(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】支持機構及び杖
(51)【国際特許分類】
A61H 3/00 20060101AFI20231120BHJP
A45B 3/00 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
A61H3/00 A
A45B3/00 C
(21)【出願番号】P 2019174226
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-08-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2019年1月14日(パリ現地時間)/2019年1月14日~15日(日本時間)ソルボンヌ大学において開催された国際学会:2019 IEEE/SICE International Symposium on System Integration(略称:SII2019)で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】武居 直行
(72)【発明者】
【氏名】大村 秋彦
(72)【発明者】
【氏名】深谷 直樹
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107243(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0206384(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/00
A45B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立して弾性変形可能な複数の脚部と、
荷重に応じて変位する変位部と、
前記複数の脚部に対応して複数設けられ、前記変位部の変位に応じて前記脚部の変形を抑える制動部と、を備え
、
前記制動部は、
前記脚部に固定されたディスクと、
前記ディスクを挟むことが可能な一対のシューと、
前記変位部の変位に応じて前記一対のシューに前記ディスクを挟ませる制動リンク機構と、を備える
支持機構。
【請求項2】
前記脚部及び前記制動部の少なくとも一方は、リンク機構を備える
請求項1に記載の支持機構。
【請求項3】
前記脚部は、
平行四辺形の対辺をなす一対のリンク部材と、
前記一対のリンク部材の各端部を回動可能に支持する4つの支軸と、
前記4つの支軸のうち前記平行四辺形の対角に位置する2つの前記支軸に両端が支持されたコイルバネと、を備える
請求項1または2に記載の支持機構。
【請求項4】
前記一対のリンク部材は、前記コイルバネの少なくとも一部を覆っている
請求項3に記載の支持機構。
【請求項5】
前記制動リンク機構は、
前記変位部に一端が回動可能に連結された一対の第一アームと、
前記一対の第一アームの他端に一端が回動可能に連結され、前記一対のシューに他端が固定された一対の第二アームと、を備える
請求項
1から4のいずれか一項に記載の支持機構。
【請求項6】
前記制動リンク機構は、
前記変位部に回転可能に設けられた一対の回転体と、
前記一対の回転体が摺動可能に前記一対の回転体を一端側で挟むとともに、前記一対のシューに他端が固定された一対のアームと、を備える
請求項
1から5のいずれか一項に記載の支持機構。
【請求項7】
前記ディスクは、アルミニウム合金製である
請求項
1から6のいずれか一項に記載の支持機構。
【請求項8】
前記複数の脚部は、3つの脚部であり、
前記3つの脚部は、それぞれ異なる方向に向くように設けられている
請求項1から
7のいずれか一項に記載の支持機構。
【請求項9】
請求項1から
8のいずれか一項に記載の支持機構と、
使用者が把持可能な把持部を有し前記変位部に支持された杖本体と、を備える
杖。
【請求項10】
使用者が把持可能な把持部を有する杖本体と、
独立して弾性変形可能な複数の脚部と、
前記把持部に設けられ、荷重に応じて変位する変位部と、
前記複数の脚部に対応して複数設けられ、前記変位部の変位に応じて前記脚部の変形を抑える制動部と、を備え
、
前記制動部は、
前記脚部に固定されたディスクと、
前記ディスクを挟むことが可能な一対のシューと、
前記変位部の変位に応じて前記一対のシューに前記ディスクを挟ませる制動リンク機構と、を備える
杖。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持機構及び杖に関する。
【背景技術】
【0002】
杖は、高齢者をはじめ多くの人の歩行を補助する器具として広く普及している。近年、平坦な整地のみならず、段差や斜面、砂利道等の不整地においても安定した支持が可能な杖が開発されている。例えば、特許文献1には、主軸と、主軸に連結された3つのリンク機構とを備えた杖が開示されている。リンク機構の上方には、板状の弾性体が設けられている。リンク機構は、杖の本体下部に連結された固定用リンク軸と、リンク機構の先端側(接地面をなす緩衝部材の側)に位置する先端リンク軸と、を備える。弾性体は、先端リンク軸から固定用リンク軸までの全体を覆う長さを有する長方形状の板バネ体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、杖にかかる荷重の大きさによっては、弾性体の弾性力(復元力)のみでは杖の本体を支えきれず、杖が倒れてしまう可能性がある。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明は、どのような地面であっても安定してしっかりした支持ができる支持機構、及びそれを備えた杖を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決手段として、本発明の態様は以下の構成を有する。
