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特許7386972実質的に増加した抗腫瘍効果を有する新規白金IV錯体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】実質的に増加した抗腫瘍効果を有する新規白金IV錯体
(51)【国際特許分類】
   C07C 61/135 20060101AFI20231117BHJP
   C07C 211/38 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 31/282 20060101ALI20231117BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 9/62 20060101ALI20231117BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20231117BHJP
   C07C 51/02 20060101ALI20231117BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20231117BHJP
【FI】
C07C61/135
C07C211/38 CSP
A61K31/282
A61P35/00
A61K9/62
A61K47/34
C07C51/02
C07F15/00 F
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022514652
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2019073686
(87)【国際公開番号】W WO2021043402
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】517072985
【氏名又は名称】ブイユーエービー ファーマ エー.エス.
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キシルカ,ウラジミール
(72)【発明者】
【氏名】メングラー,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ミコスカ,ミロシュ
【審査官】三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532305(JP,A)
【文献】特表2002-516332(JP,A)
【文献】国際公開第2010/027428(WO,A1)
【文献】特表2018-518509(JP,A)
【文献】Journal of Inorganic Biochemistry,1993年,Vol.50(2),p.79-87
【文献】VimalIndian Journal of Chemistry, Section A: Inorganic, Physical, Theoretical & Analytical,1987年,Vol.26A(12),p.1019-1022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
A61K
A61P
C07F 15/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(III)の幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,X)Pt(IV)を有する白金(IV)錯体:
【化1】
[式中、Xは、強鉱酸又は強有機酸の共役アニオンであり、Xは、ナイトレート、モノクロロアセテート及びトリフルオロアセテートからなる群から選択される]。
【請求項2】
請求項1に記載の白金(IV)錯体を調製する方法であって、以下の調製ステップ:
a)塩素化炭化水素溶媒及び強酸の混合物中で、溶媒の沸点にて、変換に必要な反応時間、幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,ヨージド)Pt(IV)を有する出発白金(IV)錯体と化学量論的に過剰の前記強酸の銀塩とを反応させて、混合物を得るステップ、
b)混合物から固相を濾過により除去して、粗濾液を得るステップ、
c)粗濾液を水により洗浄し、分離した有機相を乾燥させるステップ、
d)乾燥させた有機相から溶媒を蒸発により除去して、請求項1に記載の白金(IV)錯体を得るステップ
を含む、方法。
【請求項3】
塩素化炭化水素溶媒が、クロロホルムである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
e)白金(IV)錯体をアセトンに溶解し、活性炭を添加し、得られた懸濁液を限外濾過し、得られた純粋な白金(IV)錯体の限外濾過溶液を大量の水中に沈殿させて、純粋な請求項1に記載の白金(IV)錯体をナノ粒子サイズで得る、
さらなるステップを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
Pt(IV)錯体及び薬学的に許容される担体を含む、請求項1に記載の白金(IV)錯体の医薬組成物。
【請求項6】
経口投与のための、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
薬学的に許容される担体が、自己乳化性ビヒクルである、請求項5又は6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
自己乳化性ビヒクルが、ステアロイルマクロゴールグリセリドである、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
自己乳化性ビヒクルが、Gelucire 50/13である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項10】
自己乳化性ビヒクルの質量部が、80質量%よりも大きい、請求項7から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
白金(IV)錯体が、ナノ粒子サイズで存在する、請求項5から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
