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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】フィルタ、分波器及び通信装置
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/64 20060101AFI20231117BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20231117BHJP
   H03H 9/54 20060101ALI20231117BHJP
   H03H 9/17 20060101ALI20231117BHJP
   H04B 1/40 20150101ALI20231117BHJP
【FI】
H03H9/64 Z
H03H9/145 Z
H03H9/54 Z
H03H9/17 F
H04B1/40
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020050869
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021150893
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135828
【弁理士】
【氏名又は名称】飯島 康弘
(72)【発明者】
【氏名】仲井 剛
【審査官】吉村 伊佐雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-197772(JP,A)
【文献】国際公開第2013/161881(WO,A1)
【文献】特開2018-078542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-3/10
9/00-9/76
H04B1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号が入力される入力端子と、
信号を出力する出力端子と、
前記入力端子から前記出力端子への信号経路に位置している第1フィルタ部と、
前記入力端子から前記出力端子への信号経路に位置しているとともに、前記第1フィルタ部と並列接続されている第2フィルタ部と、
を有しており、
前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれは、ラダー型に接続された、2以上の直列共振子と、1以上の並列共振子とを備えるラダー型フィルタであり、
前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれにおいて、前記1以上の並列共振子は、前記2以上の直列共振子のうちの1つから他の1つへの信号経路に接続されている並列共振子を含んでおり、
前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれにおいて、最も前記出力端子側に位置する直列共振子を最後段の直列共振子と呼称し、第1フィルタ部の通過帯域と第2フィルタ部の通過帯域とを足し合わせた通過帯域を第1通過帯域と呼称するとき、前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部は、
前記第1通過帯域内の第1周波数を有する信号が前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部に同時に入力されたとき、前記第1フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる信号の電力が、前記第2フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる電力よりも大きくなり、かつ
前記第1通過帯域内かつ前記第1周波数よりも高い第2周波数を有する信号が前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部に同時に入力されたとき、前記第2フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる電力が、前記第1フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる電力よりも大きくなる、ように構成されており、
前記第1フィルタ部の最後段の直列共振子の容量が前記第2フィルタ部の最後段の直列共振子の容量よりも小さい
フィルタ。
【請求項2】
信号が入力される入力端子と、
信号を出力する出力端子と、
前記入力端子から前記出力端子への信号経路に位置している第1フィルタ部と、
前記入力端子から前記出力端子への信号経路に位置しているとともに、前記第1フィルタ部と並列接続されている第2フィルタ部と、
を有しており、
前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれは、ラダー型に接続された、2以上の直列共振子と、1以上の並列共振子とを備えるラダー型フィルタであり、
前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれにおいて、前記1以上の並列共振子は、前記2以上の直列共振子のうちの1つから他の1つへの信号経路に接続されている並列共振子を含んでおり、
前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれにおいて、最も前記出力端子側に位置する直列共振子を最後段の直列共振子と呼称し、第1フィルタ部の通過帯域と第2フィルタ部の通過帯域とを足し合わせた通過帯域を第1通過帯域と呼称するとき、前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部は、
前記第1通過帯域内の第1周波数を有する信号が前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部に同時に入力されたとき、前記第1フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる信号の電力が、前記第2フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる電力よりも大きくなり、かつ
前記第1通過帯域内かつ前記第1周波数よりも高い第2周波数を有する信号が前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部に同時に入力されたとき、前記第2フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる電力が、前記第1フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる電力よりも大きくなる、ように構成されており、
前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれにおいて、前記最後段の直列共振子と、その1つ前の直列共振子との間に接続されている並列共振子を最後段の並列共振子と呼称するとき、前記第1フィルタ部の最後段の並列共振子の容量が前記第2フィルタ部の最後段の並列共振子の容量よりも大きい
フィルタ。
【請求項3】
前記第1フィルタ部の通過帯域のうち、その高周波数側の境界周波数を含む少なくとも一部の帯域と、前記第2フィルタ部の通過帯域のうち、その低周波数側の境界周波数を含む少なくとも一部の帯域とが重複している
請求項1又は2に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記入力端子から前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部への信号経路に位置しており、前記第1周波数及び前記第2周波数を含む通過帯域を有している第3フィルタ部を更に有している
請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項5】
前記2以上の直列共振子及び前記1以上の並列共振子は、それぞれ励振電極を有する弾性波共振子であり、
前記励振電極は、弾性波の伝搬方向に配列されている複数の電極指を有している
請求項1~のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項6】
前記第1フィルタ部の最後段の直列共振子における前記複数の電極指のピッチが、前記第2フィルタ部の最後段の直列共振子における前記複数の電極指のピッチよりも大きい
請求項に記載のフィルタ。
【請求項7】
前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれにおいて、前記最後段の直列共振子と、その1つ前の直列共振子との間に接続されている並列共振子を最後段の並列共振子と呼称するとき、
前記第1フィルタ部の最後段の並列共振子における前記複数の電極指のピッチが、前記第2フィルタ部の最後段の並列共振子における前記複数の電極指のピッチよりも大きい
請求項又はに記載のフィルタ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載のフィルタと、
前記出力端子に接続されている他のフィルタと、
を有している分波器。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載のフィルタと、
前記出力端子に接続されているアンテナと、
前記入力端子に接続されている集積回路素子と、
を有している通信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号をフィルタリングするフィルタ、当該フィルタを含む分波器、及び前記フィルタを含む通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
信号をフィルタリングするフィルタとして、ラダー型フィルタが知られている(例えば特許文献1及び2)。ラダー型フィルタは、例えば、入力端子から出力端子への信号経路に位置している1以上の直列共振子と、前記の信号経路と基準電位との間に位置している1以上の並列共振子とを備えている。共振子は、例えば、弾性波を利用する弾性波共振子によって構成される。弾性波としては、例えば、SAW(Surface Acoustic Wave)及びBAW(Bulk Acoustic Wave)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-74698号公報
