(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】ピストンロッド用のオイル掻取りリング
(51)【国際特許分類】
F16J 9/20 20060101AFI20231120BHJP
F04B 39/02 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
F16J9/20
F04B39/02 W
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019170373
(22)【出願日】2019-09-19
【審査請求日】2022-05-31
(31)【優先権主張番号】A 50808/2018
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】304033177
【氏名又は名称】ヘルビガー ウィーン ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Hoerbiger Wien GmbH
【住所又は居所原語表記】Seestadtstrasse 25,AT-1220 Wien,Austria
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マリアン ヤンコ-グラスローバー
(72)【発明者】
【氏名】マーティン ラーグラー
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス カウフマン
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-506857(JP,A)
【文献】米国特許第05667225(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0291716(US,A1)
【文献】特開昭55-091741(JP,A)
【文献】米国特許第1710485(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 1/00 - 1/24
7/00 - 10/04
F04B 39/00 - 39/16
F16J 15/16 - 15/32
15/324 - 15/3296
15/46 - 15/53
F02F 5/00、11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並進振動するピストンロッド(7)からオイルを掻き取るための掻取りリング(2)であって、半径方向外側に位置している周面に設けられた少なくとも1つの外周溝(17)が、当該掻取りリング(2)に半径方向の予荷重を加えるためのリングばね(21)を収容するために設けられており、当該掻取りリング(2)の、半径方向内側に位置している周面に、それぞれ1つの掻取りエッジ(15)を備えた複数のシール部分(14)が設けられており、互いに隣接した前記シール部分(14)がそれぞれ、内周溝(16)によって軸方向において互いに間隔をおいて位置しており、当該掻取りリング(2)の周囲に、当該掻取りリング(2)を半径方向において貫通する少なくとも1つの切欠き(18)が設けられていて、該切欠き(18)は少なくとも部分的に、当該掻取りリング(2)の第1の軸方向リング端部(E1)から当該掻取りリング(2)の第2の軸方向リング端部(E2)にまで延びており、これによって少なくとも、当該掻取りリング(2)の前記第1の軸方向端部(E1)における複数のシール部分(14)の領域において、周方向における当該掻取りリング(2)の移動可能性を生ぜしめることができ、前記切欠き(18)は少なくとも部分的に、当該掻取りリング(2)の軸方向とは異なった方向に延びており、当該掻取りリング(2)の外周面に、少なくとも1つのドレン開口(19)が設けられていて、該ドレン開口(19)は、少なくとも1つの前記内周溝(16)に接続されており、これによって掻き取られたオイルを前記内周溝(16)から排出することができる、掻取りリング(2)において、
前記少なくとも1つのドレン開口(19)は、当該掻取りリング(2)の前記第1の軸方向リング端部(E1)から部分的に前記第2の軸方向リング端部(E2)の方向に、溝形状に延びていて、かつ複数の前記内周溝(16)に接続されて
おり、
少なくとも1つの前記ドレン開口(19)は、螺旋形状に延びていることを特徴とする、
掻取りリング(2)。
【請求項2】
前記切欠き(18)は、当該掻取りリング(2)の前記第1の軸方向リング端部(E1)から前記第2の軸方向リング端部(E2)にまで連続的に延びており、当該掻取りリング(2)は、少なくとも1つの前記切欠き(18)によって、少なくとも一度完全に中断されている、
請求項1記載の掻取りリング(2)。
【請求項3】
当該掻取りリング(2)に、少なくとも2つの前記切欠き(18)が設けられている、
請求項1または2記載の掻取りリング(2)。
【請求項4】
少なくとも2つの前記切欠き(18)は、一定の角度間隔をおいて、互いに間隔をおいて位置するように当該掻取りリング(2)の周囲に設けられている、
請求項3記載の掻取りリング(2)。
【請求項5】
少なくとも1つの前記切欠き(18)は、当該掻取りリング(2)の前記外周面に沿って螺旋形状に延びて
いる、
請求項1から4までのいずれか1項記載の掻取りリング(2)。
【請求項6】
少なくとも1つの前記切欠き(18)は、階段形状にまたはラビリンス形状に延びており、前記切欠き(18)は
、少なくとも3つの軸方向に延びる切欠き部分(A)と
、少なくとも2つの周方向に延びる切欠き部分(B)とを有していて、前記軸方向に延びる切欠き部分(A)と前記周方向に延びる切欠き部分(B)とは、交互に配置されている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の掻取りリング(2)。
【請求項7】
少なくとも2つの前記ドレン開口(19)は、当該掻取りリング(2)の外周部に設けられている、
請求項1から6までのいずれか1項記載の掻取りリング(2)。
【請求項8】
少なくとも1つの前記ドレン開口(19)は、少なくとも1つの前記切欠き(18)に平行に延びている、
請求項1から
7までのいずれか1項記載の掻取りリング(2)。
【請求項9】
当該掻取りリング(2)は、少なくとも部分的にプラスチックから製造されている、
請求項1から
8までのいずれか1項記載の掻取りリング(2)。
【請求項10】
