(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】フレキシブルセンサ及び測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 15/18 20060101AFI20231117BHJP
【FI】
G01R15/18 A
(21)【出願番号】P 2020053379
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】中島 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】野村 淳士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊介
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特許第7311261(JP,B2)
【文献】特開2020-76707(JP,A)
【文献】特開2019-215330(JP,A)
【文献】特開2019-196962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/00-15/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象を取り囲んだ状態で前記測定対象についての物理量を検出するフレキシブルセンサであって、
弾性を有する先端部が曲げられて形成され、前記測定対象についての物理量を検出する検出体と、
前記検出体の基端部が取り付けられると共に、前記検出体の前記先端部を挿通する挿通路
(溝を除く)を有する本体部と、を備え、
前記挿通路は、前記検出体の前記先端部に応力がかかっていない状態の前記先端部と同じ形に曲げられて形成されていることを特徴とするフレキシブルセンサ。
【請求項2】
前記挿通路は、前記検出体を前記挿通路に挿通した際に前記検出体が曲がる向きに曲げられて形成されていることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブルセンサ。
【請求項3】
前記挿通路は、弧状に曲げられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブルセンサ。
【請求項4】
前記挿通路は、前記検出体の前記先端部を前記挿通路に挿通した際に前記検出体が円環を形成するよう、前記円環の一部に沿うように曲げられていることを特徴とする請求項1から3までのいずれか一項に記載のフレキシブルセンサ。
【請求項5】
前記本体部は、前記検出体の前記先端部を前記挿通路に案内する案内部を有することを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載のフレキシブルセンサ。
【請求項6】
前記案内部は、前記挿通路に向かって開口面が狭まるように形成されていることを特徴とする請求項5に記載のフレキシブルセンサ。
【請求項7】
前記本体部は、前記挿通路における前記案内部とは反対側の端部に、挿通された前記検出体の先端部を保持する保持部を有することを特徴とする請求項5又は6に記載のフレキシブルセンサ。
【請求項8】
測定対象を取り囲んだ状態で前記測定対象についての物理量を検出するフレキシブルセンサであって、
弾性を有する先端部が曲げられて形成され、前記測定対象についての物理量を検出する検出体と、
前記検出体の基端部が取り付けられると共に、前記検出体の前記先端部を挿通する挿通路を有する本体部と、を備え、
前記挿通路は、前記検出体の前記先端部に応力がかかっていない状態の前記先端部と同じ形に曲げられて形成されており、
前記本体部は、前記検出体の前記先端部を前記挿通路に案内する案内部を有することを特徴とするフレキシブルセンサ。
【請求項9】
請求項1から
8までのいずれか一項に記載のフレキシブルセンサと、
前記フレキシブルセンサによって検出される検出信号に基づいて、前記測定対象についての物理量を測定する測定部と、
を備えることを特徴とする測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象についての物理量を検出するフレキシブルセンサ及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象に流れる電流値を検出する電流センサが開示されている(例えば、特許文献1参照)。電流センサは、絶縁性を有する中空の可撓性部材に導電線が螺旋状に巻回されたコイル体と、コイル体を保持する保持部とを備えている。電流センサを用いて測定対象に流れる電流値を検出する際には、コイル体を環状に撓ませて測定対象をコイル体で取り囲み、コイル体を保持部にて保持する。これにより、コイル体がロゴスキーコイルを構成し、測定対象に流れる電流値を検出することができる。
