に、本発明のイミノ酸還元酵素を接触させて、下記一般式(II):
【0136】
【化20】
【0137】
(式中、Aは前記と同義である。)
で表されるL体環状アミノ酸の製造方法が提供される。
【0138】
本発明のイミノ酸還元酵素を一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸に接触させる際には、精製又は粗精製した本発明のイミノ酸還元酵素、本発明のイミノ酸還元酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞(例えば、本発明のポリペプチドをコードするDNAを有する形質転換体など)、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を、一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸に接触させることによって、当該環状アミノ酸を還元し、一般式(II)で表されるL体環状アミノ酸を製造することができる。
【0139】
本発明のイミノ酸還元酵素は、直接反応に使用してもよいが、該酵素を生産する能力を有する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液を用いることが好ましく、これらの中でも、本発明のポリペプチドをコードするDNAを有する形質転換体を用いることが好ましい。
【0140】
反応液に添加する微生物若しくは細胞、該微生物若しくは細胞の処理物、及び/又は該微生物若しくは細胞を培養して得られた該酵素を含む培養液の量は、微生物若しくは細胞を添加する場合は、反応液にその微生物若しくは細胞の濃度が、通常、湿菌体重で0.1w/v%~50w/v%程度、好ましくは0.1w/v%~10w/v%となるように添加し、処理物や培養液を用いる場合には、酵素の比活性を求め、添加したときに上記微生物若しくは細胞濃度になるような量を添加する。ここで、w/v%は、重量(weight)/体積(volume)%を表す。
【0141】
接触方法(反応方法)は特に限定されず、本発明のイミノ酸還元酵素を含む液体に、基質となる一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸を加え、適当な温度や圧力(例えば大気圧程度)で反応させることができる。反応時間についても、酵素種、目的産物などに応じて適宜設定可能である。
【0142】
反応基質となる一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸は、通常、反応液中の基質濃度が0.0001w/v%~90w/v%、好ましくは0.01w/v%~30w/v%の範囲で用いられる。反応基質は、反応開始時に一括して添加してもよいが、酵素の基質阻害があった場合の影響を減らすという点や生成物の蓄積濃度を向上させるという観点から、連続的又は間欠的に添加することが望ましい。
【0143】
また、上記反応(還元反応)は、補酵素の存在下に行うことが好ましい。補酵素としては、NAD(P)又はNAD(P)Hが好ましい。ここで、NAD(P)は、酸化型ニコチンアミドアデニンヌクレオチド(NAD)又は酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を意味する。
補酵素は、反応液中の濃度が、通常、0.001mmol/L~100mmol/L、好ましくは0.01mmol/L~10mmol/Lとなるように添加する。
【0144】
補酵素を添加する場合には、NAD(P)Hから生成するNAD(P)+をNAD(P)Hへ
の再生させることが生産効率向上のため好ましい。再生方法としては、<1>宿主微生物自体のNAD(P)+還元能を利用する方法、<2>NAD(P)+からNAD(P)Hを生成する能力を有する微生物やその処理物、あるいは、グルコース脱水素酵素、ギ酸脱水素酵素、アルコール脱水素酵素、アミノ酸脱水素酵素、有機酸脱水素酵素(リンゴ酸脱水素酵素など)などのNAD(P)Hの再生に利用可能な酵素(再生酵素)を反応系内に添加する方法、<3>形質転換体を製造する際に、NAD(P)Hの再生に利用可能な酵素である上記再生酵素類の遺伝子を本発明のDNAと同時に宿主に導入する方法などが挙げられる。
