(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】ニコチン酸および/またはニコチンアミドを含む、腸内微生物叢を改変することにより血中脂質レベルに有益に影響を及ぼすための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/455 20060101AFI20231120BHJP
A61K 31/22 20060101ALI20231120BHJP
A61K 31/366 20060101ALI20231120BHJP
A61K 31/616 20060101ALI20231120BHJP
A61K 31/7084 20060101ALI20231120BHJP
A61P 1/14 20060101ALI20231120BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20231120BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20231120BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
A61K31/455 ZNA
A61K31/22
A61K31/366
A61K31/616
A61K31/7084
A61P1/14
A61P3/04
A61P3/06
A61P9/10 101
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019103443
(22)【出願日】2019-06-03
(62)【分割の表示】P 2016538751の分割
【原出願日】2014-12-12
【審査請求日】2019-07-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-10
(32)【優先日】2013-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2014-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505470960
【氏名又は名称】コナリス リサーチ インスティチュート アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】ヴェーツィッヒ,ゲオルク
(72)【発明者】
【氏名】ゼーゲルト,ディルク
【合議体】
【審判長】藤原 浩子
【審判官】渕野 留香
【審判官】田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-521977(JP,A)
【文献】NATURE,2012年1月1日,Vol.487,No.7408,p.477-481(URL,http://dx.doi.org/10.1038/nature11228)
【文献】The International Journal of Clinical Practice,2006年,Vol.60,Issue 6,p.707-715(
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2006年,Vol.103,No.17,p. 6682-6687
【文献】Clinical Pharmacology & Therapeutics,2007年,Vol.81,No.6,p.849-857
【文献】The American Journal of Cardiology,2008年,Vol.101,Issue 8,Supplement,p.S3-S8(3B-8B)
【文献】Gut,1988年8月1日,Vol.29,Issue 8,p.1035-1041,(URL:https://doi.org/10.1136/gut.29.8.1035)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-47/69,A61P1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS/REGISTRY(STN)
JMEDPlus/JST7580/JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチン酸;
ニコチンアミド;
ニコチン酸エステル、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)から選択される、動物または人の体内でニコチン酸またはニコチンアミドに変換される化合物;
N-ホルミルキヌレニン、L-キヌレニン、3-ヒドロキシ-L-キヌレニン、3-ヒドロキシアントラニル酸、2-アミノ-3-カルボキシムコン酸セミアルデヒド、キノリネート、およびベータ-ニコチネートD-リボヌクレオチドから選択される、NADまたはNADPの生合成における中間体;
またはこれらの組合せ
から選択される活性物質を含み、
改変しようとする腸内微生物叢が位置する、下部小腸、回腸終末部、および/または結腸において局部的に有効であるように活性物質を放出し、回腸終末部、および/または結腸で最大活性物質濃度を実現するように製剤化され、
腸内微生物叢を有益に改変することにより
、異脂肪血症の状態の血液
、血
漿または血清
における脂質レベル
を、HDLレベルが基準レベル未満である場合はHDLを増大し、LDLレベルが基準レベルを超える場合はLDLを低減し、トリグリセリドレベルが基準レベルを超える場合はトリグリセリドを低減し、かつ/または総コレステロールレベルが基準レベルを超える場合は総コレステロールを低減するための組成物。
【請求項2】
ニコチン酸、ニコチンアミド、ニコチン酸エステル、またはこれらの組合せから選択される活性物質を含み、
改変しようとする腸内微生物叢が位置する、下部小腸、回腸終末部、および/または結腸において局部的に有効であるように活性物質を放出するように製剤化された、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
改変しようとする腸内微生物叢が位置する、下部小腸、回腸終末部、および/または結腸において特定の局所に有効であるように活性成分を制御放出および/または遅延放出する、経口投与のために製剤化された、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
ニコチン酸および/またはニコチンアミドを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
制御および/または遅延活性物質放出による経口投与のために製剤化された、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
血液
、血
漿または血清
における、異常な脂質レベ
ルを伴う
、疾
患または症候群の
、治
療または予防
であって、
前記の疾患
または症候群は、脂質代謝障害、異脂肪血症、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH
)、心血管疾患、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、代謝症候群、肥満からなる群から選択され
ものである治療または予防、
に用いられる、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
1または2以上の
活性物質に対して最終剤形あたり各1~3000mgの活性物質含量での経口適用用に製剤化されていることを特徴とする、請求項5または6に記載の組成物。
【請求項8】
ニコチン酸および/またはニコチンアミドに加えて、アセチルサリチル酸および/またはプロスタグランジンD2拮抗薬および/またはスタチンが含まれることを特徴とする、請求項1から
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
下部小腸、回腸終末部、および/または結腸において特定の局所に有効であるように活性物質を放出するように製剤化されることで、活性物質が循環系に侵入しないまたは低度にしか侵入せず、したがって
活性物
質の血液および/または血漿および/または血清レベルは、投薬前に測定したレベルより2ケタ高いレベルを超えない
、
請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
下部小腸、回腸終末部、および/または結腸において特定の局所に有効であるように活性物質を放出するように製剤化されることで、活性物質が循環系に侵入しないまたは低度にしか侵入せず、したがって
活性物
質の血液および/または血漿および/または血清レベルは、投薬前に測定したレベルより1ケタ高いレベルを超えない、
請求項
9に記載の組成物。
【請求項11】
ニコチン酸もしくはニコチンアミド単独の制御放出および/もしくは遅延放出製剤である、またはニコチン酸の制御放出および/もしくは遅延放出製剤の、ニコチンアミドの制御放出および/もしくは遅延放出製剤との、可変用量の組合せもしくは固定用量の組合せである、請求項1から
10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
高密度リポタンパク質(HDL)の血液レベルを増大するための治療および/または予防、ならびに/あるいは、
異脂肪血症、NAFLD、および/またはNAS
Hからなる群から選択される1または2以上の治療および/または予防、
に用いるために、ニコチン酸および/またはニコチンアミドが製剤化されている、請求項1から
11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
ニコチン酸および/またはニコチンアミドが、単独で、および/またはそれらの可変用量の組合せもしくは固定用量の組合せで、スタチンとの可変用量の組合せまたは固定用量の組合せにおいて用いられる、請求項1から
12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
スタチンが、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、およびシンバスタチンからなる群から選択される、請求項
13に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニコチン酸および/もしくはニコチンアミドならびに/または関連化合物を含み、下部小腸および/または大腸中に特異的に放出される(たとえば、選択的に放出される)、腸内微生物叢において変化を引き起こすことにより血中脂質レベルに有益に影響を及ぼすための新規な医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腸壁の炎症性疾患は、腸内微生物叢内の変化および/または腸内微生物叢と腸との相互作用の低下が原因であるか、またはこれらに影響を受けるものが多い。かかる腸炎症、たとえばクローン病または潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)はヒトに発生し、他の哺乳動物にも発生する(たとえばイヌにおける慢性の特発性大腸炎)。これらの疾患は、十分に解明されていない複雑な免疫学的プロセスに基づくものである。
【0003】
しかし、腸内微生物叢内の変化、およびその相互作用の低下は、他の複数の疾患における原因因子となり得る。その例として、アトピー性疾患、たとえばアトピー性湿疹、アレルギー状態または喘息(たとえば、Bisgaardら、2011、J.Allergy
Clin.Immunol.128:646;Iebbaら、2011、Dig.Dis.29:531;Abrahamssonら、2012、J.Allergy Clin.Immunol.129:434;Candelaら、2012、BMC Microbiol.12:95;Olszakら、2012、Science 336:489を参照)、および炎症性要素を伴う代謝性疾患、たとえば、結果として冠状動脈性心疾患、脂肪症または糖尿病につながる動脈硬化症が含まれる(Ottら、2006、Circulation 113:929;Korenら、2011、PNAS 108、補完1:4592;概説には、Caesarら、2010、J.Intern.Med.268:320;およびVriseら、2010、Diabetologia 53:606を参照)。
【0004】
腸内微生物叢と種々の疾患との関係は公知であるが、関連する疾患に有益な効果を与えるように微生物叢に影響を及ぼす方法は解明されていない。
【0005】
スタチンでの脂質代謝障害の治療は、心血管の罹患率および致死率を低下させるうえできわめて効果的である。しかし、一次予防または二次予防を目指した大規模なスタチンの臨床試験でも(たとえば、4S、CARE、WOSCOPS、LIPID、またはCARDS)、心血管イベントに対するリスクの相対的な低減は最高37%にすぎず、異脂肪血症患者に残存する心血管の過剰なリスクを是正するのに利用できる治療上の有用性は限られていた。したがって、併用治療において用いることができるさらなる脂質低下薬が必要とされ、未だ対処されていない。しかし、現在、この目的で開発された薬物の殆どには、アテローム性動脈硬化症の進行に対して限られた有効性しかなく(たとえば、エゼチミブ;Kasteleinら、2008 N.Engl.J.Med.358:1431)、副作用のため市場から撤回され(たとえば、全身性のナイアシン/laropiprant;HSP2-THRIVE Collaborative Group 2013、Eur.Heart J.34:1279)、またはアテローム性動脈硬化症を加速することもある(たとえば、トルセトラピブ(torcetrapib);Barterら、2007、N.Engl.J.Med.357:2109)。非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)および非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は通例、異脂肪血症を伴う。しかし、適応症としてのNAFLD/NASHの発生率および重症度は、異脂肪血症の
