(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】液剤組成物、膜、及び膜を備える物品
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20231117BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231117BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20231117BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20231117BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
B05D1/02 Z
B05D5/06 104C
B05D7/24 303B
(21)【出願番号】P 2021022487
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2022-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂爪 直樹
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-90830(JP,A)
【文献】特開平07-34030(JP,A)
【文献】特開2007-161829(JP,A)
【文献】特開平04-318071(JP,A)
【文献】特開2016-216631(JP,A)
【文献】国際公開第2021/60348(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレー塗装による膜形成用の液剤組成物であって、
(A)、(B)、及び(C)を少なくとも含み、
(B)は、組成物の全固形分の総量100質量%中に、20質量%以上60質量%以下で含有され、
(B)は、(B1)及び(B2)を90質量%以上含み、(B1):1に対する(B2)の質量比が1.8以上3.3以下である、組成物。
(A)樹脂成分
(B)凹凸形成粒子
(B1)粒子径(d
1)が0.05μm以上0.4μm以下の無機系小粒子
(B2)粒子径(d
2)が2μm以上6μm以下の無機系大粒子
(C)希釈溶媒
【請求項2】
(B2)はシリカを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
シリカは、着色剤によって黒色化した複合シリカを含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
(B1)はカーボンブラックを含む、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
25℃における粘度が1mPa・s以上30mPa・s以下である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の組成物から形成されたスプレー塗装による膜。
【請求項7】
請求項6に記載の膜を備える物品。
【請求項8】
膜が形成された面の最表面の、入射角度60°の入射光に対する光沢度が2%未満、波長550nmの光に対する反射率が4%以下、SCE方式によるCIELAB表色系でのL値が22以下、である請求項7に記載の物品。
【請求項9】
膜に透過での遮光性が求められる場合、膜が形成された面の最表面の、光学濃度が1.5以上、である請求項8に記載の物品。
【請求項10】
膜が形成された面の最表面の、JIS B0601:2001における最大高さRzが7μm以上、輪郭曲線要素の長さの平均Rsmは80μm以上、輪郭曲線のスキューネスRskが0.3以下で、かつ輪郭曲線のクルトシスRkuが3以上、である請求項7~9のいずれかに記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液剤組成物、膜、及び膜を備える物品、に関する。具体的には、膜を形成するための液剤組成物、該組成物により形成された膜、及び該膜を被塗物上に備える物品、に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやタブレット、パソコン等の電子機器には、デザイン性の向上、内部配線等の隠蔽、及び遮光等を目的として、その筐体の一部又は全部(外面、内面は不問)や、タッチパネルの視認面側に配置して固定されるカバーガラスの、非視認面の一部(例えば額縁部分)に、黒塗りの膜を施すことがある。近年、この要請は、例えば各種カメラユニットに装着されるレンズ等電子機器部品の一部(例えばレンズの外縁)又は全部に対してもある。
【0003】
例えば特許文献1では、スマートフォン等の携帯型電子機器の筐体に、絶縁材料で構成されるスクリーン印刷を直接施し、あるいはスクリーン印刷を施した、膜形成フィルムをインモールド成形することによって膜を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、近年の工業製品のデザイン性向上の要請に伴い、このような製品に対して更にデザイン性の高い黒塗りの膜(例えば凹凸膜)を施すことが求められるようになってきている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。本発明は、電子機器や電子機器部品等の各種工業製品に施して好適な、デザイン性の高い膜を形成することができる液剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下の要件を満たすことによって、デザイン性の高い膜の形成に有効であることを見出した。
・膜形成法(塗装法)としてスプレー法を用いること。
・膜形成に用いる液剤組成物が特定組成(所定の粒子径範囲を有する大小の無機系粒子を所定の質量比範囲で含む凹凸形成粒子を所定割合で含む)であること。
