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特許7387489水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法
(51)【国際特許分類】
   F28G 13/00 20060101AFI20231120BHJP
   F28B 3/04 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
F28G13/00 A
F28B3/04
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020029465
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021134948
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】福田 憲弘
(72)【発明者】
【氏名】竹内 和久
(72)【発明者】
【氏名】河田 匡仙
【審査官】古川 峻弘
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-076769(JP,A)
【文献】特開2018-091809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28G 1/00-15/10
F28B 1/00-11/00
F28C 1/00- 3/18
F28F 27/00-27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地熱坑井から噴出した地熱流体により回転駆動するタービンと、前記タービンから排出された蒸気を冷却水と接触させて冷却する熱交換器と、冷却水が流通する冷却水系統と、を備える地熱発電プラントに適用される水処理システムであって、
硫化水素が溶解した冷却水において固体硫黄が析出する水質の範囲を析出範囲として、前記冷却水系統内における冷却水のpH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方が前記析出範囲外となるように目標値を設定する設定部と、
前記目標値に基づいて冷却水の水質を調整する調整部と、
を備える水処理システム。
【請求項2】
前記析出範囲は、固体硫黄が析出する可能性のあるpH及び酸化還元電位の範囲として予め設定されている請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記調整部は、前記目標値がpHに対して設定されている場合に、冷却水のpHの計測値とpHの前記目標値との差分に基づいてpH調整剤の投入量を決定する請求項1または2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記pH調整剤は、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム、及び硫酸の少なくともいずれか1つである請求項3に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記調整部は、前記目標値が酸化還元電位に対して設定されている場合に、冷却水の酸化還元電位の計測値と酸化還元電位の前記目標値との差分に基づいて、印加電圧及び酸化還元電位調整剤の投入量の少なくともいずれか一方を決定する請求項1から4のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記酸化還元電位調整剤は、酸素、過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸、ギ酸及び亜硫酸無機還元剤の少なくともいずれか1つである請求項5に記載の水処理システム。
【請求項7】
前記設定部は、調整前の水質状態に対してより少ない調整量で水質が前記析出範囲外となるように、前記目標値を設定する請求項1から6のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項8】
前記調整部は、前記冷却水系統において、冷却水の水質が前記析出範囲内となる可能性があると予め設定された位置を調整位置として、前記調整位置を流通する冷却水の水質を調整する請求項1から7のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項9】
前記調整位置は、前記冷却水系統であって、複数の前記熱交換器の少なくともいずれか1つに対して設定されている請求項8に記載の水処理システム。
【請求項10】
前記熱交換器は、前記地熱流体を前記冷却水と接触させて冷却するガスクーラ、インターコンデンサ、及びアフターコンデンサの少なくともいずれか1つを含む請求項9に記載の水処理システム。
【請求項11】
前記調整位置は、前記ガスクーラの内部に設けられ、前記冷却水を一時的に滞留することができる複数のトレイの少なくともいずれか1つに対して設定されている請求項10に記載の水処理システム。
【請求項12】
前記冷却水系統における水質状態を、前記析出範囲外の領域において所定の時間間隔で遷移させる遷移部を備える請求項1から11のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項13】
前記遷移部は、水質状態として、pH、酸化還元電位、及び酸素濃度の少なくともいずれか1つを遷移させる請求項12に記載の水処理システム。
【請求項14】
地熱坑井から噴出した地熱流体により回転駆動するタービンと、
前記タービンの回転に連結して発電をする発電機と、
前記タービンから排出された蒸気を冷却水と接触させて冷却する熱交換器と、
冷却水が流通する冷却水系統と、
請求項1から13のいずれか1項に記載の水処理システムと、
を備える地熱発電プラント。
【請求項15】
地熱坑井から噴出した地熱流体により回転駆動するタービンと、前記タービンから排出された蒸気を冷却水と接触させて冷却する熱交換器と、冷却水が流通する冷却水系統と、を備える地熱発電プラントに適用される水処理方法であって、
硫化水素が溶解した冷却水において固体硫黄が析出する水質の範囲を析出範囲として、前記冷却水系統内における冷却水のpH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方が前記析出範囲外となるように目標値を設定する工程と、
