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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】X線管及びX線分析システム
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/08 20060101AFI20231117BHJP
   H01J 35/00 20060101ALI20231117BHJP
   H01J 35/06 20060101ALI20231117BHJP
   H01J 35/16 20060101ALI20231117BHJP
   H01J 35/18 20060101ALI20231117BHJP
   G01N 23/223 20060101ALI20231117BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20231117BHJP
   G01N 23/04 20180101ALI20231117BHJP
   H05G 1/00 20060101ALI20231117BHJP
   H05G 1/52 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
H01J35/08 D
H01J35/00 Z
H01J35/06 B
H01J35/16
H01J35/18
G01N23/223
G01N23/207
G01N23/04
H05G1/00 G
H05G1/52 D
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020020364
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2020136269
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-09-08
(31)【優先権主張番号】19156743.7
(32)【優先日】2019-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503310327
【氏名又は名称】マルバーン パナリティカル ビー ヴィ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ベルコフ ハリー
(72)【発明者】
【氏名】ヘーヘマン パトロネラ エメレンツィアナ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ドーゼン ゲルト
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-288159(JP,A)
【文献】特開2007-048583(JP,A)
【文献】特開2007-207539(JP,A)
【文献】特表2004-511884(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35
G01N 23
H05G 1
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線管であって、
ターゲット表面を有するアノードと、
電子ビームを放出するための放出部分を有するカソードであって、前記放出部分は、前記アノードの前記ターゲット表面を電子で照射するように構成されており、前記アノードにX線を放出させる、カソードと、
前記X線が前記X線管の出力端を介して前記X線管から出射できるように調整されたウインドウであって、X線管の長手軸は前記出力端を通る、ウインドウと、
を備え、
前記アノードの前記ターゲット表面は前記長手軸に関して傾斜した角度に傾けられており
前記カソードは、第1放出アーク及び第2放出アークを有し、
前記第1放出アークは、前記長手軸に沿った方向において、前記第2放出アークよりも前記ウインドウに近く、
前記カソードから入射する電子ビームと前記ウインドウを介して放出されるX線との間の角度が検出角度であり、前記第1放出アーク及び前記第2放出アークは互いに異なる検出角度を有する、
X線管。
【請求項2】
X線管であって、
ターゲット表面を有するアノードと、
電子ビームを放出するための放出部分を有するカソードであって、前記放出部分は、前記アノードの前記ターゲット表面を電子で照射するように構成されており、前記アノードにX線を放出させる、カソードと、
前記X線が前記X線管の出力端を介して前記X線管から出射できるように調整されたウインドウであって、X線管の長手軸は前記出力端を通る、ウインドウと、
を備え、
前記アノードの前記ターゲット表面は前記長手軸に関して傾斜した角度に傾けられており
前記アノードの前記ターゲット表面は第1部分と第2部分とを有し、
前記カソードは、前記第1部分を照射するように構成された第1放出アークと、前記第2部分を照射するように構成された第2放出アークとを有し、
