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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20231117BHJP
【FI】
H02M1/08 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020183643
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073576
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小島 和彦
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-223912(JP,A)
【文献】特開2010-135900(JP,A)
【文献】米国特許第05363020(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力用半導体素子の点弧を制御する制御装置であって、
交流信号を第1周期でサンプリングすることにより第1デジタル信号を生成するA/D変換処理部と、
前記A/D変換処理部により生成された前記第1デジタル信号を、前記第1周期より高い第2周期で補間することにより、第2デジタル信号を生成する補間処理部と、
前記補間処理部により生成された前記第2デジタル信号を所定の閾値と比較することにより、前記第2デジタル信号が前記所定の閾値を超えた第2時刻を算出する第2時刻算出処理部と、
前記第2時刻算出処理部により算出された前記第2時刻に基づいて、電力用半導体素子を点弧するための点弧信号を生成する点弧制御処理部と、を有する制御装置。
【請求項2】
前記点弧制御処理部は、
前記第1デジタル信号を前記所定の閾値と比較することにより、前記第1デジタル信号が前記所定の閾値を超えた第1時刻を算出する第1時刻算出処理部と、
前記第2時刻と前記第1時刻との差分であるオフセット値を算出し、所定の点弧角値から前記オフセット値を差し引くことにより前記点弧角値を補正する点弧角値補正部と、
前記第2周期でカウントするカウンタ部と、
前記カウンタ部が出力するカウント値が補正された前記点弧角値以上となった場合に、前記点弧信号を生成する点弧信号生成部と、を有する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記カウンタ部は、ハードウェアカウンタにより構成される、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記電力用半導体素子は、単方向サイリスタ、GTOサイリスタ、及びトライアックのうち少なくともいずれかを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項5】
電力用半導体素子の点弧を制御する制御方法であって、
交流信号を第1周期でサンプリングすることにより第1デジタル信号を生成するA/D変換処理ステップと、
前記A/D変換処理ステップにより生成された前記第1デジタル信号を、前記第1周期より高い第2周期で補間することにより、第2デジタル信号を生成する補間処理ステップと、
前記補間処理ステップにより生成された前記第2デジタル信号を所定の閾値と比較することにより、前記第2デジタル信号が前記所定の閾値を超えた第2時刻を算出する第2時刻算出処理ステップと、
前記第2時刻算出処理ステップにより算出された前記第2時刻に基づいて、電力用半導体素子を点弧するための点弧信号を生成する点弧制御処理ステップと、を含む制御方法。
【請求項6】
情報処理装置に電力用半導体素子の点弧を制御させるためのプログラムであって、
前記情報処理装置を、
交流信号を第1周期でサンプリングすることにより第1デジタル信号を生成するA/D変換処理部と、
前記A/D変換処理部により生成された前記第1デジタル信号を、前記第1周期より高い第2周期で補間することにより、第2デジタル信号を生成する補間処理部と、
前記補間処理部により生成された前記第2デジタル信号を所定の閾値と比較することにより、前記第2デジタル信号が前記所定の閾値を超えた第2時刻を算出する第2時刻算出処理部と、
