(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】生体細胞によってコロニー形成される生体適合性ポリマーからなる3Dスキャフォールド、及びその製造
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20231117BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M3/00 Z
(21)【出願番号】P 2022530944
(86)(22)【出願日】2020-11-20
(86)【国際出願番号】 DE2020100986
(87)【国際公開番号】W WO2021104571
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-26
(31)【優先権主張番号】102019132214.6
(32)【優先日】2019-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522206755
【氏名又は名称】セルブリックス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100093997
【氏名又は名称】田中 秀佳
(72)【発明者】
【氏名】ルッツ クローケ
(72)【発明者】
【氏名】アレキサンダー トーマス
(72)【発明者】
【氏名】トビアス ラム
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/042671(WO,A1)
【文献】特表2017-536113(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0175410(US,A1)
【文献】Xia, C. et al.,"3D microfabricated bioreactor with capillaries",Biomed. Microdevices,2009年,Vol. 11,pp. 1309-1315
【文献】Kuo, A. P. et al.,"High-Precision Stereolithography of Biomicrofluidic Devices",Adv. Mater. Technol.,2019年01月03日,Vol. 4; 1800395,pp. 1-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体細胞によってコロニー形成される生体適合性ポリマーからなる3Dスキャフォールド(1)を製造する方法において、前記3Dスキャフォールド(1)は少なくとも部分的に上方が覆われた中空スペース(2)を有し、次の各ステップ、
(a)リソグラフィ3D印刷法によって生体適合性ポリマーから3Dスキャフォールド(1)が構築されること、及び、
(b)生体細胞による前記3Dスキャフォールド(1)でのコロニー形成のために、少なくとも部分的に上方が覆われた前記中空スペース(2)に生体細胞を含む懸濁液が充填されること、
を有し、
前記生体適合性ポリマーは、バイオポリマーを、光反応性基を導入することで光重合可能又は光架橋可能な出発物質とすることによって得られ、前記バイオポリマーは、プロテイン、DNA、RNA、炭水化物及び炭水化物誘導体、コラーゲン、フィブリン、アルギン酸、ゼラチン、ヒアルロン酸からなる群から選択される方法。
【請求項2】
前記3Dスキャフォールド(1)の構築がステレオリソグラフィ3D印刷法によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップ(a)での前記3Dスキャフォールド(1)の構築は、次のステップ、
(i)光重合可能又は光架橋可能な物質が存在する焦点面に電磁放射が焦点合わせされることによって光重合可能又は光架橋可能な物質が硬化されること、
によって行われる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
別の焦点面に別の電磁放射が焦点合せされることによって前記ステップ(i)が反復される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップ(i)が反復されるときに別の光重合可能又は光架橋可能な物質が使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
生体細胞を含む懸濁液の充填は前記3Dスキャフォールド(1)にある充填開口部(3)を通して行われる、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップ(a)と前記ステップ(b)の間で前記3Dスキャフォールド(1)が乾燥される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップ(b)の後に生体細胞が3D細胞培養構造体をなすように培養される、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記3D細胞培養構造体が別の細胞、ウィルス、バクテリア、酵素、又は作用物質によって浸透される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の方法に基づいて得られる、生体細胞によってコロニー形成される3Dスキャフォールド(1)。
【請求項11】
1つ又は複数の排出開口部(4)を有する、請求項10に記載の生体細胞によってコロニー形成される3Dスキャフォールド(1)。
【請求項12】
上方が覆われた前記中空スペースにカラム(5)、グリッド、又は横支柱を有する、請求項10又は11に記載の生体細胞によってコロニー形成される3Dスキャフォールド(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理学的アーキテクチャが非常に近似する3D細胞培養構造体をなすように生体細胞を培養することができる、生体細胞によってコロニー形成される生体適合性ポリマーからなる3Dスキャフォールドに関する。さらに本発明は、生体細胞によってコロニー形成される3Dスキャフォールドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、指向性のある方式で3D細胞培養を製造する手段はわずかしか存在しない。現在までのところ唯一の手段は、スフェロイドもしくはマイクロ流体プラットフォームの製作であり、もしくは細胞が中に懸濁しているゲルの注型である。それに対して本発明による方法により、明らかにいっそう生理学的アーキテクチャに近似する、特別な三次元アーキテクチャで生体細胞を培養する手段が初めて成立する。
【0003】
スフェロイドは円形の形態を有する、細胞からなる稠密なパッケージである。それにはいかなる生理学的形態も欠如する。それに加えて、利用者が並行して複数の細胞型を用いて1つのオブジェクトで作業を進めようとする場合、所望の細胞型からなるスフェロイドを形成する以外の道は残されていない。しかしその場合、スフェロイドの形態は非指向性であり、スフェロイド中の細胞のランダムな分布をもたらす。すなわち、このようなプロセスによって細胞を互いに離散して位置決めすることはできない。このようなランダムな分布は、たとえばこれを用いてウィルス、バクテリア、医薬品等の物質を用いた実験を行おうとする場合に、モデルの情報提供力を低減させる。生理学的アーキテクチャが実現されないので、たとえば体内でのin vivo挙動に関する直接的な推測を引き出すこともほとんどできない。これに加えて、身体の細胞外マトリックス(ECM)も同じく欠如している。ECMと細胞との間の相互作用も、細胞のバイオロジーに同じく有意な影響を及ぼす。細胞にとって重要なのは、自身の馴染んだ生理学的ニッチ(niche)に相応しい環境を見出すことにある。それが該当しないケースでは脱分化、壊死、或いは単に細胞の活動停止がただちに起こり得る。さらにECMは、たとえば剛性や多孔度などの生理学的なパラメータに関して、in vivo条件に類似していなければならない。最後に、形態そのものも決定的なファクターである。生理学的環境の形態も同じく機能に影響を及ぼす。たとえば、比較的大きい組織への供給が保証されるべき場合には、血管新生が保全されていなければならない。血管新生の欠如に基づいて組織が不十分にしか供給を受けられないと、壊死したり機能を失ったりする恐れがある。
【0004】
従来の手段によっては、上に挙げたこれらの条件を不十分にしか再現できず、もしくはまったく再現できない。それに対して本発明による方法は、複雑で生物学的な細胞アーキテクチャを創出する手段を提供する。ここに記載している方法は、特に、リソグラフィ3D印刷やバイオプリンティングへのアクセスを有さない利用者のために想定されるべきものである。
