(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒の製造方法および該製造方法で用いられる薬液皿
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20231117BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20231117BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
B01J37/02 101B
B01J35/04 301L
B01J23/44 A ZAB
(21)【出願番号】P 2022057214
(22)【出願日】2022-03-30
【審査請求日】2023-07-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃輝
(72)【発明者】
【氏名】稲森 健太
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-334444(JP,A)
【文献】特開2006-021128(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0049491(US,A1)
【文献】特開2001-029798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排ガスの浄化を行う排ガス浄化用触媒の製造方法であって、
排ガスが導入される上流側端部から排ガスが排出される下流側端部に至る排ガス通路を有する基材を準備すること、
少なくとも一種の排ガス成分を酸化若しくは還元し得る触媒として機能する触媒金属を含む触媒金属溶液を準備すること、
前記触媒金属溶液を薬液皿の底面が露出しないように前記薬液皿に供給すること、
前記薬液皿に供給された前記触媒金属溶液に、前記基材の前記上流側端部または前記下流側端部を浸漬させ、前記基材の前記排ガス通路に前記触媒金属溶液を導入すること、及び、
前記触媒金属溶液が導入された前記基材を焼成すること
を包含し、
ここで、前記薬液皿の前記底面には、所定のパターンからなる溝が形成されており、前記溝の深さの平均は、1.2mm以上3mm以下であり、前記溝の幅の平均は、1.6mm以上3mm以下である、排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記薬液皿に供給された前記触媒金属溶液の前記底面からの液面高さが、0.37mm以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記溝が、互いに連通するように形成されている、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記溝が、格子状に形成されている、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記溝が所定のピッチで形成されており、前記ピッチが8mm以上20mm以下である、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
排ガスが導入される上流側端部から排ガスが排出される下流側端部に至る排ガス通路を有する基材を備えて内燃機関から排出される排ガスの浄化を行う排ガス浄化用触媒の製造に用いられる薬液皿であって、
底壁と、前記底壁から立ち上がった側壁とから構成される凹部を有しており、
前記底壁の前記凹部側の表面には所定のパターンからなる溝が形成されており、
前記溝の深さの平均は、1.2mm以上3mm以下であり、
前記溝の幅の平均は、1.6mm以上3mm以下であ
り、
少なくとも一種の排ガス成分を酸化若しくは還元し得る触媒として機能する触媒金属を含む触媒金属溶液を前記表面が露出しないように該薬液皿に供給し、該供給された触媒金属溶液に前記基材の前記上流側端部または前記下流側端部を浸漬させて該基材の前記排ガス通路に該触媒金属溶液を導入するために用いられる、薬液皿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒の製造方法および当該製造方法に用いられる薬液皿に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関から排出される排ガスには、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)などの有害成分が含まれている。内燃機関の排気通路には、これらの有害成分を浄化する排ガス浄化用触媒が配置されている。排ガス浄化用触媒は、例えば、複数の排ガス流路(セル)が隔壁で仕切られたハニカム構造の基材と、基材隔壁の表面及び/又は内部に設けられた、排ガス成分を酸化若しくは還元することで浄化する触媒金属(例えば、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)等)を含む触媒金属担持部とを含む。
