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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】弾性表面波センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/02 20060101AFI20231117BHJP
   H03H 9/42 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
G01N29/02 501
H03H9/42
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020040621
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021143842
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉村 直之
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-286606(JP,A)
【文献】特開2013-074411(JP,A)
【文献】特開2019-138725(JP,A)
【文献】特開2017-130975(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0313316(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
H03H 9/42
G01N 33/483
G01N 5/02
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性基板と、
前記圧電性基板に弾性表面波を送信し、または前記圧電性基板から弾性表面波を受信する電極と、
前記弾性表面波が伝搬する領域に設けられ、液体試料が提供される検出領域と、
前記圧電性基板上で前記電極を囲む保護枠と、
前記保護枠によって囲まれた空間を上側から覆う天井板と、を備え、
前記保護枠のうち、前記電極と前記検出領域との間を通る横切り区間の上面の一部が、前記天井板と重なっており
前記天井板の領域のうちの前記横切り区間に重なる領域の縁が、前記横切り区間の長手方向に延びる中心線よりも前記電極側に位置することを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項2】
圧電性基板と、
前記圧電性基板に弾性表面波を送信し、または前記圧電性基板から弾性表面波を受信する電極と、
前記弾性表面波が伝搬する領域に設けられ、液体試料が提供される検出領域と、
前記圧電性基板上で前記電極を囲む保護枠と、
前記保護枠によって囲まれた空間を上側から覆う天井板と、を備え、
前記保護枠のうち、前記電極と前記検出領域との間を通る横切り区間の上面の一部が、前記天井板と重なっており、
前記天井板の領域のうちの前記横切り区間に重なる領域の縁が、前記横切り区間の長手方向に沿って波打った形状を有していることを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項3】
圧電性基板と、
前記圧電性基板に弾性表面波を送信し、または前記圧電性基板から弾性表面波を受信する電極と、
前記弾性表面波が伝搬する領域に設けられ、液体試料が提供される検出領域と、
前記圧電性基板上で前記電極を囲む保護枠と、
前記保護枠によって囲まれた空間を上側から覆う天井板と、を備え、
前記保護枠のうち、前記電極と前記検出領域との間を通る横切り区間の上面の一部が、前記天井板と重なっており、
前記天井板の領域のうちの前記横切り区間に重なる領域が、前記横切り区間の長手方向に沿って延びる欠損領域を有することを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、
前記電極と前記検出領域との間に、前記弾性表面波の伝搬状態を調整するグレーティング領域を有し、
前記横切り区間は、前記グレーティング領域の上に設けられていることを特徴とする弾性表面波センサ。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の弾性表面波センサにおいて、
前記保護枠の厚みは、前記天井板の厚みよりも薄いことを特徴とする弾性表面波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波センサに関し、特に、弾性表面波を送信または受信する電極を保護する構造に関する。
【背景技術】
【0002】
