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特許7386802セラミック内側スリーブを有する血管内血液ポンプ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】セラミック内側スリーブを有する血管内血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/829 20210101AFI20231117BHJP
   A61M 60/174 20210101ALI20231117BHJP
   A61M 60/216 20210101ALI20231117BHJP
   A61M 60/416 20210101ALI20231117BHJP
   A61M 60/825 20210101ALI20231117BHJP
【FI】
A61M60/829
A61M60/174
A61M60/216
A61M60/416
A61M60/825
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020551386
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019057011
(87)【国際公開番号】W WO2019180104
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-17
(31)【優先権主張番号】18163761.2
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507116684
【氏名又は名称】アビオメド オイローパ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケルクホフス ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ジース トルステン
【審査官】寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0156006(US,A1)
【文献】中国実用新案第205163763(CN,U)
【文献】特表2015-508678(JP,A)
【文献】特表2010-521261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/00-60/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の血管内への経皮挿入のための血管内血液ポンプ(P)であって、インペラ(6)、および前記インペラ(6)を駆動するための電気モータを含む、ポンピングデバイス(1)を備え、前記電気モータがステータおよびロータ(7)を含み、前記ロータ(7)が前記ポンピングデバイス(1)内の空洞(22)の内部に配置されており、回転軸の周りに回転可能であり、前記インペラ(6)の回転を生じさせることができるよう前記インペラ(6)に結合されており、前記空洞(22)が、セラミック材料で作製された内側スリーブ(14)によって形成されている、血管内血液ポンプ(P)において、
セラミック材料で作製されており、前記空洞(22)を覆うよう前記内側スリーブ(14)の軸方向端部に流体密封の様態で取り付けられた端部部品(11)をさらに備えることを特徴とする血管内血液ポンプ(P)。
【請求項2】
請求項1に記載の血液ポンプであって、前記ステータが、前記内側スリーブ(14)上に配置され、前記ロータ(7)の回転を生じさせるための磁界を発生するように構成されたコイル巻線(9)を含むことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項3】
請求項に記載の血液ポンプであって、前記端部部品(11)が、前記ロータ(7)を回転可能に支持する軸受を含ことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項4】
請求項1からのいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記空洞(22)が、パージ流体を前記空洞(22)内へ供給するように構成された前記血液ポンプのパージ管材(15)と流体連通していることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記ステータが前記内側スリーブ(14)によって前記空洞(22)に対して流体密封の様態で密閉されていることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項6】