【文献】国際公開第2016/031391号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
相互変調歪(IMD:InterModulation Distortion)を低減できるフィルタ、分波器及び通信機器が待たれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様に係るフィルタは、信号が入力される入力端子と、信号を出力する出力端子と、前記入力端子から前記出力端子への信号経路に位置している第1フィルタ部と、前記入力端子から前記出力端子への信号経路に位置しているとともに、前記第1フィルタ部と並列接続されている第2フィルタ部と、を有しており、前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれは、ラダー型に接続された、2以上の直列共振子と、1以上の並列共振子とを備えるラダー型フィルタであり、前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれにおいて、前記1以上の並列共振子は、前記2以上の直列共振子のうちの1つから他の1つへの信号経路に接続されている並列共振子を含んでおり、前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部それぞれにおいて、最も前記出力端子側に位置する直列共振子を最後段の直列共振子と呼称し、第1フィルタ部の通過帯域と第2フィルタ部の通過帯域とを足し合わせた通過帯域を第1通過帯域と呼称するとき、前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部は、前記第1通過帯域内の第1周波数を有する信号が前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部に同時に入力されたとき、前記第1フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる信号の電力が、前記第2フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる電力よりも大きくなり、かつ前記第1通過帯域内かつ前記第1周波数よりも高い第2周波数を有する信号が前記第1フィルタ部及び前記第2フィルタ部に同時に入力されたとき、前記第2フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる電力が、前記第1フィルタ部の最後段の直列共振子にかかる電力よりも大きくなる、ように構成されている。
【0006】
本開示の一態様に係る分波器は、上記フィルタと、前記出力端子に接続されている他のフィルタと、を有している。
【0007】
本開示の一態様に係る通信装置は、上記フィルタと、前記出力端子に接続されているアンテナと、前記入力端子に接続されている集積回路素子と、を有している通信装置。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、相互変調歪を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るフィルタの構成を模式的に示す回路図である。
図2】ラダー型フィルタの原理を説明するための図である。
図3図1のフィルタの特性を示す図である。
図4図4(a)及び図4(b)は図1のフィルタのうちの後段フィルタ部のフィルタ特性の一例及び他の例を示す図である。
図5】SAW共振子の構成を模式的に示す平面図である。
図6】フィルタ特性の調整態様の一例を示す回路図である。
図7】フィルタ特性の調整態様の他の例を示す回路図である。
図8】フィルタ特性の調整態様のさらに他の例を示す回路図である。
図9図1のフィルタデバイスの利用例としての分波器の要部を示すブロック図である。
図10図1のフィルタデバイスの利用例としての通信装置の要部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(フィルタの全体構成)
図1は、実施形態に係るフィルタ1の電気的構成の概要を模式的に示す回路図である。なお、図1のような回路図を参照して説明する位置関係は、基本的に、電気的な接続の観点における位置関係を指し、空間的な位置関係とは必ずしも一致しない。
【0011】
フィルタ1は、入力端子3、出力端子5及び基準電位部7を有している。そして、フィルタ1は、入力端子3に入力された信号をフィルタリングして出力端子5から出力するバンドパスフィルタとして構成されている。すなわち、フィルタ1は、入力端子3に入力された信号から通過帯域外の信号を除去して(通過帯域外の信号を減衰させて)出力端子5に出力する。通過帯域外の信号は、基準電位部7に逃がされる。
【0012】
なお、図1では、図示の都合上、複数の位置に基準電位部7が示されている。この複数の基準電位部7の一部又は全部は、実際のフィルタ1において、互いに別個の部位であってもよいし、互いに同一の部位であってもよい。また、前者の場合において、互いに別個の部位からなる複数の基準電位部7は、互いに電気的に接続されていてもよいし、接続されていなくてもよい。基準電位部7は、例えば、基準電位が付与される端子である。
【0013】
フィルタ1は、入力端子3から出力端子5への信号経路に位置している2以上(図示の例では3つ)のフィルタ部11を有している。2以上のフィルタ部11は、例えば、前段フィルタ部11Aと、2以上(図示の例では2つ)の後段フィルタ部11Bとを有している。2以上の後段フィルタ部11Bは、例えば、第1後段フィルタ部11Baと、第2後段フィルタ部11Bbとを有している。
【0014】
この例では、前段フィルタ部11Aと後段フィルタ部11Bとは直列接続されており、2以上の後段フィルタ部11B(11Ba及び11Bb)は、互いに並列に接続されている。前段フィルタ部11Aは、2以上の後段フィルタ部11Bに対して直列に接続されている。また、前段フィルタ部11Aは、2以上の後段フィルタ部11Bに対して入力端子3側に位置している。2以上の後段フィルタ部11Bは、フィルタ1のうち出力端子5側の一部を並列に分割したものと捉えられてもよい。
【0015】
特に図示しないが、入力端子3と前段フィルタ部11Aとの間にこれらに直列に接続される不図示の電気的要素が設けられたり、入力端子3から前段フィルタ部11Aまでの信号経路と基準電位部7とを接続する不図示の電気的要素が設けられたりしてもよい。前段フィルタ部11Aと2以上の後段フィルタ部11B(全ての後段フィルタ部11B又はいずれかの後段フィルタ部11B)との間、及び2以上の後段フィルタ部11B(全ての後段フィルタ部11B又はいずれかの後段フィルタ部11B)と出力端子5との間も同様である。電気的要素としては、例えば、抵抗体、キャパシタ、インダクタ及びフィルタが挙げられる。これらは、いずれかのフィルタ部11の一部と捉えられても構わない。
【0016】
ただし、この例では、2以上の後段フィルタ部11Bのいずれについても、後段フィルタ部11Bと出力端子5との間には、これらに直列に接続され、かつ相対的に大きな相互変調歪を生じる要素は接続されていない。例えば、後段フィルタ部11Bと出力端子5との間には、これらに直列に接続される弾性波共振子(例えばSAW共振子)及び弾性波フィルタ(例えばSAWフィルタ)は設けられていない。逆に言えば、2以上の後段フィルタ部11Bが含む最後段の直列共振子9S4a及び9S4b(後述)から出力端子5までの間で、同一の入力信号に対して最も相互変調歪を生じやすい要素は、上記の最後段の直列共振子9S4a及び9S4bである。
【0017】
各フィルタ部11は、例えば、それぞれ複数の共振子9がラダー型に接続されたラダー型フィルタによって構成されている。別の観点では、フィルタ1の全体は、ラダー型フィルタによって構成されている。特に図示しないが、前段フィルタ部11Aは、いわゆる多重モード型フィルタ(本開示においてはダブルモード型フィルムを含むものとする。)によって構成されていてもよい。
【0018】
複数の共振子9は、例えば、入力端子3と出力端子5との間に直列に接続された複数の直列共振子9Sと、入力端子3から出力端子5までの信号経路と基準電位部7とを接続する複数の並列共振子9Pとを有している。より詳細には、図示の例では、直列共振子9Sは、直列共振子9S1、9S2、9S3a、9S3b、9S4a及び9S4bを有している。また、複数の並列共振子9Pは、並列共振子9P1、9P2、9P3a及び9P3bを有している。
【0019】
別の観点では、前段フィルタ部11Aは、直列共振子9S1及び9S2と、並列共振子9P1及び9P2を有している。第1後段フィルタ部11Baは、直列共振子9S3a及び9S4aと、並列共振子9P3aを有している。第2後段フィルタ部11Bbは、直列共振子9S3b及び9S4bと、並列共振子9P3bを有している。
【0020】
これまでの説明からも理解されるように、共振子9に付した「S」は直列共振子に対応しており、共振子9に付した「P」は並列共振子に対応している。「S」及び「P」の後の数字は、入力端子3からの段数を示している。例えば、「1」は、入力端子3に最も近い第1段(初段)の直列共振子又は並列共振子であることを示す。また、図示の例では、「S」の後の「4」は、出力端子5に最も近い最後段の直列共振子であることを示す。さらに「S3」、「P3」及び「S4」の後に付した「a」は、共振子9が第1後段フィルタ部11Baに属することを示している。同様に、「S3」、「P3」及び「S4」の後に付した「b」は、共振子9が第2後段フィルタ部11Bbに属することを示している。
【0021】
複数の共振子9がラダー型に接続されているという場合、例えば、上記のように、入力端子3と出力端子5との間に、1つの直列共振子9S又は直列に接続された複数の直列共振子9Sが電気的に接続され、1以上の直列共振子9Sの入力側又は出力側と基準電位部7との間に、1以上の並列共振子9Pが電気的に接続されている状態を指す。1以上の直列共振子9Sを含む、入力端子3から出力端子5までの信号経路は、直列腕と呼ばれることもある。また、1以上の並列共振子9Pを含む、直列腕から基準電位部までの1以上の信号経路それぞれは、並列腕と呼ばれることもある。