医療、環境保護、衛生管理等の分野では、液体試料を観測するセンサについて研究が行われている。液体試料を観測するセンサには弾性表面波センサがある。弾性表面波センサは、圧電性基板に弾性表面波を送信する送信電極と、圧電性基板を伝搬した弾性表面波を受信する受信電極と、送信電極および受信電極との間に設けられた検出領域とを備える。検出領域には金属が用いられ、検出領域の表面に抗体層が形成される。送信電極に交流の送信信号を印加することで、送信電極から圧電性基板に弾性表面波が送信される。検出領域を伝搬した弾性表面波は受信電極で受信され、受信電極からは受信信号が出力される。検出領域に抗原を含む液体試料が提供されると、免疫反応により検出領域を伝搬する弾性表面波の伝搬特性が変化する。したがって、液体試料が提供される前後で受信信号を比較することで、検出領域の抗体と検出領域に提供された液体試料に含まれる抗原の結合量が測定され得る。以下の特許文献1には、このような弾性表面波センサが記載されている。
【0003】
弾性表面波センサには、特許文献1に記載されているものの他、弾性表面波を送信および受信する送受信電極と、弾性表面波を反射する反射器が用いられたものがある。このような弾性表面波センサでは、送受信電極と反射器との間に検出領域が設けられ、検出領域の表面に抗体層が形成される。送信電極から圧電性基板に送信された弾性表面波は、検出領域を伝搬した後、反射器で反射して、検出領域を逆方向に伝搬する。反射した弾性表面波は送受信電極で受信され、送受信電極から受信信号が出力される。上記の弾性表面波センサと同様の原理によって、液体試料が提供される前後で受信信号を比較することで、検出領域の抗体と検出領域に提供された液体試料に含まれる抗原の結合量を測定することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-286606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
弾性表面波センサ周辺の湿度の変化等、周辺環境の変化による測定精度の低下を防ぐため、また液体試料の付着による短絡を防ぐため、一般に、弾性表面波センサの送信電極、受信電極または送受信電極は、保護構造によって外部から密閉される。しかし、保護構造の造りによっては、温度の変化等によって歪みが生じ、保護ケースと圧電性基板との間の密着性が低下することがあった。
【0006】
本発明は、弾性表面波センサにおける電極保護構造の機械的強度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、圧電性基板と、前記圧電性基板に弾性表面波を送信し、または前記圧電性基板から弾性表面波を受信する電極と、前記弾性表面波が伝搬する領域に設けられ、液体試料が提供される検出領域と、前記圧電性基板上で前記電極を囲む保護枠と、前記保護枠によって囲まれた空間を上側から覆う天井板と、を備え、前記保護枠のうち、前記電極と前記検出領域との間を通る横切り区間の上面の一部が、前記天井板と重なっており前記天井板の領域のうちの前記横切り区間に重なる領域の縁が、前記横切り区間の長手方向に延びる中心線よりも前記電極側に位置することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、圧電性基板と、前記圧電性基板に弾性表面波を送信し、または前記圧電性基板から弾性表面波を受信する電極と、前記弾性表面波が伝搬する領域に設けられ、液体試料が提供される検出領域と、前記圧電性基板上で前記電極を囲む保護枠と、前記保護枠によって囲まれた空間を上側から覆う天井板と、を備え、前記保護枠のうち、前記電極と前記検出領域との間を通る横切り区間の上面の一部が、前記天井板と重なっており、 前記天井板の領域のうちの前記横切り区間に重なる領域の縁が、前記横切り区間の長手方向に沿って波打った形状を有していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、圧電性基板と、前記圧電性基板に弾性表面波を送信し、または前記圧電性基板から弾性表面波を受信する電極と、前記弾性表面波が伝搬する領域に設けられ、液体試料が提供される検出領域と、前記圧電性基板上で前記電極を囲む保護枠と、前記保護枠によって囲まれた空間を上側から覆う天井板と、を備え、前記保護枠のうち、前記電極と前記検出領域との間を通る横切り区間の上面の一部が、前記天井板と重なっており、 前記天井板の領域のうちの前記横切り区間に重なる領域が、前記横切り区間の長手方向に沿って延びる欠損領域を有することを特徴とする。
【0012】
望ましくは、前記電極と前記検出領域との間に、前記弾性表面波の伝搬状態を調整するグレーティング領域を有し、前記横切り区間は、前記グレーティング領域の上に設けられている。望ましくは前記保護枠の厚みは、前記天井板の厚みよりも薄い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、弾性表面波センサにおける電極保護構造の機械的強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電極保護構造付き弾性表面波センサの上面図である。
