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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】低カール性反射防止フィルム
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/111 20150101AFI20231120BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231120BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20231120BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231120BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20231120BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231120BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20231120BHJP
   C09D 7/48 20180101ALI20231120BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20231120BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231120BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231120BHJP
   C09J 7/38 20180101ALI20231120BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20231120BHJP
   C09J 199/00 20060101ALI20231120BHJP
   C08F 220/24 20060101ALI20231120BHJP
   C08F 290/12 20060101ALI20231120BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20231120BHJP
【FI】
G02B1/111
B32B7/023
B32B27/16
B32B27/18 A
B32B27/20 Z
B32B27/30 A
B32B27/30 D
C09D201/00
C09D7/48
C09D4/02
C09D7/63
C09D7/61
C09J7/38
C09J201/00
C09J199/00
C08F220/24
C08F290/12
G02B1/14
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019173424
(22)【出願日】2019-09-24
(65)【公開番号】P2021051168
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】399020212
【氏名又は名称】東山フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(72)【発明者】
【氏名】加藤 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 将幸
【審査官】植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-99081(JP,A)
【文献】特開2015-55659(JP,A)
【文献】特開2014-134573(JP,A)
【文献】特開2018-173593(JP,A)
【文献】特開2012-171996(JP,A)
【文献】特開2014-58050(JP,A)
【文献】特開2014-228829(JP,A)
【文献】特開2013-20111(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10- 1/18
B32B 1/00-43/00
C08F220/24
C08F290/12
C09D 4/02
C09D 7/48
C09D 7/61
C09D 7/63
C09D201/00
C09J 7/38
C09J199/00
C09J201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材フィルムの一方面に、ハードコート層、低屈折率層がこの順で設けられており、
前記のハードコート層は、下記の(a)~(c)を含有し、各成分の含有量が、(a)が80.0~99.0質量%、(b)が0.2~10.0質量%及び(c)が0.1~10.0質量%であるハードコート層用樹脂組成物(HC)の硬化物からなる層であり(ただし、前記各成分(a)~(c)の合計は100質量%である。)、
前記の低屈折率層は、下記の(c)~(f)を含有し、各成分の含有量が、(c)が0.1~10.0質量%、(d)が5.0~15.0質量%、(e)が50.0~93.0質量%及び(f)が0~44.9質量%である低屈折率層用樹脂組成物(L)の硬化物からなる層であり(ただし、前記各成分(c)~(f)の合計は100質量%である。)、
前記のハードコート層の膜厚が4~15μmである、反射防止フィルム。
(a)紫外線硬化型樹脂
(b)下記一般式(1)のヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するトリアジン系紫外線吸収剤
【化1】

(A、B、Cは、それぞれ独立して置換基を有していてもよいベンゼン環である。)

(c)光重合開始剤
(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート
(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物(ただし、成分(d)を除く。)
(f)中空シリカ微粒子
【請求項2】
透明基材フィルムの他方面に粘着層が積層されている、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネルの表面等に適用される反射防止フィルムに関し、特に、高温多湿環境下で優れたカール抑制効果を発現する反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、CRT、プラズマディスプレイ、屋外表示パネル、電光掲示板等の各種表示体又はガラスは、その表面を保護しながら低反射機能を発現するために、支持体である熱可塑性樹脂フィルムの上にハードコート層や反射防止層等の硬化層を設けた反射防止フィルムが使用されている。反射防止フィルムは、製造後に保管を経て、各種表示体又はガラスの表面に貼合機によって貼合される。保管時に反射防止フィルムにフィルムカールが生ずると、貼合機による反射防止フィルムの吸着ピックアップの際に脱落が生じてしまったり、貼合位置の自動位置合わせに障害が出てしまったりして、著しい生産性の低下に繋がる。
【0003】
