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特許7387360ボイラプラント、発電プラント、およびボイラプラントの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】ボイラプラント、発電プラント、およびボイラプラントの制御方法
(51)【国際特許分類】
   F22B 37/56 20060101AFI20231120BHJP
   F22B 37/52 20060101ALI20231120BHJP
   F22D 11/00 20060101ALI20231120BHJP
   C02F 1/66 20230101ALI20231120BHJP
【FI】
F22B37/56 Z
F22B37/52 Z
F22D11/00 G
C02F1/66 510H
C02F1/66 521E
C02F1/66 530C
C02F1/66 530G
C02F1/66 530K
C02F1/66 530L
C02F1/66 530Q
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019176990
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021055868
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】和田 貴行
(72)【発明者】
【氏名】椿▲崎▼ 仙市
【審査官】小川 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-061474(JP,A)
【文献】特開2002-349804(JP,A)
【文献】特開2012-193434(JP,A)
【文献】特開2007-224820(JP,A)
【文献】特開2018-138771(JP,A)
【文献】特開2018-009722(JP,A)
【文献】特開昭60-089604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22B 37/56
F22B 37/52
F22D 11/00
F23R 3/00
C02F 1/66
C23F 14/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラと、
前記ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービンと、
前記蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器と、
前記復水器で凝縮された前記ボイラ水を前記ボイラに供給する復水ポンプと、
前記復水器と前記復水ポンプとの間に設けられ、前記ボイラに供給される前記ボイラ水に気体状態を含むアンモニアガスを注入するアンモニア注入部と、
前記復水ポンプから前記ボイラに供給される前記ボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から前記ボイラ水のpH値を算出する計測部と、
前記アンモニア注入部を制御する制御部と、を備え、
前記アンモニア注入部は、
前記アンモニアガスを供給する供給部と、
前記供給部から供給される前記アンモニアガスを前記復水ポンプの上流側に供給する複数の供給配管と、
前記複数の供給配管のそれぞれに設けられる複数の流量調整機構と、を有し、
前記制御部は、前記アンモニア注入部により前記アンモニアガスを注入する前に、前記アンモニア注入部が前記アンモニアガスを注入する際に前記計測部が計測する前記pH値の計測値と9.7以上かつ10.5以下に設定される前記pH値の目標値とに応じた前記アンモニアガスの注入量を算出し、前記注入量の前記アンモニアガスを注入するよう前記アンモニア注入部を制御するボイラプラント。
【請求項2】
前記制御部は、前記計測部が計測する前記計測値が前記目標値よりも低い基準値以下となる場合に、前記注入量の前記アンモニアガスを注入するよう前記アンモニア注入部を制御する請求項1に記載のボイラプラント。
【請求項3】
前記複数の流量調整機構は、それぞれ異なる最大開度を有する弁である請求項1または請求項2に記載のボイラプラント。
【請求項4】
前記制御部は、前記注入量が多くなるにつれて前記複数の供給配管から単位時間あたりに供給される前記アンモニアガスの流量が増加するよう、前記複数の流量調整機構を制御する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のボイラプラント。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか一項に記載のボイラプラントを備えた発電プラント。
【請求項6】
熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラと、前記ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器と、前記復水器で凝縮された前記ボイラ水を前記ボイラに供給する復水ポンプと、前記復水器と前記復水ポンプとの間に設けられ、前記ボイラに供給される前記ボイラ水に気体状態を含むアンモニアガスを注入するアンモニア注入部と、を備えるボイラプラントの制御方法であって、
前記アンモニア注入部は、
前記アンモニアガスを供給する供給部と、
前記供給部から供給される前記アンモニアガスを前記復水ポンプの上流側に供給する複数の供給配管と、
前記複数の供給配管のそれぞれに設けられる複数の流量調整機構と、を有し、
前記復水ポンプから前記ボイラに供給される前記ボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から前記ボイラ水のpH値を算出する計測工程と、
前記アンモニア注入部が前記アンモニアガスを注入する際に前記計測工程で計測された前記pH値の計測値と9.7以上かつ10.5以下に設定される前記pH値の目標値とに応じた前記アンモニアガスの注入量を算出する算出工程と、
