(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】ステントデリバリカテーテル
(51)【国際特許分類】
A61F 2/958 20130101AFI20231120BHJP
【FI】
A61F2/958
(21)【出願番号】P 2022082742
(22)【出願日】2022-05-20
(62)【分割の表示】P 2020125575の分割
【原出願日】2015-07-06
【審査請求日】2022-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2014254082
(32)【優先日】2014-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌洋
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-061063(JP,A)
【文献】米国特許第06190403(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトの先端部分にバルーンが装着されていると共に、折り畳み状態とされた該バルーンにステントが装着されており、該ステントが軸方向に折り返しながら周方向に延びる骨格構造を有しているステントデリバリカテーテルにおいて、
前記シャフトにおける前記バルーンと前記ステントの装着部分には
、シャフト本体の外周面に対して被覆部材が装着されて、該被覆部材によって該シャフトの外径寸法を大きくした大径部が該ステントの全長に亘って設けられており、
該大径部は軸方向の両側部分において外径寸法が大きくされていると共に、かかる外径寸法が大きくされた軸方向の両側部分に対して該ステントの軸方向の両端部が重ね合わされており、
該被覆部材の先端から該シャフトが露出して延びだしており、
ラッピング状態とされた該バルーンの先端部分が、該ステントよりも先端側に延びだして該被覆部材よりも小径で露出された該シャフトの外周面に対して接していることで先細形状の外周面を有していることを特徴とするステントデリバリカテーテル。
【請求項2】
前記ステントの折り返しは略円弧状に湾曲したターン部を含んでいると共に、周方向における該ターン部の数が10~12個とされており、冠動脈用として用いられる請求項1に記載のステントデリバリカテーテル。
【請求項3】
前記シャフト本体の外径寸法が0.5~0.6mmであり、
前記被覆部材の径方向幅寸法が0.1~0.5mmである
請求項1又は2に記載のステントデリバリカテーテル。
【請求項4】
前記シャフトにはガイドワイヤが挿通されるガイドワイヤルーメンが設けられている請求項1~3の何れか1項に記載のステントデリバリカテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管腔内の狭窄部位にステントをデリバリするためのステントデリバリカテーテルに係り、特に波数の多いステントをデリバリするステントデリバリカテーテルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、血管等の管腔に狭窄や閉塞などの異常が発生した場合に、例えばステントデリバリカテーテルによりステントを管腔内の病変部へデリバリする。そして、当該ステントを拡張して管腔壁に押し付けることにより、管腔を広げた状態に保持するステント治療が行われている。ステントは、管腔へ挿入する際には小径とされるが、管腔内で拡径されて留置される。ステントの管腔内での拡径方法としては、形状記憶材料等による自己拡張や機械的拡張などの他、バルーンによる拡張がある。
【0003】
すなわち、ステントをバルーンにより拡張する場合には、特開2014-61191号公報(特許文献1)に記載のステントデリバリカテーテルのように、シャフトの先端部分に対して、バルーンを折り畳んだ状態で外挿装着すると共に、この折り畳まれたバルーンに対してステントが外挿装着されて縮径処理が施される。そして、かかるステントデリバリカテーテルの先端部分を管腔内の病変部に挿通して、バルーンを拡張させることにより、バルーンに外挿装着されたステントが拡径して管腔壁に押し付けられる。その後、バルーンを収縮させてカテーテルを抜き取ることにより、ステントが管腔内に留置される。
【0004】
ところで、管腔内に留置されるステントとしては、例えば1本の線状体が軸方向に折り返しながら周方向に螺旋状または筒状に連続して延びる骨格のステント等が採用される。かかるステントは、例えば太い管腔等に対して留置される場合には、周方向における波数(屈曲部の数)が多く、拡径時等に大きく広がるステントが好適に採用される。
【0005】
一方、ステントデリバリカテーテルの先端部分に装着されるバルーンは、カテーテル先端部分の柔軟性を確保するために、膜厚の小さなバルーンが好ましい。
