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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】上部構造物の支持構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/34 20060101AFI20231117BHJP
   E02D 27/00 20060101ALI20231117BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
E02D27/34 B
E02D27/00 Z
E02D27/12 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020047429
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021147831
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】田 啓祥
(72)【発明者】
【氏名】馮 徳民
(72)【発明者】
【氏名】中川 太郎
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-336743(JP,A)
【文献】特開2007-039937(JP,A)
【文献】特開2006-233445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/34
E02D 27/00
E02D 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭頭に上方に開放された円柱状の空間部を有し前記杭頭の上面が地盤上に露出された杭を介して上部構造物を支持する上部構造物の支持構造であって、
前記上部構造物と前記空間部とにわたり、前記上部構造物の浮き上がりに対して浮き上がりを許容しつつ抵抗を生じ、かつ、前記上部構造物の浮き上がり後の降下時に降下に対して降下を許容しつつ抵抗を生じる抵抗機構が設けられ
前記抵抗機構は、
前記上部構造物の下面から下方に突設され前記空間部に挿入されるロッドと、
前記ロッドの下部に取着され前記空間部を構成する前記杭の内周面に圧接する円板状の摩擦部材と、を含んで構成され、
前記上部構造物は、前記杭頭から離れた上方に位置し、
前記上部構造物と前記杭頭との間に、前記杭頭に対して前記上部構造物の上方への変位を許容しつつ前記上部構造物の水平方向の位置決めを行なう位置決め部が設けられ、
前記位置決め部は、前記上部構造物の下面に取着され、その下部が前記空間部にはめ込まれ前記上部構造物の下面から下方に離れるにつれて断面積が次第に小さくなる截頭円錐形の杭頭キャップを含んで構成されている、
ことを特徴とする上部構造物の支持構造。
【請求項2】
前記摩擦部材が圧接する前記内周面の箇所は、加工または表面処理が施されることで他の内周面の箇所に比べ前記摩擦部材に対する摩擦係数が大きい圧接用内周面として形成されている、
ことを特徴とする請求項記載の上部構造物の支持構造。
【請求項3】
前記摩擦部材が圧接する前記内周面の箇所は、前記杭を構成する部材とは別の部材で他の内周面の箇所に比べ前記摩擦部材に対して大きな摩擦係数を有する材料により圧接用内周面として形成されている、
ことを特徴とする請求項記載の上部構造物の支持構造。
【請求項4】
前記摩擦部材が圧接する前記内周面の箇所は、上部に位置する前記内周面の箇所が、下部に位置する前記内周面の箇所よりも前記摩擦部材に対する摩擦係数が大きく形成されている、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の上部構造物の支持構造。
【請求項5】
記摩擦部材は弾性変形可能なゴム材料で形成され、
前記ロッドは前記摩擦部材の中心部に貫通され、前記摩擦部材は押さえ部材を介して前記ロッドの軸方向に圧縮されることで前記内周面に圧接されている、
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項記載の上部構造物の支持構造。
【請求項6】
前記杭頭キャップは、中空状であって、
前記抵抗機構は、前記杭頭キャップの内側を通って設けられている、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の上部構造物の支持構造。
【請求項7】
前記杭頭キャップは、中実状であって、
前記抵抗機構は、前記杭頭キャップの下面と前記空間部とにわたって設けられている、
