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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/26 20060101AFI20231120BHJP
   G01R 33/032 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
G01R33/26
G01R33/032
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019233583
(22)【出願日】2019-12-24
(65)【公開番号】P2021103093
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-08-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム委託事業、「超スマート社会実現のカギを握る革新的半導体技術を基盤としたエネルギーイノベーションの創出に関する国立大学法人京都大学による研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114971
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修
(72)【発明者】
【氏名】ヘルブスレブ エンスト デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】水落 憲和
(72)【発明者】
【氏名】芳井 義治
【審査官】島田 保
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0343695(US,A1)
【文献】特開2001-178701(JP,A)
【文献】特開2011-180570(JP,A)
【文献】特開2016-205954(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0136291(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定交流物理場内に配置され所定の量子系での量子操作の可能な磁気共鳴部材と、
前記磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、
前記コイルに前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、
直流物理場測定シーケンスにおいて、前記磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、
前記直流物理場測定シーケンスにおいて、前記磁気共鳴部材から、前記被測定交流物理場に対応する物理的事象を検出する検出装置と、
前記直流物理場測定シーケンスを所定複数回実行し、前記直流物理場測定シーケンスのそれぞれにおいて、前記高周波電源および前記照射装置を制御し、前記検出装置により検出された前記物理的事象の検出値を特定する測定制御部と、
前記複数回の前記直流物理場測定シーケンスに対応する前記検出値に基づいて、前記被測定交流物理場の特定期間分の測定結果を演算する演算部と、
を備え
前記演算部は、前記被測定交流物理場の1周期ごとに前記直流物理場測定シーケンスを前記所定複数回実行し、前記被測定交流物理場の複数周期について得られた、前記複数周期と同数の前記特定期間分の測定結果の平均を演算することで、前記特定期間分の測定結果におけるノイズを減衰させること、
を特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記磁気共鳴部材は、電子スピン量子操作の可能なカラーセンタを含み、
前記直流物理場測定シーケンスは、前記マイクロ波として2つのπ/2パルスを含み、
前記物理的事象は、ラビ振動において、前記2つのπ/2パルスの間の時間間隔における自由歳差運動での前記カラーセンタの電子スピンの位相変化に対応し、
前記2つのπ/2パルスの間の時間間隔は、(a)前記磁気共鳴部材の実効横緩和時間に応じて設定されるとともに、(b)前記被測定交流物理場の周波数が当該時間間隔によって得られる有効感度周波数範囲に含まれるように設定されること、
を特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
(a)直流物理場測定シーケンスを所定複数回実行し、前記直流物理場測定シーケンスのそれぞれにおいて、被測定交流物理場に対応する物理的事象を検出して前記物理的事象の検出値を特定し、
(b)前記複数回の前記直流物理場測定シーケンスに対応する前記検出値に基づいて、前記被測定交流物理場の特定期間分の測定結果を演算し、
