(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】ロボットユニット
(51)【国際特許分類】
B25J 19/00 20060101AFI20231120BHJP
B23Q 11/08 20060101ALI20231120BHJP
B23Q 7/04 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
B25J19/00 H
B23Q11/08 Z
B23Q7/04 M
(21)【出願番号】P 2018177806
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森村 章一
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-94791(JP,A)
【文献】実開昭60-17991(JP,U)
【文献】特開2001-62772(JP,A)
【文献】特開2016-159363(JP,A)
【文献】特開平3-287395(JP,A)
【文献】特開平7-164373(JP,A)
【文献】特開2010-274373(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
B23Q 7/04
B23Q 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節を介して接続された複数のアームを有するアーム型ロボットであるロボット本体と、
1以上の前記アームの周面の少なくとも一部を覆って保護する1以上の保護用ハウジングと、
を備え、前記1以上のアームの周面には、前記保護用ハウジングを着脱可能な1以上の接続部が設けられており、
前記保護用ハウジングは、前記アームの周方向に2以上に分割されており、
一つの前記接続部に装着可能な保護用ハウジングが複数種類用意されており、
前記複数種類の保護用ハウジングは、素材および形状の少なくとも一方が異なっており、
前記ロボット本体を交換することなく、前記一つの接続部に装着する保護用ハウジングが交換可能である、
ことを特徴とするロボットユニット。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットユニットであって、
前記1以上の保護用ハウジングは、2以上の前記アームに跨る形状の一体型の保護用ハウジングを1以上含み、
各一体型ハウジングは、
2以上の保護部であって、それぞれが対応する1つのアームの周面の少なくとも一部を覆うように構成された2以上の保護部と、
2つの前記保護部の相対的な姿勢関係を変更可能な状態で当該2つの保護部を分離不能に連結する1以上の連結部と、
を有することを特徴とするロボットユニット。
【請求項3】
請求項1または2に記載のロボットユニットであって、
前記1以上の保護用ハウジングは、一つのアームのみを覆う形状の分割型の保護用ハウジングを1以上含む、ことを特徴とするロボットユニット。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のロボットユニットであって、
前記保護用ハウジングは、耐熱温度、硬度、耐薬品性、耐化学性の少なくとも一つが、前記アームの筐体よりも高い材料で構成されている、ことを特徴とするロボットユニット。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のロボットユニットであって、
前記保護用ハウジングは、外部環境と前記アームの筐体との間の伝熱を阻害する断熱材または断熱構造を含む、ことを特徴とするロボットユニット。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のロボットユニットであって、さらに、
前記ロボット本体には、エンドエフェクタが着脱可能な1以上のエフェクタ装着部が設けられており、
一つの前記エフェクタ装着部にエンドエフェクタが交換できるように、当該一つ
のエフェクタ装着部に装着可能なエンドエフェクタが複数種類用意されている、
ことを特徴とするロボットユニット。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のロボットユニットであって、
