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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】回転式圧縮機および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/356 20060101AFI20231120BHJP
   F04C 23/00 20060101ALI20231120BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
F04C18/356 E
F04C18/356 W
F04C23/00 F
F04C29/00 D
F04C29/00 U
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018020549
(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公開番号】P2019138184
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-07-07
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平山 卓也
(72)【発明者】
【氏名】ジャフェット フェルディ モナスリ
【合議体】
【審判長】窪田 治彦
【審判官】山崎 孔徳
【審判官】関口 哲生
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105041650(CN,A)
【文献】特開2014-169663(JP,A)
【文献】特開2015-155663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/356 F04C 23/00 F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸の軸方向に並べられた複数の圧縮機構部と、
前記複数の圧縮機構部を仕切るとともに前記回転軸を回転自在に支持する軸受けとして機能する仕切板と、
前記複数の圧縮機構部の一端側で前記回転軸を支持する主軸受と、
前記複数の圧縮機構部の他端側で前記回転軸を支持する副軸受と、を備え、
前記圧縮機構部は、シリンダ室を形成するシリンダと、前記回転軸に設けられた偏心部と、前記偏心部に嵌合されて前記シリンダ室内において偏心回転可能なローラと、を備え、
前記複数の圧縮機構部のうち少なくとも1つにおいて、前記偏心部は、前記回転軸とは別体であって前記回転軸が挿通する挿通孔を有する偏心部材で形成され、
前記偏心部材と前記回転軸との間に、前記偏心部材および前記回転軸に係合して前記偏心部材と前記回転軸との相対回転を阻止する回転阻止部材が設けられ、
前記回転軸に直交する断面における、前記回転軸および前記回転阻止部材に接する外接円の径は、前記仕切板の内径より小さく、
前記回転軸は、前記偏心部材が位置する部分の外径が前記偏心部材の前記挿通孔の内径より大きい第1部分と、外径が前記挿通孔の内径より小さい第2部分を有し、前記第1部分と前記第2部分に亘って前記回転阻止部材と係合する第1係合溝が設けられ、
前記偏心部材の前記挿通孔の内周面に、前記回転阻止部材と係合する第2係合溝が設けられ、
前記回転阻止部材は、前記回転軸に直交する断面が矩形状であり、
前記第1係合溝および前記第2係合溝は、前記回転軸に直交する断面が矩形状であり、
前記挿通孔の内周面の少なくとも一部を前記回転軸の前記第1部分の外周面に圧入して密着させることにより、前記偏心部材と前記回転軸との相対回転は摩擦力により規制される、回転式圧縮機。
【請求項2】
前記偏心部材の線膨張係数は、前記回転軸の線膨張係数より小さい、請求項1に記載の回転式圧縮機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転式圧縮機と、前記回転式圧縮機に接続された放熱器と、前記放熱器に接続された膨張装置と、前記膨張装置に接続された吸熱器と、を備えた冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転式圧縮機および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガス冷媒等の作動流体を圧縮する回転式圧縮機として、複数の圧縮機構部を回転軸の軸方向に並べて配置した回転式圧縮機がある。圧縮機構部は、シリンダと、偏心部と、ローラとを備える。偏心部は回転軸に設けられている。ローラは、各偏心部に嵌合されてシリンダ室内で偏心回転する。