並進振動するピストンロッド(7)をシールするためのシールパッケージ(12)であって、内部に軸方向において相前後して配置された複数のシールリングが設けられているパッケージハウジングと、請求項1から
9までのいずれか1項記載の、ピストンロッド(7)からオイルを掻き取るための少なくとも1つの掻取りリング(2)と、を備えている、
シールパッケージ(12)。
【請求項11】
ピストンコンプレッサ(1)であって、コンプレッサハウジング(3)と、該コンプレッサハウジング(3)に配置された少なくとも1つのシリンダハウジング(10)とを備えていて、該シリンダハウジング(10)内において、ピストンロッド(7)に結合されたピストン(8)が並進振動し、かつ請求項1から
9までのいずれか1項記載の、ピストンロッド(7)からオイルを掻き取るための少なくとも1つの掻取りリング(2)が、前記コンプレッサハウジング(3)内に配置されている、
ピストンコンプレッサ(1)。
【請求項12】
前記コンプレッサハウジング(3)内に、パッケージハウジングを備えたシールパッケージ(12)が設けられており、前記パッケージハウジング内に、軸方向において相前後して配置された複数のシールリングが設けられていて、前記掻取りリング(2)は、前記シールパッケージ(12)内に配置されている、
請求項
11記載のピストンコンプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並進振動するピストンロッドからオイルを掻き取るための掻取りリングであって、半径方向外側に位置している周面に設けられた少なくとも1つの外周溝が、掻取りリングに半径方向の予荷重を加えるためのリングばねを収容するために設けられており、このとき掻取りリングの、半径方向内側に位置している周面に、それぞれ1つの掻取りエッジを備えた複数のシール部分が設けられており、このとき互いに隣接したシール部分がそれぞれ、内周溝によって軸方向において互いに間隔をおいて位置しており、このとき掻取りリングの周囲に、掻取りリングを半径方向において貫通する少なくとも1つの切欠きが設けられていて、該切欠きは少なくとも部分的に、掻取りリングの第1の軸方向リング端部から掻取りリングの第2の軸方向リング端部にまで延びており、これによって少なくとも、掻取りリングの第1の軸方向端部における複数のシール部分の領域において、周方向における掻取りリングの移動可能性を生ぜしめることができ、このとき切欠きは少なくとも部分的に、掻取りリングの軸方向とは異なった方向に延びており、このとき掻取りリングの外周面に、少なくとも1つのドレン開口が設けられていて、該ドレン開口は、少なくとも1つの内周溝に接続されており、これによって掻き取られたオイルを内周溝から排出することができる、掻取りリングに関する。さらに本発明は、シールパッケージおよびピストンコンプレッサに関する。
【0002】
特に、例えば天然ガスコンプレッサまたは大型ガソリン機関もしくはディーゼル機関のような、大型の比較的ゆっくりと作動する往復動ピストン機械では、クランク伝動装置において、主にいわゆるクロスヘッドコンセプトが使用される。クロスヘッドは、ピストンに結合された純粋に並進振動するピストンロッドを、組み合わせられて並進/回転式に振動するプッシュロッドに連結するジョイントである。クロスヘッドは、ピストンロッドおよびピストンに不動に結合されていて、かつ通常、固有のガイドによってクランクケース内に支持されている。このコンセプトの利点は、例えば、同じシリンダにおいて2つの側において作業を行う複動式のピストンを使用することができる、またはシリンダとクランクケースとの空間的な分離に基づいて、ピストンの潤滑およびクランク軸の潤滑のために異なった潤滑剤を使用することができる(コンプレッサでは乾式作動型のピストンも)、ということにある。ピストンロッドの純粋に並進的な運動に基づいて、ピストンは、横方向力の影響を受けず、したがって上死点におけるピストン傾倒が発生せず、結果としてピストンは、プッシュロッドがピストンに直接結合されているコンセプトとの比較において、構造的に簡単に構成することができる。
【0003】
ピストンコンプレッサでは、クランクケース内に、通常、ピストンコンプレッサの可動部分、特にクランク伝動装置を潤滑するための潤滑オイルが存在している。このとき潤滑オイルは、ピストンロッドにも達し、かつピストンロッドに沿ってシリンダ内における圧縮室内にまで搬送されてしまうおそれがあり、このようなことは望ましくない。それというのは、このことは、一方では重大なオイル漏れであり、かつこれに関連したオイル損失だからである。他方では、潤滑オイルの一部が、圧縮媒体と共に排出され、かつこの圧縮媒体を汚染するおそれもある。このことを回避するために、ピストンロッドの領域には通常、複数のいわゆる(オイル)掻取りリングが設けられており、これらの掻取りリングは、ピストンロッドにおけるオイル膜を掻き取るようになっている。しばしば、複数のオイル掻取りリングを内包するいわゆるオイル掻取りパッケージが使用される。改善された掻取り作用のために、通常、パッケージごとに複数の掻取りリングが必要であり、これらの掻取りリングは、振動するピストンロッドによって損傷されないようにするために、特にピストンロッドと掻取りパッケージとの間の間隙内に押し出されないようにするために、適宜な支持リングを用いて支持される。このような構成は、比較的複雑であり、ゆえに高価である。さらに、複数の掻取りリングがその間に位置している支持リングを備えて直列に配置されていることに基づいて、構造寸法の低減には限界があり、このことは不都合である。
【0004】
しばしば掻取りリングはまた、いわゆるシールパッケージ内に組み込まれる。シールパッケージ内には、複数のシールリングが設けられており、これらのシールリングを貫いてピストンロッドは貫通案内され、かつこれらのシールリングは、クランクケースを圧縮室に対してシールしている。このようなシールパッケージおよびシールリングは、種々様々な構成において以前から公知である。
【0005】
