IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー エナジー ソリューション リミテッドの特許一覧 ▶ ソウル大学校産学協力団の特許一覧

特許7386995リチウム‐硫黄電池用正極活物質、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池
<>
  • 特許-リチウム‐硫黄電池用正極活物質、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池 図1
  • 特許-リチウム‐硫黄電池用正極活物質、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池 図2
  • 特許-リチウム‐硫黄電池用正極活物質、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池 図3
  • 特許-リチウム‐硫黄電池用正極活物質、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池 図4
  • 特許-リチウム‐硫黄電池用正極活物質、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池 図5
  • 特許-リチウム‐硫黄電池用正極活物質、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】リチウム‐硫黄電池用正極活物質、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20231117BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231117BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20231117BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/58
H01M4/60
H01M4/36 A
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022527222
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-18
(86)【国際出願番号】 KR2021010204
(87)【国際公開番号】W WO2022035120
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】10-2020-0100684
(32)【優先日】2020-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】509329800
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】スヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジョン-チャン・イ
(72)【発明者】
【氏名】キヒョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】クォンナム・ソン
(72)【発明者】
【氏名】ダウン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ヨン・クン
【審査官】梅野 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-264363(JP,A)
【文献】特開平04-267074(JP,A)
【文献】国際公開第2019/066219(WO,A1)
【文献】特開平04-253170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部及び前記コア部の全体表面または一部表面を被覆するシェル部を含むコア‐シェル構造の粒子状構造体を含み、
前記コア部は硫黄化合物を含み、
前記シェル部はポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含
前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体はポリチオフェン酢酸重合体がポリエチレングリコールによって互いに架橋された構造を持つものである、リチウム‐硫黄電池用正極活物質。
【請求項2】
コア部及び前記コア部の全体表面または一部表面を被覆するシェル部を含むコア‐シェル構造の粒子状構造体を含み、
前記コア部は硫黄化合物を含み、
前記シェル部はポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含み、
前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は下記化学式1で表される構造を含む、リチウム‐硫黄電池用正極活物質:
【化1】
(前記化学式1において、nはそれぞれ独立的に0ないし1の有理数である。)。
【請求項3】
前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は重量平均分子量が10000ないし30000である、請求項1または2に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質。
【請求項4】
前記硫黄化合物は、無機硫黄、Li(n≧1)、ジスルフィド化合物、有機硫黄化合物及び炭素‐硫黄ポリマー((C、x=2.5ないし50、n≧2)からなる群から選択される1種以上を含む、請求項1または2に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質。
【請求項5】
前記コア部に含まれる硫黄化合物は硫黄‐炭素複合体の形態で含まれる、請求項1または2に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質。
【請求項6】
前記硫黄‐炭素複合体は、多孔性炭素材及び前記多孔性炭素材の内部及び外部表面の中で少なくとも一部に硫黄化合物を含む、請求項に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質。
【請求項7】
前記多孔性炭素材は、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、炭素ナノチューブ、炭素繊維、黒鉛及び活性炭素からなる群から選択される1種以上を含む、請求項に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質。
【請求項8】
前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、前記コア部全体100重量部を基準にして0.5重量部ないし15重量部で含まれる、請求項1または2に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質。
【請求項9】
前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、前記リチウム‐硫黄電池用正極活物質全体100重量%を基準にして0.2重量%ないし5重量%で含まれる、請求項1または2に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質。
【請求項10】
(a)硫黄化合物を含むコア部を製造する段階及び
(b)ポリチオフェン酢酸及びポリエチレングリコール系高分子を含む溶液に前記コア部を混合した後、熱処理して前記コア部の全体表面または一部表面にポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含むシェル部を形成する段階を含み、
前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、ポリチオフェン酢酸重合体がポリエチレングリコールによって互いに架橋された構造を持つものである、リチウム‐硫黄電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記ポリエチレングリコール系高分子は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリエチレングリコールベンジルエーテル、ポリエチレングリコールジベンジルエーテル及びポリエチレングリコール‐4‐ノニルフェニルエーテルからなる群から選択される1種以上を含む、請求項10に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
前記ポリエチレングリコール系高分子は数平均分子量が400ないし4000である、請求項10に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質の製造方法。
【請求項13】
前記(b)段階において、熱処理は80℃ないし120℃の温度範囲で遂行する、請求項10に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質の製造方法。
【請求項14】
請求項1~のいずれか一項に記載のリチウム‐硫黄電池用正極活物質を含むリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項15】
前記リチウム‐硫黄電池用正極は硫黄のローディング量が2.0mAh/cm以上である、請求項14に記載のリチウム‐硫黄電池用正極。
【請求項16】
請求項14に記載のリチウム‐硫黄電池用正極;
