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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20231120BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K7/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017565609
(86)(22)【出願日】2017-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2017003689
(87)【国際公開番号】W WO2017135338
(87)【国際公開日】2017-08-10
【審査請求日】2019-12-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2016018653
(32)【優先日】2016-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】安井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】福井 康治
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】海老原 えい子
【審判官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-163340(JP,A)
【文献】特表2015-503014(JP,A)
【文献】特開2009-215534(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031521(WO,A1)
【文献】特開2013-67705(JP,A)
【文献】特開2013-64091(JP,A)
【文献】特表2012-522116(JP,A)
【文献】特開2012-136620(JP,A)
【文献】特開2000-154316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)及びガラス繊維(B)を含み、
前記ポリアミド樹脂(A)は、結晶性ポリアミド樹脂(A-1)と、ISO1133に基づき温度275℃、荷重5kgで測定されるMVRが100ml/10分以上200ml/分以下である非晶性ポリアミド樹脂(A-2)とを含み、
前記ガラス繊維(B)は、非円形断面のガラス繊維(B-1)を含み、
前記ガラス繊維(B)の総含有率がポリアミド樹脂組成物全量に対し40質量%以上80質量%以下であり、
前記非晶性ポリアミド樹脂(A-2)の含有率が、ポリアミド樹脂組成物全量に対し0.5質量%以上8質量%以下であり、
前記非晶性ポリアミド樹脂(A-2)が、ポリアミド6T/6Iを含む、ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
前記非円形断面のガラス繊維(B-1)は、長さ方向に直交する断面における長径の短径に対する比が、1.2以上10以下である請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
前記ガラス繊維(B)は、さらに、
平均繊維径4μm以上15μm以下の円形断面のガラス繊維(B-2)を含む請求項1又は2に記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
前記結晶性ポリアミド樹脂(A-1)は、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66、ポリアミド6/12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/66/12、ポリアミド11及びポリアミド12からなる群から選択される請求項1~のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
前記非円形断面のガラス繊維(B-1)の含有率が、ポリアミド樹脂組成物全量に対し5質量%以上70質量%以下である請求項1~のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を含む成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、ガラス繊維を配合することで高い剛性等を実現することができる。しかしながら、ガラス繊維は樹脂の流れ方向に配向する性質があるため、強度の異方性が生じて反りの原因となる場合があった。低反り性を実現する技術として、扁平断面のガラス繊維を配合する技術が提案されている(例えば、特許文献1及び2参照)。また高い耐振動特性を実現する技術として、特定の断面積を有するガラス繊維に脂肪族ポリアミドとポリメタキシレンアジパミドとを併用するガラス繊維強化ポリアミド樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-219026号公報
