(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】薬液注入装置
(51)【国際特許分類】
A61M 5/142 20060101AFI20231120BHJP
A61M 5/168 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
A61M5/142 530
A61M5/168 504
(21)【出願番号】P 2019558272
(86)(22)【出願日】2018-12-06
(86)【国際出願番号】 JP2018044879
(87)【国際公開番号】W WO2019111995
(87)【国際公開日】2019-06-13
【審査請求日】2021-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2017235796
(32)【優先日】2017-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391039313
【氏名又は名称】株式会社根本杏林堂
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】根本 茂
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩司
(72)【発明者】
【氏名】森山 貴広
(72)【発明者】
【氏名】園田 陽一
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-515603(JP,A)
【文献】国際公開第2014/168210(WO,A1)
【文献】特表2007-536005(JP,A)
【文献】特開2011-218194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/142
A61M 5/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a:容器内の薬液に圧力を付与して該薬液を押し出す駆動機構と、
b:その動作条件を設定するための制御ユニットと、
を備える薬液注入装置であって、
前記制御ユニットは、
本注入の注入条件を決定する本注入条件決定部と、
注入予備動作の注入条件を決定する注入予備動作条件決定部と、を有し、
前記本注入は、ユーザから入力されたデータの少なくとも一部を用いて注入プロトコルとして決定され、
前記注入予備動作
での注入速度および注入時間は、前記本注入での注入速度
および前記容器内の薬液残量を含むパラメータを用いて
、前記注入速度が前記本注入での注入速度よりも高速であり、かつ、前記注入時間が2秒以下となるように、自動的に決定され、
薬液注入の際には、前記注入予備動作と前記本注入とがこの順で連続して実行されるように構成されている、薬液注入装置。
【請求項2】
前記本注入が、注入速度が一定で所定の注入時間注入を行うフェーズを含む、請求項
1に記載の薬液注入装置。
【請求項3】
前記容器は、第1のシリンジおよび第2のシリンジであり、
前記駆動機構として、
注入ヘッドに設けられ第1の造影剤が充填される第1のシリンジのピストン部材を移動させる第1のピストン駆動機構と、
注入ヘッドに設けられ第2の造影剤または生理食塩水が充填される第2のシリンジピストン部材を移動させる第2のピストン駆動機構と、
を有する、請求項1
または2に記載の薬液注入装置。
【請求項4】
さらに、
前記第1および第2のシリンジに接続される薬液回路を備え、
該薬液回路は、
第1のシリンジに接続される第1の液路と、
第2のシリンジに接続される第2の液路と、
第1および第2の液路が合流するところに設けられたコネクタと、
該コネクタから延びる第3の液路とを有するものである、
請求項
3に記載の薬液注入装置。
【請求項5】
前記コネクタが、旋回流を生じさせて液体を混合させるミキシングデバイスである、請求項
4に記載の薬液注入装置。
【請求項6】
前記制御ユニットは、
前記第1のピストン駆動機構による注入予備動作の注入条件と、
前記第2のピストン駆動機構による注入予備動作の注入条件と、
を設定するように構成されている、請求項
3または4に記載の薬液注入装置。
【請求項7】
一方の注入予備動作の動作時間と、他方の注入予備動作の動作時間とが異なる場合に、時間の短い方の動作時間に合わせて、第1および第2のピストン駆動機構の動作タイミングが制御される、請求項
6に記載の薬液注入装置。
【請求項8】
さらに、1つまたは複数の表示デバイスを備え、
制御ユニットは、前記1つまたは複数の表示デバイスに前記注入予備動作の注入条件を表示させない、請求項1~
7のいずれか一項に記載の薬液注入装置。
【請求項9】
容器内の薬液に圧力を付与して該薬液を押し出す駆動機構と、その動作を制御する制御ユニットとを備える薬液注入装置の制御方法であって、
a:コンピュータが、ユーザから入力されたデータの少なくとも一部を用いて注入プロトコルとして決定された本注入での注入速度
および前記容器内の薬液残量を含むパラメータを用いて、注入予備動作の注入
速度および注入時間を
、前記注入速度が前記本注入での注入速度よりも高速であり、かつ、前記注入時間が2秒以下となるように、自動的に決定するステップと、
b:前記注入予備動作と前記本注入とをこの順で連続して実行するステップと、
を備える、薬液注入装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を被検者に向けて注入する薬液注入装置等に関し、特には、薬液回路の一方弁の動作や、薬液回路に生じたキンク等に起因した注入遅れの発生を防止できる薬液注入装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用の画像診断装置としては、CT装置、MRI装置、アンギオグラフィ装置、PET装置、MRA装置および超音波画像診断装置などがある。これらの装置を使用して医用画像を撮像する際は、造影効果を高めるために、造影剤や生理食塩水などの薬液を被検者に注入することが多い。注入される薬液はシリンジに充填されていることが多く、また、シリンジに充填されている薬液は、薬液注入装置を用いて予め設定された注入条件に従って自動的に注入される。薬液の注入では、薬液注入装置に搭載されたシリンジと被検者とを接続するために、カテーテル、留置針および各種チューブなどで薬液回路が構成される。
【0003】
特許文献1では、
図14に示すような二筒式の注入ヘッドA110が開示されている。注入ヘッドA110は、シリンジA200C、A200Pをそれぞれ保持する2つの凹部A114が形成された筐体A113を備えている。筐体A113の上面には幾つかの操作ボタンA116が配置されており、筐体側部には必要に応じてサブパネルA115が設けられている。シリンジ200C、200Pは、シリンダ部材A210とそれに挿入されたピストン部材A220とで構成されている。一方のシリンジA200Cには造影剤が充填され、他方のシリンジA200Pには生理食塩水が充填されている。ピストン駆動機構A130は、ピストン部材A220を動かすための機構である。