本発明者は、こうした新たな知見に基づき、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
以下では、(A)樹脂成分、(B)凹凸形成粒子、(B1)粒子径(d1)が0.05μm以上0.4μm以下の無機系小粒子、(B2)粒子径(d2)が2μm以上6μm以下の無機系大粒子、(C)希釈溶媒、とする。
【0008】
本発明によれば、
スプレー塗装による膜形成用の液剤組成物であって、
(A)、(B)、及び(C)を少なくとも含み、
(B)は、組成物の全固形分の総量100質量%中に、20質量%以上60質量%以下で含有され、
(B)は、(B1)及び(B2)を90質量%以上含み、(B1):1に対する(B2)の質量比が1.8以上3.3以下である、組成物
が提供される。
【0009】
上記の液剤組成物は、以下の態様を含みうる。
・(B2)は、シリカを含むことが好ましい。
・シリカは、着色剤によって黒色化した複合シリカを含むことが好ましい。
・(B1)は、カーボンブラックを含むことが好ましい。
・25℃における粘度が1mPa・s以上30mPa・s以下であることが好ましい。
【0010】
本発明によれば、上記の液剤組成物から形成されたスプレー塗装による膜が提供される。本発明によれば、上記の膜を備える物品が提供される。
【0011】
上記の物品は、以下の態様を含みうる。
・膜が形成された面の最表面の、入射角度60°の入射光に対する光沢度(以下単に「光沢度」ともいう。)が2%未満、波長550nmの光に対する反射率(以下単に「反射率」ともいう。)が4%以下、SCE方式によるCIELAB表色系でのL値が22以下、であることが好ましい。
・膜に透過での遮光性が求められる場合、膜が形成された面の最表面の、光学濃度が1.5以上、であることが好ましい。
・膜が形成された面の最表面の、JIS B0601:2001における最大高さRz(以下単に「Rz」ともいう。)が7μm以上、輪郭曲線要素の長さの平均Rsm(以下単に「Rsm」ともいう。)は80μm以上、輪郭曲線のスキューネスRsk(以下単に「Rsk」ともいう。)が0.3以下で、かつ輪郭曲線のクルトシスRku(以下単に「Rku」ともいう。)が3以上、であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電子機器や電子機器部品等の各種工業製品に施して好適な、デザイン性の高い膜を形成することができる液剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し、適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲のものである。
【0014】
本明細書に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値、又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の含有率、又は含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率、又は含有量を意味する。
【0015】
<液剤組成物>
本発明の一形態に係る液剤組成物(以下単に「組成物」ともいう。)は、被塗物の表面に膜を形成するために使用され、(A)樹脂成分、(B)凹凸形成粒子、及び(C)希釈溶媒、を含む。組成物の形成に用いる(B)は、(B1)粒子径(d1)が0.05μm以上0.4μm以下の小粒子、及び(B2)粒子径(d2)が2μm以上6μm以下の大粒子、を含み、かつ(B1)及び(B2)以外の成分を含むことはありうる。すなわち、本発明の一形態に係る組成物は、(A)、(B1)、(B2)、及び(C)を含んで構成される。一形態に係る組成物は、被塗物の表面に塗布するに際し、スプレー塗装を好適に使用することができる。
以下に、本発明の一形態に係る組成物の詳細について説明する。
【0016】
-(A)-
組成物の形成に用いる(A)は、(B)のバインダーとなる。(A)の材料は特に限定されず、熱可塑性樹脂、及び熱硬化性樹脂のいずれを用いることもできる。熱硬化性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリアクリルエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ブチラール樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体樹脂等が挙げられる。形成される凹凸膜の、耐熱性、耐湿性、耐溶剤性、及び表面硬度の観点からは、(A)として熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、形成される膜の柔軟性、及び強靭さを考慮すると、アクリル樹脂が特に好ましい。(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(A)の含有量(総量)は特に限定されないが、他の成分との配合バランスを考慮すると、組成物の全固形分の総量(100質量%)に対して、好ましくは5質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、である。
【0017】
-(B)-
組成物の形成に用いる(B)は、大きさの異なる凹凸形成粒子を複数、組み合わせてなることが必須であり、(B)として特に、(B1)小粒子と、(B2)大粒子と、を組み合わせて使用することが特徴である。例えば、(B)を、大きさの異なる凹凸形成粒子の2種類のみ(すなわち(B1)及び(B2))で構成する場合、(B2)の粒子径(d2)は、(B1)の粒子径(d1)の、好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上、好ましくは40倍以下、より好ましくは35倍以下、である。(B)として、大きさの異なる凹凸形成粒子を3種類以上用いる場合、粒子径が最大値を示す凹凸形成粒子の粒子径(dmax)と、粒子径が最小値を示す凹凸形成粒子の粒子径(dmin)とが、上記関係(すなわち(dmax)が(dmin)の、好ましくは10倍以上、より好ましくは15倍以上、好ましくは40倍以下、より好ましくは35倍以下)となるよう調整すればよい。