前記第2時刻算出処理部により算出された前記第2時刻に基づいて、電力用半導体素子を点弧するための点弧信号を生成する点弧制御処理部と、として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々な装置において、サイリスタ等の電力制御用の半導体素子が広く用いられている。例えば、特許文献1には、サイリスタと、電源回路から電源電圧の供給を受けてサイリスタのオンオフを制御する制御部とを有する電力変換装置が開示されている。当該電力変換装置では、制御部が、入力電圧の検出値が所定の閾値電圧を超えた場合に、点弧信号をサイリスタに供給することにより、サイリスタをオンする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/203517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、入力電圧の検出をマイコン等の制御部で行う場合、制御部におけるソフトウェアの動作周期がサンプリング周期の限界となるが、これが十分に高速でなく当該サンプリング周期でのサンプリング値をそのまま閾値との比較に用いる場合、電力用半導体素子の点弧制御における誤差が大きくなる。
【0005】
そこで、本発明は、電力用半導体素子の点弧制御の精度を向上させることの可能な制御装置、制御方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る制御装置は、交流信号を第1周期でサンプリングすることにより第1デジタル信号を生成するA/D変換処理部と、A/D変換処理部により生成された第1デジタル信号を、第1周期より高い第2周期で補間することにより、第2デジタル信号を生成する補間処理部と、補間処理部により生成された第2デジタル信号を所定の閾値と比較することにより、第2デジタル信号が所定の閾値を超えた第2時刻を算出する第2時刻算出処理部と、第2時刻算出処理部により算出された第2時刻に基づいて、電力用半導体素子を点弧するための点弧信号を生成する点弧制御処理部と、を有する。
【0007】
この態様によれば、第1デジタル信号を生成するためのサンプリングの第1周期より高い第2周期によって第1デジタル信号が補間された上で、当該補間処理により生成された第2デジタル信号が所定の閾値以上となる第2時刻が算出される。そのため、第1デジタル信号を当該閾値と比較する場合よりも、交流信号が所定の閾値以上となる真のタイミングにより近い第2時刻が得られる。そして、当該第2時刻に基づいて電力用半導体素子を点弧するための点弧信号が生成されるため、電力用半導体素子の点弧制御の精度を向上させることが可能となる。
【0008】
上記態様において、点弧制御処理部は、第1デジタル信号を所定の閾値と比較することにより、第1デジタル信号が所定の閾値を超えた第1時刻を算出する第1時刻算出処理部と、第2時刻と第1時刻との差分であるオフセット値を算出し、所定の点弧角値からオフセット値を差し引くことにより点弧角値を補正する点弧角値補正部と、第2周期でカウントするカウンタ部と、カウンタ部が出力するカウント値が補正された点弧角値以上となった場合に、点弧信号を生成する点弧信号生成部と、を備えてもよい。
【0009】
この態様によれば、高性能なA/Dコンバータやプロセッサ等を用いずに、電力用半導体素子の点弧制御の精度を向上させることが可能となる。
【0010】
上記態様において、カウンタ部は、ハードウェアカウンタにより構成されてもよい。
【0011】
この態様によれば、高性能なA/Dコンバータやプロセッサ等を用いずに、電力用半導体素子の点弧制御の精度を向上させることが可能となる。
【0012】
上記態様において、電力用半導体素子は、単方向サイリスタ、GTOサイリスタ、及びトライアックのうち少なくともいずれかを含んでもよい。
【0013】
この態様によれば、各種の電力用半導体素子の点弧制御の精度を向上させることが可能となる。
【0014】
本発明の一態様に係る制御方法は、交流信号を第1周期でサンプリングすることにより第1デジタル信号を生成するA/D変換処理ステップと、A/D変換処理ステップにより生成された第1デジタル信号を、第1周期より高い第2周期で補間することにより、第2デジタル信号を生成する補間処理ステップと、補間処理ステップにより生成された第2デジタル信号を所定の閾値と比較することにより、第2デジタル信号が所定の閾値を超えた第2時刻を算出する第2時刻算出ステップと、第2時刻算出処理ステップにより算出された第2時刻に基づいて、電力用半導体素子を点弧するための点弧信号を生成する点弧制御処理ステップと、を含む。
【0015】
この態様によれば、第1デジタル信号を生成するためのサンプリングの第1周期より高い第2周期によって第1デジタル信号が補間された上で、当該補間処理により生成された第2デジタル信号が所定の閾値以上となる第2時刻が算出される。そのため、第1デジタル信号を当該閾値と比較する場合よりも、交流信号が所定の閾値以上となる真のタイミングにより近い第2時刻が得られる。そして、当該第2時刻に基づいて電力用半導体素子を点弧するための点弧信号が生成されるため、電力用半導体素子の点弧制御の精度を向上させることが可能となる。
