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特許7387448オルガノアルコキシシランを含む添加剤組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】オルガノアルコキシシランを含む添加剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20231120BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231120BHJP
   C09D 183/12 20060101ALI20231120BHJP
   C09D 171/02 20060101ALI20231120BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20231120BHJP
   C07F 7/18 20060101ALN20231120BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/63
C09D183/12
C09D171/02
C09D7/20
C07F7/18 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020001538
(22)【出願日】2020-01-08
(65)【公開番号】P2021109900
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】500004955
【氏名又は名称】旭化成ワッカーシリコーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田畑 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】黒田 晃
(72)【発明者】
【氏名】シュタンイェーク,フォルカー
(72)【発明者】
【氏名】アンデルス,ウド
(72)【発明者】
【氏名】ライトマイヤー,クルト
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-508609(JP,A)
【文献】特表2010-539299(JP,A)
【文献】特開2012-042046(JP,A)
【文献】国際公開第2019/228643(WO,A1)
【文献】特開2016-094568(JP,A)
【文献】特表2013-525529(JP,A)
【文献】特表2017-523294(JP,A)
【文献】特開2009-280717(JP,A)
【文献】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン カタログ,日本,モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社,2007年04月,p.1-2,http://nisshosangyo.com/wp-content/themes/nisshosangyo/inc/pdf/A-137_PDS.pdfPD
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含む塗料に添加する、シラン架橋速度調整剤であって
前記シラン架橋速度調整剤は、OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシランを含み、または、前記シラン架橋速度調整剤は、前記OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシランと、前記OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシラン100重量部に対し、有機溶剤0.01重量部以上20重量部以下とからなり、
前記ポリマーは、下記一般式(1)であらわされる末端基を有する、シランを末端に有するポリプロピレングリコールであり、
前記シリコーン樹脂は、下記一般式(2)であらわされる平均組成を有するメトキシ官能性メチル-フェニルポリシロキサンである、
シラン架橋速度調整剤
-O-C(=O)-NH-CH -SiCH (OCH 、 ・・・(1)
(MeSiO 3/2 0.38 (MeSi(OEt)O 2/2 0.46 (MeSi(OEt) 1/2 0.15 (Me SiO 2/2 0.01 ・・・(2)
【請求項2】
前記有機溶剤は、酢酸エステル、および、直鎖または環状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項1に記載のシラン架橋速度調整剤
【請求項3】
前記有機溶剤は溶解性パラメータ(SP値)が6cal/cm以上15cal/cmである、請求項に記載のシラン架橋速度調整剤
【請求項4】
分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含む塗料にシラン架橋速度調整剤を添加して得た塗料組成物であって、
前記シラン架橋速度調整剤は、OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシランを含み、または、前記シラン架橋速度調整剤は、前記OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシランと、前記OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシラン100重量部に対し、有機溶剤0.01重量部以上20重量部以下とからなり、
前記ポリマーは、下記一般式(1)であらわされる末端基を有する、シランを末端に有するポリプロピレングリコールであり、
前記シリコーン樹脂は、下記一般式(2)であらわされる平均組成を有するメトキシ官能性メチル-フェニルポリシロキサンである、
塗料組成物
-O-C(=O)-NH-CH -SiCH (OCH 、 ・・・(1)
(MeSiO 3/2 0.38 (MeSi(OEt)O 2/2 0.46 (MeSi(OEt) 1/2 0.15 (Me SiO 2/2 0.01 ・・・(2)
【請求項5】
前記有機溶剤は、酢酸エステル、および、直鎖または環状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項4に記載の塗料組成物
【請求項6】
基材に塗膜を形成する方法であって、
分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含む塗料に、シラン架橋速度調整剤を添加して塗料組成物を得る工程と、
前記塗料組成物を前記基材に塗布する工程と、
前記塗料組成物の架橋が行われる工程と、を含み、
前記シラン架橋速度調整剤は、OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシランを含み、または、前記シラン架橋速度調整剤は、前記OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシランと、前記OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシラン100重量部に対し、有機溶剤0.01重量部以上20重量部以下とからなり、
前記ポリマーは、下記一般式(1)であらわされる末端基を有する、シランを末端に有するポリプロピレングリコールであり、