重症度と無関係であることが多い。NAFLDは肝硬変の主因となっており、したがって肝臓移植および肝細胞癌腫の主因となっている。現在、どの処方薬にも、NAFLD/NASHを特に処置する適応がない。
【0006】
したがって、(1)スタチン治療に対して無関係かつ付加的にヒト脂質代謝に利益を送達し、(2)生成コストが低く、(3)副作用のプロファイルが好ましい医薬が大いに必要とされており、未だ対処されていない。この分野において用いられている薬物の殆どに(たとえば、スタチン)、潜在的な有効性を損なう、用量規定毒性がある(最近の例として、セリバスタチンの中止がある)。
【0007】
血液および/または血漿および/または血清における、好ましくない、または異常な、または不均衡な脂質レベルに対する閾値は、当技術分野では周知である[たとえば、欧州心臓学会(European Society of Cardiology)および欧州アテローム性動脈硬化症学会(European Atherosclerosis Society)の最近のガイドライン(2011、Eur.Heart J.32:1769)、ならびにAmerican Association of Clinical Endocrinologistsの最近のガイドライン(Jellingerら、2012、Endocr.Pract.18補完1:1;Jellingerら、2012、Endocr.Pract.18:269)を参照]。
【0008】
ニコチン酸(ナイアシン、ビタミンB3)、および/またはニコチンアミド(ニコチン酸アミド)は、ナイアシン欠乏性疾患(たとえば、ペラグラ)の治療に数十年間使用されてきた。ニコチン酸には、血中のコレステロールリポタンパク質に対して健康増進性の効果があることも長い間知られている[たとえば、全アポB含有粒子の低減、高密度リポタンパク質(HDL)レベルの増大、HDL/低密度リポタンパク質(LDL)比およびLDL小胞のサイズの増大;Wahlbergら、1990、J.Intern.Med.228:151;Seedら、1993、Atherosclerosis 101:61;Elamら、2000、JAMA 284:1263;McKenneyら、2001、Am.J.Cardiol.88:270;Villinesら、2012、Curr.Atheroscler.Rep.14:49]。最近、ニコチン酸は、ヒトNAFLDにおける保護的栄養素として同定され、マウスNAFLDモデルにおける有効性が示された(von Schonfelsら、2014、Liver Int.doi:10.1111/liv.12476)。
【0009】
ニコチン酸の作用機序は、脂質分解、および利用可能な量の遊離脂肪酸を下方制御する、Gタンパク質共役受容体であるGPR109Aによるシグナル伝達、ならびに肝細胞のジアシルグリセロールアセチルトランスフェラーゼ-2の直接阻害に起因すると考えられていた(Villinesら、2012、Curr.Atheroscler.Rep.14:49)。しかし、この考えは最近、疑われており(Lauringら、2012、Sci.Transl.Med.4:148ra115)、この考えは、多様なシグナル伝達のイベントを有する多面的なプロセスであると想定されている適応症、および多くの患者コホートでニコチン酸がHDLの血漿レベルを大幅に上昇させることの説明とならない(Villinesら、2012、Curr.Atheroscler.Rep.14:49)。加えて、ニコチンアミドの血中脂質に対する効果、特に腎疾患患者におけるHDL上昇の作用機序は不明であり、論争中である(Rennickら、2013、Pharmacotherapy 33:683)。
【0010】
ニコチン酸の全身適用は、心血管疾患および代謝性疾患における異脂肪血症の処置に長く用いられていた(Villinesら、2012、Curr.Atheroscler.Rep.14:49)。いくつかの試験により、ニコチンアミドが、透析患者における
HDLレベルも大幅に上昇させることができることが見出されたのは興味深い(Takahashiら、2004、Kidney Int.65:1099;Chengら、2008、Clin.J.Am.Soc.Nephrol.3:1131;Shahbazianら、2011、Nefrologia 31:58)。末期腎疾患におけるニコチン酸およびニコチンアミドの治療上の利点は、最近、Rennickら、2013(Pharmacotherapy 33:683)によって概説された。ニコチン酸とは対照的に、非常に良好な副作用のプロファイルを有するニコチンアミドは、遅延放出または制御放出の製剤なしで容易に用いることができる(Takahashiら、2004、Kidney Int.65:1099;Chengら、2008、Clin.J.Am.Soc.Nephrol.3:1131;Shahbazianら、2011、Nefrologia 31:58)。しかし、最先端の製剤はすべて、ニコチン酸および/またはニコチンアミドを、定量的に血中に送達し、よって全身性に曝露することを目的とする。
【0011】
NAおよびNAMは、栄養サプリメントと分類される(欧州委員会EU規則(European Commission EC regulation)第1170/2009号)。欧州食品科学委員会(The European Scientific Commitee on Food)は、成人における、NAに対する予想される副作用のない耐容上限摂取量(tolerable upper intake level)を10mg/日と規定した(SCF/CS/NUT/UPPLEV/39)。しかし、薬理学的使用では、臨床的に関連のある脂質制御は、全身用量2,000mg/日以上においてのみみられる。100~300mg/日より高い用量では、紅潮、頻脈、血圧調節不全、および下痢を含む副作用を予想しなければならない(Carlson 2005、J.Intern.Med.258:94;ドイツ連邦リスクアセスメント研究所(German
Federal Institute for Risk Assessment)記載番号018/2012)。全身性の取込みを円滑にし、副作用をもたらす高いピーク濃度を避けるために、NAは、遅延または長時間放出製剤において(たとえば、Niaspan(登録商標))、またはアセチルサリチル酸もしくはラロピプラント(laropiprant)と組み合わせて(たとえば、Tredaptive(登録商標))投与することが好ましかった。製剤化していないNAでは十分な量を投与することができないため、かかるNA製剤は、専売薬をもたらす主要な知的財産でもあった。しかし、これらの薬物は、大部分は全身性のアベイラビリティによる著しい副作用に起因する好ましくないリスク-ベネフィット比のため、Tredaptive(登録商標)の場合はラロピプラントを加えたため、最近、欧州市場から撤回された。NAとは対照的に、NAMの副作用プロファイルははるかに良好であり、遅延放出または制御放出製剤なしで用いることができる(Takahashiら、2004、Kidney Int.65:1099;Chengら、2008、Clin.J.Am.Soc.Nephrol.3:1131;Shahbazianら、2011、Nefrologia 31:58)。これは、成人に対して最高900mg/日の推奨最大栄養用量(recommended maximum nutritional dose)に反映される(SCF/CS/NUT/UPPLEV/39)。しかし、全身性の取込みが急速であるため、十分量の薬物が下部小腸(好ましくは、回腸終末部)および/または結腸へ提供されず、ゆえに微生物叢に対するNA/NAMの効果を、制御放出製剤によって最大にする必要がある。
【0012】
したがって、多様なニコチン酸製剤(たとえば、長時間放出製剤のNiaspan(登録商標))、またはニコチンアミド製剤(たとえば、Nicobion(登録商標)もしくはEndur-Amide(登録商標))に対する薬物動態は、種々のコホートの患者および健常志願者では、原体の速やかで殆ど定量的な再吸収および代謝を示す(Petleyら、1995、Diabetes 44:152;Dragovicら、1995、Radiother.Oncol.36:225;Stratfordら、1996、Br.J.Cancer 74:16;Bernierら、1998、Radiother
.Oncol.48:123;Menonら、2007、Int.J.Clin.Pharmacol.Ther.45:448;Reicheら、2011、Nephrol.Dial.Transplant.26:276)。ニコチン酸は、少なくとも2つの別々の経路で、広範で急速な飽和性の初回通過代謝を受けるため、ニコチン酸に対するベースラインの血漿レベルは決定するのが困難である(Reicheら、2011、Nephrol.Dial.Transplant.26:276;Villinesら、2012、Curr.Atheroscler.Rep.14:49)。長時間放出のニコチン酸を投与した後、血漿Cmaxは、健常志願者で2g用量後9.3μg/mL(Menonら、2007、Int.J.Clin.Pharmacol.Ther.45:448)、または慢性腎疾患患者で1.5g用量後4.22μg/mLであった(Reicheら、2011、Nephrol.Dial.Transplant.26:276)。ニコチンアミド補充なしの健常志願者におけるベースラインのニコチンアミドレベルを、健常志願者30名のコホートにおいて0.008~0.052μg/mLの範囲で測定した(German reference laboratory:Medizinisches Labor Bremen、www.mlhb.de、2002におけるキャリブレーション試験)。健常ヒト志願者における全身性の薬物動態比較試験により、血漿Cmaxは2.1μg/mL(500mg用量後)であり、持続性放出ニコチンアミド製剤であるEndur-Amide(登録商標)では16.2μg/mL(2g用量後)であることが報告された(Petleyら、1995、Diabetes 44:152)。放射線治療におけるNicobion(登録商標)での高用量試験は、6g用量でもおよそ142μg/mLのピーク血漿濃度をもたらした(Bernierら、1998、Radiother.Oncol.48:123)。肝毒性の懸念から、かかる高用量は本発明の範囲外である。
【0013】
興味深いことに、腸内微生物叢を有益に改変すると、たとえば、ビフィズス菌(bifidobacteria)を増大すると、血中脂質レベルに対する有益な効果、特にHDLの上昇をもたらすことが実証された(Martinezら、2009、Appl.Environ.Microbiol.75:4175;およびPrakashら、2011、J.Biomed.Biotechnol.2011:981214により最近、実証および概説された)。プロバイオティクスの薬物開発は大部分が、IBDなどの多くの適応症において臨床上有効であることを証明できていないが、異脂肪血症におけるプロバイオティクスに対する、効果サイズは小さいながらも有望なデータがいくつか存在する(たとえば、Jonesら、2012、Br.J.Nutr.107:1505)。しかし、プロバイオティクスは常に、微生物叢全体を改善し、または標準化することより劣る。本発明者らは、患者の微生物叢を理解し、NAまたはNAM(または両者の組合せ)により身体自体のシグナル伝達のメカニズムによって患者の微生物叢を穏やかに改変することが、全般的に代謝疾患、特に異脂肪血症に対する将来的な治療法の頼みの綱になることを確信している。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、たとえば、腸内微生物叢における好ましくないもしくは異常な変化もしくは不均衡、および/または腸内微生物叢と腸との間の相互作用の低下に関連する、ヒトおよび動物における、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルならびに/または代謝疾患を、治療および/または予防するための新たな形態の処置を提供することである。
【0015】
本発明によれば、上記の課題は、活性物質としてニコチン酸および/もしくはニコチンアミドならびに/または本明細書に記載する別の化合物を含み、腸内微生物叢、および腸内微生物叢の腸との相互作用に有益に影響を及ぼし、ひいては血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに有益に影響を及ぼす、請求項において規定し、および/ま
たは本明細書にさらに詳しく記載する、医薬組成物または処置もしくは防止レジメンによって解決される。好ましい実施形態において、ニコチン酸および/またはニコチンアミドを投与して、腸粘膜および腸内微生物叢に局所的に影響を及ぼす。たとえば、活性物質を製剤化して、下部小腸および/または結腸において、好ましくは改変しようとする腸内微生物叢が位置する回腸終端部および/または結腸において、選択的に、たとえば、少なくとも部分的に局部的に有効であるように投与する。動物の体内(たとえば、人の体内)でニコチン酸および/またはニコチンアミドに変換される他の活性物質も、本発明が企図するものである。
【0016】
これらの驚くべき知見に基づき、本発明における、医薬組成物または処置もしくは防止レジメン、特に「医薬組成物」という用語には、前記活性物質の薬学的および/または生理学的に許容される組成物の広い意味があり、これらには薬剤(薬物)の意味における医薬製剤が含まれるがこれだけに限定されず、栄養補助食品、食事サプリメント(dietary supplement)も含まれ、最も広い意味では、食品成分および食品までもが含まれ得る。したがって、活性物質および製剤の用量に応じて、本発明による医薬組成物には、薬剤としての製剤、栄養補助食品、食事サプリメント、食品成分、および/または食品が含まれるが、これらだけに限定されない。薬剤、栄養補助食品、および食事サプリメントが好ましい。薬物またはサプリメントとしての医薬組成物が特に好ましい。
【0017】