負極及び
電解質を含むリチウム‐硫黄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2020年08月11日付韓国特許出願第10‐2020‐0100684号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容は本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明はリチウム‐硫黄電池用正極活物質、この製造方法及びこれを含むリチウム‐硫黄電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウム二次電池の活用範囲が携帯用電子機器及び通信機器だけでなく電気自動車(electric vehicle;EV)、電力貯蔵装置(electric storage system;ESS)まで拡がりながら、これらの電源として使われるリチウム二次電池の高容量化に対する要求が高まっている。
【0004】
多くのリチウム二次電池の中でリチウム‐硫黄電池は硫黄‐硫黄結合(sulfur‐sulfur bond)を含む硫黄系列物質を正極活物質で使用し、リチウム金属、リチウムイオンの挿入/脱挿入が起こる炭素系物質またはリチウムと合金を形成するシリコーンやスズなどを負極活物質で使用する電池システムである。
【0005】
リチウム‐硫黄電池で正極活物質の主材料である硫黄は単位原子当たり低い重さを持ち、資源が豊かで需給が容易であり、安価で、毒性がなく、環境にやさしいという長所がある。
【0006】
また、リチウム‐硫黄電池は正極でリチウムイオンと硫黄の変換(conversion)反応(S+16Li+16e→8LiS)から出る理論放電容量が1,675mAh/gに至って、負極でリチウム金属(理論容量:3,860mAh/g)を使用する場合2,600Wh/kgの理論エネルギー密度を示す。これは現在研究されている他の電池システム(Ni‐MH電池:450Wh/kg、Li‐FeS電池:480Wh/kg、Li‐MnO電池:1,000Wh/kg、Na‐S電池:800Wh/kg)及びリチウムイオン電池(250Wh/kg)の理論エネルギー密度に比べて非常に高い数値を持つため、現在まで開発されている二次電池の中で高容量、環境にやさしい、及び低価のリチウム二次電池として注目されていて、次世代電池システムとして多くの研究が行われている。
【0007】
リチウム‐硫黄電池は、放電時に正極(positive electrode)では硫黄が電子を受け入れて還元反応が、負極(negative electrode)ではリチウムがイオン化される酸化反応がそれぞれ行われる。
【0008】
このようなリチウム‐硫黄電池において、正極活物質に使われる硫黄は電気伝導度が5×10‐30S/cmで電気伝導性がない不導体なので、電気化学反応で生成された電子の移動が難しい問題がある。そのため、電気化学的反応サイトを提供することができる炭素のような伝導性物質とともに複合化されて使われている。しかし、この場合正極活物質に他の伝導性素材が一緒に含まれるので、正極の電気化学的反応性が十分ではなく、これによって電池全体のエネルギー密度が低下する問題がある。
【0009】
また、リチウム‐硫黄電池の放電時、正極ではリチウムポリスルフィド(lithium polysulfide、Li、x=2~8)が生成され、これらの中で一部は電解質に容易に溶解されて正極から硫黄が湧出されることによって正極の電気化学的反応性減少を加速化させ、可逆容量が大きく減るだけでなく、溶解されたリチウムポリスルフィドは負極へ拡散されて様々な副反応(side reaction)を起こすようになる。これに加え、このようなリチウムポリスルフィドは充電過程中にシャトル反応(shuttle reaction)を起こして充・放電効率を大きく低下させる。
【0010】
前述したような問題によってリチウム‐硫黄電池は実際駆動時の初期容量は高いが、サイクルが進められることにつれ容量及び充・放電効率特性が急激に低下し、これによって寿命も短縮されるので十分な性能及び駆動安定性が確保されがたくて、常用化されていない実情である。
【0011】
ここで、リチウム‐硫黄電池で硫黄の低い電気伝導度を補完し、リチウムポリスルフィドの湧出問題を解決するために多様な技術が提案された。
【0012】
一例として、韓国公開特許第2017‐0139761号は窒素がドーピングされた炭素物質を含む正極活物質層及び保護膜を含むことでリチウムポリスルフィドの湧出を遅延させて電池の容量及び寿命を改善することができることを開示している。
【0013】
また、韓国公開特許第2016‐0046775号は硫黄‐炭素複合体を含む正極活性部の一部の表面に両親媒性高分子からなる正極コーティング層を備えてリチウムポリスルフィドの湧出抑制とともにリチウムイオンの移動を容易にして電池のサイクル特性を向上させることができることを開示している。
【0014】
また、韓国公開特許第2016‐0037084号は硫黄を含む炭素ナノチューブの凝集体にグラフェンをコーティングすることでリチウムポリスルフィドが溶けて出ることを遮断し、硫黄‐炭素ナノチューブ複合体の導電性及び硫黄のローディング量を増加させることができることを開示している。
【0015】
これらの特許はリチウムポリスルフィドの吸着能または伝導性に優れる物質を正極に添加剤またはコーティング層の形態で導入することでリチウムポリスルフィドの湧出を抑制し、硫黄の電気伝導度を改善してリチウム‐硫黄電池の性能または寿命低下問題をある程度改善したが、その効果が十分ではない。また、これらの特許で提示する方法は多少複雑なだけでなく硫黄を入れられる量(すなわち、ローディング量)が制限されるという問題がある。したがって、正極内で硫黄のローディング量を高めながらも向上された電気化学的反応性を示して優れる性能を持つリチウム‐硫黄電池の開発がもっと必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】韓国公開特許第2017‐0139761号(2017年12月20日)、窒素がドーピングされた炭素を含む正極活物質層及び保護膜を備える金属‐硫黄電池用正極、この製造方法
【文献】韓国公開特許第2016‐0046775号(2016年04月29日)、リチウム‐硫黄電池用正極及びこの製造方法
【文献】韓国公開特許第2016‐0037084号(2016年04月05日)、硫黄‐炭素ナノチューブ複合体、この製造方法、これを含むリチウム‐硫黄電池用カソード活物質及びこれを含むリチウム‐硫黄電池
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ここで本発明者らは前記問題を解決するために多角的に研究した結果、硫黄化合物を含む正極活物質の表面を電子伝導性及びイオン伝導性を一緒に示す特定高分子に被覆する場合、硫黄化合物及び正極の電気化学的反応性が改善され、リチウムポリスルフィドの湧出が抑制されてリチウム‐硫黄電池の容量及び寿命特性を向上させることができることを確認して本発明を完成した。
【0018】
したがって、本発明の目的は電気化学的反応性に優れるだけでなく、リチウムポリスルフィドの湧出を抑制することができるリチウム‐硫黄電池用正極活物質及びこの製造方法を提供することにある。
【0019】
また、本発明の他の目的は前記正極活物質を含むリチウム‐硫黄電池用正極を提供することにある。
【0020】
同時に、本発明のまた他の目的は前記正極を含むリチウム‐硫黄電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するために、本発明はコア部及び前記コア部の全体表面または一部表面を被覆するシェル部を含むコア‐シェル構造の粒子状構造体を含み、前記コア部は硫黄化合物を含み、前記シェル部はポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含むリチウム‐硫黄電池用正極活物質を提供する。
【0022】
前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は下記化学式1で表される構造を含む化合物を含むことができる:
【0023】
【化1】
【0024】
(前記化学式1において、nは明細書内で説明したところにしたがう。)。
【0025】
また、本発明は(a)硫黄化合物を含むコア部を製造する段階及び(b)ポリチオフェン酢酸及びポリエチレングリコール系高分子を含む溶液に前記コア部を混合した後、熱処理して前記コア部の全体表面または一部表面にポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含むシェル部を形成する段階を含むリチウム‐硫黄電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0026】
また、本発明は前記リチウム‐硫黄電池用正極活物質を含むリチウム‐硫黄電池用正極を提供する。
【0027】
同時に、本発明は前記リチウム‐硫黄電池用正極を含むリチウム‐硫黄電池を提供する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極活物質は表面を電子伝導性及びイオン伝導性を持つだけでなくリチウムポリスルフィドを吸着することができる高分子で被覆することによって硫黄‐炭素複合体を含む正極の反応性を向上させるだけでなく、リチウムポリスルフィドの湧出を抑制して正極の容量発現を最大化することによって高容量及び高エネルギー密度を持つリチウム‐硫黄電池の具現ができるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一具現例によるリチウム‐硫黄電池用正極活物質の断面を示す図面である。