前記シリコーン樹脂は、下記一般式(2)であらわされる平均組成を有するメトキシ官能性メチル-フェニルポリシロキサンである、方法。
-O-C(=O)-NH-CH -SiCH (OCH 、 ・・・(1)
(MeSiO 3/2 0.38 (MeSi(OEt)O 2/2 0.46 (MeSi(OEt) 1/2 0.15 (Me SiO 2/2 0.01 ・・・(2)
【請求項7】
前記有機溶剤は、酢酸エステル、および、直鎖または環状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項6に記載の方法
【請求項8】
分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含む塗料に対するクラック発生抑制剤としての、シラン架橋速度調整剤の使用であって、
前記シラン架橋速度調整剤は、OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシランを含み、または、前記シラン架橋速度調整剤は、前記OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシランと、前記OCH CH 基を有するオクチルトリエトキシシラン100重量部に対し、有機溶剤0.01重量部以上20重量部以下とからなり、
前記ポリマーは、下記一般式(1)であらわされる末端基を有する、シランを末端に有するポリプロピレングリコールであり、
前記シリコーン樹脂は、下記一般式(2)であらわされる平均組成を有するメトキシ官能性メチル-フェニルポリシロキサンである、使用
-O-C(=O)-NH-CH -SiCH (OCH 、 ・・・(1)
(MeSiO 3/2 0.38 (MeSi(OEt)O 2/2 0.46 (MeSi(OEt) 1/2 0.15 (Me SiO 2/2 0.01 ・・・(2)
【請求項9】
前記有機溶剤は、酢酸エステル、および、直鎖または環状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種を含む、
請求項8に記載の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料に添加するオルガノアルコキシシランを含む添加剤組成物、シラン架橋速度調整剤を添加する工程を含む塗膜の形成方法、およびシラン架橋速度調整剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
床面や壁面の塗装をする塗料として有機ポリマー系の塗料が多数知られている。例えば、コンクリート面の塗装にはエポキシ樹脂系やポリウレタン系の塗料が多用されており、木材面の塗装にはこれらに加えて有機ラッカー系の塗料も使用される。
これらの塗料は、それ自身の粘度が高く作業性が悪いため、粘度を調整するために有機溶剤を配合して使用される。有機溶剤を含むこれらの塗料を用いて塗装をする場合、塗膜形成時に有機溶剤が揮発するため、塗膜の収縮がおこる。基材に対する塗膜の追随性が悪いと、溶剤揮発後の塗膜の基材への密着性が低下したり、基材から塗膜が剥離したりする恐れがある。
また、多量の有機溶剤で希釈すると、塗布作業の間に有機溶剤が揮発したり、塗布後にも塗膜内に残留した有機溶剤が徐々に揮発したりするため、環境面や、作業者・利用者の健康面から好ましくない。
【0003】
そこで揮発性成分の少ない塗料として、シラン架橋するコーティング剤も開発されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-521819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1に開示されるようなシラン架橋するコーティング剤は、形成された塗膜にクラックが生じやすいという欠点がある。また、このようなシラン架橋するコーティング剤の粘度が高い場合には、作業性を向上させるために希釈剤を添加する必要があるが、どのような希釈剤が高品質の塗膜を得るために好適であるかについての知見はなかった。
そこで、本発明は作業性が向上され、有機溶剤の含有量を低減させることができ、かつ、形成された塗膜におけるクラックの発生を抑制できる、塗料用添加剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る添加剤組成物は、塗料に添加させる添加剤組成物であって、下記一般(1)であらわされるオルガノアルコキシシランを含む。
SiR 3-x(OL) ・・・ (1)
(上記一般式(1)中、Rは4~20個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した、直鎖状、分枝鎖状もしくは環式の炭化水素基であり、Rは1~3個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した炭化水素基、または、全部で2~20個の炭素原子を有する、隣接していない酸素原子により中断された炭化水素基であり、Lは1~4個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した、直鎖状、分枝鎖状もしくは環式の炭化水素基であり、xは1、2又は3である)
【0007】
オルガノアルコキシシランは、アルコキシ基を有することによって塗料に対する反応性を有するものである。アルコキシ基に対して反応性を有する塗料とは、特に限定されず、例えばアルコキシシリル基、アルコキシ基、エポキシ基等との反応性の基を有する塗料である。
なお、上記添加剤組成物は、塗料のみならず、接着剤、シーリング材、コーティング剤、防水材等に添加することもできる。
【0008】
基材に塗料を塗布する際には、塗料の粘度を低下させて作業性を向上させる必要がある。ローラー等を使用して塗料を塗布する場合に、塗料の粘度が高すぎると均一に塗布することが困難となる上、ローラーに塗料を含ませる作業や、ローラーで塗布面に塗料を塗り広げる作業がやりにくくなるためである。
そこで本発明に係る粘度の低い添加剤組成物を塗料に添加することにより、塗料の粘度を低下させた。さらに、本発明の添加剤組成物は-SiOL基(アルコキシシリル基)を有しており、この部分が架橋反応に寄与する。架橋反応により硬化した添加剤組成物成分は、塗膜中に残留し、また有機溶剤を使用する必要がないため、揮発性生成物の発生が少ない。したがって環境への負荷や、塗布作業者、塗膜の使用者への健康上の懸念も低減される。その上、添加剤組成物が揮発しないため、塗膜形成時の塗膜の収縮が起こりにくい。
【0009】
また、-SiOL基を有することにより、架橋反応を適切な速度に維持することが可能となる。
反応性希釈剤としてのオルガノアルコキシシランについては、その反応性と、得られる塗布膜の性質との関係は知られておらず、従来は多数の塗料と多数の希釈剤との組み合わせを逐一作成し、得られる塗布膜の形態観察等により最適な組み合わせを選択していた。
これに対し、発明者らは、炭素数が1~4であるアルコキシ基をオルガノアルコキシシランの分子内に持たせることにより、架橋速度を適切に調整することが可能となり、その結果クラックの発生が少ない塗布膜を形成できることを見出した。
【0010】
本発明に係るオルガノアルコキシシランにおいて、Si原子に結合するアルコキシ基の数は、所望する架橋速度や、所望する架橋密度に応じて選択することができ、その数は1個でもよいが、2個または3個であってもよい。