請求項1からのいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記ステータの電気接続部(23、24、25)が少なくとも部分的に前記内側スリーブ(14)上に形成されていることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項7】
請求項1からのいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記内側スリーブ(14)が、40μm~60μmの壁厚を有することを特徴とする血液ポンプ。
【請求項8】
請求項1からのいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記内側スリーブ(14)が実質的に円筒形であることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記ステータが流し込み成形材料(18)を用いて前記内側スリーブ(14)の外部に固定されることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項10】
請求項1からのいずれか1項に記載の血液ポンプであって、前記ポンピングデバイス(1)の外面の少なくとも一部分を形成する外側スリーブ(13)をさらに備え、前記ステータの少なくとも一部分が前記外側スリーブ(13)と前記内側スリーブ(14)との間の隙間(19)内に配置されていることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項11】
請求項10に記載の血液ポンプであって、前記外側スリーブ(13)が、前記電気モータのヨークを形成するための磁気伝導性材料を含むことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項12】
血管内血液ポンプを製作する方法であって、前記血液ポンプが、インペラ(6)、および前記インペラ(6)を駆動するための電気モータを含む、ポンピングデバイス(1)を備え、前記電気モータがステータおよびロータ(7)を含み、前記ロータ(7)が回転軸の周りに回転可能であり、前記インペラ(6)の回転を生じさせることができるよう前記インペラ(6)に結合されており、前記方法が、
- 前記ロータ(7)を受容するための空洞(22)を形成するためのセラミック材料で作製された内側スリーブ(14)を提供するステップと、
- 前記ロータ(7)の回転を生じさせるための磁界を発生するためのコイル巻線(9)を前記内側スリーブ(14)上に配置するステップと、
- セラミック材料で作製された端部部品(11)を、前記空洞(22)を覆うよう前記内側スリーブ(14)の軸方向端部に流体密封の様態で取り付けるステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1から11のいずれか1項に記載の血管内血液ポンプ、を製作する方法であって、前記血液ポンプが、インペラ(6)、および前記インペラ(6)を駆動するための電気モータを含む、ポンピングデバイス(1)を備え、前記電気モータがステータおよびロータ(7)を含み、前記ロータ(7)が回転軸の周りに回転可能であり、前記インペラ(6)の回転を生じさせることができるよう前記インペラ(6)に結合されており、前記方法が、
- 前記ロータ(7)を受容するための空洞(22)を形成するためのセラミック材料で作製された内側スリーブ(14)を提供するステップと、
- 前記ロータ(7)の回転を生じさせるための磁界を発生するためのコイル巻線(9)を前記内側スリーブ(14)上に配置するステップと、
- セラミック材料で作製された端部部品(11)を、前記空洞(22)を覆うよう前記スリーブ(14)の軸方向端部に流体密封の態様で取り付けるステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法であって、前記端部部品(11)が、前記ロータ(7)を回転可能に支持する軸受を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項12から14のいずれか1項に記載の方法であって、流し込み成形材料(18)を、少なくとも、前記内側スリーブ(14)上に配置された前記コイル巻線(9)を封入するよう、前記内側スリーブ(14)の周りに射出成形するステップをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項2に記載の血液ポンプであって、前記磁界が回転磁界であることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項17】