【0005】
特許文献1には、複数のバイオインク又は細胞型を用いながら並行して印刷プロセスで作業を進めることを可能にする3D印刷法が記載されている。このようなテクノロジーは、主として、第1のステップでそこに記載されているオブジェクトを作成し、これに第2のステップで利用者により生体細胞によってコロニー形成させることができるようにするために適用される。換言すると、特許文献1に記載されている方法は細胞スキャフォールドのための生産基盤を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】欧州特許出願公開第3018531A1号明細書
【発明の概要】
【0007】
細胞培養構造体を製造するために従来技術で知られている方法の欠点に基づき、本発明の課題は、生理学的アーキテクチャとの高い類似性を実現することができ、それによってこのような組織でたとえばバクテリア、ウィルス、又は作用物質の検査を行うことができる、生体細胞によってコロニー形成される3Dスキャフォールドを製造することにある。生体細胞によってコロニー形成される3Dスキャフォールドを製造する方法を提供することも意図される。
【0008】
本発明の課題は、主請求項1に記載されている、生体細胞によってコロニー形成される生体適合性ポリマーからなる3Dスキャフォールドを製造する方法、及び主請求項10に記載されている、生体細胞によってコロニー形成される3Dスキャフォールドによって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項2から9,11及び12に記載されている。
【0009】
すなわち本発明は、1つの実施形態では、生体細胞によってコロニー形成される生体適合性ポリマーからなる3Dスキャフォールドを製造する方法に関し、3Dスキャフォールドは少なくとも部分的に上方が覆われた中空スペースを有する。本発明による方法は次の2つのステップに下位区分される:
(a)リソグラフィ3D印刷法によって生体適合性ポリマーから3Dスキャフォールドが構築されること;及び、
(b)生体細胞による3Dスキャフォールドでのコロニー形成のために、少なくとも部分的に上方が覆われた中空スペースに生体細胞を含む懸濁液が充填されること。
【0010】
リソグラフィ3D印刷法による生体適合性ポリマーから3Dスキャフォールドの構築は、素材やアーキテクチャが人間の身体の模倣されるべき構造に類似するように、生体適合性ポリマーを生理学的形態に印刷するという可能性を提供する。本発明では、これに引き続いて初めて生体細胞をコロニー形成のために3Dスキャフォールドに入れることができるので、どのような細胞型の3D細胞培養構造体でも構築することが可能である。
【0011】
「生体適合性ポリマー」という表現は、1つ又は複数の生体適合性ポリマーからなるマトリックスによって3Dスキャフォールドが構築されることであると理解されるのが好ましい。3Dスキャフォールドが生体適合性ポリマー以外の別の成分を有することも排除されないが、3Dスキャフォールドが生体適合性ポリマーのみで成り立つことも可能である。
【0012】
本発明による方法の1つの実施形態では、3Dスキャフォールドの構築がステレオリソグラフィ3D印刷法によって行われるのが好ましい。ステレオリソグラフィ3D印刷法とは、層ごとの硬化によって、3Dスキャフォールドの構造が次第に製作されていく印刷法として理解される。
【0013】
本発明による方法の1つの実施形態では、ステップ(a)での3Dスキャフォールドの構築が次のステップによって行われるのが好ましい:
(i)光重合可能又は光架橋可能な物質が存在する焦点面に電磁放射が焦点合わせされることによって光重合可能又は光架橋可能な物質が硬化されること。
【0014】
このとき光重合可能又は光架橋可能な物質は液体として、たとえば溶剤に溶けた状態で、存在するのが好ましい。ここでは以下において、光重合可能又は光架橋可能な液体という表現を用いる。
【0015】
このときステップ(i)は、別の焦点面に別の電磁放射が焦点合せされることによって反復されるのが好ましい。ステップ(i)の反復のときに、別の光重合可能又は光架橋可能な物質が使用されるのが好ましい。
【0016】
ここでは「光重合可能な」とは、相応の物質が電磁放射の作用によって、及び場合により光開始剤の存在のもとで、重合可能であることを意味するものとする。「光架橋可能な」とは、オリゴマー又はポリマーが電磁放射の作用によって、及び場合により光開始剤の存在のもとで、架橋することができることを意味するものとする。
【0017】
本発明による方法の1つの実施形態では、ステップ(a)が次の各方法ステップに下位区分されるのが好ましい:
(I)光重合可能又は光架橋可能な液体が反応容器に入れられること、
(II)液体で充填された反応容器の領域の内部に位置する焦点面に合わせて電磁放射が焦点合わせされること、
(III)電磁放射によって反応容器の中で焦点面の層に重合又は架橋した構造が生成されること、
(IV)別の光重合可能又は光架橋可能な液体が反応容器に入れられ、それにより以前に生成された重合又は架橋した構造が少なくとも部分的に別の光重合可能又は光架橋可能な液体で覆われること、
(V)別の液体で充填された反応容器の領域の内部に位置する別の焦点面に合わせて別の電磁放射が焦点合わせされること、
(VI)別の電磁放射によって反応容器の中で別の層で別の重合又は架橋した構造が生成され、別の重合又は架橋した構造は以前に作成された重合又は架橋した構造の上に直接的に配置されて、これと結合されること、
(VII)3Dスキャフォールドが作成されるまで、そのつど別の光重合可能又は光架橋可能な液体によってステップ(IV)から(VI)が反復されること。
【0018】
ステップ(V)における別の焦点面は、少なくとも、すでに生成されている重合又は架橋した構造に関して、ないしは重合又は架橋しているこの構造の層に関して、第1の焦点面と相違しているのが好ましい。
【0019】
方法ステップ(VI)で生成される重合又は架橋した構造の結合は、共有結合による結合であるのが好ましい。しかしながら、たとえば物理的な相互作用を基礎とする非共有結合も可能である。
【0020】
したがって、光重合可能又は光架橋可能な液体の重合又は架橋が行われるそれぞれ異なる焦点面により、3Dスキャフォールドの層ごとの構築が実現される。このとき、少なくとも部分的に上方が覆われた中空スペースを3Dスキャフォールドに形成することが可能である。さらに、アンダーカットやオーバーハングのある構造を形成することもできる。特定の焦点面ないし層での光重合可能又は光架橋可能な液体の重合又は架橋を、その下にすでに重合又は架橋した材料が配置されておらず、まだ重合又は架橋していない液体しか配置されていない場合にも、行うことができるからである。焦点面の外部に存在する、光重合可能又は光架橋可能な液体の重合又は架橋は起こらない;むしろ、焦点面の内部に位置する、光重合可能又は光架橋可能液体だけが重合又は架橋する。それにもかかわらず、焦点面の外部に存在する液体は、焦点面に存在する液体を一時的に支持するための役目を果たし、そのために固体の支持構造が必要となることがない。
【0021】
使用される光重合可能又は光架橋可能な液体のうちの1つ又は複数は、生体細胞を含むことができる。電磁放射の照射の結果として重合又は架橋が生じると、液体に含まれる細胞が相応のポリマーへと共に埋め込まれる。しかしながら本発明では、リソグラフィ3D印刷法では生体細胞が使用されないのが好ましい。
【0022】
本発明の方法により、たとえば細胞・細胞・相互作用、器官発生、疾患、器官機能などを表現して研究するために、複雑な生物学的な3D細胞培養構造体をモデルとして作成することができる。このような種類の3D細胞培養構造体は、従来型の細胞培養と比べたとき、特に複数の細胞型の連携作用のモデル化が対象となる場合に、明らかな利点を有する。というのも細胞・細胞・相互作用の複雑性、生体バリアの機能、疾患や器官のモデル化などは、従来型の二次元の細胞培養によっては十分に反映することができないからである。
【0023】
これに加えて本発明による方法は、ミニチュア化されたモデルの作成を特別に簡易な方式で可能にする。このような種類のミニチュア化されたモデルは、従来は部分的に手作業で構築されていた。そのために必要なコストは非常に高い;しかも長年の経験が必要とされる。
【0024】
最後に、本発明による方法により、同じ3D細胞培養構造体の異なるサンプルの高い再現性を保証することができる。さらに3Dスキャフォールドの利用は、3D細胞培養の指向的な構築を可能にする。したがって本発明の方法により、従来技術から知られている他の方法と比べて製造が迅速化されるばかりでなく、むしろ、作成される3D細胞培養構造体が常に同じ品質も有している。このように高い再現性は、バイオテクノロジーでは特別に好ましい。というのも新しい医薬製品の分析と開発に際して、常に同じに保たれる三次元の細胞培養は開発コストを大幅に削減するからである。それに対して、このように複雑な三次元の構造が手作業で構築されれば、個別的な変動を避けることができない。しかしそれに伴って、再現可能な試験結果を得ることは事実上不可能である。それに対して本発明による方法は、再現可能な試験結果の作成に卓越して適した3D細胞培養構造体を提供する。
