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特許7387249超音波診断装置、医用画像処理装置及び医用画像処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】超音波診断装置、医用画像処理装置及び医用画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/14 20060101AFI20231120BHJP
【FI】
A61B8/14
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018002178
(22)【出願日】2018-01-10
(65)【公開番号】P2019118715
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2020-11-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 武史
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047232(WO,A1)
【文献】特開2017-064249(JP,A)
【文献】特開2009-028366(JP,A)
【文献】特開2017-159028(JP,A)
【文献】特開2016-002281(JP,A)
【文献】特開平09-103431(JP,A)
【文献】特開平11-216143(JP,A)
【文献】特開2007-020998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブから出力された反射波信号を受信回路が受信し、前記反射波信号をA/D変換器がデジタルデータに変換し、各チャンネルからの前記デジタルデータに対して受信ビームフォーマが整相加算処理を行なった反射波データである受信信号であって、送信開口が異なり、同一走査線における複数の受信信号を、前記デジタルデータへの変換処理及び前記整相加算処理を除く処理を行なっていない状態でコヒーレント加算する送信開口合成を行う送信開口合成部と、
前記複数の受信信号の位相の一致度を、受信信号間の位相のばらつきが小さい程高い値を出力する評価関数を用いて評価して観測点毎かつ受信信号に含まれる異なる周波数成分毎に評価値を算出する算出部と、
前記送信開口合成後の受信信号を前記評価値に基づいて補正する信号加工部と、
を備える超音波診断装置。
【請求項2】
前記複数の受信信号を、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する補正部を更に備え、
前記送信開口合成部は、補正後の前記複数の受信信号をコヒーレント加算する送信開口合成を行い、
前記算出部は、補正後の前記複数の受信信号の位相の一致度を評価して前記評価値を算出し、
前記信号加工部は、前記送信開口合成後の受信信号を前記評価値に基づいて補正する、請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記補正部は、前記複数の受信信号から所望の周波数帯域が選択された受信信号を、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する、請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
所定回数の超音波の送受信毎に、送信超音波の焦点の位置、及び、超音波を送信する開口幅の少なくとも一方を、前記送受信毎に変更させる送信制御部を更に備える、請求項1~3のいずれか1つに記載の超音波診断装置。
【請求項5】
送信される超音波の振幅あるいは位相を変調して複数回の送信を行う送信制御部と、
前記複数回の送信により得られる複数の受信信号を演算処理する演算部と、を更に備え、
前記補正部は、前記演算処理後の複数の受信信号を、前記遅延量で補正する、請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
受信開口、及び、受信焦点位置の少なくとも一方を変更して得られた複数の受信信号を、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する補正部を更に備える、請求項4に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記複数の受信信号に対しMTIフィルタを適用するMTIフィルタ処理部を更に備え、
前記補正部は、前記MTIフィルタを適用後の複数の受信信号を、前記遅延量で補正する、請求項2に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
超音波プローブから出力された反射波信号を受信回路が受信し、前記反射波信号をA/D変換器がデジタルデータに変換し、各チャンネルからの前記デジタルデータに対して受信ビームフォーマが整相加算処理を行なった反射波データである受信信号であって、送信開口が異なり、同一走査線における複数の受信信号を、前記デジタルデータへの変換処理及び前記整相加算処理を除く処理を行なっていない状態でコヒーレント加算する送信開口合成を行う送信開口合成部と、
前記複数の受信信号の位相の一致度を、受信信号間の位相のばらつきが小さい程高い値を出力する評価関数を用いて評価して観測点毎かつ受信信号に含まれる異なる周波数成分毎に評価値を算出する算出部と、
前記送信開口合成後の受信信号を前記評価値に基づいて補正する信号加工部と、
を備える医用画像処理装置。
【請求項9】
超音波プローブから出力された反射波信号を受信回路が受信し、前記反射波信号をA/D変換器がデジタルデータに変換し、各チャンネルからの前記デジタルデータに対して受信ビームフォーマが整相加算処理を行なった反射波データである受信信号であって、送信開口が異なり、同一走査線における複数の受信信号を、前記デジタルデータへの変換処理及び前記整相加算処理を除く処理を行なっていない状態でコヒーレント加算する送信開口合成を行い、
前記複数の受信信号の位相の一致度を、受信信号間の位相のばらつきが小さい程高い値を出力する評価関数を用いて評価して観測点毎かつ受信信号に含まれる異なる周波数成分毎に評価値を算出し、
前記送信開口合成後の受信信号を前記評価値に基づいて補正する、