【0006】
ところが、膜厚の小さなバルーンは折畳み時のバルーンの外径が小さくなることから、波数の多いステントを外挿装着して縮径処理を施すと、ステントが均一に縮径されないおそれがあった。具体的には、ステントの周方向で隣り合うストラットが部分的に重なり合うおそれがあった。また、これにより、バルーンを拡張してステントを拡径する際に、ステントが均一に拡張しないという不具合が発生するおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、バルーンへのステントの装着時において、特に波数の多いステントの装着時においても、ステントを均一に縮径して装着することができる、新規な構造のステントデリバリカテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0010】
すなわち、本発明は、
(1) シャフトの先端部分にバルーンが装着されていると共に、折り畳み状態とされた該バルーンにステントが装着されており、該ステントが軸方向に折り返しながら周方向に延びる骨格構造を有しているステントデリバリカテーテルにおいて、前記シャフトにおける前記バルーンと前記ステントの装着部分には、シャフト本体の外周面に対して被覆部材が装着されて、該被覆部材によって該シャフトの外径寸法を大きくした大径部が該ステントの全長に亘って設けられており、該大径部は軸方向の両側部分において外径寸法が大きくされていると共に、かかる外径寸法が大きくされた軸方向の両側部分に対して該ステントの軸方向の両端部が重ね合わされており、該被覆部材の先端から該シャフトが露出して延びだしており、ラッピング状態とされた該バルーンの先端部分が、該ステントよりも先端側に延びだして該被覆部材よりも小径で露出された該シャフトの外周面に対して接していることで先細形状の外周面を有していることを特徴とするステントデリバリカテーテル。
(2) 前記ステントの折り返しは略円弧状に湾曲したターン部を含んでいると共に、周方向における該ターン部の数が10~12個とされており、冠動脈用として用いられる(1)に記載のステントデリバリカテーテル、
(3) 前記シャフト本体の外径寸法が0.5~0.6mmであり、 前記被覆部材の径方向幅寸法が0.1~0.5mmである(1)又は(2)に記載のステントデリバリカテーテル、
(4) 前記シャフトにはガイドワイヤが挿通されるガイドワイヤルーメンが設けられている(1)~(3)の何れか1項に記載のステントデリバリカテーテル、に関する。
【0011】
本発明に従う構造とされたステントデリバリカテーテルによれば、シャフトにおけるステントの装着部分に大径部を設けたことから、折畳み時のバルーンの外径を大きく調節設定することができる。これにより、バルーンに装着されるステントの不均一な縮径が回避され得て、ステントが安定して装着され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施形態としてのステントデリバリカテーテルの全体を示す正面図。
【
図2】
図1に示されるステントデリバリカテーテルの要部を拡大して示す正面図。
【
図3】
図2に示されるステントデリバリカテーテルの要部における縦断面図。
【
図5】本発明において採用され得るステントの具体的1例を示す図であって、周方向の1か所で切り開いた展開図。
【
図6】本発明の第2の実施形態としてのステントデリバリカテーテルにおけるシャフトの大径部を示す縦断面図。
【
図7】本発明の第3の実施形態としてのステントデリバリカテーテルにおける要部の縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0014】
先ず、
図1~4には、本発明の第1の実施形態としてのステントデリバリカテーテル(以下、カテーテル)10が示されている。このカテーテル10の先端部分にはバルーン12が装着されていると共に、当該バルーン12にはステント14が外挿装着されている。そして、かかるカテーテル10によりステント14が血管等の管腔の狭窄部位にデリバリされて留置されることにより、管腔の狭窄部位が拡張状態で維持されるようになっている。なお、以下の説明において、近位端側とは使用者がカテーテル10を操作する側である
図1中の右側を言い、遠位端側とは使用時において使用者に対して遠方となる
図1中の左側を言う。また、軸方向とは、カテーテル10の長さ方向である
図1中の左右方向を言う。
【0015】
より詳細には、本実施形態のカテーテル10は、カテーテル本体16の近位端側にコネクタ18が設けられた構造とされている。このカテーテル本体16は、遠位端側のディスタールシャフト20と近位端側のプロキシマルシャフト22とが、軸方向で接続されることによって構成されている。
【0016】
