(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】シリカコーティング被膜の形成方法及びそれに用いるコーティング液の封入体
(51)【国際特許分類】
C09D 1/00 20060101AFI20231120BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20231120BHJP
C08G 77/02 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
C09D1/00
C09D183/04
C08G77/02
(21)【出願番号】P 2020013232
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019070166
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】523030614
【氏名又は名称】有限会社宏済
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】林 和宏
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-222965(JP,A)
【文献】特開2006-183027(JP,A)
【文献】特開2010-202731(JP,A)
【文献】特開2005-200546(JP,A)
【文献】特開2007-031464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
C08G 77/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング液として、平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体の含有比率が80質量%以上の有機ケイ素化合物からなる被膜主剤成分の前記コーティング液中の含有量をA(質量%)、前記被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体の前記コーティング液中の含有量をB(質量%)、前記被膜主剤成分を溶解又は分散可能な疎水性有機溶媒の前記コーティング液中の含有量をC(質量%)として、
5≦A≦100(質量%)
90≦A+C≦100(質量%)
B≦90(質量%)
40≦B+C(質量%)
に調製されるとともに、パーヒドロポリシラザンの前記コーティング液中の含有量が2質量%以下とされたコーティング液を準備するコーティング液準備工程と、
前記コーティング液の塗膜を被コーティング物の表面に形成する塗膜形成工程と、
前記コーティング液の前記塗膜に水分を接触させ、該コーティング液に含有される前記エチルシリケートの部分縮合体を加水分解しつつ架橋縮重合させることにより、前記コーティング液の塗膜をシリカシリカコーティング被膜に変換する架橋縮重合工程と、
を含むことを特徴とするシリカコーティング被膜の形成方法。
【請求項2】
前記架橋縮重合工程において、前記コーティング液の塗膜を大気中にて前記疎水性有機溶媒を蒸発させることにより乾燥させつつ、前記大気中の水蒸気を前記被膜主剤成分と反応させる請求項1記載のシリカコーティング被膜の形成方法。
【請求項3】
前記架橋縮重合工程において、前記コーティング液の塗膜に加熱水蒸気を接触させる請求項1又は請求項2に記載のシリカコーティング被膜の形成方法。
【請求項4】
前記架橋縮重合工程において、前記コーティング液の塗膜を40℃以上150℃以下に加熱する請求項2又は請求項3に記載のシリカコーティング被膜の形成方法。
【請求項5】
前記架橋縮重合工程において、前記コーティング液の塗膜に液状の水分を塗布する請求項1記載のシリカコーティング被膜の形成方法。
【請求項6】
前記架橋縮重合工程において、得られる前記シリカコーティング被膜の膜厚が0.5μm以上10μm以下である請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のシリカコーティング被膜の形成方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のシリカコーティング被膜の形成方法に使用されるコーティング液の封入体であって、
コーティング液として、平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体の含有比率が80質量%以上の有機ケイ素化合物からなる被膜主剤成分の前記コーティング液中の含有量をA(質量%)、前記被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体の前記コーティング液中の含有量をB(質量%)、前記被膜主剤成分を溶解又は分散可能な疎水性有機溶媒の前記コーティング液中の含有量をC(質量%)として、
5≦A≦100(質量%)
90≦A+C≦100(質量%)
B≦90(質量%)
40≦B+C(質量%)
に調製されるとともに、パーヒドロポリシラザンの前記コーティング液中の含有量が2質量%以下とされたコーティング液と、
前記コーティング液を、該コーティング液への外部からの水分の浸透を妨げた状態で密封する水分遮断性密封容器と、
を備えたことを特徴とするコーティング液の封入体。
【請求項8】
前記コーティング液は、前記被膜主剤成分に含有されるエチルシリケートの部分縮合体の平均分子量が300以上2000以下であり、前記疎水性有機溶媒としてジブチルエーテルを30質量%以上95質量%以下にて含有し、前記被膜主剤成分とジブチルエーテルの合計含有量が95質量%以上100質量%以下である請求項7記載のコーティング液の封入体。
【請求項9】
前記コーティング液は、前記疎水性有機溶媒の含有量Cが10質量%以下であり、前記被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体の前記コーティング液中の含有量Bが35質量%以上90質量%以下であり、前記被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン縮合体の前記コーティング液中の含有量が10質量%以上である請求項8記載のコーティング液の封入体。
【請求項10】
前記コーティング液は、前記被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン縮合体の前記コーティング液中の含有量が10質量%以上40質量%未満であり、かつ、前記被膜主剤成分に含有される、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン及びトリエチルシランの1種以上からなる硬化補助剤の前記コーティング液中の含有量が1質量%未満(ゼロ質量%を含む)である請求項9記載のコーティング液の封入体。
【請求項11】
前記コーティング液は、前記被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン縮合体の前記コーティング液中の含有量が40質量%以上であり、かつ、前記被膜主剤成分に含有される、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン及びトリエチルシランの1種以上からなる硬化補助剤の前記コーティング液中の含有量が1質量%以上5質量%以下である請求項9記載のコーティング液の封入体。
【請求項12】
前記コーティング液は、前記被膜主剤成分の前記平均分子量が400以上1000以下である請求項7ないし請求項11のいずれか1項に記載のコーティング液の封入体。
【請求項13】