請求項3に記載の血液ポンプであって、前記軸受がジャーナル軸受であることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項18】
請求項2に従属する場合の請求項6に記載の血液ポンプであって、前記コイル巻線(9)が少なくとも部分的に前記内側スリーブ(14)上に形成されていることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項19】
請求項7に記載の血液ポンプであって、前記壁厚が50μmであることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項20】
請求項2に従属する場合の請求項9に記載の血液ポンプであって、少なくとも前記コイル巻線(9)が流し込み成形材料(18)を用いて前記内側スリーブ(14)の外側に固定されることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項21】
請求項20に記載の血液ポンプであって、前記流し込み成形材料(18)がポリマー材料を含むことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項22】
請求項21に記載の血液ポンプであって、前記ポリマー材料は樹脂であることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項23】
請求項22に記載の血液ポンプであって、前記樹脂はエポキシであることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項24】
請求項11に記載の血液ポンプであって、前記外側スリーブ(13)が金属または金属合金を含むことを特徴とする血液ポンプ。
【請求項25】
請求項12または13に記載の血液ポンプであって、前記磁界が回転磁界であることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項14に記載の血液ポンプであって、前記軸受がジャーナル軸受であることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の血管内への経皮挿入のための、特に、患者の心臓内へ前進させられるべき、血管内血液ポンプ、および血管内血液ポンプを製作するそれぞれの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腿または腋窩動脈または静脈などの、患者の血管内に経皮的に挿入されるように設計された血管内血液ポンプは患者の心臓内へ前進させられ、左心補助デバイスまたは右心補助デバイスの役割を果たし得る。それゆえ、血液ポンプは、心内血液ポンプとも呼ばれ得る。血管内血液ポンプは、通例、カテーテル、およびカテーテルの遠位端部に取り付けられたポンピングデバイスを備える。カテーテルは、電気線材およびパージ管材などの、供給線管材を包含し得る。本開示全体を通じて、用語「遠位(distal)」は、ユーザから遠ざかり、心臓へ向かう方向に言及し、それに対して、用語「近位(proximal)」は、ユーザへ向かう方向に言及する。
【0003】
ポンピングデバイスは、電気モータ、および回転軸の周りのインペラの回転のために電気モータのロータに結合されたインペラを備え得る。血液ポンプの動作の間に、インペラは、例えば、フローカニューレを通して、血液を血液ポンプの血流入口から血流出口へ運搬する。ポンプ速度はポンピングデバイスのサイズに依存する。特に、ポンピングデバイス内に含まれる電気モータの効率は、限られた空間に大きく依存する。しかし、血管内への挿入のための解剖学的制限のゆえに、ポンピングデバイスのサイズ、特に、その直径を低減することが望まれる。
【0004】
血液ポンプのインペラを駆動するためのマイクロモータを有する既知の血管内血液ポンプ、例えば、国際公開第98/44619(A1)号において開示される血液ポンプでは、電気モータのステータまたは少なくともステータパーツが、ポリマー材料、例えば、エポキシなどの、流し込み成形材料内に封入されている。国際公開第98/44619(A1)号において開示されるマイクロモータを製作する方法によれば、モータのステータパーツがマンドレル上に配置され、次に、マンドレルが型穴内に挿入される。流し込み成形材料を型穴内に注入し、ステータパーツを封入し、ポンピングデバイスのハウジングを形成する。