前記回転式圧縮機では、作動流体の圧縮等により偏心部に瞬間的に大きな負荷が作用することがある。これにより、偏心部を回転軸とは別体に形成し、偏心部を回転軸に取付けたものにおいては、偏心部と回転軸の相対的な位置ずれによって振動が増大する可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6077352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、偏心部と回転軸との相対的な位置ずれを抑制できる回転式圧縮機および冷凍サイクル装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の回転式圧縮機は、回転軸と、複数の圧縮機構部と、仕切板と、主軸受と、副軸受と、を持つ。複数の前記圧縮機構部は、前記回転軸の軸方向に並べられている。前記仕切板は、前記複数の圧縮機構部を仕切るとともに前記回転軸を回転自在に支持する軸受けとして機能する。前記主軸受は、前記複数の圧縮機構部の一端側で前記回転軸を支持する。前記副軸受は、前記複数の圧縮機構部の他端側で前記回転軸を支持する。前記圧縮機構部は、シリンダと、偏心部と、ローラと、を備える。前記シリンダは、シリンダ室を形成する。前記偏心部は、前記回転軸に設けられている。前記ローラは、前記偏心部に嵌合される。前記ローラは、前記シリンダ室内において偏心回転可能である。前記複数の圧縮機構部のうち少なくとも1つにおいて、前記偏心部は、偏心部材で形成されている。前記偏心部材は、前記回転軸とは別体である。前記偏心部材は、前記回転軸が挿通する挿通孔を有する。前記偏心部材と前記回転軸との間に、回転阻止部材が設けられている。前記回転阻止部材は、前記偏心部材および前記回転軸に係合して前記偏心部材と前記回転軸との相対回転を阻止する。前記回転軸に直交する断面における、前記回転軸および前記回転阻止部材に接する外接円の径は、前記仕切板の内径より小さい。前記回転軸は、第1部分と、第2部分を有する。前記第1部分は、前記偏心部材が位置する部分の外径が前記偏心部材の前記挿通孔の内径より大きい。前記第2部分は、前記偏心部材が位置する部分の外径が前記挿通孔の内径より小さい。前記第1部分と前記第2部分に亘って第1係合溝が設けられている。前記第1係合溝は、前記回転阻止部材と係合する。前記偏心部材の前記挿通孔の内周面に、前記回転阻止部材と係合する第2係合溝が設けられている。前記回転阻止部材は、前記回転軸に直交する断面が矩形状である。前記第1係合溝および前記第2係合溝は、前記回転軸に直交する断面が矩形状である。前記挿通孔の内周面の少なくとも一部を前記回転軸の前記第1部分の外周面に圧入して密着させることにより、前記偏心部材と前記回転軸との相対回転は摩擦力により規制される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1の実施形態の回転式圧縮機の断面図を含む、冷凍サイクル装置の概略構成図。
図2図1に示された圧縮機構部のA-A線に沿う断面図。
図3図2の拡大図。
図4図1に示された圧縮機構部のB部における詳細図。
図5】第2の実施形態の回転式圧縮機の断面図を含む、冷凍サイクル装置の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の回転式圧縮機および冷凍サイクル装置を、図面を参照して説明する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1に示すように、第1の実施形態の冷凍サイクル装置100は、回転式圧縮機104と、放熱器である凝縮器105と、膨張装置106と、吸熱器である蒸発器107とを備える。回転式圧縮機104と、凝縮器105と、膨張装置106と、蒸発器107とは、この順に冷媒配管で接続されている。
【0009】
回転式圧縮機104は、圧縮機本体102とアキュムレータ103とを有する。回転式圧縮機104は、作動流体であるガス冷媒を圧縮する。凝縮器105は、圧縮機本体102から吐出された高圧のガス冷媒を凝縮して液冷媒にする。膨張装置106は、凝縮器105で凝縮された液冷媒を減圧する。蒸発器107は、膨張装置106で減圧された液冷媒を蒸発させる。