【0022】
1つの共振子9は、耐電力性の向上等のために、2以上の分割共振子に分割されていることがある。換言すれば、1つの共振子9は、直列に接続された2以上の分割共振子によって構成されていることがある。このような分割共振子は、隣り合う分割共振子同士の間に並列共振子9Pが接続されていない。従って、例えば、入力端子3と出力端子5との間において2つの共振子が直列に接続されており、かつその間に並列共振子9Pが接続されていない場合、その2つの共振子は、2つの直列共振子9Sではなく、2つの分割共振子によって構成されている1つの直列共振子9Sとして特定されてよい。換言すれば、フィルタ部11が2つの直列共振子9Sを有しているという場合、その2つの直列共振子9Sの間には並列共振子9Pが接続されている。
【0023】
フィルタ1において、また、各フィルタ部11において、直列共振子9Sの数及び並列共振子9Pの数は、適宜に設定されてよい。ラダー型フィルタは、原理的には、1つの直列共振子9Sと1つの並列共振子9Pとによって構成可能である。また、フィルタ1又は各フィルタ部11において、最も入力端子3側に位置する共振子9は、直列共振子9Sであってもよいし、並列共振子9Pであってもよい。最も出力端子5側に位置する共振子9についても同様である。
【0024】
図示の例では、前段フィルタ部11Aは、2つの直列共振子9Sと、2つの並列共振子9Pを有している。図示の例とは異なり、前段フィルタ部11Aは、1つの直列共振子9Sと1つの並列共振子9Pとを有するだけであってもよいし、3つ以上の直列共振子9S及び/又は3つ以上の並列共振子9Pを有していてもよい。前段フィルタ部11Aに代えて、フィルタ1全体としてのラダー型フィルタの複数の直列共振子9Sのうちの1つのみが前段フィルタ部11Aの位置に設けられていたり、フィルタ1全体としてのラダー型フィルタの複数の並列共振子9Pのうちの1つのみが前段フィルタ部11Aの位置に設けられていたりしてもよい。
【0025】
上記のように、ラダー型フィルタは、原理的には、1つの直列共振子9Sと1つの並列共振子9Pとによって構成可能である。ただし、各後段フィルタ部11Bは、2以上(図示の例では2つ)の直列共振子9Sを有している。互いに隣り合う直列共振子9S同士の間には、既述のように、並列共振子9Pが接続されている。図示の例とは異なり、各後段フィルタ部11Bは、3つ以上の直列共振子9S及び/又は3つ以上の並列共振子9Pを有していてもよい。また、2以上の後段フィルタ部11Bは、直列共振子9Sの数が互いに同じであってもよいし(図示の例)、互いに異なっていてもよい。並列共振子9Pについても同様である。
【0026】
(ラダー型フィルタの原理)
図2は、ラダー型フィルタ(フィルタ1及びフィルタ部11)の原理を説明するための図である。
【0027】
図2の上部のグラフにおいて、横軸は、周波数f(Hz)を示し、縦軸は、インピーダンスの絶対値|Z|(Ω)を示している。線LSは直列共振子9Sのインピーダンスを示している。線LPは並列共振子9Pのインピーダンスを示している。図2の下部のグラフにおいて、横軸は、周波数f(Hz)を示し、縦軸は、減衰量A(dB)を示している。線LFは、ラダー型フィルタ(フィルタ1又は各フィルタ部11)の減衰量を示している。図2の上部のグラフの横軸と、図2の下部のグラフの横軸とは一致している。
【0028】
弾性波共振子からなる共振子9に係るインピーダンスの周波数特性においては、インピーダンスが極小値となる共振点と、インピーダンスが極大値となる反共振点とが現れる。共振点及び反共振点が現れる周波数を共振周波数(fsr、fpr)及び反共振周波数(fsa、fpa)とする。共振子9において、反共振周波数は、例えば、共振周波数よりも高い。
【0029】
直列共振子9S及び並列共振子9Pは、直列共振子9S(線LS)の共振周波数fsrと並列共振子9P(線LP)の反共振周波数fpaとが概ね一致するように共振周波数及び反共振周波数が設定される。これにより、ラダー型フィルタ(線LF)は、並列共振子9Pの共振周波数fprから直列共振子9Sの反共振周波数fsaまでの周波数範囲よりも若干狭い範囲を通過帯域PBとするバンドパスフィルタとして機能する。複数の直列共振子9Sは、基本的に、共振周波数が互いに同等とされ、また、反共振周波数が互いに同等とされる。複数の並列共振子9Pについても同様である。
【0030】
(フィルタ及び前段フィルタ部の特性)
図3は、フィルタ1の特性を示す、図2の下部のグラフと同様の図である。図3では、便宜上、後述する分波器の特性が示されているが、フィルタ1は、分波器に用いられることが前提とされるものではない。また、ここでは、主として、紙面右側の帯域のみに着目する。
【0031】
矩形の3辺によって表されている記号BT及びBRは、満たされるべきフィルタ特性を示している。このようなフィルタ特性は、例えば、規格によって規定され、及び/又はフィルタ1の購入者の仕様によって規定される。ラダー型フィルタは、例えば、フィルタ特性を示す線LF(図2)によって描かれる山が記号BT又はBRを包含し、他の記号を包含しないように構成される。
【0032】
図示の例では、線LF0は、フィルタ1のフィルタ特性を示している。そして、線LF0によって描かれる山は、記号BTを包含し、記号BRを包含していない。線LF0は、前段フィルタ部11Aのフィルタ特性を示していると捉えられてもよい。
【0033】
(後段フィルタ部の特性)
図4(a)は、後段フィルタ部11Bのフィルタ特性の一例を示す、図3の紙面右側の領域に相当する図である。この図において、線LF1は、第1後段フィルタ部11Baのフィルタ特性を示している。この図において、線LF2は、第2後段フィルタ部11Bbのフィルタ特性を示している。
【0034】
この図に示されているように、第1後段フィルタ部11Baのフィルタ特性は、記号BTで示されるフィルタ特性のうち低周波数側の要件は満たしているものの、高周波数側の要件は満たしていない。具体的には、例えば、第1後段フィルタ部11Baでは、記号BTで示される帯域のうち低周波数側の一部の帯域においては、要求されている透過特性が確保されているが、その他の帯域(記号BTで示される帯域の外側を含む)においては、要求されている透過特性が確保されていない。
【0035】
逆に、第2後段フィルタ部11Bbのフィルタ特性は、記号BTで示されるフィルタ特性のうち高周波数側の要件は満たしているものの、低周波数側の要件は満たしていない。具体的には、例えば、第2後段フィルタ部11Bbでは、記号BTで示される帯域のうち高周波数側の一部の帯域においては、要求されている透過特性が確保されているが、その他の帯域(記号BTで示される帯域の外側を含む)においては、要求されている透過特性が確保されていない。
【0036】
また、第1後段フィルタ部11Baにおいて、要求されている透過特性が確保されている帯域と、第2後段フィルタ部11Bbにおいて、要求されている透過特性が確保されている帯域とは、一部同士が互いに重複している。
【0037】
上記では、記号BTで示される帯域を基準に述べたが、各フィルタ部11の通過帯域PB(図2参照)を基準にフィルタ部11のフィルタ特性が説明されてもよい。具体的には、第1後段フィルタ部11Baの通過帯域PBの低周波数側の境界周波数(帯域の端部の周波数)は、第2後段フィルタ部11Bbの通過帯域PBの低周波数側の境界周波数よりも低周波数側に位置している。また、第1後段フィルタ部11Baの通過帯域PBの高周波数側の境界周波数は、第2後段フィルタ部11Bbの通過帯域PBの高周波数側の境界周波数よりも低周波数側に位置している。また、第1後段フィルタ部11Baの通過帯域PBの高周波数側の一部と、第2後段フィルタ部11Bbの通過帯域PBの低周波数側の一部とは、互いに重複している。2以上の後段フィルタ部11Bの通過帯域PBを足し合わせた通過帯域PB0は、フィルタ1全体の通過帯域PB及び/又は前段フィルタ部11Aの通過帯域PBと同じである。
【0038】
なお、通過帯域PB0がフィルタ11の通過帯域PB及び/又は前段フィルタ部11Aの通過帯域PBと同じという場合、両者の間に誤差が存在してもよいことはもちろんである。例えば、通過帯域PB0の低周波数側の境界周波数と、他の通過帯域の低周波数側の境界周波数との差が、通過帯域PB0の1/10以下の場合は、両者は一致していると捉えられてよい。高周波数側についても同様である。そして、低周波数側及び高周波数側の双方において、通過帯域PB0の境界周波数と他の通過帯域の境界周波数との差が上記の誤差範囲内であれば、両者は一致していると捉えられてよい。
【0039】
実際に流通しているフィルタ1の通過帯域PBは、本開示に係る技術に属するか否かの判断に必要な精度で特定されればよく、必ずしも高精度に特定される必要は無い。また、通過帯域PBは、合理的に特定されてよい。例えば、通過帯域PBは、仕様書に基づいて特定されてよい。また、図2の下部に示されるような特性を測定し、その測定結果及び技術常識に基づいて通過帯域PBが合理的に判断されてもよい。フィルタ1が利用される技術分野において一般に要求されている透過特性が確保されている帯域を通過帯域PBとして特定してもよい。
【0040】
また、2以上の後段フィルタ部11Bの透過特性の相対的な関係からフィルタ部11のフィルタ特性が説明されてもよい。例えば、上記のように2以上の後段フィルタ部11Bの通過帯域PBを足し合わせた通過帯域PB0を考える。このとき、通過帯域PB0内の低周波数側の一部においては、第1後段フィルタ部11Baの透過特性は、第2後段フィルタ部11Bbの透過特性よりも高い。逆に、通過帯域PB0の他部(高周波数側の一部)においては、第2後段フィルタ部11Bbの透過特性が第1後段フィルタ部11Baの透過特性よりも高い。
【0041】
また、帯域を基準とするのではなく、所定の周波数を基準として、フィルタ部11のフィルタ特性が説明されてもよい。例えば、所定の周波数f1と、当該周波数f1よりも高周波数側の周波数f2とを考える。両者は、記号BTで示される帯域、及び/又は既述の通過帯域PB0に含まれる。
【0042】
