(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】光学物品用重合性組成物および光学物品
(51)【国際特許分類】
G02B 5/23 20060101AFI20231120BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20231120BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20231120BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
G02B5/23
C08F220/10
C08F290/06
G02C7/10
(21)【出願番号】P 2019239793
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
(72)【発明者】
【氏名】山下 照夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 強
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/182085(WO,A1)
【文献】特表2012-511091(JP,A)
【文献】特許第4016119(JP,B2)
【文献】国際公開第2019/189855(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/23
C08F 220/10
C08F 290/06
G02C 7/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック化合物と、
成分A:分子量500以上の非環状のメタクリレートと、
成分B:ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートと、
を含み
、
前記成分Bはエポキシエステル構造を有
し、かつ
前記成分Bに含まれるヒドロキシ基の一部または全部は、エポキシエステル構造に含まれるヒドロキシ基である、光学物品用重合性組成物。
【請求項2】
成分C:非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート、
を更に含む、請求項1に記載の光学物品用重合性組成物。
【請求項3】
成分D:分子量400以下であって、下記式2:
【化1】
[式2中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、mは1以上の整数を表す。]
で表される(メタ)アクリレートを更に含む、請求項1または2に記載の光学物品用重合性組成物。
【請求項4】
組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Aを50.0質量%以上含む、請求項1~3のいずか1項に記載の光学物品用重合性組成物。
【請求項5】
組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Bを5.0質量%以上40.0質量%以下含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学物品用重合性組成物。
【請求項6】
基材と、
請求項1~5のいずれか1項に記載の光学物品用重合性組成物を硬化させたフォトクロミック層と、
を有する光学物品。
【請求項7】
眼鏡レンズである、請求項6に記載の光学物品。
【請求項8】
ゴーグル用レンズである、請求項6に記載の光学物品。
【請求項9】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項6に記載の光学物品。
【請求項10】
ヘルメットのシールド部材である、請求項6に記載の光学物品。
【請求項11】
請求項7に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品用重合性組成物および光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で発色し、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。眼鏡レンズ等の光学物品にフォトクロミック性を付与する方法としては、フォトクロミック化合物と重合性化合物とを含むコーティングを基材上に設け、このコーティングを硬化させてフォトクロミック性を有する硬化層(フォトクロミック層)を形成する方法が挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなフォトクロミック性を有する光学物品に望まれる性質としては、フォトクロミック層と隣接層との密着性に優れることが挙げられる。
【0005】
本発明の一態様は、隣接層との密着性に優れるフォトクロミック層を形成可能な光学物品用重合性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
フォトクロミック化合物と、
成分A:分子量500以上の非環状のメタクリレートと、
成分B:ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートと、
を含む、光学物品用重合性組成物(以下、単に「組成物」とも記載する。)、
に関する。
【0007】
上記組成物は、上記の成分Aおよび成分Bを含む。これにより、この組成物を硬化させて形成されるフォトクロミック層は、隣接層に対して優れた密着性を示すことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、隣接層との密着性に優れるフォトクロミック層を形成可能な光学物品用組成物を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、隣接層との密着性に優れるフォトクロミック層を有する光学物品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[光学物品用重合性組成物]
以下に、本発明の一態様にかかる光学物品用重合性組成物について、更に詳細に説明する。
【0010】
本発明および本明細書において、重合性組成物とは、重合性化合物を含む組成物をいうものとする。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物である。本発明の一態様にかかる光学物品用重合性組成物は、光学物品の製造のために使用される重合性組成物であって、光学物品用コーティング組成物であることができ、より詳しくは光学物品のフォトクロミック層形成用コーティング組成物であることができる。光学物品用コーティング組成物とは、光学物品の製造のために基材等に塗布される組成物を意味する。光学物品としては、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ等の各種レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることができる。例えば、上記組成物をレンズ基材に塗布して作製される眼鏡レンズは、フォトクロミック層を有する眼鏡レンズとなり、フォトクロミック性を示すことができる。
