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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】車両用空気調和装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20231120BHJP
【FI】
B60H1/22 651A
B60H1/22 671
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019139199
(22)【出願日】2019-07-29
(65)【公開番号】P2021020596
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石関 徹也
(72)【発明者】
【氏名】荒木 大典
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-232730(JP,A)
【文献】特開2018-192938(JP,A)
【文献】特開2018-184109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に供給する空気が流通する空気流通路と、
冷媒を圧縮する圧縮機と、前記冷媒を放熱させる放熱器と、前記冷媒を吸熱させる吸熱器と、車室外に設けられ前記冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器とを含む冷媒回路と、
熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置と、前記空気流通路に設けられ前記熱媒体を放熱させる空気流通路内熱交換器とを含み、前記熱媒体加熱装置で加熱された前記熱媒体が循環する補助加熱部と、
前記室外熱交換器と前記吸熱器との間に形成される第1冷媒流通路から分岐して流通される前記冷媒に吸熱させて前記熱媒体の熱交換を行う熱媒体-冷媒熱交換器と、
前記冷媒回路を用いた空調運転の可否を判断する空調運転実行判断部と、
補助暖房機能を追加するか否かの判断を行う補助暖房実行判断部と、
前記空調運転実行判断部で前記冷媒回路を用いた空調運転が可能と判断され、前記補助暖房実行判断部で補助暖房機能の追加が必要と判断されたときは、前記熱媒体加熱装置の出力を所定の出力制限値以下に制限して駆動する駆動制御部と
外気温が予め設定された所定の温度閾値以下か否かを判断する外気温判断部を備え、
前記冷媒回路は、
前記放熱器と前記室外熱交換器との間に形成される第2冷媒流通路から分岐し、前記室外熱交換器を迂回して前記第1冷媒流通路に接続される第3冷媒流通路を備え、
前記補助加熱部は、
前記熱媒体加熱装置で加熱された前記熱媒体を、前記熱媒体-冷媒熱交換器を介して再び前記熱媒体加熱装置に流入させる第1熱媒体循環回路と、
前記熱媒体加熱装置で加熱された前記熱媒体を、前記熱媒体-冷媒熱交換器に流入させ、前記熱媒体-冷媒熱交換器から流出された前記熱媒体を前記空気流通路内熱交換器に流入させ、前記空気流通路内熱交換器から流出された前記熱媒体を再び前記熱媒体加熱装置に流入させる第2熱媒体循環回路と、を備え、
前記駆動制御部は、
前記外気温判断部にて外気温が前記温度閾値以下と判断されると、前記第1熱媒体循環回路で前記熱媒体を循環させて、前記熱媒体-冷媒熱交換器において、前記第1熱媒体循環回路で循環する前記熱媒体と、前記第3冷媒流通路を通って前記熱媒体-冷媒熱交換器に流入する前記冷媒とを熱交換させる、
車両用空気調和装置。
【請求項2】
前記出力制限値は、前記熱媒体加熱装置の最大出力の50%以下に設定される、
請求項1に記載の車両用空気調和装置。
【請求項3】
前記駆動制御部は、
前記空調運転実行判断部において、前記冷媒回路を用いた空調運転は可能であるが空調運転をしない又は前記冷媒回路を用いた空調運転ができないと判断されたとき、
前記熱媒体加熱装置の前記出力制限値による出力制限を解除して前記熱媒体を加熱させると共に、前記熱媒体を前記第2熱媒体循環回路で循環させて、前記空気流通路を流通する前記空気を加熱させる、
請求項1又は2に記載の車両用空気調和装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド車などの車両に適用される車両用空気調和装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界では、CO排出量削減に向けた省燃費化を実現させるため、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車などの電動モータを用いて走行する車両(以下、これらを「電動車両」と称する)の研究開発が進められている。そして、電動車両に搭載される空気調和装置は、エンジンの廃熱を利用できない電気走行時においても暖房運転が行えるヒートポンプサイクルが利用されている。
【0003】
ヒートポンプシステムを利用した空気調和装置としては、例えば下記特許文献1に開示されるように、冷媒を圧縮して吐出する圧縮機と、車室内側に設けられ冷媒を放熱させる凝縮器として機能する放熱器と、車室内側に設けられ冷媒を吸熱させる蒸発器として機能する吸熱器と、車室外側に設けられ通風される外気により冷媒を吸熱させる蒸発器又は放熱させる凝縮器として機能する室外熱交換器が接続された冷媒回路を備えている。この空気調和装置は、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、この放熱器において放熱した冷媒を室外熱交換器において吸熱させる「暖房モード」、圧縮機から吐出された冷媒を室外熱交換器において放熱させ、吸熱器において吸熱させる「冷房モード」、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器において放熱させ、放熱器において放熱した冷媒を吸熱器と室外熱交換器において吸熱させる「除湿暖房モード」、圧縮機から吐出された冷媒を放熱器及び室外熱交換器において放熱させ、吸熱器において吸熱させる「除湿冷房モード」などの各空調モードが切り換え可能となっている。
【0004】
