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特許7387277抵抗材料、抵抗器及び抵抗材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】抵抗材料、抵抗器及び抵抗材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/00 20060101AFI20231120BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20231120BHJP
   B22F 1/148 20220101ALI20231120BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20231120BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20231120BHJP
【FI】
H01C7/00 320
B22F1/14 500
B22F1/148
B22F3/10 G
C22C1/05 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019072722
(22)【出願日】2019-04-05
(65)【公開番号】P2020170817
(43)【公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 周平
(72)【発明者】
【氏名】仲村 圭史
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-001402(JP,A)
【文献】特開2004-172250(JP,A)
【文献】特開2018-133539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
B22F 1/14
B22F 1/148
B22F 3/10
C22C 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流を検出するための抵抗材料であって、
ニクロム、銅マンガン及び銅ニッケルからなる群から選択される金属粒子と、アルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素及びジルコニアからなる群から選択される絶縁粒子と、酸化チタンと、からなる焼結体であり、
溶融していない前記絶縁粒子の周りに、前記金属粒子が溶融して接触した金属体によって三次元網目状に連結された、
抵抗材料。
【請求項2】
請求項1に記載の抵抗材料であって、
前記絶縁粒子は、前記金属粒子同士が接触した前記金属体によって囲まれ、
前記酸化チタンは、少なくとも前記金属体に分散している、
抵抗材料。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の抵抗材料であって、
前記絶縁粒子の体積比が前記金属粒子の体積比以上である抵抗材料。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の抵抗材料であって、
該抵抗材料に対する前記酸化チタンの割合が3vol%以下である抵抗材料。
【請求項5】
請求項1に記載の抵抗材料であって、
抵抗温度係数が-200ppm以上50ppm以下である抵抗材料。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の抵抗材料と、
前記抵抗材料を挟む二つの電極と、
を有する抵抗器。
【請求項7】
抵抗材料の製造方法であって、
アルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素及びジルコニアからなる群から選択された絶縁性を有する絶縁粉末と、ニクロム、銅マンガン及び銅ニッケルからなる群から選択された導電性を有する金属粉末と酸化チタンの粉末とを混合し、
混合により得られた混合粉を前記金属粉末の融点よりも低い所定の温度において加圧しながら焼結することで、前記絶縁粉末を形成する絶縁粒子と前記金属粉末を形成する金属粒子のうち、溶融していない前記絶縁粒子の周りに、前記金属粒子が溶融して接触した金属体によって三次元網目に連結された、前記金属粒子と、前記絶縁粒子と、前記酸化チタンからなる焼結体からなる抵抗材料を得る、抵抗材料の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の抵抗材料の製造方法であって、
前記酸化チタンの粉末の平均粒径は、前記金属粉末の平均粒径以下である、
抵抗材料の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の抵抗材料の製造方法であって、
前記酸化チタンの粉末の平均粒径は、10nm以上である、
抵抗材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流を検出するための抵抗材料、抵抗器及び抵抗材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、マトリックス材料の粒子と金属材料の粒子とを混合して焼結した抵抗材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-001402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の抵抗材料においては、マトリックス材料として絶縁性を有する粒子が用いられているため、比抵抗を大きくすることはできるものの、温度変化による抵抗値の変動を所望の設計範囲まで下げることは困難であった。