【0005】
成形されたハウジングの内面が、電気モータのロータ、通例、磁石が配置される空洞を取り囲む。ロータは、通例、パージ管材を用いて空洞へ供給される、グルコース溶液などの、パージ流体と接触することになる。ステータパーツ、特に、通例、回転磁界などの、ロータの回転を生じさせるための磁界を発生するために提供され、構成されたコイル巻線の腐食を回避するために、流し込み成形材料はパージ流体のためのバリアを形成する。しかし、コイル巻線が射出成形の間にマンドレル上に配置されるため、空洞を画定するハウジングの内面上のコイル巻線の露出箇所が存在し得る。コイル巻線はまた、射出成形の間に補償することができない、比較的大きな製作公差を有し得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、血液ポンプの直径を増大させずに、パージ流体に対する血液ポンプの電気パーツの密閉の改善をもたらす血管内血液ポンプを提供すること、およびこのような血管内血液ポンプを製作するそれぞれの方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、本発明によれば、血管内血液ポンプ、および独立請求項の特徴を有する血液ポンプを製作する方法によって達成される。本発明の好ましい実施形態およびさらなる発展が、それに従属する請求項において指定されている。
【0008】
本発明の一態様によれば、患者の血管内への経皮挿入のための血管内血液ポンプが提供される。血液ポンプは、インペラ、ならびにインペラを駆動するためのステータおよびロータを有する電気モータを含む、ポンピングデバイスを備える。ロータはポンピングデバイス内の空洞の内部に配置されており、回転軸の周りに回転可能であり、インペラの回転を生じさせることができるようインペラに結合されている。空洞は、ジルコニア、またはより好ましくはアルミナ強化ジルコニア(alumina toughened zirconia、ATZ)などの、セラミック材料で作製された内側スリーブによって形成されている。特に、以上において説明されたようにステータの部分であり得るコイル巻線は、好ましくは、内側スリーブ上に配置されている。
【0009】
セラミック材料で作製された内側スリーブを提供することによって、ロータが配置される空洞の流体密封エンクロージャを作り出すことができる。セラミック材料はパージ流体に対する拡散抵抗性を有する。それゆえ、ステータ、具体的には、コイル巻線のような電気ステータパーツの効果的な腐食保護を達成することができる。流し込み成形材料の内面ではなく、セラミックスリーブがロータのための空洞を形成するため、腐食保護は射出成形プロセスに依存せず、内側スリーブのセラミック材料がパージ流体に対する安全なバリアを形成する。
【0010】
セラミック材料の密閉特性以外に、セラミック内側スリーブは非常に小さい製作公差をもって製作することができる。それゆえ、例えば、射出成形の前にコイル巻線をセラミックスリーブ上に配置することによって、コイル巻線の寸法、特に、内径、およびそれゆえ、外径を非常に精密に規定および調整することができる。セラミックスリーブは実質的に硬質であり、取り扱い性に優れており、コイル巻線がスリーブ上に配置された時のコイル巻線の取り扱いを改善し得る。セラミック材料は内側スリーブの非常に小さい壁厚を可能にする。これは、ポンピングデバイスの全径を増大させないため、および高いモータ効率および低いコア温度を確実にするべく固定コイルと回転磁石との間の小さい空隙を維持するために重要である。加えて、内側スリーブは、特に、スリーブの内面上において、表面仕上げを行って製作されてもよく、血液さえも、高い血液損傷または凝固を生じさせることなく、空隙、すなわち、内側スリーブとロータとの間の空間を通して圧送され得る。これは無パージポンプに関係し得る。
【0011】
一実施形態では、セラミック材料、好ましくは、内側スリーブが作製された同じセラミック材料で作製された端部部品が提供され、空洞を取り囲むよう内側スリーブの軸方向端部に流体密封の様態で取り付けられ得る。セラミック端部部品は、例えば、接着剤によって内側スリーブに取り付けられ得るか、または内側スリーブと一体的に形成され得る。好ましくは、端部部品は、ロータを回転可能に支持する、ジャーナル軸受などの、軸受を含む。例えば、ロータ、またはロータを担持するシャフトを端部部品内の孔内に挿入し、ジャーナル軸受を形成することができる。
【0012】