【0018】
一形態において、(d1)は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、好ましくは0.4μm以下、より好ましくは0.3μm以下、である。(d2)は、好ましくは2μm以上、より好ましくは3μm以上、好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下、さらに好ましくは4μm以下、である。
(B1)の粒子径(d1)及び(B2)の粒子径(d2)は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定される、体積基準のメジアン径である。
【0019】
一形態において、(B)中での(B2)の質量比は、(B1):1に対して、好ましくは1.75超、より好ましくは1.8以上、好ましくは3.58未満、より好ましくは3.3以下、である。この質量比範囲で、上述した特定粒子径範囲を持つ(B1)と(B2)を組み合わせて使用することにより、形成される膜中で、隣接する2つの(B2)間に1つの(B1)が埋め込まれやすくなり、その結果、膜表面の、低光沢性、及び低反射性を実現できるとともに、黒色度が高められる(L値が低くなる)ことが、本発明者により見出された。
【0020】
(B)中の、(B1)と(B2)の合計含有量(総量)は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、である。その上限は、特に制限されず、100質量%である。すなわち一形態において、(B1)及び(B2)は、100質量%の(B)中に、好ましくは90質量%以上、含有されていればよい。
【0021】
(B)の含有量(総量)は、組成物の全固形分の総量(100質量%)に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、特に好ましくは40質量%以下、である。(B)の総量が20質量%未満であると、光沢上昇、光学濃度不足の不都合を生じ、60質量%を超えると、形成された塗膜中の(A)が相対的に少なくなり、その結果、被塗物からの塗膜脱落の不都合を生じる場合がある。
【0022】
(B2)としては、樹脂系粒子、及び無機系粒子のいずれを用いることもできる。樹脂系粒子としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルマリン縮合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。一方、無機系粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、炭素等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
より優れた特性を得るためには、(B2)は、無機系粒子を用いることが好ましい。(B2)として無機系粒子を用いることにより、より低光沢で高遮光の膜を形成しやすい。(B2)として用いる無機系粒子としては、シリカが好ましい。(B2)の形状は特に限定されないが、形成される膜表面の、一層の、低光沢、低反射、低L値を実現するためには、粒度分布が狭い(CV(Coefficient of Variation)値が例えば15以下)粒子(シャープ品)を用いることが好ましい。CV値は、粒子径の平均値(算術平均粒子径)に対する粒子径分布の拡がり(粒子径のばらつき)度合いを数値化したものである。このような粒子を用いることにより、形成される膜中で(B2)と(B1)の接触機会が増え、膜表面の、一層の、低光沢、低反射、低L値を実現しやすい。
また、形成される膜表面の光沢度をより低減するためには、(B2)として、不定形の粒子を用いることが好ましい。これらの中でも、(B2)として、特に多孔質の不定形シリカ粒子を用いることが好ましい。(B2)としてこのような粒子を用いることにより、膜となったとき、(B2)の表面、及び内部で光が屈折を繰り返すことにより、膜表面の光沢度をさらに低減することができる。
【0024】
一形態において、形成される膜表面の、光の反射を抑制するために、有機系又は無機系着色剤により(B2)を黒色に着色することもできる。このような材料として複合シリカ、導電性シリカ、黒色シリカ等が挙げられる。
複合シリカとしては、例えば、カーボンブラック(以下単に「CB」ともいう。)とシリカをナノレベルで合成し複合化したものが挙げられる。導電性シリカとしては、例えば、シリカ粒子にCB等の導電性粒子をコーティングしたものが挙げられる。黒色シリカとしては、例えば、珪石の中に黒鉛を含有している天然鉱石が挙げられる。
【0025】
一方、(B2)と同様に、(B1)の材質も特に限定されず、樹脂系粒子、及び無機系粒子のいずれを用いることもできる。樹脂系粒子としては、例えば、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ベンゾグアナミン/メラミン/ホルマリン縮合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。一方、無機系粒子としては、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、CB等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(B1)としては、例えば、着色・導電剤として添加されるCB等を用いることもできる。(B1)として、CBを用いることにより、形成される膜が着色するため、さらに反射防止効果が向上し、かつ良好な帯電防止効果が得られる。
【0027】