このとき、例えば、第1後段フィルタ部11Baは、周波数f1においては、要求されている透過特性の条件を満たし、周波数f2においては、要求されている透過特性の条件を満たさない。その一方で、第2後段フィルタ部11Bbは、周波数f1においては、要求されている透過特性の条件を満たさず、周波数f2においては、要求されている透過特性の条件を満たす。
【0043】
また、例えば、第1後段フィルタ部11Baは、周波数f1を通過帯域に含み、周波数f2を通過帯域に含まない。その一方で、第2後段フィルタ部11Bbは、周波数f1を通過帯域に含まず、周波数f2を通過帯域に含む。
【0044】
また、例えば、周波数f1においては、第1後段フィルタ部11Baの透過特性が第2後段フィルタ部11Bbの透過特性よりも高い。逆に、周波数f2においては、第2後段フィルタ部11Bbの透過特性が第1後段フィルタ部11Baの透過特性よりも高い。
【0045】
図4(b)は、後段フィルタ部11Bのフィルタ特性の他の例を示す、図4(a)と同様の図である。
【0046】
図4(b)では、図4(a)に比較して、要求されている透過特性が確保されている帯域の、後段フィルタ部11B同士における重複量(周波数帯)が大きくなっている。別の観点では、図4(b)では、図4(a)に比較して、2以上の後段フィルタ部11Bの通過帯域PBの重複量が大きくなっている。ただし、周波数f1及び周波数f2は、例えば、図4(a)と同様に、上記の重複した帯域には含まれていない。
【0047】
(相互変調歪の低減)
入力端子3と出力端子5との間に互いに並列な信号経路を構成する2以上の後段フィルタ部11Bを設け、かつ図4(a)を参照して説明したように2以上の後段フィルタ部11Bのフィルタ特性を設定すると、例えば、相互変調歪を低減することができる。具体的には、以下のとおりである。
【0048】
図1において入力端子3付近に描いた矢印で示すように、周波数f1の信号と、周波数f2の信号とが入力端子3に同時に入力される場合を想定する。周波数f1及びf2については、図4(a)を参照して説明したとおりである。周波数f1の信号と、周波数f2の信号とは、互いに別個の信号であり、例えば、互いに異なる情報を含んでいる。
【0049】
図3に示されているように、前段フィルタ部11Aの通過帯域PBは、周波数f1及びf2を含んでいる。従って、入力端子3付近において、f1及びf2の符号が付された矢印の長さを互いに同等に描いていることによって表されているように、周波数f1及びf2の信号は、いずれも前段フィルタ部11Aを通過する(減衰量が比較的小さい。)。
【0050】
一方、図4(a)を参照して説明したように、第1後段フィルタ部11Baの通過帯域PBは、周波数f1を含んでいる一方で、周波数f2を含んでいない。従って、第1後段フィルタ部11Ba付近において、f1の符号が付された矢印をf2の符号が付された矢印よりも長く描いていることによって表されているように、周波数f1の信号は、フィルタ部11Aを通過する(減衰量が比較的小さい)。その一方で、周波数f2の信号は、周波数f1の信号よりも大きい減衰量で減衰される。
【0051】
上記とは逆に、第2後段フィルタ部11Bbの通過帯域PBは、周波数f2を含んでいる一方で、周波数f1を含んでいない。従って、第2後段フィルタ部11Bb付近において、f2の符号が付された矢印をf1の符号が付された矢印よりも長く描いていることによって表されているように、周波数f2の信号は、第2後段フィルタ部11Bbを通過する(減衰量が比較的小さい)。その一方で、周波数f1の信号は、周波数f2の信号よりも大きい減衰量で減衰される。
【0052】
また、互いに周波数が異なる2つの信号が1つの共振子9に同時に入力されると、相互変調歪が生じる。ここで、周波数f1の信号によって共振子9にかかる交流電力(共振子9を通過する電力)の振幅をP1とし、周波数f2の信号によって共振子9にかかる交流電力の振幅をP2とする。このとき、例えば、2次相互変調歪の電力(例えばその振幅)は、P1×P2に比例する。また、例えば、3次相互変調歪の電力(例えばその振幅)は、P1×P2又はP1×P2に比例する。従って、P1及びP2のいずれか一方の値が小さくされれば、相互変調歪は低減される。なお、本開示の説明では、便宜上、交流電力の振幅を単に電力ということがある。
【0053】
一方、上記のように、第1後段フィルタ部11Baにおいては、周波数f2の信号(別の観点では電力P2)が低減される。その結果、第1後段フィルタ部11Baにおける相互変調歪の電力が低減される。同様に、第2後段フィルタ部11Bbにおいては、周波数f1の信号(別の観点では電力P1)が低減される。その結果、第2後段フィルタ部11Bbにおける相互変調歪の電力が低減される。
【0054】
上記では、電力の観点から説明したが、電圧の観点からも説明できる。例えば、周波数f1の信号によって共振子9にかかる電圧をV1とし、周波数f2の信号によって共振子9にかかる電圧をV2とする。このとき、例えば、2次相互変調歪の電圧は、V1×V2に比例する。また、例えば、3次相互変調歪の電圧は、V1×V2又はV1×V2に比例する。
【0055】
周波数f2の信号は、第1後段フィルタ部11Baによって減衰されるから、最後段の直列共振子9S4aに印加される電圧V2は低減される。その結果、第1後段フィルタ部11Baにおける相互変調歪の電圧が低減される。同様に、周波数f1の信号は、第2後段フィルタ部11Bbによって減衰されるから、最後段の直列共振子9S4bに印加される電圧V1は低減される。その結果、第2後段フィルタ部11Bbにおける相互変調歪の電圧が低減される。
【0056】
2つの後段フィルタ部11Bは、入力端子3と出力端子5との間で並列接続されているから、第1後段フィルタ部11Baを通過した周波数f1の信号と、第2後段フィルタ部11Bbを通過した周波数f2の信号とは合流して出力端子5から出力される。従って、フィルタ1において、周波数f1の信号と周波数f2の信号との双方を通過させる機能は維持される。
【0057】
上記の原理は、入力端子3から出力端子5までの共振子9のいずれに対して適用されてもよい。ただし、フィルタとして機能する部分(例えば、1つの直列共振子9S及び1つの並列共振子9Pの組み合わせ)よりも入力端子3側において生じた相互変調歪は、上記のフィルタとして機能する部分によって減衰されやすい。換言すれば、出力端子5側の共振子9ほど、相互変調歪がフィルタ1の特性に影響を及ぼしやすい。特に、最後段の直列共振子9Sは、相互変調歪がフィルタ1の特性に及ぼす影響が相対的に大きい。そこで、フィルタ1は、互いに並列に接続されている後段フィルタ部11Bがフィルタ1における最後段の直列共振子9S(9S4a及び9S4b)を含むように構成されている。
【0058】
2以上の後段フィルタ部11Bは、並列接続されているから、互いに同一の電圧が印加される。従って、例えば、各後段フィルタ部11Bのそれぞれが、1つの直列共振子9S及び1つの並列共振子9Pのみによって構成されている場合、2以上の後段フィルタ部11B内の最後段の直列共振子9Sに印加される電圧は互いに同一である。本実施形態では、各後段フィルタ部11Bは、2以上の直列共振子9Sを含んでいることから、最後段の直列共振子9S4a及び9S4bに互いに異なる電圧を印加可能である。その結果、上述した相互変調歪を低減する原理の利用が容易化されている。
【0059】
以上の説明から理解されるように、本実施形態では、最後段の直列共振子9S4aにかかる周波数f2の電力P2を低減し、及び最後段の直列共振子9S4bにかかる周波数f2の電力P1を低減することによって、相互変調歪を低減する。従って、これまでの説明では、縦軸を減衰量とするグラフに現れるフィルタ特性が2つの後段フィルタ部11B同士で異なることを前提として説明したが、そのような相違は本開示の技術における必須事項ではない。例えば、種々のパラメータの調整の結果として、上記のような電力の低減が実現されればよい。従って、電力の観点からフィルタ1(2以上の後段フィルタ部11B)の構成が説明されてよい。
【0060】
例えば、フィルタ1は、通過帯域PB0内の周波数f1を有する信号が2つの後段フィルタ部11Bに同時に入力されたとき、直列共振子9S4aにかかる電力が直列共振子9S4bにかかる電力よりも大きくなるように構成されているということができる。さらに、フィルタ1は、通過帯域PB0内かつ周波数f1よりも高い周波数f2を有する信号が2つの後段フィルタ部11Bに同時に入力されたとき、直列共振子9S4bにかかる電力が直列共振子9S4aにかかる電力よりも大きくなるように構成されているということができる。
【0061】
また、例えば、入力端子3に入力される電力が、周波数f1の信号と周波数f2の信号とで同等である状況を想定する。この場合、フィルタ1は、直列共振子9S4aにかかる電力に関して、周波数f1の電力P1が周波数f2の電力P2よりも大きくなるように構成されているということができる。同様に、フィルタ1は、最後段の直列共振子9S4bにかかる電力に関して、周波数f2の電力P2が周波数f1の電力P1よりも大きくなるように構成されているということができる。ただし、入力電力(又は電圧)が周波数f1と周波数f2とで同じという前提条件は、実際の機器においては必ずしも成り立たない。
【0062】
(共振子の具体例)
フィルタ1を構成する共振子9は、種々の構成とされてよい。例えば、共振子9は、SAW共振子とされてもよいし、SAW共振子と同様の電極を有しつつ、BAWを利用するBAW共振子とされてもよいし、キャビティ上で圧電薄膜を振動させる圧電薄膜共振器(FBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)と呼称されることもある。)とされてもよい。以下、共振子9の一例として、SAW共振子について説明する。
【0063】
図5は、共振子9としてのSAW共振子の構成を模式的に示す平面図である。
【0064】
図5は、便宜的に、D1軸、D2軸及びD3軸からなる直交座標系を付す。共振子9は、いずれの方向が上方又は下方とされてもよい。ただし、以下の説明では、便宜上、D3軸の正側を上方として、上面又は下面等の用語を用いることがある。なお、D1軸は、上面21a(後述)に沿って伝搬する弾性波の伝搬方向に平行になるように定義されている。D2軸は、上面21aに平行かつD1軸に直交するように定義されている。D3軸は、上面21aに直交するように定義されている。