前記ロボット本体は、工作機械の加工室内に設置されている、ことを特徴とするロボットユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、関節を介して接続された複数のアームを有するアーム型ロボットであるロボット本体を含むロボットユニットを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、関節を介して接続された複数のアームを有するアーム型ロボットが広く知られている。こうしたアーム型ロボットは、例えば、工場に設置され、製品の製造に利用されている。また、近年では、工場の中でも特に、工作機械の加工室内にアーム型ロボットを設置することが一部で提案されている。例えば、特許文献1には、工作機械の主軸にアーム型ロボットを設置することが開示されている。また、特許文献2では、工作機械の刃物台に、特許文献3では、工作機械の工具主軸に、アーム型ロボットを設置することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-202548号公報
【文献】特開2017-213658号公報
【文献】特開2018-020402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたアーム型ロボットの周辺環境は、適宜、変化することがある。例えば、特許文献1~3において、アーム型ロボットは、工作機械の加工室内に設置されている。この加工室内は、ワークの加工実行中には、切粉や切削水が飛散する。また、加工内容によっては、大きな振動や熱が生じることもある。こうした切粉や切削水、振動、熱などは、いずれも、アーム型ロボットを劣化させる劣化要因となる。
【0005】
アーム型ロボットは、こうした切粉や切削水、振動、熱などに耐えられるような耐久構造を有することが求められる。しかし、こうした劣化要因の種類は、工作機械で実行される加工の種類によって変化する。また、こうした劣化要因からアーム型ロボットが受ける影響の大きさは、加工実行時におけるアーム型ロボットの位置(特に加工点に対する相対的位置)等によって大きく変化する。そのため、周辺環境やアーム型ロボットの使用状況に応じて、アーム型ロボットに求められる耐久構造も変化する。しかし、従来、周辺環境やアーム型ロボットの使用状況に応じて耐久構造を変化でき得るロボットは無かった。
【0006】
そこで、本明細書では、周辺環境やロボットの使用状況に応じてアーム型ロボットの耐久構造を変更でき得るロボットユニットを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示するロボットユニットは、関節を介して接続された複数のアームを有するアーム型ロボットであるロボット本体と、1以上の前記アームの周面の少なくとも一部を覆って保護する1以上の保護用ハウジングと、を備え、前記1以上のアームの周面には、前記保護用ハウジングを着脱可能な1以上の接続部が設けられており、前記保護用ハウジングは、前記アームの周方向に2以上に分割されており、一つの前記接続部に装着可能な保護用ハウジングが複数種類用意されており、前記複数種類の保護用ハウジングは、素材および形状の少なくとも一方が異なっており、前記ロボット本体を交換することなく、前記一つの接続部に装着する保護用ハウジングが交換可能である、ことを特徴とする。
【0008】
かかる構成とした場合、周辺環境やロボットの使用状況に応じて、保護用ハウジングを着脱することができ、ひいては、アーム型ロボットの耐久構造を変更できる。また、かかる構成とすることで、保護用ハウジングをアームに装着しやすくなる。また、かかる構成とすることで、周辺環境やロボットの使用状況に応じて、保護用ハウジングを交換することができ、ひいては、アーム型ロボットの耐久構造をより自由に変更できる。
【0009】
この場合、前記1以上の保護用ハウジングは、2以上の前記アームに跨る形状の一体型の保護用ハウジングを1以上含み、各一体型ハウジングは、2以上の保護部であって、それぞれが対応する1つのアームの周面の少なくとも一部を覆うように構成された2以上の保護部と、2つの前記保護部の相対的な姿勢関係を変更可能な状態で当該2つの保護部を分離不能に連結する1以上の連結部と、を有してもよい。
【0010】
かかる構成とすることで、アーム型ロボットの関節部分も保護用ハウジングで覆うことができ、関節部分も適切に保護できる。
【0011】
また、前記1以上の保護用ハウジングは、一つのアームのみを覆う形状の分割型の保護用ハウジングを1以上含んでもよい。
【0012】
かかる構成とすることで、保護用ハウジングが、2以上のアームに跨らないため、保護用ハウジングによりアームの動きが規制されにくい。
【0015】