前記コーティング液の粘度が0.1mPa・s以上5.0mPa・s以下に調整されてなる請求項7ないし請求項12のいずれか1項に記載のコーティング液の封入体。
【請求項14】
前記水分遮断性密封容器が金属、ガラス又は樹脂製のボトルである請求項7ないし請求項13のいずれか1項に記載のコーティング液の封入体。
【請求項15】
前記コーティング液が不活性ガスからなる加圧噴霧ガスとともに前記ボトルに圧入されたエアゾール封入体として構成されている請求項14記載のコーティング液の封入体。
【請求項16】
前記水分遮断性密封容器はエアレスポンプ機構付きのボトルとして構成されている請求項14記載のコーティング液の封入体。
【請求項17】
可撓性を有する繊維集合体又は多孔質樹脂からなる含浸保持体に前記コーティング液が含浸されて液含浸体が形成され、前記水分遮断性密封容器は、アルミニウム層を含む可撓性シートからなり、前記液含浸体を密封被覆する包装容器として形成される請求項7ないし請求項13のいずれか1項に記載のコーティング液の封入体。
【請求項18】
前記包装容器をなす可撓性シートは、ベース樹脂層上に蒸着により積層形成される前記アルミニウム層としてのアルミニウム蒸着層と、該アルミニウム蒸着層に対し前記ベース樹脂層とは反対側に積層されるポリエチレン樹脂又はナイロン樹脂よりなるヒートセッティング層とを備えたアルミラミネートシートであり、前記包装容器は前記アルミラミネートシートにより、前記液含浸体の密閉空間を形成する本体部と、ヒートセッティング層の熱溶着により前記本体部の縁を空間的に閉じ合わせ結合する接着部と、を有するものである請求項17記載のコーティング液の封入体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シリカコーティング被膜の形成方法及びそれに用いるコーティング液の封入体に関し、例えばタッチパネルやディスプレイ、便器などの衛生陶器製品、あるいは自動車や鉄道車両などのボディに施された塗装被膜の表面に、光沢や耐摩耗性を付与するのに適したシリカコーティング被膜の形成方法及びそれに用いるコーティング液の封入体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プラスチック、ガラス、金属などの成形品表面にシリカコーティングを行なうためのコーティング液として、アルコキシシランとパーヒドロポリシラザンとをジブチルエーテルに溶解したコーティング液が開示されている。該コーティング液によると透明性と機械的特性(硬度、防曇性、耐屈曲性)に優れたシリカコーティングが、特に高温で処理することなく放置又は加水処理によって簡単に得られる旨、標榜されている。また、特許文献1が開示するアルコキシシランはテトラエトキシシランの縮合物を含有するものである。
【0003】
一方、特許文献2には、ジブチルエーテルとエチルポリシリケートとを配合したコーティング液が開示されている。特許文献2においても該コーティング液が、携帯電話機のディスプレイなど保護用コーティングを行うべき各種の物品の表面に容易にシリカガラスコーティングを行うことができる旨が述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-219583号公報
【文献】特許6236592号公報
【文献】特許4759774号公報
【文献】特開2010-222014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で採用されているアルコキシシランとパーヒドロポリシラザンとをジブチルエーテルに溶解したコーティング液は、本発明者の検討によると常温での保存性に問題があることがわかった。すなわち、該コーティング液を長期間室温で保管継続した場合、パーヒドロポリシラザン成分の介在によりコーティング液中のアルコキシシランの水分との反応による縮重合が進行しやすく、成分のゲル化により液が粘稠化して被膜の塗工が困難になるのである。
【0006】
一方、特許文献2にはエチルポリシリケートとして具体的にどのような組成物を採用したか(特に分子量など)が明らかにされていない。また、特許文献2には、コーティング液の塗布の便宜を図るため、コーティング液をマイクロファイバーからなる基材に含浸させ、これをアルミニウムパックからなる容器に密封することが推奨されている。特許文献2の段落0011には、「この容器は、コーティング液に含まれるジブチルエーテルを空気や光などから保護し、内面がジブチルエーテルと反応しない材質で形成されているものであれば、特に限定されず・・」と記載されている。つまり、容器による保護の目的はもっぱら溶剤であるジブチルエーテルに向けられており、エチルポリシリケート成分の保護についての検討はなされていないに等しい。
【0007】
また、特許文献2のコーティング液は、アルミニウムパック中にて基材に含浸させた状態であれば常温での保管が可能となる旨述べられている。しかし、特許文献2が採用するアルミニウムパックは数百μm程度の厚さの金属箔であると推定される。すなわち、大気雰囲気などからの水分の遮断は極めて強固になされていると考えられるから、前記した通り、不具合が起きたとしてもそれは基材とジエチルエーテルとの反応に由来するガス発生によるものである。よって、キャップ付きのボトルなど、空気接触が生じうる容器形態を採用した場合や基材に含浸させない場合における、コーティング液そのもの(特に、エチルポリシリケート成分)の保管性の改善については何ら検討されていない。
【0008】
さらに、特許文献2においては、コーティング液の塗膜を硬質のシリカコーティング被膜に変換する手法として、定着液として水を塗膜に塗布する方法しか開示していない。この場合、水塗布による定着処理は皮膜硬度の確保には貢献するが、シリカコーティング被膜に求められるのは硬度だけでなく、塗工の均一性や作業性、外観、硬化処理の迅速性、さらには長期間使用した時の耐久性などが求められる。しかし、特許文献2においては、これらの項目の検討が十分になされているとはいいがたく、前述の通りエチルポリシリケートの具体的な成分内容が開示されていないことから、被膜の耐久性や均質性、塗工時の作業性などについての性能を推定することもできない。
【0009】
本発明の課題は、シリカコーティング被膜の形成方法において、塗膜の均質性や耐久性をより高レベルに確保でき、かつ簡易な包装形態であってもコーティング液の常温での長期保管性を改善することにあり、また、該シリカコーティング被膜の形成方法に好適に使用可能なコーティング液の封入体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明のシリカコーティング被膜の形成方法は、コーティング液として、平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体の含有比率が80質量%以上の有機ケイ素化合物からなる被膜主剤成分のコーティング液中の含有量をA(質量%)、被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体のコーティング液中の含有量をB(質量%)、被膜主剤成分を溶解又は分散可能な疎水性有機溶媒のコーティング液中の含有量をC(質量%)として、
5≦A≦100(質量%)
90≦A+C≦100(質量%)
B≦90(質量%)
40≦B+C(質量%)