耐酸性カプセルに充填された、請求項5から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
耐酸性カプセルが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートカプセルである、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
腫瘍性疾患を処置する方法において使用するための、請求項1に記載の白金(IV)錯体、又は請求項5から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
腫瘍性疾患が、処置しにくいがんである、請求項14に記載の白金(IV)錯体又は医薬組成物。
【請求項16】
腫瘍性疾患が、膵臓がんである、請求項14又は15に記載の白金(IV)錯体又は医薬組成物。
【請求項17】
腫瘍性疾患を経口投与により処置する方法において使用するための、請求項14から16のいずれか一項に記載の白金(IV)錯体又は医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に増加した抗腫瘍効果を有する新規白金(IV)錯体に関する。前記新規白金(IV)錯体を調製する方法が記載される。新規白金(IV)錯体の経口投与のための医薬組成物及び最終剤形が記載される。腫瘍性疾患、好ましくは処置しにくいがん、最も好ましくは膵臓がんを、好ましくは経口投与により処置する方法における、新規白金(IV)錯体の使用が記載される。
【背景技術】
【0002】
がんは、発生率及び有病率が連続的に成長している重篤な疾患である。免疫療法、細胞療法及び生物学的療法における著しい進歩にもかかわらず、増強された抗腫瘍効果、低減した毒性、良好な入手可能性及び手頃な価格を有する小分子の抗がん薬が依然として継続的に必要とされている。
【0003】
白金(II)錯体は、長期間使用されている抗腫瘍薬である。これらは、大きな抗腫瘍効果、併用療法における相乗効果、良好な入手可能性及び手頃な価格を有する。医学的に使用される白金(II)錯体は、図画(I)に示されている通り、中心のPt2+イオンが2つのcis-中性非脱離アミノ配位子及び2つのcis-アニオン性脱離配位子X1、X2により囲まれている平面構造を有する:
【0004】
【化1】
[式中、R1、R2は、水素又は共に1R,2R-1,2-シクロヘキシルであり、X1、X2は、クロリド又は共にジカルボキシレートである]。白金(II)錯体の大きな抗腫瘍効果は、独特の作用機構に基づくものである。白金(II)錯体の脱離配位子が細胞内空間において水により置換されて(「アクア化」のプロセス)、非常に反応性であるアクア錯体を形成し、次いでこれがDNAと反応して、その変形を引き起こす。DNA構造の広範な損傷は、細胞死(アポトーシス)につながる細胞内機構のカスケードを誘発する。並行して、がん細胞は、そのような白金(II)生体異物を、例えばメタロチオネイン、メチオニン、グルタチオン等により不活性なPt錯体に変換することによって、そのような白金(II)生体異物に対抗する。次いで、不活性化されたPt錯体は、細胞から除去される。白金(II)錯体の構造とその抗腫瘍活性との間の依存関係は、文献[1]-Cleare M.J.、Hoeschele J.D.: Platinum Metals Rev.、17巻、2~13頁、1973年及び[2]-Ridgway H.J.、Speer R.J.ら: Journal of Clinical Hematology and Oncology、7巻、1号、220~230頁、1976年において検討された。「アクア化」の速度並びに関連する細胞毒性及び抗腫瘍効果は、主として、脱離アニオン配位子と中心の白金(II)イオンとの間の結合の強度に依存する。この結合が弱いほど、反応性アクア錯体の形成は速くなり、関連する毒性及び効果は大きくなる。この結合が強いほど、反応性アクア錯体の形成は遅くなり、関連する毒性及び効果は小さくなる。強酸、例えば硝酸又は硫酸の弱く結合した共役塩基は非常に反応性であったが、それらはまた、重度の毒性(例えば、痙攣)も引き起こし、それらの試験は中止しなければならなかった。これとは逆に、弱酸、例えばSCN-、NO2 -、CNO-の強く結合した共役塩基は、非反応性であり、ほんのわずかな毒性及び活性のみを示した。同じ作用機構、及び腫瘍細胞に対する作用の低い選択性の両方のために、毒性及び抗腫瘍効果はPt(II)錯体において互いに分離不能である。クロリド(シスプラチン)又はジカルボキシレート(カルボプラチン、オキサリプラチン)等の適度に結合したアニオン性配位子が、白金(II)錯体の毒性と抗腫瘍効果との間の妥協点として治療的使用のために開発されてきた。次いで、それらの望ましくない毒性は、患者の前投薬により部分的に解決されるが、しかし、それらの重篤な毒性の問題は残ったままである。
【0005】
白金(IV)錯体は、白金(II)錯体のプロドラッグである。それらは、その構造における軸方向位置が他の2つのアニオン性配位子、通常はカルボキシレートによって占められている。軸配位子が、中心のPtイオンへの水のアクセスを妨げるので、必要なプロセスである「アクア化」は、それらの還元的除去後にのみ起こり得る。白金(IV)錯体は、白金(II)錯体の全ての利点を提供し、同時に、それらの安定性、及び健康な細胞に対する毒性の両方を改善する。白金(IV)薬物の最新技術の概要は、総説[3]-Johnston T.C.ら:「The next Generation of Platinum Drugs: Targeted Pt (II) Agents, Nanoparticle Delivery and Pt (IV) Prodrugs」、Chem. Rev. 2016年、116巻、3436~3486頁]及び[3]-Kenny R.G.ら:「Platinum (IV) Prodrugs-A Step Closer to Ehrlich's Vision?」、Eur. J. Inorg. Chem. 2017年, 1596~1612頁に示されている。経口投与のための最初の有望な親油性白金(IV)錯体は、Johnson Matthey、[4]-EP0328274、Johnson Matthey、優先権1988年2月2日により発見された。これは、立体配置cis-(アンミン,シクロヘキシルアミン)-trans-ビス-アセテート-cis-ジクロリドPt(IV)を有しており、すぐに、サトラプラチン(Satraplatin)の名称で臨床試験に入った。Pt(IV)錯体を医療行為に導入するために過去30年にわたって多くの努力がなされてきたが、これは今日まで達成されていない。
