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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】レーザ・アークハイブリッド溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/348 20140101AFI20231117BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20231117BHJP
   B23K 26/12 20140101ALI20231117BHJP
   B23K 26/142 20140101ALI20231117BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20231117BHJP
【FI】
B23K26/348
B23K9/16 K
B23K26/12
B23K26/142
B23K103:10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023129769
(22)【出願日】2023-08-09
【審査請求日】2023-08-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390036858
【氏名又は名称】ゼオンノース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】坂 裕
(72)【発明者】
【氏名】河村 秀治
(72)【発明者】
【氏名】大脇 桂
(72)【発明者】
【氏名】松尾 拓樹
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-219108(JP,A)
【文献】特開2014-036995(JP,A)
【文献】特開2019-198885(JP,A)
【文献】特開2006-068773(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112975124(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/348
B23K 9/16
B23K 26/12
B23K 26/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ溶接とアーク溶接とを併用してアルミニウム合金を溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接装置において、
溶接部にレーザ光を照射するレーザヘッドと、
前記溶接部に溶加材を供給する溶接トーチと、
前記レーザヘッドから照射されたレーザ光を前記溶接部に投光可能かつ前記溶接トーチの先端を挿通可能な状態で前記溶接部を囲うトレーラハウスと、
前記レーザヘッドと前記トレーラハウスとの間に配置され溶接方向に延伸した底板及び一対の側壁を備えた整流板と、
前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフと、
前記第一エアナイフと前記レーザヘッドとの間に配置され前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフと、
前記トレーラハウス内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、を含み、
前記整流板は、前記第一エアナイフから供給される圧縮空気の噴射方向の前方にのみ配置され圧縮空気の推力を増幅させる推力増幅板を含む、
ことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項2】
前記推力増幅板は、上流から下流に向かって圧縮空気の流路断面積を狭くするように形成された尖端部を有する、請求項1に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項3】
前記推力増幅板は、前記尖端部の下流側に配置され圧縮空気の流路を左右に分断した状態を保持する仕切部を有する、請求項2に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項4】
前記整流板は、前記尖端部を含む領域に形成されたオリフィスを有する、請求項2に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項5】
レーザ溶接とアーク溶接とを併用してアルミニウム合金を溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接装置において、
溶接部にレーザ光を照射するレーザヘッドと、
前記溶接部に溶加材を供給する溶接トーチと、
前記レーザヘッドから照射されたレーザ光を前記溶接部に投光可能かつ前記溶接トーチの先端を挿通可能な状態で前記溶接部を囲うトレーラハウスと、
前記レーザヘッドと前記トレーラハウスとの間に配置され溶接方向に延伸した底板及び一対の側壁を備えた整流板と、
前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフと、
前記第一エアナイフと前記レーザヘッドとの間に配置され前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフと、
