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特許7386945ガラス組成物、ガラス繊維及びそれを含む製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】ガラス組成物、ガラス繊維及びそれを含む製品
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20231117BHJP
   C03C 3/093 20060101ALI20231117BHJP
   C03C 13/00 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
C03C3/091
C03C3/093
C03C13/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022140332
(22)【出願日】2022-09-02
(65)【公開番号】P2023038176
(43)【公開日】2023-03-16
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】110133040
(32)【優先日】2021-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】520409925
【氏名又は名称】富喬工業股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】シュイ シエン チョン
(72)【発明者】
【氏名】チェン ピー チョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン シアオ カン
(72)【発明者】
【氏名】チャン チー ユアン
(72)【発明者】
【氏名】シュイ ウェン ホー
【審査官】永田 史泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-219780(JP,A)
【文献】特開平11-292567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
総量を100wt%として、
含有量が55wt%~64wt%の範囲内にあるSiOと、
含有量が15wt%~22wt%の範囲内にあるAlと、
含有量が0.1wt%~4wt%の範囲内にあるCaOと、
含有量が2.1wt%~10wt%の範囲内にあるMgOと、
含有量が0wt%~8wt%の範囲内にあるZnOと、
含有量が0wt%を超え且つ7wt%未満のCuOと、
含有量が13.1wt%を超え且つ18wt%未満のBと、を含むことを特徴とするガラス組成物。
【請求項2】
NaO、KO、Fe、TiOまたはそれらの組み合わせからなる群より選ばれた他の物質を少なくとも1種含む他の物質成分を更に含むことを特徴とする、請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
総量を100wt%として、含有量が0wt%を超え且つ1.2wt%以下の前記他の物質成分を含むことを特徴とする、請求項2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のガラス組成物を含むことを特徴とする、ガラス繊維。
【請求項5】
熱膨張係数が3ppm/℃以下であることを特徴とする、請求項4に記載のガラス繊維。
【請求項6】
10GHzの周波数において、誘電率が5以下であることを特徴とする、請求項4に記載のガラス繊維。
【請求項7】
10GHzの周波数において、誘電正接が0.0045以下であることを特徴とする、請求項4に記載のガラス繊維。
【請求項8】
請求項4に記載のガラス繊維を含むことを特徴とする、製品。
【請求項9】
プリント基板、集積回路基板またはレーダードームから選ばれることを特徴とする、請求項8に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物及びガラス繊維に関し、特に、低熱膨張係数、低誘電率(low dielectric constant)及び低誘電正接(low dielectric loss tangent)を有するガラス組成物及び該ガラス組成物を含むガラス繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維は、電気絶縁性(electrical insulation)、低散逸率(low dissipation factor)及び高安定性(high stability)などの利点を有するので、回路基板や無線アクセスポイント(wireless access point)用機器などの電気製品に応用されている。