【0005】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、比抵抗を増大させるとともに抵抗値の変動を制御可能にする抵抗材料、抵抗器及び抵抗材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、電流を検出するための抵抗材料は、ニクロム、銅マンガン及び銅ニッケルからなる群から選択される金属粒子と、アルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素及びジルコニアからなる群から選択される絶縁粒子と、酸化チタンとからなる焼結体であり、溶融していない前記絶縁粒子の周りに、前記金属粒子が溶融して接触した金属体によって三次元網目状に連結されている。
【発明の効果】
【0007】
この態様によれば、抵抗材料において酸化チタンが分散されるので、抵抗材料について比抵抗を増大させるとともに抵抗値の変動を制御可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、本発明の実施形態における抵抗器の構成例を示す図である。
図1B図1Bは、図1AのII-II線に沿う断面図である。
図2図2は、抵抗器の製造方法の一例を示す図である。
図3図3は、抵抗器の製造方法の他の例を示す図である。
図4図4は、実施例における酸化チタンを有する供試体の構造を示す図である。
図5図5は、比較例における酸化スズを有する供試体の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[抵抗器の説明]
まず、本実施形態の抵抗器1の構造について図1A乃至1Bを参照して説明する。
【0011】
図1Aは、本実施形態における抵抗器1の構造を示す斜視図であり、図1Bは、図1AのII-II線に沿う抵抗器1の断面図である。
【0012】
抵抗器1は、電流を検出するための抵抗器であり、電流検出用抵抗器、又はシャント抵抗器と称される。抵抗器1は、例えば、パワーモジュールに搭載されて大電流の検出用途に用いられる。
【0013】
本実施形態では、高周波の電流を検出する検出精度を高めるために、抵抗器1の自己インダクタンス値が小さくなるよう抵抗器1が薄く形成されている。抵抗器1は、円板状に扁平に形成されており、抵抗材料からなる抵抗体11と、抵抗体11を挟む二つの電極21及び22と、を備えている。
【0014】
抵抗体11の厚さt1は、抵抗器1の自己インダクタンス値が小さくなるよう、例えば数mm(ミリメートル)以下に設定される。本実施形態では抵抗体11の厚さt1が0.2mmに設定されている。また、抵抗体11の直径rは、配線パターンへの実装、又はパワー半導体への実装を容易にするため、抵抗体11の厚さt1に比べて大きく形成される。例えば、抵抗体11の直径rは、数mmに設定される。本実施形態では抵抗体11の直径rが3mmに設定されている。
【0015】
本実施形態では、抵抗体11の厚さ方向、すなわち電極21及び電極22間の方向に電流経路が形成される。この電流経路は、一般的なシャント抵抗器の電流経路に比べて短いため、抵抗体11の比抵抗(体積抵抗値)は、一般的なシャント抵抗器に用いられる合金単体の比抵抗よりも大きな値に設計することが求められる。
【0016】
例えば、抵抗器1が大電流の検出用途に用いられる場合は、抵抗体11の抵抗値は、50μΩ以上1,000μΩ以下の範囲内の値に設定されることが想定される。それゆえ、抵抗体11を構成する抵抗材料としては、比抵抗(体積抵抗値)が200μΩ・cm(マイクロオームセンチメートル)以上、300,000μΩ・cm以下の範囲内に制御可能な抵抗材料が好ましい。
【0017】
二つの電極21及び22は、一対の電極21及び22間の方向、すなわち抵抗体11の厚さ方向に電流を流すための電極であり、導電性の高い金属材料を用いて形成される。電極21及び22は、抵抗体11の両面に形成され、具体的には電極21及び22のうち、一方の電極が抵抗体11の上面に形成され、他方の電極が抵抗体11の下面に形成される。
【0018】
電極21及び22については、抵抗器1を低背化するために厚さt2を薄くすることが好ましい。例えば、電極21及び22の厚さt2は抵抗体11の厚さt1よりも薄く形成される。本実施形態では電極21及び22の厚さt2は共に0.1mmに設定されている。
【0019】
以上のように、本実施形態の抵抗器1においては、電流の検出に必要となる抵抗値を確保しつつ抵抗器1の厚さhを薄く形成したことによって、電流を検出する抵抗器1の自己インダクタンス値を小さくすることができる。これにより、抵抗器1に生じる検出電圧のS/N比を確保しつつ、抵抗器1のインダクタンスに起因する高周波電流の検出誤差を低減することができる。
【0020】
[抵抗材料の説明]
抵抗材料11aは、抵抗体11の比抵抗が一般的なシャント抵抗器を構成する抵抗体の比抵抗(50μΩ・cm~100μΩ・cm)に比べて大きくなるよう絶縁性を有する絶縁粒子、導電性を有する金属粒子、及び抵抗特性を安定させる添加剤により構成される。
