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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20231117BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20231117BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
B01J23/63 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
F01N3/10 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019159780
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021037453
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴也
(72)【発明者】
【氏名】大石 隼輔
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/119904(WO,A1)
【文献】特開2014-200714(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204008(WO,A1)
【文献】特開2019-136695(JP,A)
【文献】特開平06-099069(JP,A)
【文献】国際公開第2014/002667(WO,A1)
【文献】特開2017-189735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73
B01D 53/86 - 53/90
B01D 53/94 - 53/96
F01N 3/10 - 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の上に設けられている触媒層と、を備え、
前記触媒層は、触媒金属と、前記触媒金属を担持している担持材料と、を含み、
前記担持材料は、酸素吸蔵能を有するOSC材と、OSC材以外の担体と、を含み、
前記OSC材の電子顕微鏡観察に基づく体積基準の平均粒子径Dxは、1.5μm以上であり、かつ、前記OSC材以外の担体の電子顕微鏡観察に基づく体積基準の平均粒子径Dyよりも大きく、
前記OSC材以外の担体の前記平均粒子径Dyは、0.7μm以上2μm以下である
排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記OSC材以外の担体の前記平均粒子径Dyに対する前記OSC材の前記平均粒子径Dxの比(Dx/Dy)が、1.3以上20以下である、
請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記OSC材を100質量部としたときに、前記OSC材以外の担体の含有割合が、25~200質量部である、
請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記OSC材の前記平均粒子径Dxが、15μm以下である、
請求項1~のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記OSC材がセリアを含むCe含有酸化物である、
請求項1~のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記OSC材以外の担体がアルミナを含むAl含有酸化物である、
請求項1~のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
前記触媒層は、前記基材の表面に形成されており、
前記触媒層の上に前記触媒層とは異なる種類の前記触媒金属を含む第2の触媒層が形成されている、
請求項1~のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項8】
前記触媒層は、前記触媒金属としてPdを含み、
前記第2の触媒層は、前記触媒金属としてRhを含む、
請求項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項9】
排ガスが流入する流入口から排ガスが流出する流出口に向かう排ガスの流れ方向において、前記触媒層は、上流側と下流側とに組成が異なる前記触媒層をそれぞれ備えている、
請求項1~のいずれか1項に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項10】
前記排ガスの流れ方向に前記触媒層を2分し、前記流入口に近い方を前段部とし、前記流出口に近い方を後段部としたときに、
前記前段部が、前記後段部よりも多くの前記OSC材以外の担体を含む、
請求項に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンなどの内燃機関から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)などの有害成分が含まれる。これら有害成分を排ガス中から効率よく捕集・除去するために、従来から排ガス浄化用触媒が利用されている。排ガス浄化用触媒に関連する従来技術文献として、例えば特許文献1~3が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、触媒層におけるガス拡散性・混合性を高める目的で、粒度の異なる2種類以上の担体と、貴金属と、を含む触媒層を備えた排ガス浄化用触媒が開示されている。特許文献1には、大きな粒径の担体としてシリカ、アルミナを含む粒子を用い、小さな粒径の担体として、セリア、ジルコニアを含み、酸素吸蔵能(OSC:oxygen storage capacity)を有する酸素吸蔵材(OSC材)を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2015/037613号公報
【文献】特開平9-253454号公報
【文献】特開2017-189735号公報
【発明の概要】
【0005】
OSC材は、排ガスの空燃比がリーン(すなわち、理論空燃比よりも酸素過剰の雰囲気)であるときに排ガス中の酸素を吸蔵し、排ガスの空燃比がリッチ(すなわち、理論空燃比よりも燃料過剰の雰囲気)であるときに吸蔵されている酸素を放出するという、雰囲気変動を緩和する作用を奏する。これにより、例えば自動車の走行条件などによって排ガスの空燃比が変動したときでも安定した触媒性能を実現することができる。OSC材の一例として、CeO-ZrO系複合酸化物が挙げられる。
【0006】
ところで近年、少ない貴金属量で排ガスの浄化を保証する観点から、排ガス浄化用触媒には耐熱性の向上が望まれている。しかし、従来の排ガス浄化用触媒では、使用を重ねる度に排ガス浄化性能が低下するという問題があった。本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、この主な要因の一つとして、OSC材の耐熱性の低さが考えられた。すなわち、排ガス浄化用触媒が高温の排ガスに長期間曝されると、OSC材がシンタリングによって粗大化し、比表面積が減少する。OSC材の比表面積が低下することで、外気と酸素をやり取りする活性点の数が減少し、速度が低下する。また、シンタリングに伴って構造欠陥の数が減少して(例えば、OSC材としてのCeO-ZrO系複合酸化物が分相して)、OSC量が低下する。またこのとき、排ガス浄化用触媒に吸蔵能力以上の酸素が流入すると、OSC能の低下により、三元活性が最も高いストイキ状態を保てなくなる。その結果、排ガスが酸素過剰の雰囲気となり、排ガス浄化性能、特にはNOxの浄化性能が大きく低下する。また、担体の劣化とともに貴金属のシンタリングが起こり、貴金属の表面積の低下に伴って触媒活性は低下する。貴金属自体の酸化還元状態の変化によっても貴金属のシンタリングも進行するため、担体の耐熱性、特にはOSC材の耐熱性を高めることが重要である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、OSC材の耐熱性が高く、耐久性が向上した排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【0008】