【0016】
本発明の一態様に係るプログラムは、情報処理装置に電力用半導体素子の点弧を制御させるためのプログラムであって、情報処理装置を、交流信号を第1周期でサンプリングすることにより第1デジタル信号を生成するA/D変換処理部と、A/D変換処理部により生成された第1デジタル信号を、第1周期より高い第2周期で補間することにより、第2デジタル信号を生成する補間処理部と、補間処理部により生成された第2デジタル信号を所定の閾値と比較することにより、第2デジタル信号が所定の閾値を超えた第2時刻を算出する第2時刻算出処理部と、第2時刻算出処理部により算出された第2時刻に基づいて、電力用半導体素子を点弧するための点弧信号を生成する点弧制御処理部と、として機能させる。
【0017】
この態様によれば、第1デジタル信号を生成するためのサンプリングの第1周期より高い第2周期によって第1デジタル信号が補間された上で、当該補間処理により生成された第2デジタル信号が所定の閾値以上となる第2時刻が算出される。そのため、第1デジタル信号を当該閾値と比較する場合よりも、交流信号が所定の閾値以上となる真のタイミングにより近い第2時刻が得られる。そして、当該第2時刻に基づいて電力用半導体素子を点弧するための点弧信号が生成されるため、電力用半導体素子の点弧制御の精度を向上させることが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電力用半導体素子の点弧制御の精度を向上させることの可能な制御装置、制御方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る装置1の電気系統のブロック図である。
図2】装置1の動作を説明するための概略的なタイミングチャートの一例を示す図である。
図3図2の交流信号の電圧波形のうちゼロクロスZc付近を拡大した図である。
図4図4は、A/D変換処理部11による第1デジタル信号の生成処理の動作フローの一例を示す図である。
図5】第1時刻算出部151による第1時刻の算出処理の動作フローの一例を示す図である。
図6】補間処理部12による第2デジタル信号の生成処理の動作フローの一例を示す図である。
図7】第2時刻算出部13による第2時刻の算出処理の動作フローの一例を示す図である。
図8】点弧角値補正部152による点弧角値の補正処理の動作フローの一例を示す図である。
図9】点弧信号生成部154による点弧信号の生成処理の動作フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。(なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一又は同様の構成を有する。)
【0021】
(1)構成
図1は、実施形態に係る装置1の電気系統のブロック図である。装置1は、特に限定されないが、例えば、各種の産業用プラント内に設置される電気集塵機等であってよい。装置1は、交流電源ACに電気的に接続される負荷Lと、負荷Lに直列に電気的に接続されるサイリスタ2と、プロセッサ10と、レベル変換部30、40と、を有する。
【0022】
交流電源ACは、例えば、所定の周波数(例えば、約50Hzや60Hz)の交流信号を供給する商用交流電源であってよい。負荷Lは、特に限定されないが、例えば、電気集塵機に含まれる放電極系や集塵極系等であってよい。
【0023】
サイリスタ2は、例えば、双方向サイリスタ(トライアック)であって、プロセッサ10から供給される点弧信号によって点弧が制御される。なお、装置1は、サイリスタ2に限らず、(単方向)サイリスタ、及びGTOサイリスタ等の電力用半導体素子を有してもよい。
【0024】
レベル変換部30は、例えば、トランスや抵抗分圧回路により構成される。レベル変換部30には、交流電源ACの交流信号が入力される。レベル変換部30は、入力された交流信号を、適宜降圧した上でA/D変換処理部11に出力する。
【0025】
レベル変換部40は、例えば、トランスやトランジスタ等による信号増幅回路として構成される。レベル変換部40には、点弧信号生成部154から、サイリスタ2を点弧させるための点弧信号が入力される。レベル変換部40は、入力された点弧信号を、サイリスタのゲート制御に適したレベルに増幅した上でサイリスタ2のゲートに出力する。交流電源ACの交流信号の絶対値が所定閾値以上である状態において、サイリスタ2のゲートにレベル変換部40から点弧信号が入力されると、サイリスタ2は点弧(ターンオン)する。そして、サイリスタ2は、交流電源ACの交流信号が逆バイアス状態になると、消弧(ターンオフ)する。