したがって、ニコチン酸(ナイアシン、ビタミンB3)および/またはニコチンアミドを含む医薬組成物が提供される。これら2物質は、個々に、または相互に組み合わされて、小腸および/または大腸における微生物叢に対して有益に作用する。組合せは、同時に、または逐次的に投与され得る、同じまたは別々の剤形において存在し得る。組成物は、下部小腸および/または結腸、好ましくは回腸終端部および/または結腸における特定の局所的(local)または局部的(topical)に有効であるように活性成分を制御放出および/または遅延放出する経口投与に好適である。処置を受ける例示的な状態には、脂質代謝障害、異脂肪血症、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、動脈硬化症およびアテローム性動脈硬化症などの心血管疾患、代謝症候群、肥満の治療(薬剤を用いて)および/または予防(たとえば、薬剤、食事サプリメント、食品成分、もしくは食品を用いて)、ならびに腸内微生物叢、および/または腸内微生物叢と腸との間の相互作用の低下における変化に部分的に、または完全に起因する、異常な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルを特徴とする他の疾患の治療および/または予防が含まれる。
【0018】
本発明は、本明細書に記載する1または2以上の疾患および状態を、本明細書に記載する医薬組成物で処置または防止する方法も含む。加えて、本発明は、本明細書に記載する1または2以上の疾患および状態を処置または防止するための薬剤の、ならびに本明細書に記載する1または2以上の疾患および状態を防止するのを助けるための食事サプリメント、食品成分、または食品の製造における、本明細書に記載する医薬組成物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】制御放出ニコチン酸で処置する前(0日目)および後(3日目)、腸内微生物叢の主要ないくつかのグループの相対存在量の制御の差を示す図である(健常志願者2名の平均)。
【
図2】制御放出ニコチンアミドミニ錠剤(NAM;用量:およそ60mg/kg)は、腸炎誘発14日前にトリプトファン、ニコチン酸、およびニコチンアミドを通常含量の25%しか含まない食餌を与えたC57BL/6Jマウス(1グループあたりn=5匹)において、慢性デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)腸炎に生存の利益を与えたことを示す図である。生存マウスを、第2サイクルDSS処置の5日後に処分した。
【
図3】制御放出ニコチンアミドミニ錠剤(NAM;用量:およそ60mg/kg)は、トリプトファン、ニコチン酸、およびニコチンアミドを通常含量の25%しか含まない食餌を14日間与えた後、慢性デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)腸炎にかからせたC57BL/6Jマウス(1グループあたりn=5匹)において、総コレステロールレベルを低減したことを示すグラフである。コレステロールレベルを、平均値±標準偏差として表す。対照グループにおける動物1匹は、血清をすぐに調製する可能性なく死亡したため、コレステロール測定に含まれなかった。
【
図4】ツニカマイシンを負荷したC57BL/6Jマウス6匹の肝臓損傷スコアを示す図である(NAMなし3匹および60mg/kgNAM3匹)。NAM投与により、ツニカマイシン誘発性NAFLD/NASHからの中等度であるが著しい保護がもたらされた。データ点は各々、マウス1匹を表す。
【
図5】PharmatestDT70バスケット装置を50rpmで用いた溶解試験の設定における、0.5%ニコチン酸(NA)、9%トレハロースおよび1%クエン酸のサブコーティング(、ならびに20%シェラックの最終コーティングを有する350μmのcelletから構成される顆粒剤の完全な放出プロファイルを示す図である。pH1.2の疑似胃液(2時間)の後、pH6.8(4時間)およびpH7.4(2時間)の疑似腸液が続いた。
【
図6】Pharmatest DT70バスケット装置を50rpmで用いた溶解試験の設定における、0.5%ニコチン酸(NA)、9%トレハロースおよび1%クエン酸のサブコーティング、ならびに25%シェラックの最終コーティングを有する350μmのcelletから構成される顆粒剤からのNAのバースト放出を示す図である。NAがすべて放出されるまで、pH7.4の疑似腸液を用いた。Tmax(完全な放出)はおよそ60分であったが、50%放出(t50)は10分後にすでに実現された。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の核心は、ニコチン酸;ニコチンアミド;たとえば動物の体内(たとえば、人の体内)においてニコチン酸またはニコチンアミドに変換されるイノシトールヘキサニコチネートなどの化合物;ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD);ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP);NADまたはNADPの生合成における中間体から選択される1つ、2つ以上の活性物質を含み、医薬組成物は、下部小腸、好ましくは回腸終末部、および/または結腸において少なくとも部分的に局部的に有効であるように放出する(たとえば、部分的に放出する、選択的に放出する)ように、制御放出および/または遅延放出のために設計されている、腸内微生物叢を有益に改変することにより(たとえば、好ましくない、または異常な、または不均衡な)血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすための医薬組成物、または処置もしくは防止レジメンである。
【0021】
よって、一実施形態において、本発明は、ニコチン酸;ニコチンアミド;たとえば動物または人の体内でニコチン酸またはニコチンアミドに変換されるイノシトールヘキサニコチネートなどの化合物;ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD);ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP);NADまたはNADPの生合成における中間体;またはこれらの組合せから選択される活性物質を含み、下部小腸、好ましくは回腸終末部、および/または結腸において、少なくとも部分的に局部的に有効であるように活性物質を放出する、腸内微生物叢を有益に改変することにより(たとえば、好ましくない、または異常な、または不均衡な)血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすための医薬組成物を提供する。
【0022】
したがって、医薬組成物は、腸内微生物叢に有益に影響を及ぼすために、ニコチン酸、ニコチンアミド、またはこれらの組合せから選択される活性物質を含み、医薬組成物は、下部小腸、好ましくは回腸終末部、および/または結腸において、局部的に有効であるよ
うに活性物質を放出する。
【0023】
組合せは、同時に、または逐次的に投与され得る、同じまたは別々の剤形において存在することができる。
【0024】
別の一実施形態において、本発明は、腸内微生物叢を有益に改変することにより(たとえば、好ましくない、または異常な、または不均衡な)血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすための、医薬組成物の使用を目的とする。
【0025】
本明細書で使用する場合、「下部小腸」は小腸の後半分であり、「回腸終端部」は回腸の後半分である。
【0026】
本明細書で使用する場合、「局部有効性」という用語は、薬動力学的な意味の局部効果を指し、よって、全身性というよりむしろ局所的な、薬物療法に対する標的を指す。したがって、局所有効性は、たとえば、薬物療法または食事サプリメントまたは食品成分が、その直接的な治療および/または予防効果を送達し、循環系に侵入しないまたは低度にしか侵入せず、たとえば、それによりいかなる全身作用も引き起こさず、または低い全身作用しか引き起こさない位置に特異的または選択的な活性物質での、局所的な治療および/または予防を意味する。この点に関して、本発明の局部有効性は、腸内(消化管における)投与および血管内/静脈内(循環系内への注射)投与とも対照をなす。高い全身アベイラビリティをねらった組成物と比較すると、組成物の局部有効性は、活性物質の全身レベルが増大するまでの潜伏時間がより長いことによっても特徴づけることができる。局部放出に対する、かかる潜伏時間は、当技術分野では公知の小腸通過時間と相関し得る(たとえば、Davisら、1986、Gut 27:886;Evansら、1988、Gut 29:1035;Kararli 1995、Biopharm.Drug Dispos.16:351;Sutton 2004、Adv.Drug Deliv.Rev.56:1383を参照)。たとえば、胃排出に対する可変時間後(剤形および給餌状態に応じて、1時間未満から10時間を超える範囲)、小腸通過時間は、製剤および試験にまたがって通常3~4時間でむしろ一定である(Davisら、1986、Gut 27:886)。よって、絶食患者における例示的な潜伏時間は少なくとも2時間であり、その時間に製剤が下部小腸に到達し、全身レベルが上昇し始め得る。特に、本発明の文脈では、局部有効性は、活性物質および/またはその代謝産物の血液および/または血漿および/または血清レベルが、投薬前に同じヒトで測定したレベルより2ケタ(好ましくは1ケタ)高いレベルを超えず、欧州心臓学会(European Society of
Cardiology)および/もしくは欧州アテローム性動脈硬化学会(European Atherosclerosis Society)の現在のガイドライン(2011、Eur.Heart J.32:1769)、ならびに/または米国臨床内分泌学会(American Association of Clinical Endocrinologists)の現在のガイドライン(Jellingerら、2012、Endocr.Pract.18 Suppl.1:1;Jellingerら、2012、Endocr.Pract.18:269)において規定される、少なくとも1つの脂質パラメータに大幅に、かつ有益に影響を及ぼすことを意味するのが好ましい。
【0027】
あるいは、または加えて、局部有効性は、同じ方法および同じ条件下で、純粋に(製剤なしで)投与した同量の活性物質に対して、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、またはさらに95%以上、血液および/または血漿および/または血清レベルの低下に関して表すことができる。
【0028】
局部有効性は、特に、本明細書に記載する活性物質の医薬製剤によって実現される。
【0029】
よって、本発明によると、下部小腸、好ましくは回腸終末部、および/または結腸において特定の局所に有効であるように、活性成分を制御放出および/または遅延放出する経口投与のための医薬組成物が好ましい。より好ましい一変形において、下部小腸、好ましくは回腸終末部、および/または結腸において特定の局所に有効であるように、活性成分を遅延放出する、経口投与のための医薬組成物が製剤化される。別のより好ましい一変形において、下部小腸、好ましくは回腸終末部、および/または結腸において特定の局所に有効であるように、活性成分を制御放出する、経口投与のための医薬組成物が製剤化される。本発明によると、医薬組成物がニコチンアミドを含むのがさらにより好ましい。
【0030】
本発明者らは、ニコチンアミドは、腸内微生物叢(腸におけるすべての微生物全体、特に細菌)に影響を及ぼすことにより、驚くべき抗炎症効果を有することを以前に実証した(PCT/EP2013/062363)。この驚くべき効果の背後にあるメカニズムは、腸における抗微生物ペプチドの分泌パターンにおけるニコチンアミド誘発性の変化を伴うことが引き続き示されたが、このことは、正常の、健康な腸内微生物叢の維持および/または再生を支持する(Hashimotoら、2012、Nature、487巻:477頁)。
【0031】
よって、本明細書で使用する場合、「腸内微生物叢に有益に影響を及ぼす」は、健康に対して、特に、本明細書に記載する1または2以上の疾患および状態に対して有益な影響を有する、腸内微生物叢における変化を引き起こすことを指す。たとえば、有益な影響は、病原性細菌の数の低下、病原性細菌の有益な細菌に対する比の低下、病原性細菌の多様性の増大、有益な細菌の量の増大、および微生物叢のエンテロタイプ(たとえば、バクテロイデス(Bacteroides)、プレボテラ(Prevotella)、およびルミノコッカス(Ruminococcus)に関連するエンテロタイプ)における病理学的変化の部分的または完全な復帰に関連する。
【0032】
加えて、本発明は、患者または対象が本明細書に記載する処置または防止を選択するのを支援するために、本明細書に記載する医薬組成物および/または処置および/または防止を個別化および適応するために、ならびに/あるいは本明細書に記載する医薬組成物および/または処置および/または防止のためのエンドポイントおよび有効性の水準点を決定するために、有益な微生物叢および/または有害な微生物叢を同定するための生物マーカーとして、腸内微生物叢の、部分および/またはそれらの全体(マイクロバイオーム)における使用にも関する。
【0033】
本発明は、背景技術のセクションに記載した最新技術と驚くべき対照をなして、ニコチン酸および/またはニコチンアミドに著しく全身的に曝露しても、血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに必ずしも有益に影響を及ぼさないことを示す。
【0034】
上記に言及した通り、たとえば、肝毒性の問題および他の副作用に鑑みて、先行技術の製剤において用いる高用量は本発明の範囲外である。さらに、本明細書で請求する製剤は、ニコチン酸、および/またはニコチンアミド、または動物もしくは人の体内においてニコチン酸および/もしくはニコチンアミドに変換されるイノシトールヘキサニコチネートなどの化合物;ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD);ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP);NADまたはNADPの生合成における中間体;またはこれらの組合せの、全身曝露のないまたは低い、制御放出および/または遅延放出の製剤を用いて、消化管の微生物叢および微生物叢の腸との相互作用を改変することにより(少なくとも部分的に)間接的に、血液および/または血漿および/または血清脂質レベルを有益に改変することを目的とする。