各処理を、コンピュータに実行させる医用画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、超音波診断装置、医用画像処理装置及び医用画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、圧電振動子から発生する超音波を生体内に照射し、生体組織を反射・透過した超音波を受信し映像化することで生体情報を可視化できる。リアルタイム性、非侵襲性を備える超音波診断装置は、主要な診断ツールとして生体臓器の形態診断や機能診断に広く用いられている。
【0003】
超音波プローブは複数の圧電振動子を内蔵しており、これら複数の圧電振動子を駆動する励起信号及び受信信号に対し与える遅延時間を制御することで、様々なイメージング方法が行われている。例えば1回の超音波送信において異なる受信指向性を形成し、複数の受信走査線を設定する、いわゆる並列同時受信が実現されている。並列同時受信によって、1枚のフレームを得るために必要な送信回数が低減されるため、フレームレートを向上させることができる。
【0004】
並列同時受信の応用法として、送信集束点が異なる送信ビーム間で、同一の観測点に送受焦点を合わせた受信エコー信号を複数取得し、加算合成する手法が用いられている。なお、この手法は、送信開口合成、送信整相加算などと呼ばれる。送信開口合成を用いることで、S/Nの向上に加えて、深さ方向に均一な送信ビーム幅を高精度に形成することが可能となり、空間分解能及びコントラスト分解能に優れた超音波画像を生成することができる。なお、かかる場合において、観測点に対しより精度良く焦点を結ぶことで送信エネルギーを高効率に活用するために、観測点までの送信波面伝搬時間を補正する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-198119号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Camacho,M.Parrilla,and C.Fritsch,Phase Coherence Imaging,IEEE Trans Ultrason Ferrorelectr Freq Control,2009,第56巻,第5号,p.958-974
【文献】H.Hasegawa and H.Kanai,Effect of sub-aperture beamformingon phase coherence imaging,IEEE Trans Ultrason Ferroelectr Freq Control,2014,第61巻,第11号,p.1779-90
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、画質を向上させることができる超音波診断装置、医用画像処理装置及び医用画像処理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の超音波診断装置は、送信開口合成部と、算出部と、信号加工部とを備える。送信開口合成部は、送信開口が異なり、同一走査線における複数の受信信号をコヒーレント加算する送信開口合成を行う。算出部は、前記複数の受信信号の位相の一致度を評価して観測点ごとに評価値を算出する。信号加工部は、前記複数の受信信号の位相の一致度を評価して観測点ごとに評価値を算出する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置の構成例を示すブロック図である。
図2図2は、送信開口合成を説明するための図である。
図3図3は、送信開口合成を説明するための図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る受信回路の構成例を示すブロック図である。
図5図5は、第1の実施形態を説明するための図である。
図6図6は、第1の実施形態を説明するための図である。
図7図7は、第1の実施形態に係る受信回路による送信開口合成処理の手順を示すフローチャートである。
図8図8は、第1の実施形態を説明するための図である。
図9図9は、第1の実施形態を説明するための図である。
図10図10は、第2の実施形態に係る受信回路の構成例を示すブロック図である。
図11図11は、第2の実施形態に係る受信回路による送信開口合成処理の手順を示すフローチャートである。
図12図12は、第3の実施形態に係る受信回路及ドプラ処理回路の構成例を示すブロック図である。
図13図13は、第3の実施形態に係るドプラ処理回路による送信開口合成処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、実施形態に係る超音波診断装置、医用画像処理装置及び医用画像処理プログラムを説明する。なお、以下では、リニア走査方式の超音波診断装置について説明するが、セクタ走査方式やコンベックス走査方式等の超音波診断装置であってもよい。また、一つの実施形態に記載した内容は、原則として他の実施形態にも同様に適用される。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る超音波診断装置1の構成例を示すブロック図である。図1に示すように、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、装置本体100と、超音波プローブ101と、入力装置102と、ディスプレイ103とを備える。超音波プローブ101、入力装置102、及びディスプレイ103は、それぞれ装置本体100に接続される。
【0012】
超音波プローブ101は、複数の振動素子(圧電振動子)を有する。超音波プローブ101は、被検体Pの体表面に接触され、超音波の送受信(超音波走査)を行う。複数の振動素子は、後述する装置本体100が有する送信回路110から供給される駆動信号に基づいて、超音波を発生させる。発生した超音波は、被検体P内の音響インピーダンスの不整合面で反射され、組織内の散乱体によって散乱された成分等を含む反射波信号(受信エコー)として複数の振動素子にて受信される。超音波プローブ101は、複数の振動素子にて受信した反射波信号を、受信回路120へ送る。
【0013】
なお、本実施形態では、超音波プローブ101が、マトリクス状(格子状)に配列された複数の振動素子を有する2次元超音波プローブ(「2Dアレイプローブ」とも表記する)である場合を説明するが、これに限定されるものではない。例えば、超音波プローブ101は、所定方向に1次元で配列された複数の振動素子を有する1次元超音波プローブ(「1Dアレイプローブ」とも表記する)であってもよい。また、超音波プローブ101は、機械的走査機構を備えていてもよい。
