(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-16
(45)【発行日】2023-11-27
(54)【発明の名称】銅箔の表面パラメータの測定方法、及び銅箔の選別方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/30 20060101AFI20231117BHJP
G01B 11/30 20060101ALI20231117BHJP
【FI】
G01B21/30 102
G01B11/30 102Z
(21)【出願番号】P 2023562766
(86)(22)【出願日】2022-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2022046102
(87)【国際公開番号】W WO2023120337
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/047646
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】栗原 宏明
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 健
【審査官】飯村 悠斗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/006739(WO,A1)
【文献】特開2021-26839(JP,A)
【文献】特開平6-337214(JP,A)
【文献】特開2013-221856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/30
G01B 11/30
G01N 21/956
C25D 1/04
C25D 5/16
C25D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔の表面パラメータの測定方法であって、
(a)フィルター条件を設定するために、リファレンスとしての表面処理銅箔の処理表面における表面プロファイルを取得する工程と、
(b)前記表面プロファイルに基づいてLフィルターのカットオフ値を設定する工程であって、前記カットオフ値は、
(i)Lフィルターで処理した後の算術平均高さSaであるSa1が0.5μm以下を満たし、かつ、
(ii)Lフィルターで処理する前後における界面の展開面積比Sdrの変化率:(|Sdr0-Sdr1|/Sdr0)×100(式中、Sdr0はLフィルターで処理する前のSdrであり、Sdr1はLフィルターで処理した後のSdrである)が80%以下を満たす、又は
(ii’)Lフィルターで処理する前後における、コア部の実体体積Vmcをコア部のレベル差Skで除して界面の展開面積比Sdrを乗じることにより、すなわち(Vmc/Sk)×Sdrの式により得られるα値の変化率:(|α0-α1|/α0)×100(式中、α0はLフィルターで処理する前のα値であり、α1はLフィルターで処理した後のα値である)が80%以下を満たすように設定され、
Sa、Sdr、Vmc及びSkはISO25178で規定される表面パラメータである、工程と、
(c)前記リファレンスとしての表面処理銅箔と同等の条件によって製造又は処理された、測定対象としての表面処理銅箔の処理表面における表面プロファイルを取得する工程と、
(d)前記測定対象としての表面処理銅箔について取得された表面プロファイルをフィルター処理する工程であって、前記カットオフ値のLフィルターを用いて処理することを含む工程と、
(e)前記フィルター処理後の表面プロファイルに基づき、前記測定対象としての表面処理銅箔の処理表面における、ISO25178で規定される表面パラメータのうち少なくとも1種を算出する工程と、
を含む、銅箔の表面パラメータの測定方法。
【請求項2】
前記工程(d)において、前記フィルター処理がSフィルターを用いることなく行われる、請求項1に記載の銅箔の表面パラメータの測定方法。
【請求項3】
前記Sa1が0.3μm以下であり、かつ、前記Sdrの変化率が70%以下である、請求項1又は2に記載の銅箔の表面パラメータの測定方法。
【請求項4】
前記Sa1が0.3μm以下であり、かつ、前記α値の変化率が70%以下である、請求項1又は2に記載の銅箔の表面パラメータの測定方法。
【請求項5】
前記工程(b)において、ISO25178で規定される表面パラメータの2階微分を行い、前記Lフィルターのカットオフ値を設定する、請求項1又は2に記載の銅箔の表面パラメータの測定方法。
【請求項6】
銅箔の選別方法であって、
請求項1又は2に記載の方法を用いて銅箔の表面パラメータを測定する工程であって、前記表面パラメータがISO25178で規定される算術平均高さSa、二乗平均平方根高さSq、最大高さSz、界面の展開面積比Sdr、コア部の実体体積Vmc及びコア部のレベル差Skからなる群から選択される少なくとも1種である工程と、
前記Saが1.2μm以下、前記Sqが2.5μm以下、前記Szが14μm以下、前記Sdrが60%以下、前記Vmcが1.5μm
3以下、及び/又は前記Skが4μm以下の表面を有する銅箔を、高周波用途向けプリント配線板に適した銅箔として選別する工程と、
を含む、銅箔の選別方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法により得られた銅箔を用いて高周波用途向けプリント配線板を製造する工程を含む、高周波用途向けプリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔の表面パラメータの測定方法、及び銅箔の選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の製造工程において、銅箔は絶縁樹脂基材と張り合わされた銅張積層板の形態で広く使用されている。この点、プリント配線板製造時に配線の剥がれが生じるのを防ぐために、銅箔と絶縁樹脂基材とは高い密着力を有することが望まれる。そこで、通常のプリント配線板製造用銅箔では、銅箔の張り合わせ面に粗化処理等の表面処理を施して微細な銅粒子からなる凹凸を形成し、この凹凸をプレス加工により絶縁樹脂基材の内部に食い込ませてアンカー効果を発揮させることで、密着性を向上している。
【0003】