【0010】
アキュムレータ103と圧縮機本体102とは、低圧のガス冷媒が流れる2本の吸込管108a,108bにより接続されている。一方の吸込管108aは、後述する第1圧縮機構部8aの第1シリンダ室9a内にガス冷媒を供給する。他方の吸込管108bは、後述する第2圧縮機構部8bの第2シリンダ室9b内にガス冷媒を供給する。
【0011】
圧縮機本体102は、密閉ケース1内に、回転軸2と、駆動要素3と、圧縮要素4とを備える。
密閉ケース1は、円筒状に形成された密閉構造のケースである。
回転軸2は、軸線Oの周りに回転可能である。
【0012】
なお、以下の説明では、軸線Oと平行な方向から見ることを平面視という。図2に示すように、Rは回転軸2の径方向である。軸線Oに対して一定の距離を保ちながら軸線Oの周りを回転する方向を回転軸2の周方向θという。軸線Oに沿う方向を軸方向という。上下方向は、図1に応じて定める。
【0013】
図1に示すように、駆動要素3は、回転軸2の一端側に設けられた電動機7を備える。
電動機7は、回転子6と、固定子5とを備える。回転子6は、回転軸2に固定されている。回転子6には永久磁石(図示せず)が設けられている。固定子5は、密閉ケース1に固定されて回転子6を囲む位置に配置されている。固定子5には通電用のコイル(図示せず)が巻かれている。電動機7は、圧縮要素4を駆動する。
【0014】
圧縮要素4は、回転軸2の他端側に連結されている。圧縮要素4は、ガス冷媒を圧縮する。
圧縮要素4は、2つの圧縮機構部8(第1圧縮機構部8a、第2圧縮機構部8b)と、仕切板14と、主軸受15と、副軸受16とを備える。2つの圧縮機構部8(第1圧縮機構部8a、第2圧縮機構部8b)は、回転軸2の軸方向に沿って配列されている。
回転式圧縮機104は、2つの圧縮機構部8を有するため、多気筒回転式圧縮機(2気筒回転式圧縮機)である。
【0015】
仕切板14は、2つの圧縮機構部8a,8bの間に配置されて、圧縮機構部8a,8bを仕切る。仕切板14は、環状に形成されている。仕切板14の内径Dpは、ローラ12の内径Drより小さくされることが好ましい。これにより、仕切板14とローラ12の端面とのシール幅を確保することができる。
【0016】
主軸受15と副軸受16とは、それぞれ、圧縮要素4の一端側および他端側で回転軸2を支持する。
仕切板14、主軸受15および副軸受16は、圧縮機構部8a,8bにおけるシリンダの両端を閉塞してシリンダ室を形成するための閉塞部材としても機能する。
【0017】
第1圧縮機構部8aは、筒状のシリンダ10(第1シリンダ10a)と、偏心部11(第1偏心部11a)と、ローラ12(第1ローラ12a)とを備える。
【0018】
第1シリンダ10aの上端側は、主軸受15により閉塞されている。第1シリンダ10aの下端側は、仕切板14により閉塞されている。第1シリンダ10a内には、主軸受15と仕切板14とによりシリンダ室9(第1シリンダ室9a)が形成されている。第1シリンダ室9aおよび第2シリンダ室9b(後述)には回転軸2が貫通されている。
【0019】
第1偏心部11aは、回転軸2における第1シリンダ室9a内に位置する部分に形成されている。第1偏心部11aは、回転軸2の軸線Oに沿う中心軸を有する円柱状に形成されている。第1偏心部11aは、軸線Oに対して径方向に偏心して形成されている。
第1偏心部11aは、回転軸2と一体に形成されていてもよいし、後述する第2偏心部11bと同様に、回転軸2とは別体の偏心部材によって形成されていてもよい。
【0020】
第1偏心部11aには第1ローラ12aが嵌合(外挿)されている。回転軸2の回転時に、第1ローラ12aは、その外周面を第1シリンダ10aの内周面に潤滑油膜を介して接触させながら偏心回転する。
【0021】
第1シリンダ10a内には、ブレード(図示略)が設けられている。ブレードの先端部は、第1ローラ12aの外周面に当接する。ブレードは、第1シリンダ室9a内を2つの空間(後述する吸込室と圧縮室)に仕切る。第1シリンダ10aには、スリット状のブレード溝が形成されている。ブレードはブレード溝内にスライド可能に収容されている。
【0022】
