(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】ペプチド活性化剤
(51)【国際特許分類】
C07K 7/06 20060101AFI20231117BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20231117BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20231117BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231117BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231117BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231117BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231117BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20231117BHJP
C12N 5/07 20100101ALN20231117BHJP
【FI】
C07K7/06
A61K38/08
A61P31/00
A61P31/04
A61P37/04
A61P43/00 107
A61P43/00 111
A61P35/00
A61P43/00 117
C12N15/12 ZNA
C12N5/07
(21)【出願番号】P 2021514457
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 AU2019050463
(87)【国際公開番号】W WO2019218016
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-16
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】520448360
【氏名又は名称】インテルク ペプチド セラピューティクス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】アグレス,マイケル,ヴァレンティン
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-510393(JP,A)
【文献】特表2012-518602(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0327543(US,A1)
【文献】特開平02-088595(JP,A)
【文献】国際公開第2012/174412(WO,A2)
【文献】特表2010-535508(JP,A)
【文献】特表2012-511583(JP,A)
【文献】特表2011-520436(JP,A)
【文献】特表2007-522094(JP,A)
【文献】国際公開第2009/038026(WO,A1)
【文献】British Journal of Dermatology,Vol.162, No.1,2009年,p.29-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 4/00
C07K 7/00
A61K 38/00
C12N 15/12
C12N 5/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における免疫応答の誘導において使用するための、
リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(Lck
)を活性化するための、ペプチドを含む組成物であって、
前記ペプチドが、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4
、rskaknplyr-(2Adod)
4
、RVKVKVVVVR-(2Adod)
4
、およびrvkvkvvvvr-(2Adod)
4
からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるLck活性化ポリペプチドを含み、前記使用は、
前記Lck活性化ポリペプチ
ドを含むペプチドを含む組成物を前記対象に投与することを含
む、組成物。
【請求項2】
前記ペプチドが、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4、rskaknplyr-(2Adod)
4、RVKVKVVVVR-(2Adod)
4、およびrvkvkvvvvr-(2Adod)
4からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が、有効成分としての前記ペプチドおよび薬学的に許容可能な希釈剤または担体を含む医薬組成物である、請求項1
または2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、Lck(リンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ)活性の刺激および種々の疾患または状態の予防または治療に使用するためのLck活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
分子生物学では、CD4(表面抗原分類4)は、ヘルパーT細胞、単球、マクロファージおよび樹状細胞などの免疫細胞の表面上で認められる糖タンパク質である。CD4+ヘルパーT細胞は、免疫系の不可欠の部分である白血球であり、これは、CD8キラー細胞などの他の免疫細胞にシグナルを送り、感染性粒子を破壊する。T細胞は、T細胞受容体(TCR)および共受容体が抗原ペプチド:主要組織適合抗原(MHC)に結合すると、TCR複合体をクラスター化させて、細胞内カスケードを開始させる。T細胞活性化では、共受容体CD4およびCD8の、それぞれ、クラスIIまたはクラスI MHC分子への結合が抗原に対するT細胞の感受性を高める。
【0003】
Lckは、Srcファミリーキナーゼのメンバーであり、T細胞のエフェクター能力の発現、すなわち、効果的サイトカインの転写と共に、発生中の胸腺細胞および成熟T細胞の両方の増殖と分化に不可欠である(Lovatt M et al,Mol & Cell Biology,2006,26(22):8655-8665)。
【0004】
LckによるTCRのリン酸化は、細胞質ゾルキナーゼZAP70(ゼータ鎖関連プロテインキナーゼ70)を細胞膜に動員する結合部位を作り出すことにより、下流のシグナル伝達を開始させる(Iwashima M.et al,Science,1994,263:1136-1139)。さらに具体的には、Lckは、Lckの不活性化をもたらすTyr505をリン酸化するC末端Srcキナーゼ(Csk)、活性部位の再配置を介してLckのキナーゼ活性を活性化するLck活性化ループのTyr394トランス自己リン酸化、およびホスファターゼによる脱リン酸化、により調節される(Fulop T et al,Longevity & Healthspan,2012,1:6)。
【0005】
TCR刺激時には、CD4/CD8結合Lckは、TCR/CD3複合体と近接し、CD3分子の免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)をリン酸化する。ZAP70キナーゼがその後、リン酸化ITAMへ動員され、続けて、Lckにより活性化される。これは、最終的にT細胞活性化およびIL-2産生に繋がる複数の経路の活性化をもたらす(Wang G et al,BioMed Research International,2014,doi.org/10.1155/2014/682010)。
【0006】
加えて、Lckの樹状細胞(DC)媒介活性化は、「TCRライセンシング」、同族ペプチド-MHCクラスII抗原複合体に対するTCR応答の感度と大きさを劇的に高めるプロセス、に繋がる(Meraner P et al,2007,J Immunol,178(4):2262-2271)。このような上皮内DETC細胞(樹枝状表皮T細胞)またはガンマ/デルタT細胞は、恒常性、組織修復、炎症および悪性腫瘍からの保護で有用な役割を果たす(Witherden DA & Havran WL,J Leukoc Biol,2013,94(1):69-76)。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本発明は、Lck活性化のためのペプチドを提供し、ペプチドは、式I:
R/K’-x1-R/K-x2-R/K-x3-x4-x5-x6-R/K” 式I
のLck活性化ポリペプチド部分またはその反転配列を含み、式中、
各R/Kは、独立に、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基であり;
R/K’は、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基で、存在または非存在であり;R/K”は、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基で、存在または非存在であり;x1~x6はそれぞれ独立に、1個のアミノ酸であり;アミノ酸x3~x6は、ひとまとめにして存在または非存在であり、アミノ酸x3~x6が非存在である場合、R/K”は非存在である。
【0008】
別の実施形態では、x1~x6の内の1個または複数のアミノ酸は、疎水性アミノ酸である。別の実施形態では、Lck活性化ポリペプチド部分は、Lアミノ酸残基を含む。別の実施形態では、Lck活性化ポリペプチド部分は、Lアミノ酸残基からなる。別の実施形態では、Lck活性化ポリペプチド部分は、Dアミノ酸残基を含む。別の実施形態では、Lck活性化ポリペプチド部分は、Dアミノ酸残基からなる。
【0009】
別の実施形態では、Lck活性化ポリペプチド部分は、RSKAKNPLY、rskaknply、RVKVKVVVV、およびrvkvkvvvvからなる群より選択される。
【0010】
別の実施形態では、Lckを活性化するためのペプチドは、Lck活性化ポリペプチド部分のN末端またはC末端に結合した式II:
【化1】
式II
の化合物をさらに含み、式中、
nは、化合物のモノマー単位の数で、1~5の整数であり、
各mは、独立に、0~18の整数であり、および
各R基は、独立にHまたはC
1~C
18の側鎖である。
【0011】
別の実施形態では、各モノマー単位のR基は、独立にC1~C18側鎖である。
【0012】
別の実施形態では、各R基は、独立に18-m炭素原子長さであり、式中、mは、0~17の値を有する。
【0013】
別の実施形態では、Lckを活性化するためのペプチドは、Lck活性化ポリペプチド部分のN末端またはC末端に結合した化合物をさらに含み、化合物は、少なくとも1個の脂肪酸である。
【0014】
別の実施形態では、少なくとも4個の脂肪酸が、Lck活性化ポリペプチド部分のC末端に結合される。
【0015】
別の実施形態では、2個以上の脂肪酸の結合は直鎖状である。
【0016】
別の実施形態では、Lckを活性化するためのペプチドは、2個以上の脂肪酸の結合が分岐している、本明細書に記載のさらなるペプチドである。
【0017】
別の実施形態では、脂肪酸は飽和している。
【0018】
別の実施形態では、脂肪酸は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸(デカン酸)、およびラウリン酸(ドデカン酸)からなる群より選択される。
【0019】
別の実施形態では、最遠位脂肪酸は、アミド化される。
【0020】
別の実施形態では、アミノ酸配列は、Lck活性化ポリペプチド部分のC末端でアミド化される。
【0021】
別の態様では、本発明は、RSKAKNPLYR-(2Adod)4、rskaknplyr-(2Adod)4、RVKVKVVVVR-(2Adod)4、およびrvkvkvvvvr-(2Adod)4からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドを提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、RSKAKNPLYR-(2Adod)4、rskaknplyr-(2Adod)4、RVKVKVVVVR-(2Adod)4、およびrvkvkvvvvr-(2Adod)4からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の有効成分としてのペプチド、および薬学的に許容可能な希釈剤または担体を含む医薬組成物を提供する。
【0024】
別の態様では、本発明は、Lckキナーゼの活性を高める方法を提供し、方法は、Lckキナーゼを、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0025】
別の態様では、本発明は、LckキナーゼのY394リン酸化を増大させる方法を提供し、方法は、Lckキナーゼを、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0026】
別の態様では、本発明は、細胞または細胞集団からのIL-2分泌を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0027】
別の態様では、本発明は、細胞上または細胞集団中のIL-2Rα(CD25)の発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0028】
別の態様では、本発明は、細胞上または細胞集団中のIL-2Rβ(CD122)の発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0029】
別の態様では、本発明は、細胞のまたは細胞集団中のIL-2応答性を高める方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0030】
別の態様では、本発明は、細胞上のまたは細胞集団中のIL-15Rの発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0031】
別の態様では、本発明は、細胞のまたは細胞集団中のIL-15の応答性を高める方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0032】
別の態様では、本発明は、細胞上または細胞集団中のCD28の発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0033】
別の態様では、本発明は、細胞または細胞集団からのIL-21の分泌を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0034】
別の態様では、本発明は、細胞上のまたは細胞集団中のIL-21R(CD360)IL-2Rβの発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0035】
別の態様では、本発明は、細胞のまたは細胞集団中のIL-21の応答性を高める方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0036】
別の態様では、本発明は、細胞上のまたは細胞集団中のIL-12Rの発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0037】
一実施形態では、IL-12Rは、IL-12Rβ1および/またはIL-12Rβ2である。
【0038】
別の態様では、本発明は、細胞のまたは細胞集団中のIL-12の応答性を高める方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0039】
別の態様では、本発明は、細胞または細胞集団からのサイトカインの分泌を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0040】
一実施形態では、サイトカインはIFNγまたはTNFαである。
【0041】
別の態様では、本発明は、細胞または細胞集団の増殖を誘導する方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0042】
別の態様では、本発明は、細胞集団の増殖を増大させる方法を提供し、方法は、細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0043】
別の実施形態では、本発明は、細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、NK細胞、または樹状細胞からなる群より選択される細胞である、または細胞集団はこれらからなる群より選択される細胞を含む。
【0044】
別の態様では、本発明は、CD8+T細胞またはNK細胞中のCD107aの発現を増大させる方法を提供し、方法は、CD8+T細胞またはNK細胞を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0045】
別の態様では、本発明は、T細胞機能を高める方法を提供し、方法は、T細胞またはT細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0046】
一実施形態では、細胞は未感作細胞である、または細胞集団は未感作細胞を含む。
【0047】
別の態様では、本発明は、細胞傷害性細胞機能を高める方法を提供し、方法は、細胞傷害性細胞または細胞傷害性細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0048】
別の態様では、本発明は、T細胞またはT細胞集団の疲弊を低減する方法を提供し、方法は、T細胞またはT細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0049】
別の態様では、本発明は、T細胞上のCD40L発現を増大させる方法を提供し、方法は、T細胞を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0050】
別の態様では、本発明は、CD8+T細胞応答を高める方法を提供し、方法は、CD4+T細胞を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0051】
別の態様では、本発明は、細胞集団中のTreg細胞の比率を減らす方法を提供し、方法は、Treg含有細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0052】
一実施形態では、Treg細胞はFoxp3+Treg細胞である。
【0053】
別の態様では、本発明は、チェックポイント阻害剤の存在下でIL-2分泌を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0054】
別の態様では、本発明は、樹状細胞生存率を増大させる方法を提供し、方法は、樹状細胞を、本明細書に記載のペプチドまたは本明細書に記載の医薬組成物と接触させることを含む。
【0055】
一実施形態では、接触は、インビボまたはインビトロで実施される。
【0056】
一実施形態では、方法は、エクスビボで実施される。
【0057】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の方法により得られる細胞または細胞集団を提供する。
【0058】
別の態様では、本発明は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物と接触させることにより得られる細胞または細胞集団に由来する細胞または細胞集団を提供する。
【0059】
別の態様では、本発明は、インビボでLckの活性を高めるために、ペプチドまたは医薬組成物が対象または細胞に投与される本明細書に記載の方法を提供する。
【0060】
別の態様では、本発明は、対象のLckの活性を高める方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0061】
別の態様では、本発明は、対象の免疫応答を誘導する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドまたは本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0062】
別の態様では、本発明は、対象中のLckまたはLck活性の抑制または下方制御を特徴とする疾患または状態に関連する少なくとも1つの症状を治療および/または予防する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0063】
別の態様では、本発明は、LckまたはLck活性の抑制または下方制御を特徴とする疾患または状態が、病原性感染症、病原性感染症に由来する敗血症(例えば、慢性敗血症)、免疫不全障害、低下した免疫応答、減少したT細胞数、T細胞異常、T細胞疲弊、およびT細胞チェックポイント阻害からなる群より選択される、本明細書で記載の方法を提供する。
【0064】
別の態様では、本発明は、疾患または状態が癌である、本明細書に記載の方法を提供する。
【0065】
別の実施形態では、本発明は、ワクチン接種を必要としている対象にワクチンを接種する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物をワクチンと同時にまたは順次に対象に投与することを含む。
【0066】
別の態様では、本発明は、癌の治療および/または予防を必要としている対象にそれを実施する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物をチェックポイント阻害剤と同時にまたは順次に対象に投与することを含む。
【0067】
別の態様では、本発明は、対象の免疫抑制を低減する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0068】
別の態様では、本発明は、対象の加齢関連免疫機能不全を治療および/または予防する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0069】
別の態様では、本発明は、対象のTh1応答を誘導する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドまたは本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0070】
別の態様では、本発明は、対象のHIV感染症を治療する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0071】
別の態様では、本発明は、対象の結核菌感染症を治療する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドを含む組成物または本明細書に記載の医薬組成物を対象に投与することを含む。
【0072】
別の態様では、本発明は、LckまたはLck活性の抑制または下方制御を特徴とする疾患または状態に関連する少なくとも1つの症状を治療および/または予防するための投与単位剤形を提供し、投与単位剤形は、本明細書に記載のペプチドを含む。
【0073】
別の態様では、本発明は、癌治療および/または予防のための投与単位剤形を提供し、投与単位剤形は、本明細書に記載のペプチドを含む。
【0074】
本明細書の全体を通して、用語の「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」および「含むこと(comprising)」などの変化形は、記述した要素、整数もしくはステップまたは複数の要素、整数もしくはステップの群を含むが、いかなる他の要素、整数もしくはステップまたは複数の要素、整数もしくはステップの群も排除しないことを意味すると理解されよう。
【0075】
本明細書に収載されている文書、法令、物質、装置、論文などの全ての考察は、本発明の背景を提供することのみを目的とするものである。これらの資料のいずれかまたはその全てが、本出願の優先日以前にオーストラリアまたは他のどこかで存在したとして、先行技術の根拠の一部を形成する、または本発明に関連する分野での共通の一般常識であったことを認めるものであると解釈されるべきではない。
【0076】
本発明の特徴および利点は、添付図面と共に本発明の例示的実施形態の以下の詳細な説明からさらに明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【
図1】LckをポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(IK14004)と接触させた場合のLck活性の用量依存的活性化を示す。グラフは、ペプチドRSKAKNPLYRのC末端に結合された式IIに従うポリアミド部分を含むLck活性化剤の存在下でのLckの活性化を示す。Lck活性化は、約30nMのLck活性化剤の濃度(対照のレベルより18%高いレベル)で開始し、30μMのLck活性化剤の濃度で対照レベルを超える914%の活性化に達した。
【
図2】ポリペプチドRSKAKNPLY(「IK94000」)およびRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004)がY394でLckリン酸化を増大させることを示す。抗pY394抗体でプローブ後、用量依存的に10μMおよび30μM(7および8)の濃度でペプチドRSKAKNPLYにより誘導されたチロシンY394でのLckのリン酸化を示す発色させたウェスタンブロットの写真を示す。ペプチドRSKAKNPLYRは、Lck活性化を誘導できず、RSKAKNPLYR配列のC末端アルギニンがLckの自己リン酸化を抑制することを示す。しかし、この抑制は、ペプチドRSKAKNPLYRのC末端への式IIに従うポリアミド部分の結合により克服される。
【
図3】IL-2Rα(CD25)が、ジャーカットT細胞を「4C10」ポリアミド部分に結合されたペプチドRSKAKNPLYR(RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2;「IK14004」)に暴露した場合PMA(10ng/ml)+イオノマイシン(1μg/ml)で96時間刺激されたジャーカットT細胞中で顕著に発現上昇されることを示す。細胞をウェル(12ウェルプレート、2mL体積)当たり100万個で播種し、PMA(10ng/mL)およびイオノマイシン(1μg/mL)で刺激した。細胞を次に、上記のようにRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2で処理した。試料をその後、37℃で48時間インキュベートした後、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤ならびにPP2(10μM)含有溶解液100μLで溶解した。集めた細胞ライセートをBCAプロテインアッセイに供した。細胞ライセート(40μgタンパク質)をその後、IL-2RαについてELISAで分析した。
【
図4】CD360(IL-21R)の発現が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(IK14004」)による処理に応答してCD4+およびCD8+T細胞中で高められることを示す。PBMCを、抗CD3(1μg/ml)刺激および5種の試験濃度範囲(0~1.25μM)のRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH
2と共に、72時間培養した後、細胞をCD360(IL-21R)の発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に応答したCD4+(パネルA)またはCD8+(パネルB)T細胞集団中のそれぞれの発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、***p<0.001、****P<0.0001。赤色点線は、非刺激細胞を示す。A.CD4+T細胞。B.CD8+T細胞。
【
図5】CD360(IL-21R)の発現が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理に応答して単離CD3
NEGCD56+NK細胞上で高められることを示す。単離NK細胞を、組換えIL-2(100U/ml)および5種の濃度範囲(0~1.25μM)のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2と共に、72時間培養した後、CD3
negCD56+NK細胞をIL-21R発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に応答したNK細胞集団での発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図6】CD360(IL-21R)の発現が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理に応答してrIL-2の含有/非含有下で培養した単離NK細胞中で高められることを示す。単離NK細胞を、ヒト組換えIL-2(100U/ml)の含有または非含有下で、5種の濃度範囲(0~1.25μM)のペプチドと共に、72時間培養した後、CD3
NEGCD56+NK細胞をIL-21R発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に応答したNK細胞集団でのそれぞれの発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図7】IL-21産生が、刺激T細胞アッセイにおいて、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理に応答して増大されることを示す。抗CD3/抗CD28刺激T細胞(CD3+単離)を、5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)+ビークル対照と共に、72時間培養した後、上清をIL-21についてELISAにより評価した。提示データは、ペプチド処理に応答したpg/ml値の平均、±SEM、n=4を示す。データを、それぞれのペプチド濃度をビークルと比較するダネット事後検定を伴うRM1元配置分散分析により解析した。*p<0.05。
【
図8】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理は、ヒトPBMC内の制御性T細胞(Treg:Foxp3+)を抑制することを示す。RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2の存在下でヒトPBMC内の制御性T細胞(Treg:Foxp3+)の抑制パーセンテージ(CD4+/CD25+/CD127
lowでゲートした細胞の)が示される。抗CD3刺激PBMCを、5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)+ビークル対照と共に、48時間培養した。Treg集団を、CD4+CD25+CD127
low集団中の細胞のFoxp3+比率を測定することにより決定した。データを、ドナーの変動のために正規化した。提示データは、ペプチド処理に反応したFoxp3+Treg比率の倍率変化、±SEM、n=4を示す。データを、それぞれのペプチド濃度を最も低い試験濃度と比較するダネット事後検定を伴うRM2元配置分散分析により解析した。**p<0.01、****p<0.0001。点線は、正規化用のビークル対照値を示す。
【
図9】抗PD-1(ペムブロリズマブ)と組み合わせたRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理がPBMC内のTreg細胞(Foxp3+)の比率に与える相乗効果を示す。抗CD3刺激PBMCを、抗PD-1(ペムブロリズマブ)またはアイソタイプ(hIgG4)と組み合わせた5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)+ビークル対照と共に、48時間培養した後、CD4+およびCD8+T細胞をフローサイトメトリーにより評価した。Treg集団を、CD4+CD25+CD127
low集団中の細胞のFoxp3+比率を測定することにより決定した。データは、ペプチドおよび抗PD-1併用療法に応答したFoxp3+Treg比率、±SEM、n=4を示す。データを、各投与量でのhIgG4との組み合わせに対する抗PD-1との組み合わせを比較するシダックの事後検定を伴うRM2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、**p<0.01。点線は、正規化用のビークル対照値を示す。
【
図10】PBMC中のCD4+およびCD8+T細胞上のIL-12Rβ2受容体発現が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理により高められることを示す。PBMCを、抗CD3(1μg/ml)刺激および5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)と共に、72時間培養した後、CD4+細胞およびCD8+T細胞をIL-12Rβ2発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に応答したCD4+またはCD8+T細胞集団中のそれぞれの発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。**p<0.01、****p<0.0001。赤色点線は、平均非刺激PBMC発現を示す。
【
図11】ナチュラルキラー細胞中のIL-12Rβ1/Rβ2受容体発現は、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理により誘導されることを示す。PBMCを、抗CD3(1μg/ml)刺激および5種の濃度範囲のペプチド(0~1.25μM)と共に、72時間培養した後、CD3
NEGCD56+NK細胞をIL-12Rβ1およびIL-12Rβ2の発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に応答したCD3
NEGCD56+NK細胞でのそれぞれの発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、****<0.0001。点線は、平均非刺激PBMC発現を意味する。
【
図12】CD4+T細胞上のCD40L発現が、非刺激PBMCアッセイにおいて、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理により高められることを示す。非刺激PBMCを、5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)+ビークル対照と共に、72時間培養した後、CD4+T細胞をCD40L発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に応答したCD40Lの発現(MFI)の平均、±SEM、n=3を示す。データを、それぞれのペプチド濃度をビークルと比較するダネット事後検定を伴うRM2元配置分散分析により解析した。****p<0.0001。点線は、ゲートをかけたアイソタイプ対照値を示す。
【
図13】CD4+T細胞上のCD40L発現が、刺激T細胞アッセイにおいて、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理により高められることを示す。単離T細胞(CD3+)を、抗CD3/抗CD28Dynabeads(登録商標)で刺激し、5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)+ビークル対照と共に、72時間培養した後、CD4+T細胞をCD40L発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に応答した平均CD40Lの発現(MFI)の平均、±SEM、n=3を示す。データを、それぞれのペプチド濃度をビークルと比較するダネット事後検定を伴うRM2元配置分散分析により解析した。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。点線は、平均非刺激対照値を示す。
【
図14】ジャーカット野生型(WT)細胞によるIL-2分泌が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理により高められることを示す。細胞をウェル(12ウェルプレート、2mL体積)当たり100万個で播種し、ビオチン-CD3、CD28、およびアビジン(5:5:1.25μg)で刺激した。細胞を次に、示した3種の濃度のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2+ビークル対照で処理した。細胞を次に、37℃で48時間インキュベートした後、上清をIL-2含量についてELISAにより分析した。
【
図15】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理により増大したジャーカット細胞によるIL-2分泌(A)およびIL-2Rα発現(B)がLck依存性であることを示す。抗CD3/抗CD28で刺激したジャーカット野生型(WT)細胞およびLck欠損ジャーカット細胞(JCaM1.6)を示す。12ウェルプレートをPBS(200μL)中で作製した抗CD3(5μg/mL)溶液でコートし、37℃で一晩インキュベートした。翌日、抗CD3溶液を吸引し、ウェルを培地(1mL、10分)で2回穏やかに洗浄した。ジャーカット細胞(WTおよびLck欠損)をウェル当たり100万個の濃度で抗CD3コート12ウェルプレートに播種し、抗CD28(5μg/mL)でさらに刺激後、直ぐに、RSKAKNPLYR-2Adod)
4-NH
2(2.5μM)を用いて処理した。細胞を72時間インキュベートした。IL-2アッセイのために、左、上清をIL-2含量についてELISAにより分析した。IL-2Rαアッセイのために、右、細胞をプロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤ならびにPP2(10μM)含有溶解液100μLで溶解した。集めた細胞ライセートをBCAプロテインアッセイに供した。その後、細胞ライセート(40μgタンパク質)をIL-2RαについてELISAで分析した。
【
図16】IL-2分泌のrPD-L1抑制は、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)によりレスキューできることを示す。ウェル(12ウェルプレート、2mL体積)当たり100万個で播種しPMA(10ng/mL)およびイオノマイシン(1μg/mL)で刺激したジャーカット野性型細胞が示される。次に、上記のように、細胞をrPD-L1(5μg/ml)単独およびrPD-L1とRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(2.5μM)の組み合わせで処理した。試料を次に、37℃で72時間インキュベートした後、上清をIL-2含量についてELISAにより分析した。
【
図17】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)およびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2(「IKD14004」)は、疲弊CD4+T細胞アッセイにおいて、CD4+T細胞の増殖およびCD4+T細胞上のCD25の発現を誘導することを示す。RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(左)およびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2(右)が、再刺激時に、疲弊CD4+細胞に与える効果。細胞を、Ki67およびCD25頻度を評価して発現レベルを示すために、72時間後に培養物中でフローサイトメトリー用に染色した。生存可能集団内から、CD4+細胞に注目するために細胞をゲートにかけ、その後、CD25またはKi67+集団についてゲートにかけた。データを、絶対値としての4回の生物学的反復実験から平均±SEMとして示す。*p<0.05、**p<0.01、ダンの事後検定を伴うノンパラメトリック1元配置分散分析(Freidman)を用いて各投与レベルの群をビークルと比較した。
【
図18】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)およびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2(「IKD14004」)は、疲弊CD4+T細胞アッセイにおいて、TNFαおよびIFNγの産生を誘導することを示す。RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2およびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2が、再刺激時に、疲弊CD4+細胞に与える効果。培養物の上清を、72時間後に採集して、マルチプレックスイムノアッセイにより測定してサイトカイン産生(TNFαまたはIFNγ)を評価した。データを、4回の生物学的反復実験から平均+SEMとして示す。*p<0.05、**p<0.01、ダンの事後検定を伴うノンパラメトリック1元配置分散分析(Freidman)を用いて各投与レベルの群をビークルと比較した。
【
図19】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、PBMC中のCD4+およびCD8+T細胞上のCD25(IL-2Rα)発現を誘導することを示す。刺激されたPBMC由来のCD4+(左)およびCD8+(右)細胞中のCD25発現。新たに単離したPBMCを、示した濃度(μM)のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2の存在下、抗CD3(1μg/mL)含有または非含有(-aCD3)で、24時間刺激した。データを、4人のドナーからの平均±SEMとして示す。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析を用いて、各ペプチドの濃度(または非刺激細胞)をビークル(0)に対して比較した。
【
図20】CD28が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理に応答して、CD4+(パネルA)およびCD8+T細胞(パネルB)中で増大されることを示す。PBMCを、抗CD3(1μg/ml)刺激および5種の試験濃度範囲(0~1.25μM)のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2と共に、72時間培養した後、細胞をCD28の発現についてフローサイトメトリーにより評価した。A;提示データは、ペプチド処理に応答したCD8+T細胞集団中のそれぞれの発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、**p<0.01、***<0.001。点線は、非刺激細胞を示す。B;提示データは、ペプチド処理に応答したCD4+T細胞中のそれぞれの発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。**p<0.01、****p<0.0001。点線は、非刺激細胞を示す。
【
図21】末梢血NK細胞において、ヒト組換えIL-2と比較して、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による処理に応答して、NK細胞活性化受容体NKp44およびNKG2Dの増大した発現を示す。NK細胞をヒトPBMCから単離し、5種の濃度範囲のペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)+ビークル対照(左)または組換えIL-2(10ng/mL)+ビークル対照(右)に24時間暴露し、NKp44およびNKG2Dの表面発現についてフローサイトメトリーにより評価した。データは、平均表面マーカー発現±SEM、n=4を示す。データを、ペプチド濃度および組換えIL-2をそれぞれのビークル対照に対し比較する、ホルム-シダック多重比較事後検定を伴う反復測定(RM)2元配置分散分析を用いて解析した。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図22】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)およびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2(「IKD14004」)は、それぞれ、腹腔内または経口投与された場合に肺転移を低減することを示す。A:マウスをビークルおよびRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2で治療後、腹腔内投与された場合(400μg/200μL腹腔内の注射、週2回を2週間)、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2が、B16黒色腫肺転移に与える効果。結節を、15日目のマウスの回収時に数え、データを平均結節として表した(±SEM;n=8匹のマウス/群)。統計解析を、1元配置分散分析およびダネットの事後検定を用いて実施した。*P=0.04。B:経口投与された場合、rskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2が、B16黒色腫肺転移に与える効果。マウスのビークルおよびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2(800μg/200μL経口胃管投与、週2回を2週間)で治療後のB16F10腫瘍結節数。結節を、15日目のマウスの回収時に数え、データを平均結節として表した(±SEM;n=9匹のマウス/群)。対応のないt検定を用いて、統計解析を実施した。*P=0.04。
【
図23】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(IK14004)の腹腔内投与は、ルイス肺癌(LCC)転移モデルで、肺中の腫瘍面積を減らすことを示す。RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2を週2回を2週間にわたり腹腔内投与(400μg)した後、H&E切片を腫瘍浸潤の証拠について評価し、腫瘍量を健康な肺組織のパーセンテージとして計算した。データポイントは、試料毎の肺内の腫瘍塊の平均面積を示す。n=16、**p<0.01、対応のない両側t検定。
【
図24】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、ルイス肺癌(LLC)異種移植片モデルにおいて、異種移植片腫瘍体積および腫瘍細胞生存率を低下させ、腫瘍中のCD45+の比率を増大させることを示す。A:マウスに、D0で右脇腹の皮下に5x10