【0021】
抵抗材料11aは、絶縁粒子及び金属粒子に添加剤が分散している構造を有する。抵抗材料11aの比抵抗を高める観点から、抵抗材料11aにおける絶縁粒子の体積比が金属粒子の体積比以上である抵抗材料を用いることが好ましい。抵抗材料11aは、絶縁粒子と金属粒子と添加剤との焼結体によって構成される。
【0022】
ここで、抵抗材料11aを構成する金属粒子、絶縁粒子及び添加剤の各々について説明する。
【0023】
<金属粒子>
抵抗材料11aの金属粒子としては、一般的なシャント抵抗器の抵抗材料を用いることができる。抵抗特性の安定性を確保する観点から、大電流の検出に適した金属材料、例えば抵抗体11の温度変化による抵抗値の変化の割合が小さな合金が好ましい。
【0024】
具体例としては、ニクロム、マンガニン(登録商標)、ゼラニン(登録商標)、及び銅ニッケルなどの金属材料から選択される合金が挙げられる。特に、抵抗材料の抵抗値を確保する観点からニクロムを用いることが好ましい。また、加工性の観点からはマンガニン(登録商標)を用いることが好ましい。このように、抵抗材料11aの金属粒子としては、ニクロム、銅マンガン、及び銅ニッケルからなる群から選択される金属材料を用いて形成することが好ましい。
【0025】
ここにいうニクロムは、Ni-Cr系合金、又はこれを主成分とする合金であり、銅マンガンは、Cu-Mn系合金、又はこれを主成分とする合金であり、銅ニッケルは、Cu-Ni系合金、又はこれを主成分とする合金である。なお、マンガニン(登録商標)は、Cu-Mn-Ni系合金、又はこれを主成分とする合金であり、ゼラニン(登録商標)は、Cu-Mn-Sn系合金、又はこれを主成分とする合金である。
【0026】
また、金属粒子の割合(含有率)については、抵抗材料11aにおいて電流経路を確保する観点から、抵抗材料11aを構成する金属粒子、絶縁粒子及び添加剤の混合物基準で金属粒子の含有率を30vol%以上に設定することが好ましい。また、抵抗材料11aの比抵抗を金属粒子単体の比抵抗よりも高める観点から、混合物基準で金属粒子の含有率を80vol%以下に設定することが好ましい。
【0027】
<絶縁粒子>
抵抗材料11aの絶縁粒子としては、絶縁性に加えて耐熱性に優れたセラミックス材料を用いることができる。例えば、熱応力による接合部のクラックの発生を抑制する観点から、酸化アルミニウム(Al23)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si34)及びジルコニア(ZrO2)からなる群から選択されるセラミックス材料が挙げられる。以下では、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムのことをそれぞれアルミナと窒化アルミと称する。
【0028】
上述のセラミックス材料の中では、放熱性とヒートサイクル耐久性の観点から、絶縁材料として広く利用されているアルミナを用いることが好ましい。また、より高い放熱性が要求される用途では、熱伝導度の大きい窒化アルミを選択することが好ましく、高いヒートサイクル耐久性が要求される用途では、窒化ケイ素を選択することが好ましい。
【0029】
<添加剤>
抵抗材料11aには、抵抗材料11aの比抵抗を増大させるとともに抵抗材料11aの抵抗温度係数(TCR:Temperature Coefficient of Resistance)を下げるための調整剤が添加されている。TCRとは、抵抗材料11aの温度変化による抵抗値変化の割合を表す指標である。シャント抵抗器においては、TCRの絶対値が大きくなるにつれて電流の検出誤差が大きくなる傾向がある。
【0030】
抵抗材料11aの添加剤としては、絶縁性を有し、かつ分散性及び化学的な安定性に優れた酸化チタン(TiO2)が用いられる。酸化チタンを用いることによって、抵抗材料11aの抵抗特性のバラツキ及び再現性の低下が抑制される。この理由について発明者らは、ニクロム、銅マンガン及び銅ニッケルからなる群から選択される金属粒子に対し、酸化チタンは反応を起こしにくい性質を有していることから、金属粒子同士が接触した金属体において酸化チタンが分散されやすいと推測している。
【0031】
また、酸化チタンについては、自身の温度が常温から上昇するにつれて自身の抵抗値が減少する性質を有している。それゆえ、抵抗材料11aに酸化チタンが分散されることで、抵抗材料11a全体のTCRが低下する。
【0032】
抵抗材料11aのTCRを効果的に下げるには、絶縁粒子の体積比(占有率)が金属粒子の体積比よりも大きな抵抗材料に酸化チタンを添加することが好ましい。このような抵抗材料において一定量の酸化チタンが添加されると、金属粒子に対する酸化チタンの体積比が高くなるので、抵抗材料11aのTCRを下げやすくなる。これにより、抵抗材料11aの抵抗特性の安定性が向上する。
【0033】
このように、酸化チタンを抵抗材料11aに分散させることによって、抵抗特性の再現性を確保しつつ抵抗材料11aのTCRを-200ppm以上50ppm以下の範囲内に調整することが可能となる。ここで、TCRの範囲について下限値の絶対値が上限値に比べて大きくしている理由は、抵抗体11に積層される電極21及び電極22によって抵抗器1全体のTCRが上昇してしまうからである。そのため、上昇分を考慮してTCRの下限値が下げられている。