近年の携帯用電子機器等の高機能化に伴い、大量の情報の高速処理をすべく信号の高周波化が進んでおり、高周波用途に適したプリント配線板が求められている。このような高周波用プリント配線板には、高周波信号を品質低下させずに伝送可能とするために、伝送損失の低減が望まれる。プリント配線板は配線パターンに加工された銅箔と絶縁基材とを備えたものであるが、伝送損失における主な損失としては、銅箔に起因する導体損失と、絶縁基材に起因する誘電損失が挙げられる。
【0004】
高周波用プリント配線板に用いられる銅箔として、例えば特許文献1(特開2020-50954号公報)には、複数のピーク、複数の凹溝及び複数の微結晶クラスタを含む微小粗面化表面を有する微小粗面化電解銅箔が開示されており、この銅箔によれば信号輸送中の損失を効果的に抑制できるとされている。また、特許文献1には、レーザー顕微鏡を用いて、λs=2.5μm及びλc=0.003mmの条件で銅箔のRlr値を計測することも記載されている。
【0005】
ところで、プリント配線板の高周波特性(伝送損失の周波数依存性)は銅箔の表面粗さと相関があることが知られており、一般的に低粗度の銅箔を用いるほど高周波特性は良好となる傾向がある。銅箔の表面粗さ測定方法として、例えば非特許文献1(フレキシブルプリント配線板の高速伝送線路試験法ガイドライン第1版)には、高周波伝送線路用の銅箔表面プロファイルの三次元方式による試験方法が開示されている。この試験方法では、ISO25178に準拠した測定装置(共焦点顕微鏡)を用いて、所定のSフィルター(0.5μm又は0.8μm)及びLフィルター(25μm、50μm又は80μm)で処理することにより、算術平均高さSaを算出することが非特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-50954号公報
【文献】特開平9-241882号公報
【文献】WO2008/041706A1
【非特許文献】
【0007】
【文献】フレキシブルプリント配線板の高速伝送線路試験法ガイドライン第1版、一般社団法人日本電子回路工業会、2019年6月5日発行
【発明の概要】
【0008】
しかしながら、従来の銅箔の表面粗さ測定方法により算出された表面パラメータは、高周波特性との相関が必ずしも十分とはいえなかった。このため、表面処理銅箔を作製して実際に高周波特性の評価を行う必要があり、作業時間及び材料の無駄を要していた。
【0009】
本発明者らは、今般、リファレンスとしての表面処理銅箔の表面プロファイルに基づき、所定の条件を満たすようにLフィルターのカットオフ値を設定し、その後、測定対象としての表面処理銅箔の表面プロファイルを予め設定されたカットオフ値のLフィルターで処理することにより、高周波特性との高い相関を示す表面パラメータを簡便に取得できるとの知見を得た。
【0010】
したがって、本発明の目的は、高周波特性との高い相関を示す銅箔の表面パラメータを簡便に取得することが可能な測定方法を提供することにある。
【0011】
本発明によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
銅箔の表面パラメータの測定方法であって、
(a)フィルター条件を設定するために、リファレンスとしての表面処理銅箔の処理表面における表面プロファイルを取得する工程と、
(b)前記表面プロファイルに基づいてLフィルターのカットオフ値を設定する工程であって、前記カットオフ値は、
(i)Lフィルターで処理した後の算術平均高さSaであるSa1が0.5μm以下を満たし、かつ、
(ii)Lフィルターで処理する前後における界面の展開面積比Sdrの変化率:(|Sdr0-Sdr1|/Sdr0)×100(式中、Sdr0はLフィルターで処理する前のSdrであり、Sdr1はLフィルターで処理した後のSdrである)が80%以下を満たす、又は
(ii’)Lフィルターで処理する前後における、コア部の実体体積Vmcをコア部のレベル差Skで除して界面の展開面積比Sdrを乗じることにより、すなわち(Vmc/Sk)×Sdrの式により得られるα値の変化率:(|α0-α1|/α0)×100(式中、α0はLフィルターで処理する前のα値であり、α1はLフィルターで処理した後のα値である)が80%以下を満たすように設定され、
Sa、Sdr、Vmc及びSkはISO25178で規定される表面パラメータである、工程と、
(c)前記リファレンスとしての表面処理銅箔と同等の条件によって製造又は処理された、測定対象としての表面処理銅箔の処理表面における表面プロファイルを取得する工程と、
(d)前記測定対象としての表面処理銅箔について取得された表面プロファイルをフィルター処理する工程であって、前記カットオフ値のLフィルターを用いて処理することを含む工程と、
(e)前記フィルター処理後の表面プロファイルに基づき、前記測定対象としての表面処理銅箔の処理表面における、ISO25178で規定される表面パラメータのうち少なくとも1種を算出する工程と、
を含む、銅箔の表面パラメータの測定方法。
[態様2]
前記工程(d)において、前記フィルター処理がSフィルターを用いることなく行われる、態様1に記載の銅箔の表面パラメータの測定方法。
[態様3]
前記Sa1が0.3μm以下であり、かつ、前記Sdrの変化率が70%以下である、態様1又は2に記載の銅箔の表面パラメータの測定方法。
[態様4]
前記Sa1が0.3μm以下であり、かつ、前記α値の変化率が70%以下である、態様1~3のいずれか一つに記載の銅箔の表面パラメータの測定方法。
[態様5]
前記工程(b)において、ISO25178で規定される表面パラメータの2階微分を行い、前記Lフィルターのカットオフ値を設定する、態様1~4のいずれか一つに記載の銅箔の表面パラメータの測定方法。
[態様6]
銅箔の選別方法であって、
態様1~5のいずれか一つに記載の方法を用いて銅箔の表面パラメータを測定する工程であって、前記表面パラメータがISO25178で規定される算術平均高さSa、二乗平均平方根高さSq、最大高さSz、界面の展開面積比Sdr、コア部の実体体積Vmc及びコア部のレベル差Skからなる群から選択される少なくとも1種である工程と、
前記Saが1.2μm以下、前記Sqが2.5μm以下、前記Szが14μm以下、前記Sdrが60%以下、前記Vmcが1.5μm3以下、及び/又は前記Skが4μm以下の表面を有する銅箔を、高周波用途向けプリント配線板に適した銅箔として選別する工程と、
