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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】イオン液体
(51)【国際特許分類】
   C07D 233/64 20060101AFI20231120BHJP
【FI】
C07D233/64 103
C07D233/64 CSP
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019210193
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021080218
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】池田 太一
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108918490(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108849908(CN,A)
【文献】特表平09-509178(JP,A)
【文献】Shukla, Abhinav A. et al.,Synthesis and Characterization of High-Affinity, Low Molecular Weight Displacers for Cation-Exchange Chromatography,Industrial & Engineering Chemistry Research,1998年,Vol.37, No.10,4090-4098
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカチオンと、対アニオンと、を含むイオン液体であって、
前記ポリカチオンが、式3で表されるポリカチオンであり、
前記対アニオンが、SCN 、C(CN) 、(NC) 、NO 、HSO 、CH SO 、CH SO 、CH COO 、CF COO 、BF 、PF 、CF BF 、CF SO 、(FSO 、及び、(CF SO からなる群より選択される少なくとも1種のアニオンである、イオン液体。
【化1】
(式3中、Aは式2A~式2Eからなる群より選択される少なくとも1種の基を表し、Rは炭素数1~10個のアルキレン基を表し、pは1~4の整数を表し、複数あるA、R、及び、pはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【化2】

(式2A~式2E中、R1A、R2A、R3A、及び、Rは、それぞれ独立にヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~10個の炭化水素基、又は、水素原子を表し、*は結合位置を表す。)
【請求項2】
ポリカチオンと、対アニオンと、を含むイオン液体であって、
前記ポリカチオンが、式4で表されるポリカチオンであり、
前記対アニオンが、SCN 、C(CN) 、(NC) 、NO 、HSO 、CH SO 、CH SO 、CH COO 、CF COO 、BF 、PF 、CF BF 、CF SO 、(FSO 、及び、(CF SO からなる群より選択される少なくとも1種のアニオンである、イオン液体。
【化3】
(式4中、Rは炭素数1~10個のアルキレン基を表し、pは1~4の整数を表し、XはCR、又は、Nを表し、R1B、R、及び、Rはヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~10個の炭化水素基、又は、水素原子を表し、複数あるR、R1B、R、及び、pはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項3】
前記R1Bで表される基の炭素数が、1~3個である、請求項に記載のイオン液体。
【請求項4】
ポリカチオンと、対アニオンと、を含むイオン液体であって、
前記ポリカチオンが、式3で表されるポリカチオンであり、
前記対アニオンが、SCN 、C(CN) 、(NC) 、NO 、HSO 、CH SO 、CH SO 、CH COO 、CF COO 、BF 、PF 、CF BF 、CF SO 、(FSO 、及び、(CF SO からなる群より選択される少なくとも1種のアニオンである、イオン液体。
【化4】
(式3中、A は式2A~式2Eからなる群より選択される少なくとも1種の基を表し、R は炭素数1~4個のアルキレン基を表し、pは2以上の整数を表し、複数あるA 、R 、及び、pはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【化5】
(式2A~式2E中、R 1A 、R 2A 、R 3A 、及び、R は、それぞれ独立にヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~10個の炭化水素基、又は、水素原子を表し、*は結合位置を表す。)
【請求項5】
前記対アニオンが、CF COO 、BF 、PF 、CF BF 、CF SO 、(FSO 、及び、(CF SO からなる群より選択される少なくとも1種のアニオンである、請求項1~4のいずれか1項に記載のイオン液体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の正電荷部位を有するカチオン、すなわちポリカチオンを含むイオン液体が知られている。特許文献1には、複数の正電荷部位が直鎖状に配置されたポリカチオンと対アニオンとを含むイオン液体が開示されている。
【0003】
また、非特許文献1には、ペンタエリトリチル基にカチオン基が結合した4分岐ポリカチオンを含むイオン液体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2017/014310号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Taichi,Ikeda“Structure Property Relationship of Tetra-Cationic Ionic Liquids,“Polymer Preprints,Japan,Vol.68,No.2,3ESA01(2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、特許文献1に記載されたイオン液体は、粘度が高く、イオン伝導度に改善の余地があることを知見している。
【0007】
また、非特許文献1に記載されたイオン液体はポリカチオンが分岐構造をとるため、特許文献1に記載されたような直鎖状のポリカチオンより粘度が低くなりやすいにもかわらず、依然としてイオン伝導度に改善の余地があることを知見している。
【0008】
そこで、本発明は、優れたイオン伝導度を有するイオン液体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0010】
[1] 後述する式1で表されるポリカチオンと、対アニオンと、を含むイオン液体。
[2] 後述する式1で表されるポリカチオンと、対アニオンと、を含み、後述する式1Bで表されるイオン液体。
[3] 式1中のカチオン基が、有機基である、[1]又は[2]に記載のイオン液体。
[4] 式1中のカチオン基が、後述する式2A~式2Eで表される基からなる群より選択される少なくとも1種の基である、[1]~[3]のいずれかに記載のイオン液体。
[5] 式1中のMに含まれる炭素原子の数が1~12個である、[1]~[4]のいずれかに記載のイオン液体。
[6] 式1中のMが、芳香環を有さず、かつ、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基である、[5]に記載のイオン液体。
[7] 式1中のnが1のとき、Rの炭素数が、1~8個である、[1]~[6]のいずれかに記載のイオン液体。
[8] 式1中のRの炭素数が1~5個である、[7]に記載のイオン液体。
[9] 式1中のnが2以上のとき、式1中のRの炭素数が1~4個である、[1]~[6]のいずれかに記載のイオン液体。
[10] 式1中のRの炭素数が1個又は2個である、[9]に記載のイオン液体。
[11] 上記対アニオンが、SCN、C(CN) 、(NC)、NO 、HSO 、CHSO 、CHSO 、CHCOO、CFCOO、BF 、PF 、CFBF 、CFSO 、(FSO、及び、(CFSOからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンである、[1]~[10]のいずれかに記載のイオン液体。