また、前記保護用ハウジングは、耐熱温度、硬度、耐薬品性、耐化学性の少なくとも一つが、前記アームの筐体よりも高い材料で構成されていてもよい。
【0016】
かかる構成とすることで、ロボット本体単体の場合に比べて、ロボットユニットの耐熱性、耐衝撃性、耐薬品性、耐化学性を向上できる。
【0017】
また、前記保護用ハウジングは、外部環境と前記アームの筐体との間の伝熱を阻害する断熱材または断熱構造を含んでもよい。
【0018】
かかる構成とすることで、ロボット内部への熱の伝わりを減らすことができ、モータやエンコーダ等の温度上昇による故障を避けることができる。
【0021】
また、さらに、前記ロボット本体には、エンドエフェクタが着脱可能な1以上のエフェクタ装着部が設けられており、一つの前記エフェクタ装着部にエンドエフェクタが交換できるように、当該一つのエフェクタ装着部に装着可能なエンドエフェクタが複数種類用意されていてもよい。
【0022】
かかる構成とすることで、ロボットユニットを、種々の用途に用いることができ、ロボットユニットの汎用性を向上できる。
【0023】
また、前記ロボット本体は、工作機械の加工室内に設置されていてもよい。
【0024】
かかる構成とすることで、工作機械で、より多用な作業が可能となり、工作機械の生産性を向上できる。
【発明の効果】
【0025】
本明細書で開示するロボットユニットによれば、周辺環境やロボットの使用状況に応じて、保護用ハウジングを着脱することができ、ひいては、アーム型ロボットの耐久構造を変更できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】ロボットユニットが組み込まれた工作機械の概略的な断面図である。
【
図3】分割型の保護用ハウジングの一例を示す図である。
【
図4】一体型の保護用ハウジングの一例を示す図である。
【
図5A】ワンタッチロック機構の一例を説明する図である。
【
図5B】ワンタッチロック機構の一例を説明する図である。
【
図5C】ワンタッチロック機構の一例を説明する図である。
【
図6】他のロボットユニットの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照してロボットユニット10の構成について説明する。
図1は、ロボットユニット10が組み込まれた工作機械100の概略的な断面図である。また、
図2は、ロボットユニット10の概略分解斜視図である。なお、
図1では、説明を容易にするために、ロボットユニット10の保護用ハウジング16の図示を省略している。また、以下の説明では、主軸108の回転軸と平行な方向をZ軸、刃物台110のZ軸と直交する移動方向と平行な方向をX軸、X軸およびZ軸に直交する方向をY軸と呼ぶ。
【0028】
はじめにロボットユニット10が組み込まれる工作機械100について簡単に説明する。この工作機械100は、自転するワーク(
図1、
図2では図示せず)に刃物台110で保持した工具114を当てることで、ワークを加工する旋盤である。より具体的には、この工作機械100は、NC制御されるとともに、複数の工具114を保持するタレット112を備えたターニングセンタである。
【0029】
工作機械100の加工室102の周囲は、カバー104で覆われている。加工室102の前面には、大きな開口が形成されており、この開口は、ドア106により開閉される。工作機械100は、ワークの一端を自転可能に保持する主軸装置と、工具114を保持する刃物台110と、ワークの他端を支える心押台(図示せず)と、を備えている。主軸装置は、回転モータ等を内蔵した主軸台(図示せず)と、当該主軸台に取り付けられた主軸108と、を備えている。主軸108は、ワークを着脱自在に保持するチャック116やコレットを備えており、保持するワークを適宜、交換できる。また、主軸108およびチャック116は、水平方向(Z軸方向)に延びる回転軸を中心として自転する。
【0030】
心押台は、Z軸方向に、主軸108と対向して配置されており、主軸108で保持されたワークの他端を支える。心押台は、ワークに対して接離できるように、Z軸方向に移動可能となっている。
【0031】
刃物台110は、工具114、例えば、バイトと呼ばれる旋削用工具を保持する。この刃物台110は、Z軸およびX軸と平行な方向に移動可能となっており、刃物台110が移動することで工具114の刃先位置が変更できる。
【0032】
タレット112は、Z軸方向視で多角形をしており、Z軸に平行な軸を中心として回転可能となっている。このタレット112の周面には、1以上の工具114が着脱自在に取り付けられており、タレット112を回転させることで、加工に使用する工具114を変更できるようになっている。