アルコキシ基を有することにより、シランの架橋速度を調整し、塗膜が形成される際に急激に塗膜が硬化する現象を抑制することができるため、クラックの発生を抑制することができると考えられる。アルコキシ基の数が大きい場合(例えば一般式(1)においてxが3である場合)ほど架橋速度が緩慢になり、クラックの発生もより抑制することができる。
アルコキシ基の数が少ない場合(例えば一般式(1)においてxが1である場合)には架橋速度の緩慢化への寄与は、アルコキシ基の数が多い場合よりも低下するが、架橋密度が低下するため塗膜の可撓性が向上し、クラックの発生を抑制することができる。
アルコキシ基としては、炭素数が1~4であればよいが、所望する塗膜の特性や、塗料の種類に応じて選択することができ、炭素数が1~3であるアルコキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適である。炭素数が2であるエトキシ基を有するオルガノアルコキシシランは適度な架橋速度を示すことから、クラックの発生がさらに少ない塗膜が得られることから、より好適である。
トリエトキシシリル基を有するオルガノアルコキシシラン(一般式(1)においてxが3である)は、適度な架橋速度を示すため、形成される塗膜におけるクラックの発生が特に少ない。また、モノエトキシシリル基やジエトキシシリル基を有するオルガノアルコキシシランよりも架橋密度が高く、優れた強度の塗膜を形成することができる。
【0011】
本発明に係るオルガノアルコキシシランにおいてSi原子に結合するRは1~3個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した炭化水素基、または、全部で2~20個の炭素原子を有する、隣接していない酸素原子により中断された炭化水素基である。
は特に限定されず、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、ノルマルイソプロピル基等の直鎖または分岐の脂肪族炭化水素基であってもよく、隣接していない酸素原子により中断された炭化水素基であってもよい。
本発明に係るオルガノアルコキシシランにおいて、Rは4~20個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した、直鎖状、分枝鎖状もしくは環式のアルキル基、アルケニル基又はアリールアルキル基である。Rは特に限定されず、例えばイソオクチル基、ノルマルオクチル基、デシル基、ドデシル基等であってもよい。
【0012】
好ましいオルガノアルコキシシランの例は、イソオクチルトリメトキシシラン、イソオクチル(メチル)ジメトキシシラン、イソオクチル(ジメチル)メトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチル(メチル)ジメトキシシラン、n-オクチル(ジメチル)メトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、デシル(メチル)ジメトキシシラン、デシル(ジメチル)メトキシシラン、ドデシル(メチル)ジメトキシシラン、ドデシル(ジメチル)メトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシル(メチル)ジメトキシシラン、ドデシル(ジメチル)メトキシシラン、テトラデシルトリメトキシシラン、テトラデシル(メチル)ジメトキシシラン、テトラデシル(ジメチル)メトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシル(メチル)ジメトキシシラン、ヘキサデシル(ジメチル)メトキシシランである。
【0013】
好ましいオルガノアルコキシシランの例はまた、イソオクチルトリエトキシシラン、イソオクチル(メチル)ジエトキシシラン、イソオクチル(ジメチル)エトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-オクチル(メチル)ジエトキシシラン、n-オクチル(ジメチル)エトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、デシル(メチル)ジエトキシシラン、デシル(ジメチル)エトキシシラン、ドデシル(メチル)ジエトキシシラン、ドデシル(ジメチル)エトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ドデシル(メチル)ジエトキシシラン、ドデシル(ジメチル)エトキシシラン、テトラデシルトリエトキシシラン、テトラデシル(メチル)ジエトキシシラン、テトラデシル(ジメチル)エトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシル(メチル)ジエトキシシラン、ヘキサデシル(ジメチル)エトキシシランである。
【0014】
好ましいオルガノアルコキシシランの例はまた、イソオクチルトリプロポキシシラン、イソオクチル(メチル)ジプロポキシシラン、イソオクチル(ジメチル)プロポキシシラン、n-オクチルトリプロポキシシラン、n-オクチル(メチル)ジプロポキシシラン、n-オクチル(ジメチル)プロポキシシラン、デシルトリプロポキシシラン、デシル(メチル)ジプロポキシシラン、デシル(ジメチル)プロポキシシラン、ドデシル(メチル)ジプロポキシシラン、ドデシル(ジメチル)プロポキシシラン、ドデシルトリプロポキシシラン、ドデシル(メチル)ジプロポキシシラン、ドデシル(ジメチル)プロポキシシラン、テトラデシルトリプロポキシシラン、テトラデシル(メチル)ジプロポキシシラン、テトラデシル(ジメチル)プロポキシシラン、ヘキサデシルトリプロポキシシラン、ヘキサデシル(メチル)ジプロポキシシラン、ヘキサデシル(ジメチル)プロポキシシランである。
【0015】
好ましいオルガノアルコキシシランの例はまた、イソオクチルトリブトキシシラン、イソオクチル(メチル)ジブトキシシラン、イソオクチル(ジメチル)ブトキシシラン、n-オクチルトリブトキシシラン、n-オクチル(メチル)ジブトキシシラン、n-オクチル(ジメチル)ブトキシシラン、デシルトリブトキシシラン、デシル(メチル)ジブトキシシラン、デシル(ジメチル)ブトキシシラン、ドデシル(メチル)ジブトキシシラン、ドデシル(ジメチル)ブトキシシラン、ドデシルトリブトキシシラン、ドデシル(メチル)ジブトキシシラン、ドデシル(ジメチル)ブトキシシラン、テトラデシルトリブトキシシラン、テトラデシル(メチル)ジブトキシシラン、テトラデシル(ジメチル)ブトキシシラン、ヘキサデシルトリブトキシシラン、ヘキサデシル(メチル)ジブトキシシラン、ヘキサデシル(ジメチル)ブトキシシランである。
【0016】
本発明において、添加剤組成物の全量を100%とする場合に、オルガノアルコキシシランは、30重量%以上含有されることが好ましく、50重量%以上含有されることが特に好ましい。
オルガノアルコキシシランの含有量は、所望する架橋速度、所望するクラックの抑制程度等に応じて選択することができ、含有量が多いほうがクラック発生の抑制に大きく寄与することが可能となる。
なお、添加剤組成物には必要に応じて任意で(A)窒素を含有する有機ケイ素化合物、(B)触媒、(C)接着促進剤、(D)水捕捉剤、(E)フィラー等を含むことができる。
【0017】
(A)窒素を含有する有機ケイ素化合物は硬化性触媒又は共触媒の機能を有してもよい。