前記算出工程により算出された前記注入量の前記アンモニアガスを注入するよう前記アンモニア注入部を制御する制御工程と、を備えるボイラプラントの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボイラプラント、発電プラント、およびボイラプラントの制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電プラントでは、ガスタービンなどの排ガスからの排熱を回収することを目的として排熱回収ボイラ(HRSG:Heat Recovery Steam Generator)が設置される。排熱回収ボイラでは、流れ加速型腐食(FAC:Flow Accelerated Corrosion)によるトラブルが発生することが知られている。流れ加速型腐食は、例えば配管の中を流通する高温水などの水の水質や温度、流速など種々の影響因子が重なることで発生することが知られている。
【0003】
発電プラントの配管などを通過する水の水質を維持する水処理方法として、揮発性物質処理(AVT:All Volatile Treatment)が知られている。また、AVTに比べて、アンモニアの供給量を増加させ、給水pHを高めに設定したHigh-AVT(高pH水処理)が知られている(例えば、特許文献1参照)。High-AVTでは、配管などを流通する水系統へ注入する薬品としてりん酸塩などを用いずに配管の流れ加速型腐食を従来に比べて抑制することができる。
【0004】
特許文献1では、pHを高くする場合において、アンモニア注入する際に空気中のCOの同伴やアンモニア希釈水中に溶存するCOの影響により、給水系統中の給水の電気伝導率が基準値を超えて腐食等の要因となるという課題が指摘されている。そして、特許文献1には、アンモニア供給部から給水にアンモニアを供給する際にCOの混入を抑制することにより、蒸気ラインでの蒸気のカチオンイオン交換カラムを通過した後の電気伝導率が基準値を超えないようにすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-224820公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、復水ラインにpH計を配置し、排熱回収ボイラのドラム内の給水のpH値を9.5以上とすることが開示されている。しかしながら、pH計の計測値に基づいてアンモニアの注入量をフィードバック制御する場合、給水のpH値を目標値へ迅速に調整することが困難である課題が判明した。この課題は、pH値の目標値が従来の運用値よりも高くなり、pH値を9.5以上と比較的高い値とする場合には、従来の目標値が低い値である場合に比べ、一定のpH値を上昇させるために必要なアンモニアの注入量が指数関数的に増加することが要因である。この要因によれば、アンモニアの注入量に対するpH値の変化量が少なくなって制御の収束性や安定性が低下し、さらに制御の収束性や安定性が低下することによりアンモニア注入量が増加してプラントの運用コストが増大してしまう。
【0007】
また、特許文献1には、高圧過熱器から蒸気タービンに高圧蒸気を供給する蒸気ラインに電気伝導率計を配置し、高圧蒸気の電気伝導率を所定の値以下とすることが開示されている。しかしながら、電気伝導率が目標となるpH値に対応する値となるようにアンモニアの注入量を制御する場合、アンモニアを過剰に注入してプラントの運用コストが増大してしまう可能性がある課題が判明した。
【0008】
この課題は、pH値の目標値が従来の運用値よりも高くなり、pH値を9.5以上と比較的高い値とする場合には、pH値の目標値が従来の低い値である場合に比べ、目標値を中心とした所定の範囲内にpH値を維持するために必要なアンモニアの注入量が指数関数的に増加することが要因である。この要因によれば、目標値を中心とした所定の上限範囲までアンモニアを注入するとアンモニア注入量が増加してプラントの運用コストが増大してしまう。
【0009】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ボイラに供給されるボイラ水のpH値の目標値が比較的高い値となる場合であっても、pH値を目標値へ迅速に調整するとともにアンモニアの過剰注入によるプラントの運用コストの増加を抑制することが可能なボイラプラント、発電プラント、およびボイラプラントの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係るボイラプラントは、熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラと、前記ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器と、前記復水器で凝縮された前記ボイラ水を前記ボイラに供給する復水ポンプと、前記ボイラに供給される前記ボイラ水にアンモニアを注入するアンモニア注入部と、前記復水ポンプから前記ボイラに供給される前記ボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から前記ボイラ水のpH値を算出する計測部と、前記アンモニア注入部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記アンモニア注入部により前記アンモニアを注入する前に、前記アンモニア注入部が前記アンモニアを注入する際に前記計測部が計測する前記pH値の計測値と前記pH値の目標値とに応じた前記アンモニアの注入量を算出し、前記注入量の前記アンモニアを注入するよう前記アンモニア注入部を制御する。
【0011】
本開示の一態様に係るボイラプラントの制御方法は、熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラと、前記ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービンと、前記蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器と、前記復水器で凝縮された前記ボイラ水を前記ボイラに供給する復水ポンプと、前記ボイラに供給される前記ボイラ水にアンモニアを注入するアンモニア注入部と、を備えるボイラプラントの制御方法であって、前記復水ポンプから前記ボイラに供給される前記ボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から前記ボイラ水のpH値を算出する計測工程と、前記アンモニア注入部が前記アンモニアを注入する際に前記計測工程で計測された前記pH値の計測値と前記pH値の目標値とに応じた前記アンモニアの注入量を算出する算出工程と、前記算出工程により算出された前記注入量の前記アンモニアを注入するよう前記アンモニア注入部を制御する制御工程と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