前記目標値に基づいて冷却水の水質を調整する工程と、
を有する水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地熱発電プラントでは、坑井から噴気する地熱流体(主として蒸気及び熱水の混合流体)から分離した蒸気を蒸気タービンに導入して発電を行っている。フラッシュ式の地熱発電プラントでは復水器として一般的に蒸気タービンを回転駆動させるなど仕事を終了して排出された蒸気に対して、直接冷却水を散布して蒸気を復水とする直接接触式の復水器が使用される(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭60-200087号公報
【文献】特開2018-91809号公報
【文献】特開平9-228806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
地熱発電プラントにおいて地熱坑井から噴出した地熱流体(蒸気)でタービンを回転駆動した後に復水を行う場合、タービンから排出された蒸気を、冷却水と接触させて冷却を行うことで復水させる。このとき、地熱流体の蒸気中に含まれる非凝縮ガスである硫化水素の一部が冷却水に溶解して、機器構造物の腐食を発生させる場合がある。また、硫化水素が酸化されて硫酸に転換する反応を発生し、この際に中間物質として固体硫黄が析出して堆積することで冷却水の流れを阻害する場合がある。このような場合には、冷却水の流量が減少してしまうため、蒸気の冷却性能の低下や、地熱発電プラント全体としての性能低下を引き起こす可能性もある。
【0005】
冷却水系統において、固体硫黄の析出を抑制するために、固体硫黄の析出の一要因となる硫黄酸化細菌の増殖を抑制する殺菌剤を用いる方法や、固体硫黄の凝集を抑制する分散剤などの薬剤を投入する方法があるが、これらの方法では、薬剤のコストを抑制することが困難な場合もある。
【0006】
このため、より効果的に固体硫黄の析出を抑制して、地熱発電プラント全体として安定的に運転を行うことが求められている。
【0007】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、効果的に固体硫黄の析出を抑制することのできる水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1態様は、地熱坑井から噴出した地熱流体により回転駆動するタービンと、前記タービンから排出された蒸気を冷却水と接触させて冷却する熱交換器と、冷却水が流通する冷却水系統と、を備える地熱発電プラントに適用される水処理システムであって、硫化水素が溶解した冷却水において固体硫黄が析出する水質の範囲を析出範囲として、前記冷却水系統内における冷却水のpH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方が前記析出範囲外となるように目標値を設定する設定部と、前記目標値に基づいて冷却水の水質を調整する調整部と、を備える水処理システムである。
【0009】
本開示の第2態様は、地熱坑井から噴出した地熱流体により回転駆動するタービンと、前記タービンから排出された蒸気を冷却水と接触させて冷却する熱交換器と、冷却水が流通する冷却水系統と、を備える地熱発電プラントに適用される水処理方法であって、硫化水素が溶解した冷却水において固体硫黄が析出する水質の範囲を析出範囲として、前記冷却水系統内における冷却水のpH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方が前記析出範囲外となるように目標値を設定する工程と、前記目標値に基づいて冷却水の水質を調整する工程と、を有する水処理方法である。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、効果的に固体硫黄の析出を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の第1実施形態に係る地熱発電プラントの概略構成を示す図である。
図2】本開示の第1実施形態に係る復水系統の概略構成を示す図である。
図3】本開示の第1実施形態に係るガスクーラの概略構成を示す図である。
図4】本開示の第1実施形態に係る水処理システムのハードウェア構成の一例を示した図である。
図5】本開示の第1実施形態に係る水処理システムが備える機能を示した機能ブロック図である。
図6】本開示の第1実施形態に係る硫黄化学種のpHと酸化還元電位に対する安定関係を示した図である。
図7】本開示の第1実施形態に係る目標値設定の一例を示す図である。
図8】本開示の第1実施形態に係るpHを調整する場合の水処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図9】本開示の第1実施形態に係る酸化還元電位を調整する場合の水処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図10】本開示の第1実施形態に係るpH及び酸化還元電位を調整する場合の水処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図11】本開示の第1実施形態に係る水処理による水質状態の変化を示す図である。
図12】本開示の第1実施形態に係る冷却水の性状変化特性を示す図である。
図13】本開示の第1実施形態に係る図12に対応する水質変化を示す図である。
図14】本開示の第2実施形態に係る水処理システムが備える機能を示した機能ブロック図である。
図15】本開示の第2実施形態に係る遷移制御の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1実施形態〕
以下に、本開示に係る水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法の第1実施形態について、図面を参照して説明する。なお、水処理システム60は、坑井2から噴気される地熱流体によって発電を行う地熱発電プラント1であれば幅広く適用できるものであって、以下に説明する構成の地熱発電プラント1のみに適用を限定されるものではない。
【0013】