前記トレーラハウス内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、を含み、
前記整流板は、前記底板の外面に配置され前記トレーラハウスと前記整流板との間の空気の逆流を抑制する逆流防止板を有する、
ことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項6】
前記逆流防止板は、上流から下流に向かって断面積が漸増するように形成された角錐形状を有する、請求項5に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項7】
レーザ溶接とアーク溶接とを併用してアルミニウム合金を溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接装置において、
溶接部にレーザ光を照射するレーザヘッドと、
前記溶接部に溶加材を供給する溶接トーチと、
前記レーザヘッドから照射されたレーザ光を前記溶接部に投光可能かつ前記溶接トーチの先端を挿通可能な状態で前記溶接部を囲うトレーラハウスと、
前記レーザヘッドと前記トレーラハウスとの間に配置され溶接方向に延伸した底板及び一対の側壁を備えた整流板と、
前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフと、
前記第一エアナイフと前記レーザヘッドとの間に配置され前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフと、
前記トレーラハウス内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、を含み、
前記整流板は、前記側壁の前記第二エアナイフから供給される圧縮空気の噴射位置よりも前記レーザヘッドに近い側に形成された複数の排気口を有する、
ことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項8】
レーザ溶接とアーク溶接とを併用してアルミニウム合金を溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接装置において、
溶接部にレーザ光を照射するレーザヘッドと、
前記溶接部に溶加材を供給する溶接トーチと、
前記レーザヘッドから照射されたレーザ光を前記溶接部に投光可能かつ前記溶接トーチの先端を挿通可能な状態で前記溶接部を囲うトレーラハウスと、
前記レーザヘッドと前記トレーラハウスとの間に配置され溶接方向に延伸した底板及び一対の側壁を備えた整流板と、
前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフと、
前記第一エアナイフと前記レーザヘッドとの間に配置され前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフと、
前記トレーラハウス内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、を含み、
前記トレーラハウスは、溶接対象物の表面に接触する耐熱性のスカート部を有する、
ことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【請求項9】
前記レーザヘッド、前記溶接トーチ、前記トレーラハウス、前記整流板、前記第一エアナイフ及び前記第二エアナイフを溶接方向に沿って移動させる駆動装置を含む、請求項1、5、7又は8の何れか一項に記載のレーザ・アークハイブリッド溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド溶接装置に関し、特に、レーザ溶接とアーク溶接とを複合させたレーザ・アークハイブリッド溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は、鋼材と比較して軽量であり、耐腐食性に優れているため、輸送機器(自動車、鉄道車両等)や建築材料の幅広い分野で使用されている。一方で、アルミニウム合金は、塑性加工や鋳造には適しているものの、溶接し難いという問題がある。アルミニウム合金の溶接が高効率・高品質に行うことができれば、適用分野の拡大を図ることができるだけでなく、鋳造の金型管理が不要となり、製造コストの低減を図ることができる。
【0003】
高効率・高品質の溶接を実現する溶接技術として、レーザ溶接とアーク溶接とを複合させたレーザ・アークハイブリッド溶接装置が既に提案されている(例えば、特許文献1等参照)。レーザ・アークハイブリッド溶接は、溶込み深さを深くすることができる、高速化が可能である、入熱が低く溶接変形を抑制することができる等、アーク溶接とレーザ溶接の両方の長所を併せ持つことから、大型構造物の溶接に適している。
【0004】
例えば、特許文献1には、レーザを照射するレーザヘッド(レーザ溶接トーチ)と、アークを放電するアーク溶接トーチと、アーク溶接トーチからガスを供給する第1ガス供給装置と、溶接部位を囲うトレーラー(囲い)内にガスを供給する第2ガス供給装置と、第1ガス供給装置4及び第2ガス供給装置5のガス供給量を制御する制御装置とを有する、レーザ・アークハイブリッド溶接装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、レーザ光の光路を形成するレーザノズルと、レーザノズルの先端側にレーザ光と干渉しないように配置された第一整流板と、第一整流板に沿って圧縮空気を噴射する第一エアナイフと、第一整流板と溶接部との間にレーザ光と干渉しないように配置された第二整流板と、第二整流板に沿って圧縮空気を噴射する第二エアナイフと、を備えたレーザヘッドを有するハイブリッド溶接装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-098371号
