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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】鋳造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/22 20060101AFI20231120BHJP
   B22D 17/00 20060101ALI20231120BHJP
   B22C 9/06 20060101ALI20231120BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20231120BHJP
【FI】
B22D17/22 S
B22D17/00 B
B22C9/06 H
C22C21/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019167801
(22)【出願日】2019-09-14
(65)【公開番号】P2021045758
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004141
【氏名又は名称】弁理士法人紀尾井坂テーミス
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】篠原 健
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/018922(WO,A1)
【文献】特開2005-152924(JP,A)
【文献】特開平11-173415(JP,A)
【文献】特開2018-168446(JP,A)
【文献】特開2018-202834(JP,A)
【文献】特開2018-171825(JP,A)
【文献】特開2018-167465(JP,A)
【文献】特開2018-118313(JP,A)
【文献】特開2014-226713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 15/00-17/32
B22C 5/00-9/30
C22C 5/00-25/00,
27/00-28/00,
30/00-30/06,
35/00-45/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型とを接合した型締め時に、鋳造品の形状に対応したキャビティが前記固定型と前記可動型との間に形成される鋳造金型と、
アルミニウム合金の溶湯を、前記鋳造金型に設けた連絡路を介して、前記キャビティ内に射出する射出装置と、を備える鋳造装置であって、
前記鋳造金型では、前記キャビティの領域の下縁に前記連絡路との連通口が開口しており、
前記固定型側の前記キャビティの領域と、前記可動型側の前記キャビティの領域のうち、前記固定型と前記可動型との接合方向の深さが浅い方の金型の前記キャビティの領域では、前記下縁から所定の高さ範囲が、表面粗さが他の領域の表面粗さよりも粗い表面処理領域となっていることを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
前記接合方向の深さが深い前記キャビティの領域を持つ金型では、当該金型の下縁で、前記連通口が上方を向いて開口しており、
前記接合方向の深さが浅い前記キャビティの領域を持つ金型では、前記キャビティの領域における前記下縁側の下部に、前記連通口の開口方向に沿う平坦な部位を有しており、
前記表面処理領域は、前記平坦な部位に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鋳造装置。
【請求項3】
前記表面処理領域は、前記固定型側のキャビティの領域に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋳造装置。
【請求項4】
前記アルミニウム合金は、シリコンを8~30質量%含有するハイシリコンアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の鋳造装置。
【請求項5】
前記鋳造品は、自動変速機用のバルブボディであり、