【0018】
(B)触媒はシラン縮合によって硬化可能な組成物のための触媒であり、有機チタン化合物やスズ触媒といった金属を含有する触媒であってもよく、トリエチルアミン等の金属を含まない触媒であってもよく、リン酸、酢酸等の酸性化合物であってもよい。
【0019】
(C)接着促進剤はシラン縮合によって硬化可能な系について使用される接着促進剤であってもよく、例えばエポキシシランおよびそれらの加水分解物であってもよい。
【0020】
(D)水補足材は、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、テトラエトキシシラン、O-メチルカルバメートメチルメチル-ジメトキシシラン、O-メチルカルバメートメチル-トリメトキシシラン、O-エチルカルバメートメチルメチル-ジエトキシシラン、O-エチル-カルバメート-メチルトリエトキシシラン等のシラン、及び/又はそれらの部分的な縮合物であってもよい。
【0021】
(E)フィラーは強化していないフィラー、すなわち、BET表面積が好ましくは50m/gまでのフィラー、例えば、石英、特に、石英粉、珪藻土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、タルク、カオリン、ゼオライト、金属酸化物粉末、例えば、アルミニウム酸化物、チタン酸化物、鉄酸化物又は亜鉛酸化物及び/又はそれらの混合酸化物、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素、ガラス粉末及びプラスチック粉末、例えば、ポリアクリロニトリル粉末;強化フィラー、すなわち、BET表面積が50m/gを超えるフィラー、例えば、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、沈降石灰、カーボンブラック、例えば、ファーネスカーボンブラック及びアセチレンブラック、大きなBET表面積を有するケイ素-アルミニウム混合酸化物、又は三水酸化アルミニウムである。引用したフィラーは、疎水性化された状態であってもよく、例えば、有機シラン及び/又は有機シロキサンを用いるか、又はステアリン酸を用いた処理の結果として、又はヒドロキシル基からアルコキシ基へのエーテル化の結果としての疎水性化された状態であってもよい。本発明に係る組成物は、わずか1種類のフィラーを含んでいてもよく、又は複数の異なるフィラー(H)の混合物を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の添加剤組成物は、オルガノアルコキシシラン100重量部に対し、0.01重量部以上20重量部以下の有機溶剤を含有することができる。有機溶剤の量はより好ましくは1重量部以上5重量部以下である。含有される有機溶剤は1種でもよく、2種以上の混合溶剤であってもよい。
【0023】
本発明において、有機溶剤は溶解性パラメータ(SP値)が6cal/cm以上15cal/cmであってもよく、8cal/cm以上11cal/cmであることがより好ましい。
上記範囲のSP値を示す有機溶剤は、基材に塗料組成物を塗布した際に発生する泡の界面に配向して破泡したり、塗膜表面でのラメラ上の液相を破壊して破泡したりする。
【0024】
本発明において、有機溶剤は酢酸エステル、および、直鎖または環状ケトンからなる群より選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0025】
直鎖または環状ケトンを配合することにより、塗布の際の泡噛みが特に低減され、仕上がり性の高い塗膜を形成することが可能となる。
酢酸エステルを配合することにより、得られる塗膜のレベリング性が高くなる。直鎖または環状ケトンと、酢酸エステルとを同時に含有することも可能であり、より泡噛みが少なくレベリング性の高い塗膜を得ることが可能となる。
【0026】
本発明に係る添加剤組成物が添加される塗料は、分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含むことができる。
【0027】
本発明に係るポリマーは、以下の一般式(2)で表されるポリマーであってもよい。
Y-[(CR -SiR (OR3-a (2)
(式中、
Yは、窒素、酸素、硫黄、または炭素を介して結合されたy価のポリマー基であり、
は、同じであっても異なってもよく、一価の、場合によって置換されているSiC-結合した炭化水素基であり、
は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または炭素原子に窒素、リン、酸素、硫黄またはカルボニル基が結合することができる一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
は、同じであっても異なってもよく、水素原子、または一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
yは、1から10までの整数、好ましくは1、2、または3、より好ましくは1または2であり、
aは、同じであっても異なってもよく、0、1もしくは2、好ましくは0または1であり、およびbは、同じであっても異なってもよく、1から10までの整数、好ましくは1、3、または4、より好ましくは1または3、より特定すれば1である。)
【0028】
基Rの例は、アルキル基、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、1-n-ブチル、2-n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert-ペンチル基;ヘキシル基、例えばn-ヘキシル基;ヘプチル基、例えば、n-ヘプチル基;オクチル基、例えばn-オクチル基、イソオクチル基および2,2,4-トリメチルペンチル基;ノニル基、例えば、n-ノニル基;デシル基、例えば、n-デシル基;ドデシル基、例えば、n-ドデシル基;オクタデシル基、例えば、n-オクタデシル基;シクロアルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル基およびメチルシクロヘキシル基;アルケニル基、例えば、ビニル、1-プロペニルおよび2-プロペニル基;アリール基、例えば、フェニル、ナフチル、アントリルおよびフェナントリル基;アルカリール基、例えば、o-、m-、p-トリル基、キシリル基およびエチルフェニル基、ならびにアラルキル基、例えば、ベンジル基、α-およびβ-フェニルエチル基である。
【0029】
置換された基Rの例は、ハロアルキル基、例えば、3,3,3-トリフルオロ-n-プ
ロピル基、2,2,2,2’,2’,2’-ヘキサフルオロイソプロピル基およびヘプタフルオロイソプロピル基、ならびにハロアリール基、例えば、o-、m-およびp-クロロフェニル基である。
【0030】
基Rは、好ましくは場合によってハロゲン原子によって置換されており1から6個の炭素原子を有している一価の炭化水素基を、より好ましくは1個または2個の炭素原子を有するアルキル基、より特定的にはメチル基を含む。
【0031】
基Rの例は、水素原子、Rに対して特定した基、また炭素原子に、窒素、リン、酸素、硫黄、炭素、またはカルボニル基によって結合されている、場合によって置換されている炭化水素基である。
【0032】
好ましくは、Rは、水素原子および1から20個までの炭素原子を有する炭化水素基であり、より特定的には水素原子である。