図1は、本開示の第1実施形態に係る地熱発電プラント1の概略構成を示す図である。本実施形態では、坑井2及び還元井3をそれぞれ1つ設ける場合について説明するが、坑井2及び還元井3はそれぞれ複数設けることとしてもよい。なお、図1に示す地熱発電プラント1は、フラッシュサイクル型の地熱発電プラントであるが、水処理システム60は、バイナリサイクル型など他の構成の地熱発電プラントであっても同様に適用することが可能である。また、水処理システム60は、地熱発電プラントに限らず、例えば地熱蒸気などの硫化硫黄を含む高温流体を熱利用する場合であっても同様に適用することが可能である。
【0014】
本実施形態に係る地熱発電プラント1は、図1に示すように、地熱流体輸送管(気液二相流体輸送管)5と、噴気流量調整弁(以下、単に「流量調整弁」という)4と、気水分離器(以下、「セパレータ6」という)6と、熱水管7と、蒸気管8と、蒸気タービン9と、復水系統20とを主な構成として備えている。また、地熱発電プラント1には、図5に示すような水処理システム60が適用される。
【0015】
地熱流体輸送管5は、坑井(地熱坑井、生産井)2から噴出された地熱流体をセパレータ6へ導く管である。坑井2の地下にはマグマ溜りが形成されており、地下に浸透した雨水や流入した地下水等がマグマ溜りの熱によって加熱され、地熱貯留層が形成される。地熱貯留層には、地熱流体が溜まっており、坑井2によって地上へ取り出される。地熱流体輸送管5は、坑井2を介して地熱貯留層からセパレータ6へ地熱流体を輸送している。なお、地熱流体とは、主として蒸気と熱水からなる気液二相混合流体である。
【0016】
流量調整弁(噴気流量調整弁)4は、地熱流体輸送管5上に設けられており、坑井2からセパレータ6へ流入する地熱流体の総流量(噴気量、蒸気と熱水の合計流量)を調整している。なお、流量調整弁4の調整により坑井2の坑口圧力を調整することもできる。
【0017】
また、地熱流体輸送管5上における地熱流体流れの上流側(坑井2出口付近)に、開閉弁(不図示)を設け、地熱流体の導通状態(導通状態または非導通状態)を制御することとしてもよい。
【0018】
セパレータ6は、地熱流体輸送管5により供給された気液二相混合流体である地熱流体を、蒸気と熱水に分離する装置である。セパレータ6によって分離された熱水は熱水管7に導かれ、セパレータ6によって分離された蒸気は蒸気管8へ導かれる。
【0019】
熱水管7は、セパレータ6によって分離された熱水を還元井3へ導く管である。還元井3を介して地下の地熱貯留層に熱水を還すことで、地下の地熱貯留層における地熱流体の枯渇を抑制する。セパレータ6によって分離された熱水は熱水管7、例えばポンプ(不図示)を介して還元井3へ圧送される。還元井3が複数設けられることとしてもよい。
【0020】
蒸気管8は、セパレータ6によって分離された蒸気を蒸気タービン9へ導く管である。セパレータ6が複数設けられている場合、各セパレータ6によって分離された蒸気は、蒸気管8で合流して蒸気タービン9へ供給される。
【0021】
蒸気タービン9は、坑井2から噴出された地熱流体がタービン翼に仕事を行うことにより回転駆動する。具体的には、セパレータ6によって熱水と分離されて蒸気管8により供給された蒸気のエネルギーによって回転軸を中心にタービン翼(不図示)を回転駆動させ、タービン翼の回転軸に連結して接続された発電機(不図示)を回転駆動して発電を行う。
【0022】
復水系統20は、蒸気タービン9において仕事を終えた蒸気を復水するための系統である。図2は、復水系統20の概略構成を示す図である。図2に示すように、復水器10と、冷却塔16と、ガスクーラ(ガス冷却器)11と、インターコンデンサ(中段冷却器)13と、アフターコンデンサ(後段冷却器)15とを備えている。なお、ガスクーラ11は復水器10の一部として一体に構成されていても良い。復水器10、ガスクーラ11、インターコンデンサ13、アフターコンデンサ15は、熱交換器となる。
【0023】
図2において、冷却水が流通する系統は冷却水系統となる。復水系統20では冷却水が使用されているため、復水系統20において冷却水が流通する系統が冷却水系統となる。より具体的には、復水器10と、冷却塔16と、ガスクーラ11と、インターコンデンサ13と、アフターコンデンサ15と、循環系統17と、供給系統18と(その他冷却水が流通する配管等を含む)により冷却水系統が構成されている。なお、本実施形態では、冷却水系統を図2に示す構成としているが、冷却水系統の構成は図2に限定されず、冷却水が流通する系統が冷却水系統となる。
【0024】
復水器10は、蒸気タービンから排出された蒸気を冷却水と接触させて復水する。具体的には、復水器10は、蒸気タービン9においてタービン翼(不図示)を回転駆動させる仕事をし終えた蒸気(タービン排気蒸気)に冷却水を散布して、蒸気を冷却して凝縮して復水する装置である。すなわち、復水器10は直接接触式である。蒸気タービン9から排出された蒸気には、非凝縮ガス(二酸化炭素や硫化水素など)が含まれているため、以下の説明では、蒸気タービン9から排出された流体を、「ガス」といい、説明を行う。復水された水は、復水ポンプ19により、循環系統17を介して冷却塔16へ供給される。また、凝縮されなかった非凝縮ガスを含む蒸気(ガス)は、ガスクーラ11へ供給される。
【0025】
冷却塔16は、復水器10において復水された水を蒸発冷却する装置である。具体的には、冷却塔16に供給された水は冷却塔16の上部から散布される。散布された水は、冷却塔16の送風機21によって流通する空気と接触することで一部が蒸発し、この蒸発に伴う潜熱によって他の水が冷やされる。冷やされた水は、冷却塔水として冷却塔16の水槽に貯水される。水槽に貯水されている冷却塔水は、供給系統18を介して冷却水として復水器10へ供給される。また、供給系統18は、ガスクーラ11、インターコンデンサ13、及びアフターコンデンサ15へも接続されており、各装置に冷却水を供給する。
【0026】
ガスクーラ11は、復水器10に対してガス流れの下流側に設けられている。そして、ガスクーラ11では、冷却水を用いてガスを冷却し凝縮する。ガスクーラ11は、図2に示すようにトレイ式である。なお、図2では、トレイ式の一例として3段のトレイ(上段トレイ,中段トレイ,下段トレイ)の構造を示したが、トレイは少なくとも1段あればよく、3段のトレイに限定するものではない。なお、充填層式等の他の構成のガスクーラ11を適用することも可能である。ガスクーラ11において、ガスクーラ11の筐体上部から冷却水が供給され、上段トレイ(第1トレイ)T1に冷却水が溜まる(液相)。そして、冷却水は、上段トレイT1に設けられた複数の穴から、上段トレイT1の下方側へ雨のように分散されて落下する。落下した冷却水は、中段トレイ(第2トレイ)T2へ溜まり、上段トレイT1と同様に冷却水はトレイT2に設けられた複数の穴から分散されて落下する。そして、落下した冷却水は、下段トレイ(第3トレイ)T3へ溜まり、上段トレイT1および中段トレイT2と同様に冷却水はトレイT3に設けられた複数の穴から分散されて落下する。
