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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20231120BHJP
   F16C 17/04 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16J15/34 H
F16C17/04 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020571160
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003647
(87)【国際公開番号】W WO2020162351
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019017875
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓志
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/186015(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/105505(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/092742(WO,A1)
【文献】特開2005-337503(JP,A)
【文献】国際公開第2016/186019(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
F16J 15/40-15/453
F16J 15/54-15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の相対回転する箇所に配置される環状の摺動部品であって、
前記摺動部品の摺動面には、漏れ側に連通する深溝部と、該深溝部に連通して周方向に並列して延設される複数の浅溝部と、から構成される動圧発生機構が複数設けられ
前記動圧発生機構は、漏れ側に直接連通し前記浅溝部の漏れ側で並列して周方向に延びる前記浅溝部とは独立したサブ浅溝部を有している摺動部品。
【請求項2】
前記サブ浅溝部は、前記浅溝部と径方向で重なる請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記浅溝部が被密封流体側に向かって延びている請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記浅溝部は、周方向に湾曲している請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項5】
前記浅溝部は、前記深溝部から周方向両側に延びている請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
前記深溝部は内径側に連通する請求項1ないし5のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項7】
前記摺動部品の摺動面には、前記動圧発生機構よりも被密封流体側に配置され前記動圧発生機構とは独立する特定動圧発生機構を備えている請求項1ないし6のいずれかに記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する摺動部品に関し、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置に用いられる摺動部品、または自動車、一般産業機械、あるいはその他の軸受分野の機械の軸受に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
被密封液体の漏れを防止する軸封装置として例えばメカニカルシールは相対回転し摺動面同士が摺動する一対の環状の摺動部品を備えている。このようなメカニカルシールにおいて、近年においては環境対策等のために摺動により失われるエネルギーの低減が望まれており、摺動部品の摺動面に高圧の被密封液体側である外径側に連通するとともに摺動面において一端が閉塞する正圧発生溝を設けている。これによれば、摺動部品の相対回転時には、正圧発生溝に正圧が発生して摺動面同士が離間するとともに、正圧発生溝には被密封液体が外径側から導入され被密封液体を保持することで潤滑性が向上し、低摩擦化を実現している。
【0003】