【0033】
基Rの例は、水素原子または基Rに対して特定した例である。
【0034】
基Rは、好ましくは、水素原子、または場合によってハロゲン原子によって置換されており、1から10個までの炭素原子を有するアルキル基、より好ましくは1から4個までの炭素原子を有するアルキル基、より特定的にはメチルおよびエチル基である。
【0035】
ポリマー基Yのベースとなるポリマーは、本発明においては、主鎖中の全結合の少なくとも50%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%が炭素-炭素、炭素-窒素、または炭素-酸素結合である全てのポリマーであることが理解されるべきである。
【0036】
ポリマー基Yは、有機ポリマー基を好ましくは含み、それは、ポリマー鎖として、ポリオキシアルキレン、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーおよびポリオキシプロピレン-ポリオキシブチレンコポリマー;炭化水素ポリマー、例えば、ポリイソブチレン、ポリエチレン、またはポリプロピレンおよびポリイソブチレンのイソプレンとのコポリマー;ポリイソプレン;ポリウレタン;ポリエステル、ポリアミド;ポリアクリレート;ポリメタクリレート;およびポリカーボネートを含み、それらは、好ましくは、-O-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)O-、-NH-C(=O)-NH-、-NR’-C(=O)-NH-、NH-C(=O)-NR’-、-NH-C(=O)-、-C(=O)-NH-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-S-C(=O)-NH-、-NH-C(=O)-S-、-C(=O)-S-、-S-C(=O)-、-S-C(=O)-S-、-C(=O)-、-S-、-O-および-NR’-によって1つの基または複数の基-[(CR -SiR(OR3-a]に結合され、ただし、R’は、同じであっても異なってもよく、Rに対して与えられた定義を有し、または基-CH(COOR”)-CH-COOR”であり、ここでR”は同じであっても異なってもよく、Rに対して与えられた定義を有する。
【0037】
基R’の例は、シクロヘキシル、シクロペンチル、n-プロピルおよびイソプロピル、n-ブチル、イソブチルおよびtert-ブチル、ペンチル基、ヘキシル基、またはヘプチル基のさまざまな立体異性体、およびまたフェニル基である。
【0038】
基R’は、好ましくは、基-CH(COOR”)-CH-COOR”または1から20個までの炭素原子を有する、場合によって置換されている炭化水素基、より好ましくは1から20個までの炭素原子を有する直鎖の基、分枝した基もしくはシクロアルキル基、
または6から20個の炭素原子を有しており、場合によってハロゲン原子によって置換されているアリール基である。
【0039】
基R”は、好ましくは1から10個までの炭素原子を有するアルキル基、より好ましくはメチル基、エチル基、またはプロピル基である。
【0040】
より好ましくは、式(2)中の基Yは、ポリウレタン基およびポリオキシアルキレン基を、より好ましくはポリオキシプロピレン含有ポリウレタン基またはポリオキシプロピレン基を含む。
【0041】
本発明のポリマーは、ポリマー中の任意の望ましい位置、例えば、鎖内および/または末端に、好ましくは鎖内および末端に、より好ましくは末端に、記載されている様式で結合している基-[(CR -SiR(OR3-a]を有することができる。
【0042】
本発明に従って使用されるポリマーの末端基は、好ましくは、一般式
-O-C(=O)-NH-(CR -SiR(OR3-a (3)
および
-NH-C(=O)-NR’-(CR -SiR(OR3-a (4)
(式中、基および添字はそれらに対して上で特定された定義の一つを有する。)
である。
【0043】
本発明の1つの特に好ましい実施形態において、化合物(A)は、いずれの場合も、-O-C(=O)-NH-(CR 基または-NH-C(=O)-NR’-(CR 基(R’、Rおよびbは、上で特定した定義の1つを有する。)によって結合されているジメトキシメチルシリル、トリメトキシシリル、ジエトキシメチルシリル、またはトリエトキシシリル末端基を有するシラン末端ポリエーテルおよびシラン末端ポリウレタン、より特定的にはシラン末端ポリプロピレングリコールおよびシラン末端ポリウレタンを含む。
【0044】
ポリマーの平均分子量Mは、好ましくは少なくとも400g/モル、より好ましくは少なくとも600g/モル、より特定的には少なくとも800g/モルであり、好ましくは30,000g/モル未満、より好ましくは19,000g/モル未満、より特定的には13,000g/モル未満である。
【0045】
ポリマーの粘度は、いずれの場合にも20℃で測定されて、好ましくは少なくとも0.2Pas、より好ましくは少なくとも1Pas、非常に好ましくは少なくとも5Pasであり、好ましくは1,000Pas以下、より好ましくは700Pas以下である。
【0046】
本発明に従って使用されるポリマーは、商業製品であるかまたは化学においては一般的な方法によって調製され得る。
【0047】
ポリマーを調製するための適切な製造方法およびポリマーの例それ自体も、既知であり、本明細書の開示内容に含まれるEP 1 535 940 B1(段落[0005]-[0025]および同様に発明の実施例1-3および比較例1-4)またはEP 1 896 523 B1(段落[0008]-[0047])を含めた出版物に記載されている。対応するポリマーは、例えば、Wacker ChemieからGENIOSIL(登録商標)STP-Eの名称の下で市販されてもいる。
【0048】
本発明に係るシリコーン樹脂は、下記の一般式(3)で表される単位を含むシリコーン樹脂であってもよい。
(RO) SiO(4-c-d-e)/2 (3)
(式中、
は、同じであっても異なってもよく、水素原子、一価の、SiC-結合した、場合によって置換されている脂肪族炭化水素基、または式(3)の2つの単位を橋かけしている二価の、場合によって置換されている脂肪族炭化水素基であり、
は、同じであっても異なってもよく、水素原子または一価の、場合によって置換されている炭化水素基であり、
は、同じであっても異なってもよく、一価の、SiC-結合した、場合によって置換されている芳香族炭化水素基であり、
cは、0、1、2、もしくは3であり、
dは、0、1、2、もしくは3、好ましくは0、1、または2、より好ましくは0または1であり、
eは、0、1、もしくは2、好ましくは0または1であり、
ただし、c+d+eの合計は、3以下であり、式(3)の単位の少なくとも40%においてc+eの合計は0もしくは1である。)
【0049】
本発明の塗料は、10重量部のポリマーに基づき、好ましくは少なくとも60重量部の、より好ましくは、少なくとも80重量部のシリコーン樹脂を含む。
【0050】
シリコーン樹脂は、好ましくは、少なくとも90重量%程度の式(3)の単位からなる。特に好ましくは、シリコーン樹脂は、式(3)の単位のみからなる。
【0051】
基Rの例は、Rに対して上で特定した脂肪族の例である。しかしながら、基Rは、