前記直流物理場測定シーケンスは、前記被測定交流物理場内に配置され所定の量子系での量子操作の可能な磁気共鳴部材と、前記磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、前記コイルに前記マイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、前記磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、前記磁気共鳴部材から、前記被測定交流物理場に対応する前記物理的事象を検出する検出装置とを使用して実行され、
前記被測定交流物理場の1周期ごとに前記直流物理場測定シーケンスを前記所定複数回実行し、前記被測定交流物理場の複数周期について得られた、前記複数周期と同数の前記特定期間分の測定結果の平均を演算することで、前記特定期間分の測定結果におけるノイズを減衰させること、
を特徴とする測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定装置および測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ある磁気計測装置は、電子スピン共鳴を利用した光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)で磁気計測を行っている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
ODMRでは、スピンサブレベルの準位と光学遷移準位とをもつ媒質に高周波磁場(マイクロ波)と光をそれぞれスピンサブレベル間の励起と光遷移間の励起のために照射することで、スピンサブレベル間の磁気共鳴による占有数の変化などが光信号により高感度で検出される。通常、基底状態の電子が緑光で励起された後、基底状態に戻る際に赤光を発する。例えば、ダイヤモンド構造中の窒素と格子欠陥(NVC:Nitrogen Vacancy Center)中の電子は、2.87GHz程度の高周波磁場の照射により、光励起により初期化された後では、基底状態中の3つのスピンサブレベルの中で一番低いレベル(ms=0)から、基底状態中のそれより高いエネルギー軌道のレベル(ms=±1)に遷移する。その状態の電子が緑光で励起されると、無輻射で基底状態中の3つのサブレベルの中で一番低いレベル(ms=0)に戻るため発光量が減少し、この光検出より、高周波磁場により磁気共鳴が起こったかどうかを知ることができる。ODMRでは、このような、NVCといった光検出磁気共鳴材料が使用される。
【0004】
そして、NVCを使用した直流磁場の測定方法として、ラムゼイパルスシーケンス(Ramsey Pulse Sequence)を使用した測定方法がある。ラムゼイパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVCに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスをNVCに印加し、(c)第1のπ/2パルスから所定の時間間隔ttでマイクロ波の第2のπ/2パルスをNVCに印加し、(d)測定光をNVCに照射してNVCの発光量を測定し、(e)測定した発光量に基づいて磁束密度を見積もれる。
【0005】
また、NVCを使用した交流磁場の測定方法として、スピンエコーパルスシーケンス(Spin Echo Pulse Sequence)を使用した測定方法がある。スピンエコーパルスシーケンスでは、(a)励起光をNVCに照射し、(b)マイクロ波の第1のπ/2パルスを被測定磁場の位相0度でNVCに印加し、(c)マイクロ波のπパルスを被測定磁場の位相180度でNVCに印加し、(d)マイクロ波の第2のπ/2パルスを被測定磁場の位相360度でNVCに印加し、(e)測定光をNVCに照射してNVCの発光量を測定し、(f)測定した発光量に基づいて磁束密度を見積もれる。
【0006】
このように、ラムゼイパルスシーケンスやスピンエコーパルスシーケンスでは、カラーセンタにおけるラビ振動に基づく電子スピン量子操作を利用して、被測定磁場が推定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-110489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スピンエコーパルスシーケンスでは、第1のπ/2パルスとπパルスとの時間間隔、およびπパルスと第2のπ/2パルスとの時間間隔が、被測定物理場の情報を保持できるスピンコヒーレンス時間よりも長くなると、被測定物理場の情報が消えてしまうため、長周期な、交流磁場などの物理場を正確に測定することは困難である。
【0009】