このプロキシマルシャフト22は軸方向に延びる単管構造とされており、例えばポリアミドエラストマー等の合成樹脂やステンレス鋼等の金属により形成される。そして、かかるプロキシマルシャフト22の近位端がコネクタ18に接続されており、プロキシマルシャフト22の内腔がコネクタ18を通じて外部空間に連通されている。
【0017】
一方、ディスタールシャフト20は、全体としてシャフトとしてのインナーシャフト24とアウターシャフト26との2重管構造とされている。このインナーシャフト24は、インナーシャフト本体28を含んで構成されており、インナーシャフト本体28の外径寸法がアウターシャフト26の内径寸法より小さくされている。また、インナーシャフト本体28の近位端がアウターシャフト26に挿入されていると共に、インナーシャフト本体28の遠位端がアウターシャフト26の遠位端から突出している。
【0018】
ここで、アウターシャフト26は軸方向に延びるチューブ状とされており、ポリアミドエラストマー等の合成樹脂により形成されている。かかるアウターシャフト26の外径寸法はプロキシマルシャフト22と略等しくされており、アウターシャフト26の近位端とプロキシマルシャフト22の遠位端とが接続されている。これにより、アウターシャフト26の内腔とプロキシマルシャフト22の内腔とが連通されている。
【0019】
また、インナーシャフト本体28は、全体として軸方向に延びるチューブ状とされており、例えばポリアミドエラストマー等の合成樹脂によって形成されている。かかるインナーシャフト本体28の遠位端には先端チップ30が固着されている。この先端チップ30は円筒形状とされており、インナーシャフト本体28と略同じ外径寸法を有している。一方、インナーシャフト本体28の近位端は、屈曲してアウターシャフト26の外周面に開口している。これにより、インナーシャフト本体28の内腔が、カテーテル10の先端と軸方向中間部分に開口するルーメンとされており、このルーメンが、カテーテル10を案内するためのガイドワイヤが挿通されるガイドワイヤルーメン32となっている。即ち、本実施形態のカテーテル10は、ガイドワイヤルーメンがカテーテルの軸方向全長よりも短いラピッドエクスチェンジ型のカテーテルとされている。
【0020】
かかる構造とされたインナーシャフト24の先端部分には、バルーン12が装着されている。このバルーン12は、内部に流体を導入および排出することによって拡張および収縮が選択可能とされており、薄膜の合成樹脂やゴム膜等により形成される筒状乃至袋状の部材とされている。なお、バルーン12の材質は何等限定されるものではないが、本実施形態では、ナイロン樹脂により形成されており、バルーン12は、内部に流体を供給して拡張する際に、加える圧力に対して外径寸法の変化が小さいローコンプライアントバルーンとされている。また、バルーン12は、インナーシャフト24の柔軟性への影響を抑えるために、拡張時に後述するステント14を拡径可能な強度を確保しつつ、できるだけ薄肉とされていることが望ましい。
【0021】
そして、バルーン12の遠位端がインナーシャフト本体28の遠位端や先端チップ30の外周面に接着等により固着されている一方、バルーン12の近位端がアウターシャフト26の遠位端の外周面に接着等により固着されている。従って、インナーシャフト本体28とアウターシャフト26との径方向間の空間が、バルーン12の内部空間に連通されている一方、プロキシマルシャフト22を通じて外部空間に連通されている。これにより、インナーシャフト本体28とアウターシャフト26との径方向間の空間を通じて、外部空間からバルーン12の内部空間に流体を導入および排出可能とされており、このバルーン12の内部空間から外部空間に至る内腔が、バルーン12に対して流体を給排する給排ルーメン33とされている。
【0022】
また、バルーン12の軸方向両端部分におけるインナーシャフト本体28の外周面には、略円筒形状のマーカー34,34が外挿されている。これらのマーカー34,34は、X線に対して不透過性を示すプラチナ等の材料により形成されている。
【0023】
なお、初期状態のバルーン12は、
図4に示すように、径方向で重なるように周方向に折り畳まれたラッピング状態とされている。
【0024】
このバルーン12には、全体として軸方向に延びる略筒状のステント14が外挿装着されている。ステントの形状は軸方向に折り返しながら周方向に延びる骨格構造を有していれば何等限定されるものではないが、本実施形態のステント14は、具体的な1例として
図5に展開図を示すように、1本の線状体36が略一定の振幅で軸方向に往復しながら全体として周方向に螺旋状に延びる骨格構造を有している。特に、1周における周方向の波数、即ち線状体36の1周における周期構造の繰り返し単位の数が、一般的な冠動脈用ステントより多い10~12とされることが好適であり、本実施形態のステント14では12波とされている。また、ステントの材質は何等限定されるものではないが、本実施形態のステント14では、コバルトクロム合金により形成されている。なお、このステント14は、