[12] 上記対アニオンが、CFCOO、BF 、PF 、CFBF 、CFSO 、(FSO、及び、(CFSOからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンである、[1]~[11]のいずれかに記載のイオン液体。
[13] 上記ポリカチオンが、後述する式3で表されるポリカチオンである、[1]~[12]のいずれかに記載のイオン液体。
[14] 上記ポリカチオンが、後述する式4で表されるポリカチオンである、[1]~[12]のいずれかに記載のイオン液体。
[15] 式14中の上記R1Bで表される基の炭素数が、1~3個である、[14]に記載のイオン液体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れたイオン伝導度を有するイオン液体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】化合物1の13C核磁気共鳴スペクトルである。
図2】化合物3の13C核磁気共鳴スペクトルである。
図3】化合物4の13C核磁気共鳴スペクトルである。
図4】化合物5の13C核磁気共鳴スペクトルである。
図5】参照化合物A、Bと化合物5とのイオン伝導度の比較である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
[イオン液体]
本発明に係るイオン液体は、後述する式1で表されるポリカチオンと、対アニオンとを含む。上記イオン液体により本発明の課題が解決される機序は必ずしも明らかではないが、本発明者は以下のとおり推測している。なお、以下の機序は推測であり、以下の機序以外の機序により本発明の効果が得られる場合であっても本発明の範囲に含まれる。
【0015】
本発明者は、優れたイオン伝導度を有するイオン液体の開発を目指し、検討したところ、特許文献1に記載されたような複数の正電荷部位が直鎖状に配置されたポリカチオンに対して、その粘度を低下させることでイオン伝導度が向上するのではないかとの着想を得た。そこで、非特許文献1に記載されたような分岐構造のポリカチオンを合成し、そのイオン伝導度を測定したところ、予想に反してイオン伝導度は十分に向上しなかった。本発明者は、この原因について鋭意検討してきた。
【0016】
その結果、非特許文献1に記載されたような分岐構造のポリカチオンでは、カチオン基同士が分岐中心近傍に固定されると複数の正電荷が生み出す大きな静電場が強い静電相互作用を生み出し、これがイオン伝導度の向上を妨げている可能性があることを見出した。
【0017】
これに対し、本発明に係るイオン液体(以下「本イオン液体」ともいう。)は、後述する式1で表されるポリカチオンを含み、上記ポリカチオンは、複数のカチオン基を有し、それぞれの1価のカチオン基は、分岐中心であるMで表される基との間に、(ポリ)オキシアルキレン基(-O-R-)nからなる「スペーサー」を介して結合されている。
このスペーサーは、所定の長さを有し、かつ、エーテル結合に起因する柔軟性を併せ持つため、カチオン基同士が分岐中心近傍に固定されるのを抑制する効果を有する。
【0018】
そのため、本イオン液体においては上記の大きな静電場が形成されにくいものと推測される。また、本イオン液体は分岐構造であるために、粘度も低くなりやすい。このような理由から、本イオン液体は優れた(高い)イオン伝導度を有するものと推測される。
以下では、本イオン液体における各成分、本イオン液体の合成方法等について詳述する。
【0019】
本イオン液体は、1価のカチオン基を複数有する多価のカチオン(以下、単に「ポリカチオン」ともいう。)と、対アニオンとの間に形成される塩である。ポリカチオンは4つのカチオン基を有するので、対アニオンは、合計で-4の電荷を提供し、イオン液体全体としては電荷が均衡する。本イオン液体において対アニオンはモノアニオンであることが好ましい。
なお、本明細書において、イオン液体とは、100℃以下で液体である塩を意味し、25℃以下で液体である塩がより好ましい。
【0020】
本明細書におけるポリカチオン、ポリアニオンという用語は、特定の全電荷を有する一つの荷電イオン種、すなわち、+4のイオン、及び、-4のイオンは包含しない。
むしろ、少なくとも4つの別々の1価のカチオン基を有し、各カチオン基が独立に中心基に共有結合している単一の分子を意味している。
なお、本明細書における「共有結合」という用語は、分子の2つの部分、たとえば、1価のカチオン基と中心基とが、共有結合していることを意味する。また、1価のカチオン基は、互いには直接共有結合を形成しないことが好ましく、中心基は電荷を持たないことが好ましい。
【0021】
ポリカチオン中の1価のカチオン基は、それぞれ同じ電荷(+1)を有する基である。なお、ポリカチオン中の1価のカチオン基(詳細は後述する)は、異なる種類の基であってもよいが、ポリカチオンは、全カチオン基が同じ電荷であり、かつ、同じ構造でもあることが好ましい。なお、その場合であっても、対イオンは同じものである必要はない。
【0022】
(ポリカチオン)
本イオン液体が含有するポリカチオンは、以下の式1で表されるポリカチオンである。
【化1】
【0023】
式1中、Mは炭素原子、又は、4価の基を表し、Rは炭素数が1~10個のアルキレン基を表し、Aは、1価のカチオン基を表し、nは1~4の整数を表し、複数あるR、及び、A、並びに、nはそれぞれ互いに同一でも異なってもよい。
【0024】
の4価の基としては、特に制限されないが、以下の式(4BL)で表される基が挙げられる。
【化2】
【0025】
式4BL中、Lは炭素原子、又は、4価の基を表す。Tは単結合又は2価の基を表し、4個のTは互いに同一であってもよく異なっていてもよい。但し、Lが炭素原子であって、Tが単結合である形態は式4BLで表される基には含まれないものとする。
【0026】
としては、特に制限されないが、4価の炭化水素基、なかでも炭素数1~10個の4価の炭化水素基が好ましい。なお、炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基が好ましい。なお、炭化水素基にはヘテロ原子(例えば、-O-)が含まれていてもよい。
【0027】
なかでも、分子同士の相互作用(π-πスタッキング相互作用等)を弱めるという観点で、分岐中心であるMが平面構造をとりにくいことが好ましく、このような構造をより取りにくい点で、上記炭化水素基としては、芳香環を有さず、かつ、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基が好ましく、ヘテロ原子を有していてもよい脂肪族炭化水素基がより好ましく、ヘテロ原子を有しない脂肪族炭化水素基が更に好ましい。
【0028】
が4価の場合、Mの全体に含まれる炭素原子の数としては特に制限されないが、より優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、1~12個が好ましい。
式4BLで表される基の具体例としては、ペンタエリスリトール残基、及び、ジトリメチロールプロパン残基等が挙げられる。
【0029】
式4BL中、Tで表される2価の基としては、例えば、-C(O)-、-C(O)O-、-OC(O)-、-O-、-S-、-NR-(Rは水素原子又は1価の有機基を表す)、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルケニレン基、及び、これらの組み合わせ等であってもよい。
【0030】
は炭素数1~10のアルキレン基を表し、(-O-R-)で表される(ポリ)オキシアルキレン基はすでに説明した「スペーサー」としての機能を有する。
上記スペーサーによりAで表されるカチオン基が分岐中心近傍により固定されにくく、結果としてより優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られやすい点で、nが1(すなわち、スペーサーがオキシアルキレン基)である場合には、Rの炭素数としては1~8個であることが好ましく、炭素数が1~8個の直鎖状のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数が1~5個の直鎖状のアルキレン基であることが更に好ましく、炭素数が2~4個の直鎖状のアルキレン基が特に好ましい。
【0031】
また、nが2以上(すなわち、スペーサーがポリオキシアルキレン基)である場合には、Rの炭素数としては1~4個であることが好ましく、Rは炭素数が1~4個の直鎖状のアルキレン基がより好ましく、Rの炭素数が1個又は2個(メチレン基、又は、エチレン基)が更に好ましい。