前記表面処理領域は、前記バルブボディにおけるフランジ状に膨出した部位に対応する領域であることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の鋳造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンを含有するアルミニウム合金の溶湯を、金型内のキャビティに射出して製品を鋳造するダイカスト鋳造法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-65160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ダイカスト鋳造法により作製される鋳造品として、車両用の自動変速機のコントロールバルブボディが例示される。
コントロールバルブボディには、油圧制御回路を形成するための油路(油溝)や、スプール弁を進退移動可能に収容するスプール孔が形成されている。
【0005】
ここで、スプール孔の摩耗の抑制や、スプール孔の真円度の確保を目的として、シリコンの含有量が多いアルミニウム合金、いわゆるハイシリコンアルミニウム合金が、コントロールバルブボディ(鋳造品)の鋳造に用いられる。
【0006】
ハイシリコンアルミニウム合金の溶湯を用いて作製した鋳造品では、シリコンの分布が他の領域よりも多い領域(シリコン偏析領域)が生じることがある。
鋳造品におけるシリコン偏析領域は、他の領域よりも黒ずんで見えるので、製品の見栄えが悪くなる。さらに、シリコン偏析領域は、他の領域よりも脆いので、鋳造品の構成素材が剥離し易くなる傾向がある。
また、剥離した素材が、スプール孔の内部に侵入すると、侵入した素材が、スプール弁の移動を妨げる夾雑物となり、スプール弁の作動不良(バルブスティック)の原因となる。
【0007】
そこで、シリコンの偏析を抑制することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、
固定型と可動型とを接合した型締め時に、鋳造品の形状に対応したキャビティが前記固
定型と前記可動型との間に形成される鋳造金型と、
ハイシリコンアルミニウム合金の溶湯を、前記鋳造金型に設けた連絡路を介して、前記
キャビティ内に射出する射出装置と、を備える鋳造装置であって、
前記鋳造金型では、前記キャビティの領域の下縁に、前記連絡路との連通口が開口しており、
前記固定型側の前記キャビティの領域と、前記可動型側の前記キャビティの領域のうち、前記固定型と前記可動型との接合方向の深さが浅い方の金型の前記キャビティの領域では、前記下縁から所定の高さ範囲が、表面粗さが他の領域の表面粗さよりも粗い表面処理領域となっている構成の鋳造装置とした。

【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シリコンの偏析を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】鋳造装置の構成を説明する模式図である。
図2】鋳造装置で作製される鋳造品を説明する図である。
図3】鋳造金型のキャビティにおける表面処理が施された領域を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、鋳造装置1を用いて作製される鋳造品が、車両用の自動変速機のバルブボディ10である場合を例にあげて本発明の実施形態を説明する。
【0012】
図1は、鋳造装置1の構成を説明する模式図である。なお、図1では、固定型3と可動型4とを型締めした状態が示されている。
図2は、鋳造装置1を用いて作製される鋳造品(バルブボディ10)を説明する図である。図2の(a)は、バルブボディ10の正面図であり、(b)は、バルブボディ10における表面処理が施された領域(転写領域Rx’)を説明する図である。図2の(b)では、転写領域Rx’にハッチングを付して示している。
【0013】
図1に示すように鋳造装置1は、ダイカスト鋳造に用いられる鋳造金型2と、アルミニウム合金の溶湯Mを、鋳造金型2内のキャビティCに射出する射出装置5と、を備える。
【0014】
本実施形態の鋳造装置1は、アルミ粗材(ADC12材)にシリコン(Si)を添加したアルミニウム合金を用いるダイカスト鋳造に好適である。
特に、シリコン(Si)の含有量の多いハイシリコンアルミニウム合金を用いるダイカスト鋳造に好適である。
【0015】
ハイシリコンアルミニウム合金は、JIS規格の4000系に相当するアルミ-シリコン系の合金(Al-Si系合金)であり、強度と、耐摩耗性に優れている。
本明細書におけるハイシリコンアルミニウム合金は、Siを8~30%含有するアルミニウム合金であり、より好ましくは、Siを15~30%含有するアルミニウム合金である。