図2】保護構造が設けられていない弾性表面波センサの上面図である。
図3】電極保護構造付き弾性表面波センサの断面図である。
図4】保護構造のうちの保護枠のみが弾性表面波センサの上面に設けられたときの上面図である。
図5】保護枠に続いて天井板が形成されたときの弾性表面波センサの上面図である。
図6】電極保護構造付き弾性表面波センサの断面を拡大して示した図である。
図7】保護構造の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
各図を参照して本発明の実施形態について説明する。複数の図面に示されている同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を簡略化する。図1には、本発明の実施形態に係る電極保護構造付き弾性表面波センサ1(以下、電極保護構造付きセンサ1という)の上面図が示されている。電極保護構造付きセンサ1は、弾性表面波センサ10と、弾性表面波センサ10が備える送受信電極16を上方から覆う保護構造12とを備えている。弾性表面波センサ10は、圧電性基板14、送受信電極16、検出領域18、反射器20、およびグレーティング領域22を備えている。
【0016】
図1では、弾性表面波が送受信電極16から反射器20に向かう方向がx軸正方向とされている。また、圧電性基板14の表面から離れる方向がz軸正方向とされ、z軸正方向を上方向とし、x軸正方向を見て左方向がy軸正方向とされている。以下の説明では、y軸正方向は左方向とされ、y軸負方向は右方向とされる。また、z軸正方向は上方向とされ、z軸負方向は下方向とされる。
【0017】
図2には、保護構造が設けられていない弾性表面波センサ10の上面図が示されている。送受信電極16は、一対の櫛形電極24-1および24-2から構成されている。櫛形電極24-1は、x軸方向に延びる導線部30-1と、導線部30-1からy軸負方向に延びる複数の歯状部32-1から構成されている。図2には、櫛形電極24-1に4本の歯状部32-1が設けられた例が示されている。櫛形電極24-2は、x軸方向に延びる導線部30-2と、導線部30-2からy軸正方向に延びる複数の歯状部32-2から構成されている。図2には、櫛形電極24-2に4本の歯状部32-2が設けられた例が示されている。櫛形電極24-1および24-2は、一方の隣り合う2本の歯状部の間に、他方の1本の歯状部が入り込むように圧電性基板14上に配置されている。櫛形電極24-1の導線部30-1のx軸負方向に向かった先にある先端部と、櫛形電極24-2の導線部30-2のx軸負方向に向かった先にある先端部は、弾性表面波センサ10の一対の測定端子34-1および34-2となる。図2には、4本の歯状部32-1が設けられた櫛形電極24-1および24-2が示されているが、各櫛形電極に設けられる歯状部の本数は任意である。
【0018】
グレーティング領域22は、y軸方向を長手方向とし、x軸方向に並べて配置された複数本のストライプ状金属36を備えている。図2には、4本のストライプ状金属36が用いられた例が示されているが、グレーティング領域22が備えるストライプ状金属36の本数は任意である。グレーティング領域22は、送受信電極16に対してx軸正方向側に配置されている。
【0019】
検出領域18は、金属によって構成されている。図2には、矩形の検出領域18が設けられた例が示されているが、検出領域18の形状は設計に応じて変形してもよい。抗原を測定する弾性表面波センサ10を構成する場合、検出領域18の表面には抗体層が形成される。検出領域18は、グレーティング領域22のx軸正方向側に、長辺方向をx軸方向に合わせ、短辺方向をy軸方向に合わせて配置されている。
【0020】
反射器20は、y軸方向を長手方向とし、x軸方向に並べて配置された複数本のストライプ状反射金属38を備えている。図2には、4本のストライプ状反射金属38が用いられた例が示されているが、ストライプ状反射金属38の本数は任意である。反射器20は、検出領域18に対してx軸正方向側に配置されている。
【0021】
弾性表面波センサ10の動作について説明する。送受信電極16の測定端子34-1および34-2には、交流の送信信号を印加する信号発生源が接続される。測定端子34-1および34-2に送信信号が印加されることで、送受信電極16から圧電性基板14に弾性表面波が送信される。弾性表面波は、圧電性基板14をx軸正方向に伝搬し、反射器20で反射する。反射器20で反射した弾性表面波は、x軸負方向に伝搬して送受信電極16に至る。送受信電極16は、反射器20で反射した弾性表面波によって測定端子34-1および34-2に受信信号を出力する。なお、グレーティング領域22は、送受信電極16と検出領域18との間の弾性表面波の伝搬状態を調整するマッチング機能を有している。