【0145】
このうち、上記<1>の方法においては、反応系にグルコースやエタノール、ギ酸などを添加するのが好ましい。上記<2>の方法においては、上記再生酵素類を含む微生物、上記再生酵素類をコードするDNAで形質転換された微生物、該微生物菌体をアセトン処理したもの、凍結乾燥処理したもの、物理的又は酵素的に破砕したものなどの菌体処理物、該酵素画分を粗製物あるいは精製物として取り出したもの、さらには、これらをポリアクリルアミドゲル、カラギーナンゲルなどに代表される担体に固定化したものなどを用いてもよく、また市販の酵素を用いてもよい。
【0146】
この場合、上記再生酵素の使用量としては、具体的には、イミノ酸還元酵素に比較して、酵素活性で通常0.01倍~100倍、好ましくは0.01倍~10倍程度となるよう添加する。
【0147】
また、上記再生酵素の基質となる化合物、例えば、グルコース脱水素酵素を利用する場合のグルコース、ギ酸脱水素酵素を利用する場合のギ酸、アルコール脱水素酵素を利用する場合のエタノールもしくはイソプロパノールなど、の添加も必要となるが、その添加量
としては、反応原料であるジカルボニル基含有化合物に対して、通常1~10モル倍量、好ましくは1.0~1.5モル倍量添加する。
【0148】
また、上記<3>の方法においては、イミノ酸還元酵素のDNAと上記再生酵素類のDNAを染色体に組み込む方法、単一のベクター中に両DNAを導入し、宿主を形質転換する方法及び両DNAをそれぞれ別個にベクターに導入した後に宿主を形質転換する方法を用いることができるが、両DNAをそれぞれ別個にベクターに導入した後に宿主を形質転換する方法の場合、両ベクター同士の不和合性を考慮してベクターを選択する必要がある。
【0149】
単一のベクター中に複数の遺伝子を導入する場合には、プロモーター及びターミネーターなど発現制御に関わる領域をそれぞれの遺伝子に連結する方法やラクトースオペロンのような複数のシストロンを含むオペロンとして発現させることも可能である。
【0150】
上記反応(還元反応)は、反応基質及び形質転換体並びに必要に応じて添加された各種補酵素及びその再生システムを含有する水性媒体中、又は水性媒体と有機溶媒との混合物中で行うことが好ましい。
【0151】
水性媒体としては、水又は緩衝液が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、tert-ブタノール、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルスルホキシドなどの反応基質である一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸の溶解度が高い水溶性有機溶媒を使用することができる。また、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサンなどの反応副産物の除去などに効果のある非水溶性有機溶媒などを使用することができる。
【0152】
上記反応(還元反応)は、使用する酵素、目的産物などに応じて適宜調整可能であるが、通常、4~60℃、好ましくは10~50℃の反応温度で、通常pH4~11、好ましくはpH5~10で行われる。反応時間は、通常、1時間~72時間程度である。
【0153】
上記反応(還元反応)は、膜リアクターなどを利用して行うことも可能である。
【0154】
上記反応(還元反応)により生成する一般式(II)で表されるL体環状アミノ酸は、反応終了後、反応液中の菌体やタンパク質を遠心分離、膜処理など当業者に公知の分離又は精製方法により分離した後に、酢酸エチル、トルエンなどの有機溶媒による抽出、蒸留、イオン交換樹脂やシリカゲルなどを用いたカラムクロマトグラフィーなど電点における晶析や、一塩酸塩、二塩酸塩、カルシウム塩などによる晶析を適宜組み合わせることにより精製を行うことができる。
【0155】
また、基質である一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸は、公知の方法により、ジアミノ酸やラセミ体の環状アミノ酸から有機合成的な方法や生物化学的な方法により製造することができる。コストや取り扱い性から、工業的には、ジアミノ酸から製造することが好ましい。ジアミノ酸としては、鎖状のα,ω-ジアミノ酸が好ましい。