また、例えば、式(II)の2つのシリル基を互いに結び付けている、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、またはブチレン基等の1から10個の炭素原子を有するアルキレン基等の二価の脂肪族基を含むこともできる。二価の脂肪族基の1つの特に現時点の例は、エチレン基である。
【0052】
しかしながら、基Rは、好ましくは、ハロゲン原子により場合によって置換されており、1から18個までの炭素原子を有する一価のSiC-結合した脂肪族炭化水素原子群、より好ましくは1から6個までの炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、より特定的にはメチル基を含む。
【0053】
基Rの例は、水素原子、または、基Rに対して特定されている例である。
【0054】
基Rは、水素原子、または場合によりハロゲン原子によって置換されており、1から10個までの炭素原子を有するアルキル基、より好ましくは1から4個までの炭素原子を有するアルキル基、より特定的にはメチルおよびエチル基を含む。
【0055】
基Rの例は、Rに対して上で特定されている芳香族基である。
【0056】
基Rは、好ましくは、場合によってハロゲン原子によって置換されており1から18までの炭素原子を有するSiC-結合した芳香族炭化水素基、例えば、エチルフェニル、トリル、キシリル、クロロフェニル、ナフチル、またはスチリル基、より好ましくはフェニル基を含む。
【0057】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂の例は、実質的に、好ましくは排他的に、(Q)式SiO4/2、Si(OR)O3/2、Si(OR2/2およびSi(OR1/2の単位、(T)式PhSiO3/2、PhSi(OR)O2/2およびPhSi(OR1/2の単位、(D)式MeSiO2/2およびMeSi(OR)O1/2の単位、ならびに(M)式MeSiO1/2の単位からなる(式中、Meはメチル基であり、Phはフェニル基であり、Rは、水素原子または場合によってハロゲン原子によって置換されており、1から10個の炭素原子を有しているアルキル基、より好ましくは水素原子または1から4個の炭素原子を有しているアルキルである。)オルガノポリシロキサン樹脂であり、樹脂は好ましは、(T)単位のモル当り、0-2モルの(Q)単位、0-2モルの(D)単位、0-2モルの(M)単位を含む。
【0058】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂は、好ましくは少なくとも400g/モルの、より好ましくは少なくとも600g/モルの平均モル質量(数平均)Mnを有する。この平均モル質量Mは、好ましくは400,000g/モル以下、より好ましくは100,000g/モル以下、より特定的には50,000g/モル以下である。
【0059】
本発明に従って使用されるシリコーン樹脂は、23℃および1,000hPaにおいて固体または液体のいずれかであり得、シリコーン樹脂は、好ましくは液体である。このシリコーン樹脂は、10から100,000mPasまで、好ましくは50から50,000mPasまで、より特定的には100から20,000mPasまでの粘度を好ましくは有する。このシリコーン樹脂は、好ましくは5以下、より好ましくは3以下の多分散性(M/M)を有する。
【0060】
本発明では、塗料のアルコキシシリル基と、オルガノアルコキシシランのエトキシ基とが縮合反応により架橋され、塗膜が形成される。縮合反応により揮発して系外に蒸散される物質はエタノールのみであり、縮合時の塗膜の収縮は小さい。また所望の架橋反応速度を有することにより徐々に硬化しながら塗膜が形成されることで、クラックの少ない塗膜を得ることが可能となる。本発明によれば、塗布作業時の有害な有機溶剤の蒸散が少なく作業者への負担が軽い。また塗膜中に残留するエタノール量も少ないため得られた塗膜を使用する際においても使用者や環境に与えるダメージが少ない。
【0061】
本発明はまた、分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含む塗料に添加する添加剤組成物であって、シラン架橋速度調整剤を前記添加剤組成物中に30重量%以上含む、添加剤組成物である。
【0062】
塗料中のアルコキシシリル基が架橋し、塗膜が形成されるが、シラン架橋速度調整剤を30重量%以上含むことにより架橋速度を調整することが可能となる。架橋速度が速すぎると塗膜が急激に収縮しながら硬化する。ここでクラックが発生して仕上がり性が低下する。しかし本発明のシラン架橋速度調整剤を導入することにより、架橋速度を調整すると、収縮速度が緩慢になりクラックが発生しにくくなる。
【0063】
本発明のシラン架橋速度調整剤は、下記一般(1)であらわされるオルガノアルコキシシランであってもよい。
SiR 3-x(OL) ・・・ (1)
(上記一般式(1)中、Rは4~20個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した、直鎖状、分枝鎖状もしくは環式の炭化水素基であり、Rは1~3個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した炭化水素基、または、全部で2~20個の炭素原子を有する、隣接していない酸素原子により中断された炭化水素基であり、Lは1~4個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した、直鎖状、分枝鎖状もしくは環式の炭化水素基であり、xは1、2又は3である)
【0064】
特に分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含む塗料に対しては、アルコキシ基を有する架橋速度調整剤を用いることが好ましい。架橋速度調整剤中のアルコキシ基と、塗料中のアルコキシシリル基とが架橋反応をする際の反応速度を適度に調整することが可能となり、その結果、塗膜の収縮速度が制御される。するとアルコールを放出しながら塗膜が徐々に硬化し、収縮の度合いも高くないため、クラックの発生が抑制される。
オルガノアルコキシシランに含まれるアルコキシ基は、炭素数が1~4であればよいが、炭素数が1~3であることが好適であり、炭素数が2であることがより好適である。
【0065】
本発明はまた、基材に塗膜を形成する方法であって、
分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含む塗料に、シラン架橋速度調整剤を添加して塗料組成物を得る工程と、
前記塗料組成物を前記基材に塗布する工程と、
前記塗料組成物の架橋が行われる工程と、を含む。
【0066】
基材は上記の塗料組成物を塗布する表面を有するものであれば特に限定されず、例えばコンクリート、大理石、木材、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の表面を有するものであってもよい。
塗料にシラン架橋速度調整剤を添加して得た塗料組成物を基材に塗布すると、塗料中のアルコキシシリル基と、シラン架橋速度調整剤中のトリエトキシシリル基とが徐々に反応して架橋がおこり、硬化する。硬化とともに塗膜の収縮が起こるが、架橋速度を所望の速度に調整していることから急激な硬化・収縮は抑制され、クラックの発生が抑制される。したがって本発明に係る塗膜形成方法によれば、仕上がり性の高い塗膜を得ることが可能となる。また、架橋時に発生するのはシラン架橋速度調整剤に起因するエタノールのみであり、環境面や健康面で有害な有機溶剤を多量に蒸散させることはない。
