(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】超純水又はガス溶解水供給システムの製造方法並びに洗浄方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/50 20230101AFI20231120BHJP
B08B 3/08 20060101ALI20231120BHJP
B08B 9/032 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
C02F1/50 510C
B08B3/08 Z
B08B9/032 321
C02F1/50 531Q
C02F1/50 540B
C02F1/50 560Z
(21)【出願番号】P 2019138903
(22)【出願日】2019-07-29
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高取 望
(72)【発明者】
【氏名】菅原 広
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-297343(JP,A)
【文献】特開平11-077023(JP,A)
【文献】特開2004-122020(JP,A)
【文献】特開2014-217830(JP,A)
【文献】国際公開第2008/123351(WO,A1)
【文献】特開2002-192162(JP,A)
【文献】国際公開第2017/191829(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
B08B 9/00 - 9/46
B08B 3/00 - 3/14
C23G 1/00 - 1/36
C02F 1/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水又は超純水にガスを溶解したガス溶解水を供給する第1の水供給システムから供給された超純水又はガス溶解水、或いは逆浸透膜透過水である処理水を貯留していた処理水槽を、超純水又は超純水にガスを溶解したガス溶解水を供給する
第2の水供給システム
の原水槽として再利用する水供給システムの構築方法であって、
該処理水槽を過酸化水素のアルカリ性水溶液又は加温された過酸化水素水溶液で洗浄する水槽洗浄工程と、
該洗浄された水槽を該
第2の水供給システム
の原水槽として接続する接続工程と、
を有する水供給システムの構築方法。
【請求項2】
前記処理水槽は
、導電率10μS/cm以下の処理水を貯留する貯水槽として用いられていた水槽である、請求項1に記載の水供給システムの構築方法。
【請求項3】
前記過酸化水素のアルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム、アンモニアおよび水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項1又は2に記載の水供給システムの構築方法。
【請求項4】
前記過酸化水素のアルカリ性水溶液が、水酸化テトラメチルアンモニウムを含み、9以上のpHを有し、1質量%以上の過酸化水素濃度を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の水供給システムの構築方法。
【請求項5】
前記水槽洗浄工程において、バイオフィルムが発生した処理水槽を洗浄してバイオフィルムを分解する、請求項1~4のいずれか1項に記載の水供給システムの構築方法。
【請求項6】
前記接続工程において、前記洗浄された水槽は、該
第2の水供給システムの限外ろ過膜装置の前段に接続される、請求項5に記載の水供給システムの構築方法。
【請求項7】
超純水又は超純水にガスを溶解したガス溶解水を供給する第1の水供給システムから供給された超純水又はガス溶解水、或いは逆浸透膜透過水である処理水を貯留していた処理水槽を、超純水又は超純水にガスを溶解したガス溶解水を供給する
第2の水供給システムに
原水槽として再利用する洗浄方法であって、
該処理水槽を該
第2の水供給システムの原水槽として接続する接続工程と、
該原水槽を過酸化水素のアルカリ性水溶液又は加温された過酸化水素水溶液で洗浄する原水槽洗浄工程と、
該原水槽洗浄工程の後に、該
第2の水供給システムを洗浄するシステム洗浄工程と
を有する水供給システムの洗浄方法。
【請求項8】
前記処理水槽は