【0033】
制御装置118は、オペレータからの指示に応じて、工作機械100の各部の駆動を制御する。この制御装置118は、例えば、各種演算を行うCPUと、各種制御プログラムや制御パラメータを記憶するメモリと、を有する。また、制御装置118は、通信機能を有しており、他の装置との間で各種データ、例えば、NCプログラムデータ等を授受できる。この制御装置118は、例えば、工具114やワークの位置を随時演算する数値制御装置を含んでもよい。また、制御装置118は、単一の装置でもよいし、複数の演算装置を組み合わせて構成されてもよい。また、後述するロボットユニット10は、この制御装置118により駆動制御されてもよいし、工作機械の制御装置118とは別の制御装置により駆動制御されてもよい。
【0034】
加工室102内には、さらに、ロボットユニット10が設けられている。ロボットユニット10は、ロボット本体12と、当該ロボット本体12に装着されたエンドエフェクタ14と、ロボット本体12の外表面を覆う保護用ハウジング16a~16c(
図1では図示せず)と、を備えている。なお、保護用ハウジング16a~16cを特に区別しない場合は、添字アルファベットを省略して、単に「保護用ハウジング16」と記載する。他部材も同じである。ロボット本体12は、関節を介して接続された複数(図示例では3つ)のアーム18a~18cを有したアーム型ロボットである。本例において、ロボット本体12は、加工室102の床面に設置されている。ただし、当然ながら、ロボット本体12は、他の箇所に設置されてもよい。例えば、ロボット本体12は、加工室102の側面や、主軸108等に設置されてもよい。また、ロボット本体12は、加工室102内で移動する移動体、例えば、刃物台110やタレット112、心押台等に設置されてもよい。ロボット本体12を移動体に設置することでロボット本体12の可動範囲を広げることができる。また、ロボット本体12を、フライス盤やマシニングセンタ、複合加工機に設置する場合、当該ロボット本体12は、主軸頭や、ワークが載置されるテーブル等に設置されてもよい。
【0035】
本例のロボット本体12は、
図2に示すように、水平軸周りに揺動可能(垂直面内で揺動可能)なアーム18を3つ有した垂直多関節ロボットである。ロボット本体12の根元には、垂直軸周りに回転可能な回転関節19が設けられている。アーム18は、中空の筐体を有している。筐体は、例えば金属(例えばアルミニウム等)からなる。このアーム18の筐体の内部には、アクチュエータ(例えばモータ等)や伝達機構(例えばギヤ等)、センサ(例えばロータリーエンコーダ等)が内蔵されており、アクチュエータが駆動することでアーム18が揺動する。また、アーム18の筐体の内部には、各種信号や電力を送受するための配線も収容されている。
【0036】
各アーム18の外表面には、後述する保護用ハウジング16を着脱可能な接続部22が設けられている。この接続部22は、保護用ハウジング16を着脱できるのであれば、その個数および形態は、特に限定されない。したがって、接続部22は、保護用ハウジング16を螺合により着脱する螺子穴でもよいし、保護用ハウジング16を嵌合により着脱する係合爪や係合溝などでもよい。また、別の形態として、接続部22は、バネ50や磁石の力を用いて保護用ハウジング16を着脱する構成でもよい。さらに、接続部22は、工具114を用いることなく、ワンタッチで、保護用ハウジング16を着脱できるワンタッチクランパでもよい。なお、「ワンタッチ」とは、押す、引く、回す、のいずれか一つの動作のみを行なうことを意味する。こうしたワンタッチクランパの一例については、後に詳説する。
【0037】
ロボット本体12には、エンドエフェクタ14が設けられている。エンドエフェクタ14は、対象物にアクセスして何らかの作用を発揮するものである。ここで、「アクセス」するとは、当該エンドエフェクタ14の目的を達成できる位置まで、エンドエフェクタ14を対象物に接近させることを意味する。したがって、エンドエフェクタ14が、接触して温度を検知する温度センサである場合、「アクセスする」とは、当該エンドエフェクタ14が対象物に接触することを意味する。また、エンドエフェクタ14が、非接触で温度を検知する温度センサである場合、「アクセスする」とは、当該エンドエフェクタ14が対象物の温度が検知できる位置まで対象物に接近することを意味する。
【0038】