【0032】
なお、より優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、ポリカチオンが有する4つの「スペーサー」は同一でも異なってもよく、なかでも、スペーサーが互いに異なると、ポリカチオンの対称性が下がり、規則構造をより作りにくくなり、結果としてより優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、より好ましい。
【0033】
式1中Aは、1価のカチオン基を表す。1価のカチオン基は、+1の電荷を有する基を意味し、その結果、ポリカチオン全体としては、+4の電荷を有することとなる。
この1価のカチオン基としては、特に制限されないが、例えば、カルボシクリル、ヘテロシクリル、第4級アンモニウム、プロトン化第3級アミン、ホスホニウム、及び、アルソニウム基等が挙げられる。
【0034】
なお、本明細書において、カルボシクリルとは、単独で、又は、他の用語と組み合わされて、5~14個の炭素環原子(「環原子」は、互いに結合して環状置換基の単環、又は、多環を形成する原子である)を含む、飽和環状(すなわちシクロアルキル)、部分飽和環状(すなわちシクロアルケニル)、又は、完全不飽和(すなわちアリール)のヒドロカルビル置換基を意味する。
カルボシクリルは、環一個の(単環)構造でも多環構造でもよい。
【0035】
カルボシクリルは、単環構造でもよく、典型的には5~7個の環原子を含み、5~6個の環原子を含むことが好ましく、5~6個の環原子を含むことがより好ましい。このような単環カルボシクリルの例としては、シクロペンチル(シクロペンタニル)、シクロペンテニル、シクロペンタジエニル、シクロヘキシル(シクロヘキサニル)、シクロヘキセニル、シクロヘキサジエニル、及び、フェニル等が挙げられる。
【0036】
又は、カルボシクリルは多環式、すなわち2環以上の環を含んでいてもよい。多環カルボシクリルの例としては、架橋カルボシクリル、縮合カルボシクリル、スピロ環カルボシクリル、及び、分離カルボシクリル等が挙げられる。
スピロ環カルボシクリルでは、1個の原子が異なる2つの環に共有される。スピロ環カルボシクリルの例としては、スピロペンタニルがある。架橋カルボシクリルでは、環は少なくとも2個の隣接しない共通原子を共有する。架橋カルボシクリルの例としては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-エニル、及び、アダマンタニル等が挙げられる。
【0037】
縮合環カルボシクリル系では、2つの環が1つの共通結合を共有するように、複数の環が互いに縮合される。2重縮合、又は、3重縮合環カルボシクリルの例としては、ナフタレニル、テトラヒドロナフタレニル(テトラリニル)、インデニル、インダニル(ジヒドロインデニル)、アントラセニル、フェナントレニル、及び、デカリニル等が挙げられる。分離カルボシクリルでは、環が分離されて独立し、共通原子を共有しないが、環の間にリンカーが存在する。
【0038】
また、本明細書において、「ヘテロシクリル」という用語は、単独で、又は、他の用語と組み合わされて、合計5~14個の環原子を含む、飽和環状構造(すなわちヘテロシクロアルキル基)、部分飽和環状構造(すなわちヘテロシクロアルケニル基)、又は、完全不飽和環状構造(すなわちヘテロアリール基)を意味する。
これらの環原子の少なくとも1個は、ヘテロ原子(すなわちN、P、As、O、S、及び、Si)であり、残りの環原子は、炭素、酸素、窒素、及び、硫黄からなる群から独立に選択される原子である。ヘテロシクリルは環一個の(単環)構造でも多環構造でもよい。
【0039】
ヘテロシクリルという用語は、ピリジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、イミダゾリウム、ピラゾリウム、チアゾリウム、オキサゾリウム、及び、トリアゾリウムのようなプロトン化ヘテロシクリルを包含する。
【0040】
なかでも、より優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、1価のカチオン基としては、以下の各式からなる群より選択される基が好ましい。
【0041】
【化3】
【0042】
上記式中、*は結合位置を表す。
上記式中、Lは単結合、又は、2価の基を表し、2価の基としてはすでに説明したTの2価の基と同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。なかでも、より優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、Lとしては単結合が好ましい。
【0043】
式中R1A、R2A、R3A、及び、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~10個の炭化水素基を表す。なかでも、より優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、R1A、R2A、及び、R3Aで表される基の炭素数としては炭素数が1~4個の炭化水素基がより好ましい。Rとしては、水素原子が好ましい。
【0044】
カチオン基としては、更に優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、以下の式2A~式2Eで表される基からなる群より選択される少なくとも1種の基が好ましい。
【化4】
【0045】
式2A~式2E中*は結合位置を表す。
式2A~式2E中、R1A、R2A、R3A、及び、Rは、それぞれ独立に水素原子、又は、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~10個の炭化水素基を表す。
なかでもより優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、R1A、R2A、及び、R3Aで表される基の炭素数としては1~3個が好ましく、R1A、R2A、及び、R3Aで表される基としては、炭素数が1~3個の炭化水素基がより好ましい。Rとしては、水素原子が好ましい。
【0046】
(ポリカチオンの好適形態1)
より優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、ポリカチオンとしては以下の式3で表されるポリカチオンが好ましい。
【0047】
【化5】
【0048】
式3中、Aはすでに説明した式2A~式2Eからなる群より選択される少なくとも1種の基を表し、Rは炭素数1~10個のアルキレン基を表し、pは1~4の整数を表す。なお、上記式中、複数あるA、R、及び、pはそれぞれ同一でも異なってもよく、特に、Rが異なる場合、すでに説明した「スペーサー」が各分岐ごとに異なる形態となり、ポリカチオンが規則構造をより作りにくく、結果としてより優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で好ましい。
【0049】
の炭素数1~10個のアルキレン基としては特に制限されないが、すでに説明した式1中のRと同様の基が挙げられ、好適形態も同様である。また、式3中pは、式1中における「n」と同様であり、好適形態も同様である。
すなわち、pが1のときのRの好適形態、及び、pが2以上のときのRの好適形態は、それぞれnが1のときのRの好適形態、及び、nが2以上のときのRの好適形態と同様である。
【0050】
(ポリカチオンの好適形態2)
更に優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、ポリカチオンとしては、以下の式4で表されるポリカチオンが好ましい。
【0051】
【化6】
【0052】
式4中、Rは炭素数1~10個のアルキレン基を表し、pは1~4の整数を表し、それぞれ、式3中の各記号と同義であり、好適形態も同様である。
【0053】
式4中、XはCR、又は、Nを表し、Rは水素原子、又は、アルキル基であり、R1B、R、及び、Rはそれぞれ独立にヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~10個の炭化水素基、又は、水素原子を表し、複数あるR、R1B、R、及び、pはそれぞれ同一でも異なってもよい。
特に、Rが異なる場合、すでに説明した「スペーサー」が各分岐ごとに異なる形態となり、ポリカチオンが規則構造をより作りにく、結果としてより優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で好ましい。
【0054】