また、特許文献1の空気調和装置には、外気温が低温(例えば0℃以下)のときの補助暖房機能を実現する手段として、循環ポンプと、熱媒体加熱装置(ECH)と、車室内に供給する空気が流通する空気流通路の空気の流れに対して放熱器の空気上流側となる空気流通路内に設けられた熱媒体―空気熱交換器とを備える熱媒体循環回路を備えている。この熱媒体循環回路は、循環ポンプにより循環する熱媒体が熱媒体加熱装置により加熱され、空気流通路内に設けられた熱媒体―空気熱交換器がヒータコアとなって暖房運転を補助している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-107745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の装置を含む従来の空気調和装置では、例えば外気温が-15℃を下回るような極低温の場合、冷媒の密度の低下に伴い圧縮機で圧縮する質量流量が低下して圧縮機の能力が著しく落ち、正常な暖房運転ができないという問題がある。
【0007】
また、従来の空気調和装置の場合、熱媒体加熱装置のヒータ素子を最大出力(100%)で駆動させてしまうと耐久性が悪化して故障の原因となり得るため、例えばヒータ出力が最大出力の50%程度となるように、その駆動が制限されている。
【0008】
そのため、従来の空気調和装置では、外気温が極低温となった場合、正常な暖房運転ができず、また熱媒体加熱装置の出力が制限されているため暖房性能が低く、車室内の環境を良好に保つことは困難であった。
【0009】
本発明は、従来の問題点を解決することを目的とし、熱媒体加熱装置の耐久性の悪化を極力抑えつつ、暖房性能を向上させることのできる車両用空気調和装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明に係る車両用空気調和装置は、車室内に供給する空気が流通する空気流通路と、冷媒を圧縮する圧縮機と、前記冷媒を放熱させる放熱器と、前記冷媒を吸熱させる吸熱器と、車室外に設けられ前記冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器とを含む冷媒回路と、熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置と、前記空気流通路に設けられ前記熱媒体を放熱させる空気流通路内熱交換器とを含み、前記熱媒体加熱装置で加熱された前記熱媒体が循環する補助加熱部と、前記室外熱交換器と前記吸熱器との間に形成される第1冷媒流通路から分岐して流通される前記冷媒に吸熱させて前記熱媒体の熱交換を行う熱媒体―冷媒熱交換器と、前記制御装置は、前記冷媒回路を用いた空調運転の可否を判断する空調運転実行判断部と、補助暖房機能を追加するか否かの判断を行う補助暖房実行判断部と、前記空調運転実行判断部で前記冷媒回路を用いた空調運転が可能と判断され、前記補助暖房実行判断部で補助暖房機能の追加が必要と判断されたときは、前記熱媒体加熱装置の出力を所定の出力制限値以下に制限して駆動する駆動制御部と、を備えている。
【0011】
好適には、前記車両用空気調和装置において、前記出力制限値は、前記熱媒体加熱装置の最大出力の50%以下に設定されてよい。
【0012】
好適には、前記車両用空気調和装置において、外気温が予め設定された所定の温度閾値以下か否かを判断する外気温判断部を備え、前記冷媒回路は、前記放熱器と前記室外熱交換器との間に形成される第2冷媒流通路から分岐し、前記室外熱交換器を迂回して前記第1冷媒流通路に接続される第3冷媒流通路を備え、前記補助加熱部は、前記熱媒体加熱装置で加熱された前記熱媒体を、前記熱媒体―冷媒熱交換器を介して再び前記熱媒体加熱装置に流入させる第1熱媒体循環回路と、前記熱媒体加熱装置で加熱された前記熱媒体を、前記熱媒体―冷媒熱交換器に流入させ、前記熱媒体―冷媒熱交換器から流出された前記熱媒体を前記空気流通路内熱交換器に流入させ、前記空気流通路内熱交換器から流出された前記熱媒体を再び前記熱媒体加熱装置に流入させる第2熱媒体循環回路と、を備え、前記駆動制御部は、前記外気温判断部にて外気温が前記温度閾値以下と判断されると、前記第1熱媒体循環回路で前記熱媒体を循環させて、前記熱媒体―冷媒熱交換器において、前記第1熱媒体循環回路で循環する前記熱媒体と、前記第3冷媒流通路を通って前記熱媒体―冷媒熱交換器に流入する前記冷媒とを熱交換させてよい。
【0013】
好適には、前記車両用空気調和装置において、前記駆動制御部は、前記空調運転実行判断部において、前記冷媒回路を用いた空調運転は可能であるが空調運転をしない又は前記冷媒回路を用いた空調運転ができないと判断されたとき、前記熱媒体加熱装置の前記出力制限値による出力制限を解除して前記熱媒体を加熱させると共に、前記熱媒体を前記第2熱媒体循環回路で循環させて、前記空気流通路を流通する前記空気を加熱させてよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱媒体加熱装置の耐久性の悪化を極力抑えつつ、暖房性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態を示す車両用空気調和装置の概略構成図である。
図2】制御系を示すブロック図である。
図3】第1補助暖房モードにおける冷媒及び熱媒体の流路を示す車両用空気調和装置の概略構成図である。
図4】第2通常補助暖房モードにおける冷媒及び熱媒体の流路を示す車両用空気調和装置の概略構成図である。
図5】低温時補助暖房モードにおける冷媒及び熱媒体の流路を示す車両用空気調和装置の概略構成図である。
図6】緊急時補助暖房モードにおける熱媒体の流路を示す車両用空気調和装置の概略構成図である。
図7】暖房モード選択時における処理内容を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例及び運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0017】
さらに、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0018】
本発明の車両用空気調和装置1は、例えばハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車などの電動モータの駆動力によって走行可能な電動車両に適用されるものである。
【0019】
また、本明細書において、「温調対象機器」とは、電動車両に搭載され、走行時又は車両駆動時に使用される「バッテリ」、「電動モータ」、「インバーター」、「ECU(Electronic Control Unit)」のような、駆動に伴い発熱する熱源となり得る車載機器(車載発熱機器)であり、適切な駆動温度となるように冷却又は加温して温度調整される。本実施形態では、温調対象機器100として、「バッテリ」を冷却する形態例で説明する。
【0020】
[装置概要]
図1は、本実施形態に係る車両用空気調和装置1の構成を示す図である。