【0004】
シリンジ200C、200Pには、薬液回路A230が接続される。薬液回路A230は、この例では、造影剤の入ったシリンジA200Cに接続される回路部分に一方弁A240が配置されるとともに、生理食塩水の入ったシリンジA200Pに接続される回路部分には他の一方弁A250が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図示は省略するが、上述のように一方弁が配置された薬液回路における薬液注入のメカニズムは次のとおりである。まず、初期状態として、一方弁の弁体は所定の閉位置にあり(または所定の初期形状となっており)、それにより回路が閉塞されているものとする。この状態から、ピストン駆動機構を動作させシリンジのピストン部材を押し込んでいくと、シリンジ内の薬液の圧力が上昇する。そして、薬液の圧力が一定程度上昇すると、一方弁の弁体が開位置に移動し(または所定の形状に変形して)開弁状態となる。そして、シリンジ内の薬液が一方弁を通って被検者側へと流れることとなる。
【0007】
このような一連の動作に関し、閉弁状態から開弁状態とするにはある一定の圧力を弁体に与える必要があり、一方弁をスムーズに開弁させることは、応答性のよい薬液注入を実現するのに重要である。また、同様の課題は、一方弁が設けられている場合に限らず、例えば回路のチューブに比較的軽度のキンクが生じていて、一定の圧力が与えられればそのキンクが解消するような場合においても同様に生じうる。
【0008】
そこで本発明の目的は、薬液回路の一方弁の動作や、薬液回路に生じたキンク等に起因した注入遅れの発生を防止できる薬液注入装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一形態に係る薬液注入装置は次のとおりである:
a:容器内の薬液に圧力を付与して該薬液を押し出す駆動機構と、
b:その動作条件を設定するための制御ユニットと、
を備える薬液注入装置であって、
上記制御ユニットは、
本注入の注入条件を決定する本注入条件決定部と、
注入予備動作の注入条件を決定する注入予備動作条件決定部と、を有し、
薬液注入の際には、上記注入予備動作と上記本注入とがこの順で連続して実行されるように構成されている、薬液注入装置。
【0010】
(用語の定義)
・「薬液回路」とは、被検者の血管内への薬液の注入のためにシリンジに接続される薬液を流通させるための流路を意味する。薬液回路には、薬液が流通する少なくとも1つのチューブ、チューブに取り付けられる種々の部品を含む。薬液回路は、被検者の血管内に挿入されるカテーテルまたは被検者の血管に穿刺される留置針を含んでいてもよい。複数の薬液を注入可能とする場合、薬液回路は、複数のチューブの組合せにより、上記カテーテルまたは留置針と接続される先端側と反対側である末端側が複数に分岐した形態とされていてもよい。薬液回路は、使用時の配置によって、すべてが被検者の体外に位置する「体外回路部」と、少なくとも一部が体内に位置する「体内回路部」とに区分することができる。この区分に従えば、上記カテーテルまたは留置針は体内回路部に属し、それ以外の部材は体外回路部に属する。したがって、「薬液回路」は、体内回路部および体外回路部のうち少なくとも体外回路部を含むということができる。
【0011】
・「造影剤」の具体例としては、(i)ヨード濃度240mg/mlの造影剤(例えば、37℃において粘度3.3mPa・s、比重1.268~1.296)、(ii)ヨード濃度300mg/mlの造影剤(例えば、37℃において粘度6.1mPa・s、比重1.335~1.371)、(iii)ヨード濃度350mg/mlの造影剤(例えば、37℃において粘度10.6mPa・s、比重1.392~1.433)、等がある。なお、ヨード濃度が370mg/mlまたはそれ以上の造影剤も利用可能である。
・「生理食塩水」の生理食塩水の具体例としては、生理食塩水20mL中に塩化ナトリウム180mgを含有した生理食塩水(例えば、20℃において粘度0.9595mPa・s、比重1.004~1.006)等がある。
【0012】
・「注入プロトコル」とは、どのような薬液を、どれだけの量、どれくらいの速度で注入するかを示すものである。「注入速度」は、一定であってもよいし、時間とともに変化するものであってもよい。複数種の薬液、例えば造影剤と生理食塩水とを注入する場合、それらの薬液をどのような順序で注入するかといった情報も注入プロトコルに含まれる。注入プロトコルとしては、公知の任意の注入プロトコルを利用可能である。注入プロトコルの作成手順についても、公知の手順を利用可能である。注入プロトコルは、注入圧力の許容最大値(圧力リミット)を含むこともある。圧力リミットが設定された場合は、注入動作中、注入圧力が監視され、注入圧力が、設定された圧力リミットを超えないようにピストン駆動機構の動作が制御される。
【0013】
・「駆動機構」としては、例えば、シリンジ内の薬液を押し出すピストン駆動機構が挙げられる。または、薬液バッグや瓶といった収容体に入った薬液を押し出すポンプ機構などが挙げられる。
・「制御ユニット」は、1つまたは複数のプロセッサを備え演算処理を行う機器であり、単独の機器であってもよいし、他の装置の一部として設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、薬液回路の一方弁の動作や、薬液回路に生じたキンク等に起因した注入遅れの発生を防止できる薬液注入装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態による薬液注入装置の外観を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示す注入ヘッドをそれに装着されるシリンジ等とともに示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるシステムのブロック図である。
【
図4】
図1に示す薬液回路の一形態を示す図である。
【
図5】薬液回路が備え得るミキシングデバイスの一例の模式図である。
【
図6】
図5に示すミキシングデバイスの斜視図である。
【
図7】
図5に示すミキシングデバイスの断面図である。
【
図8】本注入前に注入予備動作を行う注入制御を示す図である。
【
図9】制御ユニットが有しうる機能部(ユニット)を示す図である。
【
図10】同時注入の場合の注入予備動作の例を示す図である。
【
図11】造影剤と生理食塩水の混合比率の一例を示す表である。
【
図12】注入予備動作フェーズの条件の一例を示す図である。
【