コイル体は、弾性を有しており、先端部の曲率は基端部の曲率よりも大きくなるように形成されている。これにより、測定対象の背後に挿入したコイル体の先端を測定対象の背面から前面に向けやすくすることができ、その結果、測定対象を取り囲みやすくしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の保持部において、コイル体の先端部を挿入する挿入部は、コイル体の先端部と異なる形状に形成されているため、コイル体の先端部は、挿入部の形状に合わせて変形させた状態で保持部に保持されることになる。
このような場合、コイル体の先端部には弾性力に抗した応力がかかり続けることになり、その応力が原因で、応力がかかっていない状態におけるコイル体の先端部の形状が変わってしまう(癖がついてしまう)という問題を発明者は見出した。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、応力がかかっていない状態におけるコイル体の先端部の形状が変わってしまうことを防止することができるフレキシブルセンサ及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の一態様は、測定対象を取り囲んだ状態で前記測定対象についての物理量を検出するフレキシブルセンサであって、弾性を有する先端部が曲げられて形成され、前記測定対象についての物理量を検出する検出体と、前記検出体の基端部が取り付けられると共に、前記検出体の前記先端部を挿通する挿通路を有する本体部と、を備え、前記挿通路は、前記検出体の前記先端部に応力がかかっていない状態の前記先端部と同じ形に曲げられて形成されていることを特徴とする。
【0007】
また、前記挿通路は、前記検出体を前記挿通路に挿通した際に前記検出体が曲がる向きに曲げられて形成されていることが好ましい。
【0008】
また、前記挿通路は、弧状に曲げられていることが好ましい。
【0009】
また、前記挿通路は、前記検出体の前記先端部を前記挿通路に挿通した際に前記検出体が円環を形成するよう、前記円環の一部に沿うように曲げられていることが好ましい。
【0010】
また、前記本体部は、前記検出体の前記先端部を前記挿通路に案内する案内部を有することが好ましい。
【0011】
また、前記案内部は、前記挿通路に向かって開口面が狭まるように形成されていることが好ましい。
【0012】
また、前記本体部は、前記挿通路における前記案内部とは反対側の端部に、挿通された前記検出体の先端部を保持する保持部を有することが好ましい。
【0013】
本発明の一態様は、測定装置であって、上記のフレキシブルセンサと、前記フレキシブルセンサによって検出される検出信号に基づいて、前記測定対象についての物理量を測定する測定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の態様によれば、応力がかかっていない状態におけるコイル体の先端部の形状が変わってしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】フレキシブルセンサを備える測定装置の構成を示す図である。
【
図2】フレキシブルセンサを上方から見た状態を示す図である。
【
図3】検出体が開いた状態におけるフレキシブルセンサの斜視図である。
【
図4】検出体が閉じた状態におけるフレキシブルセンサの斜視図である。
【
図6】検出体が開いた状態における第1の筐体の斜視図である。
【
図7】検出体が閉じた状態における第1の筐体の斜視図である。
【
図9】検出体が開いた状態における第2の筐体の斜視図である。
【
図10】検出体が閉じた状態における第2の筐体の斜視図である。
【
図11】電子部品の端子を検出体で取り囲む手順を示す図である。
【
図12】案内部の他の形態を示すフレキシブルセンサの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す実施の形態は例示であり、本発明の範囲において種々の形態をとりうる。
【0017】
<測定装置>
最初に、測定装置について説明する。
図1に示すように、測定装置100は、測定対象に流れる電流を検出するフレキシブルセンサ10と、フレキシブルセンサ10から出力される検出信号を積分する積分回路30と、積分回路30から出力される信号に基づき測定対象についての物理量を測定する測定部40と、を備えている。
測定対象としては、交流電流が流れる電源ライン、基板上に実装された電子部品の端子などが挙げられる。測定対象についての物理量としては、測定対象に流れる交流電流の値、交流電力の値、測定対象の周囲に生じる交流磁界の値などが挙げられる。
【0018】
(フレキシブルセンサ)