さらに、メカニカルシールは、密封性を長期的に維持させるためには、「潤滑」に加えて「密封」という条件が求められている。例えば、特許文献1に示されるメカニカルシールは、一方の摺動部品において、被密封液体側に連通するレイリーステップ及び逆レイリーステップが設けられている。これによれば、摺動部品の相対回転時には、レイリーステップにより摺動面間に正圧が発生して摺動面同士が離間するとともに、レイリーステップが被密封液体を保持することで潤滑性が向上する。一方、逆レイリーステップでは相対的に負圧が生じるとともに逆レイリーステップはレイリーステップよりも漏れ側に配置されているため、レイリーステップから摺動面間に流れ出た高圧の被密封液体を逆レイリーステップに吸い込むことができる。このようにして、一対の摺動部品間の被密封液体が漏れ側に漏れることを防止して密封性を向上させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2012/046749号(第14-16頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1にあっては、逆レイリーステップで被密封液体を被密封液体側へ戻す構造であるため、摺動面間における漏れ側に被密封液体が供給されず、潤滑性に寄与していない部分が生じる虞があり、より潤滑性の高い摺動部品が求められていた。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、被密封流体を摺動面間における漏れ側まで供給して高い潤滑性を発揮するとともに被密封流体の漏れの少ない摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
回転機械の相対回転する箇所に配置される環状の摺動部品であって、
前記摺動部品の摺動面には、漏れ側に連通する深溝部と、該深溝部に連通して周方向に並列して延設される複数の浅溝部と、から構成される動圧発生機構が複数設けられている。
これによれば、深溝部は溝の深さが深く容積が大きいので、摺動面の漏れ側まで供給された多くの量の被密封流体を回収して浅溝部から被密封流体を摺動面間に流出させることができるため、摺動面の広い面積で潤滑性を向上させることができる。また、漏れ側に連通する深溝部によって被密封流体を回収し、回収した被密封流体を浅溝部から摺動面間に流出させて一部を径方向被密封流体側に戻すので、漏れ側に漏れる被密封流体が少ない。加えて、並列する複数の浅溝部において、被密封流体側の浅溝部から流出する被密封流体を漏れ側に並列配置される浅溝部により捕集することができるため、潤滑性をより向上させるとともに、漏れ側に漏れる被密封流体をより少なくできる。
【0008】
前記浅溝部が被密封流体側に向かって延びていてもよい。
これによれば、浅溝部の延設方向端部における動圧により高圧が生じる高圧部を被密封流体側に近付けて配置することができ、浅溝部の延設方向端部から被密封流体を摺動面間の被密封流体側に近づけた位置に戻すことができる。
【0009】
前記浅溝部は、周方向に湾曲していてもよい。
これによれば、浅溝部の曲率に応じて動圧を調整することができる。また、浅溝部の延設方向端部までの距離を長くできるため、大きな圧力を得ることができる。
【0010】
前記動圧発生機構は、漏れ側に直接連通し前記浅溝部の漏れ側で並列して周方向に延びる前記浅溝部とは独立したサブ浅溝部を有していてもよい。
これによれば、深溝部と連通する複数の浅溝部において、延設方向端部から流出する被密封流体を漏れ側のサブ浅溝部によりさらに捕集することができるため、漏れ側に漏れる被密封流体をさらに少なくできる。また、深溝部と連通しないサブ浅溝部に対する被密封流体の導入量を増やすことができるため、動圧発生機構の有効範囲を広げることができる。
【0011】
前記浅溝部は、前記深溝部から周方向両側に延びていてもよい。
これによれば、深溝部の周方向のいずれか一方に配置される浅溝部を動圧発生用の浅溝部として利用できるため、摺動部品の回転方向に限られず使用できる。
【0012】
前記深溝部は内径側に連通していてもよい。
これによれば、浅溝部から摺動面間に供給された被密封流体を遠心力により被密封流体側に戻すことができるとともに、遠心力により深溝部内に被密封流体を保持しやすい。
【0013】
前記摺動部品の摺動面には、前記動圧発生機構よりも被密封流体側に配置され前記動圧発生機構とは独立する特定動圧発生機構を備えていてもよい。
これによれば、摺動部品の相対回転時に、特定動圧発生機構により摺動面間を離間させて摺動面間に適当な流体膜を生成しつつ、動圧発生機構によって被密封流体の漏れ側への漏れを低減できる。
【0014】
尚、本発明に係る摺動部品の浅溝部が周方向に延設されているというのは、浅溝部が少なくとも周方向の成分をもって延設していればよく、好ましくは径方向よりも周方向に沿った成分が大きくなるように延設されていればよい。また深溝部が径方向に延びているというのは、深溝部が少なくとも径方向の成分をもって延設していればよく、好ましくは周方向よりも径方向に沿った成分が大きくなるように延設されていればよい。
【0015】
また、被密封流体は、液体であってもよいし、液体と気体が混合したミスト状であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1におけるメカニカルシールの一例を示す縦断面図である。
図2】静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