(1)本発明の一態様に係る支持機構は、独立して弾性変形可能な複数の脚部と、荷重に応じて変位する変位部と、前記複数の脚部に対応して複数設けられ、前記変位部の変位に応じて前記脚部の変形を抑える制動部と、を備え、前記制動部は、前記脚部に固定されたディスクと、前記ディスクを挟むことが可能な一対のシューと、前記変位部の変位に応じて前記一対のシューに前記ディスクを挟ませる制動リンク機構と、を備える。
【0007】
(2)上記(1)に記載の支持機構において、前記脚部及び前記制動部の少なくとも一方は、リンク機構を備えてもよい。
【0008】
(3)上記(1)または(2)に記載の支持機構において、前記脚部は、平行四辺形の対辺をなす一対のリンク部材と、前記一対のリンク部材の各端部を回動可能に支持する4つの支軸と、前記4つの支軸のうち前記平行四辺形の対角に位置する2つの前記支軸に両端が支持されたコイルバネと、を備えてもよい。
【0009】
(4)上記(3)に記載の支持機構において、前記一対のリンク部材は、前記コイルバネの少なくとも一部を覆っていてもよい。
【0011】
(5)上記(1)から(4)のいずれかに記載の支持機構において、前記制動リンク機構は、前記変位部に一端が回動可能に連結された一対の第一アームと、前記一対の第一アームの他端に一端が回動可能に連結され、前記一対のシューに他端が固定された一対の第二アームと、を備えてもよい。
【0012】
(6)上記(1)から(5)のいずれかに記載の支持機構において、前記制動リンク機構は、前記変位部に回転可能に設けられた一対の回転体と、前記一対の回転体が摺動可能に前記一対の回転体を一端側で挟むとともに、前記一対のシューに他端が固定された一対のアームと、を備えてもよい。
【0013】
(7)上記(1)から(6)のいずれかに記載の支持機構において、前記ディスクは、アルミニウム合金製であってもよい。
【0014】
(8)上記(1)から(7)のいずれかに記載の支持機構において、前記複数の脚部は、3つの脚部であり、前記3つの脚部は、それぞれ異なる方向に向くように設けられていてもよい。
【0015】
(9)本発明の一態様に係る杖は、上記(1)から(8)のいずれかに記載の支持機構と、使用者が把持可能な把持部を有し前記変位部に支持された杖本体と、を備える。
【0016】
(10)本発明の一態様に係る杖は、使用者が把持可能な把持部を有する杖本体と、独立して弾性変形可能な複数の脚部と、前記把持部に設けられ、荷重に応じて変位する変位部と、前記複数の脚部に対応して複数設けられ、前記変位部の変位に応じて前記脚部の変形を抑える制動部と、を備え、前記制動部は、前記脚部に固定されたディスクと、前記ディスクを挟むことが可能な一対のシューと、前記変位部の変位に応じて前記一対のシューに前記ディスクを挟ませる制動リンク機構と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の上記(1)に記載の支持機構によれば、独立して弾性変形可能な複数の脚部を備えることで、各脚部がそれぞれ接地可能となるため、平坦な整地のみならず、段差や斜面、砂利道等の不整地においても安定した支持ができる。加えて、荷重に応じて変位する変位部と、複数の脚部に対応して複数設けられ、変位部の変位に応じて脚部の変形を抑える制動部と、を備えることで、変位部の変位に応じた制動部の制動力で脚部を停止させることができる。したがって、どのような地面であっても安定してしっかりした支持ができる。
【0018】
本発明の上記(2)に記載の支持機構によれば、脚部及び制動部の少なくとも一方がリンク機構を備えることで、以下の効果を奏する。
空気圧シリンダと電気弁による伸縮機構を備えた構成やMR流体(Magneto Rheological Fluid)ブレーキを備えた構成と比較して、アクチュエータやバッテリ等の電気エネルギーを必要としない。したがって、使用時間の制限なく(充電の手間なく)安全に使用することができる。
【0019】
本発明の上記(3)に記載の支持機構によれば、脚部は、平行四辺形の対辺をなす一対のリンク部材と、一対のリンク部材の各端部を回動可能に支持する4つの支軸と、4つの支軸のうち平行四辺形の対角に位置する2つの支軸に両端が支持されたコイルバネと、を備えることで、以下の効果を奏する。
2つの支軸がリンク部材端部の支持部及びコイルバネ両端の支持部を兼ねるため、コイルバネ両端を支持するためのピンを支軸とは別に設けた場合と比較して、部品点数を削減し、軽量化を図ることができる。
【0020】
本発明の上記(4)に記載の支持機構によれば、一対のリンク部材がコイルバネの少なくとも一部を覆っていることで、以下の効果を奏する。
一対のリンク部材の間にコイルバネ全体が露出する場合と比較して、一対のリンク部材の間に異物が入りにくくすることができる。加えて、コイルバネの少なくとも一部が外部から見えなくなるため、外観性の向上に寄与する。
【0021】
本発明の上記(1)、(10)に記載の支持機構によれば、制動部は、脚部に固定されたディスクと、ディスクを挟むことが可能な一対のシューと、変位部の変位に応じて一対のシューにディスクを挟ませる制動リンク機構と、を備えることで、以下の効果を奏する。