【0016】
本実施形態の鋳造装置1を用いて作製される鋳造品は、自動変速機用のバルブボディ10である。
自動変速機は、バルブボディ10、10の間にセパレートプレート(図示せず)を挟み込んで構成されるコントロールバルブボディを有している。
バルブボディ10の内部やセパレートプレートとの合わせ面には、油圧制御回路を形成するための油路(油溝)や、スプール弁を進退移動可能に収容するスプール孔(溝)が形成されている。
【0017】
図2の(a)は、バルブボディ10を、合わせ面とは反対側から見た平面図であり、セパレートプレートとの合わせ面が、紙面奥側に隠れている。
【0018】
バルブボディ10の外面(表面)には、ボルト孔101やソレノイドなどの取付孔102が開口している。さらに、スプール孔が形成された領域が紙面手前側に膨出した膨出部103として現れている。
本実施形態にかかる鋳造装置1で鋳造されたバルブボディ10では、図2の(b)においてハッチングが付された領域(転写領域Rx’)の表面が、ハッチングが付されていない他の領域よりも表面の粗さが粗くなっている。
バルブボディ10では、長手方向の一側10a側と他側10b側の表面(図2の(b)における紙面手前側の面)に、幅方向の全域に及ぶ範囲に、転写領域Rx’が形成されている。
【0019】
図1に示すように、鋳造金型2は、固定型3と、当該固定型3に対向配置された可動型4とを有している。
可動型4は、図示しない駆動機構により、型開き方向(図1における左右方向)に進退移動して、当該可動型4の型分割面41を、固定型3の型分割面31に対して接離させる。
固定型3と可動型4の互いの型分割面31、41を接合して型締めすると、バルブボディ10(鋳造品)の形状に対応したキャビティCが、固定型3と可動型4の間に形成される。
【0020】
図1に示すように固定型3には、射出スリーブ50の取付口32が設けられている。
取付口32は、鋳造金型2の設置状態を基準とした上下方向で、固定型3の下部に設けられている。
取付口32は、可動型4の型開き方向(図中、左右方向)において、可動型4とは反対側の面(図中、右側の面)に開口している。
取付口32の中央には、ビスケット33(連絡路)が開口している。取付口32は、固定型3内のビスケット33(連絡路)と、可動型4側の連絡路(ランナ43、ゲート44)とを介して、キャビティCに連通している。
【0021】
ビスケット33は、取付口32側の大径部331と、可動型4側の小径部332とを有している。小径部332は、固定型3の型分割面31に開口している。
小径部332は、固定型3と可動型4とを接合して型締めした際に、可動型4のランナ43に対向する位置に開口する。
【0022】
固定型3の取付口32には、リング状の連結部材34が内嵌している。
連結部材34は、射出装置5側の射出スリーブ50を固定型3に連結するためのアタッチメントである。
連結部材34には、ビスケット33の大径部331と整合する内径の貫通孔341が設けられている。連結部材34では、大径部331とは反対側に、貫通孔341を所定間隔で囲む凹部342が設けられている。
【0023】
凹部342には、射出スリーブ50の一端50aが内嵌して固定されている。
射出スリーブ50は、固定型3から離れる方向に直線状に延びる筒状部材であり、射出スリーブ50の内部は、溶湯Mの送出路500となっている。
送出路500は、連結部材34の貫通孔341、およびビスケット33の大径部331と整合する内径D1で形成されている。
【0024】
送出路500と、連結部材34の貫通孔341と、ビスケット33の大径部331と、は、型開き方向(図中左右方向)に沿う直線Lm上で同芯に配置されている。
【0025】
送出路500には、溶湯Mの押出部材51が、射出スリーブ50の他端50b側から挿入されている。押出部材51は、送出路500の内径D1と整合する外径の大径部510を有している。
押出部材51(大径部510)は、図示しない駆動機構により、送出路500の長手方向に進退移動可能である。
【0026】
射出スリーブ50では、長手方向における他端50b側の外周に、溶湯Mの注湯口501が開口している。
本実施形態では、注湯口501よりも他端50b側(図1における右側)が、押出部材51の初期位置となっている。
【0027】
本実施形態では、射出装置5が、溶湯Mの給湯機52を有している。
給湯機52は、ラドル53を所望の位置まで移動させるロボットアーム54を有している。給湯機52は、ロボットアーム54を操作して、溶湯Mを満たしたラドル53を射出スリーブ50の注湯口501の上方まで移動させたのち、注湯口501から射出スリーブ50内に溶湯Mを注湯する。