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項記載の上部構造物の支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上部構造物の支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤に打設された杭によって建物(上部構造物)を支持する構造として、上端に上方に開放された空間部を有する杭と、建物の下面に取着されその下部が空間部にはめ込まれる截頭円錐形の杭頭キャップとを備え、杭頭キャップの下部に抜け止め部材を垂下させたものが提案されている(特許文献1参照)。
上記構造では、地震発生時に建物および杭頭キャップが杭に対して傾動することで杭頭に作用するモーメントが低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4863982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術では、地震や台風あるいは津波などの災害により水平方向の力が建物に作用して建物が浮き上がるロッキングと呼ばれる現象が生じた場合、建物の浮き上がり量が過大となり建物が損傷することが懸念され、また、建物の浮き上がり後の降下により、杭頭キャップが杭の上部に勢いよくぶつかることで発生した衝撃力が建物に加わり建物が損傷することが懸念される。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、地震時の建物の柱の過大な浮き上がりや損傷を抑制し、かつ、浮き上がった上部構造物が降下する際の衝撃を緩和する上で有利な上部構造物の支持構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するため本発明は、杭頭に上方に開放された空間部を有する杭を介して上部構造物を支持する上部構造物の支持構造であって、前記上部構造物と前記空間部とにわたり、前記上部構造物の浮き上がりに対して浮き上がりを許容しつつ抵抗を生じ、かつ、前記上部構造物の浮き上がり後の降下時に降下に対して降下を許容しつつ抵抗を生じる抵抗機構が設けられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記抵抗機構は、前記上部構造物の下面から下方に突設され前記空間部に挿入されるロッドと、前記ロッドの下部に取着され前記空間部を構成する前記杭の内周面に圧接する摩擦部材と、を含んで構成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記摩擦部材が圧接する前記内周面の箇所は、加工または表面処理が施されることで他の内周面の箇所に比べ前記摩擦部材に対する摩擦係数が大きい圧接用内周面として形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記摩擦部材が圧接する前記内周面の箇所は、前記杭を構成する部材とは別の部材で他の内周面の箇所に比べ前記摩擦部材に対して大きな摩擦係数を有する材料により圧接用内周面として形成されている、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記摩擦部材が圧接する前記内周面の箇所は、上部に位置する前記内周面の箇所が、下部に位置する前記内周面の箇所よりも前記摩擦部材に対する摩擦係数が大きく形成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記空間部は円柱状を呈し、前記摩擦部材は弾性変形可能なゴム材料で円板状に形成され、前記ロッドは前記摩擦部材の中心部に貫通され、前記摩擦部材は押さえ部材を介して前記ロッドの軸方向に圧縮されることで前記内周面に圧接されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記上部構造物と前記杭頭との間に、前記杭頭に対して前記上部構造物の上方への変位を許容しつつ前記上部構造物の水平方向の位置決めを行なう位置決め部が設けられ、前記抵抗機構は、前記位置決め部の内側に設けられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記位置決め部は、前記上部構造物の下面に取着され、その下部が前記空間部にはめ込まれ前記上部構造物の下面から下方に離れるにつれて断面積が次第に小さくなる中空状の杭頭キャップを含んで構成され、前記抵抗機構は、前記杭頭キャップの内側を通って設けられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記上部構造物と前記杭頭との間に、前記杭頭に対して前記上部構造物の上方への変位を許容しつつ前記上部構造物の水平方向の位置決めを行なう位置決め部が設けられ、前記抵抗機構は、前記位置決め部と前記空間部とにわたって設けられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記位置決め部は、前記上部構造物の下面に取着されその下部が前記空間部にはめ込まれ前記上部構造物の下面から下方に離れるにつれて断面積が次第に小さくなる中実状の杭頭キャップを含んで構成され、前記抵抗機構は、前記杭頭キャップの下面と前記空間部とにわたって設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、上部構造物と杭の空間部とにわたり、上部構造物の浮き上がりに対して浮き上がりを許容しつつ抵抗を生じ、かつ、上部構造物の浮き上がり後の降下時に降下に対して降下を許容しつつ抵抗を生じる抵抗機構が設けられているため、例えば地震などが発生し建物に水平方向の力が作用した場合、上部構造物の過大な浮き上がりを抑制し、かつ、浮き上がった上部構造物が降下する際の衝撃を緩和する上で有利となる。このため、上部構造物の損傷を抑制し、上部構造物に所在する人の不快感を軽減させる上で有利となる。
また、本発明によれば、抵抗機構は、上部構造物の下面から下方に突設され空間部に挿入されるロッドと、ロッドの下部に取着され杭の内周面に圧接する摩擦部材とを含んで構成されている。
このため、上部構造物の一側が大きく浮き上がる方向に変位しようとした場合、摩擦部材の外周面と杭の内周面との摩擦抵抗により、上部構造物の上方への変位に対しての抵抗を生じる。したがって、上部構造物の浮き上がりを許容しつつ抵抗を生じ、上部構造物の過大な浮き上がりを抑制する上で有利となる。
また、上部構造物の浮き上がり後の降下時には、摩擦部材の外周面と杭の内周面との摩擦抵抗により、上部構造物の下方への変位に対しての抵抗を生じる。したがって、上部構造物の浮き上がり後の降下時に降下に対して降下を許容しつつ抵抗を生じ、上部構造物の衝撃を緩和する上で有利となる。
そのため、上部構造物の損傷を抑制する上で有利となり、上部構造物に所在する人の不快感を軽減させる上で有利となる。
また、本発明によれば、摩擦部材が圧接する杭の内周面の箇所は、加工または表面処理が施されることで他の内周面の箇所に比べ摩擦部材に対する摩擦係数が大きい圧接用内周面として形成されているため、摩擦部材に作用する摩擦力を確保でき、上部構造物の上方または下方への変位に対して発生する抵抗を大きく確保する上で有利となる。
また、本発明によれば、摩擦部材が圧接する杭の内周面の箇所は、杭を構成する部材とは別の部材で他の内周面の箇所に比べ摩擦部材に対して大きな摩擦係数を有する材料により圧接用内周面として形成されているため、上部構造物の上方または下方への変位に対してより大きな抵抗を生じさせる上で有利となる。
また、本発明によれば、摩擦部材が圧接する杭の内周面の箇所は、上部に位置する内周面の箇所が、下部に位置する内周面の箇所よりも摩擦部材に対する摩擦係数が大きく形成されている。このため、上部構造物の上方への僅かな変位に対しては、摩擦部材と下部に位置する内周面との摩擦抵抗により、上部構造物の浮き上がりを許容しつつ第1の抵抗を生じ、上部構造物の上方への大きな変位に対しては、摩擦部材と上部に位置する内周面との摩擦抵抗により、上部構造物の浮き上がりを許容しつつ第1の抵抗よりも大きな第2の抵抗を生じ、上部構造物の過大な浮き上がりを抑制する。そのため、上部構造物の損傷を抑制する上で有利となり、上部構造物に所在する人の不快感を軽減させる上で有利となり、また、摩擦部材の杭頭からの抜落を阻止する上で有利となる。
また、本発明によれば、摩擦部材は押さえ部材を介してロッドの軸方向に圧縮されることで杭の内周面に圧接されているため、圧縮されない状態で杭の空間部に挿入することで、摩擦部材の空間部への配置と、空間部からの取り外しを円滑に行う上で有利となる。
また、本発明によれば、上部構造物と杭頭との間に、杭頭に対して上部構造物の上方への変位を許容しつつ上部構造物の水平方向の位置決めを行なう位置決め部を設け、抵抗機構を位置決め部の内側に設けると、地震時、上部構造物に過大な水平力が加わることで一時的に上部構造物の浮き上がりや水平方向へのずれが生じても、位置決め部により上部構造物の水平方向の位置が元の位置に戻るため、地震の収束後に上部構造物を水平に支持する上で有利となる。