フレキシブルセンサ10は、測定対象を取り囲んだ状態で、この測定対象に流れる交流電流を検出する。フレキシブルセンサ10は、先端部が所定の曲率を有するように湾曲されて形成され、測定対象に流れる交流電流を検出する検出体1と、検出体1の基端部13が取り付けられると共に、挿入された検出体1の先端部11を保持する本体部2と、を備えている。
【0019】
図2~
図4に示すように、検出体1は、測定対象を取り囲みやすくするために、予め湾曲した所定の曲率を有する形状に形成されている。検出体1は、可撓性を有し、測定対象を取り囲む際に撓ませることが可能である。検出体1は、弾性を有し、外力を取り去ると、元の形状又はほぼ元の形状に回復する。
【0020】
検出体1は、長手方向(延在方向)に沿って形成されるロゴスキーコイルを有する。すなわち、検出体1は、可撓性を有するロゴスキーコイル方式の電流センサである。
ロゴスキーコイルは、絶縁性を有する中空の可撓性部材に導電線が螺旋状に巻回されている。可撓性部材は、例えば、塩化ビニル又はポリエチレンなどの合成樹脂により構成されている。巻回された導電線は、検出体1の先端1aの近傍で折り返され、中空の可撓性部材の内部を通過して検出体1の基端1bまで延びている。
ロゴスキーコイルは、先端部11が本体部2に挿入された状態(
図4に示す状態)で、環状になるように両端部同士が互いに対向するように近接する。すなわち、検出体1は、基端部13の端面と先端部11の端面とが僅かな間隔をあけて互いに対向し、基端部13の軸線と先端部11の軸線とが一致するように本体部2に保持される。これにより、ロゴスキーコイルを形成する検出体1の先端1aと基端1bの間の隙間を小さくすることができ、検出体1に近接する他の導体から発生する磁束によるノイズの影響を小さくすることができる。
【0021】
検出体1の全体は、フッ素樹脂などの樹脂材料で覆われている。これにより、測定対象を取り囲む際に検出体1が測定対象又はこれに隣接する他の隣接部材に引っ掛かって検出体1に傷が付くのを防ぐことができる。
検出体1の先端部11には、フレキシブルセンサ10が開いた状態(応力がかかっていない状態)において、検出体1の基端1bを有する基端部13の曲率よりも曲率の大きな部位が形成されている。先端部11は、検出体1の先端1aを含む所定長さの部位である。検出体1は、基端1bから先端1aに向かうにつれて曲率が大きくなるように形成されている。すなわち、検出体1の先端部11は、弧状に曲げられており、検出体1の先端部11を挿通路70に挿入した際に検出体1が円環を形成するよう、その円環の一部に沿うように曲げられている。
【0022】
図2に示すように、検出体1は、測定対象の背後を通過した先端1aが測定対象の前面よりも手前にくるように、先端部11が本体部2の挿通路70(後述する)の形状に合わせて予め内側に湾曲するように形成されている。このため、本体部2の延在方向に延びる直線に対して検出体1の先端部11と基端部13との間にある中途部12の接線が直交するように、検出体1が湾曲して形成されている。
また、検出体1の基端部13は、作業者の指で本体部2を測定対象に向かって押し出した際に、その力が検出体1の中途部12に伝わりやすくするために、直線状に形成されている。さらに、検出体1の中途部12は、検出体1が測定対象の隣接部材のエッジに引っ掛かりにくくなるように、検出体1の基端部13の曲率よりも大きく、かつ、先端部11の曲率よりも小さな曲率で形成されている。
このように、検出体1は、基端部13から先端部11に近づくほど、検出体1の曲率が段階的に又は連続して大きくなる。これにより、作業者の力が本体部2から検出体1に伝わりやすくなるとともに、検出体1が測定対象又はその隣接部材に引っ掛かりにくくなる。
【0023】
本体部2は、測定対象を検出体1で取り囲む際に、作業者によって操作される部分である。
図2~
図4に示すように、本体部2は、例えば、第1の筐体5と、第1の筐体5に嵌り合って収容される第2の筐体6と、を備えている。
図5~
図7に示すように、第1の筐体5は、本体部2の外側を形成する筐体である。第1の筐体5は、底部51と側壁部52を有し、上面が開口された箱状に形成されている。第1の筐体5は、長手方向の一端の一部が検出体1によって取り囲まれた測定対象に向けて突出する突出部5aを有している。突出部5aは、本体部2に検出体1の先端部11が保持された状態での検出体1の曲率半径の円弧と略同心の円弧状に形成される 。突出部5aは、検出体1が閉じられた状態のときに検出体1が取り囲む測定対象の大きさを制限する。これにより、フレキシブルセンサ10が測定可能な範囲よりも大きな電流が流れる太さの測定対象を、検出体1が取り囲めないように制限することができる。また、突出部5aが設けられることで、ロゴスキーコイルを形成する検出体1の先端1aと基端1bの間の隙間の近くに測定対象が位置できないように制限することができる。
【0024】