【0065】
共振子9は、いわゆる1ポート弾性波共振子によって構成されている。共振子9は、例えば、紙面両側に示された2つの配線23の一方から入力された信号を2つの配線23の他方から出力する。この際、共振子9は、電気信号から弾性波への変換及び弾性波から電気信号への変換を行う。
【0066】
共振子9は、例えば、基板21(その少なくとも上面21a側の一部)と、上面21a上に位置する励振電極25と、励振電極25の両側に位置する1対の反射器27とを含んでいる。1つの基板21上には、複数の共振子9が構成されてよい。すなわち、基板21は、複数の共振子9に共用されてよい。以下の説明では、同一の基板21を共用する複数の共振子9を区別するために、便宜上、励振電極25及び1つの反射器27の組み合わせ(共振子9の電極部)が共振子9であるかのように(共振子9が基板21を含まないかのように)表現することがある。
【0067】
基板21は、少なくとも、上面21aのうち共振子9が設けられる領域に圧電性を有している。このような基板21としては、例えば、基板全体が圧電体によって構成されているもの(すなわち圧電基板)を挙げることができる。また、例えば、いわゆる貼り合わせ基板を挙げることができる。貼り合わせ基板は、上面21aを有する圧電体からなる基板(圧電基板)と、この圧電基板の上面21aとは反対側の面に、接着剤を介して、又は接着剤を介さずに直接に貼り合わされた支持基板とを有している。また、共振子9が設けられる領域に圧電性を有している基板21としては、例えば、支持基板と、支持基板の+D3側の主面の一部領域又は主面の全面に、圧電体からなる膜(圧電膜)又は圧電膜を含む多層膜が形成されたものを挙げることができる。
【0068】
基板21のうちの少なくとも共振子9が設けられる領域を構成している圧電体は、例えば、圧電性を有する単結晶によって構成されている。このような単結晶を構成する材料としては、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO)、ニオブ酸リチウム(LiNbO)及び水晶(SiO)を挙げることができる。カット角、平面形状および各種の寸法は適宜に設定されてよい。
【0069】
励振電極25及び反射器27は、基板21上に設けられた層状導体によって構成されている。励振電極25および反射器27は、例えば、互いに同一の材料および厚さで構成されている。これらを構成する層状導体は、例えば、金属である。金属は、例えば、AlまたはAlを主成分とする合金(Al合金)である。Al合金は、例えば、Al-Cu合金である。層状導体は、複数の金属層から構成されていてもよい。層状導体の厚さは、共振子9に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。一例として、層状導体の厚さは50nm以上600nm以下である。
【0070】
励振電極25は、1対の櫛歯電極29(一方には視認性をよくする便宜上ハッチングを付す)を有している。各櫛歯電極29は、例えば、バスバー31と、バスバー31から互いに並列に延びる複数の電極指33と、複数の電極指33の間においてバスバー31から突出する複数のダミー電極35とを有している。そして、1対の櫛歯電極29は、複数の電極指33が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。
【0071】
バスバー31は、例えば、概略、一定の幅で弾性波の伝搬方向(D1方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。そして、一対のバスバー31は、弾性波の伝搬方向に直交する方向(D2方向)において互いに対向している。なお、バスバー31は、幅が変化したり、弾性波の伝搬方向に対して傾斜したりしていてもよい。
【0072】
各電極指33は、例えば、概略、一定の幅で弾性波の伝搬方向に直交する方向(D2方向)に直線状に延びる長尺状に形成されている。各櫛歯電極29において、複数の電極指33は、弾性波の伝搬方向に配列されている。また、一方の櫛歯電極29の複数の電極指33と他方の櫛歯電極29の複数の電極指33とは、基本的には交互に配列されている。
【0073】
複数の電極指33のピッチp(例えば互いに隣り合う2本の電極指33の中心間距離)は、励振電極25内において基本的に一定である。なお、励振電極25は、一部にピッチpに関して特異な部分を有していてもよい。特異な部分としては、例えば、大部分(例えば8割以上)よりもピッチpが狭くなる狭ピッチ部、大部分よりもピッチpが広くなる広ピッチ部、少数の電極指33が実質的に間引かれた間引き部が挙げられる。
【0074】
以下において、ピッチpという場合、特に断りがない限りは、上記のような特異な部分を除いた部分(複数の電極指33の大部分)のピッチをいうものとする。また、特異な部分を除いた大部分の複数の電極指33においても、ピッチが変化しているような場合においては、大部分の複数の電極指33のピッチの平均値をピッチpの値として用いてよい。
【0075】
電極指33の本数は、共振子9に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。図5は模式図であることから、電極指33の本数は少なく示されている。実際には、図示よりも多くの電極指33が配列されてよい。後述する反射器27のストリップ電極39についても同様である。
【0076】
複数の電極指33の長さは、例えば、互いに同等である。なお、励振電極25は、複数の電極指33の長さ(別の観点では後述する交差幅W)が伝搬方向の位置に応じて変化する、いわゆるアポダイズが施されていてもよい。電極指33の長さ及び幅は、要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。
【0077】
ダミー電極35は、例えば、概ね一定の幅で弾性波の伝搬方向に直交する方向に突出している。その幅は、例えば電極指33の幅と同等である。また、複数のダミー電極35は、複数の電極指33と同等のピッチで配列されており、一方の櫛歯電極29のダミー電極35の先端は、他方の櫛歯電極29の電極指33の先端とギャップを介して対向している。なお、励振電極25は、ダミー電極35を含まないものであってもよい。
【0078】
1対の反射器27は、弾性波の伝搬方向において複数の励振電極25の両側に位置している。各反射器27は、例えば、電気的に浮遊状態とされてもよいし、基準電位が付与されてもよい。各反射器27は、例えば、格子状に形成されている。すなわち、反射器27は、互いに対向する1対のバスバー37と、1対のバスバー37間において延びる複数のストリップ電極39とを含んでいる。複数のストリップ電極39のピッチ、及び互いに隣接する電極指33とストリップ電極39とのピッチは、基本的には複数の電極指33のピッチと同等である。
【0079】
1対の櫛歯電極29に電圧が印加されると、複数の電極指33によって圧電性を有する上面21aに電圧が印加され、上面21aが振動する。これにより、D1方向に伝搬する弾性波が励振される。弾性波は、複数の電極指33によって反射される。そして、複数の電極指33のピッチpを概ね半波長(λ/2)とする定在波が立つ。定在波によって圧電膜57に生じる電気信号は、複数の電極指33によって取り出される。このような原理により、共振子9は、ピッチpを半波長とする弾性波の周波数を共振周波数とする共振子として機能する。
【0080】
共振子9において、反共振周波数は、基本的にピッチpによって規定される共振周波数と、共振子9における容量比によって規定される。容量比は、共振子9(励振電極25)の静電容量と、共振子9を等価回路で表したときの直列共振回路のキャパシタンス(動キャパシタンス)との比である。一方、上述のように、ラダー型フィルタにおいては、基本的に、複数の直列共振子9Sの反共振周波数は同等とされ、また、複数の並列共振子9Pの反共振周波数は同等とされる。従って、複数の直列共振子9Sの静電容量(以下、単に容量ということがある。)は、特に断りがない限り、互いに同等とされてよい。複数の並列共振子9Pについても同様である。
【0081】
特に図示しないが、共振子9は、励振電極25及び反射器27の上から基板21の上面21aを覆う不図示の保護膜を有していてもよい。このような保護膜は、例えば、SiO等の絶縁材料からなり、励振電極25等が腐食する蓋然性を低減したり、及び/又は共振子9の温度変化に起因する特性変化を補償したりすることに寄与する。また、共振子9は、励振電極25及び反射器27の上面又は下面に重なり、基本的に平面透視において励振電極25及び反射器27に収まる形状を有している付加膜を有していてもよい。このような付加膜は、例えば、励振電極25等の材料とは音響的な特性が異なる絶縁材料又は金属材料からなり、SAWの反射係数を向上させることに寄与する。
【0082】
フィルタ1は、例えば、同一の基板21上に全ての共振子9を有している。入力端子3、出力端子5及び基準電位部7(基準電位端子)は、例えば、基板21上に位置している導体層によって構成されている。ただし、フィルタ1は、複数の基板21を有していてもよい。そして、フィルタ1の複数の共振子9は、複数の基板21に分散して配置されていてもよい。
【0083】
(電力を異ならせる具体的な方法)
上述したように、本実形態においては、共振子9にかかる電力に関して、周波数f1の電力を最後段の直列共振子9S4a及び9S4bとで異ならせ、かつ周波数f2の電力を直列共振子9S4a及び9S4bとで周波数f1の電力とは逆の大小関係で異ならせる。このように直列共振子9S4a及び9S4bにかかる電力を異ならせる方法は種々可能である。既述の説明では、縦軸を減衰量Aとしたグラフ(図4(a))を参照して通過帯域の観点から説明したが、必ずしも図4(a)等を参照して説明した通過帯域が実現されている必要な無い。以下では、直列共振子9S4a及び9S4bにかかる電力を異ならせる方法について、いくつかの例を示す。
【0084】
(容量の相違)
最後段の直列共振子9S4a及び9S4bにかかる電力の相違は、例えば、第1後段フィルタ部11Ba(その全部又は一部)と、第2後段フィルタ部11Bb(その全部又は一部)との間の容量の相違によって実現されてよい。キャパシタのインピーダンスの式からも明らかなように、フィルタ部11及び/又は共振子9は、容量が大きいほど高周波数側の信号を通過させやすくなる。この性質が利用されてよい。