本発明は、所定の量子系での量子操作を利用して、長周期な物理場を正確に測定する測定装置および測定方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る測定装置は、被測定交流物理場内に配置され所定の量子系での量子操作の可能な磁気共鳴部材と、その磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、そのコイルにマイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、直流物理場測定シーケンスにおいて、その磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、直流物理場測定シーケンスにおいて、その磁気共鳴部材から、被測定交流物理場に対応する物理的事象を検出する検出装置と、直流物理場測定シーケンスを所定複数回実行し、直流物理場測定シーケンスのそれぞれにおいて、高周波電源および照射装置を制御し、検出装置により検出された物理的事象の検出値を特定する測定制御部と、複数回の直流物理場測定シーケンスに対応する検出値に基づいて、被測定交流物理場の特定期間分の測定結果を演算する演算部とを備える。そして、演算部は、被測定交流物理場の1周期ごとに上述の直流物理場測定シーケンスを上述の所定複数回実行し、被測定交流物理場の複数周期について得られた、当該複数周期と同数の特定期間分の測定結果の平均を演算することで、当該特定期間分の測定結果におけるノイズを減衰させる。
【0011】
本発明に係る測定方法は、(a)直流物理場測定シーケンスを所定複数回実行し、直流物理場測定シーケンスのそれぞれにおいて、被測定交流物理場に対応する物理的事象を検出してその物理的事象の検出値を特定し、(b)その複数回の直流物理場測定シーケンスに対応するその検出値に基づいて、被測定交流物理場の特定期間分の測定結果を演算する。そして、直流物理場測定シーケンスは、被測定交流物理場内に配置され所定の量子系での量子操作の可能な磁気共鳴部材と、その磁気共鳴部材にマイクロ波の磁場を印加するコイルと、そのコイルにマイクロ波の電流を導通させる高周波電源と、その磁気共鳴部材に光を照射する照射装置と、その磁気共鳴部材から、被測定交流物理場に対応する物理的事象を検出する検出装置とを使用して実行される。そして、被測定交流物理場の1周期ごとに上述の直流物理場測定シーケンスを上述の所定複数回実行し、被測定交流物理場の複数周期について得られた、当該複数周期と同数の特定期間分の測定結果の平均を演算することで、当該特定期間分の測定結果におけるノイズを減衰させる。

【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、磁気共鳴部材における所定の量子系での量子操作を利用して、長周期な物理場を正確に測定する測定装置および測定方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。
図2図2は、図1に示す測定装置の動作について説明するタイミングチャートである。
図3図3は、図2における測定シーケンスについて説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。図2は、図1に示す測定装置の動作について説明するタイミングチャートである。図1に示す測定装置は、磁気共鳴部材1を備える。磁気共鳴部材1は、被測定交流物理場内に配置され所定の量子系での量子操作の可能な部材であって、ここでは、電子スピン量子操作の可能なカラーセンタを含む。なお、磁気共鳴部材1に含まれるカラーセンタは1つでも複数(つまり、アンサンブル)でもよい。この実施の形態では、この量子系は、電子スピンであって、ラビ振動に基づく量子操作が可能である。なお、電子スピンの代わりに、この量子系として、原子核スピン、磁束量子ビットなどを使用してもよい。その場合には、磁気共鳴部材1は、量子操作が可能な原子核スピンを含んだものや、磁束量子ビットを形成可能なものとされる。また、この実施の形態では、被測定交流物理場は、特定周期の交流磁場であるが、特定周期で交番する他の物理場(電場、温度場など)であってもよい。なお、被測定交流物理場は、単一周波数の交流物理場でもよいし、複数の周波数成分を有する交流物理場でもよい。
【0016】
また、この実施の形態では、磁気共鳴部材1として、光検出磁気共鳴部材が使用され、磁気共鳴部材1において、被測定交流物理場に対応する物理的事象(光検出磁気共鳴部材の場合、蛍光発光)が光学的に検出される。なお、物理的事象は、電気特性の変化(磁気共鳴部材1の抵抗値の変化など)であってもよく、電気的に検出されてもよい。
【0017】
ここでは、磁気共鳴部材1として使用される光検出磁気共鳴部材は、NVCを有するダイヤモンドなどの板材であって、支持板1aに固定されている。
【0018】