【0025】
反応容器として、本発明による方法では、市販のマイクロ滴定プレートのキャビティ(いわゆるウェル)(たとえば6個、12個、24個、48個、96個、384個、又は1536個のキャビティを有するマイクロ滴定プレート)、細胞培養瓶、又はペトリ皿を使用することができる。
【0026】
本発明の方法によって製造される3Dスキャフォールドは均質の材料から構築されていてよく、したがって単一の型のポリマーだけを含むことができる。しかしながら1つの態様では、光重合可能又は光架橋可能な1つの液体と、別の光重合可能又は光架橋可能な液体のうちの少なくとも1つとは、それぞれ異なる液体である。それにより、異なるポリマーから異質的に構築された3Dスキャフォールドを作成することが可能となる。このようにして、3Dスキャフォールドの内部で相違するポリマー構造を具体化することができる。たとえば少なくとも部分的に上方が覆われた中空スペースは、3Dスキャフォールドの外側のスキャフォールドのポリマー構造とは相違するポリマー構造で包囲されていてよく、それは、たとえば3Dスキャフォールドのマトリックスに生体細胞を入れることを可能にする比較的高い多孔度を有するためである。さらに、少なくとも部分的に上方が覆われた中空スペースは、一方では中空スペースの覆いを支持するために、及び他方では中空スペースの内部の表面への生体細胞の付着を可能にするために、カラム、グリッド、又は横支柱を有することができる。3Dスキャフォールドの内部でのポリマー構造の特性、又はそれぞれ異なるポリマー構造の特性には、1つ/複数の光重合可能又は光架橋可能な液体における重合されるべきモノマーの選択によって、又は架橋するべきポリマーの選択によって、影響を及ぼすことができる。重合可能又は架橋可能な単位の分子量が低いほど、通常、3Dスキャフォールドの相応のマトリックスの間隙又は気孔はいっそう小さくなる。しかしそれは最後に挙げたケースでは、ポリマーにおける架橋可能な単位の個数及びこれに伴う架橋度にも強く依存する。架橋度が高いほど、通常、3Dスキャフォールドの相応のマトリックスの間隙又は気孔はいっそう小さくなる。原則としてリソグラフィ3D印刷法により、高い複雑性又は多様性を有する3Dスキャフォールドを得るために、各々の層で相違するポリマー溶液又はモノマー溶液を使用することが可能である。
【0027】
生体適合性ポリマーとは、生物学的なポリマー又は生物学的に適合性のあるポリマーであると理解される。ここでは「生物学的に適合性のある」とは、それが生体細胞の寿命に影響を及ぼすことがなく、すなわち、特に生体細胞に対して毒性の作用がないことを意味するものとする。
【0028】
本発明による方法の別の実施形態では、3Dスキャフォールドは少なくとも可視光の領域で透過性のある3Dスキャフォールドである。このようにして、生体細胞によるコロニー形成を視覚的に追跡して記録することができる。
【0029】
光重合可能又は光架橋可能な液体中の光重合可能又は光架橋可能な物質は、別の光反応性基と共有結合することができる光感応性基を有する物質であるのが好ましい。
【0030】
1つの態様では光反応性基はアクリル基であり、これによって重合又は架橋が惹起される。すなわち光重合可能又は光架橋可能な物質はアクリル化合物であるのが好ましく、たとえば次の群に属するアクリル化合物である:メタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ブチルアクリレート、トリメチロールプロパンアクリレート、トリアクリレートアクリレート、及び一般にポリアクリレート(PA)。
【0031】
重合又は架橋するべき物質はポリマー、オリゴマー、又はモノマーであってよい。これは炭素ベースの物質であるのが好ましい。モノマーの場合には光重合が行われる。ポリマー又はオリゴマーの場合には光架橋が行われるのが好ましい。
【0032】
重合するべきモノマーとして、たとえば次のものを利用することができる:アクリルアミド、塩化ビニル、エチレン、プロピレン、イソプレン、カプロラクタム、あらゆるアミノ酸、(デ)オキシリボヌクレオチド、グルコース、ないしあらゆる単糖類、並びに上に挙げたアクリレート。
【0033】
オリゴマー又はポリマーとして、次のものを利用することができる:ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリケトン(PK)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポチメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポチエチレンテレフタレート(PET)、及びポリウレタン(PU)。さらに、シリコーン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)などの合成ポリマーや、メラミン樹脂もしくはメラミン・ホルムアルデヒド・樹脂などの樹脂も出発物質として適している。さらにはプロテイン、DNA、RNA、炭水化物及び炭水化物誘導体、コラーゲン、フィブリン、アルギン酸、ゼラチン、ヒアルロン酸、又はポリ乳酸などのバイオポリマーが出発物質として適している。前掲のポリマーに代えて、これらのポリマーのモノマー前駆体又はオリゴマー前駆体も、これらを固体又は液体の凝集状態で安定した方式で提供することができる限りにおいて、それぞれ出発物質として利用することができる。出発物質にたとえばアクリル基などの光官能性基を入れることで、これが光重合可能又は光架橋可能となる。出発物質のさまざまな分子の間でアクリル基が放射誘起結合することで、重合又は架橋したマトリックスが作成される。
【0034】
光重合可能なPDMSがマトリックスとして、ないしは被覆物質として利用される場合、このマトリックスに埋め込まれた細胞間でのガス交換が可能である。すでに述べたとおり、さまざまな被覆物質ないしマトリックスを利用することができる。たとえばPDMSに代えて、又は良好な生体適合性を有するその他のマトリックスに代えて、安定したプラスチックを残りのマトリックスのために利用することができ、そのようにして、細胞成長を可能にする安定性の低いマトリックスが内部に存在する、外部に対して安定したオブジェクトを生成する。
【0035】
光反応性基が付加された出発物質は液体の状態で利用され、さまざまに異なる粘性が可能である。すなわち本件で説明している方法は、特定の粘性を有する光重合可能又は光架橋可能な液体に限定されるのではなく、低粘度の液体を利用することもできる。ニュートン液体でも非ニュートン液体でも利用することができる。
【0036】
液体は溶液であってよく、又は、たとえば懸濁液などのコロイド分散した混合物であってよい。このとき液体は、水性から油性にまで至る特性を有することができる。このことは特に、出発物質とその粒子サイズの選択によって規定される。
【0037】
さらに、光反応性基を担う出発物質の光重合又は光架橋を実現できるようにするために、本方法の枠内で適用される電磁放射の選択された波長のもとでラジカルを形成するラジカル形成剤(いわゆる光開始剤)が利用される。
【0038】
適当なラジカル形成剤は、たとえばビオラントロンやイソビオラントロンなどのアントロン誘導体、フルオレセイン、ルブレン、アントラジン誘導体、テトラゼン誘導体、ベンズアントロン、ベンズアントロニル、エオシン、レボリン酸誘導体、ホスフィン誘導体、モノ-アシル-ホスフィン及びビス-アシル-ホスフィン、メタロセン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、キサントン、キノン、ケトン誘導体、ヒドロキシケトン、アミノケトン、過酸化ベンゾイル、ピリジン塩、フェニルグリオキシル酸、及び/又はヨードニウム塩である。
【0039】
光重合又は光架橋を特別に好適な方式で進行させるために、ラジカル形成剤に追加して、さらにビニルマクロマー及びアミンベースの共開始剤が利用されるのが好ましい。共開始剤としては、たとえばアスコルビン酸、及びメチルジエタノールアミン又はテトラエチルアミンなどの第三級アミン誘導体が適している。
【0040】
1つの態様では、光重合可能又は光架橋可能な液体はチオ誘導体を有する。好適なチオ誘導体は、ジチオトレイトール、単官能性システイン、二官能性ペプチド、及びこれらに類似する化合物である。
【0041】