【0003】
例えば、特許文献1には、貴金属溶液が充填された容器に基材(ウォッシュコート担体ともいう)の全体を浸漬し、当該基材に貴金属を担持させる技術が開示されている。また、かかる容器の基材を収容する凹部の底部には、複数の窪み部分が設けられており、かかる窪み部分に対応して基材に高濃度貴金属部分を形成することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年では、触媒金属担持部を基材全体に形成するのではなく、所定の領域に触媒金属担持部を形成することで、排ガス浄化用触媒の特性を向上させる技術が注目されている。そこで、本発明者は、規定量の触媒金属を基材の規定幅に担持させる低コストの技術として、薬液皿に、規定量の触媒金属溶液(例えば、貴金属溶液)を準備し、当該触媒金属溶液に基材の端部を浸漬させ、基材の排ガス通路に触媒金属溶液を導入する技術の実施を検討している。かかる技術では、毛細管現象により、基材の排ガス通路に触媒金属溶液を導入することができる。しかしながら、触媒金属溶液の表面張力が高いため、薬液皿に準備した触媒金属溶液の量が少なくなると、触媒金属溶液が薬液皿の中央部に集まり易くなり、中央部付近が高くなるように液面が湾曲する。これにより、毛細管現象で基材に導入されている触媒金属溶液の先端面が波状になり、基材の中央部と基材の外周部とにおいて、触媒金属担持部の幅にばらつき(担持幅の波打ち)が生じてしまうという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、排ガス浄化用触媒における触媒金属担持部の担持幅の波打ちを抑制する技術を提供することを主な目的とする。また、かかる技術を特徴づけ得る薬液皿を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、ここに開示される排ガス浄化用触媒の製造方法(以下、単に「製造方法」ともいう。)が提供される。
【0008】
ここで開示される製造方法は、内燃機関から排出される排ガスの浄化を行う排ガス浄化用触媒を製造する方法である。ここで開示される製造方法は、排ガスが導入される上流側端部から排ガスが排出される下流側端部に至る排ガス通路を有する基材を準備すること、少なくとも一種の排ガス成分を酸化若しくは還元し得る触媒として機能する触媒金属を含む触媒金属溶液を準備すること、上記触媒金属溶液を薬液皿の底面が露出しないように上記薬液皿に供給すること、上記薬液皿に供給された上記触媒金属溶液に、上記基材の上記上流側端部または上記下流側端部を浸漬させ、上記基材の上記排ガス通路に上記触媒金属溶液を導入すること、及び、上記触媒金属溶液が導入された上記基材を焼成することを包含する。そして、上記薬液皿の上記底面には、所定のパターンからなる溝が形成されており、上記溝の深さの平均は、1.2mm以上3mm以下であり、上記溝の幅の平均は、1.6mm以上3mm以下であることを特徴とする。
ここで「排ガス通路」とは、基材に導入された排ガスが流動可能な領域をいい、基材内部に形成された空間(セル)とその周囲の壁面に限られない。基材を構成する多孔体の内部(細孔内)も排ガスが導入されて流動可能な限り、排ガス通路の一部を構成している。
【0009】
かかる構成によれば、薬液皿の底面に溝が形成されていることで、薬液皿に供給された触媒金属溶液の表面張力を低減することができ、薬液皿に供給された触媒金属溶液の液面が表面張力により湾曲することを抑制することができる。これにより、基材の端部を当該触媒金属溶液に浸漬させ、毛細管現象により、触媒金属溶液を基材の内部に導入した際にも、基材の導入される触媒金属溶液の先端面の波打ちが抑制される。その結果、焼成により形成される触媒金属担持部の担持幅の波打ちを抑制することができる。
【0010】
また、ここで開示される製造方法の好適な一態様では、上記薬液皿に供給された上記触媒金属溶液の上記底面からの液面高さが、0.37mm以上である。かかる構成によれば、薬液皿に供給された触媒金属溶液の液面の湾曲をより抑制することができるため、触媒金属担持部の担持幅の波打ちをより高いレベルで抑制することができる。
【0011】
また、ここで開示される製造方法の好適な一態様では、上記溝が、互いに連通するように形成されている。かかる構成によれば、薬液皿に供給された触媒金属溶液の量が少なくなったとき、溝内の触媒金属溶液の液面高さが一定になるため、触媒金属担持部の担持幅の波打ちをより抑制することができる。