【0156】
鎖状のα,ω-ジアミノ酸から製造する場合、下記反応式のように、α,ω-ジアミノ酸のα位のアミノ基をケト基に変換してαケト酸を生成すれば、該αケト酸は非酵素的脱水閉環が起こり1位に二重結合を有する環状アミノ酸となる。
【0157】
【化21】
【0158】
(式中、Aは前記と同義である。)
ここで、α,ω-ジアミノ酸のα位のアミノ基が酸化されたαケト酸と1位に二重結合を有する環状アミノ酸は、通常、水性媒体中で平衡混合物として存在するので、これらは等価のものと見なされる。したがって、本発明の反応(還元反応)系中には、1位に二重結合を有する環状アミノ酸、Δ-ピペリジン-2-カルボン酸、α,ω-ジアミノ酸のα位のアミノ基が酸化されたαケト酸と1位に二重結合を有する環状アミノ酸、又はα,ω-ジアミノ酸のα位のアミノ基が酸化されたαケト酸を添加又は含有することができ、これらのいずれの態様も本発明に包含される。
【0159】
α,ω-ジアミノ酸から生物化学的に1位に二重結合を有する環状アミノ酸を製造する場合、α,ω-ジアミノ酸のα位のアミノ基をケト基に変換しαケト酸を生成することができる酵素であればよく特に限定されないが、例えば、D-アミノ酸オキシダーゼ(D-aminoacid oxidase)、L-アミノ酸オキシダーゼ(L-aminoacid oxidase)などのアミノ酸オキシダーゼ、D-アミノ酸デヒドロゲナーゼ(D-aminoacid dehydrogenase)、L-ア
ミノ酸デヒドロゲナーゼ(L-aminoacid dehydrogenase)などのアミノ酸デヒドロゲナー
ゼ、D-アミノ酸トランスフェラーゼ(D-aminoacid aminotransferase)、L-アミノ酸トランスフェラーゼ(L-aminoacid aminotransferase)などアミノ酸トランスフェラーゼなどの酵素が挙げられる。
これらの中では、基質特異性の広い酵素が好ましい。具体的には、Enzyme and Microbial Technology vol. 31(2002) p77-87に記載されているL-アミノ酸オキシダーゼ、シグマ・アルドリッチ社製のD-アミノ酸オキシダーゼなどが好ましい。
【0160】
上記アミノ酸オキシダーゼ、アミノ酸デヒドロゲナーゼ又はアミノ酸トランスフェラーゼが、ジアミノ酸にのみ反応するものであって、本発明の還元反応で用いることのできる補酵素に対応するものである場合、補酵素の再生システムの代替システムとなることができるため好ましい。すなわち、本発明の還元反応において、補酵素としてNAD(P)Hを用いた場合、NAD(P)Hは本反応の還元化に伴いNAD(P)となるが、一方で、ジアミノ酸から1位に二重結合をもつ環状アミノ酸を製造する際に、このNAD(P)を利用してNAD(P)Hへ変換することができるため好ましい。
【0161】
また、ジアミノ酸から1位に二重結合をもつ環状アミノ酸を製造する際に各種アミノ酸オキシダーゼを用いる場合、反応に伴い過酸化水素が生成され、それが酵素活性の低下など反応に悪影響を及ぼすことが考えられるので、過酸化水素を除去するために別の酵素を組み合わせることも好ましい。過酸化水素を除去する酵素としては、過酸化水素に反応する酵素であれば特に限定はされないが、具体的にはカタラーゼやパーオキシダーゼが好ましい。過酸化水素に反応する酵素の使用量は、生成する過酸化水素が効率よく除去される範囲であれば特に限定されないが、具体的にはアミノ酸オキシダーゼに対し、通常0.01倍活性~100万倍活性、好ましくは0.1倍活性~10万倍活性の範囲で用いられる。
【0162】
また、アミノ酸オキシダーゼを用いる場合、補酵素のフラビンアデニンジヌクレチド(FAD)を使用することにより活性を高めることができる。FADは、反応液中の濃度が通常0.00001ミリモル濃度~100ミリモル濃度、好ましくは0.001ミリモル
濃度~10ミリモル濃度の範囲になるように使用する。
【0163】
反応基質をジアミノ酸とする場合は、通常、基質濃度が0.01~90%w/v、好ましくは0.1~30%w/vの範囲である。
【0164】