【0006】
式(II)の幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(ジクロリド)Pt(IV)を有する白金(IV)錯体TU31は、従来技術においてがんの治療のために非常に有望な白金(IV)錯体である。
【0007】
【化2】
【0008】
この白金(IV)錯体TU31は、VUAB Pharma、[5]-EP3189064、VUAB Pharma a.s.、2014年9月3日出願により発見された。この白金(IV)錯体は、1-アダマンチル配位子の独特の特性と白金(II)錯体の独特の抗腫瘍機構との組合せである。有機ダイヤモンドの特性を有する3つの1-アダマンタンチル配位子の導入は、錯体TU31に優れた安定性、対称性、緻密性及び浸透能をもたらし、結果として、改善された安定性、細胞取り込み及び抗腫瘍効果が得られる。軸方向の嵩高い対称性の1-アダマンチルカルボキシレート配位子の還元的開裂は、増加したレベルの細胞防御還元作用物質(例えばメタロチオネイン、メチオニン又はグルタチオン)を必要とし、これは、健康な細胞と異なり、腫瘍細胞に対してより特異的である。これにより、腫瘍細胞と異なり、健康な細胞において毒性を抑制することが可能となる。これは、錯体TU31の前臨床段階において検証及び確認され、ラット及びイヌの両方において錯体TU31の単回経口投与にでも毒性の症状は達成されなかった。
【発明の概要】
【0009】
しかし、同じ親油性、緻密性及び不活性の結果として、錯体TU31の水への溶解性が不十分となり、これがその生物学的利用能を同じ理由で制限する。この欠点は、粒子サイズを小さくすること、及び好適なビヒクル(vehicle)を選択することにより解決されたが、しかし、錯体TU31の生物学的利用能は制限されたままである。「母」白金(IV)錯体TU31の利点、主として低い毒性及び広い抗腫瘍効果を保ちながら、さらに増強された抗腫瘍効果を有するTU31の新規誘導体の開発が必要とされている。
【0010】
本発明の第1の態様によれば、一般式(III)の幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,X)Pt(IV)を有する白金(IV)錯体:
【0011】
【化3】
[式中、Xは、強鉱酸又は強有機酸の共役アニオンである]
が提供される。
【0012】
好ましい実施形態において、配位子Xは、ナイトレート、メシレート、モノクロロアセテート及びトリフルオロアセテートからなる群から選択される。
【0013】
好ましい実施形態において、配位子Xは、ナイトレートである。
【0014】
好ましい実施形態において、配位子Xは、メシレートである。
【0015】
好ましい実施形態において、配位子Xは、モノクロロアセテートである。
【0016】
好ましい実施形態において、配位子Xは、トリフルオロアセテートである。
【0017】
理論に拘束されるものではないが、強酸Xの弱く結合した共役アニオンを白金(II)錯体へ導入することは、Pt-X結合の大きな反応性、及びその後に形成されるアクア白金(II)種の大きな対応する毒性のために不可能である。しかし、弱く結合した配位子Xの白金(IV)錯体TU31への同じ導入は、がん細胞と異なり、健康な細胞において除去することがより困難である嵩高い軸方向の1-アダマンチルカルボキシレート配位子により反応性のPt-X結合が立体的に遮蔽されているので、肯定的な効果を有し得る。その結果、高反応性のPt-X結合を含有しているにもかかわらず、健康な細胞においてそのような白金(IV)錯体の毒性は抑制される。これとは逆に、がん細胞でのそのような白金(IV)錯体における遮蔽軸配位子の除去は、がん細胞で特異的である保護的還元作用物質(例えば、メタロチオネイン、グルタチオン)の濃度の上昇により可能となる。その結果、健康な細胞と異なり、がん細胞において白金(II)種の毒性アクア錯体の迅速な生成と対応する抗腫瘍効果がもたらされる。
【0018】
本発明の第2の態様において、Xが、強鉱酸又は強有機酸の共役アニオンである、式(III)の白金(IV)錯体を調製する方法であって、以下の調製ステップを含む、方法が提供される:
a)塩素化炭化水素溶媒、好ましくはクロロホルム及び対応する強酸の混合物中で、溶媒の沸点にて、変換に必要な反応時間、幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,ヨージド)Pt(IV)を有する出発白金(IV)錯体(TU31-モノヨージド)と化学量論的に過剰の強酸の銀塩とを反応させて、混合物を得るステップ。
b)混合物から固相を濾過により除去して、粗濾液を得るステップ。
c)粗濾液を水により洗浄し、分離した有機相を乾燥させるステップ。
d)乾燥させた有機相から溶媒を蒸発により除去して、Xが、強鉱酸又は強有機酸の共役アニオンである、式(III)の白金(IV)錯体を得るステップ。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、Xが、強鉱酸又は強有機酸の共役アニオンである、一般式(III)の白金(IV)錯体を調製する方法は、
e)白金(IV)錯体をアセトンに溶解し、活性炭を添加し、得られた懸濁液を限外濾過し、得られた純粋な白金(IV)錯体の限外濾過溶液を大量の水中に沈殿させて、Xが、強鉱酸又は強有機酸の共役アニオンである、一般式(III)の純粋な白金(IV)錯体をナノ粒子サイズで得るステップをさらに含む。
【0020】
本発明による好ましい調製方法は、弱く結合したアニオン配位子Xを、図1に従って調製される錯体TU31に直接導入することである。
【0021】