【0035】
本明細書で使用する場合、「全身曝露」という用語は、活性物質および/または代謝産
物の血液および/または血漿および/または血清レベルが、投薬前の同じヒトにおいて測定されたレベルよりも2ケタ高いレベルを超えると規定する。したがって、低全身曝露は、活性物質および/または代謝産物の血液および/または血漿および/または血清レベルが、投薬前の同じヒトにおいて測定したレベルよりも2ケタ高いレベルを超えないと規定する。よって、先行技術と対照的に、本発明は、消化管の微生物叢、および微生物叢の腸との相互作用を、たとえば、下部小腸、好ましくは回腸終末部、および/または結腸において局所的に改変することにより、間接的に血液および/または血漿および/または血清脂質レベルを有益に改変する一方で、全身曝露を特に示さず、または低く示すことにより、局部的に有効であるように設計される。
【0036】
ニコチン酸およびニコチンアミドの抗炎症性の局部効果での状況同様、これらの物質の主な効果は、腸内微生物叢、および腸と微生物叢との間の相互関係に有益に影響を及ぼし、ひいては血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに対する有益な効果をもたらすことである。注目すべきことは、本明細書に記載する腸内微生物叢を有益に改変することにより(たとえば、好ましくない、または異常な、または不均衡な)血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすための局部効果は、以前に見出された抗炎症性の局部効果と無関係であり、本発明により初めて認められたということである。よって、本発明は、たとえば、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルの、ならびに/あるいはヒトおよび動物における代謝疾患[大規模な組織炎症(たとえば、IBDなどにおける)が、必ずしも優勢な、または唯一の、疾患駆動性のメカニズムではない代謝疾患]の治療および/または予防のための処置においても、前記の局部有効性を特に示す。したがって、本発明は、主要な、かつ/または関連する、腸の炎症の徴候および/または症状のない患者における、処置および/または予防においても適切である。
【0037】
よって、本明細書で使用する場合、血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに対する「有益な効果」は、たとえば、年齢、性別、体重、薬物療法などに関して罹患している個体にマッチさせた、健常対照個体に観察される基準レベルに向かって部分的に、または全体的に、1または2以上の血中脂質の血液および/または血漿および/または血清レベルを、異脂肪血症の状態から変化させることを指す。かかる有益な効果は、好ましくは、HDLレベルが基準レベル未満である場合はHDLの増大であり、LDLレベルが基準レベルを超える場合はLDLの低減であり、トリグリセリドレベルが基準レベルを超える場合はトリグリセリドの低減であり、かつ/または総コレステロールレベルが基準レベルを超える場合は総コレステロールの低減である。
【0038】
正常の消化管の微生物叢の確立もしくは再建、または有益な細菌の補充による治療介入は、多種多様な疾患モデルおよびそれぞれのヒト疾患において効果的であることがわかっている。たとえば、Olszakら、(Science 2012、336:489)は、最近、IBDまたは喘息の無菌マウスモデルの患部器官におけるインバリアントナチュラルキラーT細胞の病理学的な滞留が、新生仔マウスに正常な微生物叢をコロニー形成することにより防止することができることを実証した。種々の疾患において、諸研究は、ある種のプレバイオティクス、プロバイオティクス、またはシンバイオティクスの有益な効果を実証している。IBDにおいて、一部のプロバイオティクス、たとえばVSL#3(ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム・インファンティス(Bifidobacterium infantis)、アシドフィルス菌(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ブルガリア乳酸桿菌(Lactobacillus delbrueckii亜種bul
garicus)、およびサーモフィルス菌(Streptococcus thermophilus)の混合物)が、限られた数の臨床研究において使用され、成功している。しかし、IBDおよび他の多くの適応症におけるプロバイオティクスの薬物開発は、大部分が臨床上有効であることを証明できなかった。異脂肪血症におけるプロバイオティクスに対して、効果サイズは小さいながらも有望なデータはいくつかあり(たとえば、Jonesら、2012、Br.J.Nutr.107:1505)、乳酸桿菌は肥満における血中コレステロールレベルを低下することができるが、メカニズムは依然として完全に明らかではない(Caesarら、2010、J.Intern.Med.268:320による概説)。
【0039】
少なくとも数株の細菌を補充することが、通常、著しい治療上の有益性を提供する必要要件であると考えられる。複雑な細菌による介入のめざましい有効性を示す最近の例は、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)に対する糞便移植の使用成功例である(van Noodら、2013、New Engl.J.Med.368:407)。しかし、本発明は、腸自体のシグナル伝達のメカニズムを用いて、内因性の、よって固有の消化管の微生物叢に有益に影響を及ぼし、理想的には標準化することによる、完全な微生物生態系移植よりも微妙な取組みを使用する。
【0040】
腸内粘膜および腸内微生物叢に局所的に影響を及ぼすための、ニコチン酸および/またはニコチンアミド(および関連の活性物質)の、本発明の特定の局部的使用、ならびに有益な脂質レベルの変化をもたらすこれらの相互作用の直接的な治療(または、たとえば、予防)は、以前は知られておらず、予想外であったこれらの化合物の役割に対して、本明細書に記載した洞察を行った結果、生み出されたものである。この使用は、これらの物質が吸収され、全身的に作用することが想定される、活性物質の従来の使用と大幅に異なる。したがって、本発明の主な利点は、不必要な全身曝露を避けて、より低量の活性物質を実際に有効である部位に送達することにより用量を低減し、結果的に、活性物質の全身的な取込みを低減または回避することにより全身性の副作用を低減または回避することである。
【0041】
ニコチン酸および/またはニコチンアミド(および本明細書に記載する他の化合物)には、腸内微生物叢に有益に影響を及ぼすなどの改変による、血中脂質に対する有益な効果のため、よって、血液および/または血漿および/または血清脂質レベルにおける好ましくないもしくは異常な変化もしくは不均衡などにより引き起こされ、またはこれを伴う疾患を処置するための活性物質として適切である。加えて、これらは、それぞれ薬剤または食事サプリメントまたは食品成分として予防の設定において、かかる疾患および/もしくは状態を防止し、または防止するのを助けるのに適切である。
【0042】
特定の状態には、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに関連し、かつ/またはこれを伴う疾患および/または症候群の治療および/または予防が含まれ、ならびに/あるいはかかる疾患は、脂質代謝障害、異脂肪血症、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)であって、好ましくは肝臓脂肪含量を低減し、かつ/または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすことによるものであるNAFLDおよび/またはNASH、動脈硬化症およびアテローム性動脈硬化症などの心血管疾患、代謝症候群、肥満、ならびに、たとえば、腸内微生物叢における好ましくない、もしくは異常な変化、または不均衡、および/または腸内微生物叢と腸との間の相互作用の低下に部分的に、または全体的に起因する、好ましくない、異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルなどを特徴とする他の疾患の治療および/または予防からなる群から選択される。
【0043】
異脂肪血症は、低脂血症(たとえば、HDLレベルが非常に低い場合)でも、または高脂血症(たとえば、LDLレベルが非常に高い場合)でも、または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清中の2つ以上の脂質もしくはリポタンパク質の低脂血症と高脂血症との組合せでもよい。本明細書に記載する脂質代謝障害および異脂肪血症には、遺伝型および非遺伝型のかかる状態または疾患または障害が含まれる。遺伝的素因には、それだけには限定されないが、SLCO1B1、ABCG2、またはABCB1遺伝子におけるリスク遺伝子型が含まれる。異脂肪血症は、高Lp(a)レベルおよび/またはホモシステインレベルにおける変更を伴うことがある。本明細書に記載する患者には、それだけには限定されないが、スタチン不耐症患者が含まれる。
【0044】
本発明の組成物は、以下の3つの適応症において用いるのに特に好ましい:(1)特にスタチンに添加するものとして(たとえば、スタチンでは十分にもたらされないHDLを増大するために)、全身性異脂肪血症、(2)高Lp(a)およびスタチン不耐症を有する患者(それだけには限定されないが、SLCO1B1、ABCG2、および/またはABCB1リスク遺伝子型を有する患者を含む)における異脂肪血症、ならびに(3)NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)であって、好ましくは肝臓脂肪含量を低減し、かつ/または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすことによるものであるNAFLDおよび/またはNASH。加えて、一実施形態において、本発明の組成物は、医学的処置を未だ必要としないが、1または2以上の上記の疾患を発症するリスク因子である、異脂肪血症を有する対象に対する食事サプリメントとして用いるのに特に好ましい。
【0045】
これに関して、本発明は、血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすために、ならびに/あるいは以下からなる群から選択される1または2以上の治療または予防において、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルを有する患者または対象において用いるための医薬組成物を目的とするのが好ましい:
a)脂質代謝障害の治療および/または予防、
b)異脂肪血症の治療および/または予防、
c)好ましくは、肝臓脂肪含量を低減し、かつ/または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすことによる、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の治療および/または予防、
d)好ましくは、肝臓脂肪含量を低減し、かつ/または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすことによる、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療および/または予防、
e)心血管疾患の治療および/または予防、
f)動脈硬化症の治療および/または予防、
g)アテローム性動脈硬化症の治療および/または予防、
h)代謝症候群の治療および/または予防、
i)肥満の治療および/または予防、
j)腸内微生物叢における好ましくないもしくは異常な変化もしくは不均衡、および/または腸内微生物叢と腸との間の相互作用の低下に部分的に、または全体的に起因する、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルを特徴とする他の疾患の治療および/または予防。
【0046】
本医薬組成物の特定の一実施形態は、HDL血中レベルを増大するために、ならびに/あるいは脂質代謝障害、異脂肪血症、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であって、好ましくは肝臓脂肪含量を低減し、かつ/または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすことによるものであるNAFLDおよび/またはNASHからなる群から選択される1ま
たは2以上において使用するためである。
【0047】
好ましくは、これらの活性物質は、可能な限り最大量の活性物質を、上部小腸において身体に吸収されないように(たとえば、循環系内への吸収から)保護し、むしろ、改変しようとする腸内微生物叢が位置する下部小腸および/または結腸内に、好ましくは回腸終末部および/または結腸内に有効であるように放出(たとえば制御放出および/または遅延放出)する薬理学的な製剤で使用される(たとえば、活性物質は下部小腸および/または結腸内に、好ましくは回腸終末部および/または結腸に選択的に放出される)。
【0048】
特に、本明細書に記載する活性物質は、よって、たとえば、血中HDLレベルを増大することによる、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに関連する、および/または伴う、状態および/または疾患および/または症候群の治療および/または予防のための、ならびに腸内微生物叢における好ましくない、もしくは異常な変化、または不均衡、および/または腸内微生物叢と腸との間の相互作用の低下に部分的に、または完全に起因する、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルを特徴とする他の疾患を治療および/または予防するための、局部的放出(たとえば、制御放出および/または遅延放出)を有する薬剤または食事サプリメントにおいて用いるのに適切である。