空洞は、好ましくは、パージ流体を空洞内へ供給するように構成された血液ポンプのパージ管材と流体連通している。具体的には、パージ管材は上述の端部部品に接続され得る。より具体的には、パージ管材は端部部品に接続され得、これにより、パージ流体は、端部部品によって形成された軸受に直接供給され、軸受を通して空洞内へ入る。例えば、端部部品は、中心孔、および孔と整列した中心中空柱を含み得、パージ管材は中空柱に接続され得る。
【0013】
ステータ、具体的には、コイル巻線、および腐食を受けやすい他の電気パーツは、好ましくは、内側スリーブによって空洞に対して流体密封の様態で密閉されている。以上において説明されたように、セラミック材料はパージ流体の拡散を効果的に防止し、これにより、ステータパーツは保護される。
【0014】
一実施形態では、ステータ、好ましくは、コイル巻線の電気接続部は、少なくとも部分的に、内側スリーブ上、好ましくは、端部部品上に形成され得る。セラミック材料は、電気接続部、例えば、コイル巻線の線(通例、銅線)に接続する銅パッドをはんだ付けする間の高温に耐えるため、セラミック内側スリーブ、および場合によっては、セラミック端部部品は、電気接続部を担持するために適している。特に、多数の複雑な配置のコイル巻線の端子が必要である場合には、電気接続部、特に、銅パッドをセラミック内側スリーブおよび/またはセラミック端部部品上に配置することが有利になり得る。銅パッドは、セラミックスリーブおよび/またはセラミック端部部品を所望の位置において銅コーティングすることによって形成され得る。
【0015】
コイル巻線を、磁界、特に、回転磁界を発生するよう制御することが可能になるためには、比較的多数のコイル巻線の電気接続部が必要とされる。例えば、回転磁界を作り出すために、コイル巻線を複数の相、例えば、3相において制御するためには、コイル巻線の線の2層配置において6つの電気接続部が必要である。より具体的には、コイル巻線は、永久磁石であり得る、ロータの回転を生じさせるために連続的に制御可能である、複数の角度区分、例えば、各々120度の3つの区分に分割され得る。このとき、より強力な4層配置は12個の電気接続部を必要とするであろう。
【0016】
例えば、コイル巻線の3つの制御可能区分の配置を達成するために、コイル線を完全にループさせ、線を120度および240度において巻回している間に、切断して2つの端子を作り出し、1つの区分を閉じ、後続の区分を開始し得る。それゆえ、2層コイル構成では、これは6つの端子をもたらす。すなわち、1つは最初にあり(0度にあり)、2つは120度にあり、2つは240度にあり、1つは最後にある(0度の位置と同一である、360度にある)。ロータの回転を生じさせるための動的磁界を作り出すことができるかぎり、所望の場合には、各々180度の2つのみの区分、または3つを超える区分が提供されてもよいことは理解されるであろう。
【0017】
線がコイル巻線の一方の長手方向端部において0度から出発し、180度の位置における反対の長手方向端部に向けて案内され、出発点に戻り、1サイクルを終える、典型的な巻線パターンは偶数個の巻線層をもたらす。コイル巻線の外径をできるだけ小さく保つために、後続の層は、後続の層を下層の線の間で入れ子にするために、コイル線の長手方向と垂直にコイル線の直径の半分だけオフセットされ得る。
【0018】
特に、交差または間隙を有しない、コイル巻線の層の精密な配置をもたらすことは、一方では、電気モータの効率のために、および他方では、外径を狭い製作公差以内に保つために重要である。具体的には、コイル巻線の線区分は、またぎの形態の欠陥を有することなく、それらの長さに沿って横に並んで正確に配置されなければならない。正確な配置は、最外層としての、ベーキングラッカーなどの、熱硬化性ワニスを含み得る、それらの絶縁コーティングによって、線区分を隣接線区分に適切に固定することを可能にするため、線を正確に横に並べて配置することは、コイル巻線の構造的安定性をさらに改善し得る。セラミック内側スリーブをコイル巻線のための支持物として提供することは、特に、上述の態様に関して、コイル巻線の線の改善された精密な配置をもたらすことに役立ち得る。
【0019】
以上において概説されたように、内側スリーブは小さな壁厚を有し得る。より具体的には、内側スリーブは、約20μm~約100μm、好ましくは、約40μm~約60μm、より好ましくは、約50μmの壁厚を有し得る。内側スリーブは管形状を有し得る。好ましくは、内側スリーブは実質的に円筒形である。内側スリーブの内径は、好ましくは、例えば、約50μmの小さな間隙を形成するために、ロータの外径よりも若干大きい。小さな間隙は、上述されたとおりの電気モータの効率を最適化するための磁束の最適化に関して好ましい。この点において、セラミック材料の別の利点は、それが電気モータの磁束に影響を及ぼさないことであることを理解されたい。内側スリーブは、約5mm~約20mm、好ましくは、約8mm~約15mmの長さを有し得る。