本発明により、基材と、上記基材の上に設けられている触媒層と、を備える排ガス浄化用触媒が提供される。上記触媒層は、触媒金属と、上記触媒金属を担持している担持材料と、を含む。上記担持材料は、酸素吸蔵能を有するOSC材と、OSC材以外の担体と、を含む。上記OSC材の電子顕微鏡観察に基づく体積基準の平均粒子径Dxは、1.5μm以上であり、かつ、上記OSC材以外の担体の電子顕微鏡観察に基づく体積基準の平均粒子径Dyよりも大きい。
【0009】
OSC材の粒径とOSC材以外の担体の粒子径とを相互に異ならせることで、反応が起こりやすい、”粒子の表面(界面)”を増やすことができる。ここでの粒子は、触媒層を構成する、触媒金属、OSC材、非OSC材のすべての粒子を指す。触媒層内で界面が増えることで、触媒層と排ガスとの接触性を向上することができる。また、本発明者らの検討によれば、OSC材は粒子径と耐熱性との相関が強い。すなわち、OSC材は粒子径が大きくなるほど耐熱性が高くなる傾向にある。このため、OSC材の粒子径をOSC材以外の担体よりも大きくすることにより、OSC材の耐熱性が高められる。したがって、上記構成では、使用を重ねてもOSC材が安定して酸素吸蔵能を発揮することができる。その結果、上記排ガス浄化用触媒では触媒性能が低下しにくく、優れた耐久性を実現することができる。
【0010】
本発明の好適な一態様では、上記OSC材以外の担体の上記平均粒子径Dyに対する上記OSC材の上記平均粒子径Dxの比(Dx/Dy)が、1.3以上20以下である。これにより、触媒層内のガス拡散性や、排ガスとOSC材との接触性を向上することができる。
【0011】
本発明の好適な一態様では、上記OSC材を100質量部としたときに、上記OSC材以外の担体の含有割合が、25~200質量部である。これにより、上記した効果を好適に発揮することができる。
【0012】
本発明の好適な一態様では、上記OSC材以外の担体の上記平均粒子径Dyが、3μm以下である。これにより、触媒層の耐久性や耐熱性を好適に向上することができる。
【0013】
本発明の好適な一態様では、上記OSC材の上記平均粒子径Dxが、15μm以下である。これにより、排ガスと触媒層(例えばOSC材)との接触を広く確保することができ、排ガス浄化性能を好適に向上することができる。
【0014】
本発明の好適な一態様では、上記OSC材がセリアを含むCe含有酸化物である。OSC材がセリアを含むことで、酸素吸蔵能を好適に高めることができる。
【0015】
本発明の好適な一態様では、上記OSC材以外の担体がアルミナを含むAl含有酸化物である。OSC材以外の担体がアルミナを含むことで、耐熱性を好適に高めることができる。
【0016】
本発明の好適な一態様では、上記触媒層は、上記基材の表面に形成されており、上記触媒層の上に上記触媒層とは異なる種類の上記触媒金属を含む第2の触媒層が形成されている。これにより、排ガス浄化性能を一層向上することができる。
【0017】
本発明の好適な一態様では、上記触媒層は、上記触媒金属としてPdを含み、上記第2の触媒層は、上記触媒金属としてRhを含む。これにより、排ガス浄化性能を一層向上することができる。
【0018】
本発明の好適な一態様では、排ガスが流入する流入口から排ガスが流出する流出口に向かう排ガスの流れ方向において、上記触媒層は、上流側と下流側とに組成が異なる上記触媒層をそれぞれ備えている。これにより、酸素吸蔵能と耐熱性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0019】
本発明の好適な一態様では、上記排ガスの流れ方向に上記触媒層を2分し、上記流入口に近い方を前段部とし、上記流出口に近い方を後段部としたときに、上記前段部が、上記後段部よりも多くの上記OSC材以外の担体を含む。これにより、触媒層の耐久性(特に耐熱性)を向上して、長期にわたり酸素吸蔵能と耐熱性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1実施形態に係る排ガス浄化システムを示す模式図である。
図2】第1実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図3】第1実施形態に係る触媒層の構成を模式的に示す部分断面図である。
図4】第2実施形態に係る触媒層を模式的に示す断面図である。
図5】担持材料の平均粒子径の比(Dx/Dy)とNOx-T50との関係を示すグラフである。
図6】非OSC材の平均粒子径DyとNOx-T50との関係を示すグラフである。
図7】OSC材の平均粒子径DxとNOx-T50との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0022】
図1は、排ガス浄化システム1の模式図である。排ガス浄化システム1は、内燃機関2と排ガス浄化装置3とを備えている。排ガス浄化システム1は、内燃機関2から排出される排ガスに含まれる有害成分、例えば、HC、CO、NOxを排ガス浄化装置3で浄化するものである。なお、図中の矢印は排ガスの流れ方向を示している。また、以下の説明では、排ガスの流れに沿って内燃機関2に近い側を上流側、内燃機関2から遠ざかる側を下流側という。
【0023】
内燃機関2には、酸素と燃料ガスとを含む混合気が供給される。内燃機関2は、この混合気を燃焼させ、燃焼エネルギーを力学的エネルギーへと変換する。燃焼された混合気は排ガスとなって排ガス浄化装置3に排出される。本実施形態において、内燃機関2はガソリン車両のガソリンエンジンを主体として構成されている。ただし、内燃機関2はガソリンエンジン以外のエンジンであってもよい。内燃機関2は、例えばディーゼルエンジンであってもよく、ハイブリッド車に搭載されるエンジンであってもよい。
【0024】
排ガス浄化装置3は、排気経路4と、エンジンコントロールユニット(Engine Control Unit:ECU)7と、センサ8と、第1触媒9と、第2触媒10と、を備えている。排気経路4には、排ガスが流通する。本実施形態の排気経路4は、エキゾーストマニホールド5および排気管6を備えている。エキゾーストマニホールド5の一端(上流側の端部)は、内燃機関2の排気ポート(図示せず)に接続されている。エキゾーストマニホールド5の他端(下流側の端部)は、排気管6に接続されている。排気管6の途中には、上流側から順に、第1触媒9と第2触媒10とが配置されている。ただし、第1触媒9と第2触媒10との配置は任意に可変であってよい。また、第1触媒9と第2触媒10との個数は特に限定されず、それぞれ複数個が設けられてもよい。また、第2触媒10の下流側には、さらに第3触媒が配置されていてもよい。
【0025】
第1触媒9の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。第1触媒9は、例えば、従来公知の酸化触媒(DOC)、三元触媒、HC選択還元型NOx触媒、NOx吸蔵還元触媒(LNT)、尿素選択還元型NOx触媒などであってもよい。第1触媒9は、例えば第2触媒10に流入する排ガスの温度を上昇させる機能を有していてもよい。なお、第1触媒9は必ずしも必要の構成ではなく、省略することもできる。第2触媒10は、ここに開示される排ガス浄化用触媒の一例である。第2触媒10の構成については、後に詳述する。
【0026】
ECU7は、内燃機関2と排ガス浄化装置3とを制御する。ECU7は、内燃機関2や排ガス浄化装置3の各部位に設置されているセンサ(例えば、酸素センサや、温度センサ、圧力センサ)8と電気的に接続されている。センサ8で検知した情報は、入力ポート(図示せず)を介して電気信号としてECU7に受信される。ECU7は、例えば、ガソリン車両の運転状態や、内燃機関2から排出される排ガスの量、温度、圧力等の情報を受信する。ECU7は、例えば受信した情報に応じ、出力ポート(図示せず)を介して制御信号を送信する。ECU7は、内燃機関2の燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御を実施する。また、ECU7は、内燃機関2の運転状態や内燃機関2から排出される排ガスの量などに応じて、排ガス浄化装置3の駆動と停止とを制御する。なお、ECU7の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。ECU7は、例えば、プロセッサや集積回路である。