【0049】
特許請求した物質は、ヒトおよび他の哺乳動物の両者において、特に家畜および有用な動物において、発生源が同じ疾患の治療および/または予防に等しく使用可能である。かかる動物の例には、限定する目的はないが、イヌ、ネコ、ウマ、ラクダ、またはウシがある。
【0050】
活性物質、すなわちニコチン酸および/またはニコチンアミドは、Merck KgaAによって製造されたものなど、市場で入手できるあらゆる形態において用いることができる。
【0051】
ニコチン酸およびニコチンアミドに加えて、他の関連化合物を、活性物質として本明細書に記載する本発明において用いることができる。たとえば、ニコチン酸エステルなど、人または動物の体内において(たとえば、加水分解、代謝によって)これらの物質の1つに変換される化合物が適切である。加えて、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)またはNADリン酸(NADP)の合成における中間体、たとえば、N-ホルミルキヌレニン、L-キヌレニン、3-ヒドロキシ-L-キヌレニン、3-ヒドロキシアントラニル酸、2-アミノ-3-カルボキシムコン酸セミアルデヒド、キノリネート(quinolinate)、およびベータ-ニコチネートD-リボヌクレオチドを用いることができる。さらなる例には、NADおよびNADPが含まれる。
【0052】
ニコチン酸および/またはニコチンアミド(または上記の他の物質のうちの1つ)を含有する医薬組成物は、経口投与して活性物質を遅延放出することができ、かつ/または経直腸適用様式(たとえば浣腸剤または坐剤)でも投与することができる。活性物質の送達部位は、消化管の微生物叢、および微生物叢の腸との相互作用を改変するために、下部小腸および/または結腸が好ましく(回腸終末部および/または結腸がより好ましく)、このため、たとえば、ニコチン酸を用いた異脂肪血症の最先端の治療法が、生物体における極大の吸収および代謝、よって全身効果を追求する適用様式とは根本的に異なる。加えて、本発明による投与様式、および本発明による投与量は、ニコチン酸および/またはニコチンアミドの周知の副作用の発現の確率を最小限に抑える。
【0053】
これに関して、本発明は、ニコチン酸およびニコチンアミドの可変用量の組合せまたは
固定用量の組合せなど、本発明の活性物質の組合せ調製物も含む。本明細書に記載する組合せは、同時に、または逐次的に投与してもよい、同じまたは別の剤形において存在し得る。
【0054】
これに関して、本発明は、たとえば、ニコチン酸および/またはニコチンアミドと、アセチルサリチル酸および/またはプロスタグランジンD2拮抗薬、たとえばニコチン酸に特有の副作用を低減するラロピプラントとの組合せ、ならびにスタチンとの組合せなど、他の組合せ調製物も含む。かかる組合せの組成および用量は、当業者には知られている。
【0055】
本明細書で使用する場合、「可変用量の組合せ」という用語は、2種の単位剤形など、それによってこれらの物質が各々、別々の医薬組成物の形態において適用される、薬物または食事サプリメントにおける2種以上の活性物質の組合せを指し、別々の医薬組成物は、連続の、または引き続きの投与レジメンにより、一緒に投与することができる。たとえば、あらゆる適切な用量のニコチン酸の医薬組成物は、あらゆる適切な用量のニコチンアミドの別々の医薬組成物と一緒に、連続して、または引き続き投与することができる。よって、ニコチン酸など、可変用量の1活性物質を、ニコチンアミドなど、可変用量の別の1活性物質と組み合わせてもよい。これら可変用量の組合せは、慣例的に入手できる医薬組成物を用いてもよく、または配合によって誂えた多剤併用によって実現することもできる。
【0056】
可変用量の組合せとは対照的に、固定用量の組合せは、2種以上の医薬上の活性成分、たとえば活性物質を、それぞれある固定用量において製造および分配される、単一剤形中に組み合わせて含む製剤である、組合せの薬物または食事サプリメントである。固定用量の組合せは(配合によって誂えられた多剤併用とは反対に)、概ね、あらかじめ決定された組合せの薬物または食事サプリメント(活性物質)、およびそれぞれの投与量を有する、大量生産生成物を指す。
【0057】
よって、本発明は、本明細書に記載する医薬組成物またはその使用の実施形態にも関し、医薬組成物は、ニコチン酸もしくはニコチンアミド単独の制御放出および/もしくは遅延放出製剤である、またはニコチン酸の制御放出および/もしくは遅延放出製剤の、ニコチンアミドの制御放出および/もしくは遅延放出製剤との、可変用量の組合せもしくは固定用量の組合せである。医薬組成物が、ニコチン酸の制御放出および/または遅延放出製剤の、ニコチンアミドの制御放出および/または遅延放出製剤との固定用量の組合せであるのが好ましい。制御放出製剤が好ましい。
【0058】
本発明に従ってニコチン酸およびニコチンアミドの組合せを用いる場合、これらは、1:1から1:1000まで、特に1:3から1:300まで、好ましくは1:10から1:100までの範囲の、特定の重量比において適用するのが好ましい。
【0059】
本発明に従って用いるニコチン酸および/またはニコチンアミドの合計用量は、1から5000mgまでの範囲であってよく、これを個々の用量としてまたは複数の用量として、かつ/または1日量を1回、2回、もしくはより頻繁に投与してもよい。ニコチン酸および/またはニコチンアミドの適切な合計用量の範囲は、50mgから5000mgまで、好ましくは100mgから5000mgまでを含む。本発明に従って、ニコチン酸および/またはニコチンアミドの好ましい合計用量は、各50mgから4000mgまでの範囲、より好ましくは各100mgから4000mgまでの範囲である。
【0060】
非限定的な例として、高用量製剤は、最高5000mgのニコチン酸、ニコチンアミド、および/またはこれらの組合せを含むことができる。たとえば、それだけには限定されないが、固定用量の高用量製剤は、3000~5000mgの範囲の、好ましくは350
0~5000mgの範囲のニコチン酸およびニコチンアミドの合計を含むことができる。適切な高用量製剤は、3750~4250mgの範囲、たとえば4000mgである。高用量製剤では、望ましくない全身性の高曝露をもたらさないように、制御放出および/または遅延放出製剤が構成されるように注意を払わなければならない。
【0061】
非制限的な一例として、低用量製剤は、最高1000mg、たとえば、500~600mgのニコチン酸、ニコチンアミド、および/またはこれらの組合せを含むことができる。
【0062】
非限定的な一例として、標準用量製剤は、最高3000mg、好ましくは1000~2500mgの範囲、好ましくは2000~2500mgの範囲の、ニコチン酸、ニコチンアミド、および/またはこれらの組合せを含むことができる。
【0063】
固定用量の高用量製剤の非限定的な特定の一例は、ニコチン酸(NA)1000mgおよびニコチンアミド(NAM)3000mgの組合せを含む。
【0064】
固定用量の標準用量製剤の非限定的な特定の一例は、ニコチン酸250mgおよびニコチンアミド2000mgの組合せを含む。
【0065】
固定用量の低用量製剤の非限定的な特定の一例は、ニコチン酸50mgおよびニコチンアミド500mgの組合せを含む。
【0066】
本発明のかかる医薬組成物は、たとえば、適切であれば、カプセル中、または小袋中、好ましくは小袋中の、顆粒剤、好ましくは微粒剤として投与することができる。
【0067】
ニコチン酸および/またはニコチンアミドが、顆粒剤、好ましくは微粒剤の形態において製剤化されるのが好ましい。これらの顆粒剤、たとえば微粒剤は、単一剤形に、または可変用量の組合せもしくは固定用量の組合せに用いることができる。顆粒剤、好ましくは微粒剤の形態におけるニコチン酸および/またはニコチンアミドを、本明細書に記載する他の活性物質と組み合わせて、たとえばスタチンと組み合わせて用いる場合、これらの活性物質は、あらゆる単一の医薬組成物の形態において、ならびに可変用量の組合せ、または固定用量の組合せにおいて用いてもよい。好ましくは、かかる他の活性物質、たとえばスタチンを、次いで、顆粒剤または微粒剤の形態においてやはり用いてもよい。顆粒剤、好ましくは微粒剤を、圧縮して錠剤にしてもよく、またはカプセルもしくは小袋中に充填してもよく、または適宜このように用いてもよい。
【0068】
下部小腸および/または結腸における、好ましくは回腸終末部および/または結腸における腸内微生物叢に対して有益な、かつ/または改変効果を有する活性物質の経口投与用製剤(たとえば、錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、サシェ剤など)を生成するために、制御放出および/または遅延放出の様式を用いるのが、よって、有利かつ画期的である。最適に補充するための従来の(場合により、遅延放出でもあるが全身性の)放出様式とは対照的に、本発明のある種の実施形態は、たとえば、異脂肪血症を処置するためのニコチン酸を用いる場合、(少なくとも)部分的に、または(さらに)実質的に、胃における、および小腸上部部分における吸収を回避する。
【0069】
上記に言及した疾患、および/または好ましくない生理学的状態を処置または防止するために、経口および/または経直腸適用様式(たとえば、浣腸剤として)が適切である。経口適用が好ましい。
【0070】
よって、本発明に従って、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/
または血漿および/または血清脂質レベルに関連し、かつ/またはこれを伴う疾患および/または症候群の治療および/または予防のための、活性物質を制御放出および/または遅延放出する経口投与のための医薬組成物が好ましく、ならびに/あるいはかかる疾患は、脂質代謝障害、異脂肪血症、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であって、好ましくは肝臓脂肪含量を低減し、かつ/または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすことによるものであるNAFLDおよび/またはNASH、心血管疾患、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、代謝症候群、肥満からなる群から選択され、ならびに/あるいは、腸内微生物叢における好ましくないもしくは異常な変化もしくは不均衡、および/または腸内微生物叢と腸との相互作用の低下に部分的に、または完全に起因する、好ましくない、または異常な、または不釣合いな血液および/または血漿脂質レベルを特徴とする他の疾患および/または医学的状態の治療および/または予防のためである。
【0071】
経口投与には、特殊なガレヌス製剤(galenics)により活性物質の放出を制御し、かつ/または遅延させる特定の剤形(いわゆる制御放出、緩効性放出または遅延放出の各形態)が特に好適である。かかる剤形は、単純な錠剤およびコーティング錠、たとえばフィルム錠または糖衣錠とすることもできる。錠剤は通常丸いか、または両凸である。分離することができる細長い錠剤の形態も使用可能である。さらに、顆粒剤、長球型剤、ペレット剤、またはマイクロカプセル剤が使用可能であり、これらは適宜小袋またはカプセル中に充填される。
【0072】
「遅延放出」という用語は、好ましくは、時間を遅らせてから活性成分を放出する医薬製剤に関する。一定の実施形態において、遅延は、製剤中の活性物質の少なくとも一部が下部小腸(たとえば回腸終末部)および/または結腸で放出されれば十分である。
【0073】
「制御放出」という用語は、好ましくは、1または2以上の活性成分を長期間にわたって(時間依存的放出)、および/またはある生理学的条件下で(たとえば、pH依存的放出)放出または送達する医薬製剤またはその成分に関する。一定の実施形態において、生理学的条件(たとえば、pH)による期間または放出は、製剤中の活性物質の少なくとも一部が、下部小腸(たとえば、回腸終末部)および/または結腸で放出されれば十分である。
【0074】
遅延および/または遅延放出および/または制御放出は、たとえば、胃液に対して抵抗性であり、pHに応じて溶解するコーティングによって、微細セルロースおよび/またはマルチマトリクス(MMX)技術を用いて、種々の担体マトリクスまたはこれらの技術の組合せを使用して、有利に実現される。その例として、制御放出および/または遅延放出のために、アクリルおよび/またはメタクリレートポリマーを種々の混合物で含有するフィルムコーティングが含まれる。さらなる例には、ポリマー-薬物コンジュゲートとして天然または化学的に改変されたペクチン、微生物叢依存性の放出のためのコーティング材および/またはマトリクス剤などの生分解性ポリマーが含まれる(たとえば、Vandammeら、2002、Carbohydrate Polymers 48:219により概説されている)。たとえば、活性物質は、微結晶性セルロースもしくはゼラチンの従来のマトリクス中に、またはMMX技術で含有されてよく、これを、活性物質の遅延放出をもたらす材料でコーティングする。活性物質は、公知の方法を用いてコーティングされる大容量のカプセル剤(たとえば、内容量0.68mlのゼラチンカプセル)において投与することができる。適切なコーティング材には、カルナウバロウなどの水不溶性のロウ、および/またはポリ(メタ)アクリレートなどのポリマーがある[たとえば、商品名Eudragit(登録商標)、特にEudragit(登録商標)L30D-55の商品名を有するポリ(メタ)アクリレート製品ポートフォリオ(官能基としてメタクリル酸を有する陰イオンポリマーの水性懸濁液)、Eudragit(登録商標)L100-55