さらに、本発明のシラン架橋速度調整剤は粘度が低く、塗料に添加すると塗料組成物の粘度を低下させることができ、作業性が向上する。
【0067】
本発明はまた、分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含む塗料に対するクラック発生抑制剤としての、シラン架橋速度調整剤の使用に関する。
【0068】
ここで、使用するシラン架橋速度調整剤は、下記一般(1)であらわされるオルガノアルコキシシランであってもよい。
SiR 3-x(OL) ・・・ (1)
(上記一般式(1)中、Rは4~20個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した、直鎖状、分枝鎖状もしくは環式の炭化水素基であり、Rは1~3個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した炭化水素基、または、全部で2~20個の炭素原子を有する、隣接していない酸素原子により中断された炭化水素基であり、Lは1~4個の炭素原子を有する、非置換もしくはハロゲン置換した、直鎖状、分枝鎖状もしくは環式の炭化水素基であり、xは1、2又は3である)
【0069】
シラン架橋速度調整剤を分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマーおよび/または分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂を含む塗料に使用すると、塗料中のアルコキシシリル基と、シラン架橋速度調整剤中のトリアルコキシシリル基とが徐々に反応して架橋がおこり、硬化する。硬化とともに塗膜の収縮が起こるが、架橋速度を所望の速度に調整していることから急激な硬化・収縮は抑制され、クラックの発生が抑制される。したがって本発明に係る塗膜形成方法によれば、仕上がり性の高い塗膜を得ることが可能となる。また、架橋時に発生するのはシラン架橋速度調整剤に起因するアルコールのみであり、環境面や健康面で有害な有機溶剤を多量に蒸散させることはない。
さらに、本発明のシラン架橋速度調整剤は粘度が低く、塗料に添加すると塗料組成物の粘度を低下させることができ、作業性が向上する。
【実施例
【0070】
以下に記載する実施例では、全ての報告している粘度は、23℃の温度において測定されたものである。特に明記しない限り、以下の実施例は、周囲雰囲気の圧力(すなわち、約1000hPa)、室温(すなわち、約23℃)又はさらなる加熱又は冷却を行うことなく、相対湿度約50%で反応剤を室温で合わせたときに達成される温度で行われる。さらに、特に明記しない限り、全ての報告している部及びパーセントは、重量基準である。
【0071】
以下の実施例は、以下の物質を使用した:
(分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するポリマー)
GENIOSIL(R)STP-E2:平均モル質量(M)が4000g/molであり、式-O-C(=O)-NH-CH-SiCH(OCHの末端基を有する、シランを末端に有するポリプロピレングリコール(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
【0072】
(分子内に1個以上のアルコキシシリル基を有するシリコーン樹脂)
フェニルシリコーン樹脂:トリメトキシフェニルシランの加水分解縮合物であり、25℃において280mm/sの動粘度、及び分子量M=2800g/mol、M=1000g/molを有する平均組成(MeSiO3/20.38(MeSi(OEt)O2/20.46(MeSi(OEt)1/20.15(MeSiO2/20.01であるT官能性低分子量メチルシロキサンを有するメトキシ官能性メチル-フェニルポリシロキサン。
【0073】
(分子内にOCHCH基を有するオルガノアルコキシシラン)
SILRES BS1701:OCHCH基を有するオクチルトリエトキシシラン(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
【0074】
(分子内にOCH基を有するオルガノアルコキシシラン)
SILRES BS1316:OCH基を有するイソオクチルトリメトキシシラン(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
【0075】
(分子内にOCHCH基を有するアルコキシシラン)
TES28:OCHCH基を有するテトラエトキシシシラン(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
【0076】
(分子内にOCHCH基を有するアルコキシシランの加水分解物であるシロキサン)
TES40:20℃(DIN51757)の密度が1.06~1.07g/cm、引火点(DIN51755)が62℃、SiO含量が約41%のオリゴマーテトラエトキシシラン加水分解物(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。
【0077】
(分子内にOCHCH基を有するアルコール)
エタノール:HOCHCH
【0078】
GENIOSIL(R)GF 9:N-(2-アミノ-エチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(Wacker Chemie AG(ミュンヘン、ドイツ)から市販)。架橋剤として機能する。
【0079】
(有機溶剤(環状ケトン))
シクロヘキサノン:C10
【0080】
(有機溶剤(酢酸エステル))
メトキシプロピルアセタート:COCHCO
【0081】
実施例1:ポリマーであるGENIOSIL(R)STP-E2と、フェニルシリコーン樹脂を混合して得られる塗料に、オルガノアルコキシシランであるSILRES BS1701を添加して塗料組成物を得る。各成分の配合量は表1に記載するとおりであり、GENIOSIL(R)STP-E2と、フェニルシリコーン樹脂は1:9の比率となるようにそれぞれ総量の9%と81%配合し、SILRES BS1701とGENOSIL(R)GF9はそれぞれ総量の5%ずつ配合した。
この塗料組成物をロールを用いてモルタルパネルに塗布する。一度塗布したのちに、標準的な気候条件(23℃/50%大気湿度)で24時間保存した後、同様にロールを用い、同じ量の材料を用いてもう一度、第2層を塗布する。2度の塗布で塗布される量の合計量は、約100g/mであり、これは実施例1~5及び比較例1~12で同様である。
得られた塗膜を標準的な気候条件(23℃/50%大気湿度)で7日間保存した後、目視で仕上がり性を確認した。クラック発生については、目視で単位面積(1m)あたりのクラック発生量を確認し、クラックが全く認められないものをレベル1、微細クラックがわずかに認められるものをレベル2、明確なクラックが1か所以上確認されるものをレベル3、明確なクラックが多く発生するものをレベル4、明確なクラックが非常に多く発生するものをレベル5、
おびただしいクラックが認められるものをレベル6とする6段階で評価した。クラック発生レベルは1および2であれば、塗膜の品質は合格レベルであり、クラック発生レベル3以上の場合には品質が使用に耐えず、不合格レベルと判定する。