【0011】
本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する意味で用いられる。「アクリレート」とは、1分子中にアクリロイル基を1つ以上有する化合物である。「メタクリレート」とは、1分子中にメタクリロイル基を1つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレートについて、官能数は、1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数である。本発明および本明細書では、「メタクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むものをいうものとし、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基とメタクリロイル基の両方を含むものはアクリレートと呼ぶ。アクリロイル基はアクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよく、メタクリロイル基はメタクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよい。以下に記載の「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、水酸基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0012】
<重合性化合物>
上記組成物は、重合性化合物として、少なくとも成分Aおよび成分Bを含む。以下に、成分Aおよび成分Bについて説明する。
【0013】
(成分A)
成分Aは、分子量500以上の非環状のメタクリレートである。本発明および本明細書において、「非環状」とは、環状構造を含まないことを意味する。これに対し、「環状」とは、環状構造を含むことを意味する。非環状のメタクリレートとは、環状構造を含まない単官能以上のメタクリレートをいうものとする。
【0014】
成分Aは、単官能または2官能以上のメタクリレートであることができ、2官能または3官能メタクリレートであることが好ましく、2官能メタクリレートであることがより好ましい。成分Aとしては、ポリアルキレングリコールジメタクリレートを挙げることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートは、下記式1:
【化1】
により示すことができ、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。Rで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。nは、2以上であり、例えば30以下、25以下または20以下であることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート等を挙げることができる。
【0015】
成分Aの分子量は、500以上である。分子量が500以上の非環状の2官能メタクリレート(成分A)を詳細を後述する成分Bとともに含む上記組成物から形成されるフォトクロミック層は、隣接層に対して高い密着性を示すことができる。なお本発明および本明細書において、重合体についての分子量は、化合物の構造解析により決定された構造式または製造する際の原料仕込み比から算出した理論分子量を採用している。成分Aの分子量は、500以上であり、510以上であることが好ましく、520以上であることがより好ましく、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。成分Aの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。
【0016】
(成分B)
成分Bは、ヒドロキシ基含有(メタ)アクリレートである。成分Bの1分子中に含まれるヒドロキシ基の数は、1以上であり、2以上であることが好ましい。また、成分Bの1分子中に含まれるヒドロキシ基の数は、4以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。成分Bの官能数は、1以上であり(即ち単官能以上)、2以上であることが好ましい。また、上記官能数は、3以下であることが好ましい。成分Bは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一形態では、成分Bは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むこと、即ちメタクリレートであることが好ましい。成分Bの分子量は、例えば300~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。成分Bの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、Hydroxypropyl (メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、2-ヒドロキシ-1-アクリロキシ-3-メタドリロキシプロパン、2-ヒドロキシ 1-3ジメタクリロキシプロパン、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、モノアクリロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-アクリロイルオキシエチルフタレート、2-(アクリロキシオキシ)エチル 2-ヒドロキシエチルフタレート等を挙げることができる。また、一形態では、成分Bは、アミド基を有することができる。アミド基を有する成分Bの具体例としては、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド等を挙げることができる。また、成分Bは、一形態では、エポキシエステル構造を有することができる。エポキシエステル構造とは、エポキシ基とカルボキシ基との反応により生成される構造であり、「-CH(OH)-CH2-O-C(=O)-」で表すことができる。エポキシエステル構造を有する成分Bの市販品としては、例えば、エポキシエステル40EM(共栄社化学製)、エポキシエステル70PA(共栄社化学製)、エポキシエステル80MFA(共栄社化学製)、エポキシエステル200PA(共栄社化学製)、エポキシエステル3002M(N)(共栄社化学製)、エポキシエステル3002A(N)(共栄社化学製)、エポキシエステル3000MK(共栄社化学製)、エポキシエステル3000A(共栄社化学製)等が挙げられる。
【0017】
上記組成物は、重合性化合物として、一形態では成分Aおよび成分Bのみを含むことができ、他の一形態では、成分Aおよび成分Bに加えて他の重合性化合物を1種以上含むことができる。以下に、上記組成物に含まれ得る他の重合性化合物を例示する。