1B、及び、Rは、それぞれ、式2A中におけるR1A、及び、Rと同義であり、好適形態も同様である。
としては、水素原子、又は、炭素数が1~10個のアルキル基が好ましい。
【0055】
(対アニオン)
本イオン液体は対アニオンを含有する。アニオンとしては1価のアニオンであってもポリアニオン(多価アニオン)であってもよいが、より優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、1価のアニオンが好ましい。
すなわち、本イオン液体は、下記式1Bで表されることが好ましい。なお、式1Bにおいて、カチオン基Aはそれぞれ1価のカチオンであり、ポリカチオンとしては+4の電荷を有し、一方、アニオン全体では-4の電荷を有している。このためイオン液体全体としては、電荷が均衡している。
【0056】
【化7】
【0057】
なお、式1B中、M、R、A、及び、nは、式1中における各記号と同義であり、好適形態も同様である。また、式1B中、Xは対アニオン、すなわち、上記1価のアニオンを表す。
【0058】
1価のアニオンとしては特に制限されないが、例えば、(FSO、(CFSO、及び、(CFCFSO等のスルホニルイミド化物イオン;OH、SCN、BF 、PF 、ClO 、CHSO 、CFSO 、及び、CFCOO等が挙げられる。
【0059】
なかでも、より優れた本発明の効果を有するイオン液体が得られる点で、アニオンとしては、SCN、C(CN) 、(NC)、NO 、HSO 、CHSO 、CHSO 、CHCOO、CFCOO、BF 、PF 、CFBF 、CFSO 、(FSO、及び、(CFSOからなる群より選択される少なくとも1種のアニオンが好ましく、フッ素原子を含有する含フッ素アニオンがより好ましく、CFCOO、BF 、PF 、CFBF 、CFSO 、(FSO、及び、(CFSO(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン;「TFSI」)からなる群より選択される少なくとも1種のアニオンが更に好ましい。
【0060】
アニオンがフッ素原子を含有すると負電荷が対イオン全体に広がりやすく、その結果静電場が弱くなるためにカチオン・アニオン間の静電相互作用が弱まりイオン液体の粘度が下がる。結果としてイオン伝導度のより高いイオン液体が得られやすい。
【0061】
(本イオン液体の合成方法)
式1で表されるポリカチオンを有するイオン液体は例えば以下の方法により合成できる。
【0062】
まず、式sch1で表される反応により式Cで表される中間体化合物Cが合成される。なお、下記式中、Q~Qは互いに同一でも異なってもよい脱離基であり、Mは4価の基であり、R、及び、nは、式1中のRで表される基、及び、nと同義であり、好適形態も同様である。
~Qの脱離基としては例えばハロゲン原子が挙げられる。
また、Mには、4つのメチレン基が直接結合しており、これは、すでに説明した4BLで表される基のうち、Tがメチレン基である場合のMに相当し、Mと直接結合する4つのメチレン基とを合わせてMの一形態を示している。
また、PG1はヒドロキシ基の保護基である。
【0063】
【化8】
【0064】
式sch1では、まず、式Aで表される化合物を強塩基(例えば、水素化ナトリウム等)の存在下、非プロトン性極性溶媒(例えば、DMF;ジメチルホルムアミド)に溶解し、式Bで表されるポリオール化合物と反応させる、すなわちウィリアムソンエーテル化が行われる。更に、ヒドロキシ基を脱保護することにより、式Cで表される中間体化合物Cが合成できる。
【0065】
使用できる保護基、及び、脱保護反応としては、特に制限されないが、例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オルガニック・シンセシス第4版(ジョン・ウィリー・アンド・サンズ出版)p.367-430(PROTECTIVE GROUPS in ORGANIC SYNTHESIS 4thEd.(JOHN WILEY & SONS)p.367-430)に示されるような保護基、及び、脱保護反応が使用できる。
【0066】
次に、中間体化合物Cのヒドロキシ基をp-トルエンスルホニル化(トシル化)する。トシル化の方法としては、例えば、塩基(トリエチルアミン、及びび、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン;DMAP等)の存在下に塩化パラトルエンスルホニル(TsCl)等と反応させる方法が挙げられる。
更に、式sch2に示したように、NaI/アセトンを用いたフィンケルシュタイン反応によって、式Dで表される中間体化合物Dが得られる。なお、上記のヨウ素化は一例であり、ヨウ素を使用する等、公知のヨウ素化法も使用できる。
また、ヨウ素化に代えてブロモ化を用いてもよく、この場合、公知のブロモ化法(四臭素化炭素、又は、N-ブロモコハク酸イミドを使用する方法等)も使用できる。
【0067】
更に、ヨウ素化に代えてクロロ化を用いてもよく、この場合、公知のクロロ化法(四塩化炭素、又は、N-クロロコハク酸イミドを使用する方法等)も使用できる。また、Nature Chemistry, 2015, 7, 730のSupporting Information.に記載されているように、ハロゲン化物に変換せず、トシル化物、又は、メシル化物から下記sch3の反応へ移行してもよい。
【0068】
【化9】
【0069】
次に、上記中間体化合物Dとカチオン基を形成する化合物とを反応させて、(ポリ)カチオンを合成するとともに、アニオンを所望のアニオンに交換することで、所望のイオン液体が得られる。この方法は一般に塩交換法と呼ばれている。上記反応の一例を以下sch3に示すが、本合成方法は以下に限定されない。なお下記式中、YXは塩化合物を表し、Yはカチオン成分、Xはアニオン成分を表す。
【0070】
【化10】
【0071】
なお、より具体的な合成方法は、実施例に記載したとおりであるが、上記以外にも、例えば、本イオン液体の合成方法としては、特開2014-159453号公報の0353~0398段落に記載の方法も参照でき、上記内容は本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0072】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0073】
[ポリカチオン1を含有する化合物1の合成]
以下に示した方法によりポリカチオン1を含有する化合物1を合成した。
【0074】
【化11】
【0075】
【化12】
【0076】
<化合物1の合成 ステップ1>
12gの2-[(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ]エタノールを60mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、溶液を得た。次に上記溶液を窒素置換した後、3.6gの水素化ナトリウム(オイルに分散したもの、60質量%)を少しずつ加え、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を室温で30分撹拌した。次に、上記反応溶液に5.3gのペンタエリトリチルテトラブロミドを投入した後、窒素雰囲気下、100℃で24時間撹拌した。次に、上記反応溶液から溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物を蒸留水とジエチルエーテルの混合溶媒に分散し、分液漏斗で十分撹拌した後に有機溶媒層を回収した。得られた有機溶媒層を硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濾過により回収した濾液を減圧濃縮して回収物を得た。回収物をヘキサン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、精製物を得た。
【0077】
次に、得られた精製物の7.3gと1.5gのパラトルエンスルホン酸ピリジニウムを200mLのメタノールに溶解し、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、80℃で16時間撹拌した。次に、反応溶液から溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物をジクロロメタン/アセトンの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物1-1を得た。収量は2.8gだった。
H NMR(400MHz,CDCN):δ=3.06(br,4H),3.38-3.48(m,16H), 3.56(br,8H).