【0026】
プロセッサ10は、不図示のメモリ(RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disc Drive)、SSD(Solid State Drive)等)に記憶されるプログラムに含まれるコードまたは命令によって実現する処理、機能、または、方法を実行する。プロセッサ10は、限定でなく例として、中央処理装置(CPU)、MPU(Micro Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、マイクロプロセッサ(microprocessor)、プロセッサコア(processor core)、マルチプロセッサ(multiprocessor)、ASIC(Application-Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を含み、集積回路(IC(Integrated Circuit)チップ、LSI(Large Scale Integration))等に形成された論理回路(ハードウェア)や専用回路によって各実施形態に開示されるそれぞれの、処理、機能、または、方法を実現してもよい。また、これらの回路は、1または複数の集積回路により実現されてよく、各実施形態に示す複数の処理を1つの集積回路により実現されることとしてもよい。また、LSIは、集積度の違いにより、VLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIなどと呼称されることもある。
【0027】
プロセッサ10は、交流信号が所定の閾値以上となるタイミングを起点としてサイリスタ2の点弧を制御する。なお、以下では、当該所定の閾値として電圧がゼロのタイミング(ゼロクロス)を例に説明するが、所定の閾値はゼロクロスに限らず、任意の値であってよい。プロセッサ10は、例えば、アナログ/デジタル(A/D)変換処理部11と、補間処理部12と、第2時刻算出部13と、フィードバック演算部14と、点弧制御処理部15とを有する。プロセッサ10が有するこれらの各機能モジュールの少なくとも一部又は全ては、例えば、プロセッサとソフトウェアとして実現されてもよいし、ハードウェアとして実現されてもよい。プロセッサ10は、交流電源ACに接続されており、交流電源ACが供給する交流信号を検知する。そして、プロセッサ10は、検知した交流信号に基づいてサイリスタ2を点弧する。
【0028】
A/D変換処理部11は、レベル変換部30から入力された交流信号を所定の第1周期でサンプリングすることにより、第1デジタル信号を生成する。そして、A/D変換処理部11は、生成した第1デジタル信号を、補間処理部12及び後述する第1時刻算出部151に出力する。ここで、A/D変換処理部11がサンプリングを実行する第1周期は、例えば、サンプリングを実行する周期として予めソフトウェアにおいて設定された値であってよい。第1周期は、特に限定されないが、例えば、約10kHzであってよい。
【0029】
補間処理部12は、A/D変換処理部11から入力された第1デジタル信号を第1周期よりも高い第2周期で補間することにより、第2デジタル信号を生成し、これを第2時刻算出部13に出力する。ここで、第2周期は、例えば、プロセッサ10が実装されるプロセッサのクロックの周期に相当する値であってよい。第2周期の高さは、特に限定されないが、例えば、約10MHzであってよい。特に、第2周期は、第1周期の整数倍であってよい。また、補間処理部12が実行する補間処理は、例えば、第1デジタル信号において時間的に連続した2点を直線(一次近似直線)で結び、当該直線上を第2周期に相当する間隔でプロットすることにより第2デジタル信号を構成する点を求めてもよい。
【0030】
第2時刻算出部13は、補間処理部12から入力された第2デジタル信号に基づいて、第2デジタル信号におけるゼロクロスのタイミングである第2時刻を算出する。例えば、第2時刻算出部13は、第2デジタル信号において時間的に連続する2つの信号のうち、先の信号がゼロ未満であり、後の信号がゼロ以上である場合、当該後の信号の時刻を第2時刻として算出する。
【0031】
フィードバック演算部14は、所定のフィードバック演算によって、サイリスタ2を点弧させるタイミングを規定した点弧角の値である点弧角値を算出する。ここで、所定のフィードバック演算は、装置1や負荷Lの構成に応じて任意に設定可能であり、装置1に配置された任意のセンサ(電圧センサ、及び電流センサ等)に基づいて実行される。フィードバック演算部14は、算出した点弧角値を示す情報を、点弧制御処理部15の点弧角値補正部152に供給する。