(メタクリル酸およびアクリル酸エチルをベースとする陰イオン性コポリマーを含む)、Eudragit(登録商標)L100またはL12,5またはS100またはS12,5(メタクリル酸およびメタクリル酸メチルをベースとする陰イオンコポリマー)、またはEudragit(登録商標)FS30D(アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、およびメタクリル酸をベースとする陰イオンコポリマーの水性分散液);Evonik Industries AG、Essen、Germany)、ならびに/または水不溶性セルロース(たとえば、メチルセルロース、エチルセルロース)]。適宜、水溶性ポリマー(たとえば、ポリビニルピロリドン)、水溶性セルロース(たとえば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースもしくはヒドロキシプロピルセルロース)、乳化剤および安定化剤(たとえば、ポリソルベート80)、ポリエチレングリコール(PEG)、ラクトース、またはマンニトールも、コーティング材にやはり含まれ得る。
【0075】
たとえば、Eudragit(登録商標)S化合物とL化合物との組合せ(たとえばEudragit(登録商標)L/S100)は、回腸終末部で生じるpH>6.4で、本発明による活性物質の制御放出を実現する。Eudragit(登録商標)調製物およびその(FS、L、S、およびRの化合物)混合物を、活性物質の包装にさらに使用することも考えられ、したがって、胃腸管全体の選択された部分での局部的使用を、一定のpH値で制御放出によって実現することができる。ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)カプセル、およびより最近開発されたEudragit(登録商標)ポリマーで腸内標的化する系統的な試験が、Coleら、2002年(Int.J.Pharm.231:83)により公開された。
【0076】
本発明に従って、特に食事サプリメントの製剤だけではなく、食品成分にも対する非限定的な例は、高度に水溶性の物質に対してBergら、(2012、J.Food Eng.108:158)によって最近記載された。よって、本発明による活性物質は、たとえば、噴霧乾燥したマルトデキストリン-ペクチンマイクロカプセル剤、およびシェラックコーティングした顆粒剤として製剤化することができる。
【0077】
薬物製剤または食事サプリメントの製剤などの医薬組成物は、さらなる医薬品添加剤物質、たとえば結合剤、充填剤、滑剤、滑沢剤および流動制御剤を含有することもできる。本発明による化合物は、適宜、さらなる活性物質、および医薬組成物に慣用の添加剤、たとえば、タルク、アラビアガム、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、カカオ脂、水性および非水性担体、動物または植物由来の脂質成分、パラフィン誘導体、グリコール(特にポリエチレングリコール)、種々の可塑剤、分散剤、乳化剤および/または防腐剤と一緒に製剤化することができる。
【0078】
本発明による医薬組成物の別の一実施形態は、腸内微生物叢における好ましくないもしくは異常な変化もしくは不均衡、および/または腸内微生物叢と腸との間の相互作用の低下に部分的に、または完全に起因する、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルを特徴とする疾患の治療および/または予防のための、結腸における直腸投与のためである。この医薬組成物は、たとえば、結腸における直腸投与用に製剤化され、治療および/または予防は、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルに関連し、かつ/またはこれを伴う疾患および/または症候群のためであり、ならびに/あるいはかかる疾患は、脂質代謝障害、異脂肪血症、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)であって、好ましくは肝臓脂肪含量を低減し、かつ/または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすことによるものであるNAFLDおよび/またはNASH、心血管疾患、動脈硬化症、アテローム性動脈硬化症、代謝症候群、肥満からなる群から選択され、ならびに/あるいは、腸内微生物叢における好ましくないもしくは異常な変化もしくは不均衡、およ
び/または腸内微生物叢と腸との間の相互作用の低下に部分的に、または完全に起因する、好ましくない、または異常な、または不釣合いな血液および/または血漿および/または血清脂質レベルを特徴とする他の疾患および/または医学的状態の治療および/または予防のためである。直腸適用を行う医薬組成物は、結腸における微生物叢の局所的な改変のためである。
【0079】
経直腸適用のための浣腸剤または坐剤を製造するために、活性物質の調製物を好適な溶媒に溶解し、公知の製薬法に従ってさらに加工して浣腸剤または坐剤にすることができる。
【0080】
完成した剤形中の活性物質含量は上記に記載した通りである。製剤の非限定的な例において、1または2以上の物質に対して活性物質含量は、経口投与の場合は、各1mgから最高3000mgまで、好ましくは各10mgから最高2500mgまでであってよく;浣腸剤および/または坐剤は10mgから5000mgまでの量の活性物質を含むことができる。疾患または状態の性質および重症度、ならびに個々の患者または対象の性質に応じて、剤形は、1日1回または数回投与され、または別の用量レジメンでは、薬剤の場合は医師により選択され、または食事サプリメントの場合は包装の指示により規定される。
【0081】
可変用量の組合せおよび固定用量の組合せを含めた、本発明による医薬組成物、または本明細書に記載するその使用は、特に、血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすために、かつ/または以下からなる群から選択される1もしくは2以上における使用のために、ニコチン酸および/またはニコチンアミドが製剤化される実施形態を含む:
a)脂質代謝障害の治療および/または予防、
b)異脂肪血症の治療および/または予防、
c)好ましくは、肝臓脂肪含量を低減し、かつ/または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすことにより、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の治療および/または予防、
d)好ましくは、肝臓脂肪含量を低減し、かつ/または血液および/もしくは血漿および/もしくは血清脂質レベルに有益に影響を及ぼすことにより、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療および/または予防、
e)心血管疾患の治療および/または予防、
f)動脈硬化症の治療および/または予防、
g)アテローム性動脈硬化症の治療および/または予防、
h)代謝症候群の治療および/または予防、
i)肥満の治療および/または予防、
j)腸内微生物叢における好ましくない、または異常な変化、または不均衡、および/または腸内微生物叢と腸との間の相互作用の低下に部分的に、または完全に起因する、好ましくない、または異常な、または不均衡な血液および/または血漿および/または血清脂質レベルを特徴とする他の疾患の治療および/または予防。
【0082】
本発明による、この医薬組成物またはその使用は、特に、ニコチン酸および/またはニコチンアミドが、単独で、および/またはそれらの可変用量の組合せもしくは固定用量の組合せで、スタチンとの、たとえば、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、およびシンバスタチンからなる群から選択されるスタチンとの、好ましくはシンバスタチンとの、可変用量の組合せまたは固定用量の組合せにおいて用いられる実施形態も含む。
【0083】
本明細書で使用する場合、「処置(treatment)」、「処置する(treat)」、および「処置している(treating)」という用語は、本明細書に記載する
通りの疾患もしくは障害、またはこれらの1もしくは2以上の症状発現の抑制、緩和、遅延、またはそれらの進行の抑制を指す。一部の実施形態では、処置は、1または2以上の症状が発症してから施してもよい。他の実施形態では、処置は、症状がなくても施してもよい。たとえば、処置は、感受性のある個体に、症状が発現する前に(たとえば、症状の経歴に照らして、かつ/または遺伝的もしくは他の感受性因子を考慮して)施してもよい。処置は、症状が回復した後に、たとえばその再発の防止または遅延のために継続することもできる。
【0084】
本明細書で使用する場合、「予防」および「防止する」という用語は、未処置の対照集団と比較しての、疾患もしくは障害、またはこれらの1または2以上の症状発現の遅延、またはそれらの進行の可能性の低減を指す。
【0085】
本明細書に記載する発明のさらなる態様は、処置対象の個体の遺伝的および/または微生物学的データおよび特定のニーズに基づく、特許請求した薬剤または食事サプリメントの効率的な使用である。すべてのタイプの疾患(特に、腸内微生物叢と腸との間の相互作用が低下している疾患も)に対する個体の遺伝的素因、および薬理遺伝学についての新たな洞察は、根拠に基づく個別化医療(関連のリスク遺伝子と、さらには薬剤および/もしくはその代謝生成物および/もしくはその下流のエフェクターと相互作用する、たとえば細胞表面受容体、輸送タンパク質、代謝酵素またはシグナル伝達タンパク質をコードする遺伝子との、遺伝学的分析を含む)は、本明細書に記載する薬剤または食事サプリメントの、使用の種類、適用様式、使用時間、用量、および/または投与量レジメンに関して、情報および改善を提供することができるということである。この個別化処置により利益を受けることができる個体には、血液および/または血漿および/または血清脂質における疾患特異的な、または非特異的な変化を有する個体が含まれる。これは、特に糞便試料が微生物叢内の変化を示している場合に、腸内微生物叢の分析に同様に適用される。したがって、本発明は、本発明による薬剤または食事サプリメントに特に感受性のある個体を識別するため、および/または本発明による薬剤の使用を個体の事情に適合させるために好適な、遺伝学的および/または微生物学的試験方法の使用も含む。本発明は、個体の遺伝学的および微生物学的特性に依存する、種々の投与様式での種々の物質およびその組合せ(ニコチン酸および/もしくはニコチンアミド)の使用も特に含む。これらの目的のために、臨床検査および/または好適な試験キット、さらには医師、ユーザーおよび/または患者が利用することになる測定方法、器具、および/またはキットを使用して、たとえば糞便試料を採取し、または血液、尿、もしくは他の体液中の適切なパラメータを分析することが可能である。
【実施例】
【0086】
本発明の教示を有利に発展させ、さらに発展させる種々の可能性がある。このため、代表して本発明を説明する以下の実施例について記載する。
【0087】
別段の指摘がなければ、「%」の意味は「重量%」である。
【実施例1】
【0088】
ニコチン酸をゼラチンカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するように、Eudragit(登録商標)FS 30 D/L 30 D-55ポリマーの混合物でコーティングする。
【0089】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドをゼラチンカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するように、Eudragit(登録商標)FS 30 D/L 30 D-55ポリマーの混合物でコーティングする。
【0090】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物を、ゼラチンカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するように、Eudragit(登録商標)FS 30 D/L 30D-55ポリマーの混合物でコーティングする。
【0091】
本発明の異なる一実施形態において、ニコチン酸をHPMCカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するように、Eudragit(登録商標)FS 30 D/L 30 D-55ポリマーの混合物でコーティングする。
【0092】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドをHPMCカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するように、Eudragit(登録商標)FS 30 D/L 30 D-55ポリマーの混合物でコーティングする。
【0093】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物を、HPMCカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)FS 30 D/L 30 D-55ポリマーの混合物でコーティングする。
【0094】
ニコチン酸をゼラチンカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)S100/L100ポリマーの混合物でコーティングする。
【0095】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドをゼラチンカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)S100/L100ポリマーの混合物でコーティングする。
【0096】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物を、ゼラチンカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)S100/L100ポリマーの混合物でコーティングする。
【0097】
本発明の異なる一実施形態において、ニコチン酸をHPMCカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)S100/L100ポリマーの混合物でコーティングする。