に調製されるとともに、パーヒドロポリシラザンのコーティング液中の含有量が2質量%以下とされたコーティング液を準備するコーティング液準備工程と、可撓性を有する繊維集合体又は多孔質樹脂からなる含浸保持体にコーティング液を含浸させて被コーティング物の表面に塗布するか、コーティング液を被コーティング物の表面に噴霧するか、又はコーティング液に被コーティング物をディッピングすることにより、コーティング液の塗膜を被コーティング物の表面に形成する塗膜形成工程と、コーティング液の塗膜に水分を接触させ、該コーティング液に含有されるエチルシリケートの部分縮合体を加水分解しつつ架橋縮重合させることにより、コーティング液の塗膜をシリカコーティング被膜に変換する架橋縮重合工程と、を含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明のコーティング液の封入体は、上記本発明のシリカコーティング被膜の形成方法に使用されるものであり、平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体の含有比率が80質量%以上の有機ケイ素化合物からなる被膜主剤成分のコーティング液中の含有量をA(質量%)、被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体のコーティング液中の含有量をB(質量%)、被膜主剤成分を溶解又は分散可能な疎水性有機溶媒のコーティング液中の含有量をC(質量%)として、
5≦A≦100(質量%)
90≦A+C≦100(質量%)
B≦90(質量%)
40≦B+C(質量%)
に調製されるとともに、パーヒドロポリシラザンのコーティング液中の含有量が2質量%以下とされたコーティング液と、そのコーティング液を、該コーティング液への外部からの水分の浸透を妨げた状態で密封する水分遮断性密封容器と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明においては、流動性が高く低粘度のテトラエトキシシラン単量体と、疎水性有機溶媒とのコーティング液中の含有量を上記のように定めることで、被膜形成対象物の表面に対するコーティング液の塗工時の塗り広がり性が極めて良好であり、得られる塗膜の均質性や耐久性をより高レベルに確保できる。また、パーヒドロポリシラザンのコーティング液中の含有量を2質量%以下にとどめ、かつ、上記含有量のテトラエトキシシラン単量体(又はテトラエトキシシラン単量体と疎水性有機溶媒)に、エチルシリケートの低分子量縮合体が分散ないし溶解していることで、水分が多少侵入するような保管形態であっても被膜主剤成分のゲル化の進行が鈍く、かつ簡易な包装形態であってもコーティング液の常温での長期保管性を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】含浸保持体を包装容器により密封被覆した形態のコーティング液の封入体の一実施形態を示す断面図。
【
図3】コーティング液の封入体をエアゾール封入体として構成した例を示す透視斜視図。
【
図4】水分遮断性密封容器をエアレスポンプ機構付きのボトルとして構成した例を示す断面図。
【
図5】塗装皮膜上にシリカコーティング被膜を形成する例を示す模式図。
【
図6】
図5の形態のシリカコーティング被膜を形成する塗工対象物を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
コーティング液は以下のように構成されたものが使用される。まず、被膜主剤成分は、被処理物の表面にシリカコーティング被膜を形成するためのものであって、主として平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体からなる。具体的には、被膜主剤成分中の上記部分縮合体の含有量は80質量%以上とされる。ここで、被膜主剤成分の上記部分縮合体以外の残部は20質量%以下であり、例えば後述の硬化補助剤あるいは含有許容範囲内で添加されるパーヒドロポリシラザンなど、得るべきシリカコーティング被膜の原料成分となりうる成分とされる。該部分縮合体の一般式は、SinOn-1(OC2H5)2(n+1)であり、n=1のとき、単量体であるSi(OC2H5)4(オルトケイ酸テトラエチルあるいはテトラエトキシシラン)となる。該部分縮合体の製法については特許文献3に詳述されている通りであり、オルトケイ酸テトラエチルの単量体に所定量の水を加え、酸性触媒の存在下に加水分解と縮合反応を進行させることにより得られる。部分縮合体はn=2~10(特に、n=4~6)までの縮合体と単量体との混合物であり、平均分子量は添加する水の量を変えることにより調整が可能である。また、オルトケイ酸テトラエチルの単量体は揮発しやすい性質を有することから、加水分解により得られる部分縮合体を例えばアスピレータ吸引等により減圧雰囲気に暴露することで、単量体の含有量を減少方向に調整することが可能である。逆に、得られた部分縮合体に、液状のオルトケイ酸テトラエチル単量体を添加・混合すれば、単量体の含有量を増加方向に調整することもできる。なお、本明細書において「エチルシリケートの部分縮合体」は上記のごとく縮合体と単量体との混合物からなる概念であり、単量体の含有量の増減に伴い、混合物としての平均分子量は変化する。
【0015】
被膜主剤成分中の部分縮合体の平均分子量が270未満になると揮発性の高い単量体の含有量が過剰となり、架橋縮重合工程におけるエチルシリケートの蒸発損失が大きくなる結果、材料の無駄と、得られるシリカコーティング被膜の膜厚不足を招くことにつながる。他方、被膜主剤成分中の部分縮合体の平均分子量が2000を超えると、コーティング液の粘度が過度に上昇し、塗工ムラを生じやすくなるほか、被膜の硬化がかえって遅くなる不具合につながる場合もある。被膜主剤成分中の部分縮合体の平均分子量は、望ましくは300以上1000以下、より望ましくは400以上1000以下、さらに望ましくは500以上850以下に調整されているのがよい。
【0016】
また、被膜主剤成分中におけるパーヒドロポリシラザンの含有量は2質量%以下とする。パーヒドロポリシラザンの含有量が2質量%を超えると、該コーティング液を長期間室温で保管継続した場合、パーヒドロポリシラザン成分の介在によりコーティング液中のアルコキシシランの水分との反応による縮重合反応が進行しやすくなり、成分のゲル化により液が粘稠化して被膜の塗工が困難になる不具合につながる。パーヒドロポリシラザンの含有量は、望ましくは1質量%以下であるのがよく、より望ましくは0.5質量%以下であるのがよく、さらに望ましくは、パーヒドロポリシラザンは含有されていないのがよい。
【0017】
コーティング液は、上記のような被膜主剤成分を5質量%以上含有させる必要がある。被膜主剤成分が5質量%未満になると、シリカコーティング被膜の膜厚不足や被膜の多孔質化による耐久性低下などを招く。また、被膜主剤成分中のテトラエトキシシラン単量体はコーティング液への流動性付与の機能も担い、その含有量Bを十分に確保することで、被膜主剤成分の含有量Aが100質量%となること、あるいは疎水性有機溶媒の含有量Cが0質量%となることを妨げない。また、テトラエトキシシラン単量体のコーティング液中の含有量Bは90質量%以下とする。テトラエトキシシランの単量体は揮発性が比較的高く、そのコーティング液中の含有量Bが90質量%を超えると、塗工中あるいは硬化中の単量体の蒸発損失量が大きくなり、シリカコーティング被膜の膜厚不足や被膜の多孔質化による耐久性低下などを招く。また、テトラエトキシシラン単量体の含有量Bと疎水性有機溶媒の含有量Cの合計(B+C)は40質量%以上とする。B+Cが40質量%未満になると、コーティング液の流動性が損なわれ、塗工ムラや膜厚不均質をきわめて生じやすくなる。なお、テトラエトキシシラン単量体のコーティング液中の含有量Bの下限値については、B+Cが40質量%であること、さらには被膜主剤成分中のエチルシリケートの部分縮合体の平均分子量が2000以下であることを前提に、0質量%となることを妨げない。
【0018】