を含む、銅箔の選別方法。
[態様7]
態様6に記載の方法により得られた銅箔を用いて高周波用途向けプリント配線板を製造する工程を含む、高周波用途向けプリント配線板の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ISO25178に準拠して決定される負荷曲線及び負荷面積率を説明するための図である。
【
図2】ISO25178に準拠して決定される突出山部とコア部を分離する負荷面積率Smr1、突出谷部とコア部を分離する負荷面積率Smr2、及びコア部のレベル差Skを説明するための図である。
【
図3】ISO25178に準拠して決定されるコア部の実体体積Vmcを説明するための図である。
【
図4】複数のコブを有する銅箔表面の模式図であり、α値を説明するための図である。
【
図5】本発明の銅箔の表面パラメータ測定方法を説明するための工程流れ図である。
【
図6A】例A1において、各カットオフ値によるLフィルター処理を行った銅箔bの処理表面のSdrを示したグラフである。
【
図6B】例A1において、各カットオフ値によるLフィルター処理を行った銅箔bの処理表面のα値を示したグラフである。
【
図7】銅箔bの処理表面において、Lフィルター処理前後におけるSdrの2階微分を示したグラフである。
【
図8A】例A1において、各カットオフ値によるLフィルター処理を行った銅箔dの処理表面のSdrを示したグラフである。
【
図8B】例A1において、各カットオフ値によるLフィルター処理を行った銅箔dの処理表面のα値を示したグラフである。
【
図9】銅箔dの処理表面において、Lフィルター処理前後におけるSdrの2階微分を示したグラフである。
【
図10A】例A1において、各カットオフ値によるLフィルター処理を行った銅箔eの処理表面のSdrを示したグラフである。
【
図10B】例A1において、各カットオフ値によるLフィルター処理を行った銅箔eの処理表面のα値を示したグラフである。
【
図11】銅箔eの処理表面において、Lフィルター処理前後におけるSdrの2階微分を示したグラフである。
【
図12】例A1~A3における、銅箔の表面パラメータと伝送損失との回帰式の決定係数R
2を比較したグラフである。
【
図13】例B1における、銅箔a~eの算術平均高さSaと高周波特性との相関関係を示すグラフである。
【
図14】例B2~B8における、銅箔a~eのSdrの変化率と、高周波特性との相関関係(決定係数R
2)を表すグラフである。
【
図15】例B2~B8における、銅箔a~eのα値の変化率と、高周波特性との相関関係(決定係数R
2)を表すグラフである。
【
図16】例B3における、銅箔a~eの算術平均高さSaと高周波特性との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
本発明を特定するために用いられる用語ないしパラメータの定義を以下に示す。
【0014】
本明細書において「算術平均高さSa」又は「Sa」とは、ISO25178に規定される、表面の平均面に対して、各点における高さの差の絶対値の平均を表すパラメータである。つまり、Saは輪郭曲線の算術平均高さRaを面に拡張したパラメータに相当する。
【0015】
本明細書において「二乗平均平方根高さSq」又は「Sq」とは、ISO25178に規定される、平均面からの距離の標準偏差に相当するパラメータであり、高さの標準偏差に相当する。
【0016】
本明細書において「最大高さSz」又は「Sz」とは、ISO25178に規定される、表面の最も高い点から最も低い点までの距離を表す。
【0017】
本明細書において「界面の展開面積比Sdr」又は「Sdr」とは、ISO25178に規定される、定義領域の展開面積(表面積)が、定義領域の面積に対してどれだけ増大しているかを表すパラメータである。なお、本明細書では、界面の展開面積比Sdrを表面積の増加分(%)として表すものとする。この値が小さいほど、平坦に近い表面形状であることを示し、完全に平坦な表面のSdrは0%となる。一方、この値が大きいほど、凹凸が多い表面形状であることを示す。例えば、表面のSdrが40%である場合、この表面は完全に平坦な表面から40%表面積が増大していることを示す。
【0018】
本明細書において「面の負荷曲線」(以下、単に「負荷曲線」という)とは、ISO25178に規定される、負荷面積率が0%から100%となる高さを表した曲線をいう。負荷面積率とは、
図1に示されるように、ある高さc以上の領域の面積を表すパラメータである。高さcでの負荷面積率は
図1におけるSmr(c)に相当する。
図2に示されるように、負荷面積率が0%から負荷曲線に沿って負荷面積率の差を40%にして引いた負荷曲線の割線を、負荷面積率0%から移動させていき、割線の傾斜が最も緩くなる位置を負荷曲線の中央部分という。この中央部分に対して、縦軸方向の偏差の二乗和が最小になる直線を等価直線という。等価直線の負荷面積率0%から100%の高さの範囲に含まれる部分をコア部という。コア部より高い部分を突出山部といい、コア部より低い部分は突出谷部という。
【0019】
本明細書において「コア部のレベル差Sk」又は「Sk」とは、ISO25178に規定される、コア部の最大高さから最小高さを引いた値であり、
図2に示されるように、等価直線の負荷面積率0%と100%の高さの差により算出されるパラメータである。
【0020】
本明細書において「コア部の実体体積Vmc」又は「Vmc」とは、
図3に示されるように、ISO25178に準拠して測定される、コア部の体積を表すパラメータである。本明細書では、コア部と突出山部を分離する負荷面積率Smr1を10%、及びコア部と突出谷部を分離する負荷面積率Smr2を80%と指定してVmcを算出するものとする。
【0021】
本明細書において「α値」とは、コア部の実体体積Vmcをコア部のレベル差Skで除して界面の展開面積比Sdrを乗じることにより、すなわち(Vmc/Sk)×Sdrの式により得られるパラメータを意味する。ここで、α値を説明するための銅箔表面の模式図を
図4に示す。
図4(i)に示されるような複数のコブNを有する銅箔表面において、VmcはコブNから突出部を除去したコア部の体積に相当し、Skはコア部の高さに相当する(