図3】A-A断面図である。
図4】静止密封環の摺動面における要部拡大図である。
図5】(a)~(c)は相対回転初期に液体誘導溝部の内径側から吸い込まれた被密封液体が摺動面間に流出される動作を説明する概略図である。
図6】相対回転初期に液体誘導溝部の内径側から吸い込まれた被密封液体が摺動面間に流出される動作を説明する概略図である。
図7】本発明の実施例2における静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
図8】本発明の実施例3における静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
図9】(a)は本発明の変形例1を示す説明図、(b)は本発明の変形例2を示す説明図である。
図10】本発明の実施例4における静止密封環の摺動面を軸方向から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0018】
実施例1に係る摺動部品につき、図1から図6を参照して説明する。尚、本実施例においては、摺動部品がメカニカルシールである形態を例に挙げ説明する。また、メカニカルシールを構成する摺動部品の外径側を被密封流体側としての被密封液体側(高圧側)、内径側を漏れ側としての大気側(低圧側)として説明する。また、説明の便宜上、図面において、摺動面に形成される溝等にドットを付すこともある。
【0019】
図1に示される一般産業機械用のメカニカルシールは、摺動面の外径側から内径側に向かって漏れようとする被密封液体Fを密封するインサイド形のものであって、回転軸1にスリーブ2を介して回転軸1と一体的に回転可能な状態で設けられた円環状の摺動部品である回転密封環20と、被取付機器のハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で設けられた摺動部品としての円環状の静止密封環10と、から主に構成され、ベローズ7によって静止密封環10が軸方向に付勢されることにより、静止密封環10の摺動面11と回転密封環20の摺動面21とが互いに密接摺動するようになっている。尚、回転密封環20の摺動面21は平坦面となっており、この平坦面には凹み部が設けられていない。
【0020】
静止密封環10及び回転密封環20は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、これに限らず、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。尚、SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0021】
図2に示されるように、静止密封環10に対して回転密封環20が矢印で示すように相対摺動するようになっており、静止密封環10の摺動面11には複数の動圧発生機構14が静止密封環10の周方向に均等に配設されている。摺動面11の動圧発生機構14以外の部分は平端面をなすランド12となっている。
【0022】
次に、動圧発生機構14の概略について図2図4に基づいて説明する。尚、以下、静止密封環10及び回転密封環20が相対的に回転したときに、図4の紙面左側を後述するスパイラル溝9A,9B内を流れる被密封液体Fの下流側とし、図4の紙面右側をスパイラル溝9A,9B内を流れる被密封液体Fの上流側として説明する。
【0023】
動圧発生機構14は、大気側に連通して外径方向に延びる深溝部としての液体誘導溝部15と、液体誘導溝部15から下流側に向けて周方向に並列して延びる浅溝部としての複数のスパイラル溝9Aと、スパイラル溝9Aの内径側において大気側に連通してスパイラル溝9Aと周方向に並列して延びるスパイラル溝9Aとは独立したサブ浅溝部としての複数のスパイラル溝9Bと、を備えている。尚、本実施例1の液体誘導溝部15は、静止密封環10の軸に直交するように径方向に延びている。また、本実施例1の4本のスパイラル溝9Aと5本のスパイラル溝9Bは、液体誘導溝部15から下流側に向けて液体誘導溝部15の径方向の幅と同じ幅で静止密封環10と同心状に周方向に延びる帯状の領域内において等間隔に並列している。また、液体誘導溝部15とスパイラル溝9Aとは連通しており、連通部分には深さ方向の段差18が形成されている。
【0024】
また、スパイラル溝9A,9Bは、延設方向端部、すなわち下流側の端部に先細り形状を成す壁部9aが形成されている。尚、壁部9aは、先細りすることに限られるものではなく、例えば回転方向に対して直交または傾斜していてもよいし、階段状に形成されていてもよい。
【0025】