、導電率10μS/cm以下の処理水を貯留する貯水槽として用いられていた水槽である、請求項7に記載の水供給システムの洗浄方法。
【請求項9】
前記過酸化水素のアルカリ性水溶液は、水酸化ナトリウム、アンモニアおよび水酸化テトラメチルアンモニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項7又は8に記載の水供給システムの洗浄方法。
【請求項10】
前記過酸化水素のアルカリ性水溶液が、水酸化テトラメチルアンモニウムを含み、9以上のpHを有し、1質量%以上の過酸化水素濃度を有する、請求項7~9のいずれか1項に記載の水供給システムの洗浄方法。
【請求項11】
前記原水槽洗浄工程において、前記原水槽として接続された前記処理水槽はバイオフィルムが発生した水槽であって、該原水槽を洗浄してバイオフィルムを分解する、請求項7~10のいずれか1項に記載の水供給システムの洗浄方法。
【請求項12】
前記接続工程において、前記原水槽は、該
第2の水供給システムの限外ろ過膜装置の前段に接続される、請求項11に記載の水供給システムの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超純水供給システム又はガス溶解水供給システムの製造方法に関し、また、超純水供給システム又はガス溶解水供給システムの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超純水は、一般に、工業用水、市水、井水等の原水を、必要に応じて前処理システムで処理した後、一次純水システムで処理して純水(一次純水)を得、それを二次純水システム(サブシステム)で処理することにより製造する。なお、超純水は、上記のように、一般的には一次純水システムに続いて二次純水システムを設けた超純水供給システムにより製造される。超純水は、半導体基板のような極めて清浄な表面を得ることが求められる電子部品等の洗浄用水等として用いられる。
【0003】
一方で、純水若しくは超純水に所望のガス(炭酸ガスやオゾンや水素等)を溶解した水をガス溶解水(機能水とも)と呼ぶ。例えば、炭酸溶解水は炭酸が溶け込んでいることで比抵抗値が低下し静電気の発生を抑制することができ、半導体ウエハ洗浄において洗浄水やリンス水に使用される。
【0004】
新規に建設した超純水供給システムの運転立ち上げ時、あるいは既存の超純水供給システムの長期間休止後に、超純水供給システムを洗浄することが知られている。特許文献1には、超純水供給システム内にオゾンを供給して殺菌洗浄した後、システム内にオゾンが残留している状態で塩基性薬品を供給することにより、殺菌洗浄に連続して微粒子除去洗浄を行う、超純水供給システムの洗浄方法が記載される。特許文献2には、超純水供給システムの超純水接触面に付着した微粒子を除去する洗浄方法において、微細気泡を共存させた塩基性溶液で前記超純水供給システムの少なくとも一部を洗浄する、超純水供給システムの洗浄方法が開示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-221144号公報
【文献】特開2002-151459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既存の超純水供給システム又はガス溶解水供給システムを改造することがある。特には、水処理が施された水(処理水)を貯留する処理水槽として用いられていた水槽を、超純水又はガス溶解水供給システムの原水槽に転用したい場合がある。このような場合、その水槽がバイオフィルム等の有機物で汚染されていると、改造後に当該システムを再稼働させた後に、当該システムが汚染され、例えばシステム内の膜が詰まる可能性がある。
【0007】
しかし、超純水供給システムもしくはガス溶解水供給システムの改造については、確立された技術が無い。
【0008】
本発明の目的は、水処理装置の処理水槽として用いられた水槽を、超純水又はガス溶解水供給システムの原水槽に転用する場合に、当該システム再稼働後のバイオフィルムなどの有機物汚染による影響を抑制することのできる、超純水又はガス溶解水供給システムの製造方法および洗浄方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様により、