ジアミノ酸から生物化学的に1位に二重結合を有する環状アミノ酸を製造する方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。
例えば、上記酵素を含む液体に、反応基質であるジアミノ酸を加え、適当な温度や圧力(例えば大気圧程度)で反応させることができる。
反応基質であるジアミノ酸は、通常、反応液中の基質濃度が0.01w/v%~90w/v%、好ましくは0.1w/v%~30%w/v%の範囲で用いられる。反応基質は、反応開始時に一括して添加してもよいが、酵素の基質阻害があった場合の影響を減らすという点や生成物の蓄積濃度を向上させるという観点から、連続的又は間欠的に添加することが望ましい。
【0165】
上記反応は、通常、4~60℃、好ましくは10~50℃の反応温度で、通常pH4~11、好ましくはpH5~10で行われる。反応時間は、通常、1時間~72時間程度である。
【0166】
アミノ酸オキシダーゼを用いる場合、反応に必要な酸素を供給するため、酸素ガス、もしくは空気と十分に混合させる条件で反応させる。例えば反応容器の振とうもしくは回転速度を高めてもよいし、液中に酸素ガスや空気を液に通気させても良い。通常、通気速度は0.1vvm~5.0vvmであるが、好ましくは0.1vvm~1.0vvmの範囲で用いられる。
【0167】
上記反応は、膜リアクターなどを利用して行うことも可能である。
【0168】
上記反応により生成する一般式(I)で表される1位に二重結合を有する環状アミノ酸は、反応終了後、反応液中の菌体やタンパク質を遠心分離、膜処理など当業者に公知の分離又は精製方法により分離した後に、酢酸エチル、トルエンなどの有機溶媒による抽出、蒸留、イオン交換樹脂やシリカゲルなどを用いたカラムクロマトグラフィーなど電点における晶析や、一塩酸塩、二塩酸塩、カルシウム塩などによる晶析を適宜組み合わせることにより精製を行うことができる。
【0169】
本発明においては、1位に二重結合を有する環状アミノ酸を得た後、分離精製して次のL体環状アミノ酸を得る工程に供することもできるし、分離精製することなく、次のL体環状アミノ酸を得る工程に供することもできる。また、1位に二重結合を有する環状アミノ酸を得る工程とL体環状アミノ酸を得る工程を別個の反応器で行うこともできるし、両工程を同一の反応器で行うこともできる。
【実施例
【0170】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0171】
なお、以下の実施例及び参考例において、Mはmol/Lを、w/v は重量/容量を、DMSOはジメチルスルホキシドを、ETDAはエチレンジアミン四酢酸を、IPTGはイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドを、PipC2はΔ-ピペリジン-2-カルボン酸、PipAはピペコリ
ン酸をそれぞれ意味する。
【0172】
<実施例1>(植物由来イミン還元酵素遺伝子のクローニング)
(1)植物体からの目的遺伝子増幅
発芽から約1ヵ月生育したシロイヌナズナ、ハマエンドウからそれぞれ全RNAを抽出した。発芽から約1ヵ月生育したカラヤマグワは葉から全RNAを抽出した。抽出にはRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)を用いた。操作は当該キット記載のプロトコールを参考に、
室温で行った。得られた全RNAから、ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO社製)を用いて、cDNAを合成した。得られたcDNAライブラリーを元に各植物体で発現されている遺伝子のデータベースを構築した。
【0173】
得られたcDNAを鋳型にしてPCR反応を行った。PCR用のプライマーは下記表に記載の通りに作製した。大腸菌発現用ベクターに挿入するための制限酵素認識部位としてプライマーのN末端、C末端に制限酵素を付加した。
【0174】
【表1】
【0175】
PCRは、TaKaRa Ex Taq(登録商標) Hot Start Version(TaKaRa社製)のプロトコールに基づいて行った。組成はEx Taq HS 0.1μL、10×Ex Taq Buffer 2μL、dNTP mixture(各2.5 mM)1.6μL、cDNA 2μL、10μM フォワードプライマー1μL、10μM リバースプラ