-(C)-
組成物の形成に用いる(C)は、(A)を溶解し、また、該組成物全体の粘度を調整する目的で、配合される。(C)を使用することにより、(A)、さらには、必要に応じて添加されるその他の成分が混合しやすくなり、組成物の均一性を向上させる。また、組成物の粘度を適度に調整することができ、被塗物の表面に膜を形成するときの、組成物の操作性、及び塗布厚の均一性を高くすることが可能となるため、最終的に得られる物品のデザイン性向上に大いに寄与し得る。
【0028】
(C)としては、(A)を溶解できる溶媒であれば特に限定されず、有機溶剤、又は水が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等を用いることができる。(C)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
組成物中の、(C)の含有量(総量)は、前記したような(C)の配合による効果を得るためには、(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上、好ましくは20質量部以下、である。
【0030】
-(D)任意成分-
組成物には、前記成分((A)、(B)、(C))以外に、本発明の効果を損なわない程度に、(D)が含まれていてもよい。(D)としては、例えば、レベリング剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、分散剤、消泡剤、硬化剤、反応触媒等が挙げられる。
【0031】
特に(A)として熱硬化性樹脂を用いる場合、硬化剤を配合することにより、(A)の架橋を促進させることができる。硬化剤としては、官能基をもつ尿素化合物、メラミン化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物、オキサゾリン化合物等が挙げられる。硬化剤としては、この中でも、イソシアネート化合物が好ましい。硬化剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
組成物中に硬化剤を配合する場合の割合は、(A)100質量部に対して、好ましくは10質量部以上80質量部以下、である。この範囲で硬化剤を添加することにより、形成される膜硬度が高められ、その結果、該膜が他部材と摺動する環境に置かれても、長期に渡り膜表面の性状が維持され、低光沢、高遮光、低反射、及び高い黒色度が保持されやすい。
組成物中に硬化剤を配合する場合、(A)と硬化剤の反応を促進するために、反応触媒を併用することもできる。反応触媒としては、例えば、アンモニアや塩化アンモニウム等が挙げられる。組成物中に反応触媒を配合する場合の割合は、硬化剤100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上10質量部以下、である。
【0032】
一形態に係る組成物は、被塗物の表面に該組成物の平滑性を保持しながら、スプレーを用いて塗工(スプレー塗装)するという理由から、25℃における粘度が、好ましくは 1mPa・s以上、好ましくは30mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下、である。組成物の粘度が低すぎると、デザイン性向上を十分に発現可能な厚みの膜を形成することができない場合がありうる。組成物の粘度が高すぎると、被塗物の表面に組成物を均一に噴霧することが難しく、その結果、厚みが一定でデザイン性が向上した膜を形成することができない場合がありうる。
上記粘度は、組成物に含まれる成分、即ち、用いた(A)、(B)の種類や分子量等によって異なり、また、上記(A)、(B)の他に、(D)を配合した場合、(D)の種類や分子量等によっても異なるが、組成物中の(C)の量を前述の範囲で調整することにより、容易に調整することができる。
【0033】
本発明の一形態に係る組成物は、(C)中に、(A)、(B)、必要に応じて(D)を添加して、混合攪拌することにより調製(製造)することができる。各成分を混合する順序は、特に制限されるものではなく、これらの成分が均一に混合されればよい。
【0034】
本発明の一形態に係る組成物は、1液型であってもよいし、2液型であってもよい。組成物中に(D)として硬化剤を配合する場合、一形態に係る組成物は、例えば、硬化剤以外の成分を含む第1液と、硬化剤を含む第2液と、の2液型であってもよい。
【0035】
<塗装方法、膜、及び物品>
本発明の一形態に係る組成物を用いて膜を形成することができる。また、膜を備える物品を製造することができる。
膜を形成する方法は特に限定されない。スプレー塗装(例えば、エアスプレー、エアレススプレー、静電気スプレー等)、ペイントブラシ、カーテンフローコーティング、ローラーブラシコーティング、バーコーティング、キスロール、メタリングバー、グラビアロール、リバースロール、ディップコート、ダイコート等の任意の方法、又は装置により、任意の被塗物に対して膜を設けることができる。
【0036】
特に、一形態に係る組成物は、小さいスプレー穴からの液滴の噴霧が必要な、スプレー塗装により膜を形成することが好ましい。換言すると、一形態に係る組成物は、好ましくはスプレー塗装による膜形成用の組成物であり、形成された膜はスプレー塗装膜である。
一形態に係る組成物を用いたスプレー塗装によると、組成物からなる液滴が被塗物表面に次々と付着し、それと同時に、被塗物に付着した液滴中の(C)の揮発が進む。その結果、液滴から(C)が除去された固形分(粒)が被塗物表面に次々と積み重なり、固形粒積層物を形成する。一形態によると、この固形粒積層物が膜を構成する。
【0037】
(A)として熱硬化性樹脂を用い、さらに(D)として硬化剤を配合した組成物を用いる場合、被塗物表面に固形粒積層物を付着させた後、その積層物を加熱して硬化させることが好ましい。この際、加熱前積層物中に微量の(C)が残存していても、この加熱によって(C)はほぼ完全に揮発する。