疎水性有機溶媒として、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等のエーテル類を使用でき、特にジブチルエーテルを好適に使用可能である。ジブチルエーテルを使用するコーティング液の好適な組成としては、例えばジブチルエーテルを30質量%以上95質量%以下にて含有し、被膜主剤成分とジブチルエーテルの合計含有量が95質量%以上100質量%以下であるものを例示できる。より望ましくは、被膜主剤成分を15質量%以上65質量%以下、ジブチルエーテルを35質量%以上85質量%以下含有するのがよく、さらに望ましくは、被膜主剤成分を30質量%以上60質量%以下、ジブチルエーテルを40質量%以上70質量%以下含有するのがよい。
【0019】
また、コーティング液は、疎水性有機溶媒の含有量Cが10質量%以下であり、被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体のコーティング液中の含有量Bが35質量%以上90質量%以下であり、被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン縮合体(すなわち、SinOn-1(OC2H5)2(n+1)においてn≧2となるもの)のコーティング液中の含有量が10質量%以上となるように調製することができる。疎水性有機溶媒の含有量Cを減ずることは、被膜主剤成分の含有量Aが相対的に増加することを意味する。この場合、テトラエトキシシラン単量体のコーティング液中の含有量Bを35質量%以上に確保する形で、B+Cの値を40質量%に確保すれば、被膜主剤成分の含有量Aが多いにも関わらず、コーティング液の流動性を良好に確保でき、被コーティング物の表面に均一に塗布できるようになる。その結果、コーティング液の1回の塗工・硬化により得られるシリカコーティング被膜の膜厚を顕著に増加させることができる。テトラエトキシシラン縮合体のコーティング液中の含有量が10質量%未満(あるいは、テトラエトキシシラン単量体の含有量Bが90質量%超)ではシリカコーティング被膜の膜厚増加効果は顕著でなくなる。また、テトラエトキシシラン単量体の含有量Bが35質量%未満では、コーティング液の流動性を確保できなくなる場合がある。
【0020】
なお、上記の態様において、被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン縮合体のコーティング液中の含有量が40質量%以上となる場合、水塗布等によるシリカコーティング被膜の硬化が不十分となる場合がある。この場合、塗布する水に対し酢酸を添加することにより(添加量は、例えば水のpH値が2.5以上3.0以下の範囲内の値となるように適宜調整する)、シリカコーティング被膜の縮合が加速し十分な膜硬度を得ることができる。
【0021】
ただし、この方式では、水塗布後の塗工現場への酢酸臭の残留が問題になる場合がある。この問題は、被膜主剤成分に、トリエトキシシラン、トリメトキシシラン及びトリエチルシランの1種以上からなる硬化補助剤を含有させることで、酢酸を添加しない水塗布によってもシリカコーティング被膜の硬化を問題なく進行させることができる。この場合のコーティング液中の硬化補助剤の含有量は1質量%以上確保する必要がある。一方、硬化補助剤の含有量が5質量%を超えると、シリカコーティング被膜の硬化が逆に妨げられる場合があるほか、上記種別の硬化補助剤は高価であり、コーティング液の製造コストに直結する問題がある。よって、コーティング液中の硬化補助剤の含有量は5質量%以下の範囲で設定することが望ましい。
【0022】
一方、被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン縮合体のコーティング液中の含有量が10質量%以上40質量%未満であれば、硬化補助剤の添加とは無関係に、酢酸を添加しない水塗布によりシリカコーティング被膜の硬化を問題なく進行させることができる。この場合は、被膜主剤成分に含有される硬化補助剤のコーティング液中の含有量は1質量%未満(ゼロ質量%を含む)にとどめることができる。
【0023】
なお、コーティング液の被膜主剤成分の含有量Aと疎水性有機溶媒の含有量Cとの合計A+Cは90質量%以上100質量%以下とされる。換言すれば、コーティング液の全重量の10質量%未満の範囲内で、被膜主剤成分及び疎水性有機溶媒以外の成分、例えば特許文献2が開示する抗菌剤や、コーティング液の被処理物表面への塗り広がり性を改善するための周知の界面活性剤や親水性有機溶媒(例えば、エタノール、メタノール、ブタノール又はプロパノール等のアルコール類やアセトン又はメチルエチルケトン等のケトン類)を、本発明の効果が妨げられない範囲内で含有させることが可能である。
【0024】
コーティング液の粘度は0.1mPa・s以上5.0mPa・s以下に調整されているのがよい。コーティング液の粘度が0.1mPa・s未満になることは、揮発性の高い単量体の含有量が過剰となるか、溶剤であるジブチルエーテルの配合量が過剰となるかのいずれかを招くことにつながる。また、コーティング液の粘度が5.0mPa・sを超えることは、塗工ムラを生じやすくなることにつながる。コーティング液の粘度は、望ましくは0.3mPa・s以上3.5mPa・s以下、より望ましくは1.0mPa・s以上3.0mPa・s以下とするのがよい。
【0025】
コーティング液の被膜主剤成分は、該被膜主剤成分中におけるエチルシリケート単量体(オルトケイ酸テトラエチル単量体)の含有量が5質量%以上となっているのがよい。被膜主剤成分中におけるエチルシリケート単量体の含有量が5質量%未満になると、コーティング液の塗工工程において被膜主剤成分のゲル化による粘度増加が早く進みやすくなり、塗工ムラ等の不具合を生じやすくなる場合がある。
【0026】
上記のようなコーティング液は、該コーティング液への外部からの水分の浸透を妨げた状態で密封する水分遮断性密封容器に封入され、本発明のコーティング液の封入体が構成される。
図1及び
図2は、コーティング液の封入体の一例を示すものである。該コーティング液の封入体1は、可撓性を有する繊維集合体又は多孔質樹脂からなる含浸保持体3にコーティング液が含浸されて液含浸体4が形成される。水分遮断性密封容器はアルミニウム層を含む可撓性シート2LFからなり、液含浸体4を密封被覆する包装容器2として形成されている。この可撓性シート2LFをアルミ箔とすれば、包装容器2は特許文献2と同様のアルミパックとして構成できる。
【0027】
含浸保持体3をなす繊維集合体又は多孔質樹脂の材質は、例えば繊維の場合は、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、レーヨン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維などを列挙でき、これらの1種又は2種以上からなる不織布として繊維集合体を構成できる。また多孔質樹脂の材質は例えばポリウレタンなどを例示できる。
【0028】
ただし、ジブチルエーテルに対する溶解性や膨潤性が過剰でないものであれば、含浸保持体3の材質はこれらに限定されるものではない。例えば、特許文献2においては、含浸保持体をナイロン繊維単独にて構成される不織布(マイクロファイバー)で構成した場合は、ジブチルエーテルとの反応が促進され、包装容器内部で反応生成物の蒸気が発生して膨れ等の問題を生じうる点が述べられている。しかし、本発明においては、コーティング液の被膜主剤成分として上述の平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体からなるものを採用することで、含浸保持体をナイロン繊維単独で構成した場合もそのような不具合が生じないことが確認されており、含浸保持体3の材質の選択肢は明らかに拡大される。