【0022】
検出領域18上に抗原を含む液体試料が提供されると、免疫反応により検出領域18の基板表面を伝搬する弾性表面波の伝搬特性が変化する。液体試料の提供は、例えば、液体試料を検出領域18の表面に滴下することで行われてよい。また、液体試料の提供は、弾性表面波センサ10を液体試料に浸すことで行われてもよい。液体試料が提供される前後で受信信号を比較することで、検出領域18の抗体と検出領域18に提供された液体試料に含まれる抗原の結合量を測定することが可能となる。送受信電極16の測定端子34-1および34-2には、上記の信号発生源と、受信信号を測定する測定装置が予めスイッチで切り替え可能に接続され、測定装置による受信信号の測定値に基づいて、液体試料に含まれる抗原の結合量が間接的に測定される。
【0023】
ここでは、図2を参照して、圧電性基板14、送受信電極16、検出領域18、反射器20、およびグレーティング領域22を備える弾性表面波センサ10について説明した。圧電性基板14、送受信電極16、検出領域18、反射器20、およびグレーティング領域22のそれぞれの構造は、同様の機能を有する周知の構造に置き換えられてもよい。
【0024】
弾性表面波センサ10では、周辺の湿度の変化等、弾性表面波センサ10を取り巻く環境の変化によって測定精度が低下することがある。また液体試料の付着による短絡を防ぐ必要がある。そこで、本実施形態に係る電極保護構造付きセンサ1では、送受信電極16を覆う保護構造12が設けられている。図3には、図1に示されたAB線断面が示されている。図3に示されているように、保護構造12は、保護枠40および天井板42を備えている。保護枠40は、弾性表面波センサ10の上面において送受信電極16を囲んでいる。天井板42は保護枠40上に設けられ、保護枠40で囲まれた領域の上方を覆っている。保護構造12に含まれる保護枠40および天井板42のうちの少なくとも一方は、透明な材料等、光透過性のある材料で形成されてもよい。また、保護枠40および天井板42は、異なる厚み(高さ)を持っていてよい。
【0025】
保護構造12の具体的な構造について、電極保護構造付きセンサ1の製造工程と共に説明する。図4には、保護構造12のうち保護枠40のみが弾性表面波センサ10の上面に設けられたときの上面図が示されている。保護枠40は、弾性表面波センサ10から上側に突出した堤状構造を有しており、この堤状構造が送受信電極16を囲んでいる。図4に示されている例では、保護枠40は矩形である。
【0026】
保護枠40のうち、送受信電極16と検出領域18との間を横切る横切り区間44は、グレーティング領域22の上に設けられている。図4には一点鎖線によって横切り区間44の境界が示されている。横切り区間44は、保護枠40の右側の縁から左側の端に至る区間として定義される。グレーティング領域22では、複数のストライプ状金属36の隙間から圧電性基板14の上面が露出しているため、横切り区間44が確実に弾性表面波センサ10に密着する。
【0027】
また、弾性表面波の伝搬特性に与える影響を抑えつつ、保護枠40の弾性表面波センサ10への密着性を高めるため、図4に示されている例では、横切り区間44の幅は、保護枠40の他の区間の幅よりも狭くなっている。すなわち、横切り区間44の幅(x軸方向の長さ)は、x軸方向に延びる対向する一対の区間のそれぞれの幅(y軸方向の長さ)よりも狭い。また、横切り区間44の幅は、y軸方向に延び、横切り区間44に対向する区間の幅(x軸方向の長さ)よりも狭い。
【0028】
保護枠40は、弾性表面波センサ10の表面にフォトリソグラフィによって形成されてよい。フォトリソグラフィでは、光が照射されることで溶解性から非溶解性に性質が変化する感光材料によって弾性表面波センサ10の上面が覆われた上で、保護枠40となる領域でない領域が遮光材料によってマスクされる。保護枠40となる領域に光が照射され、光が照射されていない領域が薬品等によって溶解される。なお、感光材料には、光が照射されることで非溶解性から溶解性に性質が変化する感光材料が用いられてもよい。この場合、感光材料によって弾性表面波センサ10の上面が覆われた上で、保護枠40となる領域が遮光材料によってマスクされる。保護枠40とならない領域に光が照射され、光が照射された領域が薬品等によって溶解される。
【0029】
図5には、保護枠40に続いて天井板42が形成されたときの上面図が示されている。天井板42の周辺は保護枠40の上面に重なっている。ただし、保護枠40の横切り区間44の上面では、そのx軸正方向側の一部の領域を残して天井板42が重ねられている。すなわち、保護枠40における横切り区間44では、横切り区間44の上面のうちのx軸負方向側の一部が天井板42と重なっている。天井板42が横切り区間44と重なる面積は、横切り区間44の面積の半分以下であってよい。また、天井板42の領域のうちの横切り区間44に重なる領域の縁は、横切り区間44の長手方向に延びる中心線よりも送受信電極16側に位置してよい。天井板42も、保護枠40と同様、フォトリソグラフィによって形成されてよい。