イマー 1μL、Milli-Q(登録商標) 12.3μLの総量20μLとした。イミン還元酵素遺伝子AtP2CR増幅用のプライマーとして、配列番号13に記載の配列をフォワードプライマーと
して、配列番号14に記載の配列をリバースプライマーとして用いた。MaP2CR遺伝子については、配列番号15に記載の配列をフォワードプライマー及び配列番号16に記載の配列をリバースプライマーとして用いた。LjP2CR遺伝子については、配列番号17に記載の配列をフォワードプライマー及び配列番号18に記載の配列をリバースプライマーとして用いた。反応条件は、95℃で2分間初期変性を行い、続いて95℃で30秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、72℃で1分10秒の伸長反応を30サイクル繰り返して、最後に72℃で5分間伸長反応を行った。反応生成物を、GelRed(商標) 核酸ゲル染色液(×10000) DMSO溶液で染色した1×TAE buffer(トリス-酢酸-EDTA緩衝液)で作製した2%(w/v)アガロースゲルを用いた電気泳動に供した。電気泳動後、目的の1100bp付近の単一なバンドをアガロースゲル上からメスで切り出し、Wizard(登録商標)SV Gel and PCR Clean-UP
System(Promega社製)を用いてcDNAを抽出した。操作は、当該システムに添付されているプロトコールに従った。
【0176】
得られた各精製済みDNA断片4μL、T-Vector pMD19(TaKaRa Bio社製)1μL、及びDNA ligation Kit Mighty Mix(TaKaRa社製)5μLを混合し、反応温度16℃で30分間のライゲーション反応を行った。このライゲーション溶液を用いてEscherichia coli DH5αを形質転換した。
【0177】
挿入されたDNA 断片の塩基配列を取得するために、得られたプラスミド約100ng を用いてBigDye(登録商標)Terminator v3.1/1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems
社製)によるシークエンス反応を行った。得られた試料をABI PRISM(商標)genetic an
alyzerに供することにより各遺伝子配列を確認した。
【0178】
挿入された遺伝子配列を確認したところ、AtP2CRの遺伝子配列は配列番号1に示す配列であり、コードされるアミノ酸配列は配列番号2で示される配列であることが確認された。また、MaP2CRの遺伝子配列は配列番号3に示す配列であり、コードされるアミノ酸配列は配列番号4であること、LjP2CRの遺伝子配列は配列番号5に示す配列であり、コードされるアミノ酸配列は配列番号6であることが確認された。
【0179】
(2)発現ベクターの調製
上記(1)でpMD19にサブクローニングした候補遺伝子AtP2CR、MaP2CR及びLjP2CRを各
制限酵素で処理し、マルチクローニングサイトから切断した。電気泳動により消化確認後、目的とするDNA断片を切り出し、精製した後、同様に制限酵素処理を行った大腸菌発現
用ベクターであるpGEX 4T-1ベクター(TaKaRa社製)に精製したクローンのDNA断片を上記(1)と同様にライゲーション及び形質転換を行った。約18時間後、形成されたコロニーをLB液体培地(100μg/mL アンピシリン)2mLで生育させ、上記(1)と同様にプラスミ
ド抽出、制限酵素処理を行って挿入配列を確認した。構築された発現ベクターをそれぞれpGEX-AtP2CR、pGEX-MaP2CR、pGEX-LjP2CRと名付けた。各ベクターによって発現される酵素はいずれもGST融合型タンパク質であった。GST融合型AtP2CRの遺伝子配列は配列番号7に示す配列であり、コードされるアミノ酸配列は配列番号8であること、GST融合型MaP2CRの遺伝子配列は配列番号9に示す配列であり、コードされるアミノ酸配
列は配列番号10であること、GST融合型LjP2CRの遺伝子配列は配列番号11に示す配列