また、図1に示す測定装置は、コイル2、高周波電源3、照射装置4、および検出装置5を備える。
【0019】
コイル2は、磁気共鳴部材1にマイクロ波の磁場を印加する。マイクロ波の周波数は、磁気共鳴部材1の種類に応じて設定される。例えば、磁気共鳴部材1が、NVCを有するダイヤモンドである場合、コイル2は、2.87GHz程度のマイクロ波磁場を印加する。高周波電源3は、コイル2にマイクロ波の電流(つまり、上述のマイクロ波の磁場を生成するための電流)を導通させる。
【0020】
照射装置4は、直流物理場測定シーケンスにおいて、磁気共鳴部材1に光(この実施の形態では、所定波長の励起光と所定波長の測定光)を照射する。検出装置5は、直流物理場測定シーケンスにおいて、磁気共鳴部材1から、被測定交流物理場に対応する物理的事象を検出する。
【0021】
この実施の形態では、検出装置5は、測定光の照射時において磁気共鳴部材1から発せられる蛍光(上述の物理的事象)を検出する受光装置である。なお、検出装置5は、磁気共鳴部材1に設けられた電極対を備え、電極対から磁気共鳴部材1に流れる電流値を測定して、被測定交流物理場に応じて変化する磁気共鳴部材1の抵抗値(上述の物理的事象)を検出するようにしてもよい。
【0022】
さらに、図1に示す測定装置は、演算処理装置11を備える。演算処理装置11は、例えばコンピュータを備え、プログラムをコンピュータで実行して、各種処理部として動作する。この実施の形態では、演算処理装置11は、測定制御部21および演算部22として動作する。
【0023】
測定制御部21は、例えば図2に示すように、被測定交流物理場(ここでは、被測定交流磁場)の1周期PEjごとに、直流物理場測定シーケンスSQiを(1周期以内の特定期間において)所定複数回実行し、直流物理場測定シーケンスSQ1,・・・,SQnのそれぞれにおいて、高周波電源3および照射装置4を制御し、検出装置5により検出された物理的事象の検出値を特定する。なお、図2では、被測定交流物理場の位相ゼロから、一連の直流物理場測定シーケンスSQ1,・・・,SQnが開始されているが、一連の直流物理場測定シーケンスSQ1,・・・,SQnは、任意の未知の位相から開始させてもよい。
【0024】
なお、この実施の形態では、各直流物理場測定シーケンスSQiの時間長および直流物理場測定シーケンス間の時間間隔は一定である。また、直流物理場測定シーケンス間の時間間隔は、ゼロでも、ゼロ以外の所定時間長でもよい。
【0025】
例えば、照射装置4は、レーザーダイオードなどを光源として備え、検出装置5は、フォトダイオードなどを受光素子として備え、測定制御部21は、受光素子の出力信号に対して増幅などを行って得られる検出装置5の出力信号に基づいて、上述の蛍光の光量を上述の検出値として特定する。
【0026】
図3は、図2における測定シーケンスについて説明するタイミングチャートである。
【0027】
この実施の形態では、上述の所定の直流物理場測定シーケンスSQiとして、例えば図3に示すようなラムゼイパルスシーケンスが適用される。ただし、これに限定されるものではない。
【0028】
この実施の形態では、上述の直流物理場測定シーケンスSQiは、ラムゼイパルスシーケンスとされるため、上述のマイクロ波として2つのπ/2パルスを含み、上述の物理的事象は、その2つのπ/2パルスの間の時間間隔ttにおける自由歳差運動でのカラーセンタ(ここでは、NVC)の電子スピンの位相変化に対応する。そして、その2つのπ/2パルスの間の時間間隔ttは、(a)磁気共鳴部材1の実効横緩和時間(自由誘導減衰時間)T に応じて設定されてもよいし、(b)被測定交流物理場の周波数が当該時間間隔ttによって得られる有効感度周波数範囲(時間間隔ttに対応する上限周波数f以下の範囲)に含まれるように設定されてもよい。
【0029】
上述の時間間隔ttが実効横緩和時間(自由誘導減衰時間)T の約半分に等しいとき、測定シーケンスSQiにおける被測定磁場の感度が好ましくなる。なお、実効横緩和時間(自由誘導減衰時間)T は、当該測定に使用されるカラーセンタに固有な値を有する。また、被測定交流物理場の周波数が低くされる(つまり、1周期の時間が長くされる)場合、1周期あたりの測定シーケンスSQiの数が変更されるか、測定シーケンスSQi間の間隔が変更される。
【0030】
ここで、感度Hは、dBmin(検出可能な磁場強度の最小値)と測定時間Tmの平方根との積で表現される。そして、dBminは、T や観測するNVセンタの数などに依存する。この実施の形態では、上述の直流物理場測定シーケンスSQiは、ラムゼイパルスシーケンスとされるため、測定可能な周波数領域において、感度Hは、被測定交流磁場の周波数に拘わらず略一定となる。具体的には、被測定磁場における周波数成分が低周波数になるほど、1周期あたりの測定時間が長くなり、特定期間(ここでは、1周期)あたりの測定値の数が多くなるので、感度が実質的に一定となる。また、特定期間あたりの測定値の数が増えると、後述のカーブフィッティングに使用される測定値も多くなり、より正確なフィッティング曲線が得られる。