ステップa)において出発TU31錯体中に1つの塩化物配位子の代わりに1つのヨウ化物配位子を導入して、出発錯体TU31から新規白金(IV)錯体への変換を促進することが好ましい。Xがヨウ化物により置きかえられている式(III)の白金(IV)錯体に対応する、幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,ヨージド)Pt(IV)を有する出発錯体TU31-モノヨージドは、従来技術において既に公知である3ステップの反応手順により調製することができる。例えば、約50℃の温度で24時間、白金(II)錯体TU9を水懸濁液中で化学量論量のKIと反応させることにより、白金(II)錯体TU9中間体(TU9-図1を参照)中で塩化物配位子をヨウ化物配位子により置きかえて、白金(II)錯体TU9-モノヨージドを得ることができる。次いで、白金(II)錯体TU9-モノヨージドを、例えば、EP0328274、Johnson Matheyに記載されている公知の手順により、対応する白金(IV)錯体に酸化させる。簡潔には、Pt(II)錯体TU9-モノヨージドを、約60℃の温度で6~8時間、30~50化学量論的過剰の過酸化水素により酸化させて、白金(IV)錯体TU11-モノヨージド(TU11-スキーム1を参照)を得る。最後に、白金(IV)錯体TU11-モノヨージドを、例えば、EP3189064、VUAB Pharmaに記載されている公知の手順によって、過剰の1-アダマンチルカルボニルクロリドによりエステル化して、出発錯体TU31-モノヨージドを得る。簡潔には、1化学量論的等量の錯体TU11-モノヨージドを、1,4-ジオキサン中で対応する量のピリジンと共に5化学量論的等量の1-アダマンチルカルボニルクロリドと反応させて、粗錯体TU31-モノヨージドを得る。粗錯体TU31-モノヨージドを、1,4-ジオキサン中での浸軟(maceration)の繰り返しにより及び水により精製する。次いで、得られた生成物をアセトンに溶解し、活性炭を添加し、懸濁液を限外濾過し、得られた限外濾過溶液を大量の水中に沈殿させて、純粋な出発錯体TU31-モノヨージドを得る。
【0022】
好ましい実施形態において、ステップa)~e)により本発明に従って調製される新規白金(IV)錯体の収率は、出発錯体TU31-モノヨージドに対して62~78%の範囲である。得られる白金(IV)錯体の純度は通常、96~98.5%(HPLC-UV)である。
【0023】
好ましい実施形態において、得られる白金(IV)錯体の粒子サイズは、DLS(動的光散乱)法により測定して100~300nmの範囲である。
【0024】
得られる白金(IV)錯体の分子量は、HPLC-MS法によりさらに確認することができる。一般式(III)の白金(IV)錯体の調製は、実施例1、2及び3においてより詳細に説明する。
【0025】
本発明の第3の態様によれば、式(III)による白金(IV)錯体を薬学的に許容される担体と共に含む、医薬組成物が提供される。
【0026】
好ましい実施形態において、式(III)による白金(IV)錯体の医薬組成物は、経口投与することができる。
【0027】
好ましい実施形態において、薬学的に許容される担体は、自己乳化性ビヒクル、好ましくはステアロイルマクロゴールグリセリド、最も好ましくはGelucire 50/13である。
【0028】
好ましい実施形態において、医薬組成物は、式(III)による白金(IV)錯体をナノ粒子サイズで含む。
【0029】
好ましい実施形態において、本発明による白金(IV)錯体の医薬組成物を、好ましくはナノ粒子サイズで、好ましくは自己乳化性ビヒクルと共に、耐酸性カプセルに充填して含む、腫瘍性疾患の治療における使用のための、好ましくは経口投与のための最終剤形が提供される。本発明による最終剤形は、新規白金(IV)錯体の不十分な溶解性及び対応する不十分な生物学的利用能と、腫瘍細胞におけるように、還元性物質及び他の生分解作用物質の濃度も上昇する胃腸における、この錯体の不安定性との両方の問題を解決する。式(III)の白金(IV)錯体の微粒子からナノ粒子、好ましくは250nm未満への変換は、好ましくは経口投与後の、新規白金(IV)錯体の溶解性及び生物学的利用能を改善する。
【0030】
新規白金(IV)錯体のナノ粒子の調製は、そのような白金(IV)錯体を調製する実施例に記載する。
【0031】
好ましい実施形態において、組成物における自己乳化性ビヒクル、好ましくはステアロイルマクロゴールグリセリド、最も好ましくはGelucire 50/13の使用は、腸における早過ぎる活性化に対する新規白金(IV)錯体の保護、及び体内でのこの錯体の生物学的利用能の両方を、小胞内へのその封入により支援する。Gelucire 50/13は、約50℃の滴点及び低溶融粘度を有しており、これらにより、50℃を超える温度で本発明によるホットメルト組成物を容易に調製することが可能となる。このビヒクルはまた、比較的単純であり、安価であり、非毒性であり、医薬的使用について認証されている。
【0032】
好ましい実施形態において、Gelucire 50/13の質量部が組成物の少なくとも80質量%であることが、このビヒクルの最大の支援及び保護効果を確保するために推奨される。
【0033】
好ましい実施形態による耐酸性カプセルの使用は、経口投与後の胃における早過ぎる活性化に対して新規白金(IV)錯体を保護する。好ましい耐酸性カプセルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)カプセルであり、これらは、腸溶コーティングの一般に使用されるカプセルと異なり、腸上部において急速に溶解する。本発明による白金(IV)錯体は、望ましくない毒性のリスクを回避するために、胃腸系において可能な限り保護されなければならない。耐酸性カプセル及び自己乳化性ビヒクルの両方による新規白金(IV)錯体のこの二重保護は、この錯体が標的がん細胞に到達するまで、早過ぎる還元/活性化及び付随する毒性のリスクを最小化する。
【0034】
本発明の第4の態様によれば、腫瘍性疾患、好ましくは処置しにくいがん、最も好ましくは膵臓がんを経口投与により処置する方法において使用するための、一般式(III)の新規白金(IV)錯体の使用が提供される。
【0035】
本発明は、以下の態様のいずれか1つを包含する:
1) 一般式(III)の幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,X)Pt(IV)を有する白金(IV)錯体:
【0036】
【化4】
[式中、Xは、強鉱酸又は強有機酸の共役アニオンである]。
2) Xが、ナイトレート、メシレート、モノクロロアセテート及びトリフルオロアセテートからなる群から選択される、態様1)による白金(IV)錯体。
3) 態様1)又は2)による白金(IV)錯体を調製する方法であって、以下の調製ステップを含む、方法:
a)塩素化炭化水素溶媒、好ましくはクロロホルム及び対応する強酸の混合物中で、溶媒の沸点にて、変換に必要な反応時間、幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,ヨージド)Pt(IV)を有する出発白金(IV)錯体と化学量論的に過剰の強酸の銀塩とを反応させて、混合物を得るステップ。
b)混合物から固相を濾過により除去して、粗濾液を得るステップ。
c)粗濾液を水により洗浄し、分離した有機相を乾燥させるステップ。
d)乾燥させた有機相から溶媒を蒸発により除去して、態様1)又は2)による白金(IV)錯体を得るステップ。
4) e)白金(IV)錯体をアセトンに溶解し、活性炭を添加し、得られた懸濁液を限外濾過し、得られた純粋な白金(IV)錯体の限外濾過溶液を大量の水中に沈殿させて、純粋な態様1)又は2)による白金(IV)錯体をナノ粒子サイズで得る、
さらなるステップを含む、態様3)による方法。
5) Pt(IV)錯体及び薬学的に許容される担体を含む、好ましくは経口投与のための、態様1)又は2)による白金(IV)錯体の医薬組成物。
6) 薬学的に許容される担体が、自己乳化性ビヒクル、好ましくはステアロイルマクロゴールグリセリド、最も好ましくはGelucire 50/13である、態様5)による医薬組成物。
7) 白金(IV)錯体が、ナノ粒子サイズで存在する、態様5)又は6)による医薬組成物。
8) 自己乳化性ビヒクルの質量部が、80質量%よりも大きい、態様6)又は7)による医薬組成物。
9) 耐酸性カプセル、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート又はヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxyperopylmethylcellulose)アセテートスクシネートカプセルに充填された、態様5)から8)のいずれか1つによる医薬組成物。
10) 腫瘍性疾患、好ましくは処置しにくいがん、最も好ましくは膵臓がんを、好ましくは経口投与により処置する方法において使用するための、態様1)若しくは2)による白金(IV)錯体、又は態様5)から9)のいずれか1つによる医薬組成物。
11) それを必要とする対象において腫瘍性疾患、好ましくは処置しにくいがん、最も好ましくは膵臓がんを処置する方法であって、態様1)若しくは2)による白金(IV)錯体、又は態様5)から9)のいずれか1つによる医薬組成物を、好ましくは経口的に、投与することを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】白金(IV)錯体TU31の製造スキームを示す図である。
図2】Capan-2の腫瘍成長曲線を示す図である。
図3】PaTu8902の腫瘍成長曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明者らは、驚くべきことに、一般式(III)の白金(IV)錯体が、従来技術に対して実質的に改善された抗腫瘍効果を有することを見出した。これは、in vitro及びin vivoの両方の実験において実証される。XTT法をin vitro実験において使用した。本発明者らは、母白金(IV)錯体TU31(X=Cl-である)、X=ClCH2COO-(錯体TU105)、F3CCOO-(錯体TU106)及びNO3 -(錯体TU113)である、本発明による3つの新規白金(IV)錯体、参照白金(II)錯体オキサリプラチン、並びに参照白金(IV)錯体サトラプラチンを試験した。処置しにくい腫瘍であるCapan-2(膵臓腺癌)及びPC-3(前立腺癌)の2つのがん細胞株を、XTT試験において使用した。得られた結果を以下の表1にIC50値の形態でまとめる。
【0039】
【表1】
【0040】
本発明者らは、驚くべきことに、式(III)の白金(IV)錯体が、従来技術に対してin vitroにおいて実質的に増加した抗腫瘍効果を有することを見出した。母錯体TU31は、参照オキサリプラチンよりも約50~100倍良好なin vitroにおける抗腫瘍効果、及び参照サトラプラチンよりも11~55倍良好なin vitroにおける抗腫瘍効果を有する。参照オキサリプラチン及びサトラプラチンと比較した錯体TU31の優れた抗腫瘍効果は、その非常に低い毒性及び経口投与の可能性と合わせて、臨床試験における錯体TU31の成功のための良好な前提条件である。しかし、本発明による一般式(III)の新規白金(IV)錯体TU105、TU106及びTU113は、がん細胞株Capan-2及びPC-3の両方について、参照オキサリプラチンよりも1000倍超も良好で、参照サトラプラチンよりも100倍超良好で、母錯体TU31よりも15倍超良好なIC50値を有する。そのようなさらなる改善は、従来技術に対してきわめて重要であると考えられ、特に、処置しにくい腫瘍、例えば膵臓腫瘍の治療のための本発明による新規白金(IV)錯体のさらなる開発のための良好な前提条件を作り出す。
【0041】
XTT試験の実施及び結果についてのより詳細な情報は、実施例4に示す。
【0042】
XTT試験からの2つの新規白金(IV)錯体TU105及びTU106を、2種の膵臓腫瘍を有する無胸腺マウスモデルでin vivoにおいてさらに検討した。白金(IV)錯体サトラプラチン及び母錯体TU31を、再度参照化合物として使用した。膵臓の2種の処置しにくい腫瘍であるCapan-2及びPaTu8902を培養し、次いで1×107細胞/マウスの用量でマウスに皮下投与した。皮下腫瘍が約0.2cm3の体積に増加した後、2回用量のそれぞれの錯体2×20mg/kgを1週間ごとに経口投与した。対照群のマウスには薬物を与えなかった。腫瘍の体積を、実験全体を通して連続的に測定した。2回目の投与の3週間後、マウスを屠殺し、腫瘍を取り出し、秤量し、得られたデータを、%での腫瘍体積阻害(TVI%)及び%での腫瘍重量阻害(TWI%)[式中、