ボイラに供給されるボイラ水のpH値の目標値が比較的高い値となる場合であっても、pH値を目標値へ迅速に調整するとともにアンモニアの過剰注入によるプラントの運用コストの増加を抑制することが可能なボイラプラント、発電プラントおよびボイラプラントの制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の一実施形態に係るボイラプラントを示す概略構成図である。
図2図1に示すアンモニアガス注入部の部分拡大図である。
図3】ボイラ水のpHに対する電気伝導率およびアンモニア濃度の関係を示すグラフである。
図4】ボイラ水のpHに対する電気伝導率およびアンモニア濃度の関係を示す片対数グラフである。
図5】本実施形態の制御部が実行する起動時の処理を示すフローチャートである。
図6】本実施形態の制御部が実行する通常運転時の処理を示すフローチャートである。
図7】ボイラ水のアンモニア濃度の対する電気伝導率の関係を示すグラフである。
図8】本実施形態の注入部によりアンモニアガスが注入されたボイラ水の電気伝導率の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本開示の一実施形態に係るボイラプラント100について、図面を参照して説明する。図1は、本開示の一実施形態に係るボイラプラント100を示す概略構成図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態のボイラプラント100は、例えばガスタービンから排出される排ガス(以降、燃焼排ガスと記載)の排熱を排熱回収ボイラで熱回収して蒸気を発生させるものであり、ガスタービン(図示略)と、排熱回収ボイラ10と、蒸気タービン20と、復水器30と、復水ポンプ40と、アンモニア注入部50と、循環ポンプ60と、給水ポンプ70と、計測部80と、制御部90と、を備える。
【0016】
また、発電プラントは、ボイラプラント100と、ガスタービン(図示略)と、発電機(図示略)を備え、ガスタービンおよび蒸気タービン20が発生する動力により発電機を回転駆動して発電を行う。熱回収をする排熱は、ガスタービンの排ガスに限定するのではなく、例えば高炉からの排ガスなど各種の高温の排ガスを用いてもよい。なお、以降の説明において、ボイラプラント100内の各構成で流通または保持される液状流体を総じてボイラ水と表記する。
【0017】
排熱回収ボイラ(ボイラ)10は、ガスタービンにおける燃料の燃焼により生成される高温高圧の燃焼ガスによりタービンを回転駆動させた後の燃焼排ガス(熱源)からの熱によって蒸気を生成する装置である。図1に示す排熱回収ボイラ10は、燃焼排ガスの温度レベルに対応して、本実施形態では例えば2つの排熱回収部を備え、それぞれ蒸気を発生する排熱回収部10aおよび排熱回収部10bを備える。
【0018】
排熱回収部10aが発生する蒸気は、排熱回収部10bが発生する蒸気よりも低圧である。なお、図1に示す排熱回収ボイラ10は、それぞれ発生する蒸気の圧力が異なる2つの排熱回収部を備えるものとしたが、他の態様であってもよい。例えば、排熱回収部を1つとしてもよい。また、例えば、それぞれ相対的に高圧、中圧、低圧の蒸気を発生する3つの排熱回収部を備えるものであってもよい。
【0019】
排熱回収部10aは、復水器30より供給された給水であるボイラ水をガスタービンの排ガスにより加熱して蒸気を生成し、蒸気タービン20へ供給する。排熱回収部10aは、低圧蒸気ドラム(第1蒸気ドラム)11aと、低圧蒸発器(第1蒸発器)12aと、低圧節炭器13aと、低圧過熱器14aと、を備える。
【0020】
低圧蒸気ドラム11aは、復水ポンプ40を介して復水器30から供給されるボイラ水を保持する装置である。復水ポンプ40から配管Lw1を通じて低圧節炭器13aに供給されたボイラ水は、低圧節炭器13aから配管Lw2を通じて低圧蒸気ドラム11aに供給される。低圧蒸気ドラム11aは、低圧節炭器13aで加熱されたボイラ水を保持する。
【0021】
低圧蒸発器12aは、低圧蒸気ドラム11aに保持されたボイラ水を循環させながらガスタービンの燃焼排ガスによって加熱して低圧飽和蒸気を発生させる装置である。低圧蒸発器12aは、加熱したボイラ水と発生した低圧飽和蒸気を低圧蒸気ドラム11aへ供給する。低圧蒸発器12aは、排熱回収ボイラ10における燃焼排ガスの流通方向において、高圧蒸発器12bよりも下流側に配置されている。
【0022】
低圧節炭器13aは、復水ポンプ40から配管Lw1を通じて供給されるボイラ水をガスタービンの燃焼排ガスによって蒸発させずに加熱する装置である。低圧節炭器13aは、加熱したボイラ水を、配管Lw2を通じて低圧蒸気ドラム11aへ供給する。
【0023】
低圧過熱器14aは、低圧蒸気ドラム11aの鉛直上方側から導かれる低圧飽和蒸気をガスタービンの燃焼排ガスによって過熱する。低圧過熱器14aにより過熱された低圧蒸気は、配管Lv1aを介して蒸気タービン20の低圧側車室に供給される。
【0024】
排熱回収部10bは、復水器30より供給されたボイラ水をガスタービンの燃焼排ガスにより加熱して蒸気を生成し、蒸気タービン20へ供給する。排熱回収部10bは、高圧蒸気ドラム(第2蒸気ドラム)11bと、高圧蒸発器(第2蒸発器)12bと、高圧節炭器13bと、高圧過熱器14bと、を備える。
【0025】
高圧蒸気ドラム11bは、復水ポンプ40を介して復水器30から供給されるボイラ水を保持する装置である。復水ポンプ40から配管Lw1を通じて低圧節炭器13aに供給されたボイラ水は、低圧節炭器13aから配管Lw2,Lw3を通じて給水ポンプ70に供給される。給水ポンプ70へ供給されたボイラ水は、高圧節炭器13bを経由して高圧蒸気ドラム11bへ供給される。高圧蒸気ドラム11bは、高圧節炭器13bで加熱されたボイラ水を保持する。
【0026】
高圧蒸発器12bは、高圧蒸気ドラム11bに保持されたボイラ水を循環させながらガスタービンの燃焼排ガスによって加熱して高圧飽和蒸気を発生させる装置である。高圧蒸発器12bは、加熱したボイラ水と発生した高圧飽和蒸気を高圧蒸気ドラム11bへ供給する。高圧蒸発器12bは、排熱回収ボイラ10における燃焼排ガスの流通方向において、低圧蒸発器12aよりも上流側に配置されている。
【0027】
高圧節炭器13bは、給水ポンプ70から供給される給水であるボイラ水をガスタービンの燃焼排ガスによって蒸発させずに加熱する装置である。高圧節炭器13bは、加熱したボイラ水を高圧蒸気ドラム11bへ供給する。
【0028】