図1又は図2に示すように、車両用空気調和装置1は、車室内の空調(暖房、冷房、除湿及び換気)を行う装置である。車両用空気調和装置1は、車両の車室内に設けられる空調ユニット10と、車室内及び車室外に亘って設けられる冷媒回路20と、温調対象機器100の冷却を行う補助加熱部30と、車両用空気調和装置1を構成する各部の駆動制御を統括的に行う制御装置40と、を備えている。
【0021】
<空調ユニット>
空調ユニット10は、車室内に供給する空気を流通させるための空気流通路11を有している。
【0022】
空気流通路11の一端側には、車室外の空気を空気流通路11に流入させるための外気吸入口12aと、車室内の空気を空気流通路11に流入させるための内気吸入口12bを有する吸入口12が設けられている。
【0023】
また、空気流通路11の一端側には、外気吸入口12a又は内気吸入口12bの一方を開放して他方を閉鎖することが可能な吸入口切換ダンパ13が設けられている。さらに、空気流通路11の一端側には、空気流通路11の一端側から他端側に向かって空気を流通させるためのシロッコファンなどの室内送風機14が設けられている。
【0024】
空気流通路11の他端側には、空気流通路11を流通した空気を、車室内の所定箇所に吹き出させる吹出口が設けられている。吹出口は、搭乗者の足元に向かって吹き出させる図示しないフット吹出口、搭乗者の上半身に向かって吹き出させる図示しないベント吹出口、及び車両のフロントガラスの車室内側の面に向かって吹き出させる図示しないデフ吹出口を備え、各吹出口からの空気の吹き出し方向を切り換える図示しない吹出口切換ダンパが設けられている。
【0025】
空気流通路11における室内送風機14の空気流通方向下流側には、空気流通路11を流通する空気を冷却及び除湿するための吸熱器15が設けられている。また、空気流通路11における吸熱器15の空気流通方向下流側には、空気流通路11を流通する空気を加熱するための放熱器16が設けられている。
【0026】
放熱器16は、空気流通路11の直交方向一方側に配置され、空気流通路11の直交方向他方側には、放熱器16を迂回するバイパス流通路11aが形成されている。空気流通路11における吸熱器15と放熱器16との間には、吸熱器15を通過した空気のうち、放熱器16に流入する空気とバイパス流通路11aを流通する空気との風量割合を調整するためのエアミックスダンパ17が設けられている。なお、放熱器16の設置箇所は、空気流通路11に限定されず、空調ユニット10の外側としてもよい。
【0027】
エアミックスダンパ17は、設定される運転モード(空調モード、機器冷却モード)に従って、バイパス流通路11aと放熱器16の何れか一方の空気流通方向上流側を閉鎖して他方を開放したり、放熱器16の空気流通方向上流側の開度を調整してバイパス流通路11aと放熱器16の両方を開放したりする。空調ユニット10から車室内に吹き出される空調風の温度は、エアミックスダンパ17の開度位置を調整することで調整可能となる。
【0028】
<冷媒回路>
冷媒回路20は、上述した吸熱器15及び放熱器16と、冷媒を圧縮するための圧縮機21、冷媒と車室外の空気とを熱交換するための室外熱交換器22と、全閉と全開との間で弁開度の調整が可能な電子式の膨張弁23(第1膨張弁23a、第2膨張弁23b及び第3膨張弁23c)と、冷媒の流路を開閉するための電磁弁24(第1電磁弁24a、第2電磁弁24b)と、冷媒の流路における冷媒の流通方向を規制するための逆止弁25(第1逆止弁25a、第2逆止弁25b)と、気体の冷媒と液体の冷媒を分離して気体の冷媒を圧縮機21に吸入させるためのアキュムレータ26と、冷媒回路20内を流れる冷媒と補助加熱部30を流れる熱媒体との熱交換を行う熱媒体―冷媒熱交換器27と、を備えている。冷媒回路20を構成する各部は、例えばアルミニウム管、銅管などの冷媒配管からなる冷媒流通路20a~20gによって冷媒が循環可能に接続されている。冷媒回路20を流通する冷媒としては、例えば、R-134aなどが用いられる。
【0029】
室外熱交換器22は、冷媒と熱交換する空気の流通方向が車両の前後方向となるように、エンジンルームなどの車室外に配置されている。室外熱交換器22の近傍には、車両が停止している際に車室外の空気を前後方向に流通させるための室外送風機22aが設けられている。
【0030】
冷媒回路20には、圧縮機21の冷媒吐出側と、放熱器16の冷媒流入側とを接続する冷媒流通路20aが形成され、放熱器16の冷媒流出側と、室外熱交換器22の冷媒流入側とを接続する冷媒流通路20b(特許請求の範囲における「第2冷媒流通路」に相当)が形成されている。冷媒流通路20bには、第1膨張弁23aが設けられている。
【0031】
冷媒回路20には、室外熱交換器22の冷媒流出側と、吸熱器15の冷媒流入側とを接続する冷媒流通路20c(特許請求の範囲における「第1冷媒流通路」に相当)が形成されている。冷媒流通路20cには、室外熱交換器22側から順に、第1逆止弁25a、第2膨張弁23bが設けられている。
【0032】
冷媒回路20には、吸熱器15の冷媒流出側と、圧縮機21の冷媒吸入側とを接続する冷媒流通路20dが形成されている。冷媒流通路20dには、吸熱器15側から順に、第2逆止弁25b、アキュムレータ26が設けられている。
【0033】
冷媒回路20において、冷媒流通路20bにおける放熱器16と第1膨張弁23aとの間には、室外熱交換器22を迂回し、冷媒流通路20cにおける第1逆止弁25aと第2膨張弁23bとの間を接続する冷媒流通路20eが形成されている。冷媒流通路20eには、第1電磁弁24aが設けられている。
【0034】
冷媒回路20において、冷媒流通路20cにおける室外熱交換器22と第1逆止弁25aとの間には、冷媒流通路20dにおける吸熱器15と第1逆止弁25bとの間を接続する冷媒流通路20f(特許請求の範囲における「第5冷媒流通路」に相当)が形成されている。冷媒流通路20fには、第2電磁弁24bが設けられている。
【0035】
冷媒回路20において、第1逆止弁25aと第2膨張弁23bとの間には、熱媒体―冷媒熱交換器27の冷媒流入側と接続し、熱媒体―冷媒熱交換器27の冷媒流出側から冷媒流通路20dにおける第2逆止弁25bとアキュムレータ26との間を接続する冷媒流通路20gが形成されている。冷媒流通路20gにおける熱媒体―冷媒熱交換器27の冷媒流入側には、第3膨張弁23cが設けられている。冷媒流通路20gは、冷媒流通路20cから分流した冷媒を、熱媒体―冷媒熱交換器27を経由させた後、冷媒流通路20dに流通させるための流路である。冷媒回路20において、冷媒流通路20gに冷媒が流入されると、この冷媒が第3膨張弁23cによって減圧され、熱媒体―冷媒熱交換器27に流入する。熱媒体―冷媒熱交換器27に流入した冷媒は、熱媒体―冷媒熱交換器27内で蒸発して補助加熱部30内を流通する熱媒体と熱交換される。