図2】本発明の一具現例によるポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体の構造を示す図面である。
図3】実施例1による正極活物質の熱重量分析結果を示すグラフである。
図4】製造例2による共重合体の熱重量分析結果を示すグラフである。
図5】本発明の実施例3、実施例4及び比較例1によるリチウム‐硫黄電池の性能評価結果を示すグラフである。
図6】本発明の実施例3及び比較例2によるリチウム‐硫黄電池の性能評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように添付した図面を参照して詳しく説明する。
【0031】
本明細書及び請求範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に附合する意味と概念で解釈しなければならない。
【0032】
本発明で使用した用語は単に特定の実施例を説明するために使われたもので、本発明を限定する意図ではない。単数の表現は文脈上明らかに違うことを意味しない限り、複数の表現を含む。本発明において、「含む」または「持つ」などの用語は明細書上に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や数字、段階、動作、構成要素、部品またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性を予め排除しないものとして理解しなければならない。
【0033】
本明細書で使われている用語「複合体(composite)」とは、2つ以上の材料が組み合わせられて物理的・化学的に互いに異なる相(phase)を形成しながら、より有効な機能を発現する物質を意味する。
【0034】
本明細書で使われている用語「ポリスルフィド」は「ポリスルフィドイオン(S 2‐、x=8、6、4、2))」及び「リチウムポリスルフィド(LiまたはLiS 、x=8、6、4、2)」を全て含む概念である。
【0035】
リチウム‐硫黄電池は多くの二次電池の中で高い理論放電容量及び理論エネルギー密度を持ち、正極活物質の主材料で使われる硫黄は埋蔵量が豊かで低価であり、環境にやさしいという利点によって次世代二次電池として脚光を浴びている。
【0036】
しかし、リチウム‐硫黄電池の場合、正極活物質の硫黄の低い電気伝導度及びリチウムイオンの伝導特性によって酸化・還元反応に対する十分な反応性を確保しがたく、実際駆動においては理論的エネルギー密度を全部具現するのに困難がある。
【0037】
また、リチウム‐硫黄電池において、放電が進められることにつれ、硫黄はリチウムイオンと連続的に反応して環形Sで線形構造のリチウムポリスルフィド(lithium polysulfide、Li、x=8、6、4、2)で連続的に変換されるし、このようなリチウムポリスルフィドが完全に還元されると、最終的にリチウムスルフィド(lithium sulfide、LiS)が生成される。このような硫黄の還元反応(放電)の中間生成物であるリチウムポリスルフィドの中で、硫黄の酸化数が高いリチウムポリスルフィド(Li、普通x>4)は極性が強い物質で、親水性有機溶媒を含む電解質に容易に溶けて正極反応領域の外に湧出されることによって、これ以上電気化学反応に参加できなくなる硫黄の損失が発生する。
【0038】
このようなリチウムポリスルフィドの湧出によって電気化学反応に参加する硫黄の量が急激に減って、リチウム‐硫黄電池は前述した長所にもかかわらず実際の駆動においては理論容量及びエネルギー密度を全部具現することができない。また、湧出されたリチウムポリスルフィドは負極のリチウムと反応して負極表面に固体相のリチウムスルフィドを形成し、これは充電時にも分解されず非可逆容量で作用するだけでなく、負極表面における電気化学反応を邪魔して容量及び寿命特性の低下が加速化する問題がある。これに加え、リチウムポリスルフィドは正極と負極との間を行き来しながら(shuttle)完全に還元されずに電子を消耗する循環反応をするようになって充電及び放電効率を下げる問題がある。
【0039】
このために従来技術では硫黄の電気化学的反応性を高めてリチウムポリスルフィドの湧出を抑制することができる物質を正極に添加したりコーティングするなどの方法が提案されたが、硫黄の電気伝導度及び/またはリチウムイオン伝導性及びリチウムポリスルフィドの湧出改善効果が微々たるものであった。
【0040】
特に、機能性物質を正極活物質に含まれる伝導性素材または硫黄‐炭素複合体にコーティングする方法の場合、硫黄のローディング量が低い正極に対しては十分な効果が発現される結果が報告されたが、硫黄のローディング量が高い正極に対しては目的とする効果を得ることが困難であった。ここで、コーティングに使われる機能性物質の濃度を高める方法も研究されたが、高濃度コーティングは返って硫黄の電気化学的反応性を下げて、抵抗成分の増加によって効果を阻害する結果を引き起こした。
【0041】
ここで、本発明ではイオン伝導性と電子伝導性を同時に持つ物質として硫黄‐炭素複合体をコーティングすることにより、硫黄が含量に関係なく優れる電気化学的反応性及びリチウムポリスルフィドの湧出抑制効果を確保することができるリチウム‐硫黄電池用正極活物質を提供する。
【0042】
具体的に、図1に示したように、本発明の一具現例によるリチウム‐硫黄電池用正極活物質10は、コア部11及び前記コア部の全体表面または一部表面を被覆するシェル部13を含むコア‐シェル構造の粒子状構造体を含み、前記コア部11は硫黄化合物を含み、前記シェル部13はポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体(graft copolymer)を含むことを特徴とする。
【0043】
本発明において、前記コア部11に含まれる前記硫黄化合物は硫黄元素(S)及び硫黄化合物からなる群から選択される1種以上である。具体的に、前記硫黄化合物は無機硫黄、Li(n≧1)、ジスルフィド化合物、有機硫黄化合物及び炭素‐硫黄ポリマー((C、x=2.5ないし50、n≧2)からなる群から選択される1種以上を含むことができる。好ましくは前記硫黄化合物は無機硫黄である。
【0044】
前記硫黄化合物は、それ自体に電気伝導性がないため、炭素のような伝導性素材と複合化して使用される。これによって、前記コア部に含まれる硫黄化合物は多孔性炭素材と複合化した硫黄‐炭素複合体の形態である。
【0045】
前記多孔性炭素材は前述した硫黄化合物が均一で安定的に固定されることができる骨格を提供するだけでなく、硫黄化合物の低い電気伝導度を補完して電気化学的反応が円滑に進められることができるようにする。
【0046】
前記多孔性炭素材は、一般的に多様な炭素材質の前駆体を炭化させることで製造されることができる。前記多孔性炭素材は内部に一定しない気孔を含み、前記気孔の平均直径は1ないし200nm範囲であり、気孔率または孔隙率は多孔性炭素材全体体積の10ないし90%範囲である。もし、前記気孔の平均直径が前記範囲未満の場合、気孔の大きさが分子水準に過ぎず硫黄の含浸が不可能であり、これと逆に前記範囲を超える場合、多孔性炭素材の機械的強度が弱化されて電極の製造工程に適用するに好ましくない。
【0047】
前記多孔性炭素材の形態は、球形、棒形、針状、板状、チューブ型またはバルク型でリチウム‐硫黄電池に通常使われるものであれば制限されずに使われることができる。
【0048】
前記多孔性炭素材は多孔性構造であるか、または比表面積が高いもので当業界で通常使われるものであればいずれもかまわない。例えば、前記多孔性炭素材では、グラファイト(graphite);グラフェン(graphene);スーパーP(Super‐P)、デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;単一壁炭素ナノチューブ(SWCNT)、多重壁炭素ナノチューブ(MWCNT)などの炭素ナノチューブ(CNT);グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)、活性化炭素ファイバー(ACF)などの炭素繊維;天然黒鉛、人造黒鉛、膨脹黒鉛などの黒鉛及び活性炭素からなる群から選択された1種以上であってもよいが、これに制限されない。好ましくは前記多孔性炭素材は炭素ナノチューブである。
【0049】
前記硫黄‐炭素複合体は多孔性炭素材及び前記多孔性炭素材の内部及び外部表面の中で少なくとも一部に前記硫黄化合物を含むものである。一例として、前記硫黄‐炭素複合体は前述した硫黄化合物と多孔性炭素材が単純混合されて複合化されたり、コア‐シェル構造のコーティング形態または担持形態を持つことができる。前記コア‐シェル構造のコーティング形態は硫黄化合物または多孔性炭素材の中でいずれか一つが他の物質をコーティングしたことであって、一例として多孔性炭素材の内部または外部表面を硫黄化合物で包んだり、この逆であってもよい。また、担持形態は多孔性炭素材の内部または外部表面に硫黄化合物が担持された形態である。前記硫黄‐炭素複合体の形態は前述した硫黄化合物と多孔性炭素材を含むものであれば、いかなる形態でも使用可能であり、本発明で限定しない。
【0050】
前述したように、前記硫黄‐炭素複合体において、前記硫黄化合物は前記多孔性炭素材の内部及び外部表面の中で少なくともいずれか1ヶ所に位置し、一例として前記多孔性炭素材の内部及び外部全体表面の100%未満、好ましくは1ないし95%、より好ましくは40ないし95%領域に存在することができる。前記硫黄化合物が前記多孔性炭素材の内部及び外部表面に前記範囲内に存在する時、電子伝達面積及び電解質との濡れ性の面で最大の効果を示すことができる。具体的に、前記硫黄化合物が前述した範囲の領域で前記多孔性炭素材の内部及び外部表面に薄くて均一に含浸されるので、充・放電過程で電子伝達接触面積を増加させることができる。もし、前記硫黄化合物が前記多孔性炭素材の内部及び外部全体表面の100%領域に位置する場合、前記多孔性炭素材が完全に硫黄化合物で覆われて電解質に対する濡れ性が落ちるし、接触性が低下して電子が伝達されずに電気化学反応に参加できなくなる。