【0032】
点弧制御処理部15は、第1デジタル信号と、第2時刻算出部13により算出された第2時刻とに基づいて、電力用半導体素子を点弧するための点弧信号を生成する。点弧制御処理部15は、第1時刻算出部151と、点弧角値補正部152と、カウンタ部153と、点弧信号生成部154とを有する。
【0033】
第1時刻算出部151は、A/D変換処理部11から入力された第1デジタル信号に基づいて、第1デジタル信号におけるゼロクロスのタイミングである第1時刻を算出する。例えば、第1時刻算出部151は、第1デジタル信号において時間的に連続する2つの信号のうち、先の信号がゼロ未満であり、後の信号がゼロ以上である場合、当該後の信号の時刻を第1時刻として算出する。第1時刻算出部151は、算出した第1時刻を、点弧角値補正部152及びカウンタ部153に出力する。
【0034】
点弧角値補正部152は、第1時刻算出部151により算出された第1時刻と、第2時刻算出部13により算出された第2時刻とに基づいて、フィードバック演算部14により算出された点弧角値を補正する。具体的には、点弧角値補正部152は、所定のタイミングにおいて、第1時刻と第2時刻との差分をオフセット値として算出した上で、フィードバック演算部14より取得した点弧角値から上述したオフセット値を差し引くことにより点弧角値を補正する。当該補正後の点弧角値は、換言すれば、相対的に誤差の大きい第1時刻を起点とする、点弧すべきタイミングを規定する点弧角である。点弧角値補正部152は、補正した点弧角値を、点弧信号生成部154に供給する。
【0035】
カウンタ部153は、例えば、プロセッサに専用回路として組み込まれたハードウェアカウンタであってよい。カウンタ部153は、プロセッサにおけるクロックを第2周期(例えば、10MHz)でカウントする。また、カウンタ部153によるカウント値は、第1デジタル信号におけるゼロクロスのタイミングである第1時刻が第1時刻算出部151から入力される毎にリセットされる。そして、カウンタ部153は、カウントした値(カウント値)を第2周期で逐次、点弧信号生成部154に出力する。
【0036】
点弧信号生成部154は、例えば、不図示の比較器とパルス発生器を備えて構成される。点弧信号生成部154は、所定のタイミングでカウンタ部153からカウント値が入力される。ここで、当該所定のタイミングは、例えば、第2デジタル信号の信号値の間隔である第2周期と同一であってもよい。点弧信号生成部154は、カウンタ部153から第2周期でカウント値が入力される毎に、点弧角値補正部152から供給される補正された点弧角値を参照して、カウント値と当該点弧角値を比較する。点弧信号生成部154は、カウント値が点弧角値以上となった場合に、サイリスタ2の点弧を指示する点弧信号を生成し、これをレベル変換部40に出力する。
【0037】
(2)動作
次に、図2~9を適宜参照して、装置1の動作について説明する。特に、図2は、装置1の動作を説明するための概略的なタイミングチャートの一例を示す図である。最上段は、交流信号の電圧波形を示す。中段は、サイリスタ2を点弧するための点弧信号を示す。最下段は、サイリスタ2のオンオフの状態を示す。また、図3は、図2の交流信号の電圧波形のうちゼロクロスZc付近を拡大した図である。
【0038】
(2-1)第1デジタル信号の生成処理
図4は、A/D変換処理部11による第1デジタル信号の生成処理の動作フローの一例を示す図である。
【0039】
(S11)まず、A/D変換処理部11は、第1周期における時刻が到来したか否かを判定し、図3に示す例では、時刻t0、t5、及びt10のそれぞれが、第1周期における時刻を示している。
【0040】
(S12)A/D変換処理部11は、第1周期における時刻が到来したと判定された場合(S11;Yes)、レベル変換部30から入力された交流信号をサンプリングすることにより第1デジタル信号としての信号値を生成する。生成された各信号値は、補間処理部12及び第1時刻算出部151それぞれに第1デジタル信号として逐次出力される。図3に示す例では、交流信号の電圧波形上の黒塗りプロットとして示された信号値S0、S5、及びS10それぞれが、時刻t0、t5、及びt10それぞれにおいてA/D変換処理部11のサンプリングにより生成された信号値(第1デジタル信号)を示している。以上のS11~S12が、処理が終了するまで実行される。
【0041】