【0036】
<補助加熱部>
補助加熱部30は、温調対象機器100であるバッテリに熱媒体(例えば水、HFO―1234yfのような冷媒、クーラントなどの液体、空気)を循環させて温調対象機器100の温度調整をするための回路で構成される。
【0037】
補助加熱部30は、熱媒体を循環させる循環装置としての循環ポンプ31と、熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置(ECH)32と、補助加熱部30内を循環する熱媒体の流通方向を切り換える例えば三方弁のような方向切換弁33と、空調ユニット10内の空気流通方向における吸熱器15と放熱器16の間に設けられ熱媒体と空気の熱交換を行う空気流通路内熱交換器(ヒータコア)34を備えている。
【0038】
補助加熱部30は、循環ポンプ31、熱媒体加熱装置32、熱媒体―冷媒熱交換器27、温調対象機器100及び空気流通路内熱交換器34が熱媒体配管により環状に接続され、方向切換弁33により熱媒体の流路が切換可能な熱媒体循環回路30aが形成される。
【0039】
図1において、熱媒体循環回路30aには、熱媒体配管により、循環ポンプ31の吐出側と、熱媒体加熱装置32の熱媒体流入側とが接続され、熱媒体加熱装置32の熱媒体流出側と熱媒体―冷媒熱交換器27の熱媒体流入側とが接続され、方向切換弁33を介して熱媒体―冷媒熱交換器27の熱媒体流出側と温調対象機器100の熱媒体流入側とが接続され、温調対象機器100の熱媒体流出側と循環ポンプ31の熱媒体吸入側(流入側)とが接続されてなる、「第1熱媒体循環回路30b」が形成されている。第1熱媒体循環回路30bにおいて、熱媒体は、循環ポンプ31を起点としたとき、循環ポンプ31から順に「熱媒体加熱装置32」→「熱媒体―冷媒熱交換器27」→「方向切換弁33」→「温調対象機器100」へと流通し、再び循環ポンプ31に戻る。
【0040】
また、図1において、熱媒体循環回路30aは、熱媒体配管により、方向切換弁33を介して熱媒体―冷媒熱交換器27の熱媒体流出側と空気流通路内熱交換器34の熱媒体流入側が接続され、空気流通路内熱交換器34の熱媒体流出側と循環ポンプ31の熱媒体吸入側とが接続されてなる、「第2熱媒体循環回路30c」が形成される。第2熱媒体循環回路30cにおいて、熱媒体は、循環ポンプ31を起点としたとき、循環ポンプ31から順に「熱媒体加熱装置32」→「熱媒体―冷媒熱交換器27」→「方向切換弁33」→「空気流通路内熱交換器34」→「循環ポンプ31」へと流通し、再び循環ポンプ31に戻る。
【0041】
<制御装置>
制御装置40は、CPU、ROM、RAMなどを含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路で構成されるECU(Electronic Control Unit)からなる。制御装置40は、ROM内に記憶された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種制御対象の作動を制御する。
【0042】
制御装置40には、図2に示すように、車室外の温度を検出するための外気温度センサ41と、車室内の温度を検出するための内気温度センサ42と、吸熱器15の温度(吸熱器15を通過した空気の温度、吸熱器15自体の温度、又は吸熱器15を出た直後の冷媒の温度)を検出するための吸熱器温度センサ43と、放熱器16の温度(放熱器16を通過した空気の温度、放熱器16自体の温度、又は放熱器16を出た直後の冷媒の温度)を検出するための放熱器温度センサ44と、車室内の湿度を検出するための内気湿度センサ45と、吹出口から車室内に吹き出される空気の温度を検出するための吹出温度センサ46と、吸熱器15の冷媒圧力(吸熱器15内、又は吸熱器15を出た直後の冷媒の圧力)を検出するための吸熱器圧力センサ47と、放熱器16の冷媒圧力(放熱器16内、又は放熱器16を出た直後の冷媒の圧力)を検出するための放熱器圧力センサ48と、圧縮機21の吐出冷媒圧力を検出するための吐出圧力センサ49と、圧縮機21に吸入される冷媒の温度及び吐出される冷媒の温度を検出するための圧縮機温度センサ50と、圧縮機21の吸入冷媒圧力を検出するための吸入圧力センサ51と、室外熱交換器22の温度(室外熱交換器22自体の温度、又は室外熱交換器22から出た直後の冷媒の温度)を検出するための室外熱交換器温度センサ52と、室外熱交換器22の冷媒圧力(室外熱交換器22内、又は室外熱交換器22から出た直後の冷媒の圧力)を検出するための室外熱交換器圧力センサ53と、空気流通路内熱交換器34の温度(空気流通路内熱交換器34自体の温度、空気流通路内熱交換器34を出た熱媒体の温度、又は空気流通路内熱交換器34に入る熱媒体の温度)を検出するための空気流通路内熱交換器温度センサ54と、日射量を検出するための例えばフォトセンサ式の日射センサ55と、車両の速度を検出するための速度センサ56と、温調対象機器100の温度(温調対象機器100自体の温度、温調対象機器100を出た熱媒体の温度、又は温調対象機器100に入る熱媒体の温度)を検出するための機器温度センサ57と、搭乗者による車室内の設定温度の設定や空調の運転内容の切り換えに関する設定を行うための設定操作部58と、が接続されている。上述した各センサ類は、車室内(又は車室外)において検出対象となる情報が検出可能な位置に設置されている。
【0043】
また、制御装置40には、図2に示すように、室内送風機14と、エアミックスダンパ17と、圧縮機21と、室外送風機22aと、膨張弁23(第1膨張弁23a~第3膨張弁23c)、電磁弁24(第1電磁弁24a、第2電磁弁24b)、熱媒体加熱装置32、方向切換弁33が接続されている。
【0044】
制御装置40は、各センサ類で検出された情報と、設定操作部58からの操作信号に基づいて、接続される各部の駆動制御を行う。また、制御装置40は、設定操作部58から運転モードの設定指示を入力すると、運転モードとして、空調ユニット10及び冷媒回路20を駆動して車室内の空調を管理する「空調モード」と、空調モードとして設定された暖房モードに補助暖房機能を付加して運転する「補助暖房モード」が実行されるように各部の駆動制御を行う。
【0045】
また、制御装置40は、補助暖房モードを実行する際に、冷媒回路20を用いた空調運転が可能と判断したときは、予め設定された出力制限値以下となるように熱媒体加熱装置32の出力を制限して駆動させる。出力制限値は、熱媒体加熱装置32を最大出力で駆動することで生じる耐久性の悪化を防止するため、熱媒体加熱装置32の機器性能にもよるが、概ね最大出力50%以下に設定してよい。