5LLC細胞を接種した。腫瘍を、矢印で示した各治療の時点でデジタルノギスで測定した。点線は、腫瘍および脾臓試料の採集のための10mm直径の終了点を示す。データを、個別のデータポイントとして、±SEM、n=8で示す。群を、シダック多重比較を伴う2元配置分散分析により比較した。****p<0.0001。B:各単細胞懸濁液内の腫瘍細胞生存率を、固定可能な細胞生存率測定用試薬を用いてフローサイトメトリーにより測定した。データを、個別のデータポイントとして、±SEM、n=8で示す。対応のない両側t検定を用いて、群を比較した。**p<0.01。C:各単細胞懸濁液内の生存可能CD45陽性細胞の比率を、フローサイトメトリーにより測定した。データを、個別のデータポイントとして、±SEM、n=8で示す。群を、対応のない両側t検定を用いて比較した。**p<0.01。
【
図25】TCR刺激後にRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)で治療したルイス肺癌マウス(転移モデル)から取り出した脾細胞からのIFNγおよびIL-2放出が増大することを示す。データは、TCR刺激と共に培養後の脾細胞のELISAで測定したサイトカイン(IFNγおよびIL-2)の量を示す。RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2治療マウスからの脾細胞は、抗CD3刺激時に、IFNγ産生、および抗CD3/CD28刺激によりIL-2産生の有意な増大を示す(シダックの事後検定を伴う2元配置分散分析を用いて決定して、***p<0.001)。
【
図26】IL-12Rβ1およびIL-12Rβ2発現CD4+T細胞の比率が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)で治療したルイス肺癌マウス(転移モデル)から取り出した脾細胞のTCR刺激後に増大することを示す。 データは、一晩のTCR刺激後の、CD4+細胞上のIL-12受容体分子β1およびβ2の相対発現を示す。RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2で治療したマウス由来のCD4+細胞は、両方の受容体成分の発現の有意な増大を示す(シダックの事後検定を伴う2元配置分散分析により決定、****p<0.0001)。
【
図27】脾細胞単細胞懸濁液(活性化されていない)中のIL-12Rβ2の発現が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)で治療したルイス肺癌マウス(転移モデル)において増大することを示す。データは、適切な対照試料に比較して、IL-12Rβ2陽性であると特定されたCD8+T細胞およびNK細胞の比率を示す。RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2治療群では、IL-12Rβ2発現CD8+T細胞およびNK細胞の比率の有意な増大がある(両側t検定、***p<0.001、****p<0.0001)。
【
図28】CD25(IL-2Rα)、CD215(IL-15R)、CD28およびKi67の発現が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)で治療したルイス肺癌マウス(転移モデル)由来の脾細胞中のNK細胞上で増大することを示す。データは、フローサイトメトリーにより測定した、NK細胞上のCD25およびCD215(それぞれ、パネルAおよびB)の幾何平均蛍光強度(MFI);および適切な対照試料と比較して、CD28およびKi67増殖マーカー(それぞれ、パネルCおよびD)陽性であると特定されたNK細胞の比率を示す。グラフは、群平均±SEMを有する個別のマウスの値を示す。n=16、データを、対応のないt検定により解析した。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図29】TCR刺激の存在下でのCD4+T細胞上のIL-12Rβ2発現が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)で腹腔内経路により治療したルイス肺癌マウス(転移モデル)において増大することを示す。フローサイトメトリーで測定される、抗CD3または抗CD3/CD28で一晩のTCR刺激後のCD4+T細胞上のIL-12受容体(IL-12Rβ2)の幾何学的MFIを示す。各ドットは、各条件での個別のマウスからの培養物技術的反復の平均であり、各群は、群の平均およびSEMを有する。データを、シダックの事後検定比較を伴う2元配置分散分析により解析した。****p<0.0001。RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2治療マウス由来のCD4+脾細胞は、抗CD28で共刺激されたビークル治療マウス由来の脾細胞よりも、抗CD3活性化のみの後に、より多くのIL-12Rβ2を発現した。
【
図30】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2中のアニオン性残基(右)の、Arg(R)およびLys(K)残基(左)による置換は、Lck活性化をもたらさないことを示す。
【
図31】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、刺激PBMCアッセイにおいて、NK細胞上のIL-2Rβ(CD122)発現を増大させることを示す。健康なドナー由来のPBMCを、ペプチド(0.08~1.25μM)またはビークル対照の存在下で、抗CD3(1μg/mL)で72時間刺激した。培養期間の最後に、細胞を集め、CD3
negCD56
+/dimNK細胞内のIL-2Rβ(CD122)についてフローサイトメトリーにより評価した。データを、平均IL-2Rβ(CD122)発現(%陽性細胞またはMFI)±SEM、n=4として示す。データを、試験物質をビークル対照に対し比較する、ホルム-シダック多重比較事後検定を伴う反復測定2元配置分散分析を用いて解析した。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。青色点線は、非刺激試料での平均発現を示す。
【
図32】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、刺激PBMCアッセイにおいて、CD4+およびCD8+T細胞上のIL-2Rβ(CD122)発現を増大させることを示す。健康なドナー由来のPBMCを、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0.08~1.25μM)またはビークル対照の存在下で、抗CD3(1μg/mL)で24時間刺激した。培養期間の最後に、細胞を集め、CD4+およびCD8+T細胞内のIL-2Rβ(CD122)についてフローサイトメトリーにより評価した。データを、平均IL-2Rβ(CD122)発現(%陽性細胞)±SEM、n=4として示す。データを、試験物質をビークル対照に対し比較する、ホルム-シダック多重比較事後検定を伴う反復測定2元配置分散分析を用いて解析した。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。点線は、非刺激試料での平均発現を示す。
【
図33】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)およびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2(「IKD14004」)は、CD8+T細胞およびNK細胞中の脱顆粒マーカーCD107aの発現を増大させることを示す。A&C:PBMCを、ペプチドを含有(0.08~1.25μM)または非含有下で48時間前処理した後、カルセインAM染色K562細胞と5:1の比率で共培養し、さらに4時間インキュベートした。培養の終わりにPBMCを集め、NK細胞およびCD8+T細胞をCD107aの発現(%陽性)についてフローサイトメトリーで評価した。示したデータは、平均発現陽性パーセンテージ±SEM、n=4を示す。データを、ビークル対照によるペプチド処理と比較する、ホルム-シダックの事後検定を伴う反復測定2元配置分散分析により分析した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。点線は、アイソタイプ染色対照を示す。B:PBMCを48時間インキュベートした後、ヒト組換えIFNα2A(5ng/mL)による刺激のある場合とない場合についてカルセインAM染色K562細胞と共に4時間共培養した。培養の終わりにPBMCを集め、NK細胞およびCD8+T細胞をCD107aの発現(%陽性)についてフローサイトメトリーで評価した。示したデータは、平均発現陽性パーセンテージ±SEM、n=4を示す。データをビークル対照と比較して対応のあるt検定により分析した。**p<0.01。
【
図34】非活性化ジャーカット細胞のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による前処理は、その後の活性化時にIL-2産生を増大させ、かつIL-2誘導はLck依存性であることを示す。2つの別の実験で、500万個の非刺激JCam1.6(Lck欠損)および500万個の6.1(WT)ジャーカット細胞をそれぞれ、T25フラスコに播種した。細胞を、5μM、10μMおよび20μMの濃度のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2で1時間処理した後、細胞懸濁液を遠心分離し、新鮮培地で2回洗浄した。各実験に対し、500μLの培地中のビオチン-抗CD3およびアビジン(5:1.25μg)の混合物を12ウェルプレートのウェルに加えた。10分後、非刺激の洗浄細胞をウェル当たり100万個の濃度で播種し、細胞懸濁液を、培地を用いて2mLの体積にした。その後、試料を抗CD28(5μg/mL)でさらに刺激した後、試料を37℃で48時間インキュベートした。その後、上清(100μL、n=3)をIL-2含量について分析した。
【
図35】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、10日間の増殖後にPBMC内のCD8+細胞集団を増大させることを示す。健康なドナー由来のPBMCまたは単離CD8+T細胞を、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0.08~1.25μM)またはビークル対照の存在下で、TCR+IL-2を介して10日間刺激した。培養期間の最後に、細胞を集め、CD8+細胞比率についてフローサイトメトリーにより評価した。データを、平均発現パーセンテージ±SEM、n=4として示す。データを、試験物質をビークル対照に対し比較する、ホルム-シダック多重比較事後検定を伴う反復測定2元配置分散分析を用いて解析した。**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。点線は、非刺激試料での平均発現を示す。
【
図36】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、単離未成熟DC培養物中の樹状細胞(DC)生存率を高めることを示す。未成熟単球由来DC(iMoDC)を、Mo-DC分化培地中で7日間培養した単離CD14+単球から誘導した。iMoDCを、5点濃度曲線全体にわたる試験ペプチド(0~1.25μM)+ビークルおよび抗CD3(1μg/mL)の存在下で、72時間培養した。72時間後、細胞を生存率についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理後の平均生存細胞パーセンテージ、±SEM、n=4を示す。データを、それぞれのペプチド濃度をビークルと比較するダネット事後検定を伴うRM2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図37】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、刺激T細胞アッセイにおいて、IL-2産生を増大させることを示す。単離T細胞(CD3+)を、抗CD3/抗CD28Dynabeads(登録商標)で刺激し、5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)+ビークル対照と共に、72時間培養した後、上清を集め、IL-2についてELISAにより評価した。提示されたデータは、平均IL-2pg/mlおよび倍率変化(ビークルに対し正規化)±SEM、n=4、を示す。データを、各ペプチド濃度をビークルと比較する、または正規化試験の場合には、濃度を最低試験濃度と比較する、ダネット事後検定を伴うRM2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。点線は、正規化データ用のビークル対照値を示す。
【
図38】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、IL-2分泌をLck依存的に増大させることを示す。12ウェルプレートをPBS(200μL)中で作製した抗CD3(5μg/mL)溶液でコートし、37℃で一晩インキュベートした。翌日、抗CD3溶液を吸引し、ウェルを培地(1mL、10分)で2回穏やかに洗浄した。ジャーカット細胞(WTおよびLck欠損)をウェル当たり100万個の濃度で抗CD3コート12ウェルプレートに播種し、抗CD28(5μg/mL)でさらに刺激後、直ぐに、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(2.5μM)で処理した。細胞を24時間インキュベートした後、上清をIL-2についてELISAで分析した。
【
図39】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、IL-2Rα発現をLck依存的に増大させることを示す。12ウェルプレートをPBS(200μL)中で作製した抗CD3(5μg/mL)溶液でコートし、37℃で一晩インキュベートした。翌日、抗CD3溶液を吸引し、ウェルを培地(1mL、10分)で2回穏やかに洗浄した。ジャーカット細胞(WTおよびLck欠損)をウェル当たり100万個の濃度で抗CD3コート12ウェルプレートに播種し、抗CD28(5μg/mL)でさらに刺激後、直ぐに、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(2.5μM)で処理した。試料を24間インキュベートした後、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤ならびにPP2(10μM)含有溶解液100μLで溶解した。集めた細胞ライセートをBCAプロテインアッセイに供した。その後、細胞ライセート(40μgタンパク質)をIL-2RαについてELISAで分析した。
【
図40】RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)は、刺激ジャーカット細胞(抗CD3/CD28)でIL-2分泌を増大させるが、非刺激細胞では分泌を増大させないことを示す。12ウェルプレートをPBS(200μL)中で作製した抗CD3(5μg/mL)溶液でコートし、37℃で一晩インキュベートした。その後、抗CD3溶液を吸引し、ウェルを培地で2回穏やかに洗浄した(1mL、10分)。ジャーカット細胞をウェル当たり100万個の濃度で播種し、抗CD28(5μg/mL)でさらに刺激した後、直ぐに、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(2.5μM)を用いて処理した。細胞を72時間インキュベートした後、上清をIL-2についてELISAで分析した。
【
図41】ペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)による末梢血CD4+T細胞中のHIV複製の抑制を示す。
【
図42A】ポリペプチドRSKAKNPLYR(「IK14000」)およびRSKAKNPLY(「IK94000」)は、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株でのIL-2分泌を増大させることを示す。
【
図42B】rskaknply(「IKD94000」)は、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株でのIL-12分泌を増大させるが、RSKAKNPLYR(「IK14000」)は分泌を増大させないことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0078】
哺乳動物の非受容体Srcキナーゼファミリー(SKF)のメンバーには、次の8種のキナーゼ:Src、Fyn、Yes、Fgr、Lyn、Hck、Lck、およびBlkが含まれ、選択的Lck活性化剤は、特定されてこなかった(Bae O-N et al,Journal of Neuroscience,2012,32(21):7278-7286)。
【0079】
本発明は、1つまたは複数の実施形態では、本明細書に記載の式IのペプチドがLckの活性を刺激し得るという発見に関する。少なくともいくつかの実施形態では、本発明によるLck活性化剤は、SKFメンバー中でLckのみの活性化を刺激し得る。Lck活性化剤、特に特異的Lck活性化剤に対する必要性は、加齢または非加齢関連の多様な状態に直接的に関連する。
【0080】
従って、一態様では、本発明は、Lckを活性化するためのペプチドを提供し、ペプチドは、式I:
R/K’-x1-R/K-x2-R/K-x3-x4-x5-x6-R/K” 式I
のLck活性化ポリペプチド部分またはその反転配列を含み、式中、
各R/Kは、独立に、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基であり;
R/K’は、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基で、存在するまたは非存在であり;R/K”は、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基で、存在するまたは非存在であり;x1~x6はそれぞれ独立に、1個のアミノ酸であり;および
アミノ酸x3~x6は、ひとまとめにして存在するまたは非存在であり、アミノ酸x3~x6が非存在である場合、R/K”は非存在である。
【0081】
本明細書で使用される場合、「活性化」という用語は、一般に、少なくとも1つの標的タンパク質の活性を高めることを意味する。キナーゼの特定の文脈では、この活性化は、少なくとも1つの標的基質または部位の増大したリン酸化に繋がる。この活性化は、限定されないが、プロテインキナーゼと、プロテインキナーゼの結合相手との間に複合体が形成される確率を増大させること、またはその標的に以前に結合したキナーゼの活性を増大させることを含む任意の手段により引き起こされ得る。このような活性化は、インビボあるいはインビトロで起こり得る。
【0082】
本明細書で使用される場合、「Lckを活性化するためのペプチド」は、「Lck活性化ポリペプチド」または「Lck活性化剤」と同義に使用される。
【0083】
Lckは、LCK癌原遺伝子、白血球C末端Srcキナーゼ;リンパ球細胞特異的タンパク質チロシンキナーゼ;タンパク質YT16;癌原遺伝子Lck;T細胞特異的タンパク質チロシンキナーゼ;およびp56-LCKとも呼ばれる。
【0084】
ヒトのLckの遺伝子およびタンパク質配列は、HUGO Gene Nomenclature Committee(HGNC)(http://www.genenames.org/)から得ることができる。ヒトのSrc(およびスプライスバリアント)のHGNC番号は、ジェンバンク受入番号および遺伝子IDと一緒に下表1に記載されている。
【表1】
【0085】
Lckは、いくつかの活性を有する。Lckは、その正の調節部位Tyr394で自己リン酸化し、さらにCD3受容体、CEACAM1、ZAP-70、SLP-76、IL-2受容体、レセプタータンパク質C、ITK、PLC、SHC、RasGAP、Cbl、Vav1、およびPI3Kを含む多数のタンパク質をリン酸化する。Lckは、ADAM15、CD2、CD44、CD4、COUP-TFII、DLG1、NOTCH1、PIK3CA、PTPN6、PTPRC、UNC119、SYK、UBE3A、およびZAP70と相互作用することが示されている。
【0086】
本発明者らは、本明細書で記載の活性化剤は、Y394でのLckのリン酸化、および増大したIL-2産生を含むLckの活性を高めることができることを実証した。
【0087】
従って、本明細書で使用される場合、「Lckの活性」という用語は、Y394でのLckのリン酸化、IL-2の産生、CD3受容体、CEACAM1、ZAP- 70、SLP-76、the IL-2受容体、プロテインキナーゼC、ITK、PLC、SHC、RasGAP、Cbl、Vav1、および/またはPI3Kのリン酸化;ADAM15、CD2、CD44、CD4、COUP-TFII、DLG1、NOTCH1、PIK3CA、PTPN6、PTPRC、UNC119、SYK、UBE3A、ZAP70との相互作用、および/またはTCRのリン酸化を含む。
【0088】
本発明により実施されるLck活性化剤は、式Iのペプチド(P)単独からなり、または他の実施形態では、ペプチドと組み合わせてLck活性を刺激するために、さらなる部分に結合したペプチドを含み得る。さらなる部分は、例えば、式IのペプチドのLck刺激剤活性を強化し得る。他の実施形態では、ペプチド単独は、Lck活性を刺激せず、Lckの活性は、ペプチドがさらなる部分に結合した場合に刺激されるのみである。通常、さらなる部分は、少なくとも1個の脂肪酸である。
【0089】
少なくともいくつかの実施形態では、ペプチド(P)は、以下のアミノ酸配列:
R/K’-x1-R/K-x2-R/K-x3-x4-x5-x6-R/K” 式I
またはその反転配列を含み、式中、
各R/Kは、独立に、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基であり;
R/K’は、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基で、存在または非存在であり;R/K”は、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基で、存在または非存在であり;x1~x6はそれぞれ独立に、1個のアミノ酸であり;および
アミノ酸x3~x6は、ひとまとめにして存在または非存在であり、アミノ酸x3~x6が存在する場合、R/K”は非存在である。
【0090】
通常、式Iのペプチド(P)では、
x1、x3およびx6は、独立に、アミノ酸から選択され、および
x2、x4、およびx5は、それぞれ独立に疎水性アミノ酸である。
【0091】
少なくともいくつかの実施形態では、x1、x3およびx6は、親水性アミノ酸であり、x2、x4およびx5は、疎水性アミノ酸である。
【0092】
他の実施形態では、x3およびx6は、親水性アミノ酸であり、x1、x2、x4およびx5は、疎水性アミノ酸である。
【0093】
他の実施形態では、x1およびx3は、親水性アミノ酸であり、x2、x4、x5およびx6は、疎水性アミノ酸である。
【0094】
さらにその他の実施形態では、アミノ酸x1~x6は全て疎水性アミノ酸または少なくともアミノ酸x1~x6の大部分は、疎水性アミノ酸である。
【0095】
本明細書に記載のLck活性化剤のポリカチオン性ペプチドの親水性および疎水性アミノ酸は、遺伝子コードによりコードされ得るか、および/または合成アミノ酸を含み得る。通常、アミノ酸は、遺伝子コードによりコードされる。ポリカチオン性ペプチドの親水性アミノ酸は、極性、塩基性、および酸性アミノ酸から独立して選択できる。
【0096】
極性アミノ酸は、例えば、セリン(S)、トレオニン(T)、チロシン(Y)、アスパラギン(N)、およびグルタミン(Q)アミノ酸残基からなる群より選択され得る。
【0097】
塩基性アミノ酸は、例えば、リシン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)およびオルニチンからなる群より選択され得る。
【0098】
酸性アミノ酸は、例えば、グルタミン酸(E)およびアスパラギン酸(D)から選択され得る。
【0099】
非極性疎水性アミノ酸は、例えば、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、プロリン(P)、システイン(C)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)およびグリシン(G)からなる群より選択され得る。通常、疎水性アミノ酸は、アラニン(A)、バリン(V)およびフェニルアラニン(F)から選択される。
【0100】
通常、式Iのペプチド(P)中に、少なくとも1つのR/K’およびR/K”が存在する。
【0101】
最も典型的には、式Iのアミノ酸残基R/K’が存在する。
【0102】
少なくともいくつかの実施形態では、式Iのペプチド(P)は、下記からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む:
(a)R-x1-K-x2-K-x3-x4-x5-x6-R/K”;
(b)R-x1-R-x2-K-x3-x4-x5-x6-R/K”;および
(c)K-x1-K-x2-K-x3-x4-x5-x6-R/K”。
【0103】
通常、式Iaのペプチド(P)では、
x1、x3およびx6は、親水性アミノ酸であり、および
x2、x4、およびx5は、疎水性アミノ酸である。
【0104】
式Iaのペプチド(P)の少なくともいくつかの実施形態では、
x1、x3およびx6は、極性アミノ酸であり、および
x2、x4、およびx5は、非極性アミノ酸である。
【0105】
通常、式Iaのいくつかの実施形態では、
x1はセリンであり;
x2はアラニン、ロイシンまたはバリンであり;
x3はアスパラギンであり;
x4は、プロリン、バリンまたはアラニンであり;
x5はロイシン、バリンまたはアラニンであり、および
x6はチロシンである。
【0106】
最も典型的には、式Iaのいくつかの実施形態では、x2はアラニン、x4はプロリン、およびx5はロイシンである。
【0107】
通常、式Ibのペプチド(P)では、
x3およびx6は、親水性アミノ酸であり、および
x1、x2、x4、およびx5は、疎水性アミノ酸である。
【0108】
式Ibのペプチド(P)の少なくともいくつかの実施形態では、
x3およびx6は、極性アミノ酸であり、および
x1、x2、x4、およびx5は、非極性アミノ酸である。
【0109】
通常、式Ibのいくつかの実施形態では、
x1はアラニンまたはグルタミン酸であり;
x2はアラニン、ロイシンまたはバリンであり;
x3はアスパラギンであり;
x4は、プロリン、バリンまたはアラニンであり;
x5はロイシン、バリンまたはアラニンであり、および
x6はチロシンである。
【0110】
最も典型的には、式Ibのいくつかの実施形態では、x2はアラニン、x4はプロリン、およびx5はロイシンである。
【0111】
あるいは、式Ibのペプチド(P)の少なくともいくつかの実施形態では、
x1、x3およびx6は、親水性アミノ酸であり、および
x2、x4、およびx5は、疎水性アミノ酸である。
【0112】
通常、式Ibのこのような実施形態では、
x1はセリンであり;
x2はアラニン、ロイシン、またはバリンであり;
x3はアスパラギンであり;
x4は、プロリン、バリンまたはアラニンであり;
x5はロイシン、バリンまたはアラニンであり、および
x6はチロシンである。
【0113】
最も典型的には、式Ibのこのような実施形態では、x2はアラニン、x4はプロリン、およびx5はロイシンである。
【0114】
式Icのペプチド(P)の少なくともいくつかの実施形態では、
x1およびx3は、親水性アミノ酸であり、および
x2、x4、x5およびx6は、疎水性アミノ酸である。
【0115】
通常、式Icのいくつかの実施形態では、
x1はグルタミン酸、バリンまたはアラニンであり;
x2はアラニン、ロイシンまたはバリンであり;
x3はアスパラギンであり;
x4は、プロリン、バリンまたはアラニンであり;
x5はロイシン、バリンまたはアラニンであり、および
x6はチロシンである。
【0116】
さらなる実施形態では、式Iのペプチド(P)は、次記を含み得る:
x1はバリン、アラニン、グルタミン酸、およびセリンから独立に選択され;
x2はバリン、アラニン、およびロイシンから独立に選択され;
x3はバリン、アラニン、およびアスパラギンから独立に選択され;
x4はバリン、アラニン、およびプロリンから独立に選択され;
x5はバリン、アラニン、およびロイシンから独立に選択され;
x6はバリン、アラニン、フェニルアラニンおよびチロシンから独立に選択される。
【0117】
少なくともいくつかの実施形態では、式Iのペプチド(P)は、アミノ酸配列R/K’-S-R/K-A-R/K-N-P-L-Y-R/K”(例えば、R/K-SKAKNPLY-R/K”)、またはその反転配列を含む。
【0118】
他の実施形態では、ペプチド(P)は、改変またはバリアント配列R/K’-x1-R/K-x2-R/K-x3-x4-x5-x6-R/K”を含む、またはそれからなり、式中、アミノ酸x1~x6は、ペプチドR/K’-S-R/K-A-R/K-N-P-L-Y-R/K”の対応するアミノ酸と、30%を超える、より一般的には50%以上、より一般的には65%を超える、および最も一般的には80%を超える全体アミノ酸配列同一性を有する、または改変またはバリアント配列の反転配列を有する。このようなペプチドの例としては、KEKLKNPLFKおよびRAKAKNPLFが挙げられる。
【0119】
さらなる実施形態では、式R/K’-x1-R/K-x2-R/K-x3-x4-x5-x6-R/K”のペプチド(P)のアミノ酸x1~x6は、アラニン(A)、バリン(V)、セリン(S)、トレオニン(T)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、およびグリシン(G)残基からなる群より独立に選択され得る。少なくともいくつかのこのような実施形態では、ペプチドは、位置x1に、セリン(S)またはトレオニン(T)(これらの両方は、極性アミノ酸である)を有さない。通常、アミノ酸x1~x6のそれぞれは、独立に非極性アミノ酸であり、最も典型的には、アラニン、バリンおよびセリンから選択される。通常、この実施形態では、アミノ酸x1~x6のそれぞれは、独立に、アラニン(A)およびバリン(V)から選択される。このようなペプチドの例としては、R/K’-AKAKAAAA-R/K”およびR/K’-VKVKVVVV-R/K”が挙げられる。
【0120】
通常、式Iのペプチドのアミノ酸R/K”は、存在しない。このようなペプチドの例としては、RSKAKNPLYが挙げられる。
【0121】
少なくともいくつかの実施形態では、アミノ酸x3~x6およびR/K”は存在しない。
【0122】
少なくともいくつかの実施形態では、アミノ酸x3~x6は存在し、R/K”は存在しない。
【0123】
通常、R/K’は存在する。最も典型的には、R/K’はアルギニンである。
【0124】
通常、各R/Kは、それぞれリシンアミノ酸である。
【0125】
少なくともいくつかの実施形態では、アミノ酸x1~x6は疎水性アミノ酸である。
【0126】
特に好ましい実施形態では、アミノ酸x1~x6は同じである。
【0127】
さらに別の実施形態では、本明細書に記載のLck活性化剤の式Iのペプチドは以下のペプチド:
R/K’-x1-R/K-x2-R/K 式I’
またはその反転配列を含み、式中、
R/K’は、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基であり;
各R/Kは、独立に、アルギニンまたはリシンアミノ酸残基であり;および
x1およびx2は、上述の式Iおよびその実施形態と同様に、それぞれ独立に1個のアミノ酸である。
【0128】
少なくともいくつかの実施形態では、式Iまたは式I’のペプチドは、R-x1-K-x2-Kを含む。
【0129】
特に好ましい実施形態では、式IまたはIaのペプチドのアミノ酸x1およびx2はそれぞれ独立に、疎水性アミノ酸(例えば、バリン(V)またはアラニン(A))であり、通常、同じである。
【0130】
従って、上記から、ペプチド(P)は、式Iまたは式I’のペプチドを含む、またはそれからなり得る。従って、式IまたはI’のペプチドを含むペプチドは、式IまたはI’のペプチドと近接している1個または複数の追加のアミノ酸も同様に含むことが理解されよう。例えば、ペプチドは、ペプチドの片末端または両末端(例えば、N末端および/またはC末端)にそれぞれ結合した1個または複数の独立に選択されたアミノ酸を含み得る。
【0131】
本発明による式Iのペプチド(P)は、通常、最大約40アミノ酸長さを有する。少なくともいくつかの実施形態では、ペプチド(P)は、少なくとも5アミノ酸長さであり得る(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40アミノ酸長さ)。少なくともいくつかの実施形態では、ペプチドは、約25アミノ酸以下、またはより一般的には約20、15、14、13、12、11、または10アミノ酸以下の長さを有する。同様に理解されるように、5~最大で、例えば、40アミノ酸またはそれを超えるアミノ酸の全ての長さの範囲も明示的に本明細書のために提供される。特に好ましい実施形態では、ペプチド(P)は、少なくとも9アミノ酸長さを有する。
【0132】
本明細書で使用される場合、用語の「反転配列」は、アミノ酸配列が逆転していることを意味する。例えば、RSKAKNPLYの反転配列は、YLPNKAKSRである。従って、反転配列のアミノ酸配列は、逆順であり、それにより、例えば、元の配列のN末端は、反転配列のC末端になり、元の配列のC末端は、反転配列のN末端になる。通常、本発明の実施形態により利用されるペプチドは、少なくともそれらのカルボキシ末端でアミド化などを行って、タンパク分解に対して保護する。しかし、タンパク分解に対し保護するための任意の好適なNまたはC末端修飾も採用できる(例えば、メチル化)。
【0133】
本明細書で使用される場合、用語の「アミノ酸配列」は、アミノ酸からなり、通常、アミド結合で連結された分子を意味する。この用語は、配列の「プロドラッグ」、配列の荷電および非荷電型、配列の薬学的に許容可能な塩、および本開示の方法および使用で機能活性を保持している、配列の骨格および/または末端に対する改変を含む配列に対する任意の他のバリアント、誘導体または改変体を含む。
【0134】
本明細書で使用される場合、用語の「配列」は、分子を形成できるアミノ酸の数の最大長さを暗黙で指定するものと解釈されるべきではない。いくつかの実施形態では、最大長さは10アミノ酸である。いくつかの実施形態では、最大長さは9アミノ酸である。
【0135】
いくつかの実施形態では、配列は、単離または精製配列である。
【0136】
天然または組換え技術により生成された配列の「単離」および「精製」の方法は、当技術分野において、例えば、C-H Lee,A Simple Outline of Methods for Protein Isolation and Purification,Endocrinology and Metabolism;2017,March;32(1):18、により既知である。さらに、用語の「単離」または「精製」は、合成およびその他の人為的に作製された配列を含む。配列の合成方法は、当技術分野において既知である。通常、配列は、1つのアミノ酸のカルボキシル基の別のアミノ基への縮合反応により化学的に合成される。配列の化学合成は、溶液相または固相技術を用いて実施できる。合成技術は、非天然アミノ酸配列、骨格修飾およびD-異性体を組み込んだ配列の作製を可能にする。
【0137】
いくつかの実施形態では、本発明の配列は改変される。いくつかの実施形態では、改変は、配列の薬理学的特性を変える改変であり得る。いくつかの実施形態では、改変は、本発明の組成物または配列の半減期を延長する。いくつかの実施形態では、改変は、配列(および/または本発明の組成物)の生物活性を高め得る。いくつかの実施形態では、改変は、本発明の配列または組成物の選択性を高める改変であり得る。
【0138】
一実施形態では、改質は保護基の付加である。保護基は、N末端保護基、C末端保護基または側鎖保護基であり得る。本発明の配列は、これらの保護基の内の1個または複数を有し得る。当業者は、アミノ酸をこれらの保護基と反応させるための好適な技術を知っている。これらの基は、当該技術分野において既知の作製方法により付加できる。基は配列上に残してもよく、または使用もしくは投与前に除去してもよい。保護基は、合成中に付加してもよい。
【0139】
本発明者らは、Lck活性化ペプチドのアミド化が、意外にも、Lck活性レベルを高めることを実証した。従って、一実施形態では、本発明は、最遠位の脂肪酸がアミド化されている、本明細書に記載のペプチドを提供する。
【0140】
本明細書でポリペプチド配列の文脈で使用される場合、「NH2」は、ポリペプチドがアミド化されていることを示す。
【0141】
いくつかの実施形態では、配列は、そのC末端でアミド化されている。アミド化は、逐次的内部および端部タンパク質分解によるグリシン延長基質のN-酸化切断のプロセスを意味する。アミド化配列をインビトロで作製する方法は、例えば、酵素的アミド化;組換えで作製された配列およびタンパク質のC末端の化学修飾;固相配列合成でのアミド樹脂の使用;アンモニアの存在下でカルボキシペプチダーゼの使用;および配列のC末端のメチルエステルへの変換、および低温でのアンモニアの付加などのように、当技術分野において既知である。好適な技術の開示の例としては、DJ Merkler,C-terminal amidated sequences:production by the in vitro enzymatic amidation of glycine-extended sequences and the importance of the amide to bioactivity;Enzyme Microbial technology,1994,June;16(6):450-6およびV Cerovsky and M-R Kula C-Terminal sequences Amidation Catalyzed by Orange Flavedo sequences Amidase;Angewandte Chemie,1998,August;37(13-14):1885、が挙げられる。
【0142】
C末端のアミド化により、C末端が非電荷になり、そのため、改変配列は、より厳密に未変性タンパク質を模倣する。これは、配列の細胞中に入るための高められた能力;配列のインビボでの代謝安定性の改善;アミノペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、およびシンテターゼによる配列のインビボ酵素分解の低減;および配列の貯蔵寿命の改善、を含む一連の利点をもたらす。
【0143】
本明細書に記載のように、本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドがLおよびDアミノ酸を含むことができ、生物活性を有することを明らかにした。従って、一実施形態では、本発明は、Lck活性化剤を本明細書に記載のアミノ酸配列がL-アルギニン残基を含むとして記述する。別の実施形態では、本発明は、Lck活性化剤を本明細書に記載のアミノ酸配列がD-アルギニン残基を含むとして記述する。
【0144】
従来技術で公知なように、アルファアミノ酸は、α位置にキラル炭素を含む。従って、全てのアルファアミノ酸は、グリシンを除いて、2つの鏡像異性体のL-またはD-異性体のいずれかとして存在できる。一般に、L-アミノ酸のみが、哺乳動物細胞中で製造され、タンパク質中に組み込まれる。D-アミノ酸は、人為的に合成され得るか、または細菌タンパク質中で見つけられることがある。LおよびD規則は、アミノ酸の立体化学に直接言及するためには使用されず、むしろ、それはアミノ酸配置の参照に使用され、およびアミノ酸それ自体の光学活性に言及しないで、むしろ、そのアミノ酸を合成し得る元の原料のグリセルアルデヒドの異性体の光学活性に言及する(D-グリセルアルデヒドは右旋性である;L-グリセルアルデヒドは左旋性である)。
【0145】
以下でさらに記載のように、ペプチドのアミノ酸は、L-アミノ酸および/またはD-アミノ酸であってよい。従って、反転配列のアミノ酸は、全てL-アミノ酸または全てD-アミノ酸であってよく、用語の「反転配列」は、レトロインベルソペプチドに拡張され、全てのアミノ酸は、D-アミノ酸であるが、これに限定されない。
【0146】
本明細書で言及される配列は、配列識別番号(配列番号)により表される。配列識別子の一覧を表2に示す。
【表2】
*;小文字は、右旋性(dextrorotatory)(「右旋性(dextro)」)アミノ酸を示す;2Adodは、2-アミノドデカン酸(例えば、(S)-2-アミノドデカン酸)を示す;12Adodは、12-アミノドデカン酸(例えば、(S)-12-アミノドデカン酸)を示す;NH
2はアミド化を示す;OHは、非アミド化を示す。
【0147】
少なくともいくつかの実施形態では、本明細書に記載のLck活性化剤のペプチド(P)は、RSKAKNPLY、RSKAKNPLYR、RSRARNPLY、RARAKNPLY、KEKLKNPLF、KEKLKNPLFK、RVKVKVVVV、RAKAKAAAA、RAKAKNPLF、RSKAK、RAKAKおよびRVKVKからなる群より選択されるペプチド活性成分を含み得る、またはそれからなり得る。
【0148】
他の実施形態では、ペプチド(P)は、反転配列YLPNKAKSR、RYLPNKAKSR、YLPNRARSR、YLPNKARAR、FLPNKLKEK、KFLPNKLKEK、VVVVKVKVR、AAAAKAKAR、FLPNKAKAR、KAKSR、KAKARおよびKVKVRからなる群から選択され得る。
【0149】
最も典型的には、ペプチドは、RSKAKNPLY、YLPNKAKSR、RSKAKまたはKAKSRを含む、またはそれらからなる。
【0150】
本発明者らは、意外にも、少なくとも1個の脂肪酸の、本明細書に記載のペプチドへの結合が、Lckを活性化するための増大した能力をペプチドに付与することを実証した。
【0151】
従って、いくつかの実施形態では、Lckを活性化するためのペプチドは、1個または複数の結合脂肪酸部分を含む。いくつかの実施形態では、Lckの活性化剤は、4つの結合脂肪酸部分を含む。この結果は意外であり、その理由は、それら単独では、1~4個の結合脂肪酸を含む脂肪酸部分はLckを活性化しないためである。いくつかの実施形態では、結合脂肪酸部分は、少なくとも1つのアミノドデカン酸部分を含む。いくつかの実施形態では、全ての脂肪酸部分は、アミノドデカン酸である。
【0152】
好ましい実施形態では、本発明は、RSKAKNPLYR-(2Adod)4、rskaknplyr-(2Adod)4、RVKVKVVVVR-(2Adod)4、およびrvkvkvvvvr-(2Adod)4からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチドを提供する。
【0153】
別の好ましい実施形態では、本発明は、RSKAKNPLYR-(2Adod)4、rskaknplyr-(2Adod)4、RVKVKVVVVR-(2Adod)4、およびrvkvkvvvvr-(2Adod)4からなる群より選択されるアミノ酸配列からなるペプチドを提供する。
【0154】
本明細書に記載の式Iのペプチドに結合され得る化合物の例としては、脂質、直鎖または分岐鎖脂肪酸(例えば、ステアリン酸などの8~18個の炭素原子の脂肪酸鎖長を有する)およびポリアミドが挙げられる。
【0155】
別の好ましい実施形態では、2個以上の脂肪酸が式Iのポリペプチド部分のC末端に結合される。例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個またはそれを超える脂肪酸が式Iのポリペプチド部分に結合される。
【0156】
少なくとも1個の脂肪酸は、1個の脂肪酸鎖のアミノ基置換基と、次の脂肪酸の末端カルボキシル基との間のそれぞれのアミド結合を連続的に形成することにより、一緒に脂肪酸を結合して、それにより結合脂肪酸を得ることによりもたらされ得る。
【0157】
従って、脂肪酸のαまたはβ炭素上のアミノ基(NH2)置換基を有する脂肪酸は、特に結合に好適する。
【0158】
好ましい一実施形態では、本発明は、少なくとも4個の脂肪酸が、活性化剤のC末端に結合される、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0159】
別の好ましい実施形態では、本発明は、最遠位の脂肪酸がアミド化されている、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0160】
脂肪酸の結合は、直鎖および/または分岐であり得る。一実施形態では、本発明は、少なくとも4個の脂肪酸の結合が直鎖である、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。別の実施形態では、本発明は、少なくとも4個の脂肪酸の結合が分岐である、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0161】
上記で考察したように、脂肪酸部分は、任意の位置でLckを活性化するためのペプチドに結合して、リポペプチドを形成できる。しかし、好ましい実施形態では、脂肪酸部分は、Lckを活性化するためのペプチドのC末端に結合される。アミノ酸配列に結合した脂肪酸部分は、分岐脂肪酸または直鎖脂肪酸であり得る。
【0162】
いくつかの実施形態では、少なくとも1、2、3または4つの脂肪酸部分は直鎖である。例えば、少なくとも1個の脂肪酸の結合が直鎖である場合、一実施形態では、少なくとも1個の脂肪酸は、Lckを活性化するためのペプチドのC末端にアミド結合を介して結合する。
【0163】
本明細書で使用される場合、「直鎖」という用語は、脂肪酸の炭化水素鎖がLck活性化するためのペプチドの骨格中に組み込まれていることを意味する。例えば、脂肪酸は、オメガ炭素の位置にアミノ基置換基を含むことができる。一実施形態では、12アミノラウリン脂肪酸アミド(例えば、12-アミノドデカン酸;「Adod」)が使用され、従って、アミド結合は、炭素12の位置のアミノ置換基と別の基(例えば、カルボキシル基)との間で形成できる。
【0164】
従って、別の実施形態では、少なくとも1個の脂肪酸の結合が直鎖である場合、第1の脂肪酸は、アミド結合を介して、Lckを活性化するためのペプチドのC末端に結合し、さらなる脂肪酸は、脂肪酸の末端カルボキシル基とさらなる脂肪酸のアミノ基置換基(例えば、アミノドデカン酸)との間でアミド結合を形成することにより脂肪酸に結合する。別の実施形態では、第3の脂肪酸は、さらなる脂肪酸の末端カルボキシル基と第3の脂肪酸のアミノ基置換基との間でアミド結合を形成することによりさらなる酸に結合する。別の実施形態では、第4の脂肪酸は、第3の脂肪酸の末端カルボキシル基と第4の脂肪酸のアミノ基置換基との間でアミド結合を形成することにより第3の酸に結合する。
【0165】
任意の数の脂肪酸を、脂肪酸モノマーから、1個の脂肪酸の末端カルボキシル基と、Lckを活性化するためのペプチドに結合されるべき別の脂肪酸のアミノ基置換基との間でアミド結合の形成により脂肪酸の直鎖ポリマー鎖を形成することにより、Lckを活性化するためのペプチドの末端に結合できる。
【0166】