第2圧縮機構部8bは、第1圧縮機構部8aの下方に配置されている。第2圧縮機構部8bの基本的構成は第1圧縮機構部8aと同じである。第2圧縮機構部8bは、筒状のシリンダ10(第2シリンダ10b)と、偏心部11(第2偏心部11b)と、ローラ12(第2ローラ12b)と、キー19(回転阻止部材)とを備える。
【0023】
第2シリンダ10bの上端側は仕切板14により閉塞されている。第2シリンダ10bの下端側は副軸受16により閉塞されている。第2シリンダ10b内には、仕切板14と副軸受16とによりシリンダ室9(第2シリンダ室9b)が形成されている。
【0024】
第2偏心部11bは、回転軸2における第2シリンダ室9b内に位置する部分に形成されている。第2偏心部11bは、回転軸2とは別体の偏心部材17によって形成されている。偏心部材17は、回転軸2の軸線Oに沿う中心軸を有する円柱状に形成されている。偏心部材17には、回転軸2が挿通する挿通孔25が形成されている。
【0025】
図4に示すように、回転軸2は、嵌合部20と中間軸部21とを有する。嵌合部20は、第2偏心部11b(偏心部材17)が設けられる。嵌合部20は、仕切板14の内周部と対向する中間軸部21より外径が小さく形成されている。したがって、嵌合部20と中間軸部21との境界には、径差によって段差部23が形成されている。嵌合部20は第2シリンダ室9b内に位置する。
【0026】
嵌合部20は、第1部分20aと第2部分20bとを有する。第1部分20aは上方側に位置し、外径が偏心部材17の挿通孔25の内径より僅かに大きい。第2部分20bは、第1部分20aの下方に位置し、外径が挿通孔25の内径より僅かに小さい。第1部分20aの外径は第2部分20bの外径より僅かに大きい。
【0027】
図4に示すように、回転軸2の外周面に、第1部分20aから第2部分20bに亘って、回転軸キー溝18Aが形成されている。回転軸キー溝18Aは、キー19と係合する係合溝である。回転軸キー溝18Aは、回転軸2の軸線Oに沿って形成されている。図3に示すように、軸線Oに垂直な面における回転軸キー溝18Aの断面の形状は、例えば矩形状である。
【0028】
挿通孔25は、偏心部材17の中心軸に対して径方向にずれた位置(偏心位置)に形成されている。挿通孔25は、平面視において例えば円形状に形成されている。
【0029】
挿通孔25の内周面の少なくとも一部は、回転軸2の第1部分20aの外周面に密着して当接する。これによって、偏心部材17と回転軸2との相対回転は、偏心部材17と回転軸2との間の摩擦力により規制される。偏心部材17は、第1部分20aに対して締り嵌め(例えば圧入、焼嵌め等)により装着されることによって、摩擦力で回転軸2の外周面に位置決めされることが好ましい。
【0030】
偏心部材17の線膨張係数は、回転軸2の線膨張係数より小さいことが好ましい。通常、圧縮負荷が大きいほど圧縮流体は高温となるため、偏心部材17と回転軸2は加熱されるが、偏心部材17の線膨張係数が回転軸2の線膨張係数より小さいことにより、圧縮負荷の増大に対し、偏心部材17と回転軸2との接合力が強くなり、偏心部材17と回転軸2との間のすべりを防止できる。そのため、偏心部材17の周方向θの位置のずれを抑制できる。よって、偏心部材17の位置ずれを原因とする振動および騒音を防ぐことができる。
【0031】
偏心部材17の線膨張係数は、回転軸2の線膨張係数より大きくてもよい。その場合、偏心部材17を回転軸2に焼嵌めにより密着して嵌合する場合に、低い温度で回転軸2に嵌合することが可能になるため、製造性が良好となる。また、偏心部材17が高温により変質あるいは変形しにくくなるため、製品の品質の点で好適である。
【0032】
偏心部材17と回転軸2の線膨張係数は、例えば、構成材料の組成によって定められる。線膨張係数の測定方法としては、JIS Z 2285:2003などがある。
【0033】
図3および図4に示すように、挿通孔25の内周面には、偏心部材キー溝18Bが形成されている。偏心部材キー溝18Bは、キー19と係合する係合溝である。図4に示すように、偏心部材キー溝18Bは、回転軸2の軸線Oに沿って形成されている。図3に示すように、軸線Oに垂直な面に沿う偏心部材キー溝18Bの断面の形状は、例えば矩形状である。
【0034】