制動部は、脚部と一体に動くディスクを一対のシューで挟み、その際に発生する摩擦力によって制動力を発生する、いわゆるディスクブレーキとして機能する。そのため、ドラムブレーキの場合と比較して、安定した制動力を得ることができるとともに、メンテナンス性に優れる。
【0022】
本発明の上記(5)に記載の支持機構によれば、制動リンク機構は、変位部に一端が回動可能に連結された一対の第一アームと、一対の第一アームの他端に一端が回動可能に連結され、一対のシューに他端が固定された一対の第二アームと、を備えることで、以下の効果を奏する。
一対の第一アーム及び一対の第二アームを備えた簡単な構成で、使用時間の制限なく安全に使用することができる。
【0023】
本発明の上記(6)に記載の支持機構によれば、制動リンク機構は、変位部に回転可能に設けられた一対の回転体と、一対の回転体が摺動可能に一対の回転体を一端側で挟むとともに、一対のシューに他端が固定された一対のアームと、を備えることで、以下の効果を奏する。
一対の第一アーム及び一対の第二アームを備えた構成と比較して、アームの部品点数を削減し、軽量化を図ることができる。
【0024】
本発明の上記(7)に記載の支持機構によれば、ディスクがアルミニウム合金製であることで、鉄製の場合と比較して軽量化を図ることができる。
【0025】
本発明の上記(8)に記載の支持機構によれば、複数の脚部は、3つの脚部であり、3つの脚部は、それぞれ異なる方向に向くように設けられていることで、以下の効果を奏する。
4つの脚部の場合と比較して、部品点数を削減し、軽量化を図ることができる。加えて、3つの脚部がそれぞれ同じ方向に向く場合と比較して、安定した支持がしやすい。
【0026】
本発明の上記(9)に記載の杖によれば、上記の支持機構と、使用者が把持可能な把持部を有し変位部に支持された杖本体と、を備えることで、以下の効果を奏する。
どのような地面であっても安定してしっかりした支持ができる。
【0027】
本発明の上記(10)に記載の杖によれば、独立して弾性変形可能な複数の脚部を備えることで、各脚部がそれぞれ接地可能となるため、平坦な整地のみならず、段差や斜面、砂利道等の不整地においても安定した支持ができる。加えて、荷重に応じて変位する変位部と、複数の脚部に対応して複数設けられ、変位部の変位に応じて脚部の変形を抑える制動部と、を備えることで、変位部の変位に応じた制動部の制動力で脚部を停止させることができる。したがって、どのような地面であっても安定してしっかりした支持ができる。加えて、変位部が把持部に設けられているため、使用者は手元の操作で任意のタイミングで脚部を制動することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図6】
図5に続く、実施形態に係る制動リンク機構の説明図。
【
図9】実施例に係る杖の自立性の評価の説明図。
図9(a)は段差への接地図。
図9(b)は斜面への接地図。
図9(c)は砂利道への接地図。
【
図11】実施例に係る杖の接地性の評価の説明図。
図11(a)は平坦面への接地図。
図11(b)は段差への接地図。
図11(c)は斜面への接地図。
図11(d)は砂利道への接地図。
【
図12】実施例に係る杖を平坦面に接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図。
【
図13】実施例に係る杖を段差に接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図。
【
図14】実施例に係る杖を斜面に接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図。
【
図15】実施例に係る杖を砂利道に接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図。
【
図16】実施例に係る杖を各場所に接地したときのロール角及びピッチ角のそれぞれの平均を示す図。
【
図17】比較例に係る杖の接地性の評価の説明図。
図17(a)は平坦面への接地図。
図17(b)は段差への接地図。
図17(c)は斜面への接地図。
図17(d)は砂利道への接地図。
【
図18】比較例に係る杖を平坦面に接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図。
【
図19】比較例に係る杖を段差に接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図。
【
図20】比較例に係る杖を斜面に接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図。
【
図21】比較例に係る杖を砂利道に接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図。
【
図22】比較例に係る杖を各場所に接地したときのロール角及びピッチ角のそれぞれの平均を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。各図において、同一構成については同一の符号を付す。実施形態においては、杖の一例として、リンク機構を備えた杖を挙げて説明する。
【0030】
<杖>
図1に示すように、杖1は、杖本体2及び支持機構3を備える。
杖本体2は、把持部10、軸部11及び連結部12を備える。
把持部10は、使用者が把持可能な筒状をなしている。把持部10は、杖本体2のうち支持機構3の側とは反対側(図の紙面上側)に設けられている。