であり、コードされるアミノ酸配列は配列番号12であることが確認された。
【0180】
(3)組換え菌の培養
上記(2)で作製した発現ベクターを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換した。約18時間後、形成されたコロニーを爪楊枝で突き、LB液体培地(100μL/mL アンピシリン)2mLに入れ、一晩培養して前培養液とした。前培養液500μLをLB液体培地(100μg/mL アンピシリン)50mLに加え、培養温度37℃、225rpmで濁度(OD600)が0.5前後にな
るまで培養した後、終濃度0.1mMになるようにIPTGを加えた。これを培養温度18℃、150rpmで約18時間培養した。ネガティブコントロールとして外来遺伝子が挿入されていないベ
クターを用いて、同様の発現操作を行った。
【0181】
(4)遺伝子発現の確認
上記(3)で得られた各可溶性タンパク質画分をGST-Tagged Protein Purification Kit(Clontech Laboratories社製)を用いて精製(GST-tag精製)して酵素液を得た。操作
は、当該キット付属のプロトコールに従った。
【0182】
GST-tag精製して得られた酵素液(可溶性タンパク質)をSDS-PAGEに供し、目的タンパ
ク質の発現を確認した。その結果、各組換え酵素の分子量は、それぞれ約25kDaのタグが
付加された約60kDaであることが確認された。
【0183】
<実施例2>(植物由来イミン還元酵素の活性確認)
(1)酵素反応
実施例1で得られた各酵素液(P2CR精製組換え酵素液)を用いて、酵素反応を行った。反応容器として1.5mLエッペンドルフチューブを用い、酵素反応溶液の体積は100μLで行
った。基質となるPipC2は市販されていないため、後述の参考例1で得られたアミノ基転
移酵素MaALD1を用いてL-リジンから酵素合成したものを用いた。表2にPipC2酵素反応の
組成を示す。
【0184】
【表2】
【0185】
酵素反応は、振とう恒温器(アズワン社製)を用いて、反応温度30℃、1,000rpmで振とうさせて行った。反応時間は120分とした。反応温度98℃で5分間加熱することにより酵素を失活させて反応を停止した。その後、室温で15,000rpmで、10分間遠心分離し、得られ
た上清をPipC2酵素合成溶液とした。
【0186】
このPipC2酵素合成溶液に、終濃度10mMとなるように*NADPHを加え、実施例1で得られ
た各P2CR精製組換え酵素を20μL加え、上記酵素MaALD1を用いた反応と同様の条件で反応
を行い、酵素反応物を得た。
【0187】
(2)酵素反応物の解析
液体クロマトグラフィー-質量分析法(LCMS)によって酵素反応物の分析を行った。ま
ず、各サンプル(酵素反応物)の誘導体化処理を行った。AccQ・Tag Ultra Derivatization Kit(Waters社製)を用い、表3に示す配合で混合した。なお、Derivatizating reagent solutionは最後に加えた。混合後、55℃で10分間インキュベートした。
【0188】
【表3】
【0189】
誘導体化処理を行ったものを純水で2倍に希釈し、LCMS解析用サンプルとした。HPLC-MSの分析条件を表4に示す。
【0190】
【表4】
【0191】
酵素反応物をLCMS分析に供して活性を確認したところ、標品のL-PipAと同じリテンションタイムかつMSパターンの新規ピークを確認した。また、コントロールではPipAを検出することはできなかった。
この結果から、AtP2CR、MaP2CR及びLjP2CRはPipC2を還元しPipAへと変換する能力を有
することが明らかとなった。
【0192】
生成したPipAがD体かL体かを決定するため、キラルカラムAstec CLC-D 4.6×150mm(5
μm)(Sigma-Aldrich社製)を用いてHPLC分析に供した。その結果を図1に示す。シロイヌナズナ、ハマエンドウ及びカラヤマグワの3種の植物から取得したP2CRの酵素反応物はすべて、L-ピペコリン酸であることが明らかとなった。
【0193】
(3)酵素触媒活性の解析
実施例2(1)と同じ組成でPipC2酵素反応溶液を作製した。*NADPHは、酵素溶液を加