超純水又は超純水にガスを溶解したガス溶解水を供給する第1の水供給システムから供給された超純水又はガス溶解水、或いは逆浸透膜透過水である処理水を貯留していた処理水槽を、超純水又は超純水にガスを溶解したガス溶解水を供給する第2の水供給システムの原水槽として再利用する水供給システムの構築方法であって、
該処理水槽を過酸化水素のアルカリ性水溶液又は加温された過酸化水素水溶液で洗浄する水槽洗浄工程と、
該洗浄された水槽を該第2の水供給システムに原水槽として接続する接続工程と、
を有する水供給システムの構築方法が提供される。
【0010】
本発明の別の態様により、
超純水又は超純水にガスを溶解したガス溶解水を供給する第1の水供給システムから供給された超純水又はガス溶解水、或いは逆浸透膜透過水である処理水を貯留していた処理水槽を、超純水又は超純水にガスを溶解したガス溶解水を供給する第2の水供給システムに原水槽として再利用するおける洗浄方法であって、
該処理水槽を該第2の水供給システムの原水槽として接続する接続工程と、
該原水槽を過酸化水素のアルカリ性水溶液又は加温された過酸化水素水溶液で洗浄する原水槽洗浄工程と、
該原水槽洗浄工程の後に、該第2の水供給システムを洗浄するシステム洗浄工程と
を有する水供給システムの洗浄方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水処理装置の処理水槽として用いられた水槽を、超純水又はガス溶解水供給システムの原水槽に転用する場合に、当該システム再稼働後のバイオフィルムなどの有機物汚染による影響を抑制することのできる、超純水又はガス溶解水供給システムの製造方法および洗浄方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ガス溶解水供給システムの、改造前の概略構成例を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図2】ガス溶解水供給システムの、改造後の概略構成例を示すプロセスフローダイアグラムである。
【
図3】洗浄液によるバイオフィルムの分解の様子を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一形態に係る超純水供給システムおよびガス溶解水供給システムの改造例について説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0014】
図1は、改造前の超純水供給システム100およびガス溶解水供給システム200の概略構成を示す。超純水供給システム100は、一次純水タンク1、熱交換器2、脱気装置3、紫外線照射装置5、イオン交換装置6、および限外ろ過膜装置8aを有している。なお、一次純水システムの図示は省略する。被処理水として一次純水システムから供給された一次純水を、一次純水タンク1に貯留し、次いで被処理水を熱交換器2にて温度調節する。次いで被処理水を脱気装置3にて脱気し、被処理水中の溶存ガスを除去する。次いで紫外線照射装置5にて被処理水に紫外線を照射し、殺菌や有機物分解を行う。次いでイオン交換装置(カートリッジポリッシャー)6にて被処理水中の金属イオンなどをイオン交換処理により除去する。次いで限外ろ過膜装置8aにて被処理水中の微粒子を除去して超純水を得る。製造した超純水をユースポイント9aに供給する。ユースポイント9aで使用しない超純水は一次純水タンク1に返送される。超純水供給システム100の要素として、上記の他に過酸化水素添加装置や、過酸化物除去装置、精密ろ過膜装置等を備えることもでき、各要素の配置も適宜変更することができる。
【0015】
ガス溶解水供給システム200では、超純水供給システム100のイオン交換装置(カートリッジポリッシャー)6の出口から分岐して得た被処理水に、炭酸ガス溶解装置7にて炭酸ガスを溶解し、次いで限外ろ過膜装置8bにて被処理水中の微粒子を除去して炭酸ガス溶解水を得る。換言すれば、ガス溶解水供給システム200と超純水供給システム100は、一次純水タンク1からイオン交換装置6までを共用している。製造した炭酸ガス溶解水をユースポイント9bに供給する。ユースポイント9bで使用しない炭酸ガス溶解水は処理水槽としての貯水槽10に受けた後、超純水供給システム100の一次純水システムに返送したり、その他の用途に再利用したりすることができる。
【0016】