前記第1部分の材料は、前記第2部分の材料と異なり、
前記第1部分及び前記第2部分は、前記X線管の前記長手軸周りの異なる位置に配置されている、
X線管。
【請求項3】
前記アノードは、テーパ状の本体を有し、
前記アノードの前記ターゲット表面は前記テーパ状の本体の表面である、
請求項1又は2記載のX線管。
【請求項4】
前記ターゲット表面の少なくとも一部は、前記長手軸に沿った方向において前記放出部分よりも前記ウインドウに近い、
請求項記載のX線管。
【請求項5】
前記テーパ状の本体は円錐形である、
請求項又は記載のX線管。
【請求項6】
前記放出部分は、前記長手軸周りに延在する放出アークを有する、
請求項1乃至いずれか1項記載のX線管。
【請求項7】
前記カソードは、前記長手軸周りに延在する放出ループを有する、
請求項1乃至いずれか1項記載のX線管。
【請求項8】
前記長手軸は、X線管の中心軸である、
請求項1乃至いずれか1項記載のX線管。
【請求項9】
前記放出部分及び前記アノードは、使用時において、前記カソードからの電子ビームと前記ウインドウを介して前記X線管から出射する、前記アノードからのX線ビームとの間の検出角度が、175°よりも小さく、好ましくは150°より小さくなるように、構成されている、
請求項1乃至いずれか1項記載のX線管。
【請求項10】
前記アノードの前記ターゲット表面は、前記ターゲット表面の法線ベクトルと前記長手軸に沿ったベクトルとの間の角度が、前記アノードから前記ウインドウに向かう方向において、5°より大きくなるように、前記長手軸に関して傾斜している、
請求項1乃至いずれか1項記載のX線管。
【請求項11】
前記X線管はさらに、
前記カソード及び前記アノードを取り囲むハウジングを有し、
前記ハウジングは、前記長手軸に沿った方向において、前記X線管の前記出力端に向かって先細になるテーパ状の付端部部分を有する、
請求項1乃至10いずれか1項記載のX線管。
【請求項12】
X線分析システムであって、
請求項1乃至11いずれか1項記載のX線管と、
試料を保持するための試料ホルダと、
前記試料からのX線を検出するように構成された検出器と、
検出されたX線の強度に関する前記検出器からの強度データを受信するように構成されたプロセッサと、
を有する、X線分析システム。
【請求項13】
前記X線分析システムは、X線撮像システムであるか、又は
前記X線分析システムは、X線回折分析システム若しくはX線蛍光分析システムであって、
前記プロセッサは、前記検出器から、X線の前記強度及び前記試料に関する前記検出器の位置に関するデータを受信し、
前記検出器と前記試料の表面との間の角度の関数として、X線強度値を記録するように構成されている、
請求項12記載のX線分析システム。
【請求項14】
X線分析システムであって、
請求項乃至11いずれか1項記載のX線管であって、前記カソードは、第1放出アーク及び第2放出アークを有する、X線管と、
前記カソードに電流を供給するように構成された回路と、
前記第1放出アーク又は前記第2放出アークに電流を供給するように前記回路を制御するように構成されたコントローラと、
を有する、X線分析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線管及びX線分析装置に関する。特に、本発明は、X線分析システムに使用するための、端部ウインドウX線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線管は、アノードがX線を放出するように、アノードのターゲット表面に向かって電子を放出するように構成されたカソードを含む。アノードによって放出されたX線の一部は、ウインドウを介してX線管から出ます。X線管の1つの種類は、エンドウインドウX線管である。通常、エンドウインドウ型配置(an end-window arrangement)では、入射電子ビームがアノードのターゲット表面とおよそ直角をなすように、カソード、アノード及びウインドウが配置される。エンドウインドウ型配置において、ウインドウを介してX線管を出射するX線は、入射電子ビームに対して反対方向に伝播する。
【0003】
X線回折や蛍光X線分析等のX線分析技術は、X線管からのX線で試料を照射し、試料からのX線を検出器で検出することを含む。エンドウインドウ型配置の利点の1つは、X線管が他の機器(例えば検出器等)の配置に最小限の空間的制限しか課さないことです。したがって、エンドウインドウX線管は、位置決め装置に関してフレキシブル性を提供できる。特に、エンドウインドウ型X線管は、X線管とX線分析試料との間の良好な結合、及びX線分析試料と検出器との間の良好な結合を提供する。
【0004】