【0046】
さらに、制御装置40は、補助暖房モードを実行する際に、冷媒回路20を用いた空調運転は可能であるが空調運転をしない又は冷媒回路20を用いた空調運転ができないと判断したときのみ、出力制限値による熱媒体加熱装置32の出力を解除して最大出力まで駆動可能とする。
【0047】
なお、制御装置40による冷媒回路20を用いた空調運転の可否の判断は、外気温、圧縮機21に吸入される冷媒の温度、圧縮機21の吐出圧力などを鑑みて総合的に判断される。制御装置40は、圧縮機21自体が故障して駆動しない場合は勿論のこと、例えば冷媒温度が低過ぎて圧縮機21の能力が極端に低下するような場合も圧縮機21の故障を防ぐため「冷媒回路20を用いた空調運転をしない(又はできない)」の判断を行う。
【0048】
次に、本実施形態に係る車両用空気調和装置1における運転モードである「空調モード」について説明する。
空調モードは、車室内の温度/湿度調整などの空調管理を行うモードであって、車室内の温度を低下させる冷房運転を行う「冷房モード」と、車室内の湿度を低下させると共に温度を低下させる除湿冷房運転を行う「除湿冷房モード」と、車室内の温度を上昇させる暖房運転を行う「暖房モード」と、車室内の湿度を低下させると共に温度を上昇させる除湿暖房運転を行う「除湿暖房モード」とを含む。
【0049】
<冷房モード>
冷房モードでは、空調ユニット10において、室内送風機14を駆動させると共に、放熱器16側に空気が流入されないようにエアミックスダンパ17の開度が設定される。また、冷媒回路20においては、第1膨張弁23aを全開とし、第2膨張弁23bを所定の弁開度とし、第1電磁弁24a及び第2電磁弁24bを閉鎖した状態で圧縮機21を駆動させる。
【0050】
これにより、冷媒回路20を流通する冷媒は、圧縮機21から吐出された後、放熱器16と第1膨張弁23aを通過して、室外熱交換器22に流入する。室外熱交換器22に流入した冷媒は、室外送風機22aにて通風される外気によって空冷され、凝縮する。
【0051】
室外熱交換器22から流出される冷媒は、第1逆止弁25aを通過して第2膨張弁23bに到達すると、減圧された後、吸熱器15に流入して蒸発する。その後、吸熱器15から流出される冷媒は、第2逆止弁25bを通過してアキュムレータ26に流入し、気液分離された後、圧縮機21に吸入される。冷媒は、上記経路を辿って冷媒回路20内を循環する。
【0052】
空気流通路11を流通する空気は、吸熱器15内で吸熱する冷媒と熱交換されることによって目標吹出温度まで冷却されて車室内に吹き出される。
【0053】
<除湿冷房モード>
除湿冷房モードでは、空調ユニット10において、バイパス流通路11aとエアミックスダンパ17の両方に通風されるように開度が設定される。また、冷媒回路20においては、第1膨張弁23aを全開とし、第2膨張弁23bを所定の弁開度とし、第1電磁弁24a及び第2電磁弁24bを閉鎖した状態で圧縮機21を駆動させる。
【0054】
これにより、冷媒回路20を流通する冷媒は、圧縮機21から吐出された後、放熱器16に流入し、空気流通路11内の空気と熱交換することで熱を奪われ冷却され、凝縮する。放熱器16から流出される冷媒は、第1膨張弁23aに到達すると、減圧された後、室外熱交換器22に流入する。室外熱交換器22に流入した冷媒は、室外送風機22aにて通風される外気により冷却され、凝縮する。
【0055】
室外熱交換器22から流出される冷媒は、第1逆止弁25aを通過して第2膨張弁23bに到達すると、減圧された後、吸熱器15に流入して蒸発する。その後、吸熱器15から流出した冷媒は、第2逆止弁25bを通過してアキュムレータ26に流入し、気液分離された後、圧縮機21に吸入される。冷媒は、上記経路を辿って冷媒回路20内を循環する。
【0056】
空気流通路11を流通する空気は、吸熱器15内で吸熱する冷媒と熱交換することによって冷却及び除湿され、放熱器16内で放熱する冷媒と熱交換することで再加熱され、目標吹出温度に調整されて車室内に吹き出される。
【0057】
<暖房モード>
暖房モードでは、空調ユニット10において、室内送風機14を駆動させると共に、空気が放熱器16に通風されるようにエアミックスダンパ17の開度が設定される。また、冷媒回路20おいては、第1膨張弁23aを全開よりも小さい所定の弁開度とし、第2膨張弁23bと第1電磁弁24aを閉鎖し、第2電磁弁24bを全開にした状態で圧縮機21を駆動させる。
【0058】
これにより、冷媒回路20を流通する冷媒は、圧縮機21から吐出された後、放熱器16に流入し、空気流通路11内の空気と熱交換することで熱を奪われ冷却され、凝縮する。放熱器16から流出される冷媒は、第1膨張弁23aに到達すると、減圧された後、室外熱交換器22に流入する。室外熱交換器22に流入した冷媒は、蒸発して室外送風機22aにて通風される外気から吸熱する。
【0059】
室外熱交換器22から流出される冷媒は、第2電磁弁24b、第2逆止弁25bを通過してアキュムレータ26に流入し、気液分離された後、圧縮機21に吸入される。冷媒は、上記経路を辿って冷媒回路20内を循環する。
【0060】
空気流通路11を流通する空気は、放熱器16内で放熱する冷媒と熱交換することで加熱され、目標吹出温度に調整されて車室内に吹き出される。
【0061】
<除湿暖房モード>
除湿暖房モードは、第1除湿暖房モードと、第2除湿暖房モードを含む。
【0062】
(第1除湿暖房モード)
第1除湿暖房モードでは、空調ユニット10において、室内送風機14を駆動させると共に、バイパス流通路11aとエアミックスダンパ17の両方に通風されるように開度が設定される。また、冷媒回路20おいては、第1膨張弁23a及び第2膨張弁23bをそれぞれ全開よりも小さい所定の弁開度とし、第1電磁弁24a及び第2電磁弁24bを閉鎖した状態で圧縮機21を駆動させる。
【0063】
これにより、冷媒回路20を流通する冷媒は、圧縮機21から吐出された後、放熱器16に流入し、空気流通路11内の空気と熱交換することで熱を奪われ冷却され、凝縮する。放熱器16から流出される冷媒は、第1膨張弁23aに到達すると、減圧された後、室外熱交換器22に流入する。室外熱交換器22に流入した冷媒は、蒸発して室外送風機22aにて通風される外気から吸熱する。
【0064】
室外熱交換器22から流出される冷媒は、第1逆止弁25aを通過して第2膨張弁23bに到達すると、減圧された後、吸熱器15に流入して蒸発する。その後、吸熱器15から流出される冷媒は、第2逆止弁25bを通過してアキュムレータ26に流入し、気液分離された後、圧縮機21に吸入される。冷媒は、上記経路を辿って冷媒回路20内を循環する。