これに加えて光重合可能又は光架橋可能な液体に、深い液体層の光重合又は光架橋を阻害する物質を添加することができる。このようにして焦点面の外部の液体の溶液が、その上に位置する焦点面の照射領域内にあったとしても、液体状のままに保たれる。このことは、重合が起こる波長(重合波長)のもとでの物質の吸収によって機能する。焦点面で捕捉が行われるので、さらに深い層への重合波長の侵入が可能でなくなる。所望の波長で吸収をする着色剤などのすべての物質が適している。
【0042】
これに加えて1つの態様では、光重合可能又は光架橋可能な液体は、及び/又は別の光重合可能又は光架橋可能な液体は、及び/又は光重合可能でなくてもよいその他の液体は、温度感受性のゲル形成剤を有することが可能である。特に、インバース温度感受性(リバース温度感受性とも呼ばれる)のゲル形成剤の利用が意図される。このようなゲル形成剤は温度の上昇に伴って硬くなる。反応容器を加熱することで反応液が硬化し、当初は準安定ゲルだけを形成する。液体を同時に光重合又は光架橋させたくないときは、3Dスキャフォールドを後続して冷却することで、準安定ゲルを再び液化してポンプ排出することができる。通常の温度感受性ゲル形成剤では、適用されるべき温度状況がちょうど逆になる。たとえば必要時に支持構造を作成することができ、それによって懸架構造を生成可能である。それに対して、準安定ゲルが適当な波長の電磁放射で少なくとも部分的に照射されると光重合が起こり、それにより、準安定ゲルがこの領域で安定ゲルないしポリマーへと変換される。
【0043】
換言すると、温度感受性のある、特にインバース温度感受性のあるゲル形成剤によって、及び反応空間の温度管理によって、懸架部分やアンダーカット又は中空スペースをいっそう簡易に扱って作業を行うことができる。この態様においても、液体の構造部を支持部として利用して作業を行うことができる。
【0044】
これに加えて温度勾配を意図することが可能であり、それにより温度感受性のある、特にインバース温度感受性のある、ゲル形成剤が添加された液体のすべての領域で準安定ゲルが生じるわけではなくなる。このような勾配を利用して、いっそう複雑な構造を生成することができる。
【0045】
前述した個々の成分は、光重合可能又は光架橋可能な液体中に個別の物質として含まれていてよい。その代替として、ゲル形成のために好ましく利用される物質ないし基を、単一のポリマーの中で相応の合成によって具体化することも可能である。そうすれば個々の成分からなる混合物に代えて、このような種類のポリマーがさまざまな官能基を有することになり、これらすべてが光重合又は光架橋のために必要とされ、ないしは、好ましく利用できる官能基をそれ自体のうちに兼ね備えることになる。さらに、光重合又は光架橋のために好ましく利用される官能基ないし基のうちのいくつかのみをポリマーに付与し、光重合又は光架橋のために好ましく利用されるべきその他の官能基ないし基を、光重合可能又は光架橋可能な液体の別個の個別成分に混合することも考えられる。
【0046】
ゲル形成剤の使用を通じての中空スペースの形成の代替又は追加として、ポリマーを消化するための酵素を利用することもできる。その原理は次のとおりである:中空スペース/アンダーカット(たとえばチャネルシステム)を有する3Dスキャフォールドが固体の物体として印刷され、それは、後に(すなわち印刷の完了後に)正しい酵素の付与によって分解することができる犠牲材料によって、すべての中空スペースが印刷時に充填されることによる。犠牲材料は、たとえば消化酵素の添加によって消化される、消化可能なポリマーである。このことは、ステレオリソグラフィ印刷法によって中空スペースを創出するための1つの巧みな戦略である。たとえばヒアルロニダーゼ(消化酵素)はヒアルロン酸(犠牲材料)を消化することができるので、ヒアルロニダーゼが使用された3Dスキャフォールドの個所で中空スペースが生じることになる。このような原理は、官庁ファイル番号DE102019200792.9を有する特許出願に記載されている。その代替として、中空スペース/アンダーカットを創出するために、光重合可能又は光架橋可能な液体中にフォトブロッカーを利用することができ、フォトブロッカーが、光重合可能又は光架橋可能な液体の硬化深さを制限する。
【0047】
1つの態様では、別の光重合可能又は光架橋可能な液体は、以前に反応容器の中にあった光重合可能又は光架橋可能な液体(これはたとえば1つの光重合可能又は光架橋可能な液体、又は別の光重合可能又は光架橋可能な液体であり得る)が反応容器から取り除かれたときに初めて反応容器に入れられる。そのために、たとえばすでに使用された光重合可能又は光架橋可能な液体を反応容器からポンプ排出して新たな別の光重合可能又は光架橋可能な液体を反応容器へポンプ注入するポンプが設けられることが可能である。単一のポンプに代えて、このような種類の工程のために2つ又はそれ以上の異なるポンプを使用することもできる。
【0048】
1つの態様では、3Dスキャフォールドを、本発明による方法のステップ(a)での製造プロセスの途中又は最後に短い波長(たとえばUV領域、すなわち380nm以下)の電磁放射により照射し、そのようにして滅菌を実現することができる。このような種類のUV滅菌は基本的に周知である。
【0049】
1つの態様では、反応容器の中に支持プレート又は支持構造が配置され、第1の重合又は架橋した構造がこれに結合される。このような種類の支持プレートの利用が好適なのは、生成された3Dスキャフォールドが後に反応容器自体の中で検査されるのでなく、反応容器から取り出されるべき場合である。生成された3Dスキャフォールドに液体や気体を後続して供給することを可能にするために、支持プレートにたとえばねじ端子(たとえばDINねじ端子)が存在していてよい。このような種類のねじ端子を製造方法の枠内で3Dスキャフォールドのマトリックスに刻設し、すなわち、このようなねじ端子をそこでマトリックスに生起することも可能である。このような種類のねじ端子をマトリックスに作成することは、支持プレートが利用されるか否かに関わりなく行うことができる。
【0050】
1つの態様では、光重合可能又は光架橋可能液体で(特に第1又は別の光重合可能又は光架橋可能な液体で)充填された反応容器の領域の内部に位置する焦点面への電磁放射の照射によって第1の重合又は架橋した構造が生成されるステップの前に支持プレートが生成され、それは、支持プレートを有する、又はこれを形成する、重合又は架橋した支持構造が構成されることによる。すなわちこの態様では、本来の重合又は架橋した構造だけでなく、支持構造も重合反応又は架橋反応によって生成される。
【0051】
支持構造は、支持プレートと反応容器の底面との間に間隔が形成されるような形態を有することができる。それにより、本来の重合反応又は架橋反応の焦点面が、反応容器の底面に対して比較的広い間隔を有する。特にその場合、形成された第1の重合又は架橋した構造が、反応容器の底面から比較的広い間隔を有する。その場合、必要な重合可能又は光架橋可能な液体を特別に容易に反応容器から吸い出すことができる。
【0052】
1つの態様では、1つ及び/又は別の電磁放射を生成するための役目を果たす、電磁放射のための発生源(放射源)と、反応容器との間に、反応容器におけるそれぞれの焦点面に合わせて電磁放射を焦点合わせするための役目を果たす光学システムが配置される。このとき1つの態様では、焦点面を反応容器の内部で変更するために、この光学システムの再焦点合わせを行えることが意図される。このような種類の再焦点合わせは、たとえば放射源に対する光学システムの間隔の変更によって実現することができる。このとき、光学システムの相応の運動を仲介するために、コンピュータ制御式のステッピングモータが設けられていてよい。光学システムは、たとえば光学レンズのシステムであってよく、又は-設計的に特別に簡素に行われるケースでは-単一の焦点合わせレンズであってよい。
【0053】
1つの態様では、一方の側における、反応容器又は反応容器の中に配置された支持プレートと、他方の側における、1つ又は別の光放射の生成のための役目を果たす放射源との間の相対運動を実行することも可能である。たとえば反応容器の運動、反応容器の中に配置される支持プレートの運動、又は放射源の運動によって惹起することができる、このような種類の相対運動によって、反応容器の内部の焦点面を同じく変更することができる。したがってこの態様では、任意選択で利用することができる光学システムの再焦点合わせは必要ない。それにより、光学的な誤調節の危険性を低減することができる。
【0054】