エンドウインドウX線管は、通常、スペクトルの低エネルギー端で高い強度を示し、スペクトルの高エネルギー端で低い強度を示す出力スペクトルを生成する。ただし、一般的には、スペクトルの高エネルギー端と低エネルギー端とで高強度X線を有することは有用である。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様によれば、X線管が提供され、X線管は、ターゲット表面を有するアノードと、電子ビームを放出するための放出部分を有するカソードであって、放出部分は、アノードにX線を放出させるように、アノードのターゲット表面を電子で照射するように構成されている、カソードと、X線がX線管の出力端を介してX線管から出射できるように調整されたウインドウであって、X線管の長手軸は出力端を通る、ウインドウと、を有し、アノードのターゲット表面は長手軸に関して傾斜した角度に傾けられている。
【0006】
この配置を備えることによって、X線ビームは、比較的狭いX線管の端部を介してX線管から出射される。また同時に、検出角度(すなわち、入射電子ビームと、ウインドウを介してX線管から出射するX線ビームとの間の角度)は、比較的小さい。このようにして、この配置は、X線管とX線分析試料との間に出力スペクトルの高エネルギー部分における高い強度及び良好な結合の両方を達成するのを助けることができる。
【0007】
アノードは、テーパ状本体を有し、アノードのターゲット表面はテーパ状本体の表面である。
【0008】
いくつかの実施態様において、アノードのテーパ状本体は截頭円錐形(frustoconical)である。いくつかの実施態様において、アノード全体がテーパ状である。いくつかの実施態様において、テーパ状本体は長手に沿った方向において先細である。
【0009】
いくつかの実施態様において、ターゲット表面の少なくとも一部は、長手軸に沿った方向において放出部分よりも前記ウインドウに近い、
【0010】
この配置において放出部分を備えることにより、検出角度、即ち、入射電子ビームと、ウインドウを介してX線管から出射するアノードからのX線との間の角度が減少する。このようにして、X線管は、放出スペクトルのより高いエネルギー部分においても、より高い強度を提供することができる(例えば30keVを超える)。
【0011】
テーパ状本体は円錐(conical)である。本実施例において、アノードのターゲット表面は錐面(a cone)の表面である。このことは、電子ビームによって照射されているターゲット表面の投影エリア(the projected area)であるターゲット表面の照射エリア(the irradiated area)が、ギャップを含む「中空(hollow)」エリア(例えば、環状エリア)であるよりも、むしろ「中実(solid)」エリアであることを確実にするのを助ける。このようにして、この配置は、「中実」焦点スポット、即ち、単一の境界線によって囲まれる焦点スポット、の形成を容易にすることができる。
【0012】
放出部分は、長手軸周りに延在する放出アーク(an emission arc)を有する、放出アークは、長手軸周りに湾曲する。好ましくは、放出アークは、長手軸を中心とする円形アーク(a circular arc)である。
【0013】
カソードは、長手軸周りに延在する放出ループを有する。いくつかの実施態様において、放出アークは、放出ループのセクションである。いくつかの実施態様において、放出アークは、半円形である。
【0014】
長手軸は、X線管の中心軸であることができる。放出部分及びアノードは、使用時において、カソードからの電子ビームと、ウインドウを介してX線管から出射するアノードからのX線ビームとの間の検出角度が、175°よりも小さくなるように構成されることができる。
【0015】
検出角度は、入射電子ビームの方向におけるベクトルとX線管を出射するX線の方向におけるベクトルとの間の角度である。いくつかの実施態様において、放出部分及びアノードは、検出角度が150°以下又は90°未満になるように構成されることができる。
【0016】
アノードのターゲット表面は、ターゲット表面の法線ベクトルと、長手軸に沿ったベクトルとの間の角度が、アノードからウインドウに向かう方向において、5°より大きくなるように、長手軸に関して傾斜している、
【0017】
いくつかの実施態様において、ターゲット表面の法線ベクトルと、アノードからウインドウに向かう方向の軸に沿ったベクトルとの間の角度は、85°未満であるか、好ましくは角度は10°と80°との間にある。
【0018】
カソードは、第1放出アーク(emission arc)及び第2放出アークを有することができる。第1放出アークは、長手軸に沿った方向において、第2放出アークよりもウインドウに近い。
【0019】
これらの放出アークは長手軸に沿ってオフセットされるので、各放出アークはそれと関連して異なる検出角度を有する。長手軸に沿った方向においてウインドウから離れる放出アークは、(ターゲット表面が、傾斜角度が同一であるように対称であると仮定すると)より小さい検出角を有する。検出角度が減少するにつれて、制動放射放出(Bremsstrahlung emission)の確率は増加し、その結果、X線管の出力スペクトルの高エネルギーの強度も増加する。このようにして、X線管は、異なる放出アークを使用して異なる出力スペクトルを生成することができる。