【0029】
図1及び
図2においては、包装容器をなす可撓性シート2LFは、ベース樹脂層2B上に蒸着により積層形成されるアルミニウム層としてのアルミニウム蒸着層2Mと、該アルミニウム蒸着層2Mに対しベース樹脂層2Bとは反対側に積層されるポリエチレン樹脂又はナイロン樹脂よりなるヒートセッティング層2Sとを備えたアルミラミネートシート2LFとされている。ベース樹脂層は例えばポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂にて構成できる。そして、包装容器2はアルミラミネートシート2LFにより、液含浸体3の密閉空間を形成する本体部5と、ヒートセッティング層2Sの熱溶着により本体部5の縁を空間的に閉じ合わせ結合する接着部6とを有する。アルミニウム蒸着層2Mの厚さは例えば3μm以上15μm以下、ヒートセッティング層2Sの厚さは例えば15μm以上60μm以下、ベース樹脂層2Bの厚さは例えば8μm以上60μm以下である。
【0030】
ここで、ベース樹脂層2B及びヒートセッティング層2Sはいずれも水蒸気に対する一定の透過度を有する。また、アルミニウム蒸着層2Mもアルミ箔等と異なり、薄膜形成されていることで、水蒸気の透過路となる多数のピンホールを有したものとなる。よって、アルミラミネートシート2LFは、特許文献2に開示されたアルミパックを構成するアルミ箔等と比較して水分の遮断性は劣る。しかし、本発明においては、コーティング液の被膜主剤成分として上述の平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体からなるものを採用することで、封入体1を常温で長期間保管した場合も、コーティング液の成分のゲル化により液が粘稠化して被膜の塗工が困難になる不具合が生じにくい。
【0031】
次に、水分遮断性密封容器はボトルとして構成することもできる。ボトルの材質は、例えばスチールやアルミニウムなどの金属、ガラス、及びナイロンなどの硬質樹脂である。ボトルは例えば開口をキャップにより閉鎖する一般的な構造のものを採用できる。この場合、ボトル内部のコーティング液を使用する際には、その都度キャップの開け閉めが必要であり、コーティング液の消費に伴いボトル内には水蒸気を含んだ空気が侵入し、キャップの閉鎖に伴い該空気は液面上部に滞留する。この空気中の水蒸気は、コーティング液の被膜主剤成分の縮重合反応を促進するおそれがあるが、本発明において採用するコーティング液は、水への溶解度が極めて低いジブチルエーテル中に、被膜主剤成分であるエチルシリケートの部分縮合体が比較的低分子量の状態で分散ないし溶解しているので、水分が多少侵入するような保管形態であっても被膜主剤成分のゲル化の進行が鈍く、上記のようなボトルによる簡易な包装形態であってもコーティング液の常温での長期保管性を改善できる利点がある。
【0032】
また、
図3に示すように、コーティング液302は不活性ガス(例えば、窒素又はアルゴン)からなる加圧噴霧ガス303とともにボトル301に圧入されたエアゾール封入体300として構成することができる。これにより、ボトル301内のコーティング液302は残量が減じても水蒸気を含んだ大気に暴露されないので、使用開始後にあっても室温での長期保存性が著しく高められる。
【0033】
エアゾール封入体300は、コーティング液302が金属製のボトル301内に加圧噴霧ガス303とともに封入されている。具体的には、ボトル301の頂部305の開口には、周知のバルブユニット306が気密に一体化されたマウンテンカップ308が組み付けられ、バルブユニット306の下端からはディップチューブ304が容器内にて下方に伸び、その下端側が内容物であるコーティング液302中に浸漬されている。バルブユニット306に取り付けられたノズル307を押下するとバルブが開き、コーティング液302を加圧する噴射ガスがバルブユニット306内にも流入しつつ、ディップチューブ304により吸い上げられたコーティング液302がノズル307から加圧噴霧ガスとともに噴射される。
【0034】
一方、水分遮断性密封容器は、エアレスポンプ機構付きのボトルとして構成することもできる。エアレスポンプ機構付きのボトルの採用により、ボトル内のコーティング液302は残量が減じても水蒸気を含んだ大気に暴露されないので、使用開始後にあっても室温での長期保存性が著しく高められる。
【0035】
図4は、そのようなエアレスポンプ機構付きのボトルの一例を示すものである。該構成は、特許文献4に
図1として開示されている周知のものである。ここでは、その動作についてのみ特許文献4の記載から援用し、構成については特許文献4と同一の符号を付与して詳細な説明は省略する。使用者が加圧吐出部140を押すと、加圧吐出部140が締め蓋120の案内筒部121の内周面125に沿って下方に滑動する。このとき、弾性復元キャップ150は、加圧吐出部140によって加圧されるので、外径が弧形状に曲がり、吐出準備室Bの液状物の圧力が高まる。一方、収容スペース111内で、貯留部Dの上方空間は、密閉状態であるので、液状物112が加圧されると、この空間の空気圧力が高まり、貯留部Dの液状物112の液面に圧力を加える。これにより、液状物112が流出管166を通って排出量制限キャップ130の保持室Cに流入する。保持室Cに流入した液状物112は、その圧力によって、排出量制限キャップ130の第1切開孔133から弾性復元キャップ150の吐出準備室Bに入る。そして、吐出準備室Bの圧力が高まると、第2切開孔159が開いて、加圧吐出部140の先端噴出口143から外部に吐出され、使用者の希望部位に供給される。
【0036】
使用者が加圧吐出部140から手を離すと、弾性復元キャップ150の弾性力により、加圧吐出部140が初期状態に復帰する。このとき、最終的には、第1切開孔133が開き、第2切開孔159が閉じて、吐出準備室Bに所定の液状物が蓄えられる。そして、容器(ボトル)110内の液状物112(コーティング液)が使用者に供給されると、液状物112の流出量に応じて収容スペース111の貯留部Dの上方空間の圧力が空気圧よりも低下する。その結果、ピストン115が上方に移動し、空気連通穴114から容器110のシリンダ室Fに空気が流入する。したがって、使用者が加圧吐出部120を押す回数により、使用者が希望する量の液状物112が使用可能になる。また、液状物112の消費につれて、ピストン115が収容スペース111内を上方に移動する。
【0037】
上記のようなコーティング液の封入体を用いて、コーティング液の塗膜を被コーティング物の表面に形成する塗膜形成工程は、例えば、次の3つの方法のいずれかにより実施される。
(1)可撓性を有する繊維集合体又は多孔質樹脂からなる含浸保持体にコーティング液を含浸させて被コーティング物の表面に塗布する。
図1及び
図2の封入体を用いて実施するのに適している。
(2)コーティング液を被コーティング物の表面に噴霧する。
図3及び
図4の封入体を用いて実施するのに適している。
(3)コーティング液に被コーティング物をディッピングする。例えば、キャップ付きのボトルに封入されたコーティング液をディッピング用の容器に移し替え、被コーティング物をこれに浸漬・引き上げることにより塗工を行なう。ただし、液中への浸漬を行なっても問題のない構造の被コーティング物に適用対象が限られる。また、形成される塗膜の厚みにややムラが生じやすい難点があるが、塗膜形成工程自体は極めて簡便に実施できる利点がある。
【0038】