軸部11は、直線状(図の紙面上下方向)に延びている。軸部11の一端側は、支持機構3に支持されている。
連結部12は、軸部11の他端と把持部10とを連結している。連結部12は、軸部11の他端から軸部11に対して斜めに交差するように延びるとともに把持部10に向けて湾曲している。
【0031】
<支持機構>
図2は、初期状態の支持機構3を示す。
図2では、杖本体2の軸部11の一部を示している。
図2に示すように、支持機構3は、胴部20、脚部30、変位部40及び制動部50を備える。
胴部20は、軸部11の一端部を覆っている。胴部20は、軸部11が延びる方向(以下「軸方向」という。)に開口する貫通孔21(
図1参照)を有する。杖本体2は、胴部20の貫通孔21を通じて軸方向に沿って移動可能とされている。
【0032】
<脚部>
脚部30は、胴部20に連結されている。脚部30は、それぞれ独立して弾性変形可能に複数設けられている。脚部30は、3つ設けられている。3つの脚部30は、第一脚部30A、第二脚部30B及び第三脚部30Cである。
【0033】
3つの脚部30は、胴部20における同じ高さ位置に連結されている。3つの脚部30は、それぞれ異なる方向を向くように設けられている。軸方向から見て、3つの脚部30は、軸部11を中心に120°間隔で放射状に配置されている。以下、3つの脚部30のうち第一脚部30Aについて説明する。第二脚部30B及び第三脚部30Cは、第一脚部30Aと同様の構成を有するため、詳細な説明を省略する。
【0034】
図3に示すように、第一脚部30A(以下単に「脚部30」ともいう。)は、リンク機構31を備える。脚部30は、リンク部材32,33、支軸34~37、コイルバネ38及び緩衝部材39を備える。初期状態において、脚部30先端(脚部30の下端)は、杖本体2の軸部11(
図2参照)の下端よりも下方に位置している。すなわち、杖を下ろしたとき、脚部30先端は軸部11の下端よりも先に接地するようになっている。
【0035】
リンク部材32,33は、平行四辺形の対辺をなすように一対設けられている。一対のリンク部材32,33は、第一リンク部材32及び第二リンク部材33である。第一リンク部材32は、第二リンク部材33の下方に間隔をあけて配置されている。一対のリンク部材32,33は、コイルバネ38の一部を覆っている。
【0036】
支軸34~37は、一対のリンク部材32,33の各端部を回動可能に支持する。支軸34~37は、4つ設けられている。4つの支軸34~37は、第一支軸34、第二支軸35、第三支軸36及び第四支軸37である。
【0037】
第一支軸34及び第二支軸35は、胴部20の下部に設けられている。第一支軸34は、第一リンク部材32の一端を回動可能に支持している。
第二支軸35は、胴部20の下部において第一支軸34よりも高い部位に設けられている。第二支軸35は、第二リンク部材33の一端を回動可能に支持している。
第三支軸36及び第四支軸37は、緩衝部材39の基部に設けられている。第三支軸36は、第一リンク部材32の他端を回動可能に支持している。
第四支軸37は、緩衝部材39の基部において第三支軸36よりも高い部位に設けられている。第四支軸37は、第二リンク部材33の他端を回動可能に支持している。
【0038】
コイルバネ38は、4つの支軸34~37のうち平行四辺形の対角に位置する2つの支軸34,37に両端が支持されている。コイルバネ38の一端は、第一支軸34に支持されている。コイルバネ38の他端は、第四支軸37に支持されている。コイルバネ38は、一対のリンク部材32,33が初期状態となるように第一支軸34及び第四支軸37を常時付勢している。
【0039】
緩衝部材39は、先端側(支軸36,37が設けられた側とは反対側)ほど先細りとなる外形をなしている。一対のリンク部材32,33、4つの支軸34~37及び緩衝部材39は、脚部30のリンク機構31を構成する。初期状態において、緩衝部材39の先端は、杖本体2の軸部11の下端よりも下方に位置している。例えば、緩衝部材39は、ゴム製である。
【0040】
<変位部>
図2に示すように、変位部40は、胴部20の上方に配置されている。変位部40は、杖本体2の軸部11の途中に取り付けられている。変位部40は、荷重に応じて胴部20との間で変位する。変位部40は、使用者が把持部10(
図1参照)にかけた荷重に応じて、杖本体2と一体に軸方向に沿って移動可能とされている。例えば、使用者が把持部10に上方から荷重をかけた場合、変位部40は杖本体2と一体に軸方向に沿う下方へ移動し、胴部20に近づく。軸方向から見て、変位部40は、円形状の外形(外周面)を有する。
【0041】
<制動部>
制動部50は、変位部40に連結されている。制動部50は、複数の脚部30に対応して複数設けられている。制動部50は、変位部40の変位に応じて脚部30の変形を抑える。制動部50は、コイルバネ38の弾性力と把持部10にかかる荷重とがつり合う位置からさらに押された後に制動力を発揮する。制動部50は、3つ設けられている。3つの制動部50は、第一制動部50A、第二制動部50B及び第三制動部50Cである(
図1参照、
図2では第一制動部50Aのみ図示)。
【0042】