図2にも示されているように、1本の線状体36が複数の環状体38を構成しており、且つ当該複数の環状体38が軸方向に並列する構造とされており、軸方向で隣り合う環状体38,38が周方向の適当な箇所で接続されて補強されていてもよい。
【0025】
上記の如き一般的なステントより波数の多いステントが採用されることにより、拡径時にステントを一層大きく拡径することができて、例えばより太い管腔や分岐した管腔にも対応可能となる。また、波数が多いことから線状体36の表面積を大きくすることができて、薬剤溶出性ステント(DES)として採用する場合には、線状体36の表面に塗布される薬剤の量を増大させることができる。
【0026】
かかるステント14が、初期状態では、機械的に縮径される等して、
図2等に示すようにバルーン12に外挿装着されている。
【0027】
ここにおいて、インナーシャフト24におけるステント14の装着部分には、当該装着部分の近位端側隣接部40よりも外径寸法が大きくされた大径部42が設けられている。本実施形態では、ステント14の装着部分において、インナーシャフト本体28の外周面に対して被覆部材44が装着されることにより、ステント14の装着部分の近位端側隣接部40よりも外径寸法が大きくされた大径部42が構成されている。また、本実施形態では、これらインナーシャフト本体28と被覆部材44とによってインナーシャフト24が構成されている。
【0028】
この被覆部材44は、軸方向に延びる略チューブ状とされており、本実施形態では、ステント14の軸方向寸法と略同じか僅かに大きい軸方向寸法を有していると共に、軸方向の全長に亘って略一定の外径寸法を有している。即ち、本実施形態では、大径部42の外径寸法が、全体に亘って略一定とされている。そして、かかる被覆部材44の外周側において、ステント14がバルーン12上に装着されるようになっている。なお、被覆部材44の材質は何等限定されるものではないが、インナーシャフト本体28よりも硬度が小さい材質を採用することが好適であり、例えばポリアミドエラストマーやポリエステルエラストマー、ポリウレタン等の合成樹脂が好適に採用され得る。
【0029】
また、被覆部材44のインナーシャフト本体28への装着方法も何等限定されるものではないが、例えば溶剤に溶かした合成樹脂材をインナーシャフト本体28へ塗布して乾燥させたり、熱収縮性を有するチューブ状の部材をインナーシャフト本体28へ外挿して熱を加えることにより、当該チューブ状の部材をインナーシャフト本体28へ密着させたりしてもよい。特に、本実施形態の被覆部材44は、全体に亘って略一定の外径寸法を有していることから、外径寸法を異ならせるための特別な操作等を要することがなく、被覆部材44が容易に製造され得る。
【0030】
さらに、かかる被覆部材44の径方向幅寸法α(
図4参照)は、特に限定されるものではないが、例えばインナーシャフト本体28の外径寸法φA(
図4参照)が0.5mm~0.6mm、縮径時のバルーン12の外径寸法φB(
図4参照)が2mm~3mmとされる際には、0.1mm~0.5mmの範囲内に設定されることが好ましい。なお、インナーシャフト本体または縮径時のバルーン、或いはその両方の外径寸法が上記範囲外とされる場合には、被覆部材の径方向幅寸法は適宜設定され得る。
【0031】
本実施形態のステントデリバリカテーテル10の使用方法としては、先ず、ラッピング状態とされたバルーン12の外周側にステント14を配置して、機械的処理などにより縮径することでステント14をバルーン12に外挿装着する。そして、かかるカテーテル10を管腔内に挿入すると共に、管腔の狭窄部に予め挿通されたガイドワイヤに外挿して、即ちガイドワイヤルーメン32内にガイドワイヤを挿通させて、カテーテル10の先端部分を管腔の狭窄部に到達させる。その後、給排ルーメン33を通じてバルーン12内に流体を供給してバルーン12、およびバルーン12に外挿されたステント14を拡張させる。これにより、ステント14を管腔の狭窄部に押し付けて、当該狭窄部を拡張する。そして、給排ルーメン33を通じてバルーン12内の流体を排出してバルーン12を収縮させて、カテーテル10を管腔から抜き取ることにより、ステント14が管腔の狭窄部に留置される。
【0032】