【0098】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドをHPMCカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)S100/L100ポリマーの混合物でコーティングする。
【0099】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物をHPMCカプセルに封入し、pH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)S100/L100ポリマーの混合物でコーティングする。
【0100】
本発明のさらに別の一実施形態において、ニコチン酸を、ニコチン酸25%、第二リン酸カルシウム70%、およびPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これを時間依存的に放出するようにエチルセルロース7でフィルムコーティングする。
【0101】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドを、ニコチンアミド25%、第二リン酸カルシウム70%、およびPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これを時間依存的に放出するようにエチルセルロース7でフィルムコーティングする。
【0102】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物を、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物25%、第二リン酸カルシウム70%、および
Povidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これを時間依存的に放出するようにエチルセルロース7でフィルムコーティングする。
【0103】
本発明のさらに別の一実施形態において、ニコチン酸を、ニコチン酸95%およびPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これを時間依存的に放出するようにエチルセルロース7でフィルムコーティングする。
【0104】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドを、ニコチンアミド95%およびPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これを時間依存的に放出するようにエチルセルロース7でフィルムコーティングする。
【0105】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物を、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物95%、ならびにPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これを時間依存的に放出するようにエチルセルロース7でフィルムコーティングする。
【0106】
本発明のさらに別の一実施形態において、ニコチン酸を、ニコチン酸95%およびPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これをpH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)FS 30 D/L 30 D-55ポリマーでコーティングする。
【0107】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドを、ニコチンアミド95%およびPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これをpH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)FS 30 D/L 30 D-55ポリマーでコーティングする。
【0108】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドおよびニコチン酸の混合物を、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物95%、ならびにPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これをpH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)FS 30 D/L 30 D-55ポリマーでコーティングする。
【0109】
本発明のさらに別の一実施形態において、ニコチン酸を、ニコチン酸95%およびPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これをpH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)S100/L100ポリマーでコーティングする。
【0110】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドを、ニコチンアミド95%およびPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これをpH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)S100/L100ポリマーでコーティングする。
【0111】
本発明のさらなる一実施形態において、ニコチンアミドおよびニコチン酸の混合物を、ニコチン酸およびニコチンアミドの混合物95%、ならびにPovidone K30 5%の顆粒剤として製剤化し、これをpH≧6.4で放出するようにEudragit(登録商標)S100/L100ポリマーでコーティングする。
【0112】
非限定的な例として、上記の製剤より、ニコチン酸(NA)1000mgおよびニコチンアミド(NAM)3000mgの組合せを含む固定用量の高用量製剤、ニコチン酸250mgおよびニコチンアミド2000mgの組合せを含む固定用量の標準用量製剤、ならびにニコチン酸50mgおよびニコチンアミド500mgの組合せを含む固定用量の低用量製剤を調製する。
【0113】
これらの製剤を、単独および組合せの両方で、健常ヒト志願者または異脂肪血症患者に、1日1回または2回、たとえば、活性物質が単一である製剤では250mg、500mg、1g、1.5g、もしくは2gの用量、または組合せ製剤では上記の用量を投与する。ニコチン酸および/またはニコチンアミドの測定可能な血中濃度は、(全身吸収をねらった既存の製剤と対照的に、背景技術を参照)ベースラインレベルより著しく高くない(たとえば、2ケタ)が、時が経つにつれて健常志願者の消化管の微生物叢の組成は(あまり明確ではなく)変化し、異脂肪血症の患者の消化管の微生物叢の組成は(より明確に)変化し、その結果、健常対象の状況に似た微生物叢組成および/または血中脂質レベルに向かって部分的に、または完全に変化し、血中脂質レベルは時が経つにつれて改善され、または最適化される。
【実施例2】
【0114】
賦形剤のない純粋なニコチン酸(NA;欧州薬局方グレード、AppliChem、Darmstadt、Germanyより購入)を、ハードゼラチンカプセル(サイズ0、目標含量:400mg、平均含量:ニコチン酸391mg)中に手操作で封入し、SheffCoat(商標)clear VLVでサブコーティングし、下部小腸で放出し、消化管の微生物叢を改変する主要部位の1つである回腸終末部で最大ニコチン酸濃度を実現するために、pH=6.3で放出するように、Eudragit(登録商標)L100ポリマーおよびEudragit(登録商標)S100ポリマーの混合物でコーティングした。コーティングは未だ、パイロット試験および原理証明のための開発段階であったため、カプセルの間隙が完全に閉じられた、最適にコーティングされたカプセルを手操作で選択し、健常男性医師2名による自己実験で試験した(年齢:それぞれ34歳および36歳;用量:制御放出NAおよそ400mgを含むカプセル1個を毎日)。血中の、LDL、HDL、トリグリセリド、およびNAのレベルを読み取った。
【0115】
実験の結果を表1に概要する。
【0116】
【0117】
表1における結果は、公表された基準の血清レベル(背景技術を参照)に比べて、血清NA:レベルがほんのわずかに上昇したことを実証するものである。全身性のNAは高用量において唯一有効であるため、公表された用量は、持続放出ニコチン酸用量2g後、健常志願者における血漿Cmax9.3μg/mL(Menonら、2007、Inst.J.Clin.Pharmacol.Ther.45:448)、または慢性腎疾患患者における用量1.5g後4.22μg/mLである(Reicheら、2011、Nephrol.Dial.Transplant.26:276)。これらの値から低用量に外挿すると、NA400mgの全身性に利用できる製剤は、血清レベル1.13~1.86μg/mLをもたらすことが予想され、これは、制御放出NA3日後に志願者1または2で測定された血清NAレベルよりも、1ケタを超えて高い(対にした値に応じて、ファ
クター10.66から22.68)。
【0118】
重要なことは、脂質パラメータはすべて(LDLコレステロール、HDLコレステロール、およびトリグリセリド)、3日曝露後でも有益に、傾向的に(tendentially)、または明らかに変化し、制御放出NA製剤の高有効性、および消化管の微生物叢の速やかな順応が示唆される。
【0119】
制御放出NAが腸内微生物叢に影響を及ぼすか否か、およびどのように及ぼすかを調査するために、志願者2名の糞便試料を、制御放出NA投薬の前および数日後で比較した。
【0120】
等量の糞便試料から全ゲノムDNAを、PowerSoil(登録商標)DNA Isolation Kit(MoBio、Carlsbad、CA)を用いて抽出した。簡潔に述べると、糞便試料を、溶液C1 60μLおよびProteinase Kの20mg/mL溶液20μLを含む、Powerビーズチューブ(キットとともに提供される)中に移した。試料を50℃で2時間維持した。機械的ホモジナイズおよびビーズビーティング(FastPrep FP120機器、Thermo Fisher Scientific、Langenselbold、Germanyを用いて)を行って細菌の溶解を増強した。残りのステップを、製造元の指示に従って行った。DNAの量を、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(Life Technologies/Invitrogen、Darmstad、Germany)を用いて測定した。
【0121】
細菌群の増幅および検出を、最終体積10μL中DNA5ngを用いて(製造元のプロトコールに従って、マスター混合物、プライマー、プローブ、および酵素)、ABI Prism 7900配列検出システム(Life Technologies/Applied Biosystems、Darmstadt、Germany)上384ウエルプレート中で行った。注文品のTaqmanアッセイおよびキットはLife Technologiesから購入した。対照として全細菌のDNAを用いて、相対的定量を行った。
【0122】
定量に用いたプライマーおよびプローブを、以下の表2に示す。
【0123】
【0124】
微生物叢分析の結果を
図1に示し、ニコチン酸(ニコチンアミド同様、PCT/EP2013/062363、およびHashimotoら、2012、Nature 487:477を参照)を、下部小腸および/または結腸に局所的に送達すると、微生物の群落における徹底的な移行をまねくことが微生物叢分析により実証される。影響を受けた属は、ヒトおよび動物において種々の代謝状態に関連することが以前に示された。たとえば、本実験(
図1)で観察されるフィルミクテス(Firmicutes)の減少は、肥満マウス(Everardら、2011、Diabetes 60:2775)およびヒト(Zhangら、2009、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 106:2365)における有益な代謝効果に関連した。
【0125】
要約すると、これらのデータは、本発明の治療原理、すなわち、最小の全身曝露、および消化管の微生物叢と腸との間の相互作用に対する局部有効性を支持するものであり、先行技術のすべての教示と対照的である。
【実施例3】
【0126】
試験製剤(実施例2)での全身性の取込みがほんの少量であったことを実証する第1の試験が成功した後、より大規模な試験を行った。実施例2に記載した通り、カプセル間隙が完全に閉じられている、最適にコーティングされたカプセルを手操作で選択し、1日2個のカプセル剤で医師4名(男性3名、女性1名、表3を参照)による自己実験において試験し、各々制御放出ニコチン酸(NA)をおよそ400mg含んでいた。HDLおよびLDLの血清レベル、肝臓脂肪含量(絶食、造影剤なし;LOGIQ E9超音波装置;GE Healthcare)、ならびに体重(ボディマスインデックス、BMI計算のため)を読み取った。
【0127】
本実験の結果を以下の表3に概要する。
【0128】
【0129】
表3における結果では、実施例2および3において用いた製剤を投薬する間、血清HDLレベルに対する有益な効果が志願者4/4名に、血清LDLレベルに対する有益な効果が志願者2/4名に、肝臓脂肪に対する有益な効果が志願者2/3名に、BMIの低減が志願者3/4名に観察されたことが実証される。カプセル剤に含まれるNAの製薬上の有効性を証明するために、志願者は、11日の試験期間が終わった後にコーティングが不完全なカプセル剤1個を嚥下し、3/4名の志願者にフラッシュおよびさらなる副作用がもたらされたが、かかる症状は、最適にコーティングされたカプセル剤の投薬の間は観察されなかった。これらの所見は、本発明の教示、すなわち脂質代謝に対するNAおよび/またはニコチンアミドの有益な効果は、全身曝露を最小にする薬物製剤でも得ることができ、これら有益な効果の重大な部分は、消化管の微生物叢および、消化管の微生物叢と腸との相互作用の改変によることをさらに支持する。