他の実施形態では、脂肪酸の炭化水素鎖は、「直鎖」ではなく、例えば、脂肪酸の炭化水素鎖の全てまたは一部は、Lckを活性化するためのペプチドの骨格の一部ではない(例えば、Lckを活性酸素ペプチドの骨格に「垂直」である)。例えば、脂肪酸は、脂肪酸のαまたはβ炭素の位置にアミノ基置換基を含むことができる。例えば、一実施形態では、2-アミノラウリン脂肪酸アミド(例えば、2-アミノドデカン酸;「Adod」)が使用され、従って、アミド結合は、炭素2の位置のアミノ置換基と別の基(例えば、カルボキシル基)との間で形成できる。
【0167】
説明を容易にするために、ポリアミド部分は「nCy」と呼ばれ、nはポリアミド部分の反復単位の数であり、Cyは各反復単位中のR基の炭素原子数であり、各R基は、飽和、直鎖炭素鎖である。従って、本実施例では、「4C10」は、4反復単位(n=4)を有し、各反復単位のR基は10炭素長さの飽和炭素側鎖であるスキーム1に示すポリアミド部分(例えば、4個の2-アミノドデカン酸)を意味すると解釈されるべきである。
【0168】
本明細書で使用される場合、Adodという用語は、アミノドデカン酸を意味し、および「2Adod」は、2-アミノドデカンを意味し、;「12Adod」は、12-アミノドデカン酸を意味し、等々。2個以上の脂肪酸が結合される場合、結合した脂肪酸の数は、下付き文字で表記される。例えば、「(2Adod)2」は、2個の2-アミノドデカン酸を意味する。従って、本明細書に記載の単一単位のポリアミド部分は、1個の2-アミノドデカン酸残基に対応する(本明細書では、「(2Adod)1」とも表現される)。本明細書に記載の2単位のポリアミド部分は、2個の2-アミノドデカン酸残基に対応する(本明細書では、「(2Adod)2」とも表現される)。本明細書に記載の3単位のポリアミド部分は、3個の2-アミノドデカン酸残基に対応する(本明細書では、「(2Adod)3」とも表現される)。本明細書に記載の4単位のポリアミド部分は、4個の2-アミノドデカン酸残基に対応する(本明細書では、「(2Adod)4」とも表現される)。
【0169】
他の実施形態では、脂肪酸は、脂肪酸の別の炭素の位置にアミノ基置換基を含むことができる。
【0170】
アミノ脂肪酸が1つのキラル中心を有するキラルである他の実施形態では、2つの可能な鏡像異性体(例えば、RおよびS)が存在する。従って、一実施形態では、本発明のLckを活性化するためのペプチドは、アミノ脂肪酸の1つの鏡像異性体またはもう一方の鏡像異性体、または1個または複数のアミノ脂肪酸のもう一つの鏡像異性体を含むことができる。
【0171】
従って、本発明は、直鎖および/または非直鎖(例えば、分岐方式)で結合した脂肪酸を含むLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0172】
本明細書で使用される場合、「分岐」という用語は、Lckを活性化するためのペプチドの骨格に「直鎖」または「垂直」にならないように、アミノ酸残基に結合した、または最初の脂肪酸に結合した2個以上の脂肪酸を含む。
【0173】
一実施形態では、少なくとも1個の脂肪酸は、13~21個の炭素原子を含む長鎖脂肪酸、6~12個の炭素原子を含む中鎖脂肪酸、または6個未満の炭素原子を有する短鎖脂肪酸である。好ましい実施形態では、脂肪酸は、約6~16炭素原子長さを含む。例えば、脂肪酸は、6~16個の炭素、8~14個の炭素または10~12個の炭素を含む。
【0174】
一実施形態では、脂肪酸は、6個の炭素を含み、カプロン酸またはヘキサン酸である。例えば、一実施形態では、脂肪酸はアミノヘキサン酸である。
【0175】
別の実施形態では、脂肪酸は、8個の炭素を含み、カプリル酸またはオクタン酸である。例えば、一実施形態では、脂肪酸はアミノオクタン酸である。
【0176】
別の実施形態では、脂肪酸は、10個の炭素を含み、カプリン酸またはデカン酸である。例えば、一実施形態では、脂肪酸はアミノデカン酸である。
【0177】
別の実施形態では、脂肪酸は、12個の炭素を含み、ラウリン酸またはドデカン酸である。例えば、一実施形態では、脂肪酸はアミノドデカン酸(例えば、(S)-2-アミノドデカン酸)である。脂肪酸は、飽和であっても、または1個または複数の二重結合を有する不飽和であってもよい。好ましくは、脂肪酸は飽和している。
【0178】
一実施形態では、本発明は、Lckを活性化するためのペプチドを提供し、このペプチドはさらにLck活性化ポリペプチド部分のN末端またはC末端に結合した化合物を含み、この化合物は、少なくとも1個の脂肪酸である。
【0179】
一実施形態では、本発明は、少なくとも4個の脂肪酸が、Lck活性化ポリペプチド部分のC末端に結合される、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0180】
一実施形態では、本発明は、2個以上の脂肪酸の結合が直鎖である、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0181】
一実施形態では、本発明は、2個以上の脂肪酸の結合が分岐である、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0182】
一実施形態では、本発明は、脂肪酸が飽和している、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0183】
一実施形態では、本発明は、脂肪酸が、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸(デカン酸)、およびラウリン酸(ドデカン酸)からなる群より選択される、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0184】
一実施形態では、本発明は、最遠位の脂肪酸がアミド化されている、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0185】
一実施形態では、本発明は、アミノ酸配列が、Lck活性化ポリペプチド部分のC末端でアミド化されている、本明細書に記載のLckを活性化するためのペプチドを提供する。
【0186】
特に好ましい実施形態では、化合物は、飽和または不飽和脂肪族化合物、脂肪酸、ポリアミドまたは最大20原子またはそれ以上の長さの、1個または複数の側鎖を有してもよい他の骨格を含み得る。通常、骨格鎖は、約6~20原子(すなわち、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20原子)の範囲の長さを有し、1個または複数のヘテロ原子(例えば、N、O、SおよびPから独立に選択される)を含み得る。
分岐の場合、骨格鎖は通常、1~5側鎖(例えば、1、2、3、4または5側鎖)を有し、これらのそれぞれは、独立に最大18原子長さ(すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18原子長さ)である。
通常、各側鎖は、独立に、飽和または不飽和脂肪族炭素鎖(例えば、C1~C18鎖)である。最も典型的には、促進剤部分は、脂肪族またはポリアミド骨格を有する。
【0187】
少なくともいくつかの実施形態では、化合物は、3~5反復単位を有するポリアミドであり、各反復単位は独立に、3~9原子長さ(すなわち、3、4、5、6、7、8、9原子の長さ)であり、側鎖がないか、または単一側鎖を有する。通常、それぞれの反復単位は3~6原子長さであり、より典型的には、3~6、3~5、または3~4原子長さであり、最も典型的には、3原子長さである。各反復単位の側鎖の長さは通常、独立に4~18炭素原子長さ(すなわち、C4~C18)、例えば、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17または18炭素原子であり、より一般的には、8~18、8~16、8~14、8~12または8~10炭素原子長さである。各反復単位の側鎖は、通常、独立に、反復単位のαまたはβ炭素原子から伸びる。
【0188】
通常、本発明の実施形態により結合されるべき化合物は、以下の式II:
【化2】
式II
の化合物を含み、式中、
nは、化合物のモノマー単位の数で、1~5の整数であり、
各mは、独立に、0~18の整数であり、および
各R基は、独立にHまたはC
1~C
18の側鎖である。
【0189】
通常、モノマー単位のR側鎖の長さは、そのモノマー単位のmの値にほぼ反比例する。通常、各Rは、18-m炭素原子長さであり、式中、mは、0~17の値を有する。例えば、mが0の場合、RはC18側鎖であり、mが2の場合、RはC16側鎖であり、mが4の場合、RはC14側鎖であり、等々。
【0190】
通常、式IIの化合物では、nは2~5であり、各mは独立に0、1、2または3であり;各Rは独立に脂肪族炭素鎖である。
【0191】
通常、各Rは独立に、4~18炭素原子長さの炭素鎖である。従って、少なくともいくつかの実施形態では、本発明によるLck活性化剤は、以下の式IIa:
【化3】
式IIa
のポリアミド部分(PM)であり、式中、
nは、化合物のモノマー単位の数で、3~5の整数であり、
各mは独立に、0、1、2または3であり、および
各R基は独立に、4~18炭素原子長さの炭素鎖である。
【0192】
通常、式IIまたは式IIaの化合物では、各mは独立に、0、1または2である。より典型的には、mは0または1である。最も典型的には、mは0である。
【0193】
当然のことながら、本明細書に記載の式IIの化合物のモノマー単位は、化合物の1個または複数の他のモノマー単位とは異なり得る。
【0194】
式IIまたは式IIaの化合物/ポリアミド部分は、例えば、式から分かるようにアミノ基置換基を有し、Rとmは上記で記載の通りである、式R-CHNH2-(CH2)m-COOHの脂肪酸を、1個の脂肪酸鎖のアミノ基置換基と、次の脂肪酸の末端カルボキシル基との間のそれぞれのアミド結合を連続的に形成することにより、一緒に脂肪酸を結合して、それにより、ポリアミド骨格を得て、そこから各脂肪酸のR基が側鎖として伸びることによりもたらされ得る。即ち、得られたポリアミド部分の各モノマー単位のR基側鎖は、それぞれの脂肪酸からポリアミド部分の骨格が形成される際のその脂肪酸の残部である。
【0195】
脂肪酸のαまたはβ炭素上のアミノ基(NH2)置換基を有する脂肪酸は、ポリアミド部分(PM)の合成での使用に特に好適し、それにより、得られたポリアミド部分は、αまたはβポリアミド骨格を有する。最も典型的には、式IIの化合物では、各モノマー単位のmは0である。従って、ポリアミド部分は、それぞれの脂肪酸の炭素原子がアミノ基で置換されている脂肪酸から形成できる。
【0196】
本発明のいくつかの実施形態では、各脂肪酸部分は、6~16個の炭素、8~14個の炭素または10~12個の炭素を含む。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの脂肪酸部分は、飽和、不飽和または多価不飽和である。好ましい実施形態では、1、2、3または4個の脂肪酸は飽和している。いくつかの実施形態では、脂肪酸は、カプロン酸(ヘキサン酸)、カプリル酸(オクタン酸)、カプリン酸(デカン酸)、およびラウリン酸(ドデカン酸)からなる群より選択される。好ましい実施形態では、脂肪酸は、ドデカン酸(アミノドデカン酸/adod)である。
【0197】
本発明による方法で利用されるLck活性化剤のいくつかの実施形態では、式IIの化合物の各R基の炭素鎖は、独立に直鎖または分岐鎖であり得、および飽和または1個または複数の二重結合を有する不飽和であり得る。通常、各R基は、飽和炭素鎖である。
【0198】
通常、式IIの化合物の各R基は独立に、8~18、8~16、より好ましくは8~14、および最も好ましくは8~12炭素原子長さの炭素鎖である。最も典型的には、各R基は独立に、8~10炭素原子長さの炭素鎖である。
【0199】
従って、例えば、2-アミノカプリンおよびラウリン脂肪酸(それぞれ、10および12炭素原子長さである)は、本明細書に記載の式IIの化合物の提供での使用のために特に好適する。当然のことながら、カプリン酸脂肪酸の場合には、得られた式IIの化合物のモノマー単位のR基は、カプリン脂肪酸鎖の炭素1および2(α炭素)が化合物の骨格中に組み込まれることを考慮すると、8炭素原子長さである。同様に、ラウリン脂肪酸の場合には、得られた化合物のモノマー単位(n=1)のR基は、10炭素原子長さである。
【0200】
式IIの化合物のR基の炭素鎖の長さは、独立に、化合物の1つのモノマー単位から次へと次々変わり得る。通常、式IIの化合物のR基の炭素鎖は、相互に同じ長さである。式IIの化合物の提供で2-アミノラウリン脂肪酸アミドの使用は、特に好ましい。従って、この例での化合物の各モノマー単位のR基は、10炭素原子長さである。
【0201】
通常、式IIの化合物では、nは3、4または5であり、より典型的には、nは3または4であり、最も典型的には、nは4である。
【0202】
しかし、本明細書に記載のLck活性化剤の式IIの化合物の全ての変化は、明示的に包含される。通常、本明細書に記載のLck活性化剤の式IIaの化合物は、下記スキーム1に示すようにアミノ基(NH
2)で終端する。
【化4】
スキームI:式IIの化合物
【0203】
他の実施形態では、水素原子またはNH2以外の末端基で終端する式IIの化合物(スキーム1のように)も採用し得、本発明は、明示的に、全ての好適な生理学的に許容可能なこのような化合物(生理学的に許容可能なその塩を含む)を含む治療薬の使用にまで及ぶ。
【0204】
本発明により利用される式IIの化合物は、例えば、NH2、H、COOH、OH、ハロ(例えば、F、Cl、Br、I)、SH、アルキル、低級アルキル、アルケニル、低級アルケニル、OR、NHR’およびNR’R”から選択される末端基を有し得、低アルキル基、低級アルケニル基、OR、NHR’およびNR’R”は、任意に置換されてもよく、およびR、R’およびR”は、それぞれ独立に任意に置換されてもよい低級アルキルまたは低級アルケニルである。
【0205】
低級アルキル、低級アルケニル、OR、NHR’およびNR’R”基の任意の置換基は、例えば、OH、ハロ(例えば、F、Cl、Br、I)、C1-C3アルキル(例えば、メチル)、COOHなどから選択され得る。
【0206】
「低級アルキル」は、C1-C6アルキル(例えば、直鎖または分岐であってよい、メチル、エチル、またはプロピル基など)を意味する。
【0207】
同様に、「低級アルケニル」は、その最長鎖中に1個または複数の二重結合を含むC2-C6アルケニル基を意味する。
【0208】
しかし、通常、式IIの化合物は、NH2またはCOOH基で終端する。
【0209】
式Iのペプチド(P)の改変またはバリアント型の間のアミノ酸差異は通常、保存的アミノ酸変化である。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基の、類似の立体化学的特性(例えば、構造体、電荷、酸性または塩基性特性)を有する別のアミノ酸による置換を意味し、これは、構造または特徴的生物学的機能の所望の状況を実質的にもたらさない。例えば、アスパラギン酸(D)などの酸性アミノ酸は、グルタミン酸残基(E)により置換され得、セリン(S)などの極性アミノ酸は、トレオニン(T)またはアスパラギン(N)等々の別の極性アミノ酸により置換され得る。
【0210】
本明細書に記載のアミノ酸配列間の配列同一性は、配列が比較のために最適に整列されている場合に、配列中の各位置でのアミノ酸を比較することにより決定できる。配列の整列は、任意の好適なプログラムまたはアルゴリズム、例えば、NeedlemanおよびWunschアルゴリズム(Needleman and Wunsch,1970)を用いて実施できる。コンピュータ支援配列整列は、好都合にも、Wisconsin Package Version 10.1(Genetics Computer Group,Madison,Wisconsin,United States)の一部であるGAPなどの標準的ソフトウェアプログラムを使用し、50のギャップ生成ペナルティ(gap creation penalty)および3のギャップ伸張ペナルティ(gap extension penalty)のデフォルトスコアマトリックスを用いて実施できる。比較のためのアミノ酸配列の他の整列方法はまた、例えば、限定されないが、Smith and Waterman,(1981)およびPearson and Lipman(1988)のアルゴリズム、このようなアルゴリズムのコンピュータ-実装(例えば、BESTFIT、FASTAおよびBLAST)、および配列のマニュアル整列および検査によりよく知られている。
【0211】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、式IIの化合物(C)は、下記式IIIおよび式IVで例示されるように、本明細書に記載の式Iのペプチド(P)のN末端またはC末端に結合できる。
C-P 式III
P-C 式IV
【0212】
本明細書に記載のLck活性化剤のペプチド(P)および化合物(C)は、場合に応じて、それぞれのペプチド結合または他の好適な(例えば、共有またはイオン)結合により、正常に相互に直接結合される。他の実施形態では、ペプチドは、リンカー基(LG)を介して化合物に結合し得る。リンカーは、例えば、1~10原子またはそれ超(すなわち、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10原子)の長さを有し、結合原子またはリンカー基(例えば、直鎖)の1個もしくは複数の原子は、例えば、N、SおよびOから独立に選択される非炭素原子であってよい。しかし、任意の好適な結合系を用い得る。
【0213】
上記から、本明細書に記載のLck活性化剤の少なくともいくつかの実施形態は、リポペプチドであるか、またはそれを含む。
【0214】
また、式IIIまたは式IVのペプチド(P)は、式Iのペプチドの反転配列であり得ることも理解されよう。
【0215】
またさらなる実施形態では、本発明によるLck活性化剤は、Lck活性化剤をLck活性化剤の標的細胞へのおよび/または1つまたは複数の本明細書に記載の他のLck活性化剤への標的化送達のためのターゲティング部分に結合するためのリンカー部分(LM)に結合し得る。リンカー基は、例えば、下記式V~VIIで例示されているペプチド(P)のどちらかの末端に結合できる。
LM-P-C 式V
C-P-LM 式VI
P-C-LM 式VII
【0216】
いくつかの実施形態では、リンカー部分は、Lck活性化剤をターゲティング部分に直接結合できる。
【0217】
他の実施形態では、リンカー部分は、1対のLck活性化剤を一緒に結合するための架橋部分を含むことができ、この場合、Lck活性化剤は相互に同じまたは異なる。
【0218】
リンカー部分(LM)は、任意選択で、下記に例示するように、標的細胞の表面でまたは標的細胞の細胞内で酵素切断してLck活性化剤を放出するために、1つまたは複数の酵素切断部位をコードするアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。
【0219】
通常、リンカー部分は、リンカー部分のターゲティング部分への結合のために、結合部分を含む。
【0220】
結合部分は、ターゲティング部分に結合するために任意の好適なアミノ酸またはアミノ酸配列、例えば、システイン(C)アミノ酸残基(ターゲティング部分により提供される末端システイン残基とジスルフィド架橋を形成するために)、リシン残基(K)、または例えば、リシン(K)またはシステイン(C)残基に対してリンカー部分の酵素切断部位(存在する場合)から間隔をあけるために、KAA、CAAからなる群より選択されるスペーサーアミノ酸配列を含み得る。スペーサーアミノ酸配列は、選択されたターゲティング部分に対する結合の判定のために、さらにマーカーとしての機能を果たすことができる。特に好ましい実施形態では、結合部分は、1個または複数のβアミノ酸(例えば、KAAおよびCAAの場合には、アラニン残基がβアミノ酸であり得る)を含む。
【0221】
一実施形態では、結合部分はアジド部分である。
【0222】
別の実施形態では、結合部分(例えば、アジド部分)は、ジベンゾシクロオクチン(DBCO)に結合する。
【0223】
リンカー部分(LM)の1つまたは複数の酵素切断部位は、カテプシン切断部位、例えば、GFLGFK(例えば、Orban et al.,Amino Acids,2011,41(2):469-483を参照)、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)切断部位で、この例としてはMMP-9およびMMP-2、例えば、GPLGIAGQ、PAGLLGCおよびGPLGLWAQ(例えば、Kratz F.et al.,Bioorg Med Chem Letters,2001,11:2001-2006を参照)、前立腺特異抗原(PSA)切断部位、例えば、KGISSQYおよびSSKYQL(Kumar SK et al.,Bioorg Med Chem,2008,16(6):2764-2768;Niemela P et al.,Clin Chem,2002,48(8):1257-1264)、およびグルタチオン-s-トランスフェラーゼなどの細胞内酵素により切断可能なジスルフィド架橋(-S-S-)からなる群から選択され得る。これらの全ての使用は明示的に本明細書に包含される。
【0224】
従って、リンカー部分(LM)は、特に、GFLGFK、KAAGFLGFK、CAAGFLGFK、GPLGIAGQ、KAAGPLGIAGQ、CAAGPLGGIAGQ、PAGLLGC、KAAPAGLLGC、CAAPAGLLGC、GPLGLWAQ、KAAGPLGLWAQおよびCAAGPLGLWAQからなる群から選択されるように、例えば、本明細書に記載の結合部分および/または酵素切断部位の種々の組み合わせを含むか、またはそれからなる。少なくともいくつかの実施形態では、本明細書に記載のリンカー部分(LM)は、2つ以上の酵素切断部位を含み得る。
【0225】
本明細書に記載の実施形態に従って、リンカー部分(LM)により一緒に結合された1対のLck活性化剤の例は、下記のスキームIIに示される。
【化5】
スキームII:ダイマーLck活性化剤の例
【0226】
スキームIIで示されるダイマーLck活性化剤は、架橋部分により一緒に結合された本明細書に記載のLck活性化剤Lck1およびLck2を含む。この例では、架橋部分は、グルタミン酸(Glu)部分を介して、以下でさらに記述されるように、ソルターゼA媒介ライゲーションによりLck活性化剤をターゲティング部分に結合するための結合部分を形成する3個のグリシン(G)アミノ酸残基(Gly3)の配列に結合した酵素切断部位X1およびX2(例えば、PSAおよび/またはMMPアミノ酸切断配列)を含む。酵素切断部位X1およびX2は、相互に異なっても同じでもよい。さらに、架橋部分は、例えば、Lck活性化剤の式Iのそれぞれのペプチド(P)の末端に、または式IIのダイマーのそれぞれのLck活性化剤の化合物に、結合できる。
【0227】
Gly3以外の結合部分は、本発明の実施形態でも採用できる。例えば、結合部分は、3~5グリシンアミノ酸残基、別のアミノ酸配列(例えば、3~5アミノ酸長さ)、または他の好適なリンカー鎖の配列を含み得る。
【0228】
さらにその他の実施形態では、本明細書に記載のLck活性化剤、ダイマーまたはLck活性化剤の他のマルチマーは、デンドリマーまたは他の生理学的に許容可能な足場/フレームワークにより、1つまたは複数の他の個別のLck活性化剤またはLck活性化剤マルチマーに結合し得る。
【0229】
本明細書に記載のLck活性化剤の細胞への侵入は、外側細胞膜を横切る核酸を介することを含む、いくつかの機序を介して起こり得、または、例えば、カテプシン酵素に富むリソソームを介することを含む、受容体媒介輸送または内部移行により起こり得る。
【0230】
本明細書に記載のLck活性化剤の標的化のためのターゲティング部分は、標的細胞の細胞表面または組織環境中で発現した受容体または他の分子に結合する、リガンド、結合ペプチド、抗体またはその結合フラグメント(FabおよびF(ab)2フラグメントなど)、または単鎖可変フラグメント(scFv)などのターゲティング部分の使用により実現され得る。抗体ターゲティング部分の例としては、抗CD3および抗CD4抗体(例えば、TRX1,Ng CH et al,Pharmaceutical Research,2006,doi:10.1007/s11095-005-8814-3)、およびBT-061(Humblet-Baron S & Baron F,Immunology & Cell Biology,2015,doi:10.1038/icb.2014.120)が挙げられる。利用され得るターゲティング部分はまた、特に、トランスフェリン、ビオチン、葉酸、およびヒアルロン酸を含み得る。例えば、Ojima I.et al.,Future Med Chem,2012,4(1):33-50を参照。この文献の全内容は、相互参照により本明細書に組み込まれる。
【0231】
HIV(例えば、HIV-1)は、例えば、T細胞中に侵入するために、ウィルスエンベロープタンパク質gp120を介してTリンパ球上に発現したCD4に結合する。CD4への結合後にgp120タンパク質で生じた立体構造変化は、ウィルスを、リンパ球の共受容体CCR5および/またはCXCR4に結合させ、ウィルスと細胞を融合可能にする。CD4、CCR5およびCXCR4は、本発明により治療薬をTリンパ球に送達するために、本発明の実施形態により標的化され得る細胞表面受容体の例である。本発明により標的化され得る標的細胞上の細胞表面受容体または表面発現分子の他の例としては、CD2、CD3、CD8、CD28およびCD45(例えば、CD45RA、CD45RBおよびCD45ROアイソフォーム)が挙げられる。
【0232】
本発明の実施形態により治療薬の標的細胞への送達のために標的化され得るさらなる分子の例としては、インテグリンファミリーおよびそのサブユニットのメンバー、細胞間接着分子(ICAM)ホルモン受容体、神経伝達物質受容体、受容体チロシンキナーゼ受容体、G-タンパク質結合受容体、Gタンパク質結合受容体、成長因子受容体、膜貫通型プロテアーゼ受容体、細胞表面プロテオグリカン、CD44、CD55、Fcy受容体、癌胎児抗原(CEA)、ヒアルロネート受容体、トランスフェリン受容体、葉酸受容体、前立腺特異的膜抗原、血管細胞接着分子、フィブロネクチン、コラーゲンビトロネクチンおよびラミニンなどのマトリックスタンパク質が挙げられる。
【0233】
化学療法剤イバリズマブ(以前はTNX-355)(Bruno CJ and Jacobson JM,J Antimicrobial Chemotherapy,2010,doi:10.1093/jac/dkq261)は、本発明による癌または他の疾患または状態の治療のための他の薬物のように、CD4を標的とし、本発明によるLck活性化剤の標的細胞への送達のためのターゲティング部分として用い得る。同様に、CD4(例えば、OKT4)またはCXCR4に結合する抗体またはその抗体結合フラグメントも利用し得る。
【0234】
いくつかの実施形態では、Lck活性化剤は、治療標的抗体と一緒に別々に、または抗体-薬物複合体(ADC)のように標的化抗体に結合させて投与し得る。例えば、腫瘍特異的T細胞上に発現した、これらの受容体のT細胞活性化およびIL-2産生の抑制効果を阻害するプログラム死リガンド1(PD-1)受容体または細胞傷害性Tリンパ球結合タンパク質4(CTLA4)受容体に対する抗体、例えば、トレメリムマブ/イピリムマブ(ヤーボイ)またはMSB0010718Cは、それぞれ、このような抗体により標的化された黒色腫、腎臓癌および肺癌などの癌の治療における使用のために、本明細書で記載のLck活性化剤に結合してADCを形成し得る(Ott PA,OncLive,published online February 21,2014)。CTLA-4受容体の、T細胞の抑制剤から活性化剤への変換はまた、これまで、Lck活性化を介してその効果を媒介する二重特異的タンデム型scFvリガンドを用いて説明されてきた(Madrenas J et al,J Immunol,2004,172:5948-5956およびTeft WA et al,BMC Immunology,2009;doi:10.1186/1471-2172-10-23,Teft WA et al,BMC Immunology,2009;doi:10.1186/1471-2172-10-23)。従って、scFvの本明細書に記載のLck活性化剤への結合は、本発明の実施形態によるT細胞活性化をさらに促進し得る。さらなる例として、当業者に既知の二重特異的抗体を用いて、例えば、本明細書に記載のPEG結合Lck活性化剤を、例えば、CD28などの細胞表面受容体に対する抗体に結合させ得る。
【0235】
本発明の実施形態でターゲティング部分として使用される抗体またはその結合フラグメント(Fab、F(ab)2およびFvフラグメントなど)は、望ましくは、選択標的分子に対し特異的であり、そのため、通常、モノクローナル抗体またはその結合フラグメントを含む。モノクローナル抗体およびその結合フラグメントの産生は、よく知られている。キメラおよびヒト化モノクローナル抗体、およびその結合フラグメントは、特に好ましい。キメラ抗体は、例えば、標的分子に特異的な非ヒト抗体のFc領域を、ヒト抗体のFc領域で置換することによりもたらされ得る。ヒト化抗体は、非ヒト(例えば、マウス、ラット、ヒツジまたはヤギ)モノクローナル抗体のFabフラグメントの可変領域中の相補性決定領域(CDR)を、同様に当該技術分野で既知の組換えDNA技術を用いてヒト抗体骨格中に継ぎ合わせることにより得ることができる。
【0236】
上記のように、単鎖可変フラグメント(scFv)およびそのマルチマー型、例えば、二価scFv(例えば、タンデム型scFvおよびディアボディ)、三価scFv(トリアボディ)および四価scFv(テトラボディ)もまた、本発明の実施形態のターゲティング部分として利用し得、ディアボディの使用が特に好ましい。本発明の実施形態で有用なscFvは、2つの可能な配向Vl-AAL-VhまたはVh-AAL-Vlのいずれかで、アミノ酸リンカー配列(AAL)により一緒に結合されたヒト化または天然抗体重鎖(VH)および軽鎖(VL)を含み得る。リンカー配列の長さは、モノマーscFv、ディアボディ、トリアボディまたはテトラボディのいずれが形成されるべきかに応じて、変わり得る。scFvのリンカー配列(AAL)は、通常、約5~約30アミノ酸の範囲の長さ、より一般的には、5~25アミノ酸の範囲の長さである。ディアボディの形成のために、リンカー配列は通常、約5アミノ酸長であり、それにより、scFvを二量体化させる。トリアボディに対しては、リンカー配列は、ただの1または2アミノ酸長さであり得る。インビボ画像処理および治療法で使用するための、ディアボディを含むscFvの設計は、例えば、Todorovska A.et al.,J Immunol Methods,2001,Feb 1;248(1-2):47-66,Worn A.and Pluckthun A.,J.Mol.Biol.,2001,305,989-1010、およびAhmed Z.A.et al.,Clinical and Developmental Immunology,Vol.2012,Article ID 980250,Hindawi Pub.Corp.に記載されている。これらの全ての内容は、その全体が相互参照により本明細書に組み込まれる。
【0237】
scFvがターゲティング部分として採用される場合、本明細書に記載のそれぞれのLck活性化剤は、本明細書に記載の1つまたは複数の酵素切断部位を含むリンカー部分を介してそのVHおよび/またはVL鎖の遊離末端に結合できる。即ち、本明細書に記載の2つのLck活性化剤が、scFvに結合し得、Lck活性化剤の1つは、VH鎖の遊離末端に結合し、もう一方は、VL鎖の遊離末端に結合し、この場合、Lck活性化剤は、同じであっても、または異なっていてもよい。
【0238】
同様に、本明細書に記載のLck活性化剤は、通常、上述の1つまたは複数の酵素切断部位を含むリンカー部分を介して、任意の好適な方式で、抗体、その結合フラグメント、または他のターゲティング部分に結合できる。
【0239】
さらに他の実施形態では、本明細書に記載のLck活性化剤は、組換えDNA技術を利用して、ターゲティング部分それ自体(例えば、抗体、抗体結合フラグメント、またはscFv)中に組み込んで提供できる。このような実施形態では、Lck活性化剤は、Lck活性化剤のそれぞれの末端で、酵素切断部位(例えば、カテプシン切断部位)を含むそれぞれの結合部分によりターゲティング部分に結合でき、これは、各末端のLck活性化剤をターゲティング部分に連結する。このような実施形態では、Lck活性化剤は、ターゲティング部分の結合または標的化機能を損なわない、ターゲティング部分中の任意の好適な位置で組み込まれ得、使用中の酵素切断部位の切断を可能とする。例えば、本明細書に記載のそれぞれのLck活性化剤は、scFvのVHおよびVL鎖の片方または両方に、scFvの結合または標的化機能を保持しながら上記の方式で挿入され得、例えば、Lck活性化剤は、MMPおよびPSA切断配列から選択される酵素切断配列に挟まれている。β6インテグリンサブユニットを特異的に標的とし、他のαV結合βインテグリンサブユニットを標的にしない17マーペプチド(すなわち、PNLRGDLQVLAQKVA)が、例えば、癌胎児抗原(CEA)と反応性があるマウスscFvである、MFE-23のCDR H3ループ中に挿入された。
【0240】
オンターゲット組織または標的細胞上の異なる部位を標的化するために、または標的細胞に免疫エフェクター細胞を動員するための手段として、2つ以上のターゲティング部分を用いる二重特異的標的化プロトコルは、本発明により明示的に包含される(例えば、二重特異的抗体標的化は、Weidle UH.et al.,Cancer Genomics & Proteomics,2013,10:1-18により最近概説された)。即ち、本明細書に記載の単一Lck活性化剤は、異なる標的分子を相互に標的とする2つの異なるターゲティング部分を組み込み得る。一例として、HER2およびCD4などの2個の異なる標的分子を標的にするための二重特異的タンデム型bi-scFvを、例えば、それぞれの対のVHおよびVL鎖の間の1つまたは複数の酵素(例えば、MMPおよび/またはPSA)切断配列を用いて得ることが可能である。
【0241】
本明細書に記載の式Iのペプチド(P)を含み、本明細書に記載のターゲティング部分および/または結合部分を含有または非含有である、キメラタンパク質(すなわち、融合タンパク質)の形のLck活性化剤は、本発明の方法でこれらを使用する場合、明示的に包含される。
【0242】
例えば、細胞免疫反応が加齢と共に低下することはよく知られている。特に、リンパ球増殖は、高齢患者由来のTリンパ球中で顕著に低下し、これは、Lck活性の大きな低下に関連していることが知られている(Fulop T Jr et al,Experimental Gerontology,1999,34(2):197-216)。従って、特異的Lck活性化剤の予防薬投与は、年配者の消耗性感染症の発生または重症度の予防または低減に特に有益であり得る。さらに、適切なT細胞免疫応答の減少は、複数のチロシンキナーゼを標的にする癌療法に付随する免疫抑制を克服するために、Lck活性化剤を組み合わせて使用する必要性を強調する癌化学療法の副作用である。抗癌剤に対する薬剤耐性ならびに急性白血病および非ホジキンリンパ腫での細胞周期進行の抑制の克服におけるLck活性化のための潜在的役割に加えて、Lck活性化は、多様な病原性感染(ウィルス、細菌、真菌、原生動物および寄生虫)ならびにLck欠損に関連する種々の障害の管理にも重要である。
【0243】
免疫系のTリンパ球は、胸腺で産生され、皮膚、リンパ節などの特定の組織、ならびに口内、肺気道、消化管、および膣などの粘膜組織中で循環および存在できる。上皮内T細胞は、恒常性および悪性病変からの保護で重要な役割を果たす。皮膚、消化管、肺などの上皮組織は、常時の環境暴露下にあり、微生物の侵入に対する第一線の防御を形成する。マウスでの上皮内T細胞(Lckを発現することが知られている)の非存在は、腫瘍拒絶における欠陥を生じる。特に、上皮内のこのようなT細胞の存在は、黒色腫を含む上皮悪性腫瘍の下方制御に必要である(Girardi M et al,Science,2001,294(5542):605-9;Schon MP et al,J Invest Dermatology,2003,121:951-962)。胸腺内でのこのような組織特異的T細胞の成熟は、Lck依存性であり、この細胞は、病原性感染およびそれらの病理学的影響(例えば、マラリア)からの保護に寄与する(Inoue S-I et al,PNAS USA,2012,109:12129-12134)。さらに、ガンマ-デルタ(γ/δ)T細胞は、原生動物、寄生生物、細菌およびウィルスによる感染に対する免疫応答で重要な役割を果たす。このようなT細胞の組織特異的局在化は、皮膚での免疫監視のための要件である(Jamieson JM et al,Frontiers in Bioscience,2004,9:2640-2651;Schon MP et al,J Invest Dermatology,2003,121:951-962)。
【0244】
いくつかのT細胞株では、活性化Lckタンパク質は、抗原刺激の非存在下で、T細胞活性化の証明である、インターロイキン2(IL-2)産生を刺激することが示された(Luo K,and Sefton BM,Mol Cell Biol,1992,12(10):4724-4732)。
【0245】
制御性T細胞(Treg)は、γ/δT細胞とは別のT細胞のサブセットであり、癌に対する免疫応答の抑制で重要な役割を果たす。Tregは、末梢性CD4+T細胞プールの5~10%を構成し、IL-2Rαおよび転写因子FOXP3の構成的発現により認識される。
【0246】
腫瘍浸潤リンパ球内のFOXP3 Treg細胞の存在は、様々な種類のヒト癌での予後不良と相関し、IL-21はT細胞応答を促進するその能力により、抗腫瘍免疫を促進して、免疫系に対するTreg媒介抑制性効果の影響を弱めることが知られている(Kannappan V et al,Cancer Immunol Immunother,2017,66(5):637-645)。
【0247】
本発明者らは、本発明のLck活性化ポリペプチドは、細胞からのIL-21分泌を増大させることを示した(例えば、
図7)。従って、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドは、エクスビボまたはインビボでTregの数を低減させる潜在力を有する。実際に、本発明者らは、本明細書で記載のペプチドを活性化するLckがインビトロでTregを減らすことを示した。
【0248】
重要なのは、本発明者らが、意外にも、本明細書で記載のLckを活性化するためのペプチドは、選択的にLckを活性化し、他のSrcファミリーキナーゼを活性化しないことを実証したことである。例えば、
図2は、Blk、cSrc、Fgr、Fyn、Hck、LynおよびYesは、本明細書で記載のLckを活性するためのペプチドにより活性化されないことを示している。
【0249】
一実施形態では、本発明は、Lckキナーゼの活性を高める方法を提供し、方法は、Lckキナーゼを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。本発明はまた、LckキナーゼのY394リン酸化を増大させる方法を提供し、方法は、Lckキナーゼを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0250】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させたLck活性レベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていないLck(例えば、対照)の活性と比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させたLckの活性は増大している。同様に、本明細書で記載のLck活性化ペプチドと接触させたLckキナーゼのY394リン酸化レベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていないLckキナーゼ(例えば、対照)のY394リン酸化と比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、LckキナーゼのY394リン酸化のレベルは増大している。
【0251】
一実施形態では、インビボでのLckの活性を高めるために、ペプチドまたはペプチドを含む医薬組成物が対象に投与される。
【0252】
本明細書で使用される場合、「活性を高めること」および「を活性化する」という用語は通常、ホスホトランスフェラーゼ活性などのキナーゼの活性を高めること(例えば、LckキナーゼのY394リン酸化を増やすこと)を意味する。例えば、キナーゼの酵素活性の活性化は、活性化剤の非存在下でのキナーゼ活性に比べて、活性化剤の存在下での同じキナーゼ活性の任意の増加を意味する。用語のプロテインキナーゼを活性化するは、自己リン酸化の増加、活性化時に、1つの細胞内位置からベルの位置へ移動の増加、キナーゼを所定の位置に固定している1個または複数のタンパク質への結合またはそれからの解放の増加、またはプロテインキナーゼの他の活性もしくは機能の増加も含む。この増加は、限定されないが、プロテインキナーゼと、プロテインキナーゼの結合相手との間に複合体が形成される確率を増大させること、またはその標的に以前に結合したキナーゼ活性の増大を含む任意の手段により引き起こされ得る。このような活性化は、インビボあるいはインビトロで起こり得る。
【0253】
キナーゼの酵素活性は、当業者に既知の種々の方法、例えば、Parker,Law,et al.,(2000),Development of high throughput screening assays using fluorescence polarization:nuclear receptor-ligand-binding and kinase/phosphatase assays,J.Biomolec.Screening 5(2):77-88;Bader et al.(2001),Journal of Biomolecular Screening 6(4):255-64);Liu,F.,X.H.Ma,et al.(2001).“Regulation of cyclin-dependent kinase 5 and casein kinase 1 by metabotropic glutamate receptors.” Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 98(20):11062-8;Evans,D.B.,K.B.Rank,et al.(2002).“A scintillation proximity assay for studying inhibitors of human Tau protein kinase II/Cdk5 using a 96-well format.” Journal of Biochemical & Biophysical Methods 50(2-3):151-61で開示の方法により監視できる。
【0254】
このような標準的方法を用いて、目的のキナーゼを含む試料を適切な条件下で放射性ATPおよびリン酸化の位置を与えるための適切な組成の合成ペプチド基質に暴露する。次に、ペプチドに新しく結合した放射性リン酸を測定する。基質ペプチドに共有結合したビオチンなどの化学的部分を付加して、ストレプトアビジンコートビーズを基質ペプチドに結合させる。ビーズ結合ペプチドを単離して結合した放射能を測定できる、または基質ペプチドと結合した放射能をシンチレーション近接アッセイに好適するビーズを用いて直接測定できるのが好ましい。
【0255】
ペプチド基質のリン酸化はまた、リン酸化部位特異的抗体の直接結合を介して、リン酸化部位特異的抗体の競合リンペプチドからの移動を測定することにより、検出できる(例えば、Parker,Law et al.,2000,Development of high throughput screening assays using fluorescence polarization:nuclear receptor-ligand binding and kinase/phosphatase assays,J.Biomolec.Screening 5(2):77-88を参照)。蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)または蛍光偏光法(FP)などの蛍光法を使用して、特定のリンペプチド-抗体複合体を検出できる。これらの方法は、結合種の単離に依存しないで、むしろ、溶液中の特異的結合のために起こる蛍光の変化に依存する「ホモジニアス」検出法を採用するという利点を有する。
【0256】
リン酸化部位特異的抗体の作製方法は、当該技術分野において周知である。一実施形態では、Bibbらにより1999年10月15日に出願された「Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signalling」という名称の米国特許出願第09/419,379号、およびBibbらにより2000年10月13日に出願された「Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signalling」という名称の米国特許出願第09/687,959号(これらのそれぞれは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)で開示される方法を使用して、リン酸化標的に対し特異性を有するリン酸化状態特異的抗体が作製される。
【0257】
ホスホセリン、ホスホトレオニン、またはフォスフォチロシンに対するリン酸化状態特異的抗体は、市販品として入手できる。これらの抗体は、タンパク質が全体としてリン酸化されているかどうか、およびどの残基でリン酸化されているかを決定するのに有用である。このような抗体は、市販品入手源から入手できる(例えば、Santa Cruz Biotechnology Inc.,Sigma RBI,Stratagene,Upstate BiotechnologyおよびZymedを含む、市販品入手源のリストについては、The Scientist 15[4]:24,Feb.19,2001を参照)。
【0258】
蛍光共鳴エネルギー転移、またはFRETは、高分子の特異的結合を検出できるホモジニアスアッセイに広く使用されている。FRETは、放射光ではなく、励起「ドナー」蛍光の分子(フルオロフォア)のそれらの近くの「アクセプター」フルオロフォアへエネルギーを伝達する転移に依存する。従って、2つのフルオロフォアが基質標的に結合することにより空間中で1つにされる場合、通常のドナー波長で放出される蛍光は減少し、アクセプターフルオロフォアにより放出される蛍光は増加する。ドナー蛍光の減少またはアクセプター蛍光の増加を用いて、結合イベントを測定できる。
【0259】