【文献】特開2019-198885号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アルミニウムは、溶接金属にブローホール(溶接金属中の気泡)が発生しやすい。ブローホールの主原因は水素である。水素は、溶接部に混入した水分が、溶接熱によってアルミニウムと反応して発生する。アルミニウムは溶融しているときと比較して、凝固すると水素ガスの溶解度が著しく低下する。そのため、発生した水素ガスによってブローホールが発生する。
【0008】
水素源としては、アーク雰囲気中に巻き込まれた空気中の水分、シールドガス供給ホースやノズルに付着した水分、シールドガス中の水分、母材・溶加材中の溶存水素、母材・溶加材表面に付着した水分・有機物等が考えられる。これらのうち、空気の巻込みによる水分の影響が一番大きい。
【0009】
また、アルミニウムは比重が小さいことから、溶接中に生じたブローホールが浮上し難く、熱伝導率の高さによる急冷凝固がブローホールの放出を妨げることも原因となる。
【0010】
上述した特許文献1に記載された発明のように、溶接部位をトレーラーで囲い、溶接ガス雰囲気をシールドすることも考えられるが、溶接部位が長い場合には囲いが大型化してしまうという問題がある。
【0011】
また、上述した特許文献2に記載された発明のように、エアナイフ及び整流板を設置した場合には、吐出した圧縮空気が周辺の空気を誘引し、溶融金属周辺に気流を発生させ、シールドガスの流れを乱し、溶融金属と空気の遮断を不完全なものにしてしまうという問題がある。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、ブローホールの発生を低減し、健全な溶接品質を得ることができる、レーザ・アークハイブリッド溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、レーザ溶接とアーク溶接とを併用してアルミニウム合金を溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接装置において、溶接部にレーザ光を照射するレーザヘッドと、前記溶接部に溶加材を供給する溶接トーチと、前記レーザヘッドから照射されたレーザ光を前記溶接部に投光可能かつ前記溶接トーチの先端を挿通可能な状態で前記溶接部を囲うトレーラハウスと、前記レーザヘッドと前記トレーラハウスとの間に配置され溶接方向に延伸した底板及び一対の側壁を備えた整流板と、前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフと、前記第一エアナイフと前記レーザヘッドとの間に配置され前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフと、前記トレーラハウス内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、を含み、前記整流板は、前記第一エアナイフから供給される圧縮空気の噴射方向の前方にのみ配置され圧縮空気の推力を増幅させる推力増幅板を含む、ことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接装置が提供される。
【0015】
前記推力増幅板は、上流から下流に向かって圧縮空気の流路断面積を狭くするように形成された尖端部を有していてもよい。
【0016】
前記推力増幅板は、前記尖端部の下流側に配置され圧縮空気の流路を左右に分断した状態を保持する仕切部を有していてもよい。
【0017】
前記整流板は、前記尖端部を含む領域に形成されたオリフィスを有していてもよい。
【0018】
また、本発明によれば、レーザ溶接とアーク溶接とを併用してアルミニウム合金を溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接装置において、溶接部にレーザ光を照射するレーザヘッドと、前記溶接部に溶加材を供給する溶接トーチと、前記レーザヘッドから照射されたレーザ光を前記溶接部に投光可能かつ前記溶接トーチの先端を挿通可能な状態で前記溶接部を囲うトレーラハウスと、前記レーザヘッドと前記トレーラハウスとの間に配置され溶接方向に延伸した底板及び一対の側壁を備えた整流板と、前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフと、前記第一エアナイフと前記レーザヘッドとの間に配置され前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフと、前記トレーラハウス内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、を含み、前記整流板は、前記底板の外面に配置され前記トレーラハウスと前記整流板との間の空気の逆流を抑制する逆流防止板を有する、ことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接装置が提供される。