【0014】
入力装置102は、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティック等を有し、超音波診断装置1の操作者からの各種設定要求を受け付け、装置本体100に対して受け付けた各種設定要求を転送する。
【0015】
ディスプレイ103は、超音波診断装置1の操作者が入力装置102を用いて各種設定要求を入力するためのGUI(Graphical User Interface)を表示したり、装置本体100において生成された超音波画像データ等を表示したりする。例えば、ディスプレイ103は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ等によって構成される。また、ディスプレイ103のことをモニタと適宜称する。
【0016】
装置本体100は、超音波プローブ101が受信した反射波信号に基づいて、超音波画像データを生成する装置である。図1に示すように、装置本体100は、例えば、送信回路110と、受信回路120と、Bモード処理回路130と、ドプラ処理回路140と、画像生成回路150と、画像メモリ160と、記憶回路170と、処理回路180とを有する。送信回路110、受信回路120、Bモード処理回路130と、ドプラ処理回路140、画像生成回路150、画像メモリ160、記憶回路170、及び処理回路180は、互いに通信可能に接続される。
【0017】
送信回路110は、パルサ回路等を有する。パルサ回路は、所定のレート周波数(PRF:Pulse Repetition Frequency)で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生し、発生したレートパルスを超音波プローブ101に出力する。
【0018】
また、送信回路110は、処理回路180による制御を受けて、パルサ回路が出力する駆動信号の振幅の値を出力する。また、送信回路110は、処理回路180による制御を受けて、超音波プローブ101に、超音波プローブ101から送信される超音波に対する遅延量を送信する。すなわち、送信回路110は、送信超音波に所望の指向性(例えば集束ビーム)を与えるために、処理回路180の指示に基づく所定の遅延量を駆動信号に与えて、超音波プローブ101に印加する。なお、指向性について、送信回路110は、平面波の超音波を送信或いは拡散波の超音波(平面波の超音波送信に類似する広範囲に渡る超音波)を送信させてもよい。
【0019】
受信回路120は、A/D変換器及び受信ビームフォーマを有する。受信回路120は、超音波プローブ101から出力された反射波信号を受信すると、まず、A/D変換器が、反射波信号をデジタルデータに変換し、受信ビームフォーマが、これらの各チャンネルからのデジタルデータに対し整相加算処理を行って反射波データを生成し、生成した反射波データをBモード処理回路130及びドプラ処理回路140に送信する。なお、受信回路120の詳細については、後述する。また、反射波データのことを受信信号とも言う。
【0020】
Bモード処理回路130は、受信回路120が出力した反射波データに対して各種の信号処理を行う。Bモード処理回路130は、反射波データに包絡線検波処理、対数圧縮等を行って、サンプル点(観測点)ごとの信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(Bモードデータ)を生成する。Bモード処理回路130は、生成したBモードデータを画像メモリ160へ送る。
【0021】
ドプラ処理回路140は、受信回路120から反射波データを取得し、取得した反射波データから移動体のドプラ効果に基づく運動情報を、走査領域内の各サンプル点で抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。例えば、ドプラ処理回路140は、移動体の速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワー等の移動体情報を多点について抽出したドプラデータを生成する。なお、移動体の運動情報は、平均速度、分散値、パワー値等を意味する。また、ここでは、移動体とは、例えば、血流や、心壁等の組織、造影剤である。
【0022】
画像生成回路150は、Bモード処理回路130及びドプラ処理回路140が生成したデータから超音波画像データを生成する。画像生成回路150は、Bモード処理回路130が生成したBモードデータから反射波の強度を輝度で表したBモード画像データを生成する。また、画像生成回路150は、ドプラ処理回路140が生成したドプラデータから移動体情報を表すドプラ画像データを生成する。ドプラ画像データは、速度画像データ、分散画像データ、パワー画像データ、又は、これらを組み合わせた画像データである。
【0023】
ここで、画像生成回路150は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成回路150は、超音波プローブ101による超音波の走査形態に応じて座標変換を行うことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成回路150は、スキャンコンバート以外に、種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行う。また、画像生成回路150は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
【0024】
画像メモリ160は、画像生成回路150が生成した画像データ(Bモード画像データ、ドプラ画像データ等)を記憶するメモリである。また、画像メモリ160は、Bモード処理回路130及びドプラ処理回路140が生成したデータを記憶することも可能である。画像メモリ160が記憶するBモードデータ及びドプラデータは、例えば、操作者が呼び出すことが可能となっており、画像生成回路150を経由して表示用の超音波画像データとなる。
【0025】
記憶回路170は、超音波送受信、画像処理及び表示処理などを行うための制御プログラムや、診断情報(例えば、患者ID、医師の所見等)や、診断プロトコルや各種ボディーマーク等の各種データを記憶する。また、記憶回路170は、必要に応じて、画像メモリ160が記憶する画像データの保管等にも使用される。また、記憶回路170が記憶するデータは、図示しない通信インターフェースを介して、外部装置へ転送することができる。