キナーゼ活性を評価するための好適な方法である、Baderら(2001,A cGMP-dependent protein kinase assay for high throughput screening based on time-resolved fluorescence resonance energy transfer,Journal of Biomolecular Screening 6(4):255-64)で開示の方法を用いて、例えば、ホスホジエステラーゼ、キナーゼまたはタンパク質ホスファターゼの活性が決定される。Baderらは、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(「FRET」)をベースにした高スループットスクリーニングのためのcGMP依存性プロテインキナーゼアッセイを開示し、これは、当業者なら分かるように、ホスホジエステラーゼまたはタンパク質ホスファターゼのアッセイに適応させ得る。目的のキナーゼを含む試料がキナーゼ特異的リン酸化部位およびアミノ末端ビオチン部分を有するATPおよび合成ペプチド基質に暴露される。リン酸化されたペプチドは、アロフィコシアニン標識ストレプトアビジン、リンペプチド特異的抗体およびユーロピウムキレート標識二次抗体を用いて検出される。ストレプトアビジンおよびリン酸化部位特異的抗体のリン酸化基質分子への同時結合は、蛍光共鳴エネルギー転移が起こり、615nm波長でのユーロピウム放射の減少として、および665nm波長でのアロフィコシアニン放射の増加として測定できるように、二次抗体上のユーロピウムキレート「ドナー」をアロフィコシアニンフルオロフォア「アクセプター」の十分近くに運ぶ。ユーロピウム-アロフィコシアニンのドナー-アクセプター対は、励起ユーロピウムの長い蛍光寿命を利用するためによく使われ、従って、シグナルは、時間分解される。
【0260】
クマリンとフルオレセインイソチオシアネートなどの他のフルオロフォア対も使用できる。蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)に関与できるこのような分子対は、FRET対と呼ばれる。エネルギー転移が起こるためには、ドナーおよびアクセプター分子は通常、70~100Åまでの近接状態でなければならない(Clegg,1992,Methods Enzymol.211:353-388;Selvin,1995,Methods Enzymol.246:300-334)。エネルギー転移の効率は、ドナーとアクセプター分子との間の距離と共に急速に低下する。FRETでよく使用される分子としては、フルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、2’7’-ジメトキシ-4’5’-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、ローダミン、6-カルボキシローダミン(R6G)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、4-(4’-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)、および5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)が挙げられる。フルオロフォアがドナーであるかアクセプターであるかは、その励起および発光スペクトル、およびそれと対形成するフルオロフォアにより決まる。例えば、FAMは、488nmの波長の光により最も効率的に励起され、500~650nmのスペクトルと、525nmの最大発光を有する光を放出する。FAMは、JOE、TAMRA、およびROX(これらの全ては、514nmで最大励起を有する)と共に使用するのに好適なドナーフルオロフォアである。
【0261】
また、蛍光偏光測定もホスホジエステラーゼ、プロテインキナーゼまたはホスファターゼの活性の測定に使用できる(例えば、Parker,Law et al.,2000,Development of high throughput screening assays using fluorescence polarization:nuclear receptor-ligand-binding and kinase/phosphatase assays,J.Biomolec.Screening 5(2):77-88;Turek et al.,2001,Anal.Biochem.299:45-53を参照)。大きな特異的抗体の小さい蛍光リンペプチドへの結合は、そのタンブリング速度を遅らせ、蛍光偏光シグナルを高める。従って、蛍光偏光は、結合した蛍光のリンペプチドの量に比例する。このアッセイは、競合モードで使用でき、このモードでは、固定濃度の蛍光のペプチドおよび抗体が生体試料に加えられ、非蛍光リン酸化タンパク質またはリンペプチドの存在が、シグナルの減少として記録される。それは、直接結合モードでも使用でき、このモードでは、リン酸付加(例えば、キナーゼによる)または除去(例えば、ホスファターゼによる)が抗体結合を、従って、偏光シグナルを調節する。特定の実施形態では、蛍光偏光アッセイは、Turekら(2001,Anal.Biochem.299:45-53)の方法を用いて実施され、この場合、生成物特異的抗リン酸化ペプチド特異的(例えば、抗リン酸化セリン)抗体が用いられる。
【0262】
キナーゼ活性を評価するための他の好適な方法としては、リン酸化のための細胞ベースアッセイが挙げられる。例えば、タンパク質リン酸化に基づくシグナル伝達は、例えば、単一生細胞中で、蛍光指示薬を使って、Satoら(2002,Fluorescent indicators for imaging protein phosphorylation in single living cells,Nature Biotechnology 20(3):287-94)で開示されたものなどの方法を用いて、インビボで可視化される。このようなセンサーは、フレキシブルリンカーで分離された2個の蛍光タンパク質分子からなる。リンカーペプチドは、リン酸化部位およびリン酸化タンパク質認識要素を含む。リンカーのリン酸化は、立体構造変化を生じ、これが、2個の蛍光タンパク質を近接距離に動かし、FRETを生じさせ、系の蛍光出力を変える。
【0263】
加齢
T細胞は、細胞免疫で中心的な役割を果たし、加齢随伴病の多くは、免疫系の調節不全により影響を受け、その発生率は増加している。免疫応答、主にT細胞応答は、高齢化により調節不全になっていることを示唆する数多くの証拠が存在する(Fulop T et al,Longevity & Healthspan,2012,1:6)。老化過程に関連するT細胞のシグナル伝達経路でのいくつかの変化が記載され、細胞膜(脂質ラフト)内のリン脂質構造体がTCRカスケードの成分を集める働きをすることが提唱されている(Fulop et al(前出参照)で概説されている)。さらにLckおよびその活性化型の脂質ラフトへの動員が高齢者由来の活性化T細胞中で低減していることが示された(Larbi A et al,J Leukoc Biol,2004,75(2):373-381)。
【0264】
T細胞活性化経路の加齢に伴う変化が、実験動物モデルおよびヒトで観察されており、最も重要な変化がCD4+T細胞中で起こり、サイトカインインターロイキン2(IL-2)の産生およびクローン増殖の低減をもたらす(Fulop et al(前出参照)で概説されている)。
【0265】
IL-2系では、細胞内シグナル伝達がIL-2受容体のベータ鎖により誘発され、Lckの触媒ドメインの特異的部位と、IL-2Rβ受容体の細胞質ドメインとの間の結合の結果として、IL-2Rβ受容体がリン酸化Lckによりリン酸化される(Hatakeyama M et al,Science,1991,252:152308)。Lckは、T細胞のIL-2刺激時に活性化されることが示された唯一のSrcファミリーキナーゼであり(Brockdorff J et al,Eur Cytokine Netw,2000,11(2):225-31)、活性化Lckタンパク質は、抗原刺激の非存在下でIL-2産生を刺激することが示された(Luo K & Sefton BM,Mol Cell Biol,1992,12(10):4724-4732)。
【0266】
機能不全T細胞活性化および増殖は、加齢中の免疫機能低下における重要な変化であり(NASA-T-cell activation in aging,Report 2016;http://www.nasa.gov/mission pagres/station/research/wexperiments/857.html)、宇宙飛行と地上操作との比較から得られた情報は、これに関与する特定の因子の理解および特定に対する洞察を提供する。宇宙飛行および模擬微小重力は、早期T細胞活性化における重要な遺伝子発現の顕著な低下をもたらすことが知られており、多数の宇宙飛行任務は、インターロイキン2(IL-2)、インターロイキン2受容体アルファ(IL-2RαまたはCD25)、インターフェロンガンマ(IFNγ)および腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)の顕著な低減を示した(Martinez EM et al,Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol,2015,308:R480-R488で概説されている)。
【0267】
宇宙飛行中の免疫抑制に関する懸念は、宇宙飛行関連免疫系弱体化が地球の軌道を超えた人の存在の拡大を妨げる可能性があるかどうかが疑問視されていることである(Gueguinou N et al,J Leukocyte Biology,2009,doi:10.1189/jib.0309167)。本明細書に記載のように、少なくともいくつかの実施形態では、上述のサイトカインの発現ならびにCD4+およびCD8+T細胞の増殖は、通常および疲弊したT細胞の両方で、本明細書で記載の方法で利用される化合物により誘導され得る。従って、本発明の方法は、低および微小重力環境での使用にまで明示的に拡大される。
【0268】
本発明者らは、本明細書で記載のペプチドは、表3~9および
図1に示すように、Lckを活性化し、
図2に示すようにY394でのLckリン酸化を増大させることを示した。
【0269】
従って、一実施形態では、本発明は、Lckキナーゼの活性を高める方法を提供し、方法は、Lckキナーゼを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0270】
Lck活性化の下流効果を含むLckの活性は、本明細書で記載される。
【0271】
本明細書で使用される場合、「接触させること」という用語は、インビトロ系またはインビボ系中で示した部分(例えば、本明細書に記載のLck活性化ペプチドとLckキナーゼ)を一緒にすることを意味する。例えば、プロテインキナーゼを本明細書に記載の活性化剤と「接触させること」は、本発明の化合物の、キナーゼを有するヒトなどの個体または患者への投与、ならびに、例えば、本明細書に記載の活性化剤を、キナーゼを含む細胞調製物または精製調製物を含む試料中に導入することを含む。
【0272】
別の実施形態では、本発明は、Lckリン酸化を増大させる方法を提供し、方法は、Lckキナーゼを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0273】
本発明者らはまた、本明細書で記載のペプチドは、ヒトT細胞からのIL-2分泌を増大させることも示した(
図14、
図15、
図37、
図38、
図40)。重要なのは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドによる細胞の前処理が、抗原刺激の前に、ヒトT細胞からのIL-2分泌を増大させることである(例えば、
図34参照)。
【0274】
一実施形態では、本発明は、細胞または細胞集団からのIL-2分泌を増大させる方法を提供し、方法は、細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0275】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団からのIL-2分泌レベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)からのIL-2分泌のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団からのIL-2分泌のレベルは増大している。
【0276】
一実施形態では、細胞はT細胞である。
【0277】
本発明は、細胞の増殖を誘発する方法を提供し、方法は、細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0278】
本明細書で使用される場合、増殖という用語は、細胞数の増大、または細胞または細胞集団の細胞分裂数の増大を含み、増殖(expansion)と同義に使用される。一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドと接触させた細胞または細胞集団の細胞増殖レベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)の細胞増殖レベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団の増殖レベルは増大している。
【0279】
別の実施形態では、本発明は、細胞集団の増殖を増大させる方法を提供し、方法は、細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0280】
一実施形態では、本発明は、細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、NK細胞、または樹状細胞からなる群より選択される細胞である、または細胞集団はこれらからなる群より選択される細胞を含む。
【0281】
別の実施形態では、細胞は未感作細胞である、または細胞集団は未感作細胞を含む。
【0282】
好ましい実施形態では、本方法は、細胞または細胞集団に対し、インビボでまたはインビトロで実施される。別の好ましい実施形態では、本方法は、細胞または細胞集団に対し、エクスビボで実施される。
【0283】
別の実施形態では、本発明は、動物の細胞または細胞集団の増殖を増大させる方法を提供し、方法は、動物に、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を投与することを含む。
【0284】
本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物は、通常、有効量で投与される。本明細書で使用される場合、用語の「有効量」(例えば、「治療有効量」または「薬学的有効量」)は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドの、Lckキナーゼ活性の活性化を可能とする量、または分子または細胞応答を高めるまたは低減させる量を意味する。前記「有効量」は、個々の年齢および全身状態応じて、および治療または予防される特定の状態、治療期間、以前の治療、および状態の性質および既存期間などの因子により対象毎に変化する。
【0285】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載のLck活性化ペプチドは、通常、Lckを活性化するために、有効量で疾患または状態の症状のない対象に、例えば、任意の年齢の健常者に投与される。
【0286】
具体的には、活性化剤の有効量は、過剰のまたは許容できない毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題または合併症なく、適度なベネフィットリスク比に見合っているが、本明細書全体を通して開示されるものなどの適切な技術で評価して、所望の効果を与えるのに十分な量で対象に投与できるLck活性化ペプチドの量を規定する。従って、正確な有効量を指定するのは可能ではないが、当業者なら、定型実験および背景的一般知識を用いて、任意の個々の症例に適切な「有効」量を決定できる。これに関する治療結果には、症状の根絶または軽減が含まれる。治療結果は状態の完全な回復(すなわち、治癒)である必要はない。
【0287】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団に由来する細胞または細胞集団を提供する。例えば、本明細書に記載の方法よる(例えば、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と細胞または細胞集団とをインビボまたはインビトロ接触後)細胞または細胞集団に由来する、T細胞、NK細胞または樹状細胞、またはそれらの集団。別の態様では、本発明は、本明細書で記載の細胞または細胞集団の方法および使用を提供する。
【0288】
本発明者らはまた、本明細書で記載のLck活性化ペプチドは、CD4+およびCD8+T細胞(
図17、
図19)を含む、T細胞上のIL-2Rα(CD25)発現を増大させることも示した(
図3)。
【0289】
従って、一実施形態では、本発明は、細胞上のIL-2Rα(CD25)発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。一実施形態では、細胞はT細胞である。好ましい実施形態では、T細胞はCD4+T細胞またはCD8+T細胞である。
【0290】
上記で考察したように、本明細書記載の方法は、細胞または細胞集団に対し、インビボで(例えば、対象中で)またはインビトロで(例えば、エクスビボで)実施できる。同様に上述したように、本発明は、本明細書で記載の方法による細胞および細胞集団、および本明細書で記載の細胞または細胞集団の方法および使用を提供する。
【0291】
本明細書で記載のペプチドは、CD4+T細胞の増殖(
図17)、およびCD8+T細胞の増殖(
図35)を増大させる。従って、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを用いて、例えば、養子免疫細胞療法のために、細胞および集団の増殖をインビボおよびインビトロで誘導できる。
【0292】
従って、一実施形態では、本発明は、T細胞の増殖を増大させる方法を提供し、方法は、T細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。好ましい実施形態では、T細胞はCD4+T細胞またはCD8+T細胞である。
【0293】
人口統計学的進化は、公衆衛生に対する課題を示している。世界の住民、特に先進国の住民は、高齢化しており、60歳を超える人口の比率は、1950年の8%から2050年の予測値21%に増える見込みである(Compte N et al,PLOS One,2013,doi:10.1371/journal.pone.0065325で概説されている)。免疫機能の低下は、加齢の特徴であり、高齢者は、細菌およびウィルス感染症、癌ならびに低いワクチン応答の比率および重症度が次第に増加する。
【0294】
ヒトの免疫系は年齢と共に次第に劣化し、この欠陥は、ワクチンおよび感染症に対する免疫記憶の誘導能力の低下として顕在化する。病原体および腫瘍発生からの保護は、多様なTCRレパートリーの生成と維持に依存し、加齢でTCR多様性が顕著に低下することにより、新規病原体との戦いおよび反復感染に対する活発なリコール応答の開始が困難になる(Moro-Garcia MA et al,Front Immunol,2013,doi.org/10.3389/fimmu.2013.00107で概説されている)。
【0295】
病原体に対して戦う能力およびワクチン接種に応答する能力の低下は、CD4+およびCD8+T細胞での観察される変化に反映され、加齢における獲得免疫反応の劣化の防止は、CD4+T細胞集団の「若返り」により実現され得ることが提案された(Moro-Garcia MA et al,Front Immunol,2013,doi.org/10.3389/fimmu.2013.00107)。
【0296】
CD28発現の減少は、加齢に伴うCD4+T細胞機能の低下の証拠である。CD28は、T細胞活性化中に、サイトカイン産生(IL-2)の誘導および細胞増殖の促進などの重要な役割を果たすので、活性化中のこの共刺激シグナルの欠如は、部分的な活性化のみ、あるいはT細胞のアネルギー性状態を生ずる(Godlove J et al,Exp Gerontol,2007,42(5):412-5)。このように、CD28陰性T細胞の蓄積は、高齢者における病原体およびワクチン剤に対する低減した全体免疫応答に関連し(Sauerwein-Teissl M et al,J Immunol,2002,168:5893-5899)、65歳を超える一部の個人では、CD4+/CD28-T細胞は、総CD4+T細胞コンパートメントの最大50%を含む場合がある(Vallejo An et al,J Immunol,2000,165:6301-6307)。
【0297】
本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD8+およびCD4+T細胞上のCD28発現を高めることを示した(
図20)。
【0298】
一実施形態では、本発明は、細胞または細胞集団上のCD28発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0299】
好ましい実施形態では、T細胞はCD4+T細胞またはCD8+T細胞である。
【0300】
一実施形態では、細胞または細胞集団のCD28発現のレベルは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドと接触させた細胞または細胞集団上のCD28発現のレベルが本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)上のCD28発現のレベルと比較される場合または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物との接触の前後のレベルを比較する場合、増大される。
【0301】
哺乳動物の加齢中に、胸腺の健全性および機能が徐々に低下し、胸腺退縮は、免疫老化の重要な因子であると考えられる(Li L et al,J Immunol.2004,172(5):2909-2916)。マウス研究により、IL-12ノックアウトマウスでの加速胸腺退縮が示され、高齢の野生型およびIL-12ノックアウトの両方のマウスで、IL-12がIL-2誘導胸腺細胞増殖を増強する強力な相乗的効果をもたらすことを示した(Li et al、前出参照)。
【0302】
別の実施形態では、本発明は、対象の加齢関連免疫機能不全の治療および/または予防方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0303】
一実施形態では、LckまたはLck活性の抑制または下方制御を特徴とする疾患または状態は、病原性感染症、病原性感染症に由来する敗血症(例えば、慢性敗血症)、免疫不全障害、低下した免疫応答、減少したT細胞数、T細胞異常、T細胞疲弊、およびT細胞チェックポイント阻害からなる群より選択される。
【0304】
好ましい実施形態では、疾患または障害は、癌である。
【0305】
本明細書で使用される場合、「加齢関連免疫機能不全」という用語は、上述した加齢関連免疫変化を含む。
【0306】
別の実施形態では、本発明は、LckまたはLck活性の抑制または下方制御を特徴とする疾患または状態に関連する少なくとも1つの症状を治療および/または予防する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0307】
本明細書で使用される場合、「治療」という用語は、治療処置ならびに予防処置(障害または障害の症状の発症(加齢関連変化を含む)全体の予防、または障害の症状の発生(加齢関連変化を含む)、もしくは前臨床で明らかな個別の障害の段階の遅延化)を含む。
【0308】
「予防」という用語は、障害または障害の症状の発症の全体的予防、または障害もしくは障害の症状の発生、または前臨床で明らかな個別の障害の段階の遅延化を含む。これには、例えば、癌などの疾患を発症する危険のある人の予防処置が含まれる。「予防(prophylaxis)」は予防(prevention)のもう一つの用語である。
【0309】
加えて、高齢者における損傷IFNガンマ産生も、免疫リスク表現型の一因となり、高齢者の細菌生成物またはウィルス抗原による刺激に対して、このサイトカインを産生する能力の低下もまた、加齢に伴う疾患感受性の一因である(Ouyang Q et al,Eur Cytokine Netw,2002,13(4):392-4)。特に、加齢マウスが、インフルエンザウィルスに対する漸減したCD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を示すのは、一部は、低減したIL-18受容体(IL-18R)mRNA発現が原因であると考えられ、IL-12およびIL-18の両方は、加齢マウスのIFNガンマ産生を顕著に増大させることができ、それにより、加齢に伴うCD8+CTL欠損を元に戻すことができる(Zhang Y et al,J Interferon & Cytokine Res,2004,doi.org/10.1089/107999001753238097)。
【0310】
本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD4+T細胞によるIFNγ産生を増大することを示した(
図18)。
【0311】
従って、本明細書で記載のLck活性化ペプチドは、本明細書で記載のIFNγの生理学的効果を高めるために使用できる。
【0312】
一実施形態では、本発明は、細胞または細胞集団からのサイトカイン分泌を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0313】
好ましい実施形態では、サイトカインはIFNγである。
【0314】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団からのサイトカイン(例えば、IFNγ)分泌レベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)から分泌されたサイトカイン(例えば、IFNγ)のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団からのサイトカイン(例えば、IFNγ)分泌のレベルは増大している。
【0315】
好ましい実施形態では、T細胞はCD4+T細胞である。
【0316】
ナチュラルキラー(NK)細胞はまた、感染症および癌に対する免疫で重要な役割を果たす。加齢関連機能的NK細胞欠損は、ヒトおよびマウスで文書による十分な裏づけがあり、可溶性IL-15/IL-15Rα複合体の加齢マウス中への注射は、加齢関連NK細胞欠損を完全に回復することが示された(Chiu B-C et al,J Immunol,2013,doi:10.4049/jimmunol.1301625)。さらに、IL-15は、早期感染症に対する免疫応答で重要な役割を果たし、CD4+CD28-T細胞の細胞溶解性特性を高め、それらの抗原特異的応答を強化することが示された(Alonso-Arias R et al,Aging Cell,2011,10:844-852)。
【0317】
IL-15は、NKおよびCD8+T細胞の発生、機能および生存を促進し、IL-15によるシグナル伝達は、CD215(IL-15R)受容体を介して起こる。本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、NK細胞上のCD215発現を高めることを示した(
図28)。
【0318】
本明細書で記載のLck活性化ペプチドは、本明細書で記載のIL-15RおよびIL-15の生理学的効果を強化するために使用できる。
【0319】
従って、一実施形態では、本発明は、細胞または細胞集団からのIL-15分泌を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0320】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団からのIL-15分泌レベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)からのIL-15分泌のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団からのIL-15分泌のレベルは増大している。
【0321】
一実施形態では、本発明は、細胞上のIL-15R(CD215)発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0322】
一実施形態では、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団上のIL-15R発現のレベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)上のIL-15Rのレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団上のIL-15R発現レベルは増大している。
【0323】
別の実施形態では、本発明は、NK細胞のIL-15応答性を高める方法を提供し、方法は、NK細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0324】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団のIL-15に対する応答性のレベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)のIL-15に対する応答性のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団のIL-15に対する応答性のレベルは増大している。
【0325】
好ましい実施形態では、細胞はCD4+T細胞またはCD8+T細胞である。
【0326】
別の実施形態では、本発明は、NK細胞のIL-15応答性を高める方法を提供し、方法は、NK細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0327】
理論に束縛されることを意図するものではないが、IL-15に対する増大した応答性は、NKおよびCD8+T細胞の発生、機能および生存を調節することが予測される。
【0328】
本発明者らはまた、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、マウスにおいてNK細胞の増殖を増大させることを示した(
図28)。
【0329】
従って、一実施形態では、本発明は、動物においてNK細胞の増殖を増大させる方法を提供し、方法は、動物に、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を投与することを含む。
【0330】
別の実施形態では、本発明は、NK細胞集団の増殖を増大させる方法を提供し、方法は、NK細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。好ましい実施形態では、本方法は、NK細胞またはNK細胞集団に対し、インビボでまたはインビトロで実施される。別の好ましい実施形態では、本方法は、NK細胞またはNK細胞集団に対し、エクスビボで実施される。別の実施形態では、本発明は、NK細胞の増殖を誘導する方法を提供し、方法は、NK細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0331】
本発明者らはまた、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD8+T細胞およびNK細胞(
図33)のCD107a(脱顆粒マーカー)発現、ならびにNK細胞(
図21)上のNKp44およびNKG2Dの発現を高めることを示した。NKp44およびNKG2Dは、細胞溶解に関与する活性化受容体である。
【0332】
従って、一実施形態では、本発明は、CD8+T細胞またはNK細胞中のCD107aの発現を増大させる方法を提供し、方法は、CD8+T細胞またはNK細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0333】
理論に束縛されることを意図するものではないが、CD107aは脱顆粒マーカーであるため、CD8+T細胞またはNK細胞中のCD107aを増大させる方法は、細胞の細胞傷害性応答を増大させることが予測される。従って、一実施形態では、本発明は、対象の細胞傷害性応答を増大させる方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0334】
インターロイキン-2(IL-2)は、主にヘルパーT細胞により産生され、細胞免疫および体液性免疫に関与する種々の細胞の成長および機能を調節する成長促進サイトカインである。IL-2の発現は、年齢と共に減少し、この減少は、免疫機能の加齢関連低下に対応することが示された(Pahlavani MA & Richardson A,Mech Ageing Dev,1996,89(3):125-54)。さらに、加齢マウスへのIL-21投与は、新たに胸腺リンパ球形成を誘発することにより、それらの末梢T細胞プールを若返らせることが示された(Al-Chami E et al,Aging Cell,2016,15(2):349-60)。例えば、rIL-21治療加齢マウス由来のT細胞の刺激は、Lckキナーゼの活性化を強化したことを示し、これは、最終的に、対照加齢マウス由来のT細胞と比較して、それらのIL-2産生、CD25発現、および増殖能力を高めた(Al-Chami et al、前出参照)。
【0335】
本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD4+およびCD8+T細胞(
図17、
図19)を含む、T細胞株上のIL-2Rα(CD25)発現を増大させ(
図3)、CD4+T細胞の増殖(
図17)および、CD8+T細胞の増殖(
図35)を増大させさせることを示した。
【0336】
従って、本明細書で記載のLck活性化ペプチドは、本明細書で記載のIL-2Rの生理学的効果(例えば、IL-2に対する応答性)を高めるために使用できる。
【0337】
一実施形態では、本発明は、細胞または細胞集団のIL-2応答性を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0338】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団のIL-2に対する応答性のレベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)のIL-2に対する応答性のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団のIL-2に対する応答性のレベルは増大している。
【0339】
一実施形態では、細胞はT細胞である。好ましい実施形態では、T細胞はCD4+T細胞またはCD8+T細胞である。
【0340】
一実施形態では、細胞は未感作細胞である、または細胞集団は未感作細胞を含む。
【0341】
一実施形態では、本発明は、細胞上または細胞集団中のIL-2Rα(CD25)発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0342】
一実施形態では、本発明は、チェックポイント阻害剤の存在下で、CD25発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0343】
別の実施形態では、本発明は、細胞の増殖を誘発する方法を提供し、方法は、細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。好ましい実施形態では、細胞はCD4+T細胞、CD8+T細胞またはNK細胞である。
【0344】
別の実施形態では、本発明は、細胞集団の増殖を増大させる方法を提供し、方法は、細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。好ましい実施形態では、細胞集団はCD4+T細胞、CD8+T細胞またはNK細胞の集団である。上記で示したように、本方法は、細胞または細胞集団に対し、インビボでまたはインビトロで実施できる。別の好ましい実施形態では、本方法は、細胞または細胞集団に対し、エクスビボで実施される。
【0345】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団に由来する細胞集団を提供する。例えば、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団に由来する、T細胞、NK細胞または樹状細胞、またはそれらの集団。
【0346】
一態様では、本発明は、本明細書で記載の細胞または細胞集団の方法および使用を提供する。例えば、本明細書で記載の細胞または細胞集団は、CAR T細胞療法を含む養子免疫細胞療法のために使用できる。
【0347】
サイトカインIL-21は、狂犬病感染症に対する最適ワクチン誘導1次応答の発生に重要であり、 全細胞癌ワクチンでの強力な補助剤効力を有することが示された(Dorfmeier CL et al,PLoS Negl Trop Di,2013,doi:10.1371/journal.pntd.0002129;Gu Y-Z et al,Scientific Reports,2016,doi:10.1038/srep32351)。
【0348】
本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD4+およびCD8+T細胞(
図4)、NK細胞(
図5、
図6)上のIL-21R(CD360)発現を増大させ、加えて、T細胞によるIL-21産生を増大させる(
図7)ことを示した。
【0349】
一実施形態では、本発明は、細胞または細胞集団からのIL-21分泌を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0350】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団からのIL-21分泌レベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)からのIL-21分泌のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団からのIL-21分泌のレベルは増大している。
【0351】
一実施形態では、本発明は、対象の免疫応答を誘導する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0352】
一実施形態では、本発明は、細胞または細胞集団上のIL-21R(CD360)発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0353】
一実施形態では、細胞または細胞集団のIL-21R発現レベルは、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団のIL-21R発現のレベルが本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)のIL-21Rのレベルと比較される場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物との接触の前後のレベルを比較する場合、増大される。
【0354】
別の実施形態では、本発明は、細胞のIL-21応答性を高める方法を提供し、方法は、細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。好ましい実施形態では、細胞はCD4+T細胞、CD8+T細胞またはNK細胞である。
【0355】
一実施形態では、本発明は、細胞上のIL-21R(CD360)発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。別の実施形態では、本発明は、細胞のIL-21応答性を高める方法を提供し、方法は、細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0356】
一実施形態では、本発明は、ワクチン接種を必要としている対象にそれを実施する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を、ワクチンと同時にまたは順次に対象に投与することを含む。本発明はまた、ワクチン(例えば、ワクチン抗原)と共に処方された、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を提供する。
【0357】
免疫抑制
多くの新規抗癌剤の望ましくない重要な副作用は、壊滅的な敗血症に繋がる免疫抑制である。例えば、転移性腎臓癌用の薬剤であるソラフェニブは、10μM超の投与量で、休薬後でも、回復できないT細胞増殖性抑制を引き起こすことが報告された(Zhao W et al,Leukemia,2008,22:1226-1233)。Lck発現上昇の増大は、例えば、チロシンキナーゼ阻害剤治療を受けている慢性骨髄性白血病患者の免疫応答を再刺激するための実施可能な選択肢であると提案された(Wang G et al,BioMed Research International,2014,doi.org/10.1155/2014/682010)。さらに、例えば、BCR-ABLキナーゼ抑制剤のイマチニブ(Gleevec,ST1571)は、慢性骨髄性白血病の治療に極めて効果的である。しかし、この薬物による慢性治療は、免疫抑制を誘導し、これは、主に、LckおよびZAP70などのチロシンキナーゼの抑制に伴うT細胞機能不全に起因する(Wang G et al、前出参照)。加えて、グルココルチコイドは、TCR活性化に必要なシグナル伝達イベントを遮断する強力な免疫抑制剤として作用し、デキサメタゾンによるLckの抑制は、イノシトールホスフェート3下方制御し、それにより、TCRシグナル強度の低下により免疫応答を抑制することが示された(Harr MW et al,JBC,2009,284:31860-31871)。急速に拡大している癌におけるチロシンキナーゼ阻害剤の開発と使用に伴い、これらの薬物の生じ得る副作用は、臨床的にかなり重要になっている。イマチニブに加えて、ニロチニブおよびダサチニブも、例えば、Lck抑制の原因とされる、T細胞機能の抑制が報告された。
【0358】
上記で考察したように、本発明者らは、本明細書で記載のペプチドは、表3~10および
図1に示すように、Lck活性を高め、および
図2に示すようにY394でのLckリン酸化を増大させ、ならびにCD4+T細胞の増殖(
図17)およびCD8+T細胞の増殖(
図35)を増大させることを示した。
【0359】
従って、癌療法は、細菌スーパー抗原などの免疫強化薬物との組み合わせ治療から恩恵を受ける可能性がある。しかし、細菌スーパー抗原は、T細胞の非特異的活性化および大量のサイトカイン放出をもたらし、毒性ショックおよび多臓器不全などの重度の命を脅かす症状に繋がる抗原のクラスである。ブドウ球菌エンテロトキシンA(SEA)は、抗生物質関連下痢のよくある原因であるので、臨床現場での懸念材料である。SEAが原因の潜在的疾病率にもかかわらず、LckがSEAにより活性化されること(Wang G et al,BioMed Research International,2014,2014:Article ID 682010)および選択的Lck活性化剤の事前の欠乏を考慮して、慢性骨髄性白血病のイマチニブ媒介T細胞免疫抑制防止のためにSEAを使用すべきであることが提案されてきた。
【0360】
これらの報告は、T細胞発生および活性化および従って獲得免疫応答のためのLckの重要性を強調している(Stirnweiss A et al,2013,Sci Signal,6(263):ra13.Doi:10.1126/scisignal.2003607)。Lckの樹状細胞(DC)媒介活性化は、「TCRライセンシング」、同族ペプチド-MHCクラスII抗原複合体に対するTCR応答の感度と大きさを劇的に高めるプロセス、に繋がる(Meraner P et al,2007,J Immunol,178(4):2262-2271)。しかし、例えば、イマチニブは、Lck活性の抑制によりTCR誘導増殖および活性化を低減させる(Seggewiss R et al,2005,Blood,105:2473-2479)。これは、幹細胞移植後の、日和見感染および移植片対宿主または移植片対白血病反応の誘導という含意を有する(Seggewiss R et al,2005,Blood,105:2473-2479)。
【0361】
Lck遺伝子異常および疾患
多数のヒト疾患ヒト疾患が、Lck座位の異常により引き起こされ、一例は、T細胞急性リンパ性白血病である(Converse PJ,2003 Sept 24.Lymphocyte-specific protein-tyrosine kinase;Lck.Online Mendelian Inheritance in Man.,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/dispomim.cgi?id=153390.in)。 加えて、AML関連のほとんどのDNA変化は、誕生前に遺伝により受け継がれるのではなく、人の寿命の間に発生する。いくつかのこれらの後天性変化は、放射線または発癌化学薬品などの外的原因を有し得るが、ほとんどの事例では、それらが起こる理由は分かっていない。
【0362】
免疫反応応答におけるIL-2/IL-2Rα(CD25)軸
慢性感染症および癌では、T細胞は持続性抗原および/または炎症性シグナルに暴露される。このシナリオは、多くの場合、細胞機能の低下:「疲弊」と呼ばれる状態に関連する(Wherry EJ & Kurachi M,Nature Reviews Immunology,2015,15:486-499)。疲弊T細胞は、強固なエフェクター機能を失い、PD-1、LAG3、CD160、または2B4などのシグナル伝達チェックポイントで複数の抑制性受容体を発現し、変化した転写プログラムにより規定される。しかし、疲弊T細胞の再活性化は免疫を再活性化でき、HIV-1、C型肝炎ウィルス、およびなどの持続性感染症、および癌に対し、新しい治療標的を提供する(Wherry & Kurachi、前出参照)。
【0363】
本発明者らは、本発明のポリペプチドによる疲弊CD4+細胞の治療が、CD4+T細胞増殖、CD25発現、およびTNFαおよびIFNγ産生を誘導することを示した(
図17および
図18)。
【0364】
従って、一実施形態では、本発明は、T細胞の疲弊を低減する方法を提供し、方法は、T細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0365】
用語の「疲弊」は、多くの慢性感染症および癌の間に発生する持続的TCRシグナル伝達から生じるT細胞機能不全の状態としてのT細胞疲弊を意味する。これは、アネルギーが不完全なまたは欠陥シグナル伝達により生じないで、持続的シグナル伝達から生ずるという点で、アネルギーとは区別される。これは、不十分なエフェクター機能、抑制性受容体の持続性発現および機能的エフェクターまたは記憶T細胞とは異なる転写性状態の持続性発現により定義される。疲弊は、感染症および腫瘍の最適制御を妨げる。疲弊は、外因性負の調節経路(例えば、免疫調節性サイトカイン)ならびに細胞内因性負の調節(共刺激)経路(PD-1、B7-H3、B7-H4、など)の両方から生じ得る。一実施形態では、疲弊の低減のレベルは、少なくとも10%、あるいは、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%である。疲弊の測定方法は、当業者に既知である。