図13】注入予備動作フェーズの条件の別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の例ではいわゆる2筒式の注入ヘッドを例として説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0017】
〔薬液注入装置およびシステム〕
図1の薬液注入装置100は、血管造影検査の際に用いられるアンギオグラフィ用の装置である。薬液注入装置100は、注入ヘッド110と、コンソール112と、メインユニット114とを備えている。この薬液注入装置100は、
図3に示すようなシステムの一部として利用される。
図3のシステムは、薬液注入装置100と、それに接続される薬液回路200と、撮像装置500とを備えている。
【0018】
(注入ヘッド)
図1に示すように、注入ヘッド110とコンソール112とは、メインユニット114に接続されている。注入ヘッド110とコンソール112とは、互いに所定の情報を送受信可能に構成されている。注入ヘッド110は、この例では、スタンド116の上部に回動可能に支持されている。他の形態(不図示)では、天井に固定された旋回アームに支持されていてもよい。
【0019】
注入ヘッド110は、具体的には
図2のような構成であってもよい。すなわち、注入ヘッド110は、この例では一対のピストン駆動機構130a、130b(
図3も参照)を備えている。各ピストン駆動機構130a、130bは、シリンジ320のピストン322(シリンジについての詳細は後述する)を前進および後退させるために互いに独立して駆動される。
【0020】
ピストン駆動機構130a、130b(
図3参照)はそれぞれ、
図2に示すように、ラム部材131を有し、また、ラム部材131を前進および後退移動させるモータ等の駆動源(不図示)等も有している。ラム部材131は、ピストン322の末端に形成された凸部(詳細下記)を保持するように構成されている。
【0021】
ここで、シリンジ320および保護カバー370について説明する(
図2参照)。このシリンジ320は、一般にロッドレスシリンジと呼ばれるものであり、シリンダ321およびピストン322を有している。シリンダ321は、先端にノズル部321bが形成されている。また、末端にはフランジ321aが形成されている。ピストン322は、シリンダ321内に進退移動可能に挿入されており、その末端にはピストン駆動機構の一部によって保持される(または係止する)凸部が形成されている(図示は省略)。
【0022】
保護カバー370は、シリンジ320を覆うようにシリンジ320に取り付けられる。シリンジ320は、保護カバー370に挿入された状態で注入ヘッド110に装着される。保護カバー370は、全体として略円筒状の部材である。保護カバー370は、シリンダ321が挿入されたとき、シリンダ321の外周面との間ですき間が殆ど生じないような内径寸法とされている。
【0023】
保護カバー370の先端には、シリンジ320のノズル部321bが通過する開口部が形成されている。シリンジ320は、この開口部からノズル部321bを突出させた状態で保持される。保護カバー370の末端には、カバーフランジ371が形成されている。カバーフランジ371の端面には(不図示)、シリンダ321のフランジ321aを受け入れる輪郭形状に形成された凹部が形成されている。
【0024】
造影剤は比較的粘度が高く、しかも血管造影では一般的にカテーテルは内径が1mm未満(一例)と極めて細い。よって、薬液注入の際には、シリンダ321には非常に高い内圧が発生する。保護カバー370は、シリンダ321の膨張変形や破裂を防止するための役割を果たす。そのため、保護カバー370は、薬液の注入中にシリンダ321に作用する内圧に十分に耐え得る強度を有する材質および肉厚で形成されることが好ましい。
【0025】
なお、上記では保護カバー370を用いる構成としたが、シリンジ320が注入ヘッド110に直接装着される構成としてもよい。
【0026】
再び
図2を参照する。注入ヘッド110の先端部には、シリンジ受け120およびクランパ140が設けられている。シリンジ受け120は、保護カバー370が装着されたシリンジ320が載せられるシリンジ載置部である。シリンジ受け120は、クランパ140よりも先端側に位置しており、保護カバー370の外周面を個々に受け入れるように2つの凹部121を有している。クランパ140は、シリンジ受け120に対して開閉可能に支持されており、各保護カバー370のカバーフランジ371を個別に保持する。
【0027】
各シリンジ320は、ノズル部321bを先端側に向けた状態で凹部121にセットされ、クランパ140を閉じることによって、注入ヘッド110に固定される。
【0028】
注入ヘッド110の筐体(外装カバー)の形状は特に限定されるものではない。一例として、シリンジ受け120およびクランパ140を有する部分を除いて全体の機構を覆う外装カバー125であってもよい。外装カバー125には、種々のボタン123、発光部126などが設けられていてもよい。外装カバー125は、各ラム部材131に対応する位置に、対応するラム部材131を区別するための標識125aを有していてもよい。標識125aは、文字や記号など任意であってよく、本形態では、「A」および「B」の文字を用いている。
【0029】
(薬液回路)
続いて、
図4等を参照しながら薬液回路200について説明する。薬液回路200は、シリンジと被検者とをつなぐ液路を形成する。
【0030】
薬液回路200は、少なくとも1本のチューブ、少なくとも1つのコネクタ、および必要に応じて流量センサを有するものであってもよい。具体的には、薬液回路200は、
図4のように、チューブ201、202、203およびそれらを接続するコネクタ204を有するものであってもよい。この回路は、全体として、2つの液路が途中で1つに合流した形態をとっている。
【0031】
チューブ202、203のそれぞれは、シリンジ320(
図2参照)との接続のためのコネクタ205、206をそれらの端部に有している。チューブ201は、カテーテル等(体内回路部)との接続のためのコネクタ207をその端部に有している。薬液回路200は、カテーテルまたは留置針といった体内回路部をさらに含んでいてもよい。カテーテルまたは留置針は、コネクタ207によって接続されてもよい。
【0032】
第1のチューブ202、203のそれぞれに連結されたコネクタ205、206のうち少なくとも一つは、一方弁を備えていてもよい。一方弁は、液体の背圧によって作動して流路を閉鎖する弁体を有しており、薬液回路200のカテーテル等が接続される側からシリンジが接続される側への液体の逆流を防止する働きをする。必ずしも限定されるものではないが、本実施形態では一方弁の弁体は、初期状態で、所定の閉位置にあり(または所定の初期形状となっており)それにより回路が閉塞されるようなものを想定する。なお、薬液回路に関しては、一方弁を有していないものが使用されることもある。