【0085】
SAW共振子によって構成されている共振子9において、容量を規定するパラメータとしては、例えば、電極指33の交差幅W及び電極指33の本数が挙げられる。交差幅Wは、例えば、図5に示すように、互いに隣り合う2本の電極指33において、一方の電極指33の先端から他方の電極指33の先端までのD2方向における長さによって定義される。図示の例では、交差幅Wは、D1方向のいずれの位置においても同じである。交差幅Wが大きいほど、共振子9の容量は大きくなる。また、電極指33の本数が多いほど、共振子9の容量は大きくなる。
【0086】
(並列共振子における交差幅の相違)
図6は、フィルタ1の一部を模式的に示す回路図である。この図では、フィルタ1のうち、出力端子5側の一部が示されている。より詳細には、並列共振子9P3a及び9P3b、直列共振子9S4a及び9S4b、並びに出力端子5が示されている。また、この図では、共振子9は、励振電極25のみが示されている。
【0087】
並列共振子9P3aは、第1後段フィルタ部11Baにおいて、最後段の直列共振子9S4aと、その1つ前の直列共振子9S3a(図1)との間に接続されている並列共振子である。同様に、並列共振子9P3bは、第2後段フィルタ部11Bbにおいて、最後段の直列共振子9S4bと、その1つ前の直列共振子9S3b(図1)との間に接続されている並列共振子である。
【0088】
そして、並列共振子9P3aの電極指33の交差幅は、並列共振子9P3bの電極指33の交差幅よりも長くされ、これにより、並列共振子9P3aの容量は、並列共振子9P3bの容量よりも大きくされてよい。このようにすると、並列共振子9P3aは、並列共振子9P3bに比較して、高周波数側の信号を基準電位部7に逃がしやすくなる。その結果、相対的に低い周波数f1においては、直列共振子9S4aにかかる電力が直列共振子9S4bにかかる電力よりも大きくなり、相対的に高い周波数f2においては、直列共振子9S4bにかかる電力が直列共振子9S4aにかかる電力よりも大きくなる。
【0089】
並列共振子9P3a及び9P3bの容量の差は、適宜に設定されてよい。通常のラダー型フィルタにおいて、特性の微調整のために、並列共振子同士で容量が互いに異なることがある。並列共振子9P3a及び9P3bの容量の差は、例えば、そのような微調整のための容量の差よりも大きくされてよい。例えば、両者の容量の差は、両者の容量の平均値の5%以上、10%以上、20%以上又は30%以上とされてよい。
【0090】
並列共振子9P3a及び9P3bの容量は、いずれも前段フィルタ部11Aの並列共振子9Pの容量と異なっていてもよいし、一方のみが前段フィルタ部11Aの並列共振子9Pの容量と異なっていてもよい。前者としては、例えば、並列共振子9P3aの容量が前段フィルタ部11Aの並列共振子9Pの容量よりも大きくされ、並列共振子9P3bの容量が前段フィルタ部11Aの並列共振子9Pの容量よりも小さくされる態様を挙げることができる。
【0091】
交差幅以外の条件(例えばピッチp)については、例えば、並列共振子9P3aと並列共振子9P3bとで同じである。ただし、交差幅以外の条件も両者の間で異なっていてもよい。また、並列共振子9P3a及び9P3bの交差幅(容量)以外の条件(例えばピッチp)は、前段フィルタ部11Aの並列共振子9Pの交差幅以外の条件と同じとされてもよいし、異なっていてもよい。
【0092】
(直列共振子における交差幅の相違)
図6に示すように、最後段の直列共振子9S4bの電極指33の交差幅は、最後段の直列共振子9S4aの電極指33の交差幅よりも長くされ、これにより、直列共振子9S4bの容量は、直列共振子9S4aの電極指33の容量よりも大きくされてよい。このようにすると、直列共振子9S4bは、直列共振子9S4aに比較して、高周波数側の信号を出力端子5へ流しやすくなる。その結果、相対的に低い周波数f1においては、直列共振子9S4aにかかる電力が直列共振子9S4bにかかる電力よりも大きくなり、相対的に高い周波数f2においては、直列共振子9S4bにかかる電力が直列共振子9S4aにかかる電力よりも大きくなる。
【0093】
直列共振子9S4a及び9S4bの容量の差は、適宜に設定されてよい。通常のラダー型フィルタにおいて、特性の微調整のために、直列共振子同士で容量が互いに異なることがある。直列共振子9S4a及び9S4bの容量の差は、例えば、そのような微調整のための容量の差よりも大きくされてよい。例えば、両者の容量の差は、両者の容量の平均値の5%以上、10%以上、20%以上又は30%以上とされてよい。
【0094】
直列共振子9S4a及び9S4bの容量は、いずれも前段フィルタ部11Aの直列共振子9Sの容量と異なっていてもよいし、一方のみが前段フィルタ部11Aの直列共振子9Sの容量と異なっていてもよい。前者としては、例えば、直列共振子9S4aの容量が前段フィルタ部11Aの直列共振子9Sの容量よりも小さくされ、直列共振子9S4bの容量が前段フィルタ部11Aの直列共振子9Sの容量よりも大きくされる態様を挙げることができる。
【0095】
交差幅以外の条件(例えばピッチp)については、例えば、直列共振子9S4aと直列共振子9S4bとで同じである。ただし、交差幅以外の条件も両者の間で異なっていてもよい。また、直列共振子9S4a及び9S4bの交差幅(容量)以外の条件(例えばピッチp)は、前段フィルタ部11Aの直列共振子9Sの交差幅以外の条件と同じとされてもよいし、異なっていてもよい。
【0096】
(並列共振子における電極指の本数の相違)
図7は、フィルタ1の一部を模式的に示す、図6と同様の回路図である。
【0097】
図7の例においても、図6の例と同様に、並列共振子9P3aの容量が並列共振子9P3bの容量よりも大きくされている。ただし、図7の例では、並列共振子9P3aの電極指33の本数が、並列共振子9P3bの電極指33の本数よりも多くされ、これにより、容量の相違が実現されている。
【0098】
容量の相違の実現方法が異なる以外は、図7の並列共振子9P3a及び9P3bは、図6の並列共振子9P3a及び9P3bと同様とされてよい。図6の並列共振子9P3a及び9P3bの説明は、交差幅を電極指の本数に置換して、適宜に援用されてよい。
【0099】
(直列共振子における電極指の本数の相違)
並列共振子9P3a及び9P3bと同様に、図7の直列共振子9S4a及び9S4bは、電極指33の本数によって容量の相違が実現されている点が図6の直列共振子9S4a及び9S4bと相違する。この点以外は、図7の直列共振子9S4a及び9S4bは、図6の直列共振子9S4a及び9S4bと同様とされてよい。図6の直列共振子9S4a及び9S4bの説明は、交差幅を電極指の本数に置換して、適宜に援用されてよい。
【0100】
(ピッチの相違)
最後段の直列共振子9S4a及び9S4bにかかる電力の相違は、図2図3及び図4(a)を参照して説明した概念に近い形で実現されてもよい。すなわち、電極指33のピッチp(図5)の調整によって通過帯域を調整し、これにより、電力の相違を実現してもよい。具体的には、以下のとおりである。
【0101】
図8は、フィルタ1の一部を模式的に示す、図6と同様の回路図である。
【0102】
図8に示す例では、並列共振子9P3aのピッチpは、並列共振子9P3bのピッチpよりも大きくされている。従って、並列共振子9P3aの共振周波数fpr(図2)は、並列共振子9P3bの共振周波数fprよりも低くなっている。また、並列共振子9P3aの反共振周波数fpa(図2)は、並列共振子9P3bの反共振周波数fpaよりも低くなっている。
【0103】
また、図8に示す例では、直列共振子9P4aのピッチpは、直列共振子9P4bのピッチpよりも大きくされている。従って、直列共振子9P4aの共振周波数fsr(図2)は、直列共振子9P4bの共振周波数fsrよりも低くなっている。また、直列共振子9P4aの反共振周波数fsa(図2)は、直列共振子9P4bの反共振周波数fsaよりも低くなっている。
【0104】
従って、第1後段フィルタ部11Baの通過帯域PB(図2)は、図4(a)及び図4(b)を参照して説明したように、第2後段フィルタ部11Bbの通過帯域PBに比較して低周波数側に位置している。
【0105】
各後段フィルタ部11Bの通過帯域PBは、前段フィルタ部11Aの通過帯域PB(例えば2つの後段フィルタ部11Bの通過帯域PBを足し合わせた通過帯域PB0と同一)よりも狭い。別の観点では、後段フィルタ部11Bの各共振子9における共振周波数と反共振周波数との周波数差は、前段フィルタ部11Aの各共振子9における共振周波数と反共振周波数との周波数差よりも小さい。このような周波数差の調整は、例えば、公知の種々の方法により実現されてよい。
【0106】
例えば、例えば、共振子9を等価回路で表したときの直列共振回路の容量(動キャパシタンス)に対する共振子9の静電容量の比を大きくすることによって、反共振周波数を低周波側(共振周波数側)にシフトさせ、ひいては、周波数差を小さくしてよい。この容量比を調整する手法も、公知の種々の方法により実現されてよい。例えば、共振子9の種々のパラメータ自体が調整されてよい。また、例えば、共振子9に並列にキャパシタが接続されてもよい。この場合は、共振子9と付加されたキャパシタとの組み合わせが共振子と捉えられてもよい。
【0107】
(他の調整パラメータ)
最後段の直列共振子9S4a及び9S4bにかかる電力を異ならせる方法は、特に図示しないが、共振子9の容量の調整及びピッチの相違以外にも種々可能である。
【0108】
また、例えば、共振子9のデューティー比が調整されてもよい。デューティー比は、例えば、電極指33の幅をw0(図5)としたときに、w0/pによって表される。デューティー比が大きくされるほど、共振子9の共振周波数及び反共振周波数は低くなる。従って、例えば、並列共振子9P3aのデューティー比が、並列共振子9P3bのデューティー比よりも大きくされたり、及び/又は直列共振子9S4aのデューティー比が、直列共振子9S4bのデューティー比よりも大きくされたりしてよい。
【0109】
また、例えば、共振子9の励振電極25の厚さが調整されてもよい。励振電極25が厚くされるほど、共振子9の共振周波数及び反共振周波数は低くなる。従って、例えば、並列共振子9P3aの励振電極25が、並列共振子9P3bの励振電極25よりも厚くされたり、及び/又は直列共振子9S4aの励振電極25が、直列共振子9S4bの励振電極25よりも厚くされたりしてよい。