【0027】
図2は、排ガス浄化用触媒10の斜視図である。なお、図2では、左側が排気経路4の上流側(フロント側)であり、右側が排気経路4の下流側(リア側)である。また、符号Xは、排ガス浄化用触媒10の筒軸方向、言い換えれば排ガスの流れ方向を表している。排ガス浄化用触媒10は、筒軸方向Xが排ガスの流れ方向に沿うように排気経路4に設置されている。以下では、筒軸方向Xのうち、一の方向X1を上流側(排ガスの入側、フロント側)といい、他の方向X2を下流側(排ガスの出側、リア側)ということがある。
【0028】
排ガス浄化用触媒10は、ストレートフロー構造の基材11と、触媒層20(図3参照)と、を備えている。本実施形態において、基材11は、ハニカム構造を有している。基材11は、筒軸方向Xに規則的に配列された複数のセル(空洞)12と、複数のセル12を仕切る隔壁(リブ)14と、を備えている。排ガス浄化用触媒10の一の方向X1の端部は排ガスの流入口10aであり、他の方向X2の端部は排ガスの流出口10bである。
【0029】
基材11は、排ガス浄化用触媒10の骨組みを構成している。基材11としては特に限定されず、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材及び形態のものが使用可能である。基材11は、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素等のセラミックス製や、ステンレス鋼などの合金製のような高耐熱性のものを好適に使用することができる。本実施形態において、基材11の外形は円筒形状である。ただし、基材11の外形は特に限定されず、例えば、楕円筒形状、多角筒形状、フォーム状、ペレット形状、繊維状などであってもよい。基材11の体積(セル12の容積を含んだ見掛けの体積)は、概ね0.1~5L、例えば0.5~2L程度であるとよい。特に限定されるものではないが、基材11の筒軸方向Xに沿う長さ(全長)は、概ね20~500mm、例えば50~200mm程度であるとよい。
【0030】
セル12は、排ガスの流路となる。セル12は、筒軸方向Xに延びている。セル12は、基材11を筒軸方向Xに貫通する貫通孔である。セル12の形状、大きさおよび数等は、例えば排ガス浄化用触媒10に供給される排ガスの流量や成分などを考慮して設計することができる。セル12の筒軸方向Xに直交する断面の形状は特に制限されない。セル12の断面形状は、例えば、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形や、その他の多角形(例えば、三角形、六角形、八角形)、円形状など種々の幾何学形状であってよい。基材11には、セル12を区画する隔壁14が含まれる。隔壁14は、セル12に面し、隣り合うセル12の間を区切っている。特に限定されるものではないが、隔壁14の厚み(表面に直交する方向の寸法。以下同じ。)は、圧損を低減する観点などから、概ね0.1~30ミル(1ミルは約25.4μm)、例えば1~10ミル程度であるとよい。
【0031】
図3は、排ガス浄化用触媒10を筒軸方向Xに沿って切断した断面の一部を拡大した部分断面図である。本実施形態において、触媒層20は、基材11の表面(具体的には、隔壁14の上)に設けられている。触媒層20は、典型的には連通した多数の空隙を有する多孔質体である。触媒層20は、排ガスを浄化する場である。排ガス浄化用触媒10に流入した排ガスは、排ガス浄化用触媒10の流路内(セル12)を流動している間に触媒層20と接触する。これによって、排ガス中の有害成分が浄化される。例えば、排ガスに含まれるHCやCOは、触媒層20の触媒機能によって酸化され、水や二酸化炭素などに変換(浄化)される。また、例えばNOxは、触媒層20の触媒機能によって還元され、窒素に変換(浄化)される。
【0032】
触媒層20は、図示しない触媒金属と、触媒金属を担持する担持材料21と、を備えている。触媒金属は、担持材料21の表面に担持されている。触媒金属としては、有害成分の浄化にあたり酸化触媒や還元触媒として機能し得る種々の金属種を使用可能である。触媒金属の典型例としては、白金族、すなわち、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)が挙げられる。また、白金族にかえて、あるいは白金族に加えて、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属など、他の金属種を使用してもよい。例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの金属種を使用してもよい。また、これらの金属のうち2種以上が合金化したものを用いてもよい。なかでも、酸化活性が高い酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)および還元活性が高い還元触媒(例えばRh)が好適であり、特にこれらを2種以上組み合わせることが好ましい。酸化触媒および還元触媒は、同じ(単一の)触媒層に存在していてもよい。
【0033】
触媒金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から、十分に小さい粒径の微粒子として使用されることが好ましい。触媒金属の平均粒子径(透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)観察により求められる粒径の平均値。)は、概ね1~15nm、例えば10nm以下、さらには5nm以下であるとよい。触媒金属の担持量は、酸化物に換算して、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね20g以下、典型的には1.5~10g、例えば2.5g~5.5gであるとよい。触媒金属触媒の含有量を低減することによって、コストの削減を実現することができる。触媒金属は、筒軸方向Xに沿って均一に担持されていてもよいし、例えば上流側から下流側に向かって担持量が段階的に変化していてもよい。
【0034】
担持材料21は、触媒金属を担持している。担持材料21は、典型的には粉末状(粒子状)である。担持材料21は、比表面積が大きい無機多孔質体であるとよい。担持材料21としては、例えば、耐熱性に優れた金属酸化物やその固溶体が好ましく用いられる。担持材料21の典型例としては、酸化アルミニウム(Al、アルミナ)、酸化チタン(TiO、チタニア)、酸化ジルコニウム(ZrO、ジルコニア)、酸化ケイ素(SiO、シリカ)や、酸化イットリウム(Y、イットリア)、酸化ランタン(La)、酸化セリウム(CeO、セリア)、酸化ネオジウム(Nd)などの希土類金属酸化物、酸化マグネシウム(MgO、マグネシア)などのアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属酸化物、および、これらの固溶体、例えば、セリアとジルコニアとを含むCeO-ZrO系複合酸化物、酸化ランタンとアルミナとを含むLa-Al系複合酸化物などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
本実施形態において、担持材料21は、酸素吸蔵能を有するOSC材22と、OSC材以外の担体(以下、非OSC材ともいう。)23と、を含んでいる。非OSC材23は、酸素吸蔵能を有しない。OSC材22と非OSC材23との表面には、それぞれ触媒金属が担持されている。これにより、例えばOSC材22または非OSC材23のいずれか一方のみに触媒金属を担持する場合に比べて、相対的に触媒金属をより良く分散担持することができる。したがって、触媒金属の劣化(例えば粒成長に伴うシンタリング)を抑制して、排ガス浄化用触媒10の耐久性を向上することができる。
【0036】