【0033】
なお、薬液回路200は流量センサ210をさらに有するものであってもよい。流量センサ210は、詳細な説明は省略するが、導管を有しておりその導管内での液体(薬液)の移動に応じた電気信号を出力するものであってもよい。この出力信号に基いて、例えば、薬液注入装置100は、リアルタイムで薬液の流量を検出する。薬液注入装置100は、この検出結果を利用して、薬液および薬液注入装置に関する様々な項目を求めるように構成されていてもよい。
【0034】
(ミキシングデバイス)
図4の薬液回路200では、合流部に一般的なコネクタ204が配置されたものであった。しかしながら、このコネクタ204に代えて、
図5~
図7に示すようなミキシングデバイス241を設けるようにしてもよい。ミキシングデバイス241は、旋回流を生成する旋回流生成室242aである第1室と、旋回流を軸方向に集中させる狭窄室242bである第2室と有する本体部242を備えている。
【0035】
この例では、旋回流生成室242aは円柱状の内部空間を有し、狭窄室242bは旋回流生成室242aと共軸の円錐状の内部空間を有する。なお、旋回流生成室の短手方向の断面形状は、円、楕円、その他の曲線から形成される種々の形状が考えられる。また、旋回流生成室は、狭窄室に近づくにつれて先が狭まる狭窄形状となっていてもよい。
【0036】
ミキシングデバイス241の本体部242の流れ方向上流側には一方のチューブ202(
図2等参照)が接続される導管部243aが設けられ、下流側にはチューブ201(
図2等参照)が接続される導管部243cが設けられている。チューブ203(
図2等参照)が接続される導管部243bは、旋回流生成室242aの中央からやや上流側の位置(側壁部)に配置されている。
【0037】
この例では、導管部243aから造影剤が流入するとともに導管部243bから生理食塩水が流入し、ミキシングデバイス内で両薬液が混合される。その後、造影剤および生理食塩水の混合薬液は、液体出口としての導管部243cから流出する。
【0038】
相対的に比重の大きい薬液が流入する導管部243aは、流れ方向の上流側において、旋回流生成室242a上流側壁面の中央部に設けられている。液体出口である導管部243cは、この導管部243cの中心線と導管部243aの中心線とが一致するように(すなわち両者が共軸となるように)、設けられている。各部が共軸を有するように配置することにより、ミキシングデバイス内において発生する渦の等方性を高めることができる。つまり、渦を空間内で淀みなく均一に発生させ、混合効率を向上させることができる。
【0039】
他方、相対的に比重の小さい薬液が流入する導管部243bは、旋回流生成室242aの側面に配置され、断面円形である旋回流生成室242aの円周の接線方向に延在する。別の言い方をすれば、導管部243bは、旋回流生成室242aが有する円柱状空間の中心軸線からの周縁側にずれた位置に設けられ、これにより、導管部243bから流入した比重の小さい薬液の旋回流が生成されるようになっている。
【0040】
より詳しくは、
図7に示すように、流路241fbが、旋回流生成室242aの湾曲した内面の円周接線方向に延在するように構成されており、これにより、この流路から流入した薬液が旋回流となる。さらに狭窄室242bは、図面からも明らかなように、流れ方向下流側に向かってすぼまる傾斜した内面を有しているので、発生した旋回流は、渦の中心軸方向に集中することになる。
【0041】
また、造影剤が流入する導管部243aは、流路241faを介して旋回流生成室242aと連通している。これにより、比重の大きい薬液を、比重の小さい薬液の旋回流の中心軸と平行な方向で旋回流生成室に導入可能となる。つまり、比重の大きい薬液は、旋回流生成室が有する円柱状空間の中心軸線と平行な方向に導入される。また、生理食塩水が流入する導管部は、流路241fbを介して旋回流生成室と連通している。
【0042】
一例で、流路241fbの内径は、造影剤が流入する流路241faの内径よりも小さく形成されていてもよい。こうした構成によれば、所定の圧力で薬液を注入する場合、断面積が相対的に小さい流路241fbから流入する比重の小さい薬液の流速が、比重の大きい薬液の流速よりも速くなる。したがって、比重の小さい薬液の流速が遅い場合に生じうる、旋回流の慣性力の減衰やそれに伴う旋回強度の不足に起因する、薬液どうしの混合効率の低下を防止抑制することができる。
【0043】
上記のように構成されたミキシングデバイス241では、例えば造影剤および生理食塩水を同デバイス内に流入させると、流路241faから旋回流生成室に流入した造影剤は軸方向下流側に向かう流れとなる。一方、流路241fbから旋回流生成室に流入した生理食塩水は、同室内の湾曲した内面に沿って旋回する旋回流となる。そして、生理食塩水の旋回流は、狭窄室に導かれて旋回流の中心軸方向に集中する。このような渦はランキン渦として知られ、旋回流のもつ慣性力を渦の回転軸の近傍に集中させることができる。
【0044】
そしてこのようなミキシングデバイス241を有する薬液回路で2つの薬液の同時注入を行う場合、両薬液が良好に混合されることとなる。すなわち、この例では、造影剤と生理食塩水とが良好に混合された希釈造影剤を得ることができ、薬液の混合部にコネクタを有する一般的な薬液回路の場合と比較して優れた造影効果が期待される。
【0045】
(コンソールおよびメインユニット)
薬液注入装置100のコンソール112等について、再び
図1および
図3を参照して説明する。コンソール112は、一例として、入力ユニット103および表示デバイス104(
図3参照)を含むデバイスとして構成されている。コンソール112は、一形態では、タッチパネルディスプレイを有しており、これが上述した入力ユニット103および表示デバイス104に相当する。
【0046】
メインユニット114は、電源装置(不図示)を有しており、この電源装置から注入ヘッド110およびコンソール112に電力を供給する。
図3に示した注入制御ユニット101は、メインユニット114内に配置されてもよいし、コンソール112内に配置されてもよい。あるいは、機能の一部がコンソール112に設けられ、別の機能の一部が注入ヘッド110に設けられてもよい。
【0047】
(スイッチ)
薬液注入装置100は、ハンドスイッチ118および/またはフットスイッチ119をオプションとしてさらに有していてもよい。ハンドスイッチ118は操作ボタンを有しており、この操作ボタンが押されている間だけ注入ヘッド110による薬液の注入動作が行われるように、注入動作の開始および停止を制御するのに用いられてもよい。ハンドスイッチ118としては、多段または連続的に変化する入力を行うための操作ボタンを有するもの(バリアブルハンドスイッチ)を利用してもよく、このスイッチの操作により注入速度が変更されるものでであってもよい。フットスイッチ119は、例えばテスト注入を行う場合に、フットスイッチ119が踏まれている間だけ注入ヘッド110による薬液の注入動作が行われるように、注入動作の開始および停止を制御するのに用いられてもよい。