【0110】
また、例えば、励振電極25が不図示の保護膜によって覆われている態様においては、保護膜の厚さが調整されてもよい。保護膜が厚くされるほど、共振子9の共振周波数及び反共振周波数は低くなる。従って、例えば、並列共振子9P3aの励振電極25を覆う保護膜が、並列共振子9P3bの励振電極25を覆う保護膜よりも厚くされたり、及び/又は直列共振子9S4aの励振電極25を覆う保護膜が、直列共振子9S4bの励振電極25を覆う保護膜よりも厚くされたりしてよい。
【0111】
また、例えば、励振電極25に不図示の付加膜が重ねられている態様においては、付加膜の厚さが調整されてもよい。付加膜が厚くされるほど、共振子9の共振周波数及び反共振周波数は低くなる。従って、例えば、並列共振子9P3aの付加膜が、並列共振子9P3bの付加膜よりも厚くされたり、及び/又は直列共振子9S4aの付加膜が、直列共振子9S4bの付加膜よりも厚くされたりしてよい。ただし、付加膜は、励振電極25の一部として捉えられてもよい。また、例えば、並列共振子9P3a及び9P3bのうち、前者に対してのみ付加膜を設けたり、及び/又は直列共振子9S4a及び9S4bのうち前者に対してのみ付加膜を設けたりしてもよい。
【0112】
また、例えば、抵抗体、インダクタ及び/又はキャパシタが、共振子9に対して、直列及び/又は並列に接続されてもよい。例えば、既述のように、共振子9に対して並列にキャパシタが接続されると、反共振周波数が低周波数側にシフトする。また、共振子9に対して直列にインダクタを接続すると、共振周波数が低周波数側にシフトする。従って、例えば、並列共振子9P3a及び9P3bのうち前者に対してのみ、キャパシタを並列接続するとともにインダクタを直列接続したり、及び/又は直列共振子9S4a及び9S4bのうち前者に対してのみ、キャパシタを並列接続するとともにインダクタを直列接続したりしてよい。あるいは、並列共振子9P3a及び9P3bの双方にキャパシタを並列接続するとともにインダクタを直列接続しつつ、並列共振子9P3aに付加されるキャパシタンス及びインダクタンスを並列共振子9P3bに付加されるキャパシタンス及びインダクタンスよりも大きくしてもよい。直列共振子9S4a及び9S4bについても同様である。なお、共振子9と、共振子9に接続される上記の電子素子との組み合わせが共振子と捉えられてもよい。
【0113】
上記の説明から理解されるように、電力を異ならせるために調整される対象は、(狭義の)共振子9自体であってもよいし、共振子9以外の構成要素(例えば、キャパシタ及びインダクタ)であってもよい。
【0114】
これまでに説明した電力を異ならせる方法は、適宜に組み合わされてよい。例えば、交差幅の調整、電極指33の本数の調整、ピッチの調整、励振電極25の厚さの調整、保護膜の厚さの調整、付加膜の厚さの調整及び他の電子素子の接続のうち、2つ以上が組み合わされて、並列共振子9P3a及び9P3bの相違の実現に適用されたり、直列共振子9S4a及び9S4bの相違の実現に適用されたりしてよい。また、例えば、並列共振子9P3a及び9P3bに適用される手法と、直列共振子9S4a及び9S4bに適用される手法とが異なっていてもよい。
【0115】
(他の共振子における調整)
図6図8では、最後段の直列共振子4Sa及び4Sbの構成を異ならせるとともに、その直前の並列共振子9P3a及び9P3bの構成を異ならせ、最後段の直列共振子4Sa及び4Sbにかかる電力を互いに異ならせた。換言すれば、2つの後段フィルタ部11Bの他の構成(例えば他の共振子9)は互いに同じであることが前提とされた。また、2つの後段フィルタ部11Bの他の共振子9(図1の例では直列共振子9S3a及び9S3b)は、前段フィルタ部11Aの共振子9と同様とされた。ただし、特に図示しないが、直列共振子4Sa及び4Sb並びに並列共振子9P3a及び9P3bの構成の調整に代えて、又は加えて、後段フィルタ部11Bが含む他の共振子9の構成が調整されることによって、最後段の直列共振子4Sa及び4Sbにかかる電力が異ならされてもよい。
【0116】
例えば、上述した直列共振子4Sa及び4Sbに対する種々の調整は、直列共振子4Sa及び4Sbに代えて、又は加えて、後段フィルタ部11Bの他の直列共振子9S(図1の例では直列共振子9S3a及び9S3b)に対して施されてよい。また、図1の例とは異なり、いずれかの後段フィルタ部11Bが3つ以上の直列共振子9Sと2以上の並列共振子9Pとを有している場合において、上述した並列共振子9P3a及び9P3bに対する種々の調整と同様の調整は、並列共振子9P3a及び9P3bに代えて、又は加えて、後段フィルタ部11Bの他の並列共振子9Pに対して施されてよい。
【0117】
また、個々の共振子9に着目して説明したが、例えば、入力側から見て、周波数f1においては、第1後段フィルタ部11Ba全体のインピーダンスが第2後段フィルタ部11Bb全体のインピーダンスよりも小さくなり、周波数f2においては、第1後段フィルタ部11Ba全体のインピーダンスが第2後段フィルタ部11Bb全体のインピーダンスよりも大きくなるように設計がなされてよい。及び/又は、入力側から見て、第1後段フィルタ部11Baにおいては、周波数f1におけるインピーダンスが周波数f2におけるインピーダンスよりも小さくなり、第2後段フィルタ部11Bbにおいては、周波数f1におけるインピーダンスが周波数f2におけるインピーダンスよりも大きくなるように設計がなされてよい。加えて、各後段フィルタ部11B内の分圧等が適宜に調整されてよい。
【0118】
以上のとおり、本実施形態では、フィルタ1は、信号が入力される入力端子3と、信号を出力する出力端子5と、入力端子3から出力端子5への信号経路に位置している第1フィルタ部(第1後段フィルタ部11Ba)及び第2フィルタ部(第2後段フィルタ部11Bb)とを有している。2つの後段フィルタ部11Bは並列接続されている。2つの後段フィルタ部11Bそれぞれは、ラダー型に接続された、2以上(本実施形態では2つ)の直列共振子9Sと、1以上(本実施形態では1つ)の並列共振子9Pとを備えるラダー型フィルタである。2つの後段フィルタ部11Bそれぞれにおいて、1以上の並列共振子9Pは、2以上の直列共振子9Sのうち1つから他の1つへの信号経路に接続されている並列共振子9P3a又は9P3bを含んでいる。2つの後段フィルタ部11Bの通過帯域PBを足し合わせた第1通過帯域(通過帯域PB0)内において、第1周波数(周波数f1)、及び周波数f1よりも高い第2周波数(周波数f2)に着目する。このとき、2つの後段フィルタ部11Bは、以下の関係が満たされるように構成されている。周波数f1を有する信号が2つの後段フィルタ部11Bに同時に入力されたとき、直列共振子9S4aにかかる信号の電力が、直列共振子9S4bにかかる電力よりも大きくなる。かつ周波数f2を有する信号が2つの後段フィルタ部11Bに同時に入力されたとき、直列共振子9S4bにかかる電力が、直列共振子9S4aにかかる電力よりも大きくなる。
【0119】
従って、例えば、既に述べたように、相互変調歪が低減される。相互変調歪の低減によって、例えば、1つの規格化された通過帯域(通過帯域PB0)内において2種以上の周波数の信号を同時に用いることができる。その結果、例えば、フィルタ1を基地局の送信用のフィルタに用いることによって、複数のキャリアが1つの基地局を同時に利用することが容易化される。これまで、アンテナに入力される微弱な受信信号の相互変調歪の対策は検討されているが、本実施形態のように、電力が大きい送信信号の相互変調歪に対応可能な対策は検討されていない。
【0120】
本願発明者は、相互変調歪の低減の効果をシミュレーション計算によって確認している。具体的には、図1に示すような構成において、並列共振子9P3a及び9P3bの構成が同一であり、かつ直列共振子9S4a及び9S4bの構成が同一である態様を比較例とした。別の観点では、後段フィルタ部11Bの全ての直列共振子9S及び並列共振子9Pの構成が前段フィルタ部11Aの直列共振子9S及び並列共振子9Pの構成と同一である態様を比較例とした。また、比較例において、並列共振子9P3a及び9P3bの容量の比を3:2に変更し、直列共振子9S4a及び9S4bの容量の比を3:4に変更したものを実施例とした。実施例は、比較例に対して、相互変調歪が低減され、その差は約0.05dBであった。
【0121】
本実施形態では、第1後段フィルタ部11Baの通過帯域PBのうち、その高周波数側の境界周波数を含む少なくとも一部の帯域と、第2後段フィルタ部11Bbの通過帯域PBのうち、その低周波数側の境界周波数を含む少なくとも一部の帯域とが重複している。
【0122】
この場合、例えば、2つの後段フィルタ部11Bの通過帯域PBの間に信号が減衰されてしまう周波数帯が生じてしまう蓋然性が低減される。ひいては、2つの後段フィルタ部11Bを含むフィルタ1は、1つの通過帯域PB0を有するフィルタとして機能できる。
【0123】
本実施形態では、フィルタ1は、第3フィルタ部(前段フィルタ部11A)を更に有している。前段フィルタ部11Aは、入力端子3から2つの後段フィルタ部11Bへの信号経路に位置しており、周波数f1及びf2を含む通過帯域(例えば、2つの後段フィルタ部11Bの通過帯域を足し合わせた通過帯域PB0)を有している。
【0124】
この場合、例えば、通過帯域PB0の信号を通過させ、通過帯域PB0の外側の信号を減衰する効果が向上する。すなわち、通過帯域PB0を有するフィルタ1の本来の機能が向上する。
【0125】
本実施形態では、第1後段フィルタ部11Baの最後段の直列共振子9S4aの容量が第2後段フィルタ部11Bbの最後段の直列共振子9S4bの容量よりも小さい。
【0126】
この場合、既に述べたように、高い周波数の信号ほど、直列共振子9S4a及び9S4bのうち後者を通過しやすい。これにより、直列共振子9S4a及び9S4bにかかる電力を互いに異ならせ、相互変調歪を低減できる。さらに、直列共振子9S4aのピッチpと、直列共振子9S4bのピッチpとを異ならせる態様に比較して、リップルの発生が低減される。これは、本願発明者のシミュレーション計算によって確認されている。例えば、直列共振子9S4aのピッチpと、直列共振子9S4bのピッチpとが、通過帯域PB0の1/4以上の幅に相当する量で相違すると、リップルが生じる。しかし、容量の相違によって直列共振子9S4a及び9S4bにかかる電力を互いに異ならせる態様においては、そのような蓋然性が低減される。