被コーティング物は、特に限定されず、基本的にはどのようなものであってもよいが、いくつか例示すれば、タッチパネルやディスプレイを有する各種の電子機器、例えば、スマートフォンやタブレット端末などのタッチパネルやディスプレイ、美術工芸品、さらには便器などの衛生陶器製品、自動車や鉄道車両などのボディなどの塗装部品を例示でき、コーティングによりこれらに光沢や耐摩耗性を付与することができる。そして、本発明において上記コーティング液により形成されるシリカコーティング被膜は、被コーティング物の少なくとも表層部分が、特にガラス(タッチパネルを含む)や陶器・セラミックス、あるいは金属といった無機材料で構成される場合に非常に良好な密着性及び耐久性を確保することができる。特に、前述のパーヒドロキシポリシラザンの添加量が制限された被膜主剤成分は、無機材料の被コーティング物に特に好適に使用可能である。
【0039】
コーティング液の塗膜は水分と接触させることで、該コーティング液に含有されるエチルシリケートの部分縮合体が加水分解しつつ架橋縮重合し、コーティング液の塗膜がシリカコーティング被膜に変換される(架橋縮重合工程)。該架橋縮重合工程においては、例えばコーティング液の塗膜を大気中にて溶媒を蒸発させることにより乾燥させつつ、大気中の水蒸気を被膜主剤成分と反応させることができる。
【0040】
本発明において採用するコーティング液は、被膜主剤成分として平均分子量が270以上2000以下のエチルシリケートの部分縮合体からなるものを採用するので、塗膜形成直後の比較的粘度の小さい状態にて塗膜の深部にまで大気中の水蒸気が速やかに浸透し、縮重合反応が速やかに進んで硬化が短時間で完了する特徴を有する。その結果、大気中で乾燥・硬化させるだけでも実用的な硬度を有したシリカコーティング被膜を容易に得られる利点がある。また、得られるシリカコーティング被膜の膜厚は、上記の被コーティング物に光沢や耐摩耗性を付与する上で十分となる、0.5μm以上1.5μm以下を確保できる。この場合、架橋縮重合工程において、コーティング液の塗膜に加熱水蒸気を接触させると、得られるシリカコーティング被膜の硬度及び強度は一層良好となる。
【0041】
架橋縮重合工程においては、コーティング液の塗膜を40℃以上150℃以下に加熱することが望ましい(上記水蒸気を使用する場合の水蒸気温度についても同じ)。温度が40℃未満では加熱による被膜主剤成分の縮重合促進効果が顕著でなく、150℃以上では塗膜の硬化が急速に進みすぎて、得られるシリカコーティング被膜に歪やクラックが発生しやすくなる場合がある。なお、スマートフォンなどの精密電子機器等、高温加熱に適さない被コーティング物である場合は、加熱温度はそれら機器の動作に支障をきたさない範囲で設定される(例えば60℃以下)。
【0042】
また、架橋縮重合工程においては、コーティング液の塗膜に液状の水分を塗布する工程を採用することもできる。この方法であれば、ゲル化の進行が緩やかで粘度が過度に増大した塗膜であっても、速やかに硬化を促進することができる。ただし、水濡れにより不具合が生じる懸念が少ない被コーティング物への適用に限られる。
【0043】
本発明のシリカコーティング被膜の形成方法の適用対象となる被コーティング物の種別は特に限定されない。特に、自動車や鉄道車両などの車体や付随設備に適用する場合、
図5に示すように、被コーティング物の基材210の表面を覆う塗膜211上に本発明の方法によるシリカコーティング被膜212を形成することで、塗膜211の光沢維持や汚れ付着防止に絶大な効果を発揮する。特に、
図6の信号機201、転轍機202及び踏切警報機203など、鉄道の線路付随設備は、列車通過に伴い線路や車輪からの鉄系汚損物が飛散・付着し、短期間に塗膜外観が損なわれるため、頻繁な再塗装が必要となっている。そこで、これら線路付随設備の部品や筐体上の塗膜に本発明の方法によるシリカコーティング被膜212を形成しておくと、シリカコーティング被膜212に付着した鉄系汚損物は水洗いやふき取りにより容易に除去でき、塗装メンテナンスの負荷を劇的に軽減することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の効果を確認するために行った種々の実験結果について説明する。
(実験例1)
まず、コーティング液を以下のように準備した。出発原料として、試薬特級のオルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシラン)及びジブチルエーテル(DBE:いずれも東京化成工業社製)を用意した。次に、エチルシリケートの部分縮合体の一般式SinOn-1(OC2H5)2(n+1)におけるn値の狙い値が3,5及び9となるよう、縮合反応に必要十分な水添加量を算出した。そして、オルトケイ酸テトラエチルは試料番号ごとに1kg計量し、上記算出した量の水を1kgのオルトケイ酸テトラエチルに対して、特許文献3の実施例2に開示された方法(番号2を除き、エチルシリケート単量体の溜去を行なわず)にて添加し、被膜主剤成分となる縮重合体を得た。得られた各縮重合体の平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィーにより測定した。また、ガスクロマトグラフィー及び蒸留曲線測定により被膜主剤成分中のオルトケイ酸テトラエチル単量体の含有比率を推定した。なお、本実験例で使用したコーティング液は、被膜主剤成分の全体がエチルシリケートの部分縮合体(単量体含む)からなる。
【0045】
次に、得られた被膜主剤成分にジブチルエーテルを種々の比率にて混合し、表1に示す種々の組成のコーティング液を作成した(表中*を付与した番号のコーティング液は本発明の範囲外となることを示す)。そして、各コーティング液の粘度を、B型粘度計を用いて乾燥雰囲気中にて液温20℃で測定した。
【0046】
【0047】
次に、市販のポリエステル繊維不織布(製品名:サンフェロンGR(サンフェルト株式会社製)、厚さ1mm、ポリエステル100%)を30mm×40mmの長方形状に切断して含浸保持体とし、各コーティング液を1g秤量してスポイトで滴下することにより、
図1の液含浸体3を作成した。他方、
図1に示すアルミラミネートシート2LFとして、PET樹脂からなるベース樹脂層2Bの厚さが12μm、アルミニウム蒸着層2Mの厚さが7μm、ポリエチレンからなるヒートセッティング層2Sの厚さが50μmのものを用意した。該シートを60mm×70mmの長方形状にカットするとともに、2枚の該シート片をヒートセッティング層2Sが対向するように重ね合わせ、その3辺を熱圧着して幅8mmのヒートセッティング層2Sを形成して袋状の容器に加工した。そして、液含浸体3を該袋状の容器に挿入し、容器の残りの1辺にヒートセッティング層2Sを形成して密封することにより封入体を得た。
【0048】
続いて、大きさ60mm×70mm、厚さ1mmの長方形状の銅製試験板表面を鏡面研磨してエタノールで脱脂・乾燥後、各コーティング液の封入体を開封し、試験板表面に液含浸体を荷重200gで押し付けつつ塗り広げることによりコーティング液の塗工を行なった。塗工後の試験板は温度25℃、湿度70%RHに保った恒温恒湿槽内に1時間放置する形で自然乾燥により塗膜の硬化を行なった。得られた塗膜は蛍光X線膜厚計により膜厚を測定するとともに、JIS K5600-5-4に規定された鉛筆硬度試験に供し、皮膜の硬度を測定した。また、乾燥処理後の被膜は光沢反射等の外観から塗りムラが生じていないかを目視確認するとともに、指先で触れてべとつき等の異常がないかどうかを調べた。
【0049】