【0028】
射出スリーブ50内に溶湯Mを注油したのち、押出部材51を、図示しない駆動機構により固定型3側(図中、左側)に変位させると、射出スリーブ50内の溶湯Mが、押出部材51より押されて、ビスケット33側に送出される。
ビスケット33側に送出された溶湯Mは、ビスケット33の小径部332から、可動型4のランナ43内に送出される。
【0029】
図3は、鋳造金型2のキャビティC(Ca、Cb)における表面処理が施された領域(表面処理領域Rx)を説明する模式図である。
図3の(a)は、図1におけるA-A線に沿って可動型4を切断した断面図である。図3の(b)は、図1におけるB-B線に沿って、固定型3を切断した断面図である。
図3の(a)では、固定型3側の連絡路であるビスケット33の位置を、仮想線で示している。図3の(b)では、可動型4側の連絡路であるランナ43およびゲート44と、バルブVの位置を仮想線で示している。さらに、図3の(b)では、キャビティC(Ca、Cb)における表面処理が施された領域(表面処理領域Rx)にハッチングを付して示している。
【0030】
図3の(a)に示すように、本実施形態にかかる鋳造金型2では、バルブボディ10が2つずつ同時に鋳造されるようにするために、バルブボディ10の形状に対応するキャビティC(Ca、Cb)が、型開き方向と直交する幅方向(図中、左右方向)で並んでいる。
本実施形態では、キャビティCa、Cbは、可動型4の幅方向の中心線Xを挟んだ両側に設けられており、中心線Xを挟んだ一方側のキャビティCaの形状と、他方側のキャビティCbの形状は、上下を逆にした位置関係に設定されている。
【0031】
可動型4における固定型3との対向部では、ビスケット33(小径部332)と重なる位置に、ランナ43の導入部431が位置している。
ランナ43は、導入部431を境にしてキャビティCa側の第1ランナ432と、キャビティCb側の第2ランナ433とに分岐している。
【0032】
第1ランナ432と第2ランナ433は、キャビティCa、Cb側の上方に向かうにつれて、中心線Xから離れる向きで設けられている。
第1ランナ432と第2ランナ433の先端側は、キャビティCa、Cbの下方を、キャビティCa、Cbの下縁に沿って、互いに離れる方向に延びている。
【0033】
第1ランナ432、第2ランナ433におけるキャビティCa、Cbの下縁に沿う領域には、キャビティCaに連絡するゲート44、44が設けられている。
本実施形態では、ゲート44の各々は、鋳造金型2の中心線Xに沿う向きで設けられている。ゲート44におけるキャビティCa、Cbとの接続口である射出口44a~44dは、鋳造金型2の設置状態を基準とした上下方向で、キャビティCa、Cbに下側から開口している。
【0034】
キャビティCaの上部には、排気路45に連絡する排気口45a、45bが開口している。キャビティCbの上部には、排気路45に連絡する排気口45c、45d、45eが開口している。
キャビティCa、Cb内の空間は、排気路45を介してバルブVに連絡している。排気路45は、バルブVを間に挟んで真空ポンプPに連絡している。
【0035】
図3の(b)に示すように、固定型3におけるキャビティCa、Cbの領域では、ゲート44側の射出口44a~44dの近傍領域と、排気路45側の排気口45a~45eの近傍領域に、表面を荒らした表面処理領域Rxが設けられている。
【0036】
表面処理領域Rxは、スパッタリングなどの公知の表面処理技術を用いて形成したものである、表面処理領域Rxは、キャビティCa、Cb内の他の領域よりも、表面の粗さが粗くなっている。
本実施形態では、表面処理領域Rxの表面粗さが、5μ~50μ、より好ましくは、10μ~20μとなるように、表面処理が施されている。
【0037】
ここで、表面処理領域Rxは、鋳造金型2を用いてハイシリコンアルミニウム合金の溶湯Mから作製されたバルブボディ10において、シリコンの偏析を抑制するために設けられている。
【0038】
本件発明者は、バルブボディ10(鋳造品)におけるシリコンの偏析が発生する領域の傾向を調査したところ、溶湯Mの射出口44a~44d(図3参照)周りに位置していた領域に、シリコンの偏析が多く発生することに着目した。
【0039】
そして、シリコンの偏析が発生する原因を鋭意検討した結果、以下の点を見いだした。