【0012】
また、ここで開示される製造方法の好適な一態様では、上記溝が、格子状に形成されている。これにより、触媒金属溶液の表面張力をより低減することができるため、触媒金属担持部の担持幅の波打ちをより抑制することができる。
さらに、好適な一態様では、上記溝が所定のピッチで形成されており、上記ピッチが8mm以上20mm以下である。かかる構成によれば、触媒金属担持部の担持幅の波打ちの抑制に加え、基材へ触媒金属溶液導入後、薬液皿に残る触媒金属溶液の量(残量)が少なくなり、かかる残量のばらつきも抑制されるため、基材に担持させる触媒金属の量のばらつきをより抑えることができる。
【0013】
また、本開示により、内燃機関から排出される排ガスの浄化を行う排ガス浄化用触媒の製造に用いられる薬液皿が提供される。ここで開示される薬液皿は、底壁と、上記底壁から立ち上がった側壁とから構成される凹部を有する。上記底壁の上記凹部側の表面には所定のパターンからなる溝が形成されており、上記溝の深さの平均は、1.2mm以上3mm以下であり、上記溝の幅の平均は、1.6mm以上3mm以下である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。
【
図2】排ガス浄化用触媒に用いられる基材の構成の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】一実施形態に係る薬液皿に触媒金属溶液を供給したときの構成を模式的に示した断面図である。
【
図4】一実施形態に係る薬液皿の構成を模式的に示す平面図である。
【
図5】一実施形態に係る薬液皿の底面の構成を模式的に示した部分拡大図である。
【
図6A】従来の薬液皿の一例を用いて基材に触媒金属溶液を導入する方法を示す模式図である。
【
図6B】従来の薬液皿の一例を用いて基材に触媒金属溶液を導入する方法を示す模式図である。
【
図6C】従来の薬液皿の一例を用いて基材に触媒金属溶液を導入する方法を示す模式図である。
【
図7】各例の触媒金属溶液の平均残量と、そのばらつきσを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ここで開示される好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、薬液皿の加工方法等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書における図面は、ここに開示される技術の内容を理解するために模式的に示したものであり、各図における寸法関係(長さ、幅、厚みなど)は、必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。また、本明細書において、数値範囲を「A~B(ここでA、Bは任意の数値)」と記載している場合は、「A以上B以下」を意味すると共に、「Aを超えてB未満」、「Aを超えてB以下」、および「A以上B未満」の意味を包含する。
【0016】
図1は、一実施形態に係る排ガス浄化用触媒の製造方法の大まかな工程を示すフローチャートである。本実施形態では、材料準備工程S10と、浸漬工程S20と、乾燥工程S30と、焼成工程S40とを含む。
【0017】
<材料準備工程S10>
材料準備工程S10は、基材と、触媒金属溶液と、薬液皿とを準備することを含む。
【0018】
(基材)
基材は、排ガス浄化用触媒の骨格を構成する部材である。該基材としては、排ガス浄化用触媒を構成する基材として従来からよく用いられている種々の素材および形態のものを採用することができる。例えば、高耐熱性を有するコージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素(SiC)などのセラミック基材、或いはステンレス鋼などのメタル基材を使用することができる。
【0019】
基材の形状についても従来の排ガス浄化用触媒と同様でよく、排ガスが導入される上流側端部から排ガスが排出される下流側端部に至る排ガス通路を有していれば、特に限定されない。
図2は、排ガス浄化用触媒に用いられる基材の構成の一例を模式的に示す斜視図である。
図2に示すように、基材10は、外径が円筒形状であり得る。また、基材10は、その長軸方向に排ガス通路としての貫通孔である複数のセル12を備えており、当該複数のセル12は、隔壁(リブ壁)14によって仕切られているハニカム構造を有し得る。なお、