【0031】
演算部22は、上述の複数回の直流物理場測定シーケンスに対応する検出値に基づいて、被測定交流物理場の測定結果を演算する。
【0032】
この実施の形態では、演算部22は、例えば図2に示すように、(a)被測定交流物理場の複数周期のそれぞれについて、上述の複数(n)回の直流物理場測定シーケンスSQ1~SQnに対応する検出値に基づいて1周期分の被測定交流物理場の測定値BMiを演算し、(b)その複数周期と同数の、1周期分の被測定交流物理場の測定値の平均を演算し、これにより、1周期分の測定結果におけるノイズを減衰させる。具体的には、このように平均化することで、その1周期の逆数である周波数(およびその整数倍の周波数)の成分以外は減衰するため、高周波でランダムに発生するノイズは減衰する。なお、その整数倍の周波数の成分であっても、ランダムな位相で発生する場合には、その成分も減衰する。例えば、ショットキーノイズの場合、このような時間的な平均化がノイズの減衰に有効であり、また、磁気共鳴部材1がアンサンブルであれば空間的な平均化がなされた検出値が得られ、ノイズの減衰に有効である。
【0033】
例えば、m周期における第j周期(j=1,・・・,m)の測定値をBM1(j),・・・,BMn(j)とすると、[BM1(1)~BM1(m)の平均値],・・・,[BMn(1)~BMn(m)の平均値]が平均化後の測定結果とされる。
【0034】
具体的には、この実施の形態では、演算部22は、検出装置5で得られる上述の蛍光の検出値に基づいて、1周期分の被測定交流磁場の強度の測定値BMi(i=1,・・・,n)を演算する。
【0035】
例えば、演算部22は、次式に従って、上述の蛍光の検出値から磁束密度を計算する。
【0036】
Si=[(a+b)/2]+[(a-b)/2]×cos(γ・BMi・tt)
【0037】
ここで、Siは、1周期におけるi番目の測定シーケンスSQi(つまり、対応する位相i)での蛍光の検出値であり、BMiは、検出値Siに対応する1周期におけるi番目の測定シーケンスSQi(つまり、対応する位相i)での磁束密度であり、a,bは、定数であり、ttは、2つのπ/2パルスの間の時間間隔(自由歳差運動時間)であり、γは、磁気回転比(定数)である。なお、aおよびbは、BMiまたはttを変化させたときのSiの最大値および最小値であり、例えば実験で、既知で一定のBMiに対して、ttを変化させたときのSiを測定することで、特定可能である。なお、aは、B=0としたときの検出光量として求めてもよい。
【0038】
次に、当該実施の形態に係る磁場測定装置の動作について説明する。
【0039】
例えば図2に示すように、測定制御部21は、直流物理場測定シーケンス(ここでは、ラムゼイパルスシーケンス)SQ1,・・・,SQnを、被測定交流物理場(ここでは交流磁場)の1周期あたり(1周期内の特定期間(ここでは1周期の全域)に)所定の複数回数n(n>1)を実行し、演算部22は、検出装置5の検出値に基づいて、各直流物理場測定シーケンスSQiに対応する直流物理場測定値BMiを導出する。なお、ここで、被測定交流物理場(ここでは交流磁場)の1周期の長さは既知である。
【0040】
測定制御部21および演算部22は、この動作を、被測定交流物理場(ここでは交流磁場)の複数周期PE1,・・・,PEm(m>1)にわたって連続して繰り返し実行し、複数周期PE1,・・・,PEm分の測定値[BM1(1),・・・,BMn(1)],・・・,[BM1(m),・・・,BMn(m)]を特定する。
【0041】
そして、演算部22は、1周期内の各位相iについて、複数周期分の測定値BMi(1),・・・,BMi(m)の平均値BMAiを次式に従って演算し、その演算結果[BMA1,・・・,BMAn]を測定結果とする。
【0042】
BMAi=(BMi(1)+・・・+BMi(m))/m
【0043】
ここでは、演算部22は、さらに、その測定結果[BMA1,・・・,BMAn]に対してカーブフィッティングを行い、フィッティング曲線(つまり、1周期分の測定波形)を導出する。
【0044】
ここで、当該フィッティング曲線の関数形(例えば正弦波など)が既知である場合には、例えば、上述の測定結果に基づいて、その関数形内のパラメータの最適値を最小2乗法などで導出して、フィッティング曲線の関数を得る。また、当該フィッティング曲線の関数形が未知である場合には、例えば、上述の測定結果に基づいて、所定の方法に従って補間(内挿や外挿)を行うことで、フィッティング曲線を得る。
【0045】