また、液体誘導溝部15の深さ寸法L10は、スパイラル溝9Aの深さ寸法L20よりも深くなっている(L10>L20)。具体的には、本実施例1における液体誘導溝部15の深さ寸法L10は、100μmに形成されており、スパイラル溝9Aの深さ寸法L20は、5μmに形成されている。すなわち、液体誘導溝部15とスパイラル溝9Aとの間には、液体誘導溝部15における下流側の側面とスパイラル溝9Aの底面とにより深さ方向の段差18が形成されている。尚、液体誘導溝部15の深さ寸法がスパイラル溝9Aの深さ寸法よりも深く形成されていれば、液体誘導溝部15及びスパイラル溝9Aの深さ寸法は自由に変更でき、好ましくは寸法L10は寸法L20の5倍以上である。また、説明の便宜上、図示を省略するが、スパイラル溝9Bは、スパイラル溝9Aと同一の深さ寸法L20(5μm)に形成されている。
【0026】
尚、スパイラル溝9A,9Bの底面は平坦面をなしランド12に平行に形成されているが、平坦面に微細凹部を設けることやランド12に対して傾斜するように形成することを妨げない。さらに、スパイラル溝9A,9Bの周方向に延びる2つの円弧状の面はそれぞれスパイラル溝9A,9Bの底面に直交している。また、液体誘導溝部15の底面は平坦面をなしランド12に平行に形成されているが、平坦面に微細凹部を設けることやランド12に対して傾斜するように形成することを妨げない。さらに、液体誘導溝部15の径方向に延びる2つの平面はそれぞれ液体誘導溝部15の底面に直交している。
【0027】
次いで、静止密封環10と回転密封環20との相対回転時の動作について説明する。まず、回転密封環20が回転していない一般産業機械の非稼動時には、摺動面11,21間には摺動面11,21よりも外径側の被密封液体Fが毛細管現象によって僅かに進入しているとともに、動圧発生機構14には一般産業機械の停止時に残っていた被密封液体Fと摺動面11,21よりも内径側から進入した大気とが混在した状態となっている。尚、被密封液体Fは気体と比べ粘度が高いため、一般産業機械の停止時に動圧発生機構14から低圧側に漏れ出す量は少ない。
【0028】
一般産業機械の停止時に動圧発生機構14に被密封液体Fがほぼ残っていない場合には、回転密封環20が静止密封環10に対して相対回転(図2の黒矢印参照)すると、図4に示されるように、大気側の低圧側流体Aが矢印L1に示すように液体誘導溝部15から導入されるとともに、スパイラル溝9Aによって低圧側流体Aが回転密封環20の回転方向に矢印L2に示すように追随移動するため、スパイラル溝9A内に動圧が発生するようになる。また、矢印L4に示すように、スパイラル溝9Bの低圧側の開口からも大気側の低圧側流体Aが導入され、スパイラル溝9Bによって低圧側流体Aが回転密封環20の回転方向に矢印L5に示すように追随移動するため、スパイラル溝9B内にも動圧が発生するようになる。
【0029】
スパイラル溝9A,9Bの下流側端部である壁部9a近傍が最も圧力が高くなり、低圧側流体Aは矢印L3,L6に示すように壁部9a近傍からその周辺に流出する。尚、スパイラル溝9A,9Bの上流側に向かうにつれて漸次圧力が低くなっている。
【0030】
また、静止密封環10と回転密封環20との相対回転時には、摺動面11,21間にそれらの外径側から高圧の被密封液体Fが随時流入しており、いわゆる流体潤滑をなすようになっている。このとき、スパイラル溝9A,9B近傍の被密封液体Fは、上述したようにスパイラル溝9A,9B特に下流側は高圧となっているため、矢印H1に示すように、ランド12に位置したままで、スパイラル溝9A,9Bにはほぼ進入しない。一方、液体誘導溝部15の近傍の被密封液体Fは、液体誘導溝部15が深溝部であってかつ低圧側に連通していることから、矢印H2に示すように、液体誘導溝部15に進入しやすくなっている。加えて、被密封液体Fは液体であって表面張力が大きいことから、液体誘導溝部15の側壁面に沿って移動して液体誘導溝部15に進入しやすくなっている。尚、説明の便宜上、矢印H1は最外径のスパイラル溝9Aに対してのみ図示している。
【0031】
また、矢印L3に示すように、低圧側流体Aが高圧側のスパイラル溝9Aの下流側端部である壁部9a近傍からその周辺に流出することにより、低圧側に並列配置されるスパイラル溝9Aとの間でランド12に位置していた被密封液体Fの一部が押されて、高圧側のスパイラル溝9Aの壁部9aの周辺まで並列して延設される低圧側のスパイラル溝9Aに進入するようになっている。尚、このような低圧側流体Aによる被密封液体Fの押し込みは、図4に示される並列するスパイラル溝9A,9A間に限られるものではなく、矢印L3,L6に示すように、各スパイラル溝9A,9Bの壁部9aからその近傍に流出する低圧側流体Aにより他の並列するスパイラル溝9A,9B間またはスパイラル溝9B,9B間においても同様に行われる。
【0032】
次いで、液体誘導溝部15に吸い込まれた被密封液体Fが摺動面11,21間に流出される動作を説明する。
【0033】
動圧発生機構14に被密封液体Fがほぼ残っていない場合に、回転密封環20が静止密封環10に対して相対回転(図2の黒矢印参照)すると、図5(a)に示されるように、液体誘導溝部15に進入した被密封液体Fは、符号H3に示すように、塊状の液滴となる。その後、図5(b)に示されるように、液滴がある程度の体積となると、符号H4に示すように、スパイラル溝9A,9A’の上流側に形成された相対的に低い圧力によってスパイラル溝9A,9A’に引き込まれる。同時に、新たに液体誘導溝部15に被密封液体Fが進入し、液滴H3’となる。このとき、液体誘導溝部15には、図5(a)における相対回転の初期状態よりも多くの被密封液体Fが進入する。