図2では、基材10の筒軸方向に垂直な断面におけるセル12の形状は正方形であるが、これに特に限定されない。例えば、平行四辺形、長方形、台形などの四角形状、三角形状、その他の多角形状(例えば、六角形、八角形)、円形など種々の幾何学形状であってもよい。また、基材10全体の外形は、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形などを採用してもよい。
【0020】
図2に示す基材10は、上流側端部10aからセル12内に導入された排ガスがそのまま当該セル12を通って、下流側端部10bから排出される所謂ストレートフロータイプであるが、これに特に限定されない。例えば、上流側端部のみが開口したセルの当該上流側端部から導入された排ガスが多孔質な隔壁を通過して、隣接する下流側端部のみが開口したセルに移動して当該セルの下流側端部から排出される所謂ウォールフロータイプの基材であってもよい。或いは、排ガスが細孔内を流動し得る限りにおいて、不規則な細孔が形成されたスポンジ状の多孔質体であってもよい。
【0021】
特に限定されるものではないが、基材10の容量(セル12全体の体積)は、通常0.1L以上(好ましくは0.5L以上)であり、例えば5L以下(好ましくは3L以下、より好ましくは2L以下)であるとよい。また、基材10の排ガス流動方向(筒軸方向)に沿う全長は、通常10mm~500mm(例えば50mm~300mm)程度とすることができる。
【0022】
基材10の筒軸方向に垂直な断面におけるセル12一つあたりの断面積は、例えば、0.6mm2以上2.5mm2以下であって、好ましくは0.8mm2以上2.2mm2以下である。かかる範囲であれば、排ガスの流通性を担保しながら、毛細管現象を効果的に生じさせることができ得る。毛細管現象を効果的に生じさせることで、触媒金属溶液を高効率に基材の排ガス通路に導入することができる。
【0023】
(触媒金属溶液)
触媒金属溶液は、基材の排ガス通路に面する隔壁の少なくとも表面に、排ガス成分を浄化する機能を有する触媒金属担持部(触媒層ともいう)を形成するために用いられる材料である。触媒金属溶液は、少なくとも一種の排ガス成分を酸化若しくは還元し得る触媒として機能する触媒金属を含む。また、触媒金属溶液は、液状の媒体を含み得る。
【0024】
触媒金属としては、例えばパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)等の白金族元素に属する貴金属あるいはその他の酸化若しくは還元触媒として機能する金属が挙げられる。PdおよびPtは、一酸化炭素および炭化水素の浄化性能(酸化浄化能)に優れ、RhはNOxの浄化性能(還元浄化能)に優れるため、これらは三元触媒として特に好ましい触媒金属である。
【0025】
触媒金属溶液は、触媒金属をイオンの形態で含むことが好ましい。このような触媒金属溶液を焼成することにより、触媒金属粒子を生成することができる。また、触媒金属溶液中の触媒金属の濃度を均一にすることができるため、毛細管現象により触媒金属溶液を基材内部に導入した場合であっても、触媒金属粒子が均一性高く分布した触媒金属担持部を形成することができる。触媒金属溶液として、例えば、触媒金属を含む水溶性の金属塩を含む水溶液、触媒金属の錯体を含む水溶液等を使用することができる。金属塩としては、例えば、硝酸パラジウム、硝酸ロジウム等の硝酸塩;硫酸パラジウム、硫酸ロジウム等の硫酸塩等が挙げられる。触媒金属の錯体としては、テトラアンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体等が例示される。
【0026】
また、本明細書において、「触媒金属溶液」とは、コロイド粒子が媒体に分散した混合物を包含し得る。そのため、触媒金属は、媒体に完全に溶解していなくてもよく、例えば、触媒金属を触媒金属粒子の形態で含んでいてもよい。かかる触媒金属粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、例えば、0.1nm~1μm程度(典型的には1nm~10nm)とすることができる。なお、かかる平均粒子径は、透過型電子顕微鏡観察により、100個の触媒金属粒子の粒子径を測定したときの平均値として求めることができる。
【0027】
触媒金属溶液に使用され得る媒体としては、例えば、水系溶媒(例えば、水、脱イオン水、純水等)が好適に採用される。水系溶媒は、触媒金属を含む金属塩や触媒金属錯体を好適に溶解させることができ得る。
【0028】
触媒金属溶液は、毛細管現象によって基材の内部に導入される限り、増粘剤、分散剤、界面活性剤、バインダ等のその他添加剤を含んでいてもよい。
【0029】
触媒金属溶液全体における触媒金属の含有量は、例えば、0.1質量%~30質量%であって、1質量%~15質量%であってもよい。触媒金属の含有量を調整することにより、触媒金属担持部のおける触媒金属粒子の量を調整することができる。なお、触媒金属の含有量は、触媒金属の原子量で換算したときの値のことをいう。