3つの制動部50は、変位部40における同じ高さ位置に連結されている。3つの制動部50は、それぞれ異なる方向を向くように設けられている。軸方向から見て、3つの制動部50は、軸部11を中心に120°間隔で配置されている。軸方向から見て、第一制動部50A、第二制動部50B及び第三制動部50Cは、それぞれ第一脚部30A、第二脚部30B及び第三脚部30Cと重なる。第一制動部50Aは第一脚部30Aの変形を抑える。第二制動部50Bは第二脚部30Bの変形を抑える。第三制動部50Cは第三脚部30Cの変形を抑える。以下、3つの制動部50のうち第一制動部50Aについて説明する。第二制動部50B及び第三制動部50Cは、第一制動部50Aと同様の構成を有するため、詳細な説明を省略する。
【0043】
図2に示すように、第一制動部50A(以下単に「制動部50」ともいう。)は、ディスク51、シュー52及び制動リンク機構53(リンク機構)を備える。
ディスク51は、脚部30の第二リンク部材33に固定されている。ディスク51は、第二支軸35を中心とする扇形状をなしている(
図3参照)。例えば、ディスク51は、アルミニウム合金製である。
【0044】
シュー52は、ディスク51を挟むことが可能に一対設けられている。一対のシュー52は、第二支軸35から離れた位置に配置されている(
図3参照)。
【0045】
制動リンク機構53は、変位部40の変位に応じて一対のシュー52にディスク51を挟ませる。制動リンク機構53は、軸部11の軸線を対称軸として線対称(左右対称)の外形を有する。制動リンク機構53は、一対の第一アーム54及び一対の第二アーム55を備える。
【0046】
一対の第一アーム54は、変位部40の外周面の法線に沿う軸回りに一端が回動可能に連結されている。一対の第一アーム54は、下方を開放する逆V字状をなしている。
一対の第二アーム55は、一対の第一アーム54の他端に一端が回動可能に連結されている。一対の第二アーム55は、一対のシュー52に他端が固定されている。一対の第二アーム55は、自身の中途部が内側に屈曲した形状をなしている。一対の第二アーム55は、胴部20の上部の軸回り(変位部40の外周面の法線と平行な軸回り)に屈曲部56(中途部)が回動可能に連結されている。
【0047】
<脚部のリンク機構の設計>
図4は、初期状態にある脚部30のリンク機構31の模式図である。
図4では、胴部20下部の一部(下部)及びディスク51を併せて示している。
図4に示すように、脚部30には平行四辺形のリンク機構31を用いる。
図4において、点P1、点P2、点P3、点P4はそれぞれ第一支軸34、第二支軸35、第三支軸36、第四支軸37(
図3参照)に相当する。点Gは緩衝部材39の先端(脚部30先端)に相当する。リンクP1P3は第一リンク部材32(
図3参照)に相当する。リンクP2P4は第二リンク部材33(
図3参照)に相当する。記号l
L1はリンクP1P3(リンクP2P4)の長さ、記号l
L2は点P1と点P2との間(点P3と点P4との間)の長さをそれぞれ示す。記号sは点P2からシュー52(
図3参照)の配置位置までの距離を示す。
【0048】
<制動リンク機構の設計>
図5は、初期状態にある制動リンク機構53の模式図である。
図6は、制動状態にある制動リンク機構53の模式図である。
図5及び
図6ともに制動リンク機構53の右半分のみを図示している(左右対称のため)。
制動リンク機構53は、荷重をかけられた際の変形により制動力を発生する。
図5において、点A、点B、点C、点Dはそれぞれ変位部40の外周面の法線に沿う軸、第一アーム54の他端と第二アーム55の一端との回動軸、第二アーム55の屈曲部56の回動軸、第二アーム55の他端に相当する(
図2参照)。リンクABは第一アーム54(
図2参照)に相当する。リンクBCは第二アーム55の上部(第二アーム55の一端と屈曲部56との間の部分)に相当する(
図2参照)。リンクCDは第二アーム55の下部(第二アーム55の他端と屈曲部56との間の部分)に相当する(
図2参照)。記号l
1はリンクABの長さ、記号l
2はリンクBCの長さ、記号rはリンクCDの長さをそれぞれ示す。記号eはy軸から点Cまでの距離を示す。記号βは屈曲部56の角度を示す。
【0049】
図6に示すように、杖に荷重をかけることで点Aが下方に移動する。すると、点C回りにリンクCDが回転する。リンクCDには、シュー52(
図2参照)が取り付けられている。シュー52は、脚部30に固定されたディスク51(
図2参照)に押し付けられる。これにより、脚部30の姿勢を保持する制動力(ブレーキ力)が得られる。
【0050】
仮想仕事の原理より、杖の荷重と制動力との関係を求める。
図5のようにx-y座標系を考える。このとき、ディスク51(
図2参照)は、y軸上を移動する。杖本体2(変位部40)との接続位置である点Aのy座標は、次の式(1)となる。
【0051】
【0052】
上記の式(1)において、θはディスク51にシュー52を押し付けるリンクCDの角度である。上記の式(1)を時間微分すると、次の式(2)、式(3)となる。
【0053】
【0054】
図6に示すように、点Aに荷重fがかけられたとき、微小変位δy
Aが生じるとする。このとき、リンクCDが微小角度δθだけ回転し、トルクτがかかると考える。すると、仮想仕事の原理より、次の式(4)となる。
【0055】
【0056】
上記の式(4)において微小変位を速度と置き換えると、次の式(5)が成り立つ。
【0057】
【0058】
上記の式(3)を代入し、上記の式(5)が常に成り立つためには、次の式(6)を満たす必要がある。
【0059】
【0060】
本実施形態では、3つの脚部30のそれぞれに制動部50がある。そのため、杖全体にかかる荷重をFとすると、1つの制動部50の片側にかかる荷重fは、次の式(7)となる。