さらに、演算部22は、上述のように導出したフィッティング曲線に基づいて、被測定交流物理場の最大振幅の測定結果を導出する。例えば図2に示すように、正弦波の被測定交流磁場の最大振幅Bacの測定値(推定値)が得られる。
【0046】
ここで、各直流物理場測定シーケンスSQiとして実行されるラムゼイパルスシーケンスについて説明する。
【0047】
1回のラムゼイパルスシーケンスでは、例えば図3に示すように、測定制御部21は、(a)まず、照射装置4で、所定波長の励起光を磁気共鳴部材1に照射して、磁気共鳴部材1の電子スピンの状態を揃え、(b)その後、コイル2および高周波電源3で、第1のπ/2パルスのマイクロ波磁場を磁気共鳴部材1に印加し、(c)その後、所定の時間間隔tt経過後、コイル2および高周波電源3で、第2のπ/2パルスのマイクロ波磁場を磁気共鳴部材1に印加し、(d)その後、照射装置4で、射影測定用の測定光を照射するとともに、磁気共鳴部材1の発する蛍光を検出装置5で受光しその受光光量(検出光量)を検出する。
【0048】
なお、時間間隔ttにおいては、外部磁場(ここでは被測定交流磁場)の磁束密度の時間積分に比例して電子スピンの向きが変化するため、検出光量から、外部磁場(ここでは被測定交流磁場)の磁束密度が導出可能となっている。
【0049】
さらに、π/2パルスの時間幅twは、電子スピンをπ/2だけ回転させる時間(数十ナノ秒程度)とされ、当該磁気共鳴部材1のラビ振動の周期などから予め特定される。また、例えば、励起光の照射時間および測定光の照射時間は、それぞれ数マイクロ秒から数十マイクロ秒程度である。また、例えば、上述の時間間隔ttは、数百マイクロ秒以下とされる。また、励起光照射と第1のπ/2パルスとの時間間隔、および第2のπ/2パルスと測定光照射との時間間隔は、それぞれ、短いほど良い。
【0050】
この実施の形態では、例えば図3に示すように、被測定交流磁場の1周期の中で、ラムゼイパルスシーケンス(直流物理場測定シーケンスSQi)が連続的に実行される。なお、図3では、ある測定シーケンスSQiにおける測定光の照射と次の測定シーケンスSQ(i+1)における励起光の照射とが別々に行われているが、両者をまとめて行ってもよい。
【0051】
ここで、被測定交流磁場のある周期PEjにおいて、i番目の測定シーケンスSQiは、ある位相Pi(未知の位相でもよい)で実行され、次の周期PE(j+1)においても、i番目の測定シーケンスSQiは、同一の位相Piで実行される。
【0052】
なお、上述のようにして得られた測定結果は、データとして図示せぬ記憶装置に記憶されたり、外部装置に送信されたり、表示装置で表示されたりするようにしてもよい。
【0053】
また、例えば、上述の1測定シーケンスSQiの長さは、被測定交流物理場の半周期以下とされ、例えば、約1kHz以下(特に、約100Hz以下)の低周波数の交流物理場が測定対象とされる。
【0054】
なお、上述のスピンエコーパルスシーケンスの場合、電子スピンの横緩和時間Tが1ミリ秒程度であり、被測定交流磁場が約1kHz以下の周波数成分を有するときには、通常、正確な磁場強度の測定が困難であるが、本実施の形態では、そのような場合で被測定交流磁場が約1kHz以下の周波数成分を有していても、物理場の測定が良好に行われる。
【0055】
以上のように、上記実施の形態によれば、磁気共鳴部材1は、被測定交流物理場内に配置され所定の量子系での量子操作の可能な部材である。コイル2は、その磁気共鳴部材1にマイクロ波の磁場を印加する。高周波電源3は、そのコイル2にマイクロ波の電流を導通させる。直流物理場測定シーケンスにおいて、照射装置4は、その磁気共鳴部材1に光を照射し、検出装置5は、その磁気共鳴部材1から、被測定交流物理場に対応する物理的事象を検出する。そして、測定制御部21は、直流物理場測定シーケンスを所定複数回実行し、直流物理場測定シーケンスのそれぞれにおいて、高周波電源3および照射装置4を制御し、検出装置5により検出された物理的事象の検出値を特定する。演算部22は、複数回の直流物理場測定シーケンスに対応する検出値に基づいて、被測定交流物理場の特定期間分(ここでは、1周期分)の測定結果を演算する。
【0056】
これにより、磁気共鳴部材1における所定の量子系での量子操作を利用して、交流磁場などの長周期な物理場が正確に測定される。具体的には、上述のように、低周波領域での感度Hが良好に得られるため、測定対象の物理場の測定値が正確に得られる。
【0057】
また、上述のように、上述の複数回の直流物理場測定シーケンスが均一に実行される場合(直流物理場測定シーケンスにおける時間間隔ttの長さおよび直流物理場測定シーケンスの時間間隔が被測定交流物理場の位相に拘わらず一定と設定される場合)、複数回の直流物理場測定シーケンスを被測定交流物理場に同期させずに、上述の複数回の直流物理場測定シーケンスを行うようにしてもよい。なお、スピンエコーパルスシーケンスの場合、被測定交流磁場との同期が必要となる。