(a)鋳造金型2を用いたバルブボディ10の連続鋳造の過程において、キャビティCにおける溶湯Mの射出口44a~44dの近傍領域の温度が高くなる傾向がある。
(b)溶湯Mの射出口の近傍領域の温度が高くなると、溶湯Mの射出口44a~44d周りに位置していた領域での溶湯Mの固化速度が、他の領域での固化速度よりも遅くなる。そうすると、固化速度が遅い領域に溶湯M中のシリコンが集まって偏析する。
【0040】
(c)シリコンの含有量が多いハイシリコンアルミニウム合金の溶湯は、シリコンの含有量が低いアルミニウム合金の溶湯や、アルミマグネシウムシリコン合金(Al-Mg-Si系)の溶湯に比べて粘度が高い。
そのため、ハイシリコンアルミニウム合金は、キャビティC内に射出する際の流動性を担保するために、シリコンの含有量が低いアルミニウム合金の溶湯などよりも高温の状態で、キャビティC内に射出される。
そうすると、溶湯Mの射出口44a~44d周りの領域での溶湯Mの固化速度が、他の領域での固化速度よりもいっそう遅くなる結果、固化速度が遅い領域に溶湯M中のシリコンがより多く集まって偏析する。
【0041】
これら(a)から(c)を踏まえて、本件発明者は、溶湯の射出口の近傍領域の温度が高くなり過ぎることを防いで、シリコンの偏析を抑制する必要があると判断し、鋭意検討した結果、以下の点を見いだした。
キャビティCにおける溶湯Mの射出口44a~44d周りの所定範囲の領域に、表面粗さを他の領域の表面粗さよりも粗くした領域(表面処理領域Rx)を設けたところ、バルブボディ10(鋳造品)におけるシリコンの偏析が改善される。
【0042】
これは、以下によるものと推定される。
溶湯Mの射出口44a~44d周りの領域の表面を粗くして、表面処理領域Rxを設けると、表面処理領域Rxでは、キャビティC内に露出する表面の面積が大きくなる。
そうすると、キャビティC内に射出された溶湯Mとの接触面積が増える結果、鋳造金型2内部での冷却の熱容量交換効率をあげることができる。
【0043】
これにより、表面処理領域Rxでの表面温度が低下して、表面処理領域Rxでの溶湯Mの固化速度が速くなって、他の領域での溶湯Mの固化速度に近づくことになる。
その結果、表面処理領域Rxへの溶湯M中のシリコンの集中が抑制されて、シリコンの偏析が改善する。
すなわち、キャビティCにおける射出口44a~44d周りの所定範囲の領域の表面積が増えた結果、表面処理領域Rxでの温度上昇を抑制できたためであると推定される。
【0044】
なお、本実施形態にかかる鋳造金型2では、中心線Xを挟んだ一方側のキャビティCaの形状と、他方側のキャビティCbの形状は、上下を逆にした位置関係に設定されている。
そのため、射出口44a~44d側にのみ表面処理領域Rxを設けると、表面処理領域Rxに起因する転写領域Rx’が、長手方向の一側10a側に形成されたバルブボディ10と、他側10b側に形成されたバルブボディ10とが混在して作製される。
【0045】
本実施形態では、排気路45側の排気口45a~45e周りの所定範囲の領域にも、表面処理領域Rxを設けることで、作製されるバルブボディ10において、長手方向の一側10a側と他側10bのフランジ状に膨出した部位の両方に転写領域Rx’が形成されるようにしている。
【0046】
以下、鋳造装置1を用いたバルブボディ10(鋳造品)の作製を説明する。
始めに、固定型3の型分割面31と、可動型4の型分割面41とを接合して鋳造金型2を型締めする。これにより、鋳造金型2の内部に、バルブボディ10の形状に対応したキャビティC(Ca、Cb)が形成される。
【0047】
真空ポンプPを駆動して、鋳造金型2の内部に形成されたキャビティC(Ca、Cb)内を減圧状態で保持する。
【0048】
射出装置5では、給湯機52を用いて、射出スリーブ50の注湯口501から、射出スリーブ50の内部に、ハイシリコンアルミニウム合金の溶湯Mを注湯する。そして、押出部材51を、図示しない駆動機構により固定型3側(図1における左側)に変位させて、射出スリーブ50内の溶湯Mを、固定型3の連絡路(ビスケット33)内に圧送する。
【0049】
前記したように、固定型3の連絡路(ビスケット33)は、可動型4の連絡路(ランナ43、ゲート44)を介して、キャビティC(Ca、Cb)に連通している。
そのため、射出スリーブ50内のハイシリコンアルミニウム合金の溶湯Mが、鋳造金型2(固定型3、可動型4)に設けた連絡路(ビスケット33、ランナ43、ゲート44)を通って、射出口44a~44dから、キャビティC(Ca、Cb)内に射出される。
【0050】