従来公知の掻取りリングは、例えば鋭い掻取りエッジを備えた、半径方向に切断された金属製のリングであり、これらのリングは、ピストンロッドを周方向において取り囲んでいて、かつピストンロッドに接触している。このような切断された掻取りリングは、周囲において環状のリングばねによってまとめられ、かつこのリングばねによって活性化され、つまりリングばねは、掻取りリングの規則通りの機能を可能にするために、半径方向の圧着圧を生ぜしめる。半径方向の切断部をシールするために、しばしば、半径方向に切断された2つのリングが使用され、かつ周方向において互いにずらされて配置され、かつ回動を防止される。同様に、半径方向に切断された掻取りリングと接線方向に切断された掻取りリングとから成る配置形態も公知である。2つのずらされたリングの使用時には、多くの場合、ただ1つの掻取りエッジが他方の掻取りエッジを覆っており、もしくはリングごとに2つの掻取りエッジが存在しており、相応に単に後続の2つの掻取りエッジだけが、第1のリングの間隙を覆っており、このような形態は、オイル漏れの増大を惹起することがある。互いに回動を防止されねばならない複数のリングを備えた、構造グループとしての構成時における追加的な製造手間および取付け手間は、従来技術における掻取り解決策の追加的なエラー源である。
【0006】
汎用の掻取りリングは通常、掻き取られたオイルを排出するために、オイルドレン孔および/またはオイルドレン溝を周囲に有している。しかしながらしばしば、これらのオイルドレン孔および/またはオイルドレン溝は、極めて小さく寸法設定されており、これによって、既に掻き取られた潤滑オイルによる、ピストンロッドへの逆流、もしくはピストンロッドの継続的な湿潤が惹起され、このようなことは、次の掻取りエッジのオイル掻取り出力を減じてしまう。
【0007】
このような金属製の掻取りリングの別の問題は、鋭い掻取りエッジがピストンロッドに引っ掛かり、かつピストンロッドを損傷することがある、ということに見られる。したがって掻取りエッジはまた、ピストンロッドの過剰な損傷を阻止するために、きわめて正確な製造誤差によって製造されねばならない。しかしながらこのことは、汎用の掻取りリングの製造コストを高騰させる。
【0008】
掻取りリングはしばしば、摩耗後調節を可能にするように、発生する熱膨張を補償することができるように、ピストンロッドに簡単に取り付けることができるように、かつピストンロッドの周囲に沿った均一な掻取り作用を保証することができるように、分割されて構成されている。しかしながらまた、切断されていない掻取りリングも存在する。しかしながらこれらのリングは常に、摩耗をまったくまたは制限されてしか後調節することができず、かつ熱膨張を、ピストンロッドの材料と掻取りリングの材料との異なった熱膨張係数に基づいて、不十分にしか補償することができない、という問題を抱えている。
【0009】
上に述べた掻取りリングは、例えば欧州特許第2369205号明細書、欧州特許第2360400号明細書、米国特許第3542374号明細書に基づいて公知である。掻取りリングを備えたシールパッケージは、例えば国際公開第2010/079227号、または欧州特許第2489907号明細書に開示されている。上に述べた欠点のうちの1つまたは複数の欠点を備えた別のオイル掻取りリングは、欧州特許第0473737号明細書、独国特許発明第560789号明細書、欧州特許出願公開第2570705号明細書、中国実用新案第205225624号明細書、および英国特許出願公開第995683号明細書に基づいて公知である。独国特許発明第19505404号明細書には、回転する軸のためのシールリングが開示されている。
【0010】
したがって本発明の課題は、上に述べた欠点を排除する掻取りリングを提供することである。特に、掻取りパッケージ毎に使用されるリングの低減が可能になることが望まれており、かつシリンダ内へのオイル漏れが回避されることが望まれている。さらに、掻き取られた潤滑オイルの十分な排出が可能になること、および掻取りリングによるピストンロッドの表面における損傷が回避されることが望まれている。
【0011】
本発明によればこの課題は、少なくとも1つのドレン開口が、掻取りリングの第1の軸方向リング端部から部分的に第2の軸方向リング端部の方向に、溝形状に延びていて、かつ複数の内周溝に接続されていることによって解決される。これによって本発明に係る掻取りリングは、シール部分の数に応じて、軸方向において相前後して配置された複数の別個の掻取りリングの代わりに使用することができる。掻取りリングのシール部分は互いに結合されているので、従来技術における別個の掻取りリングのように、別個の回動防止装置は不要である。溝形状のドレン開口によって、オイルの排出を改善することができ、かつ掻取りリングの製造を簡単にすることができる。
【0012】
好ましくは、切欠きは、掻取りリングの第1の軸方向リング端部から第2の軸方向リング端部にまで連続的に延びており、このとき掻取りリングは、少なくとも1つの切欠きによって、少なくとも一度完全に中断されている。掻取りリングが少なくとも一度中断されていることによって、ピストンロッドにおける掻取りリングの簡単な取付けが可能になり、しかもこのときピストンロッドをクロスヘッドから解離する必要がなく、かつ周方向における移動可能性が改善され、これによって掻取りリングの摩耗をより良好に補償することができる。
【0013】
しかしながら好ましくは、少なくとも2つの切欠きが設けられており、これらの切欠きによって掻取りリングは、少なくとも二度完全に中断されており、このとき少なくとも2つの切欠きは、好ましくは一定の角度間隔をおいて、互いに間隔をおいて位置するように掻取りリングの周囲に設けられている。これによって掻取りリングは、少なくとも2つのリングセグメントに分割され、これによって掻取りリングは、ピストンロッドにより簡単に取り付けることができる。さらに少なくとも2つのリングセグメントによって、ピストンロッドと掻取りリングとの間における相対運動によって生じる、掻取りリングの摩耗が進んだ場合における摩耗後調節が改善される。
【0014】
好ましくは、少なくとも1つの切欠きは、掻取りリングの外周面に沿って螺旋形状に延びており、このとき螺旋の傾斜は、好ましくは0.1~10である。これによってシール部分を連続的にカバーすることができ、これによって掻取り作用が良好になり、かつ漏れが僅かになる。
【0015】
好適な構成によれば、少なくとも1つの切欠きは、階段形状にまたはラビリンス形状に延びており、このとき切欠きは、好ましくは少なくとも3つの軸方向に延びる切欠き部分と、好ましくは少なくとも2つの周方向に延びる切欠き部分とを有していて、軸方向に延びる切欠き部分と周方向に延びる切欠き部分とは、交互に配置されている。これによってオイル掻取り作用はさらに改善され、かつ漏れが減じられる。
【0016】
好ましくは、少なくとも2つのドレン開口は、掻取りリングの外周部に設けられている。これによって、十分に多量の潤滑オイルを、内側から半径方向外側に向かって排出させることができる。