【0048】
(注入ヘッドの動作に関する構成等)
制御ユニット101は、例えば次のような動作を行う:
-入力ユニット103から入力されたデータの少なくとも一部を用いて薬液の注入量および注入速度等の注入条件(本注入の条件)を設定する、
-決定した注入条件に従ってシリンジから薬液が注入されるようにピストン駆動機構130a、130bの動作を制御する、
-表示デバイス104の表示の制御をする、
-詳しくは後述する「注入予備動作」の注入条件を決定する、等。
【0049】
注入制御ユニット101は、いわゆるコンピュータを含んで構成することができ、CPU、ROM、RAM、他の機器とのインターフェースを有する。ROMには、コンピュータプログラムが実装されている。CPUは、このコンピュータプログラムに対応して各種機能を実行することで、薬液注入装置の各部の動作を制御する。注入制御ユニット101は、注入条件を設定するためのグラフィカルユーザーインターフェースを有する(すなわち、表示デバイスにGUIを表示させる機能を有する)ものであってもよい。GUIのデータは、所定の記憶領域に記憶されている。
【0050】
入力ユニット103は、注入制御ユニット101で薬液の注入条件を決定するのに用いられるデータなどを入力するのに用いられる。入力ユニット103としては、例えば、キーボードおよび/またはマウスなどのデバイスであってよい。入力ユニット103から入力されたデータは注入制御ユニット101に送信され、表示デバイス104に表示されるデータは注入制御ユニット101から送信される。
【0051】
表示デバイス104は、注入制御ユニット101によって制御されて、薬液の注入条件の決定に必要なデータ等の表示、注入プロトコルの表示、注入動作の表示、各種警告の表示等を行う。表示デバイス104としては、例えば液晶ディスプレイ装置等、公知の表示装置であってよい。
【0052】
(撮像装置)
撮像装置500は、
図3に示すように、撮像動作を実行する撮像動作ユニット520と、撮像動作ユニット520の動作を制御する撮像制御ユニット510とを備えている。撮像装置500は、薬液注入装置100によって薬液が注入された被検者の断層画像および/または三次元画像を含む医用画像を取得することができる。
【0053】
撮像動作ユニット520は、通常、被検者用の寝台、寝台上の所定の空間に電磁波を照射する電磁波照射ユニット等を有する。撮像制御ユニット510は、撮像条件を決定したり、決定した撮像条件に従って撮像動作ユニット520の動作を制御したりする等、医用画像撮像装置全体の動作を制御する。
【0054】
撮像制御ユニット510は、いわゆるコンピュータを含んで構成することができ、CPU、ROM、RAM、他の機器とのインターフェースを有するものであってもよい。ROMには、医用画像撮像装置500の制御用のコンピュータプログラムが実装されている。CPUは、このコンピュータプログラムに対応して各種機能を実行することで、医用画像撮像装置500の各部の動作を制御する。
【0055】
薬液注入装置100と医用画像撮像装置500とは、相互間でデータの送受信を行うように互いに接続されていてもよい。両者の接続は、有線接続でも無線接続でもよい。
【0056】
医用画像撮像装置500は、撮像条件や取得した医用画像などを表示する液晶ディスプレイなどの表示ユニット504、および撮像条件などを入力するための、キーボードおよび/またはマウスなどの入力ユニット503をさらに含んでいてもよい。撮像条件を決定するのに用いられるデータの少なくとも一部は入力ユニット503から入力され、撮像制御ユニット510に送信される。
【0057】
表示ユニット504に表示されるデータは撮像制御ユニット510から送信される。また、表示ユニットのディスプレイ上に入力ユニットとしてタッチスクリーンを配置したタッチパネルを入力ユニット503および表示ユニット504として用いることもできる。入力ユニット503の一部、表示ユニット504および撮像制御ユニット510は、医用画像撮像装置用のコンソールとして一つの筐体に組み込まれてもよい。
【0058】
(本実施形態における薬液注入の動作)
以下、
図8、
図9等を参照しながら本実施形態における薬液注入の動作について説明する。
【0059】
図8に示すように、本実施形態の薬液注入としては、最初に注入予備動作フェーズPh-iを行い、それに続いて、本注入動作フェーズPh-iiを行うよう構成されている。注入予備動作フェーズPh-iは、一方弁の開弁またはキンクの解消を目的とした注入のフェーズである。本注入動作フェーズPh-iiは、被検者の身体情報や撮像部位などに応じて、注入プロトコルとして設定された条件で薬液を注入するフェーズである。
【0060】
注入予備動作フェーズPh-iの時間はごく短時間に設定される。一例として、注入時間は、2.0sec以下、1.5sec以下、1.0sec以下であることが、一形態において、好ましい。また、注入時間は、少なくとも0.3sec以上、または0.5sec以上であることが、一形態において、好ましい。具体的には、注入予備動作の注入時間の範囲は、0.5sec~2.0sec、または、0.7sec~1.5sec以下などとしてもよい(a~bは、a以上b以下を意味する)。
【0061】
注入予備動作フェーズでは、注入速度は一定で実施されるものであってもよい。注入速度は、2.0ml/secまたはそれ以上、3.0ml/secまたはそれ以上、4.0ml/secまたはそれ以上、または5.0ml/secまたはそれ以上であることが、一形態において、好ましい。
【0062】
本注入との関係で言えば、注入予備動作での速度は本注入の速度よりも高く、また、注入時間は本注入の時間よりも短く設定される。
【0063】
注入予備動作の詳細な条件については、シリンジの材質やサイズ、薬液残量、カテーテルの径(例えば2.1Fr、2.5Fr等)、薬液の種類などにも依存する。しかしながら、例えばマイクロカテーテル(ここでは2.5Fr以下のものをいうものとする)を使用した薬液注入の場合には、現実的な注入速度および注入量はある程度限定される。したがって、それに対応して、注入予備動作の条件(注入時間、注入量)を、予め用意した係数、所定の計算式またはテーブルから自動的に求めることができるようになっていることが好ましい。
【0064】
注入予備動作の注入速度は、一例として、以下のような計算式で算出可能である:
ya=ax+by+c
ここで、
ya:注入予備動作の注入速度
x:本注入の設定注入速度
y:シリンジ残量
a、b、c:定数
【0065】