かかる構造とされた本実施形態のステントデリバリカテーテル10では、デリバリされるステント14として比較的波数の多いものを採用しているため、縮径してバルーン12に外挿装着する際にステント14の内径が大きくなりやすい。ここにおいて、カテーテル10では、インナーシャフト本体28におけるステント14の装着部分において、大径部42が設けられていることから、ラッピング状態のバルーン12の外径を大きくすることができて、ラッピング状態のバルーン12の外径が縮径時のステント14の内径に比して小さくなり過ぎることが防止される。これにより、ステント14が不均一に縮径することが回避され得ると共に、ステント14がバルーン12に略均一に外挿装着されることから、ステント14の拡径時においても、略均一に拡径することができる。また、バルーン12の外径寸法を大きくするためにバルーン12の膜厚を大きくする必要がなく、薄膜のバルーン12を採用できることから、カテーテル10の先端部分における柔軟性が確保され得る。
【0033】
特に、本実施形態では、インナーシャフト本体28におけるステント14の装着部分の外周面において、被覆部材44が装着されることにより大径部42が構成されていることから、大径部42が容易に形成され得る。
【0034】
さらに、かかる被覆部材44の硬度が、インナーシャフト本体28の硬度より小さくされることにより、カテーテル10の先端部分における柔軟性が一層確実に確保され得る。
【0035】
また、本実施形態では、インナーシャフト本体28にガイドワイヤルーメン32が設けられていることから、ガイドワイヤルーメンを別途設ける必要がなく、カテーテル10の構造が簡単なものとされ得る。
【0036】
さらに、本発明の好適な態様は、冠動脈用の本発明に係るステントデリバリカテーテルにおいて、ステントの1周における波数が10~12とされているものである。本実施形態では、装着されるステント14が一般的な冠動脈用ステントに比べて1周当りの波数(1周における周期構造の繰り返し単位の数)が比較的多くされている。それ故、ストラットの幅寸法を確保したうえでステント14縮径時の径寸法を小さくしようとすると、周方向で隣り合うストラットが重なりあって歪な縮径形状となり易い。ここにおいて、本発明では、インナーシャフト24におけるステント14の装着部分に大径部42を設けたことにより、ステント14の過度の縮径に伴う不均一な縮径変形が回避され得る。なお、かかるステント14を採用することにより、ステント14の縮径時の径寸法に対する拡径時の径寸法の比を大きく設定することができて、管腔内へのデリバリ性能を確保しつつ、太い管腔や分岐した管腔等にも対応可能となる他、薬剤溶出性ステント(DES)として採用する場合には、ステントストラットの表面積が増大することから、担持する薬剤の量を増大させることも可能となる。
【0037】
次に、
図6には、本発明の第2の実施形態としてのステントデリバリカテーテルにおけるシャフトとしてのインナーシャフト46の大径部48が示されている。なお、本実施形態のステントデリバリカテーテルにおいて、インナーシャフト46以外の部材は、前記第1の実施形態と同様であるため、図示を省略する。また、以下の説明において、前記第1の実施形態と実質的に同一の部材または部位には、図中に、前記第1の実施形態と同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。
【0038】
前記第1の実施形態では、被覆部材44がチューブ状とされて、軸方向の全長に亘って外径寸法が略一定とされていたが、本実施形態では、シャフト本体としてのインナーシャフト本体28におけるステント14の装着部分に、インナーシャフト本体28の外周面に対して周方向に螺旋状に延びる被覆部材50が装着されることにより、大径部48が構成されている。これにより、大径部48における外径寸法が、少なくともその近位端側隣接部40よりも大きくされている。即ち、本実施形態では、大径部48の外径寸法が軸方向において、部分的に異ならされている。
【0039】
かかる構造とされたインナーシャフト46が採用されたステントデリバリカテーテルにおいても、前記第1の実施形態に記載のステントデリバリカテーテル10と同様の効果が発揮され得る。
【0040】
なお、本実施形態の被覆部材50は矩形断面を有しており、例えば直線状に延びる合成樹脂片を、インナーシャフト本体28の外周面に巻き付けて、接着や溶着等により固着することにより、大径部48が構成され得る。尤も、かかる被覆部材は矩形断面に限定されるものではなく、円形断面、半円形断面、多角形断面等、各種の断面形状が採用され得る。また、大径部は、インナーシャフト本体の外周面に被覆部材を周方向に螺旋状に設ける態様に限定されず、環状の凸条を軸方向で複数設けたり、軸方向に延びる凸条を周方向で部分的に設ける等してもよい。特に、環状の凸条を軸方向で複数設ける構造では、ステント14の装着部分の軸方向両端部分に当該凸条を設けることにより、ステント14が軸方向両端部で支持されて、インナーシャフト46およびバルーン12に対する安定した装着が実現され得る。
【0041】
図7には、本発明の第3の実施形態としてのステントデリバリカテーテル60の遠位部分が示されている。本実施形態のステントデリバリカテーテル60は、シャフトとしてのインナーシャフト62を備えている。