別の方法態様では、1つ及び/又は別の電磁放射が、光重合可能又は光架橋可能な1つの液体及び/又は光重合可能又は光架橋可能な別の液体の内部のそれぞれの焦点面における定義された事前設定可能な領域に合わせて案内される。すなわち、光重合可能又は光架橋可能な液体に当たり、その個所でポリマーないしゲル(マトリックス)の形成のために液体を重合又は架橋させる役目を果たす、固有の放射パターンを設定することができる。このような種類の放射パターンは、たとえばマスクや絞りを利用することで、或いはパルス化された放射を利用することで、もしくは放射信号のデジタル変調によって、生成することができる。放射が当たる光重合可能又は光架橋可能な液体の領域で、重合又は架橋が起こる。したがって、放射が当たらないその他の領域では、光重合可能又は光架橋可能な液体が重合又は架橋していない状態のままに保たれる。それによって放射が、重合又は架橋した構造の印刷が行われる領域を定義する。このような種類の光支援式の印刷によって、先行技術から知られる方法で該当するよりもはるかに高い解像度が可能である。このとき解像度は、適用される放射の波長に依存する。この解像度は、通常適用される長い波長の場合でさえ、先行技術から知られる従来式の方法によって具体化可能である解像度よりも良好である。放射源を正確に焦点合わせすることができるほど、結果として生じる解像度がいっそう高くなる。たとえばレーザによって、非常に高い解像度を実現することができる。
【0055】
電磁放射は、必要時には、ミラーを介してそれぞれの焦点面に合わせて案内することができる。
【0056】
そのつど選択される放射パターンを、たとえばコンピュータプログラムによって提供することができる。たとえば利用者が、製造されるべき3DスキャフォールドをCADプログラムによって作成することが考えられる。そして、こうして作成されたデジタルオブジェクトが、適当なコンピュータプログラムによって個々の照射面へと分解される。さらに各々の平面に、ないしは各々の平面のそれぞれ相違する場所に、特定の光重合可能又は光架橋可能な液体が割り当てられる。これらの情報についてプリンタのための制御情報が作成され、これを用いて、記載されている方法が実施される。このような制御情報は、いつ、どのような光重合可能又は光架橋可能な液体が反応容器に入れられなければならないかを設定する。さらにこのような制御情報は、いつ、どのような照射面の画像が反応容器の中のそれぞれの焦点面に投影されるべきかを設定する。そして、このようにして事前にコンピュータで作成された3Dスキャフォールドを、現実の3Dスキャフォールドへと転写することができる。
【0057】
1つの態様では、1つを超える重合又は架橋した構造が同一の層で(すなわち同一の焦点面で)生成される。そのためにまず、第1の光重合可能又は光架橋可能な液体の重合又は架橋が行われる。引き続いて、第1の光重合可能又は光架橋可能な液体が反応容器から取り出され、第2の光重合可能又は光架橋可能な液体が反応容器に入れられる。そして、反応容器の中の焦点面の内部にある領域のうち、以前に照射されておらず、したがってまだ重合又は架橋した構造が存在していない領域だけが照射される。それにより、それぞれ相違するマトリックスを同一の層に作成することができる。したがって、重合又は架橋した複数の構造が同一の層に形成され、それにより異質的な層が結果として生じる。引き続き、第2の光重合可能又は光架橋可能な液体を反応容器から取り出して、別の光重合可能又は光架橋可能な液体を反応容器に入れることができる。この別の光重合可能又は光架橋可能な液体の充填レベルは、以前に形成された層が完全に覆われるようなレベルに合せることができる。そして焦点面を変位させて、作成されるべき3Dスキャフォールドの別の層を、相応の重合又は架橋した構造によって構築することができる。このとき、作成される3Dスキャフォールドのいくつかの層が均質的に存在し(単一の型の重合又は架橋した構造を含む)、別の層は異質的に存在し(相違する型の重合又は架橋した構造を含む)、層ごとの個々の構造の個数は制限されないことが原則として可能である。実際には、層ごとに重合又は架橋した単一の構造のほか、重合又は架橋した2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、又は10の構造を有する異質的な組成の層が有意義であることが判明している。
【0058】
1つの態様では、少なくとも第1の層の第1の構造が、ただし特に第1の層の各々の構造が、2つの相違する方向から第1の放射によって照射される。このとき、これら両方の相違する方向は互いに反対向きであるのが好ましい。2つの相違する方向からのこのような種類の照射によって、反応容器の内部の表面の上での、ないしは反応容器の中に配置される支持プレートの上での、第1の層の特別に固定的な定着が実現される。それにより、反応容器ないし反応容器の中の支持プレートでの、作成された3Dスキャフォールド全体のその後の確実な保持が実現され、それによって3Dスキャフォールドでの後続する実験を簡易化することができる。典型的には、照射は上方に向かって開いた反応容器で上から行われる。そしてこの態様では、第1の層が追加的に下から反応容器の底面を通過して照射されるのが好ましい。そのために反応容器は、選択された波長を有する放射に対して透過性である材料で製作されていなければならない。そして、第1の層の上方に配置された後続する層は1つの方向から(すなわち好ましくは上から)のみ露光されるのが好ましく、それは、すでに形成されている重合又は架橋した構造が、放射の焦点面と、放射の発信のために利用される放射源との間に位置しないようにし、そのようにして、その焦点面の手前で放射によってあらためて透過されないようにするためである。
【0059】
1つの態様では、第1の電磁放射及び/又は別の電磁放射は200nmから1000nmの領域の波長(すなわち、UV領域と赤外領域の間に位置する波長)を有し、さらに好ましくは350nmから800nmの領域の波長を有する。このような種類の波長により、好ましくはラジカル形成剤として利用される物質を特別に良好に励起することができ、それにより、アクリル基を担持する出発物質の重合又は架橋を可能にするためにラジカルが形成される。
【0060】
適用される電磁放射のさらに別の好適な波長は250nmから950nm、特に250nmから850nm、特に300nmから800nm、特に300nmから750nm、特に300nmから700nm、特に350nmから650nm、きわめて特別に350nmから400nmの範囲内にある。
【0061】
重合又は架橋のために適用される放射は、重合可能又は光架橋可能な異なる液体の適切な重合又は可能にするために、前掲の波長領域に属する同一の波長、或いはそれぞれ異なる波長を含むことができる。このとき適用される放射は、相違する放射源或いは同一の放射源によって生成することができる。1つの層の内部(及びそれに伴って焦点面の内部)で相前後して異なる波長を適用することも可能であり、それは、それぞれ相違する重合又は架橋した構造からなる異質的な層を形成しようとする場合に、光重合可能又は光架橋可能な異なる液体を同一の層で重合又は架橋させるためである。
【0062】
1つの態様では、本方法は、3Dスキャフォールドの生成中に少なくとも1つの機能要素が3Dスキャフォールドへ挿入されるように実施される。このとき機能要素は隔膜、チャネル、気孔、センサ、カラム、グリッド、横支柱、又は導電性の支持体、及び走化性薬剤からなる群から選択される。チャネルと気孔は、たとえば形成された重合又は架橋した構造の特定の領域が複数の層に相上下して穿設されることによって、オブジェクトに統合することができる。隔膜は、光重合可能又は光架橋可能な液体中に脂質分子を入れることによって形成することができる。
【0063】
これに加えて、光重合又は光架橋を用いて塩橋を3Dスキャフォールドの内部へ同じく挿入することができる。このことが特別に容易に可能なのは、光重合可能又は光架橋可能な液体が塩を含み、すなわち塩含有である場合である。このようにして、印刷された3Dスキャフォールドの電気伝導や失活を後続して行うことができる。
【0064】
すでに製造プロセス中に3Dスキャフォールドへ挿入されるセンサを通じて、製造された3Dスキャフォールドを事後的に操作する必要がなくなり、すでに挿入されているセンサを通じて直接的に読み取ることができる。このことは、生体細胞によってコロニー形成された3Dスキャフォールドの後続する分析を簡易化する。たとえば電極などの導電性の支持体を挿入することで、形成された3Dスキャフォールドの後続する検査のときに、コロニー形成された3Dスキャフォールドの電位ないし電気特性を分析するのが特別に容易になる。
【0065】
1つの態様では、異なる層に異なる濃度で入れ、そのようにして勾配を生成することができる走化性薬剤を入れることで、3Dスキャフォールド内部でのその完成後の生体細胞の的確な成長/コロニー形成が可能となる。走化性薬剤が誘引物質である場合には、これが正の走化性を及ぼし、それにより3Dスキャフォールドの中の生体細胞が、誘引物質の濃度が高い領域に向かって方向づけられる。走化性薬剤が忌避物質である場合には、これが負の走化性を及ぼし、それにより3Dスキャフォールドの中の生体細胞が、誘引物質の濃度が低い領域に向かって、ないしは忌避物質がまったく存在しない領域に向かって、方向づけられる。それにより、3Dスキャフォールド内部での細胞の目的に適った成長/コロニー形成を実現することができる。