【0061】
【0062】
シュー52の取付箇所がリンクCD先端の点Dであるとすると、ブレーキの押し付け力fDは、次の式(8)となる。
【0063】
【0064】
脚部30先端の動き(ディスク51の回転)を止めるためには、脚部30先端にかかる力F/3が及ぼす回転モーメントよりも、ディスク51周りのブレーキが及ぼす回転モーメントが大きくなればよい。脚部30先端にかかる力F/3が及ぼす回転モーメントは、姿勢φ(
図4に示す角度φ)により変化する。そのため、脚部30先端にかかる力F/3が及ぼす回転モーメントが最大となるcosφ=1において制動力が上回る条件を求めると、1つの脚部30先端のディスク51周りにおいて、次の式(9)となる。
【0065】
【0066】
上記の式(1)から式(9)より、次の式(10)を満たすような設計を数値シミュレーションソフト(例えばMATLAB)で行うことが好ましい。
【0067】
【0068】
上記の式(10)において、摩擦係数μの大きさは、ディスク51の表面の粗さや、ゴムの凝着摩擦、変形損失摩擦、掘り起こし摩擦などによって変化するため、正確な値を求めることは困難である。例えば、摩擦係数μは、鉄とアルミニウムの摩擦係数μ=0.82を参考にするとよい。
【0069】
<作用効果>
以上説明したように、上記実施形態に係る支持機構3は、独立して弾性変形可能な複数の脚部30と、荷重に応じて変位する変位部40と、複数の脚部30に対応して複数設けられ、変位部40の変位に応じて前記脚部30の変形を抑える制動部50と、を備える。
【0070】
この構成によれば、独立して弾性変形可能な複数の脚部30を備えることで、各脚部30がそれぞれ接地可能となるため、平坦な整地のみならず、段差や斜面、砂利道等の不整地においても安定した支持ができる。加えて、荷重に応じて変位する変位部40と、複数の脚部30に対応して複数設けられ、変位部40の変位に応じて脚部30の変形を抑える制動部50と、を備えることで、変位部40の変位に応じた制動部50の制動力で脚部30を停止させることができる。したがって、どのような地面であっても安定してしっかりした支持ができる。
【0071】
上記実施形態によれば、脚部30及び制動部50のそれぞれがリンク機構31,53を備えることで、以下の効果を奏する。
空気圧シリンダと電気弁による伸縮機構を備えた構成やMR流体(Magneto Rheological Fluid)ブレーキを備えた構成と比較して、アクチュエータやバッテリ等の電気エネルギーを必要としない。したがって、使用時間の制限なく(充電の手間なく)安全に使用することができる。
【0072】
上記実施形態によれば、脚部30は、平行四辺形の対辺をなす一対のリンク部材32,33と、一対のリンク部材32,33の各端部を回動可能に支持する4つの支軸34~37と、4つの支軸34~37のうち平行四辺形の対角に位置する2つの支軸34,37に両端が支持されたコイルバネ38と、を備えることで、以下の効果を奏する。
2つの支軸34,37がリンク部材32,33端部の支持部及びコイルバネ38両端の支持部を兼ねるため、コイルバネ38両端を支持するためのピンを支軸34,37とは別に設けた場合と比較して、部品点数を削減し、軽量化を図ることができる。
【0073】
上記実施形態によれば、一対のリンク部材32,33がコイルバネ38の一部を覆っていることで、以下の効果を奏する。
一対のリンク部材32,33の間にコイルバネ38全体が露出する場合と比較して、一対のリンク部材32,33の間に異物が入りにくくすることができる。加えて、コイルバネ38の一部が外部から見えなくなるため、外観性の向上に寄与する。
【0074】
上記実施形態によれば、制動部50は、脚部30に固定されたディスク51と、ディスク51を挟むことが可能な一対のシュー52と、変位部40の変位に応じて一対のシュー52にディスク51を挟ませる制動リンク機構53と、を備えることで、以下の効果を奏する。
制動部50は、脚部30と一体に動くディスク51を一対のシュー52で挟み、その際に発生する摩擦力によって制動力を発生する、いわゆるディスクブレーキとして機能する。そのため、ドラムブレーキの場合と比較して、安定した制動力を得ることができるとともに、メンテナンス性に優れる。
【0075】
上記実施形態によれば、制動リンク機構53は、変位部40に一端が回動可能に連結された一対の第一アーム54と、一対の第一アーム54の他端に一端が回動可能に連結され、一対のシュー52に他端が固定された一対の第二アーム55と、を備えることで、以下の効果を奏する。
一対の第一アーム54及び一対の第二アーム55を備えた簡単な構成で、使用時間の制限なく安全に使用することができる。
【0076】
上記実施形態によれば、ディスク51がアルミニウム合金製であることで、鉄製の場合と比較して軽量化を図ることができる。
【0077】
上記実施形態によれば、複数の脚部30は、3つの脚部30であり、3つの脚部30は、それぞれ異なる方向に向くように設けられていることで、以下の効果を奏する。
4つの脚部30の場合と比較して、部品点数を削減し、軽量化を図ることができる。加えて、3つの脚部30がそれぞれ同じ方向に向く場合と比較して、安定した支持がしやすい。
【0078】
上記実施形態に係る杖1は、上記の支持機構3と、使用者が把持可能な把持部10を有し変位部40に支持された杖本体2と、を備えることで、以下の効果を奏する。
どのような地面であっても安定してしっかりした支持ができる。
【0079】