【0034】
抵抗材料11aに対する酸化チタンの割合については、抵抗材料11aの抵抗特性のバラツキ及び再現性の観点から、混合物基準で酸化チタンの含有率を3vol%以下に設定することが好ましい。また、秤量調整における粉末の取扱いの操作性の観点から酸化チタンの含有率を0.5vol%以上に設定することが好ましい。
【0035】
次に、抵抗器1を製造するための方法について図2及び図3を参照して簡単に説明する。
【0036】
図2は、本実施形態における抵抗器1の製造方法の一例を説明するための図である。
【0037】
まず、円板状の抵抗材料11aと、円板状の電極材21a及び電極材22aと、を準備する。電極材21a及び電極材22aは、例えば、銅(Cu)などの高導電性の金属材料である。
【0038】
図2(a)に示すように、円板状の電極材21a、円板状の抵抗材料11a、円板状の電極材22aの順番に、これらが重ねられる。重ねられたこれらの材料を、例えば圧接又は焼結処理などを用いて接合することにより、図2(b)に示すように積層構造1aが形成される。
【0039】
続いて、図2(c)に示すように積層構造1aをパンチなどの加工法により円形状に打ち抜くことで個片化する。これにより、図2(d)に示すように円板状の抵抗器1が形成される。
【0040】
なお、本実施形態では抵抗器1を円板状に形成したが、抵抗器1を三角形や四角形などの多角形に形成してもよい。以下に抵抗器1を角板状に形成する製造方法について説明する。
【0041】
図3は、本実施形態における抵抗器1の製造方法の他の例を説明するための図である。図3(a)から図3(b)まで工程は、図2(a)から図2(b)までの工程と同じある。
【0042】
図3(b)に示すように積層構造1aが形成されると、図3(c)に示すように、ダイシングなどの加工法を用いて、積層構造1aを角形状に切断加工することで個片化する。これにより、図3(d)に示すように角板状の抵抗器1が形成される。
【0043】
次に、本実施形態における抵抗材料11aの製造方法について説明する。
【0044】
抵抗材料11aの製造方法は、抵抗材料11aの金属粒子を形成するための金属粉末と、抵抗材料11aの絶縁粒子を形成するための絶縁粉末と、添加剤としての酸化チタンの粉末とを混合する混合工程を有する。さらに、この製造方法は、混合工程での混合によって得られた混合粉末を所定の温度において一軸加圧法により混合粉を加圧しながら焼結する焼結工程を有する。
【0045】
混合工程においては、融点が絶縁粉末の融点よりも低い金属粉末が用いられ、金属粉末の粒径が絶縁粉末の粒径に対して同等又は小さくなるように造粒することが好ましい。
【0046】
この場合、造粒後において金属粉末の平均粒径が0.5μm以上20μm以下の範囲内に収まるよう、また絶縁粉末の平均粒径が0.1μm以上10μm以下の範囲内に収まるよう造粒することが好ましい。なお、造粒後の金属粉末についてはアスペクト比が1.0以上2.0以下の範囲内にある粒子を用いることが好ましい。
【0047】
さらに、酸化チタンの粉末については平均粒径が金属体粉末の平均粒径(0.5μm~20μm)以下である粒子を用いることができる。抵抗材料11aへの分散性を確保しつつ抵抗特性のバラツキを抑制する観点から、酸化チタンの粉末としては造粒後において平均粒径が0.01μm(10nm)以上0.5μm以下(500nm)の範囲内にある粒子を用いることが好ましい。
【0048】
焼結工程においては、例えば、混合粉の容器を減圧することによって混合粉をプレスする。混合粉をプレスする圧力(プレス圧)を高くするほど、抵抗材料11aの比抵抗は低下するものの、抵抗材料11aにおいて電流が流れる電流経路を確保しやすくなるという傾向がある。
【0049】
このため、焼結工程においてはプレス圧を高めに設定することが好ましい。また、所定の温度(焼結温度)は、金属粉末の融点よりも低い温度であり、金属粉末の融点よりも15%程度低い温度に設定することが好ましい。
【0050】
上述の混合工程及び焼結工程を行うことにより、抵抗材料11aを好適に製造することができる。酸化チタンの粉末の結晶構造は、特に限定されるものではなく、ルチル型、アナターゼ型、又はブルッカイト型(斜方晶)であってもよい。なお、いずれの結晶構造を有する酸化チタンを用いたとしても、焼結後における酸化チタンの結晶構造はルチル型となる。
【0051】
次に、本実施形態における抵抗材料11aの作用効果について説明する。
【0052】
本実施形態によれば、電流を検出するための抵抗材料11aは、ニクロム、銅マンガン及び銅ニッケルからなる群から選択される金属粒子と、アルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素及びジルコニアからなる群から選択される絶縁粒子と、酸化チタンと、を含む。
【0053】
上述のニクロム、銅マンガン及び銅ニッケルは、電流の検出に用いられる合金であり、自身の温度変化による抵抗値の変化が比較的小さい。したがって、これらの合金を抵抗材料11aに用いることにより、電流の検出に必要となる抵抗値を確保しやすくなるとともにTCRの上昇を抑えることができる。
【0054】