【0034】
その後、図5(c)に示されるように、スパイラル溝9A,9A’に引き込まれた被密封液体Fは回転密封環20から大きなせん断力を受け、圧力が高められながらスパイラル溝9A,9A’内を下流側に移動し、矢印H5に示すように壁部9a近傍からその周辺に流出する。また、壁部9a近傍からその周辺に流出した被密封液体Fの一部は、矢印H6に示すように低圧側に並列配置されるスパイラル溝9Aとの間でランド12に位置していた被密封液体Fの一部と共に低圧側のスパイラル溝9Aに進入する。同時に、新たに液体誘導溝部15に被密封液体Fが進入し、液滴H3’’となるとともに、液滴H3’が符号H4’に示すように、各スパイラル溝9Aに引き込まれる。また、スパイラル溝9Bの開口からも被密封液体Fが進入し、液滴H7となる。尚、スパイラル溝9Bの開口側から進入する被密封液体Fは少量であるため、液滴H7は液滴H4と比べると小さな塊である。
【0035】
図6に示されるように、スパイラル溝9A,9A’に引き込まれた被密封液体Fはスパイラル溝9A,9A’内を下流側に移動し、矢印H5’に示すように壁部9a近傍からその周辺に流出する。また、壁部9a近傍からその周辺に流出した被密封液体Fの一部は、矢印H6に示すように低圧側に並列配置されるスパイラル溝9A,9A’またはスパイラル溝9Bとの間でランド12に位置していた被密封液体Fの一部と共に低圧側のスパイラル溝9A,9A’またはスパイラル溝9Bに進入する。同時に、液体誘導溝部15に被密封液体Fがさらに進入し、液滴H3’’’となるとともに、液滴H3’’が符号H4’’に示すように、各スパイラル溝9Aに引き込まれる。
【0036】
その後、図6に示される状態よりも液体誘導溝部15に進入する被密封液体Fの量が増え、各スパイラル溝9Aから連続的に被密封液体Fが摺動面11,21間に流出する定常状態となる。定常状態では、摺動面11,21間にそれらの外径側やスパイラル溝9A,9Bから高圧の被密封液体Fが随時流入しており、上述したように流体潤滑となっている。尚、図5(a),(b),(c)を経て定常状態となるまでは過渡的な短い時間である。また、一般産業機械の停止時に動圧発生機構14に被密封液体Fが残っている場合には、動圧発生機構14に被密封液体Fが残存している量によって、図5(a)の状態、図5(b)の状態、図5(c)の状態、定常状態のいずれかから動作が開始することとなる。
【0037】
ここで、液体誘導溝部15が深溝部であってかつ低圧側に連通していることから、矢印H5で示す被密封液体Fは、隣接する液体誘導溝部15内に引き込まれやすくなっており、摺動面11,21間の被密封液体Fの量が安定し、高い潤滑性を維持できるようになっている。尚、スパイラル溝9Bは開口側まで同じ深さの浅い溝であるから、定常状態においても、液体誘導溝部15に比べてスパイラル溝9Bの開口側から進入する被密封液体Fの量が大きく増えることはない。また、固体に対する界面張力は気体よりも液体の方が大きいので、摺動面11,21間には被密封液体Fが保持されやすく大気は静止密封環10、回転密封環20よりも内径側に排出されやすい。
【0038】
以上のように、静止密封環10と回転密封環20との相対回転時において、スパイラル溝9Aには、液体誘導溝部15に進入した被密封液体Fを引き込んで動圧が発生している。液体誘導溝部15は溝の深さが深く容積が大きいので、摺動面11の低圧側まで被密封液体Fを供給しても、被密封液体Fを回収してスパイラル溝9Aにより摺動面11,21間に戻すことができるため、摺動面11の広い面積で潤滑性を向上させることができる。また、摺動面11,21よりも内径側の低圧側に連通する液体誘導溝部15によって被密封液体Fを回収し、回収した被密封液体Fをスパイラル溝9Aから摺動面11,21間に流出させて一部を高圧側に戻すので、低圧側に漏れる被密封液体Fが少ない。また、スパイラル溝9Aの下流側端部が先細り形状であることにより、スパイラル溝9Aの壁部9aから摺動面11,21間に戻される被密封液体Fの流量が確保されやすくなるため、動圧を安定して発生させることができる。加えて、並列する複数のスパイラル溝9Aにおいて、高圧側のスパイラル溝9Aの壁部9a近傍から周辺に流出する被密封液体Fを低圧側に並列配置されるスパイラル溝9Aにより捕集することができるため、潤滑性をより向上させるとともに、低圧側に漏れる被密封液体Fをより少なくできる。
【0039】
さらに、液体誘導溝部15と連通する複数のスパイラル溝9Aの壁部9a近傍から周辺に流出する被密封液体Fを低圧側のスパイラル溝9Bによりさらに捕集することができるため、低圧側に漏れる被密封液体Fをさらに少なくできる。また、液体誘導溝部15と連通しないスパイラル溝9Bに対する被密封液体Fの導入量を増やすことができるため、摺動面11における動圧発生機構14の有効範囲を広げることができる。