【0027】
このようにガスクーラ11内を落下する冷却水と、ガスとが接触し、ガスの冷却が行われる。冷却水と、凝縮により生じた水は、ガスクーラ11下部に溜まり、循環系統17によって冷却塔16へ供給される。
【0028】
図3は、ガスクーラ11の概略構成を示している。図3に示すようにガスクーラ11は上部に冷却水を供給する供給系統18が接続されており、ガスクーラ11より冷却水流れの上流側における供給系統18に対して注入装置C1が接続されている。注入装置C1は、後述する水処理システム60によって制御され、供給系統18を流れる冷却水に対して薬液(例えばpH調整剤)を注入する。注入する場合には、調整弁W1によって注入する薬液量が制御される。
【0029】
そして、ガスクーラ11を構成する各トレイ(上段トレイT1、中段トレイT2、及び下段トレイT3)には、トレイに溜まった冷却水(液相部)のpHを計測するためにpH計測器(M1、M2、M3)が設けられている。図3では、上段トレイT1にpH計測器M1を設け、中段トレイT2にpH計測器M2を設け、下段トレイT3にpH計測器M3を設けている。なお、上段トレイT1に対応してpH計測器M1のみを設けることとしてもよく、また、中段トレイT2に対応してpH計測器M2のみを設けることとしてもよく、下段トレイT3に対応してpH計測器M3のみを設けることとしてもよい。計測結果は、後述する水処理システム60で用いられる。なお、pH計測器については、少なくとも1つのトレイに設けられることとしてもよい。この場合には、復水系統20の運用を実施した際に、固体硫黄が最も析出しやすい環境にあるトレイに設けることが好ましい。なお、対象となるトレイは、ガス(地熱蒸気)中の硫化水素(HS)濃度などに依存するため、プラント毎に計測やシミュレーションで設定する。また、pH計測器については、冷却水のpHを計測することができれば図3の位置に限定されない。例えば、ガスクーラ11より冷却水流れの上流側における供給系統18であって、注入装置C1の接続位置よりも冷却水流れの上流側にpH計測器を設けることとしてもよい。注入装置C1の接続位置よりも冷却水流れの上流側にpH計測器を設けることで、注入された薬液の影響を受けることなく冷却水のpHを計測することができる。また、循環系統17にpH計測器を設けることとしてもよい。このように、冷却水のpHを計測することができれば、pH計測器の設置位置については限定されない。なお、pH計測器については、電気伝導率計を用いた計測結果からpHに換算してもよい。
【0030】
また、ガスクーラ11を構成する各トレイ(上段トレイT1、中段トレイT2、及び下段トレイT3)には、トレイに溜まった冷却水(液相部)の酸化還元電位を計測するために酸化還元電位計(N1、N2、N3)が設けられている。図3では、上段トレイT1に酸化還元電位計N1を設け、中段トレイT2に酸化還元電位計N2を設け、下段トレイT3に酸化還元電位計N3を設けている。計測結果は、後述する水処理システム60で用いられる。なお、酸化還元電位計については、少なくとも1つのトレイに設けられることとしてもよいし、冷却水の酸化還元電位を計測することができれば図3の設置位置に限定されない。例えば、酸化還元電位計については、冷却水系統の液相部に設けることとしてもよい。
【0031】
また、ガスクーラ11を構成する各トレイ(上段トレイT1、中段トレイT2、及び下段トレイT3)には、冷却水に電圧を印加する電位調整用電極(V1、V2、V3)が設けられている。図3では、上段トレイT1に電位調整用電極V1を設け、中段トレイT2に電位調整用電極V2を設け、下段トレイT3に電位調整用電極V3を設けている。電位調整用電極(V1、V2、V3)は、後述する水処理システム60により制御される。なお、電位調整用電極については、少なくとも1つのトレイに設けられることとしてもよいし、冷却水に電圧を印加することができれば図3の設置位置に限定されない。例えば、電位調整用電極については、冷却水系統の液相部に設けることとしてもよい。
【0032】
インターコンデンサ13は、ガスクーラ11に対してガス流れの下流側に設けられている。ガスクーラ11から排出されたガスは、エジェクタ12によりインターコンデンサ13へ圧送される。エジェクタ12へは、図1に示すように蒸気管8から分岐した配管によって一部蒸気が供給されており、該蒸気を用いてガスを圧送する。インターコンデンサ13では、上部から冷却水が散布され、ガスと接触してガスの冷却が行われる。冷却水と、蒸気の凝縮により生じた水は、インターコンデンサ13下部に溜まり、ドレンとしてインターコンデンサ13から排出される。なお、インターコンデンサ13から排出されたドレンは、循環系統17により冷却塔16に供給されることとしてもよい。ガスは、インターコンデンサ13から後述するアフターコンデンサ15へ排出される。
【0033】
インターコンデンサ13には、図2に示すように冷却水流れの上流側における供給系統18に対して注入装置C2が接続されている。注入装置C2は、後述する水処理システム60によって制御され、供給系統18を流れインターコンデンサ13へ供給される冷却水に対して薬液(例えばpH調整剤)を注入する。注入する場合には、調整弁W2によって注入する薬液量が制御される。また、インターコンデンサ13における冷却水のpHを計測するためにpH計測器M4が設けられることとしてもよい。
【0034】
また、インターコンデンサ13の下部には、溜まった冷却水(液相部)の酸化還元電位を計測するために酸化還元電位計N4と、酸化還元電位を調整するための電位調整用電極V4が設けられている。
【0035】