一対の対向する側壁部52には、それぞれ開口側から底部51に向けて延びるスリット53,54が形成されている。スリット53,54は、第1の筐体5の高さ方向に沿って延びるように形成されている。スリット53には、本体部2に収容される整合回路20と積分回路30とを連結するケーブル3が挿通される。スリット54には、本体部2に取り付けられる検出体1の基端部13が挿通される。なお、整合回路20は、検出体1側のインピーダンスと測定部40側のインピーダンスとの整合をとるための回路である。検出体1の基端1bと整合回路20は、ケーブル21(
図1参照)によって電気的に接続されている。
【0025】
他の側壁部52の一つには、側壁部52の外面から内面にわたって貫通する孔55が形成されている。孔55は、側壁部52の内面側から外面側に向かうにつれて徐々に開口面積が大きくなるように形成されている。すなわち、孔55の周壁は、孔55の外側に向かって広がるように傾斜する傾斜面とされており、この傾斜面は、検出体1の先端部11を挿入する際に先端部11を孔55に案内する案内部56として機能する。したがって、案内部56は、挿通路70に向かって開口面が狭まるように形成されており、挿入される検出体1を挿通路70に案内する。
【0026】
底部51には、孔55に連続する突条部57が設けられている。突条部57は、一端が孔55に連続するように孔55に隣接して形成されており、他端がスリット54から所定の距離をおいてスリット54に対向するように形成されている。突条部57は、一端の上面が孔55における底部51側の縁と同じ高さとなるように形成されている。突条部57は、平面視した際に、一端から他端にわたって所定の曲率で湾曲するように形成されている。突条部57の曲率は、検出体1の先端部11の曲率と等しくなるように形成されている。すなわち、検出体1の先端部11を孔55に挿入した際に、検出体1の先端部11は、突条部57の上面に沿って配置される。したがって、突条部57は、挿通路70の底部を形成している。
すなわち、突条部57は、検出体1の先端部11に応力がかかっていない状態の先端部11と同じ形に曲げられて形成されており、検出体1の先端部11を孔55から挿通路70に挿入した際に検出体1が曲がる向きに曲げられて形成されている。また、突条部57は、弧状に曲げられており、検出体1の先端部11を孔55から挿通路70に挿入した際に検出体1が円環を形成するよう、その円環の一部に沿うように曲げられている。
【0027】
保持部58は、突条部57の他端(孔55とは反対側の端部)に隣接するように設けられている。保持部58は、例えば、弾性材料から形成されたOリングであり、突条部57の他端まで達した検出体1の先端部11をOリングの孔に挿入することで、弾性力により検出体1の先端部11を保持することができる。
【0028】
図8~
図10に示すように、第2の筐体6は、第1の筐体5の内側に収容される筐体である。第2の筐体6は、底部61と側壁部62を有し、上面が開口された箱状に形成されている。第2の筐体6は、第1の筐体5に収容した際に、底部51の内面側に底部61の外面が沿うと共に側壁部52の内面側に側壁部62の外面が沿うように形成されている。第2の筐体6は、長手方向の一端の一部が検出体1によって取り囲まれた測定対象に向けて突出する突出部6aを有している。突出部6aは、第2の筐体6を第1の筐体5に収容した際に、突出部5aの内側に沿うように形成されている。
【0029】
一対の対向する側壁部62には、それぞれ開口側から底部61に向けて延びるスリット63,64が形成されている。スリット63,64は、第2の筐体6の高さ方向に沿って延びるように形成されている。スリット63,64は、第2の筐体6を第1の筐体5に収容した際に、第1の筐体5のスリット53,54に対向する位置に形成されており、第2の筐体6の内部から第1の筐体5の外部まで連通した状態となる。スリット63には、本体部2に収容される整合回路20と積分回路30とを連結するケーブル3が挿通される。スリット64には、本体部2に取り付けられる検出体1の基端部13が挿通される。
【0030】
他の側壁部62の一つには、側壁部62の外面から内面にわたって貫通する孔65が形成されている。孔65は、第2の筐体6を第1の筐体5に収容した際に、第1の筐体5の孔55に対向する位置に形成されており、第2の筐体6の内部から第1の筐体5の外部まで連通した状態となる。孔65は、第1の筐体5の孔55における最も内面側の開口の形状及び面積がほぼ等しくなるように形成されている。
【0031】