【0018】
(他の重合性化合物)
以下に例示する成分Cおよび成分Dは、上記組成物から形成されるフォトクロミック層の光照射下での発色性および非照射下での可視光透過性に大きな影響を与えることなく、組成物の塗布適性等の性能向上に寄与し得る点で、好ましい成分である。
【0019】
成分C
上記組成物は、一形態では、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート(成分C)を含むことができる。成分Cは、3~5官能の(メタ)アクリレートであることが好ましく、3官能または4官能の(メタ)アクリレートであることがより好ましく、3官能(メタ)アクリレートであることが更に好ましい。成分Cの具体例としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。成分Cの分子量は、例えば200~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。成分Cは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一形態では、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むこと、即ちメタクリレートであることが好ましい。
【0020】
成分D
上記組成物は、一形態では、分子量400以下であって、下記式2:
【化2】
で表される(メタ)アクリレート(成分D)を含むことができる。
【0021】
式2中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、mは1以上の整数を表す。mは、1以上であって、例えば、10以下、9以下、8以下、7以下または6以下であることができる。
【0022】
成分Dの分子量は、400以下であり、フォトクロミック層が光照射下で発色した際の発色濃度をより高める観点からは、350以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることが更に好ましい。また、成分Dの分子量は、例えば、100以上、150以上または200以上であることができる。
【0023】
成分Dは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一形態では、成分Dは、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基のみを含むことが好ましい。成分Dの具体例としては、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート等を挙げることができる。
【0024】
上記組成物は、一形態では、重合性化合物として、上記成分以外の他の重合性化合物の1種以上を含むこともできる。上記組成物において、成分Aの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、50.0質量%以上であることが好ましく、55.0質量%以上であることがより好ましい。成分Aは、一形態では、組成物に含まれる複数の重合性化合物の中で、最も多くを占める成分であることができる。また、成分Aの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、90.0質量%以下、85.0質量%以下、80.0質量%以下、75.0質量%以下または70質量%以下であることができる。上記組成物は、成分Aを、一形態では1種のみ含むことができ、他の一形態では2種以上含むことができる。2種以上の成分Aが含まれる場合、上記の成分Aの含有率は、2種以上の合計含有率である。この点は、他の成分に関する含有率についても同様である。
【0025】
成分Bについては、隣接層との密着性の更なる向上の観点からは、成分Bの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、5.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることが好ましい。また、フォトクロミック層におけるフォトクロミック化合物の光応答性の向上の観点からは、成分Bの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、40.0質量%以下であることが好ましく、35.0質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
成分Cについては、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Cの含有率は、0質量%であってもよく、0質量%以上、0質量%超、1.0質量%以上、3.0質量%以上、5質量%以上または7質量%以上であることもできる。成分Cの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、例えば20.0質量%以下または15.0質量%以下であることができる。
【0027】
成分Dについては、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Dの含有率は、0質量%であってもよく、0質量%以上、0質量%超、1.0質量%以上、3.0質量%以上または5.0質量%以上であることもできる。成分Dの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、例えば25.0質量%以下、20.0質量%以下または15.0質量%以下であることができる。
【0028】
上記組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば80.0質量%以上、85.0質量%以上または90.0質量%以上であることができる。また、上記組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば、99.0質量%以下、95.0質量%以下、90.0質量%以下または85.0質量%以下であることができる。本発明および本明細書において、含有率に関して、「組成物の全量」とは、溶剤を含む組成物については、溶剤を除く全成分の合計量をいうものとする。上記組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0029】
<フォトクロミック化合物>
上記組成物は、上記重合性化合物とともにフォトクロミック化合物を含む。上記組成物に含まれるフォトクロミック化合物としては、フォトクロミック性を示す公知の化合物を使用することができる。フォトクロミック化合物は、例えば紫外線に対してフォトクロミック性を示すことができる。例えば、フォトクロミック化合物としては、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物、インデノ縮合ナフトピラン化合物等のフォトクロミック性を示す公知の骨格を有する化合物を例示できる。フォトクロミック化合物は、1種単独で使用することができ、2種以上を混合して使用することもできる。上記組成物のフォトクロミック化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~15.0質量%程度とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0030】