キャビティC(Ca、Cb)内が、ハイシリコンアルミニウム合金の溶湯Mで満たされると、溶湯Mの一部が、キャビティC(Ca、Cb)の上部に開口する排気口45a~45eから、排気路45に流入する。
排気路45に流入した溶湯MがバルブVまで到達すると、バルブVが到達した溶湯Mにより作動して、排気路45と真空ポンプPとの連通を遮断する。これにより、溶湯Mの真空ポンプP側への流入が阻止される。
【0051】
キャビティC(Ca、Cb)内に射出された溶湯Mが固化すると、鋳造金型2の型開きが行われて、鋳造品であるバルブボディ10が、鋳造金型2から取り出されることになる。
【0052】
ここで、前記したように、固定型3におけるキャビティCa、Cbの領域では、射出口44a~44dの近傍領域と、排気口45a~45eの近傍領域に、表面処理領域Rxが設けられている(図3の(b)参照)。
【0053】
そのため、ダイカスト鋳造により作製されたバルブボディ10では、表面処理領域Rxに対応する領域に、表面処理領域Rxの表面形状が転写された転写領域Rx’が形成されている。この転写領域Rx’は、他の領域よりも表面が粗くなっている。
具体的には、バルブボディ10におけるボルト孔101が設けられるフランジ状の部位に、他の領域よりも表面が粗い転写領域Rx’が形成されている。
【0054】
ここで、固定型3に表面処理領域Rxが形成されていることにより、キャビティC(Ca、Cb)内に射出された溶湯Mが固化する過程で、キャビティC(Ca、Cb)における溶湯Mの射出口44a~45dの近傍領域の温度上昇を抑えることができる。
そうすると、表面処理が施された領域での溶湯Mの固化速度が、他の領域での溶湯Mの個加速度に近づくことになるので、表面処理領域Rxへのシリコンの集中が抑制されて、シリコンの偏析が改善する。
【0055】
なお、本実施形態では、キャビティC(Ca、Cb)における固定型3側の領域に、表面処理領域Rxが形成されている場合を例示したが、表面処理領域Rxは、キャビティC(Ca、Cb)における固定型3と可動型4のうちの少なくとも一方に設けられていれば良い。
【0056】
以上の通り、本実施形態にかかる鋳造装置1は、以下の構成を有している。
(1)鋳造装置1は、鋳造金型2と、射出装置5と、を備える。
鋳造金型2では、固定型3と可動型4とを接合した型締め時に、バルブボディ10(鋳造品)の形状に対応したキャビティC(Ca、Cb)が、固定型3と可動型4との間に形成される。
射出装置5は、ハイシリコンアルミニウム合金の溶湯Mを、鋳造金型2に設けた連絡路(ビスケット33、ランナ43、ゲート44)を介して、キャビティC(Ca、Cb)内に射出する。鋳造金型2では、キャビティC(Ca、Cb)の領域に、連絡路との連通口となる射出口44a~44dが開口している。
キャビティC(Ca、Cb)の領域では、射出口44a~44d周りの所定範囲の領域の表面粗さが、他の領域の表面粗さよりも粗くなっている。
【0057】
このように構成すると、キャビティC(Ca、Cb)では、溶湯Mの射出口44a~44dの近傍領域の表面積が増えるので、射出口44a~44dの近傍領域の温度上昇を抑えることができる。
すなわち、キャビティC(Ca、Cb)の領域の表面を粗くすることで、表面積を増やした結果、鋳造金型2内部での冷却の熱容量交換効率をあげることができ、これにより、鋳造金型2のキャビティの領域の表面温度が低下する。
これにより、表面処理領域Rxでの表面温度が低下して、表面処理領域Rxでの溶湯Mの固化速度が速くなって、他の領域での溶湯Mの固化速度に近づくことになる。
その結果、表面処理領域Rxへの溶湯M中のシリコンの集中が抑制されて、シリコンの偏析が改善する。
【0058】
以上の通り、本実施形態にかかる鋳造装置1は、以下の構成を有している。
(2)射出口44a~44d周りの所定範囲の領域(表面処理領域Rx)の表面粗さが、5μ~20μであり、より好ましくは、10μ~20μとなるように、表面処理が施されている。
【0059】
キャビティC(Ca、Cb)における射出口44a~44d周りの所定範囲の領域の表面を粗くすることで、冷却効率が向上するものの、表面が粗くなりすぎると、射出口44a~44dを通ってキャビティC(Ca、Cb)内に射出される溶湯Mの流れに対する抵抗(管路抵抗)が高くなる。
そこで、射出口44a~44d周りの所定範囲の領域の表面粗さを5μ~20μの範囲にすることで、管路抵抗と冷却効率をバランスさせて、キャビティC(Ca、Cb)への溶湯Mの射出を妨げることなく、シリコンの偏析を改善できるようにした。