また、上述のアルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素及びジルコニアは、セラミックス材料であり、熱膨張係数が低いため基板材料として用いられている。このため、これらを絶縁粒子として用いることによって、抵抗材料11aからなる抵抗体11の熱応力を基板の熱応力に近づけることができ、抵抗体11と基板との間におけるヒートサイクルによるクラックの発生を抑制することができる。
【0055】
さらに、上述の酸化チタンは、金属粒子よりも融点が高いため、金属粒子と反応を起こしにくいことから、抵抗材料11aに酸化チタンを分散させることができる。それゆえ、抵抗材料11aの抵抗特性のバラツキを抑制することができる。
【0056】
このように、抵抗材料11aにおいて絶縁性を有する酸化チタンを分散させることによって、抵抗材料11aの比抵抗が増大するとともに抵抗材料11aの抵抗特性のバラツキを抑えることができる。さらに酸化チタンは、温度上昇に伴って電流が流れやすくなる性質を有していることから、抵抗材料11a全体のTCRを下げることもできる。
【0057】
したがって、上述のように抵抗材料11aを構成することにより、抵抗材料11aの比抵抗を増大させるとともに抵抗材料11aの抵抗値の変動を制御可能にすることができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、抵抗材料11aについて発明者らは、金属粒子同士が接触した金属体によって絶縁粒子が囲まれるとともに少なくとも金属体に酸化チタンが分散している構造を有していると推測している。
【0059】
さらに発明者らは、絶縁粒子が金属体で取り囲まれているので、金属体が絶縁粒子を囲むように三次元網目状に形成されていると推測している。そのため、抵抗材料11aにおいて電流通路が確保されて抵抗特性のバラツキが抑えられ、また温度変化や高電圧の印加などに起因する電流経路の遮断が起こり難くなって抵抗材料11aの抵抗特性が安定しやすくなったと考えている。
【0060】
これに加え、抵抗材料11aの電流経路となる金属体においても、絶縁性を有する酸化チタンが分散されるので、抵抗材料11aの比抵抗を増大させつつ抵抗特性のバラツキを抑えることができる。また、抵抗材料11aの金属粒子は温度上昇に伴う抵抗値の上昇量が絶縁粒子に比べて大きいため、温度上昇に伴い抵抗値が減少する酸化チタンが金属体に分散されることで、抵抗材料11aのTCRを確実に下げることができる。
【0061】
したがって、酸化チタンを用いることで、温度変化に伴い抵抗値が変動する金属体に酸化チタンが分散されることになるので、抵抗材料11aにおいて効果的にTCRを下げつつ比抵抗を上げることができる。
【0062】
また、本実施形態によれば、絶縁粒子の体積比が金属粒子の体積比以上である抵抗材料11aを用いることが好ましい。これにより、抵抗材料11aにおける金属粒子に対する酸化チタンの割合が大きくなるので、より効果的に、抵抗材料11aのTCR及び比抵抗を制御することが可能となる。例えば、微量の酸化チタンであっても抵抗材料11aのTCR及び比抵抗を確保することができれば、酸化チタンの添加量を節約することも可能となる。
【0063】
また、本実施形態によれば、抵抗材料11aに対する酸化チタンの割合(含有率)を混合物基準で3vol%以下に設定することが好ましい。これにより、抵抗材料11aのTCR及び比抵抗のバラツキを抑制することができる。
【0064】
また、本実施形態によれば、絶縁粒子、金属粒子及び酸化チタンの粒子を用いて抵抗材料11aを構成することにより、抵抗材料11aのTCRを-200ppm以上50ppm以下の範囲内に制御することが可能となる。これにより、抵抗材料11aの温度変化に伴う抵抗値の変動が抑えられるので、抵抗材料11aからなる抵抗器1を用いて電流を検出する際の検出精度の低下を抑制することができる。
【0065】
また、本実施形態によれば、抵抗材料11aは、絶縁粒子と金属粒子と酸化チタンとの焼結体によって構成される。焼結体は、金属粉末と絶縁粉末と酸化チタン粉末とを混合して焼結されるものであるため、抵抗材料11aの絶縁粒子及び金属粒子の中において酸化チタンを分散させることができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、抵抗器1は、上述の抵抗材料11aからなる抵抗体11と、抵抗体11を挟む二つの電極21,22と、を有する。これにより、酸化チタンが分散されている抵抗材料11aからなる抵抗体11を用いるので、比抵抗が大きく、かつ抵抗特性が安定した抵抗器1を提供することができる。
【0067】
また、本実施形態によれば、抵抗材料11aの製造方法において、絶縁性を有する絶縁粉末と導電性を有する金属粉末と酸化チタンの粉末とが混合され、その混合粉が金属粉末の融点よりも低い所定の温度まで加熱され、この状態において混合粉が加圧されながら焼結される。これにより、絶縁粒子を囲む三次元網目状の金属体において酸化チタンが分散した抵抗材料11aを製造することができる。
【0068】
また、本実施形態によれば、混合粉に含まれる酸化チタンについては平均粒径が金属粉末の平均粒径以下である粉末が用いられる。これにより、抵抗材料11aの金属粒子よりも酸化チタンを分散させることができる。
【0069】