底部61には、孔65に連続するアーチ部66が設けられている。アーチ部66は、一端が孔65に連続するように孔65に隣接して形成されており、他端が第1の筐体5に設けられた保持部58を覆うように形成されている。アーチ部66は、一端から他端にわたって第1の筐体5に設けられた突条部57を覆うように突条部57に沿って形成されている。すなわち、アーチ部66は、平面視した際に、その延在方向(軸線)の曲率が突条部57と同じ曲率を有するように湾曲して形成されている。よって、突条部57及びアーチ部66は、検出体1の先端部11の曲率と等しくなるように形成されており、第1の筐体5に第2の筐体6を収容した際に、突条部57とアーチ部66とによって囲まれた空間が検出体1の先端部の挿通路70として機能する。したがって、アーチ部66は、挿通路70の側壁部及び天井部を形成している。
すなわち、アーチ部66は、検出体1の先端部11に応力がかかっていない状態の先端部11と同じ形に曲げられて形成されており、検出体1を孔55から挿通路70に挿入した際に検出体1が曲がる向きに曲げられて形成されている。また、アーチ部66は、弧状に曲げられており、検出体1の先端部11を孔55から挿通路70に挿入した際に検出体1が円環を形成するよう、その円環の一部に沿うように曲げられている。
【0032】
底部61には、壁部としての仕切壁67が設けられている。仕切壁67は、挿通路70(突条部57及びアーチ部66)の他端に隣接して対向するように設けられている。また、挿通路70の他端に保持部58が設けられていることから、仕切壁67は、保持部58にも隣接して対向するように設けられていることになる。仕切壁67は、挿通路70内に挿入された検出体1の先端部11と、スリット54,64から挿入された検出体1の基端部13との間に立設されており、先端部11と基端部13とが接触しないように仕切っている。
【0033】
底部61には、複数のガイド片68が設けられている。ガイド片68は、各スリット63,64の縁に沿って底部61に立設されている。ガイド片68は、検出体1の基端部13やケーブル3の挿入をガイドしている。
底部61には、載置部69が設けられている。載置部69は、第2の筐体6内に設けられる整合回路20を載置する台として機能する。
【0034】
(積分回路)
図1に示すように、積分回路30は、測定対象に流れる電流により、検出体1の導電線に誘起される電圧を示す検出信号を、測定対象に流れる電流の振幅に比例した信号に変換する。積分回路30は、変換した信号を測定部40に検出信号として出力する。
【0035】
(測定部)
図1に示すように、測定部40は、積分回路30からの検出信号に基づいて、測定対象に関する物理量を測定する。例えば、測定部40は、積分回路30から検出信号を受信すると、その検出信号に基づいて測定対象に流れる交流電流を測定する。測定部40は、他の物理量として、受信した検出信号に基づいて交流電力又は磁界の強さなどを測定するものであってもよい。測定部40は、測定した物理量についての波形を画面に表示する。測定部40は、例えば、オシロスコープ、電力計、又は電流計などによって構成される。
【0036】
<フレキシブルセンサの使用形態>
次に、フレキシブルセンサ10の使用形態について説明する。
図3に示すように、検出体1の先端部11が挿通路70に挿入されていない状態では、フレキシブルセンサ10は開いた状態である。この状態から、作業者が先端部11を孔55の位置に合わせて、先端部11を指で挿通路70に挿入すると、
図4に示す状態になる。
図4に示すように、作業者によって検出体1の先端部11が挿通路70に奥まで挿入されることで、検出体1の先端部11が保持部58に保持される。これにより、フレキシブルセンサ10が閉じた状態となり、測定対象が検出体1によって取り囲まれる。
本体部2の挿通路70から検出体1の先端部11が外されると、弾性を有する検出体1は、
図3に示すような元の形状に戻る。
【0037】
<測定装置による測定対象の測定方法>
次に、測定装置による測定対象の測定に際して、基板に実装された電子部品の端子(足)を測定対象とし、その電子部品の端子を検出体1で取り囲む手順について説明する。
図11は、検出体1の先端1aを電子部品90の端子91の背後から手前に送り出す手順を説明するための図である。
図11に示す例では、電子部品90として、集積回路(Integrated Circuit : IC)又はDC/DCコンバータなどの電子部品が用いられる。電子部品90の端子91と端子92との間隔は、数mm(ミリメートル)程度である。検出体1の太さ(直径)は、端子91と端子92との隙間に入るように、例えば、1mm以上、かつ、2mm以下に形成されている。
【0038】
図11(a)に示すように、作業者は、本体部2を指先で挟んだ状態で端子91に向かって本体部2を移動させることで、電子部品90と端子91との間に検出体1の先端1aが挿入される。
このとき、検出体1の先端部11は、フレキシブルセンサ10が閉じた状態の曲率(基準曲率)以上の曲率で形成されているので、検出体1の先端部11を端子91の背後に挿入したときには、検出体1の先端1aを端子91の背後を覆うように移動させることができる。このため、端子91のエッジに検出体1が引っ掛かって検出体1に傷が付つくのを抑制することができる。