図4(ii)参照)。したがって、VmcをSkで除したVmc/Skはコア部の面積に相当するものであり(
図4(iii)参照)、Vmc/SkにSdrを乗じたα値は、コア部のSdrを反映したパラメータであるといえる(
図4(iv)参照)。
【0022】
本明細書において「未処理銅箔」とは、粗化処理や防錆処理等の表面処理が行われていない段階の銅箔を指す。ここでいう銅箔は、支持層、剥離層及び極薄銅層を備える銅箔(いわゆるキャリア付き銅箔)でもよい。
【0023】
本明細書において、電解銅箔の「電極面」とは、作製時に陰極と接していた側の面を指す。
【0024】
本明細書において、電解銅箔の「析出面」とは、作製時に電解銅が析出されていく側の面、すなわち陰極と接していない側の面を指す。
【0025】
本明細書において、「Lフィルター」とは大きい波長成分を除去するフィルターであり、輪郭曲線方式の測定(線粗さ測定)においては「λc」とも称される。すなわち、Lフィルターは銅箔のうねり等の大きいスケールの波長成分を除去するフィルターである。
【0026】
本明細書において、「Sフィルター」とは小さい波長成分を除去するフィルターであり、輪郭曲線方式の測定(線粗さ測定)においては「λs」とも称される。すなわち、Sフィルターは銅箔の粗化処理等の小さいスケールの波長成分を除去するフィルターである。
【0027】
銅箔の表面パラメータの測定方法
本発明の方法は、銅箔の表面パラメータの測定方法である。この方法は、(1)リファレンス銅箔の表面プロファイル取得、(2)Lフィルターのカットオフ値設定、(3)測定対象銅箔の表面プロファイル取得、(4)測定対象銅箔の表面プロファイルのフィルター処理、及び(5)測定対象銅箔の表面パラメータ算出の各工程を含む。以下、図面を参照しながら、工程(1)~(5)の各々について説明する。
【0028】
(1)リファレンス銅箔の表面プロファイル取得
本発明による銅箔の表面パラメータの測定方法の一例を
図5に示す。まず、
図5(i)に示されるように、フィルター条件を設定するために、リファレンスとしての表面処理銅箔10の処理表面における表面プロファイルを取得する。なお、本明細書において、リファレンスとしての表面処理銅箔を「リファレンス銅箔」と称することがある。
【0029】
フィルター条件を設定するためのリファレンス銅箔10の表面プロファイル取得は、非接触式表面粗さ測定器、例えば市販のレーザー顕微鏡を用いてリファレンス銅箔10の処理表面を測定することにより、好ましく行うことができる。レーザー顕微鏡による測定を行う場合、測定面積は90μm2以上103,000μm2以下とするのが好ましく、より好ましくは1,000μm2以上26,000μm2以下、さらに好ましくは1,000μm2以上17,000μm2以下である。また、レーザー顕微鏡の測定倍率は50倍以上500倍以下が好ましく、より好ましくは100倍以上400倍以下である。
【0030】
リファレンス銅箔10は、公知の手法及び条件に従って製造されたものであってもよく、市販品であってもよい。例えば、
図5(i)に示されるように、リファレンス銅箔10は、未処理銅箔12の少なくとも一方の面に対して表面処理を行ってコブ14(例えば粗化粒子)等を形成することにより、好ましく製造することができる。リファレンス銅箔10の厚さ(キャリア付き銅箔の場合は極薄銅層の厚さを指す)は0.5μm以上210μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以上70μm以下である。
【0031】
未処理銅箔12は、電解銅箔及び圧延銅箔のいずれであってもよいが、好ましくは電解銅箔である。未処理銅箔12に施される表面処理の例としては、粗化処理、防錆処理、カップリング剤処理、及びそれら任意の組合せが挙げられる。例えば、リファレンス銅箔10は、未処理銅箔12に対して少なくとも粗化処理が行われることにより、コブ14を備えたものであるのが好ましいが、粗化処理無しの防錆処理のみが行われたものであってもよい。未処理銅箔12が電解銅箔である場合、表面処理は、電解銅箔の電極面及び析出面のいずれの表面に対して行われるものであってもよい。
【0032】
(2)Lフィルターのカットオフ値設定
取得したリファレンスとしての表面処理銅箔10の表面プロファイルに基づいて、Lフィルターのカットオフ値を設定する。このように予めLフィルターのカットオフ値を設定しておくことで、測定対象の表面処理銅箔ごとに測定条件を逐一設定して表面パラメータを算出することが不要となる。また、表面処理銅箔の処理表面における凹凸は、コブ(粗化粒子等)に起因する粗さ成分と、銅箔のうねりに起因するうねり成分とからなる。そして、プリント配線板の伝送損失は、高周波になるほど顕著に現れる銅箔の表皮効果によって増大するが、うねり成分は伝送損失に影響を及ぼしにくく、主に粗さ成分が伝送損失に影響を及ぼす。この点、後述する条件を満たすようにLフィルターのカットオフ値を設定することにより、高周波特性と高い相関を示す表面パラメータを簡便に取得することができる。なお、Lフィルターのカットオフ値の設定は、後述する第一の態様及び第二の態様のいずれか一方のみを満たすように行われてもよく、両方を満たすように行われてもよい。
【0033】
本発明の第一の態様によれば、Lフィルターのカットオフ値が、(i)Lフィルターで処理した後のSaであるSa1が0.5μm以下を満たし、かつ、(ii)Lフィルターで処理する前後におけるSdrの変化率:(|Sdr0-Sdr1|/Sdr0)×100(式中、Sdr0はLフィルターで処理する前のSdrであり、Sdr1はLフィルターで処理した後のSdrである)が80%以下を満たすように設定される。Lフィルターのカットオフ値は、好ましくはSa1が0.3μm以下であり、かつ、Sdrの変化率が70%以下、より好ましくはSa1が0.001μm以上0.3μm以下であり、かつ、Sdrの変化率が0.1%以上60%以下、さらに好ましくはSa1が0.005μm以上0.2μm以下であり、かつ、Sdrの変化率が1%以上40%以下であるように設定される。すなわち、Sa1は0.5μm以下であり、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.001μm以上0.3μm以下、さらに好ましくは0.005μm以上0.2μm以下である。Sa1が上記範囲内であると、高周波特性に影響を及ぼしにくいうねり成分を効果的に除去することができる。また、Sdrの変化率は80%以下であり、好ましくは70%以下、より好ましくは0.1%以上60%以下、さらに好ましくは1%以上40%以下である。Sdrの変化率が上記範囲内であると、高周波特性に大きな影響を及ぼす粗さ成分(コブ成分)を確実に残すことができる。つまり、粗さ成分を除去するカットオフ値でLフィルターによる処理を行った場合、Sdrの変化率が大きくなる。このため、Sdrの変化率を上記範囲内に制御することにより、高周波特性の評価に必要な粗さ成分が除去されることを効果的に抑制することができる。したがって、上記条件を満たすようにLフィルターのカットオフ値を設定することで、後述する工程において、高周波特性との高い相関を示す表面処理銅箔の表面パラメータを算出することができる。