【0030】
このように、本発明の実施形態に係る電極保護構造付きセンサ1は、圧電性材料で形成された圧電性基板14と、圧電性基板14に弾性表面波を送信し、または圧電性基板14から弾性表面波を受信する送受信電極16(電極)と、弾性表面波が伝搬する領域に設けられ、液体試料が提供される検出領域18と、圧電性基板14上で送受信電極16を囲む保護枠40と、保護枠40によって囲まれた空間を上側から覆う天井板42とを備えている。保護枠40のうち、送受信電極16と検出領域18との間を通る横切り区間44の上面の一部は、天井板42と重なっている。
【0031】
このような電極保護構造付きセンサ1によれば、以下に説明する原理によって、横切り区間44が弾性表面波センサ10に確実に密着する。図6には、図1におけるAB線断面を拡大した図面が示されている。温度の変化等によって天井板42がx軸負方向に収縮すると、天井板42の領域のうち、横切り区間44に接触している領域の端面の最下にある力点Pにはx軸負方向に力Fが加えられる。
【0032】
横切り区間44の内壁面の最下にある支点Qと力点Pとの間の距離が短い程、支点Qと力点Pとを結ぶ区間に作用するモーメント力が小さくなり、横切り区間44を弾性表面波センサ10から剥がす力が小さくなる。また、横切り区間44の上面と天井板42とが重なる面積が小さいほど、力Fは小さくなる。したがって、横切り区間44の上面のうちのx軸負方向側の一部が天井板42と重なっている方が、図6の二点鎖線で示されているように、横切り区間44の上面の全体が天井板42に重なっている場合に比べて、横切り区間44の弾性表面波センサ10への密着性が向上する。
【0033】
また、保護枠40の高さを低くするほど、すなわち厚みを薄くするほど、支点Qと力点Pとを結ぶ区間に作用するモーメント力が小さくなり、横切り区間44を弾性表面波センサ10から剥がす力が小さくなる。そこで、保護枠40の厚みは、天井板42の厚みよりも薄くしてもよい。
【0034】
感光材料等によって形成された保護枠40は、特に、圧電性基板14上に配置された金属上で密着性が低下することがある。本実施形態によれば、ストライプ状金属36を含むグレーティング領域22上に配置された横切り区間44の密着性が高められる。
【0035】
上記では、弾性表面波を送信および受信する送受信電極16を保護構造12が保護する実施形態が示された。上記の保護構造12は、特許文献1に示されているような送信電極と、受信電極と、送信電極および受信電極との間に設けられた検出領域とを備える弾性表面波センサに用いられてもよい。この場合、送信電極および受信電極のそれぞれを覆う保護構造が弾性表面波センサ上に配置される。また、上記では、横切り区間44の上面の一部に天井板42が重なる構造について説明した。保護構造付きセンサでは、保護枠40のうち、横切り区間44に加えて横切り区間44でない区間の一部が天井板42と重なっていてもよい。
【0036】
また、複数系統の弾性表面波センサが共通の圧電性基板に構成されてもよい。この場合、複数の電極(複数の送受信電極、複数の送信電極、あるいは複数の受信電極)が1つの保護構造に覆われてもよい。また、複数の電極のそれぞれを個別に保護構造が覆い、複数の電極を覆う複数の保護構造が並列に配置されてもよい。
【0037】
図7(a)~(c)には保護構造のその他の例が示されている。図7(a)に示されている保護構造では、y軸正方向に向かうと共に、天井板42の縁がx軸正負方向に矩形波状に波打っている。図7(b)に示されている保護構造では、y軸正方向に向かうと共に、天井板42の縁がx軸正負方向に三角波状に波打っている。図7(c)に示されている保護構造では、天井板42において横切り区間44と重なる領域に、横切り区間44の長手方向に沿って延びる欠損領域50が設けられている。欠損領域50では、横切り区間44が上方に露出している。図7(a)~(c)のいずれの保護構造によっても、横切り区間44の弾性表面波センサ10への密着性が高まるという効果が得られる。
【符号の説明】
【0038】
1 電極保護構造付き弾性表面波センサ(電極保護構造付きセンサ)、10 弾性表面波センサ、12 保護構造、14 圧電性基板、16 送受信電極(電極)、18 検出領域、20 反射器、22 グレーティング領域、24-1,24-2 櫛形電極、30-1,30-2 導線部、32-1,32-2 歯状部、34-1,34-2 測定端子、36 ストライプ状金属、38 ストライプ状反射金属、40 保護枠、42 天井板、44 横切り区間、50 欠損領域。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7