【0026】
処理回路180は、超音波診断装置1の処理全体を制御する。具体的には、処理回路180は、入力装置102を介して操作者から入力された各種設定要求や、記憶回路170から読み込んだ各種制御プログラムおよび各種データに基づき、送信回路110、受信回路120、Bモード処理回路130、ドプラ処理回路140、画像生成回路150等の処理を制御する。また、処理回路180は、送信回路110及び受信回路120を介して超音波プローブ101を制御することで、送信開口合成を実行させる。また、処理回路180は、画像メモリ160や記憶回路170が記憶する超音波画像データをディスプレイ103に表示させる。
【0027】
なお、装置本体100に内蔵される送信回路110、受信回路120、Bモード処理回路130、ドプラ処理回路140、画像生成回路150、及び処理回路180は、プロセッサ(CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro-Processing Unit)、集積回路等)のハードウエアにより構成される。なお、装置本体100に内蔵される送信回路110及び受信回路120等は、集積回路などのハードウエアで構成されることもあるが、ソフトウエア的にモジュール化されたプログラムである場合もある。
【0028】
このように構成される超音波診断装置1は、送信開口合成を用いて超音波画像を生成する場合がある。図2及び図3は、送信開口合成を説明するための図である。図2では、送信制御の動作を示す。図2の例では、送信フォーカスを1素子ずつずらして、送信#1、送信#2、送信#3、送信#4の順で超音波を超音波プローブ101から4回送信する場合について示す。
【0029】
図3では、受信制御の動作を示す。図3の例では、送信#1から送信#4の各超音波送信に対して超音波プローブ101の3つの素子で反射波信号を受信して3つの受信信号を生成する場合を示す。具体的には、超音波診断装置1は、送信#1の超音波送信に対して受信信号#1a、受信信号#1b及び受信信号#1cを生成する。また、超音波診断装置1は、送信#2の超音波送信に対して受信信号#2a、受信信号#2b及び受信信号#2cを生成する。同様にして、超音波診断装置1は、送信#3の超音波送信に対して受信信号#3a、受信信号#3b及び受信信号#3cを生成する。また、超音波診断装置1は、送信#4の超音波送信に対して受信信号#4a、受信信号#4b及び受信信号#4cを生成する。
【0030】
そして、超音波診断装置1は、異なる送信で得られた同一チャネルの受信信号を合成する。例えば、超音波診断装置1は、図3に示すように、送信開口が異なり、同一走査線における受信信号#1cと、受信信号#2bと、受信信号#3aとを合成する。また、例えば、超音波診断装置1は、送信開口が異なり、同一走査線における受信信号#2cと、受信信号#3bと、受信信号#4aとを合成する。
【0031】
ここで、送信開口合成では、送信波面の入射角が異なっているほど、より大きな空間分解能及びS/Nの改善が期待できる。しかしながら、実際の運用では、超音波画像の撮像領域は送信開口面に対し深いため、送信波面の入射角に差異をつけるには制限がある。ゆえに、送信間で送信波面の入射角を十分に変化させることができない条件で、空間分解能を向上させる手法が望まれる。
【0032】
ところで、複数の振動素子が配列化された超音波プローブ101を用いた超音波イメージングでは、素子間のコヒーレンスを積極的に利用したビームフォーミング法が開発されている。例えば、異なる送信間の受信信号の相関行列を使用した制約付誤差最小化法により、開口合成法における送信間ノイズを低減するビームフォーミング法が開示されている。しかしながら、このビームフォーミング法は、逆行列演算が必要であり計算量負荷が大きく、また、解が発散する可能性があるなど安定性が低い。
【0033】
そこで、第1の実施形態に係る超音波診断装置1は、空間分解能を向上させた超音波画像を得るために、以下に説明する送信開口合成処理を実行する。このような送信開口合成処理は、受信回路120によって実現される。図4から図6を用いて、第1の実施形態に係る受信回路120の詳細について説明する。図4は、第1の実施形態に係る受信回路120の構成例を示すブロック図であり、図5及び図6は、第1の実施形態を説明するための図である。
【0034】
図4に示すように、第1の実施形態に係る受信回路120は、前処理回路201と、受信整相加算回路202と、受信信号記憶回路203と、送信波面補正回路204と、合成回路205と、位相評価回路206と、評価値合成回路207とを有する。
【0035】
前処理回路201は、例えば、アンプ回路(適宜「Amp」と記載する)、A/D(Analog/Digital)変換器(適宜「ADC」と記載する)、直交検波回路(適宜「IQ」と記載する)を有する。アンプ回路は、超音波プローブ101で受信された反射波信号をチャンネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う。A/D変換器は、ゲイン補正された反射波信号をA/D変換する。直交検波回路は、A/D変換された反射波信号をベースバンド帯域の同相信号(I信号、I:In-phase)と直交信号(Q信号、Q:Quadrature-phase)とに変換する。
【0036】
受信整相加算回路202は、超音波プローブ101が受信した反射波信号に所定の遅延時間を与えて加算処理を行うことにより集束指向性を付与し、所定の位置からの反射エコー成分が強調された受信信号を生成する。受信整相加算回路202は、加算処理において、処理回路180から設定条件を受け取り、受け取った条件に従って処理を行う。ここで、設定条件は、例えば、受信開口チャンネル数、アポダイゼーション関数、並列同時受信数などである。
【0037】
図5では、素子#1から素子#Nの各位置に対して異なる送信で得られた受信信号を示す。なお、受信信号のことを受信ビームとも言う。例えば、受信整相加算回路202は、k回目の送信で素子#1が受信した反射波信号から受信ビーム#1を生成し、k+1回目の送信で素子#1が受信した反射波信号から受信ビーム#2を生成し、k+M回目の送信で素子#1が受信した反射波信号から受信ビーム#M+1を生成する。同様にして、受信整相加算回路202は、k回目の送信で素子#Nが受信した反射波信号から受信ビーム#1を生成し、k+1回目の送信で素子#Nが受信した反射波信号から受信ビーム#2を生成し、k+M回目の送信で素子#Nが受信した反射波信号から受信ビーム#M+1を生成する。