TVI%=100-[(TVexp/TVcont)×100]
TVexp=cm3単位での治癒した腫瘍の平均体積
TVcont=cm3単位での対照腫瘍の平均体積
TWI%=100-[(TWexp/TWcont)×100]
TWexp=g単位での治癒した腫瘍の平均重量
TWcont=g単位での対照腫瘍の平均重量]
の形態で評価した。
【0043】
得られた結果を表2及び表3にまとめる。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
得られた結果から、母錯体TU31は、参照錯体サトラプラチンと異なり、約50%に等しいTWIを有し、両方の膵臓腫瘍において非常に良好な抗腫瘍効果を有するということになる。しかし、本発明による新規白金(IV)錯体TU105及びTU106は、両方の検討された膵臓腫瘍に対して、参照白金(IV)錯体サトラプラチンよりも約7倍大きく、母錯体TU31よりもまた有意に大きい、約70~80%に等しいTWI%で表される有意に改善された抗腫瘍効果を示した。無胸腺マウスモデルでのin vivo試験の実施及び結果についてのより詳細な情報は、実施例5に示す。
【0047】
in vitro及びin vivoの両方の試験から達成された結果により、従来技術に対して実質的に改善された、新規白金(IV)錯体の抗腫瘍効果が確認される。本発明による一般式(III)の新規白金(IV)錯体は、がん、好ましくは処置しにくいがん、より好ましくは膵臓がんの経口治療のための非常に有望で価格が手頃な手段を提供する。本発明による新規白金(IV)錯体の広い抗腫瘍効果は、白金(II)代謝産物の公知及び独特の作用機構に基づくものであり、これは、細胞におけるシグナル伝達経路及び腫瘍マーカーの変動にほとんど依存しない。この場合、毒性錯体の薬物標的化の問題は、腫瘍細胞における本発明による白金(IV)錯体の選択的活性化により解決される。
【0048】
本発明は、以下の実施例及び図によりさらに説明及び例示されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例
【0049】
[実施例1]
cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,モノクロロアセテート)Pt(IV)、新規Pt(IV)錯体TU105、分子量850.77g/molの調製。
調製手順は、光の非存在下、換気フード内で行った。出発Pt(IV)錯体TU31-モノヨージドは、従来技術に従って調製した。
70mgの酸化銀(0.3mmol)及び7.9gのモノクロロ酢酸(83.6mmol)を、20mlのクロロホルム中にて室温で1時間撹拌した。次いで、360mgの出発Pt(IV)錯体-モノヨージド(0.4mmol)を添加し、混合物を63℃(穏やかな還流)で6時間撹拌する。得られた懸濁液を室温に冷却し、次いで固相を濾過により除去した。得られた有機溶液を20mlの水により3回抽出して、有機溶液から水溶性化合物を除去した。洗浄した有機溶液をモレキュラーシーブにより乾燥させ、次いでクロロホルムを減圧蒸留により透明な乾燥した溶液から除去して、粗錯体TU105を得た。粗錯体TU105を33mlのアセトンに溶解し、20mgの活性炭を添加して懸濁液を得、これを室温で0.5時間撹拌した。次いで、懸濁液をポロシティ0.22μmを有するフィルターに通して限外濾過して、生成物の限外濾過溶液を得、次いでこれを100mlの冷水中に沈殿させて、270mgの純粋な錯体TU105、収率:理論の78%、純度:98.1%(HPLC法)及び粒子サイズ:200~400nm(DLS法)を得た。MS分光分析により、分子量を確認する。
【0050】
[実施例2]
cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,トリフルオロアセテート)Pt(IV)、新規Pt(IV)錯体TU106、分子量870.30g/molの調製。
調製手順は、光の非存在下、換気フード内で行った。出発Pt(IV)錯体TU31-モノヨージドは、従来技術に従って調製した。
360mgの出発Pt(IV)錯体-モノヨージド(0.4mmol)、135mgのトリフルオロ酢酸の銀塩(0.6mmol)、9.6gのトリフルオロ酢酸(84.2mmol)及び20mlのクロロホルムの混合物を、63℃(穏やかな還流)で6時間撹拌した。得られた懸濁液を室温に冷却し、次いで固相を濾過により除去した。得られた有機溶液を20mlの水により3回抽出して、有機溶液から水溶性化合物を除去した。洗浄した有機溶液をモレキュラーシーブにより乾燥させ、次いでクロロホルムを減圧蒸留により透明な乾燥した溶液から除去して、粗錯体TU106を得た。粗錯体TU106を33mlのアセトンに溶解し、20mgの活性炭を添加して懸濁液を得、これを室温で0.5時間撹拌した。次いで、懸濁液をポロシティ0.22μmを有するフィルターに通して限外濾過して、生成物の限外濾過溶液を得、次いでこれを100mlの冷水中に沈殿させて、287mgの純粋な錯体TU106、収率:理論の81%、純度:98.5%(HPLC法)及び粒子サイズ:200~400nm(DLS法)を得た。MS分光分析により、分子量を確認した。
【0051】
[実施例3]
cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,ナイトレート)Pt(IV)、新規Pt(IV)錯体TU113、分子量819.29g/molの調製。
調製手順は、光の非存在下、換気フード内で行った。出発Pt(IV)錯体TU31-モノヨージドは、従来技術に従って調製した。
360mgの出発Pt(IV)錯体-モノヨージド(0.4mmol)、100mgのAgNO3(0.6mmol)、6ml(8.46g)の硝酸65%(87.3mmol)及び20mlのクロロホルムの混合物を、63℃(穏やかな還流)で10時間撹拌した。得られた懸濁液を室温に冷却し、次いで固相を濾過により除去した。濾液から、有機相をHNO3の水相から分離した。得られた有機相を20mlの水により3回抽出して、有機溶液から水溶性化合物を除去した。洗浄した有機溶液をモレキュラーシーブにより乾燥させ、次いでクロロホルムを減圧蒸留により透明な乾燥した溶液から除去して、粗錯体TU113を得た。粗錯体TU113を33mlのアセトンに溶解し、20mgの活性炭を添加して懸濁液を得、これを室温で0.5時間撹拌した。次いで、懸濁液をポロシティ0.22μmを有するフィルターに通して限外濾過して、生成物の限外濾過溶液を得、次いでこれを100mlの冷水中に沈殿させて、227mgの純粋な錯体TU113、収率:理論の69%、純度:96.2%(HPLC法)及び粒子サイズ:200~350nm(DLS法)を得た。MS分光分析により、分子量を確認する。