本注入の注入速度に対応して、注入予備動作の注入速度(ya)は増加する。例えば、本注入が1.0ml/secの場合に注入予備動作が3.0ml/sec、本注入が2.0ml/secの場合に注入予備動作が4.0ml/sec、本注入が3.0ml/secの場合に注入予備動作が5.0ml/secのような対応関係であってもよい。
【0066】
注入予備動作の注入量は、一例として、以下のような計算式で求めることができる:
yb=(k・z+cb)×x+(kb・z+cb)
ここで、
yb:注入予備動作の注入量
x:本注入の設定速度
z:シリンジ残量
kb:係数(正数、例えば、0.005~0.020等)
cb:定数(正数、例えば、0.3~0.5等)
【0067】
なお、上記各計算においては、造影剤のヨード量、濃度(粘稠度)や、カテーテルのサイズなども考慮して、パラメータの値が適宜決定されてもよい。二筒式の場合(詳細後述)、いずれのシリンジについても同じ計算式で注入量の計算をしてもよい。しかし、これに限らず、異なる計算式、異なるパラメータで、注入量を求めるようにしてもよい。
【0068】
計算式の補正に関しては、例えば、造影の結果得られた画像(造影画像)の濃淡等の情報を取得し、それに基づき、より適切な造影効果が得られるように計算式の補正が行われるようになっていることも好ましい。例えば、造影が所定の基準以上に濃い場合には、造影効果を弱める方向に計算式に対して補正を行なう。逆に、造影が所定の基準値に対して薄すぎるような場合には、造影効果を高める方向に計算式に対して補正を行う。注入結果や造影画像が所定のサーバなどの記憶領域に保存され、それに基づき、上記のような補正が行われるようになっていてもよい。
【0069】
図8の例では、注入予備動作フェーズPh-iは、注入速度が3.0ml/secで注入量が4.0ml(したがって注入時間は約1.3sec)となっている。
図8の注入制御では、あたかも、注入予備動作フェーズPh-iを本注入フェーズPh-iiの前に挿入したような形態となっている。注入予備動作に引き続いて(間をあけることなく)本注入が実行される。
【0070】
以上のように、本注入フェーズPh-iiの前に注入予備動作フェーズPh-iを含む本実施形態の注入制御によれば、注入予備動作フェーズで本注入よりも高速かつ短時間のラム進出動作が行われ、上昇した薬液の圧力によって一方弁をスムーズに開弁させて、応答性のよい良好な薬液注入を行うことができる。または、軽度のキンクが生じているような場合には、そのキンクの解消を促すことも可能となる。
【0071】
(制御部)
なお、注入予備動作フェーズの条件を設定するための処理を行うデバイスは特に限定されるものではなく、注入ヘッド110、コンソール112または他の機器に収納されたデバイスのいずれであっても構わない。
図9に示すように、注入制御ユニット101が、設定画面表示部101a、注入プロトコル作成部101b、および注入制御部101cを備えるものであってもよい。
【0072】
ここで、注入プロトコル作成部101bは、「本注入条件設定部」と「注入予備動作条件設定部」とを含むように構成されていてもよい。本注入条件設定部は、本注入の注入条件を決定する。本注入条件設定部は、注入予備動作の注入条件を決定する。この場合の条件設定は、上述したように、本注入の注入条件のパラメータと、予め用意した計算式等とを用いて実施されるものであってもよい。注入予備動作条件設定部は
図9では一例として注入プロトコル作成部に含まれているが、当然ながら、注入制御部101cに含まれていてもよい。設定画面表示部101aは、条件設定用のグラフィカルユーザーインターフェースを表示する機能等に対応する。注入制御部101cは、設定した注入条件および、それに対応するように自動決定された注入予備動作の動作条件にしたがって、ラム部材を進出させる機能等に対応する。
【0073】
自動的に決定された注入予備動作の条件は、一例として
図8に示すようなグラフとして表すこともできるが、この内容は必ずしもディスプレイ等に表示されなくてもよい。すなわち、本発明の一形態の薬液注入装置は、本注入フェーズの条件を操作者が決定しさえすれば、自動でそれに適した注入予備動作を作成し、本注入フェーズに先立って注入予備動作を行う動作をするように構成されていてもよい。こうすることで、操作者は、操作者は、注入予備動作ついては意識せずに検査を実施することが可能となる。
【0074】
注入予備動作の条件を設定するために、事前に所定の係数および/または計算式等が用意され、例えば、テーブルを参照するなどして自動決定が行われるようになっていてもよい。パラメータとして、シリンジの形状(直径、ストローク等)、針および/またはカテーテルの形状(直径、長さ等)、薬液の残量(ラム部材の現在位置)、薬液の種別や物性、シリンジおよび/または保護カバーの弾性特性などが考慮されるものであってもよい。
【0075】
なお、条件決定のための種々の情報(例えば、シリンジ自体および/またはシリンジ内の薬液に関する情報や、被検者の情報など)は他の様々な方法で入力されてもよい。例えば、RFIDタグ(ICタグ)のような情報記録媒体から情報が読み取られ、入力されるものであってもよい。この情報記憶媒体は、シリンジおよび/または保護カバー、もしくは、薬液注入装置における他の付属品や部品などに設けられたものであってもよい。情報記憶媒体から情報を読み取る機器としては、例えば、RFIDタグ(ICタグ)のリーダを用いることができ、それは、一例で注入ヘッドに設けられていてもよい。さらに、他の機器に設けられたものであってもよいし、または、単独の機器として用意されるものであってもよい。バーコードのような情報記憶媒体を、代わりにまたは併用して、使用することも可能である。この場合、バーコードリーダを備え、同リーダでバーコード情報の読取りを行う。
【0076】
図8では、本注入として、一例で1.0ml/sec、10secの1フェーズのみが描かれているが、本発明は必ずしもこのような1つのみのフェーズに限定されるものではない。例えば、上記フェーズの後に、所定のホールド状態をおいて次のフェーズ(一定速度で所定の時間の注入)を1回行うかまたは繰り返すものであってもよい。
【0077】
(希釈注入の場合)
図2のような二筒式の注入ヘッドでは、第1の薬液と第2の薬液とを同時注入(希釈注入)することがある。この注入では、例えば、濃度の異なる2つの造影剤を注入したり、または、生理食塩水と造影剤とを所定の割合で混合して注入したりする。混合比については、5:5に限らず、4:6、3:7等であってもよいし、場合によっては1:9(造影剤1に対して生理食塩水9)、9:1等の場合もある。
【0078】
生理食塩水と造影剤と混合して注入する場合には、それぞれの薬液の比重の差が大きいことから、薬液どうしが混ざり難い。したがって、前述したミキシングデバイスを利用することが一形態においては有用である。一方弁の動作やキンクの発生等に起因する注入の遅れが生じた場合、所望の混合状態となるまでの時間もやや遅れる可能性がある。なお、上記の点は本願で開示するミキシングデバイスではなく、2つの液体を単に合流させて混合を行うような回路でも問題となる。