【0019】
前記逆流防止板は、上流から下流に向かって断面積が漸増するように形成された角錐形状を有していてもよい。
【0020】
また、本発明によれば、レーザ溶接とアーク溶接とを併用してアルミニウム合金を溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接装置において、溶接部にレーザ光を照射するレーザヘッドと、前記溶接部に溶加材を供給する溶接トーチと、前記レーザヘッドから照射されたレーザ光を前記溶接部に投光可能かつ前記溶接トーチの先端を挿通可能な状態で前記溶接部を囲うトレーラハウスと、前記レーザヘッドと前記トレーラハウスとの間に配置され溶接方向に延伸した底板及び一対の側壁を備えた整流板と、前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフと、前記第一エアナイフと前記レーザヘッドとの間に配置され前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフと、前記トレーラハウス内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、を含み、前記整流板は、前記側壁の前記第二エアナイフから供給される圧縮空気の噴射位置よりも前記レーザヘッドに近い側に形成された複数の排気口を有する、ことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接装置が提供される。
【0021】
また、本発明によれば、レーザ溶接とアーク溶接とを併用してアルミニウム合金を溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接装置において、溶接部にレーザ光を照射するレーザヘッドと、前記溶接部に溶加材を供給する溶接トーチと、前記レーザヘッドから照射されたレーザ光を前記溶接部に投光可能かつ前記溶接トーチの先端を挿通可能な状態で前記溶接部を囲うトレーラハウスと、前記レーザヘッドと前記トレーラハウスとの間に配置され溶接方向に延伸した底板及び一対の側壁を備えた整流板と、前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフと、前記第一エアナイフと前記レーザヘッドとの間に配置され前記整流板の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフと、前記トレーラハウス内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置と、を含み、前記トレーラハウスは、溶接対象物の表面に接触する耐熱性のスカート部を有する、ことを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接装置が提供される。
【0022】
前記レーザ・アークハイブリッド溶接装置は、前記レーザヘッド、前記溶接トーチ、前記トレーラハウス、前記整流板、前記第一エアナイフ及び前記第二エアナイフを溶接方向に沿って移動させる駆動装置を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0023】
上述した本発明に係るレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、前記トレーラハウス、前記整流板、前記第一エアナイフ及び前記第二エアナイフにより、溶融金属と空気を遮断することができ、ブローホールの発生を低減し、健全な溶接品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るレーザ・アークハイブリッド溶接装置の概要を示す全体構成図である。
図2】溶接部近傍における装置の側面図である。
図3図2に示した部分の正面図である。
図4】整流版の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の一実施形態について図1図4を用いて説明する。ここで、図1は、本発明の一実施形態に係るレーザ・アークハイブリッド溶接装置の概要を示す全体構成図である。図2は、溶接部近傍における装置の側面図である。図3は、図2に示した部分の正面図である。図4は、整流版の平面図である。なお、図3において、説明の便宜上、レーザヘッドの図を省略してある。
【0026】
本発明の一実施形態に係るレーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、例えば、図1図3に示したように、溶接部Pにレーザ光Lを照射するレーザヘッド2と、溶接部Pに溶加材Wを供給する溶接トーチ3と、レーザヘッド2から照射されたレーザ光Lを溶接部Pに投光可能かつ溶接トーチ3の先端を挿通可能な状態で溶接部Pを囲うトレーラハウス4と、レーザヘッド2とトレーラハウス4との間に配置され溶接方向に延伸した底板51及び一対の側壁52を備えた整流板5と、整流板5の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフ6と、第一エアナイフ6とレーザヘッド2との間に配置され整流板5の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフ7と、トレーラハウス4内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置8と、を備えている。