【0042】
より詳細には、インナーシャフト62は、シャフト本体としてのインナーシャフト本体28に対して、先端チップ30と、被覆部材44と、ステント位置規定部を構成する拡径部材64とを、取り付けた構造とされている。
【0043】
拡径部材64は、被覆部材44と同様に柔軟な合成樹脂材料で形成された環状乃至は筒状の部材であって、本実施形態では、被覆部材44の遠位端と近位端にそれぞれ外挿状態で取り付けられて、接着や溶着等の手段で被覆部材44に固定されている。これにより、本実施形態の大径部66が被覆部材44および拡径部材64によって形成されていると共に、大径部66の外径寸法が軸方向で部分的に異ならされており、拡径部材64が配された軸方向両端部には、拡径部材64を外れた軸方向中間部分よりも大径とされたステント位置規定部が設けられている。
【0044】
そして、バルーン12が大径部66よりも遠位でインナーシャフト本体28および先端チップ30に固着されていると共に、大径部66よりも近位でアウターシャフト26に固着されており、バルーン12の軸方向中間部分が大径部66の外周面に重ね合わされている。
【0045】
さらに、バルーン12は、大径部66に重ね合わされた部分の全長において外径寸法を大きくされていると共に、拡径部材64を備えた大径部66の軸方向両端部分に重ね合わされた部分においてより大径とされている。これにより、バルーン12における大径部66の軸方向両端部への重ね合わせ部分と、拡径部材64を外れた大径部66の軸方向中間部分への重ね合わせ部分との間には、段差68が形成されている。
【0046】
また、バルーン12には、ステント14が外挿状態で装着されている。即ち、ステント14は、バルーン12における大径部66に重ね合わされた部分に外挿されて、縮径変形されることによってバルーン12の外周面に嵌着されている。このように、本実施形態においても、前記実施形態と同様に、インナーシャフト62におけるステント14の装着部分が大径部66とされている。
【0047】
さらに、ステント14の軸方向両端部は、大径部66の拡径部材64にバルーン12を介して重ね合わされており、軸方向両端部が拡径部材64を外れた中間部分よりも大径とされている。これにより、ステント14の軸方向両端部が、中間部分に比して、より大きな圧力でインナーシャフト62に嵌着される。
【0048】
更にまた、ステント14における大径部66の軸方向両端部への装着部分と、拡径部材64を外れた大径部66の軸方向中間部分への装着部分との間には、段差70が形成されている。そして、バルーン12の段差68とステント14の段差70が軸方向に係止されることにより、ステント14がバルーン12に対して軸方向で位置決めされている。
【0049】
このようなステントデリバリカテーテル60によれば、インナーシャフト62に設けられた大径部66によって、ラッピング状態のバルーン12の外径寸法が小さくなり過ぎないように、適宜に調節することができる。従って、たとえばバルーン12が薄く且つステント14の波数が多い場合であっても、バルーン12に外嵌されるステント14が小径になり過ぎるのを防いで、ステント14の縮径時に線状体36の重なり等の不具合を回避することができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、大径部66の軸方向両端部の外径寸法が拡径部材64を備えることでより大きくされて、大径部66の軸方向両端部にステント位置規定部が設けられており、ステント14の軸方向両端部分がより大きな力でバルーン12およびインナーシャフト62に装着される。これにより、ステント14が収縮状態でバルーン12およびインナーシャフト62により強固に位置決めされて、拡張前のステント14がインナーシャフト62から離脱するのを防ぐことができると共に、バルーン12上の適切な位置に保持される。特に、拡径部材64が大径部66の軸方向両端部に配されていることにより、ステント14が軸方向両端部で強く支持されて、ステント14のバルーン12およびインナーシャフト62への装着状態がより安定して維持される。
【0051】
しかも、バルーン12の段差68とステント14の段差70が軸方向に係止することによっても、ステント14がバルーン12およびインナーシャフト62に対して軸方向で位置決めされている。これにより、ステント14のインナーシャフト62からの離脱や、ステント14のバルーン12に対する位置ずれなどが回避されて、拡張前のステント14が適切な装着状態に保持される。
【0052】
なお、ステント位置規定部は、必ずしも大径部66の軸方向両端部に設けられるものに限定されず、たとえば軸方向何れか一方の端部に設けられるとともに他方の端部には設けられなくても良いし、軸方向端部に加えて或いは換えて軸方向の中間部分に1つ乃至は複数が設けられていても良い。また、ステント位置規定部は、拡径部材64のような別部材がインナーシャフト62に固着されて形成されていても良いが、たとえば、被覆部材44を部分的に厚肉とすることで被覆部材44と一体的にも設けられ得るし、インナーシャフト本体28の外径寸法を軸方向で部分的に大きくすることで設けることもできる。