【実施例4】
【0130】
炎症性腸疾患(IBD)を有するヒト患者における状態を厳密にモデルとするために、慢性大腸炎に対するマウスモデルを、初めて、完全な飢餓状態ではなく、トリプトファン低減の条件下で試験した(食餌中の正規のトリプトファンおよびニコチン酸含量25%)(PCT/EP2013/062363に記載される通り)。IBDは、疾患活動性に直接相関する、総コレステロールおよび他の血中脂質パラメータの低下をまねくことが知られているため、このモデルは特に興味深かった(Romanatoら、2009、Aliment.Pharmacol.Ther.29:298)。本明細書およびPCT/EP2013/062363に記載される医薬組成物には、腸内微生物叢の標的化された改変により媒介される種々の大腸炎モデルにおいて、抗炎症効果および著しい治療効果がある(PCT/EP2013/062363、および本出願と同じ出願者が提出し、全文を参照により組み込む、2013年12月13日出願の同時係属中の出願である、「Use
of tryptophan as a biomarker for patient selection,dosing and therapy monitoring for pharmaceutical compositions targeting the intestinal microbiota in disease
s featuring tryptophan deficiency」という表題のEP13197278.8を参照)。したがって、トリプトファン(代謝産物)低減下で慢性大腸炎に曝露されたマウスにおける脂質レベルの調査は、腸内微生物叢の改変により媒介される脂質レベル変化のメカニズムを支持するための重要なポイントであった。
【0131】
胃腸管には、長さ、通過時間およびpH環境について種特異的な差異があるため、制御放出製剤を、処置しようとする生体に適合させた。マウスの胃腸管のパラメータ(Koopmanら、1978、Lab.Anim.12:223;McConnellら、2008、J.Pharm.Pharmacol.60:63)に基づき、マウスに特異的な製剤を、マウスでのこの概念実証試験用に製造した。
【0132】
制御放出ミニ錠剤を、99%ニコチンアミド(NAM)と、滑沢剤として1%ステアリン酸マグネシウム(両者ともCaelo、Hilden、Germany)とを混合した粉末で製造した。ブレンドしてから、粉体流(安息角;<35°)および粒度分布(レーザー回折;主な粒子画分:100~200μm)について粉末の特性を決定して、良好な粉体流を確実に得た。次いで、ミニ錠剤を回転式プレス機で製造し、フィルムを通してNAMを拡散させることによってNAMの放出を制御するために、水不溶性のポリマーKollidon SR 30 D(BASF、Ludwigshafen、Germany
)のフィルムでコーティングした。コーティング製剤は次の通りであった:Kollicoat SR 20 D(49.9%)、モノステアリン酸グリセリン60(0.743%)、プロピレングリコール(0.743%)、赤色酸化鉄(0.4%)、ポリソルベート80(0.314%)、および水を100%まで。
【0133】
モノステアリン酸グリセリン60(Caelo)を半量の水と80℃に加熱し、Ultraturrax(IKA、Staufen、Germany)と乳化させた。引き続き赤色酸化鉄(Caelo)を加え、さらなる5分間分散させた(第1のビン)。ポリソルベート80(Caelo)、プロピレングリコール(Caelo)、およびポリマー分散物を第2のビンにおいて合わせ、マグネチックスターラーで撹拌した。第1のビンからの冷却した(<30℃)エマルジョンを、第2のビンからのポリマー分散物と合わせ、残りの水を加えた。分散物を1時間撹拌した後、ろ過した(<500μm)。ミニ錠剤を、バッチサイズ50g、液体送り速度約1ml/分、および霧化圧0.7バールの流動床装置(Mycrolab、Huttlin、Schopfheim、Germany)においてコーティングした。噴霧前に、錠剤を、体積流量8m3、45℃で予加熱した。噴霧の間、体積流量を45℃、16m3に上げた。生成物温度約38℃が観察された。噴霧後、錠剤を、硬化のために45℃でさらなる10分間、16m3で流動化した。最終の加工ステップでは、加熱のスイッチを切り、錠剤床を<30℃に冷却して粘着を避けた。錠剤を、6.2±0.04mg/cm2でコーティングした。薬物放出を、欧州薬局方に従って、50rpmのパドル装置(DT6、Erweka、Heusenstamm、Germany)において決定した。マウスではおよそpH4のわずかに酸性の消化液が予想されるため、溶解媒体としてリン酸緩衝液(pH4)を用いた(McConnellら、2008、J.Pharm.Pharmacol.60:63~70)。薬物濃度を、262nmのUV吸収により決定した。非コーティングの錠剤は、錠剤のサイズが非常に小さく、ニコチンアミドが高度に水溶性であるため、即効性の薬物放出を示した。Kollidon SRコーティングを用いて、薬物放出を、マウスの小腸における標的面積をカバーするように最適化した(遅れ時間少なくとも15分、3時間にわたる一定の薬物放出)。
【0134】
あらかじめ気候順化した雄C57BL/6Jマウス(14週齢)の食餌を、トリプトファンまたはニコチン酸またはニコチンアミドの正規の含量がわずか25%である特注の食餌(本明細書中、低Trp/Nia/NAM食と呼ぶ)に切り替えたが、これは無Trp/Nia/NAM食(トリプトファンなし、およびニコチン酸を含まないビタミン予混合
物1%)を、トリプトファン0.28%、およびニコチン酸を含むビタミン予混合物1%を含む正常食と3:1の比で混合することにより生成したものであった。特注の食餌は両方ともSsniff(Soest、Germany)により製造され、粉末として供給されたものであり、これを用いてミニ錠剤(対照)なし、またはNAMミニ錠剤なしいずれかと、食餌ペレットを調製した。ミニ錠剤を低Trp/Nia/NAM食餌粉末と均一に混合し、長さおよそ2cmおよびおよそ直径1cmのペレットを最小量の滅菌水で形成させ、単回使用のアリコートにおいて、貯蔵用に-20℃で凍結させ、マウスに与えるために毎日新たに解凍した。マウスに2週間、変更した低Trp/Nia/NAM食餌を与えた後、大腸炎誘発の第1ステップを行った。
【0135】
以下の通り処置をした、マウス各5匹の2グループで処置レジメンを行った:
- グループ1:ミニ錠剤なしの低Trp/Nia/NAM食餌(対照)。
- グループ2:制御放出NAMミニ錠剤を食餌中に均一に分散させた(最終用量:マウス1匹1日あたり2.5gの食餌摂取に基づいて約60mg/kg体重)。
【0136】
慢性大腸炎を誘発するために、マウスに、飲料水中に溶解した硫酸デキストランナトリウム(DSS;分子量40kDa;TdBconsultancy、Uppsala、Sweden)2.5%(第1サイクル)および3%(第2サイクル)を5日間与え、引き続き正規の飲料水を5日間与えた。DSS第2サイクルの5日間の水期間後(21日目)、生存するマウスを堵殺した。生存を毎日モニタリングした。
【0137】
制御放出NAMにより生存の利益がもたらされ(
図2)、この実験のマウスはトリプトファンを完全に欠乏しなかったが、むしろヒト患者(たとえば、IBD患者)におけるトリプトファンおよびトリプトファンの代謝産物の利用能の低下に類似した状況を特徴としたため、これは特に重要である(PCT/EP2013/062363、および本出願と同じ出願者が提出し、全文を参照により組み込む、2013年12月13日出願の同時係属中の出願である、「Use of tryptophan as a biomarker for patient selection,dosing and therapy monitoring for pharmaceutical compositions targeting the intestinal microbiota in diseases featuring tryptophan deficiency」という表題のEP13197278.8を参照)。
【0138】
体重減少のためマウスを試験から取り出す必要があった場合、または生存マウスを処分した直後、血清を調製し、マウスの総コレステロールを標準の技術を用いて分析した(cobas(登録商標)8000 modular analyzer、Roche Diagnostics、Basel、Switzerland)。
【0139】
興味深いことに、大腸炎活動性の低減に対する非特異的な指標としてコレステロールレベルを上げることが予想される、制御放出NAMの抗炎症性の有効性に関わらず(Romanatoら、2009、Aliment.Pharmacol.Ther.29:298)、マウスの総コレステロールは低下したが(
図3)、これは、本発明による制御放出製剤による腸内微生物叢の標的化された改変が、血中コレステロールを直接かつ特異的に低減し得るという考えを支持するものである。
【実施例5】
【0140】
NAFLDの慢性モデルにおけるNAでのvon Schonfelsら、2014(Liver Int.doi:10.1111/liv.12476)の所見を拡張するために、NASHの急性マウスモデルにおけるNAMの効果を調査した(Leeら、2012、Toxicol.Lett.211:29)。C57BL/6Jマウス(n=6;
12~13週齢)にツニカマイシン(TM;2μg/g体重)を腹腔内注射した。48時間後、マウスを堵殺し、以前に記載されている通りNAFLD/NASHの徴候の組織学的分析用に肝臓組織を採取した(Leeら、2012、Toxicol.Lett.211:29)。TM負荷2日前から実験の終わりまで、マウス6匹中3匹にNAMを飲料水中に投与した。およそ60mg/kg/日に対応する、NAMを0.4g/lで投与した(一般的な平均からの仮定:マウスの体重:20g;水摂取量:3mL/マウス/日;NAM1.2mgに含まれる濃度0.4g/Lを3mLにより、およそ60mg/kg/日の用量となる)。
【0141】
TM負荷後のマウスから、パラフィン包埋した肝臓組織切片(3μm)をヘマトキシリン/エオジン染色し、ブラインド様式でスコア付けした。Brunt 2001(Semin.Liver Dis.21:3)から改変したスコア付けシステムで、肝脂肪症、肝細胞の風船様拡大、および炎症を決定した。ステージスコアは肝線維症に基づくものであった。0~3のグレード付は:0、なし;1、軽度;2、中度;および3、重度である。
【0142】
図4に示す通り、NAMを投与したマウスは、TM誘発性NAFLD様肝障害における、わずかであるが有意な低減を示した。
【実施例6】
【0143】
NAまたはNAMの制御放出用の栄養製剤の可能性を調査するための製剤開発試験において、Bergら(2012、J.Food Eng.108:158)に基づいてシェラックコーティングした顆粒剤製剤を試験した。
【0144】
Cellets(350μm;IPC Process Center、Dresden、Germany)を、噴霧速度0.6g/分の0.5mmノズルを有するMini Glatt流動床コーター(Glatt、Binzen、Germany)を用いて、0.5%NA(Sigma-Aldrich、Taufkirchen、Germany)でコーティングした。微粒化空気圧を、顆粒の重量増加に従って、0.3~0.8バールに調節した。流動床プロセスの空気圧を、0.2から0.5バールの間に維持した。入口空気温度は45℃、出口空気温度は33~25℃であった。FaragおよびLeopold 2011(Eur.J.Pharm.Sci.42:400)によって示唆された、トレハロース9%およびクエン酸1%を含むサブコーティングを、NAカプセル上に適用した。引き続き、顆粒を、シェラック20%または25%(w/w)(SSB Aquagold 1243、25%水溶液;Stroever-Schellack、Bremen、Germany)でコーティングした。入口空気温度45℃で1時間、マイクロカプセルを乾燥させることにより、コーティング中のいかなる残留水も除去した。
【0145】
50rpmのバスケット装置(Pharmatest DT 70、Hainburg、Germany)を用いて、種々の溶解媒体300ml中顆粒1g、37℃で溶解試験を行った。溶解媒体は、USPに記載される通り、pH1.2の疑似胃液(SGF)、引き続き疑似腸液(SIF)(すなわち、リン酸緩衝液pH6.8またはpH7.4)であった。実験は、SGFで2時間、引き続きpH6.8のSIFで4時間、およびpH7.4のSIFで2時間行った。
【0146】
薬物放出を、1mm石英キュベットを用いて、215nmの分光測定で(Helios;Thermo Fisher Scientific、Waltham、MA、USA)モニタリングした。各測定後、試料を溶解テスターに戻した。
【0147】
図5に示す通り、シェラック20%を用いたNAの食品グレードの腸溶コーティングが
実現可能である。NAの放出は、pHの上昇によって誘発され、pH6.8で始まり、pH7.4でバーストする。トレハロースを含むクエン酸など、種々の種類のサブコーティングを適用することにより、バーストはより高pH値またはより低pH値に移行し得、よって調節することができる。
【0148】
図6は、pH7.4のSIF中、25%のシェラックコーティングをした同様のNA顆粒の、およそ5時間の溶解を示し、pHの上昇によってNAの速やかな放出が誘発されることが実証される。最大放出の時間(tmax)はおよそ60分であることが見出され、NA濃度の半分(t50)が、10分後にすでに放出された。かかる製剤を用いて、NAまたはNAMの下部小腸、特に回腸終末部、および結腸への標的化送達を、有利に実現することができる。
【0149】
結論として、種々のサブコーティングを有するシェラックを用いたNAに対する食品グレードの腸溶コーティングにより、溶解試験において制御放出および遅延放出を示す顆粒が得られる。放出のプロファイルは、種々の種類のサブコーティングを適用することにより、好適に適用することができる。
【0150】
上記の実施例は、本発明を説明するために示すものであり、範囲を限定しようとするものではない。
【配列表】