また、位置決め部を、上部構造物の下面に取着され、その下部が空間部にはめ込まれ上部構造物の下面から下方に離れるにつれて断面積が次第に小さくなる中空状の杭頭キャップを含んで構成し、抵抗機構を、杭頭キャップの内側を通って設けると、杭頭キャップが杭頭の空間部に対しあらゆる方向に傾動可能となるため、仮に杭が傾斜していても上部構造物を水平に支持する上で有利となる。
また、本発明によれば、上部構造物と杭頭との間に、杭頭に対して上部構造物の上方への変位を許容しつつ上部構造物の水平方向の位置決めを行なう位置決め部を設け、抵抗機構を位置決め部と空間部とにわたって設けると、地震時、上部構造物に過大な水平力が加わることで一時的に上部構造物の浮き上がりや水平方向へのずれが生じても、位置決め部により上部構造物の水平方向の位置が元の位置に戻るため、地震の収束後に上部構造物を水平に支持する上で有利となる。
また、位置決め部を、上部構造物の下面に取着されその下部が空間部にはめ込まれ前記上部構造物の下面から下方に離れるにつれて断面積が次第に小さくなる中実状の杭頭キャップを含んで構成し、抵抗機構を、杭頭キャップの下面と空間部とにわたって設けると、杭頭キャップが杭頭の空間部に対しあらゆる方向に傾動可能となるため、仮に杭が傾斜していても上部構造物を水平に支持する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1の実施の形態の上部構造物の支持構造の構成を示す説明図である。
図2】第1の実施の形態の上部構造物の支持構造において上部構造物の浮き上がりが発生した場合を示す説明図である。
図3】第2の実施の形態の上部構造物の支持構造の構成を示す説明図である。
図4】第2の実施の形態の上部構造物の支持構造において上部構造物の浮き上がりが発生した場合を示す説明図である。
図5】第3の実施の形態の上部構造物の支持構造の構成を示す説明図である。
図6】第3の実施の形態の上部構造物の支持構造において上部構造物の浮き上がりが発生した場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1に示すように、本実施の形態の上部構造物の支持構造10Aは、上部構造物12を支持するものであり、杭18と、抵抗機構20Aとを備えている。
上部構造物12は、体育館、倉庫、鉄塔などの構造物であり、水平方向に延在する基礎梁14と、基礎梁14から立設された複数の柱16とを含んで構成されている。
基礎梁14として、鉄筋コンクリート造(RC造)、鉄骨造(S造)のもの、あるいは、木製の基礎梁など従来公知の様々なものが使用可能である。
【0009】
杭18は、杭本体22と、空間部24とを含んで構成されている。なお、杭18として、RC杭などのコンクリート杭、鋼管杭、あるいは、木製杭など従来公知の様々な杭が使用可能であり、本実施の形態では、鋼管杭である。
杭本体22は地盤Gに打設され、杭頭2202の上面は地盤G上に露出されている。
空間部24は、杭頭2202に上方に開放状に形成されている。
本実施の形態では、杭本体22は鋼管杭であるため、空間部24は杭本体22の内部で杭本体22の全長にわたって形成され、空間部24は杭本体22の内周面で円柱状に形成されている。なお、杭本体22がコンクリート杭などのように空間部を有していない杭の場合には、空間部24を杭頭2202に予め形成しておく。
また、図中符号25は、杭本体22の上部の外周面の全周に沿って設けられた補強用のリングであり、リング25は溶接によって杭本体22に接合されている。
【0010】
更に本実施の形態では、位置決め部26が設けられている。
位置決め部26は、上部構造物12と杭頭2202との間に設けられ、杭頭2202に対して上部構造物12の上方への変位を許容しつつ上部構造物12の水平方向の位置決めを行なうものである。
本実施の形態では、位置決め部26は杭頭キャップ28と杭頭2202とを含んで構成されている。
【0011】
杭頭キャップ28は、鋼製であり、キャップ本体2802と、蓋板部2804とを備えている。
キャップ本体2802は、上部構造物基礎梁14の下面1402から下方に離れるにつれて断面積が次第に小さくなる中空状を呈し、本実施の形態では、截頭円錐形の中空の枠状を呈し、キャップ本体2802の下部は空間部24にはめ込まれ、言い換えると杭頭2202の上端にはめ込まれている。
蓋板部2804は、キャップ本体2802の上縁よりも大きな輪郭を有する正方形の鋼板で構成され、蓋板部2804の中心には、後述するロッド30Aのフランジ3002を収容する孔部2805が形成されている。