【0003】
特許文献1には、低誘電ガラス組成物及び低誘電ガラス繊維が開示されている。
該低誘電ガラス組成物は、49wt%超え且つ53wt%以下の範囲内にあるSiOと、13wt%~17wt%の範囲内にあるAlと、18wt%~24wt%の範囲内にあるBと、2wt%超え且つ4.5wt%以下の範囲内にあるMgOと、2wt%超え且つ5wt%以下の範囲内にあるCaOと、0.6wt%超え且つ3.5wt%未満の範囲内にあるTiOと、0wt%超え且つ0.6wt%以下の範囲内にあるNaOと、0wt%~0.5wt%の範囲内にあるKOと、0wt%~1wt%の範囲内にあるFと、1wt%超え且つ4wt%未満の範囲内にあるZnOと、0wt%超え且つ1wt%以下の範囲内にあるFeと、0.1wt%~0.6wt%の範囲内にあるSOとを含み、且つ、MgO+CaO+ZnOの含有量の合計が、8wt%を超え且つ11wt%未満の範囲内にある。低誘電ガラス繊維は、該低誘電ガラス組成物によるものである。
【0004】
特許文献1に開示されている低誘電ガラス組成物は、低誘電率及び低誘電正接を有するが、しかし、電気製品の設計がますます複雑になり、特に無線アクセスポイント用機器は、作動中に生じた熱が内部の電気製品に対して悪影響があり、または製造中に熱による膨張または収縮などで生じた残留応力が電気デバイスに対して悪影響があり、例えば、絶縁層または絶縁部材と金属箔/配線との間で、熱膨張係数の差により剥離が生じる。
【0005】
従って、ガラス繊維の熱による膨張または収縮を考慮したガラス繊維の幾何特性(例えば長さや体積)に対する要求もますます高くなっていており、低誘電性能(低誘電率及び低誘電正接)と、低熱膨張係数とを兼ね備えるガラス繊維の開発が非常に必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】台湾特許出願公開第202118743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、低熱膨張係数、低誘電率、及び良好な紡糸加工性を有するガラス組成物、低熱膨張係数及び低誘電率を有するガラス繊維、及びそれを含む製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を実現するために、本発明は、総量を100wt%として、
含有量が55wt%~64wt%の範囲内にあるSiOと、
含有量が15wt%~22wt%の範囲内にあるAlと、
含有量が0.1wt%~4wt%の範囲内にあるCaOと、
含有量が2.1wt%~10wt%の範囲内にあるMgOと、
含有量が0wt%~8wt%の範囲内にあるZnOと、
含有量が0wt%を超え且つ7wt%未満のCuOと、
含有量が13.1wt%を超え且つ18wt%未満のBと、
を含むことを特徴とするガラス組成物を提供する。
また、本発明は、上記のガラス組成物を含むことを特徴とするガラス繊維を提供する。
また、本発明は、上記のガラス繊維を含むことを特徴とする製品を提供する。
【発明の効果】
【0009】
上記の成分及び含有量の組み合わせ設計、特にCuO、Bの設計により、本発明のガラス組成物及びガラス繊維は、低熱膨張係数と低誘電率と低誘電正接とを有し、また、本発明のガラス組成物は、良好な紡糸加工性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のガラス組成物は、該ガラス組成物の総量を100wt%として、含有量が55wt%~64wt%の範囲内にあるSiOと、含有量が15wt%~22wt%の範囲内にあるAlと、含有量が0.1wt%~4wt%の範囲内にあるCaOと、含有量が2.1wt%~10wt%の範囲内にあるMgOと、含有量が0wt%~8wt%の範囲内にあるZnOと、含有量が0wt%を超え且つ7wt%未満のCuOと、含有量が13.1wt%を超え且つ18wt%未満のBとを含む。
【0011】
SiOは、本発明のガラス組成物の主要成分であって、基本構造ユニットがSiOである四面体配列の結晶構造の3次元網目構造を有する。
【0012】
AlとSiOとの3次元網目構造には、一部の酸素原子が結合して架橋酸素(bridging oxygen)を形成して、ガラス組成物の熱安定性及び粘度が向上する。しかし、Alの含有量が22wt%を超えると、ガラス組成物の粘度が高すぎるようになって、該ガラス組成物をガラス繊維として形成するには更に高い温度が必要になり、製造コストが高くなる。
【0013】
CaOは、ガラス組成物の粘度を低減して、ガラス組成物の熱加工における十分な溶融に利することができる。しかし、CaOの含有量が4wt%を超えると、ガラス組成物の誘電率が高くなる。