【0078】
<化合物1の合成 ステップ2>
上記ステップ1で得られた中間生成物1-1の2.0g、6.0mLのトリエチルアミン、及び、0.50gのN,N-ジメチル-4-アミノピリジンを100mLのテトラヒドロフラン/ジクロロメタン混合溶媒に溶解し、溶液を得た。次に、上記溶液を窒素置換した後、8.0gの塩化パラトルエンスルホニルを少しずつ加え、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、室温で16時間撹拌した。次に、上記反応溶液に200mLの0.5規定塩酸水溶液を加えて混合液を得て、混合液を分液漏斗内で撹拌した後、有機溶媒層を回収し、回収溶液を得た。次に、回収溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物をジクロロメタン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、精製物を得た。
【0079】
次に、得られた精製物の5.5gと18gのヨウ化ナトリウムとを100mLのアセトンに溶解し、溶液を得た。上記溶液を、窒素雰囲気下、60℃で60時間撹拌した。次に、上記溶液から溶媒を減圧留去し、濃縮物を得た。次に、上記濃縮物を150mLのジクロロメタンと150mLの蒸留水との間で分配精製し、有機溶媒層を回収し、回収溶液を得た。次に、上記回収溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、上記濃縮物をジクロロメタン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物1-2を得た。収量は4.2gだった。
H NMR(400MHz,CDCN):δ=3.30(t,8H),3.45(s,8H),3.67(t,8H).
【0080】
<化合物1の合成 ステップ3>
上記ステップ2で得られた中間生成物1-2の1.5gと4.0mLの1-エチルイミダゾールとを混合し、混合液を得た。次に、上記混合液を窒素雰囲気下、100℃で72時間撹拌し、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を150mLの蒸留水で希釈した後、100mLのジクロロメタンを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を4回繰り返した。更に、100mLのジエチルエーテルを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を3回繰り返した。次に、水溶液層を回収し、10mLの蒸留水に溶かした10gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加して溶液を得た。次に、上記溶液を1時間撹拌した後、溶液を減圧蒸留により濃縮し、濃縮物を得た。次に、濃縮物を遠心分離して有機物成分を沈殿させ、上澄みを除去して、回収物を得た。次に、上記回収物をアセトンに溶解した後、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過し、溶媒を減圧留去して、ポリカチオン1を含有する化合物1を得た。収量は3.1gだった。
【0081】
H NMR(400MHz,CDCN):δ=1.45(t,12H),3.23(s,8H),3.56(t,8H),4.12-4.26(m,16H),7.34(t,4H),7.41(t,4H),8.43(s,4H);13C NMR(100MHz,CDCN):δ=15.6,46.0,46.2,50.5,69.8,70.3,120.9(q),123.0,124.0,136.3.
化合物1の13C核磁気共鳴スペクトルを図1に示した。
【0082】
なお、上記化合物1(及び、後述する化合物2~6)の合成スキームを以下の式にまとめて示した。
【化13】
【0083】
[ポリカチオン2を含有する化合物2の合成]
以下に示した方法によりポリカチオン2を含有する化合物2を合成した。
【0084】
【化14】
【0085】
【化15】
【0086】
<化合物2の合成 ステップ3>
化合物1の合成の「ステップ2」で得られた中間生成物1-2の1.5gと4.0mLの1-ブチルイミダゾールとを混合し、混合液を得た。次に、上記混合液を窒素雰囲気下、100℃で72時間撹拌して反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を150mLの蒸留水で希釈した後、100mLのジクロロメタンを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を4回繰り返した。更に100mLのジエチルエーテルを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を3回繰り返した。次に、水溶液層を回収し、10mLの蒸留水に溶かした10gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加して溶液を得た。次に、上記溶液を1時間撹拌した後、溶液を減圧蒸留により濃縮し、濃縮物を得た。次に、濃縮物を遠心分離して有機物成分を沈殿させ、上澄みを除去して、回収物を得た。次に、上記回収物をアセトンに溶解した後、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過し、溶媒を減圧留去し、ポリカチオン2を含む化合物2を得た。収量は3.5gだった。
【0087】
[ポリカチオン3を含有する化合物3の合成]
以下に示した方法によりポリカチオン3を含有する化合物3を合成した。
【0088】
【化16】
【0089】
【化17】
【0090】
<化合物3の合成 ステップ1>
15gの2-[(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ]ブタノールを50mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、溶液を得た。次に、上記溶液を窒素置換した後、3.8gの水素化ナトリウム(オイルに分散した物、60質量%)を少しずつ加え、反応溶液を得た。次に、反応溶液を室温で30分撹拌した。次に、上記反応溶液に6.0gのペンタエリトリチルテトラブロミドを投入した後、窒素雰囲気下、100℃で24時間撹拌した。次に、上記反応溶液から溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物を蒸留水とジエチルエーテルの混合溶媒に分散し、分液漏斗で十分撹拌した後に有機溶媒層を回収した。得られた有機溶媒層を硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濾過により回収した濾液を減圧濃縮して回収物を得た。回収物をヘキサン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、精製物を得た。
【0091】
次に、得られた精製物の9.4gの精製物と1.5gのパラトルエンスルホン酸ピリジニウムを200mLのメタノールに溶解し、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、80℃で16時間撹拌した。次に、反応溶液から溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物をジクロロメタン/アセトン/メタノールの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物3-1を得た。収量は4.0gだった。
H NMR (400MHz,CDCN):δ=1.46-1.58(m,16H),2.79(t,4H),3.30(s,8H),3.37(t,8H),3.48(q,8H).
【0092】
<化合物3の合成 ステップ2>
上記ステップ1で得られた中間生成物3-1の2.5g、5.0mLのトリエチルアミン、及び、0.45gのN,N-ジメチル-4-アミノピリジンを100mLのテトラヒドロフラン/ジクロロメタン混合溶媒に溶解し、溶液を得た。次に、上記溶液を窒素置換した後、7.0gの塩化パラトルエンスルホニルを少しずつ加え、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、室温で16時間撹拌した。次に、上記反応溶液に200mLの0.5規定塩酸水溶液を加えて混合液を得て、混合液を分液漏斗内で撹拌した後、有機溶媒層を回収し、回収溶液を得た。次に、回収溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物をジクロロメタン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、精製物を得た。
【0093】
次に、得られた精製物の4.5gと13gのヨウ化ナトリウムとを100mLのアセトンに溶解し、溶液を得た。上記溶液を、窒素雰囲気下、60℃で60時間撹拌した。次に、上記溶液から溶媒を減圧留去し、濃縮物を得た。次に、上記濃縮物を150mLのジクロロメタンと150mLの蒸留水との間で分配精製し、有機溶媒層を回収し、回収溶液を得た。次に、上記回収溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、上記濃縮物をジクロロメタン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物3-2を得た。収量は3.5gだった。
H NMR(400MHz,DMSO-d):δ=1.56(m,8H),1.82(m,8H),3.22-3.31(m,16H),3.35(t,8H).