蓋板部2804は、キャップ本体2802の軸心と蓋板部2804の中心とを合致させた状態でキャップ本体2802の上縁と蓋板部2804の下面とが溶接で接合されている。
蓋板部2804は、基礎梁14の下面1402にボルトB1とナットN1を介して締結されている。
キャップ本体2802の下部が空間部24にはめ込まれた状態でキャップ本体2802の下部は杭18の内周面1802の上縁1804に摩擦接触している。
なお、本明細書において、杭頭キャップ28を形成する截頭円錐形には、部分球形状、球面形状などの形状を広く含む。
本発明において杭頭キャップ28は省略可能であるが、杭頭キャップ28を用いることにより以下の効果が奏される。
1)杭頭2202の空間部24にキャップ本体2802をはめ込むことで、キャップ本体2802が杭頭2202の空間部24に対しあらゆる方向に傾動可能となるため、杭頭2202の損傷が避けられる。
2)地震時、上部構造物12に過大な水平力が加わることで一時的に上部構造物12の浮き上がりや水平方向へのずれが生じても、キャップ本体2802が杭頭2202の空間部24にはめ込まれることで上部構造物12の水平方向の位置が元の位置に戻るため、地震の収束後に基礎梁14を水平に支持する上で有利となる。
なお、杭頭2202に対して上部構造物12の上方への変位を許容しつつ上部構造物12の水平方向の位置決めを行なう位置決め部26は杭頭キャップ28に限定されず、従来公知の様々な構造が適用可能であるが、杭頭キャップ28を用いると上述の効果を奏する点で有利となる。
また、本実施の形態では、杭18が断面形状が円形の鋼管杭で構成されている場合について説明したが、杭は断面矩形であってもよく、その場合、杭頭キャップは、基礎梁14の下面1202から下方に離れるにつれて断面積が次第に小さくなる中空状、あるいは、中実状を呈していればよく、具体的には截頭角錐形となる。
【0012】
抵抗機構20Aは、上部構造物12と杭18の空間部24とにわたって設けられている。
抵抗機構20Aは、上部構造物12の浮き上がりに対して浮き上がりを許容しつつ抵抗を生じ、かつ、上部構造物12の浮き上がり後の降下時に降下に対して降下を許容しつつ抵抗を生じるものである。
本実施の形態の抵抗機構20Aは、ロッド30と、摩擦部材32とを含んで構成されている。
【0013】
ロッド30は、上部構造物12の基礎梁14の下面1402から杭頭キャップ28の内側を通り杭頭キャップ28の下方に突設され、空間部24に挿入されている。
ロッド30は、その上端フランジ3002が基礎梁14の下面1402にボルトB2、ナットN2を介して締結されることで配設されている。
したがって、抵抗機構20Aは、杭頭キャップ28の内側を通って設けられ、言い換えると、抵抗機構20Aは、位置決め部26の内側に設けられている。
なお、杭頭キャップ28が中実状の截頭円錐形を呈している場合には、杭頭キャップ28の下面は、上部構造物12の下面を構成するため、ロッド30は杭頭キャップ28の下面から突設されることになる。
その場合、抵抗機構20Aは、杭頭キャップ28の下面と空間部24とにわたって設けられ、言い換えると、抵抗機構20Aは、位置決め部26と空間部24とにわたって設けられることになる。
【0014】
摩擦部材32は、ロッド30の外周面―と空間部24を構成する杭18の内周面1802との間で杭頭キャップ28よりも下方のロッド30の下部に取着され、空間部24を構成する杭18の内周面1802に圧接されている。
本実施の形態では、摩擦部材32は弾性変形可能なゴム材料で円板状に形成され、円形の上面3202と下面3204と、それら上面3202と下面3204を接続する外周面3206とを備えている。
ロッド30は摩擦部材32の中心部に貫通されている。
摩擦部材32は、ロッド30の雄ねじ3006に螺合する一対のナットN3と、一対のワッシャW(押さえ部材)を介してロッド30の軸方向に圧縮されており、この圧縮により、摩擦部材32が半径方向外方に向かって膨張することで摩擦部材32は、その外周面3206が杭18の内周面1802に圧接された状態となっている。
したがって、摩擦部材32はロッド30と一体的に空間部24内を上下に変位可能となっている。
【0015】
また、摩擦部材32は、その厚さ方向に圧縮されない状態では杭本体22の空間部24に挿入可能な外径で形成され、杭本体22の空間部24に挿入された後に圧縮されることで外周面3206が杭18の内周面1802に圧接される。
これにより、摩擦部材32の空間部24への配置と、空間部24からの取り外しが円滑になされるように図られている。
【0016】