反射防止フィルムのフィルムカールに対しては、従来対策がされており、フィルムカール性に優れた反射防止フィルムが提供されていたが(特許文献1等)、透明基材フィルムとして、より透湿性が高いトリアセチルセルロースフィルム(以下、「TAC」と示す)が頻用されるようになってきたこと、保護機能としてより高い硬度が求められるようになってきたことから、フィルムカールの抑制が重要視され対策がなされるようになってきた。例えば、特許文献2においては、ハードコート層のポリマーにジシクロペンタジエン骨格を導入することによって、高硬度化と低透湿化が図られている。
【0004】
しかしながら、反射防止フィルムのグローバル市場が進展していく中で、フィルムカールの抑制の要求レベルはさらに高まり、高温多湿条件下での長期保管においてもフィルムカールが発生しないことが求められるようになってきた。上記の従来技術の延長上のアプローチでは、常温常湿条件でのフィルムカールは抑制されるが、高温多湿条件下での長期保管には耐えるべくもない。硬度を向上させるために塗液に多官能モノマー等の硬化性の高い材料を使用すると、機能層の形成時に紫外線照射や熱による架橋時に収縮が発生してしまう。
すなわち、低反射機能と高硬度に基づく高い表面保護機能を有しながら、最もフィルムカール抑制の厳しいTAC透明基材フィルムに対してでも、高温多湿条件下での長期保管でも、フィルムカールの発生が抑制された反射防止フィルムが求められているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-58050号公報
【文献】特開2006-215096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的とするところは、通常環境下(約20℃、50%相対湿度)における初期のフィルムカール抑制性のみならず、高温多湿環境下(30℃、95%相対湿度)でのフィルムカール抑制性に優れるともに、表面硬度と視感度反射率に優れる反射防止フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ハードコート層にトリアジン系紫外線吸収剤を特定の割合で含有させ、さらにそのハードコート層上に、C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート、共重合可能な重合性二重結合をもつ含フッ素化合物をそれぞれ特定の含有量で組合せて用いた樹脂組成物の光硬化物の層を積層することで、上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の〔1〕及び〔2〕である。
【0008】
〔1〕透明基材フィルムの一方面に、ハードコート層、低屈折率層がこの順で設けられており、前記のハードコート層は、下記の(a)~(c)を含有し、各成分の含有量が、(a)が80.0~99.0質量%、(b)が0.2~10.0質量%及び(c)が0.1~10.0質量%であるハードコート層用樹脂組成物(HC)の硬化物からなる層であり(ただし、前記各成分(a)~(c)の合計は100質量%である)、
前記の低屈折率層は、下記の(c)~(f)を含有し、各成分の含有量が、(c)が0.1~10.0質量%、(d)が5.0~15.0質量%、(e)が50.0~93.0質量%及び(f)が0~44.9質量%である低屈折率層用樹脂組成物(L)の硬化物からなる層であり(ただし、前記各成分(c)~(f)の合計は100質量%である。)、
前記のハードコート層の膜厚が4~15μmである、反射防止フィルム。
(a)紫外線硬化型樹脂
(b)トリアジン系紫外線吸収剤
(c)光重合開始剤
(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート
(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物(ただし、成分(d)を除く。)
(f)中空シリカ微粒子
〔2〕透明基材フィルムの他方面に粘着層が積層されている、前記の〔1〕に記載の反射防止フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、通常環境下(約20℃、50%相対湿度)における初期のフィルムカール抑制性のみならず、高温多湿環境下(30℃、95%相対湿度)でのフィルムカール抑制性に優れるともに、表面硬度と視感度反射率に優れる反射防止フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<反射防止フィルム>
本発明の反射防止フィルムは、透明基材フィルムの一方面に、ハードコート層、低屈折率層が、この順に設けられてなる。以下に、この反射防止フィルムの構成要素について順に説明する。
また、本発明の反射防止フィルムは、表面硬度が好ましくは3H以上であり、より好ましくは4H以上である。また、視感度反射率が好ましくは1.7%以下であり、より好ましくは1.0%以下である。さらに、高温多湿環境下(30℃、95%相対湿度)でのフィルムカール高さが、好ましくは10mm以上30mm未満であり、より好ましくは10mm未満である。
表面硬度、視感度反射率及びフィルムカール高さは、下記実施例の項に示した測定方法で測定された値である。
本発明の反射防止フィルムの透過率は、全光線透過率測定において、好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上である。
【0011】
<透明基材フィルム>
本発明の反射防止フィルムに係る透明基材フィルムは、ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂からなるフィルムを使用できる。これらの中では、トリアセチルセルロース樹脂が好ましく挙げられる。ポリエステル樹脂からなるフィルムとしては東レ(株)製PETフィルム「ルミラーU-403」(商品名)、ポリカーボネート樹脂からなるフィルムとしては帝人化成(株)製ポリカーボネートフィルム「PC-2151」(商品名)、トリアセチルセルロース樹脂からなるフィルムとしては富士フイルム(株)製トリアセチルセルロースフィルム「フジタック」(商品名)、ノルボルネン系樹脂からなるフィルムとしてはJSR(株)製「ARTON」(商品名)、シクロオレフィン樹脂からなるフィルムとしては日本ゼオン(株)製「ゼオノアフィルム」(商品名)(ZF14、ZF16)等が挙げられる。
透明基材フィルムの膜厚は通常25~400μm、好ましくは25~200μmである。さらに透明基材フィルムの透過率は、全光線透過率測定において、好ましくは80%以上である。
【0012】
<ハードコート層>
本発明の反射防止フィルムに係るハードコート層は、透明基材フィルム上に直接形成される層であり、透明基材フィルムの表面硬度を向上させることができる。
ハードコート層の厚みは、4.0~15μmであり、下限値としては好ましくは4.0μm以上であり、より好ましくは5.0μm以上である。上限値としては、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは8.0μm以下である。ハードコート層の厚みが4.0μm未満であると十分な表面強度が得られない。その一方、ハードコート層の厚みが15μmより大きすぎる場合は、ハードコート層の硬化時におけるカールを低減することができなくなる。