【0052】
[実施例4]
本発明による新規Pt(IV)錯体のin vitroにおける抗腫瘍効果の検討、膵臓及び前立腺の処置しにくい腫瘍、XTT試験。
本発明による新規Pt(IV)錯体の抗腫瘍効果を、膵臓及び前立腺の処置しにくいがん株について検討した。XTT法を使用した。結果をIC50値で評価し、参照Pt(II)錯体オキサリプラチン及び参照Pt(IV)錯体サトラプラチンと比較した。
【0053】
試験化合物:
1.参照Pt(II)錯体オキサリプラチン、(1R,2R-1,2-シクロヘキサンジアミン-N,N')(エタンジオアト-O,O')白金(II)、CAS No.:61825-94-3、純度:99.7%(HPLC)、供給元VUAB Pharma a.s.。
2.参照Pt(IV)錯体サトラプラチン、cis-(アンミン,シクロヘキシルアミン)-trans-ビス-アセテート-cis-ジクロリドPt(IV)、CAS No.129580-63-8、>98.8%(HPLC)、供給元WATSON Inc., Ltd, CN。
3.母Pt(IV)錯体TU31、cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(ジクロリド)Pt(IV)、CAS No.:NCE、純度99.5%(HPLC)、供給元VUAB Pharma a.s.。
4.新規Pt(IV)錯体TU105、cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,モノクロロアセテート)Pt(IV)、CAS No.:NCE、純度98.1%(HPLC)、供給元VUAB Pharma a.s.。
5.新規Pt(IV)錯体TU106、cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,トリフルオロアセテート)Pt(IV)、CAS No.:NCE、純度98.5%(HPLC)、供給元VUAB Pharma a.s.。
6.新規Pt(IV)錯体TU113、cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,ナイトレート)Pt(IV)、CAS No.:NCE、純度96.2%(HPLC)、供給元VUAB Pharma a.s.。
【0054】
がん細胞株:
新鮮な腫瘍細胞株を細胞バンクから購入して、それらの品質及び活性を確保した。
a)Capan-2、膵臓管腺癌、DSMZ、ACC-245
b)PC-3、前立腺癌、ATCC(登録商標) CRL-1435(商標)
【0055】
腫瘍細胞株の培養の条件:
使用される化合物の略語:
DMSO:ジメチルスルホキシド
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
XTT:2,3-ビス-(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-5-カルボキシアニリド塩
PMS:N-メチル-ジベンゾピラジンメチルサルフェート
FBS:ウシ胎児血清
NEAA:非必須アミノ酸
L-glu:L-グルタミン
DMEM:ダルベッコ改変イーグル培地(SigmaAldrich)
PMS:フェナジンメトサルフェート
培養の条件:37℃、5%CO2
成長培地:DMEM、10%FBS、2mM L-glut.、NEAA 100×
【0056】
XTT作業手順:
試験化合物を、ウェル中の細胞株に添加する直前に、DMSOに溶解し、試験される濃度範囲までPBSにより希釈した。PBSを陽性対照として使用し、最終濃度20%のDMSOを陰性対照として使用した。化合物の全ての濃度を3連でアッセイした。各測定を2回行い、実験者に対して盲検化した。
試験は96ウェルプレートで行った。腫瘍細胞の投与量は1ウェル当たり約2.5×104細胞とし、成長培地の投与量は1ウェル当たり100μlとした。24時間後、成長培地を吸い出し、80μlの新鮮な成長培地、及び異なる濃度の試験物質を含む20μlの溶液をウェルに添加した。72時間後、培地を吸い出し、XTT及びPMSを含有するOptimem試薬の溶液100μlをウェルに添加した。さらに4時間後、吸光度を450nmで測定した(基準は630nmとした)。
IC50としての結果を、細胞の正規化生存率を物質の濃度の対数に対してプロットしたグラフから評価した。
【0057】
得られた結果:
結果を表1にまとめる。
【0058】
【表4】
【0059】
新規Pt(IV)錯体のin vitroにおける抗腫瘍効果に対する結論:
母錯体TU31は、参照オキサリプラチンよりも約50~100倍良好なin vitroにおける抗腫瘍効果、及び参照サトラプラチンよりも11~55倍良好なin vitroにおける抗腫瘍効果を有する。参照オキサリプラチン及びサトラプラチンと比較した錯体TU31の優れた抗腫瘍効果は、その非常に低い毒性及び経口投与の可能性と合わせて、臨床試験における錯体TU31の成功のための良好な前提条件である。
しかし、本発明による新規Pt(IV)錯体TU105、TU106及びTU113は、がん細胞株Capan-2及びPC-3の両方について、参照オキサリプラチンよりも1000倍超も良好で、参照サトラプラチンよりも100倍超良好で、母錯体TU31よりも15倍超良好なIC50値を有する。本発明による新規Pt(IV)錯体のそのような改善は、従来技術に対してきわめて重要であると考えられる。
【0060】
[実施例5]
本発明による新規Pt(IV)錯体のin vivoにおける抗腫瘍効果の検討、膵臓の2種の処置しにくい腫瘍、無胸腺マウスモデル。
In vivoモデル:無胸腺ヌード-FOXN-1nu、1群当たり6匹のマウス(3匹の雄+3匹の雌)
【0061】
使用したがん細胞株:
a)Capan-2、膵臓腺癌、管(DSMZ、ACC-245)
b)PaTu9802、膵臓腺癌、管、高転移性、グレードII(DSMZ、ACC-179)
【0062】
使用したPt(IV)錯体:
a)参照Pt(IV)錯体サトラプラチン、詳細な仕様は実施例4を参照。
b)母Pt(IV)錯体TU31、詳細な仕様は実施例4を参照。
c)新規Pt(IV)錯体TU105、詳細な仕様は実施例4を参照。
d)新規Pt(IV)錯体TU106、詳細な仕様は実施例4を参照。
【0063】
経口投与のために使用した用量:
各試験Pt(IV)錯体(20質量%)とGelucire 50/13(80質量%)との均一なバルク組成物を、マウスへの経口投与前に水エマルジョンに変換した。
【0064】
がん細胞株(cell lines lines)の培養条件:37℃、5%CO2、DMEM(ダルベッコ改変イーグル培地、Sigma Aldrich)、10%FBS、(ウシ胎児血清)、2mM L-グルタミン、非必須アミノ酸
【0065】
がん細胞の移植:用量1×107個の細胞を各実験マウスに皮下移植し、次いでマウスを個々の実験群に細分した。各実験群は、薬物を与えない、与えなかった対照群を有する。
【0066】
試験実施:
皮下腫瘍が約0.2cm3の体積に増加した後、2回用量のそれぞれの錯体2×20mg/kgを1週間ごとに経口投与した。対照群のマウスには薬物を与えなかった。腫瘍の体積を、実験全体を通して連続的に測定した。2回目の投与の3週間後、マウスを屠殺し、腫瘍を取り出し、秤量し、得られたデータを、%での腫瘍体積阻害(TVI%)及び%での腫瘍重量阻害(TWI%)[式中、
TVI%=100-[(TVexp/TVcont)×100]
TVexp=cm3単位での治癒した腫瘍の平均体積
TVcont=cm3単位での対照腫瘍の平均体積
TWI%=100-[(TWexp/TWcont)×100]
TWexp=g単位での治癒した腫瘍の平均重量
TWcont=g単位での対照腫瘍の平均重量]
の形態で評価した。
【0067】
得られた結果:
得られた結果を表2及び表3にまとめる。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
表2及び3における達成された結果は、図2及び3の両方の膵臓腫瘍についての腫瘍成長曲線においてさらに例示される。
【0071】
本発明による新規Pt(IV)錯体のin vivoにおける抗腫瘍効果、無胸腺マウスモデルに対する結論:
本発明による新規Pt(IV)錯体TU105及びTU106は、両方の検討された処置しにくい膵臓腫瘍に対して、TVI%及びTWI%の両方で表される抗腫瘍効果が有意に改善されて約70~80%に等しく、これは参照Pt(IV)錯体サトラプラチンよりも約7倍大きく、また母錯体TU31よりも実質的に大きい。達成された結果により、従来技術に対して実質的に改善された、本発明による新規Pt(IV)錯体の抗腫瘍効果が確認される。
本発明による一般式(III)の新規Pt(IV)錯体は、がん、好ましくは処置しにくいがん、より好ましくは膵臓がんの経口治療のための非常に有望で価格が手頃な手段を提供する。
本発明の態様として、例えば以下の項の態様を挙げることができる。
[1]
一般式(III)の幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,X)Pt(IV)を有する白金(IV)錯体:
【化5】
[式中、Xは、強鉱酸又は強有機酸の共役アニオンである]。
[2]
Xが、ナイトレート、メシレート、モノクロロアセテート及びトリフルオロアセテートからなる群から選択される、項1に記載の白金(IV)錯体。
[3]
項1又は2に記載の白金(IV)錯体を調製する方法であって、以下の調製ステップ:
a)塩素化炭化水素溶媒、好ましくはクロロホルム、及び対応する強酸の混合物中で、溶媒の沸点にて、変換に必要な反応時間、幾何学的配置cis-(アンミン,1-アダマンチルアミン)-trans-ビス(1-アダマンチルカルボキシレート)-cis-(クロリド,ヨージド)Pt(IV)を有する出発白金(IV)錯体と化学量論的に過剰の強酸の銀塩とを反応させて、混合物を得るステップ、
b)混合物から固相を濾過により除去して、粗濾液を得るステップ、
c)粗濾液を水により洗浄し、分離した有機相を乾燥させるステップ、
d)乾燥させた有機相から溶媒を蒸発により除去して、項1又は2に記載の白金(IV)錯体を得るステップ
を含む、方法。
[4]
e)白金(IV)錯体をアセトンに溶解し、活性炭を添加し、得られた懸濁液を限外濾過し、得られた純粋な白金(IV)錯体の限外濾過溶液を大量の水中に沈殿させて、純粋な項1又は2に記載の白金(IV)錯体をナノ粒子サイズで得る、
さらなるステップを含む、項3に記載の方法。
[5]
Pt(IV)錯体及び薬学的に許容される担体を含む、好ましくは経口投与のための、項1又は2に記載の白金(IV)錯体の医薬組成物。
[6]
薬学的に許容される担体が、自己乳化性ビヒクル、好ましくはステアロイルマクロゴールグリセリド、最も好ましくはGelucire 50/13である、項5に記載の医薬組成物。
[7]
白金(IV)錯体が、ナノ粒子サイズで存在する、項5又は6に記載の医薬組成物。
[8]
自己乳化性ビヒクルの質量部が、80質量%よりも大きい、項6又は7に記載の医薬組成物。
[9]
耐酸性カプセル、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートカプセルに充填された、項5から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[10]
腫瘍性疾患、好ましくは処置しにくいがん、最も好ましくは膵臓がんを、好ましくは経口投与により処置する方法において使用するための、項1若しくは2に記載の白金(IV)錯体、又は項5から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
[11]
それを必要とする対象において腫瘍性疾患、好ましくは処置しにくいがん、最も好ましくは膵臓がんを処置する方法であって、項1若しくは2に記載の白金(IV)錯体、又は項5から9のいずれか一項に記載の医薬組成物を、好ましくは経口的に、投与することを含む、方法。
図1
図2
図3