【0034】
本発明の第二の態様によれば、Lフィルターのカットオフ値が、(i)Lフィルターで処理した後のSaであるSa1が0.5μm以下を満たし、かつ、(ii’)Lフィルターで処理する前後におけるα値の変化率:(|α0-α1|/α0)×100(式中、α0はLフィルターで処理する前のα値であり、α1はLフィルターで処理した後のα値である)が80%以下を満たすように設定される。Lフィルターのカットオフ値は、より好ましくはSa1が0.3μm以下であり、かつ、α値の変化率が70%以下、さらに好ましくはSa1が0.001μm以上0.3μm以下であり、かつ、α値の変化率が0.1%以上60%以下、特に好ましくはSa1が0.005μm以上0.2μm以下であり、かつ、α値の変化率が1%以上40%以下であるように設定される。すなわち、Sa1は0.5μm以下が好ましく、より好ましくは0.3μm以下、さらに好ましくは0.001μm以上0.3μm以下、特に好ましくは0.005μm以上0.2μm以下である。Sa1が上記範囲内であると、高周波特性に影響を及ぼしにくいうねり成分を効果的に除去することができる。また、α値の変化率は80%以下が好ましく、より好ましくは70%以下、さらに好ましくは0.1%以上60%以下、特に好ましくは1%以上40%以下である。α値の変化率が上記範囲内であると、高周波特性に大きな影響を及ぼす粗さ成分(コブ成分)を確実に残すことができる。つまり、粗さ成分を除去するカットオフ値でフィルター処理を行った場合、α値の変化率が大きくなる。このため、α値の変化率を上記範囲内に制御することにより、高周波特性の評価に必要な粗さ成分が除去されることを効果的に抑制することができる。したがって、上記条件を満たすようにLフィルターのカットオフ値を設定することで、後述する工程において、高周波特性との高い相関を示す表面処理銅箔の表面パラメータを算出することができる。
【0035】
Lフィルターのカットオフ値の設定は、以下のようにして行われてもよい。まず、暫定的に複数のLフィルターのカットオフ値を使用してリファレンス銅箔10の表面プロファイルを解析し、カットオフ値ごとの表面パラメータを算出する。そして、算出された表面パラメータに基づいて、上記複数のカットオフ値の中から好ましいカットオフ値を特定する。このようなカットオフ値の特定は、例えば本明細書の実施例に記載される諸条件に従って変化点を求めることにより、好ましく行うことができる。特に、最適なカットオフ値をより確実に設定する観点から、ISO25178で規定される表面パラメータ(例えばSdr又はα値)の2階微分を行い、Lフィルターのカットオフ値を設定するのが好ましい。
【0036】
(3)測定対象銅箔の表面プロファイル取得
図5(ii)に示されるように、測定対象としての表面処理銅箔10’の処理表面における表面プロファイルを取得する。なお、本明細書において、測定対象としての表面処理銅箔を「測定対象銅箔」と称することがある。この測定対象銅箔10’は、リファレンス銅箔10と同等の条件によって製造又は処理されたものである。このような例としては、リファレンス銅箔10と測定対象銅箔10’とが、互いに同一仕様で別ロットの製品である場合が挙げられる。ただし、リファレンス銅箔10及び測定対象銅箔10’の処理表面における表面プロファイルの取得箇所が互いに異なる場合、両者は同一製品であってもよい。すなわち、本発明の方法は、ロール状のように長尺の表面処理銅箔を製造する場合に、例えば製造ロットの初期及び後期における表面処理状態の変化を確認するために好ましく利用することができる。
【0037】
このように、本発明による銅箔の表面パラメータの測定方法は、製品管理や品質保証等に好ましく用いることができる。すなわち、本発明の工程を経て取得された表面パラメータを利用することで、後述するとおり良品質の製品を簡便かつ確実に選別及び出荷することができる。例えば、測定対象銅箔10’の表面プロファイルの測定及び表面パラメータの算出は、測定対象銅箔10’の製造直後に行われるものであってもよく、出荷前検査時に行われるものであってもよい。
【0038】
測定対象銅箔10’の表面プロファイル取得は、AFM(原子間力顕微鏡)、接触式表面粗さ測定器、非接触式表面粗さ測定器等、様々な公知の機器を用いることができる。例えば非接触式表面粗さ測定器である市販のレーザー顕微鏡を用いて測定対象銅箔10’の表面を測定することにより、表面プロファイル取得を好ましく行うことができる。レーザー顕微鏡による測定条件は、例えばリファレンス銅箔10の表面プロファイル取得に関して上述した条件をそのまま採用することができる。
【0039】
(4)測定対象銅箔の表面プロファイルのフィルター処理
測定対象としての表面処理銅箔10’について取得された表面プロファイルをフィルター処理する。このフィルター処理は、上述したリファレンス銅箔10の表面プロファイルに基づいて設定されたカットオフ値のLフィルターを用いて処理することを含む。こうすることで、上述のとおり高周波特性に影響を及ぼしにくい銅箔のうねり成分を選択的に除去することができ、高周波特性に大きな影響を及ぼす粗さ成分を反映した表面パラメータを算出することが可能となる。
【0040】
上記フィルター処理は、Sフィルターを用いることなく行われるのが好ましい。Sフィルターによる処理を行った場合、Sフィルターのカットオフ値より小さな凹凸が平均化される(除去される)ことになる。したがって、Sフィルターを用いることなくフィルター処理を行うことで、測定対象銅箔10’に存在する小さなコブ(粗化粒子等)を確実に検出することができ、結果として高周波特性との相関がより一層高い表面パラメータを算出することが可能となる。