なお、本実施形態では、超純水供給システム100で製造された超純水(ただし限外ろ過膜装置8aで処理されていないもの)の一部を分岐してガス溶解水供給システム200の原水として使用し、超純水の供給とガス溶解水の供給とが可能なシステムとしているが、超純水供給システム100とガス溶解水供給システム200とは全くの別系統のシステムであってもよい。また、限外ろ過膜装置8a及びユースポイント9aがなく、超純水供給システム100で製造された超純水(ただし限外ろ過膜装置8aで処理されていないもの)の全量がガス溶解水供給システム200の原水として使用されるシステムであってもよい。
【0017】
図2は、改造後(接続工程実施後)の超純水供給システム100およびガス溶解水供給システム201の概略構成を示す。超純水供給システム100は改造前後で構成は変わっていない。一方、ガス溶解水供給システム201は、ユースポイント9bで使用しないガス溶解水を貯水槽10に受けた後、第2の熱交換器21、第2の紫外線照射装置22および第2のイオン交換装置(カートリッジポリッシャー)23を介して炭酸ガス溶解装置7に送る。このために、超純水供給システム100からの分岐ラインを貯水槽10に接続し、貯水槽10の下流に、第2の熱交換器21、第2の紫外線照射装置22および第2のイオン交換装置23を設けている。これにより、ガス溶解水供給システム201は、ユースポイント9bで使用しないガス溶解水を超純水供給システム100と同様に循環して再利用できるように改造されている。即ち、貯水槽10には、改造前においては、超純水に炭酸ガスが溶解されたガス溶解水がガス溶解水供給システムの処理水として貯留され、改造後においては、ガス溶解水供給システムの原水が貯留される。
【0018】
超純水供給システムやガス溶解水供給システムは、イオンや微粒子等の不純物が高度に除去されたものであり、設備のメンテナンスや改造等で一度システムを停止させた後、再稼働の際には、システムの洗浄が行われる。洗浄は、通常、過酸化水素水溶液、アルカリ性水溶液、又はオゾンで行われる。改造前の貯水槽10で貯留された炭酸ガス溶解水の導電率は10μS/cm以下であるため、上記のような通常の洗浄を行えばよいと考えられる。しかし、本発明者らは、このようにイオンや微粒子等の不純物が高度に除去された貯水槽を超純水供給システムやガス溶解水供給システムの原水槽として使用する場合には、上記のような通常の洗浄を行っただけでは、バイオフィルム等の有機物が後段の機器、特に限外ろ過膜装置に影響を及ぼすことを見出した。
【0019】
そこで、本発明では、貯水槽10を過酸化水素のアルカリ性水溶液又は加温した過酸化水素水溶液で洗浄する(水槽洗浄工程)。これにより、貯水槽10で発生したバイオフィルム等の有機物が確実に除去され、その他の部分については通常の洗浄を行う(システム洗浄工程)ことで、システムを再稼働した後のバイオフィルム等の有機物の影響を抑制することができる。
【0020】
〔水槽洗浄工程における洗浄対象〕
水槽洗浄工程では、水処理装置の処理水槽、すなわち水処理装置で処理された処理水を貯留する水槽を洗浄する。ここでいう「水処理装置」は、例えば、超純水又はガス溶解水供給システムである。ここでいう「処理水」は、例えば、超純水又はガス溶解水供給システムから供給された超純水又はガス溶解水であり、特にはユースポイントで使用されなかった超純水又はガス溶解水である。あるいは、「処理水」は逆浸透膜透過水であってもよい。処理水は例えば10μS/cm以下の導電率を有する。したがって、水槽洗浄工程の洗浄対象は、導電率10μS/cm以下の処理水を貯留する処理水槽として用いられた水槽であってよい。
【0021】
水槽洗浄工程では、少なくとも転用しようとする水槽(貯水槽10)を洗浄するが、場合により上述の他の機器や配管などを適宜洗浄することもできる。アルカリ性水溶液を通さないほうが良い機器(イオン交換装置など)については、水槽洗浄工程において、過酸化水素のアルカリ性水溶液を適宜バイパスすることができる。
【0022】
〔接続工程で接続する原水槽〕
接続工程では、水処理装置の処理水槽として用いられた水槽(水槽洗浄工程で洗浄する)を、超純水又はガス溶解水供給システムに原水槽として接続する。原水槽に貯留する原水は、超純水又はガス溶解水供給システムで処理されて超純水又はガス溶解水となる。原水は例えば一次純水と同等もしくはそれ以上の水質を有することができ、一次純水と同等もしくはそれ以下の導電率を有することができる。原水槽は、例えば超純水又はガス溶解水供給システムのサブシステムの原水槽である。
【0023】
〔過酸化水素の使用目的〕