【文献】国際公開第2008/120703号
【文献】国際公開第2014/171363号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では高い剛性と低反り性とを維持しつつ、成形品を形成した場合の良好な表面外観を実現することは困難な場合があった。
本発明は、成形品において高い剛性、低反り性及び良好な表面外観を実現可能なポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
ポリアミド樹脂(A)及びガラス繊維(B)を含み、前記ポリアミド樹脂(A)は、1種類からなる結晶性ポリアミド樹脂(A-1)と非晶性ポリアミド樹脂(A-2)とを含み、前記ガラス繊維(B)は、非円形断面のガラス繊維(B-1)を含み、前記ガラス繊維(B)の総含有率が40質量%以上80質量%以下であるポリアミド樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、成形品において高い剛性、低反り性及び良好な表面外観を実現可能なポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書において組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0008】
[ポリアミド樹脂組成物]
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)及びガラス繊維(B)を含み、前記ポリアミド樹脂(A)は、結晶性ポリアミド樹脂(A-1)と、ISO1133に基づき温度275℃、荷重5kgで測定したMVRが50ml/10分以上である非晶性ポリアミド樹脂(A-2)とを含み、前記ガラス繊維(B)は、非円形断面のガラス繊維(B-1)を含み、前記ガラス繊維(B)の総含有率が40質量%以上80質量%以下である。結晶性ポリアミド樹脂(A-1)と特定の非晶性ポリアミド樹脂(A-2)とに、非円形断面ガラス繊維(B-1)を特定の含有率で配合することで、成形品を形成した場合に、高い剛性及び低反り性を維持したまま、良好な表面外観を実現することができる。
【0009】
ポリアミド樹脂(A)
ポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂として、結晶性ポリアミド樹脂(A-1)の少なくとも1種類と、ISO1133に基づき温度275℃、荷重5kgで測定したMVRが50ml/10分以上である非晶性ポリアミド樹脂(A-2)の少なくとも1種とを含む。結晶性ポリアミド樹脂(A-1)と、特定のMVR値を有する非晶性ポリアミド樹脂(A-2)とを組合せることで、成形品において、高い剛性及び低反り性を維持したまま、良好な表面外観を実現することができる。
【0010】
結晶性ポリアミド樹脂(A-1)
本明細書における結晶性ポリアミド樹脂(A-1)とは、10℃/minの昇温条件の示差走査熱量計(DSC)分析において、融解に起因する明確な吸熱ピークを示すポリアミド樹脂を意味し、具体的には、結晶融解熱量が1cal/gを超えるポリアミド樹脂を意味する。
【0011】
結晶性ポリアミド樹脂(A-1)としては、脂肪族ジアミン及び脂肪族ジカルボン酸からなる脂肪族ポリアミド樹脂、ラクタム又はアミノカルボン酸からなる脂肪族ポリアミド樹脂等を挙げることができる。結晶性ポリアミド樹脂(A-1)は、脂肪族ポリアミド樹脂であることが好ましい。
【0012】
脂肪族ポリアミド樹脂を構成するモノマー成分としては、炭素数2~20、好ましくは炭素数4~12の脂肪族ジアミンと、炭素数2~20、好ましくは炭素数6~12の脂肪族ジカルボン酸の組合せ、炭素数6~12のラクタム又はアミノカルボン酸等を挙げることができる。
【0013】
脂肪族ジアミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ペプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカンジアミン、テトラデカンジアミン、ペンタデカンジアミン、ヘキサデカンジアミン、ヘプタデカンジアミン、オクタデカンジアミン、ノナデカンジアミン、エイコサンジアミン等が挙げられる。また脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジオン酸、ドデカンジオン酸、トリデカンジオン酸、テトラデカンジオン酸、ペンタデカンジオン酸、ヘキサデカンジオン酸、オクタデカンジオン酸、エイコサンジオン酸等が挙げられる。