高圧過熱器14bは、高圧蒸気ドラム11bの鉛直上方側から導かれる高圧飽和蒸気をガスタービンの燃焼排ガスによって過熱する。高圧過熱器14bにより過熱された高圧蒸気は、配管Lv1bを介して蒸気タービン20の高圧側車室に供給される。
【0029】
蒸気タービン20は、排熱回収ボイラ10が生成した蒸気(低圧蒸気および高圧蒸気)により作動する装置である。蒸気タービン20は、蒸気によりタービン翼(図示略)が回転軸(図示略)回りに回転することで動力を発生する。蒸気タービン20が発生する動力は、発電機(図示略)の回転軸に伝達される。
【0030】
復水器30は、蒸気タービン20で回転動力を発生する仕事に用いられた蒸気を凝縮してボイラ水(復水)を生成する装置である。復水器30は、蒸気タービン20から排出される蒸気を冷却水(図示略)で冷却することにより、蒸気を凝縮させる。
【0031】
復水ポンプ40は、復水器30で生成された給水であるボイラ水を排熱回収ボイラ10に供給する装置である。復水ポンプ40は、復水器30で生成されたボイラ水を、配管Lw1を通じて低圧節炭器13aに供給する。復水ポンプ40から低圧節炭器13aに供給されるボイラ水の供給量は、配管Lw1に設置されたバルブV1により調整される。
【0032】
アンモニア注入部50は、復水ポンプ40よりも上流側において、排熱回収ボイラ10に供給されるボイラ水にアンモニアガスを注入する装置である。アンモニア注入部50は、アンモニアを注入する。本実施形態では、気体状態のアンモニアを含むアンモニアガスであり、このアンモニアガスを、例えば復水器30と復水ポンプ40とを連結する配管に注入する。気体状態を含むアンモニアガスとは、多くは気体であるものの一部霧状のアンモニアを含んでもよいものである。
【0033】
アンモニア注入部50が配管Lw1に注入するアンモニアガスの注入量は、制御部90が信号線S1を通じて伝達する制御信号により制御される。なお、アンモニア注入部50は、復水器30と復水ポンプ40とを連結する配管Lw1にアンモニアガスを直接注入するものであるが、他の態様としてもよい。
【0034】
例えば、復水器30と復水ポンプ40とを連結する配管Lw1の途中にアンモニアガスのミキシング部やアンモニアガスのバブリング部などアンモニアガスとボイラ水との混合を促進させるアンモニア吹き出し構造(図示略)をアンモニア注入部50とし、アンモニアガスを注入してもよい。なお、アンモニア吹き出し構造はアンモニアガスを吹き出す方向をボイラ水の流れ方向に対向するように配置することが好ましく、これによりアンモニアとボイラ水の混合がより促進する。
【0035】
図2に示すように、アンモニア注入部50は、アンモニアガスを供給する供給部51と、複数の供給配管La0,La1,La2,La3と、複数の流量調整弁(流量調整機構)Va1,Va2,Va3と、ブースターポンプ52と、を有する。供給部51は、液化アンモニアを貯蔵する貯蔵タンク51aと、貯蔵タンク51aから供給される液化アンモニアを気化させてアンモニアガスを生成する気化器51bと、を有する。
【0036】
本実施形態では、アンモニア注入部50は、ボイラ水のpH値を調整するためにのみ用いられるが、他の態様であってもよい。例えば、アンモニア注入部50は、排熱回収ボイラ10から排出される燃焼排ガスから窒素酸化物を除去する脱硝設備にアンモニアガスを供給する機能を備えていてもよい。
【0037】
ブースターポンプ52は、供給配管La0に配置されており、気化器51bが生成するアンモニアガスを供給配管Laに向けて供給するポンプである。供給配管Laは、1つでもよいが、複数の供給配管があることが更に好ましい。本実施形態では例えば3つの供給配管La1,La2,La3を設けてあり、後述で説明する。供給配管La1,La2,La3は2つ以上であれば、さらに好ましいものでありその数量を限定するものではない。
【0038】
ブースターポンプ52により供給配管La0を流通するアンモニアガスは、供給配管La0の端部に連結された複数の供給配管La1,La2,La3のそれぞれに供給される。
なお、ブースターポンプ52は、気化器51bで発生するアンモニアガスの圧力が、アンモニアガスをボイラ水に注入する配管Lw1の注入点の圧力と比べて、流量調整弁Va1、Va2、Va3の圧力損出を加味しても、十分に大きい場合には省略してもよい。
【0039】
複数の供給配管La1,La2,La3は、供給部51から供給されるアンモニアガスを復水ポンプ40の上流側の配管Lw1に供給する配管である。複数の供給配管La1,La2,La3のそれぞれは、配管Lw1を流通するボイラ水にアンモニアガスを吹き込む。ボイラ水に吹き込まれたアンモニアガスは、ボイラ水に溶解することによりボイラ水のpH値を上昇させる。
【0040】
本実施形態では、アンモニア注入部50は、復水器30と復水ポンプ40との間に設けられてアンモニアガスが注入される。すなわちアンモニアガスは復水ポンプ40の上流側の配管Lw1に吹き込まれるため、ボイラ水が復水ポンプ40を通過する際に撹拌されて、アンモニアガスのボイラ水への溶解が促進する。
【0041】
複数の流量調整弁Va1,Va2,Va3は、それぞれ供給配管La1,La2,La3に設けられるとともに制御部90からの制御信号に応じて開度を調整可能な弁である。流量調整弁Va1,Va2,Va3を最大開度(開度100%)とした場合に各弁が形成する流路断面積をAmax1,Amax2,Amax3とすると、Amax1≧Amax2≧Amax3の関係を満たすことが好ましい。
【0042】
また、同一開度における各流路断面積が異なるようにして、Amax1>Amax2>Amax3の関係を満たすと、流量調整弁Va1,Va2,Va3の開度の組み合わせで通過する流量の安定した制御範囲が増加するので、さらに好ましい。すなわち、同一の開度とした場合、流量調整弁Va1を通過する流量が最も多くすることができ、流量調整弁Va3を通過する流量が最も少なくすることができる。
【0043】
循環ポンプ60は、配管Lw2に配置されるとともに低圧節炭器13aで加熱されたボイラ水を、配管Lw1を通じて低圧節炭器13aへ循環させるための装置である。循環ポンプ60の上流側には、低圧節炭器13aへ循環させるボイラ水の流量を調節するためのバルブV2が設けられている。
【0044】
給水ポンプ70は、配管Lw3に配置されるとともに低圧節炭器13aで加熱されたボイラ水を、配管Lw2,Lw3を通じて高圧節炭器13bへ導くための装置である。給水ポンプ70の上流側には、高圧節炭器13bへ導くボイラ水の流量を調節するためのバルブV3が設けられている。給水ポンプ70の下流側で配管Lw4が分岐し、高圧過熱器14bに連結され、過熱低減のためにボイラ水が高圧過熱器14bへ搬送されるように構成されている。配管Lw4には、配管Lw4から高圧過熱器14bへ供給するボイラ水の流量を調節して、供給されたボイラ水の噴霧により高圧過熱器14bで過熱された高圧蒸気の過熱度を調整するためのバルブV4が設けられている。