【0020】
血管内血液ポンプは、ポンピングデバイスの外面の少なくとも一部分を形成し得る外側スリーブをさらに備え得る。このとき、ステータの少なくとも一部分は外側スリーブと内側スリーブとの間の隙間内に配置され得る。外側スリーブは、電気モータのヨーク(後部鉄(back iron))を形成するための、金属または金属合金などの、磁気伝導性材料を含み得る。ステータ、または少なくともステータパーツ、好ましくは、少なくともコイル巻線は、エポキシのようなポリマー材料などの、流し込み成形材料を用いて、内側スリーブの外部において、特に、内側スリーブと外側スリーブとの間の隙間内において固定され得る。
【0021】
血管内血液ポンプ、特に、上述されたとおりの血管内血液ポンプを製作する方法では、ロータを受容するための空洞を形成するためのセラミック材料で作製された内側スリーブを提供し、コイル巻線を内側スリーブ上に配置する。セラミックスリーブは、これにより、上述されたように容易に扱うことができる、コイル巻線のための支持物を形成する。さらに、以上において同様に説明されたように、セラミック内側スリーブは、コイル巻線の非常に精密な校正を可能にする、非常に小さな製作公差を有する。コイル巻線はあらかじめ巻回され、その後、セラミックスリーブ上に配置されてもよく、これにより、コイル巻線を、セラミックスリーブの寸法に合わせて調整することができる。代替的に、コイル巻線はセラミックスリーブ上に直接巻回されてもよい。いずれにせよ、コイル巻線はセラミックスリーブによって正しく中心にそろえられる。
【0022】
上述されたように、セラミック内側スリーブは、軸受を含み得る、セラミック端部部品に接続され得る。それゆえ、本方法は、セラミック材料で作製された端部部品を、空洞を取り囲むよう内側スリーブの軸方向端部に流体密封の様態で取り付けることをさらに含み得る。端部部品は、のり付けまたは他の接着方法によって内側スリーブに取り付けられ得る。これは、コイル巻線を内側スリーブ上に配置する前、および場合によっては、流し込み成形材料を内側スリーブの周りに射出成形する前に実施され得る。
【0023】
本方法は、流し込み成形材料を、少なくとも、内側スリーブ上に配置されたコイル巻線を封入するよう、内側スリーブの周りに射出成形することをさらに含み得る。ポンピングデバイスが、上述されたとおりの外側スリーブを備える場合には、射出成形は、特に、流し込み成形材料を、外側スリーブ、より具体的には、内側スリーブと外側スリーブとの間に形成された隙間内に注入することによって実施され得る。しかし、セラミック内側スリーブは外側スリーブとは独立して提供されてもよく、ステータパーツは任意の他の射出成形技法によって、例えば、例として、国際公開第98/44619(A1)号に説明されるように、流し込み成形材料を金型内に注入することによって封入されてもよいことを理解されたい。
【0024】
射出成形プロセスの間に外側スリーブを金型として用いて血液ポンプを製作する方法では、セラミック内側スリーブ、および、コイル巻線などの、さらなるステータ構成要素は、マンドレルとして形成され得る、成形基台上に配置され得る。次に、ステータ構成要素の最も外側と考えられ得る、外側スリーブが、成形基台上に、およびこれにより、内側スリーブおよび他のステータ構成要素を覆って配置され得、これにより、血液ポンプの外面の少なくとも一部分を形成し、ステータ構成要素が配置される、内側スリーブと外側スリーブとの間の隙間を形成する。次に、ポリマー材料、特に、エポキシのような樹脂などの、流し込み成形材料が、成形基台を介して前記隙間内に注入され得、ステータ構成要素を外側スリーブの内部に固定する。成形基台は、例えば、プラスチックで射出成形によって作製された、使い捨て部品であり得る。
【0025】
これは、外側スリーブが、電気モータのヨーク(後部鉄)を形成するための磁気伝導性材料を含む場合に、特に有利になり得る。具体的には、外側スリーブは、金属、またはフェライト合金、例えば、FeCrAl合金などの、金属合金を含み得るか、またはそれで作製され得る。外面はそれぞれの酸化物で被覆され得る。外側スリーブは任意の好適な生体適合性の磁気伝導性材料を含み得ることを理解されたい。金属材料は、プラスチック材料と比べて熱放散が増大されるというさらなる利点を有する。