【0038】
受信整相加算回路202は、整相加算後の受信信号を、受信信号記憶回路203に格納する。受信信号記憶回路203は、各受信走査線について異なる送信で得られた受信信号を格納する。
【0039】
送信波面補正回路204は、複数の受信信号を、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する。例えば、送信波面補正回路204は、受信信号記憶回路203に格納された受信信号に、送信波面の伝搬時間に基づく遅延補正量を与える。ここで、送信波面の伝搬時間は、超音波を送信する素子について受信焦点に到達する時間である。
【0040】
例えば、送信波面補正回路204は、処理回路180から受け取る設定条件に従って送信波面の伝搬時間を求める。ここで、設定条件は、例えば、送信開口チャンネル数、アポダイゼーション関数、焦点位置などである。ここで、送信波面補正回路204は、遅延補正量の算出方法は、特開2009-240700号公報で開示されている補正方法を用いてもよいし、WO2016-132924号で開示されている補正方法を用いてもよい。なお、特開2009-240700号公報で開示されている補正方法は、波面モデルを用いることなく、各振動素子から送信される超音波の伝搬時間を演算し、これら伝搬時間の分布から補正量を決定する補正方法である。また、WO2016-132924号で開示されている補正方法は、送信焦点を仮想点音源とした波面モデルに基づく補正方法である。なお、送信波面補正回路204は、補正部の一例である。
【0041】
合成回路205は、送信開口が異なり、同一走査線における複数の受信信号をコヒーレント加算する送信開口合成を行う。例えば、合成回路205は、送信波面補正回路204による補正後の複数の受信信号をコヒーレント加算する送信開口合成を行う。すなわち、合成回路205は、送信波面補正回路204の出力信号を加算し、加算信号を出力する。
【0042】
より具体的には、合成回路205は、図5に示す素子#1から生成した、受信ビーム#1と受信ビーム#2と受信ビーム#M+1とを合成する。また、合成回路205は、図5に示す素子#Nから生成した、受信ビーム#1と受信ビーム#2と受信ビーム#M+1とを合成する。なお、合成回路205は、送信開口合成部の一例である。
【0043】
位相評価回路206は、複数の受信信号の位相の一致度を評価して観測点ごとに評価値を算出する。例えば、位相評価回路206は、補正後の複数の受信信号の位相の一致度を評価して評価値を算出する。言い換えると、位相評価回路206は、同一の受信走査線における送信波面補正後の受信信号について位相の一致度を評価する。
【0044】
より具体的には、位相評価回路206は、図5に示す素子#1から生成した受信ビーム間の位相の一致度を評価する。例えば、位相評価回路206は、図5に示す素子#1の受信ビーム#1、受信ビーム#2、受信ビーム#M+1の位相の一致度を評価する。同様に、位相評価回路206は、図5に示す素子#Nから生成した受信ビーム間の位相の一致度を評価する。
【0045】
より具体的には、位相評価回路206は、図6に示すように、#1、#2及び#M+1の各受信信号間の位相の一致度を評価する。図6に示す例では、#1の受信信号を基準とした場合、#2の受信信号は#1の受信信号よりもθ1ずれており、#M+1の受信信号は#1の受信信号よりもθ2ずれている。すなわち、位相評価回路206は、各受信信号間の位相のバラつき度合いを評価する。ここで、位相評価回路206は、例えば非特許文献1に開示されている、(式1)により位相の一致度を評価する。
【0046】
【数1】
【0047】
(式1)において、σ、σ、γは、それぞれ受信信号の位相の標準偏差、正規化係数(例えばガウス分布の標準偏差)、調整係数を示す。なお、位相評価回路206は、評価方法は前述の(式1)に限定されるものではない。例えば、位相評価回路206は、受信信号間の位相のばらつきが小さい(一致度が高い)程高い値を出力する評価関数であれば任意の方法を用いて、位相の一致度を評価してもよい。また、位相評価回路206は、受信信号をフーリエ変換し、受信信号間のクロススペクトルの振幅を評価する、など行うことで各周波数成分について位相の一致度を評価してもよい。なお、位相評価回路206は、算出部の一例である。
【0048】
評価値合成回路207は、送信開口合成後の受信信号を評価値に基づいて補正する。例えば、評価値合成回路207は、位相評価回路206から出力された、位相の一致度に応じた評価値を、合成回路205から出力された、送信開口合成後の受信信号に乗算する。
【0049】
より具体的には、評価値合成回路207は、図5に示す素子#1の開口合成後の受信ビームを、図5に示す素子#1の評価値で補正する。また、受信回路120は、図5に示す素子#Nの開口合成後の受信ビームを、図5に示す素子#Nの評価値で補正する。なお、評価値合成回路207は、乗算に限らず、受信信号および評価値に係数を掛けた後に加算してもよい。なお、評価値合成回路207は、信号加工部の一例である。
【0050】
続いて、Bモード処理回路130は、受信信号に対して包絡線検波処理等を行なって、Bモードデータを生成する。そして、画像生成回路150は、Bモード処理回路130が生成したBモードデータから超音波画像データを生成する。
【0051】
図7は、第1の実施形態に係る受信回路120による送信開口合成処理の手順を示すフローチャートである。図7では、受信回路120の動作を説明するフローチャートを示す。ステップS1からステップS2は、送信波面補正回路204により実現されるステップである。ステップS1では、送信波面補正回路204は、受信信号記憶回路203から受信信号を取得する。ステップS2では、送信波面補正回路204は、送信波面の伝達時間に基づく遅延補正量で受信信号を補正する。
【0052】
ステップS3は、合成回路205により実現されるステップである。ステップS3では、合成回路205は、補正後の受信信号を加算して加算信号を生成する。ステップS4は、位相評価回路206により実現されるステップである。ステップS4では、位相評価回路206は、補正後の受信信号の位相の一致度を評価して評価値を算出する。ステップS5は、評価値合成回路207により実現されるステップである。ステップS5では、評価値合成回路207は、加算信号に評価値を乗算する。
【0053】