【0366】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させたT細胞またはT細胞集団のT細胞機能のレベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていないT細胞またはT細胞集団(例えば、対照のT細胞機能のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、T細胞またはT細胞集団の疲弊のレベルは減少している。
【0367】
別の実施形態では、本発明は、T細胞機能を高める方法を提供し、方法は、T細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0368】
本明細書で使用される場合、「T細胞機能を高めること」は、持続的なまたは増幅された生物学的機能を有するように、または疲弊したまたは不活性T細胞を再生もしくは再活性化するために、T細胞を誘導、誘発または刺激することを意味する。T細胞機能の強化の例としては、介入前のこのようなレベルと比較して、CD8+T細胞からのIFNγの分泌の増大、増殖の増大、抗原応答性(例えば、ウィルス、病原体、または腫瘍の除去)の増大、が挙げられる。一実施形態では、強化のレベルは、少なくとも50%、あるいは、60%、70%、80%、90%、100%、120%、150%、200%である。この強化を測定する方法は、当業者に既知である。
【0369】
上記で考察したように、本明細書記載の方法は、細胞または細胞集団に対し、インビボで(例えば、対象中で)またはインビトロで(例えば、エクスビボで)実施できる。
【0370】
別の実施形態では、本発明は、T細胞からのIFNγ分泌を増大させる方法を提供し、方法は、T細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。好ましい実施形態では、T細胞はCD4+T細胞である。
【0371】
初期の活性化時に、CD8+T細胞は、爆発的にIL-2を産生するが、その後、一過性の不応期に入り、その間、いくつかのエフェクター機能を維持するがIL-2を産生する能力を失う。この期間中、CD8+T細胞は、それらの増殖の継続および完全な機能的能力の回復のために、CD4+T細胞により供給される外因性IL-2に依存する(Cox MA et al,Trends Immunol,2001,32(4):180-186で概説されている)。IL-2は、CD25(IL-2Rα)、CD122(IL-2Rβ)およびガンマサブユニットからなるトリマー受容体を介してシグナル伝達を行う。CD25は、IL-12およびIL-2それ自体などの炎症性サイトカインに暴露後に発現上昇される。この炎症性サイトカインは、CD25発現の量と期間を調節し、次に、応答細胞の能力を制御してIL-2依存性シグナルを受信し、それにより、T細胞のエフェクターおよび記憶集団(memory pool)の形成に影響を与える(Cox et al,前出参照)。
【0372】
CD4+T細胞は、IL-2の生来の産生細胞であり、CD8+T細胞と一体になって応答の初期拡大ならびに耐久性のある防御二次反応を誘発できる記憶細胞形成を促進する。重要なのは、CD4+T細胞によるIL-2の分泌が、CD8+T細胞に応答することによりCD25発現を上方制御し、また、CD25+CD8+T細胞の増殖を増やすIL-2源も提供する(Cox et al,vide supra,Obar JJ et al,PNAS USA,2010,107(1):193-198)。さらに、IL-2は、外来性の刺激の非存在下で、CD25陰性Tリンパ球上のIL-2受容体のアルファ鎖の用量依存性発現をもたらすことが示された(Sereti I et al,Clin Immunol,2000,97(3):266-76)。従って、CD4+T細胞またはCD8+T細胞上のCD25発現の非存在は、病原性特異的応答の拡大期を制限する。従って、CD25などのサイトカイン受容体発現の調節が、CD25のより高い発現により細胞がより強力なIL-2シグナルを受けることを可能にするエフェクター細胞の生成における律速段階になる可能性が高い(Cox et al、前出参照)。
【0373】
慢性敗血症および癌に対して応答したエフェクターおよび記憶細胞の調節におけるCD25発現の重要性に加えて、CD25発現CD8+T細胞はまた、老齢期の効力の高い記憶細胞であることが明らかになり、高齢者でのこれらの細胞の蓄積は、老齢期の未感作T細胞の非存在下で、インタクト免疫応答性の前提条件であるように見える(Herndler-Brandstetter D et al,J Immunology,2005,175:1566-1574)。この知見は、高齢者集団における免疫コンピテントCD8+CD25+記憶T細胞の長期生存の支援を目的とする新規ワクチン接種手法の提案をもたらした(Herndler-Brandstetter et al、前出参照)。
【0374】
本発明者らはまた、本明細書で記載のペプチドが、ヒトCD4+およびCD8+T細胞上の(
図10)および治療されたマウスにおけるCD4+およびCD8+T細胞上の(
図26、
図27および
図29)IL-12Rβ2発現を高めることを示した。本明細書で記載のペプチドはまた、NK細胞上の(
図11)、および治療されたマウスにおけるNK細胞上の(
図27)IL-12Rβ1/IL-12Rβ2発現を増大させる。
【0375】
別の実施形態では、本発明は、細胞または細胞集団のIL-12R発現を増大させる方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0376】
一実施形態では、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団のIL-12R発現のレベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)のIL-12Rのレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団のIL-12R発現レベルは増大している。
【0377】
別の実施形態では、本発明は、細胞のIL-12応答性を高める方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0378】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞または細胞集団のIL-12に対する応答性のレベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)のIL-12に対する応答性のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団のIL-12に対する応答性のレベルは増大している。
【0379】
好ましい実施形態では、細胞はCD4+T細胞、CD8+T細胞またはNK細胞である。
【0380】
上記で考察したように、本明細書記載の方法は、細胞または細胞集団に対し、インビボで(例えば、対象中で)またはインビトロで(例えば、エクスビボで)実施できる。
【0381】
慢性ウィルス感染症または担癌状態中に、T細胞記憶形成および機能は、最終的に宿主保護を付与する能力に影響を及ぼす、応答抗原特異的T細胞のエフェクター機能および増殖能力の段階的障害に起因してかなり変化する(Jin H-T et al,BMB Reports,2011,44(4):217-231)。腫瘍環境では、CD8+腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)は、低レベルのCD25(IL-2Rα)発現を示し、従って、IL-2シグナル伝達に対し不応性であり、それらは、増殖、エフェクターサイトカインの産生および機能的記憶細胞への分化ができない(Mumprecht S et al,Blood,2009,114:1528-1536)。例えば、CML特異的CD8+T細胞は、レトロウィルス誘導マウスCMLモデル化するにおけるIFNγ、TNFαおよびIL-2などのエフェクターサイトカインの産生低下を示す(Mumprecht et al、前出参照)。
【0382】
本発明者らは、本発明のポリペプチドによる疲弊CD4+細胞の治療が、CD4+T細胞増殖、CD25発現、およびTNFαおよびIFNγ産生(
図17および
図18)、ならびに治療マウス由来の脾細胞によるIFNγ産生(
図27)を誘導することを示した。
【0383】
CD25発現は、NK細胞の細胞傷害活性と正に相関する。本発明者らは、Lck活性化ポリペプチドIK14004は、ルイス肺癌マウスの脾細胞中のNK細胞上のCD25の相対発現を高めることを示した(
図28)。
【0384】
従って、一態様では、本発明は、細胞傷害性細胞機能を高める方法を提供し、方法は、細胞傷害性細胞または細胞傷害性細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させることを含む。
【0385】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドと接触させた細胞または細胞集団の細胞傷害性細胞機能のレベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)の細胞傷害性細胞機能のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団の細胞傷害性細胞機能のレベルは高められている。
【0386】
別の実施形態では、本発明は、T細胞機能を高める方法を提供し、方法は、T細胞またはT細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0387】
本明細書で使用される場合、「T細胞機能を高めること」は、持続的または増幅された生物学的機能を有するように、または疲弊したまたは不活性T細胞を再生もしくは再活性化するために、T細胞を誘導、誘発または刺激することを意味する。T細胞機能の強化の例はとしては、介入前のレベルと比較して、CD8+T細胞からのIFNγの分泌の増大、増殖の増大、抗原応答性(例えば、ウィルス、病原体、または腫瘍の除去)の増大、が挙げられる。一実施形態では、強化のレベルは、少なくとも50%、あるいは、60%、70%、80%、90%、100%、120%、150%、200%である。この強化の測定方法は、当業者に既知である。
【0388】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドと接触させた細胞または細胞集団のT細胞機能のレベルを、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞または細胞集団(例えば、対照)のT細胞機能のレベルと比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後のレベルを比較する場合、細胞または細胞集団のT細胞機能のレベルは高められている。
【0389】
代表的細胞傷害性細胞機能およびT細胞機能端本明細書で考察される。
【0390】
本明細書で記載のペプチドは、CD4+T細胞の増殖(
図17)、およびCD8+T細胞の増殖(
図35)、および治療マウスのNK細胞の増殖(
図28)を増大させる。
【0391】
CD4+T細胞による樹状細胞のCD40L媒介ライセンシングは、強いCD8+応答の生成のために必要である。本発明者らは、本明細書で記載のペプチドが、CD4+T細胞上のCD40L発現を高めることを示した(
図12および
図13)。
【0392】
従って、一実施形態では、本発明は、T細胞上のCD40L発現を高める方法を提供し、方法は、T細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0393】
別の実施形態では、本発明は、CD8+T細胞応答を高める方法を提供し、方法は、CD4+T細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0394】
従って、一実施形態では、本発明は、T細胞の疲弊を低減する方法を提供し、方法は、T細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0395】
別の実施形態では、本発明は、T細胞からのTNFα分泌を増大させる方法を提供し、方法は、T細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0396】
上記で考察したように、本明細書記載の方法は、細胞または細胞集団に対し、インビボで(例えば、対象中で)またはインビトロで(例えば、エクスビボで)実施できる。
【0397】
抗原および/または炎症が除去されている急性感染症の設定では、エフェクターCD8+T細胞は、二次感染症時に複数のサイトカイン(IFNγ、TNFαおよびIL-2)を産生でき、強いリコール応答を開始できる機能的記憶CD8+T細胞にさらに分化する。対照的に、慢性感染症中は、抗原および炎症はエフェクター作動相後にも持続する。感染症が継続し、T細胞刺激が継続されるので、T細胞は、階層的にエフェクター機能を失い、疲弊状態になる。通常、IL-2産生およびサイトカイン多機能性、ならびに高増殖能力などの機能は早期に失われる。この後に、IFNγおよびTNFα産生の障害が続く。T細胞疲弊はまた、上記に示した抑制性受容体の量と多様性の漸進的増大に付随して起こり、これは、それらそれぞれのリガンドに結合時に、機能障害性T細胞を生ずる。
【0398】
複数の抑制性受容体の同時発現がT細胞疲弊の主要な特徴であることを考慮して、これらの受容体の同時標的化は、T細胞疲弊の相乗的逆転をもたらすことが示された(Wherry & Kurachi、前出参照)。例えば、慢性LCMV感染症では、マウスにおけるIL-10およびプログラム死受容体1(PD-1)経路の同時遮断は、CD8+T細胞疲弊の相乗的逆転に繋がり、IL-2治療とPD-1経路の遮断の組み合わせになるので、ウィルス制御を強化する。加えて、LCMVマウスモデルでは、CD25コンピテントCD8+T細胞は、LMCVで感染後、CD25欠損T細胞よりも5倍大きい数にまで増殖することが示された(Bachmann MF et al,Eur J Immunol,2007,37:1502-1512)。さらに、これらの研究者は、CD8+T細胞の誘導および維持がCD25シグナル伝達とほとんど無関係である急性/既往感染と対照的に、CD25シグナル伝達は、持続性ウィルス感染症中のウィルス特異的CD8+T細胞の維持に重要であることを示した。
【0399】
別の抑制性受容体の、CTLA-4は、慢性HIV感染症において、CD4+T細胞中で選択的に発現上昇されているが、CD8+T細胞中では発現上昇されておらず、これは、ウィルス抗原に反応したT細胞のIL-2産生能力の低下と相関し、CD4+T細胞機能不全と選択的に関連する可逆的調節経路を示している(Kaufmann DE et al,Nature Immunology,2007,8:1246-1254)。T細胞機能の階層的損失は、抗原暴露、炎症および抑制分子(PD-1、CD160、2B4)の発現増大の継続時間と関連している(Wherry J et al,Nature Immunology,2011)。さらには、CD4+/CD8+T細胞によるサイトカインの分泌が減少する(例えば、IL-2、TNFαおよびIFNγ)。同時に、慢性的感染HIV-1患者などの慢性敗血症の状態では、HIV特異的CD8+T細胞の表現型は、チェックポイント分子(例えば、PD-1、CD160)の蓄積を明らかにする。
【0400】
T細胞疲弊は、慢性HIV感染症の間の病原体除去失敗の重要な因子である可能性が高く、一部は、負の調節経路により調節される(Porichis F & Kaufamm DE,Curr Opin HIV AIDS,2011,6(3):174-180で概説されている)。例えば、HIV感染対象では、CTLA-4抑制性免疫調節受容体ならびにプログラム細胞死受容体-1(PD-1)は、CD4+T細胞中で発現上昇されているが、CD8+T細胞中では、発現上昇されていない(Kaufmann DE et al,Nature Immunol,2007,8:1264-1254)。これは、CD4+T細胞がウィルス抗原に反応してIL-2を産生する能力がないことと相関する。HIV患者由来のT細胞は、IL-2を産生する能力が障害され、リコール抗原に対する増殖性応答がHIV感染症では早期に妨害されており、IL-2によりインビトロで回復できる(Fauer AS & Panteleo G(Eds),Immunopathogenesis of HIV infection,Springer,doi:10.1007/978-3-642-60867-4,pp 41-42)。
【0401】
従って、高レベルの抗原の場合、HIV特異的CD4+T細胞の増殖の抑制は、ウィルス特異的CD4+T細胞の前駆細胞頻度が制限される機序によるものであり得る(McNeil AC et al,PNAS USA,2001,98:13878-3883)。さらに、PD-L1遮断抗体によるPD-1経路の遮断は、HIV特異的CD4+T細胞増殖を増大させる(Porichis & Kaufmann、前出参照)。
【0402】
しかし、CD4+T細胞のみが疲弊し、その後の抗原刺激に対し無効力になるだけでなく、CD8+T細胞も同様である。HIV感染症では、CD4+T細胞の減少は、CD8+T細胞の疲弊の増加および疾患進行と関連し、CD8+T細胞疲弊に対するCD4+T細胞応答の変化の影響は、大いに関連性がある(Wherry EJ & Kurachi M,Nature Reviews,2015,15:486-499)。疲弊したCD8+T細胞はまた、高発現のPD-1を有するが、一方、老化細胞は、それを有さない(Wherry & Kurachiで概説、前出参照)。さらに、IL-2治療とPD-1媒介阻害経路の遮断の組み合わせは、疲弊したCD8+T細胞を再活性化し、ウィルス量を低減するための顕著な相乗効果を有することが示された(Wherry & Kurachi、前出参照)。HIV-1特異的CD8+T細胞のエクスビボ増殖は、IL-2に大きく依存する(Lichterfield M et al,JEM,2004,200:701-712)。まとめると、慢性感染症におけるHIV特異的CD8+T細胞機能の低下は、HIV特異的CD4+T細胞ヘルパー機能の増強により、回復できる。
【0403】
T細胞疲弊の別の表現型マーカーは、Tim-3およびPD-1が慢性ウィルス感染症におけるCD8 T細胞機能不全を回復する最も効果的な手段である可能性があるという提案に繋がったCD8+T細胞上のTim-3発現である(Jin HT et al,PNAS USA,2010,107(33):14733-8)。さらに、最近の文献は、Tim-3との関連で、CD8+T細胞疲弊におけるLckの潜在的重要性を強調する。例えば、Tim-3の生理学的リガンドであるガレクチン-9は、受容体ホスファターゼCD45に結合し、これは、高レベルで存在する場合には、Lck上のY394を脱リン酸化し、それにより、Lck活性を低減させる(Clayton KL et al,J Immunol,2014,192(2):782-791)。
【0404】
さらに、ガレクチン-9は、Tim-3ならびにCD3シグナル伝達ラフト内のCD45のレベルを高めることができ、シナプスでの高濃度のこのホスファターゼは、Lckが負に制御され、TCRシグナル伝達の抑制に至る手段であるとして提案された(Clayton KL et al,J Immunol,2014,192(2):782-791)。加えて、TCRの抗CD3/CD28とのライゲーションにより活性化されたT細胞由来の細胞ライセートの分析は、LckのTim-3への動員をもたらし、Tim-3によるLckの隔離は細胞内Lckプールを枯渇させ、TCR鎖上のITAMモチーフのリン酸化を妨害することにより、TCRの不完全な活性化を生ずることも提唱された(Tomkowicz B et al,Plos One,2015,10(10):e0140694(doi:10.1371/journal.pone.0140694)。
【0405】
癌の場合、今日では、腫瘍は、特定の免疫チェックポイント経路を、特に、腫瘍抗原に特異的なT細胞に対する免疫耐性の主要機序として利用することが明らかになっており、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)およびプログラム細胞死タンパク質1(PD-1)の抗体遮断薬を用いる臨床試験は、持続性のある臨床的応答を生成する潜在力を有する強化された抗腫瘍免疫を示した(Pardoll DM,Nature Reviews Cancer,2012,12:252-264)。
【0406】
CTLA-4は活性化CD8+エフェクターT細胞により発現されるものではあるが、CTLA-4の主要な生理学的役割は、CD4+T細胞の2つの主要なサブセットに対する別々の効果:ヘルパーT細胞活性の抑制的調節および調節性T(Treg)細胞免疫抑制活性の強化、を介するものであるように思われる。しかし、癌免疫療法でのPD-1経路の遮断はまた、腫瘍内Treg細胞の数および/または抑制活性を漸減させることにより、免疫応答を高め得る(Pardoll、前出参照)。さらに、PD-1遮断は、組織中および腫瘍微小環境中のエフェクターT細胞の活性を強化するのみでなく、おそらく、腫瘍中のナチュラルキラー細胞活性およびPD-1 B細胞に対する直接的作用による抗体産生も強化する(Pardoll、前出参照)。癌では、主要な発現PD-1リガンドは、PD-L1であり、PD-L1の高発現は、ほぼ全ての癌型で認められている(Pardoll、前出参照)。従って、1つまたは複数の抑制性チェックポイントを単独でまたは組み合わせて標的とする治療は、癌の全身制御に対する大きな可能性を有すると考えられる(Allison JP,JAMA,2015,314(11):1113-1114;Creelan BC,cancer Control,2014,21(1):80-9)。
【0407】
本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドは、チェックポイント阻害剤PD-L1の存在下で、IL-2分泌をレスキューできることを示した(
図16)。
【0408】
従って、一実施形態では、本発明は、対象の癌を治療または予防する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。別の実施形態では、本発明は、対象の癌を治療または予防する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物をチェックポイント阻害剤と順次にまたは同時に対象に投与することを含む。
【0409】
代表的癌は、本明細書で言及される。
【0410】
別の実施形態では、本発明は、対象の免疫応答を活性化する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0411】
本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドが、Treg細胞の比率を減らし、抗PD1抗体と相乗的に作用することを示した(
図9)。
【0412】
従って、一実施形態では、本発明は、細胞集団中のTreg細胞の比率を減らす方法を提供し、方法は、Treg含有細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0413】
一実施形態では、本発明は、対象のTreg細胞の比率を減らす方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0414】
別の実施形態では、本発明は、対象の免疫抑制を低減させる方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0415】
PD-1標的療法による疲弊したCD8+T細胞のレスキューは、CD28依存性である。本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドが、CD4+およびCD8+T細胞中のCD28の発現を高めることを示した。
【0416】
従って、一実施形態では、本発明は、対象のT細胞の疲弊を減らす方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。別の実施形態では、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物が、チェックポイント阻害剤と順次にまたは同時に投与される。
【0417】
癌
低減した細胞免疫は、多くの癌および高レベルのプロスタグランジンE2(PGE2)に関連する。ホジキンリンパ腫におけるCD4+細胞は、インビトロでT細胞中のPGE2による健常者とは変化した類似の遺伝子調節を示し、これには、Lckの不活性化およびZAP70の低減したリン酸化を含むことが示された(Chemnitz JM et al,Cancer Research,2006,66:1114)。
【0418】
ホジキンリンパ腫および他の腫瘍では、機能不全CD4+T細胞活性化のために細胞免疫が低下し、ホジキンリンパ腫に関連する高レベルのPGE2がLckを抑制することによりCD4+T細胞機能を抑制することが示唆された(Chemnitz JM et al,2006,Cancer Res,66(2),<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abs tract&list_uids=16424048&query_hl=5&itool=pubmed_docsum>)。Lckはまた、薬剤耐性でも重要な役割を果たし、Lck欠損のT細胞は抗癌剤に対し耐性があることが示された(Samraj AK et al,2006,Oncogene,25:186-197,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=pubmed&dopt=Abs tract&list_uids=16116473&query_hl=18&itool=pubmed_docsum>)。
【0419】
シタラビンは、急性骨髄性白血病の治療で使用される最も効果的な化学療法剤の1つである(Frei E et al,Cancer Res,1969,29:1325-1332)。セリン/トレオニンキナーゼのp34cdc2キナーゼは、サイクリンAおよびBと複合体形成し、p34cdc2活性は、細胞分裂の開始のために必要である。従って、p34cdc2は、DNA合成の完了およびDNA損傷の存在を監視する有糸分裂チェックポイントとなる(Nurse P,Nature,1990,344:503-507)。しかし、DNA複製の状態は、p34cdc2のセリン/トレオニン活性に依存する一方で、これは、Tyr15上のp34cdc2のインビボでのリン酸化により調節され(Atherton-Fessler S et al,Mol Cell Biol,1993,13:1675-1685)、p34cdc2のセリン/トレオニン活性は、p34cdc2の触媒サブユニット中のTyr15のリン酸化により抑制されることが示された(Gould K & Nurse P,Nature,1989,342:39-44)。Lckキナーゼは、p34cdc2のTyr15をリン酸化することが示され(Draetta G et al,Nature,1988,336:738-744)、白血病および他の固形癌の治療におけるLck活性化剤の潜在的役割を示唆している。
【0420】
ゾレドロン酸およびIL-2の組み合わせによる末梢血血中のリンパ球のエクスビボまたはインビボ刺激による癌免疫療法のためのγ/δ Tリンパ球の標的化は、以前に記載され(Gomes AQ et al,Cancer Res,2010,doi:10.1158/0008-5472.CAN-10-3236;Dieli F et al,Cancer Res,2007,67(15):7450-7;Wilhelm M et al,Blood,2003,102(1):200-6)、本明細書に記載のLck活性化剤は、γ/δT細胞をエクスビボで生成するためのIL-2の使用の代替物として機能し、乳癌、前立腺癌からリンパ系悪性腫瘍までの範囲の悪性腫瘍の患者のための治療投与への用途を有し得る(Dieli F et al,vide supra;Wilhem M et al vide supra;Capietto AH et al,J Immunol,2011,187(2):1031-8)。加えて、腫瘍細胞に対するγ/δ T細胞傷害性は、リツキシマブおよびトラスツズマブを含む組み合わせ方式で強化されることが示され(Tokuyama H et al,Int J Cancer,2008,122(11):2526-343;Capietto AH、前出参照)、本発明は、上述の抗癌剤、および/または本発明による癌または他の疾患もしくは状態のための他の薬物との併用療法による本明細書に記載のLck活性化剤の使用にまで及ぶ。
【0421】
本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、
・腹腔内または経口投与される場合、肺転移を低減する(
図22);
・ルイス肺癌(LCC)モデルにおいて腫瘍面積を減らす(
図23);
・ルイス肺癌モデルにおいて、異種移植片腫瘍体積および腫瘍細胞生存率を低下させ、腫瘍中のCD45+細胞の比率を増大させる(
図24);
TCR刺激後に、ペプチド治療されたルイス肺癌マウスから取り出した脾細胞からのIFNγおよびIL-2放出を増大させる(
図25);
・ペプチド治療されたルイス肺癌マウスから取り出した脾細胞のTCR刺激後に、IL-12Rβ1およびIL-12Rβ2発現CD4+T細胞の比率を増大させる(
図26);
・ペプチド治療されたルイス肺癌マウス由来の脾細胞単細胞懸濁液(活性化されない)中のIL-12Rβ2の発現を増大させる(
図27);
・ペプチド治療されたルイス肺癌マウス由来の脾細胞中のNK細胞上のCD25(IL-2Rα)、CD215(IL-15R)、CD28およびNK細胞の発現を高める(
図28);および
・ペプチド治療されたルイス肺癌マウス由来のCD4+T細胞のTCR刺激の存在下でIL-12Rβ2の発現を増大させる(
図29)
ことを示した。
【0422】
従って、一実施形態では、本発明は、対象の肺癌を治療する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0423】
従って、一実施形態では、本発明は、対象の肺癌を予防する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0424】
多発性骨髄腫/白血病/リンパ腫
ホジキンリンパ腫に対するIL-2およびIL-12の同時標的化は、休止NK細胞および腫瘍細胞溶解の活性化を強化する(Hombach A et al,Int J Cancer,2005,doi.org/10.1002/ijc.20829)。本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD8+T細胞およびNK細胞中のCD107a(脱顆粒マーカー)発現(
図33)、ならびにNK細胞上のNKp44およびNKG2Dの発現(
図21)を高めることを示した。NKp44およびNKG2Dは、細胞溶解に関与する活性化受容体である。
【0425】
本発明者らはまた、本明細書で記載のペプチドが、ヒトCD4+およびCD8+T細胞上の(
図10)および治療マウスのCD4+およびCD8+T細胞上の(
図26、
図27および
図29)IL-12Rβ2発現を高めることを示した。本明細書で記載のペプチドはまた、NK細胞上の(
図11)、および治療マウスのNK細胞上の(
図27)IL-12Rβ1/IL-12Rβ2発現を増大させる。本発明者らはまた、本明細書で記載のLck活性化ペプチドは、CD4+およびCD8+T細胞(
図17、
図19)を含む、T細胞上のIL-2Rα(CD25)発現を増大させる(
図3)ことも示した。
【0426】
急性骨髄性白血病では、乱れたT細胞機能の複数の側面が診断時に作用し、疲弊および老化が主要な過程である(Knaus HA et al,JCI Insight,2018,doi:10.1172/jci.insight.120974)。実際に、急性および慢性白血病の患者のT細胞は、PD-1またはTIM-3などの疲弊マーカーを発現し、不十分な応答、例えば、機能不全増殖およびIL-2およびIFNγの低減した産生であり得る(Siska PJ et al,Blood,2014,124:4121)。本発明者らは、本発明のポリペプチドによる疲弊CD4+細胞の治療が、CD4+T細胞増殖、CD25、およびTNFαおよびIFNγ産生発現を誘導することを示した(
図17および
図18)。
【0427】
【0428】
多発性骨髄腫(MM)は、悪性のプラズマ細胞のクローン増殖を特徴とする進行性B系統腫瘍である。多発性骨髄腫中のT細胞はまた、腫瘍部位で疲弊および老化の特徴を示し、T細胞サブセットの数と機能は、MM患者では異常であり;例えば、CD4:CD8比率は逆転し、CD4細胞中のヘルパーT細胞1型:2型(Th1:Th2)比率は異常であり、T細胞活性化に必要なCD28発現レベルは、T細胞中で下方制御されており、MM患者から循環する樹状細胞は機能障害性である(Sharabi A & Haran-Ghera N,Bone Marrow Res,2011,Article ID 269519で概説されている)。本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD8+およびCD4+T細胞上のCD28発現を高めることを示した(
図20)。
【0429】
重要なのは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドによる細胞の前処理が、抗原刺激の前に、ヒトT細胞からのIL-2分泌を増大させることである(例えば、
図34参照)。
【0430】
従って、本発明は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドが予防的に、例えば、疾患の症状の発生前に、抗原刺激の前に、病原体への暴露の前に、等々に、投与される、方法および使用を提供する。
【0431】
別の態様では、本発明は、疾患または障害のない個体における免疫機能を強化する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドの有効量を対象に投与することを含む。
【0432】
加えて、骨髄腫腫瘍部位由来のCD8+T細胞は、CD3/CD28インビトロ刺激後にIFNγを産生できず、T細胞刺激物質に応答して脱顆粒する能力の低下を示す(Zelle-Rieser C et al,J Haematology & Oncology,2016,doi.org/10.1186/s13045-016-0345-30)。MMにおける機能不全免疫応答は、MM患者の末梢血中の機能的に活性な免疫抑制Tregの増大によりさらに強調される(Dosani T et al,Blood Cancer Journal,2015,5:e306で概説されている)。
【0433】
本発明者らはまた、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドが、免疫抑制Treg細胞の比率を減らすことを示した(
図8および
図9)。
【0434】
腫瘍浸潤リンパ球中のFoxp3+Treg細胞の存在は、様々なタイプのヒト癌での予後不良と相関する。本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドが、Foxp3+Treg細胞を減らすことを示した(
図8および
図9)。
【0435】
従って、本発明は、細胞集団中のFoxp3+Treg細胞の比率を減らす方法を提供し、方法は、細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0436】
IL-21は、免疫抑制Tregを抑制する。本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドが、T細胞によるIL-21産生を高めることを示した(
図7)。
【0437】
重要なことに、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2が抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)と組み合わされた場合、PBMC内のTreg(Foxp3+)の比率は意外にも有意にさらに低減され、抗PD-1抗体およびRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2が相乗的に作用することを示す(
図9)。
【0438】
従って、本明細書で記載のLck活性化ペプチドは、本明細書で記載のTreg細胞の比率を減らす生理学的効果を強化するために使用できる。
【0439】
一実施形態では、本発明は、細胞集団中のTreg細胞の比率を減らす方法を提供し、方法は、Treg含有細胞集団を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0440】
一実施形態では、Treg細胞はFoxp3+Treg細胞である。
【0441】
一実施形態では、本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させた細胞集団中のTregの比率を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドと接触させていない細胞集団(例えば、対照)中のTregの比率と比較する場合、または本明細書で記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触の前後で比較する場合、細胞集団中のTregの比率は減少している。
【0442】
アルツハイマー病(AD)
アルツハイマー病は、認知症の主要な原因であり、神経の変性および消失ならびに老人斑および神経原線維濃縮体の生成を特徴とする。
【0443】
PD-1/PD-L1経路チェックポイント阻害剤は、近年、遺伝子導入マウスモデルで、脳中の単球由来マクロファージ集団のIFNγ依存性増大を誘発し、脳アミロイドの除去および認知障害の改善を行うことにより、ADを回復させることが報告された(Baruch K et al,Nature Med,2016,22:135-37)。本明細書に記載のように、少なくともいくつかの実施形態では、本発明で利用される化合物は、PD-1/PD-L1相互作用により抑制された免疫応答をレスキューし得る。
【0444】
さらに、Lckは、神経突起成長の調節に関与し、臨床的報告は、AD患者の海馬中のLckの下方調節レベルについて記載した(Hata R et al,BBRC,2001,284:310-316)。実際に、ヒトLck遺伝子は、アルツハイマー病関連遺伝的結合領域1p34~36に位置している(Blacker D et al,Hum Mol Genet,2003,12:23-32)。最近の哺乳動物脳中のLckのインビトロおよびインビボでの機能的特性評価は、Lckが、記憶の取得と維持の重要なメディエーターであり、これは、ADで最も顕著に障害されたプロセスであることをさらに示唆している(Kim E-J et al,Cell Mol Life Sci,2012,doi:10.1007/s00018-102-1168-1)。
【0445】
本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドは、チェックポイント阻害剤PD-L1の存在下で、IL-2分泌をレスキューできることを示した(
図16)。
【0446】
HIV感染症
Lckは、CD4とCD8の両方に結合しているが、Lck活性は、CD4に結合した場合の方がより高い(Delves PJ and Roitt IM,editors.1998.Encyclopaedia of Immunology,Second Edition.San Diego:Academic Press)。HIVは、CD4+細胞の枯渇を特徴とし、Nefを欠くHIV株はAIDSにまで進行しない(Olszewski A et al,2004,PNAS.USA,101(39):http://www.pnas.org/cgi/content/full/101/39/14079)。HIV感染症におけるLckの重要な役割は十分に認識されている。例えば、不活性Lck発現細胞は、加速されたウィルス複製を示すが、一方、通常のまたは高い酵素活性を有するLck発現細胞は、初期内在性Lck酵素活性に比例して、ウィルス複製の遅延を示す(Yousefi S et al,2003,Clinical & Experimental Immunology,133(1):78-90)。
【0447】
Nef遺伝子は、霊長類レンチウィルス(ヒト免疫不全1型(HIV-1)、2型(HIV-2)、およびサル免疫不全ウィルス(SIV))に特有であり、約25kdのミリストイル化膜結合タンパク質をコードする(Greenway AL et al,1999,J Virol.,73(7):6152-6158)。細胞レベルでは、Nefは、CD4、インターロイキン2受容体、MHCクラスIを含む細胞表面受容体のレベルを低減させ、細胞内シグナル伝達を妨害し、特定のサイトカイン産生を低下させる(Greenway AL et al,1999(前出参照)で概説されている)。
【0448】
Nefは、T細胞拘束性Lckチロシンキナーゼ(リンパ球タンパク質チロシンキナーゼ)と直接に相互作用し、インビトロおよびインタクト細胞中の両方でLckキナーゼ活性を低減させ、それにより、近位および遠位Lck媒介シグナル伝達イベントの両方の障害を生ずる(Collette Y et al,1996,JBC,271:6333-6341)。LckのNefへの結合は、他のビリオンまたは細胞質タンパク質を必要としない。その理由は、Lckの触媒活性の抑制は、精製LckとHIV-1 NefまたはSIVタンパク質との間で起こることが示されているためであり、Nef媒介病態形成の複雑さを示している。
【0449】
具体的には、NefはLckのSH3ドメインに結合し、Lck触媒活性の抑制をもたらし(Collette Y et al,1996,JBC,271:6333-6341;Greenway A et al,1996,J Virol,70(10):6701-6708;Greenway AL et al,1999,J Virol,73(7):6152-6158)、Lckの活性化剤の開発は、抗レトロウィルス治療法の開発を補完し得る。
【0450】
Lckは、T細胞中でインターロイキン2(IL-2)刺激時に活性化される唯一のファミリーキナーゼである(Brockdorff J et al,2000,Eur Cytokine Netw.,11(2):225-231)にもかかわらず、以前の研究は、HIV感染症の患者のIL-2療法は抗レトロウィルス療法単独の使用を超える臨床的便益を付加しないことを示唆し、CD4+細胞数のかなりの持続的増大が観察された(The INSIGHT-ESPRIT Study Group and SILCAAT Scientific Committee,N Eng J Med,2009,361:1548-1559)。しかし、さらに最近のデータは、HIV DNAまたはタンパク質ワクチン剤と共に、IL-2のアジュバントとしての投与が、将来のHIVワクチン試験デザインで考慮されるべきであることを示唆し(Baden LR et al,2011,J Infect Dis,204(10):1541-1549)、いくつかの感染細胞株においてIL-2は実際に、HIV-1複製を抑制する(Raphael MO et al,2013,JBC,doi:10.1074/jbc.M113.468975)。
【0451】
これらの報告は、T細胞発生および活性化および従って獲得免疫応答のためのLckの重要性を強調している(Stirnweiss A et al,2013,Sci Signal,6(263):ra13.Doi:10.1126/scisignal.2003607)。
【0452】
重要なことに、本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチド(RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2)が、末梢血T細胞中でHIV複製を抑制することを示した(例えば、
図42)。
【0453】
本発明者らはまた、本明細書で記載のLck活性化ペプチド(RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2)が、CD4+T細胞増殖を誘導することを示した(例えば、
図17)。
【0454】
従って、一実施形態では、本発明は、対象のHIV感染症を治療する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0455】
その他の病原性感染症
ウィルス、細菌、原虫および寄生生物に起因する感染症に抵抗するための適切な免疫応答は、特定のキナーゼ活性の欠如によりそこなわれ、微生物の複製および細胞への侵入を容易にし、および/または効果的な免疫応答を抑制する。
【0456】
例えば、多くの細菌性病原菌が、宿主細胞と完全に結合する。一部は、細胞表面に結合したままで残るが、他のものは、内部移行する。腸内粘膜中のγ/δ上皮内T細胞は、隣接上皮細胞とのクロストークを介して侵入細菌の存在を検出でき、腸内微生物叢と共に恒常性を維持する免疫防御の階層の不可欠な要素である(Ismail AS et al,PNAS,2011,108:8743-8748)。
【0457】
細菌が浸潤後細胞内でそれらの生活環を確立できる高度に保存された進化手段は、細菌により産生されたUDP糖加水分解酵素を介する。これらは、UDP糖加水分解酵素および5’-ヌクレオチダーゼ活性を有する二官能性の酵素である。例えば、大腸菌は、UDP糖加水分解酵素を産生でき、この生成物は、Lck活性を著しく抑制する(Berger SA et al,JBC,1996,271:23431-23437)。具体的には、HeLa細胞の大腸菌による感染後、この比較的非特異的ヌクレオチダーゼは、アデノシンの蓄積を生じ、これは、Lck抑制に直接関与する。さらに、UDP糖加水分解酵素の過剰発現は、一旦HeLa細胞内に入った細菌の生存を強化することを示した。細胞内のATPの減少は、Lck抑制の原因ではなく、むしろ、原因は、ADP、AMPおよびアデノシンの蓄積であり(Berger et al、前出参照)、これらの研究者により、他の病原体も、感染状況中にこの酵素を用い得ることが提唱された。実際に、カンジダ・アルビカンス培養物は、好中球機能を抑制する原因であることが示されたアデノシンを含む(Smail EH et al,J Immunol,1992,148:3588-3595)。
【0458】