【0026】
上述の概要、および好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことでより深く理解されるであろう。本開示を例示する目的のために、図面を参照する。しかし、本開示の範囲は、図面において開示される特定の実施形態に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】患者の心臓内に挿入された血管内血液ポンプを概略的に示す図である。
図2】血管内血液ポンプを通した断面図を示す図である。
図3】セラミック内側スリーブの斜視図を示す図である。
図4】セラミック近位軸受の斜視図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1に、患者の心臓H内に挿入された血管内血液ポンプPが示されている。より具体的には、血液ポンプPは、カテーテル5に取り付けられたポンピングデバイス1を備える。ポンピングデバイス1は、カテーテル5を用いて患者の心臓Hの左心室LV内に挿入され、血液を左心室LVから大動脈AO内へポンピングする。図示の適用は単なる例示的な適用にすぎず、本発明の血液ポンプPはこの適用に限定されない。例えば、右心室RVのための逆の適用が想定され得る。血液ポンプPは、例えば、大腿アクセスまたは腋窩アクセスを介して経皮的に挿入され、大動脈AOを通して心臓H内へ前進させられる。血液ポンプPは、血流出口2が大動脈AO内において患者の心臓Hの外部に配置され、その一方で、フローカニューレ4と流体連通する血流入口3が左心室LVの内部に配置されるように配置されている。血流入口3から血流出口2への血流を生じさせるためのインペラがポンピングデバイス1内に設けられており、インペラの回転が、以下においてより詳細に説明されるように、ポンピングデバイス1内に配置された電気モータによって生じる。
【0029】
図2は、ロータ7およびインペラ6の回転軸と一致する、中心長手方向軸Lに沿ったポンピングデバイス1を通した断面図を示す。より具体的には、ロータ7およびインペラ6は、回転軸に沿って延びる共通シャフト8上に配置されている。電気モータのロータ7は永久磁石として形成され、ポンプケーシングの空洞22の内部に配置されている。ロータ7の回転を生じさせるために、電気モータのステータの部分としてのコイル巻線9がロータ7を包囲しており、ロータ7の回転を生じさせるように制御可能である。インペラ6はシャフト8を介してロータ7に結合されており、これにより、ロータ7の回転がインペラ6の回転を生じさせ、これにより、図2における矢印によって指示されるように、血液を血流入口3内へ吸い込み、フローカニューレ4を通して血流出口2から出す。
【0030】
シャフト8は、双方とも図2に示されるとおりのジャーナル軸受として形成され得る、遠位軸受12および近位軸受11によって回転可能に支持されている。軸受11、12およびシャフト8はセラミック材料で形成され得る。しかし、玉軸受などの他の種類の軸受も、シャフト8を回転可能に支持するために用いられ得る。軸受は、アキシャル軸受またはラジアル軸受、あるいは複合的アキシャルおよびラジアル軸受であり得る。パージ流体が、パージ管材15を用いて、軸受11、12、およびロータ8が配置された空洞22を通して供給される。パージ管材15はカテーテル5を貫いて延び、流体密封の様態で近位軸受11に接続されている。このように、パージ流体はポンピングデバイス1の電気構成要素と接触せず、近位軸受11を通り、空洞22内へ入り、遠位軸受12を通るように流れるのみである。
【0031】
電気構成要素、特に、コイル巻線9を、パージ流体によって生じる腐食および短絡から保護するための安全なバリアを提供するために、ロータ7のための空洞22は、セラミック材料で作製された内側スリーブ14によって形成され得る。セラミック内側スリーブ14は近位軸受11に流体密封の様態で取り付けられており、パージ流体の拡散に対して抵抗性を有する。セラミック内側スリーブ14は、同様に、滑らかな内面でもって非常に明確に規定されるため、血液ポンプの別の構成では、いくらかの血液が、凝固または血液破壊を生じることなくパージ流体の代わりにポンプに入ることを可能にされ得る。ポンピングデバイス1のステータ構成要素を固定し、内側スリーブ14と外側スリーブ13との間の隙間19を充填する流し込み成形材料18によって、さらなる腐食保護が確立される。具体的には、コイル巻線9が流し込み成形材料18内に封入される。流し込み成形材料18はまた、モータケーブル10およびパージ管材15との電気接続部16(すなわち、PCB)のための追加的固定ももたらす。流し込み成形材料18は、樹脂、好ましくは、二液型エポキシ、およびより好ましくは、熱伝導性および電気絶縁性充填材を有する二液型エポキシのようなポリマー材料であり得る。