【0039】
また、検出体1の先端部11は、フレキシブルセンサ10が閉じた状態の曲率以上の曲率で形成されているので、端子91の背後を通過した検出体1の先端1aは、検出体1の挿入方向Aに対して端子91の背面から前面に向きやすくなる。これにより、作業者は、検出体1の先端1aを端子91の手前に出すために、端子92の側面に検出体1の先端1aを突き当てやすくなる。それゆえ、端子91の背面から前面に向かって、検出体1の先端1aを端子92と端子91との狭い隙間に通すことが可能となる。
なお、検出体1の先端部11の曲率半径は、電子部品90の端子91と端子92との間隔よりも小さくすることが好ましい。特に、先端部11の曲率半径を2mm以上、かつ、4mm以下に形成することで、電子部品90に設けられた端子92のエッジが検出体1に引っ掛かって検出体1に傷が付くのを抑制することができる。
【0040】
次に、
図11(b)に示すように、作業者は、検出体1の中途部12を端子91の背後の電子部品90に向かって押し当てるように本体部2を更に挿入方向Aに移動させる。これにより、検出体1の中途部12が電子部品90に押し当てられ、その部位が支点となって検出体1が内側Bに向けられるので、検出体1が端子91及び92の各エッジに引っ掛かりにくくなる。これにより、検出体1に傷が付きにくくなる。
【0041】
次に、
図11(c)に示すように、作業者は挿入方向Aに本体部2を押し込むことにより、残りの検出体1が端子91の背後に向かって送り出される。このとき、検出体1の中途部12の曲率は、本体部2に向かってフレキシブルセンサ10が閉じた状態の曲率よりも小さいので、検出体1が折れ曲がるのを抑制しつつ、検出体1の先端部11を本体部2の挿通路70に接近させることができる。
【0042】
その後、作業者によって検出体1の先端部11が挿通路70に嵌められ、保持部58に保持されることで、測定対象が検出体1により取り囲まれる。このように、フレキシブルセンサ10では、作業者の手によって容易に端子91を検出体1で取り囲むことができる。
【0043】
以上のようなフレキシブルセンサ10によれば、挿通路70は、検出体1に力が作用していない状態の検出体1の先端部11の形状と同じ形状に曲げられて形成されている。すなわち、曲率が等しく形成されているので、検出体1に応力を加えない状態で挿通路70に挿入したままにすることができるので、応力がかかっていない状態における検出体1の先端部11の形状が変わってしまう(癖がついてしまう)ことを防止できる。
【0044】
また、挿通路70は、検出体1の先端部11を挿通路70に挿通した際に検出体1が曲がる向きに曲げられて形成されているので、検出体1を環状にして先端部11を挿通路70に挿通しやすくすることができる。
また、挿通路70は、弧状に曲げられているので、検出体1の先端部11をスムーズに挿通路70に挿通することができる。
また、挿通路70は、検出体1の先端部11を挿通路70に挿通した際に検出体1が円環を形成するよう、その円環の一部に沿うように曲げられており、検出体1に円環を形成させることができるので、検出体1に円環を形成させていないときに比べ、径の太い測定対象まで測定することができる。
また、検出体1は、先端部11と基端部13の軸線が一致し、互いの端面が対向するように本体部2に保持されるので、磁束の漏れを減らしてフレキシブルセンサ10の検出精度を高めることができる。
また、検出体1の先端部11を挿通路70に挿入するだけの簡単な操作で先端部11と基端部13とが互いに対向するように本体部2に保持させることができる。
【0045】
また、孔55の周囲には、検出体1の先端部11を孔55に案内する案内部56が形成されているので、挿通路70に挿入しようとする検出体1の先端部11が孔55の位置からずれていても、案内部56により先端部11を孔55に案内することができ、先端部11を容易に挿通路70に挿入することができる。作業者も容易に検出体1を挿通すべき位置を知ることができる。
ここで、案内部56は、孔55の外側に向かって広がるように傾斜する傾斜面として形成することで、検出体1の先端部11の第1の筐体5への引っ掛かりを防ぎ、先端部11を孔55にスムーズに案内することができる。
【0046】
また、第1の筐体5には保持部58が設けられているので、挿通路70に挿入した検出体1の先端部11を保持することができ、先端部11の挿通路70からの抜けを防ぐことができる。また、検出体1の先端部11を保持部58に保持させることで、作業者に先端部11を必要な所定位置まで挿入したことを感じ取らせることができる。
【0047】