アフターコンデンサ15は、インターコンデンサ13に対してガス流れの下流側に設けられている。インターコンデンサ13から排出されたガスは、エジェクタ14によりアフターコンデンサ15へ圧送される。エジェクタ14へは、図1に示すように蒸気管8から分岐した配管によって一部蒸気が供給されており、該蒸気を用いてガスを圧送する。アフターコンデンサ15では、上部から冷却水が散布され、ガスと接触してガスの冷却が行われる。冷却水と、蒸気とガスの凝縮により生じた水は、アフターコンデンサ15下部に溜まり、ドレンとしてアフターコンデンサ15から排出される。なお、アフターコンデンサ15から排出されたドレンは、循環系統17により冷却塔16に供給されることとしてもよい。ガスは、アフターコンデンサ15から大気中へ排出される。なお、エジェクタ14は例えば水封真空ポンプに置き換えられてもよく、その場合、アフターコンデンサ15はシール水セパレータとなる。
【0036】
アフターコンデンサ15から排出されたガスは、各装置によって水蒸気が除去されているため、非凝縮ガス成分の構成比が高い状態となっている。アフターコンデンサ15から排出されたガスは、冷却塔16で冷却に用いた空気と共に大気放出されることとしてもよいし、その他処理が行われることとしてもよい。
【0037】
アフターコンデンサ15には、図2に示すように冷却水流れの上流側における供給系統18に対して注入装置C3が接続されている。注入装置C3は、後述する水処理システム60によって制御され、供給系統18を流れアフターコンデンサ15へ供給される冷却水に対して薬液(例えばpH調整剤)を注入する。注入する場合には、調整弁W3によって注入する薬液量が制御される。また、アフターコンデンサ15における冷却水のpHを計測するためにpH計測器M5が設けられることとしてもよい。
【0038】
また、アフターコンデンサ15の下部には、溜まった冷却水(液相部)の酸化還元電位を計測するために酸化還元電位計N5と、酸化還元電位を調整するための電位調整用電極V5が設けられている。
【0039】
水処理システム60は、固体硫黄の析出抑制をする制御を行い、冷却水の管理を行う。図1のように、復水器10においてタービン排出蒸気(地熱蒸気)と冷却水とを直接接触させて復水や冷却を行う場合、非凝縮ガスである硫化水素が冷却水に溶解する可能性がある。非凝縮ガスの内、硫化水素は冷却水中の溶存酸素や冷却水系統の気相に含まれる酸素による酸化や、冷却塔内へ流入する空気との接触で冷却水中に混入する硫黄酸化細菌により冷却水中で酸化されて硫酸に転換する。その際に、硫化水素と硫酸の中間物質として相変化を生じて固体硫黄が水中に析出する場合がある(HS+1/2O⇔S+HO、2S+3O+2HO⇔2HSO、HS+2O⇔HSO)。析出した固体硫黄はさらに凝集してスケールとなり、復水及び冷却水の循環系統内に残留堆積することで復水及び冷却水の循環を阻害するおそれがある。これにより、復水器10、ガスクーラ(ガス冷却器)11、インターコンデンサ(中段冷却器)13、アフターコンデンサ(後段冷却器)15及び冷却塔16の冷却性能の低下、ひいては地熱発電プラント1全体の性能低下を引き起こすおそれがある。このため、水処理システム60では、冷却水において、固体硫黄が析出することを抑制する制御を行う。
【0040】
図4は、本実施形態に係る水処理システム60のハードウェア構成の一例を示した図である。
図4に示すように、水処理システム60は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、例えば、CPU110と、CPU110が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)120と、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)130と、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)140と、ネットワーク等に接続するための通信部150とを備えている。なお、大容量記憶装置としては、ソリッドステートドライブ(SSD)を用いることとしてもよい。これら各部は、バス180を介して接続されている。
【0041】
また、水処理システム60は、キーボードやマウス等からなる入力部や、データを表示する液晶表示装置等からなる表示部などを備えていてもよい。
【0042】
なお、CPU110が実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROM120に限られない。例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の他の補助記憶装置であってもよい。
【0043】
後述の各種機能を実現するための一連の処理の過程は、プログラムの形式でハードディスクドライブ140等に記録されており、このプログラムをCPU110がRAM130等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、後述の各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROM120やその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線又は無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0044】
図5は、水処理システム60が備える機能を示した機能ブロック図である。図5に示されるように、水処理システム60は、冷却水に固体硫黄の析出を抑制する制御を行うにあたり、設定部61と、調整部62とを備えている。
【0045】
設定部61は、硫化水素が溶解した冷却水において固体硫黄が析出する水質の範囲を析出範囲Rとして、冷却水系統内における冷却水の水質が析出範囲Rの範囲外となるように、pH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方に対して目標値を設定する。
【0046】
析出範囲Rは、固体硫黄が析出する可能性のあるpH及び酸化還元電位の範囲として予め設定されている。図6は、硫黄化学種のpHと酸化還元電位に対する安定関係(相変化特性)を示した図である。図6において区画されて記載された各領域について、O領域(図中の上方網掛け部分)は酸素が溶存した酸性イオン水となる傾向を示している。H領域(図中の下方網掛け部分)は水素が溶存したアルカリイオン水となる傾向を示している。HO領域(図中の中央部分)は更に区画されて記載されたHSO ,SO 2-,HS,HSがそれぞれ主として溶存した水となる傾向を示している。さらに、図6に示すように、pHと酸化還元電位との関係により、硫化水素が固体硫黄として析出する範囲(析出範囲R)が存在する。冷却水系統は、地熱蒸気中の硫化水素(HS)から生成する硫酸(HSO)を含んでおり酸性環境下(pH<7)になりやすいため、図6に示すように、酸化還元電位によっては固体硫黄の共存領域(析出範囲R)に水質がなりやすい。すなわち、冷却水の水質状態においてpHと酸化還元電位が析出範囲Rの範囲内となった場合には、溶解している硫化水素(HS)や硫酸イオン(SO 2-)が固体硫黄として析出する可能性があるということとなる。