OSC材22と非OSC材23との組成は、典型的には異なっている。非OSC材23は、酸化還元に伴う構造変化が相対的に生じにくいことから、典型的にはOSC材22よりも耐熱性高い。なお、担持材料21の耐熱性は、例えば特定温度(例えば1000℃)に曝した後の比表面積の低下の度合いで確認することができる。排ガス浄化用触媒10の使用に伴う経年的な劣化を抑制する観点からは、OSC材22と非OSC材23とで、主体(質量比で最も多くの割合を占める成分、好ましくは50質量%以上を占める成分。)となる成分(例えば酸化物)が異なっているとよい。
【0037】
OSC材22は、酸素吸蔵能が高いセリアを含んだ金属酸化物(Ce含有酸化物)であってもよい。OSC材22は、例えばジルコニウム、チタン、またはケイ素を主体として構成されていてもよい。Ce含有酸化物は、セリアおよび、セリアとセリア以外の金属酸化物との複合酸化物のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。OSC材22の耐熱性を向上する観点からは、CeO-ZrO系複合酸化物が好適である。CeO-ZrO系複合酸化物は、CeリッチであってもよくZrリッチであってもよい。CeO-ZrO系複合酸化物の全体を100質量%としたときに、セリアの混合割合は、概ね1~60質量%、典型的には5~55質量%、好ましくは10~50質量%、例えば15~45質量%であるとよい。セリアの混合割合が所定値以上であると、酸素吸蔵能が向上する。セリアの混合割合が所定値以下であると、耐熱性が向上する。上記範囲であると、酸素吸蔵能と耐熱性とを高いレベルで兼ね備えることができる。また、耐熱性を向上する観点から、CeO-ZrO系複合酸化物は、CeO以外の金属酸化物、例えば希土類金属酸化物をさらに含んでいてもよい。
【0038】
いくつかの態様において、非OSC材23は、耐久性(特に耐熱性)が高い無機酸化物であってもよい。例えば、Alを含んだ金属酸化物(Al含有酸化物)や、Zrを含んだ金属酸化物(Zr含有酸化物)であってもよい。非OSC材23の耐熱性を向上する観点からは、非OSC材23が、無機酸化物(例えばアルミナやジルコニア)を主体として構成されていてもよい。耐熱性の高い無機酸化物を主体とすることで、例えば平均粒子径が小さくても、耐熱性を高く保つことができる。アルミナは、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、α-アルミナなどであってもよい。Al含有酸化物は、例えば、アルミナおよび、アルミナとアルミナ以外の金属酸化物(例えば希土類金属酸化物)との複合酸化物のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。アルミナを含む複合酸化物の全体を100質量%としたときに、アルミナ以外の金属酸化物の混合割合は、概ね50質量%未満、典型的には0.1~20質量%、例えば1~10質量%であってもよい。また、非OSC材23がAl含有酸化物である場合、OSC材22はアルミナを含まない金属酸化物(非Al酸化物)であってもよい。
【0039】
本実施形態では、OSC材22と非OSC材23とで平均粒子径が異なっている。詳しくは、OSC材22の平均粒子径Dxが、非OSC材23の平均粒子径Dyよりも大きい。すなわち、DxとDyとが、Dy<Dxを満たしている。なお、本明細書において、触媒層20における担持材料21の「平均粒子径Dx、Dy」とは、触媒層20の断面を電子顕微鏡観察し、得られた観察画像を画像処理ソフトウエアImage Jで解析することによって求められる体積基準の体積頻度分布において、小粒径側から累積50%に相当する粒径である。詳しい算出方法については、実施例で述べる。
【0040】
非OSC材23の平均粒子径Dyに対するOSC材22の平均粒子径Dxの比(Dx/Dy)は、1を超え、概ね1.1以上、1.2以上、好ましくは1.3以上、例えば1.5以上であって、概ね50以下、例えば20以下、15以下、10以下、7以下、5以下であるとよい。上記比を所定値以上とすることで、触媒層20を適度に緻密化して、触媒層20の厚みを薄くすることができる。これにより、圧損を低減することができる。上記比を所定値以下とすることで、触媒層20が緻密になり過ぎることを抑制して、触媒層20内のガス拡散性や、排ガスとOSC材22との接触性を向上することができる。
【0041】
OSC材22の平均粒子径Dxは、1.5μm以上である。典型的には平均粒子径Dxが大きいほど、耐熱性は向上する傾向にある。よって、平均粒子径Dxを所定値以上とすることで、OSC材22に所定以上の耐熱性を付与することができる。OSC材22の平均粒子径Dxは、好ましくは1.6μm以上、例えば1.65μm以上、1.7μm以上、1.8μm以上、1.9μm以上、1.95μm以上であって、概ね20μm以下、好ましくは15μm以下、14μm以下、例えば10μm以下、5μm以下、4μm以下であるとよい。Dxの値を上記範囲とすることで、排ガスと触媒層20(例えばOSC材22)との接触を広く確保することができ、浄化性能を向上することができる。したがって、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0042】
特に限定されるものではないが、非OSC材23の平均粒子径Dyは、概ね0.1μm以上、好ましくは0.3μm以上、例えば0.5μm以上、0.7μm以上であって、概ね5μm以下、好ましくは3μm以下、例えば2μm以下、1.5μm以下であるとよい。Dyの値を上記範囲とすることで、触媒層20(特には非OSC材23)の耐久性や耐熱性を好適に向上することができる。また、触媒層20が緻密になり過ぎることを抑制して、触媒層20内のガス拡散性を向上することができる。したがって、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0043】
触媒層20では、例えば、OSC材22が主体をなしていてもよく、非OSC材23が主体をなしていてもよい。特に限定されるものではないが、触媒層20において、OSC材22を100質量部としたときに、非OSC材23の含有割合は、概ね5質量部以上、好ましくは10質量部以上、20質量部以上、例えば25質量部以上であって、概ね500質量部以下、好ましくは300質量部以下、例えば200質量部以下であるとよい。上記範囲とすることで、触媒層20が緻密になり過ぎることを抑制して、触媒層20内のガス拡散性や、排ガスとOSC材22との接触性を向上することができる。
【0044】
特に限定されるものではないが、触媒層20における担持材料21の成形量(コート量)は、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね30~300g、好ましくは50~200g、例えば100~150gであるとよい。触媒層20におけるOSC材22のコート量は、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね5~200g、好ましくは30~150g、例えば40~80gであるとよい。触媒層20における非OSC材23のコート量は、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね10~200g、好ましくは30~150g、例えば40~80gであるとよい。コート量を所定値以上とすることで、触媒層20が緻密になり過ぎることを抑制して、触媒層20内のガス拡散性を向上することができる。コート量を所定値以下とすることで、触媒層20の圧損を低減することができる。上記範囲を満たすことにより、圧損の低減と排ガス浄化性能の向上とを高いレベルで兼ね備えることができる。なお、本明細書において「成形量」とは、単位体積あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0045】