【0041】
(5)測定対象銅箔の表面パラメータ算出
フィルター処理後の表面プロファイルに基づき、測定対象としての表面処理銅箔10’の処理表面における、ISO25178で規定される表面パラメータのうち少なくとも1種を算出する。上述した工程を経て算出された表面パラメータは、うねり成分の影響が十分に排除され、表面処理銅箔の粗さ成分が的確に反映されたパラメータであり、それ故、高周波特性を精度良く予測できる。その結果、銅箔作製のたびに実際に高周波特性の評価を行うことが不要となり、作業時間及び材料の無駄を省くことが可能となる。
【0042】
算出される表面パラメータの好ましい例としては、Sa、Sq、Sz、Sdr、Vmc、Sk、及びそれらの組合せ(例えばα値)が挙げられ、より好ましくはSa、Sq、Sdr、Vmc、Sk及びそれらの組合せ、さらに好ましくはSa、Sdr、Vmc、Sk及びそれらの組合せ、特に好ましくはSa、Sdr及びそれらの組合せである。これらの表面パラメータであると、高周波特性との相関がより一層高いものとなる。
【0043】
銅箔の選別方法
本発明の好ましい態様によれば、銅箔の選別方法が提供される。この銅箔の選別方法は、上述した方法に基づき銅箔の表面パラメータを測定する工程と、所定の表面パラメータを有する銅箔を、高周波用途向けプリント配線板に適した銅箔として選別する工程とを含む。
【0044】
本態様において測定される銅箔の表面パラメータは、Sa、Sq、Sz、Sdr、Vmc及びSkからなる群から選択される少なくとも1種である。そして、Sa、Sdr、Vmc及び/又はSkが表1に示される範囲内の表面を有する銅箔を、高周波用途向けプリント配線板に適した銅箔として選別する。
【0045】
【0046】
上述のとおり、本発明の方法により測定された銅箔の表面パラメータは、高周波特性との高い相関を有するため、高周波特性の代替指標として利用することができる。この点、上記範囲内の表面パラメータを満たす表面を有する銅箔は、高周波特性にとりわけ優れたものと判定することができ、それ故、高周波用途向けプリント配線板に適した銅箔といえる。
【0047】
プリント配線板の製造方法
本発明の好ましい態様によれば、高周波用途向けプリント配線板の製造方法が提供される。このプリント配線板の製造方法は、上述した方法により得られた銅箔を用いて高周波用途向けプリント配線板を製造する工程を含む。プリント配線板は公知の層構成が採用可能である。すなわち、プリント配線板の製造は、本発明の方法により選別された表面処理銅箔を用いること以外は、公知の手法及び条件を採用することができ、特に限定されない。
【0048】
本発明の方法により製造されたプリント配線板は、1GHz以上の高周波用途に使用されるのが好ましく、より好ましくは3GHz以上、さらに好ましくは20GHz以上300GHz以下である。
【実施例】
【0049】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0050】
[例A1~A3]
本発明の方法に従って、リファレンス銅箔の表面プロファイルに基づきLフィルターのカットオフ値を設定し、測定対象銅箔の表面パラメータと高周波特性との相関関係を確認した。具体的には、以下のとおりである。
【0051】
例A1
(1)リファレンス銅箔の用意
まず、未処理銅箔として、電解製箔されたままの銅箔(析離箔)を以下のとおり2種類用意した。
‐未処理銅箔I:厚さ18μm、特許文献2(特開平9-241882号公報)に開示される方法により製造
‐未処理銅箔II:厚さ18μm、特許文献3(WO2008/041706A1)に開示される方法により製造
【0052】
次いで、 表2に示されるように、未処理銅箔I又はIIの電極面又は析出面に対して、公知の条件で表面処理(粗化処理)を行うことにより、リファレンス銅箔として、表面粗さの異なる5種類の表面処理銅箔(銅箔a~e)を作製した。なお、銅箔a、c及びeは、未処理銅箔IIの析出面に対してそれぞれ異なる条件で粗化処理を行っており、それ故、互いに異なる表面粗さを有している。また、作製された銅箔a~eはいずれも市販品と同等の性質(表面粗さや高周波特性等)を有するものである。
【0053】
(2)リファレンス銅箔の表面プロファイル取得
レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、OLS-5000)を用いて、測定面積4096μm2及び倍率200倍の条件で、作製した表面処理銅箔の処理表面を測定し、表面プロファイルを取得した。
【0054】
(3)Lフィルターのカットオフ値設定
得られたリファレンス銅箔の表面プロファイルを解析することにより、Sa、Sdr、Vmc及びSkを算出した。具体的には、Lフィルターのカットオフ値を0.3μm、0.5μm、1.0μm、1.5μm、2.0μm、2.5μm、3.0μm、3.5μm、4.0μm、4.5μm、5.0μm、6.0μm、7.0μm、8.0μm、9.0μm、10μm、30μm及び64μmと変更して解析を行うことで、各カットオフ値によるLフィルター処理後のSa、Sdr、Vmc及びSkを算出した。また、Lフィルターによるカットオフを行わない条件でのSdr、Vmc及びSkも同様に算出した。算出されたSdr、Vmc及びSkに基づき、α値(=(Vmc/Sk)×Sdr)を計算するとともに、Lフィルター処理前後におけるSdrの2階微分及びα値の2階微分を計算した。参考のため、銅箔bにおける、各カットオフ値によるLフィルター処理後のSdr及びα値を
図6A及び6Bにそれぞれ示すとともに、Lフィルター処理前後におけるSdrの2階微分を
図7に示す。また、銅箔dにおける、各カットオフ値によるLフィルター処理後のSdr及びα値を
図8A及び8Bにそれぞれ示すとともに、Lフィルター処理前後におけるSdrの2階微分を
図9に示す。さらに、銅箔eにおける、各カットオフ値によるLフィルター処理後のSdr及びα値を
図10A及び10Bにそれぞれ示すとともに、Lフィルター処理前後におけるSdrの2階微分を
図11に示す。
【0055】