【0079】
そこで、本実施形態では、第1の薬液と第2の薬液とを同時注入の場合にも、上記実施形態で述べたような注入予備動作フェーズを注入条件に含めるようにしている。具体的な例としては、
図10に示すように、本注入フェーズPh-iiの直前に、注入予備動作フェーズPh-iを設定している。
【0080】
この例では、造影剤と生理食塩水とが一例で14%:86%で混合される。本注入の注入条件(注入速度、注入量)は次のとおりである:
・造影剤 0.14ml/sec、 4.2ml
・生理食塩水 0.86ml/sec、25.8ml
【0081】
一方、注入予備動作の注入条件は、この例では、造影剤および生理食塩水とで同一であって、一例で、それぞれ、2.5ml/sec、3.0mlである。同時注入についての注入予備動作の注入条件についても、上記の計算式等を用いて自動的に決定することが可能である。なお、シリンジ残量の違い等によっては、造影剤および生理食塩水とで注入予備動作の条件が異なる条件に設定されてもよい。
【0082】
このような注入制御を行うことで、ミキシングデバイス(あるいは通常のコネクタ)内での薬液どうしの混合を良好に行うことができ。その結果、特に、血管造影のような注入する薬液が比較的少量の検査においても、設定した混合比率に近い比率で混合された薬液を目的部位に供給することが可能となる。したがって、血管造影検査において所望の造影効果を得やすいものとなる。
【0083】
二筒式の場合で、第1の薬液と第2の薬液とで注入予備動作の条件が異なるものとなるようなときの取扱いについて説明を補足する。例えば第1の薬液の残量が比較的少なく、第2の薬液の残量が比較的多いような場合、第1の薬液の注入予備動作の動作時間が短く(一例として0.5sec)、第2の薬液の注入予備動作の動作時間が長く(一例として1.5sec)となるケースが想定される。
【0084】
このようなケースでは、注入時間が短い方の注入予備動作を基準として、以降の薬液注入を行うようにすることが好ましい。すなわち、上記の具体例で言えば、「0.5sec」の注入予備動作が終わった後、続けて、設定された第1および第2の薬液の同時注入を行うようにする。このように、時間が短い方の動作条件に合わせて、動作タイミングを制御し、その後の第1および第2の注入を実施する構成とすることで、第1および第2の薬液の同時注入を所望の条件で良好に行えるものとなる。
【0085】
(他の動作例)
同時注入における注入予備動作に関しては、例えば、第1の薬液(ここでは造影剤とする)と第2の薬液(ここでは生理食塩水とする)の混合の容易性を考慮して、各薬液の注入予備動作フェーズの条件が設定されるようになっていてもよい。なお、以下の説明のような処理は、両シリンジの薬液残量が同程度の場合にも適用可能であるし、また、異なる場合にも適用可能である。
【0086】
具体的な例について、以下、
図11~
図13を参照しつつ説明する。
図11に示すように、例えば、造影剤と生理食塩水とを90:10~70:30のような比率で混合する場合(造影剤が比較的高い比率となる場合)、例えば50:50の場合と比較して両薬液が混ざり合うのに時間を要することとなることも想定される。使用するチューブやコネクタ、造影剤粘度等にも依存するが、この理由は、造影剤の注入速度が生理食塩水の注入速度よりも速く、注入量が生理食塩水の注入量よりも多くなるためである。
【0087】
これに対応するために、本発明の一形態としては、
図12に示すように、造影剤の注入予備動作の条件に関し、例えば速度をv
0(生理食塩水の注入予備動作の速度と同じ)から速度v
1に下げるようにしてもよい。具体的な数値は特に限定されるものではないが、例えば、速度v
1は、速度v
0の90%またはそれ以下などとしてもよい。一方、注入時間は、同時間とすることが一形態において好ましい。
【0088】
このような条件とすることで、造影剤を比較的高い比率で混合注入する場合であっても、両薬液をスムーズに混合させることが可能となる。
【0089】
なお、上記では造影剤の条件の方のみを変更したが、他にも、(i)生理食塩水の速度を上げ、造影剤は速度変更しない、または、(ii)生理食塩水は速度を上げるとともに造影剤は速度を下げるといった処理を行うようにしてもよい。また、ここまでの説明では、造影剤の注入予備動作の速度および生理食塩水の注入予備動作の速度が予め求められ(速度v0)、それに対して速度変更を行うニュアンスで説明を行ったが必ずしもこれに限定されるものでない。計算式やテーブルを用いて、v1に相当する速度を直接求めるようにしてもよい。
【0090】
上記では、注入予備動作の注入時間を、造影剤と生理食塩水と共通として、注入速度のみを変更する例を示した。しかしながら、本発明の一形態としては、注入速度を共通として注入時間を変更する、または、注入速度と注入時間との双方を変更するような処理としてもよい。また、上述の説明では、造影剤の方の速度が生理食塩水よりも相対的に低くなるように変更を行う例であったが、逆に、生理食塩水の速度が造影剤よりも相対的に高くなるように、制御を行うようにしてもよい。
【0091】
例えば、
図13のように、生理食塩水の注入予備動作開始後、所定のディレイ(図中、時刻t
sとt
0との間の時間)をおいて、造影剤の注入予備動作がスタートするようにしてもよい。このように、生理食塩水の方の注入時間を少し長めにすることで、注入予備動作の効果を高め、その結果、例えば90:10~70:30(造影剤:生理食塩水)のような比率で注入する場合でも、造影剤と生理食塩水とを良好に混合することが可能となる。なお、この場合であっても、本注入に移行するタイミング(t
1)は、造影剤と生理食塩水とで揃っていることが、一形態において、好ましい。上述の説明は、生理食塩水の注入開始の後に造影剤が注入開始される例であったが、逆に、造影剤の注入開始の後に生理食塩水が注入開始されるようにしてもよい。
【0092】
以上に開示した技術的思想は、適宜組み合せて用いることができる。また、上記実施形態ではアンギオグラフィ検査用の薬液注入装置等を例として説明したが、CT検査用の薬液注入装置等に本発明の技術的思想を適用してもよい。CT検査用の構成では、アンギオグラフィ検査ほどの高圧注入とはならず、ピストン駆動機構のモータ出力が比較的低い注入ヘッドが利用される。また、シリンジの保護カバーも一般的には使用されない。
【0093】
なお、本発明の薬液注入装置としては、次のような機能を備えるものであってもよい:
(1)予備動作実施モード