ハードコート層の589nmの光に対する屈折率は、好ましくは1.45~1.70である。下限値としては好ましくは1.47以上であり、より好ましくは1.49以上である。上限値としては、好ましくは1.65以下であり、より好ましくは1.55以下である。
【0013】
<ハードコート層用樹脂組成物(HC)>
本発明に係るハードコート層は、下記の(a)~(c)を含有するハードコート層用樹脂組成物(HC)を透明基材フィルムに直接塗布した後に、紫外線硬化させてなる硬化物からなる層である。
(a)紫外線硬化型樹脂
(b)トリアジン系紫外線吸収剤
(c)光重合開始剤
【0014】
<(a)紫外線硬化型樹脂>
本発明に用いる(a)紫外線硬化型樹脂としては、この種のハードコートフィルムにおいて従来から一般的に使用されている、紫外線を照射することにより硬化反応を生じる公知の樹脂であればその種類は特に限定されない。そのような樹脂として、例えば単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂等である。なお、本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの双方を含む総称を意味する。また、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル系、及び(メタ)アクリロイル等の記載も同様である。
【0015】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル鎖を有する(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコール鎖を有する(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の各種(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、単独で用いても、複数種組合せて用いてもよい。
【0016】
多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ジシクロペンタニルジアクリレート等の2官能の(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)等の3官能の(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(EO-PETA)、プロピレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PO-PETA)等の4官能の(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールペンタアクリレート(DPPA)等の5官能の(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)等の6官能の(メタ)アクリレートが挙げられる。なかでも、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)が好ましく、高温多湿環境下でのフィルムカール抑制効果をより奏することができるペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)を用いることがより好ましい。これらは、単独で用いても、複数種組合せて用いてもよい。
【0017】
エポキシ樹脂としては、例えば、芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物及び脂肪族エポキシ化合物、多官能エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられ、テトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル等のエーテル基含有エポキシ化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いても、複数種組合せて用いてもよい。
【0018】
ウレタン樹脂としては、例えば、1分子中に複数個のイソシアネート基を有する有機イソシアネートと、水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体とのウレタン化反応によって得ることができるウレタン変性(メタ)アクリレート等が挙げられる。1分子中に複数個のイソシアネート基を有する有機イソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の1分子中に2個のイソシアネート基を有する有機イソシアネート、それら有機イソシアネートをイソシアヌレート変性した1分子中に3個のイソシアネート基を有する有機イソシアネート等が挙げられる。これらは、単独で用いても、複数種組合せて用いてもよい。
【0019】
シリコーン樹脂としては、例えば、エポキシプロポキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン、(エポキシシクロヘキシルエチル)メチルシロキサン-ジメチルシロキサンコポリマー、メタクリロキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン、アクリロキシプロピル末端ポリジメチルシロキサン等のポリシロキサン鎖を有する化合物が挙げられる。また、分子内にビニル基を有するシリコーン樹脂として、例えば、末端ビニルポリジメチルシロキサン、ビニルメチルシロキサンホモポリマー等を挙げることができる。これらは、単独で用いても、複数種組合せて用いてもよい。
【0020】
本発明のハードコート層用樹脂組成物(HC)において、(a)紫外線硬化型樹脂の含有量は、成分(a)~(c)の合計を100質量%として、80.0~99.0質量%である。下限値としては、好ましくは85.0質量%以上であり、より好ましくは90.0質量%以上である。上限値としては、好ましくは95.0質量%以下である。
本発明のハードコート層用樹脂組成物(HC)において、(a)紫外線硬化型樹脂の含有量が80質量%未満であるとハードコート層の表面硬度が小さくなり、99.0質量%より大きくなると、(b)成分の含有量が少なくなり、高温多湿環境下でのフィルムカール抑制効果が得られない。
【0021】
<(b)トリアジン系紫外線吸収剤>
本発明に用いる(b)トリアジン系紫外線吸収剤としては、トリアジン骨格を有するものであれば、特に限定されない。
トリアジン骨格を有するものの中でも、ヒドロキシ基を有するものが好ましく、ヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するものがより好ましい。例えば、下記一般式(1)のヒドロキシフェニルトリアジン骨格を有するものが挙げられる。
【化1】
(A、B、Cは、それぞれ独立して置換基を有していてもよいベンゼン環である。)
【0022】
前記A、B、Cからなるベンゼン環が有していてもよい置換基としては、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1~30の炭化水素基が挙げられる。
ヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、2’-エチル)ヘキシル)オキシ基、2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ基等のアルコキシ基、オクチルオキシカルボニルエトキシ基等のカルボニル基含有基等が挙げられる。
【0023】
このようなトリアジン系紫外線吸収剤としては、例えば、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-ドデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-トリデシルオキシプロピル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン等が好ましく挙げられ、なかでも、2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンがより好ましく挙げられる。これらは、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
トリアジン系紫外線吸収剤の最大吸収波長は、好ましくは300~350nmの範囲のものである。トリアジン系紫外線吸収剤の最大吸収波長として、上記範囲のものを用いることで、ハードコート層の硬化に用いる紫外線がトリアジン系紫外線吸収剤に吸収され、光重合開始剤の光重合開始能が十分に発現しなくなることを抑制することができる。
【0025】
本発明のハードコート層用樹脂組成物(HC)において、(b)トリアジン系紫外線吸収剤の含有量は、成分(a)~(c)の合計を100質量%として、0.2~10.0質量%である。下限値としては、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは1.0質量%以上である。上限値としては、好ましくは8.0質量%以下であり、より好ましくは6.0質量%以下である。
本発明のハードコート層用樹脂組成物(HC)において、(b)トリアジン系紫外線吸収剤の含有量が0.2質量%未満であると高温多湿環境下でのフィルムカール抑制効果が得られない。また、(b)トリアジン系紫外線吸収剤の含有量が10.0質量%より大きくなると、(a)成分の含有量が少なくなり、ハードコート層の表面硬度が小さくなる。
【0026】
<(c)光重合開始剤>
本発明のハードコート層に含まれる光重合開始剤(c)としては、紫外線により重合反応を開始可能であるものであればその種類は特に限定されない。光重合開始剤(c)として好ましくは、220~400nmの波長の光を吸収するものであり、より好ましくは最大吸収波長が300~350nmの範囲にないものである。光重合開始剤として、220~400nmの波長の光を吸収するものであれば、硬化時のオゾンの発生を抑制でき、光重合開始能の発現が不足することを抑制することができる。さらに、最大吸収波長が300~350nmの範囲にないものであれば、紫外線がトリアジン系紫外線吸収剤に吸収され、光重合開始剤の光重合開始能が十分に発現しなくなることを抑制することができる。
【0027】
220~400nmの波長の光を吸収する光重合開始剤としては、例えば1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オン等が挙げられる。なかでも、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンが好ましい。これらは、単独で用いても、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明のハードコート層用樹脂組成物(HC)おいて、(c)光重合開始剤の含有量は、成分(a)~(c)の合計を100質量%として、0.1~10.0質量%である。下限値としては、好ましくは1.0質量%以上であり、より好ましくは4.0質量%以上である。上限値としては、好ましくは8.0質量%以下であり、より好ましくは6.0質量%以下である。
本発明のハードコート層用樹脂組成物(HC)において、(c)光重合開始剤の含有量が0.1質量%未満であると(a)紫外線硬化型樹脂の硬化が不十分となり、ハードコート層の表面硬度が得られなくなる。また、(c)光重合開始剤の含有量が10.0質量%より大きくなると、(a)及び(b)成分の含有量が少なくなり、高温多湿環境下でのフィルムカール抑制効果が得られない。
【0029】
本発明に用いるハードコート層用樹脂組成物(HC)は、加工時又は実使用時に発生する埃等の異物の付着を防ぐ目的で帯電防止剤を含んでいてもよい。そのような帯電防止剤としては、例えば4級アンモニウム塩系共重合体等が挙げられる。
また、塗工性を向上させる目的でレベリング剤や耐候性を付与する目的で光安定化剤を含んでいてもよい。そのようなレベリング剤としては、シリコーン系レベリング剤、光安定化剤としては、ヒンダードアミン系の光安定化剤(HALS)等が挙げられる。
【0030】
ハードコート層用樹脂組成物(HC)には、ハードコート層の屈折率を調整するために必要に応じて金属酸化物等の屈折率調整剤が含有されていてもよい。屈折率調整に使用する金属酸化物は、屈折率を上昇する目的でハードコート層塗布液に添加するものであれば、その種類は特に限定されない。そのような金属酸化物としては、例えば酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化シラン、酸化インジウム錫等が挙げられる。
また、無機系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定化剤(HALS)や酸化防止剤等の安定剤はそれぞれ併用して用いてもよい。無機系の紫外線吸収剤としては、従来から公知のものが使用でき、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機酸化物が挙げられる。
【0031】
ヒンダードアミン系光安定化剤としては、従来から公知のものが使用でき、例えば、デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物(「チヌビン123」(商品名))、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケートとメチル1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケートの混合物等が挙げられる。
【0032】
ハードコート層を透明基材フィルム上に形成する方法としては、ハードコート層用樹脂組成物(HC)の塗布液をウェットコート法により直接塗布した後、紫外線等の光を照射する方法であれば特に限定されず、塗布方法としては例えばグラビアコート法、スピンコート法、ダイコート法等の従来公知の塗布方法を採用することができる。
ハードコート層の硬化に用いる光の波長は、好ましくは220~400nmである。硬化に用いる光の波長が400nmを超える場合には、光重合開始能の発現が不足するおそれがある。光の波長が220nm未満の場合、オゾンが発生しやすくなるため好ましくない。
【0033】
<低屈折率層>