過酸化水素は分解すると水になるので、超純水供給システムの立ち上げ時に早期に所定の水質を得るための洗浄液として一般的に使用される。しかしながら、過酸化水素水溶液を一般的な使用方法で使用(アルカリ性にせずに、かつ昇温せずに洗浄に使用)すると、バイオフィルム分解の効果が薄く、バイオフィルム表面の殺菌しかできなかったり、あるいはバイオフィルムの分解に時間がかかったりすることがある。したがって、過酸化水素水溶液の温度を上げるか、もしくはアルカリ性にする。これにより、過酸化水素の分解によりラジカルの発生が促進し、その結果、ラジカルによる有機物の分解を促進する効果が期待できる。また、過酸化水素の分解により生じるガスにより、洗浄対象に物理的に付着した有機物を微細化させる効果を得ることもできる。なお、オゾンを用いてバイオフィルムを分解することも可能ではあるが、オゾンは取り扱いが容易とは言えない。また、次亜塩素酸を用いてバイオフィルムを分解することも可能ではあるが、CLについて低濃度の水質保証が求められることが多く、超純水供給システムの立ち上げ時に所定の水質を得るまでに時間がかかってしまう。
【0024】
〔アルカリ剤の種類〕
水槽洗浄工程で用いる洗浄液(過酸化水素水溶液)をアルカリ性にするために、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、等のアルカリ剤を用いることができる。しかしながら、Naについて低濃度の水質保証が求められることが多く、超純水供給システムの立ち上げ時に早期に所定の水質を得るために、TMAHまたはアンモニアが好ましい。また、臭気の観点からは、アンモニア以外のものが好ましい。TMAHはTOC源にはなりうるが、一般に金属類に比べると有機物の水質保証値は高いので、超純水供給システムの立ち上げ時に早期に所定の水質を得る観点からTMAHが好ましい。また、超純水供給システムがある半導体又は液晶製造工場では、TMAHを現像液として使用していることも多いため、TMAH使用が受け入れやすい。
【0025】
〔アルカリ性の過酸化水素水溶液の調製方法〕
水槽洗浄工程における洗浄対象に送水できるタンク、例えば一次純水タンクに純水もしくは超純水を入れ、次いで過酸化水素(通常は過酸化水素水)およびアルカリ剤を順に入れて混合することにより、アルカリ性の過酸化水素水溶液を調製することができる。過酸化水素とアルカリ剤の投入順番はどちらが先でもよいし、同時でもよい。過酸化水素とアルカリ剤の混合直後から過酸化水素の分解が促進されるので、混合後速やかに洗浄対象へ洗浄液を送ることが望ましい。また、貯水槽10の洗浄(水槽洗浄工程)にあたっては、貯水槽10に過酸化水素を投入した後にアルカリ剤を投入して貯水槽10内で過酸化水素とアルカリ剤とを混合してもよい。
【0026】
〔水槽洗浄工程における過酸化水素濃度、pH〕
水槽洗浄工程で使用する洗浄液中の過酸化水素濃度は、有機物の分解を促進して洗浄時間を短かくする観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3%以上である。また、過酸化水素の使用量を抑える観点から、過酸化水素濃度は10質量%以下が好ましい。
【0027】
洗浄液のpHは、7を超え、14以下の範囲にあればよいが、洗浄効果の観点から、好ましくは9以上、より好ましくは11以上である。
【0028】
〔水槽洗浄工程のタイミング〕
貯水槽10の洗浄(水槽洗浄工程)を行うタイミングは、システムの改造(接続工程)の前および後のいずれでもよく、前および後の両方でもかまわない。貯水槽10の洗浄後にシステムの改造を行うと貯水槽10の洗浄後、システム改造の間に貯水槽10内に外気が入り込んで、バイオフィルムが発生する可能性があるため、改造後に貯水槽10を洗浄することが好ましい。
【0029】
〔水槽洗浄工程の洗浄時間〕
洗浄対象の履歴や汚染状況、洗浄液の過酸化水素濃度およびアルカリ剤濃度にもよるが、典型的には1時間~1週間程度、洗浄対象に洗浄液を接触させる。このとき、洗浄対象と洗浄液が接触していればよく、洗浄対象を洗浄液に浸漬するだけで効果がある。ただし、ポンプを用いて洗浄液を洗浄対象内で循環させたり、洗浄対象内で洗浄液を窒素ガスで曝気したりすると、より有機物の分解が促進されるため、好ましい。なお、洗浄に際してガスが生成するが、生成したガスは適切に排気すればよい。
【0030】
〔昇温した過酸化水素水溶液の調製方法〕