【0051】
本発明による硫黄‐炭素複合体において、前述した硫黄と多孔性炭素材の重量比は9:1ないし7:3、好ましくは9:1ないし7.5:2.5である。もし、前記硫黄の含量が硫黄‐炭素複合体の全体100重量%を基準にして70重量%未満の場合、多孔性炭素材の含量が相対的に増加することで比表面積が増加して、正極製造時に必要なバインダーの含量が増える。このようなバインダー使容量の増加は結局正極の面抵抗を増加させ、電子移動(electron pass)を防ぐ絶縁体の役目をして電池性能を低下させることができる。これと逆に、90重量%を超える場合、多孔性炭素材と結合できなかった硫黄化合物がそれらどうしで団結したり多孔性炭素材の表面に再湧出されることで電子を受けにくくなって電気化学的反応に直接参加できなくなり、これによって電池容量の損失が発生することがある。
【0052】
前記硫黄‐炭素複合体は構造体内で3次元的に相互連結され、多様な大きさの気孔によって硫黄化合物を高含量で担持することができる。これにより電気化学反応で溶解性のあるポリスルフィドが生成されても硫黄‐炭素複合体の内部に位置することができれば、ポリスルフィドの湧出時にも3次元で絡まっている構造が維持されて正極構造が崩壊される現象を抑制させることができる。その結果、前記硫黄‐炭素複合体を含むリチウム二次電池は高ローディング(high loading)でも高容量を具現することができるという長所がある。
【0053】
しかし、前述したように、リチウム‐硫黄電池の場合、放電過程で硫黄の中間還元体であるリチウムポリスルフィドの湧出によって持続的な容量減少が現われる。また、硫黄のローディング量が高い場合、不導体である硫黄化合物によってリチウムイオンの出入りが難しくなって電気化学的反応性が落ちる問題が発生する。
【0054】
このために、本発明の正極活物質は図1に示すように、前述したコア部11の表面をポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含むシェル部13で被覆する。
【0055】
特に、本発明による正極活物質は硫黄化合物を含むコア部の少なくとも一部表面、好ましくは全体表面が電子伝導性とイオン伝導性を同時に持つ高分子でコーティングされるので、コア部に含まれる硫黄化合物に電気伝導性を提供して、リチウムイオンの円滑な移動を可能にすることで正極活物質内の硫黄化合物の電気化学的反応性を向上させるだけでなく、硫黄のローディング量が高い場合、発生する過電圧問題を改善し、リチウムポリスルフィドの湧出を抑制して容量特性に優れるリチウム‐硫黄電池を具現することができる。
【0056】
本発明において、前記シェル部13に含まれる前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は、下記化学式1で表される構造を含む化合物である:
【0057】
【化2】
【0058】
(前記化学式1において、nはそれぞれ独立的に0ないし1の有理数である。)。
【0059】
前記化学式1のポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は電子伝導性高分子であるポリチオフェン酢酸をイオン伝導性を示すポリエチレングリコール系高分子でグラフト共重合したもので、電子伝導性とイオン伝導性を全て持つ高分子である。
【0060】
具体的に、前記化学式1のポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体はポリチオフェン酢酸から来由する構造を含む主鎖及びポリエチレングリコール構造を持つ側鎖からなる。
【0061】
前記化学式1のポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体の主鎖はポリチオフェン酢酸から来由する反復単位を含むことによって電子伝導性を示し、前記コア部に電子伝達が円滑になるように図ることで正極活物質の反応性を向上させる。また、前記化学式1のポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体の側鎖は、ポリエチレングリコール構造を含むことでリチウムイオンの移動特性を改善して正極活物質、具体的には前記コア部11に含まれる硫黄化合物の電気化学的反応性を向上させるだけでなく、リチウムポリスルフィドを吸着して硫黄化合物が正極の電気化学反応領域から離脱することを防いで、リチウムポリスルフィドの負極への拡散移動を抑制することによって従来リチウムポリスルフィドによって発生する容量減少(capacity loss)問題を解決して電池の容量特性をさらに向上させることができる。これに加え、硫黄‐炭素複合体のコーティングに使われた従来高分子の場合、硫黄のローディング量が大きくなるほどコーティング量と集電体から距離が増加して過電圧が発生した。しかし、本発明による前記化学式1のポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は硫黄ローディング量が増加してもコーティング量の増加による過電圧が発生せず、本然の機能を安定的に維持してリチウム‐硫黄電池が優れる容量特性を示すことができる。
【0062】
特に、図2に示したように、前記化学式1のポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は主鎖(図2の太い線)の側面に枝状の側鎖(図2の細い線)が連結されている枝状を持つことによってポリチオフェン酢酸重合体がポリエチレングリコールによって互いに架橋された構造を形成することができる。線形態の形状を持って架橋構造を形成できない従来の電子伝導性高分子とイオン伝導性高分子とのブロック、ランダムまたは交互共重合体と違って、本発明で提示する前記化学式1のポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は枝状の高分子鎖で形成される特有の架橋構造によって電子伝導性及びイオン伝導性を完全に発揮することによって向上されたリチウムポリスルフィド湧出抑制効果を示すことができる。
【0063】
前記化学式1で表されるポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は重量平均分子量(M)が10000ないし30000、好ましくは15000ないし25000である。前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体の重量平均分子量が前述した範囲未満の場合、架橋率が低くなったり、コア部に均一なコーティングが行われないし、これと逆に前記範囲を超える場合、溶媒への溶解度が低くなる問題が発生することがある。
【0064】
前記シェル部に含まれるポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は前記コア部全体100重量部を基準にして0.5ないし15重量部で含まれる。前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体の含量は、前記コア部全体100重量部を基準にして、下限値は0.5重量部以上または1重量部以上であり、上限値は15重量部以下、10重量部以下または5重量部以下である。前記シェル部に含まれるポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体の含量は前記下限値と上限値との組み合わせで設定することができる。前記含量が前述した範囲未満の場合、前述した効果が微々たるものであり、これと逆に前述した範囲を超える場合、電池のエネルギー密度が低くなる問題が発生することがある。
【0065】
また、前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体は前記リチウム‐硫黄電池用正極活物質全体100重量%を基準にして0.2ないし5重量%で含まれることができる。前記ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体の含量は、前記リチウム‐硫黄電池用正極活物質全体100重量%を基準にして、下限値は0.25重量%以上または0.35重量%以上であり、上限値は4.5重量%以下または3.5重量%以下である。前記シェル部に含まれるポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体の含量は前記下限値と上限値との組み合わせで設定することができる。
【0066】
本発明の一具現例によるリチウム‐硫黄電池用正極活物質において、前記シェル部の厚さは特に限定されないが、好ましくは1ないし100nmである。前記シェル部の厚さが前述した範囲より薄い場合、正極活物質の反応性改善及びリチウムポリスルフィド抑制効果が微々たることがあって、これと逆に、前述した範囲より厚い場合、充放電時に抵抗が増加して性能が低下することがある。
【0067】
また、本発明は前記リチウム‐硫黄電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0068】