加熱条件は、加熱前積層物の厚みや被塗物の耐熱性、使用する(C)の種類等により適宜調整すればよい。加熱条件は、一例として、70℃以上150℃以下で1分間以上10分間以下、好ましくは、100℃以上130℃以下で2分間以上5分間以下、である。
【0038】
本発明の一形態に係る組成物の塗装対象(被塗物)は、特に限定されず、例えばガラス、樹脂、金属、セラミックス、木材等を素材とする硬質表面を有する物体であればよい。被塗物の形状も特に限定されず、板状、(中空の)筒状、及びフィルム状のもの等が挙げられる。
被塗物として、例えば、以下を挙げることができる。
・携帯電話、スマートフォン、タブレット、パソコン、パソコン周辺機器(キーボード、プリンタ、外付けディスク等)、腕時計、オーディオ機器、各種OA機器等の電気・電子機器。
・冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、テレビ、録画機器等の家電製品。
・階段、床、机、椅子、タンス、その他の家具、木工製品。
・各種建材、フローリング、建物の内壁・外壁等。
・自動車やオートバイ等の車両、又はその部品:具体的には、車両のボディ、内装品(メーターパネル、ダッシュボード、ハンドル等)、バンパー、スポイラー、ドアノブ、ヘッドライト、テールライト、アルミホイール、オートバイのガソリンタンク等。
・光学用途、例えば各種カメラユニットに装着されるレンズ等の光学部品。
・眼鏡、ゴーグル、これらに類する製品。
【0039】
本明細書において物品とは、本発明の一形態に係る組成物による膜が、被塗物上に直接、又は予め形成したアンカー層の上に、形成された物体のことである。
【0040】
アンカー層としては、例えば、尿素系樹脂層、メラミン系樹脂層、ウレタン系樹脂層、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。例えばウレタン系樹脂層は、ポリイソシアネートとジアミン、ジオール等の活性水素含有化合物を含有する溶液を被塗物表面に塗布して、硬化させることにより得られる。また、尿素系樹脂、メラミン系樹脂の場合は、水溶性尿素系樹脂、又は水溶性メラミン系樹脂を含有する溶液を被塗物表面に塗布し、硬化させることにより得られる。ポリエステル系樹脂は、有機溶剤(メチルエチルケトン、トルエン等)にて溶解、又は希釈した溶液を被塗物表面に塗布し、乾燥させることにより得られる。
【0041】
なお、一旦、被塗物以外の物体(例えばプラスチックフィルム等)に、一形態に係る組成物で膜を形成し、その物体ごと被塗物に貼り付けることで、一形態に係る組成物の膜を物品表面に設けてもよい。
【0042】
一形態に係る組成物から形成される膜の厚さは、特に限定されず、物品の用途等に応じ、適宜調整することができる。膜の平均膜厚は、被塗物表面から膜の(B2)、及び(B1)により突出している部分を含む高さのことである。膜の平均膜厚は、JIS K7130に準拠した方法で測定することができる。
【0043】
<膜の特性>
一形態に係る組成物から形成される膜の特性は、以下のとおりである。
【0044】
(光沢度、反射率、L値、光学濃度、密着性)
一形態に係る組成物から形成される膜は、膜表面の、光沢度が2%未満、反射率が4%以下、L値が22以下、であることが好ましい。一形態に係る組成物から形成される膜に、透過での遮光性が求められる場合には、上記特性(膜表面の、光沢度が2%未満、反射率が4%以下、L値が22以下)に加え、さらに、膜表面の光学濃度が1.5以上、であることが好ましい。
【0045】
ここで、一形態に係る組成物から形成される膜が最表面に露出している構成であれば、文字どおり、膜表面の、光沢度、反射率、L値、及び光学濃度が上記範囲であることが好ましい。一形態に係る組成物から形成される膜上に他の膜が被覆されている場合には、その、他の膜の表面(すなわち物品の最表面)の光沢度、反射率、L値、及び光学濃度が上記範囲であることが好ましい。以下これらの表面を合わせて「膜最表面」という。
【0046】
一形態に係る組成物から形成される膜は、膜最表面の、光沢度が2%未満、反射率が4%以下、L値が22以下、であることが好ましい。一形態に係る組成物から形成される膜に、透過での遮光性が求められる場合には、上記特性(膜最表面の、光沢度が2%未満、反射率が4%以下、L値が22以下)に加え、さらに、膜最表面の光学濃度が1.5以上、であることが好ましい。膜最表面の、光沢度、反射率、L値、及び光学濃度が上記範囲であることにより、膜最表面の、低光沢性、低反射率、高い黒色度、及び高遮光性を実現することができる。
【0047】
光沢度の上限値は、より好ましくは1.5%未満、さらに好ましくは1%未満、である。光沢度を上記範囲に調整することにより、光の乱反射によるフレア・ゴースト現象を効果的に防止することができる。光沢度の下限値は、特に限定されず、低ければ低いほどよい。
【0048】
反射率の上限値は、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは2.5%以下、である。反射率の下限値は、特に限定されず、低ければ低いほどよい。反射率を上記範囲に調整することにより、光の乱反射によるフレア・ゴースト現象をさらに効果的に防止することができる。
【0049】
L値(黒色度)の上限値は、より好ましくは20以下、さらに好ましくは18以下、である。L値の下限値は、特に限定されないが、外観のより黒々しさを求める観点から、低ければ低いほどよい。L値を上記範囲に調整することにより、黒色性が高く黒さが際立ちデザイン性に優れるため、スマートフォン等の携帯電話のカメラユニットとして好適に利用することができる。
上記L値は、膜最表面の、SCE方式による、CIE 1976 L*a*b*(CIELAB) 表色系での明度L*値のことである。SCE方式とは、正反射光除去方式のことであり、正反射光を除去して色を測定する方法を意味する。SCE方式の定義は、JIS Z 8722(2009)に規定されている。SCE方式では、正反射光を除去して測定するため、実際の人の目で見た色に近い色となる。