【0053】
また、バルーン12の段差68およびステント14の段差70は、必須ではない。たとえば、ステント14がステント位置規定部(拡径部材64)を外れた部分を含む軸方向全長において略一定の径寸法に縮径されるようにしても良く、この場合にはステント14の段差70は形成されない。更に、ステント14の全体が略一定の径寸法に縮径される場合には、バルーン12の軸方向両端部分がステント位置規定部によって当接支持される一方、ステント位置規定部を外れたバルーン12の中間部分において被覆部材44から外周へ離れた状態とされ得て、バルーン12の段差68も形成されない場合がある。
【0054】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明は上述の解決手段や実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜に修正,改良などを加えた態様で実施され得る。
【0055】
例えば、前記実施形態では、インナーシャフト本体28の外周面に対して別体の被覆部材44,50が装着されることにより大径部42,48が構成されていたが、大径部はインナーシャフト本体と一体的に形成されてもよい。即ち、インナーシャフト本体を製造する際に、ステント14の装着部分の外径寸法を近位端側隣接部より大きく製造することにより、大径部を形成してもよい。なお、その際、ステント14の装着部分における外径と共に内径を大きくして製造すれば、インナーシャフト本体の厚さ寸法を大きくすることがないことから、カテーテル先端部分における柔軟性を損ねることなく大径部を形成することができる。
【0056】
また、前記実施形態では、インナーシャフト本体28がチューブ状とされて、当該インナーシャフト本体28の内腔によりガイドワイヤルーメン32が構成されていたが、ガイドワイヤルーメンは必須なものでなく、インナーシャフト本体は中実の軸状であってもよい。更に、ディスタールシャフト20は、インナーシャフト24とアウターシャフト26との2重管構造とされていたが、例えば1本のシャフトの内部に、ガイドワイヤルーメンと給排ルーメンを備えるダブルルーメン構造とされてもよい。尤も、ガイドワイヤルーメンは必須のものではないことから、ディスタールシャフトは、給排ルーメンのみを備える単管構造であってもよい。
【0057】
さらに、前記実施形態では、ガイドワイヤルーメン32がカテーテル10の全長より短くされたラピッドエクスチェンジ型のカテーテルとされていたが、ガイドワイヤルーメンがコネクタ18の近位端部に開口するオーバーザワイヤ型のカテーテルとされてもよい。
【0058】
更にまた、本発明において採用されるステントは、前記実施形態に記載の如き1本の線状体が周方向に螺旋状に延びるステントに限定されるものではない。即ち、1本の線状体が軸方向で折り返されつつ周方向に延びながら1つの環状体を構成すると共に、複数の当該環状体が同一中心軸上で並んで配されて、それら環状体が周上の適当な位置において軸方向で接続されているようなステントであってもよい。
【0059】
なお、前記実施形態では、波数が10~12とされた冠動脈用のステントが例示されていたが、何等限定されるものではない。例えば、ステントとして末梢血管用のステントが採用されてもよく、かかる場合には波数が18~24とされることが好適である。
【0060】
本発明はもともと以下に記載の発明を含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
(i) シャフトの先端部分にバルーンが装着されていると共に、該バルーンにステントが装着されており、該ステントが略円弧状に湾曲したターン部をもって軸方向に折り返しながら周方向に延びる骨格構造を有しているステントデリバリカテーテルにおいて、前記シャフトにおける前記ステントの装着部分には、該装着部分の近位端側隣接部よりも外径寸法が大きくされており、該ステントを周方向で隣り合う部分が互いに重ならないで且つ折り返しのターン部で180度よりも大きく折り返された装着状態とする大径部が設けられていることを特徴とするステントデリバリカテーテル、
(ii) 前記大径部の外径寸法が、シャフト本体の外周面に対して被覆部材が装着されることにより、該シャフト本体における前記装着部分の近位端側隣接部の外径寸法より大きくされている(i)に記載のステントデリバリカテーテル、
(iii) 前記被覆部材の硬度が、前記シャフト本体の硬度より小さくされている(ii)に記載のステントデリバリカテーテル、