<変形例>
なお、上記実施形態では、変位部40が杖本体2の軸部11に支持されている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図7に示すように、変位部40は、杖本体2の把持部10に設けられていてもよい。例えば、変位部140はレバーであってもよい。例えば、ワイヤ153は、複数の脚部30に対応して複数設けられている。ワイヤ153の一端はレバー140側に取り付けられている。ワイヤ153の他端は、不図示のブラケットを介してシュー52側に取り付けられている。例えば、使用者がレバー140を握ることでワイヤ153が引っ張られ、シュー52でディスク51を挟み、押し付けることでブレーキがかかる仕組みであってもよい。
この構成によれば、変位部40が把持部10に設けられているため、使用者は手元の操作で任意のタイミングで脚部30を制動することができる。
【0080】
上記実施形態では、制動リンク機構53は、変位部40に一端が回動可能に連結された一対の第一アーム54と、一対の第一アーム54の他端に一端が回動可能に連結され、一対のシュー52に他端が固定された一対の第二アーム55と、を備える例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図8に示すように、制動リンク機構253は、変位部40に回転可能に設けられた一対の回転体254と、一対の回転体254が摺動可能に一対の回転体254を一端側で挟むとともに、一対のシュー52に他端が固定された一対のアーム255と、を備えてもよい。
この構成によれば、一対の第一アーム54及び一対の第二アーム55を備えた構成と比較して、アーム255の部品点数を削減し、軽量化を図ることができる。
【0081】
上記実施形態では、脚部30及び制動部50のそれぞれがリンク機構31,53を備える例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、脚部30及び制動部50のいずれか一方がリンク機構を備えてもよい。例えば、脚部30及び制動部50の少なくとも一方がリンク機構を備えてもよい。または、脚部30及び制動部50はいずれもリンク機構を有しなくてもよい。
【0082】
上記実施形態では、2つの支軸34,37がリンク部材32,33端部の支持部及びコイルバネ38両端の支持部を兼ねる例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、コイルバネ38両端を支持するためのピンを支軸34,37とは別に設けてもよい。
【0083】
上記実施形態では、一対のリンク部材32,33がコイルバネ38の一部を覆っている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、一対のリンク部材32,33は、コイルバネ38の全体を覆っていてもよい。例えば、一対のリンク部材32,33は、コイルバネ38の少なくとも一部を覆っていてもよい。または、一対のリンク部材32,33の間にコイルバネ38全体が露出していてもよい。
【0084】
上記実施形態では、ディスク51がアルミニウム合金製である例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、ディスク51は、鉄製等のアルミニウム合金以外の金属製であってもよい。
【0085】
上記実施形態では、脚部30が3つ設けられている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、脚部30は、2つまたは4つ以上設けられていてもよい。
【0086】
上記実施形態では、脚部30がコイルバネ38を備える例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、脚部30は、板バネ等のコイルバネ38以外の弾性部材を備えてもよい。
【0087】
上記実施形態では、支持機構3を杖に適用した例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、カメラの三脚、病院の点滴台、ゴルフクラブの立てかけ台(ゴルフスタンド)、義足、テレビ台等に支持機構3を適用してもよい。例えば、什器、撮影用や計測用のロボット等の移動装置等に支持機構3を適用してもよい。
【0088】
なお、本発明の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0090】
<杖の自立性の評価>
本願発明者らは、国土交通省の定めた『歩道における段差及び勾配等に関する基準』(以下「国交省の定めた基準」ともいう。)に記載されている条件(傾斜8%、段差20mm)において杖の軸を鉛直に保持することを以下の評価により確認した。
【0091】
(実施例)
実施例は、杖本体の軸部に支持機構が支持されているもの(
図1に示す杖)を用いた。脚部は、平行四辺形のリンク機構を用い、平行四辺形の対角をコイルバネでつなぐことで、荷重がかかっていないときは脚部のリンク機構が初期位置に戻るようにした。脚部は、杖本体の軸部を中心に120°間隔で放射状に3つ配置した。脚部の第二リンク部材に、アルミニウム合金製のディスクを一体化した。制動部は、リンク機構を用い、荷重をかけたときのリンク機構の変形により、ディスクにシューを押し付け、ブレーキがかかる仕組みを採用した。
【0092】
(評価対象)