【0017】
好ましくは、少なくとも1つのドレン開口は、螺旋形状に延びており、これによって潤滑オイルの排出が改善される。
【0018】
少なくとも1つのドレン開口が、少なくとも1つの切欠きに平行に延びていると、ドレン開口を切欠きの経過に適合させることができ、これによって、掻取りリングの周囲におけるリング材料の均一な分配を達成することができる。
【0019】
掻取りリングは、好ましくはプラスチックから製造されており、これによって簡単な製造が可能になり、かつピストンロッドの表面が掻取りリングによって損傷されないことが保証される。
【0020】
好ましくは、掻取りリングは、切削製造法を用いて、好ましくはフライス加工を用いて製造可能であり、かつ/または付加製造方法を用いて、好ましくは3Dプリント、選択的レーザ焼結、またはステレオリソグラフィを用いて製造可能である。
【0021】
次に本発明について、例として、概略的に、かつ制限することのない、本発明の好適な構成を示す、
図1~
図8eを参照しながら詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】好適な構成の掻取りリングを示す斜視図である。
【
図3】好適な構成の掻取りリングを示す側面図である。
【
図4】掻取りリングの切欠きの好適な構成を示す図である。
【
図5】
図5a~
図5cは、掻取りリングの切欠きの好適な構成を示す図である。
【
図7】掻取りリングのドレン開口の好適な構成を示す図である。
【
図8】
図8a~
図8eは、掻取りエッジを備えたシール部分の種々異なった横断面形状を示す図である。
【0023】
図1に例示されたピストンコンプレッサ1では、本発明に係る掻取りリング2(
図2参照)を使用することができる。ピストンコンプレッサ1は、コンプレッサハウジング3(クランクケース)を有しており、このコンプレッサハウジング3内には、クランク軸4が回転可能に支持されている。プッシュロッド5が、一方の端部でクランク軸4のいわゆるクランクピンに(図示せず)に回転可能に支持されていて、かつ他方の端部でクロスヘッド6に回転可能に配置されている。クロスヘッド6は、軸方向可動にコンプレッサハウジング3内に支持されていて、プッシュロッド5の回転並進運動に基づいてクロスヘッド6に作用する横方向力が、コンプレッサハウジング3において半径方向で支持されるようになっている。クロスヘッド6には、ピストンロッド7の一方の端部が配置されていて、反対側に位置している端部は、ピストン8に結合されており、このピストン8は、シリンダ10のシリンダブシュ9内に配置されている。クロスヘッド6からはいまやより多くの並進運動が、ピストンロッド7を介してピストン8に伝達され、これによってピストン8は、ほぼ純粋な並進振動運動をシリンダブシュ9内において生ぜしめ、このとき半径方向の横方向力がシリンダブシュ9に作用することはない。ピストンコンプレッサ1は、図示の実施形態では、複動式のコンプレッサとして形成されており、すなわちシリンダ10内においてピストン8の両軸方向側において圧縮作業が実施される。もちろん単動式のコンプレッサを使用すること、または例えば内燃機関のような他のピストン機械を使用することも可能である。シリンダ10には、半径方向外側に位置して、吸込み兼吐出弁11が設けられており、これらの吸込み兼吐出弁11は、シリンダ10への圧縮すべき媒体の供給のため(吸込み弁)、およびシリンダ10からの圧縮された媒体の排出のため(吐出弁)に設けられている。吸込み兼吐出弁11は、しかしながらもちろん、他の形態で構成されていてもよく、かつ他の箇所に配置されていてもよい。
【0024】
シリンダ10とコンプレッサハウジング3との間には、通常、シールパッケージ12が設けられており、このシールパッケージ12は、シリンダ内における高圧を、コンプレッサハウジング3における、それに対して比較的低い圧力に対してシールするために働く。このシールパッケージ12は、通常、軸方向において相前後して配置された複数のシールリングを含んでおり、これらのシールリングは、例えば公知の形式で、半径方向にかつ/または接線方向に切断された、または分割(segmentiert)されたパッケージリングから形成されており、これらのパッケージリングは、場合によってはそれぞれ室円板内に配置された支持リングと組み合わせられている。シールパッケージ12は、一方の端面または両側に、さらにまた例えばリング形状の円板として形成された軸方向の閉鎖部を有していてよい。さらにピストンロッド7のこのようなシールパッケージ12は、通常、軸方向において相前後して配置された複数の掻取りリングを有している。しかしながらまた掻取りリングは、1つの固有の掻取りパッケージ内において、かつシールパッケージとは別個に配置されていてもよい。これらの掻取りリングは、クランクケース内における可動部分、特にクランク軸4およびプッシュロッド5を潤滑するために使用されてかつピストンロッド7に付着している潤滑オイルが、シリンダ10内に達することを、回避するために働く。このことは、圧縮された媒体が潤滑オイルによって汚染されないようにするために役立ち、このことは、特に天然ガスコンプレッサおよび空気コンプレッサの場合に、しかしながらまた乾式作動型のコンプレッサにおいても重要である。掻取りリングによって、ピストンロッド7に付着している潤滑オイルは、ピストンロッド7と掻取りリングとの間における相対運動時に掻き取られる。掻き取られた潤滑オイルは、次いで捕集され、かつ場合によっては再び潤滑のためにクランクケースに供給される。このような掻取り作用を改善するために、本発明によれば、掻取りリング2が設けられており、この掻取りリング2については、好適な構成において、以下に
図2を参照しながら詳しく記載する。
【0025】
図2における掻取りリング2は、中央の円筒形の開口13を有しており、この開口13内において、取り付けられた状態において、例えばピストンコンプレッサ1のピストンロッド7が貫通案内されていて、かつ作動時に並進振動する。掻取りリング2の、半径方向内側に位置している周面には、ピストンロッド7からオイルを掻き取るために、それぞれ1つの掻取りエッジ15を備えた少なくとも3つのシール部分14が設けられている。掻取りリング2の使用において、掻取りエッジ15は通常、オイルを案内する側に向けられており、ここでは例えばクランクケースに向けられている。シール部分14は、内周溝16を介して軸方向において互いに間隔をおいて位置している。掻取り作用を改善するためには、もちろん、3つよりも多くのシール部分14が設けられていてよく、図示の実施形態では、掻取りリング2は、例えば7つのシール部分14を有している。このとき注意すべきことは、シール部分14の数の増加(等しいままのシール部分幅bの場合、