本発明の反射防止フィルムに係る低屈折率層は、前記のハードコート層上に設けられる層であり、低屈折率層用樹脂組成物(L)を硬化させることにより形成される。
低屈折率層の屈折率は、ハードコート層の屈折率より低く設定されることを要件とし、その589nmの光に対する屈折率は1.29~1.37の範囲であるのが好ましい。下限値としては好ましくは1.31以上であり、より好ましくは1.33以上である。上限値としては、好ましくは1.36以下であり、より好ましくは1.35以下である。
低屈折率層の屈折率がこの範囲内であれば、十分に吸湿防止性を備えた層を形成することができるとともに、十分な視感度反射率を得ることができる。
また、低屈折率層の厚みは、80~120nmであり、下限値としては好ましくは95nm以上であり、上限値としては、好ましくは、110nm以下である。
【0034】
<低屈折率層用樹脂組成物(L)>
低屈折率層用樹脂組成物(L)は、下記の(c)~(f)を含有する。なお(c)~(f)成分の合計含有量は100質量%であり、成分(d)と成分(e)は異なるものである。
(c)光重合開始剤
(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート
(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物(ただし、成分(d)を除く。)
(f)中空シリカ微粒子
【0035】
<(c)光重合開始剤>
(c)光重合開始剤は、上記ハードコート層用樹脂組成物に使用されるものと同様のものを使用することができる。
本発明に用いる低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(c)光重合開始剤の含有量は、成分(c)~(f)の合計を100質量%として、1.0~10.0質量%である。下限値としては、好ましくは2.0質量%以上であり、より好ましくは3.0質量%以上である。上限値としては、好ましくは8.0質量%以下であり、より好ましくは6.0質量%以下である。
本発明の低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(c)光重合開始剤の含有量が1.0質量%未満では、低屈折率層の硬化が不十分となる。一方、(c)光重合開始剤の含有量が10.0質量%を超えると、光重合開始剤が不必要に多くなり好ましくない。
【0036】
<(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート>
本発明に用いる低屈折率層用樹脂組成物(L)は、(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートを含有させることで、反射防止フィルムに吸湿防止性を発現させることができる。
C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートとは、C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖と、(メタ)アクリレート基を有する化合物であれば特に限定されない。
C2~C7のパーフルオロアルキル鎖とは、炭素原子数2~7個の炭化水素基の水素が全てフッ素に置換されたものをいい、例えば、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基等が挙げられる。
ポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖とは、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール等のポリエーテルにおける水素が全てフッ素に置換されたものをいい、例えば、パーフルオロポリエチレングリコール繰り返し単位を有するパーフルオロポリエチレングリコール鎖、パーフルオロポリプロピレングリコール繰り返し単位を有するパーフルオロポリプロピレングリコール鎖等が挙げられる。
ポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖の繰り返し単位数としては、好ましくは1~100である。
【0037】
(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートの例として、特に限定されないが、(メタ)アクリレート基を2個有する2官能性のものが好ましく挙げられる。具体的には、下記化学式(2)で示されるものや下記化学式(3)に示されるものが挙げられる。
【0038】
【化2】

(式中、nは1~100の整数である。また、XはH又はCHである。)
【0039】
【化3】
(式中、YはC2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を表す。)
【0040】
C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートとしては、具体的には、ダイキン工業(株)製オプツールDAC-HP、DIC(株)製メガファックRS-75等が挙げられる。
【0041】
本発明に用いる低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートの含有量は、成分(c)~(f)の合計を100質量%として、5.0~15.0質量%である。下限値としては、好ましくは6.0質量%以上であり、より好ましくは7.0質量%以上である。上限値としては、好ましくは10.0質量%以下である。
本発明の低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はパーフルオロポリエーテルを含有する(メタ)アクリレートの含有量が5.0質量%未満では、高温多湿環境下での吸湿によるフィルムカールを弱めることができない。一方、15.0質量%を超えると、硬度不足となる。
【0042】
(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートは、一般にはフッ素系レベリング剤として知られ、非フッ素系樹脂に対して使用され、セグメントの表面自由エネルギー差から表面調整効果を奏することが知られている。本発明においては、意外にも特定量の(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートを、(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物と組合せて用いることによって、両者は協奏的に作用して、反射防止フィルム表面にフッ素セグメントに基づく高耐湿性構造が形成される。
【0043】
<(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物>
本発明に用いる低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートに加えて、(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物を用いることによって、反射防止フィルムに対して吸湿防止性のみならず、硬度を付与することができる。ただし、成分(e)は、成分(d)と異なるものである。