図3および図4に示すように、キー19(回転阻止部材)は、回転軸キー溝18Aおよび偏心部材キー溝18Bに係合している。キー19は、例えば、キー溝18A,18Bに沿う方向に延在する矩形柱状とされている。キー19の内側部分は、回転軸キー溝18A内に入り込んで係合している。キー19の外側部分は、偏心部材キー溝18B内に入り込んで係合している。そのため、回転軸2と偏心部材17との相対的な周方向θの移動は規制される。よって、偏心部材17は、回転軸2の嵌合部20においてキー19により周方向θに位置決め可能である。
【0035】
回転軸2の嵌合部20は、外径がわずかに異なる第1部分20aと第2部分20bとを有する。そのため、偏心部材17を回転軸2に取り付ける際には、第2部分20bで偏心部材17を位置合わせし、第1部分20aで摩擦力を発生させることができる。
【0036】
嵌合部20は、外径が挿通孔25の内径より僅かに小さい第2部分20bを有する。そのため、偏心部材17を嵌合部20に対して圧入や焼嵌め等により摩擦力で固定する場合に、偏心部材17を回転軸2に装着する過程で、摩擦力が発生する前に、第2部分20bで偏心部材17の周方向θの位置をキー19で位置決めすることができる。そのため、容易に、確実かつ精度よく偏心部材17を回転軸2に固定でき、製造性および品質を高めることができる。
【0037】
図3に示すように、キー19を回転軸2に組み付けた状態において、回転軸2に直交する断面における、回転軸2の嵌合部20およびキー19に接する外接円C1を想定する。外接円C1の径Dkは、仕切板14の内径Dp(図4参照)より小さいことが好ましい。これにより、キー19を回転軸2に組み付けた後においても、キー19を含む部分を仕切板14が通過可能である。そのため、あらかじめ回転軸2にキー19を固定しておくことができることから、回転軸2とキー19との固定手法における自由度が増す。これにより、容易に組立てを行うことができる。
【0038】
図4に示すように、偏心部材17の内径は、回転軸2の中間軸部21の外径より小さい。そのため、偏心部材17は、回転軸2の段差部23に当接することにより回転軸2に沿う方向(図4の上方)の移動が規制される。この構造によれば、偏心部材17は、段差部23により軸線Oの方向の位置決めを正確に行うことができる。また、偏心部材17の位置決めのための冶具等が不要となり、部品点数を少なくできる。よって、製造性および品質向上の点で好適である。
【0039】
図1に示すように、第1偏心部11aと第2偏心部11bとは、例えば、同じ外径であってよい。第1偏心部11aと第2偏心部11bとは、偏心方向が周方向θ(軸線Oの周り方向)(図2参照)に180°の角度差をもって配置される。
【0040】
第2偏心部11bには第2ローラ12bが嵌合(外挿)されている。回転軸2の回転時に、第2ローラ12bは、その外周面を第2シリンダ10bの内周面に潤滑油膜を介して接触させながら偏心回転する。
【0041】
図2に示すように、第2シリンダ10b内には、ブレード13が設けられている。ブレード13の先端部は、第2ローラ12bの外周面に当接する。ブレード13は、第2シリンダ室9b内を2つの空間(吸込室46と圧縮室47)に仕切る。第2シリンダ10bには、スリット状のブレード溝24が形成されている。ブレード13はブレード溝24内にスライド可能に収容されている。
【0042】
図1に示すように、回転式圧縮機104では、電動機7の固定子5のコイルに電流が供給されることで、回転子6とともに回転軸2が軸線O周りに回転する。回転軸2の回転に伴い、偏心部11およびローラ12はシリンダ室9内で偏心回転する。このとき、ローラ12はシリンダ10の内周面に摺接する。これにより、シリンダ室9内にガス冷媒が取り込まれるとともに、シリンダ室9内に取り込まれたガス冷媒は圧縮される。圧縮されたガス冷媒は、密閉ケース1内に吐出される。密閉ケース1内に吐出されたガス冷媒は、凝縮器105に送り込まれる。
【0043】
回転式圧縮機104では、偏心部材17と回転軸2との間にキー19(回転阻止部材)が設けられる。そのため、液圧縮等により偏心部材17に瞬間的に大きな負荷が作用した場合でも、偏心部材17と回転軸2との相対的な位置ずれによる振動を抑制できる。また、偏心部材17が回転軸2に圧入等により装着されることにより、摩擦力によって偏心部材17の位置ずれが規制される。そのため、偏心部材17が周方向に動くことによりキー19に対して接触と非接触を繰り返すことを防止できる。従って、長時間運転した場合においても、キー19の摩耗や破損による、騒音の増大や故障の発生を防止できる。よって、低騒音・低振動で信頼性の高い回転式圧縮機を提供できる。