【0045】
計測部80は、配管Lw1に設けられ、復水ポンプ40から供給されるボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から換算してpH値を得る装置である。計測部80は、例えば、ボイラ水のpH値を直接的に計測する装置である。また、計測部80は、例えば、ボイラ水の電気伝導率を計測し、電気伝導率とpH値とを対応付けて予め記憶されたテーブルを参照し、計測した電気伝導率からpH値を算出する装置であってもよい。電気伝導率は、瞬時に連続的に、かつ誤差の少ない計測が可能な手段の一つであるため、ボイラ水のpH値を得るために用いることが好ましい。計測部80は、計測したボイラ水のpH値を、信号線(図示略)を介して制御部90に伝達する。
【0046】
制御部90は、ボイラプラント100の各部を制御する装置である。制御部90は、信号線S1を通じてアンモニアガスの注入量を制御する制御信号をアンモニア注入部50に伝達する。制御部90からアンモニア注入部50に伝達される制御信号には、流量調整弁Va1,Va2,Va3のそれぞれの開度を調整するための制御信号が含まれている。制御部90は、バルブV1,V2,V3,V4の開度を調整する制御信号を、信号線(図示略)を通じて各バルブに伝達する。
【0047】
次に、本実施形態のボイラプラント100におけるボイラ水のpH値の管理方法について、図面を参照して説明する。図3は、ボイラ水のpHに対する電気伝導率およびアンモニア濃度の関係を示すグラフである。図4は、ボイラ水のpHに対する電気伝導率およびアンモニア濃度の関係を示す片対数グラフである。図4において縦軸の、電気伝導率およびアンモニア濃度は対数にて示されている。
【0048】
図3および図4に示すように、pH値が9.5以上の比較的高い値である場合、pH値が9.5未満の低い値である場合に比べ、pH値に対応するアンモニア濃度が指数関数的に増加する。したがって、pH値が9.5以上の比較的高い値である場合には、pH値が9.5未満の低い値である場合に比べ、一定のpH値を上昇させるために必要なアンモニアガスの注入量が指数関数的に増加する。
【0049】
そのため、例えば、ボイラ水のpH値に制御目標値(目標値)を設定し、pH値の目標値に対して、ボイラ水のpH値が一定の範囲内に収束するようにアンモニア注入部50によるアンモニアガスの注入量を制御してしまうと、pH値の目標値が9.5以上の比較的高い値である場合にボイラ水のpH値を目標値に迅速に調整して収束して安定化することができない可能性がある。これは、pH値の目標値が9.5以上の比較的高い値である場合、pH値の目標値が9.5未満の比較的低い値である場合に比べ、必要なアンモニアの注入量が指数関数的に増加するために、アンモニアガスの注入量に対するpH値の変化量が少ないためである。
【0050】
また、pH値の目標値が9.5以上の比較的高い値である場合には、pH値の目標値が9.5未満の比較的低い値である場合に比べ、ボイラ水へアンモニアガスが過剰に注入されてしまう可能性がある。これは、pH値の目標値が9.5以上の比較的高い値である場合、pH値の目標値が9.5未満の比較的低い値である場合に比べ、一定のpH値を上昇させるために必要なアンモニアガスの注入量が指数関数的に増加するために、目標値を中心とした所定の上限範囲までアンモニアを注入するとアンモニア注入量が増加してしまうためである。
【0051】
以上のように、図3および図4に示すボイラ水のpH値に対する電気伝導率およびアンモニア濃度の関係と計測部80で計測したボイラ水の電気伝導率から、ボイラ水のpH値の目標値へpH値を上昇させるため、アンモニア注入部50が注入するアンモニアガスの注入量をフィードバック制御しようとすると、ボイラ水のpH値を目標値へ迅速に調整することができず、かつアンモニアガスが過剰に注入されてしまう可能性がある。そこで、本実施形態では、アンモニアガスを注入する前に予めアンモニアガスの注入量を算出しておき、算出した注入量のアンモニアガスを注入するようにした。
【0052】
また、本実施形態では、りん酸塩などの清缶剤を用いずに、ボイラ水へアンモニアガスの注入することによりpH値を比較的高い値とすることで配管の流れ加速型腐食を抑制するため、計測部80によりpH値が計測されるボイラ水のpH値が9.7以上かつ10.5以下となるように管理する。ボイラ水のpH値を9.7以上に維持することで、流れ加速型腐食を抑制して配管の減肉速度が極めて低い状態に維持することができる。また、ボイラ水のpH値を10.5以下に維持することで、アンモニアガスの過剰な注入量増加によるボイラプラント100の運用コストを低減することができ、また配管材料によっては更にpHが上昇した場合にアルカリ腐食を抑制することができる。
【0053】
次に、本実施形態の制御部90が実行するアンモニアガスの注入処理について図面を参照して説明する。図5は、本実施形態の制御部90が実行する起動時の処理を示すフローチャートである。図6は、本実施形態の制御部90が実行する通常運転時の処理を示すフローチャートである。図5および図6に示す各処理は、制御部90が記憶部(図示略)から読み出す制御プログラムにより実行される。図7は、アンモニア濃度と電気伝導率との関係を示すグラフである。図8は、本実施形態のアンモニア注入部50によりアンモニアガスが注入されたボイラ水の電気伝導率(EC)の時間変化を示すグラフである。
【0054】
初めに、本実施形態の制御部90が実行する起動時の処理について図5を参照して説明する。図5に示す起動時の処理は、ボイラプラント100の長期停止後の再起動時などのボイラプラント100を循環するボイラ水にアンモニアガスが注入されていない状態で実行される処理である。
【0055】
ステップS101で、制御部90は、計測部80で電気伝導率(EC)が計測されるボイラ水のpH値が9.7以上かつ10.5以下となるように、ボイラ水の電気伝導率の制御目標値ECtを設定する。ここで、図3に示すように、ボイラ水のpH値が9.7となるボイラ水の電気伝導率は下限値ECminであり、ボイラ水のpH値が10.5となるボイラ水の電気伝導率は上限値ECmaxである。また、pH値の制御目標値をpHtとした場合、ボイラ水のpH値がpHtとなるボイラ水の電気伝導率は制御目標値ECtである。