【0060】
以上の通り、本実施形態にかかる鋳造装置1は、以下の構成を有している。
(3)表面粗さが粗い所定範囲の領域(表面処理領域Rx)は、固定型3側のキャビティC(Ca、Cb)の領域に少なくとも設けられている。
固定型3には、溶湯Mの射出スリーブ50を、固定型3に接続するための取付口32が設けられている。
【0061】
鋳造金型2では、固定型3に射出スリーブ50が接続されているため、固定型3のほうが可動型4よりも高温になりやすい。表面処理領域Rxを少なくとも固定型3側に設けることで、溶湯Mの温度を下げて、射出口44a~44d周りの領域でのシリコンの偏析を抑制できる。
【0062】
以上の通り、本実施形態にかかる鋳造装置1は、以下の構成を有している。
(4)ハイシリコンアルミニウム合金は、シリコンを8~30質量%含有するアルミニウム合金である。
【0063】
ハイシリコンアルミニウム合金を用いて作製されたバルブボディ10は、強度と、耐摩耗性に優れている。そのため、プール孔の摩耗の抑制や、スプール孔の真円度の確保が可能なバルブボディ10作製できる。
【0064】
ハイシリコンアルミニウム合金の溶湯は、シリコンの含有量が低いアルミニウム合金の溶湯やなどに比べて粘度が高い。そのため、ハイシリコンアルミニウム合金は、キャビティC内に射出する際の流動性を担保するために、シリコンの含有量が低いアルミニウム合金の溶湯などよりも高温の状態で、キャビティC内に射出される。
【0065】
そうすると、溶湯Mの射出口44a~44d周りの領域での溶湯Mの固化速度が、他の領域での固化速度よりもいっそう遅くなる可能性がある。
上記の通り、キャビティC(Ca、Cb)の領域では、射出口44a~44d周りの所定範囲の領域の表面粗さが、他の領域の表面粗さよりも粗くなっている。
これにより、溶湯Mの射出口44a~44d周りの領域での溶湯Mの固化速度が、他の領域での固化速度よりもいっそう遅くなることを防止できるので、シリコンの偏析を好適に抑制できる。
【0066】
本実施形態にかかる鋳造装置1は、以下の構成を有している。
(5)鋳造装置1で鋳造される鋳造品は、自動変速機用のバルブボディ10である。
キャビティC(Ca、Cb)の領域における所定範囲の領域は、バルブボディ10におけるフランジ状に膨出した部位に対応する領域である。
バルブボディ10におけるフランジ状に膨出した部位は、バルブボディ10、10同士を接合する際にボルトが挿通されるボルト孔101が設けられた領域である。
【0067】
このように構成すると、バルブボディ10におけるフランジ状に膨出し部位において、シリコンの偏析を改善できる。
シリコンが偏析した領域は、他の領域よりも脆いので、鋳造品の構成素材が剥離し易くなる傾向があるが、シリコンの偏析を改善できるので、鋳造品の構成素材が剥離することを好適に防止できる。
【0068】
さらに、バルブボディ10におけるフランジ状に膨出した部位は、他の部位に比べて厚みが平坦な箇所である。
そのため、固定型3におけるキャビティCa、Cbの領域では、表面処理領域Rxが設けられる領域もまた、他の領域よりも平坦な部位となっている。
よって、表面処理領域Rxを、スパッタリングなどの公知の表面処理技術を用いて形成する際に、周囲に表面処理を阻害する突起などが存在しないので、表面処理のための加工がしやすくなる。
【0069】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は、これら実施形態に示した態様のみに限定されるものではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0070】
1 鋳造装置
2 鋳造金型
3 固定型
31 型分割面
32 取付口
33 ビスケット
331 大径部
332 小径部
34 連結部材
341 貫通孔
342 凹部
4 可動型
41 型分割面
43 ランナ
431 導入部
432 第1ランナ
433 第2ランナ
44 ゲート
44a~44d 射出口
45 排気路
45a~45e 排気口
5 射出装置
50 射出スリーブ
500 送出路
501 注湯口
51 押出部材
510 大径部
52 給湯機
53 ラドル
54 ロボットアーム
10 バルブボディ
10a 一側
10b 他側
101 ボルト孔
102 取付孔
103 膨出部
C(Ca、Cb) キャビティ
M 溶湯
P 真空ポンプ
Rx 表面処理領域
Rx’ 転写領域
V バルブ
X 中心線
図1
図2
図3