(iv) 前記大径部の外径寸法が全体に亘って一定とされている(i)~(iii)の何れか1項に記載のステントデリバリカテーテル、
(v) 前記大径部の外径寸法が部分的に異ならされている(i)~(iii)の何れか1項に記載のステントデリバリカテーテル、
(vi) 前記大径部には、該大径部における軸方向の他の部分よりも外径寸法を大きくされたステント位置規定部が軸方向で部分的に設けられている(v)に記載のステントデリバリカテーテル、
(vii) 前記シャフトにはガイドワイヤが挿通されるガイドワイヤルーメンが設けられている(i)~(vi)の何れか1項に記載のステントデリバリカテーテル、
(viii) 略円弧状に湾曲したターン部をもって軸方向に折り返しながら周方向に延びる骨格構造を有しており、シャフトへ外挿された装着状態において、周方向で隣り合う部分が互いに重ならないで且つ折り返しのターン部で180度よりも大きく折り返されているステント、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、シャフトにおけるステントの装着部分に大径部が設けられていることから、折畳み時のバルーンの外径を、バルーンの膜厚に拘らずに、大径部の外径寸法により適切に設定することが可能になる。これにより、例えば膜厚が薄いバルーンと波数の多いステントとを同時に採用しても、折畳み時のバルーンの外径が縮径時のステントの内径に比して小さくなり過ぎることが防止され得る。それ故、ステントを縮径してバルーン上に装着する際にも、ステントが過度に縮径されてストラットが重なる等の不均一な縮径が効果的に回避され得る。
上記(ii)に記載の発明では、大径部の外径寸法が、シャフト本体の外周面に対して被覆部材を装着することによって、シャフト本体におけるステントの装着部分の近位端側隣接部の外径寸法よりも大きくされていることから、大径部が簡単な構造をもって形成され得る。
上記(iii)に記載の発明では、被覆部材の硬度がシャフト本体の硬度より小さくされていることから、ステントデリバリカテーテルの先端部分における柔軟性が良好に確保され得る。なお、被覆部材の材質は何等限定されるものではないが、ポリアミドエラストマーやポリエステルエラストマー、ポリウレタン等の合成樹脂が好適に採用され得る。
上記(iv)に記載の発明では、大径部の外径寸法が全体に亘って一定とされていることから、折り畳まれたバルーンの支持面が円周面とされて、支持面の面積がより安定して確保され得る。なお、本態様の大径部は、例えばシャフトを製造する際にステントの装着部分を均一に厚肉にしたり、または合成樹脂材料をシャフトの先端部分に塗布したり、或いはチューブ状の部材をシャフトに外挿装着する等、簡単な手段により形成され得る。
上記(v)に記載の発明では、大径部の外径寸法が部分的に異ならされており、大径部の構造や製造に関して、自由度が拡大され得る。具体的には、例えば大径部が、シャフトに対して周方向に螺旋状に延びる形状であってもよいし、複数の凸条が軸方向または周方向で所定距離を隔てて設けられているような形状や、網目状の凸部をシャフトの外周面上に設けた構造等であってもよい。
上記(vi)に記載の発明では、シャフトの大径部に外径寸法を更に大きくされたステント位置規定部が軸方向で部分的に設けられていることから、ステント位置規定部においてステントがより強い保持力でシャフトに位置決めされて装着されて、ステントのシャフトからの脱落が回避される。しかも、シャフト側を大径とすることにより、強い保持力を得るためにステントを大きく縮径する必要はなく、縮径時にストラットの重なり合いなどが回避されて、ステントの拡径が安定して実現される。さらに、シャフトおよびバルーンに外挿されたステントの縮径時に、ステントが大径部のステント位置規定部を外れた領域では、ステントの内径がステント位置規定部の外径よりも小さくなり得る。これによれば、ステントがステント位置規定部と軸方向に係止されて、ステントがシャフトに対して軸方向で位置決めされることから、ステントのシャフトからの脱落などを一層生じ難くすることができる。
上記(vii)に記載の発明では、カテーテルがガイドワイヤに沿って病変部まで容易に案内され得る。特に、シャフトにガイドワイヤルーメンが設けられることから、構造の複雑化が回避され得る。なお、本発明に係るステントデリバリカテーテルはラピッドエクスチェンジ型のカテーテルとされてもよいし、オーバーザワイヤ型のカテーテルとされてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10,60:ステントデリバリカテーテル、12:バルーン、14:ステント、24,46,62:インナーシャフト(シャフト)、28:インナーシャフト本体(シャフト本体)、32:ガイドワイヤルーメン、40:近位端側隣接部、42,48,66:大径部、44,50:被覆部材、64:拡径部材(ステント位置規定部)