【0127】
本実施形態では、第1後段フィルタ部11Baの最後段の並列共振子9P3aの容量が第2後段フィルタ部11Bbの最後段の並列共振子9P3bの容量よりも大きい。
【0128】
この場合、既に述べたように、高い周波数の信号ほど、並列共振子9P3a及び9P3bのうち前者を通過しやすい。これにより、直列共振子9S4a及び9S4bにかかる電力を互いに異ならせ、相互変調歪を低減できる。また、直列共振子9S4a及び9S4bに関して述べたように、ピッチpを異ならせる態様に比較して、リップルが生じる蓋然性を低減することができる。
【0129】
本実施形態では、2つの後段フィルタ部11Bが有する2以上の直列共振子9S及び1以上の並列共振子9Pは、それぞれ励振電極25を有する弾性波共振子(例えばSAW共振子)である。励振電極25は、弾性波の伝搬方向に配列されている複数の電極指33を有している。
【0130】
このような構成においては、例えば、種々の方法によって最後段の直列共振子9S4a及び9S4bにかかる電力を調整することができる。また、例えば、電極指33の交差幅及び/又は本数の調整によって容易に容量を調整することができる。
【0131】
本実施形態では、第1後段フィルタ部11Baの最後段の直列共振子9S4aにおける複数の電極指33のピッチpが、第2後段フィルタ部11Bbの最後段の直列共振子9S4bにおける複数の電極指33のピッチpよりも大きい。
【0132】
この場合、例えば、第1後段フィルタ部11Baにおいて、周波数f2の信号を減衰させる原理は、弾性波共振子を用いたラダー型フィルタの原理に基づくから、より顕著に直列共振子9S4aにかかる周波数f2の電力を低減することができる。同様に、第2後段フィルタ部11Bbにおいて、より顕著に直列共振子9S4bにかかる周波数f1の電力を低減することができる。
【0133】
本実施形態では、第1後段フィルタ部11Baの最後段の並列共振子9P3aにおける複数の電極指33のピッチpが、第2後段フィルタ部11Bbの最後段の並列共振子9P3bにおける複数の電極指33のピッチpよりも大きい。
【0134】
この場合、例えば、上記の直列共振子9Sのピッチを異ならせた場合と同様に、より顕著に、直列共振子9S4aにかかる周波数f2の電力、及び直列共振子9S4bにかかる周波数f1の電力を低減することができる。
【0135】
(フィルタの利用例)
以下、上述したフィルタ1を含む電子部品及び電子機器を例示する。
【0136】
(分波器)
図9は、フィルタ1の利用例としての分波器101の構成を模式的に示す回路図である。
【0137】
分波器101は、より詳細には、デュプレクサとして構成されている。分波器101は、例えば、送信端子103からの送信信号をフィルタリングしてアンテナ端子105へ出力する送信フィルタ109と、アンテナ端子105からの受信信号をフィルタリングして1対の受信端子107に出力する受信フィルタ111とを有している。
【0138】
図示の例では、フィルタ1は、送信フィルタ109に利用されている。送信端子103は、フィルタ1の入力端子3に相当する。アンテナ端子105は出力端子5に相当する。ここでは、便宜上、図1とは異なり、送信端子103及びアンテナ端子105を送信フィルタ109(フィルタ1)の外部の構成要素として図示している。
【0139】
受信フィルタ111は、図示の例では、送信フィルタ109(フィルタ1)と同様に、ラダー型フィルタによって構成されている。ただし、受信フィルタ111は、他の形式のフィルタによって構成されていてもよい。例えば、受信フィルタ111は、多重モード型フィルタによって構成されていてもよい。特に図示しないが、多重モード型フィルタは、例えば、弾性波の伝搬方向に配列された2以上の励振電極25と、その両側に位置する1対の反射器27とを有している。
【0140】
図示の例とは異なり、送信フィルタ109に加えて、又は代えて、受信フィルタ111にフィルタ1が適用されてもよい。この場合、アンテナ端子105が入力端子3に相当し、受信端子107が出力端子5に相当する。送信フィルタ109及び受信フィルタ111は、互いに同一の基板21に設けられていてもよいし、互いに異なる基板21に設けられていてもよい。
【0141】
(通信装置)
図10は、フィルタ1の利用例としての通信装置151の要部を示すブロック図である。通信装置151は、電波を利用した無線通信を行うものであり、例えば、上記の分波器101を含んでいる。
【0142】
通信装置151において、送信すべき情報を含む送信情報信号TISは、RF-IC(Radio Frequency Integrated Circuit)153によって変調及び周波数の引き上げ(搬送波周波数を有する高周波信号への変換)がなされて送信信号TSとされる。送信信号TSは、バンドパスフィルタ155によって送信用の通過帯以外の不要成分が除去され、増幅器157によって増幅されて分波器101(送信端子103)に入力される。そして、分波器101(送信フィルタ109)は、入力された送信信号TSから送信用の通過帯以外の不要成分を除去し、その除去後の送信信号TSをアンテナ端子105からアンテナ159に出力する。アンテナ159は、入力された電気信号(送信信号TS)を無線信号(電波)に変換して送信する。
【0143】
また、通信装置151において、アンテナ159によって受信された無線信号(電波)は、アンテナ159によって電気信号(受信信号RS)に変換されて分波器101(アンテナ端子105)に入力される。分波器101(受信フィルタ111)は、入力された受信信号RSから受信用の通過帯以外の不要成分を除去して受信端子107から増幅器161へ出力する。出力された受信信号RSは、増幅器161によって増幅され、バンドパスフィルタ163によって受信用の通過帯以外の不要成分が除去される。そして、受信信号RSは、RF-IC153によって周波数の引き下げ及び復調がなされて受信情報信号RISとされる。
【0144】
なお、送信情報信号TIS及び受信情報信号RISは、適宜な情報を含む低周波信号(ベースバンド信号)でよく、例えば、アナログの音声信号もしくはデジタル化された信号である。無線信号の通過帯は、適宜に設定されてよく、比較的高周波の通過帯(例えば5GHz以上)とされても構わない。変調方式は、位相変調、振幅変調、周波数変調もしくはこれらのいずれか2つ以上の組み合わせのいずれであってもよい。回路方式は、図10では、ダイレクトコンバージョン方式を例示したが、それ以外の適宜なものとされてよく、例えば、ダブルスーパーヘテロダイン方式であってもよい。また、図10は、要部のみを模式的に示すものであり、適宜な位置にローパスフィルタやアイソレータ等が追加されてもよいし、また、増幅器等の位置が変更されてもよい。
【0145】
図3では、フィルタ1が分波器101に用いられた場合の受信帯域が記号BRで示され、送信帯域が記号BTで示されている。周波数f3は、周波数f1及びf2の信号によって生じる相互変調歪の周波数の一例であり、受信帯域内に位置している。このように周波数f3が受信帯域内に位置する場合においても、本実施形態では、相互変調歪が低減されていることから、受信の精度が低下する蓋然性が低減される。
【0146】
図3では、分波器101(通信装置151)が基地局に用いられている場合が想定されており、受信帯域は、送信帯域よりも低周波数側に位置している。周波数f1及びf2の信号の角速度をω1及びω2としたとき、3次の相互変調歪の角速度は、2×ω1+ω2、2×ω1-ω2、ω1+2×ω2又はω1-2×ω2である。図3のような受信帯域及び送信帯域の設定においては、2×ω1-ω2の角速度を有する相互変調歪が受信帯域に生じやすい。この相互変調歪の電力は、P1×P2に比例する。従って、第2後段フィルタ部11Bbにかかる電力P1の低減を第1後段フィルタ部11Baに係る電力P2の低減に優先させてもよい。
【0147】
以上の実施形態において、第1後段フィルタ部11Baは第1フィルタの一例である。第2後段フィルタ部11Bbは第2フィルタの一例である。前段フィルタ部11Aは第3フィルタの一例である。直列共振子9P4aは第1フィルタの最後段の直列共振子の一例である。直列共振子9P4bは第2フィルタの最後段の直列共振子の一例である。
【0148】
本開示に係る技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
【0149】
実施形態では、互いに並列に接続されるフィルタ部(後段フィルタ部11B)は、2つとされた。ただし、互いに並列に接続された3以上のフィルタ部が設けられてもよい。この場合において、いずれか2つのフィルタ部の通過帯域は、図4(a)及び図4(b)とは異なり、互いに重複していなくてもよい。
【0150】
また、互いに並列に接続された2つ(又は3以上)のフィルタ部は、1つの通過帯域を有するフィルタを構成するものでなくてもよい。この場合においても、2つのフィルタ部の通過帯域は、図4(a)及び図4(b)とは異なり、互いに重複していなくてもよい。
【0151】
互いに並列に接続されたフィルタ部の前段には、他のフィルタ部が設けられていなくてもよい。また、他のフィルタ部が設けられる場合において、このフィルタ部の通過帯域は、互いに並列に接続された2つ以上のフィルタ部の通過帯域を足し合わせた通過帯域と異なっていてもよい。例えば、前者は、後者を包含する後者よりも広い帯域であってもよいし、逆に、後者の一部のみを包含する後者よりも狭い帯域であってもよい。
【符号の説明】
【0152】
1…フィルタ、3…入力端子、5…出力端子、9S…直列共振子、9P…並列共振子、9S3a…直列共振子(第1フィルタ部の初段の直列共振子)、9S3b…直列共振子(第2フィルタ部の初段の直列共振子)、9P3a…並列共振子(第1フィルタ部の並列共振子)、9P3b…並列共振子(第2フィルタ部の並列共振子)、9S4a…直列共振子(第1フィルタ部の最後段の直列共振子)、9S4b…直列共振子(第2フィルタ部の最後段の直列共振子)、11Ba…第1後段フィルタ部(第1フィルタ部)、11Bb…第2後段フィルタ部(第2フィルタ部)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10