本発明に用いる低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物の含有量は、成分(c)~(f)の合計を100質量%として、50.0~93.0質量%である。下限値としては、好ましくは60.0質量%以上であり、より好ましくは70.0質量%以上である。上限値としては、好ましくは90.0質量%以下であり、より好ましくは80.0質量%以下である。
本発明の低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物の含有量が50.0質量%未満では、高温多湿環境下での吸湿によるフィルムカールを弱めることができず、低屈折率層の硬度不足が生じる。一方、93.0質量%を超えると、(d)成分の配合量が不足し高温多湿環境下での吸湿によるフィルムカールを弱めることができない。
【0044】
(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物とは、重合性炭素-炭素二重結合とフッ素原子を1つ以上有する化合物であればよく、例えば、含フッ素単官能(メタ)アクリレート、含フッ素多官能(メタ)アクリレート、含フッ素イタコン酸エステル、含フッ素マレイン酸エステル等の単量体、それらの重合体、及び重合性二重結合をもつ含フッ素反応性ポリマー等が挙げられる。また、例えば、上記含フッ素単官能(メタ)アクリレート等における炭化水素基の全ての水素がフッ素置換されている必要は無い。
重合性二重結合をもつ含フッ素化合物としては、好ましくは、含フッ素エチレン繰り返し単位を有するポリマーであり、より好ましくは、主鎖として含フッ素エチレン繰り返し単位を有し、側鎖としてポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートである。含フッ素エチレン繰り返し単位とは、エチレンの水素の一つ以上がフッ素に置換されたものが2以上の繰り返し構造を有するものをいう。側鎖にポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートは、例えば国際公開2011/065155号に開示される方法によって、末端がヒドロキシ基であるポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有するパーフルオロオリゴマーに対して、イソシアネート基含有(メタ)アクリレートを用いてのウレタン化反応、又は(メタ)アクリル酸フルオライドや(メタ)アクリル酸クロライド等を用いてのエステル化反応によって、(メタ)アクリロイル基等の光重合性基を導入して調製することができる。
また、(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物としては、1分子中の重合性二重結合の数が3以上、又は、(メタ)アクリレート基が3以上すなわち3官能以上の構造を有するものが好ましく挙げられる。
【0045】
<(f)中空シリカ微粒子>
本発明に用いる低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(f)中空シリカ微粒子を用いることによって、低屈折率層の屈折率を積極的に低くすることができる。中空シリカ微粒子の屈折率は製法によって異なるが、589nmの光に対する屈折率が1.25~1.37であることが好ましい。中空シリカ微粒子としては、屈折率を低くするものであれば特に限定されず、公知の中空シリカ微粒子を使用できる。具体的には、日揮触媒化成(株)製アクリル修飾中空シリカ微粒子「スルーリア4320」(商品名)等が挙げられる。
【0046】
本発明に用いる低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(f)中空シリカ微粒子は、成分(c)~(f)の合計を100質量%として、0~44.9質量%である。下限値としては、好ましくは5.0質量%以上であり、より好ましくは10.0質量%以上である。上限値としては、好ましくは35.0質量%以下であり、より好ましくは30.0質量%以下である。本発明に用いる低屈折率層用樹脂組成物(L)において、(f)中空シリカ微粒子の含有量が44.9質量%より多いと、高温多湿環境下での吸湿を抑えることができず、フィルムカールを弱めることができない。
【0047】
<その他の添加剤>
また、低屈折率層は塗工性や防汚染性を向上させる目的で、レベリング剤を含んでいてもよい。そのようなレベリング剤としては、例えば、アクリル基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はアクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサンが挙げられる。レベリング剤を使用する場合は、その上限量は好ましくは5.0質量%である。この範囲内であれば、(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートに対して、互いの効果を損なうことなく使用することができる。
【0048】
<高屈折率層>
反射防止性を向上するために、適宜、ハードコート層と低屈折率層の間に、ハードコート層より屈折率の高い高屈折率層を設けてもよい。高屈折率層は、高屈折率層用組成物を硬化させることにより形成される。
高屈折率層の屈折率は、ハードコート層、低屈折率層の屈折率より低く設定されることを要件とし、その589nmの光に対する屈折率は1.55~1.80の範囲であるのが好ましい。下限値としては、より好ましくは1.58以上である。上限値としては、より好ましくは1.75以下であり、更に好ましくは1.70以下である。
高屈折率層の屈折率を上記範囲とすることで、高屈折率層と他の層との屈折率差から生じる干渉を抑制し、反射スペクトルをフラットにすることができるため、視感反射率を向上させることができる。
【0049】
<高屈折率層用組成物>
高屈折率層は、前記高屈折率層の屈折率の範囲において、従来より反射防止フィルム等に用いられる公知のものであれば特に限定されず、高屈折率層用組成物としては、ベースとなる有機材料に、屈折率調整用の無機材料を適宜添加したものを用いることができる。ベースとなる有機材料や屈折率調整用の無機材料としては、低屈折率層と同様のものを使用でき、これらの材料の組み合わせや配合バランスにより、求める屈折率に調整すればよい。
【0050】
高屈折率層を構成する材料は、ハードコート層、低屈折率層と同じ材料で配合されることが、ハードコート層等との層間の密着性を高めることができるため、好ましい。
高屈折率層用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分として各種添加剤を添加することができる。そのような添加剤としては、例えば、中屈折率層と同様の光重合開始剤、分散剤、界面活性剤、光安定化剤及びレベリング剤等の添加剤が挙げられる。
【0051】
<ハードコート層及び低屈折率層の形成>