(2-2)第1時刻の算出処理
図5は、第1時刻算出部151による第1時刻の算出処理の動作フローの一例を示す図である。
【0042】
(S21)まず、第1時刻算出部151は、A/D変換処理部11から入力された第1デジタル信号のうち時間的に連続する2つの信号値の組を選択する。例えば、図3に示す例では、時刻t0及びt5の信号値S0及びS5や、時刻t5及びt10の信号値S5及びS10のそれぞれが、2つの信号値の組に相当する。
【0043】
(S22)次に、第1時刻算出部151は、選択された2つの信号値の組において、先の信号値がゼロ未満であり、且つ、後の信号値がゼロ以上であるか否かを判定する。当該判定結果が否定的であった場合(S22;No)、処理はS21に戻る。図3に示す例では、第1デジタル信号において、時刻t0の信号値S0はゼロ未満であり、時刻t0の次の時刻t5の信号値S5もゼロ未満である。そのため、信号値S0及びS5の組については、S22の判定結果は否定的となる。一方、時刻t5の信号値S5はゼロ未満であり、時刻t5の次の時刻t10の信号値S10はゼロ以上である。そのため、信号値S5及びS10の組については、S22の判定結果は肯定的となる。
【0044】
(S23)次に、第1時刻算出部151は、S21において先の信号値がゼロ未満であり、且つ、後の信号値がゼロ以上であった場合(S21;Yes)、後の信号値に対応する時刻を第1時刻として決定する。以上で第1時刻の算出処理が終了する。図3に示す例では、S22の判定結果が肯定的であった信号値S5及びS10のうち、後の信号値であるS10に対応する時刻t10が第1時刻(第1デジタル信号におけるゼロクロスのタイミング)として決定される。更に、図2に示す例では、符号T1が当該第1時刻に相当する。
【0045】
(2-3)第2デジタル信号の生成処理
図6は、補間処理部12による第2デジタル信号の生成処理の動作フローの一例を示す図である。
【0046】
(S31)まず、補間処理部12は、第1デジタル信号を補間するための第2周期を設定する(オーバーサンプリングする)。ここで、第2周期の設定方法は任意であるが、例えば、第1周期を所定の整数倍することによって第2周期を設定してもよい。具体的には、例えば、第1周期が約10kHzである場合、第2周期を、当該第1周期(約10kHz)の1000倍である約10MHzとして設定してよい。図3に示す例では、時刻t0、t1、t2、t3、t4、t6、t7、t8、t9、及びt10のそれぞれが、第2周期における時刻を示している。なお、図3では、説明の便宜上、第2周期を第1周期の5倍であるものとして示している。
【0047】
(S32)次に、補間処理部12は、第1デジタル信号において時間的に連続する2つの信号値について、当該2つの信号値を結ぶ近似曲線(直線を含む)を算出する。近似曲線は、例えば、一次近似による直線であってよい。例えば、図3には、信号値S0及びS5を結ぶ一次近似直線L1と、信号値S5及びS10を結ぶ一次近似直線L2とが示されている。
【0048】
(S33)次に、補間処理部12は、第2周期における各時刻について、当該時刻に対応する近似曲線上の信号値を算出する。算出された信号値が第2デジタル信号となる。以上で、処理が終了する。例えば、図3に示す例では、一次近似直線L1上の時刻t1、t2、t3、及びt4のそれぞれに対応する信号値S1、S2、S3、及びS4を算出する。同様にして、一次近似直線L2上の時刻t6、t7、t8、及びt9のそれぞれに対応する信号値S6、S7、S8、及びS9を算出する。
【0049】
(2-4)第2時刻の算出処理
図7は、第2時刻算出部13による第2時刻の算出処理の動作フローの一例を示す図である。
【0050】
(S41)まず、第2時刻算出部13は、補間処理部12から入力された第2デジタル信号のうち時間的に連続する2つの信号値の組を選択する。例えば、図3に示す例では、信号値S0及びS1の組、信号値S1及びS2の組、信号値S2及びS3の組、信号値S3及びS4の組、信号値S4及びS5の組、信号値S5及びS6の組、信号値S6及びS7の組、信号値S7及びS8の組、信号値S8及びS9の組、信号値S9及びS10の組のそれぞれが、2つの信号値の組に相当する。
【0051】
(S42)次に、第2時刻算出部13は、選択された2つの信号値の組において、先の信号値がゼロ未満であり、且つ、後の信号値がゼロ以上であるか否かを判定する。当該判定結果が否定的であった場合(S42;No)、処理はS41に戻る。図3に示す例では、第2デジタル信号において、時刻t6の信号値S6はゼロ未満であり、時刻t6の次の時刻t7の信号値S7はゼロ以上である。そのため、信号値S6及びS7の組については、S42の判定結果は肯定的となる。