図4参照)は、掻取りリング2の構造長をも増大させる、ということである。掻取りリング2の、半径方向外側に位置している周面には、公知の形式で少なくとも1つの外周溝17が設けられており、この外周溝17は、ピストンロッド7における掻取りリング2に半径方向に予荷重を加えるためのリングばね(図示せず)を収容するために働く。掻取りリング2に、図示の実施形態におけるように、複数のシール部分14が設けられている場合には、もちろん好ましくは、外周溝17の数もまた相応に増加され、これによって掻取りリング2の軸方向長さにわたって、ピストンロッド7に対する可能な限り均一な予荷重を保証することができる。図示の構成では、例えば6つの外周溝17が設けられているが、しかしながらまたもちろん、それよりも多くのまたは少ない外周溝17が設けられてよい。取り付けられた状態において、掻取りリング2の第1の軸方向リング端部E1が、ピストン8に向けられており、すなわち掻取りリング2にはピストンコンプレッサ1の作動時に、反対側に位置している第2の軸方向リング端部E2から、ピストンロッド7に付着している潤滑オイルが供給される。これに相応してシール部分14における掻取りエッジ15は、第2の軸方向リング端部E2に向けられている。掻取り作用を改善するために、シール部分14は、種々異なった掻取りエッジ15を生ぜしめるために、種々異なった構成を有することができ、これについては、後で
図8を参照しながら詳説する。
【0026】
掻取りリング2の周囲には、本発明によれば少なくとも1つの切欠き18が設けられており、この切欠き18は、掻取りリング2を半径方向において貫通していて、かつ少なくとも部分的に第1の軸方向リング端部E1から第2の軸方向リング端部E2の方向に延びている。このとき切欠き18の長さは、周方向における掻取りリング2のある程度の移動可能性が保証されるように、寸法設定されている。この移動可能性が重要なのは、掻取りリング2は取り付けられた状態において、周囲において外周溝17内に配置されたリングばね21によって半径方向においてピストンロッド7に予荷重を加えることができるということであり、これによって掻取りリング2はその掻取り作用を発揮することができる。そのために切欠き18の軸方向長さは、掻取りリング2がリングばね21の作用によって変形し得るように、寸法設定されており、これによって少なくとも第1の軸方向リング端部E1の領域において、ピストンロッド7に予荷重を加えることができる。好ましくは、第2のリング端部E2には、例えば内周溝幅aまたはシール部分幅bの領域において(第2のリング端部E2における連続したウェブが示されている
図4に示唆されているように)単に極めて短いウェブだけが残されており、これによって掻取りリング2は十分にフレキシブルである。
【0027】
基本的に、掻取りリング2のための材料としては、適宜な強度特性を備えた材料をも使用することができ、この材料は、一方では掻取りリングの十分に高い安定性を可能にし、かつ他方では特定の弾性を有しており、これによって掻取りリング2の移動可能性をもたらすことができる。例えば切欠き18は、材料の比較的高い強度では、第1の軸方向リング端部E1から第2の軸方向リング端部E2の方向に、比較的弾性的な材料の場合に比べて大きく延びていることが望ましい。このように構成されていると、掻取りリング2の十分な変形可能性を保証することができる。
【0028】
切欠き18は、少なくとも部分的に、掻取りリング2の軸方向とは異なった方向において延びており、これによってシール部分14は軸方向において少なくとも部分的に互いに重なっており、これにより、掻き取られた潤滑オイルが軸方向において妨げられずに切欠き18を通って流れることができ、これによって掻取り作用が改善される。
【0029】
本発明の好適な構成によれば、切欠き18は、
図2に示されているように、しかしながら単に部分的にではなく、連続的に、掻取りリング2の第1の軸方向リング端部E1から第2の軸方向リング端部E2にまで延びている。これによってつまり掻取りリング2の周囲は、少なくとも一度(周方向および半径方向において)完全に中断されている。これによって特に周方向における掻取りリング2の移動可能性が改善され、これにより軸方向において、リングばね21による掻取りリング2への極めて均一な予荷重が達成される。これによって均一な掻取り作用が達成され、かつさらに簡単な摩耗補償が可能になる。掻取りリング2の取付けを容易にするために、また複数の切欠き18が設けられてよく、このときこれらの切欠き18は、好ましくは一定の角度間隔をおいて、互いに位置するように掻取りリング2の周囲に設けられている。図示の実施形態では、直径方向で互いに向かい合って位置している2つの切欠き18が配置されており、これによって2つの別個のリングセグメント2a,2bが形成されている。
【0030】
ピストンロッド7から掻き取られるべき潤滑オイルが、軸方向において切欠き18を通って妨げられずに流れる(これは掻取り作用を低減してしまう)ことがないようにするために、切欠き18の方向は、少なくとも部分的に掻取りリング2の軸方向(長手方向軸線)から変位するようになっている。図示の実施形態では、両切欠き18は、掻取りリング2の外周面に沿って螺旋形状に延びており、このとき螺旋の傾きは、好ましくは0.1~10であり、特に好ましくは0.7~1.4である。このような螺旋形状は、好適であることが判明しているが、しかしながら必ずしも必要ではない。重要なことは単に、少なくとも1つの切欠き18が、少なくとも部分的に軸方向に延びておらず、これによって軸方向において、シール部分14の特定のオーバラップ、特にシール部分14に設けられた掻取りエッジ15の特定のオーバラップが生じていることである。
【0031】
例えば切欠き18は、掻取りリング2の第1の軸方向リング端部E1から第2の軸方向リング端部E2にまで1つの直線に沿って延びていてもよく、この直線は、掻取りリング2の長手方向軸線に対して一定の角度を成して延びている(
図5c)。掻取りリング2の第1の軸方向リング端部E1から第2の軸方向リング端部E2への潤滑オイルの遮断作用、つまり妨げられない流れの阻止を、さらに高めるために、好ましくは、少なくとも1つの切欠き18は階段形状に(
図4+
図5a)またはラビリンス形状に(