触媒層20は、触媒金属と担持材料21の他に、適宜に任意成分を含んでもよい。触媒層20が、触媒金属として酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含む場合などには、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)などのアルカリ土類元素を含むことが好ましい。これにより、リーン雰囲気での酸素吸収量をさらに向上させることができる。また、酸化触媒の被毒が好適に抑えられ、触媒活性を向上することができる。さらに、酸化触媒の分散性が高められて、酸化触媒の粒成長をより高いレベルで抑制することができる。アルカリ土類元素は、典型的には酸化物の形態で触媒層20に存在する。アルカリ土類元素の含有量は、硫酸バリウムに換算して、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね0.1~30g、好ましくは0.5~20g、例えば1~15gであるとよい。また、OSC材22を100質量部としたときに、アルカリ土類元素の含有量は、概ね10~200質量部、好ましくは20~150質量部、例えば30~150質量部であるとよい。
【0046】
その他、触媒層20に含みうる任意成分の一例としては、例えば、触媒金属が担持されていないOSC材、触媒金属が担持されていない非OSC材、NOx吸蔵能を有するNOx吸着材、安定化剤などが挙げられる。いくつかの態様において、触媒層20は安定化剤を含む。安定化剤としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)などのCe以外の希土類元素が挙げられる。これにより、触媒機能を阻害せずに、高温における触媒層20の比表面積を向上することができる。希土類元素は、典型的には酸化物の形態で触媒層20に存在する。
【0047】
触媒層20の厚みは、例えば基材11のセル12の大きさ等に応じて、適宜設計することができる。いくつかの態様において、触媒層20の厚みは、概ね5~500μm、好ましくは10~200μm、例えば30~100μmである。これにより、圧損の低減と排ガス浄化性能の向上とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0048】
触媒層20は、必ずしも基材10の筒軸方向Xの全長にわたって均一でなくてもよい。筒軸方向Xにおいて、触媒層20は、連続的にあるいは断続的に、基材10の全長の概ね20%以上、好ましくは40~100%、例えば50~80%に当たる部分に設けられていてもよい。これにより、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0049】
排ガス浄化用触媒10は、触媒層を2層以上備えていてもよい。この場合、そのうちの少なくとも1層が触媒層20の構成を満たせばよい。触媒層20は、1層あるいは2層以上であってもよい。また、触媒層20以外の触媒層や、触媒層ではない層、例えば触媒金属を含まない層などが存在していてもよい。排ガス浄化用触媒10は、例えば筒軸方向Xに触媒層20とは異なる他の触媒層を備えていてもよい。いくつかの態様において、排ガス浄化用触媒10は、基材11の部分ごと、例えば筒軸方向Xの上流側X1と下流側X2とに異なる組成の触媒層が設けられていてもよい。その場合、触媒層20はいずれの部分にあってもよい。触媒層20は、例えば、排ガスの流入口10aから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよいし、排ガスの流出口10bから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよい。
【0050】
なお、排ガス浄化用触媒10の製造方法は、触媒層形成用スラリーに用いる担持材料21の平均粒子径を予め調整すること以外、従来と同様であってよい。排ガス浄化用触媒10は、例えば以下のような方法で製造することができる。すなわち、まず基材11と、触媒層20を形成するためのスラリーと、を用意する。スラリーは、形成する層ごとに、それぞれ必要に応じて別個に用意するとよい。触媒層形成用スラリーについては、触媒金属源(例えば、触媒金属をイオンとして含む溶液)と、上記した2種類の担持材料21(すなわち、OSC材22と非OSC材23)とを必須の原料成分として含み、その他の任意成分、例えば、バインダ、各種添加剤などを、分散媒に分散させて調製するとよい。バインダとしては、例えば、アルミナゾル、シリカゾルなどを使用しうる。分散媒としては、例えば水や水系溶媒を使用しうる。スラリーの性状、例えば粘度や固形分率などは、使用する基材11のサイズや、セル12(隔壁14)の形態、触媒層20への要求特性などによって適宜調整することができる。
【0051】
触媒層形成用スラリーに用いる(原料としての)担持材料21の平均粒子径は、例えば従来公知の湿式粉砕や乾式粉砕によって予め調整することが好ましい。触媒層形成用スラリーに用いる(原料としての)担持材料21全体の平均粒子径は、概ね0.01~50μm、好ましくは0.05~30μm、例えば0.1~20μmに調整するとよい。非OSC材23の(原料としての)平均粒子径Dbは、概ね0.01μm以上、好ましくは0.05μm以上、例えば0.1μm以上であって、概ね10μm以下、好ましくは5μm以下、さらには3μm以下、2μm以下、例えば1μm以下に調整するとよい。OSC材22の(原料としての)平均粒子径Daは、典型的には非OSC材23の平均粒子径Dbよりも大きく、概ね1μm以上、好ましくは2μm以上、例えば4μm以上であって、概ね30μm以下、好ましくは20μm以下、例えば15μm以下に調整するとよい。
【0052】
非OSC材23の平均粒子径Dbに対するOSC材22の平均粒子径Daの比(Da/Db)は、1を超えて、好ましくは1.2以上、1.3以上、1.5以上、例えば2以上、さらには5以上であって、概ね100以下、90以下、好ましくは50以下、40以下、例えば20以下、15以下であるとよい。これにより、上記した焼成後の触媒層20の構成、例えば次の関係:(非OSC材23の平均粒子径Dy)<(OSC材22の平均粒子径Dx);を好適に実現することができる。また、触媒層20内にミクロンオーダーの空隙(例えば、直径が5~10μm程度の空隙)を多く形成することができ、排ガスの拡散性を向上することができる。なお、触媒層形成用スラリーにおける(原料としての)担持材料21の「平均粒子径Da、Db」とは、レーザー回折/散乱法により測定される体積基準の粒度分布において、小粒径側から累積50%に相当する粒径(体積球相当径)である。
【0053】
次に、調製した触媒層形成用スラリーを基材11の端部からセル12に流入させ、筒軸方向Xに沿って所定の長さまで供給する。スラリーは、流入口10aと流出口10bのいずれから流入させてもよい。例えば、流入口10aからスラリーを流入させ、下流側X2に向かって所定の長さまで供給してもよい。また、流出口10bからスラリーを流入させ、上流側X1に向かって所定の長さまで供給してもよい。このとき、余分なスラリーは、反対側の端部から吸引してもよい。また、反対側の端部から送風を行うなどして、余分なスラリーをセル12から排出させてもよい。その後、一つのスラリーを供給するごとに、スラリーを供給した基材11を所定の温度および時間で乾燥し、焼成してもよい。乾燥や焼成の方法は従来と同様であってよい。これにより、原料成分が焼結されて、基材11上に多孔質な触媒層20が形成される。以上のようにして、基材11の隔壁14の表面に触媒層20を形成することができる。
【0054】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態の排ガス浄化用触媒30を筒軸方向Xに沿って切断した断面を拡大した断面図である。本実施形態の排ガス浄化用触媒30は、基材31と、基材31の表面に設けられた多層構造の触媒層40と、を備えている。基材31については、上記した第1実施形態の基材11と同様であってよい。なお、以下では、筒軸方向Xに触媒層40を2分し、流入口10aに近い方を前段部、流出口10bに近い方を後段部ということがある。また、第1実施形態と共通する部分の説明を省略または簡略化し、主に第1実施形態とは異なる部分について説明する。
【0055】
触媒層40は、基材10の表面に接する下層41と、下層41の表面に設けられた上層42と、の少なくとも2層を有する積層構造に形成されている。本実施形態において、上層42は、触媒層40の積層構造における表層部分を構成している。ただし、触媒層40の積層方向において、例えば上層42の表面、下層41と上層42との間、基材31と下層41との間などには、1層あるいは2層以上の他の層がさらに設けられていてもよい。