ハードコート層及び低屈折率層の形成方法は特に限定されず、例えばドライコーティング法、ウェットコーティング法等の塗布方法により、各層用組成物を適宜溶剤で希釈して調整した各塗液を熱可塑性透明基材フィルムの一方面に、順に塗布し、硬化させる方法を採用することができる。塗布方法としては、生産性や生産コストの面より、特にウェットコーティング法が好ましい。ウェットコーティング法は公知の方法でよく、例えばロールコート法、ダイコート法、スピンコート法、そしてディップコート法等が代表的なものとして挙げられる。これらの中では、ロールコート法等、連続的に塗膜を形成できる方法が生産性の点より好ましい。形成された塗膜は、加熱や紫外線、電子線等の活性エネルギー線照射によって硬化反応を行うことにより硬化被膜を形成することができる。
また、高屈折率層を形成する場合は、ハードコート層及び低屈折率層の形成方法の同様に行うことができる。
【0052】
<粘着層>
透明基材フィルムの他方面には、反射防止フィルムに貼着性を付与するために、粘着層が設けられていてもよい。粘着層を形成する材料は特に限定されるものではないが、例えばアクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤等の粘着剤が挙げられる。中でも、粘着力の観点からアクリル系粘着剤が好ましく、再剥離性の観点からシリコーン系粘着剤が好ましい。
【0053】
粘着層を形成する方法は特に限定されないが、ウェットコーティング法により塗布膜を形成した後、熱硬化、紫外線硬化、電子線硬化等により硬化膜を得る従来公知の方法を用いることができる。また、この接着層には、その機能を損なわない限りその他の機能を有していてもよい。例えば、紫外線吸収剤や色素や添加剤等を添加して、特定波長域の光の遮断、コントラストの向上、色調の補正、耐久性付与等の機能を1種又は2種以上付与することができる。
【実施例
【0054】
以下に、製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明について具体的に説明する。
【0055】
(ハードコート層用樹脂組成物(HC)の調製)
ハードコート層用樹脂組成物(HC)は、(a)紫外線硬化型樹脂と、(b)トリアジン系紫外線吸収剤と、(c)光重合開始剤と、任意に(α)光安定化剤とを下記表1、2に示す組成のように混合し、固形分濃度が40質量%となるようにイソプロピルアルコール(IPA)を混合して得た。なお、表1、2中に示す各具体的材料は、次の通りである。
a1:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)
a2:ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート(DTMPTA)
a3:ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)
a4:ジシクロペンタニルジアクリレート、日本化薬(株)製「KAYARD R-684」(商品名)
【0056】
b1:2-(2-ヒドロキシ-4-[1-オクチルオキシカルボニルエトキシ]フェニル)-4,6-ビス(4-フェニルフェニル)-1,3,5-トリアジン、BASFジャパン(株)製「チヌビン479」(商品名)
b2:2,4-ビス[2-ヒドロキシ-4-ブトキシフェニル]-6-(2,4-ジブトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、BASFジャパン(株)製「チヌビン460」
c1:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、BASFジャパン(株)製「イルガキュア184」(商品名)
c2:2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、BASFジャパン(株)製「イルガキュア907」(商品名)
α1:デカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステル1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、BASFジャパン(株)製「チヌビン123」(商品名)
【0057】
<低屈折率層用樹脂組成物(L)作製の前準備>
(重合性二重結合をもつ含フッ素化合物の前駆体の製造)
四つ口フラスコにパーフルオロー(1,1,9,9-テトラハイドロ-2,5-ビスフルオロメチル-3,6-ジオキサノネノ-ル)(AEHI)104部とビス(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7-ドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイドの8質量%パーフルオロヘキサン溶液11部を入れた。そして、その中空部を窒素置換した後、窒素気流下20℃で24時間撹拌して高粘度の固体を得た。得られた固体をジエチルエーテルに溶解させたものをパーフルオロヘキサンに注ぎ、分離後に真空乾燥させて、無色透明のAEHI重合体を得た。
【0058】
このAEHI重合体を19F-NMR(核磁気共鳴スペクトル)、H-NMR、IR(赤外線吸収スペクトル)により分析した結果、側鎖末端に水酸基を有する含フッ素ポリマーであることが確認できた。GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により測定した数平均分子量は72,000、質量平均分子量は118,000であった。
【0059】
(重合性二重結合をもつ含フッ素化合物e1の製造)
前記のAEHI重合体5部とメチルエチルケトン(MEK)43部、ピリジン1部を四つ口フラスコ中に仕込み、5℃以下に氷冷した。そして、窒素気流下で撹拌しながらα-フルオロアクリル酸フルオライド1部をMEK9部に溶解したものを10分間かけて滴下した。これにより、重合性二重結合をもつ含フッ素化合物e1の溶液を得た。e1は次式で表される構造を有する。
【0060】
【化4】
【0061】
(重合性二重結合をもつ含フッ素化合物e2の製造)
前記のAEHI重合体5部とメチルエチルケトン(MEK)43部に、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネト(昭和電工(株)製「商品名カレンズAOI」、商品名)0.15部、ジラウリン酸ジ-n-ブチルすず(IV)0.03部を添加したのち、40℃で3時間、さらに50℃で1.5時間攪拌下で反応させた。これにより、重合性二重結合をもつ含フッ素化合物e2の溶液を得た。e2は次式で表される構造を有する。
【0062】
【化5】
【0063】
(低屈折率層用樹脂組成物(L)の調製)
低屈折率層用樹脂組成物(L)は、(c)光重合開始剤と、(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖を含有する(メタ)アクリレートと、(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物と、(f)中空シリカと、任意に(β)レベリング剤を下記表1、2に示す組成のように混合し、固形分濃度が5質量%となるようにイソプロピルアルコール(IPA)を混合して得た。なお、表1、2中に示す各具体的材料は、次の通りである。
【0064】
c2:2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、BASFジャパン(株)製「イルガキュア907」(商品名)