<他の成分>
上記組成物は、重合性化合物およびフォトクロミック化合物に加えて、重合性化合物やフォトクロミック化合物を含む組成物に通常含まれ得る各種添加剤の1種以上を任意の含有率で含むことができる。上記組成物に含まれ得る添加剤としては、例えば、重合反応を進行させるための重合開始剤を挙げることができる。
【0031】
重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用することができ、ラジカル重合開始剤が好ましく、重合開始剤としてラジカル重合開始剤のみを含むことがより好ましい。また、重合開始剤としては、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することができ、短時間で重合反応を進行させる観点から光重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、1,2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のα-アミノケトン;1-[(4-フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9、9’-アクリジニルヘプタン)等のアクリジン化合物:N-フェニルグリシン、クマリン等が挙げられる。 また、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体において、2つのトリアリールイミダゾール部位のアリール基の置換基は、同一で対称な化合物を与えてもよく、相違して非対称な化合物を与えてもよい。また、ジエチルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸の組み合わせのように、チオキサントン化合物と3級アミンとを組み合わせてもよい。 これらの中で、硬化性、透明性および耐熱性の観点から、α-ヒドロキシケトンおよびホスフィンオキシドが好ましい。重合開始剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~5.0質量%の範囲であることができる。
【0032】
上記組成物には、更に、フォトクロミック化合物を含む組成物に通常添加され得る公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤等の添加剤を任意の量で添加できる。これら添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0033】
上記組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0034】
[光学物品]
本発明の一態様は、基材と、上記組成物を硬化させたフォトクロミック層と、を有する光学物品に関する。
以下、上記光学物品について、更に詳細に説明する。
【0035】
<基材>
上記光学物品は、光学物品の種類に応じて選択した基材上にフォトクロミック層を有することができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0036】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0037】
<フォトクロミック層>
上記光学物品のフォトクロミック層は、基材の表面上に直接または一層以上の他の層を介して間接的に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって形成することができる。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、上記組成物に含まれる各種成分(先に記載した重合性化合物、重合開始剤等)の種類や上記組成物の組成に応じて決定すればよい。こうして形成されるフォトクロミック層の厚さは、例えば5~80μmの範囲であることが好ましく、20~60μmの範囲であることがより好ましい。
【0038】
<プライマー層>
上記光学物品において、フォトクロミック層は、一形態では基材と隣接することができ、基材上に設けられたプライマー層と隣接することができる。ここで「隣接」とは、他の層を介さずに直接接していることをいうものとする。プライマー層としては、フォトクロミック層と基材との密着性を向上させるための公知のプライマー層を挙げることができる。
【0039】
また、プライマー層の一形態としては、先に記載した成分Bを含むプライマー層形成用重合性組成物を硬化した硬化層を挙げることもできる。以下、かかるプライマー層形成用重合性組成物について、更に詳細に説明する。
【0040】
上記プライマー層形成用重合性組成物に含まれる成分Bについては、先に記載した通りである。上記プライマー層形成用重合性組成物は、一形態では成分Bに加えてポリイソシアネートを含むことができる。ポリイソシアネートとは、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物である。ポリイソシアネートの1分子中に含まれるイソシアネート基の数は、2以上であり、3以上であることが好ましい。また、ポリイソシアネートの1分子中に含まれるイソシアネート基の数は、例えば6以下、5以下または4以下であることができる。ポリイソシアネートの分子量は、例えば100~500の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。ポリイソシアネートの具体例としては、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の脂肪族または脂環式ジイソシアネート等が挙げられる。また、上記で例示したポリイソシアネートのアロファネート体、アダクト体、ビュウレット体、イソシアヌレート体等を挙げることもできる。ポリイソシアネートの市販品としては、コロネートHX、コロネートHXR、コロネートHXLV、コロネートHK,コロネート2715、コロネートHL、コロネートL,コロネート2037、HDI、TDI、MDI(東ソー社製)、タケネート500、タケネート600、デュラネート24A-100、TPA-100、TKA-100、P301-75E、タケネートD-110N、D-120N、D-127N、D-140N、D-160N、D15N、D-170N、D-170HN、D-172N、D-177N、D-178N、D-101E(三井化学社製)等が挙げられる。