特に平均粒径が10nm以上である酸化チタンの粉末を用いることが好ましい。これにより、抵抗材料11aのTCR及び比抵抗のバラツキを抑制することができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は、本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0071】
例えば、上記実施形態では抵抗器1における電極21及び22の面積及び厚さを同等にしたが、電極21及び22の面積及び厚さのうち少なくとも一方を互いに異なるように形成してもよい。また、電極21及び22に貫通口を形成してもよい。
【0072】
また、抵抗材料11aの両面に電極21及び22を形成する方法としては、めっき法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法、気相成長法、又はコールドスプレー法などを用いてもよい。
【実施例
【0073】
次に、本実施形態における抵抗材料11aに基づく供試体を作製し、各種測定を行って抵抗材料11aとしての抵抗特性及び構造の評価を行った。以下、供試体の作製方法及びその評価について説明する。
【0074】
[抵抗特性評価用の供試体の作製]
<実施例1~3>
抵抗材料11aを作製するための絶縁粉としてアルミナの粉末[ALM-41-01:住友化学株式会社製]を用いた。また、抵抗材料11aを作製するための金属粉として、ニクロムの粉末[エバノーム(登録商標)をマトマイズ法で生成した粒径6μmの粉末D50]を用いた。
【0075】
また、抵抗材料11aを作成するための酸化チタンの粉末として、粒径20nmの粉末[Aeroxide(登録商標) Ti02 P25:日本アエロジル株式会社製]と、粒径180nmの粉末[JA-1:テイカ株式会社製]とを用いた。
【0076】
(混合・造粒)
まず、上述した絶縁粉、金属粉、酸化チタンの粉末を第1表の混合割合で秤量し、乳鉢と乳棒とを用いて、各粉末が概ね一様に混ざるまで混合するとともに造粒した。
【0077】
造粒した混合粉(混合物)の各粒子の平均粒径は下記のとおりである。
・アルミナ粉末 : 平均粒径2.2μm
・ニクロム粉末 : 平均粒径2.0μm
・酸化チタン粉末 : 平均粒径0.02μm(20nm)
【0078】
(加圧・焼結)
次に、造粒した混合粉を直径10mφのカーボン製ダイスに入れ、そのカーボン製ダイスをホットプレス機(多目的高温炉ハイマルチ5000:富士電波工業株式会社製)に収容する。そしてホットプレス機において、カーボン製ダイス内の混合粉をニクロムの融点よりも低い所定の温度まで加熱し、この状態において混合粉を加圧しながら焼結した。得られた直径10mm、厚さ1.8mmの円板状の焼結体を供試体とした。
【0079】
ホットプレス条件は下記のとおりである。
・雰囲気 : 20Pa以下
・プレス圧 : 0.8kN~3.9kN
・焼結温度 : 900℃~1300℃
・保持時間 : 5分~20分
【0080】
平均粒径20nmの酸化チタン粉末を用いるとともに、アルミナ粉末とニクロム粉末との割合を1:1の関係に維持した状態で酸化チタン粉末の添加量を変更することによって、実施例1~3の供試体T1~T3を作製した。
【0081】
<実施例4~6>
酸化チタンについては平均粒径20nmの粉末に代えて平均粒径180nmの粉末を用い、その他の条件は実施例1~3と同じ作製条件とした。このような条件において、アルミナ粉末とニクロム粉末との割合を1:1の関係に維持した状態で、平均粒径が180nmである酸化チタン粉末の添加量を変更することによって、実施例4~6の供試体T4~T6を作製した。
【0082】
<比較例1>
酸化チタンを添加することなく、アルミナ粉末とニクロム粉末との割合を1:1に調整した供試体T10を用意した。
【0083】
[構造評価用の供試体の作製]
<実施例7>
抵抗特性評価用の供試体として作製した実施例1の供試体T1を用いた。
【0084】
<比較例2>
酸化チタンに代えて酸化スズを5vol%だけ添加した供試体T11を用意した。
【0085】
[評価方法]
上述のようにして得られた供試体について、以下の評価試験を行った。
【0086】
<抵抗特性>
・比抵抗の算出
供試体の温度が基準温度25℃であるときの供試体の抵抗値Raを測定し、この抵抗値Raに基づいて、次式(1)のように比抵抗を算出した。
【0087】
比抵抗(μΩ・cm)=Ra(Ω)×S(cm2)/Th(cm) ・・・(1)
ここで、面積Sは0.25π(cm2)であり、厚みThは0.18(cm)である。
【0088】
・TCR(抵抗温度係数)の測定
供試体の温度が試験温度100℃に達したときの供試体の抵抗値Rを測定し、この抵抗値Rと、上述の基準温度25℃における抵抗値Raとに基づいて、次式(2)のようにTCRを算出した。
【0089】
TCR(ppm/℃)=(R-Ra)/Ra÷(T-Ta)×106 ・・・(2)
ここで、基準温度Taは25℃であり、試験温度Tは100℃である。なお、試験温度Tは、抵抗器が定常状態に達したときに想定される抵抗器の温度である。
【0090】
<構造>
走査電子顕微鏡(NB-5000:株式会社日立ハイテクノロジーズ製)及びエネルギー分散型X線分析装置(検出部Xflash4010/制御ユニットSEVIII:BRUKER製)を用いて、供試体T1,T11の断面を元素マッピングにより撮像した。
【0091】
[評価結果]