えた後のTotal Volumeである1mLにおいて終濃度が500μM、300μM、150μM、80μM、40μM、20μM及び10μMとなるようにPipC2酵素反応溶液にそれぞれ加え、最後に50mM Tris-HCl(pH7.2)をTotal Volumeが900μLとなるようにそれぞれの酵素反応溶液に加えた。これを反応溶液とした。
【0194】
これらの反応溶液それぞれに、実施例1で得られたAtP2CRの精製組換え酵素液を100μL加え反応を開始した。反応開始時点から340nmの吸光度を測定し、10分間測定を行った。
同じ実験を3回実施し、平均値を算出した。
【0195】
得られた測定値から反応速度を算出した。算出した反応速度を用いてHanes-Woolf plot(Hanes CS., (1932),vol.26, 5, 1406, Biochemical Journal)により各速度論パラメ
ーター(ミカエリス定数Km及び最大反応速度Vmax)を算出した。
【0196】
LjP2CRについても、AtP2CRと同様にして、反応、測定及び算出を行った。
MaP2CRについては、上記*NADPH濃度が、80μM、40μM、20μM、10μM、2μM、1μΜ及
び0.5μMの条件で反応を行ったこと以外は、AtP2CRと同様にして、測定及び算出を行った。
【0197】
測定した吸光度変化を*NADPHのモル吸光係数 6.3×10(1/mmol・cm)を用いて、*NADPHの濃度変化に変換した。この値より*NADPHの減少における反応速度(μM/s)を計算した
。なお、用いた吸光度の減少値は測定開始から直線性を持って減少する間の値を用いた。
【0198】
各*NADPH濃度において、基質濃度/反応速度の値をプロットすることにより、Hanes-Woolf plotの線形近似線を求めた。結果を図2に示す。図2中、(1)はAtP2CR、(2)はMaP2CR、(3)はLjP2CRである。3つのP2CRの結果すべてでR2が0.99であったことから信
頼性の高い結果が得られたと考えられる。Hanes-Woolf plotのグラフは、傾きが1/Vmax、x軸との交点が-Kmである。そして、Hanes-Woolfの式より最大反応速度Vmax及びKmを計算
した。AtP2CRはVmaxが208.73nmol/min/mg、Kmが33.42μMであり、MaP2CRはVmaxが24.00nmol/min/mg、Kmが6.16μMであり、LjP2CRはVmaxが199.55nmol/min/mg、Kmが170.24μMであった。
【0199】
またANEMONA(Hernandez and Ruiz, (1998) 14, 2, 227, Bioinformatics)により非線形回帰分析を行い、同様にVmax及びKmを計算した。ANEMONAによるMichaelis-Menten modelを図3に示す。図3中、(1)はAtP2CR、(2)はMaP2CR、(3)はLjP2CRである。AtP2CRはVmaxが215.5nmol/min/mg、Kmが34.29μMであり、MaP2CRはVmaxが21.2 nmol/min/mg
、Kmが3.57μMであり、LjP2CRはVmaxが187.3nmol/min/mg、Kmが155.03μMであった。
【0200】
Hanes-Woolf plotとANEMONAの2つの方法で求めたVmax及びKmの値は類似した値を取ったため、非線形回帰で求めた値の方が真のVmax及びKmに近い値であると考え、ANEMONAで求
めたVmax及びKmを採用することとした。
【0201】
【表5】
【0202】
PipA生産の産業用の酵素触媒として利用されている微生物Pseudomonus putida由来PipC2還元酵素 dpkAのVmaxは220 nmol/min/mg、Kmは140 μMであることが文献(Muramatsuら,
(2005), vol. 280, 7, 5329 THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY)に記載されてい
る。
【0203】
表5に示すように、当該文献から算出される触媒活性の指標Kcat/km値は56であるが、