一例として、前記リチウム‐硫黄電池用正極活物質は、(a)硫黄化合物を含むコア部を製造する段階及び(b)ポリチオフェン酢酸及びポリエチレングリコール系高分子を含む溶液に前記コア部を混合した後、熱処理して前記コア部の少なくとも一部の表面にポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含むシェル部を形成する段階を通じて製造される。
【0069】
先ず、前記(a)段階では、硫黄化合物を含むコア部を製造することができる。
【0070】
前記硫黄化合物を含むコア部は前述したことにしたがう。
【0071】
前述したように、前記コア部に含まれる硫黄化合物は硫黄‐炭素複合体である。
【0072】
本発明で前記硫黄‐炭素複合体の製造方法は、本発明で特に限定せず、当業界で通常使われる方法が使用されることができる。一例として、前記硫黄化合物と多孔性炭素材を単純混合した後、熱処理して複合化する方法が使用されることができる。
【0073】
以後、本発明のリチウム‐硫黄電池用正極活物質の製造方法は、ポリチオフェン酢酸及びポリエチレングリコール系高分子を含む溶液に前記コア部を混合した後、熱処理して前記コア部の少なくとも一面にポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含むシェル部を形成する(b)段階を含む。
【0074】
前記(b)段階において、ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を前記(a)段階で製造したコア部に被覆させるために、ポリチオフェン酢酸とポリエチレングリコール系高分子を溶媒に溶解させた溶液を製造する。
【0075】
前記ポリチオフェン酢酸は市販されるものを購入したり、公知の方法によって直接製造することができる。
【0076】
一例として、前記ポリチオフェン酢酸は、(b‐1)チオフェン酢酸にメタノールと硫酸を入れてチオフェンメチルアセテートを形成する段階;(b‐2)前記チオフェンメチルアセテートに塩化鉄を入れてポリチオフェンメチルアセテートを形成する段階;(b‐3)前記ポリチオフェンメチルアセテートに水酸化ナトリウムを入れてポリチオフェンナトリウムアセテートを形成する段階;及び(b‐4)前記ポリチオフェンナトリウムアセテートに塩化水素を入れてポリチオフェン酢酸を形成する段階;を通じて製造することができる。
【0077】
前記ポリエチレングリコール系高分子は、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールドデシルエーテル、ポリエチレングリコールベンジルエーテル、ポリエチレングリコールジベンジルエーテル及びポリエチレングリコール‐4‐ノニルフェニルエーテルからなる群から選択される1種以上を含むことができる。好ましくは、前記ポリエチレングリコール系高分子はポリエチレングリコール及びポリエチレングリコールメチルエーテルからなる群から選択される1種以上である。
【0078】
また、前記ポリエチレングリコール系高分子は数平均分子量(M)が400ないし4000、好ましくは400ないし2000である。
【0079】
前記溶媒は前述したポリチオフェン酢酸とポリエチレングリコール系高分子とを溶解させることができるし、揮発性が高いものであれば特に限定しない。一例として、前記溶媒は水とアルコールの混合溶媒、または一つあるいはそれ以上の有機溶媒混合物であってもよく、この場合、前記アルコールは炭素数1ないし6の低級アルコール、好ましくはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどである。有機溶媒では、酢酸、ジメチルホルムアミド(dimethyl formamide;DMF)、N‐メチル‐2‐ピロリドン(N‐methyl‐2‐pyrrolidone;NMP)、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide;DMSO)、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide、DMAc)などの極性溶媒、アセトニトリル、エチルアセテート、メチルアセテート、フルオロアルカン、ペンタン、2,2,4‐トリメチルペンタン、デカン、シクロヘキサン、シクロペンタン、ジイソブチレン、1‐ペンテン、1‐クロロブタン、1‐クロロペンタン、o‐キシレン、ジイソプロピルエーテル、2‐クロロプロパン、トルエン、1‐クロロプロパン、コロロベンゼン、ベンゼン、ジエチルエーテル、ジエチルスルフィド、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2‐ジクロロエタン、アニリン、ジエチルアミン、エーテル、四塩化炭素、塩化メチレン(methylene chloride)及びテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran;THF)などの非極性溶媒を使用することもできる。好ましくは、前記溶媒はジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド及びジメチルアセトアミドからなる群から選択される1種以上である。
【0080】
前記溶媒の含量はコア部表面にシェル部の被覆、すなわちコーティングが容易にできる程度の濃度を持つ水準で含有されることができるし、具体的な含量はコーティング方法及び装置によって変わる。
【0081】
前記ポリチオフェン酢酸及びポリエチレングリコール系高分子を含む溶液に前記(a)段階のコア部を混合した後、熱処理することで前記コア部の全体表面または一部表面にポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体を含むシェル部を形成する。
【0082】
前記熱処理は80ないし120℃の温度で、12ないし48時間進められることができる。
【0083】
特に、本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極活物質の製造方法の場合、シェル部が既存の正極活物質をコーティングする過程で伴われなければならない複雑な過程を経ずに、溶液状態で単純加熱を通じてポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体が合成されてコア部をコーティングするイン・サイチュ(in situ)で形成されることによって最終製造されるシェル部の均一性及び物性に優れるだけでなく、工程の効率性及び生産性の面でも有利な利点がある。
【0084】
さらに、前記(b)段階以後、溶媒除去のための乾燥工程をさらに遂行することができる。前記乾燥工程は溶媒を充分取り除くことができる水準の温度及び時間で遂行し、その条件は溶媒の種類によって変わることがあるので本発明で特に言及しない。一例として、乾燥は30ないし200℃の真空オーブンで遂行することができるし、乾燥方法では温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥などの乾燥法を使用することができる。乾燥時間については特に限定されないが、通常30秒ないし24時間の範囲で行われる。
【0085】
また、本発明は前記リチウム‐硫黄電池用正極活物質を含むリチウム‐硫黄電池用正極を提供する。
【0086】
前記正極は正極集電体と前記正極集電体の一面または両面に形成された正極活物質層を含むことができる。
【0087】
前記正極集電体は正極活物質を支持し、当該電池に化学的変化を引き起こさずに高い導電性を持つものであれば特に制限されない。例えば、銅、ステンレススチール、アルミニウム、ニッケル、チタン、パラジウム、焼成炭素、銅やステンレススチール表面にカーボン、ニッケル、銀などで表面処理したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが使われることができる。
【0088】
前記正極集電体はその表面に微細な凹凸を形成して正極活物質との結合力を強化させることができるし、フィルム、シート、ホイル、メッシュ、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を使用することができる。
【0089】
前記正極活物質層は正極活物質と選択的に導電材及びバインダーを含むことができる。
【0090】
前記正極活物質は前述したところにしたがう。
【0091】
本発明のリチウム‐硫黄電池用正極において、前記正極活物質はリチウム‐硫黄電池用正極を構成する正極活物質層全体100重量%を基準にして50ないし95重量%で含まれることができる。前記正極活物質の含量は、前記正極活物質層全体100重量%を基準にして、下限値は70重量%以上または85重量%以上であり、上限値は99重量%以下または90重量%以下である。前記正極活物質の含量は前記下限値と上限値との組み合わせで設定することができる。前記正極活物質の含量が前記範囲未満の場合、電極の電気化学的反応を十分発揮しがたいし、これと逆に前記範囲を超える場合、バインダーの含量が相対的に不足して電極の物理的性質が低下する問題がある。
【0092】
前記正極活物質層に含まれる導電材は電解液と正極活物質を電気的に連結して集電体(current collector)から電子が正極活物質まで移動する経路の役目をする物質であって、導電性を持つものであれば制限されずに使用することができる。
【0093】
例えば、前記導電材では、スーパーP(Super‐P)、デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;炭素ナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどの炭素誘導体;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;またはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどの伝導性高分子を単独で、または混合して使用することができる。