CIEは、Commission Internationale de l‘Eclairageの略称であり、国際照明委員会を意味する。CIELAB表示色は、知覚と装置の違いによる色差を測定するために、1976年に勧告され、JIS Z 8781(2013)に規定されている均等色空間である。CIELABの3つの座標は、L*値、a*値、b*値で示される。L*値は明度を示し、0~100で示される。L*値が0の場合は黒色を意味し、L*値が100の場合は白の拡散色を意味する。a*値は赤と緑の間の色を示す。a*値がマイナスであれば、緑寄りの色を意味し、プラスであれば赤寄りの色を意味する。b*値は黄色と青色の間の色を意味する。b*がマイナスであれば青寄りの色を意味し、プラスであれば、黄色寄りの色を意味する。
【0050】
組成物から形成される膜に透過での遮光性が求められる場合における、光学濃度の下限値は、より好ましくは2以上、さらに好ましくは2.5以上、である。光学濃度を上記範囲に調整することにより、遮光性をさらに向上させることができる。光学濃度の上限値は、特に限定されず、高ければ高いほどよい。
【0051】
上記光沢度、反射率、L値、光学濃度は、後述の方法で測定することができる。
【0052】
上記特性(光沢度、反射率、L値、必要により光学濃度)に加え、組成物から形成される膜は、さらに、該膜の被塗物表面への密着性が良好であることが好ましい。組成物から形成される膜の、被塗物表面への密着性は、後述の実施例における密着性評価で示すように、塗膜残存が75%以上、が好ましい。
【0053】
(Rz、Rsm、Rsk、Rku、Ra)
一形態に係る組成物から形成される膜は、膜最表面の、最大高さRzが7μm以上、輪郭曲線要素の長さの平均Rsmが80μm以上、輪郭曲線のスキューネスRskが0.3以下、輪郭曲線のクルトシスRkuが3以上、であることが好ましい。膜最表面の、Rz、Rsm、Rsk、及びRkuが上記範囲であることにより、膜最表面の、光沢度、光学濃度、反射率、及びL値を上記範囲(光沢度2%未満、反射率4%以下、L値22以下、必要により光学濃度1.5以上)にでき、その結果、膜最表面の、低光沢性、低反射率、高い黒色度、及び必要により高遮光性を実現することができる。
【0054】
Rzの下限値は、より好ましくは10μm以上、である。Rzの下限値を上記値とすることにより、さらに低光沢性、低反射率、及び高遮光性に調整しやすくなる。
Rzの上限値は特に限定されないが、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、である。Rzの上限値を上記値にすることにより、膜最表面のさらなる低光沢性、高遮光性、低反射率、及び高い黒色度を実現させやすい。
【0055】
Rsmは、基準長さに輪郭曲線要素の長さの平均を表したものである。Rsmの下限値は、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは120μm以上、である。Rsmの下限値を上記値とすることにより、さらに低光沢のメリットが得られやすい。Rsmの上限値は特に限定されないが、好ましくは160μm以下、である。上記範囲では、被塗物とその上に形成される膜との間でより優れた密着性が得られる。
【0056】
Rskは、二乗平均平方根高さ(Zq)の三乗によって無次元化した基準長さにおける高さZ(x)の三乗平均を表し、膜最表面凹凸形状の平均線に対する偏り、すなわちひずみ度を表わす指標である。Rskの値がプラス(Rsk>0)であれば、凹凸形状が凹側に偏って突形状が鋭くなり、マイナス(Rsk<0)であれば、凹凸形状が凸側に偏って突形状が鈍くなる傾向である。輪郭曲線の突形状が鈍い方が、鋭いものよりもヘイズは低くなる。
Rskの上限値は、より好ましくは0.2以下、である。Rskの上限値を上記値にすることにより、さらに低光沢のメリットが得られやすい。Rskの下限値は特に限定されないが、好ましくは0以上、である。Rskの下限値を上記値にすることにより、低光沢のメリットが得られやすい。
【0057】
Rkuは、二乗平均平方根高さ(Zq)の四乗によって無次元化した基準長さにおける高さZ(x)の四乗平均を表し、膜最表面凹凸先端の尖りの程度を示す指標である。Rkuが大きいほど、凹凸部の先端が尖っているものが多くなるので、凹凸の先端部近傍の傾斜角は大きくなるが、他の部分の傾斜角は小さくなり、背景の映り込みが生じやすくなる傾向がある。また、Rkuが小さいほど、凹凸部の先端が平坦となるものが多くなるので、凹凸の先端部の傾斜角は小さくなり、背景の映り込みが生じやすくなる傾向がある。
Rkuの下限値は、より好ましくは3.3以上、である。Rkuの下限値を上記値にすることにより、さらに低光沢のメリットが得られやすい。Rkuの上限値は特に限定されないが、好ましくは5以下、である。Rkuの上限値を上記値にすることにより、低光沢のメリットが得られやすい。
【0058】
一形態に係る組成物から形成される膜は、膜最表面の、算術平均粗さ(Ra)が、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは1.5μm以上、である。
【0059】
なお、上述した膜最表面の、Rz、Rsm、Rsk、Rku、及びRaは、JIS B0601:2001に基づいて測定・算出することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実験例(実施例、及び比較例を含む)に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実験例に限定されない。以下の記載において、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示すものとする。
【0061】
[組成物の構成成分]