【0065】
空気流通路11を流通する空気は、吸熱器15内で吸熱する冷媒と熱交換することによって除湿されると共に冷却され、放熱器16内で放熱する冷媒と熱交換することによって加熱され、目標吹出温度に調整されて車室内に吹き出される。
【0066】
(第2除湿暖房モード)
第2除湿暖房モードでは、空調ユニット10において、室内送風機14を駆動させると共に、バイパス流通路11aとエアミックスダンパ17の両方に通風されるように開度が設定される。また、冷媒回路20においては、第1膨張弁23aを閉鎖し、第2膨張弁23bを所定の弁開度とし、第1電磁弁24aを開放し、第2電磁弁24bを閉鎖した状態で圧縮機21を駆動させる。
【0067】
これにより、冷媒回路20を流通する冷媒は、圧縮機21から吐出された後、放熱器16に流入し、空気流通路11内の空気と熱交換することで熱を奪われ冷却され、凝縮する。放熱器16から流出される冷媒は、第1電磁弁24aを通過して第2膨張弁23bに到達すると、減圧された後、吸熱器15に流入して蒸発する。その後、吸熱器15から流出される冷媒は、第2逆止弁25bを通過してアキュムレータ26に流入し、気液分離された後、圧縮機21に吸入される。冷媒は、上記経路を辿って冷媒回路20内を循環する。
【0068】
空気流通路11を流通する空気は、吸熱器15内で吸熱する冷媒と熱交換することによって冷却され、放熱器16内で放熱する冷媒と熱交換することによって加熱され、目標吹出温度に調整されて車室内に吹き出される。
【0069】
次に、図3図6を参照しながら本実施形態に係る車両用空気調和装置1で実行される「補助暖房モード」について説明する。なお、各図に示す矢印は、対応するモードを実行した際の冷媒又は熱媒体の流れを示している。
【0070】
「補助暖房モード」は、空調モードとして「暖房モード」が設定された際に、制御装置40により補助暖房機能が必要であると判断されたときに切り換えられるモードである。つまり、ユーザが暖房モードを設定した際に、制御装置40の判断により、暖房運転として、補助暖房機能が不要な場合は「暖房モード」が設定され、補助暖房機能が必要な場合は「補助暖房モード」が実行される。
【0071】
「補助暖房モード」には、冷媒回路20を用いた空調運転が可能であり、空調運転として暖房モードによる運転に補助暖房機能を併用させるために設定される「通常補助暖房モード」及び「低温時補助暖房モード」と、例えば外気温が-15℃に満たない極低温のとき又は圧縮機21自体が故障したときのような、冷媒回路を用いた空調運転は可能であるが空調運転をしない又は冷媒回路20を用いた空調運転ができないと判断したときに設定される「緊急時補助暖房モード」が含まれる。
【0072】
また、「通常補助暖房モード」と「低温時補助暖房モード」は、制御装置40が外気温と予め設定されたモード選択温度閾値とを比較した判断結果に基づいて選択設定される。モード選択温度閾値は、例えば圧縮機21の能力が落ち始める「-10℃」に設定され、制御装置40は、外気温が-10℃よりも高いときに「通常補助暖房モード」を設定し、外気温が-10℃以下のときに「低温時補助暖房モード」を設定してよい。
【0073】
なお、本実施形態において、補助暖房モードは、暖房モードが設定されたことを前提として設定されるモードとして説明するが、除湿暖房モード時又は暖房モードを設定せずに補助暖房モードを単独で設定することも可能である。
【0074】
<通常補助暖房モード>
通常補助暖房モードは、例えば外気温が「0℃~-9℃」のような補助暖房機能が必要となる温度のときに設定され、上述した暖房モードにより空気流通路11内を流通する空気を加熱させると共に、熱媒体加熱装置32で加熱された熱媒体を利用して空気流通路11内を流通する空気を補助的に加熱させるモードである。通常補助暖房モードには、「第1通常補助暖房モード」と「第2通常補助暖房モード」が含まれる。通常補助暖房モードにおいて、熱媒体は、ヒータコアとなる空気流通路内熱交換器34に流通されるように、第2熱媒体循環回路30cを循環する。第1通常補助暖房モード及び第2通常補助暖房モードでは、予め設定された出力制限値以下となるように熱媒体加熱装置32の出力が制限される。
【0075】
(第1通常補助暖房モード)
図3には、第1通常補助暖房モードにおける冷媒と熱媒体の流れが示されている。なお、第1通常補助暖房モードで実行される暖房モードによる冷媒の流れは、上述した暖房モードにおける冷媒回路20内の冷媒の流れと同様であるため、その説明を省略する。
【0076】
図3に示すように、第1通常補助暖房モード時の補助加熱部30内の熱媒体は、循環ポンプ31から吐出されると、熱媒体加熱装置32に流入する。熱媒体加熱装置32に流入した熱媒体は、所定温度に加熱された後、熱媒体―冷媒熱交換器27を通過して空気流通路内熱交換器34に流入する。
【0077】
空気流通路内熱交換器34に流入した熱媒体は、空気流通路11内を流通する空気と熱交換される。そして、空気流通路内熱交換器34から流出される熱媒体は、循環ポンプ31に吸入される。
【0078】
第1通常補助暖房モードでは、空気流通路11内を流通する空気が空気流通路内熱交換器34で補助的に加熱され、この空気が放熱器16において更に加熱される。
【0079】
(第2通常補助暖房モード)
図4には、第2通常補助暖房モードにおける冷媒と熱媒体の流れが示されている。図4に示すように、第2通常補助暖房モード時の暖房モードにおける冷媒回路20内の冷媒は、圧縮機21から吐出された後、放熱器16に流入し、空気流通路11内の空気と熱交換することで熱を奪われ冷却され、凝縮する。放熱器16から流出される冷媒は、第1膨張弁23aに到達すると、減圧された後、室外熱交換器22に流入する。室外熱交換器22に流入した冷媒は、蒸発して室外送風機22aにて通風される外気を吸熱する。
【0080】
室外熱交換器22から流出される冷媒は、第2電磁弁24b、第2逆止弁25bを通過してアキュムレータ26に流入し、気液分離された後、圧縮機21に吸入される。冷媒は、上記経路を辿って冷媒回路20内を循環する。
【0081】
また、放熱器16から流出される冷媒の一部は、第1電磁弁24aを通過して冷媒流通路20eを迂回し、冷媒流通路20cを通って第3膨張弁23cに到達する。第3膨張弁23cに到達した冷媒は、減圧された後、熱媒体―冷媒熱交換器27に流入して蒸発し、熱媒体の熱を吸熱する。その後、熱媒体―冷媒熱交換器27から流出される冷媒は、アキュムレータ26に流入し、気液分離された後、圧縮機21に吸入される。
【0082】