【0027】
レーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、レーザ溶接とアーク溶接とを複合させた溶接装置であり、溶込み深さを深くすることができる、高速化が可能である、入熱が低く溶接変形を抑制することができる等、アーク溶接とレーザ溶接の両方の長所を併せ持っている。
【0028】
レーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、アルミニウム合金を溶接する溶接装置である。溶接部Pは、例えば、アルミニウム合金の板材(溶接対象物10)を突き合せた開先部である。本実施形態では突き合せ溶接する場合について説明しているが、レーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、トレーラハウス4の形状等を変更することにより隅肉溶接にも適用することができる。溶接対象物10は、例えば、固定台11に固定される。
【0029】
レーザ溶接の機能を担うレーザ溶接部は、例えば、溶接部Pにレーザ光Lを照射するレーザヘッド2と、レーザビームを出力するレーザ発振器21と、レーザ発振器21で出力されたレーザビームをレーザヘッド2に伝送する光路22(光ファイバ等)と、を備えている。レーザ溶接部には、例えば、COレーザ、YAGレーザ、ファイバレーザ等の種々の既存の装置を適用することができる。
【0030】
レーザヘッド2は、図示しないが、例えば、レーザビームの進行方向を偏向する反射鏡、レーザ光Lの光径や焦点を調整する集光レンズ等の部品を備えている。なお、レーザヘッド2の構成は、従来のレーザ溶接装置に使用されるものと同様の構成を有している。
【0031】
アーク溶接の機能を担うアーク溶接部は、例えば、溶接部Pに溶加材Wを供給する溶接トーチ3と、溶接トーチ3に溶加材Wを供給する溶加材供給装置31と、溶接トーチ3と溶接部Pとの間で放電させるアーク溶接電源32と、を備えている。アーク溶接部は、例えば、ティグ溶接装置であるが、他の方式のアーク溶接装置であってもよい。
【0032】
トレーラハウス4は、溶接部Pを含む領域を覆う囲いである。トレーラハウス4は、アーク雰囲気中に巻き込まれる空気を遮断する機能を有している。トレーラハウス4は、例えば、底部が開放された箱型形状を有し、天井部にレーザ光Lを投光するための第一開口部41、溶接トーチ3を挿通するための第二開口部42と、を備えている。トレーラハウス4は、底部に溶接対象物10の表面に接触する耐熱性のスカート部43を有していてもよい。
【0033】
トレーラハウス4には、不活性ガス供給装置8から不活性ガスを内部に供給するためのノズル81が接続される。トレーラハウス4の内部空間に不活性ガスが供給されると、トレーラハウス4内の空気が不活性ガスに置換され、溶接中の内部空間は不活性ガス雰囲気に保持される。
【0034】
整流板5は、トレーラハウス4の上方に配置される溝形形状の板材である。整流板5は、例えば、図4に示したように、レーザヘッド2とトレーラハウス4との間に配置され溶接方向に延伸した底板51と、底板51の両側に配置された一対の側壁52とにより構成される。底板51は、レーザ光Lを投光するための第一開口部53と、溶接トーチ3を挿通するための第二開口部54とを有している。なお、図4では、説明の便宜上、エアナイフの図を省略してある。
【0035】
トレーラハウス4及び整流板5には、レーザ光Lを投光する開口部(第一開口部41,53)を有していることから、溶接時に生じたスパッタ、プラズマ、プルーム、ヒューム等の副次物がレーザ光学系を汚損する可能性がある。第一エアナイフ6は、開口部(第一開口部41,53)を通過して上昇してきた副次物を吹き飛ばす機能を有している。また、第二エアナイフ7は、第一エアナイフ6でも避けきれない副次物を吹き飛ばす機能を有している。さらに、レーザヘッド2のレーザ光Lを照射する先端部に内圧をかけて、レーザヘッド2内への副次物の侵入を抑制するようにしてもよい。
【0036】
第一エアナイフ6は、例えば、整流板5の底板51上に配置され、供給された圧縮空気を噴射する噴出部61と、圧縮空気の噴出方向を安定させるノズル部62と、を有している。ノズル部62が、レーザ光Lと干渉する場合には、ノズル部62にレーザ光Lを投光するための開口部を形成してもよい。
【0037】
第二エアナイフ7は、第一エアナイフ6よりもレーザヘッド2に近い上段に配置される。第二エアナイフ7は、第一エアナイフ6と同様に、噴出部71及びノズル部72を有している。ノズル部72が、レーザ光Lと干渉する場合には、ノズル部72にレーザ光Lを投光するための開口部を形成してもよい。
【0038】
整流板5は、第一エアナイフ6から噴出された圧縮空気の流れを整流するとともに、周辺空気の誘引を整流板5の後方(下流)に限定させる機能を有している。
【0039】
整流板5は、第一エアナイフ6から供給される圧縮空気の噴射方向の前方にのみ配置され圧縮空気の推力を増幅させる推力増幅板55を有していてもよい。推力増幅板55は、例えば、上流から下流に向かって圧縮空気の流路断面積を狭くするように形成された尖端部55aと、尖端部55aの下流側に配置され圧縮空気の流路を左右に分断した状態を保持する仕切部55bと、を有している。
【0040】