また、上記の試験板を用いて被膜の耐久試験を以下のようにして実施した。まず、前述のポリエステル繊維不織布を3cm幅の帯状に切断した。この不織布片を、幅30mm、長さ40mm、厚さ10mm、タイプAデュロメータ硬度が約35の消しゴムに対し、長手方向先端面が覆われるように巻き付けて摩擦プローブを作成した。該摩擦プローブの不織布で覆われた先端面を試験板表面の被膜に荷重500gにて押し付け、該状態でモータ式の駆動装置によりストローク長2cm、移動速度4cm/sにて往復動させる摩擦処理を繰り返した。試験結果は、15000回に到達した時点で被膜に剥がれ等の異常がなく耐久したものを優良(◎)、10000回まで耐久したものを良(〇)、5000回まで耐久したものを可(△)、5000回未満で剥がれ等の異常を生じたものを不可(×)として評価した。以上の結果を表1にまとめて示している。
【0050】
まず番号1~8のコーティング液に使用した被膜主剤成分は、平均分子量が760、単量体の比率が17質量%であった。そして、表1によると、被膜主剤成分の配合量を5質量%以上70質量%以下、残部をジブチルエーテルとした番号2~7のコーティング液を用いた場合に、十分な硬度及び耐久性が得られ、塗りムラ等も少なく良好な結果が得られていることがわかる。一方、被膜主剤成分の配合量が5質量%未満となる番号1のコーティング液(比較例)を用いた場合は膜厚が小さく、また、皮膜の密度低下により十分な耐久性が得られていないことがわかる。他方、被膜主剤成分の配合量が70質量%を超える番号8のコーティング液(比較例)を用いた場合は、自然乾燥にて被膜が完全に硬化せず、硬度、耐久性ともに不十分となった。
【0051】
次に、番号9(比較例)のコーティング液に使用した被膜主剤成分は、縮重合処理の際に単量体の溜去を行ない、その含有率を2質量%まで低減させた。テトラエトキシシラン単量体の含有量Bとジブチルエーテル(DBE)の含有量Cとの合計B+Cが40質量%を下回っており、皮膜の硬度と耐久性は比較的良好であるが、塗工ムラが大きく生じていることがわかった。また、単量体のみからなる被膜主剤成分を用いた番号10のコーティング液(比較例)を用いた場合は、乾燥時の単量体の蒸発が著しく、十分な被膜厚さが得られていないことがわかる。
【0052】
一方、番号11、12のコーティング液は、番号2~7と比較して部分縮合反応が進んでいない分、被膜主剤成分の平均分子量が460と低い一方、単量体比率は30質量%と高くなっている。これらについても、本発明の範囲内にて該被膜主剤成分をジブチルエーテル(疎水性有機溶剤)と配合することで、硬度及び耐久性に優れた被膜が得られていることがわかる。一方、番号13のコーティング液は被膜主剤成分の平均分子量が1300とやや高く、粘度も上昇している。この場合、得られる被膜は多少の塗工ムラが見られたものの、硬度及び耐久性は十分であることがわかる。そして、被膜主剤成分の平均分子量が本発明の上限値を超える番号15のコーティング液(比較例)を用いると、ジブチルエーテル配合量が50質量%の場合は液の粘度が極度に上昇するばかりでなく、上記の自然乾燥では全く乾燥(硬化)が進まず、使用に耐える被膜は得られなかった。また、ジブチルエーテル配合量を95質量%に増加させた番号14のコーティング液(比較例)を用いた場合は、液の粘度は低減し、塗工は実施できたものの、得られる被膜の耐久性が不十分となった。
【0053】
(実験例2)
実験例1と同一のコーティング液を用いた同様の試験を、塗工後の硬化条件を以下のように変更して実施した。すなわち、脱脂綿シート(60mm×70mm、厚さ2mmの長方形状)に水4ccを含浸させ、コーティング液の塗膜に塗り付けるとともに、温度25℃、湿度40%RHに保った恒温恒湿槽内に30分放置して塗膜の硬化を行なった。この場合の結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
該結果によると、本発明の実施例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、皮膜の硬度及び耐久性は、総じて実験例1よりも向上する傾向にあることがわかる。他方、比較例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、例えば番号8、15については皮膜の硬度及び耐久性は改善されるものの、塗工ムラの問題は解決されず、残余の比較例のコーティング液を用いた場合の結果とともに、使用に耐える被膜は依然得られていないことがわかる。
【0056】
(実験例3)
実験例1と同一のコーティング液を用いた同様の試験を、塗工後の硬化条件を以下のように変更して実施した。すなわち、市販の蒸気発生器を用い、50℃の水蒸気をコーティング液の塗膜に向けて3分間噴射して塗膜の硬化を行なった。この場合の結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
該結果によると、本発明の実施例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、皮膜の耐久性は実験例2よりもさらに向上する傾向にあることがわかる。他方、比較例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、実験例2と同様、使用に耐える被膜が得られていないことがわかる。
【0059】
(実験例4)
実験例1と同一のコーティング液を用い、実験例3と同一の硬化条件を採用した試験を、塗工条件を以下のように変更して実施した。すなわち、コーティング液を
図3のエアゾール封入体として用意し、試験板表面に対し30cm離れた位置から10秒間定量噴霧して塗膜を形成した。この場合の結果を表4に示す。
【0060】
【0061】
該結果によると、本発明の実施例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、実験例3よりも皮膜の厚みをさらに増大でき、硬度及び耐久性も良好に確保されるとともに、塗工ムラの不具合等も生じていないことがわかる。他方、比較例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、実験例3と同様、使用に耐える被膜が得られていないことがわかる。
【0062】
(実験例5)
実験例1の番号3、5、11、12、13及び15(比較例)のコーティング液を用いて、実験例1と同様の封入体を作成した。また、番号16(比較例)のコーティング液は、番号15のコーティング液にパーヒドロキシポリシラザン(被膜主剤成分の一部をなす)、ジブチルエーテルの一部を置き換える形で5質量%さらに添加したものである。被膜主剤成分中のエチルシリケートの部分縮合体(単量体含む)の含有量は、番号16(比較例)のコーティング液のみ91質量%、他は100質量%である。また、液含浸体の含浸保持体の材質については、実験例1と同じポリエステル不織布(保持体A)と、ナイロン不織布(ナイロン100%:保持体B)との2種類を用いた。また、包装容器は特許文献2のアルミニウムパックと同様の包装容器、実験例1のアルミラミネートシートを用いた包装容器の2種類を用いている。これらの封入体を温度20℃、湿度50%RHに保った恒温恒湿槽内にて180日保管したのち、保管後の包装容器の膨れの有無を確認するとともに、各包装容器を開封し、中の液含浸体のコーティング液の変質や塗工性能について確認を行なった。以上の結果を表5に示す。
【0063】
【0064】
該結果によると、本発明の実施例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、いずれの形態の封入体においても膨れや内容物の変質といった不具合が生じていないことがわかる。他方、比較例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、ナイロン不織布の含浸保持体を用いると、アルミニウムパックを使用していても膨れが生じていることがわかる。さらに、アルミラミネートシートを用いた封入体の場合、番号15については内容物の変質により塗りムラが発生した。また、パーヒドロキシポリシラザンを添加した番号16のコーティング液を用いた場合は、液含浸体の硬化が進み、塗布自体が不可能となっていた。