【0014】
脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸の組合せとして、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の組合せ、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸の組合せ、ヘキサメチレンジアミンとドデカンジオン酸の組合せ等が挙げられ、これらの組合せの等モル塩が好ましく用いられる。
【0015】
ラクタムとしては、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、ウンデカンラクタム、ドデカンラクタム、α-ピロリドン、α-ピペリドン等が挙げられる。また、アミノカルボン酸としては6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸が挙げられる。これらの中でも重合生産の観点から、ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム及びドデカンラクタムからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0016】
脂肪族ポリアミド樹脂を構成するモノマー成分は、1種単独でもよく、2種以上の組合せであってもよい。ここで、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸の組み合わせは、1種の脂肪族ジアミンと1種の脂肪族ジカルボン酸の組合せで1種のモノマー成分とみなす。
【0017】
結晶性ポリアミド樹脂(A-1)は、生産性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド6/66、ポリアミド6/12、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/66/12、ポリアミド11及びポリアミド12からなる群から選択されることが好ましく、ポリアミド6及び/又はポリアミド66がより好ましい。
結晶性ポリアミド樹脂(A-1)は、1種単独でも、2種以上を組合せて含んでいてもよい。結晶性ポリアミド樹脂を2種以上含む場合、含有量が最も大きい結晶性ポリアミド樹脂に対する他の結晶性ポリアミド樹脂の総含有率は、例えば25質量%以下であり、5質量%以下が好ましい。
【0018】
結晶性ポリアミド樹脂(A-1)の相対粘度は特に制限されないが、JIS K 6810に準じて、98%硫酸中濃度1%の結晶性ポリアミド樹脂(A-1)について、25℃で測定した相対粘度が1.8以上5.0以下であることが好ましい。
【0019】
結晶性ポリアミド樹脂(A-1)のポリアミド樹脂組成物の総量中における含有率は、機械物性と表面外観の観点から、例えば20質量%以上60質量%未満が好ましく、30質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0020】
非晶性ポリアミド樹脂(A-2)
本明細書における非晶性ポリアミド樹脂(A-2)とは、結晶化がほとんど起こらないか、結晶化速度が非常に小さいポリアミド樹脂を意味する。具体的には、10℃/minの昇温条件の示差走査熱量計(DSC)分析において、融解に起因する明確な吸熱ピークを示さないポリアミド樹脂を意味し、結晶融解熱量が1cal/g以下であることを意味する。
また非晶性ポリアミド樹脂(A-2)は、ISO1133に基づき温度275℃、荷重5kgで測定されるMVRが50ml/10分以上であり、好ましくは60ml/10分以上である。当該MVRが50ml/10分未満では、成形体において良好な表面外観を達成することが困難な場合がある。MVRの上限は例えば200ml/分であり、100ml/分が好ましい。
また非晶性ポリアミド樹脂を2種類以上含む場合、これらを混合して非晶質ポリアミド樹脂全体としてのMVRを測定し、ISO1133に基づき温度275℃、荷重5kgで測定されるMVRが50ml/10分以上である場合、非晶性ポリアミド樹脂全体を非晶性ポリアミド樹脂(A-2)とすることができる。MVRの測定は、上記内容で測定されるのが好ましいが、それぞれの非晶性ポリアミド樹脂のMVRとその混合比が判明している場合、それぞれのMVRにその混合比を乗じた値を合計して算出される平均値を、非晶性ポリアミド樹脂全体のMVRとすることができる。
【0021】
非晶性ポリアミド樹脂(A-2)は、結晶化を阻害するような構造を有するポリアミド樹脂が好ましく、たとえば、分岐構造を有する脂肪族又は、脂環族、芳香族等の官能基を主鎖又は側鎖に有するポリアミドが挙げられる。また、結晶化を阻害する観点から、共重合体であることがより好ましい。非晶性ポリアミド樹脂(A-2)は、例えば芳香族系モノマー成分を少なくとも2成分含む共重合ポリアミド樹脂が好ましく、動的粘弾性の測定によって得られた絶乾時の損失弾性率のピーク温度によって求められたガラス転移温度が100℃以上であることがより好ましい。非晶性ポリアミドの重合方法は、公知の方法であればよく、特に限定されるものではない。