第2通常補助暖房モード時の補助加熱部30内の熱媒体は、循環ポンプ31から吐出されると、熱媒体加熱装置32に流入する。熱媒体加熱装置32に流入した熱媒体は、所定温度に加熱された後、熱媒体―冷媒熱交換器27に流入する。
【0083】
熱媒体―冷媒熱交換器27に流入した熱媒体は、熱媒体―冷媒熱交換器27に流入する冷媒と熱交換された後、空気流通路内熱交換器34に流入する。空気流通路内熱交換器34に流入した熱媒体は、空気流通路11内を流通する空気と熱交換される。そして、空気流通路内熱交換器34から流出される熱媒体は、循環ポンプ31に吸入される。
【0084】
第2通常補助暖房モードでは、第1補助暖房モードと同様、空気流通路11内を流通する空気が空気流通路内熱交換器34で補助的に加熱され、この空気が放熱器16に流入して更に加熱される。
【0085】
また、第2通常補助暖房モードでは、冷媒の温度低下に伴う圧縮機21の能力低下を防止するため、熱媒体―冷媒熱交換器27において熱媒体加熱装置32で加熱された熱媒体と圧縮機21に吸入される前の冷媒とを熱交換して冷媒の温度を上昇させている。
【0086】
<低温時補助暖房モード>
低温時補助暖房モードは、例えば外気温が「-10℃~-15℃程度」のような通常補助暖房モードが設定される温度よりも低温のときに設定され、上述した暖房モードにより空気流通路11内を流通する空気を加熱させると共に、熱媒体―冷媒熱交換器27において熱媒体加熱装置32で加熱された熱媒体と圧縮機21に吸入される前の冷媒とを熱交換して冷媒の温度を上昇させるモードである。低温時補助暖房モードにおいて、熱媒体は、ヒータコアとなる空気流通路内熱交換器34には流通させず、第1熱媒体循環回路30bを循環する。低温時補助暖房モードでは、通常補助暖房モード時と同様、予め設定された出力制限値以下となるように熱媒体加熱装置32の出力が制限される。
【0087】
図5には、低温時補助暖房モードにおける冷媒と熱媒体の流れが示されている。なお、低温時補助暖房モード時の暖房モードにおける冷媒回路20内の冷媒は、第2通常補助暖房モードにおける冷媒の流れと同様であるため、その説明を省略する。
【0088】
図5に示すように、低温時補助暖房モード時の補助加熱部30内の熱媒体は、循環ポンプ31から吐出されると、熱媒体加熱装置32に流入する。熱媒体加熱装置32に流入した熱媒体は、所定温度に加熱された後、熱媒体―冷媒熱交換器27に流入する。
【0089】
熱媒体―冷媒熱交換器27に流入した熱媒体は、熱媒体―冷媒熱交換器27に流入する冷媒と熱交換された後、温調対象機器100に流入する。温調対象機器100に流入した熱媒体は、温調対象機器100の温度調整を行った後、循環ポンプ31に吸入される。
【0090】
低温時補助暖房モードでは、外気温が-10℃~-15℃と低く、室外熱交換器22による冷媒と外気との熱交換が不十分となり得るが、熱媒体加熱装置32によって加熱された熱媒体と冷媒とを熱媒体―冷媒熱交換器27で熱交換して冷媒の温度を上げることで、温調対象機器100の温度調整を行いつつ、冷媒との熱交換が可能となる。
【0091】
また、低温時補助暖房モードでは、熱媒体を空気流通路内熱交換器34に流通させないことで、通常の暖房モード時よりも圧縮機21の吸入圧力が上がり、結果として圧縮機21の出力を上げることが可能となるため、熱媒体加熱装置32の出力を抑えることができる。
【0092】
さらに、低温時補助暖房モードでは、温調対象機器100となるバッテリの寿命/性能悪化を防止するため、駆動温度が例えば10℃~40℃の範囲に収まるように熱媒体が温度調整される。
【0093】
<緊急時補助暖房モード>
緊急時補助暖房モードは、例えば外気温が-15℃未満と極低温になって冷媒の温度が低過ぎて圧縮機21が故障する虞があるとき又は圧縮機21自体が故障したときのように、制御装置40が、冷媒回路20を用いた空調運転は可能であるが空調運転をしない又は冷媒回路20を用いた空調運転ができないと判断したときに設定される緊急時用のモードである。緊急時補助暖房モードでは、暖房モードによる運転を行わず、熱媒体加熱装置32で加熱された熱媒体のみを利用して空気流通路11内を流通する空気を加熱させるため、ヒータコアとなる空気流通路内熱交換器34に流通されるように、第2熱媒体循環回路30cを循環する。
【0094】
図6には、緊急時補助暖房モードにおける熱媒体の流れが示されている。図6に示すように、緊急時補助暖房モード時の補助加熱部30内の熱媒体は、循環ポンプ31から吐出されると、熱媒体加熱装置32に流入する。熱媒体加熱装置32に流入した熱媒体は、所定温度に加熱された後、熱媒体―冷媒熱交換器27を通過して空気流通路内熱交換器34に流入する。
【0095】
空気流通路内熱交換器34に流入した熱媒体は、空気流通路11内を流通する空気と熱交換される。そして、空気流通路内熱交換器34から流出される熱媒体は、循環ポンプ31に吸入される。
【0096】
緊急時補助暖房モードでは、暖房モードによる暖房運転ができないため、空気流通路内熱交換器34により熱媒体と空気流通路11内の空気とを熱交換し、熱交換により加熱された空気を暖房として使用する。そのため、緊急時補助暖房モード時のみ、熱媒体加熱装置32の出力制限を解除して、最大出力まで駆動可能としている。
【0097】
以上のように、本実施形態に係る車両用空気調和装置1では、補助暖房モードとして大別される3種類のモードが設定されている。制御装置40は、冷媒回路20を用いた空調運転の可否を判断し、冷媒回路20を用いた空調運転が可能と判断した場合は、外気温に応じて「通常補助暖房モード」又は「低温時補助暖房モード」を設定し、冷媒回路20を用いた空調運転は可能であるが空調運転をしない又は冷媒回路20を用いた空調運転ができないと判断した場合は、熱媒体加熱装置32の出力制限を解除して駆動させる「緊急時補助暖房モード」を設定する。
【0098】
これにより、車両用空気調和装置1では、暖房モードが設定された際に、圧縮機21の状態及び外気温に基づいて冷媒回路20を用いた空調運転の可否を判断して適切な補助暖房モードが設定可能であるため、熱媒体加熱装置32の耐久性の悪化を極力抑えつつ、車室内の環境を良好に保つことができる。
【0099】
[処理動作]
次に、図7を参照しながら、本実施形態に係る車両用空気調和装置1の暖房モード実行時における処理動作について説明する。
なお、以下に説明する動作については、例示的な順序でステップの要素を提示しており、提示した特定の順序に限定されない。よって、図7に示すフローチャートについて、処理結果に矛盾が生じない限り、順序を入れ換えることが可能である。
【0100】