【0094】
前記導電材の含量は前記正極活物質層全体重量を基準にして0.01ないし30重量%で添加されることができる。
【0095】
前記バインダーは正極活物質を正極集電体に維持させ、正極活物質の間を有機的に連結させてこれらの間の結着力をより高めるもので、当該業界で公知された全てのバインダーを使用することができる。
【0096】
例えば、前記バインダーはポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride、PVdF)またはポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene、PTFE)を含むフッ素樹脂系バインダー;スチレン‐ブタジエンゴム(styrene butadiene rubber、SBR)、アクリロニトリル‐ブチジエンゴム、スチレン‐イソプレンゴムを含むゴム系バインダー;カルボキシメチルセルロース(carboxyl methyl cellulose、CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロースを含むセルロース系バインダー;ポリアルコール系バインダー;ポリエチレン、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系バインダー;ポリイミド系バインダー;ポリエステル系バインダー;及びシラン系バインダー;からなる群から選択された1種、2種以上の混合物または共重合体を使用することができる。
【0097】
前記バインダーの含量は前記正極活物質層全体重量を基準にして0.5ないし30重量%で添加されることができる。バインダーの含量が0.5重量%未満であれば、正極の物理的性質が低下されて正極内の活物質と導電材が脱落することがあるし、30重量%を超えると、正極で活物質と導電材との割合が相対的に減少して電池容量が減少することがある。
【0098】
前記正極は当分野に知られている通常の方法で製造することができる。例えば、正極活物質に溶媒、必要に応じてバインダー、導電材、充填剤のような添加剤を混合及び撹拌して正極スラリーを製造した後、これを金属材料の集電体に塗布(コーティング)して圧縮した後、乾燥して正極を製造することができる。
【0099】
具体的に、先ず、正極スラリーを製造するための溶媒に前記バインダーを溶解させた後、導電材を分散させる。正極スラリーを製造するための溶媒では、正極活物質、バインダー及び導電材を均一に分散させることができるし、容易に蒸発されるものを使用することが好ましく、代表的にはアセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、水、イソプロピルアルコールなどを使用することができる。次に、正極活物質を、または選択的に添加剤とともに、前記導電材が分散された溶媒に再び均一に分散させて正極スラリーを製造する。前記正極スラリーに含まれる溶媒、正極活物質、または選択的に添加剤の量は本出願において特に重要な意味を持たないし、ただ正極スラリーの塗布が容易であるように適切な粘度を持てば十分である。このように製造された正極スラリーを集電体に塗布し、乾燥して正極を形成する。前記正極スラリーはスラリーの粘度及び形成しようとする正極の厚さによって適切な厚さで集電体に塗布することができる。
【0100】
前記塗布は当業界に通常公知された方法によって遂行することができるが、例えば、前記正極スラリーを前記正極集電体の一側の上面に分配させた後、ドクターブレード(doctor blade)などを使って均一に分散させて遂行することができる。以外にも、ダイキャスティング(die casting)、コンマコーティング(comma coating)、スクリーンプリンティング(screen printing)などの方法を通じて遂行することができる。
【0101】
前記乾燥は特に制限することではないが、50ないし200℃の真空オーブンで1日以内で遂行することである。
【0102】
さらに、前記乾燥後、集電体をプレスすることで正極内で正極活物質層の密度を高めることもできる。プレス方法では金型プレス及びロールプレスなどの方法を挙げることができる。
【0103】
前述した組成及び製造方法で製造された前記正極、具体的に前記正極活物質層の気孔率は50ないし80%、好ましくは60ないし75%である。前記正極の気孔率が50%に及べない場合は、正極活物質、導電材及びバインダーを含む正極スラリーの充填度が高すぎて正極活物質の間にイオン伝導及び/または電気伝導を示すことができる十分な電解質が維持されることができなくなって、電池の出力特性やサイクル特性が低下されることがあるし、電池の過電圧及び放電容量減少がひどくなる問題がある。これと逆に前記正極の気孔率が80%を超えて高すぎる気孔率を持つ場合、集電体と物理的及び電気的連結が低くなって接着力が低下し、反応が難しくなる問題があり、高くなった気孔率を電解質が充填されて電池のエネルギー密度が低くなる問題があるので前記範囲で適切に調節する。
【0104】
本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極の硫黄ローディング量、すなわち正極内の正極活物質層の単位面積当たり硫黄の質量は2.0mAh/cm以上、好ましくは3.0ないし6.0mAh/cmである。このように高い硫黄ローディング量を持つことによって本発明による正極を含むリチウム‐硫黄電池は優れる放電容量及び寿命特性を示すことができる。
【0105】
また、本発明は前記リチウム‐硫黄電池用正極を含むリチウム‐硫黄電池を提供する。
【0106】
前記リチウム‐硫黄電池は、正極;負極及びこれらの間に介在される電解質を含み、前記正極として本発明によるリチウム‐硫黄電池用正極を含む。
【0107】
前記正極は前述したところにしたがう。
【0108】
前記負極は負極集電体及び前記負極集全体の一面または両面に塗布された負極活物質層を含むことができる。または前記負極はリチウム板金である。
【0109】
前記負極集電体は負極活物質層を支持するためのものであって、正極集電体で説明したとおりである。
【0110】
前記負極活物質層は負極活物質以外に導電材、バインダーなどを含むことができる。この時、導電材及びバインダーは前述したところにしたがう。
【0111】
前記負極活物質はリチウム(Li)を可逆的に挿入(intercalation)または脱挿入(deintercalation)できる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質、リチウム金属またはリチウム合金を含むことができる。
【0112】
前記リチウムイオン(Li)を可逆的に挿入または脱挿入することができる物質は、例えば結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物である。前記リチウムイオン(Li)と反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成することができる物質は、例えば、酸化スズ、チタンナイトレートまたはシリコーンである。前記リチウム合金は、例えば、リチウム(Li)とナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、アルミニウム(Al)及びスズ(Sn)からなる群から選択される金属の合金である。
【0113】
好ましくは前記負極活物質はリチウム金属であり、具体的に、リチウム金属薄膜またはリチウム金属粉末の形態である。
【0114】
前記負極活物質の形成方法は特に制限されないし、当業界で通常使われる層または膜の形成方法を利用することができる。例えば、圧搾、コーティング、蒸着などの方法を利用することができる。また、集電体にリチウム薄膜がない状態で電池を組み立てた後、初期充電によって板金上に金属リチウム薄膜が形成される場合も本発明の負極に含まれる。
【0115】
前記電解質はリチウムイオンを含み、これを媒介にして正極と負極で電気化学的酸化または還元反応を起こすためのものである。
【0116】
前記電解質はリチウム金属と反応しない非水電解液または固体電解質が可能であるが、好ましくは非水電解質で、電解質塩及び有機溶媒を含む。
【0117】
前記非水電解液に含まれる電解質塩はリチウム塩である。前記リチウム塩はリチウム二次電池用電解液に通常使われるものであれば制限されずに使われることができる。例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO、LiBF、LiB10Cl10、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiCBO、LiAsF、LiSbF、LiAlCl、CHSOLi、CFSOLi、(CFSONLi、(CSONLi、(SOF)NLi、(CFSOCLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、テトラフェニルホウ酸リチウム(lithium tetraphenyl borate)、リチウムイミドなどが使われることができる。
【0118】
前記リチウム塩の濃度は、イオン伝導度、溶解度などを考慮して適切に決まることができるし、例えば、0.1ないし4.0M、好ましくは0.5ないし2.0Mである。前記リチウム塩の濃度が前記範囲未満の場合、電池駆動に適したイオン伝導度の確保が難しく、これと逆に前記範囲を超える場合、電解液の粘度が増加してリチウムイオンの移動性が低下され、リチウム塩自体の分解反応が増加して電池の性能が低下することがあるので前記範囲内で適切に調節する。