【0022】
非晶性ポリアミド樹脂(A-2)を構成するジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジ安息香酸、4,4’-オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
【0023】
非晶性ポリアミド樹脂(A-2)を構成するジアミンとしては、例えば、シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシレンジアミン、m-キシレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0024】
非晶性ポリアミド樹脂(A-2)として具体的には、イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミン/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンの重縮合体、テレフタル酸/2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/ヘキサメチレンジアミンの重縮合体(ポリアミド6T/6I)、イソフタル酸/2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/テレフタル酸/2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミンの重縮合体、イソフタル酸/ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン/ω-ラウロラクタムの重縮合体等が挙げられる。これらの中でも、非晶性ポリアミド樹脂(A-2)は、例えば、ポリアミド6T/6Iのような芳香環を有した共重合体が結晶性ポリアミド樹脂の結晶化を阻害するため好ましい。
【0025】
非晶性ポリアミド樹脂(A-2)として具体的には、テレフタル酸成分単位40~95モル%およびイソフタル酸成分単位5~60モル%と、脂肪族ジアミンとからなるものが好ましい。非晶性ポリアミド樹脂(A-2)を構成するモノマー成分の好ましい組合せとしては、ヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の等モル塩とヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の等モル塩が挙げられる。
また非晶性ポリアミド樹脂(A-2)は、脂肪族ジアミンとイソフタル酸およびテレフタル酸とからなるモノマー成分に由来する単位を60質量%以上99質量%以下で含み、脂肪族ポリアミド成分の単位を1質量%以上40質量%以下で含む共重合体が好ましい。
【0026】
非晶性ポリアミド樹脂(A-2)の相対粘度は特に制限されないが、JIS K 6810に準じて、98%硫酸中濃度1%の非晶性ポリアミド樹脂(A-2)について、温度25℃で測定した相対粘度が、1.5から4.0であることが好ましく、より好ましくは1.8~3.0である。
【0027】
非晶性ポリアミド樹脂(A-2)のポリアミド樹脂組成物の総量中における含有率は、機械物性と表面外観の観点から、0.5質量%以上30質量%以下が好ましく、0.5質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、3質量%以上25%質量以下がより好ましく、3質量%以上20%質量以下がより好ましく、3質量%以上8%質量以下がさらに好ましい。ポリアミド樹脂組成物は、非晶性ポリアミド樹脂を1種単独でも、2種以上を組合せて含んでいてもよい。
【0028】
ガラス繊維(B)
ポリアミド樹脂組成物は、ガラス繊維(B)として少なくとも非円形断面のガラス繊維(B-1)を含み、ガラス繊維(B)の総含有率が40質量%以上80質量%以下である。これにより、成形品において、高い剛性及び低反り性を維持したまま、良好な表面外観を実現することができる。
【0029】
非円形断面のガラス繊維(B-1)
非円形断面のガラス繊維(B-1)は、断面が非円形のものであれば特に制限はない。断面が非円形とは、ガラス繊維の長さ方向に垂直な断面において、断面の外周の2点のうち、距離が最大となる2点を結ぶ長径と、長径に直交する直線のうち断面の外周と交差する2点間の距離が最大となる2点を結ぶ短径とが存在し、長径と短径の長さが異なる形状を意味する。ガラス繊維の長径の短径に対する比は、1より大きければよく、力学特性の観点から、例えば1.2以上10以下であり、1.5以上6以下が好ましく、1.7以上4.5以下がより好ましい。