【0020】
アノードのターゲット表面は第1部分と第2部分とを有することができる。第1部分の材料は、第2部分の材料と異なる。第1放出アークは、ターゲット表面の第1部分を照射するように調整されることができ、第2放出アークは、ターゲット表面の第2部分を照射するように調整されることができる。
【0021】
第1放出アークの材料は、第2放出アークの材料と異なることができる。X線管はさらに、カソード及びアノードを取り囲むハウジングを有し、ハウジングは、長手軸に沿った方向において、X線管の出力端に向かって先細になるテーパ状端部部分を有する。
【0022】
この配置を備えることは、X線管及びX線分析試料の密接な結合(close coupling)を達成するのに役立つことができる。
【0023】
X線分析システムは、上述のX線管と、試料を保持するための試料ホルダと、試料からのX線を検出するように構成された検出器と、検出されたX線の強度に関する強度データを検出器から受信するように構成されたプロセッサと、
を有する。
【0024】
いくつかの実施態様において、X線分析システムは、X線蛍光分析システムであり、検出器は試料によって放出されるX線を検出するように構成される。例えば、X線検出器は、エネルギー分散型検出器である。
【0025】
前記X線分析システムは、X線撮像システムであることができる。
【0026】
X線分析システムは、X線回折分析システムであることができ、プロセッサは、X線の強度及び試料に関する検出器位置に関して、検出器からデータを受信するように構成されることができ、検出器と試料の表面との間の角度の関数として、X線強度値を記録するように構成されることができる。
【0027】
X線分析システムは、X線蛍光分析システムであることができ、プロセッサは、X線の前記強度及び前記試料に関する検出器の位置に関して、検出器からデータを受信するように構成されることができ、検出器と試料の表面との間の角度の関数として、X線強度値を記録するように構成されることができる。
【0028】
一実施形態において、X線分析システムは、第1放出アーク及び第2放出アークを有するX線管と、カソードに電流を供給するように構成された回路と、第1放出アーク又は第2放出アークに電流を供給するように回路を制御するように構成されたコントローラと、
を有する。
【0029】
いくつかの実施態様において、X線管は、第3放出部分をさらに有し、コントローラは、第1放出アーク、第2放出アーク又は第3放出アークに電流を供給するように構成されている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
以下、添付の図面を参照して、本発明の実施形態を例として説明する。
図1】本発明の一実施形態による、X線管の断面を模式的に示す図である。
図2】電子ビームの入射角及びX線の検出角度を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態において使用するための複数の例示的カソードを模式的に示す図である。
図4】本発明の一実施形態による、X線管の断面を模式的に示す図である。
図5】本発明の一実施形態による、X線管の断面を模式的に示す図である。
図6】本発明の一実施形態による、X線分析装置の断面を模式的に示す図である。
図7】本発明の一実施形態による、X線分析装置の断面を模式的に示す図である。
図8A】本発明の一実施形態によるX線管のアノードを模式的に示す図である。
図8B】本発明の別の実施形態によるX線管のアノードを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
これらの図は概略図であり、縮尺通りに描かれていないことに留意されたい。図面の明確さと便宜のために、これらの図の相対的な寸法及び部分の割合は、大きさが誇張され又は縮小されて示されている。
【0032】
図1は、本発明の実施形態によるX線管1の模式的断面を示す図である。
【0033】
図1は、アノード3及び放出部分7を有するカソードを取り囲むハウジング2を示す。ウインドウ9は、X線管1の出力端11に配列されている。X線管1によって発生するX線はウインドウ9を通過して、X線管1を出る。X線が、X線管1の側面を介してよりもむしろ、X線管1の一端を介してX線管1から出射するように、ウインドウ9をX線管1の一端に設けることは、X線管1とX線分析試料との間の密接な結合を容易にすることに役立つ。これは、X線管1が、X線分析装置(例えば検出器)の他の部分に関してより容易に配置されることができるからである。ハウジング2は、X線管1の出力端11のノーズ部分を含む。ノーズ部分は、ウインドウ9に向かって先細になる。
【0034】