【0047】
このため、設定部61では、冷却水系統内にある冷却水のpHと酸化還元電位による水質が析出範囲Rの範囲内となっているか否かを判定し、水質が析出範囲Rの範囲内となっている場合に、水質が析出範囲Rの範囲外となるようにpH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方に対して水質を変化させる目標値を設定して、固体硫黄の析出を抑制する。本実施形態では、pH及び酸化還元電位の両方を用いる場合について説明するが、いずれか一方を用いることも可能である。
【0048】
図7は、目標値設定の一例を示す図である。図7では、調整前の水質をQ1として示している。このように、水質状態が析出範囲Rの範囲内となっている場合には、水質が析出範囲Rの範囲外となるように目標値P1が設定される。
【0049】
目標値は、調整前の水質状態に対して、より少ない調整量で、水質が析出範囲Rの範囲外となるように設定されることが好ましい。目標値に従って水質が調整されることで固体硫黄の析出は抑制される。水質の調整は、例えば、後述するようにpH調整剤を投入することで行われる。このため調整量が多いと、目標値へ水質を調整するためにpH調整剤を多く投入しなければならない可能性がある。このため、目標値を設定する場合には、調整量がより少ないように設定されることが好ましい。例えば、調整量が予め設定した閾値以上とならないように目標値が設定される。調整量については、例えば、図6のようなpHと酸化還元電位の関係において、調整前の水質位置と調整後の水質位置との距離として評価することとしてもよいし、pH調整剤の投入量として評価することとしてもよいし、後述するように印加電圧(または酸化還元電位調整剤の投入量)として評価することとしてもよい。
【0050】
なお、目標値については、析出範囲Rの範囲外に設定されればよく、設定方法については限定されない。
【0051】
設定部61で設定した目標値は、調整部62へ出力される。
【0052】
調整部62は、目標値に基づいて冷却水の水質を調整する。具体的には、調整部62は、冷却水の水質状態が目標値に一致するように、冷却水の水質調整を行う。
【0053】
目標値は、pH及び酸化還元電位に対して設定されている。このため、調整部62はpH及び酸化還元電位のそれぞれに対して調整処理を行う。なお、目標値がpH及び酸化還元電位のいずれか一方に対して設定されている場合には、設定されている方に対応して調整を行う。
【0054】
具体的には、調整部62は、目標値がpHに対してのみ設定されている場合に、pH調整剤を投入することによって水質調整を行う。このため、調整部62は、pHの計測値とpHの目標値との差分に基づいてpH調整剤の投入量を決定する。投入量については、pHの計測値とpHの目標値との差分(調整量)と、必要なpH調整剤の投入量との関係を事前試験等によって予め得ておき、該関係に基づいて投入量が決定される。
【0055】
pH調整剤は、安価で容易に入手可能な水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム、及び硫酸の少なくともいずれか1つまたは複数組み合わせて用いることが好ましい。なお、pHが調整可能であればpH調整剤として上記に限定されず用いることとしてもよい。
【0056】
調整部62は、目標値が酸化還元電位に対してのみ設定されている場合に、電圧を印加することによって水質調整を行う。このため、調整部62は、酸化還元電位の計測値と酸化還元電位の目標値との差分に基づいて印加電圧を決定する。酸化還元電位を調整するために、印加電圧に加えてまたは代えて酸化還元電位調整剤(酸素や過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸などの酸化剤、ギ酸などの有機酸や亜硫酸無機還元剤などの還元剤)を使用することとしてもよい。酸化還元電位調整剤は、安価で容易に入手可能な酸素及び過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸、ギ酸、亜硫酸無機還元剤の少なくともいずれか1つまたはそれらを組み合わせて用いることが好ましい。なお、酸化還元電位が調整可能であれば酸化還元電位調整剤として上記に限定されず用いることとしてもよい。
【0057】
印加電圧(または酸化還元電位調整剤の投入量)については、酸化還元電位の計測値と酸化還元電位の目標値との差分(調整量)と、必要な印加電圧(または酸化還元電位調整剤の投入量)との関係を事前試験等によって予め得ておき、該関係に基づいて印加電圧(または投入量)が決定される。
【0058】
このように、pH調整剤の投入量や印加電圧が決定されると、冷却水系統における予め設定された調整位置の冷却水に対して水質調整処理を行う。具体的には、調整部62は、冷却水が流通する冷却水系統において、水質が析出範囲Rの範囲内となる可能性があると予め設定された位置を調整位置として、調整位置を流通する冷却水の水質を調整する。
【0059】
水質の調整は、固体硫黄の析出を抑制するためのものであるため、水質調整を行う位置である調整位置は、固体硫黄の析出が発生する可能性がある位置(水質が析出範囲Rの範囲内となる可能性がある位置)に設定することが好ましい。このため、予め事前試験等によって、固体硫黄の析出が発生しやすい位置を特定し、該位置を調整位置として設定することが好ましい。
【0060】
具体的には、例えば、調整位置には薬剤の注入装置及び電位調整用電極が設けられる。すなわち、薬剤の注入装置(例えば、C1、C2、C3)や電位調整用電極(例えば、V1、V2、V3、V4、V5)は、固体硫黄の析出が発生し易い位置として予め決定された調整位置に対応して設置されてもよい。
【0061】
調整部62は、決定したpH調整剤の投入量に基づいて注入装置(例えばC1、C2、C3)を制御してpH調整剤を投入する。なお、投入方法については、決定した投入量を一度に投入することとしてもよいし、時間的間隔をおいて複数回に分けて投入することとしてもよいし、投入速度を調整しながら投入してもよく、投入したpH調整剤が冷却水全体に早く均一に混入して目標の水質になることがさらに好ましく、投入方法については限定されない。