【0052】
(S43)次に、第2時刻算出部13は、S41において先の信号値がゼロ未満であり、且つ、後の信号値がゼロ以上であった場合(S41;Yes)、後の信号値に対応する時刻を第2時刻として決定する。以上で第2時刻の算出処理が終了する。図3に示す例では、S42の判定結果が肯定的であった信号値S6及びS7のうち、後の信号値であるS7に対応する時刻t7を第2時刻(第1デジタル信号におけるゼロクロスのタイミング)として決定する。更に、図2に示す例では、符号T2が当該第2時刻に相当する。
【0053】
(2-5)点弧角値の補正処理
図8は、点弧角値補正部152による点弧角値の補正処理の動作フローの一例を示す図である。図2に示すとおり、第1デジタル信号におけるゼロクロスのタイミングである第1時刻T1は、第2デジタル信号におけるゼロクロスのタイミングである第2時刻T2よりも、真のゼロクロスのタイミングからのずれが大きい場合が多い。そこで、点弧角値補正部152は、このようなゼロクロスのタイミングのずれを抑制するために、フィードバック演算部14により供給される点弧角値を、第1時刻T1及び第2時刻T2の差分に基づいて補正する。
【0054】
(S51)まず、点弧角値補正部152は、第1時刻算出部151によって算出された第1時刻T1(図3における時刻t7)と、第2時刻算出部13によって算出された第2時刻T2(図3における時刻t10)との差分T2-T1(t10-t7)をオフセット値Δθとして算出する。
【0055】
(S52)次に、点弧角値補正部152は、フィードバック演算部14から供給される点弧角値θからオフセット値Δθを差し引くことにより、補正された点弧角値として点弧角値θ’(=θ-Δθ)を算出する。
【0056】
(S53)次に、点弧角値補正部152は、補正された点弧角値θ’を、点弧信号生成部154に供給する。以上で処理が終了する。
【0057】
(2-6)点弧信号の生成処理
図9は、点弧信号生成部154による点弧信号の生成処理の動作フローの一例を示す図である。
【0058】
(S61)まず、点弧信号生成部154は、カウンタ部153からカウント値が入力されたか否かを判定する。ここで、例えば、点弧信号生成部154には、カウンタ部153から上述した第2周期で新たなカウント値が入力される。点弧信号生成部154は、カウンタ部153からカウント値が入力されるまで当該S61を繰り返す。
【0059】
(S62)点弧信号生成部154は、カウンタ部153からカウント値が入力されたと判定された場合(S61;Yes)、入力されたカウント値が点弧角値補正部152から供給された補正された点弧角値θ’以上であるか否かを判定する。入力されたカウント値が補正された点弧角値θ’以上でないと判定された場合(S62;No)、処理はS61に戻る。
【0060】
(S63)点弧信号生成部154は、入力されたカウント値が補正された点弧角値θ’以上であると判定された場合(S62;Yes)、点弧信号を生成して、レベル変換部40に出力する。以上で処理が終了する。
【0061】
ここで、上述したとおり、フィードバック演算部14により算出される点弧角値θは、点弧角値補正部152によって点弧角値θ’に補正される。このため、点弧信号生成部154は、第1時刻T1から、フィードバック演算部14により算出された点弧角値θだけ経過したタイミングである時刻T3ではなく、第1時刻T1から補正された点弧角値θ’だけ経過したタイミングである時刻T4において点弧信号を生成する。そして、サイリスタ2は、時刻T4において点弧信号がゲートに入力されると、点弧(ターンオン)し、時刻T5において、交流電源ACの交流信号がゼロになると、消弧(ターンオフ)する。
【0062】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が有する各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、異なる実施形態で示した構成同士を部分的に置換し又は組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…装置、2…サイリスタ、10…プロセッサ、11…アナログ/デジタル(A/D)変換処理部、12…補間処理部、13…第2時刻算出部、15…点弧制御処理部、151…第1時刻算出部、152…点弧角値補正部、153…カウンタ部、154…点弧信号生成部、30…レベル変換部、40…レベル変換部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9