【0065】
(実験例6)
実験例5と同様の番号3、5、11、12、13、15(比較例)及び16(比較例)のコーティング液と、番号17(比較例)、18、19として、番号3のコーティング液にパーヒドロキシポリシラザンを、ジブチルエーテルの一部を置き換える形でそれぞれ5質量%、2質量%及び1質量%をそれぞれ添加したものを用意した。被膜主剤成分中のエチルシリケートの部分縮合体(単量体含む)の含有量は、番号16(比較例)のコーティング液が91質量%、番号17(比較例)のコーティング液が67質量%、番号18のコーティング液が83質量%、番号19のコーティング液が91質量%、他は100質量%である。これらを用いて、キャップ付きガラスボトルへの封入体(ボトル容積:150cc、封入時液量140cc)、
図3のエアゾール封入体(窒素ガス充填:ガス封入圧力7kg/cm
2、封入時液量150cc)、及び
図4のエアレスポンプ付きボトルへの封入体(封入時液量150cc)をそれぞれ作成した。各封入体は60分ごとに0.2cc使用する塗工工程を10回繰り返すサイクルを30日間継続して行った。なお、保管温度は、キャップ付きガラスボトルを用いた場合は20℃と5℃(冷蔵庫)の2通りとし、他の容器は20℃のみとした。そして、30日後に内容物の粘度がほとんど変化せず、正常な塗工が可能だったものを優良(◎)、粘度が若干増加したものの塗工に支障をきたさなかったものを良(〇)、粘度の増加がみられ塗工時に多少ムラを生じやすくなっていたものを可(△)、粘度が極度に増加し、塗工が不能となったものを不可(×)として評価した。以上の結果を表6に示す。
【0066】
【0067】
該結果によると、本発明の実施例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、ガラスボトルによる簡易な封入体においてもコーティング液の良好な保管状態が保たれていることがわかる(当然、エアレスポンプ付き容器やエアゾールを用いた場合の保管状態は非常に良好である)。他方、比較例に該当する番号のコーティング液を用いた場合は、ガラスボトルによる保管形態であると、冷蔵保管を行わない限り内容物の変質が避けがたいことがわかる。
【0068】
(実験例7)
コーティング液を以下のように準備した。出発原料として、エチルシリケートの部分縮合体を含有するシリケートオリゴマーの市販品(商品名:エチルシリケート40、コルコート(株)製)と、試薬特級のオルトケイ酸テトラエチル単量体(テトラエトキシシラン)及び硬化補助剤としてトリエトキシシラン(被膜主剤成分の一部をなす)を用意した。使用したシリケートオリゴマーは、前述のnの値が2以上のエチルシリケートの縮合体を65質量%、オルトケイ酸テトラエチル単量体を30質量%、エタノールを5質量%含有し、平均分子量は575である。該シリケートオリゴマーにオルトケイ酸テトラエチル単量体(テトラエトキシシラン)及びトリエトキシシランを種々の比率にて混合し、表7に示す種々の組成のコーティング液を作成した。本実験例のコーティング液は、疎水性有機溶剤であるジブチルエーテルを配合していない。また、被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン単量体のコーティング液中の含有量が35質量%以上90質量%以下であり、被膜主剤成分に含有されるテトラエトキシシラン縮合体のコーティング液中の含有量が10質量%以上である。被膜主剤成分中のエチルシリケートの部分縮合体(単量体含む)の含有量は、番号102のコーティング液が95質量%、番号103のコーティング液が97質量%、番号104のコーティング液が99質量%、番号109及び110のコーティング液が95質量%、他は100質量%である。
【0069】
各コーティング液は、
図4のエアレスポンプ付きボトルに封入した。他方、大きさ60mm×70mm、厚さ1mmの長方形状のステンレス鋼製試験板表面を鏡面研磨してエタノールで脱脂・乾燥したものを用意し、エアレスポンプ付きボトルからコーティング液を試験板表面に対し、30cm離れた位置から0.2cc/回の割合で3回噴霧して塗膜を形成した。この塗膜に、同じ仕様のエアレスポンプ付きボトルから水(水温20℃)を試験板表面に対し、30cm離れた位置から0.2cc/回の割合で3回噴霧し、温度20℃(室温)、湿度50%RHに保った恒温恒湿槽内にて1日保管して硬化処理を行なった。得られた塗膜は蛍光X線膜厚計により膜厚を測定するとともに、JIS K5600-5-4に規定された鉛筆硬度試験に供し、皮膜の硬度を測定した。また、乾燥処理後の被膜は光沢反射等の外観から塗りムラが生じていないかを目視確認するとともに、指先で触れてべとつき等の異常がないかどうかを調べた。また、上記の試験板を用いて被膜の耐久試験を実験例1と同様に実施した。以上の結果を、表7に示す。
【0070】
【0071】
番号105を除き、いずれも良好な強度を有するシリカコーティング被膜を1.5μm以上の大きな膜厚にて形成できていることがわかる。一方、番号105のコーティング液は、トリエトキシシラン縮合体の含有量を40質量%を超えて設定しつつ(45.5質量%)、トリエトキシシランを添加しなかったものであり、水噴霧では被膜の硬化が十分に進まなかった。しかし、番号106のごとく、水に替えて5%酢酸水溶液を噴霧したところ、問題ない強度のシリカコーティング被膜を同様の膜厚にて形成することができた。一方、テトラエトキシシラン縮合体のコーティング液中の含有量を10質量%以上40質量%未満とした番号101、107及び108については、トリエトキシシランを添加せずとも、水噴霧により良好な強度を有するシリカコーティング被膜を大きな膜厚にて形成できていることがわかる。なお、番号102~104及び番号109、110については、硬化補助剤をトリエトキシシランに代えて、トリメトキシシラン及びトリエチルシランを用いて同様の試験を行なったところ、トリエトキシシランを用いた場合と同様の良好なシリカコーティング被膜が得られた。
【0072】
(実験例8)
実験例7の番号102で使用したものと同じ組成のコーティング液を用い、試験板として実験例7のステンレス鋼(SUS)板と、同一サイズのアルミニウム板、アクリル板及びガラス板を用意した。また、実験例7のステンレス鋼板上に膜厚5μmの透明アクリル塗装膜を形成した試験板も用意した。これらの試験板上に、実験例7と同様の方法によりシリカコーティング被膜を形成し、評価を行なった。なお、透明アクリル塗装膜を形成した試験板については、同一条件にて塗工・硬化処理を2回実施している。以上の結果を、表8に示す。
【0073】
【0074】
上記の結果によると、ステンレス鋼板以外の材質の試験板についても良好な強度を有するシリカコーティング被膜を大きな膜厚にて形成できていることがわかる。また、番号201、205及び206の結果に示す如く、透明アクリル塗装膜を形成した試験板について塗工を繰り返すことにより、良好な強度を有するシリカコーティング被膜をさらに大きな膜厚で形成できている。これらのシリカコーティング被膜は、自動車、鉄道車両あるいは航空機などの外装塗装被膜など、特に高い耐候性が要求される塗装膜の保護被膜用として有用と考えられる。
【0075】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、あくまで例示であって、本発明はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0076】
1 コーティング液の封入体
2 包装容器
3 含浸保持体
4 液含浸体
300 エアゾール封入体
301 ボトル
302 コーティング液