供試体についての評価結果を以下に説明する。
【0092】
<構造>
図4は、実施例7として、アルミナ粉末とニクロム粉末との割合を1:1にした状態で酸化チタンを1.1vol%だけ添加した供試体T1の断面を模式的に示した断面図である。この断面図は、供試体T1を構成するアルミナ、ニクロム及び酸化チタンをそれぞれ元素マッピングした画像を用いて作成されている。
【0093】
図4に示すように、供試体T1は、絶縁粒子であるアルミナ粒子を含む島部と、金属体を構成するニクロム粒子からなる海部と、によって構成される海島構造を有している。なお、供試体T1をあらゆる方向から切ったとしても、図4と同様、海島構造になっていると考えられる。
【0094】
すなわち、供試体T1には、溶融していないアルミナ粒子の周りに多数のニクロム粒子が溶融して三次元状に連結することでニクロム体のネットワークが三次元網目状に形成されていると考えられる。
【0095】
そして、ニクロム粒子が結合したニクロム体及びアルミナ粒子において、酸化チタン粒子がばらばらに散らばっている。すなわち、絶縁粒子及び金属体において酸化チタンが分散されている。金属体については、ニクロムに代えて銅マンガン及び銅ニッケルを用いたとしても、ニクロムと同様、酸化チタンと反応することなく、酸化チタンが分散すると考えられる。また、絶縁粒子についても、アルミナ粒子に代えて窒化アルミ、窒化ケイ素及びジルコニアを用いたとしても、アルミナ粒子と同様、酸化チタンは分散すると考えられる。
【0096】
なお、酸化チタン粒子は、アルミナ粒子の表面に付着しやすい性質を有していると考えられる。そのため、図4に示すように、酸化チタン粒子がアルミナ粒子の表面の少なくとも一部を取り囲むように分散しているようにみえる。
【0097】
図5は、比較例2として、酸化チタンの代わりに酸化スズを添加した供試体T11の断面を模式的に示した断面図である。この断面図は、供試体T11を構成するアルミナ、ニッケル、クロム及びスズをそれぞれ元素マッピングした画像を用いて作成されている。
【0098】
図5に示すように、還元によって酸化スズから酸素が離脱したスズと、ニクロムからクロムが離脱したニッケルと、が反応を起こしてニッケル-スズ合金が形成され、ニクロムから離脱したクロム単体がニッケル-スズ合金の周りに形成されている。このように、酸化チタンに代えて酸化スズが添加されると、酸化スズが金属粒子と反応を起こしてしまうため、酸化スズが分散されなくなってしまう。
【0099】
したがって、図4に示したように、化学的安定性に優れている酸化チタンを添加剤として用いることによって、金属粒子と酸化チタン粒子とが反応を起こすことなく、絶縁粒子及び金属体において酸化チタン粒子が分散されることがわかった。
【0100】
<抵抗特性>
供試体の抵抗特性を第1表及び第2表に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
まず、第1表について説明する。第1表には、平均粒径20nmの酸化チタン粉末を用いて作製した供試体T1乃至T3の抵抗特性と、比較例1として酸化チタン粉末が添加されていない供試体T10の抵抗特性が示されている。
【0104】
第1表に示す結果によれば、TCRについては、酸化チタンの添加量(含有量)が1.1vol%である供試体T1のTCRは、供試体T10のTCRから「25」低下して「0」になった。酸化チタンの添加量が3vol%である供試体T2のTCRは、供試体10のTCRから「225」低下して「-200」になった。
【0105】
このように、酸化チタンの添加量が増加するにつれてTCRが低下する傾向があることがわかった。この理由については、酸化チタンは温度上昇により抵抗値が下がる特性を有しているため、供試体T1~T3に占める酸化チタンの割合が大きくなるにつれて、酸化チタンの上記特性が供試体T1~T3のTCRに寄与する度合いが強くなったと推測される。
【0106】
TCRの低下量については、図4に示したように酸化チタン粒子はアルミナ粒子及びニクロム体に分散する傾向を有していることから、アルミナ粉末及びニクロム粉末の割合を1:1から仮に7:3に変更したとしても、TCRの低下量は、第1表に示す結果と同じような傾向を示すと考えられる。
【0107】
このように、酸化チタンの添加量を変更することによって、TCRを-200ppm以上50ppm以下の設計範囲内に制御可能となり、かつ、電流の検出精度を確保する観点から、一対の電極を有する抵抗器のTCRを所望の設計範囲内に収めることができる。
【0108】
一方、酸化チタンの添加量が増加するにつれてTCRのバラツキが大きくなる傾向があり、酸化チタンの添加量が5vol%であるときにはTCRのバラツキが大きくなり過ぎることがわかった。
【0109】
この理由は、酸化チタンの添加量が増加するほど、三次元網目状のニクロム体において電流経路が酸化チタン粒子によって遮断される箇所の割合が変動しやすくなると推測される。したがって、TCRのバラツキを抑えるためには、酸化チタンの添加量を3%vol以下にすることが好ましい。
【0110】
また、第1表に示す結果によれば、比抵抗については、酸化チタンの添加量が1.1vol%である供試体T1の比抵抗は、供試体T10の比抵抗から「340」上昇して「1,050」になった。さらに酸化チタンの添加量を3vol%に増やした供試体T2の比抵抗は、供試体T10の比抵抗から「1,590」上昇して「2,300」になった。この抵抗比の数値は、酸化チタンを添加せずにアルミナ粉末とニクロム粉末との割合を6:4の割合にした抵抗材料の抵抗比とほぼ同等である。