このように、第1の実施形態に係る超音波診断装置1では、複数の受信信号の位相の一致度を評価して観測点ごとに評価値を算出し、送信開口合成後の受信信号を評価値に基づいて補正する。すなわち、同一走査線において異なる送信で得られる受信信号の位相を評価し、この評価値に基づいて開口合成後の受信信号を補正して超音波画像を生成する。これにより、第1の実施形態によれば、空間分解能が向上した超音波画像を得ることが可能になる。
【0054】
ところで、非特許文献1は、受信整相後の素子受信信号の位相の一致度を評価し、整相加算後信号に重畳する手法を提案している。しかし、この手法では、方位方向分解能は向上するが、画像のスペックル領域の強度が抑圧されてしまう課題があった。この課題の原因の一つに、位相を評価する信号が受信集束されておらず、観測点の位相を正しく評価できていないことが指摘されている。
【0055】
また、非特許文献2は、複数の副開口において受信整相加算を行い、これら観測点に受信集束させた信号について、位相の一致度を評価する手法を提案している。しかしながら、この手法では、受信開口を分割するため、副開口受信信号の集束性は相対的に低い。この一方で、第1の実施形態に係る超音波診断装置1では、送信間の受信信号を用いるため、受信開口を分割する必要はない。このため、位相が評価される受信信号は、観測点からより選択的に得られる。
【0056】
また、特許文献1は、MV法(Minimum Variance)、APES法といった適応的ビームフォーマを応用し、送信間の受信信号に適用する重み係数を適応的ビームフォーマにより算出する手法を提案している。この特許文献1によれば、求めた重み関数を受信信号に適用した後に送信開口合成することで、送信間でインコヒーレントなシステムノイズなどが抑圧された信号が得られる。しかしながら、この手法では、適応的ビームフォーマにおいては逆行列を計算する必要があり、計算コストの増大や解の発散といった問題点がある。
【0057】
この一方で、第1の実施形態に係る超音波診断装置1では、逆行列の演算を必要としない。このため、第1の実施形態に係る超音波診断装置1では、計算処理の負荷が小さく、計算安定性が高い。すなわち、第1に実施形態によれば、逆行列演算を用いることなく、計算コストの増大や解の発散といった問題点がなく、超音波画像の分解能及びコントラストを向上させることが可能になる。
【0058】
図8及び図9は、第1の実施形態を説明するための図である。図8では、送信開口合成後の受信信号を評価値で補正していない場合を示し、図9では、送信開口合成後の受信信号を評価値で補正した場合を示す。図8では、丸印で囲った部分(RA1、RA2、RA3)において、特に横方向へのボケが顕著に見られる。一方、図9において丸印で囲った部分(RB1、RB2、RB3)に示すように、深部のシスト抜けが改善され、また、ワイヤーエコーが方位方向に絞れているので、背景との輝度差が顕著に見られる。なお、図9に示す丸印で囲った部分であるRB1、RB2及びRB3は、それぞれ、図8で示す丸印で囲った部分であるRA1,RA2及びRA3に対応する。
【0059】
(第2の実施形態)
現在、高調波成分の映像化が広く行われている(いわゆるハーモニックイメージング)。代表的なハーモニックイメージングとして、造影剤が発生させる高調波を映像化するコントラストハーモニックイメージング(CHI:Contrast Harmonic Imaging)や、超音波が組織を伝搬する過程で蓄積される高調波成分を映像化する組織ハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)が知られている。CHIやTHIには、走査方式として、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)法、「Pulse Subtraction法」や「Pulse Inversion法」と呼ばれる位相変調(PM:Phase Modulation)法、AM法とPM法の走査方式を組み合わせることで、両手法の効果が得られるAMPM法が知られている。そこで、第2の実施形態では、このようなハーモニックイメージングに対し送信開口合成処理を適用する場合について説明する。
【0060】
第2の実施形態に係る超音波診断装置の構成例は、受信回路120の一部の構成が異なる点を除いて、図1に示す第1の実施形態に係る超音波診断装置100と同様である。図10は、第2の実施形態に係る受信回路120の構成例を示すブロック図である。なお、図10に示す第2の実施形態に係る受信回路120の構成例は、演算処理回路300を更に有する点を除いて、図4に示す第1の実施形態に係る受信回路120の構成例と同様である。このため、第2の実施形態では、演算処理回路300について詳細に説明する。
【0061】
なお、第2の実施形態では、処理回路180は、送信される超音波の振幅あるいは位相を変調して複数回の送信を行うように送信回路110を介して超音波プローブ101を制御する。例えば、処理回路180は、AM法、PM法及びAMPM法では、同一の走査線に対して振幅や位相が異なる超音波送信を複数回行うように送信回路110を介して超音波プローブ101を制御する。
【0062】
図10に示すように、第2の実施形態に係る受信回路120は、前処理回路201と、受信整相加算回路202と、受信信号記憶回路203と、送信波面補正回路204と、合成回路205と、位相評価回路206と、評価値合成回路207と、演算処理回路300とを有する。
【0063】
第2の実施形態に係る受信回路120が有する前処理回路201、受信整相加算回路202、受信信号記憶回路203、送信波面補正回路204、合成回路205、位相評価回路206及び評価値合成回路207は、第1の実施形態に係る受信回路120が有する前処理回路201、受信整相加算回路202、受信信号記憶回路203、送信波面補正回路204、合成回路205、位相評価回路206及び評価値合成回路207にそれぞれ対応する。
【0064】
演算処理回路300は、複数回の送信により得られる複数の受信信号を演算処理する。例えば、演算処理回路300は、振幅あるいは位相を変調した複数回の送信により得られた受信信号を受信信号記憶回路203から取得し、これら複数の受信信号に対しAM法やPM法に基づく演算処理を行い、各走査線で複数のハーモニック成分を抽出する。そして、演算処理回路300は、抽出した複数のハーモニック成分(受信信号)を送信波面補正回路204に出力する。なお、演算処理回路300は、演算部の一例である。
【0065】