【0030】
(薬液皿)
薬液皿は、触媒金属溶液を供給可能な凹部を有している。
図3は、一実施形態に係る薬液皿に触媒金属溶液を供給したときの構成を模式的に示した断面図である。
図4は、一実施形態に係る薬液皿の構成を模式的に示す平面図である。
図5は、一実施形態に係る薬液皿の底面の構成を模式的に示した部分拡大図である。薬液皿30は、底壁32と、底壁32の外周から立ち上がった側壁34とを有し、底壁32と側壁34とで構成された凹部36を有している。薬液皿30の底壁32の凹部36側の表面(「底面32a」ともいう)には、所定のパターンからなる溝32bが形成されている。本技術は、かかる溝32bにより特徴付けられ得る。以下、
図6A~6Cに、従来の薬液皿130の一例を用いて基材10に触媒金属溶液20を導入する方法を模式的に示し、その課題点について説明する。
【0031】
図6A~6Cでは、基材10の端部(ここでは上流側端部10a)を触媒金属溶液20に浸漬することで、基材10の内部(詳細には、基材10の排ガス通路)に触媒金属溶液20を導入させる方法を模式的に示している。かかる方法は、
図6A、
図6B、
図6Cの順で実施される。
図6A~6Cに示すように、従来の薬液皿130では、底面132aに溝が形成されていない。このような薬液皿130の凹部136に触媒金属溶液20を供給すると、触媒金属溶液20が表面張力により、供給された触媒金属溶液20の中央部の液面高さが高くなる。即ち、触媒金属溶液20の液面が湾曲した状態になる。基材10の端部を触媒金属溶液20に浸漬させると(
図6A参照)、毛細管現象により、薬液皿130に供給された触媒金属溶液20が基材10の排ガス通路(ハニカム基材であれば、セル及び隔壁が有し得る細孔等)に導入される(
図6B参照)。しかしながら、触媒金属溶液20の液面が湾曲しているため、基材10に導入された触媒金属溶液20の先端面が湾曲した(波打ち)状態になってしまう。そして、この状態で基材10を焼成して、触媒金属担持部を形成すると、触媒金属担持部の担持幅(基材10の端部からの幅)にばらつき(波打ち)が生じる。
図6Cに示すように、典型的には、基材10の中央部付近における触媒金属担持部の担持幅が最大になり、基材10の外周部付近における触媒金属担持部の担持幅が最小になり、触媒金属担持幅には、最大値と最小値との差Lが生じる。かかる差Lが大きい場合には、排ガス浄化性能が基材の中央部と外周部とでばらつきが生じてしまい、所望の排ガス浄化性能を発揮できない場合がある。
なお、供給する触媒金属溶液20の液面の湾曲を防止するため、触媒金属溶液20の量を増やした場合であっても、当該触媒金属溶液20が基材10の内部に供給されることに伴い、薬液皿130上の触媒金属溶液20の量が少なくなるため、上述のように触媒金属溶液20の中央部の液面高さが高くなる状態が生じる。そのため、触媒金属溶液20の供給量の調整では、触媒金属担持部の担持幅の波打ちを抑制するのに不十分である。
【0032】
一方で、ここで開示される薬液皿30では、底面32aに所定のパターンからなる溝32bが形成されている。また、溝32bは、所定の深さ(例えば、平均が1.2mm~3mm)および幅(例えば、平均が1.6mm~3mm)を有している。溝32bが形成されていることで、薬液皿30に供給された触媒金属溶液20の表面張力を低減することができる。そのため、触媒金属溶液20の液面が湾曲することが抑制される。これにより、基材10の端部を当該触媒金属溶液20に浸漬させ、毛細管現象により、触媒金属溶液を基材の内部に導入した際にも、その先端面の波打ちが抑制される。その結果、触媒金属担持部の担持幅の波打ちを抑制することができる。また、溝32bにより触媒金属溶液の表面張力が低減されるため、基材10の内部に毛細管現象によって触媒金属溶液20を導入した後、薬液皿30に残る触媒金属溶液20の量が低減される。そのため、本技術によれば、基材10の所望の幅に対して、触媒金属溶液20を高効率に基材10の内部に導入することができる。さらに、本発明者の検討によれば、薬液皿30に残る触媒金属溶液20の量のばらつきが小さくなる。換言すれば、再現性よく触媒金属溶液20を基材10の内部へ導入することができる。これにより、品質安定性を高めることができる。
【0033】
薬液皿30の溝32bの深さD(