尖端部55aは、例えば、略三角柱形状を有し、第一エアナイフ6から供給される圧縮空気に対応した高さを有している。かかる尖端部55aを配置することにより、圧縮空気の流路断面積を徐々に狭くすることができ、圧縮空気の流速を向上させることができる。
【0041】
仕切部55bは、例えば、略四角柱形状を有し、尖端部55aと同じ高さに形成される。かかる仕切部55bを配置することにより尖端部55aにより左右に分断された圧縮空気の流れを整流板5の後方(下流)まで保持することができ、圧縮空気の流れを安定させることができる。なお、尖端部55a及び仕切部55bを含む推力増幅板55の形状は、図示した構成に限定されるものではない。
【0042】
また、整流板5は、尖端部55aを含む領域に形成されたオリフィス56を有していてもよい。オリフィス56は、圧縮空気の流路断面積を部分的に狭くした部分である。オリフィス56は、側壁52の間隔を狭めることによって形成してもよい、側壁52に突起物を付加することによって形成してもよい。かかるオリフィス56を形成することにより、尖端部55aとの相乗効果により圧縮空気の流路断面積を効果的に漸減させることができる。
【0043】
また、整流板5は、底板51の外面に配置されトレーラハウス4と整流板5との間の空気の逆流を抑制する逆流防止板57を有していてもよい。逆流防止板57は、例えば、上流から下流に向かって断面積が漸増するように形成された角錐形状を有している。なお、逆流防止板57の形状は、図示した構成に限定されるものではない。
【0044】
かかる逆流防止板57を配置することにより、トレーラハウス4の第一開口部41及び第二開口部42から漏れた空気の逃げ道を形成することができ、整流板5との間に滞留する空気を除去することができる。
【0045】
また、整流板5は、側壁52の第二エアナイフ7から供給される圧縮空気の噴射位置よりもレーザヘッド2に近い側に形成された複数の排気口58を有していてもよい。かかる排気口58を形成することにより、圧縮空気の流速を調整することができる。排気口58の大きさ、形状、位置、個数等の条件は、任意に設定することができる。
【0046】
レーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、レーザヘッド2、溶接トーチ3、トレーラハウス4、整流板5、第一エアナイフ6及び第二エアナイフ7を溶接方向に沿って移動させる駆動装置9を有している。レーザヘッド2、溶接トーチ3、トレーラハウス4及び整流板5は、例えば、ブラケット91により一体化される。第一エアナイフ6及び第二エアナイフ7は整流板5に固定されている。なお、図2及び図3において、説明の便宜上、ブラケット91の図を省略してある。
【0047】
駆動装置9は、例えば、ブラケット91を溶接方向に沿って移動させる産業用ロボットであってもよいし、移動台車であってもよい。かかる駆動装置9により、レーザヘッド2、溶接トーチ3、トレーラハウス4及び整流板5を溶接方向に移動させることができ、装置の小型化を図ることができる。なお、本実施形態では溶接装置側の部品を溶接方向に移動させているが、溶接対象物10を溶接方向と反対方向に移動させるようにしてもよい。
【0048】
上述した本実施形態に係るレーザ・アークハイブリッド溶接装置1によれば、トレーラハウス4、整流板5、第一エアナイフ6及び第二エアナイフ7により、溶融金属と空気を遮断することができ、ブローホールの発生を低減し、健全な溶接品質を得ることができる。
【0049】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
1 レーザ・アークハイブリッド溶接装置
2 レーザヘッド
3 溶接トーチ
4 トレーラハウス
5 整流板
6 第一エアナイフ
7 第二エアナイフ
8 不活性ガス供給装置
9 駆動装置
10 溶接対象物
11 固定台
21 レーザ発振器
22 光路
31 溶加材供給装置
32 アーク溶接電源
41 第一開口部
42 第二開口部
43 スカート部
51 底板
52 側壁
53 第一開口部
54 第二開口部
55 推力増幅板
55a 尖端部
55b 仕切部
56 オリフィス
57 逆流防止板
58 排気口
61,71 噴出部
62,72 ノズル部
81 ノズル
91 ブラケット
L レーザ光
P 溶接部
W 溶加材

【要約】
【課題】ブローホールの発生を低減し、健全な溶接品質を得ることができる、レーザ・アークハイブリッド溶接装置を提供する。
【解決手段】レーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、溶接部Pにレーザ光Lを照射するレーザヘッド2と、溶接部Pに溶加材Wを供給する溶接トーチ3と、レーザヘッド2から照射されたレーザ光Lを溶接部Pに投光可能かつ溶接トーチ3の先端を挿通可能な状態で溶接部Pを囲うトレーラハウス4と、レーザヘッド2とトレーラハウス4との間に配置され溶接方向に延伸した底板51及び一対の側壁52を備えた整流板5と、整流板5の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第一エアナイフ6と、第一エアナイフ6とレーザヘッド2との間に配置され整流板5の長手方向に沿って圧縮空気を供給する第二エアナイフ7と、トレーラハウス4内に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置8と、を備える。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4