図5b)、交互に反転して周方向で延びており、このとき切欠き18の階段形状またはラビリンス形状は、螺旋形状または直線と組み合わせてもよい(
図2において階段形状の切欠き18によって示されているように、かつこれについてはさらに
図4を参照して述べる)。
【0032】
掻取りリング2の外周部には、複数のドレン開口19が設けられており、これらのドレン開口19は、内周溝16を掻取りリング2の外周面に接続しており、これによってドレン開口19を介して掻き取られた潤滑オイルを排出することができる。ドレン開口19は、種々異なって構成されていてよく、例えば孔、溝などとして構成されていてよい。
【0033】
図示された好適な構成において、溝形状のドレン開口19は軸方向において掻取りリング2の第1の軸方向リング端部E1から、それぞれ部分的に第2の軸方向リング端部E2の方向に延びている。ドレン開口19は、溝形状のドレン開口19が内周溝16と交差していることによって、内周溝16に接続されている。溝形状のドレン開口19によって、ドレン開口19の間にはそれぞれリング区分26が形成され、これらのリング区分26は、シール部分14に接続されている。リング区分26は、掻取りリング2に、必要な安定性を与えていて、かつシール部分14の位置が軸方向および周方向において変化しないように働く。このことは、ほぼ、従来技術において複数の汎用の掻取りリングの使用時に必要であった回動防止装置と同様に作用し、かつ今まで例えば支持リングを用いて達成されていた軸方向の固定装置と同様に作用する。第2の軸方向リング端部E2において、リング区分26は周方向肩部20に結合されていてよい。ドレン開口19は、掻取りエッジ15によって掻き取られた潤滑オイルを、掻取りリング2の内周面から内周溝16を通して半径方向外側に向かって排出するように働く。このことを可能にするために重要なことは、ドレン開口19が掻取りリング2の第1の軸方向リング端部E1を起点として、単に部分的にかつ完全にではなく、第2の軸方向リング端部E2にまで延びていることである。
図2における掻取りリング2には、第2の軸方向リング端部E2に、半径方向外側に向かって延びている周方向肩部20が設けられており、この周方向肩部20は、ドレン開口19を軸方向において画定していて、かつ同時に、掻取りリング2の軸方向位置を固定するために働くことができる。図示の実施形態において示されているように、ドレン開口19は、少なくとも1つの切欠き18と同様に、例えば螺旋形状にまたは直線的に、掻取りリング2の外周面に設けることができる。好ましくは、互いに並んで位置しているドレン開口19は、一定の角度間隔をおいて、互いに間隔をおいて位置するように配置されている。結果として、間に少なくとも1つの切欠き18が位置している2つのドレン開口19は、例外である。図示の実施形態では、これは両ドレン開口19a,19bである。さらに好ましくは、掻取りリング2の可能な限り均一な安定性を得るために、ドレン開口19は、少なくとも1つの切欠き18に平行に延びている。
【0034】
図3には、
図2に示された掻取りリング2が正面図で示されている。ここでは外周溝17内にリングばね21が略示されており、これらのリングばね21は、取り付けられた状態において、掻取りリング2を半径方向でピストンロッド7に押圧している。このようなリングばね21およびその取付けは、以前から公知であるので、それについては詳しく触れない。図面から分かるように、ドレン開口19は、螺旋形状を有していて、かつ掻取りリング2の第1の軸方向リング端部E1から、第2の軸方向リング端部E2に設けられた周方向肩部20にまで延びている。同様に図面から認識できるように、ドレン開口19は内周溝16と交差している。ドレン開口19は、その間に位置しているリング区分26を形成しており、これらのリング区分26は、掻取りリング2に必要な安定性を与えるために、半径方向内側でシール部分14に結合されている。少なくとも1つの切欠き18(
図3には図示せず)は、既に記載したように、完全に、かつ少なくとも部分的に、非軸線方向において、掻取りリング2の第1の軸方向リング端部E1から第2の軸方向リング端部E2にまで延びている。これによって掻取りリング2は、少なくとも一度完全に、周囲において中断される。切欠き18とは異なり、ドレン開口19は軸方向に延在していてもよい。なぜならばドレン開口19は、軸方向において周方向肩部20によって画定され、これによって潤滑オイルが掻取りリング2の第2の軸方向リング端部E2に達することができないからである。いずれにせよドレン開口19の螺旋形状は、特にドレン開口19が少なくとも1つの切欠き18に平行に延びている場合に、好適であることが判明している。さらに
図3には、内周溝16によって軸方向に互いに間隔をおいて位置しているシール部分14が示されている。内周溝16もまた、ドレン開口19に接続されており、これによって掻き取られた潤滑オイルを、半径方向外側に向かって搬送することができる。この好適な溝形状のドレン開口19の利点としては、潤滑オイルを排出するために十分に大きな空間が得られるということあり、これによって、場合によっては掻取りリング2の掻取り作用に不都合な影響を及ぼすおそれがある、ピストンロッド7と掻取りリング2との間における潤滑オイルの堰き止めを、確実に回避することができる。
【0035】
掻取りリング2は、例えば機械加工の製造によって、特に切削加工によって、または例えば3Dプリント、選択的レーザ焼結、またはステレオリソグラフィのような付加製造方法によって製造されることができ、かつ好ましくは、適宜な、特に摩擦学的に最適化されたプラスチックから、または金属からも製造されている。このような製造方法は、従来技術に基づいて公知であるので、ここではそれについて詳しく触れない。もちろん、付加製造と切削製造との組合せも考えられる。例えば掻取りリング2のベース体を、3Dプリントを用いて製造することが可能であり、このベース体は、ほぼ単に、中央の円筒形の開口13と、内周溝16によって軸方向に間隔をおいて位置しているシール部分14とだけを有している。所望の数のドレン開口19および切欠き18は、第2ステップにおいて例えば適宜なCNCフライス加工法を用いてベース体に形成することができる。掻取りリング2が1つよりも多くの切欠き18を有している場合には、もちろん、発生する複数個iのリングセグメント2a~2iを別個に製造し、かつ取付け時に初めてまとめることが可能である。