【0041】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、成分Bを、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、例えば20.0質量%以上含むことができ、30.0質量%以上含むことが好ましく、35.0質量%以上含むことがより好ましい。また、上記プライマー層形成用重合性組成物において、成分Bの含有率は、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、例えば90.0質量%以下であることができ、85.0質量%以下であることが好ましく、80.0質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
上記プライマー層形成用重合性組成物がポリイソシアネートを含む場合、ポリイソシアネートの含有率は、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、例えば10.0質量%以上であることができ、15.0質量%以上であることが好ましく、20.0質量%以上であることがより好ましい。また、上記プライマー層形成用重合性組成物において、ポリイソシアネートの含有率は、組成物の全量(ただし重合開始剤を除く)を100質量%として、例えば80.0質量%以下であることができ、75.0質量%以下であることが好ましく、70.0質量%以下であることがより好ましい。
【0043】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、更に重合開始剤を含むことができる。重合開始剤については、先の記載を参照できる。上記プライマー層形成用重合性組成物は、成分Bとポリイソシアネートとの合計を100質量%として、重合開始剤を、例えば0.1~5.0質量%の範囲の含有率で含むことができる。
【0044】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0045】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、更に、プライマー層形成のための組成物に通常添加され得る公知の添加剤を任意の量で含むことができる。添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0046】
上記プライマー層形成用重合性組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0047】
上記プライマー層形成用重合性組成物を基材に塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって、上記プライマー層形成用重合性組成物が硬化した硬化層であるプライマー層を基材上に形成することができる。塗布方法については、先の記載を参照できる。塗布前の基材表面には、基材表面の清浄化等のために、アルカリ処理、UVオゾン処理等の公知の前処理の1つ以上を任意に施すことができる。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、上記プライマー層形成用重合性組成物に含まれる各種成分の種類や上記プライマー層形成用重合性組成物の組成に応じて決定すればよい。
【0048】
プライマー層の厚さは、例えば3μm以上であることができ、5μm以上であることが好ましい。また、プライマー層の厚さは、例えば15μm以下であることができ、10μm以下であることが好ましい。
【0049】
上記のフォトクロミック層を有する光学物品は、上記した各種の層に加えて一層以上の機能性層を更に有してもよく、有さなくてもよい。機能性層としては、光学物品の耐久性向上のための保護層、反射防止層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層等の光学物品の機能性層として公知の層を挙げることができる。
【0050】
上記光学物品の一形態は、眼鏡レンズである。また、上記光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることがでる。
【0051】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記光学物品の一形態である眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて発色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す実施形態に限定されるものではない。
【0053】
[眼鏡レンズ1]
<光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)の調製>
プラスチック製容器内で、成分Aであるポリエチレングリコールジメタクリレート(上式2中、n=14、Rはエチレン基、分子量736)58質量部、成分Bとして下記構造:
【化3】
を有するヒドロキシ基含有2官能メタクリレート30質量部および成分Cであるトリメチロールプロパントリメタクリレート(分子量296)12質量部を混合した。
こうして得られた重合性化合物の混合物に、フォトクロミック化合物(米国特許第5645767号明細書に記載の構造式で示されるインデノ縮合ナフトピラン化合物)、光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))、酸化防止剤(ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)])、光安定化剤(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル))を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)を調製した。
組成物の全量を100質量%とした上記成分の含有率は、上記重合性化合物の混合物は94.90質量%、フォトクロミック化合物は3.00質量%、光ラジカル重合開始剤は0.30質量%、酸化防止剤は0.90質量%、光安定化剤は0.90質量%である。
上記組成物において、重合性化合物の全量を100質量%として、成分Aの含有率は58.0質量%、成分Bの含有率は30.0質量%、成分Cの含有率は12.0質量%である。
【0054】
<眼鏡レンズの作製>
プラスチックレンズ基材(HOYA社製商品名EYAS;中心肉厚2.5mm、半径75mm、S-4.00)を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理した後に純水で洗浄し乾燥させた。その後、このプラスチックレンズ基材の凸面(物体側表面)にプライマー層を形成した。詳しくは、成分Bである下記構造:
【化4】