【0094】
<化合物3の合成 ステップ3>
上記ステップ2で得られた中間生成物3-2の1.5gと3.5mLの1-エチルイミダゾールとを混合し、混合液を得た。次に、上記混合液を窒素雰囲気下、100℃で72時間撹拌し、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を150mLの蒸留水で希釈した後、100mLのジクロロメタンを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を4回繰り返した。更に、100mLのジエチルエーテルを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を3回繰り返した。次に、水溶液層を回収し、10mLの蒸留水に溶かした10gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加して溶液を得た。次に、上記溶液を1時間撹拌した後、溶液を減圧蒸留により濃縮し、濃縮物を得た。次に、濃縮物を遠心分離して有機物成分を沈殿させ、上澄みを除去して、回収物を得た。次に、上記回収物をアセトンに溶解した後、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過し、溶媒を減圧留去して、ポリカチオン3を含有する化合物3を得た。収量は3.0gだった。
【0095】
H NMR(400MHz,CDCN):δ=1.43-1.54(m,20H),1.86(m,8H),3.32(s,8H),3.36(t,8H),4.09-4.20(m,16H),7.37(t,4H),7.40(t,4H),8.45(s,4H);13CNMR(100MHz,CDCN):δ=15.4,27.0,27.8,45.9,46.3,50.5,70.7,71.4,120.9(q),123.2,123.4,135.9.
化合物3の13C核磁気共鳴スペクトルを図2に示した。
【0096】
[ポリカチオン4を含有する化合物4の合成]
以下に示した方法によりポリカチオン4を含有する化合物4を合成した。
【0097】
【化18】
【0098】
【化19】
【0099】
<化合物4の合成 ステップ1>
14gの2-[(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ]ヘキサノールを50mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、溶液を得た。次に上記溶液を窒素置換した後、3.0gの水素化ナトリウム(オイルに散したもの、60質量%分)を少しずつ加え、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を室温で30分撹拌した。次に、上記反応溶液に5.0gのペンタエリトリチルテトラブロミドを投入した後、窒素雰囲気下、100℃で24時間撹拌した。次に、上記反応溶液から溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物を蒸留水とジエチルエーテルの混合溶媒に分散し、分液漏斗で十分撹拌した後に有機溶媒層を回収した。得られた有機溶媒層を硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濾過により回収した濾液を減圧濃縮して回収物を得た。回収物をヘキサン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、精製物を得た。
【0100】
次に、得られた精製物の9.0gの精製物と1.5gのパラトルエンスルホン酸ピリジニウムを200mLのメタノールに溶解し、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、80℃で16時間撹拌した。次に、反応溶液から溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物をジクロロメタン/アセトン/メタノールの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物4-1を得た。収量は4.2gだった。
H NMR(400MHz,CDCN):δ=1.27-1.38(m,16H),1.42-1.56(m,16H),2.67(t,4H),3.28(s,8H),3.34(t,8H),3.46(q,8H).
【0101】
<化合物4の合成 ステップ2>
上記ステップ1で得られた中間生成物4-1の2.5g、4.0mLのトリエチルアミン、及び、0.35gのN,N-ジメチル-4-アミノピリジンを80mLのテトラヒドロフラン/ジクロロメタン混合溶媒に溶解し、溶液を得た。次に、上記溶液を窒素置換した後、5.5gの塩化パラトルエンスルホニルを少しずつ加え、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、室温で16時間撹拌した。次に、上記反応溶液に200mLの0.5規定塩酸水溶液を加えて混合液を得て、混合液を分液漏斗内で撹拌した後、有機溶媒層を回収し、回収溶液を得た。次に、回収溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物をジクロロメタン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、精製物を得た。
【0102】
次に、得られた精製物の4.5gと12gのヨウ化ナトリウムとを100mLのアセトンに溶解し、溶液を得た。上記溶液を、窒素雰囲気下、60℃で60時間撹拌した。次に、上記溶液から溶媒を減圧留去し、濃縮物を得た。次に上記濃縮物を150mLのジクロロメタンと150mLの蒸留水との間で分配精製し、有機溶媒層を回収し、回収溶液を得た。次に、上記回収溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に上記濃縮物をジクロロメタン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物4-2を得た。収量は3.6gだった。
H NMR(400MHz,CDCl):δ=1.28-1.44(m,16H),1.52(q,8H),1.81(q,8H),3.17(t,8H),3.30-3.38(m,16H).
【0103】
<化合物4の合成 ステップ3>
上記ステップ2で得られた中間生成物4-2の1.6gと3.2mLの1-エチルイミダゾールとを混合し、混合液を得た。次に、上記混合液を窒素雰囲気下、100℃で72時間撹拌し、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を150mLの蒸留水で希釈した後、100mLのジクロロメタンを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を4回繰り返した。更に、100mLのジエチルエーテルを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を3回繰り返した。次に、水溶液層を回収し、10mLの蒸留水に溶かした10gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加して溶液を得た。次に、上記溶液を1時間撹拌した後、溶液を減圧蒸留により濃縮し、濃縮物を得た。次に、濃縮物を遠心分離して有機物成分を沈殿させ、上澄みを除去して、回収物を得た。次に、上記回収物をアセトンに溶解した後、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過し、溶媒を減圧留去して、ポリカチオン4を含有する化合物4を得た。収量は2.9gだった。
【0104】
H NMR(400MHz,CDCN):δ=1.25-1.40(m,16H),1.42-1.54(m,20H),1.81(q,8H),3.28(s,8H),3.32(t,8H),4.10(t,8H),4.16(q,8H),7.37(t,4H),7.40(t,4H),8.46(s,4H);13C NMR(100MHz,CDCN):δ=15.4,26.3,26.6,30.2,30.5,45.9,46.3,50.6,70.4,72.0,120.9(q),123.1,123.4,135.9.
化合物4の13C核磁気共鳴スペクトルを図3に示した。
【0105】
[ポリカチオン5を含有する化合物5の合成]
以下に示した方法によりポリカチオン5を含有する化合物5を合成した。
【0106】
【化20】
【0107】
【化21】

<化合物5の合成 ステップ1>
13gの2-[2-[(テトラヒドロ-2H-ピラン-2-イル)オキシ]エトキシ]エタノールを50mLのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解し、溶液を得た。次に上記溶液を窒素置換した後、3.0gの水素化ナトリウム(オイルに分散したもの、60質量%)を少しずつ加え、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を室温で30分撹拌した。次に、上記反応溶液に5.0gのペンタエリトリチルテトラブロミドを投入した後、窒素雰囲気下、100℃で24時間撹拌した。次に、上記反応溶液から溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物を蒸留水とジエチルエーテルの混合溶媒に分散し、分液漏斗で十分撹拌した後に有機溶媒層を回収した。得られた有機溶媒層を硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濾過により回収した濾液を減圧濃縮して回収物を得た。回収物をヘキサン/アセトンの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、精製物を得た。
【0108】
次に、得られた精製物の8.0gと1.5gのパラトルエンスルホン酸ピリジニウムを150mLのメタノールに溶解し、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、80℃で16時間撹拌した。次に、反応溶液から溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物をジクロロメタン/メタノールの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物5-1を得た。収量は3.6gだった。
【0109】
H NMR(400MHz,CDCN):δ=3.16(t,4H),3.38(s,8H),3.47-3.62(m,32H);13C NMR(100MHz,CDCN):δ=46.3,62.0,70.8,70.9,71.9,73.3.
【0110】
<化合物5の合成 ステップ2>
上記ステップ1で得られた中間生成物5-1の2.3g、4.0mLのトリエチルアミン、及び、0.35gのN,N-ジメチル-4-アミノピリジンを60mLのテトラヒドロフラン/ジクロロメタン混合溶媒に溶解し、溶液を得た。次に、上記溶液を窒素置換した後、5.5gの塩化パラトルエンスルホニルを少しずつ加え、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、室温で16時間撹拌した。次に、反応溶液に200mLの0.5規定塩酸水溶液を加えて混合液を得て、混合液を分液漏斗内で撹拌した後、有機溶媒層を回収し、回収溶液を得た。次に、回収溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、濃縮物をジクロロメタン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、精製物を得た。
【0111】
次に、得られた精製物の4.5gと12gのヨウ化ナトリウムとを100mLのアセトンに溶解し、溶液を得た。上記溶液を、窒素雰囲気下、60℃で60時間撹拌した。次に、上記溶液から溶媒を減圧留去し、濃縮物を得た。次に、上記濃縮物を150mLのジクロロメタンと150mLの蒸留水との間で分配精製し、有機溶媒層を回収し、回収溶液を得た。次に、上記回収溶液を硫酸マグネシウムで乾燥した後、濾過し、溶媒を減圧留去して濃縮物を得た。次に、上記濃縮物をジクロロメタン/酢酸エチルの混合溶媒を用い、シリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物5-2を得た。収量は3.5gだった。
【0112】
H NMR(400MHz,CDCl):δ=3.29(t,8H),3.39(s,8H),3.53(t,8H),3.58(t,8H),3.70(t,8H).
【0113】
<化合物5の合成 ステップ3>
上記ステップ2で得られた中間生成物5-2の1.6gと3.5mLの1-エチルイミダゾールとを混合し、混合液を得た。次に、上記混合液を窒素雰囲気下、100℃で72時間撹拌し、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を150mLの蒸留水で希釈した後、分液漏斗内で100mLのジクロロメタンを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を4回繰り返した。更に、100mLのジエチルエーテルを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を3回繰り返した。次に、水溶液層を回収し、10mLの蒸留水に溶かした10gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加して溶液を得た。次に上記溶液を1時間撹拌した後、溶液を減圧蒸留により濃縮し、濃縮物を得た。次に上記濃縮物を遠心分離して有機物成分を沈殿させ、上澄みを除去して、回収物を得た。次に、上記回収物をアセトンに溶解した後、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過し、溶媒を減圧留去して、ポリカチオン5を含有する化合物5を得た。収量は3.0gだった。
【0114】
H NMR(400MHz,CDCN):δ=1.46(t,12H),3.32(s,8H),3.48(m,8H),3.56(m,8H),3.78(t,8H),4.17(q,8H),4.25(t,8H),7.40(t,4H),7.41(t,4H),8.48(s,4H);13C NMR(100MHz,CDCN):δ=15.5,45.9,46.4,50.5,69.4,70.6,71.0,71.8,120.9(q),122.8,124.1,136.3.
化合物5の13C核磁気共鳴スペクトルを図4に示した。
【0115】
[ポリカチオン6を含有する化合物6の合成]
以下に示した方法によりポリカチオン6を含有する化合物6を合成した。
【0116】
【化22】
【0117】
【化23】

<化合物6の合成 ステップ3>
上記化合物5の合成における「ステップ2」で得られた中間生成物5-2の1.5gと4.0mLの1-ブチルイミダゾールとを混合し、混合液を得た。次に、上記混合液を窒素雰囲気下、100℃で72時間撹拌して反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を150mLの蒸留水で希釈した後、100mLのジクロロメタンを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を4回繰り返した。更に100mLのジエチルエーテルを加えて分液漏斗内で撹拌し、有機溶媒層を捨てる操作を3回繰り返した。次に、水溶液層を回収し、10mLの蒸留水に溶かした10gのリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを添加して溶液を得た。次に、上記溶液を1時間撹拌した後、溶液を減圧蒸留により濃縮し、濃縮物を得た。次に、濃縮物を遠心分離して有機物成分を沈殿させ、上澄みを除去して、回収物を得た。次に、上記回収物をアセトンに溶解した後、硫酸マグネシウムで乾燥、濾過し、溶媒を減圧留去し、ポリカチオン6を含有する化合物6を得た。収量は3.5gだった。
【0118】
[参照化合物Aの合成]
ペンタエリスリチルテトラアジド(90mg)と3-(2-メトキシエトキシ)-1-プロピン(220mg)をアセトニトリル(2mL)に溶解させ、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素置換した後、5水和硫酸銅(25mg)とアスコルビン酸ナトリウム(40mg)を加えた。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、40℃で24時間撹拌した。次に、上記反応溶液から固体成分を濾過により除去し、濾液を得た。次に、濾液に金属スカベンジャー(Si-トリスアミン,バイオタージ社)を加え、1時間撹拌し、溶液を得た。次に、上記溶液を濾過し、溶媒を減圧留去し、回収物を得た。次に、上記回収物をヘキサン/アセトンとアセトン/メタノールの混合溶媒を使ってシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物を得た。次に、得られた中間生成物(0.14g)をアセトニトリル(0.3mL)に溶解し、溶液を得た。次に、上記溶液を窒素置換した後、ヨードメタン(0.3mL)を加え、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、90℃で4時間撹拌した。次に、上記反応溶液を20mLの水で希釈し、希釈済み溶液を得た。次に、上記希釈済み反応溶液を分液ロートを使ってエーテル(10mL×3)と撹拌した。次に、水溶液層を回収した後、1.0gのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを加え、1時間撹拌し、濁った溶液を得た。次に、上記濁った溶液を遠心分離にかけ、上澄みを除去し、沈殿物を得た。次に、上記沈殿物をアセトンに溶解し、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、溶媒を留去することで0.34gの参照化合物Aを得た。
【0119】
【化24】
【0120】
H NMR(400MHz,CDCN):δ=3.30(s,12H),3.55(m,8H),3.74(m.8H),4.37(s,12H),4.76(s,8H),4.84(s,8H),8.48(s,4H);13C NMR(100MHz,CDCN):δ=40.2,46.5,52.0,58.9,60.9,71.5,72.2,120.8(q),133.4,142.6.