【0062】
また、調整部62では、決定した印加電圧に基づいて電位調整用電極(例えばV1、V2、V3、V4、V5)を制御する。すなわち、決定した印加電圧分の電圧が冷却水に印加されるように、電位調整用電極(V1、V2、V3、V4、V5)に電圧を発生させる。
【0063】
このようにして調整位置にて、冷却水に水質調整処理が行われる。本実施形態では、冷却水系統であって、復水器10の蒸気の流れの下流側に設けられたガスクーラ11、インターコンデンサ13、及びアフターコンデンサ15に調整位置(注入装置等)を設けることとしているが、ガスクーラ11、インターコンデンサ13、及びアフターコンデンサ15の少なくともいずれか1つに調整位置が設けられることとしてもよい。
【0064】
また、本実施形態では、調整位置を複数設けることとしているが、調整位置が複数設けられている場合には、水質が析出範囲Rの範囲内となっている位置に対応する調整位置に対して水質調整処理が行われる。
【0065】
次に、上述の水処理システム60による水処理の一例について図8図9図10を参照して説明する。図8は、pHを調整する場合の水処理の手順の一例を示すフローチャートである。図9は、酸化還元電位を調整する場合の水処理の手順の一例を示すフローチャートである。図10は、pH及び酸化還元電位を調整する場合の水処理の手順の一例を示すフローチャートである。図8図9図10に示すフローは、例えば、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0066】
pHを調整する場合の水処理について図8を用いて説明する。
【0067】
図8に示すように、まず、調整位置における冷却水のpHを計測する(S101)。そして、pHが析出範囲Rの範囲内であるか否かを判定する(S102)。pHが析出範囲Rの範囲内でない場合(S102のNO判定)には、処理を終了し、所定の制御周期で再度S101から実行される。
【0068】
pHが析出範囲Rの範囲内である場合(S102のYES判定)には、pHに対する目標値を設定する(S103)。例えば目標値がP1として設定される。
【0069】
次に、目標値P1へ調整するために必要なpH調整剤の投入量を設定する(S104)。
【0070】
次に、設定した投入量に基づいて、pH調整剤の投入を行う(S105)。
【0071】
このようにして、pHの調整が行われ、処理を終了し、所定の制御周期で再度S101から実行される。
【0072】
図11は、水処理による水質状態の変化を示す図である。図11のようにpHが調整されることによって、調整前の水質状態であるQ1を、pHが大きなQ2へ移動させ、目標値P1と一致させることができる。
【0073】
酸化還元電位を調整する場合の水処理について図9を用いて説明する。
【0074】
図9に示すように、まず、調整位置における酸化還元電位を計測する(S201)。そして、酸化還元電位が析出範囲Rの範囲内であるか否かを判定する(S202)。酸化還元電位が析出範囲Rの範囲内でない場合(S202のNO判定)には、処理を終了し、所定の制御周期で再度S201から実行される。
【0075】
酸化還元電位が析出範囲Rの範囲内である場合(S202のYES判定)には、酸化還元電位に対する目標値を設定する(S203)。例えば目標値がP2として設定される。
【0076】
次に、目標値P2へ調整するために必要な印加電圧を設定する(S204)。なお、酸化還元電位調整剤を用いる場合には、酸化還元電位調整剤の投入量が設定される。
【0077】
次に、設定した印加電圧に基づいて、電圧印加を行う(S205)。なお、酸化還元電位調整剤を用いる場合には、酸化還元電位調整剤の投入量制御が行われる。
【0078】
このようにして、酸化還元電位の調整が行われ、処理を終了し、所定の制御周期で再度S201から実行される。
【0079】
図9のように酸化還元電位が調整されることによって、図11のように調整前の水質状態であるQ1を、酸化還元電位が大きなQ3へ移動させ、目標値P2と一致させることができる。
【0080】
pH及び酸化還元電位の両方を調整する場合の水処理について図10を用いて説明する。
【0081】
図10に示すように、まず、調整位置におけるpH及び酸化還元電位を計測する(S301)。そして、pH及び酸化還元電位が析出範囲Rの範囲内であるか否かを判定する(S302)。pH及び酸化還元電位が析出範囲Rの範囲内でない場合(S302のNO判定)には、処理を終了し、所定の制御周期で再度S301から実行される。
【0082】
pH及び酸化還元電位が析出範囲Rの範囲内である場合(S302のYES判定)には、pH及び酸化還元電位のそれぞれに対して目標値を設定する(S303)。例えば目標値がP3として設定される。
【0083】
次に、目標値P3へ調整するために必要なpH調整剤の投入量及び印加電圧を設定する(S304)。なお、酸化還元電位調整剤を用いる場合には、酸化還元電位調整剤の投入量が設定される。
【0084】
次に、設定したpH調整剤の投入量及び印加電圧に基づいて、pH調整剤の投入及び電圧印加を行う(S305)。なお、酸化還元電位調整剤を用いる場合には、酸化還元電位調整剤の投入制御が行われる。
【0085】
このようにして、pH及び酸化還元電位の調整が行われ、処理を終了し、所定の制御周期で再度S301から実行される。
【0086】
図10のようにpH及び酸化還元電位が調整されることによって、図11のように調整前の水質状態であるQ1を、pHと酸化還元電位の両方が大きなQ4へ移動させ、目標値P3と一致させることができる。
【0087】
このようにして、水質が析出範囲Rの範囲となって固体硫黄の析出が発生する可能性がある位置に対応する調整位置に対して水質調整処理が行われる。従い、より効果的に固体硫黄の析出を抑制することができるため、薬剤等の使用量を抑制して運転コストの低減を図ることも可能となる。具体的には、水質が処理された冷却水は、他の水質が処理されない復水器内の冷却水と合流して希釈され、循環系統を介して冷却塔へ供給される場合がある。希釈された冷却水(水質が処理された冷却水)は、冷却塔内で冷却される際に、接触する空気によって、処理される前の水質に変化して、再び各調整位置へ供給される。そのため、連続的に水質が析出範囲Rの範囲外となるように水質調整処理が行われるが、水質が析出範囲Rの範囲となって固体硫黄の析出が発生する可能性がある位置に調整位置を限定することで、必要以上に薬剤等を増加する必要が無く、薬剤等の使用量を抑えることができる。さらに、冷却水中の薬剤濃度が高くなることを抑制することができるため、系外へ排出される際の環境負荷が小さくなる。