【0111】
このように、酸化チタンの添加量が増加するにつれて比抵抗が上昇する傾向があることがわかった。この理由は、金属体に比べて比抵抗が高い酸化チタンの添加量を増やすほど、ニクロム体の内部に分散される酸化チタン粒子の個数が増加するため、ニクロム体に電流が流れにくくなり、比抵抗が増大すると推測される。
【0112】
比抵抗の上昇量については、アルミナ粉末の体積比をニクロム粉末の体積比よりも大きくすることによって、抵抗材料11aに占めるニクロム体の割合が小さくなるので、第1表に示す結果よりも比抵抗の上昇量が大きくなると考えられる。
【0113】
また、TCRのバラツキと同様、酸化チタンの添加量が増加するにつれて比抵抗のバラツキは大きくなる傾向があり、酸化チタンの添加量が5vol%である供試体T3については比抵抗のバラツキが大きくなり過ぎることがわかった。
【0114】
次に、第2表に示された結果について説明する。第2表には、第1表とは異なり、平均粒径180nmの酸化チタン粉末を用いて作製した供試体T4~T6の抵抗特性が示されている。
【0115】
第2表に示す結果によれば、TCRについては、第1表と同じように、酸化チタンの添加量が増加するにつれてTCRが低下する傾向は維持されるものの、TCRの低下量は、第1表に比べて小さくなることがわかった。この理由は、酸化チタン粒子の平均粒径を20nmから180nmに大きくしたことにより、酸化チタンの分散性が悪くなり、酸化チタンの特性の寄与度が小さくなったと推測される。
【0116】
また、酸化チタンの添加量が増加するにつれてTCRのバラツキが大きくなる傾向はあるものの、第1表に比べてTCRのバラツキ自体は小さくなることがわかった。この理由は、酸化チタンの分散性が悪くなることで、酸化チタン粒子によってニクロム体の電流経路が遮断される箇所が少なくなると推測される。
【0117】
また、第2表に示す結果によれば、比抵抗については、第1表と同じように、酸化チタンの添加量が増加するにつれて比抵抗が上昇する傾向はあるものの、比抵抗の上昇量は、第1表に比べて小さくなることがわかった。また、酸化チタンの添加量が増加するにつれて比抵抗のバラツキが大きくなる傾向はあるものの、第1表に比べて比抵抗のバラツキ自体が小さくなることがわかった。
【0118】
このように、酸化チタン粉末の平均粒径を20nmから180nmまで大きくしても、比抵抗を増大させるとともにTCRを下げることができる。これに加え、TCRの低下量及び比抵抗の上昇量は小さくなるものの、TCR及び比抵抗の双方のバラツキを小さくすることができる。
【0119】
なお、第2表に示した実施例では平均粒径180nmの酸化チタン粉末を用いたが、酸化チタン粉末の平均粒径がニクロム粉末の平均粒径以下であれば、酸化チタンの分散性が確保されると考えられる。
【0120】
したがって、酸化チタン粉末の平均粒径を金属粉末の平均粒径以下にすることにより、バラツキを抑制しつつ抵抗材料11aにおいて比抵抗を増大させるとともにTCRを下げることができる。なお、酸化チタン粉末の平均粒径が金属粉末の平均粒径に近づくにつれてTCRの低下量及び比抵抗の上昇量は小さくなると考えられる。
【0121】
また、第1表に示した実施例1~3では平均粒径20nmの酸化チタン粉末を用いたが、仮に平均粒径10nmの酸化チタン粉末を使用したとしても、酸化チタンの分散性に与える影響は軽微であり、第1表に示した結果と同様の結果を示すと考えられる。
【0122】
したがって、酸化チタン粉末の平均粒径を10nm以上にすることにより、必要以上に小さな粒径の酸化チタン粉末を用意しなくて済むため、製造コストを低減しつつ抵抗材料11aにおいて比抵抗を増大させるとともにTCRを下げることができる。
【0123】
以上の結果から、抵抗材料11aを絶縁粒子、金属粒子及び酸化チタン粒子を用いて構成することにより、抵抗材料11aについて比抵抗を増大させつつTCRを下げて安定した抵抗特性が得られることがわかった。
【0124】
上記実施例1~6においては、金属粒子としてニクロムを用いたが、他の銅マンガン及び銅ニッケルからなる群から選択される合金であっても、同様の製造方法により形成することが可能である。さらに、合金の含有量については、抵抗体としての機能を維持しつつ合金単体よりも高い比抵抗を確保する観点から、30vol%以上80%以下の割合が好ましい。
【0125】
また、絶縁粒子としてアルミナを用いたが、窒化アルミ、窒化ケイ素及びジルコニアからなる群から選択されるセラミックス粉末を用いたとしても、同様の抵抗特性が得られると考えられる。
【0126】
また、上記実施例1~6においては、抵抗材料11aとして、ニクロム粉末、アルミナ粉末、及び酸化チタン粉末のみを用いて供試体T1乃至T4を形成したが、抵抗特性を改善するための調整剤を添加してもよい。また、上記実施例1~6においては、金属粒子をマトリックス材料としたが、絶縁粒子をマトリックス材料としてもよい。
【符号の説明】
【0127】
1 抵抗器
11 抵抗体
11a 抵抗材料
21、22 電極
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5