【0056】
制御部90は、ボイラ水のpH値が9.7以上かつ10.5以下となるように、ボイラ水の電気伝導率の下限値ECminと上限値ECmaxと制御目標値ECtとが、以下の式(1)の関係を満たすように制御目標値ECtを設定する。
ECmin<ECt<ECmax (1)
【0057】
ステップS102で、制御部90は、計測部80にボイラ水の電気伝導率を計測するように制御信号を送信する。制御部90は、計測部80から電気伝導率の計測値ECaを受信することで、ボイラ水の電気伝導率を計測する。
【0058】
ステップS103で、制御部90は、アンモニア注入部50がアンモニアガスを注入する際に計測部80が計測した電気伝導率である計測値ECaと、電気伝導率の制御目標値ECtとに基づいて、ボイラ水の電気伝導率を制御目標値ECtへ上昇させるために必要なアンモニアガスの注入量Qを算出する。図7に示すように、電気伝導率の計測値ECaに対応するアンモニア濃度はACaであり、電気伝導率の制御目標値ECtに対応するアンモニア濃度はACtである。
【0059】
そのため、制御部90は、ボイラプラント100を循環するボイラ水の総量をCWとした場合、アンモニアガスの注入量Qを、以下の式(2)により算出する。
Q=(ACt-ACa)・CW (2)
【0060】
ステップS104で、制御部90は、ステップS103で算出したアンモニアガスの注入量Qが復水ポンプ40の上流側の配管Lw1に注入されるように流量調整弁Va1,Va2,Va3のそれぞれの開度を調整し、アンモニアガスを注入する。
【0061】
図5に示す起動時の処理は、ボイラ水にアンモニアガスが注入されていない状態で実行される処理である。そのため、ボイラ水のpH値を制御目標値pHtに到達させるために、多量のアンモニアガスをアンモニア注入部50により注入する必要がある。そこで、図5に示す起動時の処理において、制御部90は、複数の供給配管La1,La2,La3から単位時間当たりに配管Lw1に供給されるアンモニアガスの流量が増加するように、複数の流量調整弁Va1,Va2,Va3を制御して、例えば最大開度における流路断面積が最も大きくできる流量調整弁Va1の開度を後述する通常運転時の開度よりも大きくなるように調整する。また、制御部90は、最大開度における流路断面積が最も小さくできる流量調整弁Va3の開度を後述する通常運転時の開度よりも小さくなるように調整する。
【0062】
例えば、制御部90は、最大開度における流路断面積が最も大きくできる流量調整弁Va1の開度を、起動時の処理において80%以上に設定し、通常運転時の処理において50%以下に設定するよう運用する。また、例えば、制御部90は、最大開度における流路断面積が最も小さくできる流量調整弁Va3の開度を、起動時の処理において20%以下に設定し、通常運転時の処理において50%以上に設定する。
【0063】
これにより、起動時にアンモニア注入部50から配管Lw1に注入されるアンモニアガスの単位時間当たりの流量は、通常運転時にアンモニア注入部50から配管Lw1に注入されるアンモニアガスの単位時間当たりの流量よりも多くなる。また、さらにアンモニアガスの注入量Qが大きい場合は、複数の供給配管La1,La2,La3の複数の流量調整弁Va1,Va2,Va3の開度を全て大きくして、単位時間当たりに配管Lw1に供給されるアンモニアガスの流量が最大限に増加するように、制御してもよい。
【0064】
また、制御部90は、ステップS103で算出するアンモニアガスの注入量Qが大きくなるにつれて複数の供給配管La1,La2,La3から単位時間当たりに配管Lw1に供給されるアンモニアガスの流量が増加するとともにアンモニアガスの注入量Qの制御性を確保できるように、複数の流量調整弁Va1,Va2,Va3の開度の組み合わせを制御して、複数の流量調整弁Va1,Va2,Va3を制御する。
【0065】
ステップS105で、制御部90は、ステップS104でアンモニア注入部50により注入されたアンモニアガスがステップS103で算出したアンモニアガスの注入量Qに到達したかどうかを判定し、NOである場合はアンモニアガスの注入を継続し、YESであればステップS106に処理を進める。
【0066】
ステップS106で、制御部90は、ステップS103で算出したアンモニアガスの注入量Qのアンモニアガスの注入が完了したため、アンモニアガスの注入を停止するようアンモニア注入部50を制御する。制御部90は、ステップS106の処理が終了した場合、本フローチャートの処理を終了させ、図6に示す通常運転時の処理の実行を開始する。
【0067】
次に、本実施形態の制御部90が実行する通常運転時の処理について図6を参照して説明する。図6に示す通常運転時の処理は、図5に示す起動時の処理が終了した後に実行される処理である。
【0068】
ステップS201で、制御部90は、計測部80で電気伝導率が計測されるボイラ水のpH値が9.7以上かつ10.5以下となるように、電気伝導率の制御目標値ECtを設定する。ここで、図3に示すように、ボイラ水のpH値が9.7となる電気伝導率は下限値ECminであり、ボイラ水のpH値が10.5となる電気伝導率は上限値ECmaxである。また、ボイラ水のpH値の制御目標値をpHtとした場合、ボイラ水のpH値がpHtとなる電気伝導率は制御目標値ECtである。
【0069】
ステップS202で、制御部90は、計測部80で計測されるボイラ水の電気伝導率を制御目標値ECtの近傍に維持するためにアンモニアガスを注入する基準となる電気伝導率の管理下限値ECinを設定する。制御部90は、管理下限値ECinを、以下の式(3)を満たすように設定する。
ECmin≦ECin<ECt (3)
【0070】
ステップS203で、制御部90は、アンモニア注入部50がアンモニアガスを注入する際に計測部80が計測する電気伝導率である計測値ECaと、電気伝導率の制御目標値ECtとに基づいて、ボイラ水の電気伝導率を制御目標値ECtへ上昇させるために必要なアンモニアガスの注入量Qを算出する。図7に示すように、電気伝導率の計測値ECaに対応するアンモニア濃度はACaであり、電気伝導率の制御目標値ECtに対応するアンモニア濃度はACtである。制御部90は、前述した式(2)によりアンモニアガスの注入量Qを算出する。
【0071】
ここで、アンモニアガスの注入量Qを算出するために用いる電気伝導率の計測値ECaは、ボイラ水の電気伝導率の管理下限値ECinと一致している。これは、後述するステップS206でアンモニアガスを注入する際に計測部80が計測するボイラ水の電気伝導率の計測値ECaは管理下限値ECinと一致するからである。