【0040】
また、多くの量の被密封液体Fが液体誘導溝部15に保持されるため、スパイラル溝9A内に引き込まれる被密封液体Fの量を十分に確保できるとともに、液体誘導溝部15に保持される被密封液体Fの量が短い時間において増減してもスパイラル溝9A内に引き込まれる被密封液体Fの量を略一定とすることができ、摺動面11,21が貧潤滑となることを回避できる。また、液体誘導溝部15が低圧側に連通しているので、摺動面11,21間の被密封液体Fの圧力に比べ液体誘導溝部15内の圧力は低くなっており、液体誘導溝部15の近傍の被密封液体Fは液体誘導溝部15内に引き込まれやすくなっている。
【0041】
また、スパイラル溝9A,9Bは、高圧側に向かって延びているため、スパイラル溝9A,9Bの壁部9aにおける動圧による高圧部を高圧側に近付けて配置することができ、特にスパイラル溝9Aにおいては、液体誘導溝部15を介した吸い込み能力を高めることができる。また、スパイラル溝9A,9Bの壁部9aから被密封液体Fを摺動面11,21間の高圧側に近づけた位置に戻すことができるから、被密封液体Fの漏れを少なくすることができる。
【0042】
また、スパイラル溝9A,9Bは、周方向に湾曲しているため、スパイラル溝9A,9Bの曲率に応じて動圧を調整することができる。また、スパイラル溝9A,9Bの壁部9aまでの距離を長くできるため、大きな圧力を得ることができる。尚、スパイラル溝9A,9Bは、異なる曲率で形成されていてもよい。
【0043】
また、液体誘導溝部15は、径方向に延びている。具体的には、液体誘導溝部15は、静止密封環10の中心軸と直交する方向に延びているため、周方向の幅を短くして静止密封環10の周方向に多く配置できるので設計自由度が高い。尚、液体誘導溝部15は、静止密封環10の中心軸と直交する方向に限られず、静止密封環10の中心軸と直交する位置から傾いていてもよいが、45度未満の傾きであることが好ましい。さらに、液体誘導溝部15の形状は円弧状など自由に変更できる。
【0044】
また、スパイラル溝9Aと液体誘導溝部15との連通部分には、液体誘導溝部15における下流側の側面とスパイラル溝9Aの底面とにより段差18が形成されているので、動圧の影響を直接的に受けずに被密封液体Fを液体誘導溝部15に保持できる。
【0045】
また、スパイラル溝9Aは、それぞれ径方向の全幅に亘って液体誘導溝部15に連通しているため、スパイラル溝9Aの液体誘導溝部15への開口領域を確保でき、液体誘導溝部15に保持された被密封液体Fを効率的に吸い上げることができる。
【0046】
また、液体誘導溝部15は、静止密封環10の内径側に連通している。すなわち、摺動部品は、インサイド型のメカニカルシールであり、静止密封環10及び回転密封環20の相対回転時には、遠心力によりスパイラル溝9A内の被密封液体Fを高圧側に戻すことができるとともに、被密封液体Fの摺動面11,21よりも内径側の低圧側への漏れを低減できる。
【0047】
また、静止密封環10に動圧発生機構14が設けられているため、静止密封環10及び回転密封環20の相対回転時に、液体誘導溝部15内を大気圧に近い状態に保ちやすい。
【0048】
尚、本実施例1では、液体誘導溝部15とスパイラル溝9Aとの連通部分に段差が設けられていなくてもよく、例えば、液体誘導溝部15とスパイラル溝9Aとが傾斜面で連通していてもよい。この場合、例えば、5μm以下の深さ寸法を有する部分がスパイラル溝9Aとなり、5μmよりも深い部分を液体誘導溝部15とすることができる。
【0049】
また、スパイラル溝9A,9Bは、液体誘導溝部15から下流側に向けて液体誘導溝部15の径方向の幅と同じ幅で静止密封環10と同心状に周方向に延びる帯状の領域内に形成される形態に限られず、例えば、円弧状または台形状など他の形状の領域内に形成されていてもよい。また、スパイラル溝9A,9Bは、並列に延びるものであれば等間隔に形成されなくてもよい。また、スパイラル溝9A,9Bは、液体誘導溝部15から直線状に延設されるようになっていてもよいし、蛇行して延設されていてもよい。また、スパイラル溝9Bは設けなくてもよい。
【実施例2】
【0050】
次に、実施例2に係る摺動部品につき、図7を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0051】
図7に示されるように、静止密封環101に設けられる動圧発生機構141は、液体誘導溝部115と、スパイラル溝109A,109Bと、液体誘導溝部115から下流側に向けて周方向に並列して延びる浅溝部としての複数のスパイラル溝109Cと、スパイラル溝109Cの内径側において大気側に連通してスパイラル溝109Cと周方向に並列して延びるスパイラル溝109Cとは独立したサブ浅溝部としての複数のスパイラル溝109Dと、を備えている。また、スパイラル溝109C,109Dは、スパイラル溝109A,109Bと同じ5μmの深さ寸法で形成されている。
【0052】