細菌性赤痢の原因物質であるフレクスナー赤痢菌はまた、活性化CD4+T細胞にインビトロで侵入し、化学誘引物質刺激に向かうT細胞遊走を抑制し、また、獲得免疫刺激部位内(すなわち、リンパ節)のインビトロT細胞動力学を低下させ、それにより、細菌に対する効率的免疫応答の誘導を妨げる(Nothelfer K et al,J Exp Med,2014,211(6):1215;Salgado-Pabon W et al,PNAS,2013,110:4458-4463、で概説されている)。さらに、細菌性赤痢マウスモデルでは、Unc119による治療は、赤痢菌感染症を抑制する(Vepachedu R et al,PLOS one,2009,doi:10.1371/journal.pone.0005211)。逆に、Unc119ノックダウンは、細菌侵入および死亡率を高めることが示された。同様に、Unc119ノックダウン後のTHP-1のウシ結核菌BCG感染症の高められた感染力が報告され、Unc119の作用は赤痢菌に特異的ではないことを示唆している(Vepachedu et al、前出参照)。Unc119の抑制効果は、そのAblファミリーキナーゼとの相互作用が原因であり、Srcファミリーキナーゼによる媒介によるものではなかった。これについては研究されなかった。さらに、Unc119ノックダウンは、用いた細胞株では、二重赤痢菌感染(double Shigella infection)であることが明らかになった。本発明まで、選択的Lck活性化剤は、以前に報告されたことがなかったと考えられている。(Bae O-N et al,J.Neuroscience,2012,32(21):7278-7286)。最近報告されたデータは、Unc119はT細胞中のLckを活性化できることを示唆するが、Unc119およびそのSH3ペプチドモチーフの両方は、Lckだけでなく、Srcキナーゼファミリー中のHck、LynおよびFynキナーゼメンバーも同様に活性化することが示された(Cen O et al,JBC,2003,278:8837-8845;Gorska MM et al,J Exp Med,2004,199(3):369-379)。従って、本明細書に記載のLck活性化剤は、代用抗生物質として作用し、または従来の抗生物質療法に対する補完療法として機能し得、本発明は、全てのこのような使用にまで拡張される。
【0459】
マラリアは、肝細胞および赤血球に感染するマラリア原虫種により引き起こされる非常に蔓延している疾患である。CD4+T細胞は、慢性血液期マラリアに対し保護し、CD8+T細胞の枯渇は、寄生生物の除去を遅らせ、これらの細胞を慢性疾患に対する保護に関係づける(Wykes MN et al,Cell Reports,2013,5:1204-1213で概説されている)。さらに、プログラム細胞死1受容体(PD-1)を介したシグナル伝達がHIV特異的CD4+およびCD8+T細胞を枯渇させると考えられているのと全く同じように、PD-1は、マラリア寄生生物特異的CD8+T細胞の減少および枯渇、およびより少ない程度でCD4+T細胞の機能の低下を媒介することが示された(Wykes et al、前出参照)。重要なのは、最近、PD-1ノックアウトマウスでは、CD8+T細胞により高められたIFNγ分泌は、マラリア感染に対する保護に関連付けられることが示され、将来のマラリアワクチン剤はCD8+T細胞の応答性を高めることを考慮すべきであるという提案に至ったことである(Wykes MN et al,Scientific Reports,2016,6:26210)。本明細書に記載のように、少なくともいくつかの実施形態では、本発明の方法により利用される化合物は、例えば、疲弊したマウスCD4+T細胞、ヒト末梢血単核球および例えば、CD8+発現ジャーカット細胞中のIFNγ分泌を強化でき、それにより、マラリアの治療における一定の役割を示し、このための本明細書に記載の化合物の使用は、明示的に包含される。
【0460】
例えば、ヘルペスウィルスサイミリチロシンキナーゼ相互作用タンパク質(Tip)がLckと物理的に相互作用し、安定発現している細胞株中でLck活性を抑制することを考慮すると、Tリンパ球向性ウィルス、例えば、ヘルペスウィルスは、Lck活性化剤のための、および本発明により実施される方法のための特定の標的である(Isakov N and Biesinger B,Eur J Biochem,2000,267(12):3413-21)。
【0461】
さらに、エボラウィルス属およびマールブルグウィルス属で代表されるフィロウィルスは、ヒトおよび非ヒト霊長類の致死性出血熱の原因である。このウィルスは、Bリンパ球およびTリンパ球の数を減らすことにより免疫系を攻撃する。CD4およびCD8リンパ球などのB細胞およびT細胞は、免疫制御因子としてサイトカインを産生するのに必要であり、2,3日内に死亡する患者は、アポトーシスによりB細胞およびT細胞数が減少していることが示された。T細胞は、ウィルス感染細胞の破壊のためには、活性化される必要があり(Wauquier N et al,Public Library of Science,2010,4(10):837-847)、ヒト血液末梢単核球の不活化エボラザイールウィルスへの暴露は、低減したIL-2産生をもたらすことが示された(Yaddanapudi K et al,The FASEB journal,2006,20:2519-2530)。従って、本明細書に記載のLck活性化剤の使用は、これらの疾患に対抗して、T細胞活性化の刺激およびIL-2産生への用途がある。
【0462】
さらに、本明細書に記載のLck活性化剤の使用はまた、結核などの他の感染症でも一定の役割がある。例えば、ほとんどの個体は、MTBを根絶できないにしても、結核菌(MTB)を制御するために、CD4+およびCD8+T細胞を必要とする。CD4+T細胞による認識を回避するために、MTB壁に最も豊富な糖脂質の1つであるMTBにより使用される分子機序は、糖脂質ManLAMによるシグナル伝達であり、これは、Lckリン酸化を抑制することによりTCRシグナル伝達を妨害するが、Tyr505のリン酸化は行わない(Mahon RN et al,2012,Cell Immunol.275(1-2):98-105;Mahon RN III,PhD学位論文,2010,http://rave.ohiolink.edu/etdc/view?acc num=case1275668686)。
【0463】
IL-12RB1は、結核菌感染症に対するヒトの抵抗力にとって不可欠である。本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、NK細胞のIL-12RB1発現を誘導することを示した。
【0464】
従って、一実施形態では、本発明は、対象の結核菌感染症を治療する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0465】
Lck活性の上方制御により本発明に従って抑制または治療され得る他の感染症には、ペストおよび肝炎ウィルスが挙げられる(例えば、B型肝炎ウィルスおよびC型肝炎ウィルス)。B型肝炎は、肝損傷および炎症などに繋がる最も蔓延しているウィルスであり、C型肝炎ウィルスは、T細胞疲弊に関連している(Ye B et al,Cell Death & Disease,2015,6,e1694)。ペストのペスト菌病の原学的薬剤に対する重要な病原性因子は、チロシンホスファターゼYopHである。細菌は、YopHを宿主細胞に注入し、Lckは、活性YopHを含む細胞中のその正の調節部位Tyr394で脱リン酸化されることが示された。Lckを遮断することにより、そのごく最初のステップでYopHはT細胞抗原受容体シグナル伝達を遮断し、この致死性疾患に対する防御免疫応答の発生を効果的に防止する(Alonso A et al,2003,JBC,279:4922-4928)。C型肝炎では、C型肝炎ウィルスコアタンパク質がT細胞に結合し、Lck活性化を抑制し、コアタンパク質がT細胞活性化の極初期イベントを抑制することを示唆する(Yao SQ et al,2004,J Virol,78(12):6409-6419)。
【0466】
全身感染、術後感染あるいは癌再発に対するかかりやすさの観点からの輸血の危険性は、1973年以来知られており、最近のメタアナリシスは、赤血球輸血後のこの健康管理関連感染のリスクを再確認している(Rhode JM et al,JAMA,2014,311(13):1317-1326;Blumberg N et al,Transfusion,2007,47(4):573-81;Fergusson D et al,Can J Anaesth,2004,51(5):417-24)。輸血誘導免疫調節の提案された機序は不明確なままであるが、一定の役割を果たすと見なされる実証された変化には、低減したCD4/CD8比率および低減したIL-2分泌が挙げられる(Kirkley SA,Clinical and Diagnostic Laboratory Immunology,1999,6(5):652-657)。従って、輸血に組み込まれたLck活性化剤の投与は、これらの状態の1つまたは複数のリスクを改善し得る。
【0467】
さらに、リンホカイン活性化キラー細胞を生成するための同系脾臓細胞のインビトロIL-2治療は、熱傷マウスモデルの敗血症関連する死亡のIL-2防止を強化することが示され、活性化Lckは、抗原刺激の非存在下でIL-2産生を刺激することが示された(Mendez MV et al,J Surg Res,1993,54(6):565-70;Luo K and Sefton BM,Mol Cell Biol,1992,12(10):4724-4732)。さらに、プロスタグランジンE2(PGE2)は、敗血症中のT細胞抑制で重要な役割を果たすことが知られており、新生児スプラーグドーリーラットの敗血症中のT細胞抑制モデルでは、IL-2産生の低減が付随して起こることが示された。このような抑制はCOX-2阻害剤で改善され、それにより、PGE2をこのプロセスに関連付けている。これを考慮して、およびT細胞のPGE2への暴露がLckの不活化およびZAP70の低減したリン酸化に繋がるので(Dallal O et al,Biol Neponate,2003,83(3):201-7;Chemnitz JM et al,Cancer Res,2006,66:1114)、本発明によるLck活性化剤による治療は、T細胞活性の刺激を介した敗血症中の免疫応答の刺激、およびIL-2産生刺激にも適用し得る。
【0468】
従って、本明細書に記載のLck活性化剤は、一連の用途、特に、Lckの活性化またはLck活性の刺激を必要とするいずれかの用途で広く使用される。本明細書に記載のLck活性化剤によりおよび/または本発明により実施される方法により治療され得る疾患および状態としては、Lckの最適未満の発現またはLckの抑制またはLckもしくはLck活性の下方制御を特徴とする疾患および状態、上皮内および粘膜内常在性T細胞機能不全および/または病原性感染症(例えば、慢性感染症を含む)、病原性感染症由来の敗血症(例えば、慢性敗血症)および輸血関連敗血症、癌および皮膚性および上皮悪性腫瘍に反応したT細胞活性化に対する要求に関連する障害;リンパ腫、ホジキン病および白血病を含む癌一般(例えば、乳癌、結腸直腸癌、および前立腺癌)の予防または治療;T細胞機能を抑制する治療法(例えば、癌および非癌状態の治療法)に起因する免疫抑制;限定されないが、重症複合型免疫不全症候群(SCID)、CD4/CD8 T細胞の生存を必要とする状態および細胞数を低下させる状態または障害(例えば、肺炎、インフルエンザ、ヘルペス感染症などの感染症)を含む免疫不全障害;ウィルス、細菌、真菌および寄生生物による病原性感染症;T細胞疲弊(例えば、癌または非癌状態(病原性感染症由来の敗血症(例えば、慢性敗血症)および/または癌または非癌状態の治療に関連する))、およびT細胞中のチェックポイント阻害(例えば、癌または慢性敗血症に関連する)、およびT細胞活性化経路の加齢に伴う変化が挙げられるが、これらに限定されない。
【0469】
種々のリガンド-受容体相互作用は、チェックポイントシグナル伝達阻害の一因となることが知られており(例えば、Pardoll DM,Nature Reviews Cancer,2012,12:252-264参照)、本発明の少なくともいくつかの実施形態では、T細胞機能は、これらの相互作用の1つまたは複数を抑制することにより回復され得る(例えば、PD-1/PD-L1相互作用)。従って、少なくともいくつかの実施形態では、本発明は、疲弊T細胞におけるT細胞シグナル伝達のチェックポイント阻害/抑制を克服するための、本明細書に記載のLck活性化剤の投与にまで明示的に拡張される。
【0470】
病原体および病原性感染のさらなる例としては、ヘルペスウィルス、ミクソウィルス、レオウィルス、エンテロウィルス、コクサッキーウィルス、エコーウィルス、口蹄疫ウィルス、C型肝炎を引き起こすウィルス(例えば、A型肝炎ウィルス、B型肝炎ウィルスおよびC型肝炎ウィルス)、脳炎および脈絡髄膜炎、サル免疫不全ウィルス、SARS、コロナウィルス、デング熱ウィルス、インフルエンザウィルスインフルエンザウィルス、黄熱病ウィルス、ウエストナイルウィルス、アレノウィルス、水泡性口内炎ウィルス、ライノウィルス、ヒトパピローマウィルス(HPV)、呼吸器多核体ウィルス、ヒトサイトメガロウィルス、および水痘帯状疱疹ウィルス(VZV)に加えて、ポックスウィルス、その他のTリンパ球向性ウィルスなどによるウィルス感染症;結核(例えば、ハンセン病)、グラム陽性球菌およびグラム陰性球菌、およびグラム陰性桿菌および球桿菌などのグラム陽性およびグラム陰性菌により引き起こされる疾患、溶血性連鎖球菌、腸球菌、および破傷風、ジフテリア、ならびにクロストリジウムおよびボツリヌス中毒感染症などの毒素産生細菌に加えて、他のマイコバクテリア感染症などによる細菌感染症;アメーバ症、マラリア(この原因物質は、熱帯熱マラリア原虫である)、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、トキソプラズマ症およびランブル鞭毛虫症などの原生動物感染症;および腸管寄生線虫、糸状虫、条虫(サナダムシ)および包虫などによる蠕虫感染症が挙げられる。
【0471】
上記の疾患または状態の予防または治療における本明細書に記載のLck活性化剤の使用に加えて、本発明の他の実施形態では、本発明によるLck活性化剤は、幹細胞治療(例えば、心臓幹細胞治療)、胚性幹細胞自己複製、および胚性幹細胞(例えば、胚盤胞胚芽の)の多能性の維持に対してさらなる用途があり得るが、それらに限定されず、全てのこのような使用は、本発明により明示的に包含される。
【0472】
養子免疫細胞療法(ACT)
難治性または進行性癌に対するワクチン接種の代用物は、養子T細胞療法(ACT)、すなわち、エクスビボ処理T細胞の投与である(Kaartinen T et al,Cytotherapy,2017,19(6):689-702)。さらに、マウス試験から、ACTの前の、エクスビボ増殖中のT細胞のコンディショニングもまた、インビボ効力に影響を及ぼす重要なパラメーターであることも明になった(Rubinstein MP et al,Cancer Immunol Immunother,2015,64(5):539-549)。T細胞の養子移入は、患者中で強力な抗腫瘍および抗ウィルス免疫を媒介でき、このような療法は、T細胞受容体、キメラ抗原受容体(CAR)または他のエフェクター分子を含む遺伝子情報の移入に依存し得る(Andrijauskaite K et al,Cancer Gene Ther,2015,22(7):360-367で概説されている)。
【0473】
インターロイキンは、T細胞のエクスビボ増殖中に培地中に取り込むと、T細胞機能を強化するためにうまく用いられた。例えば、IL-12コンディショニングは、CD8+T細胞のレトロウィルス媒介形質導入効率を改善し(Andrijauskaite K et al、前出参照);IL-21の添加は培養物中のリンパ球のより大きな増殖、およびCD8+中枢記憶T細胞の増大した収率を誘導することが示され(Zoon CK et al,Int J Mol Sci,2015,16:8744-8760);IL-21と共に培養したCAR+T細胞の養子移入はマウスのCD19+B細胞悪性腫瘍の制御を改善することが示された(Singh H et al,Cancer Res,2011,71(10:3516-3527)。
【0474】
養子免疫療法では、IL-12およびIL-18培養腫瘍灌流リンパ節(tumour-draining lymph node)細胞(TDLN)は、IL-12またはIL-18単独生成T細胞より効率的に、肺転移を根絶することを示した(Li Q et al,Cancer Res,2005,65(3):1063-70)。これは、IL-12およびIL-18を使って、抗体活性化TDLN細胞をTh1表現型に対して相乗的に極性化させることにより、強力なCD4+およびCD8+抗腫瘍エフェクター細胞を生成できることを示す(Li et al、前出参照)。
【0475】
IL-12受容体発現は、IL-12結合およびTh1免疫応答の誘導と相関する。本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD4+およびCD8+T細胞上の(
図10)、およびNK細胞上の(
図11)IL-12Rの発現を促進することを示した。
【0476】
従って、一実施形態では、本発明は、対象のTh1応答を誘導する方法を提供し、方法は、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物を対象に投与することを含む。
【0477】
T細胞は、IL-21を使って、養子免疫細胞療法のためにインビトロ/エクスビボで増殖できる。本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD4+およびCD8+T細胞上のIL-21Rの発現を促進することを示した(
図4)。本発明者らはまた、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、CD8+T細胞の増殖を促進し(
図35)、およびIL-2の存在下または非存在下でNK細胞のIL-21Rの発現を高める(
図5および
図6)ことを示した。
【0478】
特に、誘導多能性細胞は、胚性幹細胞の定義特性の維持のために重要な遺伝子および因子を発現させることにより、胚性幹細胞様状態に遺伝的にリプログラミングされた成熟細胞である。成熟細胞が幹細胞になるように一旦プログラムされてしまうだけで、それらはその後、所望生殖細胞層に分化するように誘導できる。Srcファミリーチロシンキナーゼのメンバーは、ヒト胚性幹細胞の分化に不可欠であるが、Lck発現レベルは、胚性幹細胞分化の関数として劇的に低下する(Zhang X et al,Stem Cell Res,2014,13(3 Pt A):379-389)。
【0479】
白血病抑制因子(LIF)は、マウス胚性および誘導多能性幹細胞の培養と誘導のために使用される重要な外因性因子の1つであり、マウス胚性幹細胞自己複製の重要な制御因子である「シグナル伝達性転写因子3」(STAT3)を活性化する(Dang-Nguyen TQ et al,Molecular Reproduction and Development,2014,81:230)。さらには、STAT3は、系統特異的差別化プログラムの活性化を妨げることにより、中胚葉および内胚葉系統の両方への分化を抑制することが知られている(Graf U et al,Genes,2011,2(1):280-297)。従って、STAT3は、未分化胚性幹細胞表現型の維持のために不可欠である(Raz R et al,PNAS USA,1999,Cell Biology,96:2846-2851)。
【0480】
重要なのは、STAT3の活性化は、多能性の誘導のための制約要因であり、その過剰発現は、多能性を達成するための追加の因子に対する要求を排除する(Yang J et al,Cell Stem Cell,2010,7(3):319-328)。従って、STAT3シグナル伝達は、STAT3が自己複製因子の発現を推進することから、主にナイーブ多能性を指示するマスターリプログラミング因子の1つと見なされる(Li Y-Q,Cellular Reprogramming,2010,12(1):3-13)。Lckは、STAT3を直接活性化することが示され、外来性LckによるSTAT3の活性化は、Lck特異的抑制剤PP1により減弱される(Lund TC et al,Cell Signal,1999,11(11):789-796)。従って、本発明によるLck活性化剤は、Lck活性の刺激を介してSTAT3活性を上方制御する働きをし得るので、幹細胞自己複製の促進と維持への用途がある。
【0481】
さらに、本明細書に記載のLck活性化剤は、T細胞、細胞媒介免疫を含む免疫および免疫応答の増強、細胞の免疫レシュキュー、T細胞受容体シグナル伝達の上方制御、1つまたは複数のサイトカイン(例えば、IL-2、IFNγおよびTNFαから選択される)産生の上方制御、T細胞の再活性化、T細胞免疫応答の再活性化への、および補助剤としての(例えば、ワクチン組成物に入れて、または個体に別々に投与して抗原に対する免疫応答を刺激するために)特定の用途がある。
【0482】
従って、個体のワクチン接種用のワクチン組成物がさらに本明細書で提供され、組成物は、薬学的に許容可能な担体と一緒に、本発明により実施される1種または複数のLck活性化剤を含む。ワクチンは、ワクチンの投与により免疫応答が生成される任意の好適な抗原、および任意選択で、抗原に対する免疫応答を刺激するための任意の追加の補助剤を含む。
【0483】
少なくともいくつかの実施形態では、T細胞受容体(TCR)の刺激は、本明細書に記載のLck活性化剤による治療に由来するT細胞の生理学的結果(例えば、高められたIL-2サイトカイン産生、発現上昇したT細胞シグナル伝達、など)を達成するために必要であり得る。即ち、Lck活性化剤は、根本的にT細胞を活性化するのではなく、T細胞受容体刺激の生理学的結果を高めるように作用し得る。従って、本明細書で記載の方法の少なくともいくつかの実施形態では、Lck活性化剤の投与により治療されるT細胞は刺激T細胞である。
【0484】
本発明の1つまたは複数の実施形態によるLck活性化剤に応答するT細胞集団は、例えば、上皮内T細胞、粘膜内T細胞、γ/δT細胞、樹枝状表皮T細胞、CD4+T細胞、CD8+T細胞、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞(Treg)、NK細胞、樹状細胞、および前述の細胞集団の組み合わせからなる群より選択され得る。
【0485】
本発明者らは、本明細書で記載のLck活性化ペプチドが、樹状細胞の生存率を高めることを示した(
図36)。従って、一実施形態では、本発明は、樹状細胞生存率を増大させる方法を提供し、方法は、樹状細胞を、本明細書に記載のLck活性化ペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0486】
別の実施形態では、本発明は、樹状細胞または樹状細胞集団の増殖を誘導する方法を提供し、方法は、細胞または細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物と接触させることを含む。別の実施形態では、本発明は、樹状細胞集団の増殖を増大させる方法を提供し、方法は、細胞集団を、本明細書に記載のペプチドを含む組成物と接触させることを含む。
【0487】
本明細書に記載のLck活性化剤またはその成分(例えば、式Iのペプチド(P)および/または式IIの化合物)は、当業者に周知の合成または組換え技術により得ることができる。さらに、本発明によるLck活性化剤を含むペプチド(P)は、アミノ酸または遺伝子コードによりコードされていないアミノ酸、またはアミノ酸類似体を組み込むことができる。
【0488】
例えば、1個または複数のD-アミノ酸、ベータアミノ酸、および/またはホモアミノ酸は、L-アミノ酸の代わりに利用し得る。実際に、ペプチド(P)は、部分的にまたは全てDアミノ酸、または例えば、D-アミノ酸、ベータアミノ酸、ホモアミノ酸、ベータホモアミノ酸、L-アミノ酸、およびL-またはD-ホモアミノ酸の内の1個または複数の組み合わせからなり得る。ベータアミノ酸の例としては、カチオン性アミノ酸のベータバリアント型を含む、ベータアラニン(NH2-CH2-CH2-COOH)、ベータフェニルアラニン、ベータトリプトファン、ベータチロシン、ベータロイシンなどが挙げられる。アミノ酸のホモバリアント型の例としては、L-システインと比較して追加のCH2基を有するホモシステインが挙げられる。従って、いくつかの実施形態では、本発明により実施されるLck活性化剤のペプチド(P)は、例えば、L-アミノ酸、D-アミノ酸またはL-、D-アミノ酸の混合物および/または上述の他のアミノ酸型を含み得る。D-アミノ酸を含むペプチドの使用は、例えば、ペプチダーゼ活性(例えば、エンドペプチダーゼ)を抑制し、それにより、インビボでのペプチドおよびその結果としてのLck活性化剤の安定性を高め、半減期を延長できる。
【0489】
本明細書に記載のペプチドまたは融合タンパク質は、本明細書に記載の方法で使用するために、三次元構造中で拘束され得る。例えば、それは、側鎖構造で合成され得る、あるいは既知のインビボで安定な構造を有する分子中に組み込まれ得る、または環化されてインビボで高められた剛性およびそれによる安定性を得る。環化ペプチド、融合タンパク質などのための種々の方法が既知である。ペプチドは、4種の異なる経路、すなわち、頭-尾(C末端からN末端)、頭-側鎖、側鎖-尾、または側鎖-側鎖により環化し得る。例えば、融合タンパク質のペプチドは、ペプチドまたは融合タンパク質に沿って相互に離した2個のシステイン残基を用意し、残基のチオール基チオール基を酸化してそれらの間にジスルフィド架橋を形成することにより環化して得てもよい。環化はまた、ペプチドのN末端とC末端アミノ酸または、例えば、リシン残基の側鎖上の正に帯電しているアミノ基と、グルタミン酸残基の側鎖上の負に帯電しているカルボキシル基との間で結合を形成することにより、実現し得る。環化を達成するために、アミノ酸間の直接化学結合の形成、または任意の好適なリンカーの使用もまた、十分に当業者の範囲内にある。本発明による環化を達成するために特に好ましい方法は、ラクタム基の形成およびラクタム化を使用した環化型のペプチドおよび/または本明細書に記載のLck活性化剤の形成は、明示的に包含される。好適なラクタム化方法を含む、環化を達成するための方法は、例えば、White CJ and Yudin AK.,Contemporary strategies for peptide macrocyclization.Nature Chemistry,June 2011,pp.509、に記載されている。この文献の全内容は、相互参照により本明細書に組み込まれる。
【0490】
本明細書に記載のLck活性化剤を含む、ペプチドまたは融合タンパク質はまた、炭水化物部分の結合またはアミノ酸残基のアルキル化またはアセチル化を生じる化学反応または化学結合の形成を伴う他の変化などの翻訳後または合成後修飾も含み得る。
【0491】
本発明によるLck活性化剤を含むペプチドのペプチド模倣体の使用も意図され、本明細書に明示的に包含される。ペプチド模倣体は、例えば、ペプチドの1個または複数のアミノ酸のアミノ酸類似体による置換を含み、アミノ酸類似体は、従来の活性、細胞毒性および/または他の好適なアッセイにより評価して、親ペプチドの活性を基本的に低減させない。
【0492】
本明細書に記載のLck活性化剤およびその成分は、化学的に合成、または従来の組換え技術を用いて製造できる。融合タンパク質をコードする核酸は、例えば、平滑末端化末端およびオリゴヌクレオチドリンカーを用い、必要に応じて消化して付着末端を得て、付着末端のライゲーションにより、所望のアミノ酸配列を有するペプチドをコードする別々のcDNAフラグメントを連結することにより得られる。あるいは、後で一緒に連結できる相補的末端を有するアンプリコンを発生させるプライマーを用いて、DNAフラグメントのPCR増幅を利用することができる。
【0493】
本明細書に記載のペプチドおよび融合タンパク質は、任意の好適な技術を利用して、インビトロで発現させ、哺乳動物対象への投与のために、または式IIの化合物に結合させてLck活性化剤を得て、本発明により実施される方法で使用するために、細胞培養液から精製され得る。
【0494】
ペプチド成分を一緒に結合する、および/またはターゲティング部分、例えば、scFvなどに結合するなどのために、固相ペプチド合成(SPPS)、クリックケミストリーおよびブドウ球菌ソルターゼA媒介ペプチド-ペプチド融合プロトコル、または前述の組み合わせを利用して、本明細書に記載のLck活性化剤を提供し得る。このような合成法のための種々のプロトコルがよく知られており、任意の好適なこのような方法を用い得る。
【0495】
治療薬の合成のためのFmocまたはT-bocまたは保護基を用いたSPPS法は、特に好ましい。このような合成法は、よく知られ、脱保護ステップの前後で洗浄ステップを有する、結合および脱保護反復サイクルを含む。本明細書で記載の少なくともいくつかの実施形態では、治療薬の全体が、SPSSにより固体担体上で合成できる。例えば、式IIのポリアミド部分の合成では、例えば、Fmocを有する疑似脂肪酸構成単位、保護2-アミノ基は、順次一緒に結合され、それぞれが上述のR基側鎖を有する3~5反復単位を有するポリアミド骨格部分を形成する。同様に、Lck活性化剤のペプチド成分はその後、ポリアミド部分(PM)に順次結合されて活性化剤がC末端でN末端方向に伸張された後、合成されたLck活性化剤は固体担体から切り離され、収集され得る。
【0496】
ソルターゼA(Srt A)は、黄色ブドウ球菌で最初に記載された細菌性酵素であり、トレオニンとグリシンとの間の切断配列LPXTGで切断し、アシル酵素中間体を生成し、これは、その後、N末端グリシン残基と反応して、酵素を放出し、グリシンとLPXTGタグ付き成分をペプチド結合により一緒に融合する。Levary,D.A et al.,“Protein-protein fusion catalysed by sortase A”.PLoS ONE,April 2011,Vol.6(4):1-6,e18342参照。また、例えば、Witte,M.D.,“Production of unnaturally linked chimeric proteins using a combination of sortase-catalysed transpeptidation and click chemistry”.Nat.Protoc.Sep 2013,8(9):1808-1819、およびBently ML.et al.,J.Biol Chem,2008,283:14762-14771、およびMazmanian SK.et al.,1999,Science,285:760-763も参照されたい。ソルターゼA媒介タンパク質ライゲーションを介して蛍光タグまたは毒素に結合した組換えHER1およびHER2標的化抗体が記載された。例えば、Madej MP et al.,Biotechnology and Bioengineering,2012,109:1461-1470,and Kornberger P.and Skeria A.,2014,mAbs 6(2):354-366を参照されたい。前出の全ての内容は、相互参照により、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0497】
クリックケミストリーは、1つの成分上の末端アジド基ともう一方の成分上のアジド基との間の金属触媒(例えば、Cu(I))アジド-アルキン付加環化反応により、成分がペプチド結合ではなく、1、2、3トリアゾール結合により一緒に結合されることによるなどの本明細書に記載のLck活性化剤の提供において、一緒に成分を結合するのに好適するもう一つの高収率法である。1、2、3トリアゾール結合は、従来のペプチド結合に対し生物学的等価体として機能し、それらは加水分解に耐性があるという優位性を有する。例えば、Li et al.,Click chemistry in peptide-based drug design,Molecules,2013,18,pp:9797-9817;doi:10.3390/molecules18089797参照。ジベンゾビシクロオクチン(DBCO)などのシクロオクチンも同様に、アジドと高反応性であり、上述のアジド-アルキン環化付加に対する代替形態のクリックケミストリー反応を提供する、またはアジド-アルキン環化付加と組み合わせて使用して、本発明により実施されるLck活性化剤を提供し得る。シクロオクチンベースクリック合成反応は、それらが銅またはその他の金属触媒なしで実施できるという点で有意性を有する。
【0498】
scFv、抗体または抗体フラグメントなどのターゲティング部分は、例えば、最初に、2つの成分のシステイン誘導体を作製し、これを切断し、HCl塩として精製後、マレイミド結合を採用し、溶液相中でシステインの遊離スルフヒドリルを利用して、それぞれのクリック試薬に結合させることにより、上述のLck活性化剤のリンカー部分(LM)に結合させることができる。ターゲティング部分は、その後、アジドまたはアルキン(または、例えば、DBCO)試薬で誘導体化し、リンカー部分(LM)に結合した相補性試薬を介してクリックコンジュゲーションが起こる。
【0499】
他の実施形態では、本発明による治療処置(例えば、病原性感染の予防または治療)を実施することを目的として、宿主細胞の細胞転写エレメントおよび翻訳リボソーム複合体を利用して核酸をインビボ発現させるために、哺乳動物対象の標的細胞に、本明細書に記載の融合タンパク質(すなわち、キメラタンパク質)Lck活性化剤(例えば、本明細書に記載のペプチド(P)を含む)をコードする核酸を遺伝子導入し得る。
【0500】
本明細書に記載のLck活性化剤をコードする核酸の発現のために、核酸は通常、最初にクローニングベクターに導入され、宿主細胞中で増幅され、その後、核酸は摘出され、細胞の遺伝子導入のために好適な発現ベクター中に組み込まれる。発現ベクターは、宿主細胞のゲノムDNAとは無関係に、核酸挿入断片の発現のために、または宿主細胞のゲノムDNA中への部位特異的相同または異種の組換えにより宿主細胞中での核酸挿入断片のその後の発現のために、設計され得る。
【0501】
通常、クローニングベクター(例えば、コスミド)は、ベクターの効率的複製を可能とするための複製起点(ori)、ベクターで形質転換された宿主細胞の選択を可能とするためのレポーターまたはマーカー遺伝子、および目的の核酸配列の挿入およびその後の切除を容易にするための制限酵素切断部位を組み込む。好ましくはクローニングベクターは、一連の制限酵素部位を組み込んだポリリンカー配列を有する。マーカー遺伝子は、薬剤耐性遺伝子(例えば、アンピシリン耐性のAmpr)、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、β-ラクタマーゼ、アデノシンデアミナーゼ(ADA)、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH)、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、ヒグロマイシン-B-ホスホトランスフェラーゼ(HPH)、チミジンキナーゼ(TK)、または、例えば、大腸菌LacZ遺伝子(LacZ’)によりコードされるβ-ガラクトシダーゼなどの酵素をコードする遺伝子であり得る。酵母レポーター遺伝子としては、イミダゾールグリセリンリン酸デヒドラターゼ(HIS3)、N-(5’-ホスホリボシル)アントラニレート異性化酵素(TRP1)およびβ-イソプロピルマレート脱水素酵素(LEU2)が挙げられる。発現ベクターはまた、このようなマーカー遺伝子を組み込んでもよい。使用可能なクローニングベクターとしては、哺乳動物用クローニングベクター、酵母および昆虫細胞が挙げられる。適用可能な特定のベクターとしては、pBR322ベースベクターおよびpUC118およびpUC119などのpUCベクターが挙げられる。
【0502】
好適な発現ベクターとしては、DNA(例えば、ゲノムDNAまたはcDNA)挿入断片の発現が可能なプラスミドが挙げられる。発現ベクターは通常、挿入された核酸配列が作動可能に連結される転写調節制御配列を含む。「作動可能に連結される」は、挿入断片の読み枠のずれなしに挿入配列の転写を可能とするために、核酸挿入断片が転写調節制御配列に連結されることを意味する。このような転写調節制御配列は、転写を開始するためのRNAポリメラーゼの結合を容易にするためのプロモーター、リボソームの転写mRNAへの結合を可能とする発現制御配列、およびプロモーター活性を調節するためのエンハンサーを含む。プロモーターは、特異的細胞系統でのみ核酸挿入断片の転写を容易にし、他の細胞型では容易にしない、またはこのような他の細胞型中では相対的に低レベルでのみ容易にする組織特異性プロモーターであり得る。発現ベクターの設計は、遺伝子導入されるべき宿主細胞、遺伝子導入方式、および核酸挿入断片の転写の所望のレベルに依存する。
【0503】
原核生物(例えば、細菌細胞)または真核生物(例えば、酵母、昆虫または哺乳動物細胞)の遺伝子導入に好適する多数の発現ベクターが当技術分野において既知である。
【0504】
真核細胞の遺伝子導入に好適する発現ベクターとしては、pSV2neo、pEF.PGK.puro、pTk2、pRc/CNV、pcDNAI/neo、ポリアデニル化部位および伸長因子1-aプロモーターを組み込んだ非複製アデノウィルスシャトルベクターおよびサイトメガロウィルス(CMV)プロモーターを組み込んだものが最も好ましいpAdEasyベース発現ベクターが挙げられる。昆虫細胞中での発現のために、バキュロウィルス発現ベクターを利用し得、この例としては、pVL1392およびpVL941などのpVLベースベクター、およびpAcUW1などのpAcUWベースベクターが挙げられる。本発明の実施形態による哺乳動物細胞中での核酸挿入断片の発現のために好ましい発現ベクターとしては、pEF.PGK.puroなどのCMVまたは伸長因子1aプロモーターを有するプラスミドが挙げられる(Huang,David C.S.et al.,Oncogene(1997)14:405-414)。pEF.PGK.puroプラスミドは、SV40起点、EF-1aプロモーター、ポリクローニング部位およびポリA領域を含み、本明細書に記載のペプチドまたはキメラタンパク質をコードする核酸挿入断片の発現に特に好ましい。
【0505】
種々の形態の発現ベクターが当技術分野において既知であり、このような任意の好適な発現構築物を意図する目的のために使用し得る。ウィルス移入方法も本明細書に記載のLck活性化剤をコードする核酸の標的細胞中へのインビトロまたはインビボでの導入を行うために使用できる。標的細胞への送達のために発現ベクターをパッケージ可能な好適なウィルスとしては、アデノウィルス、ワクシニアウィルス、トリのレトロウィルス、単純ヘルペスウィルス(HSV)およびEBVを含むマウスおよびヒト起源ヘルペスウィルス、SV40などのパポバウィルス、ならびにアデノ随伴ウィルスが挙げられる。本明細書で記載の方法で有用な特に好ましいウィルスとしては、複製能欠損型組換えアデノウィルスまたはその他のウィルスが挙げられる。組換えウィルスを、局所または全身投与して、ペプチドまたは融合タンパク質をコードする核酸の標的細胞への送達を行い得る。本明細書に記載のペプチドまたは融合タンパク質をコードする核酸はまた、当技術分野において既知の、従来の低温ショックまたはヒートショックまたは例えば、リン酸カルシウム共沈法電気穿孔プロトコルを用いて、細胞内にインビトロ送達し得る。
【0506】
遺伝子導入された細胞は、スクリーニングして、核酸挿入断片の安定で再現可能な発現、および付随するコードされたペプチドまたは融合タンパク質の産生を示す培養物または細胞株を特定できる。種々の宿主細胞内の核酸の安定な統合および発現は当該技術分野において周知である。本明細書に記載のペプチドまたは融合タンパク質の発現に使用できる宿主細胞としては、大腸菌、枯草菌、ラクチス乳酸菌、ストレプトマイセスおよびシュードモナス、ブレビバクテリウムおよび特にB.リネンス菌株などの細菌およびプロバイオティクス細菌、サッカロマイセスおよびピキアなどの酵母、昆虫細胞、鳥類細胞およびチャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS、HeLa、HaRas、WI38、SW480、およびNIH3T3細胞などの哺乳動物細胞が挙げられる。組換えタンパク質産生のための大腸菌の使用はよく知られており、このような発現系で使用するための好適なプロモーターとしては、T7、trcおよびlacUV5(Tegel H et al,FEBS Journal,2011,278:729-739)が挙げられる。宿主細胞は、好適な培地中で、標準的精製技術を使用し得る場合は、宿主細胞、および/または上清由来の発現された産物の精製の前に、導入された核酸の発現を容易にするための条件下で培養される。さらに、発現産物は、下記の標的化ミニ細胞調製物が作製される宿主細胞(例えば、大腸菌などの細菌細胞)内でELISAによる定量化のためにヒスチジンタグを含み得る(MacDiarmid J et al,Cancer Cell,2007,11:431-445)。
【0507】
特に、ミニ細胞(例えば、De Boer PA,et al.,A division inhibitor and topological specific factor coded for by the minicell locus determine proper placement of the division septum in E.coli.Cell,56;641-649,1989)、リポソーム、ゴースト細菌細胞、caveosphere、合成ポリマー薬剤、超遠心分離ナノ粒子および他の無核ナノ粒子を、標的細胞へのカーゴの標的化送達のために、本明細書に記載のLck活性化剤、核酸または発現ベクター(例えば、プラスミド)と共に添加し得る。このようなシャトルは、注射のために、または胃の酸環境を通過して、小腸を介するカーゴの放出と取り込みのための経口摂取のために、処方され得る。
【0508】
ミニ細胞は、正常細胞分裂を制御する遺伝子の変異により産生され得るナノサイズの細胞であり、細胞質を含み、従って、親細胞のタンパク質発現のための細胞質成分を含むが、これは無染色体であり、自己複製はできない。細胞分裂を制御する抑制(または上方制御)遺伝子によるミニ細胞の生成は、静脈内注射で通常使用されるよりも遙かに少ない投与量での腫瘍への薬物送達に対する解決策を提供することが示された(MacDiarmid,J.A.et al.,JC(2007),Cancer Cell;11;431-445)。本発明との関連でのミニ細胞は、遺伝子変異および/または関与する細胞成分の抑制によるなどの細胞分裂工程(例えば、二分裂)の乱れまたは障害から生ずる場合があるように、親細胞の異常細胞分裂により産生される任意の無染色体細胞であり得る。本明細書に記載の方法で使用するためのミニ細胞は、従来から既知の方法、例えば、国際公開第03/033519号、米国特許第7,183,105号、およびMacDiarmid,J.A.,et al.,2007に記載のものにより作製できる。これらの全ての内容は、相互参照によりその全体が明示的に本明細書に組み込まれる。細胞分裂を制御し、細菌性ミニ細胞を生成する細菌遺伝子の不活性化は、例えば、De Boer,P.A.,et al.,“A division inhibitor and a topological specificity factor coded for by the minicell locus determine placement of the division septum in E.coli”.Cell 56,1989,pp.641-649でさらに記載されている。密度勾配遠心分離(例えば、オプティプレップ(登録商標)、Axis-Shield PLC,Dundee,Scotland)およびクロスフロー濾過を利用するインタクトミニ細胞の精製方法は、米国特許第7,611,885号および同第8,003,091号に記載されている。両特許の内容も、相互参照によりその全体が本明細書に明示的に組み込まれる。
【0509】
本明細書で有用なミニ細胞が誘導される細菌細胞の例としては、大腸菌(E.coli)(例えば、MinA、MinB、cya、crp、MukA1、またはMukeEに変異を有する、またはminB、minE、flsZ、sdiを過剰発現するもの)、枯草菌属菌種(例えば、minC、minD、ripXに変異を有する、またはsmc変異またはOriC欠失を有する)、ラクトバチルス属菌種、およびシュードモナス属種種などの細菌が挙げられる。細菌は、グラム陽性(例えば、リステリア・モノサイトゲネス)またはグラム陰性(例えば、緑膿菌)であり得る。外膜中にポリンを有する細菌(すなわち、通常グラム陰性菌であるが、一部のグラム陽性菌もポリンを有する)から分離されたミニ細胞は、標的細胞に送達されるべき核酸、発現ベクターまたは本明細書に記載のLck活性化剤を含むミニ細胞の添加を容易にするために特に好ましい。ミニ細胞はまた、始原細菌または真核細胞からも誘導され得る。例えば、米国特許第7,183,105号を参照されたい。しかし、通常、細菌由来ミニ細胞、すなわち、細菌性親細胞から誘導されたミニ細胞が利用される。
【0510】
本発明による治療を実施するための細胞に対するミニ細胞の標的化は、任意の好適なターゲティング部分の使用により(例えば、ミニ細胞またはリポソームなど上の二重特異性抗体、scFv標的化ペプチドなどを介して)達成され得る。ターゲティング部分は、ミニ細胞の表面上に発現できる、または、例えば、ミニ細胞は、1個または複数の選択ターゲティング部分でタグ付けまたは標識できる。特に好ましい実施形態では、ミニ細胞の腫瘍細胞への標的化は、ミニ細胞表面リポ多糖類のO抗原成分および標的化される哺乳動物細胞に特異的な細胞表面受容体(例えば、EFGR)を認識する二重特異的抗体複合体の形のターゲティング部分を用いて達成され得、複合体の2個の抗体はプロテインA/Gを使用して、Fc領域を介して一緒に結合されている(MacDiarmid,J.A.,et al.,JC(2007),Cancer Cell;11;431-445、および国際公開第03/033519号を参照)。しかし、本発明はこれに限定されず、上述の他のターゲティング部分も採用し得る。
【0511】
本明細書に記載のLck活性化剤は、ミニ細胞内で、またはミニ細胞上で標的細胞または組織に輸送される。例えば、Lck活性化剤は、ミニ細胞中に添加され、ミニ細胞の膜中で発現され、またはミニ細胞の膜上で、例えば、電荷会合により運搬され得る。
【0512】
ミニ細胞は、Lck活性化剤または核酸を含むインキュベーション培地中でのミニ細胞のインキュベーションを介した受動的拡散により、本明細書に記載のLck活性化剤または核酸(例えば、発現ベクター)と共に添加され得る。添加を支援するために、Lck活性化剤または核酸をミニ細胞に対し透過性に(例えば、ミニ細胞に穴を開ける)し得る、または薬剤のミニ細胞透過性を従来から既知の技術によるなどの他の方法で増大または強化し得る。
【0513】
特に、本明細書に記載のLck活性化剤および核酸の細菌性ミニ細胞の膜を介した侵入を、種々の既知の可逆的および不可逆的方法を使用して容易にし得る。これらには、電気穿孔(Miller L.et al,Technology in Cancer Research & Treatment,2005,4:1-7)、ジギトニン(Melo RF.et al,Cell Biochemistry and Function,1998,16:99-105)、NSAID(Mizushima T,Inflammation and Regeneration,2008,28:100-105)、トリトン-X100(van de Ven AL.et al,J Biomedical Optics,2009,14(2):1-10)、植物サポニン(Bachran C.et al,Mini-Reviews in Medicinal Chemistry,2008,8:575-584)、乳酸(Alakomi HL et al.,Appl Environ Microbiol,2000,66(5):2001-5)などへの暴露が挙げられる。
【0514】
あるいは、ミニ細胞が産生され得る細菌または他の細胞は、本明細書に記載のLck活性化剤の発現の発現ベクターで遺伝子導入され得、産生されるとミニ細胞は、発現したLck活性化剤と共に添加される。