A(樹脂成分)として、以下のものを準備した。
・A1: 熱硬化性アクリル樹脂
(アクリディックA801、DIC社製、固形分50%)
【0062】
B(凹凸形成粒子)に属するB1(小粒子)として、以下のものを準備した。
・B1a: カーボンブラック(CB)(粒子径150nm)
(MHIブラック#273、御国色素社製、CB含有量9.5%)
・B1b: 透明シリカ(粒子径58nm)
(ACEMATT R972、EVONIK社製)
【0063】
Bに属するB2(大粒子)として、以下のものを準備した。
・B2a: 複合シリカ(粒子径3μm)
(ベクシアID、富士シリシア化学社製)
・B2b: 黒色アクリルビーズ(粒子径3μm)
(ラブコロール224SMDブラック、大日精化工業社製)
・B2c: 透明シリカ(粒子径4.1μm)
(サイリシア430、富士シリシア化学社製)
・B2d: 透明シリカ(粒子径8μm)
(サイリシア450、富士シリシア化学社製)
・B2e: 透明アクリルビーズ(粒子径3μm)
(ユニパウダーNMB-0320C、ENEOS社製)
【0064】
なお、B2a(複合シリカ)に用いたベクシアIDは、CB/シリカ=約25/75(質量比)の、CBとシリカの複合粒子である。B1a(CB)に用いたMHIブラック#273は、CB分散液であり、該分散液の固形分総量18%のうち9.5%がCB、残り8.5%がその他の化合物である。その他の化合物8.5%のうち3%が銅化合物、5.5%がアクリル樹脂である。
【0065】
D(任意成分)として、以下のものを準備した。
・D1: イソシアネート化合物
(タケネートD110N、三井化学社製、固形分75%)
【0066】
[被塗物]
被塗物として、スマートフォンの筐体(プラスチック製の外箱)を準備した。
【0067】
[実験例1~16]
1.組成物の作製
表1に示す固形分比となるよう実験例ごとの各成分を、総固形分約25質量%となるよう、(C)希釈溶媒としての必要量の混合溶媒(メチルエチルケトン:酢酸ブチル=50:50)中に入れ、攪拌混合することにより液剤組成物(以下単に「液剤」ともいう。)を調製した。
【0068】
2.物品(評価用サンプル)の作製
各実験例で得られた液剤を、下記(3-3)塗装性と同様の手法によるスプレー塗装によって、被塗物の外表面に向けて噴霧した後、120℃で3分間加熱乾燥することにより、被塗物の表面に、平均膜厚が20μmの、スプレー塗装による固形粒積層の加熱後塗膜(以下単に「塗膜」ともいう。)が形成された物品を得た。
【0069】
3.評価
各実験例で得られた液剤について、下記に示す方法で各種特性(粘度、注入性、塗装性、液垂れ性)を評価した(液剤評価)。また、各実験例で得られた物品に形成された塗膜について、下記に示す方法で各種特性(特性、表面性状)を評価した(物品評価)。結果を表1に示す。
【0070】
[液剤評価]
(3-1)粘度
各液剤の粘度は、E型粘度計(VISCOMETER TV-35、東機産業社製)を用い、25℃、1rpm、1分後、標準コーンロータ、ロータコード:01の条件で測定した。評価基準は、以下のとおりである。
【0071】
〇:粘度が1mPa・s以上30mPa・s以下(粘度が良好)
×:粘度が30mPa・s超え(粘度が過高)
【0072】
(3-2)注入性
液剤の注入性は、エアースプレーへの注入の様子を観察することにより評価した。
エアー缶(スプレーワークエアーカン420D、タミヤ社製)にエアーブラシ(スプレーワークHGシングルエアーブラシ、タミヤ社製)を取り付けたエアースプレーを用い、各液剤がエアーブラシのカップからノズルに入っていく様子を目視で観測し、注入性を評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0073】
〇:全く詰まりがなく、スムーズに液剤がノズルに入っていった
△:詰まりはなかったが、ややノズルに液剤が入っていく速度が遅かった
×:液剤が詰まり、ノズルに液剤が入っていかなかった
【0074】
(3-3)塗装性
液剤の塗装性は、スプレー塗装による塗装後の塗りムラを観察することにより評価した。
各液剤を、上記(3-2)で用いたエアースプレーに注入し、エアーブラシ先端から10cmの距離から、10秒間、被塗物の外表面に向けて噴霧し、形成された固形粒積層物について、目視により塗りムラを評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0075】
〇:塗りムラ(厚みムラ)は確認されなかった
△:塗りムラが一部、確認された
×:塗りムラが多くの範囲に確認された
【0076】
(3-4)液垂れ性
液剤の液垂れ性は、スプレー塗装による塗装後の被塗物からの液垂れを観察することにより評価した。
上記(3-3)塗装性と同様に、各液剤を、上記(3-2)で用いたエアースプレーに注入し、エアーブラシ先端から10cmの距離から、10秒間、被塗物の外表面に向けて噴霧した後の、被塗物からの、付着した液滴の液垂れ性を評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0077】
〇:塗装後の被塗物を垂直に立てて置いた際も液垂れが全く生じなかった
△:塗装後の被塗物を垂直に立てて置いた際、次第に液が垂れてきた
×:塗装後の被塗物を垂直に立てて置いた際、すぐに液が垂れ出した
【0078】
[物品評価]
(3-5)特性
-光沢度-
各物品に形成された塗膜表面の、入射角60°の測定光に対する光沢度(60°鏡面光沢度)は、グロスメータ(VG 7000、日本電色工業社製)を用い、JIS Z8741に準拠した方法で光沢度9点測定し、その平均値を光沢度とした。評価基準は、以下のとおりである。
【0079】
◎:光沢度が1.5%未満(低光沢性が極めて良好)
〇:光沢度が1.5%以上2%未満(低光沢性が良好)
×:光沢度が2%以上(低光沢性が不十分)
【0080】
-反射率-