これにより、送信波面補正回路204は、演算処理後の複数の受信信号を、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する。また、合成回路205は、補正後の複数の受信信号をコヒーレント加算する送信開口合成を行い、位相評価回路206は、補正後の複数の受信信号の位相の一致度を評価して評価値を算出する。そして、評価値合成回路207は、送信開口合成後の受信信号を評価値に基づいて補正する。続いて、Bモード処理回路130は、ハーモニック成分の受信信号に対して包絡線検波処理等を行なって、Bモードデータを生成する。そして、画像生成回路150は、Bモード処理回路130が生成したBモードデータから超音波画像データを生成する。
【0066】
図11は、第2の実施形態に係る受信回路120による送信開口合成処理の手順を示すフローチャートである。図11では、受信回路120の動作を説明するフローチャートを示す。ステップS11からステップS12は、演算処理回路300により実現されるステップである。ステップS11では、演算処理回路300は、受信信号記憶回路203から受信信号を取得する。ステップS12では、演算処理回路300は、AM/PM法に基づく演算処理を実行する。
【0067】
ステップS13は、送信波面補正回路204により実現されるステップである。ステップS13では、送信波面補正回路204は、送信波面の伝達時間に基づく遅延補正量で受信信号を補正する。ステップS14は、合成回路205により実現されるステップである。ステップS14では、合成回路205は、補正後の受信信号を加算して加算信号を生成する。ステップS15は、位相評価回路206により実現されるステップである。ステップS15では、位相評価回路206は、補正後の受信信号の位相の一致度を評価して評価値を算出する。ステップS16は、評価値合成回路207により実現されるステップである。ステップS16では、評価値合成回路207は、加算信号に評価値を乗算する。
【0068】
上述したように、第2の実施形態では、複数回の送信により得られる複数の受信信号を演算処理し、演算処理後の複数の受信信号を、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する。そして、第2の実施形態では、演算処理後に送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正された複数の受信信号をコヒーレント加算する。また、第2の実施形態では、演算処理後に送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正された複数の受信信号の位相の一致度を評価して観測点ごとに評価値を算出する。そして、第2の実施形態では、送信開口合成後の受信信号を評価値に基づいて補正して超音波画像を生成する。これにより、第2の実施形態によれば、空間分解能が向上した超音波画像を得ることが可能になる。
【0069】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、血流ドプラ法に対し送信開口合成処理を適用する場合について説明する。なお、第3の実施形態に係る超音波診断装置の構成例は、受信回路120及びドプラ処理回路140の一部の構成が異なる点を除いて、図1に示す第1の実施形態に係る超音波診断装置100と同様である。図12は、第3の実施形態に係る受信回路120及びドプラ処理回路140の構成例を示すブロック図である。
【0070】
図12に示すように、第3の実施形態に係る受信回路120は、前処理回路201と、受信整相加算回路202と、受信信号記憶回路203とを有する。第3の実施形態に係る受信回路120が有する前処理回路201、受信整相加算回路202及び受信信号記憶回路203は、第1の実施形態に係る受信回路120が有する前処理回路201、受信整相加算回路202及び受信信号記憶回路203にそれぞれ対応する。すなわち、第3の実施形態に係る受信回路120は、整相加算処理を行って反射波データを生成し、受信信号記憶回路203に生成した反射波データを記憶する。
【0071】
また、図12に示すように、第3の実施形態に係るドプラ処理回路140は、MTI(Moving Target Indicator)フィルタ処理回路301と、送信波面補正回路302と、合成回路303と、位相評価回路304と、評価値合成回路305とを有する。
【0072】
MTIフィルタ処理回路301は、複数の受信信号に対しMTIフィルタを適用する。ここで、MTIフィルタ処理回路301は、バタワース型のIIR(Infinite Impulse Response)フィルタや多項式回帰フィルタ(Polynomial Regression Filter)等係数が固定されたMTIフィルタや入力信号に応じて係数を変化させる適応型のMTIフィルタを用いる。なお、MTIフィルタ処理回路301は、MTIフィルタ処理部の一例である。
【0073】
これにより、送信波面補正回路302は、MTIフィルタを適用後の複数の受信信号を、送信波面補正回路204と同様に、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する。また、合成回路303は、合成回路205と同様に、補正後の複数の受信信号をコヒーレント加算する送信開口合成を行い、位相評価回路304は、位相評価回路206と同様に、補正後の複数の受信信号の位相の一致度を評価して評価値を算出する。ここで、位相評価回路304は、振幅を評価の対象外とし位相のみを評価の対象とする。このため、位相評価回路304は、振幅が小さくなるドプラデータの場合であっても、位相評価回路206と同様に位相のずれを検出できる。評価値合成回路305は、評価値合成回路207と同様に、送信開口合成後の受信信号を評価値に基づいて補正する。
【0074】
続いて、ドプラ処理回路140は、受信信号から速度情報を周波数解析し、ドプラ効果による血流や組織、造影剤エコー成分を抽出し、平均速度、分散、パワー等の移動体情報を多点について抽出したデータ(ドプラデータ)を生成する。そして、画像生成回路150は、ドプラ処理回路140が生成したドプラデータから超音波画像データを生成する。
【0075】
図13は、第3の実施形態に係るドプラ処理回路140による送信開口合成処理の手順を示すフローチャートである。図13では、ドプラ処理回路140の動作を説明するフローチャートを示す。ステップS21からステップS22は、MTIフィルタ処理回路301により実現されるステップである。ステップS21では、MTIフィルタ処理回路301は、受信信号記憶回路203から受信信号を取得する。ステップS22では、MTIフィルタ処理回路301は、ステップS21で取得した受信信号に対してMTIフィルタ処理を実行する。