【0056】
いくつかの態様では、少なくとも下層41が上記した第1実施形態の触媒層20の構成を満たしているとよい。例えば、下層41のみが上記した第1実施形態の触媒層20の構成を満たしていてもよく、下層41および上層42がそれぞれ上記した第1実施形態の触媒層20の構成を満たしていてもよい。ただし、上層42のみが上記した第1実施形態の触媒層20の構成を満たしていてもよい。下層41および上層42は、典型的にはそれぞれ、触媒金属と、触媒金属を担持する担持材料21と、を備える触媒層である。
【0057】
下層41は、触媒金属として、酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含んでいるとよい。上層42は、下層41と異なる種類の触媒金属、例えば還元触媒を含んでいるとよい。なかでも、下層41にPdを担持し、上層42にRhを担持するとよい。酸化触媒と還元触媒とを積層方向に分離して担持することにより、触媒金属の劣化(例えば粒成長に伴うシンタリング)を抑制して、排ガス浄化用触媒10の耐久性を向上することができる。上層42の触媒金属の担持量は、下層41の触媒金属の担持量よりも少なくてもよい。ただし、酸化触媒および還元触媒は、同一の層に存在していてもよい。例えば下層41および上層42に、酸化触媒および還元触媒をそれぞれ含んでいてもよい。
【0058】
本実施形態において、下層41は、筒軸方向Xの上流側X1に位置する入側下層41aと、下流側X2に位置する出側下層41bと、を備えている。入側下層41aと、出側下層41bとは、それぞれ上記した第1実施形態の触媒層20の構成を満たしている。ただし、下層41は、単層で構成されていてもよいし、1層あるいは2層以上の他の層をさらに含んでいてもよい。また、入側下層41aおよび出側下層41bのうちの一方は、上記した第1実施形態の触媒層20の構成を満たしていなくてもよい。入側下層41aおよび出側下層41bは、典型的にはそれぞれ、触媒金属と、触媒金属を担持する担持材料21と、を備える触媒層である。入側下層41aおよび出側下層41bの担持材料21は、それぞれ、OSC材22と、非OSC材23と、を含んでいてもよい。
【0059】
入側下層41aおよび出側下層41bは、相互に組成が異なっている。例えば、触媒金属の種類、触媒金属の担持量、担持材料21の種類、担持材料21のコート量、OSC材22のコート量、非OSC材23のコート量のうちの少なくとも1つが異なっている。いくつかの態様において、入側下層41aの触媒金属の担持量は、出側下層41bの触媒金属の担持量よりも多い。触媒金属の担持量は、後段部<前段部である。例えば、1.5倍以上、さらには2倍以上、例えば2~5倍多い。また、いくつかの態様において、触媒金属は、筒軸方向Xに沿って均一に担持されており、入側下層41aの触媒金属の担持量と、出側下層41bの触媒金属の担持量とが同じである。
【0060】
また、いくつかの態様において、入側下層41aの担持材料21のコート量は、出側下層41bの担持材料21のコート量よりも少ない。担持材料21のコート量は、後段部<前段部である。これにより、排ガスがセル12に流入するときの圧損を低減することができる。また、いくつかの態様において、入側下層41aのOSC材22のコート量は、出側下層41bのOSC材22のコート量よりも少ない。OSC材22のコート量は、前段部<後段部である。これとは逆に、入側下層41aの非OSC材23のコート量は、出側下層41bの非OSC材23のコート量よりも多い。非OSC材23のコート量は、後段部<前段部である。これにより、担持材料21の耐久性(特に耐熱性)を向上して、長期にわたり酸素吸蔵能と耐熱性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0061】
特に限定されるものではないが、入側下層41aは、流入口10aから筒軸方向Xに沿って、基材10の全長Lの概ね25%以上、好ましくは40~100%、例えば50~80%に当たる部分に連続的に設けられていてもよい。また、出側下層41bは、流出口10bから筒軸方向Xに沿って、基材10の全長Lの概ね25%以上、好ましくは40~100%、例えば50~80%に当たる部分に連続的に設けられていてもよい。図4では、入側下層41aが、基材10の流入口10aから流出口10bに向かって基材10の全長Lの50%に当たる部分(La=1/2L)に形成されている。出側下層41bが、基材10の流出口10bから流入口10aに向かって基材10の全長Lの50%に当たる部分(Lb=1/2L)に形成されている。下層41は、基材10の表面に、全長Lと同じ長さで連続的に形成されている。なお、入側下層41aと出側下層41bとは、筒軸方向Xの中央付近で一部が重なっていてもよい。筒軸方向Xの中央付近では、概ね1/10L~1/3L、例えば1/5L~1/4Lの長さで、入側下層41aと出側下層41bとが上下方向に積層され、入側下層41aと出側下層41bと上層42とが3層構造になっていてもよい。
【0062】
上層42の担持材料21は、OSC材22および非OSC材23を含んでいてもよいし、いずれかを含んでいなくてもよい。いくつかの態様では、下層41および上層42の双方にOSC材を含有させることにより、排ガスとOSC材22との接触性を向上して、雰囲気変動を緩和する作用を効果的に高めることができる。また、いくつかの態様において、上層42のOSC材22のコート量は、入側下層41aのOSC材22のコート量よりも多い。いくつかの態様において、上層42のOSC材22のコート量は、出側下層41bのOSC材22のコート量よりも少ない。いくつかの態様において、上層42の非OSC材23のコート量は、入側下層41aの非OSC材23のコート量よりも少ない。いくつかの態様において、上層42の非OSC材23のコート量は、出側下層41bの非OSC材23のコート量よりも多い。これにより、長期にわたり酸素吸蔵能と耐熱性とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0063】
以上のように、排ガス浄化用触媒10、30では、触媒層20、40内に好適な空隙が確保されると共に、OSC材22の耐熱性が高められている。したがって、上記構成では、排ガスとOSC材22との接触性が良好であり、かつ使用を重ねてもOSC材22が安定して酸素吸蔵能を発揮することができる。その結果、排ガス浄化用触媒10、30では触媒性能が低下しにくく、長期にわたって優れた浄化性能を実現することができる。
【0064】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0065】
[試験例1:単層における検討]
(例1)
本実施形態では、1種類のスラリーを用い、基材上に単層構造の触媒層を形成した。具体的には、まず、ハニカム基材(コージェライト製、容積:700mL、基材の全長:84mm、セル数:600セル、セル形状:六角形、隔壁の厚み:2ミル)を用意した。なお、以下の説明において、「L-cat」とは、排ガス浄化用触媒の体積(基材の体積)1Lあたりの固形分量を意味している。
【0066】
次に、担持材料として、次の2種類の粉末を用意した。そして、2種類の粉末を別々に湿式粉砕することにより、OSC材の平均粒子径Daを9μmに、非OSC材の平均粒子径Dbを0.5μmに、それぞれ調整した。なお、粉砕後の平均粒子径Da、Dbは、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-960(HORIBA製)で計測した。
・OSC材:CeO-ZrO系複合酸化物、CeO=15~45質量%、Nd、La、Y3、Pr11がそれぞれ微量添加され、高耐熱化が施されたもの。
・非OSC材:La-Al複合酸化物、La=1~10質量%
【0067】