また、本体部2は、第1の筐体5と第2の筐体6の二つの筐体から構成されているので、一体で本体部2を製造する場合よりも本体部2の製造を容易にすることができる。また、第1の筐体5の突条部57と、第2の筐体6のアーチ部66によって挿通路70を形成することができるので、筐体が二つであっても挿通路70の形成に支障が生じることはない。
【0048】
また、第2の筐体6には、保持する検出体1の基端部13と先端部11との間に立設された仕切壁67が設けられているので、本体部2内で互いに対向するように配置した検出体1の基端部13と先端部11とが接触することがない。これにより、検出体1に傷が付くのを防ぐことができる。
【0049】
また、検出体1の先端部11の曲率が基端部13の曲率よりも大きいので、測定対象の背後に挿入した検出体1の先端1aを測定対象の背面から前面に向けやすくなる。これにより、作業者が測定対象の背後に手又はピンセットなどを入れなくても本体部2を操作することにより、測定対象よりも手前に検出体1の先端1aを出しやすくなる。よって、検出体1の先端1aを測定対象の手前に引き出して検出体1の全体で測定対象を取り囲むことが容易となる。したがって、作業者が測定対象の背後に手を入れられない又は入れにくい状況であっても、測定対象を取り囲みやすくすることができる。
【0050】
<その他>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念及び特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題及び効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。また、例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更することができる。
例えば、
図12に示すように、第1の筐体5の表面に筒状部材56aを設け、この筒状部材56aを孔55への案内部としてもよい。筒状部材56aの内面側に形成された空間は孔55に連通しているので、検出体1の先端部11を筒状部材56aに挿入することで先端部11を孔55に導くことができる。このような構成を採用した場合、筒状部材56aは第1の筐体5の表面から突出しているため、作業者は容易に検出体1の先端部11の挿入先を見つけることができる。
【0051】
また、検出体1の先端部11は、挿通路70の所定位置まで挿入されていることを作 業者が識別可能な識別部を有していてもよい。すなわち、検出体1のうち挿通路70に挿入される部分が、他の部分と識別できるようになっている。具体的には、識別部と他の部分とで表面に異なる色や模様を付けることで、作業者が視覚的に識別できるようにする。これにより、検出体1の先端部11を挿通路70の所定位置まで挿入することができるので、測定対象の電流を測定する度にロゴスキーコイルを形成する検出体1の先端1aと基端1bの間の隙間の大きさが変化することを防止できる。
【0052】
また、保持部58は、挿通路70の奥側(孔55とは反対側の端部)に設ける場合に限らず、例えば、挿通路70の入口側(孔55の近傍)に設けてもよいし、挿通路70の途中であってもよい。
また、本体部2は、第1の筐体5と第2の筐体6の二つの部材で構成したが、両筐体を一体に形成して一つの部材で構成してもよい。
また、検出体1の各端面は、一つの平面状に形成する場合に限らず、曲面や屈曲面を有していてもよい。
また、挿通路70の全体が保持部58を兼ねて形成されていてもよい。
【0053】
また、検出体1を円環状に曲げる方向にスリット64及び基端部13を弧状に形成してもよい。検出体1の先端部11だけでなく、基端部13も弧状にすることにより、検出体1を挿通路70に挿通した際に検出体1を真円に近づけて測定対象を取り囲むことができるため、より径の太い測定対象まで測定することができる。
【0054】
また、検出体1の先端部11は弾性を有するように形成し、検出体1の他の全体または一部は可撓性を有するように形成してもよい。
また、挿通路70の一端から他端まで同じ曲率になるよう、曲げて形成してもよい。挿通路70の全体を同じ曲率にすることにより、検出体1の先端部11を挿通路70に挿通した状態だけでなく、検出体1の先端部11を挿通路70に差し込んだり、挿通路70から引き抜いたりした際に検出体1の先端部11を強制的に変形させずに済むので、応力がかかっていない状態の検出体1の先端部11の形状が変わってしまうことをさらに防止することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 検出体
11 先端部
13 基端部
2 本体部
5 第1の筐体
55 孔
56 案内部
57 突条部
58 保持部
6 第2の筐体
65 孔
66 アーチ部
67 仕切壁
10 フレキシブルセンサ
20 整合回路
30 積分回路
40 測定部
70 挿通路
90 電子部品
91,92 端子
100 測定装置