【0066】
反応容器内の液体の高さを常に正確に認識するために、少なくとも1つの充填レベルセンサが利用されるのが好ましい。そして、このような充填レベル情報に基づき、次の重合ステップ又は架橋ステップが実行されるべき焦点面を決定することができる。このような種類の充填レベルセンサから提供されるデータは、焦点面を自動式に適合化するための役目も果たすことができる。充填レベルセンサから提供されるデータを通じて、光重合可能又は光架橋可能な液体の反応容器への流入を仲介するポンプを制御することもできる。このようにして、ちょうど所望の層の構築に必要である量の光重合可能又は光架橋可能な液体を、常に正確に反応容器に入れることができる。それによって廃棄物の量が少なく抑えられる。さらに、それによって方法全体の低コストな具体化が可能となる。
【0067】
本発明による方法のステップ(a)の前述した説明から明らかなとおり、3Dスキャフォールドが3D印刷されるステップは完全に自動式に行うことができ、それにより利用者の介入が必要なくなる。このことは方法の適用を追加的に簡易化する。
【0068】
電磁放射がそのつどの焦点面に照射される時間の長さは、適用される光重合可能又は光架橋可能な液体のそのつどの要請に応じて適合化することができる。すなわち各々の材料に、所望の重合又は架橋のために必要かつ有意義である時間が割り当てられる。
【0069】
反応容器の内部に支持体が配置される場合、反応容器に対して相対的に当該支持体が持ち上げられたとき、これを取り囲む液体層と、支持体の上ですでに重合又は架橋している構造との間で負圧が発生することがある。しかし、先行する重合ステップ又は架橋ステップのためにまだ反応容器の中にある光重合可能又は光架橋可能な液体の残りを吸い出して、新しい光重合可能又は光架橋可能な液体を入れることで、潜在的に生じる負圧を緩和することができる。それにより、すでに重合又は架橋している3Dスキャフォールドの構造が支持体から剥がれるのを懸念する必要なしに、支持体を反応容器に対して相対的に動かすことができる。
【0070】
3Dスキャフォールドが支持プレートの上で生成される場合、製造プロセスの終了後に、反応容器の中にまだ残っている液体からこの支持プレートを一括して取り出すことができる。引き続いて、生成された3Dスキャフォールドを利用者によって支持プレートから取り外すことができる。
【0071】
本発明による方法のステップ(a)で3Dスキャフォールドを製造するために、たとえば特許文献1に記載されているような3D印刷装置を使用することができる。
【0072】
温度感受性のある、特にインバース温度感受性のある物質を添加することで、3Dスキャフォールドでの懸架されたオブジェクトと中空スペースの生成を追加的に改善することができる。このとき、たとえば光重合可能又は光架橋可能な液体が、又は光重合可能でない液体又は光架橋可能でない液体が、照射なしでも所望の温度領域でゲル化するような濃度で、ポロキサマーなどの物質を混合することができる。
【0073】
例示として、この方法は次のように進行させることができる:約20℃の温度のもとでのゲル化(例示として「ゲル化温度」と呼ぶ)を実現しようとする場合には、光重合可能又は光架橋可能な液体に、この液体が当該領域でゲル化するような濃度でポロキサマーを混合する。複数のポロキサマーからなる混合物も可能である。可能であれば、液体をまずゲル化点よりも低い温度まで冷却することができる。オブジェクト内部での懸架構造が望ましい場合、温度感受性のあるゲル形成剤を含む液体を、ゲル化温度を上回る温度まで加熱することができる。すると液体がゲル化する。これと並行して、液体を同じく光重合又は光架橋させることができる。温度感受性のある液体の領域を光重合又は光架橋させたくない場合には、温度をさらに上げればこれが固体になるが、ゲル化温度よりも低い温度まで下げればいつでも再び液化可能である。このようにして温度感受性のあるゲル化した部分を、印刷プロセスの最後まで支持構造として機能させることができる。印刷の完了後、上に挙げた例示としての20℃のゲル化温度よりも低く温度を再び下げることができる。その帰結として、重合していない、又は架橋していない、液体の温度感受性のある部分が再び液化して、ポンプ排出することができる。ゲルが液化すると、支持構造が取り外されて、そのときには光重合可能又は光架橋している、印刷されたオブジェクトの以前は支持されていた部分が自立懸架される。
【0074】
さらに、3Dスキャフォールドは充填開口部を有するのが好ましく、これを通じて、少なくとも部分的に上方が覆われた中空スペースにアクセス可能である。充填開口部は3Dスキャフォールドの上側の面に配置されるのが好ましく、それにより、生体細胞を含む懸濁液(細胞懸濁液とも呼ぶ)で中空スペースを上から充填することができる。したがって、本発明による方法のステップ(b)で、3Dスキャフォールドの充填開口部を通して細胞懸濁液の充填が行われるのが好ましい。たとえば充填開口部は、たとえば細胞懸濁液を充填するためのピペットの正確な装着を可能にするフィラーネックの形態で存在することができる。
【0075】
さらに3Dスキャフォールドは、同じく3Dスキャフォールド内部の中空スペースと空間的に接続された1つ又は複数の排出開口部を有するのが好ましい。たとえばステップ(b)の前に中空スペースが溶液で充填されている場合、これが細胞懸濁液の充填時に排出開口部を介して外に逃げることができる。そのために、1つ/複数の排出開口部は空間的に充填開口部よりも下方に、好ましくは側方の排出部として、3Dスキャフォールドに配置されるのが好ましい。或いは部分的に上方が覆われた中空スペースは、別の中空スペースの中に配置されるべき生体細胞組織に血液などの培養液を供給するために、血管の形態で配置されていてもよい。
【0076】
本発明による方法の1つの実施形態では、3Dスキャフォールドがステップ(a)とステップ(b)との間で乾燥されるのが好ましい。このとき3Dスキャフォールドは、いっそう耐久性が高く持ち運びしやすい形態を付与される。3Dスキャフォールドは乾燥/ガラス化の完了後、冷蔵庫の中で光と水分から防御したうえで少なくとも6週間のあいだ貯蔵可能である。このとき3Dスキャフォールドは若干収縮し、いっそう硬くなる。濡れたままの保管は、3Dスキャフォールドがいっそう早期に腐敗する危険をもたらす。乾燥/ガラス化は滅菌環境の中で行われるのが好ましい。好適な乾燥温度は4℃から50℃の範囲内であり、さらにいっそう好ましくは15℃から25℃の範囲内である。乾燥は、たとえば乾燥キャビネット、人工気候室、又はこれに類似するものの中で行うことができる。
【0077】
生体細胞によってコロニー形成される3Dスキャフォールドの構築ために利用される生体細胞としては、自然界に存在する一切の真核生物細胞及び原核生物細胞が考慮の対象となる。利用される細胞は真核生物細胞であるのが好ましい。特別に好適であるのは、哺乳類の、特にげっ歯類の、きわめて特に人間の、体内に存在する、ないしはその身体を構築する、あらゆる細胞及び細胞型である。1つの態様では、適用される生体細胞は万能細胞又は多能性細胞である。このとき本発明は、1つの態様では、人間の胚を破壊することなく得ることができる細胞の適用のみを対象とする。自然界に存在する細胞のほか、自然界には存在しない細胞株を生体細胞として利用することもできる。このような種類の人工的に生起された細胞株は、製造されるべき3D細胞培養構造体をオーダーメード式に構築することを可能にする。生体細胞として、付着細胞だけでなく懸濁細胞も適用することができる。これまで従来のシステムによっては、懸濁細胞から3D細胞培養構造体を生起することは可能でなかった。これらが自ずと互いに接して成長することはないからである。しかし、3Dスキャフォールドの中空スペースの中にカラムやグリッドなどの支持構造があれば、3Dスキャフォールドによって、懸濁細胞からなるたとえばリンパ節などの細胞培養構造体を提供することが可能であり、これを用いて実験を行うことができる。
【0078】
本発明による方法は、異なる細胞型を1つの3D細胞培養構造体に組み合せることを可能にするので、特に人工器官の製作のために適している。このような種類の人工器官は、たとえば自然界に存在する器官の、特に自然界に存在する人間又は動物の器官の、たとえば哺乳類やげっ歯類の器官の、ミニチュア化されたモデルオブジェクトであってよい。さまざまな光重合可能又は光架橋可能な液体を利用することができるので、生体細胞が埋め込まれたさまざまなゲル型も可能である。さらに、プラスチックポリマーとバイオポリマーを組み合わせることが可能であり、それにより、生体細胞が埋め込まれた、非常に安定した形成物を製作することができる。単一の印刷工程中に、異なる形態を有するものも含めて、複数の3Dスキャフォールドを同時に作成することができる。