放出部分7は、X線管1の中心長手軸4(破線として示される)周りに延在する放出ループである。使用中に、電流が放出ループに印加されて、放出ループに熱電子放出によって電子を放出させる。このようにして、カソードは、電子ビームを生成する。電子ビームが陽極3のターゲット表面5を照射するように、アノード3とカソードとの間に高い電圧降下が印加される。アノード3は、2つの部分を有し:アノードの1つの部分はテーパ状の本体であり、もう1つの部分は実質的に一定の断面積を有して延在する本体である。テーパ状の本体の断面積は長手軸に沿った方向においてウインドウ9に向かって減少し、長手軸4に関して傾斜した角度で(at an oblique angle)傾いた表面を画定する。これがアノード3のターゲット表面5である。
【0035】
従来のエンドウインドウ型配置では、アノードのターゲット表面は長手軸に対して垂直である。かかる配置では、入射電子ビームとX線管から出射するX線との間の角度(すなわち、検出角度)は約180°である。本発明では、入射電子ビームとウインドウ9を通ってX線管1から出射するX線との間の角度は、175°未満、例えば、150°未満又は90°未満である。検出角度を低下させることは、X線管によって発生する制動放射放出の量を増加させるのに役立つことができる。このようにして、X線管は、出力スペクトルの高エネルギー端でも高強度を有する出力スペクトルを生成できる。
【0036】
上述したように、検出角度は、入射電子ビームの方向のベクトルと、アノードからのX線の方向のベクトルとの間の角度である。図2は、α及びβの符号が付された2つの例示的な検出角度を示す。検出角度は、入射電子ビームを表すベクトルの延長によって示される(ベクトルは破線によって延長されている)。入射電子ビームの方向のベクトルと、アノードによって生成されるX線の方向のベクトルとの間の角度は、延長された破線とX線ビームとの間の角度である。第1検出角度αは、約90度である。第2検出角度βは、90度未満である。
【0037】
図3は、本発明の実施形態による、いくつかの例示的なカソードを示す。本発明のいくつかの実施形態では、放出部分は(図1に示されるように)放出ループである。放出ループ7aは、単一の長さのワイヤである。ワイヤは、熱電子放出によってX線を放出するのに適した材料で製造されている。たとえば、タングステンワイヤである。ワイヤは、第1端部と第2端部との間で延在する。いくつかの実施形態では、ループは、X線管1の長手軸4周りに延在する。
【0038】
いくつかの実施態様において、放出部分は、アークを形成するワイヤの湾曲部分である。例えば、アークは、楕円形アーク又は円形アークでもよい。いくつかの実施態様において、カソードは、多重放出部分(multiple emission portions)を有する。例えば、カソードは、2つの実質的に半円形の放出部分7bを有することができる。図3は、2つの半円形の放出部分7bがX線管の長手軸4周りに延在する例を示している。あるいは、カソードは、長手軸4周りに配置される3つ以上の湾曲セグメント7cを有することができる。図3は、4つの湾曲セグメントが長手軸4周りに延在するように配置されている例を示す。
【0039】
図4は、本発明の一実施形態による、X線管の断面を模式的に示す図である。この実施形態では、カソードは、2つ別個の放出部分:第1放出部分7及び第2放出部分8を有する。放出部分は半円形であり、各放出部分は長手軸4周りに180度延在する。放出部分は、長手軸に沿って異なる位置に配置される:第1放出部分7は、長手軸に沿った方向において第2放出部分8よりもウインドウ9の近くに配置される。図4に示すように、第1放出部分は、第2放出部分に対して異なる検出角度を画定する。第1放出部分7は約90度の検出角度を画定するが、第2放出部分8は90度未満、例えば60度未満である検出角度を画定する。したがって、2つの異なる放出部分は、2つの異なる出力スペクトルを生成することができる。複数の放出部分への電流供給を制御することによって、アノード3を照射するためにどの放出部分を使用するかを選択することが可能である。X線管1は、第1放出部分7又は第2放出部分8のいずれかに電流を供給するように構成されたカソード供給回路を備える。コントローラ21は、動作指示(例えば、ユーザによる指示入力)に応じて、回路に、第1放出部分7又は第2放出部分8のいずれかに電流を供給させるように構成されている。このようにして、どの出力スペクトルがX線管によって生成されるか選択することが可能になる。
【0040】
いくつかの実施態様において、X線管1は第3放出部分を有する。かかる実施形態では、各放出アークは、長手軸周りに120°以下で延在する。
【0041】
図5は、本発明の一実施形態によるX線管1の断面を模式的に示す図である。アノード3は、テーパ状の本体である。テーパ状の本体は円錐形であり、放出ループ7は、円錐のより細い端部周りに延在するように配置されている。放出ループ7からの電子は、アノード3のターゲット表面5を照射する。本発明の幾つかの実施態様では、アノードの照射エリアは、「中空」であり;長手軸に沿った照射エリアの投影は「中空」である。例えば、照射エリア及びその投影は環状である。テーパ状の本体が円錐である配置を備えることは、照射エリアのギャップのサイズを最小化すること、又は、照射エリア内のギャップの形成を回避することに役立つことができる。