評価対象の地面として、段差、斜面に模したプレート(以下単に「斜面」ともいう。)、小石を敷き詰めた床(以下「砂利道」ともいう。)を用意した。国交省の定めた基準により、段差の高さは20mm、傾斜の傾きは8%(約4.6°)、小石の大きさは直径10mm程度とした。
【0093】
(評価結果)
実施例の杖を、段差、斜面及び砂利道のそれぞれに垂直に接地したときの実験の様子を
図9(a)から
図9(c)に示す。
図9(a)から
図9(c)に示すように、段差、斜面及び砂利道のいずれの地面においても杖の軸部が鉛直になるように脚部が変形し、杖の姿勢を保ちながら自立することが確認できた。これにより、実施例の杖は、国交省の定めた基準において杖の軸を鉛直に保持することが分かった。
【0094】
<杖の接地性の評価>
本願発明者らは、段差、斜面及び砂利道でも平坦面と同程度の傾き範囲で杖を使用可能なことを以下の評価により確認した。
【0095】
(実施例)
実施例は、杖本体とは別にデータ計測用の荷重測定杖(
図10参照)を用いた。荷重測定杖にはロードセルを用いることで杖の軸方向にかかる荷重を計測することを可能にした。また、荷重測定杖にはジャイロ・加速度センサを搭載し、杖の状態を把握できるようにした。ジャイロ・加速度センサは杖の持ち手と平行の傾きをロール角、杖の持ち手と交差する向きの傾きをピッチ角として検出可能である。なお、支持機構は上記の<杖の自立性の評価>で用いたものと同じとした。すなわち、実施例は、荷重測定杖の軸部に支持機構(
図2参照)が支持されているものを用いた。
【0096】
(比較例)
比較例は、市販の4点杖の杖先を荷重測定杖に取り付けたものを用いた。なお、市販の4点杖は荷重測定杖に取り付けられるように杖先を加工した。
【0097】
(評価対象)
評価対象の地面として、平坦面、段差、斜面及び、砂利道を用意した。国交省の定めた基準により、段差の高さは20mm、傾斜の傾きは8%(約4.6°)、小石の大きさは直径10mm程度とした。
【0098】
(評価結果)
実施例の杖を、平坦面、段差、斜面及び砂利道のそれぞれに垂直に接地したときの実験の様子を
図11(a)から
図11(d)に示す。
図11(a)から
図11(d)の奥行方向の軸周りがロール角、左右方向の軸周りがピッチ角となっている。
図12から
図15は、実施例に係る杖を接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図である。
図12は平坦面への接地、
図13は段差への接地、
図14は斜面への接地、
図15は砂利道への接地をそれぞれ示す。
図12から
図15において、左の縦軸は杖にかけた荷重、右の縦軸は杖の鉛直方向を0°としたときのロール角及びピッチ角、横軸は時間を示している。
図16は、実施例に係る杖を各場所に接地したときのロール角及びピッチ角のそれぞれの平均を示す図である。
【0099】
実施例において、杖の傾きの差に着目すると、ロール角は砂利道のときが最も大きく3.5°であった。一方、ピッチ角はほとんど差がなかった。
段差及び斜面においてのロール角の傾きは、接地時に力をかける向きが傾いたからであり、地面の状態によるものではないと考えられる。砂利道においてのロール角の傾きは、脚部がロックされた後の押し込みによって地面の砂利の位置が変化したからであると考えられる。また砂利道においてロール角、ピッチ角共に一部で傾きにブレがみられるのは、荷重をかけた際に砂利がずれたためであると考えられる。
これにより、実施例の杖は、平坦面、段差、斜面及び砂利道のそれぞれに接地した杖の傾きに大きな違いがないことが分かった。
【0100】
比較例の杖を、平坦面、段差、斜面及び砂利道のそれぞれに垂直に接地したときの実験の様子を
図17(a)から
図17(d)に示す。
図17(a)から
図17(d)の奥行方向の軸周りがロール角、左右方向の軸周りがピッチ角となっている。
図18から
図21は、比較例に係る杖を接地したときの荷重、ロール角及びピッチ角を示す図である。
図18は平坦面への接地、
図19は段差への接地、
図20は斜面への接地、
図21は砂利道への接地をそれぞれ示す。
図18から
図21において、左の縦軸は杖にかけた荷重、右の縦軸は杖の鉛直方向を0°としたときのロール角及びピッチ角、横軸は時間を示している。
図22は、比較例に係る杖を各場所に接地したときのロール角及びピッチ角のそれぞれの平均を示す図である。
【0101】
比較例において、杖の傾きの差に着目すると、ロール角は砂利道のときが最も大きく1.8°であり、ピッチ角は段差のときに7°、斜面のときに6°程度であった。
また、砂利道での接地において杖の手元に大きなブレがみられた。
これにより、比較例の杖は、段差、斜面及び砂利道のそれぞれにおいて大きく傾くことが分かった。
【0102】
以上により、実施例の杖は、段差、斜面及び砂利道でも平坦面と同程度の傾き範囲で杖を使用可能なことが分かった。
【符号の説明】
【0103】
1…杖、2…杖本体、3…支持機構、10…把持部、30…脚部、30A…第一脚部(脚部)、30B…第二脚部(脚部)、30C…第三脚部(脚部)、31…リンク機構、32…第一リンク部材(リンク部材)、33…第二リンク部材(リンク部材)、34…第一支軸(支軸)、35…第二支軸(支軸)、36…第三支軸(支軸)、37…第四支軸(支軸)、38…コイルバネ、40…変位部、50…制動部、50A…第一制動部(制動部)、50B…第二制動部(制動部)、50C…第三制動部(制動部)、51…ディスク、52…シュー、53…制動リンク機構、54…第一アーム、55…第二アーム、140…変位部、253…制動リンク機構、254…回転体、255…アーム