【0119】
前記非水電解液に含まれる有機溶媒ではリチウム二次電池用電解液に通常使われるものなどを制限されずに使用することができるし、例えば、エーテル、エステル、アミド、線形カーボネート、環形カーボネートなどをそれぞれ単独で、または2種以上混合して使用することができる。
【0120】
前記エーテル系化合物は非環形エーテル及び環形エーテルを含むことができる。
【0121】
例えば、前記非環形エーテルでは、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルエチルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、エチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールメチルエチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジエチルエーテル、ポリエチレングリコールメチルエチルエーテルからなる群から選択される1種以上が使われることができるが、これに限定されるものではない。
【0122】
一例として、前記環形エーテルは1,3‐ジオキソラン、4,5‐ジメチル‐ジオキソラン、4,5‐ジエチル‐ジオキソラン、4‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、4‐エチル‐1,3‐ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、2,5‐ジメチルテトラヒドロフラン、2,5‐ジメトキシテトラヒドロフラン、2‐エトキシテトラヒドロフラン、2‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、2‐ビニル‐1,3‐ジオキソラン、2,2‐ジメチル‐1,3‐ジオキソラン、2‐メトキシ‐1,3‐ジオキソラン、2‐エチル‐2‐メチル‐1,3‐ジオキソラン、テトラヒドロピラン、1,4‐ジオキサン、1,2‐ジメトキシベンゼン、1,3‐ジメトキシベンゼン、1,4‐ジメトキシベンゼン、イソソルビドジメチルエーテル(isosorbide dimethyl ether)からなる群から選択される1種以上が使われることができるが、これに限定されるものではない。
【0123】
前記有機溶媒の中でエステルではメチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネイト、エチルプロピオネイト、プロピルプロピオネイト、γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン、γ‐カプロラクトン、σ‐バレロラクトン及びε‐カプロラクトンからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0124】
前記線形カーボネート化合物の具体例では、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート及びエチルプロピルカーボネートからなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物などが代表的に使われることができるが、これに限定されるものではない。
【0125】
また、前記環形カーボネート化合物の具体例では、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)、1,2‐ブチレンカーボネート、2,3‐ブチレンカーボネート、1,2‐ペンチレンカーボネート、2,3‐ペンチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート及びこれらのハロゲン化物からなる群から選択されるいずれか一つまたはこれらの中で2種以上の混合物がある。これらのハロゲン化物では、例えば、フルオロエチレンカーボネート(fluoroethylene carbonate、FEC)などがあり、これに限定されるものではない。
【0126】
前記電解質は前述した電解質塩と有機溶媒以外に添加剤として硝酸または亜硝酸系化合物をさらに含むことができる。前記硝酸または亜硝酸系化合物は負極のリチウム金属電極に安定的な被膜を形成し、充放電効率を向上させる効果がある。
【0127】
このような硝酸または亜硝酸系化合物では、本発明で特に限定しないが、硝酸リチウム(LiNO)、硝酸カリウム(KNO)、硝酸セシウム(CsNO)、硝酸バリウム(Ba(NO)、硝酸アンモニウム(NHNO)、亜硝酸リチウム(LiNO)、亜硝酸カリウム(KNO)、亜硝酸セシウム(CsNO)、亜硝酸アンモニウム(NHNO)などの無機系硝酸または亜硝酸化合物;メチルニトラート、ジアルキルイミダゾリウムニトラート、グアニジンニトラート、イミダゾリウムニトラート、ピリジニウムニトラート、エチルニトラート、プロピルニトラート、ブチルニトラート、ペンチルニトラート、オクチルニトラートなどの有機系硝酸または亜硝酸化合物;ニトロメタン、ニトロプロパン、ニトロブタン、ニトロベンゼン、ジニトロベンゼン、ニトロピリジン、ジニトロピリジン、ニトロトルエン、ジニトロトルエンなどの有機ニトロ化合物及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種が可能であり、好ましくは硝酸リチウムを使用する。
【0128】
前記電解質の注入は最終製品の製造工程及び要求物性に応じて、電気化学素子の製造工程中の適切な段階で行われることができる。すなわち、電気化学素子の組み立て前または電気化学素子の組み立て最終段階などで適用されることができる。
【0129】
前記正極と負極の間にはさらに分離膜が含まれることができる。
【0130】
前記分離膜は前記正極と負極を互いに分離または絶縁させ、正極と負極の間にリチウムイオンの輸送ができるようにするもので、多孔性、非伝導性または絶縁性物質からなることができるし、通常リチウム二次電池で分離膜として使われるものであれば特に制限されずに使用可能である。このような分離膜はフィルムのような独立的な部材であってもよく、正極及び/または負極に付加されたコーティング層であってもよい。
【0131】
前記分離膜では電解質のイオン移動に対して低抵抗でありながら電解質に対する含湿能力に優れるものが好ましい。
【0132】
前記分離膜は多孔性基材からなることができるが、前記多孔性基材は通常二次電池に使われる多孔性基材であればいずれも使用可能であり、多孔性高分子フィルムを単独でまたはこれらを積層して使用することができるし、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布またはポリオレフィン系多孔性膜を使用することができるが、これに限定されるものではない。
【0133】
前記多孔性基材の材質では、本発明で特に限定されず、通常電気化学素子に使われる多孔性基材であればいずれも使用可能である。例えば、前記多孔性基材は、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)などのポリオレフィン(polyolefin)、ポリエチレンテレフタレート(polyethyleneterephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutyleneterephthalate)などのポリエステル(polyester)、ポリアミド(polyamide)、ポリアセタール(polyacetal)、ポリカーボネート(polycarbonate)、ポリイミド(polyimide)、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)、ポリエーテルスルホン(polyethersulfone)、ポリフェニレンオキサイド(polyphenyleneoxide)、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylenesulfide)、ポリエチレンナフタレン(polyethylenenaphthalate)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、セルロース(cellulose)、ナイロン(nylon)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾ―ル(poly(p‐phenylene benzobisoxazole)及びポリアリレート(polyarylate)からなる群から選択された1種以上の材質を含むことができる。
【0134】
前記多孔性基材の厚さは特に制限されないが、1ないし100μm、好ましくは5ないし50μmである。前記多孔性基材の厚さ範囲が前述した範囲に限定されることではないが、厚さが前述した下限より薄すぎる場合は機械的物性が低下して電池使用中に分離膜が容易に損傷されることがある。
【0135】
前記多孔性基材に存在する気孔の平均直径及び気孔率も特に制限されないが、それぞれ0.001ないし50μm及び10ないし95%である。
【0136】
本発明によるリチウム二次電池は一般的な工程の巻取(winding)以外にもセパレーターと電極の積層(lamination、stack)及びフォールディング(folding)工程が可能である。
【0137】
前記リチウム二次電池の形状は特に制限されないし、円筒状、積層型、コイン型など多様な形状にすることができる。
【0138】
また、本発明は前記リチウム二次電池を単位電池として含む電池モジュールを提供する。