図7に示すように、制御装置40は、空調モードとして暖房モードを実行すると(ST1)、補助暖房実行判断部として機能して、運転モードとして補助暖房モードに切り換える必要があるか否かの判断を行う(ST2)。
【0101】
ST2において、制御装置40は、運転モードとして補助暖房モードに切り換える必要があると判断すると(ST2-Yes)、次に、空調運転実行判断部として機能して、冷媒回路20を用いた空調運転が可能か否か(つまり、空調運転を実行するか否か)の判断を行う(ST3)。
一方、ST2において、制御装置40は、運転モードとして補助暖房モードに切り換える必要がないと判断すると(ST2-No)、設定された暖房モードによる運転が継続されるように駆動制御部として機能して各部を駆動制御させ(ST4)、処理を終了する。
【0102】
ST3において、制御装置40は、冷媒回路20を用いた空調運転が可能であると判断すると(ST3-Yes)、次に、外気温判断部として機能して、外気温が予め設定されたモード選択温度閾値以下か否かの判断を行う(ST5)。
一方、ST3において、制御装置40は、冷媒回路20を用いた空調運転ができない又はしないと判断すると(ST3-No)、緊急時補助暖房モードによる処理が実行されるように駆動制御部として機能して各部を駆動制御させ(ST6)、処理を終了する。
【0103】
ST5において、制御装置40は、外気温がモード選択温度閾値以下であると判断されると(ST5-Yes)、低温時補助暖房モードによる処理が実行されるように駆動制御部として機能して各部を駆動制御させ(ST7)、処理を終了する。
一方、ST5において、制御装置40は、外気温がモード選択温度閾値を超えていると判断すると(ST5-No)、通常補助暖房モードによる処理が実行されるように駆動制御部として機能して各部を駆動制御させ(ST8)、処理を終了する。
【0104】
[作用効果]
以上説明したように、本実施形態に係る車両用空気調和装置1は、車室内に供給する空気が流通する空気流通路11と、冷媒を圧縮する圧縮機21と、冷媒を放熱させる放熱器16と、冷媒を吸熱させる吸熱器15と、車室外に設けられ冷媒を放熱又は吸熱させる室外熱交換器22とを含む冷媒回路20と、熱媒体を加熱する熱媒体加熱装置32と、空気流通路11に設けられ熱媒体を放熱させる空気流通路内熱交換器34とを含み、熱媒体加熱装置32で加熱された熱媒体が循環する補助加熱部30と、吸熱器15と並列接続され、室外熱交換器22と吸熱器15との間に形成される第1冷媒流通路(冷媒流通路20c)から分岐して流通される冷媒を第3膨張弁23cで減圧させ、第3膨張弁23cによって減圧させた冷媒に吸熱させて熱媒体の熱交換を行う熱媒体―冷媒熱交換器27と、冷媒回路20を用いた空調運転が可能であって、補助暖房機能の追加が必要と判断したときは、熱媒体加熱装置32の最大出力の50%以下に設定される出力制限値に基づいて熱媒体加熱装置32を駆動さる制御装置40と、を備えている。
【0105】
このため、暖房モードが設定された際に、圧縮機21の駆動状態及び外気温に基づいて適切な補助暖房モードを選択して、車室内の環境を良好に保つことができる。また、熱媒体加熱装置32の出力を、耐久性が悪化しない程度に設定された出力制限値以下で駆動させるため、熱媒体加熱装置32の耐久性の悪化を極力抑えつつ、車室内の環境を良好に保つことができる。
【0106】
また、本実施形態に係る車両用空気調和装置1において、冷媒回路20は、放熱器16と室外熱交換器22との間に形成される第2冷媒流通路(冷媒流通路20b)から分岐し、室外熱交換器22を迂回して第1冷媒流通路に接続される第3冷媒流通路(冷媒流通路20e)を備え、補助加熱部30は、熱媒体加熱装置32で加熱された熱媒体を、熱媒体―冷媒熱交換器27を介して再び熱媒体加熱装置32に流入させる第1熱媒体循環回路30bと、熱媒体加熱装置32で加熱された熱媒体を、熱媒体―冷媒熱交換器27に流入させ、熱媒体―冷媒熱交換器27から流出された熱媒体を空気流通路内熱交換器34に流入させ、空気流通路内熱交換器34から流出された熱媒体を再び熱媒体加熱装置32に流入させる第2熱媒体循環回路30cと、を備え、制御装置40は、外気温が予め設定されたモード選択温度閾値以下のときに、熱媒体―冷媒熱交換器27において、第1熱媒体循環回路30bで循環する熱媒体と、第3冷媒流通路を通って熱媒体―冷媒熱交換器27に流入する冷媒とを熱交換させている。
【0107】
熱媒体は、空気流通路内熱交換器34に流通させずに第1熱媒体循環回路30bを循環し、冷媒回路20内を循環する冷媒は、熱媒体―冷媒熱交換器27において第1熱媒体循環回路30bを流通する熱媒体と熱交換されるため、圧縮機21の出力を上げた状態で暖房モードによる運転が可能となる。そのため、例えば外気温が-10℃以下の低温となったとしても、車室内の環境を良好に保つことができる。
【0108】
また、本実施形態に係る車両用空気調和装置1において、制御装置40は、冷媒回路20を用いた空調運転は可能であるが空調運転をしない又は冷媒回路20を用いた空調運転ができないと判断したときは、熱媒体加熱装置32の出力制限値による出力制限を解除して熱媒体を加熱させ、第2熱媒体循環回路30cによる熱媒体の循環のみ行って空気流通路11を流通する空気を加熱させる。
【0109】
例えば、外気温が-15℃を下回るような極低温のとき又は圧縮機21自体が故障するような、冷媒回路20を用いた空調運転は可能であるが空調運転をしない又は冷媒回路20を用いた空調運転ができない緊急時のときのみ、熱媒体加熱装置32の出力制限を解除して暖房機能を発揮させるため、熱媒体加熱装置32の耐久性の悪化を極力抑えつつ、車室内の環境を良好に保つことができる。
【符号の説明】
【0110】
1 車両用空気調和装置
10 空調ユニット
11 空気流通路(11a バイパス流通路)
12 吸入口(12a 外気吸入口、12b 内気吸入口)
13 吸入口切換ダンパ
14 室内送風機
15 吸熱器
16 放熱器
17 エアミックスダンパ
20 冷媒回路(20a~20g 冷媒流通路)
21 圧縮機
22 室外熱交換器
23 膨張弁(23a 第1膨張弁、23b 第2膨張弁、23c 第3膨張弁)
24 電磁弁(24a 第1電磁弁、24b 第2電磁弁)
25 逆止弁(25a 第1逆止弁、25b 第2逆止弁)
26 アキュムレータ
27 熱媒体―冷媒熱交換器
28 制御弁
30 補助加熱部(30a 熱媒体循環回路、30b 第1熱媒体循環回路、30c 第2熱媒体循環回路)
31 循環ポンプ
32 熱媒体加熱装置
33 方向切換弁
34 空気流通路内熱交換器
40 制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7