図7の紙面反時計回りに回転密封環20が回転する場合には、低圧側流体Aが矢印L1,L2,L3及びL4,L5,L6の順に移動してスパイラル溝109A,109B内に動圧が発生する。また、図7の紙面時計回りに回転密封環20が回転する場合には、低圧側流体Aが矢印L1,L2’,L3’及びL4’,L5’,L6’の順に移動してスパイラル溝109C,109D内に動圧が発生する。
【0053】
このように、液体誘導溝部115から周方向両側にスパイラル溝109A,109Cが延設されているので、スパイラル溝109A,109Cのいずれか一方を動圧発生用の浅溝部として利用できるため、静止密封環101と回転密封環20との相対回転方向に関わらず使用できる。また、スパイラル溝109B,109Dについても、いずれか一方を動圧発生用のサブ浅溝部として利用できるため、静止密封環101と回転密封環20との相対回転方向に関わらず使用できる。
【0054】
また、動圧発生機構141における下流側端部に形成されるスパイラル溝109Bは、隣接する動圧発生機構141’における上流側端部に形成されるスパイラル溝109Dと周方向に隣接している。これによれば、動圧発生機構141における下流側端部に形成されるスパイラル溝109Bの壁部9a近傍からその周辺に流出し、内径側に移動しようとする被密封液体Fが隣接する動圧発生機構141’における上流側端部に形成されるスパイラル溝109Bから吸い込まれるため、被密封液体Fの低圧側への漏れを低減できる。
【0055】
尚、本実施例2では、スパイラル溝109A,109B及びスパイラル溝109C,109Dが同一の深さ寸法である場合を例示したが、異なる深さ寸法に形成されていてもよい。また、両者は周方向長さ、径方向幅についても同じであっても異なっていてもよい。
【0056】
また、動圧発生機構141における下流側端部に形成されるスパイラル溝109Bと隣接する動圧発生機構141’における上流側端部に形成されるスパイラル溝109Dとを周方向に長い距離離間させ、摺動面11,21間を離間させる圧力をより高めるようにしてもよい。
【実施例3】
【0057】
次に、実施例3に係る摺動部品につき、図8を参照して説明する。尚、前記実施例2と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0058】
図8に示されるように、静止密封環102には、動圧発生機構141と、特定動圧発生機構16と、が複数形成されている。特定動圧発生機構16は、高圧側に連通する液体誘導溝部161と、液体誘導溝部161の外径側端部から下流側に向けて静止密封環102と同心状に周方向に延びるレイリーステップ17Aと、液体誘導溝部161の外径側端部から上流側に向けて静止密封環102と同心状に周方向に延びる逆レイリーステップ17Bと、を備えている。液体誘導溝部161と液体誘導溝部115とは、周方向に対応する位置に形成されている。すなわち、液体誘導溝部161と液体誘導溝部115とは、径方向に沿って形成されている。また、液体誘導溝部161は、特定動圧発生機構16の深溝部として機能しており、レイリーステップ17A及び逆レイリーステップ17Bは、特定動圧発生機構16の浅溝部として機能している。
【0059】
動圧発生機構141のスパイラル溝109A,109B及びスパイラル溝109C,109Dは、特定動圧発生機構16のレイリーステップ17A及び逆レイリーステップ17Bよりも周方向に広い領域内に形成されている。また、レイリーステップ17A及び逆レイリーステップ17Bは、スパイラル溝109A,109B及びスパイラル溝109C,109Dと同じ5μmの深さ寸法で形成されている。また、動圧発生機構141の容積は、特定動圧発生機構16の容積よりも大きくなっている。
【0060】
図8の紙面反時計回りに回転密封環20が回転する場合には、被密封液体Fが矢印L11,L12,L13の順に移動してレイリーステップ17A内に動圧が発生する。また、図8の紙面時計回りに回転密封環20が回転する場合には、被密封液体Fが矢印L11,L12’,L13’の順に移動して逆レイリーステップ17B内に動圧が発生する。このように、静止密封環102と回転密封環20との相対回転方向に関わらず特定動圧発生機構16内に動圧を発生させることができる。
【0061】
また、特定動圧発生機構16で発生する動圧により摺動面11,21間を離間させて適当な液膜を生成しつつ、摺動面11から低圧側に漏れようとする被密封液体Fを動圧発生機構141によって回収できる。
【0062】
また、液体誘導溝部161と液体誘導溝部115とは、径方向に沿って形成されているため、摺動面11,21間において液体誘導溝部161から低圧側に漏れようとする被密封液体Fが液体誘導溝部115に導入されやすくなるため、被密封液体Fの低圧側への漏れを効率よく低減できる。
【0063】
また、動圧発生機構141の容積が特定動圧発生機構16の容積よりも大きいので、動圧発生機構141のスパイラル溝109A,109B及びスパイラル溝109C,109Dの吸い込み力を大きくして、低圧側の動圧発生機構141と高圧側の特定動圧発生機構16との動圧のバランスを調整できる。