【0044】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について、図5に基づいて説明する。なお、第1の実施形態において説明した構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付け、重複する説明は省略する。
【0045】
図5は、第2の実施形態の回転式圧縮機を含む冷凍サイクル装置の概略構成図である。図5に示すように、冷凍サイクル装置200は、圧縮機本体102に代えて、回転式圧縮機204を備えた圧縮機本体202を用いる点で、第1の実施形態の冷凍サイクル装置100と異なる。
【0046】
圧縮機本体102では、仕切板214の内径は、回転軸2の中間軸部21の外径にほぼ等しい。そのため、仕切板214の内周面は中間軸部21の外周面に油膜を介して接する。よって、仕切板214は軸受けとして機能し、回転軸2を回転自在に支持する。
【0047】
回転式圧縮機204は、第1実施形態の回転式圧縮機104と同様に、偏心部材17と回転軸2との相対的な位置ずれによる振動を抑制できる。また、長時間運転した場合においても、キー19の摩耗や破損による、騒音の増大や故障の発生を防止できる。従って、低騒音・低振動で信頼性の高い回転式圧縮機を提供できる。
【0048】
回転式圧縮機204は、仕切板214が軸受けとして機能するため、回転軸2のたわみを抑制できる。そのため、回転式圧縮機204は、回転式圧縮機としての性能および信頼性の向上を図ることができる。
【0049】
以上、実施形態に係る回転式圧縮機および冷凍サイクル装置について説明したが、実施形態の構成は上記例に限定されない。
例えば、実施形態に係る回転式圧縮機104,204は、2つの圧縮機構部を備えているが、圧縮機構部の数は1でもよいし、3以上の任意の数であってもよい。圧縮機構部の数が3以上である場合には、回転軸の軸方向の一端側および他端側にある2つの圧縮機構部のうち少なくともいずれか一方において、偏心部が偏心部材で形成されていればよい。偏心部材は、回転軸とは別体であって、回転軸が挿通する挿通孔を有する。
【0050】
仕切板は、軸方向に隣り合う2つのシリンダの間に配置される。また、ブレードとローラとが一体となった構造(スイングタイプ)を有する圧縮機構部を用いることもできる。回転式圧縮機104,204では、2つの偏心部11の両方が偏心部材で形成され、これら偏心部材と回転軸との間にキー(回転阻止部材)が設けられていてもよい。第1部分20aの外径は挿通孔25の内径とほぼ同じでもよい。
【0051】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、偏心部材と回転軸との間に回転阻止部材が設けられる。そのため、液圧縮等により偏心部材に瞬間的に大きな負荷が作用した場合でも、偏心部材と回転軸との相対的な位置ずれによる振動を抑制できる。また、偏心部材が回転軸に圧入等により装着されることにより、摩擦力によって偏心部材の位置ずれが規制される。そのため、偏心部材が回転阻止部材に対して接触と非接触を繰り返すことを防止できる。従って、長時間運転した場合においても、回転阻止部材の摩耗や破損による、騒音の増大や故障の発生を防止できる。よって、低騒音・低振動で信頼性の高い回転式圧縮機を提供できる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0053】
1…密閉ケース、2…回転軸、8…圧縮機構部、8a…第1圧縮機構部、8b…第2圧縮機構部、9…シリンダ室、9a…第1シリンダ室、9b…第2シリンダ室、10…シリンダ、10a…第1シリンダ、10b…第2シリンダ、11…偏心部、11a…第1偏心部、11b…第2偏心部、12…ローラ、12a…第1ローラ、12b…第2ローラ、14,214…仕切板、17…偏心部材、18A…回転軸キー溝(係合溝)、18B…偏心部材キー溝、19…キー(回転阻止部材)、20…嵌合部、20a…第1部分、20b…第2部分、21…中間軸部、100,400…冷凍サイクル装置、104,104A,104B…回転式圧縮機、105…凝縮器(放熱器)、106…膨張装置、107…蒸発器(吸熱器)、25…挿通孔、C1…外接円、O…軸線。
図1
図2
図3
図4
図5