【0058】
なお、上述の実施の形態に対する様々な変更および修正については、当業者には明らかである。そのような変更および修正は、その主題の趣旨および範囲から離れることなく、かつ、意図された利点を弱めることなく行われてもよい。つまり、そのような変更および修正が請求の範囲に含まれることを意図している。
【0059】
例えば、上記実施の形態では、一例として、被測定交流磁場の波形を正弦波と仮定しているが、その代わりに、被測定交流磁場の波形は他の波形(三角波、のこぎり波、矩形波、複数の波形を合成したものなど)であってもよく、被測定交流磁場の周期が既知であればよい。また、被測定交流磁場は、直流成分を有していてもよい。さらに、交流磁場以外の物理場が測定対象である場合でも同様である。
【0060】
また、上記実施の形態において、被測定交流物理場の1周期内の位相に応じて、直流物理場測定シーケンスにおける時間間隔ttを変化させてもよい。その場合、被測定交流物理場と同期していることが既知である外部交流信号があれば、その外部交流信号の位相に基づいて被測定交流物理場の位相を特定してもよい。例えば、外部交流信号に起因する物理現象によって被測定交流物理場が発生している場合、被測定交流物理場は、外部交流信号に同期していることがある。あるいは、例えば、時間間隔ttを一定にして上述の直流物理場測定シーケンスを繰り返し実行し、複数回の直流物理場測定シーケンスで得られた測定結果から、被測定交流物理場の波形などを特定してその位相を特定するようにしてもよい。
【0061】
さらに、上記実施の形態では、特定期間の一例として、1周期分の測定結果を得ているが、1周期分より長い周期(例えば2周期分など)の測定結果を得るようにしてもよい。さらに、上記実施の形態において、1周期より短い期間(つまり、特定の位相範囲)の測定結果を得るようにしてもよい。その場合、例えば、上述の複数周期における各周期において、1周期ごとにその期間に対応する検出値だけ取得してその期間に対応する測定値だけを導出するようにしてもよい。ただし、特定期間を1周期とするのが好ましい。
【0062】
さらに、上記実施の形態において、被測定物理場の強度(振幅)が大きく、上述の時間間隔ttの期間において磁気共鳴部材1におけるカラーセンタの電子スピンが1周(2π)以上回転してしまう場合、その電子スピンの実際の回転角を2πで除算したときの余りの角度に対応する検出値、測定値および測定結果が得られる。そのため、その場合には、演算部22は、上述の検出値、測定値、または測定結果から電子スピンの実際の回転角を推定して、その検出値、測定値、または測定結果を、電子スピンの実際の回転角に対応する値へ変換し、変換後の値に基づいて、上述のカーブフィッティングを行うようにしてもよい。なお、その際、当該変換を行わずに、直接的に、2πスピン位相周期を考慮したフィッティング関数を使用して、上述のカーブフィッティングを行うようにしてもよい。
【0063】
さらに、上記の実施の形態では、ある位相iについての複数(m)周期分の測定値BMi(1),・・・,BMi(m)のすべてが導出される場合、位相iについてのm個の測定値BMi(1),・・・,BMi(m)の平均値BMiが、測定結果のうちのその位相iの部分とされているが、ある位相iについての複数(m)周期分の測定値BMi(1),・・・,BMi(m)の一部がなく、BMi(1),・・・,BMi(m)の残りの部分のみが導出される場合、その残りの部分の平均値が、上述の平均値BMiとして計算される。つまり、例えば、m個の測定値BMi(1),・・・,BMi(L-1),BMi(L),BMi(L+1),・・・,BMi(m)のうち(1<L-1,L,L+1<m)、L番目(L番目の周期)の測定値BMiが得られない場合(例えば、対応する検出値が適切な値として得られない場合、L番目の測定が行われていない場合など)には、残りの(m-1)個の測定値の平均値が、次式のようにして、上述の平均値BMiとして計算される。なお、2個以上の測定値が得られない場合も同様である。
【0064】
BMAi=(BMi(1)+・・・+BMi(L-1)+BMi(L+1)+・・・+BMi(m))/(m-1)
【0065】
さらに、上記実施の形態では、複数周期分の、特定期間の測定値を位相ごとに平均化して測定結果を得ているが、時間的平均化が必要ない場合には、1周期分の、特定期間の測定値を(平均化せずに)測定結果としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば、磁気測定装置および磁気測定方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 磁気共鳴部材
2 コイル
3 高周波電源
4 照射装置
5 検出装置
11 演算処理装置
21 測定制御部
22 演算部
図1
図2
図3