一つのロボット本体12に装着されるエンドエフェクタ14は、1つでもよいし、複数でもよい。また、エンドエフェクタ14は、ロボット本体12の先端に装着されてもよいし、ロボット本体12の途中に装着されてもよい。本例では、ロボット本体12の先端に1つのエンドエフェクタ14を装着している。
【0039】
また、エンドエフェクタ14は、上述したとおり、何らかの作用を発揮するものであれば、特に限定されない。したがって、エンドエフェクタ14は、例えば、対象物を保持する保持装置(例えばハンド機構、吸引保持機構等)であってもよい。また、別の形態として、エンドエフェクタ14は、例えば、対象物や対象物の周辺環境に関する情報をセンシングするセンサ(例えば温度センサ、振動センサ、接触センサ、圧力センサ等)。また、別の形態として、例えば、エンドエフェクタ14は、対象物を押圧する押圧機構でもよい。例えば、エンドエフェクタ14は、ワークの回転を許容した状態で当該ワークを押圧して振動を抑制するローラ等でもよい。また、別の形態として、エンドエフェクタ14は、加工を補助するための流体(例えばエアや切削油、切削水等)を出力する装置でもよい。また、エンドエフェクタ14は、ワーク造形のためエネルギ(例えばレーザ、アーク等)または材料(例えば積層造形用材料)を放出する装置でもよい。さらに別の形態として、エンドエフェクタ14は、対象物を撮影するカメラでもよい。
【0040】
こうしたエンドエフェクタ14は、ロボット本体12から着脱自在であり、状況に応じてエンドエフェクタ14の種類を交換できてもよい。例えば、加工開始前は、ロボット本体12に、ハンド機構のエンドエフェクタ14を装着し、当該ハンド機構を利用してワークの搬送を行う。そして、ワーク搬送後は、温度センサのエンドエフェクタ14に交換し、加工中のワークや工具114の温度をセンシングするようにしてもよい。かかる構成とすることで、ロボットユニット10の汎用性が広がる。なお、当然ながら、エンドエフェクタ14は、ロボット本体12に分離不能に装着されていてもよい。なお、図示例では、一つのエンドエフェクタ14を、ロボット本体12の先端に設けている。しかし、一つのロボット本体12に装着されるエンドエフェクタ14の数は、限定されず、1つでもよいし、複数でもよい。また、エンドエフェクタ14の装着位置は、ロボット本体12の先端でもよいし、ロボット本体12の中間位置でもよい。
【0041】
ロボットユニット10は、さらに、1以上のアーム18の周面の少なくとも一部を覆って保護する保護用ハウジング16を有している。保護用ハウジング16は、上述した接続部22を介して、ロボット本体12に着脱自在となっている。かかる保護用ハウジング16を設ける理由について簡単に説明する。
【0042】
上述したとおり、本例のロボット本体12は、工作機械100の加工室102内に設置される。かかるロボット本体12に求められる特性は、加工の状況やロボット本体12の位置(特に加工点に対する相対的な位置)によって大きく異なる。例えば、ワークの加工中、加工室102内には、切粉や切削水等が飛散する。ロボット本体12のアーム18を、こうした切粉等が当たる位置に移動させた場合、当該アーム18を、切粉等から保護する必要がある。ただし、切粉の特性は、加工条件等によって変化する。例えば、硬い切粉が飛散する場合、アーム18は、多少重かったりサイズが大きくても硬い筐体を有することが望まれる。一方、柔らかく連続した切粉が飛散する場合、アーム18は、硬度が多少低くても軽量な筐体を有することが望まれる。さらに、切粉が高温の場合には、アーム18は、耐熱性に優れた筐体を有することが望まれる。さらに、切削水や切削油が飛散する状況下では、これらが関節の隙間などに入り込まないことが望まれる。
【0043】
さらに、エンドエフェクタ14が交換可能なロボットユニット10の場合、ロボット本体12の使用形態は、エンドエフェクタ14の種類によっても変化する。使用形態が異なれば、ロボット本体12の望ましい構成、特に耐久性も大きく変化する。
【0044】
つまり、従来、ロボット本体12の望ましい特性、特に、耐久性は、適宜、変化するため、ロボット本体12が常に十分な耐久性を確保することは難しかった。そこで、本例では、アーム18に着脱自在の保護用ハウジング16を複数種類設け、状況に応じて、アーム18に装着する保護用ハウジング16を交換できるようにしている。これにより、ロボットユニット10の特性、特に耐久性能を、状況に応じて変更することができる。そして、結果として、ロボットユニット10の寿命を向上できたり、加工の質をより向上できたりする。以下、この保護用ハウジング16について詳説する。
【0045】