【0079】
本発明による方法のステップ(a)で製作された3Dスキャフォールドを、利用者がステップ(b)のために使用できるようにするために、3Dスキャフォールドが-それが事前に乾燥されていた場合には-再水和される。そのために3Dスキャフォールドを60秒から60分の時間幅にわたり、水、塩溶液、緩衝液、細胞培地、又はこれらに類似する生理学的に適合性のある液体の中に入れるのが好ましい。理想的には、この処理はペトリ皿などで滅菌条件のもとで行われる。それによってスキャフォールドが当初のサイズ、強度、性質を再び取り戻す。
【0080】
スキャフォールドでの生体細胞によるコロニー形成のために、生体細胞(ここでは細胞懸濁液とも呼ぶ)と、所望の溶剤とからなる懸濁液が混合されるのが好ましい。溶剤としては、細胞と適合性のあるあらゆる溶液を利用することができる。このことは、細胞の生存を保証するあらゆる水溶液が含まれる。通常、人間の体内にある液体(たとえば血液)を溶液によって近似させるために、中性のpH(pH7.4)と等浸透圧の環境を調整するための物質が利用される。このとき溶剤中の生体細胞の濃度は、1ミリリットルあたり100,000個から300,000,000個の細胞の範囲内にあるのが好ましい。3Dスキャフォールドでのコロニー形成のために、細胞懸濁液が充填開口部を介してスキャフォールドに入れられるのが好ましい。このとき充填されるべき細胞混濁液の全容積は、最大でも、3Dスキャフォールドの中空スペースの容積と同じ大きさであるのが好ましい。所望の細胞濃度が調整されているとき、利用者はたとえばピペットを用いてその容積をスキャフォールドに注ぎ入れることができる。3Dスキャフォールドは、細胞懸濁液が注ぎ入れられるときすでに液体で充填されていて、これが任意選択の排出開口部を介してその後に流出することができるのが好ましい。ただし理想的な場合には、細胞懸濁液を充填するために、再加水化のために使用からスキャフォールドが取り外される。
【0081】
別の実施形態では、中空スペースでのコロニー形成のために使用される液体は細胞スフェロイドを含むのが好ましい。別の実施形態では、使用される液体は、充填後に安定したハイドロゲルを形成するゲル形成剤を含むのが好ましく、それにより、組み込まれた細胞ないし細胞スフェロイドが固定化される。ゲル形成剤の物質的な基礎として、酵素により架橋するゲル(たとえばフィブリン)、物理的に架橋するゲル(たとえばコラーゲン)、又は光重合可能ないし光架橋可能な液体を利用することができる。
【0082】
別の実施形態では、中空スペースでのコロニー形成は組織切除物又はバイオプシーの利用によって行われるのが好ましい(いわゆるex vivo培養)。別の実施形態では、組織切除物/バイオプシーをゲル形成液によって貼り付けることができる。
【0083】
3Dスキャフォールドの中空空間で可能なカラム、グリッド、又は横支柱は、生体細胞によるコロニー形成の際にアンカーもしくは支えとしての役目を果たすことができ、それにより-付着性の細胞の場合には-3Dスキャフォールドに付着することができ、又は-懸濁細胞の場合には-3Dスキャフォールドの中で自由に浮遊させながら培養することができる。
【0084】
細胞懸濁液が3Dスキャフォールドに充填された後に、細胞を含有することとなった構造体をさらに培養することができる。そして中空スペースの内部構造に応じて、新たな3D細胞培養モデルを構成することができる。付着性細胞の場合には利用可能なすべての構造に、及び相互に、生体細胞が付着し、それにより3Dスキャフォールドの中空スペースの形態の3D構造が生じる。このようにして、3D細胞培養モデル/3D細胞培養構造体がコントロールのもとで生じる。癌細胞によって3Dスキャフォールドでコロニー形成をさせようとする場合には、3D癌モデルが生じる。T細胞やBリンパ球によってモデルにコロニー形成がなされる場合、リンパ節類似のモデル又はびまん性B細胞リンパ腫が生じる。3Dスキャフォールドのマトリックスの中空スペースへ、或いは気孔容積部へ、完全にコロニー形成がなされると、細胞はたとえば任意選択の側方のチャネルを通じて3Dスキャフォールドから離れていくことができる。このようにして、たとえば小型のスフェロイドを細胞から切り離すことができる。
【0085】
換言すると本発明による方法では、ステップ(b)の後に、生体細胞が3D細胞培養構造体をなすように培養されるステップも実行することができる。培養条件は、使用される細胞の型に依存する。生物学の分野の当業者には、さまざまな生体細胞について理想的な培養条件が周知であるのが普通である。細胞型を参照して決定されるべき培養条件は、温度、それぞれの栄養溶液の組成、及び培養容器の性質である。ここでは例示として、臍帯に由来するヒトの血管細胞についての条件を挙げることができる:37℃、5%のCO2、グルコースを含む最小培地、すべての必須のアミノ酸、ビタミン、及びミネラル。このとき培養物は、組織培養(いわゆるtissue culture-treated surfaces)のためにコーティングされたペトリ皿又は細胞培養瓶の上にあるのが好ましい。上に挙げたこれらの培養条件が多くのヒト細胞について好都合である。血管細胞の場合、最小培地に与えられる成長因子の利用が追加的に必要となる。
【0086】
引き続き、別の細胞、ウィルス、バクテリア、酵素、又は作用物質などを3D細胞培養構造体に浸透させて、構造体の検査を行うことができる。そのために、一方では充填開口部又は側方のチャネルを利用することができるが、いくつかの物質又は細胞は、3Dスキャフォールドの材料をそのまま通り抜けることができる。このようにして、たとえばCar-T細胞によって癌細胞を攻撃することができる。
【0087】
1つの実施形態では、本発明は、本発明による方法に基づいて得られる、生体細胞によってコロニー形成される3Dスキャフォールドも対象とする。本発明の方法との関連でここで挙げているすべての構成要件と実施形態は-可能である限りにおいて-、生体細胞によってコロニー形成される本発明の3Dスキャフォールドについても該当し、その逆も成り立つ。
【0088】
本発明は次のような利点を有する:従来、利用者自身によってコロニー形成をさせることができる、アンダーカットや複雑なアーキテクチャを有するスキャフォールドは可能ではなかった。3Dスキャフォールドはそれ自体として中空体として機能するが、これはマルチ材料ステレオリソグラフィなしでは現在まで可能になっていなかった。そのため、細胞の挙動に影響が及ぼされる複雑なアーキテクチャを反映させることはできなかった。本発明の製造方法により、高い再現性と並行性を保証することができる。3Dスキャフォールドを、複雑なアーキテクチャにもかかわらず、ミリメートル単位の正確さで再現することができる。それに加えてこのシステムは、3D構造体での懸濁細胞の培養、又は血管構造の製作を初めて可能にする。このシステムは、従来型の振とう培養のように能動的に振とうしなくてよい。細胞が生きたままスキャフォールドの中に残る。システムの影響により、明らかに長くなる培養期間を実現することができる。たとえばコロニー形成されたシステムを数週間の期間にわたって培養することができ、それにより、動物実験の代替製品としての用途を見出すことができる。数週間という培養期間は、いくつかの細胞型についてはこれまで可能でなかった。さらに、細胞の挙動をオンライン式に追跡することができる。システムが可視光に対して好ましくは透明だからである。光学的な手法による連続的な測定が保証される。要約すると、このスキャフォールドはその形態、アーキテクチャ、利用方法、物理的なパラメータによって新規である。
【0089】
本発明に基づいて適用可能な3Dスキャフォールドは平坦な形態を有するのが好ましく、すなわち、その水平方向の寸法が垂直方向の寸法よりも大きいのが好ましい。3Dスキャフォールドは、たとえば円形、楕円形、長方形、又は正方形など、どのような底面でも有することができ、最後に挙げた2つは面取りされた角を有することもできる。3Dスキャフォールドは垂直方向では角柱状に延びるのが好ましく、すなわち、垂直方向では底面が大幅には変化しない。直径は500μmから10cmであるのが好ましいが、特に直径はウェルプレートのサイズに準拠し、すなわち具体的には6.8mm(96ウェル)、10.4mm(48ウェル)、16.2mm(24ウェル)、及び34.6mm(6ウェル)であるのが好ましい。高さは500μmから10cmの範囲内にあるのが好ましい。中空体が、中央に配置された中空体である場合、その容積は10μLから50mLの範囲内にあるのが好ましい。中空体が血管の形態(チャネル)で構成される場合、チャネルの直径は1μmから5cmの範囲内にあるのが好ましい。
【0090】