【0064】
尚、スパイラル溝109A,109B及びスパイラル溝109C,109Dの周方向の長さは、レイリーステップ17A及び逆レイリーステップ17Bと同一の長さ、またはレイリーステップ17A及び逆レイリーステップ17Bよりも短く形成されていてもよい。また、レイリーステップ17A及び逆レイリーステップ17Bは、スパイラル溝109A,109B及びスパイラル溝109C,109Dと異なる深さ寸法に形成されていてもよい。また、レイリーステップ17A及び逆レイリーステップ17Bの径方向の幅は、スパイラル溝109A,109B及びスパイラル溝109C,109Dの径方向の幅と同一に形成されてもよく、スパイラル溝109A,109B及びスパイラル溝109C,109Dの径方向の幅よりも大幅または小幅に形成されていてもよい。好ましくは、動圧発生機構141の容積が特定動圧発生機構16の容積よりも大きくなっていればよい。
【0065】
次いで、特定動圧発生機構の変形例を説明する。図9(a)に示すように、変形例1の特定動圧発生機構は、摺動面11を直交する方向から見て円形を成す凹形状のディンプル30である。尚、ディンプル30の形状、数量、配置などは自由に変更することができる。
【0066】
また、図9(b)に示すように、変形例2の特定動圧発生機構は、径方向に向けて傾斜しながら円弧状に延びる円弧溝31,32である。具体的には、円弧溝31,32は外径側の端部が高圧側に連通しており、円弧溝31は、スパイラル溝109A,109Bの外径側に複数配設されており、円弧溝32は、スパイラル溝109C,109Dの外径側に複数配設されている。
【0067】
また、円弧溝31は、回転密封環20が図9(b)の紙面反時計回りに回転したときに内径側に向けて被密封液体Fが移動する形状となっており、円弧溝32は、回転密封環20が図9(b)の紙面時計回りに回転したときに内径側に向けて被密封液体Fが移動する形状となっている。回転密封環20が反時計回りに回転したときには円弧溝31の内径側の圧力が高くなり、時計回りに回転したときには円弧溝32の内径側の圧力が高くなるため、摺動面11,21を離間させて適当な液膜を生成できるようになっている。尚、円弧溝31,32の形状、数量、配置などは自由に変更することができる。
【実施例4】
【0068】
次に、実施例4に係る摺動部品につき、図10を参照して説明する。尚、前記実施例3と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0069】
図10に示されるメカニカルシールは、摺動面の内径側から外径側に向かって漏れようとする被密封液体Fを密封するアウトサイド形のものである。動圧発生機構141は低圧側に連通するように外径側に配置されており、特定動圧発生機構16は、高圧側に連通するように内径側に配置されている。尚、アウトサイド形のメカニカルシールであっても、前記実施例1のように、動圧発生機構が片回転に対応するように形成されていてもよい。また、前記実施例1のように、特定動圧発生機構が設けられていなくてもよいし、特定動圧発生機構が前記実施例3の変形例に示したディンプルや円弧溝等の他の形態に形成されていてもよい。
【0070】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0071】
例えば、前記実施例では、摺動部品として、一般産業機械用のメカニカルシールを例に説明したが、自動車やウォータポンプ用等の他のメカニカルシールであってもよい。また、メカニカルシールに限られず、すべり軸受などメカニカルシール以外の摺動部品であってもよい。
【0072】
また、前記実施例では、動圧発生機構を静止密封環にのみ設ける例について説明したが、動圧発生機構を回転密封環20にのみ設けてもよく、回転密封環20と静止密封環の両方に設けてもよい。
【0073】
また、前記実施例では、摺動部品に同一形状の動圧発生機構が複数設けられる形態を例示したが、形状の異なる動圧発生機構が複数設けられていてもよい。また、動圧発生機構の間隔や数量などは適宜変更できる。
【0074】
また、被密封流体側を高圧側、漏れ側を低圧側として説明してきたが、被密封流体側が低圧側、漏れ側が高圧側となっていてもよいし、被密封流体側と漏れ側とは略同じ圧力であってもよい。
【符号の説明】
【0075】
9A スパイラル溝(浅溝部)
9B スパイラル溝(サブ浅溝部)
10 静止密封環(摺動部品)
11 摺動面
14 動圧発生機構
15 液体誘導溝部(深溝部)
16 特定動圧発生機構
17A レイリーステップ(浅溝部)
17B 逆レイリーステップ(浅溝部)
18 段差
20 回転密封環(摺動部品)
21 摺動面
109A,109C スパイラル溝(浅溝部)
109B,109D スパイラル溝(サブ浅溝部)
115 液体誘導溝部(深溝部)
141 動圧発生機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10