【0072】
ステップS204で、制御部90は、計測部80にボイラ水の電気伝導率を計測するように制御信号を送信する。制御部90は、計測部80からボイラ水の電気伝導率の計測値ECaを受信することで、ボイラ水の電気伝導率を計測する。
【0073】
ステップS205で、制御部90は、ステップS204で計測したボイラ水の電気伝導率の計測値ECaが管理下限値ECin以下であるかどうかを判定する。制御部90は、NOであると判定すれば再びステップS204,S205の処理を実行し、YESであると判定すればステップS206へ処理を進める。
【0074】
ステップS206で、制御部90は、ステップS203で算出したアンモニアガスの注入量Qが復水ポンプ40の上流側の配管Lw1に注入されるように流量調整弁Va1,Va2,Va3のそれぞれの開度を調整し、アンモニアガスを注入する。
【0075】
図6に示す通常運転時の処理は、起動処理が実行された後に実行される処理である。そのため、ボイラ水のpH値を制御目標値pHtに到達させるために、起動時の処理におけるアンモニアガスの注入量のような多量のアンモニアガスをアンモニア注入部50により注入する必要はない。
【0076】
そこで、図6に示す通常運転時の処理において、制御部90は、最大開度における流路断面積が最も大きい流量調整弁Va1の開度を起動時の開度よりも小さくなるように調整する。また、制御部90は、最大開度における流路断面積が最も小さい流量調整弁Va3の開度を起動時の開度よりも大きくなるように調整する。
【0077】
例えば、制御部90は、最大開度における流路断面積が最も大きくできる流量調整弁Va1の開度を、通常時の処理において50%以下に設定し、起動時の処理において80%以上に設定するように運用する。また、例えば、制御部90は、最大開度における流路断面積が最も小さくできる流量調整弁Va3の開度を、通常運転時の処理において50%以上に設定し、起動時の処理において20%以下に設定するように運用する。
【0078】
これにより、通常運転時にアンモニア注入部50から配管Lw1に注入されるアンモニアガスの単位時間当たりの流量は、起動時にアンモニア注入部50から配管Lw1に注入されるアンモニアガスの単位時間当たりの流量よりも少なくなる。また、さらにアンモニアガスの注入量Qが小さい場合は、複数の供給配管La1,La2,La3の複数の流量調整弁Va1,Va2,Va3の開度を全て小さくしたり、また一部を全閉としたりして、単位時間当たりに配管Lw1に供給されるアンモニアガスの流量が減少するように、制御してもよい。
【0079】
また、制御部90は、ステップS203で算出するアンモニアガスの注入量Qが大きくなるにつれて複数の供給配管La1,La2,La3から単位時間当たりに配管Lw1に供給されるアンモニアガスの流量が増加するとともにアンモニアガスの注入量Qの制御性を確保できるように、複数の流量調整弁Va1,Va2,Va3の開度の組み合わせを制御して、複数の流量調整弁Va1,Va2,Va3を制御する。
【0080】
ステップS207で、制御部90は、ステップS206でアンモニア注入部50により注入されたアンモニアガスがステップS203で算出したアンモニアガスの注入量Qに到達したかどうかを判定し、NOである場合はアンモニアガスの注入を継続し、YESであればステップS208に処理を進める。
【0081】
ステップS208で、制御部90は、ステップS203で算出したアンモニアガスの注入量Qのアンモニアガスの注入が完了したため、アンモニアガスの注入を停止するようアンモニア注入部50を制御する。制御部90は、ステップS208の処理が終了した場合、ステップS209へ処理を進める。
【0082】
ステップS209で、制御部90は、電気伝導率の目標値の変更の指示が入力されたかどうかを判定し、YESであれば本フローチャートの処理を一旦終了させ、再び本フローチャートの処理の実行を開始する。制御部90は、NOと判定する場合は、ステップS204の処理を再び実行し、ステップS204からステップS208の処理を繰り返す。
【0083】
図8は、ステップS204からステップS208の処理を繰り返し実行した場合のボイラ水の電気伝導率(EC)の時間変化を示している。図8に示すように、電気伝導率(EC)が時刻T1aで管理下限値ECinに達すると、ステップS206により予め算出したアンモニアガスの注入量Qのアンモニアガスが注入される。
【0084】
図8に示すように、時刻T1aでアンモニアガスが注入されると、時刻T1aから時刻T1bに至るまで電気伝導率ECが管理下限値ECinから制御目標値ECtまで漸次増加する。ステップS208により、時刻T1bにおいてアンモニアガスの注入が停止されるため、時刻T1bから時刻T2aに至るまで電気伝導率(EC)が漸次減少する。
【0085】
その後は、時刻T2aでアンモニアガスが注入され、時刻T2bでアンモニアガスの注入が停止される。また、時刻T3aでアンモニアガスが注入され、時刻T3bでアンモニアガスの注入が停止され、時刻T4aでアンモニアガスが注入される。以上のように、予め算出したアンモニアガスの注入量Qのアンモニアガスの注入を間欠的に繰り返すことにより、ボイラ水の電気伝導率(EC)が管理下限値ECinと制御目標値ECtとの間で維持される。
【0086】
また、ボイラ水の電気伝導率(EC)が管理下限値ECinと制御目標値ECtより大きな上限値ECmaxまで上昇させないので、アンモニアガスの注入量が過剰となってプラントの運用コストが増大することを抑制することができる。
【0087】
以上説明した実施形態に記載のボイラプラント(100)は、例えば以下のように把握される。
本開示に係るボイラプラント(100)は、熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラ(10)と、ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービン(20)と、蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器(30)と、復水器で凝縮されたボイラ水を前記ボイラに供給する復水ポンプ(40)と、ボイラに供給されるボイラ水にアンモニアを注入するアンモニア注入部(50)と、復水ポンプからボイラに供給されるボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率から前記ボイラ水のpH値を算出する計測部(80)と、アンモニア注入部を制御する制御部(90)と、を備え、制御部は、アンモニア注入部によりアンモニアを注入する前に、アンモニア注入部がアンモニアを注入する際に計測部が計測するpH値の計測値とpH値の目標値とに応じたアンモニアガスの注入量を算出し、注入量のアンモニアを注入するようアンモニア注入部を制御する。