各物品に形成された塗膜表面の、波長550nmの光に対する反射率(550nm反射率)は、分光測色計(CM-5、コニカミノルタ社製)を用い、JIS Z8722に準拠した方法で反射率9点測定し、その平均値を反射率とした。評価基準は、以下のとおりである。
【0081】
◎:反射率が3%以下(低反射性が極めて良好)
〇:反射率が3%を超え4%以下(低反射性が良好)
×:反射率が4%超え(低反射性が不十分)
【0082】
-黒色度-
各物品に形成された塗膜表面の黒色度は、該塗膜表面の、SCE方式による、CIE 1976 L*a*b*(CIELAB)表色系での明度L*値を測定することにより評価した。その明度L*値は、分光測色計(CM-5、コニカミノルタ社製)を用い、JIS Z8781-4:2013に準拠した方法で測定した。評価基準は、以下のとおりである。
測定においては、光源としてCIE標準光源D65を用い、視野角度10°として、SCE方式によりCIELAB表示色でL*値を求めた。CIE標準光源D65は、JIS Z 8720(2000)「測色用イルミナイト(標準の光)及び標準光源」に規定されており、ISO 10526(2007)にも同じ規定がある。CIE標準光源D65は、昼光で照明される物体色を表示する場合に使用される。視野角度10°については、JIS Z 8723(2009)「表面色の視覚比較方法」に規定されており、ISO/DIS 3668にも同じ規定がある。
【0083】
◎:L値が20以下(黒色度が極めて高い)
〇:L値が20を超え22以下(黒色度が高い)
×:L値が22超え(黒色度が不十分)
【0084】
-遮光性-
各物品に形成された塗膜の遮光性は、該塗膜の光学濃度を算出することにより評価した。各物品に形成された塗膜の光学濃度は、光学濃度計(X-rite 361T(オルソフィルタ)、日本平版機材社製)を用い、物品の塗膜側に垂直透過光束を照射して、塗膜がない状態との比をlog(対数)で表して算出した。光学濃度6.0以上は測定の検出上限値である。評価基準は、以下のとおりである。なお、本評価は、被塗物自体に透過性があり、かつその上に形成される塗膜に遮光性が求められる場合を想定したものである。塗膜に遮光性が求められない場合、ここでの評価は総合評価に影響を与えない。
【0085】
◎:光学濃度が2以上(遮光性が極めて良好)
〇:光学濃度が1.5以上2未満(遮光性が良好)
×:光学濃度が1.5未満(遮光性が不十分)
【0086】
-密着性-
各物品に形成された塗膜の被塗物表面への密着性は、該塗膜に市販のカッターナイフにて切り込みを碁盤目状に入れ、そこにセロハンテープ(セロテープ、ニチバン社製)を貼り付けた後引き剥がし、塗膜の残存状態を目視にて確認することにより評価した。評価基準は、以下のとおりである。
【0087】
◎:塗膜残存が100%(密着性が極めて高い)
〇:塗膜残存が75%以上100%未満(密着性が高い)
×:塗膜残存が75%未満(密着性が不十分)
【0088】
-総合評価-
上記光沢度、反射率、黒色度、及び密着性を総合評価した。評価基準は、以下のとおりである。なお、遮光性については、上記のとおり、必要な場合とそうでない場合とがあるため、総合評価の対象からは除外した。
【0089】
◎:光沢度の評価、反射率の評価、黒色度の評価、及び密着性の評価が全て◎
〇:光沢度の評価、反射率の評価、黒色度の評価、及び密着性の評価のうち少なくとも1つが〇で、いずれも×でない
×:光沢度の評価、反射率の評価、黒色度の評価、及び密着性の評価のうち少なくとも1つが×
【0090】
(3-6)表面性状
-Rz値、Rsm値、Rsk値、Rku値、Ra値-
各物品に形成された塗膜表面の性状(Rz値、Rsm値、Rsk値、Rku値、Ra値)は、表面粗さ測定機(SURFCOM 480B、東京精密社製)を用い、JIS B0601:2001に準拠した方法で測定した。評価基準は、以下のとおりである。
【0091】
(Rz)
◎:Rzが10μm以上(極めて良好)
〇:Rzが7μm以上10μm未満(良好)
×:Rzが7μm未満(不良)
【0092】
(Rsm)
◎:Rsmが120μm以上(極めて良好)
〇:Rsmが80μm以上120μm未満(良好)
×:Rsmが80μm未満(不良)
【0093】
(Rsk)
◎:Rskが0.2以下(極めて良好)
〇:Rskが0.2を超え0.3以下(良好)
×:Rskが0.3超え(不良)
【0094】
(Rku)
◎:Rkuが3.3以上(極めて良好)
〇:Rkuが3以上3.3未満(良好)
×:Rkuが3未満(不良)
【0095】
(Ra)
◎:Raが1.5μm以上(極めて良好)
〇:Raが0.5μm以上1.5μm未満(良好)
×:Raが0.5μm未満(不良)
【0096】
【0097】
4.考察
表1で示すように、液剤中に(B)として(B1)と(B2)の1つ以上を含めなかった場合(実験例6、7、9、11、12)、膜特性の、光沢度、反射率、L値、密着性の1つ以上、を満足させることができなかった。一方、(B)として(B1)と(B2)の双方を液剤中に含めたとしても(実験例1~5、8、10)、(B1):1に対する(B2)の質量比が、1.75以下(実験例1)か、3.58以上(実験例5)であると、膜特性の、L値、密着性の1つ以上、を満足させることができなかった。(B1)と(B2)の双方を含め、かつ(B1):1に対する(B2)の質量比範囲が適切(1.75超3.58未満)であっても(実験例2~4、13~17)、全固形分100質量%中の(B)含有量(総量)が20質量%未満(実験例13)か、60質量%超(実験例17)であると、液剤の粘度、及び、膜特性の、光沢度、反射率、L値、密着性、の1つ以上を満足させることができなかった。
これに対し、(B1):1に対する(B2)の質量比範囲が1.75超3.58未満であり、かつ組成物の全固形分総量100質量%に対する(B)の含有総量が20質量%以上60質量%以下であると(実験例2~4、8、10、14~16)、液剤の粘度、注入性、塗装性、及び液垂れ性、並びに、膜特性、及び膜性状、のすべてを満足させることができた。