d1:ダイキン工業(株)製「オプツ-ルDAC-HP」(商品名)
d2:UV反応型表面改質剤、DIC(株)製「メガファックRS-75」(商品名)
e1:前記製造によって得られた重合性二重結合をもつ含フッ素化合物(e1)
e2:前記製造によって得られた重合性二重結合をもつ含フッ素化合物(e2)
f1:アクリル修飾中空シリカ微粒子、日輝触媒化成工業(株)製「スルーリア4320」(商品名)、平均粒子径60nm
β1:アクリル基を有するポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン(株)製「BYKUV-3570」(商品名)
【0065】
(粘着層塗布液γ1の調製)
n-ブチルアクリレ-ト94.6質量部、アクリル酸4.4質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレ-ト1質量部、アゾビスイソブチロニトリル0.4質量部、酢酸エチル90質量部、トルエン60質量部を混合し、窒素雰囲気下で混合物を65℃に加温して10時間重合反応を行い、アクリル樹脂組成物を調製した。このアクリル樹脂組成物99質量部に日本ポリウレタン(株)製ポリイソシアネ-ト「コロネ-トL」(商品名)1質量部、及び固形分濃度が20質量%となるように酢酸エチルを加えることにより、粘着樹脂組成物の固形分濃度が20質量%である粘着層塗布液γ1を得た。
【0066】
(反射防止性フィルムの調製と性能評価)
透明基材フィルムとして厚さ80μmのトリアセチルセルロ-スフィルム上に、各実施例、比較例用のハ-ドコ-ト層用樹脂組成物(HC)をグラビアコ-ト法にて、所定の乾燥膜厚になるよう塗布した。乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの出力にて紫外線を照射して硬化させることにより、実施例1~8、比較例1~10のハ-ドコ-ト層を形成した。
【0067】
次いで、このハ-ドコ-ト層上に表1、2に記載した各実施例、比較例用の低屈折率層用樹脂組成物(L)を、硬化後の光学膜厚がkλ/4(k:1、λ:550nm)になるようにグラビアコ-ト法で塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cmの紫外線を照射して硬化させることにより、実施例1~8、比較例1~10の反射防止フィルムを作製した。
さらに、粘着層塗布液γ1をPET製のセパレ-トフィルム上に乾燥後の厚みが25μmとなるようにオ-トアプリケ-タ-を用いて塗布し、90℃で2分間乾燥した。次に、実施例1~8、比較例1~10において形成した反射防止フィルムを用いて、前記トリアセチルセルロ-スフィルムのハドコ-ト層、低屈折率層を形成した面とは反対の他方面に貼合して30℃で5日間保存することにより反射防止フィルムを作製した。
得られた反射防止性フィルムについて、ハ-ドコ-ト層の膜厚、カ-ル性試験、表面硬度、視感度反射率の評価を以下に記載する方法で行った。結果を構成成分とともに表1、表2に示す。
【0068】
[膜厚]
ハードコート層の膜厚の測定は、反射防止フィルムの断面をTEM写真で観察することにより行った。
[カ-ル性試験]
10cm×10cmのサイズの反射防止フィルムを作製し、水平面に置いた際の4隅のカール高さを初期値として測定した。さらに、高温多湿環境下でのフィルムカールを評価するため、測定した反射防止フィルムを、30℃/95%RH恒温槽の中で、500時間水平に静置したフィルムの4隅のカール高さを測定した。判定は、4隅で最も高いカールの高さを下記の基準で判定した。
◎:カール高さが10mm未満
○:カール高さが10mm以上30mm未満
×:カール高さが30mm以上
【0069】
[表面硬度]
安田精機(株)製鉛筆硬度試験機を用いてJIS K5600-5-4に従って、鉛筆硬度を測定した。
[視感度反射率]
測定面の裏面反射を除くため、裏面をサンドペーパーで粗し、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計(日本分光(株)製、商品名:V-760DS)により、光の波長380nm~780nmの5°、-5°正反射スペクトルを測定した。得られる380nm~780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JIS Z8701で想定されているXYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値Yを視感度反射率(%)とした。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示した実施例1~8についての結果より、本発明の反射防止フィルムは良好な反射防止性能を有し、かつ、初期のカ-ル高さが小さいことがわかった。さらに、高温多湿環境下でのカ-ル高さも小さいことがわかった。
実施例1、7及び8を比較すると、(a)紫外線硬化型樹脂として、(a3)ペンタエリスリト-ルトリアクリレ-ト(PETA)を用いることで、高温多湿環境下でのより優れたカール抑制効果を発揮できることがわかった。さらに、実施例3をみると、ハードコート層の膜厚を10μmとすることで、カールを抑制しつつ、優れた表面硬度を備えた反射防止フィルムが得られることがわかった。
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示した結果より、比較例1では、低屈折率層を有していないため、視感度反射率及び高温多湿環境下でカール抑制効果が悪い結果となった。比較例2では、ハードコート層の(a)紫外線硬化型樹脂が75質量%と少なく、(b)紫外線吸収剤が15.0質量%と多いことから、表面硬度が悪い結果となった。比較例3、比較例10では、ハードコート層に(b)紫外線吸収剤を含有していないことから、カール抑制効果が悪い結果となった。比較例4では、(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートが3.0質量%と少ないことから、高温多湿環境下でのカール抑制効果が悪い結果となった。比較例5では、(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレートが18.0質量%と多く、(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物が45質量%と少ないため、表面硬度と高温多湿環境下でのカール抑制効果が悪い結果となった。
【0074】
比較例6では、(f)中空シリカ微粒子を60質量%と多く含有していることから、高温多湿環境下でのカール抑制効果が悪い結果となった。比較例7では、ハードコート層の膜厚が3μmと薄いことから、表面硬度が悪い結果となった。比較例8では、ハードコート層の膜厚が17μmと厚いことから、カール抑制効果が悪い結果となった。比較例9では、(d)C2~C7のパーフルオロアルキル鎖又はポリ(パーフルオロオキシアルキレン)鎖を含有する(メタ)アクリレート及び(e)重合性二重結合をもつ含フッ素化合物を含有していないことから、高温多湿環境下でのカール抑制効果が悪い結果となった。さらに、ハードコート層の膜厚も1μmと薄いことから、表面硬度が悪い結果となった。