摩擦部材32は、上部構造物12が杭頭2202に対して浮き上がっていない上部構造物12の静止状態で、空間部24において、杭頭キャップ28よりも下方に離れた初期位置に位置して杭本体22の内周面1802を圧接し(図1参照)、上部構造物12の浮き上がりにより摩擦部材32は初期位置から上昇する(図2参照)。
【0017】
上部構造物12の浮き上がり、降下時に摩擦部材32が空間部24内を上下に変位する上下範囲の箇所は、初期位置からその上方の所定の範囲の箇所であり、あるいは、初期位置から杭頭2202の上端までの範囲の箇所である。
この摩擦部材32が圧接する内周面1802の上下範囲の箇所は、加工または表面処理を施されることで他の内周面1802の箇所に比べ摩擦係数が大きい圧接用内周面1806として形成されている。
これにより、摩擦部材32に作用する摩擦力を確保でき、上部構造物12の浮き上がり(上方への変位)、降下(下方への変位)に対して抵抗機構20Aにより発生する抵抗を大きく確保する上で有利となる。
この場合、加工として、例えば、グラインダーによる内周面1802の目荒し加工や、サンドブラスト処理を採用することができる。
また、表面処理として、内周面1802に黒錆を形成させる処理や、エッチングなどの化学的な粗面化処理を採用することができる。
【0018】
次に作用効果について説明する。
図1に示すように、地震や台風などが発生していない上部構造物12の静止状態では、杭頭キャップ28の下部は杭頭2202の空間部24にはめ込まれ、摩擦部材32は初期位置に位置し、その外周3206面は杭18の内周面1802に圧接された状態となっている。
【0019】
小規模、中規模な地震が発生し、あるいは、台風による横風を受け、上部構造物12に水平力が作用し、そのモーメントにより上部構造物12が傾動し、上部構造物12の一側が浮き上がる方向に変位しようとする。
この場合、摩擦部材32の外周面3206と杭19の内周面1802との摩擦抵抗により、上部構造物12の上方への変位に対しての抵抗を生じ、したがって、上部構造物12の浮き上がりを抑制し、上部構造物12の損傷を抑制する上で有利となり、さらに上部構造物12に所在する人の不快感を軽減させる上で有利となる。
【0020】
また、大規模の地震が発生し、あるいは、大型の台風による横風を受け、上部構造物12に大きな水平力が作用し、そのモーメントにより上部構造物12が傾動し、上部構造物12の一側が大きく浮き上がる方向に変位しようとする。
この場合、摩擦部材32の外周面3206と杭18の内周面1802との摩擦抵抗により、上部構造物12の上方への変位に対しての抵抗を生じる。
したがって、上部構造物12の浮き上がりを許容しつつ抵抗を生じ、上部構造物12の過大な浮き上がりを抑制する上で有利となる。そのため、上部構造物12の損傷を抑制する上で有利となり、上部構造物12に所在する人の不快感を軽減させる上で有利となる。
また、上部構造物12の浮き上がり後の降下時には、摩擦部材32の外周面3206と杭18の内周面1802との摩擦抵抗により、上部構造物12の下方への変位に対しての抵抗を生じる。
したがって、上部構造物12の浮き上がり後の降下時に降下に対して降下を許容しつつ抵抗を生じ、上部構造物12の衝撃を緩和する上で有利となる。そのため、上部構造物12の損傷を抑制する上で有利となり、上部構造物12に所在する人の不快感を軽減させる上で有利となる。
【0021】
(第2の実施の形態)
次に図3、4を参照して、第2の実施の形態の上部構造物の支持構造10Bについて説明する。
なお、以下の実施の形態では、第1の実施の形態と同様な箇所、部材に同一の符号を付して説明を省略する。
第2の実施の形態は、第1の実施の形態の変形例である。
本実施の形態の抵抗機構20Bでは、上部構造物12の浮き上がり、降下時に摩擦部材32が空間部24内を上下に変位する上下範囲の箇所、すなわち摩擦部材32が圧接する内周面1802の上下範囲の箇所は、杭18を構成する部材とは別の部材で他の内周面1802の箇所に比べ摩擦部材32に対して大きな摩擦係数を有する材料を用いて圧接用内周面1808として形成されている。
【0022】
このように杭頭2202の内周面1802を、杭18を構成する部材とは別の部材で形成すると、上部構造物12の上方または下方への変位に対してより大きな抵抗を生じさせる上で有利となる。したがって、上部構造物12の浮き上がりに対して上部構造物12の過大な浮き上がりを抑制する上でより有利となり、また、上部構造物12の浮き上がり後の降下に対して上部構造物12の衝撃を緩和する上で有利となる。そのため、上部構造物12の損傷を抑制する上でより有利となり、上部構造物12に所在する人の不快感を軽減させる上でより有利となる。