図3参照)の平均は、例えば、1.2mm以上であって、好ましくは1.3mm以上、より好ましくは1.35mm以上、さらに好ましくは1.39mm以上である。溝32bの深さDが大きいほど、触媒金属溶液20の表面張力をより低減することができる。一方で、特に限定されるものではないが、溝32bの深さDの平均は、例えば5mm以下であって、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下である。溝32bの深さDが大きすぎると、触媒金属溶液20を基材10に導入後、薬液皿30に残る触媒金属溶液20の量が多くなるため、コスト面で不利になる。なお、溝32bの深さDは、溝32bの幅方向に沿った断面において、溝32bの最深部から薬液皿30の底面32aの高さまでの距離のことをいう。
【0034】
薬液皿30の溝32bの幅W(
図5参照)の平均は、例えば、1.6mm以上であって、好ましくは1.8mm以上である。溝32bの幅Wが小さすぎる場合には、触媒金属溶液20の表面張力を十分に低減できない場合がある。また、溝32bの幅Wの平均は、特に限定されるものではないが、例えば5mm以下であって、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下、さらには、2.2mm以下、2mm以下であり得る。溝32bの幅Wが大きすぎると、触媒金属溶液20を基材10に導入後、薬液皿30に残る触媒金属溶液20の量が多くなり得る。
【0035】
平面視において、薬液皿30の底面32aに占める溝32bの面積の割合は、特に限定されるものではないが、例えば、10%~60%であって、好ましくは30%~50%である。これにより、触媒金属溶液の表面張力をより低減することができる。
【0036】
薬液皿30の溝32bは、所定のパターンからなるように形成されており、好ましくは溝32bが互いに連通している。これにより、薬液皿30に供給された触媒金属溶液20の量が少なくなったとき(例えば底面32aの高さを下回る量になったとき)、溝32b内の触媒金属溶液20の液面高さが均一になるため、触媒金属担持部の担持幅の波打ちをより抑制することができる。
【0037】
本実施形態においては、
図4に示すように、薬液皿の溝32bは格子状に形成されている。換言すれば、溝32bは、所定のピッチP(隣り合う溝間の距離)で所定の方向に向かって形成される複数の溝と、当該溝と所定の角度(ここでは90°)で交わるように、所定のピッチで形成された複数の溝とで構成されている(
図5参照)。これにより、触媒金属溶液の表面張力をより低減することができるため、触媒金属担持部の担持幅の波打ちをより抑制することができる。
【0038】
溝32bのピッチPは、特に限定されるものではないが、例えば6mm以上であって、好ましくは8mm以上である。また、溝32bのピッチPは、例えば20mm以下であって、好ましくは14mm以下、より好ましくは10mm以下である。このような範囲であれば、触媒金属溶液20を基材10に導入後、薬液皿30に残る触媒金属溶液20の量が少なくなり、また、その量のばらつきが小さくなる。
【0039】
本実施形態では、所定の方向に向かって形成される溝のピッチと、当該溝に交わるように形成される溝のピッチとが同じになるように形成されている。換言すれば、平面視において、溝32bに囲まれた底面32aの外形が、同じ辺の長さを有する四角形になるように形成されている。しかしながら、これに限定されず、所定の方向に向かって形成される溝のピッチと、当該溝に交わるように形成される溝のピッチとが異なるように設計することもできる。この場合、所定の方向に向かって形成される溝のピッチと、当該溝に交わるように形成される溝のピッチとが、それぞれ上述した溝32bのピッチPの範囲であるとよい。
【0040】
本実施形態において、溝32bの幅方向に沿った断面における溝32bの断面形状(溝の外形)は、溝の底に向かって幅が徐々に減少していく逆三角形型になるように形成されている。これにより、触媒金属溶液20を基材10に導入後、薬液皿30に残る触媒金属溶液20の量が少なくなり、触媒金属担持部の触媒金属担持量のばらつきを抑制することができる。しかしながら、かかる溝32bの断面形状はこれに限定されるものではなく、例えば、半円状、四角形状、多角形状等であってもよい。
【0041】
なお、
図4に示すように、本実施形態において、薬液皿30の凹部36の平面視における外形は円形状である。しかしながら、かかる凹部36の外形は特に限定されるものではなく、楕円形、多角形等であってよい。好ましくは、凹部36の平面視における外形は、基材10の筒軸方向に垂直な断面の外形と同じ形状である。これにより、触媒金属溶液20が基材10により均一に導入され得るため、触媒金属担持部の担持幅の波打ちがより抑制される。
【0042】
薬液皿30は、使用される触媒金属溶液20に含まれる化合物に対する耐薬品性を有していることが好ましい。そのため、触媒金属溶液20に含まれる化合物の種類によって、薬液皿30の材質は異なり得るが、例えば、ステンレス鋼、塩化ビニル、アクリル樹脂等を使用することができる。