各カットオフ値によるLフィルター処理後のSdr及びα値、並びにSdrの2階微分の計算結果より、銅箔a~eにおいて、Sdr及びα値が変化点となるLフィルターのカットオフ値をそれぞれ確認した。その結果、銅箔a及び銅箔bはカットオフ値が4.0μmのときに、銅箔c及びdはカットオフ値が3.5μmのときに、銅箔eはカットオフ値が3.0μmのときに、それぞれSdr及びα値が変化点となることが確認された。そして、これらのカットオフ値でLフィルター処理を行ったとき、銅箔a~eにおけるSdrの変化率及びα値の変化率はいずれも80%以下であり、かつ、Lフィルター処理後のSa(つまりSa1)の値はいずれも0.5μm以下であることが確認された。以上の結果より、銅箔a~eにおけるLフィルターのカットオフ値を、表2に示すようにそれぞれ設定した。なお、ここでいう「変化点」とは、カットオフ値及び表面パラメータ(ここではSdr及びα値)の関係を示すグラフにおいて、グラフの傾きが大きく変化する点である。カットオフ値を変化点よりも小さな値にすると、実際には表面に存在する小さな凹凸が平均化される(除去される)領域に入ることを示している。ただし、「変化点」を厳密かつ一義的に定めることは難しいため、ある程度の幅が許容される概念である。カットオフ値及び表面パラメータの関係における2階微分を用いると「変化点」を見極める精度が高まり、より好適なカットオフ値を設定する一助となる。本実施例では銅箔a~eの処理表面におけるSdr及びα値をそれぞれ2階微分した値を用いて「変化点」を求めた。2階微分の算出に際しては、誤差を小さくするため3区間移動平均を使用した。
【0056】
(4)測定対象銅箔の用意
上記(1)で作製したリファレンス銅箔(銅箔a~e)と同一の条件を用いて、測定対象銅箔としての5種類の表面処理銅箔(銅箔a’~e’)をそれぞれ作製した。
【0057】
(5)測定対象銅箔の表面プロファイル取得
レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製、OLS-5000)を用いて、測定面積4096μm2及び倍率200倍の条件で測定対象銅箔の処理表面を測定し、表面プロファイルを取得した。
【0058】
(6)フィルター処理及び表面パラメータ算出
各測定対象銅箔の表面プロファイルをフィルター処理した。このとき、表2に示されるとおり、Lフィルターのカットオフ値を上記(3)で設定した数値、すなわち銅箔a及び銅箔bについては4.0μm、銅箔c及びdについては3.5μm、銅箔eについては3.0μmとした。このフィルター処理は、Sフィルターによる処理は行わず、Lフィルターによる処理のみを行った。フィルター処理後の表面プロファイルに基づき、Sa、Sdr、Vmc及びSkを算出するとともに、α値を計算した。結果は表2に示されるとおりであった。
【0059】
(7)高周波特性の評価
絶縁樹脂基材として高周波用基材(パナソニック製、MEGTRON6N)を用意した。この絶縁樹脂基材の両面に表面処理銅箔(銅箔a’~e’)をその処理表面が絶縁樹脂基材と当接するように積層し、真空プレス機を使用して、温度190℃、プレス時間120分の条件で積層し、絶縁厚さ136μmの銅張積層板を得た。その後、当該銅張積層板にエッチング加工を施し、特性インピーダンスが50Ωになるようマイクロストリップラインを形成した伝送損失測定用基板を得た。得られた伝送損失測定用基板に対して、ネットワークアナライザー(キーサイトテクノロジー製、N5225B)を用いて、50GHzの伝送損失(dB/cm)を測定した。結果は表2に示されるとおりであった。
【0060】
(8)表面パラメータ及び高周波特性の相関関係
伝送損失を横軸とし、表面パラメータ(Sdr又はα値)を縦軸として、各銅箔の評価結果をプロットした。このプロットデータに基づき、線形近似(最小二乗法)により回帰式を求めるとともに、決定係数R2を算出した。その結果、Sdrを縦軸とした場合の回帰式における決定係数R2は0.9786であり、α値を縦軸とした場合の回帰式における決定係数R2は0.9717であった。
【0061】
【0062】
例A2
リファレンス銅箔(銅箔a~e)において、Lフィルターのカットオフ値を5.0μmと設定したこと、すなわちLフィルターのカットオフ値を5.0μmとして測定対象銅箔(銅箔a’~e’)における表面プロファイルのフィルター処理を行ったこと以外は、例A1と同様にして表面パラメータ及び高周波特性の相関関係を確認した。ここで、Lフィルターのカットオフ値を5.0μmとしたときに、銅箔a~eにおけるSdrの変化率及びα値の変化率はいずれも80%以下であり、かつ、Lフィルター処理後のSa(つまりSa1)の値はいずれも0.5μm以下であった。
【0063】
その結果、Sdrを縦軸とした場合の回帰式における決定係数R
2は0.9666であり、α値を縦軸とした場合の回帰式における決定係数R
2は0.9518であった。なお、例A1では、Sdr及びα値の変化点を4.0μm(銅箔a及び銅箔b)、3.5μm(銅箔c及び銅箔d)又は3.0μm(銅箔e)とみなしているが、これらは例A2におけるカットオフ値の設定値(5.0μm)とは相違する。この点、
図6A、6B、8A、8B、10A及び10Bに示されるように、カットオフ値が3.0μm以上5.0μm以下の範囲において、Sdr及びα値の変化が小さいことから、上記カットオフ設定値は変化点として許容されるものである。
【0064】
例A3
リファレンス銅箔(銅箔a~e)において、Lフィルターのカットオフ値を2.0μmと設定したこと、すなわちLフィルターのカットオフ値を2.0μmとして測定対象銅箔(銅箔a’~e’)における表面プロファイルのフィルター処理を行ったこと以外は、例A1と同様にして表面パラメータ及び高周波特性の相関関係を確認した。ここで、Lフィルターのカットオフ値を2.0μmとしたときに、銅箔a~eにおけるSdrの変化率及びα値の変化率はいずれも80%以下であり、かつ、Lフィルター処理後のSa(つまりSa1)の値はいずれも0.5μm以下であった。
【0065】
その結果、Sdrを縦軸とした場合の回帰式における決定係数R
2は0.9687であり、α値を縦軸とした場合の回帰式における決定係数R
2は0.9609であった。なお、例A1では、Sdr及びα値の変化点を4.0μm(銅箔a及び銅箔b)、3.5μm(銅箔c及び銅箔d)又は3.0μm(銅箔e)とみなしているが、これらは例A3におけるカットオフ値の設定値(2.0μm)とは相違する。この点、