次に、硝酸Pd溶液(Pdで2.0g/L-cat)および硝酸Rh溶液(Rhで0.2g/L-cat)と、非OSC材(Db=0.5μm、120g/L-cat)と、OSC材(Da=9μm、120g/L-cat)と、硫酸バリウム(10g/L-cat)と、Al系バインダと、を水溶媒中に分散させ、撹拌混合することによって、スラリー1を調製した。次に、スラリー1を上記ハニカム基材の入側の端部から流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、隔壁全長の100%に当たる部分に材料をコーティングした。これを120℃の乾燥機で2時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で2時間焼成した。このようにして、基材の表面に1つの触媒層が形成された例1の排ガス浄化用触媒を得た。なお、例1の触媒層は、OSC材を100質量部としたときに、非OSC材の含有割合が100質量部(非OSC材:OSC材=1:1)である。
【0068】
(比較例1)
比較例1では、原料の粒径以外、全て例1と同一条件とした。すなわち、非OSC材として、Db=7μmのLa-Al複合酸化物を用い、かつ、OSC材として、Da=3μmのCeO-ZrO系複合酸化物を用いてスラリー2を調製し、触媒層を形成したこと以外は例1と同様にして、比較例1の排ガス浄化用触媒を得た。各例に係る排ガス浄化用触媒について、表1に纏めて示す。
【0069】
[担持材料の平均粒子径Dx、Dyの計測]
上記排ガス浄化用触媒を筒軸方向に沿って切断し、試験片を切り出した。試験片を包埋研磨した後、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いて、基材および触媒層の断面を観察し、観察画像を得た。なお、観察倍率は1000倍を基本とし、粒径が小さい場合は、さらに4000倍、8000倍と観察倍率を上げて観察を行った。次に、観察画像を、オープンソースの画像解析ソフトウエアImage Jに取り込み、下記手順に従って画像解析を行い、非OSC材およびOSC材の平均粒子径Dx、Dyをそれぞれ計測した。結果を表1に示す。
【0070】
(1)SEM反射電子像のファイルを開いた。
(2)スケールバーに合わせてラインを引いた。
(3)セットスケールでピクセルと長さ(μm)を合わせた。
(4)解析対象の触媒層部分の画像を切り出した。
(6)adjustのthresholdにて、輝度を自動で2値化した。これにより、非OSC材とOSC材のそれぞれについて、自動でセグメンテーションを実施し、非OSC材は白色、OSC材は黒色にセグメンテーション(分類)した。
(7)OSC材(黒色)部分について、手動で空隙部分を除外する等、微調整を行った。そして、非OSC材およびOSC材のそれぞれについて、下記(8)~(14)を実施した。
(8)watershedにて、つながっている粒子を自動で分割した。
(9)analyze particleにて、分割した粒子の面積をそれぞれ取得した。なお、解析範囲は、0~無限大(μm)、真円度は0~1.0、画像端の粒子は除外し、穴の開いた中空粒子は含めて計算した。
(10)Distributionにて、面積の頻度分布を表示した。なお、表示範囲は、0.005~30000(μm)、分割数は720万とした。
(11)得られた面積の頻度分布を、真円近似で粒子径(直径)に変換した。
(12)粒子径から球形近似で体積を計算し、体積と頻度を掛けあわせた。
(13)粒子の全体積を積算し、各粒径の体積分率を算出し、体積頻度とした。
(14)粒子径と体積頻度とをプロットした体積頻度分布を作成し、体積頻度の積算が小粒径側から累積50%に相当する点を平均粒子径(体積基準)とした。
【0071】
[NOx浄化性能の評価]
各例に係る排ガス浄化用触媒をV型8気筒(排気量:4600cc)のガソリンエンジンに取り付け、平均エンジン回転数3000rpm、触媒床温度1000℃で50時間の耐久試験を行った。耐久試験後、L型4気筒(排気量:2500cc)のガソリンエンジンを備えた触媒評価装置を用いて、ガソリン車両の模擬排ガスにおけるNOx浄化性能を評価した。この触媒評価装置は、排ガス浄化用触媒への流入ガスおよび排ガス浄化用触媒からの流出ガスの成分を分析することができる。具体的には、各例に係る排ガス浄化用触媒を触媒評価装置に設置し、平均エンジン回転数3000rpmで空燃比(A/F)14.6の模擬排ガスを供給しながら、室温(25℃)から600℃までの昇温特性(昇温速度20℃/min)を測定した。このときの流入ガスおよび流出ガスにおけるNOx濃度の比から、NOx浄化率を測定した。そして、NOx浄化率が50%となった温度(NOx-T50)を求めた。結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示すように、Dy<Dxを満たす例1の排ガス浄化用触媒は、Dy>Dxである比較例1の排ガス浄化用触媒に比べて、NOx-T50が顕著に低かった。すなわち、耐久後のNOx浄化性能が高かった。この理由としては、OSC材の粒子径を非OSC材よりも大きくすることによって、OSC材の耐熱性が高められ、耐久後のOSC材の劣化が抑制されたことが考えられる。
【0074】
[試験例2:上下2層構造の下層における検討]
(例2)
本実施形態では、相互に組成が異なる2種類のスラリーを用い、基材上に上下2層構造の触媒層を形成した。
具体的には、まず、例1と同じOSC材、非OSC材およびハニカム基材を用意した。次に、硝酸Pd溶液(Pdで0.6g/L-cat)と、非OSC材(Db=0.5μm、35g/L-cat)と、OSC材(Da=9μm、50g/L-cat)と、硫酸バリウム(5g/L-cat)と、Al系バインダとを水溶媒中に分散させ、撹拌混合することによって、スラリー3を調製した。次に、スラリー3を上記ハニカム基材の入側の端部から流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、隔壁全長の90%に当たる部分に材料をコーティングした。これを120℃の乾燥機で2時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で2時間焼成し、上流側から筒軸方向Xに沿って下層を形成した。
【0075】
次に、硝酸Rh溶液(Rhで0.4g/L-cat)と、非OSC材(Dy=7μm、60g/L-cat)と、OSC材(Dx=3μm、70g/L-cat)と、Al系バインダと、を水溶媒中に分散させ、撹拌混合することによって、スラリー4を調製した。次に、スラリー4を上記触媒層付きの基材の入側の端部から流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、隔壁全長の100%に当たる部分に材料をコーティングした。これを120℃の乾燥機で2時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で2時間焼成し、上流側から筒軸方向Xに沿って上層を形成した。このようにして、基材の表面に形成された下層(隔壁全長の90%)と、下層の表面に形成された上層(隔壁全長の100%)と、の2つの触媒層を有する例2の排ガス浄化用触媒を得た。
【0076】
(比較例2)
比較例2では、下層の原料の粒径以外、全て例2と同一条件とした。すなわち、下層を形成する際に、非OSC材として、Db=7μmのLa-Al複合酸化物を用い、かつ、OSC材として、Da=3μmのCeO-ZrO系複合酸化物を用いてスラリーを作製したこと以外は例2と同様にして、比較例2の排ガス浄化用触媒を得た。また、試験例1と同様にして、担持材料の平均粒子径Dx、Dyの計測とNOx浄化性能の評価を行った。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
例2の排ガス浄化用触媒では、下層が1.5μm≦Dx、かつ、Dy<Dxを満たしている。比較例2の排ガス浄化用触媒では、上層および下層がいずれも、1.5μm≦Dx、Dy<Dxを満たしていない。表2に示すように、例2の排ガス浄化用触媒は、比較例2の排ガス浄化用触媒に比べてNOx-T50が相対的に低かった。すなわち、耐久後のNOx浄化性能が高かった。このことから、排ガス浄化用触媒が2層以上の積層構造の触媒層を備えている場合、そのうちの少なくとも1層でDy<Dxを満たせば、ここに開示される技術の効果が発揮されることがわかった。
【0079】
[試験例3:上下2層構造の下層における検討]
(例3)