【0014】
MgOは、ガラス組成物の粘度を低減して、ガラス組成物の熱加工における十分な溶融に利する上、該ガラス組成物によるガラス繊維の機械強度の向上にも繋がる。しかし、MgOの含有量が10wt%を超えると、ガラス組成物の誘電率が高くなる。
【0015】
ZnOは、ガラス組成物によるガラス繊維の熱膨張係数を低減することができる。本技術分野の一般知識によると、ガラス組成物がアルカリ金属の酸化物(例えばNaOまたはKOなど)及びZnOを含むと、該ガラス組成物によるガラス繊維は構造が緩い状態になって、熱膨張係数の低減に不利になる。従って、本発明の一部の実施形態において、ガラス組成物がアルカリ金属の酸化物を含む場合、必要に応じてZnOを添加しなくてもよい。
【0016】
CuOは、ガラス組成物によるガラス繊維の熱膨張係数を低減することができ、且つ、ガラス組成物が製造中に緻密な構造を生じるようにすることができるので、アルカリ金属の酸化物とZnOとが同時に存在することによりガラス繊維の構造が緩い状態になる問題を軽減できる。CuOを含まないと、ガラス組成物の熱膨張係数が3ppm/℃を超え、CuOの含有量が7wt%以上になると、ガラス組成物に結晶が生じて、紡糸成型作業に不利になる。
【0017】
の含有量が13.1wt%を超え且つ18wt%未満の範囲内にあると、ガラス組成物及びガラス繊維は、低誘電率及び低誘電正接を有するようになり、該ガラス組成物は、良好な紡糸加工性を有するようになる。しかし、Bの含有量が13.1wt%以下にあると、10GHzの周波数において、ガラス組成物の誘電率が5以上になり、Bの含有量が18wt%以上にあると、ガラス組成物に結晶が生じて、紡糸成型作業に不利になる。
【0018】
本発明のガラス組成物は、他の物質成分を更に含んでもよい。該他の物質成分は、少なくとも1種の他の物質を含む。該他の物質としては、例えばNaO、KO、Fe、TiOまたはそれらの組み合わせからなる群より選ばれたものが挙げられるが、それらに限らない。
【0019】
本発明の一部の実施形態において、該他の物質成分は、NaO、KO、Fe、TiOまたはそれらの組み合わせからなる群より選ばれた他の物質を少なくとも1種を含む。本発明の一部の実施形態において、ガラス組成物は、総量を100wt%として、含有量が0wt%を超え且つ1.2wt%以下の前記他の物質成分を含む。
【0020】
NaO及びKOは、フラックス(flux)であって、ガラス組成物の溶融に利してより低い温度でガラス繊維を製造することに利する。しかし、NaO及びKOの含有量が多すぎると、ガラス繊維の化学安定性が低減して電気絶縁性及び機械強度が低下する。
【0021】
Feは、ガラス組成物を溶融、紡糸するなどの工程での安定性を向上させることができる。しかし、Feの含有量が多すぎると、ガラス組成物を溶融する時に、温度が不均一となる問題が生じる。
【0022】
TiOは、ガラス繊維の機械強度を向上させることができる。しかし、TiOの含有量が多すぎると、ガラス組成物からガラス繊維を形成する過程において、ガラス組成物に結晶が生じて、紡糸成型作業に不利になる。
【0023】
本発明のガラス繊維は、上記のガラス組成物を含む。
本発明の一部の実施形態において、ガラス繊維の熱膨張係数は、3ppm/℃以下である。
本発明の一部の実施形態において、10GHzの周波数において、ガラス繊維の誘電率は、5以下である。
本発明の一部の実施形態において、10GHzの周波数において、ガラス繊維の誘電正接は、0.0045以下である。
【0024】
本発明の製品は、上記のガラス繊維を含む。
【0025】
本発明の製品は、例えばプリント基板、集積回路基板またはレーダードームが挙げられるが、それらに限らない。
【0026】
本発明の一部の実施形態において、製品は、例えばプリント基板、集積回路基板またはレーダードームから選ばれるものである。
【実施例
【0027】
以下、本発明の実施例について説明する。これらの実施例は、例示的かつ説明的なものであり、且つ、本発明を限定するものと解釈されるべきではないことを理解されたい。
【0028】
[実施例1]
表1に示される実施例1の含有量を有するガラス組成物にできるように各原料粉末を量り取って均一に混合した後、ガラス原料組成物を得た。
該ガラス原料組成物を高温炉中に配置して1500℃~1600℃の温度で1~4時間加熱し、完全に溶融した液体ガラスを得た。そして、該液体ガラスを直径40mmの黒鉛るつぼ(graphite crucible)に注入し、該黒鉛るつぼを800℃まで予熱した焼鈍炉(annealing furnace)に配置し、該液状ガラスを室温にまで冷却することでガラスブロックを形成した。
【0029】
本発明に係る各種ガラス品はガラス組成物とみなすことができ、即ち、実施例及び比較例におけるガラスブロックは、ガラス組成物とみなすことができる。
【0030】
[実施例2~実施例5及び比較例1~比較例5]
実施例2~実施例5及び比較例1~比較例5の製造方法は、表1及び表2に示される実施例2~実施例5及び比較例1~比較例5の含有量を有するガラス組成物にできるように各原料粉末を量り取る以外、実施例1と同じである。
【0031】
[評価項目]
<熱膨張係数>
各実施例及び各比較例のガラスブロックからサイズが0.5cm×0.5cm×2cmのサンプルを得た。そして、熱機械分析装置(Hitachi社、型番:TMA71000)を使用して、10℃/minの加熱速度で各実施例及び各比較例のサンプルを加熱し、各サンプルの50℃及び200℃の時の長さを測定し、測定された長さ及び温度により、長さの変化量及び温度の変化量を算出してから熱膨張係数を算出した。その結果は、表1及び表2に示される。
【0032】
<誘電率及び誘電正接>
各実施例及び各比較例のガラスブロックを研磨して、厚さ0.60mm~0.79mmのガラスシートを作成してから、ベクトルネットワークアナライザ(Vector Network Analyzer、ドイツR&S社のZNB20)をスプリットポスト誘電体共振器(Split Post Dielectric Resonator、台湾WAVERAY TECHNOLOGY CO.,LTD.社)と合わせて、周波数が10GHz時の、各実施例及び各比較例のガラスシートの誘電率及び誘電正接を測定した。その結果は、表1及び表2に示される。
【0033】
<紡糸の成形ウィンドウ(forming window、ΔT)>
各実施例及び各比較例のガラスブロックから2.25gを取って高温炉中に配置した後、特定温度まで加熱し且つ2時間温度を維持し、そして該ガラスブロックを高温の溶鉱炉から取り出して静置で室温(25℃)まで冷却した後、該ガラスブロック中の結晶の有無を観察した。結晶がある場合、該特定温度はその実施例または比較例のガラス組成物の失透温度である。各実施例及び各比較例のガラス組成物が粘度1000ポアズ(poise)になる時の温度から失透温度を引くと、各実施例及び各比較例のガラス組成物の紡糸の成形ウィンドウ(ΔT、単位:℃)が得られる。紡糸の成形ウィンドウ(ΔT)が大きいほど、ガラス繊維を製造する際の紡糸成形工程が行いやすくなる。その結果は、表1及び表2に示される。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1及び表2に示されるように、比較例1、2、4及び5のガラス組成物は、CuOの含有量を0wt%を超え且つ7wt%未満の範囲に且つBの含有量を13.1wt%を超え且つ18wt%未満の範囲に同時に制御していないので、そのガラス組成物によるガラス(ガラスブロックやガラスシート)の熱膨張係数、誘電率及び誘電正接の少なくとも1つが高すぎる。
【0037】
それに対して、本発明の各実施例のガラス組成物は、CuOの含有量を0wt%を超え且つ7wt%未満の範囲に且つBの含有量を13.1wt%を超え且つ18wt%未満の範囲に同時に制御しているので、そのガラス組成物によるガラス(ガラスブロックやガラスシート)は、熱膨張係数が2.8ppm/℃以下であり、誘電率が4.98以下であり、且つ誘電正接が0.0043以下である。従って、比較例1、2、4及び5と比べて、本発明のガラス組成物によるガラスは、より低い熱膨張係数、誘電率及び誘電正接を有し、即ち、本発明のガラス組成物によるガラス繊維も、より低い熱膨張係数、誘電率及び誘電正接を有する。
【0038】
比較例3のガラス組成物によるガラス(ガラスブロックやガラスシート)は、低い熱膨張係数、誘電率及び誘電正接を有するが、ガラス内に結晶物が存在しているので、透明性が悪い上、ガラスを繊維状にする際の紡糸成型作業において繊維が断裂する問題が生じやすく、歩留まりが悪くなる。
【0039】
上記の内容によれば、上記の成分及び含有量の組み合わせ設計、特にCuO、Bの設計により、本発明のガラス組成物及びガラス繊維は、低熱膨張係数と低誘電率と低誘電正接とを有し、また、本発明のガラス組成物は、良好な紡糸加工性を有して、本発明の目的を達成できる。
【0040】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、最も広い解釈の精神および範囲内に含まれる様々な構成として、全ての修飾および均等な構成を包含するものとする。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のガラス組成物は、低熱膨張係数と低誘電率と低誘電正接とを有するガラス製品とすることに好適である。