このような大きな摩擦係数を有する材料として、合成樹脂材料やゴム材料など従来公知の様々な材料が採用可能である。
【0023】
(第3の実施の形態)
次に図5、6を参照して、第3の実施の形態の上部構造物の支持構造10Cについて説明する。
第3の実施の形態は、第1、第2の実施の形態の変形例である。
本実施の形態の抵抗機構20Cでは、上部構造物12の浮き上がり、降下時に摩擦部材32が空間部24内を上下に変位する内周面1802の上下範囲の箇所、すなわち摩擦部材32が圧接する内周面1802の上下範囲の箇所を、上部に位置する内周面1802の箇所(上部圧接用内周面1810)と下部に位置する内周面1802の箇所(下部圧接用内周面1812)とで摩擦係数を異ならせて形成されている。
詳細には、内周面1802の上下範囲の箇所を、下部圧接用内周面1812と、下部圧接用内周面1812よりも摩擦部材32に対する摩擦係数が大きい上部圧接用内周面1810とで構成したものである。
【0024】
このように下部圧接用内周面1812と上部圧接用内周面1810とで摩擦係数を異ならせる方法として、例えば、第1の実施の形態のように下部圧接用内周面1812と上部圧接用内周面1810とに対して加工または表面処理を施してもよく、あるいは、第2の実施の形態のように下部圧接用内周面1812と上部圧接用内周面と1810を、杭18を構成する部材とは別の部材で形成してもよい。
例えば、上部圧接用内周面1810の摩擦部材に対する摩擦係数μは1.0程度、下部圧接用内周面1812の摩擦部材に対する摩擦係数μは0.1から0.2程度に設定されている。
【0025】
第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態の効果に加え、以下の効果を奏する。
大規模の地震が発生し、あるいは、大型の台風による横風を受け、上部構造物12に大きな水平力が作用し、そのモーメントにより上部構造物12が傾動し、上部構造物12の一側が浮き上がる方向に変位しようとする。
この場合、上部構造物12の上方への僅かな変位に対しては、摩擦部材32と下部圧接用内周面1012との摩擦抵抗により、上部構造物12の浮き上がりを許容しつつ第1の抵抗を生じ、上部構造物12の損傷を抑制する上で有利となり、上部構造物12に所在する人の不快感を軽減させる上で有利となる。
また、上部構造物12の上方への大きな変位に対しては、摩擦部材32と上部圧接用内周面1810との摩擦抵抗により、上部構造物12の浮き上がりを許容しつつ第1の抵抗よりも大きな第2の抵抗を生じ、上部構造物12の浮き上がりに対して上部構造物12の過大な浮き上がりを抑制する上でより有利となり、したがって、上部構造物12の損傷を抑制する上で有利となり、上部構造物12に所在する人の不快感を軽減させる上で有利となり、また、摩擦部材32の杭頭2202からの抜落を阻止する上で有利となる。
【0026】
また、上記の実施の形態にかかる上部構造物の支持構造は、杭頭キャップの強度を杭の強度よりも弱く設計してもよい。そうすると、上部構造物が浮き上がり後に降下することで杭頭キャップが杭に落下して衝撃を受けた場合に、杭頭キャップを主に損傷させることができるため、構造物の修繕時に杭頭キャップのみを交換すれば足りる。
また、第1~第3の実施の形態にかかる上部構造物の支持構造では、1つの杭に対して1つのロッドを設けた構成としていたが、空間部の大きさが許せば2つ以上のロッドを設けた構成としてもよい。これにより、さらに大きな抵抗を生じさせることができるが、1つのロッドを設けた構成の場合はコストを抑えて支持構造を提供することができる。
また、同じ震度や横風であっても建物の構造やアスペクト比によってそれぞれの上部構造物の変位は異なるため、個々の上部構造物に合わせて上部構造物の変位に対する抵抗を生じさせるよう設計することで、上述した効果を発揮させる上で有利となる。
【符号の説明】
【0027】
10A、10B、10C 上部構造物の支持構造
12 上部構造物
14 基礎梁
1402 下面
16 柱
18 杭
1802 内周面
1804 上縁
1806、1808 圧接用内周面
1810 上部圧接用内周面
1812 下部圧接用内周面
20A、20B、20C 抵抗機構
22 杭本体
2202 杭頭
24 空間部
26 位置決め部
28 杭頭キャップ
2802 キャップ本体
2804 フランジ部
30 ロッド
3002 上端フランジ
3004 外周面
32 摩擦部材
3206 外周面
図1
図2
図3
図4
図5
図6