図2に示された実施形態では、掻取りリング2は例えば2つの切欠き18を有していて、かつ結果として2つのリングセグメント2a,2bから成っている。3つの切欠き18の場合には、相応に3つのリングセグメント2a~2cが形成され、切欠き18の数に相応してリングセグメントの数は増える。工具としては、好ましくは摩擦学的に最適化されたプラスチック、例えばPTFEを基礎とする、適宜な強度特性を有するプラスチックが使用され、特に、プラスチックは、作動中に予想される温度に耐えるために、耐熱性であることも望まれている。またプラスチックは、圧縮すべき媒体に対して、かつ特にピストンロッドによって掻き取るべき潤滑オイルに対して十分な耐性を有していることが望まれている。もちろんまた、掻取りリングを部分的に、異なった材料、特に異なった特性を有するプラスチックから製造することも考えられる。例えばシール部分14、特に掻取りエッジ15を、適宜な比較的軟質の弾性材料から構成することができ、このように構成されていると、ピストンロッド7の表面の損傷を回避することができる。そして残りの掻取りリング2を、他の材料、例えば比較的安定性のプラスチックから、または金属から製造することが可能である。
【0036】
図4には、切欠き18の領域における掻取りリング2の一部が、正面図で示されている。後方には、掻取りリング2の、半径方向で反対側に位置している側に設けられたドレン開口19が見える。掻取りリング2は、図示の実施形態では、7つのシール部分14を有しており、これらのシール部分14は、内周溝16によって軸方向において互いに間隔をおいて位置している。もちろん、それよりも多くのまたは少ないシール部分14および内周溝16が設けられていてよい。例えば、掻取りリング2の一定の軸方向構造高さLの場合に、シール部分14のシール部分幅bおよび内周溝16の内周溝幅aが変化させられること、またはシール部分14のシール部分幅bおよび内周溝16の内周溝幅aが変化させられ、これによって掻取りリング2の軸方向構造高さLが変化することが考えられる。個々のシール部分14は、もちろんまた等しいシール部分幅bを有している必要はなく、同様に個々の内周溝16が同じ内周溝幅aを有している必要もない。
【0037】
切欠き18は、掻取りリング2の第1の軸方向リング端部E1から第2の軸方向リング端部E2にまで延びており、かつここでは螺旋形状を成している。追加的に切欠き18は、階段形状に形成されていて、つまり第1の軸方向リング端部E1を起点として、交互に、1つの(ここでは)軸方向の切欠き部分Aと、1つの(ここでは)それに対して垂直に周方向に延びる切欠き部分Bとを有している(
図4において破線で示された領域において象徴的に図示)。しかしながらもちろん切欠き部分A,Bは、互いに垂直に位置している必要はなく、例えば互いに特定の角度を成して配置されていてもよい。このとき軸方向の切欠き部分Aの数nおよび切欠き部分Bの数mは、ほぼ任意に選択することができ、かつ例えば掻取りリング2の大きさ、潤滑オイルの特性、圧力特性等に応じて合わせられている。切欠き部分Bの数mは、一般的にm=n-1であり、このとき好ましくは少なくともn=2の軸方向の切欠き部分Aが配置され、かつ結果としてm=1の切欠き部分Bが配置される。切欠き18の、螺旋形状でかつ階段形状の配置の他に、もちろんまたさらに別の配置、例えばラビリンス形状の配置(
図5b)、または多様な曲線として形成された配置も考えられる。好ましくは、切欠き18の構成は、一方では潤滑オイルの貫流が軸方向端部E1,E2の間において確実に制限され、かつ他方では可能な限り簡単かつ安価な製造が可能になるように選択される。
【0038】
図5a~
図5cには、切欠き18の別の好適な構成が概略的に示されており、このとき
図5aにおける構成は、ほぼ
図4に示された構成に相当している。切欠き18は、周方向において切欠き幅sを有しており、この切欠き幅sは、0mm~10mm、好ましくは0.2mm~7mm、特に好ましくは0.4mm~3mmである。このとき切欠き幅sは、ほぼ掻取りリング2の大きさおよび使用分野に関連しており、例えば円筒形の開口13の直径(この直径はほぼピストンロッド7の直径に相当する)、軸方向構造高さL、シール部分幅b、または潤滑オイルの予想される粘度に関連している。しかしながら切欠き幅sは、切欠き18の構成において、切欠き18の全長にわたって一定である必要はない。
図5aにおける階段形状の切欠き18は、ほぼ連続的に進むように、第1の軸方向リング端部E1から第2の軸方向リング端部E2にまで延びている。すなわち軸方向の切欠き部分Aと、それに対して垂直に位置していて周方向に延びている切欠き部分Bとによって形成された階段は、均一に配置されている。これによって切欠き18の、第2の軸方向リング端部E2において開口する第2の切欠き端部AE2は、周方向で見て、第1の軸方向リング端部E1において開口する第1の切欠き端部AE1から、特定の切欠きずれAVの分だけずらされている。切欠き部分Bの幅は、ここでは一定である。切欠きずれAVは、
図5aに示された実施形態では結果として、切欠き部分Bの数mと切欠き部分Bの切欠き部分幅b
Bとによって決定されており、このとき切欠き部分幅b
Bは、図示の実施形態では一定である(このことは、必ずしもそうである必要はない)。一般的に階段形状の切欠きずれAVに対しては、AV=m*b
Bが成り立つ。
【0039】
図5bにおける切欠き18は、いわゆるラビリンス形状の配置を有していて、n=3の軸方向の切欠き部分Aとm=2の周方向に延びる切欠き部分Bとを備えており、このときもちろん、より大きな数n,mの切欠き部分A,Bが配置されていてよい。
図5bにおけるラビリンス形状の切欠き18は、第1の軸方向リング端部E1を起点として、まず、第1の切欠き部分長さl
A1を備えた第1の軸方向の切欠き部分A1を有しており、かつこの切欠き部分A1に続いて、第1の切欠き部分幅b
B1を備えた、周方向に延びる第1の切欠き部分B1を有している。周方向に延びる第1の切欠き部分B1には、切欠き部分長さl
A2を備えた第2の軸方向の切欠き部分A2が接続している。この切欠き部分A2に接続して、第2の切欠き部分幅b
B2を備えた、周方向に延びる第2の切欠き部分B2が続いており、この第2の切欠き部分B2には、切欠き部分長さl
A3を備えた第3の軸方向の切欠き部分A3が接続していて、この切欠き部分A3は、第2の軸方向リング端部E2に開口している。
【0040】
図5aにおける、連続的に周方向に延びる階段形状の配置とは異なり、周方向に延びる切欠き部分B2は、少なくとも部分的に、逆向きの接線方向に延びている。したがって切欠きずれAVは、
図5bにおける図示の実施形態において、両接線方向の切欠き部分B1,B2の切欠き部分幅b