保護用ハウジング16としては、一つのアーム18のみを覆う形状の分割型と、2以上のアーム18に跨る形状の一体型と、がある。
図2、
図3は、分割型の保護用ハウジング16の一例を示す図であり、
図4は、一体型の保護用ハウジング16の一例を示す図である。
【0046】
分割型の保護用ハウジング16は、一つのアーム18のみを覆う形状である。換言すれば、一つのアーム18を覆う保護用ハウジング16と、他のアーム18を覆う保護用ハウジング16は、完全に分離している。本例では、一つのアーム18を保護する保護用ハウジング16は、周方向に2分割されている。以下では、分割された保護用ハウジング16をハウジング片26と呼ぶ。各保護用ハウジング16は、少なくとも、その形状を保持できる程度の硬さを有している。また、各保護用ハウジング16は、隣接するアーム18の動き(揺動)を阻害しないように、隣接する保護用ハウジング16との間に若干の隙間を形成している。分割型の保護用ハウジング16によれば、保護用ハウジング16がアーム18ごとに分割されているため、当該保護用ハウジング16によりアーム18の動きが規制されにくい。また、アーム18ごとに保護用ハウジング16の特性を変えられるため、ロボット本体12をより適切に保護できる。
【0047】
保護用ハウジング16は、2以上のアーム18に跨る形状である。この保護用ハウジング16も、周方向に2分割されており、ハウジング片26を構成する。各ハウジング片26は、複数の保護部28と、この複数の保護部28を連結する連結部30と、を有している。保護部28は、アーム18の周面の少なくとも一部を覆うもので、少なくとも、その形状を保持できる程度の硬さを有している。連結部30は、複数の保護部28を連結するもので、主に、関節部分を覆う。この連結部30は、自由に変形できる程度の柔軟性を有しており、例えば、ゴムシートやプラスチックシート、蛇腹素材等で構成される。かかる連結部30を設けることで、関節の動きに応じて、2つの保護部28の相対的な姿勢関係が変更可能となる。一体型の保護用ハウジング16によれば、関節部も含めて覆われて保護されるため、ロボットユニット10の防水性や防塵性を高めることができる。
【0048】
こうした保護用ハウジング16の材料や形状等は、保護用ハウジング16の目的に応じて、適宜、変更されてもよい。ただし、保護用ハウジング16のうちアーム18の周面を覆う部分(分割型の場合、ハウジング全体、一体型の場合、保護部28、以下、まとめて「アーム被覆部」という)は、その形状を保持できる程度の硬さを有していることが望ましい。したがって、アーム被覆部は、金属や、硬質プラスチック、カーボン等で構成されることが望ましい。
【0049】
ここで、硬い切粉が飛散する状況で使用される場合、アーム被覆部は、アーム18の筐体よりも硬い材料、より望ましくは、当該切粉よりも硬い材料で構成されることが望ましい。また、柔らかく連続した切粉が飛散する状況で使用される場合、アーム被覆部は、硬度が低め(例えば当該切粉と同程度の硬度)でも、軽い材料で構成されることが望ましい。また、切粉がロボットに付着したり絡み付いたりしないような形状(例えば流線型)にしてもよい。また、高温の切粉が飛散する状況で使用される場合、アーム被覆部は、アーム18の筐体よりも耐熱性が高い材料で構成されることが望ましい。また、この場合、アーム被覆部は、その全体、または、その一部に、外部環境とアーム18の筐体との間の伝熱を阻害する断熱材料(例えばグラスウール等)または断熱構造を含んでもよい。
【0050】
また、切削水や切削油といった液体が飛散する状況で使用される場合、保護用ハウジング16は、液密性を有することが望ましい。例えば、この場合、保護用ハウジング16は、一体型とし、連結部30を防水材料で構成する。また、保護部28の周縁に、シール部材32(例えばゴム等、
図4参照)を設け、当該シール部材32がアーム18の外表面または他のハウジング片26に密着するようにしてもよい。また、切削水の中に金属を侵食させるような強力なものもあるため、保護用ハウジング16は、アーム18の筐体よりも耐薬品性、耐化学性に優れるものが望ましい。
【0051】