【0076】
ステップS23は、送信波面補正回路302により実現されるステップである。ステップS23では、送信波面補正回路302は、送信波面の伝達時間に基づく遅延補正量で受信信号を補正する。ステップS24は、合成回路303により実現されるステップである。ステップS24では、合成回路303は、補正後の受信信号を加算して加算信号を生成する。ステップS25は、位相評価回路304により実現されるステップである。ステップS25では、位相評価回路304は、補正後の受信信号の位相の一致度を評価して評価値を算出する。ステップS26は、評価値合成回路305により実現されるステップである。ステップS26では、評価値合成回路305は、加算信号に評価値を乗算する。
【0077】
上述したように、第3の実施形態では、複数の受信信号に対しMTIフィルタを適用し、MTIフィルタを適用後の複数の受信信号を、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する。そして、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正された複数の受信信号をコヒーレント加算する。また、第3の実施形態では、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正された複数の受信信号の位相の一致度を評価して観測点ごとに評価値を算出する。そして、第3の実施形態では、送信開口合成後の受信信号を評価値に基づいて補正して、ドプラデータを抽出し、ドプラデータに基づく超音波画像を生成する。これにより、第3の実施形態によれば、空間分解能が向上した超音波画像を得ることが可能になる。
【0078】
(その他の実施形態)
実施形態は、上述した実施形態に限られるものではない。
【0079】
例えば、受信回路120は、受信信号に対し、所望の周波数帯域を強調するためのフィルタリング処理を適用してもよい。かかる場合、受信回路120は、フィルタリング処理を行うフィルタ処理回路を、受信整相加算回路202の前段に備えてもよいし、後段に備えてもよい。また、かかる場合、送信波面補正回路204は、複数の受信信号から所望の周波数帯域が選択された受信信号を、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する。
【0080】
また、例えば、位相評価回路206は、予め特定した周波数成分の評価値を算出することに限定されるものではなく、受信信号に含まれる異なる周波数成分毎に評価値を算出するようにしてもよい。
【0081】
また、上述した実施形態では、位相評価回路206が評価値を算出するものとして説明したが、実施形態はこれに限定されるものではない。例えば、受信回路120は、位相の一致度に応じた評価値を予め保管する記憶回路を備えてもよい。かかる場合、記憶回路は、予め算出された評価値をルックアップテーブルとして保管する。なお、ルックアップテーブルとして保管されるこれらの評価値は、処理回路180によって算出されてもよい。そして、評価値合成回路207は、複数の受信信号の位相の一致度に応じた評価値を記憶回路から特定し、送信開口合成後の受信信号を当該評価値に基づいて補正する。
【0082】
ところで、送受信毎に送信音場を変更して得られる受信信号群を加算する、及び、受信音場を変更して得られる受信信号群を加算する、といった空間コンパウンドと呼ばれるイメージング手法がある。これらの手法では、送信焦点の位置、送信開口幅、受信焦点の位置、受信開口幅等、を送信および受信毎に変更することによって、送受信音場を変更する。上述した実施形態は、これらの手法を併せて実行してもよい。すなわち、処理回路180は、所定回数の超音波の送受信毎に、送信超音波の焦点の位置、及び、超音波を送信する開口幅の少なくとも一方を、送受信毎に変更させてもよい。かかる場合、送信波面補正回路204は、受信開口、及び、受信焦点位置の少なくとも一方を変更して得られた複数の受信信号を、送信波面の伝達時間に基づく遅延量で補正する。
【0083】
上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むよう構成しても構わない。この場合、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図1における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0084】
上記の実施形態の説明において、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を、各種の負荷や使用状況等に応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPUおよび当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、或いは、ワイヤードロジックによるハードウエアとして実現され得る。
【0085】
また、上記の実施形態で説明した画像処理方法は、予め用意された画像処理プログラムをパーソナルコンピュータやワークステーション等のコンピュータで実行することによって実現することができる。この画像処理プログラムは、インターネット等のネットワークを介して配布することができる。また、この画像処理プログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO、DVD等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することもできる。
【0086】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、画質を向上させることができる。
【0087】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0088】
1 超音波診断装置
100 装置本体
120 受信回路
204 送信波面補正回路
205 合成回路
206 位相評価回路
207 評価値合成回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13