【0030】
非円形断面のガラス繊維(B-1)の断面形状としては、通常、まゆ形、長円形、半円形、円弧形、長方形、平行四辺形又はこれらの類似形のものが用いられる。実用上は、流動性、力学特性、低反り性の観点から、まゆ形、長円形または長方形が好ましい。非円形断面のガラス繊維(B-1)の断面形状の具体例については、例えば特開昭62-268612号公報の記載を参照できる。
【0031】
非円形断面のガラス繊維(B-1)の太さは特に制限されない。非円形断面のガラス繊維(B-1)の短径は通常0.5μm以上25μm以下であり、長径は1.25μm以上300μm以下である。
非円形断面のガラス繊維(B-1)は、繊維長が、通常1mm以上15mm以下、好ましくは1.5mm以上12mm以下、より好ましくは2mm以上6mm以下のガラス繊維を用いる。
非円形断面のガラス繊維(B-1)の長径と短径の平均値で繊維長を除して得られるアスペクト比は、通常10以上であり、剛性、機械的強度、流動性の観点から、15以上100以下が好ましい。
【0032】
非円形断面のガラス繊維(B-1)を構成するガラスとしては、Aガラス、Cガラス、Eガラス等の組成からなるものが挙げられ、ポリアミド樹脂の熱安定性の観点から、Eガラスが好ましい。また非円形断面のガラス繊維(B-1)は、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の高分子または低分子の表面処理剤で表面処理されていてもよい。表面処理されていることで、ポリアミド樹脂中への分散性及び密着性が向上する。また、非円形断面のガラス繊維(B-1)は、樹脂との接着性を向上させる観点から、収束材で収束されていることが好ましい。収束材は特に限定されず、ポリアミド樹脂との相溶性の観点から、ウレタン樹脂及び/又はアクリル樹脂であることが好ましい。
【0033】
非円形断面のガラス繊維(B-1)のポリアミド樹脂組成物の全量中における含有率は、高い剛性、低反り性及び良好な表面外観の観点から、15質量%以上70質量%以下が好ましく、20質量%以上65質量%以下がより好ましい。
【0034】
円形断面のガラス繊維(B-2)
ポリアミド樹脂組成物は、ガラス繊維として非円形断面のガラス繊維(B-1)に加えて、円形断面のガラス繊維(B-2)をさらに含んでいてもよい。円形断面のガラス繊維(B-2)は、ガラス繊維の長さ方向に垂直な断面が円形状のガラス繊維である。円形断面のガラス繊維(B-2)の平均繊維径は、例えば4μm以上15μm以下であり、6μm以上13μm以下がより好ましい。平均繊維径が前記範囲内であると、成形体の機械特性及び寸法安定性がより向上する傾向がある。なお、円形断面のガラス繊維(B-2)の平均繊維径はJIS R3420に準じて測定することができる。
【0035】
円形断面のガラス繊維(B-2)は、繊維長が、通常1mm以上15mm以下、好ましくは1.5mm以上12mm以下、より好ましくは2mm以上6mm以下であるものを用いる。
円形断面のガラス繊維の平均繊維径で繊維長を除して得られるアスペクト比は、通常10以上であり、剛性、機械的強度、流動性の観点から、15以上100以下が好ましい。
【0036】
円形断面のガラス繊維を構成するガラスとしては、Aガラス、Cガラス、Eガラス等の組成からなるものが挙げられ、ポリアミド樹脂の熱安定性の観点から、Eガラスが好ましい。また円形断面のガラス繊維は、シランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の高分子または低分子の表面処理剤で表面処理されていてもよい。表面処理されていることで、ポリアミド樹脂中への分散性及び密着性が向上する。また、円形断面のガラス繊維は、樹脂との接着性を向上させる観点から、収束材で収束されていることが好ましい。収束材は特に限定されず、ポリアミド樹脂との相溶性の観点から、ウレタン樹脂及び/又はアクリル樹脂であることが好ましい
【0037】
ポリアミド樹脂組成物が、円形断面のガラス繊維(B-2)を含む場合、円形断面のガラス繊維(B-2)のポリアミド樹脂組成物の全量中における含有率は、5質量%以上40質量%未満が好ましく、高い剛性、低反り性及び良好な表面外観の観点から、10質量%以上35質量%以下がより好ましい。
また、円形断面のガラス繊維(B-2)と非円形断面のガラス繊維(B-1)の含有比(B-2/B-1)は、高い剛性、低反り性及び良好な表面外観の観点から、0.1以上1.2以下が好ましく、0.3以上1.0以下がより好ましい。
【0038】
ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば、可塑剤、耐衝撃材、耐熱材、発泡剤、耐候剤、結晶核剤、結晶化促進剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、染料等の機能性付与剤等を適宜配合することができる。