泡発生については、目視で塗膜中の泡の有無を確認した。レベリング性については、被塗布面である基材と、形成された塗膜との段差の発生の有無を目視で確認した。
クラック発生、泡発生、段差発生についての評価方法は実施例1~9及び比較例1~7で同様である。
実施例1ではクラックの発生の全くない塗膜が形成された(クラック発生レベル1)。一方、泡と段差の発生は認められたため、レベリング性評価結果は「不良」とした。
【0082】
なお、実施例1~5における各成分の配合量と、得られた塗膜の評価結果は表1に記載されている。比較例1~12における各成分の配合量と、得られた塗膜の評価結果は表2に記載されている。
【0083】
実施例2:配合するSILRES BS1701の量を10%とし、それに応じてGENIOSIL(R)STP-E2と、フェニルシリコーン樹脂の配合量を調整したほかは実施例1と同様である。GENIOSIL(R)STP-E2と、フェニルシリコーン樹脂の配合比率を1:9とする比率は、実施例2~5および比較例1~12で同様である。
実施例2でもクラックの発生の全くない塗膜が形成された(クラック発生レベル1)。一方、泡と段差の発生は認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0084】
実施例3:有機溶剤として0.1%のシクロヘキサノンを配合したほかは、実施例1と同様である。
実施例3でもクラックの発生の全くない塗膜が形成された(クラック発生レベル1)。泡の発生は認められず、シクロヘキサノンの消泡効果が認められた。段差の発生は認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0085】
実施例4:有機溶剤として0.2%のメトキシプロピルアセタートを配合したほかは、実施例1と同様である。
実施例4でもクラックの発生の全くない塗膜が形成された(クラック発生レベル1)。泡の発生は認められたものの段差の発生は認められず、メトキシプロピルアセタートのレベリング効果が認められたといえる。レベリング性評価結果は「良好」である。
【0086】
実施例5:有機溶剤として0.1%のシクロヘキサノンと0.2%のメトキシプロピルアセタートを配合したほかは、実施例1と同様である。
実施例5でもクラックの発生のない塗膜が形成された。泡および段差の発生は認められず、シクロヘキサノンの消泡効果と、メトキシプロピルアセタートのレベリング効果が認められたといえる。
【0087】
実施例6:添加剤組成物として分子内にメトキシ基を有するSILRES BS1316を10%配合したほかは、実施例1と同様である。
実施例6では微細クラックがわずかに認められ、クラック発生レベルは2と認定された。メトキシ基を有する添加剤組成物でも一定のクラック発生の抑制効果が認められた。泡と段差の発生も認められた。レベリング性評価結果は「良好」である。
【0088】
実施例7:有機溶剤として0.1%のシクロヘキサノンを配合したほかは、実施例6と同様である。
実施例7ではクラックは実施例6と同様に微細クラックがわずかに認められ、クラック発生レベルは2と認定された。実施例7においてもメトキシ基を有する添加剤組成物が一定のクラック発生の抑制効果を示すことが確認された。泡の発生は認められず、シクロヘキサノンの消泡効果が認められた。段差の発生は認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0089】
実施例8:有機溶剤として0.2%のメトキシプロピルアセタートを配合したほかは、実施例6と同様である。
実施例8ではクラックは実施例6と同様に微細クラックがわずかに認められ、クラック発生レベルは2と認定された。実施例8においてもメトキシ基を有する添加剤組成物が一定のクラック発生の抑制効果を示すことが確認された。泡の発生は認められたものの段差の発生は認められず、レベリング性評価結果は「良好」である。メトキシプロピルアセタートのレベリング効果が認められたといえる。
【0090】
実施例9:有機溶剤として0.1%のシクロヘキサノンと0.2%のメトキシプロピルアセタートを配合したほかは、実施例6と同様である。
実施例9ではクラックは実施例6と同様に微細クラックがわずかに認められ、クラック発生レベルは2と認定された。実施例9においてもメトキシ基を有する添加剤組成物が一定のクラック発生の抑制効果を示すことが確認された。泡および段差の発生は認められず、レベリング性評価結果は「良好」である。シクロヘキサノンの消泡効果と、メトキシプロピルアセタートのレベリング効果が認められたといえる。
【0091】
【表1】
【0092】
比較例1:添加剤組成物を配合しないほかは、実施例1と同様である。
比較例1では明確なクラックが1か所以上確認され、クラック発生レベルは3と認定された。泡と段差の発生も認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0093】
比較例2:添加剤組成物として分子内にエトキシ基を有するが一般式(1)中に示すRやRを有しないテトラエトキシシラン(TES28)を5%配合したほかは、比較例2と同様である。
比較例2では明確なクラックが1か所以上確認され、クラック発生レベルは3と認定された。RやRを有しない組成物ではクラック発生の抑制効果が不十分であると考えられる。泡と段差の発生も認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0094】
比較例3:添加剤組成物としてテトラエトキシシラン(TES28)を10%配合したほかは、比較例2と同様である。
比較例8では明確なクラックが多く発生し、発生程度はレベル4と認定された。泡と段差の発生も認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0095】
比較例4:添加剤組成物として分子内にOCHCH基を有するが一般式(1)中に示すRやRを有しないアルコキシシランの加水分解物であるシロキサン(TES40)を5%配合したほかは、比較例2と同様である。
比較例4では明確なクラックが1か所以上確認され、クラック発生レベルは3と認定された。泡と段差の発生も認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0096】
比較例5:添加剤組成物としてシロキサン(TES40)を10%配合したほかは、比較例2と同様である。
比較例5では明確なクラックが1か所以上確認され、クラック発生レベルは3と認定された。泡と段差の発生も認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0097】
比較例6:添加剤組成物として分子内にOCHCH基を有するが一般式(1)中に示すRやRを有しないエタノールを5%配合したほかは、比較例2と同様である。
比較例6では明確なクラックが多く発生し、発生程度はレベル4と認定された。泡と段差の発生も認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0098】
比較例7:添加剤組成物として分子内にOCHCH基を有するが一般式(1)中に示すRやRを有しないエタノールを5%配合したほかは、比較例2と同様である。
比較例7では明確なクラックが非常に多く発生し、クラック発生レベルは5と認定された。泡と段差の発生も認められた。レベリング性評価結果は「不良」である。
【0099】
【表2】