「注入予備動作フェーズ」を実施して本注入を行うかまたは実施せずに本注入のみを行うかは、造影検査の手技や、使用するシリンジ・薬液などに依存する。例えば、アンギオグラフィ検査で、特にマイクロカテーテルを使用する場合には、「注入予備動作フェーズ」が自動的に実施されるようになっていることが好ましい。なお、このようなモードを、一例として「マイクロカテーテルモード」等と称してもよい。
【0094】
この機能の実装として、例えば、薬液注入装置100(
図1参照)がユーザからの入力を受け付けるユーザインターフェース(一例でグラフィカルユーザーインターフェース)を提供するものであってもよい。具体的には、コンソール112に対し、ユーザが「予備動作自動実施モード」を選択するための入力を行う。この入力は、例えば、アイコンの選択である(他にも、物理的なボタンの押下などであってもよい)。すると、薬液注入装置100は、「注入予備動作フェーズ」を実施して本注入を行うように動作する。
【0095】
薬液注入装置100は、また、使用するカテーテル径の情報(例えばフレンチ数)が入力されるように構成されていてもよい。入力されたフレンチ数を1つのパラメータとして、その情報を用いて、注入予備動作の条件を決定する構成としてもよい。当該情報の入力は、タッチパネルディスプレイを通じた入力、音声による入力、身体の動きによるジェスチャ入力など、種々のものを利用可能である。入力される情報としては、また、薬液回路のメーカ情報、型番情報、長さ情報などのうち1つまたは複数であってもよい。
【0096】
(付記)
本出願は、以下の発明を開示する。なお、括弧内の符号は参考として付したものであり、本発明を限定することを意図したものではない:
1.a:容器内の薬液に圧力を付与して該薬液を押し出す駆動機構(130)と、
b:その動作条件を設定するための制御ユニット(101)と、
を備える薬液注入装置であって、
上記制御ユニットは、
本注入の注入条件を決定する本注入条件決定部と、
注入予備動作の注入条件を決定する注入予備動作条件決定部と、を有し、
薬液注入の際には、上記注入予備動作と上記本注入とがこの順で連続して実行されるように構成されている、薬液注入装置。
【0097】
2.上記注入予備動作の薬液の注入速度は、上記本注入の薬液注入速度よりも高速である。
【0098】
3.上記注入予備動作の薬液の注入時間は、上記本注入の薬液注入速度よりも短時間である。
【0099】
4.上記制御ユニット(101)は、注入予備動作の注入速度および注入量の少なくとも1つのパラメータを、上記本注入の注入条件のパラメータに基いて、自動的に設定するように構成されている。
【0100】
5.上記制御ユニット(101)は、注入予備動作の注入速度および注入量の両方のパラメータを、上記本注入の注入条件のパラメータに基いて、自動的に設定するように構成されている。
【0101】
6.上記本注入が、注入速度が一定で所定の注入時間注入を行うフェーズを含む。
【0102】
7.上記駆動機構(130)として、注入ヘッドに設けられ第1の造影剤が充填される第1のシリンジのピストン部材を移動させる第1のピストン駆動機構(130a)と、注入ヘッドに設けられ第2の造影剤または生理食塩水が充填される第2のシリンジピストン部材を移動させる第2のピストン駆動機構(130b)と、を有する。
【0103】
8.さらに、上記第1および第2のシリンジに接続される薬液回路を備え、
該薬液回路は、第1のシリンジに接続される第1の液路と、
第2のシリンジに接続される第2の液路と、第1および第2の液路が合流するところに設けられたコネクタと、該コネクタから延びる第3の液路とを有するものである。
【0104】
9.上記コネクタが、旋回流を生じさせて液体を混合させるミキシングデバイスである。
【0105】
10.上記制御ユニット(101)は、
上記第1のピストン駆動機構による注入予備動作の注入条件と、
上記第2のピストン駆動機構による注入予備動作の注入条件と、
を設定するように構成されている。
【0106】
11.一方の注入予備動作の動作時間と、他方の注入予備動作の動作時間とが異なる場合に、時間の短い方の動作時間に合わせて、第1および第2のピストン駆動機構の動作タイミングが制御される。
【0107】
12.さらに、1つまたは複数の表示デバイスを備え、制御ユニットは、上記1つまたは複数の表示デバイスに上記注入予備動作の注入条件を表示させない。
【0108】
13.容器内の薬液に圧力を付与して該薬液を押し出す駆動機構と、その動作を制御する制御ユニットとを備える薬液注入装置の制御方法であって、
a:コンピュータが、本注入の注入条件のパラメータを用いて、注入予備動作の注入条件を決定するステップと、
b:上記注入予備動作と上記本注入とをこの順で連続して実行するステップと、
を備える。
【0109】
14.上記注入予備動作の薬液の注入速度は、上記本注入の薬液注入速度よりも高速である。
【0110】
15.上記注入予備動作の薬液の注入時間は、上記本注入の薬液注入速度よりも短時間である。
【0111】
なお、上記説明では、薬液注入装置のコンソール等により演算処理が行われる例であったが、別の主体(例えば、撮像装置の一部を構成するコンピュータ、その他のコンピュータ)で演算処理を行うようにしてもよい。この場合、本願発明の一形態は次のように表現できる:
容器内の薬液に圧力を付与して該薬液を押し出す駆動機構の動作条件を設定する方法であって、
a:コンピュータが、本注入の注入条件のパラメータを用いて、注入予備動作の注入条件を決定するステップを含む方法。
【0112】
所定のコンピュータで薬液注入装置の駆動機構の動作条件(予備注入条件の決定)を設定し、その動作条件を、同コンピュータが薬液注入条件に転送するように構成されていてもよい。
【0113】
本出願は、以上、本発明の一形態として方法のカテゴリーおよび装置のカテゴリーとして記載した発明を、コンピュータプログラムの発明として表現したものをも開示する。コンピュータプログラムは、薬液注入装置の一部(例えばコンソール等)を動作させるものであってもよいし、そうではなく、他の機器(コンピュータ)を動作させるものであってもよい。また、本出願で開示した個々の技術的特徴は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0114】
100 薬液注入装置
101 制御ユニット
103 入力ユニット
104 表示デバイス
110 注入ヘッド
112 コンソール
114 メインユニット
116 スタンド
121 凹部
125 外装カバー
130a、130b(130) ピストン駆動機構
131 ラム部材
140 クランパ
200 薬液回路
201、202、203 チューブ
204 コネクタ
210 流量センサ
241 ミキシングデバイス
300 シリンジアセンブリ
320 シリンジ
321 シリンダ
321a フランジ
322 ピストン
370 保護カバー
371 カバーフランジ
500 撮像装置
503 入力ユニット
504 表示デバイス
510 撮像制御ユニット
520 撮像動作ユニット