本実施形態では、相互に組成が異なる3種類のスラリーを用い、基材上に、排ガスの流れ方向の上流側と下流側とで構成が異なる触媒層(下層)を形成した後、その上に上層を形成して、上下2層構造の触媒層を形成した。
具体的には、まず、例1と同じ基材を用意した。次に、硝酸Pd溶液(Pdで0.5g/L-cat)とし、非OSC材の含有量を30g/L-catとし、OSC材の含有量を50g/L-cat)とし、硫酸バリウムの含有量を15g/L-catとしたこと以外はスラリー1と同様にして、スラリー5を調製した。次に、スラリー5を上記ハニカム基材の出側の端部から流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、隔壁全長の70%に当たる部分に材料をコーティングした。これを120℃の乾燥機で2時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で2時間焼成し、下流側から筒軸方向Xに沿って出側下層を形成した。
【0080】
次に、硝酸Pd溶液(Pdで1.5g/L-cat)と、非OSC材(Db=0.5μm、55g/L-cat)と、OSC材(Da=9μm、15g/L-cat)と、硫酸バリウム(15g/L-cat)と、Al系バインダと、を水溶媒中に分散させ、撹拌混合することによって、スラリー6を調製した。次に、スラリー6を上記触媒層付きの基材の入側の端部から流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、隔壁全長の70%に当たる部分に材料をコーティングした。これを120℃の乾燥機で2時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で2時間焼成し、上流側から筒軸方向Xに沿って入側下層を形成した。
【0081】
次に、硝酸Rh溶液(Rhで0.2g/L-cat)と、非OSC材(Db=7μm、40g/L-cat)と、OSC材(Da=3μm、40g/L-cat)と、Al系バインダとを水溶媒中に分散させ、撹拌混合することによって、スラリー7を調製した。次に、スラリー7を上記基材の入側の端部から流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、隔壁全長の80%に当たる部分に材料をコーティングした。これを120℃の乾燥機で2時間加熱乾燥して水分を飛ばした後、500℃の電気炉で2時間焼成し、上流側から筒軸方向Xに沿って上層を形成した。このようにして、基材表面の上流側に形成された入側下層と、基材表面の下流側に形成された出側下層と、入側下層および出側下層の表面に形成された上層と、の3つの触媒層を有する例3の排ガス浄化用触媒を得た。なお、例3の下層は、OSC材を100質量部としたときに、非OSC材の含有割合が130質量部(非OSC材:OSC材=13:10)であり、上層は、OSC材を100質量部としたときに、非OSC材の含有割合が100質量部(非OSC材:OSC材=1:1)である。
【0082】
(例4~9、比較例3~7、9)
入側下層および出側下層を形成する際に、非OSC材およびOSC材として、表3に示す平均粒子径Da、Dbのものをそれぞれ用いたこと以外は例3と同様にして、例4~9、比較例3~7、9の排ガス浄化用触媒を得た。
【0083】
(比較例8)
入側下層および出側下層を形成する際に、非OSC材として、平均粒子径Dbが異なる2種類の粉末(平均粒子径Db=0.5μmおよび40μmのLa-Al複合酸化物)を用い、かつ、OSC材として平均粒子径Daが異なる2種類の粉末(平均粒子径Da=0.5μmおよび9μmのCeO-ZrO系複合酸化物)を、1:1の体積比で用いたこと以外は例3と同様にして、比較例8の排ガス浄化用触媒を得た。なお、平均粒子径Da、Dbは、2種類の粉末の算術平均とした。また、試験例1と同様にして、担持材料の平均粒子径Dx、Dyの計測とNOx浄化性能の評価を行った。結果を表3に示す。
【0084】
【表3】
【0085】
図5は、担持材料の平均粒子径の比(Dx/Dy)とNOx-T50との関係を示すグラフである。例3~9の排ガス浄化用触媒では、下層が1.5μm≦Dx、かつ、Dy<Dxを満たしている。比較例3~8の排ガス浄化用触媒では、上層および下層がいずれも、1.5μm≦DxおよびDy<Dxのうちの少なくとも一方を満たしていない。図5および表3に示すように、例3~9の排ガス浄化用触媒は、比較例3~8の排ガス浄化用触媒に比べて、相対的にNOx-T50が低かった。すなわち、耐久後のNOx浄化性能が高かった。なお、例3~9および比較例3~8について、下層におけるOSC材と非OSC材との比を、非OSC材:OSC材=1:4(OSC材を100質量部としたときに、非OSC材の含有割合を25質量部)とした場合も同様の傾向が認められたことを付言しておく。
【0086】
図6は、OSC材の平均粒子径DyとNOx-T50との関係を示すグラフである。図7は、非OSC材の平均粒子径DxとNOx-T50との関係を示すグラフである。図6に示すように、例えば非OSC材の平均粒子径Dyが1μm程度(例えば1±0.5μm)の場合、OSC材の平均粒子径Dxは、2~10μm程度とすることが好ましいといえる。また、図7に示すように、例えばOSC材の平均粒子径Dxが2μm程度(例えば2±0.5μm)の場合、非OSC材の平均粒子径Dyは、3μm以下、例えば0.3~2μm程度とすることが好ましいといえる。
【0087】
[試験例4:上下2層構造の下層における触媒担持位置の検討]
(比較例10)
入側下層および出側下層を形成する際に、非OSC材には触媒金属を担持しなかったこと以外は例3と同様にして、比較例10の排ガス浄化用触媒を得た。また、試験例1と同様にして、担持材料の平均粒子径Dx、Dyの計測とNOx浄化性能の評価を行った。結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4に示すように、非OSC材およびOSC材に触媒金属を担持した例3の排ガス浄化用触媒は、OSC材のみに触媒金属を担持した比較例10の排ガス浄化用触媒に比べて、NOx-T50が顕著に低かった。すなわち、耐久後のNOx浄化性能が高かった。この理由としては、OSC材のみに触媒金属を担持する場合、触媒金属の存在位置が制限されることから、触媒金属がOSC材上で過密になり、耐久時に触媒金属が劣化(例えば粒成長に伴うシンタリング)しやすくなったことが考えられる。
【0090】
[試験例5:上下2層構造の下層における触媒担持位置の検討]
(例10)
上層を形成する際に、非OSC材として、平均粒子径Dbが0.5μmのものを用い、かつ、OSC材として、平均粒子径Daが12μmのものを用いたこと以外は例3と同様にして、例10の排ガス浄化用触媒を得た。また、試験例1と同様にして、担持材料の平均粒子径Dx、Dyの計測とNOx浄化性能の評価を行った。結果を表5に示す。
【0091】
【表5】
【0092】
例10の排ガス浄化用触媒では、上層および下層が、いずれも1.5μm≦Dx、かつ、Dy<Dxを満たしている。例3の排ガス浄化用触媒では、下層のみが1.5μm≦Dx、かつ、Dy<Dxを満たしている。表5に示すように、例10の排ガス浄化用触媒は、例3の排ガス浄化用触媒に比べて、NOx-T50が低かった。すなわち、耐久後のNOx浄化性能が高かった。しかし、両者の性能の差異は、例えば例3~9と比較例3~9との差異に比べて限定的であった(小さかった)。このことから、排ガス浄化用触媒が2層以上の積層構造の触媒層を備えている場合、下層がDy<Dxを満たすことで、ここに開示される技術の効果がより良く発揮されることが推察された。
【0093】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を、他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【符号の説明】
【0094】
1 排ガス浄化システム
10、30 排ガス浄化用触媒
11、31 基材
20、40 触媒層
21 担持材料
22 OSC材
23 非OSC材(OSC材以外の担体)
41 下層
41a 入側下層
41b 出側下層
42 上層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7