【0039】
ポリアミド樹脂組成物は、結晶性ポリアミド樹脂(A-1)、非晶性ポリアミド樹脂(A-2)及び所定量の非円形断面のガラス繊維(B-1)を、一軸あるいは二軸押出機、バンバリーミキサー等で溶融混練することにより製造される。
得られるポリアミド樹脂組成物を成形することにより、所望の成形体を得ることができる。成形方法としては、押出成形法、ブロー成形法、射出成形法等が採用できる。
【0040】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を含む成形体は、良好な表面外観を示すことから、自動車の部品や意匠性が要求されるもの、筐体等の様々用途に好適に用いられる。また、ポリアミド樹脂組成物を射出成形して得られる成形体について、ASTM D-523に準じて測定される光沢度(グロス値)は65%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましい。
【0041】
本実施形態のポリアミド樹脂組成物は、成形品において高い剛性、低反り性及び良好な表面外観を提供する。
(機械物性)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を含む成形体において、ISO527-1,2に準じて23℃で測定した引張強さは、好ましくは265MPa以上である。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を含む成形体において、ISO527-1,2に準じて23℃で測定した引張弾性率は、好ましくは20GPa以上である。
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を含む成形体において、ISO179-1に準じて23℃で測定したシャルピー衝撃強さは、好ましくは20kJ/mである。
なお、引張強さ及び引張弾性率は、以下の方法で測定することができる。ISO規格TYPE-A試験片を射出成形にて作製して機械物性のデータ取得に使用する。引張強さ及び引張弾性率については、ISO527-1,2に準じて、インストロン製引張試験機型式5567を使用して23℃で測定する。
なお、シャルピー衝撃強さは、以下の方法で測定することができる。ISO179-1に準じて、安田精機製シャルピー衝撃試験機No.258-PCを用いて、23℃において、Aノッチ入り厚み4mmの試験片を用いてエッジワイズ衝撃試験を行う。(n=10)
【0042】
(流動性)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を含む成形体において、以下の条件で測定される流動長は、好ましくは85mm以上である。
日精樹脂工業株式会社製PS-40E(スクリュ径26mm、型締め力40ton)を用いて、キャビティーサイズが幅w=15mm,厚さt=1mmのスパイラルフロー型の流動性評価金型を用いて得られた成形品から流動長を測定する。成形条件は、成形温度290℃、金型温度80℃、射出圧力は100MPaとする。
【0043】
(表面外観(光沢度)(グロス))
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を含む成形体において、以下の条件で測定される光沢度(グロス値)は、65%以上であることが好ましく、70%以上がより好ましい。
住友重機械工業株式会社製SE100D-C160S(スクリュ径28mm、型締め力100ton)を用いて平板100mm×70mm×厚さ2mmを作成する。成形条件は、成形温度290℃、金型温度80℃、射出速度は80mm/sec、冷却時間15秒とする。得られた試験片をASTM D-523に準じ、スガ試験機(株)製カラーコンピューターSM-5-IS-2Bを使用して、入射角60°で光沢度(グロス値)を測定する。
【0044】
(反り変形)
本実施形態のポリアミド樹脂組成物を含む成形体において、以下の方法で低反り性を評価できる。
住友重機械工業株式会社製SE100D-C160S(スクリュ径28mm、型締め力100ton)を用いてISO294-3のD-1タイプ金型60mm×60mm×厚さ1tを作成する。成形条件は、成形温度290℃、金型温度80℃、射出速度97mm/秒、射出圧力60MPa、冷却時間15秒とする。成形直後にゲートカットし、防湿容器中48hr放置後、定盤上で規定隅に錘を乗せ、定盤との最大空隙を反り変形量とする。得られた変形量が3mm以上の場合を反り変形有りとして、3mm未満の場合を反り変形無しとする。
【実施例
【0045】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例において使用した樹脂及び成形品の物性評価方法を以下に示す。