本発明の酵素のKcat/km値はいずれもこれを上回る値だった。したがって、AtP2CR、MaP2CR及びLjP2CRはいずれもPipC2を還元しPipAへと変換する優れた能力を有しており、また酵素学的に安定で、優れた酵素触媒であることが分かった。
【0204】
<参考例1>(植物由来リジンアミノ基転移酵素MaALD1の調製)
(a)植物由来リジンアミノ基転移酵素遺伝子MaALD1のクローニング
発芽から約1ヵ月生育したカラヤマグワの葉からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてRNA抽出を行った。得られた全RNAから、ReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Master Mix with gDNA Remover(TOYOBO社製)を用いて、cDNAを合成した。
【0205】
得られたcDNAを鋳型にしてPCR反応を行った。プライマーはMaALD1-FW(GGATCCATGACGCATAATTATTCTCAG)(配列番号20)とMaALD1-RV(GTCGACTCATTTGTAAAGAGATTTTAGTC)(配
列番号21)を用いて行った。反応はTaKaRa Ex Taq(登録商標)Hot Start Version(TaKaRa社製)のプロトコールに基づいて行った。
【0206】
精製されたDNAをT-Vector pMD19(TaKaRa Bio社製)にクローニングした。配列解析の
結果、これがアミノ基転移酵素MaALD1(配列番号19)をコードする遺伝子であることを確認した。pMD19にサブクローニングしたMaALD1の遺伝子領域を制限酵素BamHIとSalIで処理し、マルチクローニングサイトから切断した。電気泳動により消化確認後、目的とするDNA断片を切り出し、精製した後同様に制限酵素処理を行った大腸菌発現用ベクターであ
るpCold ProS2ベクター(TaKaRa Bio社製)に精製したDNA断片をライゲーションした。その溶液を用いて大腸菌DH5αを形質転換することにより目的のプラスミドを構築した。得
られたプラスミドをpCold-MaALD1と名付けた。
【0207】
(b)組換え酵素の発現
上記(a)で作製した発現ベクターpCold-MaALD1を用いてEscherichia. coli(BL21株)を形質転換した。約18時間後、形成されたコロニーを爪楊枝で突き、LB液体培地(100
μL/mL アンピシリン)2mLに入れ、一晩培養して前培養液とした。前培養液500μLをLB液体培地(100μg/mL アンピシリン)50 mLに加え、培養温度37℃、225rpmで濁度(OD600)が0.5前後になるまで培養した。次に、pCold-MaALD1形質転換体を30分間氷上で静置し、終濃度0.1 mMになるようにIPTGを加えた。これを培養温度15℃、150rpmで約18時間培養した。
【0208】
(c)組換え酵素の精製
上記(b)で得られた培養液を50mL容量のファルコン(登録商標)チューブに移し、2,330×g、4℃で10分間遠心分離した。
【0209】
上清を捨て、菌体に1×PBS(phosphate-buffered saline)5mLを加え、ボルテックスにより再懸濁し、次いで、先の遠心分離と同条件で遠心分離することにより菌体を洗浄した。この操作を2回繰り返した。
【0210】
回収した菌体に、Sonication buffer {50 mM Tris-HCl(pH 7.5)、150 mM NaCl、10%
(v/v)Glycerol、5mM dithiothreitol(DTT)}4mLを加え、超音波破砕(50% duty、output 2、30秒間×2回)により菌体を破砕した。15,000rpm、4℃で、10分間遠心分離し、上
清を可溶性タンパク質画分、沈殿を不溶性タンパク質画分として得た。
【0211】
得られた可溶性タンパク質画分をHis-Tagged Purification Miniprep Kit(Clontech L
aboratories社製)を用いて精製することによりMaALD1を得た。
図1
図2
図3
【配列表】
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