【0043】
なお、ここで開示される薬液皿は、ここで開示される製造プロセスを実施可能な限り、触媒金属溶液を供給可能な凹部を有する治具等の形態であってもよい。
【0044】
材料準備工程S10では、薬液皿30に触媒金属溶液20を供給することを含む。具体的には、触媒金属溶液20を薬液皿30の凹部36を加え、薬液皿30の底面32aが露出しなくなるように触媒金属溶液20を供給する。このとき、薬液皿30の底面32aが露出した部分が存在していると、基材10の端部を触媒金属溶液20に浸漬したとき、触媒金属溶液の導入量が少ない若しくは導入されない場合があるため好ましくない。
【0045】
薬液皿30に供給された触媒金属溶液20の液面の高さHは(
図3参照)、特に制限されるものではないが、好ましくは0.37mm以上である。これにより、薬液皿30に供給された触媒金属溶液20の液面の湾曲を抑制し、より平坦にすることができるため、触媒金属担持部の担持幅の波打ちをより高いレベルで抑制することができる。また、液面の高さHの上限は特に限定されず、所望の触媒金属担持部の担持幅にあわせて、適宜調整すればよいが、例えば、300mm以下とすることができる。なお、液面の高さHは、底面32aからの高さのことをいう。
【0046】
<浸漬工程S20>
浸漬工程S20では、薬液皿30に供給された触媒金属溶液20に、基材10の端部(上流側端部10a若しくは下流側端部10b)を浸漬させる。基材10は、排ガスを上流側端部10aから下流側端部10bまで通過させることができる排ガス通路を有するため、毛細管現象により、薬液皿30に供給された触媒金属溶液20を当該排ガス通路に導入することができる。
【0047】
浸漬時間は、形成する触媒金属担持部の担持幅に合わせて、若しくは、薬液皿30に供給された触媒金属溶液20の量によって変更されるため、特に限定されるものではないが、例えば、5秒~3時間であって、10分~2時間であってもよい。
【0048】
<乾燥工程S30>
乾燥工程S30は、従来この種の技術で実施されている乾燥と同様の条件で実施することができ、特に限定されない。例えば、乾燥処理における加熱温度は、50℃~200℃であって、好ましくは100℃~150℃である。また、乾燥時間は、0.5時間~5時間であって、好ましくは1時間~3時間である。なお、乾燥工程S30は必須の工程ではなく、省略することもできる。
【0049】
<焼成工程S40>
焼成工程S40では、触媒金属溶液20が導入された基材10を焼成することで、基材10に触媒金属担持部を形成する。触媒金属溶液20が触媒金属イオンを含む場合には、焼成によって触媒金属粒子が析出し、かかる触媒金属粒子を担体(典型的には、基材10の隔壁14)に付着させることができる。焼成条件は、特に限定されず、基材10の構造や触媒金属溶液の組成に応じて適宜調節することができる。焼成温度は、例えば、150℃以上でもよく、200℃以上でもよく、250℃以上でもよい。一方、焼成温度の上限値は、1000℃以下でもよく、900℃以下でもよく、800℃以下でもよく、700℃以下でもよく、600℃以下でもよい。また、焼成時間は、5分以上でもよく、0.5時間以上でもよく、1時間以上でもよく、1.5時間以上でもよい。焼成時間の上限は、8時間以下でもよく、6時間以下でもよく、4時間以下でもよい。
【0050】
以上、本実施形態に係る製造方法に含まれる大まかな工程を説明したが、ここで開示される製造方法は、さらに任意の段階で他の工程を含み得る。例えば、基材に所望の組成を含む触媒金属含有スラリーを導入し、上述の触媒金属担持部とは異なる位置に、触媒層を形成する工程を含み得る。これにより、排ガス浄化用触媒の排ガス浄化性能を向上させることができる。かかる触媒層の具体的な組成や配置等は、本技術を特徴づけるものではないので、詳細な説明を省略する。
【0051】
ここで開示される製造方法は、基材の規定幅に規定量の触媒金属担持部を形成する際に好適に利用される。本技術によれば、触媒金属担持部の担持幅の波打ちを抑制することができるため、基材の中央部と外周部とにおいて生じ得る排ガス浄化性能の差を抑制することができる。また、本技術は、吸引装置等の装置を使用する必要がないため、簡便に実施することができる。
【0052】
また、本開示により、内燃機関から排出される排ガスの浄化を行う排ガス浄化用触媒の製造に用いられる上述の構成を備える薬液皿が提供される。なお、ここで開示される薬液皿は、ここで開示される製造プロセス以外にも使用することができ得る。
【0053】
本技術を用いて製造される排ガス浄化用触媒は、車両などの内燃機関の排気系統等に設置され、種々の内燃機関から排出される排ガスを浄化するために好適に用いることができる。例えば、ガソリンエンジン用の排ガス浄化用触媒として、または、ディーゼルエンジン用の排ガス浄化用触媒として好適に用いることができる。