次に、以下の図面に示されている具体的な実施形態を参照しながら、本発明を図解することにする。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【
図1】
図1は、中央の上方が覆われた中空体と、上面にある充填開口部と、複数の側方の排出開口部とを有する、コロニー形成されていないCADファイルの3Dスキャフォールドの図を示す。
【0092】
【
図2】
図2は、
図1のCADファイルに基づいてリソグラフィ3D印刷により製作された3Dスキャフォールドの平面図の写真撮影画像を示す。
【0093】
【
図3】
図3は、神経芽腫に由来する癌細胞によってコロニー形成された、
図2の3Dスキャフォールドの平面図の写真撮影画像を示す。
【0094】
【
図4】
図4は、上方に向かって開いた中央の凹部と、上面にある血管のための2つの充填開口部及び血管の2つの側方の排出開口部を備えた血管の形態の上方が覆われた中空スペースとを有する、コロニー形成されていないCADファイルの3Dスキャフォールドの図を示す。
【0095】
【
図5】
図5は、
図4のCADファイルに基づいて印刷されたモデルを下から写した顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0096】
図1は、本発明に基づいて使用することができる3Dスキャフォールド1の、CADファイルで作成されたモデルを示している。3Dスキャフォールド1は、大部分が上方が覆われた中央の中空スペース2を有するのが好ましい。中空スペース2は、フィラーネックとして構成された充填開口部3を通じてアクセス可能であるのが好ましい。中空スペース2の上側の面は、中空スペース2の内部のカラム5によって支持されるのが好ましい。3Dスキャフォールド1は、複数の側方の排出開口部4を排出チャネルの形態で有するのが好ましい。
【0097】
図2は、
図1に基づくCADファイル1を基礎としてリソグラフィ3D印刷法により製作された3Dスキャフォールド1の写真撮影画像を示している。上側のフィラーネック3、側方のチャネル4、及び中空スペース2の中のカラム5を明瞭に見ることができる。
図2に示す3Dスキャフォールドは、次の各方法ステップによって製作される:
1.)CADファイルが作成され、印刷原画が計算されること;
2.)使用されるべき光重合可能又は光架橋可能な液体がプリンタに装備されること;
3.)プリンタ、軸、及び印刷ヘッドがキャリブレーションされること;
4.)印刷が実行され、第1の光重合可能又は光架橋可能な液体のために印刷プラットフォームが第1の印刷面まで降下すること;
5.)印刷されるべき構造体の第1の層高さについてポリマー1からなるアーキテクチャのために第1の光重合可能又は光架橋可能な液体から第1のポリマーが印刷されること;このとき構造体の第1の層高さについて第1のポリマーの計算された設計図が、印刷ヘッドのある印刷平面に投影される;このとき利用者の希望と計画に応じて、1つ又は複数の構造体を同時に製作することができる;このとき制限因子は、印刷プラットフォームないし設計スペースのサイズである;
6.)必要な場合、第1のポリマーから第2の光重合可能又は光架橋可能な液体への、及びこの逆への、移行を防止するためのプリンタの洗浄ステップ-任意選択(第2のポリマーが必要となる場合に限る);
7.)必要な場合、第1の層について第2のポリマーからなるアーキテクチャのために第2のポリマーが印刷されること-任意選択(第2のポリマーが使用される場合に限る);
8.)第3のポリマーが使用される場合、ステップ6及び7が反復されること;
9.)第2の層高さを印刷できるようにするために印刷平面が変更されること;
10.)印刷されるべき構造体の第2の層高さについて第1のポリマーからなるアーキテクチャのために第1のポリマーが印刷されること;
11.)必要な場合、第1のポリマーから第2の光重合可能又は光架橋可能な液体への、及びこの逆への、移行を防止するためのプリンタの洗浄ステップ-任意選択(第2のポリマーが必要となる場合に限る);
12.)必要な場合、第2の層について第2のポリマーからなるアーキテクチャのために第2の光重合可能又は光架橋可能な液体から第2のポリマーが印刷されること-任意選択(第2のポリマーが使用される場合に限る);
13.)第3のポリマーが使用される場合、ステップ11及び12が反復されること;
14.)第3の層高さを印刷できるようにするために印刷平面が変更されること;
15.)完全なアーキテクチャが印刷されるまで、ステップ5から8が反復されること;
16.)印刷の完了後、印刷プラットフォームを初期平面をへと移動させて、含まれている3Dスキャフォールドを取り外す;
17.)引き続き、3Dスキャフォールドを乾燥させることができ、又は即座に使用することができる。
18.)3Dスキャフォールドが乾燥される場合、このことは滅菌雰囲気の中で行われる;このとき3Dスキャフォールドからすべての水が取り除かれ、それにより乾燥したポリマースキャフォールドが生じる;
19.)乾燥の後、3Dスキャフォールドを滅菌条件のもとで保管することができる。
【0098】
図2に示す3Dスキャフォールドの製作についての具体的な条件とパラメータ:
3Dスキャフォールドの外側直径:6mm
3Dスキャフォールドの高さ :2mm
中空スペースの容積 :9.9mm
3
充填開口部の内径 :1.6mm
側方のチャネル(方形)及び
排出開口部の断面 :0.4mm×0.4mm
【0099】
第1の光架橋可能な液体の組成:
溶剤:RPMI 1640+25mM HEPES(Biochrom FG 1383)、リン酸緩衝生理食塩水
光架橋可能な物質:ゼラチン-メタクリレート、50g/kg;ポチエチレングリコール-ジアクリレート、50g/L
その他の添加物:リチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸、5g/kg;タートラジン、2mM
【0100】
第1の光架橋可能な液体から、3Dスキャフォールド全体が印刷される。光架橋可能な液体にフォトブロッカーを添加することで、重合のために利用される光の浸透深さが調節され、それにより、上方が覆われた中空スペースの製作が可能となる。その代替として、上方が覆われた中空スペースを製作するために、印刷の完了後に加水分解又は酵素による消化によって解消される犠牲インク(別の光架橋可能な液体中で利用される;たとえば15g/kgのヒアルロン酸を、RPMI+5g/kgのリチウムフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイルホスフィン酸に溶かして印刷し、引き続いてヒアルロニダーゼで消化させて中空スペースを作成する)を利用することができる。
【0101】
図3は、神経芽腫に由来する癌細胞によってコロニー形成された、
図2の3Dスキャフォールド1の写真撮影画像を示している。そのために次の各方法ステップが実施される:
20.)細胞懸濁液が、利用者により事前に調整された濃度でフィラーネックを通じて、1.)から19.)に従って製作された3Dスキャフォールドの中にピペットで移される;このとき最大で、3Dスキャフォールドの中空スペースの容積に相当する細胞懸濁液容積が利用される;3Dスキャフォールドがステップ18.)で乾燥される場合には、あらためて使用するために利用者によって事前に再び水和されなければならない;そのために水、PBS、細胞培養媒体などの滅菌媒体が適している;
21.)ピペットで移すことで3Dスキャフォールド内部で懸濁液が分散され、細胞を3Dスキャフォールド内部で培養することができる;
神経芽細胞腫(SK-N-BE(2))による中空スペースでのコロニー形成のために、細胞懸濁液(溶剤:DMEM高グルコース+10%FCS+1%ペニシリン/ストレプトマイシン;細胞濃度:150×10
6細胞/L)を製作する。この懸濁液6μL mmをフィラーネックを通じて3Dスキャフォールドの中空スペースにピペットで移す。引き続き、構造体を37℃と5%CO
2のもとで培養する。
【0102】
図4は、本発明に基づいて使用することができる、CADファイルで作成された3Dスキャフォールド1のモデルを示している。この3Dスキャフォールド1は、上方に向かって開いた中央の凹部を生体細胞のコロニー形成領域6として有している。さらにこれは、好ましくは中央のコロニー形成領域の周りで水平方向の平面に延びる、上方に向かって閉じた、すなわち上方が覆われた、中空スペース2を血管の形態で有している。
【0103】
図5は、実際に印刷された3Dスキャフォールド1を顕微鏡の下でその下面から示している。フィラーネック3、血管の形態の中空スペース2、及びコロニー形成領域6を明瞭に見ることができる。
【符号の説明】
【0104】
1 3Dスキャフォールド
2 中空スペース
3 充填開口部
4 排出開口部
5 カラム
6 コロニー形成領域