【0139】
前記電池モジュールは、高温安定性、長いサイクル特性及び高い容量特性などが要求される中大型デバイスの電源として使われることができる。
【0140】
前記中大型デバイスの例では、電池的モーターによって動力を受けて動くパワーツール(power tool);電気自動車(electric vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)、プラグ‐インハイブリッド電気自動車(plug‐in hybrid electric vehicle、PHEV)などを含む電気車;電気自転車(E‐bike)、電気スクーター(E‐scooter)を含む電気二輪車;電気ゴルフカート(electric golf cart);電力貯蔵用システムなどを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0141】
以下、本発明を理解しやすくするために好ましい実施例を提示するが、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇及び技術思想の範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当業者にとって自明であり、このような変形及び修正が添付された特許請求範囲に属することも当然である。
【0142】
製造例
[製造例1]ポリチオフェン酢酸の製造
2口丸底フラスコにチオフェン酢酸(3‐thiophene acetic acid)10gを蒸溜したメタノール50ml及び硫酸0.1mlを入れて80℃で24時間撹拌した後、メタノールを真空減圧を通じて取り除いて、ジエチルエーテル(diethyl ether)に溶かして蒸溜水で3回抽出(extraction)した。前記ジエチルエーテル層に硫酸マグネシウム(magnesium sulfate)を入れて水分を取り除いて、濾過して液相のチオフェンメチルアセテート(methyl thiopheneacetate)を製造した。
【0143】
前記チオフェンメチルアセテート2mlをクロロホルム5mlに溶解させた後、塩化鉄(FeCl3)8.7gを入れてクロロホルム48mlに溶かした後、0℃で24時間撹拌してポリチオフェンメチルアセテート(poly(methyl thiopheneacetate))を製造した。
【0144】
前記ポリチオフェンメチルアセテートを2M水酸化ナトリウム(sodium hydroxide)水溶液に入れて100℃で24時間撹拌してポリチオフェンナトリウムアセテート(poly(thiophene sodium acetate))を得た。
【0145】
前記ポリチオフェンナトリウムアセテートに1M塩化水素(hydrogen chloride)を入れて24時間撹拌した後、真空乾燥してポリチオフェン酢酸を製造した。
【0146】
[製造例2]ポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体の製造
製造例1のポリチオフェン酢酸0.5gを溶媒のジメチルホルムアミド45mlに溶解させた後、ポリエチレングリコール(M=400)2.8gを投入して混合溶液を製造した。この時、得られた反応物を水に沈澱させて純粋なポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体(M=20000)を収得し、本発明の化学式1を基準にしてnは0.7であった。
【0147】
実施例及び比較例
[実施例1]
硫黄及びカーボンブラック(スーパーP(Super‐P))を7:3の重量比でボールミルを使って混合した後、155℃の温度で35分間熱処理して硫黄‐炭素複合体を製造した。
【0148】
ジメチルホルムアミド4mlに製造例1で製造したポリチオフェン酢酸0.5g及びポリエチレングリコール(M=400)2.8gを含む混合溶液0.02g(溶媒を除いた物質基準)を溶解させた後、硫黄‐炭素複合体(S/CNT=7:3(重量比))2gを添加して24時間撹拌させ、これを100℃で15時間熱処理して正極活物質を製造した。
【0149】
[実施例2]
硫黄及びカーボンブラック(スーパーP(Super‐P))を7:3の重量比でボールミルを使って混合した後、155℃の温度で35分間熱処理して硫黄‐炭素複合体を製造した。
【0150】
ジメチルホルムアミド4mlに製造例1で製造したポリチオフェン酢酸0.5g及びポリエチレングリコール(M=400)2.8gを含む混合溶液0.06g(溶媒を除いた物質基準)を溶解させた後、硫黄‐炭素複合体2gを添加して24時間撹拌させ、これを100℃で15時間熱処理して正極活物質を製造した。
【0151】
[実施例3]
実施例1で製造した正極活物質90重量%、導電材でカーボンブラック(スーパーP(Super‐P))5重量%及びバインダーでスチレンブタジエンゴム/カルボキシメチルセルロース(SBR/CMC=7:3(重量比))5重量%を混合して正極スラリーを製造した。
【0152】
20μm厚さのアルミニウム集電体上に前記製造された正極スラリーを300μm厚さで塗布し、50℃で24時間乾燥して圧搾プレス(roll press)機器で圧搾して正極を製造した。この時、正極活物質のローディング量は4.0mAh/cmであったし、正極の気孔率は70%であった。
【0153】
前記製造された正極と45μm厚さのリチウム金属負極を対面するように位置させ、その間に気孔率45%のポリエチレン分離膜を介在した後、電解質100μlを注入してリチウム‐硫黄電池を製造した。
【0154】
この時、電解質では1,3‐ジオキソランとジメチルエーテル(DOL:DME=1:1(体積比))からなる有機溶媒に1M濃度のリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)と3重量%の硝酸リチウム(LiNO)を溶解させた混合液を使用した。
【0155】
[実施例4]
実施例1の正極活物質の代わりに同一含量の実施例2の正極活物質を使用したことを除いては、前記実施例3と同様の方法でリチウム‐硫黄電池を製造した。
【0156】
[比較例1]
正極活物質で硫黄80重量%、導電材でカーボンブラック(スーパーP(Super‐P))10重量%及びバインダーでポリフッ化ビニリデン10重量%を混合して正極スラリーを製造したことを除いては、前記実施例3と同様の方法でリチウム‐硫黄電池を製造した。
【0157】
[比較例2]
実施例1の正極活物質の代わりに硫黄‐炭素複合体の表面に下記化学式2で表される線形態のポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコール共重合体(M=20000、n=0.7)を含むシェル部を形成した正極活物質を使ったことを除いては、前記実施例3と同様の方法でリチウム‐硫黄電池を製造した。
【0158】
具体的に、ジメチルホルムアミドに下記化学式2のポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコール共重合体を3重量%で含む溶液に硫黄‐炭素複合体2gを添加して24時間加熱しながら撹拌して前記正極活物質を製造した。
【0159】
【化3】
【0160】
実験例1.正極活物質の熱重量分析結果
実施例1で製造された正極活物質と製造例2で製造されたポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体に対してTGA(Thermogravimetric analysis、Mettler‐Toledo、TGA2)分析を実施し、その結果を図3及び図4に示す。
【0161】
図3及び図4に示すように、TGA分析結果で同一なピークが観察されたので、実施例1で製造された正極活物質の場合、硫黄‐炭素複合体の表面にポリチオフェン酢酸‐ポリエチレングリコールグラフト共重合体が被覆されたことが分かる。
【0162】
実験例2.電池性能評価
実施例3、実施例4、比較例1及び比較例2で製造した電池に対して、充・放電測定装置(LAND CT‐2001A、武漢(Wuhan)社製品)を使って性能を評価した。
【0163】
具体的に、25℃で0.1Cの電流密度で放電と充電を3回繰り返した後、0.2Cの電流密度で放電と充電を3回進行した後、0.5C放電と0.3C充電を行いながら容量及び寿命特性を測定した。この時、得られた結果は図5及び図6に示す。
【0164】
図5及び図6を通じて、実施例による電池の場合、全般的な性能が比較例に比べて優れることを確認することができる。
【0165】
具体的に、図5を通じて、本発明によってシェル部を備えた正極活物質を含む実施例3及び4がシェル部を含まない従来の正極活物質を使った比較例1に比べて電池の全般的な性能が優れることを確認することができる。また、実施例3及び4はシェル部の重量を異にした場合、実施例4が実施例3に比べて容量特性が全般的に優れるだけでなく容量の減少度合いも少ないことが分かる。
【0166】
また、シェル部の含まれる高分子の形態を異にした実施例3及び比較例2の結果を比べてみると、架橋構造を含む高分子を含む実施例3の電池の場合、線形の高分子を含んで架橋構造を形成していない比較例2の電池に比べて容量が高いだけでなく、充・放電サイクルの間の容量維持率も優れることを確認することができる。
【0167】
このような結果より、本発明による正極活物質を含むリチウム‐硫黄電池の場合、正極活物質の反応性が改善されるだけでなく、リチウムポリスルフィド湧出が抑制されることによってリチウム‐硫黄電池の容量特性が優れると同時に寿命特性も向上されることを確認することができる。
【符号の説明】
【0168】
10:リチウム‐硫黄電池用正極活物質
11:コア部
13:シェル部
図1
図2
図3
図4
図5
図6