【0046】
[機械物性]
ISO規格TYPE-A試験片を射出成形にて作製して機械物性のデータ取得に使用した。引張強さ及び引張弾性率については、ISO527-1,2に準じて、インストロン製引張試験機型式5567を使用して23℃で測定した。
【0047】
[シャルピー衝撃強さ]
ISO179-1に準じて、安田精機製シャルピー衝撃試験機No.258-PCを用いて、23℃において、Aノッチ入り厚み4mmの試験片を用いてエッジワイズ衝撃試験を行った。(n=10)
【0048】
[流動性]
日精樹脂工業株式会社製PS-40E(スクリュ径26mm、型締め力40ton)を用いて、キャビティーサイズが幅w=15mm,厚さt=1mmのスパイラルフロー型の流動性評価金型を用いて得られた成形品から流動長を測定した。成形条件は、成形温度290℃、金型温度80℃、射出圧力は100MPaとした。
【0049】
[光沢度(グロス)]
住友重機械工業株式会社製SE100D-C160S(スクリュ径28mm、型締め力100ton)を用いて平板100mm×70mm×厚さ2mmを作成した。成形条件は、成形温度290℃、金型温度80℃、射出速度は80mm/sec、冷却時間15秒とした。得られた試験片をASTM D-523に準じ、スガ試験機(株)製カラーコンピューターSM-5-IS-2Bを使用して、入射角60°で光沢度(グロス値)を測定した。
【0050】
[反り変形]
住友重機械工業株式会社製SE100D-C160S(スクリュ径28mm、型締め力100ton)を用いてISO294-3のD-1タイプ金型60mm×60mm×厚さ1tを作成した。成形条件は、成形温度290℃、金型温度80℃、射出速度97mm/秒、射出圧力60MPa、冷却時間15秒とした。成形直後にゲートカットし、防湿容器中48hr放置後、定盤上で規定隅に錘を乗せ、定盤との最大空隙を反り変形量とした。得られた変形量が3mm以上の場合を反り変形有りとして、3mm未満の場合を反り変形無しとした。
【0051】
・ポリアミド樹脂(A)
・結晶性ポリアミド樹脂(A-1)
PA6-1:JIS K 6810に準じて、96%硫酸中濃度1%の結晶性ポリアミド樹脂について、25℃で測定した相対粘度相対粘度2.43~2.51であり、炭素数6のカプロラクタムからなるポリアミド6
PA6-2:JIS K 6810に準じて、96%硫酸中濃度1%の結晶性ポリアミド樹脂について、25℃で測定した相対粘度相対粘度2.16~2.25であり、炭素数6のカプロラクタムからなるポリアミド6
・非晶性ポリアミド樹脂
・ISO1133に基づき温度275℃、荷重5kgで測定されるMVRが50ml/10分以上である非晶性ポリアミド樹脂(A-2)
PA6T/6I-1:ISO1133に基づき温度275℃、荷重5kgで測定されるMVRが100ml/10分であったGrivory G16(EMS-CHEMIE(Japan)製)
PA6T/6I-2:ISO1133に基づき温度275℃、荷重5kgで測定されるMVRが25ml/10分であったGrivory G21(EMS-CHEMIE(Japan)製)
【0052】
・ガラス繊維
GF1 : 非円形断面のガラス繊維(日東紡績株式会社製 CSG3PA-820S)
長径と短径の比4、繊維径7×28μm
GF2 : 円形断面のガラス繊維(日東紡績株式会社製 CS 3DE-456S)
平均繊維径6μm
GF3 : 円形断面のガラス繊維(日本電気硝子株式会社製 ECS 03T-249)
平均繊維径13μm
【0053】
・PA6黒MB
ポリアミド6ベースに染料成分と顔料成分を含有させた黒マスターバッチ
(宇部興産株式会社製 UBE NYLON 1013MBC
【0054】
・成形助剤-2
ペンタリット(広栄化学工業株式会社製)
・成形助剤-2
LICOWAX OP POWDER(クラリアントジャパン株式会社製)
【0055】
・耐熱剤CuI、KI混合物(重量比1:6)
CuI ヨウ化第一銅F(伊勢化学工業株式会社製)
KI 粉末ヨウ化カリウム(三井ファイン株式会社)
【0056】
実施例1から9、比較例1から8
表1に記載したポリアミド樹脂およびガラス繊維をTEX44HCT二軸混練機で溶融混練し、目的とするポリアミド樹脂組成物ペレットを作製した。
次に得られたペレットを用いて各種試験片を製造し、各種物性を評価した。得られた結果を表1に示す。なお、表1中、「-」は未配合を意味する。
【0057】
【表1】
【0058】
表1の結果から明らかなとおり、本発明のポリアミド樹脂組成物を用いて成形品を形成すると、高い剛性、低反り性及び良好な表面外観を達成できることが分かる。
【0059】
日本国特許出願2016-018653号(出願日:2016年2月3日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。