さらに、保護用ハウジング16は、ロボット本体12の動剛性や固有振動数を変化させるために用いられてもよい。例えば、ワークの振動を低減するために、エンドエフェクタ14(例えばローラ等)をワークに押し当てる場合がある。この場合、ロボット本体12の動剛性は、高いことが望ましい。また、ロボット本体12とワークとの共振を避けるために、ロボット本体12の固有振動数を変化させたい場合もある。そこで、こうした場合には、ロボット本体12に、錘として機能する保護用ハウジング16を装着し、ロボット本体12の動剛性や固有振動数を変化させてもよい。また、ロボット本体12の撓みは、ワーク等の対象物の重さにより異なってしまうが、保護用ハウジング16の重さを調節することで、この撓み量を調整してもよい。かかる構成とすることで、位置決め精度を向上することができる。いずれにしても、保護用ハウジング16を錘として利用するために、質量の異なる保護用ハウジング16を複数種類、用意しておいてもよい。
【0052】
また、アーム被覆部は、その表面が保護塗膜(例えばメッキ等)で被覆されていてもよい。かかる構成とすれば、必要に応じて保護塗膜を補修することで、アーム被覆部の性能を維持することができ、ひいては、保護用ハウジング16の寿命を向上できる。なお、こうした補修は、加工室102の外部で行ってもよいし、加工室102の内部で行ってもよい。例えば、加工室102の内部に補修装置120(例えば塗膜装置等、
図1参照)を設置しておき、定期的に、あるいは、保護塗膜の劣化度合いに応じて、保護塗膜を補修してもよい。保護塗膜を補修する際には、ロボット本体12を駆動して、ロボット本体12に装着された保護用ハウジング16を当該補修装置120の近傍まで移動させる。そして、その状態で補修装置120を稼動させることで、保護用ハウジング16の保護塗膜を補修する。
【0053】
いずれにしても、こうした保護用ハウジング16は、予め、複数種類、用意しておくことが望ましい。この場合、複数種類の保護用ハウジング16は、材料および形状の少なくとも一方が互いに異なる。そして、ロボット本体12の使用形態や使用環境、加工の進行状況等に応じて選択された保護用ハウジング16を、ロボット本体12に装着するようにしてもよい。また、場合によっては、保護用ハウジング16を取り付けることなく、すなわち、アーム筐体を外部に露出した状態で、ロボット本体12を使用してもよい。
【0054】
なお、保護用ハウジング16の交換は、ユーザが手動で行ってもよいし、機械を用いて自動的に行ってもよいし、ロボット自らが行ってもよい。例えば、加工室102内に、2以上のロボットユニット10を設置しておき、一つのロボットユニット10で、他のロボットユニット10の保護用ハウジング16を交換するようにしてもよい。また、別の形態として、工作機械100に、保護用ハウジング16の搬送装置を設けておき、ロボット本体12が当該搬送装置と協働することで保護用ハウジング16を交換してもよい。
【0055】
ここで、保護用ハウジング16は、ロボット本体12に装着された場合、その離脱を防止するべくロックされる必要がある。そして、保護用ハウジング16をロボット本体12から取り外す際には、当該ロックが解除される必要がある。保護用ハウジング16を自動交換する場合、この保護用ハウジング16を着脱するためのロックを、簡易な操作、例えば、ワンタッチで、ロック/ロック解除できることが望ましい。ワンタッチロック機構としては、公知の機構を利用することができる。ここでは、
図5A~
図5Cを参照して、ワンタッチロック機構の一例を説明する。
図5A~
図5Cの例では、ロックピン44が保護用ハウジング16に、ロックケース42がロボット本体12のアーム筐体20に固着されている。なお、この場合、ロックケース42が、保護用ハウジング16を着脱する接続部22として機能する。
【0056】
ロックケース42は、ロックピン44が挿し込まれる略筒状である。このロックケース42の内周面には、下方に進むにつれ径方向外側に進むテーパ面56が設けられている。そして、このテーパ面56があることで、ロックケース42の下側の内径φ2は、上側の内径φ1よりも大きくなっている。
【0057】
ロックピン44は、軸方向に貫通孔が形成された外筒46と、当該外筒46内で昇降する昇降ピン48と、を有している。外筒46の下端近傍には、径方向に貫通する小孔が形成されている。後述するロックボール52は、この小孔内に配置されている。昇降ピン48は、その途中でくびれており、局所的に縮径している。そのため、昇降ピン48には、下方に進むにつれて径方向外側に進むテーパ面58が存在する。昇降ピン48の昇降に伴い、このテーパ面58とロックボール52との当接関係が変化することで、ロックボール52が径方向に進退する。この昇降ピン48は、バネ50により上方に付勢されている。
【0058】
ロックボール52は、外筒46に形成された小孔に配されている。