【0042】
図6は、本発明の一実施形態によるX線分析装置の概略図を断面図で示す。X線分析装置はX線回折計であり、X線管1、試料ホルダ13、及びX線検出器17を有する。X線管1及びX線検出器17は、ゴニオメータ(図示せず)に取り付けられている。X線管1は、試料ホルダ13により適所に(in place)保持されたX線分析試料15を照射するように構成されている。検出器17は、試料15からX線を受信するように構成される。プロセッサ19は、X線検出器の位置及び試料15からのX線の強度に関するデータをX線検出器17から受信するように構成される。
【0043】
図7は、蛍光X線分析用のX線分析装置を模式的に示す図である。図7は、試料ホルダ13上の試料15を照射するように構成されたX線管1を示す。X線管1からのX線は試料15を励起し、試料に蛍光放出させる。X線検出器17は、試料15からのX線蛍光を受光するように構成される。プロセッサ18は、X線検出器から強度データを受信するように構成される。
【0044】
図8Aは、本発明の実施形態によるアノード3を模式的に示す図である。アノードは、2つの異なる材料を含有し:アノードの第1部分の材料は、アノードの第2部分の材料と異なる。アノードのターゲット表面5が2つの異なる材料を含有するように、第1部分及び第2部分が構成される。ターゲット表面5の第1部分23は第1材料を含み、ターゲット表面の第2部分25は第2材料を含む。図8Bは、アノードのターゲット表面が2つの異なる材料を含む別の実施形態を示している。
【0045】
いくつかの実施態様において、X線装置は、エネルギー分散型X線測定(EDXRF)を実施するように構成される。この場合、例えば、検出器は、シリコンドリフト検出器(SDD)またはSiLi結晶であってもよい。
【0046】
いくつかの他の実施態様において、X線装置は、波長分散型X線測定(WDXRF)を実施するように構成される。いくつかの実施態様において、X線検出器は、ゴニオメータに取り付けられる。他の実施形態では、X線検出器は、同時にWDXRF測定を行うことができる。この場合、検出器は、例えば、比例計数管、シリコンドリフト検出器(SDD)またはSiLi結晶であってもよい。
【0047】
いくつかの実施形態では、X線管は先細のノーズ部分を有さない。例えば、X線管は、一定の断面積を有するノーズ部分を有してもよい。
【0048】
いくつかの実施態様において、アノードは、テーパ状本体である。すなわち、アノードの断面積は、アノードの一端からアノードの他端へと減少していく。いくつかの他の実施態様において、アノードは、テーパ部分及び非テーパ部分を有する。
【0049】
アノードは、先細でなくてもよい。いくつかの実施態様において、アノードは、湾曲するターゲット表面を有する。例えば、アノードは、半球状の本体を有することができる。
【0050】
いくつかの実施態様において、長手軸は、長手中心軸ではない。すなわち、長手軸は、X線管の任意の長手軸であることができる。
【0051】
X線管ハウジングは、シリンダー状であることができるが、あるいはシリンダー状でなくてもよい。
【0052】
アノードは、長手軸について回転対称であることができる。
【0053】
アノードの材料は、単一の材料から成ることができる。あるいは、アノードは、材料の組合せを含むことができる。例えば、アノードのターゲット表面は複数の領域に分けられることができ、各領域は他の領域とは異なる材料を含んでもよい。ターゲット表面は、2つより多い、異なる材料の異なる領域を含んでもよい。
【0054】
アノードは、以下の材料のいずれか、又は以下の材料の組み合わせを含むことができる:バナジウム(V)、クロム(cr)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、白金(Pt)、金(Au)、イリジウム(Ir)、ガドリニウム(Gd)、モリブデン(Mb)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、スカンジウム(Sc)。
【0055】
カソードは、タングステン(W)製でなくてもよい。例えば、カソードは、ニッケル(Ni)、イリジウム(Ir)又はタングステン-レニウム(W-Re)を含むことができる。
【0056】
放出部分は、コーティングを有することができる。例えば、コーティングは、酸化バリウムコーティング等の、4eV未満の仕事関数を有する任意のコーティングであり得る。
【0057】
いくつかの実施態様において、カソードは、単一の材料でできている。例えば、第1放出アーク及び第2放出アークは、同一の材料でできている。いくつかの他の実施態様において、カソードは、材料の組合せを含む。例えば、第1放出アーク及び第2放出アークは、互いに異なる材料でできている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B