【0515】
ミニ細胞の含有物またはカーゴの標的細胞への侵入は、ミニ細胞と、NK細胞、DC、T細胞などの標的細胞上に発現した細胞表面受容体との相互作用から生ずる食作用(例えば、好中球およびマクロファージによる)またはエンドサイトーシス(クラスリン媒介またはクラスリン非依存性エンドサイトーシス)によるミニ細胞の標的細胞中への移動、およびその後のミニ細胞の分解とミニ細胞の内容物の標的細胞の細胞質中への放出(例えば、細胞内区画、例えば、エンドソームおよび/またはリソソームから)により行われる。
【0516】
ミニ細胞の添加を支援するために、本明細書に記載のLck活性化剤の実施形態のペプチド成分は、細菌由来ミニ細胞上に存在するLamBポリンを介した輸送を容易にするために、炭水化物部分、例えば、グルコース(DまたはL異性体)に結合できる。ポリンスーパーファミリーは、グラム陰性菌の外側細胞膜を横切る水充填細孔を形成する多数のホモトリマー膜貫通型タンパク質を含む。ほとんどのポリンは、環境変化により調節される通常の非特異的チャネルを形成する。マルトポリン(LamBポリン)は、マルトースおよびマルトデキストリンの大腸菌細胞中への誘導拡散に関与する。特に、LamBタンパク質はまた、グルコースの拡散を容易にでき(von Meyerburg K and Nikaido H,Biochem Biophys Res.Vol.78:pp1100-1107,(1977))、グルコースは広範囲の試験糖類由来のLamBタンパク質をインビトロで横切る最速の拡散速度を有することが明らかになった(Luckey M and Nikaido H,Proc.Natl.Acad.Sci.USA Vol.77:pp167- 171,(1980))。本明細書に記載のLck活性化剤、融合タンパク質およびそのペプチド成分は、超音波処理または界面活性剤を用いた細胞膜の破壊、遠心分離による膜および固体断片の除去、および適用可能な場合には、親和性または免疫親和性クロマトグラフィーにより、当該技術分野において既知の方法で溶液または上清からの精製により細胞培養物から精製できる。使用可能なこのような好適な固体基材および支持体としては、限定されないが、アガロース、セファロースおよび他の商業的に入手できる支持体(例えば、ラテックス、ポリスチレン、またはデキストランなどのビーズ)が挙げられる。その後の溶出およびそれからの濃縮のために、本発明のペプチドまたは融合タンパク質を固体支持体上に固定するための抗体、その結合フラグメントまたは他の好適な結合分子を、一般に用いられるアミドまたはエステルリンカーを利用して、または吸着により、固体基材に共有結合させ得る。
【0517】
さらに、リポソーム、高分子、固体金属含有ナノ粒子などとしての使用に好適するアルブミン、ゼラチン、リン脂質などのナノ粒子を、本明細書に記載のLck活性化剤の送達のために利用し得る(例えば、De Jong WH & Borm PJA,Int J Nanomedicine,2008,3(2):133-149を参照)。標的細胞の種々のリガンドまたは受容体に対する抗体を用いたナノ粒子の外側コーティングの技術は、十分に認められており、本発明の実施形態でも用いることができる。
【0518】
特に、本発明によるLck活性化剤の脂質送達は、リポソーム、固体脂質ナノ粒子、逆脂質ミセル、脂質微小管および脂質マイクロシリンダーによるものを含む(Swaminatham J & Ehrhardt C,Expert Opin Drug Deliv,2012,9(12):1489-1503)。ペプチドカーゴ含有リポソームは、例えば、噴霧器として経皮送達用に、鼻腔内用に、眼および頬側経路用に、および経口用に、非経口および肺性経路用に提案されてきた(Swaminatham J & Ehrhardt C,Expert Opin Drug Deliv,2012,9(12):1489-1503で概説されている)。リポソームは、薬物および遺伝子送達担体として、さらに最近は、ペプチド送達担体として広範に研究され(Pharmagap Incより2012年8月21日出願の国際公開第2013/033838A1号、発明者:Sokoli K & Chabot JM)、ペグ化リポソーム製剤は、大抵の場合、中性脂質とアニオン性脂質の混合物を含む。
【0519】
多数の臨床的に実証されたリポソームベース薬物療法が利用でき、非標的化リポソームと比較して、標的化リポソームは、腫瘍組織中で高められた細胞内薬物送達を達成する(Kirpotin DB et al,Cancer Res,2006,66:6732)。さらに、神経膠腫の治療のために、血液脳関門を横切るリポソーム媒介遺伝子送達の成功が最近報告された(Yue P-J et al,Molecular Cancer,2014,13:191)。リポソームベース細胞標的化と、細胞内部移行手法との組み合わせは、本発明の方法によるLck活性化剤の細胞への送達に利用できる(例えば、免疫系を増強するためにT細胞へ/免疫応答を高めるために、例えば、病原体または癌細胞などへ)
【0520】
本明細書に記載のLck活性化剤の標的細胞(例えば、免疫細胞)への送達を改善する方法は、CD3またはヒト化抗CD4抗体(TNX-355、現在ではイバリズマブ(TMB-355)として知られる。Zhang X-Q et al,Antimicrobial Agents and Chemotherapy,2006,50(6):pp 2231-2233、により記載された)などの免疫細胞により選択的に発現された受容体を認識する標的化リガンドでのリポソームの表面の官能化を含む。イバリズマブは、HIVの一次受容体のCD4に結合する非免疫抑制モノクローナル抗体であり、ウィルス侵入プロセスを抑制する(イバリズマブ(TMB-355):TaiMed Biologics.2009-09-09)。リポソームの外表面上のペグ化はまた、免疫細胞または癌細胞上のPEGユニットおよび受容体を同時に標的化する二重特異的抗体またはその誘導体の使用を容易にする。本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドを切断するMMP9/2切断配列に結合したLck活性化剤で癌細胞を標的化することにより、腫瘍浸潤リンパ球抗癌活性を強化できる。発明者らは、MMP9/2は、本明細書で記載のLck活性化剤ポリペプチドを切断しないことを示した。従って、本明細書に記載のLck活性化剤は、標的細胞(例えば、癌細胞または免疫細胞)上に発現されたHER1、HER2、PSMA(前立腺特異的膜抗原)または別の抗原などの表面抗原を標的にするリポソーム内に封入され得る。
【0521】
本明細書に記載のLck活性化剤、ペプチド、融合タンパク質、遺伝子改変抗体および他の結合部分(例えば、scFv)は、例えば、それらの精製および/またはそれらの細胞株に対する結合能力の評価のために、当該技術分野において公知のタグ(例えば、c-mycおよびポリヒスチジンタグ)と共に宿主細胞中で発現させ得る。このようなタグが利用される場合、コードされたLck活性化剤、ペプチドなどは、エンドペプチダーゼを用いてタグの除去を容易にする好適なアミノ酸配列をさらに含み得る。同様に、本明細書に記載のLck活性化剤、ペプチド、融合タンパク質などをコードする核酸は、上述の親和性クロマトグラフィーによる精製のために宿主細胞からの翻訳産物の分泌を容易にするために、シグナルペプチド配列をさらに含み得る。免疫親和性クロマトグラフィーおよび親和性クロマトグラフィープロトコル用の固体基材の作製のためのプロトコルは、例えば、Current Protocols in Molecular Biology-Ausubel FM.et al,Wiley-Interscience,1988およびその後の最新情報に記載されている。
【0522】
本明細書に記載のLck活性化剤、そのペプチド成分、融合タンパク質、および核酸は、単離または精製された形態で提供できる。本明細書で使用される場合、用語の「精製された」は、例えば、電気泳動および/または他の技術で評価して、80%純度超のレベル、または少なくとも85%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、または少なくとも96%、または少なくとも97%、または少なくとも98%、またはそれ超(例えば、99%以上)のレベルまでの部分精製を包含する。
【0523】
またさらなる実施形態では、本明細書に記載のLck活性化剤のペプチド成分の遊離末端は、例えば、メチル化、アセチル化、または複数のエチレングリコールモノマー単位でペグ化され、そのインビボでのプロテアーゼによる分解に対する耐性を小さくする、またはLck活性化剤の腎臓を介した循環からの除去を抑制し得る。ポリペプチド/ペプチドのペグ化方法は、当該技術分野において周知であり、全てのこのような方法は明示的に包含される。通常、本発明により実施される方法で使用されるペグ化ポリペプチドは、2個以上のモノマー単位のポリエチレングリコール(PEG)、通常、約2~約11PEGモノマーに結合される(すなわち、(PEG)nのnは2~11に等しい)。通常、nは2である。
【0524】
さらに、本発明により実施されるLck活性化剤を含むペプチドは、環化されて剛性、およびその結果としてのインビボ安定性が高められ、種々のこのような方法は、当技術分野において既知である。
【0525】
本明細書に記載のLck活性化剤は、本発明により適用可能な疾患または状態の予防または治療のために、単一の薬物として対象に投与され得るが、少なくともいくつかの実施形態では、治療薬は、疾患または状態の治療のための1種または複数の他の薬物(すなわち、予防薬または治療薬)と組み合わせて投与し得る。特定の疾患または状態の治療に従来使用されたチェックポイント遮断薬などの任意の好適な薬物を本明細書に記載の治療薬と共に併用療法として利用し得る。
【0526】
本発明による併用療法で使用され得る従来の抗ウィルス薬は、例えば、レトロウィルス薬物、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、細胞進入阻害剤、およびノイラミニダーゼ阻害剤から選択され得る。例としては、ジドブジン(AZT)、アバカビル、ラミブジン、エムトリシタビンおよびアシクロビルなどのヌクレオシド逆転写酵素阻害剤;テノホビルなどのヌクレオチド逆転写酵素阻害剤;ネビラピンおよびエファビレンツなどの非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤;マラビロクおよびエンフビルチドなどの細胞進入阻害剤;ラルテグラビル、エルビテグラビル、およびドルテグラビルなどのインテグラーゼ阻害剤;ダルナビル、アタザナビル、インジナビル、ロピナビル、ネルフィナビル、アンプレナビル、およびリトナビルなどのプロテアーゼ阻害剤;ならびにザナミビルおよびオセルタミビルなどのノイラミニダーゼ阻害剤が挙げられる。
【0527】
少なくともいくつかの実施形態では、本明細書に記載のLck活性化剤は、コンビビル(ジドブジンおよびラミブジン)、トリジビル(アバカビル、ジドブジンおよびラミブジン)、カレトラ(ロピナビルおよびリトナビル)、エプジコム(アバカビルおよびラミブジン)、ツルバダ(テノホビルおよびエムトリシタビン)、アトリプラ(エファビレンツ、テノホビルおよびエムトリシタビン)、スタリビルド(エルビテグラビル、コビシスタット、テノホビルおよびエムトリシタビン)およびトリーメク(ドルテグラビル、アバカビルおよびラミブジン)からなる群から選択され得るものなどのHIVまたは他のレトロウィルス感染症の治療のための従来の併用療法剤に含まれ得る。
【0528】
本発明による併用療法で使用され得る従来の抗菌薬は、例えば、ペニシリン、セファロスポリン、カルバペネム、アミノグリコシド、スルホンアミド、キノロン、およびオキサゾリジノンなどの抗生物質からなる群より選択され得る。
【0529】
本発明の方法による併用療法で使用され得る従来の抗原虫薬は、例えば、メトロニダゾール、オルニダゾール、エフロルニチン、フラゾリドン、メラルソプロール、チニダゾールおよびピリメタミンからなる群より選択され得る。
【0530】
本明細書に記載の併用療法で使用され得る従来の蠕虫駆虫薬としては、アルベンダゾール、メベンダゾール、トリクラベンダゾール、フルベンダゾール、およびフェンベンダゾールなどのベンゾイミダゾールが挙げられる。
【0531】
本明細書に記載のLck活性化剤はまた、別の疾患または状態のための従来の薬物による治療から生ずる日和見感染の治療にも使用され得る。例えば、慢性骨髄性白血病の治療によく使用される薬物グリベック(イマチニブ、ST1571)は、強力なチロシンキナーゼの阻害剤であり、Lck活性の抑制を介してTCR誘導増殖および活性化を低減させ(Seggewiss R et al,2005,Blood,105:2473-2479)、これは、日和見感染の誘導の意味を有する。これはまた、イマチニブ、ニロチニブまたはダサチニブなどの他のチロシンキナーゼ阻害剤からの副作用の改善に同様に当てはまる。例えば、細菌スーパー抗原(例えば、ブドウ球菌エンテロトキシンA(SEA))などの免疫強化薬物が病的状態の原因である可能性があるにもかかわらず、LckがSEAにより活性化されること、および選択的Lck活性化剤の欠乏を考慮して、慢性骨髄性白血病におけるイマチニブ媒介T細胞免疫抑制の予防にSEAを使用すべきとの提案がなされてきた(Wang G et al,BioMed Research International,2014,Article ID 682010)。
【0532】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の病原性感染または他の疾患または状態の予防または治療のための従来の薬物は、例えば、共有結合により、電荷引力により、または好適なリンカーの使用により、本発明によるLck活性化剤と複合体を形成し得る。薬物をLck活性化剤に結合するための好適なリンカーとしては、例えば、1~10原子長さのリンカー、スルフヒドリルリンカーおよび/または好ましくは、薬物の放出のための、標的細胞または組織で、またはそれら内で、1つまたは複数の酵素切断部位(例えば、MMP切断部位)を設定したアミノ酸またはアミノ酸配列が挙げられる。
【0533】
本明細書に記載のLck活性化剤の細胞に対する活性および/または細胞毒性プロファイルは、細胞形態の評価、トリパンブルー色素排除法、アポトーシスの評価、細胞増殖試験(例えば、細胞数、3H-チミジン取り込みおよびMTTアッセイ)、キナーゼ活性アッセイ、ウェスタンブロットおよび免疫蛍光法試験の1種または複数などの種々の従来から既知のアッセイにより測定し得る。
【0534】
本明細書に記載のLck活性化剤は、本発明の方法により哺乳動物に投与でき、または細胞をLck活性化剤とインビトロで接触させることができる。同様に、本発明は、エクスビボ治療を提供し、この場合、細胞は、Lck活性化剤で哺乳動物の外部で治療され、その後、哺乳動物に戻す、哺乳動物に投与する、または細胞を哺乳動物中に移植する。
【0535】
本明細書に記載のLck活性化剤、ベクター(例えば、発現ベクター)または核酸は、目的の対象への投与のために、薬学的に許容可能な担体および/または賦形剤を含む医薬組成物として提供できる。Lck活性化剤または核酸は、経口、鼻腔内、吸入により(例えば、エアロゾル噴霧により)、静脈内、非経口、直腸内、皮下、注入により、局所、筋肉内、腹腔内、脊髄内、眼内、または任意の他の適切と見なされる経路を介して、投与できる。
【0536】
直腸および/または結腸は、エナミン(フェニルアラニンおよびフェニルグリシン)、5-アミノまたは-メトキシサリチレート、キレート化剤、中鎖脂肪酸、シクロデキストリン、pH感受性高分子コート薬物、アゾポリマープロドラッグなどの、ペプチドに結合した種々の吸収促進薬を用いてペプチドの薬物吸収を高める経路を提供し(例えば、Tiwari G et al,International J Drug Delivery,2010,2:01-11;Kolte BP et al,Asian J Biomedical & Pharmaceutical Sciences,2012,2(14):21-28;Philip AK et al,OMJ,2010,25:70-78;およびLakshmi PJ et al.2012,Asian J Res Pharm Sci,2(4):143-149を参照)、このような投与方法および本明細書に記載のLck活性化剤の形態も同様に本明細書に明示的に包含される。
【0537】
医薬組成物は、例えば、液体、懸濁剤、乳剤、シロップ、クリーム、摂取可能錠剤、カプセル、丸薬、坐剤、粉剤、トローチ剤、エリキシル剤、または選択投与経路に適切な他の形態であり得る。
【0538】
本発明による方法に有用な医薬組成物には、医薬水溶液が含まれる。注射可能組成物は、通針性が存在する程度に流体であり、通常、製造後の貯蔵を可能とするために、所定の期間の間、常態で安定である。さらに、薬学的に許容可能な担体は、任意の好適な従来から既知の溶媒、分散媒、水、生理食塩水および等張性配合物または溶液、界面活性剤を含み得、任意の好適な薬学的に許容可能な担体(例えば、経口または局所的に許容可能な担体)を利用し得る。好適な分散媒は、例えば、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール、など)、植物油およびこれらの混合物の内の1種または複数を含み得る。特に、Lck活性化剤または核酸は、例えば、不活性希釈剤、同化可能な食用担体と共に処方でき、および/またはそれは、硬または軟シェルゼラチンゲル中に封入し得る。
【0539】
本明細書に記載の医薬組成物浜田、インビボおよび/または局所投与に好適する1種または複数の、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸、およびチメロサールなどの保存剤を組み込むことができる。加えて、組成物の持続的吸収は、アルミニウムモノステアレートおよびゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤組成物中で使用することにより生じさせ得る。本明細書に記載のLck活性化剤または核酸を含む錠剤、トローチ剤、丸薬、カプセル剤などはまた、1種または複数の次記を含むことができる:トラガカントゴム、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチンなどの結合剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプンまたはアルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤;スクロース、ラクトースまたはサッカリンなどの甘味剤;および香味料。
【0540】
医薬組成物中での上述の成分および媒体の使用は、よく知られている。任意の従来の媒体または成分が本明細書に記載のLck活性化剤と適合しない場合を除いて、本明細書に記載の治療および予防医薬組成物中でのそれらの使用が含まれる。
【0541】
本明細書で使用される場合、「併用療法」は、同じまたは異なる経路による他の薬物と同じまたは異なる配合物中の本発明によるLck活性化剤または核酸の事前、同時または逐次投与を意味し、それによって、Lck活性化剤および/または核酸は、重なり合う治療濃度域中でそれらの効果を働かせる。
【0542】
投与および投与量の均一性の達成を容易にするために、非経口組成物を投薬単位形態で処方することが特に好ましい。本明細書で使用される場合、投与単位剤形は、治療すべき対象にとって単位投与量として適している物理的に別々の単位を意味しており、各単位が、使われた適切な担体および/または賦形剤と共同して所望の治療または予防効果を生じるように計算された、所定量の少なくとも1種の本発明によるLck活性化剤または核酸を含む。投与単位剤形が、例えば、カプセル剤、錠剤または丸薬である場合、種々の成分は、投与単位の物理的形態を別の状態に変えるための、または対象への投与を容易にするためのコーティング(例えば、シェラック、糖類またはその両方)として使用し得る。
【0543】
医薬組成物は通常、少なくとも約1重量%の本明細書に記載のLck活性化剤を含む。パーセンテージは変わってもよく、通常は、組成物または製剤の約5重量%~約80重量%であり得る。この場合も、本発明によるLck活性化剤または核酸の量は、提案された投与経路を考慮して、好適な有効投与量が対象に送達されるような量である。好ましい経口医薬組成物は、約0.1μg~15gのLck活性化剤を含む。
【0544】
本発明によるLck活性化剤または核酸の投与量は、Lck活性化剤または核酸が予防的用途で投与さるのかまたは治療的用途で投与されるのか、意図される薬剤投与の疾患、状態または目的、疾患または状態の重症度、対象の年齢、ならびに対象の体重および認められた原則に従って医師または看護助手により決定され得る総体的な健康などの関連因子を含む多くの因子に依存する。例えば、初期には、低投与量で投与され、これは、その後、対象の応答の評価後に投与毎に増大される。同様に、投与頻度は、同様の方法、すなわち、各投与間で対象の応答を継続的に監視し、さらに必要に応じて、投与頻度を増やす、あるいは投与頻度を減らすことにより、決定され得る。
【0545】
通常、本明細書に記載のLck活性化剤は、本発明により実施される方法に従って投与して、最大約100mg/kgの個々の体重、より一般的には、最大約50mg/kg体重、および最も一般的には、約5mg/kg~40mg/kg体重の範囲のLck活性化剤の投与量を与えるように投与される。少なくともいくつかの実施形態では、Lck活性化剤は、約5~25mg/kg体重の範囲、通常約5mg/kg~約20mg/kgの範囲、および最も一般的には、約10mg/kg~20mg/kgの範囲のLck活性化剤の投与量を与えるように投与される。経口投与される場合には、1日当たり最大約20gのLck活性化剤が投与され得る(例えば、1日当たり4経口用量で、各用量は5gのLck活性化剤を含む)。
【0546】
静脈内経路については、特に好適な経路は、Lck活性化剤または核酸の血管中への全身分布のための注射を介したもので、これは、治療されるべき組織または特定の臓器に供給する。さらに、Lck活性化剤は、任意の好適な注入または灌流技術によっても送達できる。Lck活性化剤または核酸(例えば、細菌由来ミニ細胞中に添加された発現ベクター)はまた、例えば、胸膜腔または腹膜腔などの腔中に送達されるか、または治療される組織中に直接注射される。
【0547】
本明細書で記載の方法で有用な好適なクローニングおよび発現ベクターおよびそれらの作製および送達方法は、当業者によく知られたマニュアルおよびハンドブックに記載されており、例えば、Ausubel et al.(1994)Current Protocols in Molecular Biology,USA,Vol.1 and 2,John Wiley & Sons,1992;Sambrook et al(1998)Molecular cloning:A Laboratory Manual,Second Ed.,Cold Spring Harbour Laboratory Press 1989,New York,ならびにリプリントおよびその最新情報を参照されたい。これらの内容は、相互参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。同様に、好適な薬学的に許容可能な担体および本明細書に記載の組成物に有用な配合物は、例えば、当業者に周知のハンドブックおよびテキスト、例えば、”Remington:The Science and Practice of Pharmacy(Mack Publishing Co.,1995)”、ならびにその任意のリプリントおよび最新情報で見つけることができる。細胞の遺伝子導入および核酸挿入断片のインビボ発現の方法およびプロトコルは、例えば、国際公開第2006/31996号、同第2006/31689号、同第2006/29981号、同第2006/29005号、米国特許出願公開第2006/0063731号、同第2006/0063924号に記載されている。全ての前述の刊行物、上記マニュアルおよびハンドブックは、相互参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0548】
本明細書に記載のように治療される哺乳動物は、本発明により治療可能な任意の哺乳動物であり得る。例えば、哺乳動物は、ウシ、ブタ、ヒツジまたはウマファミリーのメンバー、マウス、ウサギ、モルモット、ネコまたはイヌなどの臨床試験動物、または霊長類もしくはヒトであり得る。通常、哺乳動物はヒトである。
【0549】
本発明の別の態様は、本明細書で言及される疾患および/または状態(加齢関連変化を含む)を治療および/または予防に使用するための薬物の製造における本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドの使用を提供する。
【0550】
本発明の別の態様は、本明細書で言及される疾患および/または状態(加齢関連変化を含む)の治療および/または予防に使用するための、本明細書で記載のLck活性化ポリペプチドの使用を提供する。
【0551】
本発明は、多くの非限定的実施例により以降でさらに説明される。
【0552】
実施例
実施例1:Lck活性化ポリペプチドによるリンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(Lck)のインビトロ活性化。
本発明のポリペプチドのLckを活性化する能力をインビトロで調査した。Lckは、チロシンキナーゼのSrcファミリーのメンバーである。インビトロLck活性化キナーゼ試験は、ペプチド基質(KVEKIGEGTYGVVYK)および片対数用量範囲の試験ポリペプチドの存在下で、15μMの見かけのKm内のATP濃度を用いて、Eurofins Pharma Discovery Services UK Limited(Dundee Technology Park,Dundee,United Kingdom)で実施した。実施例Xの全ての結果は、対照(100%)に対するパーセンテージLck活性である。
【0553】
表3は、ポリペプチドRSKAKNPLYRが、1μM、10μMまたは30μMのペプチド濃度でLckを活性化しないことを示す。
【表3】
【0554】
意外にも、ポリペプチドRSKAKNPLYが、RSKAKNPLYRのC末端アルギニンなしで、10μMまたは30μMのペプチド濃度でLckを活性化するが、1μMの濃度では活性化しないことが示された。従って、RSKAKNPLYのカルボキシ末端での単一アルギニン残基の存在は、Lckの刺激/活性化を消滅させる。
【0555】
本発明のポリペプチドのSrcファミリーキナーゼを活性化する能力をインビトロで調査した。Lck活性化試験を上記のように実施し、全ての活性値を、対照に対するパーセンテージとして示す。簡単に説明すると、表4および表5は、10μMの濃度のペプチドRSKAKNPLYの存在下での、Srcファミリーキナーゼ中のLckの選択的活性化を示す。
【表4】
【0556】
表4は、Lckが、ポリペプチドRSKAKNPLYにより選択的に活性化され、Lck以外のSrcファミリーキナーゼ(SFK)は、10μMのペプチド濃度のペプチドにより活性化されないことを示す。表3と一致して、RSKAKNPLYのカルボキシ末端での単一アルギニン残基の存在は、Lckの刺激/活性化を消滅させる。
【0557】
表5は、ポリペプチドRVKVKVVVVが、1μMおよび10μMのペプチドの濃度でLckを活性化し、LckはポリペプチドRVKVKVVVVにより活性化され、Lck以外のSrcファミリーキナーゼ(SFK)は、1μMまたは10μMの濃度のペプチドにより活性化されないことを示す。
【表5】
【0558】
このデータは、Lck活性化ペプチドが選択的にLckを活性化し、Blk、cSrc、Fgr、Fyn、Hck、LynまたはYesを活性化しないことを示す。
【0559】
10ペプチドRSKAKNPLYのカチオン性アミノ酸位置の改変および置換の効果を調査した。簡単に説明すると、ペプチドPep9(RSKAKNPLY)と比較してアミノ酸配列変化を有するペプチドを、Lck活性を刺激する能力について評価した。Lck活性化調査を、実施例1に記載のように実施し、結果を表6に示す。全ての結果を、対照(100%)に対するパーセンテージとして示す。
【0560】
表6は、アミノ酸配列NPLYの存在は、ポリペプチド
RS
KA
KNPLYの位置1、3および5(太字)のカチオン性アミノ酸残基のいずれか1つがアラニン残基で置換される場合、Lckの刺激に十分ではないことを示す。さらに、N末端アルギニンが非存在の場合((SKAKNPLYR)で示されるように)、C末端アルギニンの存在もLck活性化に十分ではない。
加えて、RSKAKNPLYペプチドの改変9マーアミノ酸配列、すなわち、位置3と5がカチオン性アミノ酸ではないRYLPNKAKSは、Lckの刺激に対する効力がない。
【表6】
【0561】
実施例2:脂肪酸に結合されたLck活性化ポリペプチドによるリンパ球特異的タンパク質チロシンキナーゼ(Lck)の選択的活性化。
15ペプチドRSKAKNPLYRに結合された式IIによるポリアミド部分(PM)「4C10」(m=0で、上記スキーム1による末端アミノ基を有する)(例えば、「RSKAKNPLYR-4C10」または「RSKAKNPLYR-(2Adod)
4」;これは4個の2-アミノドデカン酸残基に結合されたRSKAKNPLYRである)がLck活性に与える効果を
図1に示す。
【0562】
Lck活性を実施例1に記載のように評価し、全てのキナーゼ活性値を、対照(100%)に対するパーセンテージとして示す。説明を容易にするために、ポリアミド部分は「nCy」と呼ばれ、nはポリアミド部分の反復単位の数であり、Cyは各反復単位中のR基の炭素原子数であり、各R基は、飽和、直鎖炭素鎖である。従って、本実施例では、「4C10」は、4反復単位(n=4)を有し、各反復単位のR基は10炭素長さの飽和炭素側鎖である、上記スキーム1に示すポリアミド部分(例えば、4個の2-アミノドデカン酸)を指すと解釈されるべきである。
【0563】
驚くべきことに、
図1に示すように、非Lck活性化ペプチド、RSKAKNPLYRのC末端に結合されたポリアミドアミド部分の存在は、約30nMの濃度の化合物(対照のレベルより18%高いレベル)で始まり30μMの濃度で対照レベルを超える914%の活性化に達する強力なLck活性化を誘導した。さらに、4C10部分をRSKAKNPYLRペプチドに結合した場合も、C末端結合で観察された値より低い程度ではあるが(1μMの濃度で435%の活性化、10μMの濃度で410%の活性化)(データは示さず)、Lck活性化が誘導された。
【0564】
このデータは、4個の脂肪酸残基(4個の2-アミノドデカン酸残基)がLckを活性化しないペプチド(RSKAKNPLYR)に結合される場合、この4個の脂肪酸残基はポリペプチドに対しLckを活性化する能力を付与することを示す。
【0565】
下表5に列挙されたポリアミド部分(PM)それ自体の効果も評価した。再度述べると、ポリアミド部分は上記スキーム1で示される化合物であり(式中m=0)、式「nCy」と呼ばれ、nはポリアミド部分の反復単位の数であり、Cyは各反復単位中のR基の炭素原子数であり、各R基は、飽和、直鎖炭素鎖であるが、ただし、この例では、ポリアミド部分は、NH2基ではなく、ヒドロキシル基を有し、ペプチドのC末端への結合ではなく、先頭末端水素を有する。
【0566】
従って、H-1C10-OHは、単一単位の本明細書に記載のポリアミド部分のみを含み、1個の2-アミノドデカン酸残基に相当する(本明細書では、「H-(2Adod)
1-OH」または「(2Adod)
1」とも表現される)。H-2C10-OHは、2単位の本明細書に記載のポリアミド部分を含み、2個の2-アミノドデカン酸残基に相当する(本明細書では、「H-(2Adod)
2-OH」または「(2Adod)
2」とも表現される)。H-3C10-OHは、3単位の本明細書に記載のポリアミド部分を含み、3個の2-アミノドデカン酸残基に相当する(本明細書では、「H-(2Adod)
3-OH」または「(2Adod)
3」とも表現される)。H-4C10-OHは、4単位の本明細書に記載のポリアミド部分を含み、4個の2-アミノドデカン酸残基に相当する(本明細書では、「H-(2Adod)
4-OH」または「(2Adod)
4」とも表現される)。
【表7】
【0567】
表7に示すように、化合物H-2C10-OHのみが、10μMの化合物の濃度でLckのわずかな低レベル活性化を示した。
【0568】
ペプチドRSKAKNPLYR(表3参照)ならびに4C10およびH-1C10-OHポリアミド部分単独は、無細胞Lckキナーゼ活性アッセイでLckに対し何らの効果もなかったことを考慮すると、上記の結果は、非Lck活性化ペプチドRSKAKNPLYRの非Lck活性化ポリアミド部分4C10-OHへの結合により、予想外の相乗的効果が得られることを示す。
【0569】
ポリアミド部分4C10(すなわち、4個の2-アミノドデカン酸残基)のペプチドRSKAKNPLYRのC末端への結合がLck活性に与える効果を、上記のポリアミド部分-1C10-OH(1個の2-アミノドデカン酸残基)の結合の効果と比較して、表8に示す。
【表8】
【0570】
この調査で、および表8に示すように、ペプチドRSKAKNPLYR-4C10によるLckの大幅な刺激が観察され、1μMの濃度での対照を超える519%から、30μMの濃度での816%に増大した。Lck活性の刺激は1μMのペプチドRSKAKNPLYR-1C10-OHでは観察されず、10μMおよび30μMのこの化合物の濃度でかなりのLck活性化が観察されたが、ペプチドRSKAKNPLYR-4C10で得られた値より低レベルであった。これらの結果は、ポリアミド部分4C10または-1C10-OHへのペプチドRSKAKNPLYRの結合により、相乗的効果が得られることを示す。
【0571】
RSKAKNPLYRに結合されたポリアミド部分4C10(4個の2-アミノドデカン酸残基)に対するアミド化がLck活性に与える効果を表9に示す。
【表9】
【0572】
このデータは、非Lck活性化ポリアミド部分4C10-OHへの非Lck活性化ペプチドRSKAKNPLYRの結合により得られた予想外の相乗的効果が、さらに驚くべきことに、ペプチドに結合された最遠位脂肪酸のアミド化により強化できることを示す。このデータはまた、最遠位脂肪酸がアミド化されない場合、Lck活性化のレベルは、最遠位脂肪酸がアミド化された場合に観察される活性のレベルの約50%であることを示す。
【0573】
Lck活性化に与えるポリアミド部分の線形結合および非線形(例えば、垂直)結合の効果を調査した。Lck活性に与えるRSKAKNPLYRへの結合の効果を表9および表10に示す。簡単に説明すると、4個の脂肪酸残基(4個の12アミノドデカン酸残基)を、線形方式でLck(RSKAKNPLYR)を活性化しないペプチドに結合した場合、この4個の脂肪酸残基は、ポリペプチドに対しLckを活性化する能力を付与する。
【0574】
【表10】
*位置:1、3、5、10でのアニオン性残基[位置1、10=D(アスパラギン酸);位置3、5=E(グルタミン酸);Adod=ドデカン酸(ラウリン)酸;Adec=デカン酸(カプリン)酸]。
【0575】
表10は、表9および表8と一致して、4個の脂肪酸残基(4個の2-アミノドデカン酸残基)がLckを活性化しないペプチド(RSKAKNPLYR)に非線形の垂直に結合される場合、この4個の脂肪酸残基はポリペプチドに対しLckを活性化する能力を付与することを示す。
【0576】
表10はまた、4個の2-アミノドデカン酸(「Adec」)残基がLckを活性化しないペプチド(RSKAKNPLYR)に垂直に結合される場合、この4個の脂肪酸残基はポリペプチドに対しLckを活性化する能力を付与することを示す。
【0577】
実施例3:脂肪酸に結合されたLck活性化ポリペプチドは、Lckリン酸化を増大させ、Lck活性化ポリペプチドは、Y394でのLckリン酸化を増大させる。
LckのTyr394のリン酸化は、Lckキナーゼを活性化する高次構造開口部(conformational opening)を生じる。
【0578】
ウェスタンブロット調査をEurofins Pharma Discovery Services UK Limited(Dundee,United Kingdom)により実施した。簡単に説明すると、Lck(h)を試験ペプチドの存在下で標準的KinaseProfiler(登録商標)反応条件(Eurofins Pharma Discovery Services UK Limited)を用いて、15μMのK
m内のATP濃度でインキュベートした。反応を室温で40分間進行させた後、SDSサンプルバッファーの添加により停止させた。それぞれの場合で、Lck酵素を25μlの反応当たり20ngが得られるように希釈した。化合物およびペプチドの非存在下で適切な対照、ならびにLck(h)およびLck(h)活性化キナーゼ両方の未処理試料も同様に実験した。その後、得られた試料を、抗体4G10(抗リン酸化チロシン抗体)(
図3参照)および抗pY394 Lck(R&D Systems MAB7500)(
図2参照)を用いて、SDS-PAGEおよびウェスタンブロット分析に供した。二次検出抗体(抗マウスHRP)を用いて、追加のブロットも実施した。膜をPonceau Sにより染色し、試料装填および効果的タンパク質転写を確認した。4G10抗体は、一般的な抗リン酸化チロシン抗体であり、Lck中にはいくつかのチロシン残基が存在するが、自己リン酸化チロシン残基がただ1個、すなわち、Y394の位置に存在する。従って、抗py394抗体は、Lckの自己リン酸化を特異的に検出する。試料は以下の通り(数字は、ゲルのレーンに対応する):
1.分子量マーカー
2.標準Lck(酵素のみ)
3.標準Lck-ペプチド基質+ATP(試験ペプチドなし)
4.標準Lck+ペプチド基質+ATP(試験ペプチドなし)
5.標準Lck+ATP+RSKAKNPLYR 10μM(ペプチド基質なし)
6.標準Lck+ATP+RSKAKNPLYR 30μM(ペプチド基質なし)
7.標準Lck+ATP+RSKAKNPLY 10μM(ペプチド基質なし)
8.標準Lck+ATP+RSKAKNPLY 30μM(ペプチド基質なし)
9.標準Lck+ATP+RSKAKNPLYR-4C10 10μM(ペプチド基質なし)
10.標準Lck+ATP+RSKAKNPLYR-4C10 30μM(ペプチド基質なし)
【0579】
ウェスタンブロットプロトコルのステップは以下の通り:
SDS-PAGEゲル:200Vで50分
ウェスタンブロット転写:25Vで90分
膜:ニトロセルロースプレカットブロッティング膜:0.2μm細孔径(LC2000(Life Tech))
ポンソー染色:5%酢酸中の0.1%ポンソーS(w/v)
【0580】
膜を10mLのPBSTおよび10%BSAで1時間ブロックし、その後、一次および二次抗体を適用した。
【0581】
一次抗体:
抗-pY394 Lck(R&D Systems MAB7500、ブロッキング緩衝液中で希釈1/2500)を膜と共に一晩4℃でインキュベートした後、4x20mlのTBSTで洗浄した。
【0582】
二次抗体:
抗マウス-HRP(Cell Signalling Technology、7076、ブロッキング緩衝液中で希釈1/5000)を膜と共に室温で1時間インキュベートした後、4x20mlのTBSTで洗浄した。
【0583】
図2は、10μMおよび30μMのペプチドRSKAKNPLYRへのLckの暴露で増大しない、ATPの存在下におけるY394でのLckの弱い自己リン酸化を示す(それぞれ、レーン3および5/6)。対照的に、10μMおよび30μMのペプチドRSKAKNPLYへのLckの暴露は、Lckの用量依存性自己リン酸化を誘導し(それぞれ、レーン7および8)、RSKAKNPLYRのC末端アルギニンがLckの自己リン酸化を抑制することを示す。しかし、この抑制は、ペプチドRSKAKNPLYR(RSKAKNPLYR-4C10)のC末端への4C10ポリアミド部分の結合により克服される。さらに、10μMのRSKAKNPLYR-4C10の存在下で観察されたLckの自己リン酸化は、同じ濃度のRSKAKNPLY単独で観察された自己リン酸化を超えた。
【0584】
これらのデータはまた、Lckを選択的に活性化するポリペプチドがLckの自己リン酸化を高め、Lck活性化ポリペプチドがLckの自己リン酸化を用量依存的に高めることを示す。
【0585】
実施例4:Lck活性化ポリペプチドは、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株中のCD25(IL-2Rα)発現を増大させる。
T細胞株上のIL-2Rα(CD25)発現に対するLck活性化ポリペプチドの効果を調査した。
【0586】
簡単に説明すると、野性型ジャーカット細胞(1x106細胞)を標準的RPMI媒体および上記の10%胎児の仔ウシ血清中で、非刺激またはPMA(10ng/ml)およびイオノマイシンで刺激した場合について、96時間にわたり培養した。細胞を試験ペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(2.5μMまたは5μM濃度のいずれかで)に、全体で96時間の培養期間にわたり暴露し、細胞ライセート中のIL-2Rαレベルを上記の標準的な市販のELISAフォーマットを用いて測定した。
【0587】
図3は、IL-2Rα(CD25)発現が、刺激細胞をRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)に暴露した場合に増大されたことを示す。これらのデータは、Lck活性化ポリペプチドが、T細胞刺激(例えば、イオノマイシンおよびPMA)の非存在下では基本的にT細胞を活性化しないが、T細胞刺激の存在下ではIL-2Rα発現を高めることができることを示す。
【0588】
実施例5:Lck活性化ポリペプチドは単離ヒトCD4+およびCD8+T細胞上のIL-21Rの発現を増大させる。
単離ヒトCD4+およびCD8+T細胞上のIL-21R発現に与えるLck活性化ポリペプチドの効果を調査した。
【0589】
簡単に説明すると、PBMCを、抗CD3(1μg/ml)刺激および5種の試験濃度範囲(0~1.25μM)の試験ペプチドと共に、72時間培養した後、細胞をCD360(IL-21R)の発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に応答したCD4+またはCD8+T細胞集団中のそれぞれの発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、***p<0.001、****P<0.0001。点線は、非刺激細胞を示す。
【0590】
図4は、Lck活性化融合ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、対照に比較して、ヒトCD4+およびCD8+T細胞上のIL-21R発現を誘導することを示す。
【0591】
実施例6:Lck活性化ポリペプチドは、CD360(IL-21R)陽性CD3negCD56+NK細胞集団を増大させる。
CD360(IL-21R)陽性CD3negCD56+NK細胞の比率を増大させるLck活性化ポリペプチドの能力を調査した。簡単に説明すると、単離NK細胞を、組換えIL-2(100U/ml)および5種の濃度範囲(0~1.25μM)のRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)と共に、72時間培養した後、CD3negCD56+NK細胞をIL-21Rの発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に反応したNK細胞集団での発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、***p<0.001、****p<0.0001。
【0592】
図5は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、CD360陽性ヒトCD3
negCD56
+NK細胞集団を増大させ、CD360(IL-21R)の発現がRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2により増大されたことを示す。
【0593】
IL-2の非存在下で、単離ヒトCD3negCD56+NK細胞のCD360の発現を増大させるLck活性化ポリペプチドの能力も調査した。簡単に説明すると、単離NK細胞を、組換えIL-2不含であるが、5種の濃度範囲(0~1.25μM)のRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2と共に、72時間培養した後、CD3negCD56+NK細胞をIL-21Rの発現についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理に反応したNK細胞集団での発現の平均、±SEM、n=4を示す。データを、ダネット事後検定を伴う2元配置分散分析により解析した。*p<0.05、***p<0.001、****p<0.0001。
【0594】
図6は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、IL-2の非存在下で、IL-21R陽性ヒトCD3
negCD56
+NK細胞集団を増大させ、IL-2はRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2によりCD360の発現を増大させるために必ずしも必要でないことを示す。
【0595】
実施例7:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、ヒトT細胞からのIL-21分泌を増大させる。
T細胞からのIL-21分泌に与えるLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の効果を調査した。
【0596】
簡単に説明すると、抗CD3/抗CD28刺激T細胞(CD3+単離)を、5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)(0~1.25μM)+ビークル対照と共に、72時間培養した後、上清をIL-21についてELISAにより分析した。提示データは、ペプチド処理に反応したpg/ml値の平均、±SEM、n=4を示す。データを、それぞれのペプチド濃度をビークルと比較するダネット事後検定を伴うRM1元配置分散分析により解析した。*p<0.05。
【0597】
図7は、IL-21分泌がRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)により増大されることを示す。
【0598】
実施例8:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、ヒトPBMC内の制御性T細胞のパーセンテージを低減させる。
ヒトPBMC内の制御性T細胞数に与えるLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の効果を調査した。
【0599】
簡単に説明すると、抗CD3刺激PBMCを、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)と一緒に、48時間培養した後、Treg集団を、CD4+CD25+CD127low集団内の細胞のFoxp3+比率を測定することにより決定した。
【0600】
図8は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、Treg(Foxp3+)の比率を低減させることを示す。
【0601】