図5Aに示すように、バネ50の付勢力により昇降ピン48が上方に位置している場合、ロックボール52は、テーパ面58により径方向外側に押圧される。その結果、ロックボール52の一部は、外筒46の外周面よりも外側に飛び出す。このとき、ロックボール52高さでのロックピン44の外径φ3は、ロックケース42の上側内径φ1よりも大きく、ロックケース42の下側内径φ2よりも小さい。また、
図5Bに示すように、昇降ピン48を、バネ50の付勢力に抗して下方に押した場合、ロックボール52と同じ高さ位置に、昇降ピン48のクビレ部分が位置することになる。この場合、ロックボール52は、外筒46の外面より径方向内側に入り込むことができる。そして、外筒46の外径φ4は、ロックケース42の上側内径φ1よりも小さいため、この状態になれば、ロックピン44を、ロックケース42に挿し込むことができる。
【0059】
かかる構成において、保護用ハウジング16をアーム筐体20に装着する場合には、まず、昇降ピン48を、バネ50の付勢力に抗して下方に押圧する。そして、その状態になれば、ロックピン44を、ロックケース42に挿し込む。このとき、昇降ピン48のクビレ部分が、ロックボール52と同じ高さ位置にあるため、ロックボール52は、外筒46の外面よりも内側に入り込むことができる。その結果、この状態であれば、ロックピン44を、ロックケース42に挿し込むことができる。
【0060】
ロックピン44をロックケース42に完全に挿し込むと、
図5Cに示すように、ロックボール52は、ロックケース42のテーパ面56とほぼ同じ高さに位置する。この状態で、昇降ピン48の押圧を解除すると、昇降ピン48は、バネ50の力により上昇する。その結果、昇降ピン48のテーパ面58がロックボール52の下側に当接し、ロックボール52が径方向側に進出する。この状態になれば、ロックボール52が、ロックケース42のテーパ面56に係合することになるため、ロックピン44のロックケース42からの抜けが阻害される。そして、これにより、保護用ハウジング16がアーム筐体20に装着される。アーム筐体20から保護用ハウジング16を離脱させるときには、昇降ピン48を下方に押圧した状態で、ロックピン44ごと保護用ハウジング16をアーム筐体20から引き離せばよい。
【0061】
以上の説明から明らかなとおり、
図5に示す構成によれば、昇降ピン48を押圧/押圧解除するという単純な操作で、保護用ハウジング16のアーム18への装着状態を、ロック解除/ロックできる。その結果、保護用ハウジング16の交換をロボット等を用いて容易に自動化できる。
【0062】
また、これまでの説明では、ロボット本体12が、垂直多関節ロボットである場合を例に挙げて説明したが、ロボット本体12は、関節を介して接続された複数のアーム18を有するのであれば、他の形態のロボットでもよい。例えば、ロボット本体12は、
図6に示すように、垂直軸周りに揺動可能(すなわち水平面内で揺動可能)な複数のアーム18a,18bと、鉛直方向に直進退可能な先端アーム18tと、を有したスカラ型ロボットであってもよい。この場合にも、アーム18の周面には、保護用ハウジング16が着脱可能な接続部22を設けておく。また、必要に応じて、この接続部22を介して、保護用ハウジング16を装着すればよい。
【0063】
なお、保護用ハウジング16は、全てのアーム18に装着される必要はなく、特定のアーム18だけ、例えば、最も先端側に位置するアーム18だけに保護用ハウジング16を装着してもよい。また、保護用ハウジング16は、アーム18および関節だけでなく、エンドエフェクタ14の一部も覆う構成としてもよい。
【0064】
また、これまで説明したロボットユニット10は、工作機械100の加工室102内に限らず、他の場所に設置されてもよい。例えば、ロボットユニット10は、他の機器に組み込まれてもよいし、他の機器に組み込まれず独立して設置されてもよい。例えば、ロボットユニット10は、生産ラインの途中に独立して設置されてもよい。また、ロボットユニット10は、屋外環境に設置されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 ロボットユニット、12 ロボット本体、14 エンドエフェクタ、16 保護用ハウジング、18 アーム、19 回転関節、20 アーム筐体、22 接続部、26 ハウジング片、28 保護部、30 連結部、32 シール部材、42 ロックケース、44 ロックピン、46 外筒、48 昇降ピン、50 バネ、52 ロックボール、56,58 テーパ面、100 工作機械、102 加工室、104 カバー、106 ドア、108 主軸、110 刃物台、112 タレット、114 工具、116 チャック、118 制御装置、120 補修装置。