【0054】
以下、ここで開示される技術の試験例を説明する。なお、以下の説明は、ここで開示される技術を試験例に示されるものに限定することを意図したものではない。
【0055】
<基材および触媒金属溶液の準備>
基材として、ストレートフロー型の円筒状のハニカム基材(コージェライト製、筒軸方向の長さ:100mm、直径117mm、セル密度:750cpi)を準備した。また、触媒金属溶液として、硝酸パラジウム溶液(Pd換算量:13.5質量%)を準備した。
【0056】
<薬液皿の準備>
(例1~8)
各例において、円形状(直径:130mm)の底面に格子状の溝を有する薬液皿を準備した。各例における薬液皿の溝の深さ、溝の幅、溝のピッチは表1に示すとおりである。なお、溝と溝とが交差する角度が直角となるようにした。また、溝の幅方向に沿った溝の断面形状は、溝の底の頂点に向かって幅が徐々に減少していくような逆三角形型とした。
【0057】
(参考例)
参考例として、円形状(直径:130mm)の底面に溝がない薬液皿を準備した。
【0058】
<基材の浸漬>
薬液皿に6gの触媒金属溶液を加えた。このとき、各例において、触媒金属溶液が薬液皿の底面全体が露出しないよう満たされていることを確認した。また、例1~8の中で最も溝の体積が大きい例8において、このときの触媒金属溶液の薬液皿の底面からの液面高さが0.37mmであることを確認した。そして、基材の筒軸方向の端部(即ちセルの開口部を有する端面)を薬液皿中の触媒金属溶液に浸漬させ、毛細管現象により触媒金属溶液を基材の内部へ導入した。かかる浸漬は、5秒間実施した。その後、220℃、5分間の熱処理を実施し、触媒金属担持部を有する排ガス浄化用触媒を作製した。
【0059】
さらに、各例において、薬液皿に加える触媒金属溶液の量を8g、10g、16gに変更し、排ガス浄化用触媒を作製した。即ち、各例において、4つの排ガス浄化用触媒を製造した。
【0060】
<波打ちの評価>
作製した排ガス浄化用触媒は、熱処理を実施することで、Pdが担持された部分が黒く変色する。そこで、排ガス浄化用触媒の端面の中央を通るように筒軸方向に沿って2分割し、断面の黒く変色している部分の筒軸方向における幅の最長部分と最小部分とを測定し、これらの差を「波打ち」として求めた。各例において上記製造した4つの排ガス浄化用触媒の波打ちの平均値を表1に示す。
【0061】
<触媒金属溶液の残量の評価>
基材に触媒金属溶液を浸漬させた後、薬液皿に残った触媒金属溶液の量を電子天秤により測定した。各例において上記製造した4つの排ガス浄化用触媒でかかる測定を行い、以下の式(1)により標準偏差Sを算出した。なお、式(1)中の、nはデータ数(ここではn=4)、x
iは各データ値、x
ave.は各データの平均を示す。そして、各例におけるデータのばらつきσを、σ=3Sとして求めた。各例の触媒金属溶液の平均残量(g)と、ばらつきσを表1および
図7に示す。
図7は、各例の触媒金属溶液の平均残量を縦軸とし、ばらつきσをエラーバーとして示したグラフである。
【0062】
【0063】
【0064】
表1に示すように、底面に溝を有さない薬液皿を使用した参考例では、触媒金属担持部の波打ちが大きかった。また、例4に示すように、底面に溝が形成された薬液皿を使用しても、溝の深さおよび溝の幅が比較的小さい場合には、触媒金属担持部の波打ちが抑制されなかった。一方で、深さが概ね1.2mm~3mm、幅が1.6mm~3mmである溝が形成された薬液皿を使用した場合(例1~4、6~8)には、触媒金属担持部の波打ちが抑制された。特に、例4では、触媒金属担持部の波打ちが生じなかったため、溝の深さおよび幅が両者とも概ね1.8mm~2.2mmであることで、好適に波打ちを抑制できることがわかる。
【0065】
表1および
図7に示すように、参考例と例1~8を比較したとき、例1~8の方が、薬液皿の触媒金属溶液の残量が少なく、そのばらつきも小さくなっていたことから、底面に溝が形成された薬液皿を使用することで、高効率に基材へ触媒金属を担持させることができることがわかる。また、例1~3の比較をすると、溝のピッチが8mm~14mmであるとき、触媒金属溶液残量と、そのばらつきとをより小さくすることができることがわかる。
【0066】
以上、本技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0067】
10 基材
10a 上流側端部
10b 下流側端部
12 セル
14 隔壁
20 触媒金属溶液
30 薬液皿
32 底壁
32a 底面
32b 溝
34 側壁
36 凹部