【0088】
本開示に係るボイラプラントによれば、ボイラ水のpH値を調整するためのアンモニアの注入量をアンモニアを注入する前に算出しているため、フィードバック制御によりアンモニアの注入量を調整する場合に比べ、ボイラ水のpH値を迅速に目標値に収束させることができる。また、ボイラ水を目標値に収束させるために必要な量のアンモニアのみを注入するため、フィードバック制御によりアンモニアの注入量が過剰となってプラントの運用コストが増大することを抑制することができる。
【0089】
特に、ボイラ水のpH値の目標値が比較的高い値である場合に、pH値の目標値が比較的低い値である場合に比べ、必要なアンモニアの注入量が指数関数的に増加するため、アンモニアの注入量に対するpH値の変化量が小さくなる。この時、フィードバック制御によりアンモニアの注入量を迅速に収束させることが難しいためである。また、目標値より大きな上限値まで上昇させないので、アンモニアの注入量が過剰となってプラントの運用コストが増大することを抑制することができる。
【0090】
本開示に係るボイラプラントにおいて、制御部は、計測部が計測する計測値が目標値よりも低い基準値以下となる場合に、注入量のアンモニアガスを注入するようアンモニア注入部を制御する。計測部が計測する計測値が基準値以下となる場合に予め算出した注入量のアンモニアを注入するという比較的簡素な処理により、ボイラ水のpH値を所望の範囲内に適切に維持することができる。
【0091】
本開示に係るボイラプラントにおいて、制御部は、計測部により計測されるボイラ水のpH値が9.7以上かつ10.5以下となるように目標値を設定する。ボイラ水のpH値を9.7以上に維持することで、配管の減肉速度が極めて低くなるようにpH値を維持することができる。また、計測部80が計測するボイラ水のpH値を10.5以下に維持することで、アンモニアガスを過剰に注入することを抑制し、ボイラプラント100の運用コストを低減することができる。これは、ボイラ水pH値の目標値が9.7以上は比較的高い値である場合であり、pH値の目標値が比較的低い値である場合に比べ、必要なアンモニアの注入量が指数関数的に増加するためである。
【0092】
本開示に係るボイラプラントにおいて、アンモニア注入部から注入するアンモニアは気体状態を含むアンモニアガスであり、アンモニア注入部を復水器と復水ポンプとの間に設ける。アンモニアガスは復水ポンプの上流側に吹き込まれるため、ボイラ水が復水ポンプを通過する際に撹拌されて、アンモニアガスのボイラ水への溶解が促進する。
【0093】
本開示に係るボイラプラントにおいて、アンモニア注入部は、アンモニアガスを供給する供給部(51)と、供給部から供給されるアンモニアガスを復水ポンプの上流側に供給する複数の供給配管(La1,La2,La3)と、複数の供給配管のそれぞれに設けられる複数の流量調整機構(Va1,Va2,Va3)と、を有する。複数の流量調整機構により各供給配管から供給されるアンモニアガスの単位時間当たりの供給量を適切に調整することにより、アンモニアガスの注入量に応じた適切な流量でアンモニアガスを供給することができる。
【0094】
本開示に係るボイラプラントにおいて、複数の流量調整機構は、それぞれ異なる最大開度を有する弁である。最大開度の異なる弁を組み合わせることにより、アンモニアガスの注入量に応じた適切な流量でアンモニアガスを供給することができる。
【0095】
本開示に係るボイラプラントにおいて、制御部は、注入量が多くなるにつれて複数の供給配管から単位時間あたりに供給される前記アンモニアガスの流量が増加するよう、複数の流量調整機構を制御する。注入量が多くなるにつれてアンモニアガスの単位時間当たりの流量を増加させることで、注入量が多い場合に要する注入時間を適切に短縮することができる。
【0096】
本開示に係るボイラプラントにおいて、アンモニア注入部は、復水ポンプよりも上流側において、ボイラに供給されるボイラ水にアンモニアガスを注入するアンモニア注入部と、を備える。
【0097】
以上説明した各実施形態に記載のボイラプラントの制御方法は、例えば以下のように把握される。
本開示に係るボイラプラントの制御方法は、熱源からの熱によって蒸気を生成するボイラと、ボイラが生成した蒸気により作動する蒸気タービンと、蒸気タービンから排出される蒸気を凝縮してボイラ水を生成する復水器と、復水器で凝縮されたボイラ水をボイラに供給する復水ポンプと、ボイラに供給されるボイラ水にアンモニアを注入するアンモニア注入部と、を備えるボイラプラントの制御方法であって、復水ポンプからボイラに供給されるボイラ水のpH値を計測する、または計測した電気伝導率からボイラ水のpH値を算出する計測工程と、アンモニア注入部がアンモニアを注入する際に計測工程で計測されたpH値の計測値とpH値の目標値とに応じたアンモニアの注入量を算出する算出工程と、算出工程により算出された注入量のアンモニアを注入するようアンモニア注入部を制御する制御工程と、を備える。
【0098】
本開示に係るボイラプラントの制御方法によれば、ボイラ水のpH値を調整するためのアンモニアガスの注入量を、アンモニアを注入する前に算出しているため、フィードバック制御によりアンモニアの注入量を調整する場合に比べ、ボイラ水のpH値を迅速に目標値に収束させることができる。また、ボイラ水を目標値に収束させるために必要な量のアンモニアのみを注入するため、フィードバック制御によりアンモニアの注入量が過剰となってプラントの運用コストが増大することを抑制することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 排熱回収ボイラ
20 蒸気タービン
30 復水器
40 復水ポンプ
50 アンモニア注入部
51 供給部
51a 貯蔵タンク
51b 気化器
80 計測部
90 制御部
100 ボイラプラント
EC 電気伝導率
ECa 計測値
ECin 管理下限値(基準値)
ECmax 上限値
ECmin 下限値
ECt 制御目標値(目標値)
La1,La2,La3 供給配管
Q 注入量
Va1,Va2,Va3 流量調整弁(流量調整機構)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8