水槽洗浄工程の洗浄対象に送水できるタンクに純水もしくは超純水を入れ、次いで過酸化水素(通常は過酸化水素水)を入れ、熱交換器など適宜の加熱手段を用いて加熱することにより、昇温した過酸化水素水溶液を調製することができる。過酸化水素の投入と加熱の順番はどちらが先でもよいし、同時でもよい。なお、昇温したアルカリ性の過酸化水素水溶液を調製する場合、上述した過酸化水素の投入、アルカリ剤の投入および加熱を適宜行うことができる。
【0031】
〔水槽洗浄工程の洗浄温度〕
過酸化水素の分解を促進して洗浄時間を短かくする観点から、水槽洗浄工程の洗浄温度は20℃以上が好ましい。時間当たりのガス生成量の増加を抑える観点、および配管・構成部材の耐熱性等の観点から、水槽洗浄工程の洗浄温度は80℃以下が好ましい。
【0032】
〔システム洗浄工程〕
本発明の一態様に係る超純水又はガス溶解水供給システムの製造方法は、前述の水槽洗浄工程と接続工程を有する。本発明の別の態様に係る超純水又はガス溶解水供給システムの洗浄方法は、水槽洗浄工程の前に接続工程を有し、水槽洗浄工程の後にシステム洗浄工程を有する。システム洗浄工程では、超純水又はガス溶解水供給システムを洗浄する。過酸化水素水溶液(アルカリ性でなく、加温もされていないもの)、アルカリ性水溶液(過酸化水素を含まないもの)、又はオゾンを、超純水又はガス溶解水供給システムに通す、通常の洗浄方法を採用することができる。
【実施例】
【0033】
〔実施例1~6、比較例1~2、参考例1〕
導電率10μS/cm以下の環境下で貯水槽内部に生成したバイオフィルムを超純水に溶解させて濃厚バイオフィルム水溶液を調製し、濃厚バイオフィルム水溶液5mLと表1に示す洗浄液45mLを混合して、初期濁度が2以上の水溶液を調製した。表中、常温とは約23℃を意味する。
【0034】
混合した水溶液を表1に示す温度に保ち、所定時間経過時に水溶液を目視観察し、また濁度を測定することで、バイオフィルムが分解したかどうかを確認した。目視観察結果は次のように評価した。
A:バイオフィルムが概ね分解および微細化し、残存量はわずかであった。
B:バイオフィルムがある程度微細化または減少した。
C:初期状態と比べて変化が見られなかった。
【0035】
実施例1~6から、過酸化水素水溶液の温度を上げるか、またはアルカリ性にすることで、バイオフィルムの分解が促進されることが分る。特に実施例1のように過酸化水素水溶液をpH11にした場合、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を使用した参考例1と同レベルの短時間でバイオフィルムが分解した。
【0036】
実施例2~4では、TMAHを添加した過酸化水素水溶液のpHを変化させ、バイオフィルムの分解の様子を確認した。pHが高いほど早く分解した。また、実施例5で、TMAHに替えてアンモニアを使用した場合においても、バイオフィルムが分解することを確認した。
【0037】
一方、過酸化水素水溶液のみで常温の場合は、バイオフィルムの分解が促進しなかった。また、TMAHを添加した過酸化水素水溶液であっても、pHが7の場合はバイオフィルムの分解が促進しなかった。
【0038】
〔実施例7~8〕
前述と同様にバイオフィルムを容器に一定量入れ、表2に示す過酸化水素濃度とpHを有する洗浄液(TMAHを使用)を加え、表2に示す温度に保ち、所定時間経過時にバイオフィルムの分解の様子を観察した。表2に、バイオフィルムがどの程度残存していたかを示す(実施例3及び4のサンプルについても同様に示す)。表2から、過酸化水素濃度が高いほど、またpHが高いほど、短時間でバイオフィルムが分解することがわかる。分解の様子を観察したところ、バイオフィルムにガスが付着してしばらくすると、バイオフィルムが微細化し、分解する様子が確認された。実施例4における分解の様子を、
図3に示す。洗浄液を加えてから1時間後の写真では、中央にはっきりとバイオフィルムが確認できるが、5時間後にはその像がかなり不鮮明になり、24時間後には、バイオフィルムは無くなった。
【0039】
【0040】
【符号の説明】
【0041】
1 一次純水タンク
2 熱交換器
3 脱気装置
4 窒素ガス溶解装置
5 紫外線照射装置
6 イオン交換装置
7 炭酸ガス溶解装置
8 限外ろ過膜装置
9 ユースポイント
10 転用する貯水槽
21 第2の熱交換器
22 第2の紫外線照射装置
23 第2のイオン交換装置
100 超純水供給システム
200 ガス溶解水供給システム(改造前)
201 ガス溶解水供給システム(改造後)