B1,b
B2の差に相当している(AV=b
B1-b
B2)。一般的にラビリンス形状の切欠きずれAVに対しては、AV=|Σb
Bi-Σb
Bj|が成り立ち、式中においてBiは、周方向に延びる奇数の切欠き部分B1,B3,・・・Biであり、Bjは、周方向に延びる偶数の切欠き部分B2,B4,・・・Bjである。もちろんまた、階段形状の配置とラビリンス形状の配置とを組み合わせることも考えられる。
【0041】
図5cにおける切欠き18は、単純な直線的な配置を有していて、周方向に対して切欠き角度αを成して配置されている。このとき切欠き角度αは、5°~85°、好ましくは20°~60°、特に好ましくは24°~52°である。
【0042】
もちろんしかしながらまた、切欠き18の延在形状に関して、
図5a~
図5cに示された構成とは異なった構成も可能である。
【0043】
図6には、切欠き18およびドレン開口19のない箇所における掻取りリング2が、簡単化されて横断面図で示されており、かつ
図6は、最も重要な寸法を示している。掻取りリング2は、軸方向の構造高さLと、第1の軸方向リング端部E1にリング幅RBとを有している。第2の軸方向リング端部E2において掻取りリング2は、周方向肩部20に基づいて、リング幅RBとの比較において増大させられた肩部幅SBを有している。外周部に掻取りリング2は、リングばね21を配置するための少なくとも1つの外周溝17を、ここでは3つの外周溝17を有している。図示された掻取りリング2は、シール部分幅bを備えた4つのシール部分14と、その間に配置された、内周溝幅aおよび内周溝深さtを備えた3つの内周溝16とを有している。
【0044】
シール部分14には、第2の軸方向リング端部E2に向けられた掻取りエッジ15が潤滑オイルを掻き取るために設けられている。内周溝16およびシール部分14は、ここではほぼ方形に形成されている。すなわちシール部分14の、半径方向内側に位置している周面22と、第2の軸方向リング端部E2に向けられた第1のシール部分面23との間には、掻取り角度δが形成され、この掻取り角度δは、ここでは90°の角度に相当している。つまりシール部分14の形状は内周溝16の形状を確定していて、かつ逆に内周溝16の形状がシール部分14の形状を確定しており、ひいては掻取りエッジ15の形状をも確定している。しかしながら掻取り角度δは、直角でなくてもよく、掻取りエッジ15の種々異なった構成、かつ結果として掻取り角度δの種々異なった構成が可能であり、これについては、以下においては
図8a~
図8eを参照して示す。
【0045】
図7には、好適なドレン開口19が概略的に示されている。ドレン開口19は、第1の軸方向リング端部E1を起点として部分的に第2の軸方向リング端部E2の方向に延びており、かつ半径方向内側において内周溝16に接続されており、これによって掻き取られた潤滑オイルを内側から半径方向外側に排出することができる。ドレン開口19の間には、リング区分26が形成されており、これらのリング区分26は、半径方向内側においてシール部分14に結合されていて、かつ第2の軸方向リング端部E2において周方向肩部20に結合されており、これによって掻取りリング2に必要な安定性を与えることができる。少なくとも1つのドレン開口19が、しかしながら好ましくは複数の、特に少なくとも7つのドレン開口19が、掻取りリング2に設けられている。ドレン開口19は、それぞれドレン開口幅kを周方向において有していて、かつ周囲に互いにドレン間隔pをおいて位置している。ドレン幅kとドレン間隔pとの比k/pは、好ましくはk/p=0.1~k/p=1.5、特に好ましくは0.6~0.7であり、これによって、掻取りリング2の十分に高い安定性を保証するための十分な材料が、ドレン開口19の間に設けられることを保証することができる。もちろんまた使用される材料に応じて、比k/pのための別の値を設定することも可能である。ドレン開口19は、軸方向に延びていてよいが、しかしながらドレン開口19は、
図7に示されているように、周方向に対して確定されたドレン角度βを成して配置されている。ドレン角度βは、好ましくは5°~90°、好ましくは20°~60°、特に好ましくは24°~52°である。特に、好ましくは、ドレン開口19は少なくとも1つの切欠き18に平行に延びており、これによって軸方向および接線方向において、リング材料の可能な限り均一な配置を達成することができ、このことは、掻取りリング2の均一な安定性のために好適である。
【0046】
図8a~
図8eには、最後にシール部分14およびこれらのシール部分14に配置された掻取りエッジ15の複数の形状が示されている。左側の矢印は、掻取りリング2にオイルが供給される方向を象徴化している(上に示された構成では第2の軸方向リング端部E2)。
図8aにおけるシール部分14は、90°の掻取り角度δを備えた、
図6において示された実施形態にほぼ相当している。
図8bにおけるシール部分14もまた同様に、90°の掻取り角度δを有しているが、しかしながら追加的に、半径方向内側に位置している周面22と、第1の軸方向リング端部E1に向けられた第2のシール部分面25との間に、斜面24が設けられており、これによって潤滑オイルの流出を改善することができる。
図8c~
図8eには、シール部分14と、特に種々異なった掻取り角度δを備えた掻取りエッジ15とのさらなる構成が示されている。一般的に掻取り角度δは、5°~135°、好ましくは20°~110°、特に好ましくは30°~100°の範囲である。しかしながらこのときシール部分14の半径方向内側に位置している周面22は、必ずしも軸方向に延びている必要はなく、つまり円筒形である必要はなく、
図8cに示されているように、例えば軸方向に対して確定された傾斜角度εを成して配置されていてよい。もちろんまた、掻取りリング2において、種々異なった掻取りエッジ15、特に掻取り角度δおよび傾斜角度εを備えたシール部分14の種々異なった複数の構成を、組み合わせることも可能である。
【0047】
掻取りリング2の、
図2~
図8eに示された実施形態は、もちろん単に例として理解されるべきであり、具体的な構造上の構成は、当業者に委ねられている。それというのは、具体的な構造上の構成は、例えば使用される潤滑オイル、コンプレッサ(または内燃機関)の予想される圧縮圧、コンプレッサハウジング(またはエンジンブロック)における予想される温度、ピストンロッド7の構造寸法および表面特性、使用される圧縮媒体等のような、多数の影響パラメータに関連しているからである。