【0121】
[参照化合物Bの合成]
1,2-ビス(2-アジドエトキシ)エタン(1.0g)をアセトニトリル(5mL)に溶解させ、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素置換した後、5水和硫酸銅(75mg)、アスコルビン酸ナトリウム(125mg)とメチルプロパジルエーテル(0.5mL)を加えた。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、40℃で24時間撹拌した。次に、上記反応溶液をジクロロメタンで希釈した後、固体成分を濾過により除去し、濾液を得た。次に、上記濾液に金属スカベンジャー(Si-トリスアミン,バイオタージ社)を加え、1時間撹拌し、溶液を得た。次に、上記溶液を濾過し、溶媒を減圧留去し、回収物を得た。次に、上記回収物をヘキサン/酢酸エチルと酢酸エチル/メタノールの混合溶媒を使ってシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物B1を得た。
【0122】
次に、得られた中間生成物B1(0.25g)と4,7,10,13-テトラオキサヘキサデカ-1,15-ジイン(0.10g)をアセトニトリル(2mL)に溶解し、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素置換した後、5水和硫酸銅(10mg)、アスコルビン酸ナトリウム(20mg)を加えた。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、50℃で24時間撹拌した。次に、上記反応溶液をジクロロメタンで希釈した後、固体成分を濾過により除去し、濾液を得た。次に、上記濾液に金属スカベンジャー(Si-トリスアミン,バイオタージ社)を加え、1時間撹拌し、溶液を得た。次に、上記溶液を濾過し、溶媒を減圧留去して回収物を得た。次に、上記回収物をヘキサン/アセトンとアセトン/メタノールの混合溶媒を使ってシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、中間生成物B2を得た。
【0123】
次に、上記中間生成物B2(0.26g)をアセトニトリル(0.5mL)に溶解させ、反応溶液を得た。次に、上記窒素置換した後、ヨードメタン(0.5mL)を加え、反応溶液を得た。次に、上記反応溶液を窒素雰囲気下、90℃で3時間撹拌した。次に、上記反応溶液を30mLの水で希釈して希釈済み反応溶液を得た。次に、上記希釈済み反応溶液を分液ロートを使ってエーテル(20mL×3)と撹拌した。次に、水溶液層を回収した後、1.7gのビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムを加え、1時間撹拌し、濁った溶液を得た。次に、上記濁った溶液を遠心分離にかけ、上澄みを除去し、沈殿物を得た。次に、上記沈殿物をアセトンに溶解し、硫酸マグネシウムで乾燥させた後、濾過し、溶媒を留去することで0.43gの参照化合物Bを得た。
【0124】
【化25】
【0125】
H NMR(400MHz,CDCN):δ=3.41(s,6H),3.53-3.57(m,12H),3.59(m,4H),3.66(m,4H),3.86(t,8H),4.18(s,6H),4.20(s,6H),4.64(s,4H),4.66(t,8H),4.74(s,4H),8.32(s,4H);13C NMR(100MHz,CDCN):δ=39.1,39.2,54.6,59.4,61.0,62.4,68.5,68.5,70.6,70.8,71.0,71.2,120.8(t),130.5,141.4,141.5.
【0126】
[評価]
上記のようにして得られた化合物1~6、参照化合物A、及び、参照化合物Bについて以下の方法により評価した。
【0127】
(イオン伝導度)
イオン伝導度はソーラトロン社製インピーダンスアナライザSI1260と1296誘電インターフェースシステムを使って測定した。
サンプルはソーラトロン社製サンプルホルダ12962Aのディスク状電極(直径5mm)に挟んで測定した。電極間距離は300μmに設定した。10mVの交流電位を周波数1Hzから1MHzまで変化させて測定した。サンプルホルダはエスペック社製のプログラム制御可能な恒温槽SH-221の中に設置し、高温層内を乾燥窒素で満たした。測定開始前に105℃で1時間処理することでサンプルを乾燥させた。恒温槽温度を100℃から10℃まで20℃/時間でゆっくり低下させながらインピーダンス測定を行った。データは解析ソフトZView Ver.3.3cで処理した。
【0128】
図5に、参照化合物A、Bと化合物5とのイオン伝導度の比較を示した。図5に示した結果から、化合物5は、参照化合物A、及び、参照化合物Bと比較して優れたイオン伝導度を有していることがわかった。
【0129】
参照化合物Aはスペーサを介さずに正電荷部位を導入した4分岐化合物の例であり、参照化合物Bは直鎖状に4つの正電荷部位を配置した場合の例である。
化合物5に示すように、スペーサを導入することにより、大きくイオン伝導度が改善されることが分かる。
【0130】
また、表1には、化合物1~6のガラス転移温度(示唆走査熱量計の測定結果から算出したもの)、熱分解温度(5%重量損失温度)、並びに、25℃、及び、100℃におけるイオン伝導度を示した。化合物1~6のいずれも室温で液体状態であり、ガラス転移温度は-50℃以下で、融点は観測されなかった。
熱分解温度は300℃を超えた。
なお、参照化合物Bの25℃でのイオン伝導度は9.6×10-5Scm-1であり、化合物1~6のいずれも参照化合物Bのイオン伝導度を上回っていた。
【0131】
【表1】
【0132】
また、表1に示した結果から、式1におけるnが1のとき、式1におけるRの炭素数が1~5個である化合物1は、化合物4と比較して、より優れたイオン伝導度を有していた。
また、表1に示した結果から、式4におけるR1Bで表される基の炭素数が1~3個である化合物1、及び、化合物5は、それぞれ、化合物2、及び、化合物6と比較して、より優れたイオン伝導性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本イオン液体は優れたイオン伝導度を有しているため、電気二重層キャパシタの電界質として用いると、優れた充放電速度を実現できると期待される。また、一分子中に複数電荷を有することから、電気二重層を形成した際の静電容量が増大することが期待できる。
【0134】
また、本発明に係るイオン液体を用いてリチウム二次電池を作成すれば、1価の正電荷を有する通常のイオン液体よりも熱分解温度が高いことから、より耐熱性に優れたデバイスを作成できると期待される。
【0135】
本発明に係るイオン液体を用いてリチウムイオンキャパシタを作成すれば、一価のカチオンを有する通常のイオン液体よりも熱分解温度が高いことから、より耐熱性に優れたデバイスを作成できると期待される。
【0136】
本発明に係るイオン液体を電解質としてアクチュエータ素子を作成すれば、カチオン性分子とアニオン性分子の流体力学半径の差が大きいことから、大きな変形が期待される。
図1
図2
図3
図4
図5