【0032】
外側スリーブ13は、ポンピングデバイス1の外面および外部寸法を規定する。それゆえ、上述の構成要素、特に、流し込み成形材料18によって固定されたステータ構成要素を取り囲む外側スリーブ13によって、ポンピングデバイス1のケーシングが形成される。外側スリーブ13はまた、磁気的に活性であるステータ構成要素も形成することを理解されたい。外側スリーブ13は、好適な金属合金などの、生体適合性の磁気伝導性材料で作製されており、電気モータの磁束のためのヨークの役割を果たす。金属外側スリーブ13はまた、電気モータの動作によって生じる熱の良好な散逸も可能にする。外側スリーブ13の外面は、センサ20を有する線材を受容するための溝21を含み得る。ハブ17が外側スリーブ13の遠位端部に取り付けられており、フローカニューレ4のための取り付け区域を形成する。ハブ17は、好ましくは、外側スリーブ13と同じ材料で作製されており、遠位軸受12およびインペラ6を収容する。血流出口2がハブ17内に形成され、これにより、遠位軸受12からの熱伝達が可能である。
【0033】
外側スリーブ13は、約7mm~約30mm、好ましくは、約10mm~約20mm、より好ましくは、約10mm~約15mmの長さを有し得る。外側スリーブ13は、18F(フレンチ)以下の外部寸法(6mm以下の外径)を有し得る。小さな寸法にもかかわらず、最大5.5リットル/分のポンプ速度が達成され得る。
【0034】
図3は、ロータ7のための空洞22を取り囲む上述の血管内血液ポンプP内に含まれるセラミック内側スリーブ14を示す。スリーブ14は、円筒形状、および約20μm~約100μm、好ましくは、約50μmの壁厚を有する。セラミック材料はアルミナ強化ジルコニア(ATZ)であり得る。コイル巻線9のための電気接続部、特に、電気接続部をはんだ付けするための銅パッド23が、例えば、スリーブ14上のそれぞれの位置を銅コーティングすることによって、セラミックスリーブ14上に直接設けられ得る。セラミック材料ははんだ付けの最中の高温に耐え、したがって、銅パッド23、換言すれば、PCBのための支持物を形成するために適している。スリーブ14は、スリーブ14の表面上において円周方向に規則正しく配置された3つの銅パッド23を担持し得る。
【0035】
コイル巻線が2層配置で適用される場合には、回転磁界を生み出すためにコイル巻線9を連続的に制御することが可能になるために、コイル巻線9の少なくとも6つの端子が存在する。コイル巻線の4層配置では、12個の端子が接続されなければならない。それゆえ、追加の電気接続部24、25が、図4に示されるように、近位軸受を含む、セラミック端部部品11上に配置され得る。端部部品11は内側スリーブ14と同じセラミック材料で作製され得、接着剤によって内側スリーブ14に取り付けられ得る。端部部品11の中心孔は、ロータ7のシャフト8を回転可能に受容するようにサイズ設定および形状設定されている。中心孔と整列して端部部品11から突出した中心中空ステム26がパージ管材15のための取り付け区域として設けられている。このように、パージ流体は、直接、軸受へ、およびさらに内側スリーブ14の内部へ供給される。
【0036】
血管内血液ポンプを製作する方法では、端部部品11を内側スリーブ14に取り付け、ロータ7のための流体密封エンクロージャを形成し得る。あらかじめ巻回され得るコイル巻線9を内側スリーブ14上に配置することができ、これはコイル巻線9の寸法の精密な調整を可能にする。それゆえ、セラミック内側スリーブ14は、パージ流体のための密封バリア、および電気絶縁をもたらすだけでなく、コイル巻線9の配置を最適化することによって電気モータの効率を改善することにも役立つ。コイル巻線9の端子を銅パッド23、24、25にはんだ付けし、内側スリーブ14上に装着されたコイル巻線9をさらに処理するプロセス、例えば、射出成形プロセスにおいて流し込み成形材料18内に封入する。
【0037】
別の方法では、コイル巻線9を、内側スリーブ14、ならびにコイル巻線9および銅パッド23の相互接続部上に直接巻回し得、適用可能である場合には、銅パッド24、25を巻回プロセスの間に自動的に遂行し得る。それゆえ、二次的なはんだ付けステップ、およびコイル巻線9の端子線の(例えば、端子線の長さまたは色による)特定の順序付けを回避することができる。
図1
図2
図3
図4