を有するヒドロキシ基含有2官能アクリレート(60質量部)をポリイソシアネートとして東ソー社製コロネート2715(40質量部)と混合した。こうして得られた混合物に、混合物の全量100質量%に対して0.2質量%の量で光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして得られたプライマー層形成用重合性組成物を温度25℃相対湿度50%の環境においてプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法により塗布した後、プラスチックレンズ基材上に塗布されたプライマー層形成用組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてプライマー層を形成した。形成されたプライマー層の厚さは8μmであった。
上記プライマー層の上に、上記で調製したフォトクロミック層形成用コーティング組成物をスピンコート法により塗布した。スピンコートは、特開2005-218994号公報に記載の方法により行った。その後、プラスチックレンズ基材上に塗布された上記組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは40μmであった。
こうして、フォトクロミック層を有する眼鏡レンズを作製した。
また、フォトクロミック層形成用組成物の塗布量を変えることにより、厚さ25μmのフォトクロミック層を有する眼鏡レンズも作製した。
【0055】
[眼鏡レンズ2]
成分A(ポリエチレングリコールジメタクリレート)を68質量部、成分Bに代えて成分Dである1,9-ノナンジオールジアクリレートを20質量部使用した点以外、実施例1と同様の方法で、厚さが異なる2種の眼鏡レンズを作製した。
【0056】
[密着性の評価]
上記の各眼鏡レンズについて、JIS K5600-5-6:1999にしたがい、クロスカット法によってフォトクロミック層と隣接層であるプライマー層との密着性を評価した。
隣接層との密着性に関しては、通常、フォトクロミック層の厚さが薄いほど有利な傾向がある。したがって、より厚いフォトクロミック層であっても隣接層との密着性に優れることは望ましい。眼鏡レンズ2については、厚さ40μmでのクロスカット法による評価において、100マスのマス目中、剥離マス目数は10個であった。これに対し、眼鏡レンズ1については、厚さ40μmでのクロスカット法による評価において、100マスのマス目中、剥離マス目数は2個であった。以上の結果から、眼鏡レンズ1のフォトクロミック層は、眼鏡レンズ2のフォトクロミック層と比べて隣接層との密着性に優れることが確認された。尚、眼鏡レンズ1、2とも、厚さ25μmの場合には、クロスカット法による評価において、100マスのマス目中、剥離マス目数は0~5個の範囲であった。
【0057】
[眼鏡レンズ3]
眼鏡レンズ1のフォトクロミック層の形成のために使用した重合性組成物の組成を変更し、成分Aであるポリエチレングリコールジメタクリレート(上式2中、n=14、Rはエチレン基、分子量736)68質量部、成分Bである先に示した構造を有するヒドロキシ基含有2官能メタクリレート5質量部、成分Cであるトリメチロールプロパントリメタクリレート(分子量296)12質量部および成分Dである1,9-ノナンジオールジアクリレート5質量部を混合した点以外、眼鏡レンズ1と同様の方法で眼鏡レンズ3を作製した。
【0058】
[眼鏡レンズ4]
眼鏡レンズ3のフォトクロミック層の形成のために使用した重合性組成物の組成を変更し、成分Bを添加せず、代わりに成分Dである1,9-ノナンジオールジアクリレートの添加量を20質量部に増量した点以外、眼鏡レンズ3と同様の方法で眼鏡レンズ4を作製した。
【0059】
[フォトクロミック層の性能評価]
以下の発色時透過率の測定を行う前の各眼鏡レンズの透過率(測定波長:550nm)を、大塚電子工業社製分光光度計により測定した。こうして測定される透過率を、以下ででは「初期透過率」と記載する。
その後、各眼鏡レンズのフォトクロミック層に対し、キセノンランプを使用してエアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、フォトクロミック層の表面に対して光照射し、フォトクロミック層中のフォトクロミック化合物を発色させた。この発色時の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子工業社製分光光度計により測定した。上記光照射は、JIS T7333:2005に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表1に示す値となるように行った。
【0060】
【0061】
上記の透過率(以下、「発色時透過率」と記載する。)の測定後、光照射を止めた時間から透過率(測定波長:550nm)が[(初期透過率-発色時透過率)/2]となるまでに要する時間(半減期)を測定した。こうして測定される半減期の値が小さいほど、退色速度が速く光応答性に優れると判断することができる。
【0062】
以上の結果を、表2に示す。
【0063】
【0064】
表2に示した結果から、眼鏡レンズ3において、成分Bはフォトクロミック層の光応答性に影響を及ぼしていないと言うことができる。
【0065】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0066】
一態様によれば、フォトクロミック化合物と、上記成分Aと、上記成分Bと、を含む、光学物品用重合性組成物が提供される。
【0067】
上記組成物によれば、隣接層との密着性に優れるフォトクロミック層を形成することができる。
【0068】
一形態では、上記組成物は、上記成分Cを更に含むことができる。
【0069】
一形態では、上記組成物は、上記成分Dを更に含むことができる。
【0070】
一形態では、上記組成物は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Aを50.0質量%以上含むことができる。
【0071】
一形態では、上記組成物は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Bを5.0質量%以上40.0質量%以下含むことができる。
【0072】
本発明の一態様によれば、基材と、上記組成物を硬化させたフォトクロミック層と、を有する光学物品が提供される。
【0073】
一形態では、上記光学物品は、眼鏡レンズであることができる。
【0074】
一形態では、上記光学物品は、ゴーグル用レンズであることができる。
【0075】
一形態では、上記光学物品は、サンバイザーのバイザー部分であることができる。
【0076】
一形態では、上記光学物品は、ヘルメットのシールド部材であることができる。
【0077】
一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0078】
本明細書に記載の各種態様および形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0079】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、眼鏡、ゴーグル、サンバイザー、ヘルメット等の技術分野において有用である。