図6A、6B、8A、8B、10A及び10Bに示されるように、カットオフ値が2.0μm以上4.0μm以下の範囲において、Sdr及びα値の変化が小さいことから、上記カットオフ設定値は変化点として許容されるものである。
【0066】
例A1~A3における、銅箔の表面パラメータ(Sdr又はα値)と伝送損失との回帰式の決定係数R
2を比較したグラフを
図12に示す。
図12に示されるように、例A1~A3のいずれにおいても、表面パラメータ及び高周波特性の相関は良好であった。すなわち、リファレンス銅箔(銅箔a~e)を用いてLフィルターのカットオフ値を所定の条件に基づき予め設定することにより、測定対象銅箔(銅箔a’~e’)の表面パラメータが高周波特性を的確に反映することを確認した。また、リファレンス銅箔の表面パラメータに応じて個別にカットオフ値を設定して算出された表面パラメータ(例A1で算出された表面パラメータ)は、Lフィルターのカットオフ値を固定して算出された表面パラメータ(例A2及びA3で算出された表面パラメータ)と比較して、高周波特性との相関がより良好な結果となった。これにより、従来は表面処理銅箔を用いて高周波特性評価用のサンプル基板を逐一作製して、評価を行う必要があったところ、当該作業が不要となったため、作業時間の短縮及び材料の無駄の低減に繋がった。
【0067】
[例B1~B8]
Lフィルターのカットオフ値を変更することで、所定の条件を満たす場合に表面処理銅箔の表面パラメータが高周波特性と高い相関を示すことを確認した。具体的には、以下のとおりである。
【0068】
例B1(比較)
(1)リファレンス銅箔の用意
例A1と同様にして、表面粗さの異なる5種類の表面処理銅箔(銅箔a~e)をリファレンス銅箔として用意した。
【0069】
(2)リファレンス銅箔の表面プロファイル取得
例A1と同様にして、リファレンス銅箔の処理表面における表面プロファイルを取得した。
【0070】
(3)Lフィルターのカットオフ値設定
得られたリファレンス銅箔の各表面プロファイルについて、Lフィルターのカットオフ値を64μmとして解析を行うことで、Sa、Sdr、Vmc及びSkを算出した。その結果、銅箔bにおけるLフィルター処理後のSa(すなわちSa1)が0.5μmを超える値であることが確認された。また、Lフィルターによるカットオフを行わない条件でのSdr、Vmc及びSkを算出した。算出されたSdr、Vmc及びSkに基づき、α値(=(Vmc/Sk)×Sdr)を計算するとともに、Lフィルター処理前後におけるSdrの変化率、及びα値の変化率を計算した。その結果、銅箔a~eは、いずれもSdrの変化率及びα値の変化率が80%以下であった。
【0071】
(4)測定対象銅箔の用意
例A1と同様にして、表面粗さの異なる5種類の表面処理銅箔(銅箔a’~e’)を測定対象銅箔として用意した。
【0072】
(5)測定対象銅箔の表面プロファイル取得
例A1と同様にして、測定対象銅箔の処理表面をレーザー顕微鏡で測定し、表面プロファイルを取得した。
【0073】
(6)フィルター処理及び表面パラメータ算出
各銅箔の表面プロファイルをフィルター処理した。このとき、Lフィルターのカットオフ値は64μmとした。このフィルター処理は、Sフィルターによる処理は行わず、Lフィルターによる処理のみを行った。フィルター処理後の表面プロファイルに基づき、Sa、Sq、Sz、Sdr、Vmc及びSkを算出するとともに、α値を計算した。
【0074】
(7)高周波特性の評価
例A1と同様にして、銅箔a’~e’を用いて伝送損失測定用基板をそれぞれ作製し、50GHzの伝送損失を測定した。
【0075】
(8)表面パラメータ及び高周波特性の相関関係
伝送損失を横軸とし、表面パラメータ(Sa、Sq、Sz、Sdr、Vmc、Sk又はα値)を縦軸として、各銅箔の評価結果をプロットした。このプロットデータに基づき、線形近似(最小二乗法)により回帰式を求めるとともに、決定係数R
2を算出した。結果は表3に示されるとおりであった。参考のため、銅箔a~eにおけるSaと高周波特性との相関関係を表すグラフを
図13に示す。
【0076】
例B2~B7
リファレンス銅箔を用いたLフィルターのカットオフ値の設定、及び測定対象銅箔における表面プロファイルのLフィルター処理において、表3に示すようにカットオフ値を1.0~10μmに変更したこと以外は、例B1と同様にして表面パラメータと高周波特性との相関関係を確認した。結果は表3に示されるとおりであった。
【0077】
銅箔a~eにおけるSdrの変化率と、高周波特性との相関関係(決定係数R
2)を表すグラフを
図14に示すとともに、銅箔a~eにおけるα値の変化率と高周波特性との相関関係(決定係数R
2)を表すグラフを
図15に示す。
図14及び15に示されるように、Lフィルターのカットオフ値を1.0~10μmとした場合、銅箔a~eの処理表面におけるSdrの変化率及びα値の変化率は、いずれも80%以下であった。また、Lフィルターのカットオフ値を1.0~10μmとした場合の銅箔a~eの処理表面におけるSaの値は、いずれも0.5μm以下であった。参考のため、例B3(Lフィルターのカットオフ値5μm)の銅箔a~eにおけるLフィルター処理後のSa(つまりSa1)と、高周波特性との相関関係を表すグラフを
図16に示す。
【0078】
例B8(比較)
リファレンス銅箔を用いたLフィルターのカットオフ値の設定、及び測定対象銅箔における表面プロファイルのLフィルター処理において、カットオフ値を0.5μmに変更したこと以外は、例B1と同様にして表面パラメータと高周波特性との相関関係を確認した。結果は表3に示されるとおりであった。
【0079】
例B8におけるSdrの変化率と、高周波特性との相関関係(決定係数R
2)を表すグラフを
図14に示すとともに、例B8におけるα値の変化率と、高周波特性との相関関係(決定係数R
2)を表すグラフを
図15に示す。
図14及び15に示されるように、Lフィルターのカットオフ値を0.5μmとした場合、銅箔a、銅箔b、銅箔d及び銅箔eの処理表面におけるSdrの変化率及びα値の変化率は、いずれも80%を超える値であった。また、Lフィルターのカットオフ値を0.5μmとした場合の銅箔a~eの処理表面におけるSaの値は、いずれも0.5μm以下であった。
【0080】