実施例9:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2はPBMC内のTreg細胞の比率を低減させる。
抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)と組み合わせた場合の、ヒトPBMC内の制御性T細胞数に対するLck活性化ポリペプチドの効果を調査した。
【0602】
簡単に説明すると、抗CD3刺激PBMCを、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)と、抗PD-1(ペムブロリズマブ;「抗PD1」)またはアイソタイプ対照(「hIgG4」)との組み合わせと一緒に、48時間培養した後、Treg集団を、CD4+CD25+CD127low集団中の細胞のFoxp3+比率を測定することにより決定した。データをドナーの変動のため正規化した。提示データは、抗PD1またはアイソタイプに応答した発現倍率変化(%陽性およびMFI)およびFoxp3+Treg比率、±SEMを示し、抗PD1とhIgG4を比較する対応のあるt検定により分析された。
【0603】
図9は、抗PD-1抗体およびアイソタイプ対照(hIgG4)が、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2の非存在下で、PBMC内の同じ比率のTreg細胞を生じることを示す。
【0604】
Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、アイソタイプ対照と組み合わせた場合、PBMC内のTreg(Foxp3+)の比率を低減させる。
【0605】
重要なことに、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)を抗PD-1抗体(ペムブロリズマブ)と組み合わせた場合、PBMC内のTreg(Foxp3+)の比率が意外にも有意にさらに低減され、抗PD-1抗体およびRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2が相乗的に作用することを示す。
【0606】
実施例10:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、刺激CD4+T細胞およびCD8+T細胞、ならびにIL-12Rβ1およびIL-12Rβ2 NK細胞でのIL-12Rβ分泌を増大させる。
IL-12受容体サブユニットβ2(IL-12Rβ2)発現を変えるLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の能力を調査した。
【0607】
簡単に説明すると、抗CD3刺激PBMCを、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2+ビークル対照と共に72時間培養した後、CD4+T細胞、CD8+T細胞およびNK細胞(CD3negCD56+細胞)をIL-12Rβ2およびIL-12Rβ1発現についてフローサイトメトリーにより評価した。
【0608】
図10は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、CD4+T細胞およびCD8+T細胞中のIL-12Rβ2発現を誘導することを示す。
【0609】
図11は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、NK細胞中のIL-12Rβ1およびIL-12Rβ2発現を誘導することを示す。
【0610】
実施例11:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、非刺激および刺激T細胞中の両アッセイにおいて、CD4+T細胞上のCD40L発現を増大させる。
LCD4+T細胞上のCD40L発現を増大させるck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の能力を、非刺激および刺激T細胞の両アッセイにおいて調査した。
【0611】
簡単に説明すると、非刺激PBMCを、5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)+ビークル対照と共に、72時間培養した後、CD4+T細胞をCD40L発現についてフローサイトメトリーにより評価した。
図12は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、非刺激PBMC中のCD4+T細胞上のCD40L発現を増大させたことを示す。
【0612】
刺激T細胞を調査するために、単離T細胞(CD3+)を、抗CD3/抗CD28Dynabeads(登録商標)で刺激し、5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(0~1.25μM)+ビークル対照と共に、72時間培養した後、CD4+T細胞をCD40L発現についてフローサイトメトリーにより評価した。
図13は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、刺激T細胞中のCD4+T細胞上のCD40L発現を増大させたことを示す。
【0613】
実施例12:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株でのIL-2分泌を増大させる。
IL-2分泌を変えるLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の能力を調査した。
【0614】
簡単に説明すると、野性型ジャーカット細胞(ヒトTリンパ球細胞の不死化系)を、抗CD28抗体およびアビジンの存在下で、ビオチン化抗CD3抗体への暴露により刺激した。培養期間(48時間)中、細胞を試験ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2に暴露した。細胞上清を、上述の標準的な市販ELISAキットを用いて48時間時間の終わりにIL-2についてアッセイした。
【0615】
図14は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、48時間の暴露後に、野性型ジャーカット細胞で対照に比較してIL-2分泌を誘導することを示す。
【0616】
以下で考察するように、
図42Aは、ポリペプチドRSKAKNPLYRおよびRSKAKNPLYは、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株でのIL-2分泌を増大させることを示し、および
図42Bは、rskaknplyはヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株でのIL-12分泌を高めるが、RSKAKNPLYRはIL-12分泌を高めないことを示す。
【0617】
実施例13:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株でのIL-2分泌、およびIL-2Rα発現を増大させる。
IL-2分泌を変えるLck活性化ポリペプチドの能力を調査した。簡単に説明すると、野性型ジャーカット細胞(ヒトTリンパ球細胞の不死化系)を、抗CD28抗体およびアビジンの存在下で、ビオチン化抗CD3抗体への暴露により刺激した。培養期間(72時間)中、細胞をRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2に暴露した。細胞上清を、上述の標準的な市販ELISAキットを用いて72時間時間の終わりにIL-2についてアッセイした。
【0618】
図15Aは、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、72時間の暴露後、野性型ジャーカット細胞で対照に比較してIL-2分泌を誘導することを示す。
図15Bは、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、72時間の暴露後、野性型ジャーカット細胞中で対照に比較してIL-2Rα発現を誘導することを示す。
【0619】
IL-2分泌およびIL-2Rα発現を変えるLck活性化ポリペプチドの能力におけるLckの役割も調査した。簡単に説明すると、Lck欠損ジャーカット細胞(J.CaM1.6)を、抗CD28抗体およびアビジンの存在下で、ビオチン化抗CD3抗体への暴露により刺激した。細胞上清を、培養期間(72時間)中、細胞をLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)に暴露した。上述の標準的な市販ELISAキットを用いて72時間時間の終わりにIL-2およびIL-2Rαについてアッセイした。
【0620】
図15Aは、72時間の暴露後の野性型ジャーカット細胞中の対照に比較したIL-2分泌の誘導は、Lckに依存することを示す。
図15Bは、72時間の暴露後の野性型ジャーカット細胞での対照に比較したIL-2Rα発現の誘導は、Lckに依存することを示す。両方の場合で、構成的Lck発現の非存在下では、応答は観察されなかった。
【0621】
実施例14:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、チェックポイント阻害からヒトT細胞株をレスキューする。
免疫系の過剰活性化を防ぐために、プログラム死1(PD-1)経路はT細胞活性化を制御するためのチェックポイントとして機能する。リガンドPD-L1およびPD-L2がPD-1受容体に結合すると、経路が活性化され、T細胞活性化および増殖の可逆的抑制であるT細胞の「疲弊」が生じる。Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2を、PD-L1により誘導されたチェックポイント阻害からヒトT細胞をレスキューする能力について調査した。
【0622】
簡単に説明すると、ジャーカット細胞を10ng/mLのPMAおよびイオノマイシン(1μg/mL)で刺激しすることにより活性化して、プログラム細胞死受容体1(PD-1)の表面発現を誘導し、添加物の非存在下で、または細胞中のチェックポイント阻害を誘導するために2.5μMのペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2単独、5μg/mlの組換えPD-L1(PD-1のリガンド)単独と共に、またはRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2+組換えPD-L1と共に、48時間培養した。IL-2を、上述の市販の標準的ELISAキットにより細胞ライセート中で測定した。
【0623】
重要なことに、
図16は、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)の添加が、PD-1/PD-L1相互作用により誘導されたIL-2の抑制をレスキューし、本発明のLck活性化融合ポリペプチドが、PD-L1により誘導されるチェックポイント阻害からヒトT細胞をレスキューできることを示す。
【0624】
実施例15:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2およびrskaknplyr-(2Adod)4-NH2は、再刺激時に、疲弊したCD4+細胞上のIL-2Rα(CD25)発現を増大させ、かつCD4+T細胞の増殖を増大させる。
T細胞疲弊は、T細胞機能の段階的および進行性消失を特徴とし、結果的に応答細胞の物理的欠損に至り得る。インターロイキン2(IL-2)産生は、失われる最初のエフェクター作用の1つで、その後に、腫瘍壊死因子α(TNFα)産生の消失が続き、一方、インターフェロンγ(IFN-γ)を産生する能力は、不活性化に対してより高い抵抗性がある。
【0625】
Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)およびrskaknplyr-(2Adod)4-NH2(「IKD14004」;これは、Dアミノ酸を含むRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2である)のIL-2Rα発現に与える効果を調査した。
【0626】
簡単に説明すると、細胞を、72時間培養後、Ki67およびCD25の出現頻度を評価し発現レベルを示すために、フローサイトメトリー用に染色した。Ki67は、所与の細胞集団、この場合CD4+細胞、の成長画分を決定するために使用される増殖マーカーである。生存可能集団内から、細胞を、CD4+細胞に注目するためにゲートにかけ、その後、Ki67集団のCD25+についてゲートにかけた。
【0627】
マウスモデル(Tg4 Ly5.1(MBPトラッカーマウス)、B10PlxC57BL/6)を用いたCD4+T細胞疲弊アッセイを使用して、CD4+T細胞受容体遺伝子導入T細胞を野性型ミエリン塩基性タンパク質ペプチド(WT-MBP)で刺激し、完全応答性エフェクターT細胞を産生する、または改変ペプチドリガンド-ペプチドMBP(APL-MBP)で刺激し、疲弊T細胞を産生する。これらは、IL-2中で静置させた後、調査下のいずれかの処理(例えば、ペプチド)と共にAPC、単一用量のAPL-MBPペプチドで二次刺激する。
【0628】
マウスから脾臓を取り出し、処理して脾細胞の単細胞懸濁液を生成した。MBPトラッカー脾細胞を3x106/mLで再懸濁し、WT-MBP(対照、非疲弊細胞)またはAPL-MBP(疲弊細胞を生成するために)で刺激した。細胞を72時間刺激した。刺激後、T細胞をフィコール密度勾配により精製し、その後、20U/mLのIL-2中で2x106/mLで4日間再播種した。この静置期間の終わりに、細胞を再懸濁し(4x105/mL、最終2x104/ウェル)、照射APC(B10PLxC57BL/6マウス、4x106/mL、最終濃度2x105細胞/ウェル)、単一用量のAPL-MBPペプチドおよび一連の濃度の試験ペプチドを用いて再刺激した。培養の72時間後、フローサイトメトリーにより細胞のIL-2Rαおよび増殖マーカー(それぞれ、CD25およびKi-67)を評価し、ELISAまたは多重化イムノアッセイによるサイトカイン産生(IFN-γおよびTNF-α)の評価のために上清を集めた。
【0629】
図17は、Lck活性化融合ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)およびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2(「IKD14004」、これはDアミノ酸を含む)で再刺激時に、疲弊CD4+T細胞中で、CD25の発現が増大することを示す。これらのデータは、Lck活性化ペプチドが、再刺激された疲弊T細胞における生理学的制御の結果(例えば、IL-2Rα発現)を強化できることを示している。これらのデータはまた、Lck活性化ポリペプチドは、ヒトCD4+T細胞の増殖集団を増大させることを示す。
【0630】
実施例16:Lck活性化ポリペプチドは、TNFαおよびIFNγ分泌を誘導する。
T細胞疲弊は、T細胞機能の段階的および進行性消失を特徴とし、結果的に応答細胞の物理的欠損に至り得る。インターロイキン2(IL-2)産生は、失われる最初のエフェクター作用の1つであり、その後に、腫瘍壊死因子α(TNFα)産生の消失が続き、一方、インターフェロンγ(IFNγ)を産生する能力は、不活性化に対してより高い抵抗性がある。
【0631】
Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)およびrskaknplyr-(2Adod)4-NH2(「IKD14004」;これは、Dアミノ酸を含むRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2である)のTNFαおよびIFNγ産生に与える効果を調査した。
【0632】
細胞を、TNFαおよびIFNγ産生を評価するために、培養の72時間後にフローサイトメトリー用に染色した。
【0633】
図18は、IFNγおよびTNFαの発現が、Lck活性化融合ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)およびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2(「IKD14004」)で再刺激時に、疲弊CD4+T細胞中で増大されることを示す。
【0634】
実施例17:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2はヒトCD4+およびCD8+T細胞上のIL-2Rαの発現を増大させる。
単離T細胞(CD4+およびCD8+T細胞)上のIL-2Rα発現に与えるLck活性化ポリペプチドの効果を調査した。
【0635】
簡単に説明すると、新たに単離したPBMCを、示した濃度(μM)の試験ペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)の存在下、抗CD3(1μg/mL)含有または非含有(-aCD3)の場合について、24時間刺激した。
【0636】
図19は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、CD4+およびCD8+T細胞上のIL-2Rαの発現を増大させることを示す。
【0637】
実施例18:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、CD4+およびCD8+T細胞中のCD28発現を増大させる。
Lck活性化ポリペプチドのCD28発現を変える能力を調査した。簡単に説明すると、抗CD3刺激PBMCを、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2と一緒に、72時間培養した後、フローサイトメトリーにより細胞のCD28発現を評価した。
【0638】
図20Aは、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、非刺激細胞に比べて、CD4+T細胞のCD28発現を誘導することを示す。
【0639】
図20Bは、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、非刺激細胞に比べて、CD8+T細胞のCD28発現を誘導することを示す。
【0640】
実施例19:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、NK細胞上のNKp44およびNKG2Dの発現を増大させる。
Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2を、NK細胞により発現され腫瘍細胞溶解に関与するNKp44およびNKG2D活性化受容体の発現を増大させる能力について調査した。
【0641】
簡単に説明すると、NK細胞をヒトPBMCから単離し、5種の濃度範囲のRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(0~1.25μM)+ビークル対照(左)または組換えIL-2(10ng/mL)+ビークル対照(右)に暴露し、NKp44およびNKG2Dの表面発現についてフローサイトメトリーにより評価した。
【0642】
図21は、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、末梢血NK細胞上のNKp44およびNKG2Dの発現を増大させることを示す。重要なことに、発現の増大は、組換えIL-2で観察された増大のレベルと同等である。
【0643】
実施例20:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、マウスに投与された場合、肺のB16黒色腫腫瘍結節の樹立を抑制する。
癌の樹立を抑制するLck活性化ポリペプチドの能力を調査した。
【0644】
8匹の8週齢雌C57BL/6マウスにPBS中の2x10(x5)B16F10細胞を尾静脈経由で接種し、マウスの腹腔内にRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(水中に溶解;400μg)を2週間にわたり、1、4、8および11日目に投与し、続いてマウスを15日目に安楽死させた。肺を取り出し、PBSですすぎ、フェケテ溶液で固定し、肺腫瘍結節を計数した(対照マウスは、同時に同じ経路により200μlの水の投与を受けた)。別の試験では、800μgの200μlの水中に溶解したrskaknplyr-(2Adod)4-NH2を、上記時点に従って、経管栄養により投与した。
【0645】
図22Aは、腹腔内に投与される場合、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、マウスの肺中のB16F10腫瘍結節数(腫瘍結節)を抑制することを示す。
【0646】
図22Bは、経口投与される場合、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、マウスの肺中のB16F10腫瘍結節数(腫瘍結節)を抑制することを示す。
【0647】
実施例21:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、マウスに投与された場合、ルイス肺癌マウス(転移モデル)の腫瘍量を低減させる。
ルイス肺癌(LLC)(転移モデル)マウスの腫瘍量を低減させるLck活性化ポリペプチドの能力を調査した。
【0648】
ATCCから入手したLLC細胞をDMEM中で70%集密度に増殖し、剥離させた後、PBSで洗浄した。0日目に、各マウスは、0.5x106個のLLC細胞を尾静脈内注射により投与を受けた。治療薬(RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の200μlの水中の400μg)を週2回腹腔内投与した(細胞導入後、1、4、8、および11日目)。細胞導入の15日後に、マウスを安楽死させ、肺を取り出しブアン固定液中に入れて肺組織を固定し、腫瘍を区別する。表面腫瘍転移をマニュアルで計数し、画像を、組織学的検査の前にサイズを推定するために取得した。
【0649】
図23は、腹腔内に投与され場合、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、対照と比較して、腫瘍塊の平均面積を低減させることを示す。
【0650】
実施例22:RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、ルイス肺癌(LLC)(異種移植片)モデルにおいて、異種移植片腫瘍体積および腫瘍細胞生存率を低下させ、腫瘍中のCD45+細胞の比率を増大させる。
ルイス肺癌(LLC)マウスの異種移植片腫瘍を調節するLck活性化ポリペプチドの能力を調査した。
【0651】
ルイス肺癌細胞株を約70%集密度まで培養した後、細胞を集め、計数して、5x106/mLで無菌HBSS中に再懸濁させた。C57BL/6の右脇腹に5x105細胞(100μl)を皮下注射した。腫瘍細胞移植の5日後に、2つの群間で平均腫瘍サイズがほぼ等しくなるようにマウスをランダムに治療群に割り付けた。試験物質IK14004(200μlの水中400μg)またはビークル(水)を、腫瘍細胞移植後5日目から、ビークル治療群で腫瘍の直径が平均10mmに達するまで、週2回(月曜と木曜)腹腔内(i.p)注射により投与した。腫瘍をデジタルノギスを用いて週3回(月曜、水曜、および金曜)、治療群に関して知らされていない技術者が測定した。ビークル群の平均腫瘍サイズが直径10mmに達すると、マウスを頸椎脱臼により屠殺し、腫瘍および脾臓を収集した。
【0652】
腫瘍を、2mLのコラゲナーゼD(2mg/mL、Roche Lot# 28960126)およびDNアーゼI(100μg/mL、Sigma Lot# SLBV1446)を含むRPMI-1640中に入れ、機械的に消化した後、80rpmの振盪インキュベーター中、37℃で30分間インキュベートした。消化腫瘍試料を70μmのストレーナーを通し、氷冷RPMI-10で2回洗浄した。試料を遠心分離し、赤血球溶解を実施した後、洗浄し、RPMI-10に再懸濁させた。腫瘍細胞をトリパンブルー色素排除により計数し、免疫細胞マーカーCD45(AF700)用として染色した。
【0653】
図24は、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、ルイス肺癌(LLC)異種移植片モデルにおいて、異種移植片腫瘍体積および腫瘍細胞生存率を低下させ、腫瘍中のCD45+細胞の比率を増大させることを示す。
【0654】
実施例23:Lck活性化ポリペプチドを投与されたルイス肺癌(転移モデル)マウス由来の脾細胞は、TCR刺激時に、IFNγ産生を増大させる。
Lck活性化ポリペプチドによる治療の、治療ルイス肺癌マウスの脾細胞からのサイトカイン放出に与える効果を調査した。
【0655】
簡単に説明すると、RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2で治療したルイス肺癌マウス由来の脾細胞を抗CD3ならびに抗CD3および抗CD28抗体の存在下で培養し、細胞培養上清中のIFNγおよびIL-2のレベルを調べた。脾臓を採取し、単細胞懸濁液中で処理した。新しい細胞懸濁液を、脾臓採取の直後にまたはウェル当たり200,000個の細胞を播種しTCR刺激の有る場合と無い場合(抗CD3単独、または抗CD28と組み合わせて、両方とも2μg/mLの濃度で)で一晩培養の直後に、フローサイトメトリーで評価した。一晩の培養後、上澄みを集め、ELISAによりIFNγおよびIL-2について評価した。新しい非刺激細胞懸濁液または一晩刺激後の細胞を、次のマーカーについて染色した:生存率、CD4、CD8、NK1.1、CD25、Ki67、CD28、CD215、IL-21R、IL-12Rβ1およびIL-12Rβ2。
【0656】
図25は、RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(「IK14004」)で治療したマウスは、抗CD3刺激時にIFNγ産生の有意な増大を示し、抗CD3および抗CD28刺激時に、IL-2産生を有意に増大させることを示す。重要なことに、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2治療マウス由来のCD4+脾細胞は、抗CD28で共刺激されたビークル治療マウス由来の脾細胞よりも、抗CD3活性化のみの後に、より多くのIL-12Rβ2を発現した。
【0657】
実施例24:Lck活性化ポリペプチドを投与されたルイス肺癌(転移モデル)マウスのCD4+T細胞は、増大されたIL-12Rβ2の発現レベルを有する。
RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2による治療の、治療されたルイス肺癌マウス(転移モデル)の活性化脾細胞中のIL-12Rβ1およびIL-12Rβ2を発現するCD4+T細胞の比率に与える効果を調査した。
【0658】
簡単に説明すると、RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2で治療したルイス肺癌マウス由来の脾細胞を、抗CD3ならびに抗CD3および抗CD28抗体の存在下で培養し、IL-12Rβ1およびIL-12Rβ2を発現するCD4+T細胞のレベルを調査した。
【0659】
図26は、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)で治療したマウスは、抗CD3刺激時にCD4+T細胞でのIL-12Rβ2の発現のレベルの有意な増大、および抗CD3および抗CD28刺激時にCD4+T細胞でのIL-12Rβ1およびIL-12Rβ2発現レベルの有意な増大を示すことを示す。
【0660】
実施例25:Lck活性化ポリペプチドを投与されたルイス肺癌(転移モデル)マウスは、IL-12Rβ2を発現するCD8+T細胞およびNK細胞の増大した比率を有する。
RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2による治療の、治療されたルイス肺癌マウスの非活性化脾細胞中のIL-12Rβ2を発現するCD8+T細胞およびNK細胞の比率に与える効果を調査した。
【0661】
簡単に説明すると、RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2で治療したルイス肺癌マウスから脾細胞を単離し、IL-12Rβ2を発現するCD8+T細胞およびNK細胞のレベルを調査した。
【0662】
図27は、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)で治療したマウスは、IL-12Rβ2を発現するCD8+T細胞およびNK細胞のレベルの有意な増大を示すことを示す。
【0663】
実施例26:Lck活性化ポリペプチドを投与されたルイス肺癌(転移モデル)マウスは、増大したレベルのIL-2Rα、IL-15R、およびCD28を発現するNK細胞、および増大したNK細胞増殖を有する。
Lck活性化ポリペプチドによる治療の、非刺激治療ルイス肺癌マウス中のCD25+、CD215、CD28+NK細胞の比率、およびNK細胞の増殖に与える効果を調べた。
【0664】
簡単に説明すると、RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2で治療したルイス肺癌マウスから非刺激脾細胞を単離し、非刺激治療ルイス肺癌マウスのCD25+、CD215+、CD28+NK細胞の比率、およびNK細胞の増殖を調査した。
【0665】
図28は、Lck活性化ポリペプチドで治療したマウスは、CD25+、CD215+、およびCD28+NK細胞のレベルの有意な増大、および刺激の非存在下での増殖NK細胞の比率の増大を示すことを示す。
【0666】
実施例27:Lck活性化ポリペプチドを投与されたルイス肺癌(転移モデル)マウスは、IL-12Rβ2を発現するCD4+T細胞の増大した比率を有する。
RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2による治療の、治療されたルイス肺癌マウスの活性化脾細胞中のIL-12Rβ2を発現するCD4+T細胞の比率に与える効果を調査した。
【0667】
簡単に説明すると、RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の腹腔内投与で治療したルイス肺癌マウスから脾細胞を単離し、CD4+T細胞上のIL-12Rβ2発現のレベルを調査した。
【0668】
図29は、Lck活性化ポリペプチドで治療したマウスは、抗CD3刺激時、ならびに抗CD3および抗CD28刺激時に、CD4+T細胞のIL-12Rβ2の発現のレベルの有意な増大を示すことを示す。
【0669】
重要なことに、IK14004治療マウス由来のCD4+脾細胞は、抗CD28で同様に共刺激されたビークル治療マウス由来の脾細胞よりも、抗CD3活性化のみの後に、より多くのIL-12Rβ2を発現した。
【0670】
実施例28:アニオン性残基を含むペプチドは、Lckを活性化しない。
Lckを活性化するアニオン性残基を含むペプチドの能力を調査した。
【0671】
図30は、ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2はLckを活性化するが、アニオン性残基を含むDSEAENPLYD-(2Adod)
4-NH
2(「IKDE004」)はLckの活性を高めないことを示す。
【0672】
実施例29:Lck活性化ポリペプチドは、刺激PBMCアッセイにおいて、NK細胞上のIL-2Rβ(CD122)発現を増大させる。
Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の、NK細胞上のIL-2受容体サブユニットベータ2(IL-2Rβ)発現を変える能力を調査した。
【0673】
簡単に説明すると、健康なドナー由来のPBMCを、RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(0.08~1.25μM)またはビークル対照の存在下で、抗CD3(1μg/mL)で72時間刺激した。培養期間の最後に、細胞を集め、CD3negCD56+/dimNK細胞内のIL-2Rβ(CD122)発現についてフローサイトメトリーにより評価した。
【0674】
図31は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、IL-2Rβ発現(MFI、および%陽性細胞)CD3
negCD56
+/dimNK細胞を誘導することを示す。
【0675】
実施例30:Lck活性化ポリペプチドは、刺激PBMCアッセイにおいて、T細胞上のIL-2Rβ(CD122)発現を増大させる。
Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の、T細胞上のIL-2受容体サブユニットベータ2(IL-2Rβ)発現を変える能力を調査した。
【0676】
簡単に説明すると、健康なドナー由来のPBMCを、RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(0.08~1.25μM)またはビークル対照の存在下で、抗CD3(1μg/mL)で72時間刺激した。培養期間の最後に、細胞を集め、CD4+およびCD8+T細胞内のIL-2Rβ(CD122)発現についてフローサイトメトリーにより評価した。
【0677】
図32は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、CD4+およびCD8+T細胞中のIL-2Rβ発現(%陽性細胞)を誘導することを示す。
【0678】
実施例31:RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2およびrskaknplyr-(2Adod)4-NH2は、CD8+T細胞およびNK細胞中の脱顆粒マーカーCD107aの発現を増大させる。
Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2およびrskaknplyr-(2Adod)4-NH2(Dアミノ酸を含むRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2)の、CD8+T細胞およびNK細胞のCD107a発現に与える効果を調査した。
【0679】
図33は、RSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)およびrskaknplyr-(2Adod)
4-NH
2(「IKD14004」)が、IFNαと類似のレベルにCD8+T細胞およびNK細胞中の脱顆粒マーカーCD107aの発現を増大させることを示す。
【0680】
実施例32:抗原刺激の前に提供されるLck活性化ポリペプチドは、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株中のIL-2分泌を誘導するが、Lck欠損細胞中では誘導しない。
Lck活性化ポリペプチドの、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株、およびLck欠損(JCam1.6)細胞株によるIL-2産生を誘導する能力を調査した。
【0681】
簡単に説明すると、500万個の細胞をT25フラスコ中に播種し、上記表に示すように種々の濃度のRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2で1時間処理した後、細胞懸濁液を遠心分離し、新鮮培地で2回洗浄した。500μLの培地中のビオチン-抗CD3およびアビジン(5:1.25μg)の混合物を12ウェルプレートのウェルに加えた。10分後、細胞をウェル当たり100万個の濃度で播種し、細胞懸濁液を培地を用いて2mLの体積にした。その後、試料を抗CD28(5μg/mL)でさらに刺激して、37℃で48時間インキュベートした後、上清(100μL、n=3)のIL-2含量をELISAで分析した。
【0682】
図34は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、抗原刺激の前に投与される場合、ヒトT細胞株によるIL-2産生を誘導するが、Lck欠損細胞では誘導しないことを示す。
【0683】
実施例33:Lck活性化ポリペプチドは、CD8+細胞集団の増殖を誘発する。
Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の、PBMC内のCD8+細胞集団の増殖を誘発する能力を調査した。
【0684】
簡単に説明すると、健康なドナー由来のPBMCを、RSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(0.08~1.25μM)またはビークル対照の存在下でTCR+IL-2を介して10日間刺激した。培養期間の最後に、細胞を集め、CD8+細胞比率についてフローサイトメトリーにより評価した。
【0685】
図35は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、対照と比較してPBMC内のCD8+細胞集団の増殖を誘発することを示す。
【0686】
実施例34:Lck活性化ポリペプチドは、樹状細胞(DC)の生存率を高める。
樹状細胞の生存率を高めるLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の能力を調査した。
【0687】
簡単に説明すると、未成熟単球由来DC(iMoDC)を、Mo-DC分化培地中で7日間培養した単離CD14+単球から誘導した。iMoDCを、5点濃度曲線全体にわたる試験ペプチド(0~1.25μM)+ビークルおよび抗CD3(1μg/mL)の存在下で、72時間培養した。72時間後、細胞を、生存率についてフローサイトメトリーにより評価した。提示データは、ペプチド処理後の平均生存細胞パーセンテージを示す。
【0688】
図36は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、単球由来DCの生存率を高めることを示す。
【0689】
実施例35:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は単離ヒトCD3+T細胞からのIL-2分泌を増大させる。
単離T細胞(CD3+T細胞)からのIL-2分泌に与えるLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の効果を調査した。
【0690】
簡単に説明すると、単離T細胞(CD3+)を、抗CD3/抗CD28Dynabeads(登録商標)で刺激し、5種の濃度範囲のLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2(0~1.25μM)+ビークル対照と一緒に、72時間培養した後、上清を集め、ELISAによりIL-2についてアッセイした。
【0691】
図37は、Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)が、単離ヒトT細胞中で対照に比較してIL-2分泌を誘導することを示す。
【0692】
実施例36:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株でのIL-2分泌を増大させる。
IL-2分泌を変えるLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の能力におけるLckの役割を調査した。
【0693】
簡単に説明すると、野生型ジャーカット細胞およびLck欠損ジャーカット細胞(J.Cam1.6)を、抗CD28抗体およびアビジンの存在下で、ビオチン化抗CD3抗体への暴露により刺激した。培養期間(24時間)中、細胞をLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2に暴露した。細胞上清を、上述の標準的な市販ELISAキットを用いて24時間の終わりにIL-2についてアッセイした。
【0694】
図38は、対照と比較してジャーカット細胞でのIL-2分泌を誘導するLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)の能力が、Lckに依存することを示す。このデータは、Lck活性化融合ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2によるヒトT細胞株中のIL-2分泌が、Lckに依存することを示す。
【0695】
実施例37:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2は、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株のIL-2Rα発現を増大させる。
ジャーカット細胞上のIL-2Rα発現を変えるLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の能力におけるLckの役割を調査した。
【0696】
簡単に説明すると、野生型ジャーカット細胞およびLck欠損ジャーカット細胞(J.Cam1.6)を、抗CD28抗体およびアビジンの存在下で、ビオチン化抗CD3抗体への暴露により刺激した。培養期間(24時間)中、細胞をLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2に暴露した。細胞ライセートを、上述の標準的な市販ELISAキットを用いて24時間の終わりにIL-2Rαについてアッセイした。
【0697】
図39は、対照と比較してジャーカット細胞上でIL-2Rα発現を誘導するLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)の能力が、Lckに依存することを示す。このデータは、Lck活性化融合ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2によるヒトT細胞株上のIL-2Rα発現が、Lckにより強化されることを示す。
【0698】
実施例38:Lck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2による、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株でのIL-2分泌の増大は、TCR刺激に依存する。
IL-2分泌を変えるLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の能力におけるLckの役割を調査した。
【0699】
簡単に説明すると、ジャーカット細胞を、抗CD28抗体およびアビジンの存在下でビオチン化抗CD3抗体への暴露により刺激した、または刺激しなかった。培養期間(24時間)中、細胞をLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2に暴露した。細胞培養上清を、上述の標準的な市販ELISAキットを用いて24時間の終わりにIL-2についてアッセイした。
【0700】
図40は、対照と比較してジャーカット細胞でのIL-2分泌を誘導するLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」)の能力が、TCR刺激に依存することを示す。
【0701】
実施例39:末梢血CD4+細胞中のHIV複製の抑制。
末梢血CD4+細胞のHIV複製を抑制するLck活性化ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2の能力を調査した。
【0702】
末梢血単核球(PBMC)を、Australian Red Crossにより提供された「バフィーコート」から単離した。細胞を1μg/mlの抗CD3および抗CD28抗体で刺激した。細胞を37℃で2日間インキュベートし、CD4+細胞をCD4+MACSにより単離した。一部のCD4+細胞をHIV-1(株AD8、CCR5指向性)に感染させた。
【0703】
試験ペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2のHIV-1複製に与える効果を、急性的に感染させた初代ヒトCD4+T細胞(感染後3日)を用いて試験した。処理培養液を48時間インキュベートし、培養上清中に存在するHIV-1カプシドの量をELISAにより測定した。ウィルス粒子は細胞膜から出芽するので、培養上清中に存在するカプシドは、HIV-1複製の指標である。この結果を、
図41に示す。ネビラピン(NVP;Boehringer Ingelheim Pharmaceuticals,Inc)は、商業的に入手できる非ヌクレオシド逆転写酵素抑制剤であり、陽性対照として使用された。試験ペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2は、
図41でIK5として特定される。
【0704】
CD4+細胞モデルは、培養上清中で測定可能な量のウィルスを産生するために、HIV-1感染細胞から非感染細胞へのウィルス拡散を必要とする。このモデルは、従って、ウィルス複製の全ステップでの試験薬剤の効果を検出できる。
図41に示すように、10μMのRSKAKNPLYR-(2Adod)
4-NH
2(「IK14004」;「IK5」)ペプチドは、陰性対照(薬物なし)に比較して、約5倍HIV-1複製を抑制した。
【0705】
実施例40:ポリペプチドRSKAKNPLYRおよびRSKAKNPLYは、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株中のIL-2分泌を増大させ、およびrskaknplyは、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株中のIL-12分泌を高めるが、RSKAKNPLYRは、IL-12分泌を高めない。
ポリペプチドRSKAKNPLYR(「14000」)、RSKAKNPLY(「IK94000」)およびrskaknply(「IKD94000」)のIL-2およびIL-12分泌を変える能力を調査した。
【0706】
簡単に説明すると、野性型ジャーカット細胞(ヒトTリンパ球細胞の不死化系)を、抗CD28抗体およびアビジンの存在下で、ビオチン化抗CD3抗体への暴露により刺激した。ウェル(12ウェルプレート、2mL体積)当たり100万個で細胞を播種し、ビオチン-CD3、抗CD28、およびアビジン(5:5:1.25μg)で刺激した。次に、細胞を試験ペプチドで処理した後、37℃で48時間インキュベートした。その後、上清(100μl、n=3)のIL-2およびIL-12含量を分析した。培養期間(48時間)中、細胞を試験ポリペプチドRSKAKNPLYR-(2Adod)4-NH2に暴露した。48時間の終わりに、上述の標準的な市販ELISAキットを用いて細胞上清のIL-2およびIL-12をアッセイした。
【0707】
図42Aは、ポリペプチドRSKAKNPLYRおよびRSKAKNPLYが、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株中のIL-2分泌を増大させることを示す。
【0708】
図42Bは、rskaknplyは、ヒトTリンパ球(ジャーカット)細胞株のIL-12分泌を増大させるが、RSKAKNPLYRは分泌を増大させないことを示す。
【0709】
多くの本発明の実施形態が上記で説明されてきたが、本発明の範囲から逸脱することなく、さまざまな修正および変更がなされ得ることは理解されよう。上記の実施形態は、従って、例示に過ぎず、限定するものと解釈されるべきではない。