【0088】
次に、ガスクーラ11の内部における冷却水の性状変化特性について図12を用いて説明する。図12は、ガスクーラ11の内部におけるpHと酸化還元電位の変化を示す図である。
【0089】
ガスクーラ11において、上部から散布された冷却水は上段トレイT1から下段へ落下するにしたがい脱ガス(脱気)が進行するとともに、冷却水中の溶存酸素が硫化水素の酸化に消費されるために冷却水中の酸素濃度が低下し、還元雰囲気となる。すなわち、図12のように、各トレイT1,T2,T3に滞在中に酸素濃度が低下して酸化還元電位が低下して、下段へ落下するにしたがって酸化還元電位が低下する。
【0090】
冷却水中の溶存酸素が脱ガス(脱気)により抜ける一方で、冷却水は、復水器から供給される蒸気(ガス)に含まれる硫化水素、二酸化炭素を吸収するためpHが低下する。すなわち、図12のように、各トレイT1,T2に滞在中に硫化水素、二酸化炭素などの酸性ガスを吸収してpHが低下して、下段側へ落下するにしたがってpHが低下する。また、冷却水は、最下段にあたるトレイT3に滞在中に各トレイの内で温度が最も高くなる。冷却水は、温度が高くなることでガスの溶解度が低下するため、上段側のトレイで吸収した酸性ガスが放出されて、pHが上昇する。なお、図12の変化例は一例であり、実際の系では、pHと酸化還元電位の変化量はガス成分やガス分圧、冷却水に含まれる化学物質などにも依存する。
【0091】
図13は、ガスクーラ11内における冷却水の水質が、図12のように各トレイで順に変化した場合の水質変化を示している。図13では、上段トレイT1における冷却水の水質をK1と示し、中段トレイT2における冷却水の水質をK2と示し、下段トレイT3における冷却水の水質をK3と示している。この場合には、中段トレイT2の液相内における冷却水の水質であるK2が析出範囲Rの範囲内に位置するため、中段トレイT2において固体硫黄が析出する可能性が高くなる。
【0092】
図12及び図13のように水質変化が発生する系においては、中段トレイT2を調整位置として水質の調整が行われることが好ましい。水質変化は図12及び図13の例に限定されないため、事前試験等によって水質変化の特性を取得しておくことで、析出が発生しやすい箇所に対して水質調整を行うことが可能となる。
【0093】
以上説明したように、本実施形態に係る水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法によれば、地熱発電プラント1全体として、安定的に運転を行うことが可能となる。地熱発電プラント1において坑井2から噴出した地熱流体でタービンを駆動した後に復水を行う場合、タービンから排出された蒸気と冷却水とを接触させて冷却を行うと非凝縮ガスである硫化水素が冷却水に溶解する場合がある。このため、冷却水系統において固体硫黄が析出し、水流の阻害等の原因となる可能性がある。このような場合には、冷却性能低下や、地熱発電プラント1全体としての性能低下を引き起こす可能性もある。
【0094】
そこで、硫化水素が溶解した冷却水において固体硫黄が析出する水質の範囲を析出範囲Rとして予め設定しておき、析出範囲Rの範囲外の目標値となるように、固体硫黄の析出に影響するpH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方を、目標値に対して調整する。このため、冷却水に硫化水素が溶解した場合であっても、効果的に固体硫黄の析出を抑制することが可能となる。すなわち、地熱発電プラント1全体として、安定的に運転を行うことが可能となる。
【0095】
効率的に調整を行うことが可能となるため、むやみに調整剤等を投入する必要がなく、運転コストの低減を図ることができる。また、調整剤等の薬剤の使用量を削減することで冷却水を系外へ排出する場合の環境負荷の低減も期待できる。
【0096】
固体硫黄が析出する可能性のあるpH及び酸化還元電位の範囲として析出範囲Rが設定されることで、pH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方に対して適切に水質の調整を行うことができる。目標値がpHに対して設定されている場合には、pHの計測値とpHの目標値との差分に基づいてpH調整剤の投入量を決定することで、適切に析出範囲Rの範囲外へ水質調整をして、固体硫黄の析出の抑制を行うことが可能となる。pH調整剤として、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム、及び硫酸の少なくともいずれか1つまたは複数組み合わせて用いることで、効果的に水質調整を行うことが可能となる。
【0097】
目標値が酸化還元電位に対して設定されている場合には、酸化還元電位の計測値と酸化還元電位の目標値との差分に基づいて、印加電圧及び酸化還元電位調整剤の投入量の少なくともいずれか一方を決定することで、適切に析出範囲Rの範囲外へ水質調整をして、固体硫黄の析出の抑制を行うことが可能となる。酸化還元電位調整剤として、酸素及び過酸化水素の少なくともいずれか1つまたはそれらを組み合わせて用いることで、効果的に水質調整を行うことが可能となる。調整前の水質状態に対してより少ない調整量で水質が析出範囲Rの範囲外となるように目標値を設定することで、効率的に固体硫黄の析出の抑制を行うことが可能となる。
【0098】
水質が析出範囲Rの範囲内となる可能性があると予め設定された冷却水系統における調整位置に対して水質の調整が行われるため、効果的に固体硫黄の析出の抑制を図ることができる。析出が発生しやすい装置であるガスクーラ11、インターコンデンサ13、及びアフターコンデンサ15の少なくともいずれか1つに対して水質の調整が行われるため、効果的に固体硫黄の析出の抑制を図ることができる。ガスクーラ11の内部に設けられた液相を有する複数のトレイでは、トレイに滞留中に水質が変化して固体硫黄の析出が発生しやすいため、析出が発生しやすいトレイに対して水質の調整を行うことで効果的に固体硫黄の析出の抑制を図ることができる。
【0099】
〔第2実施形態〕
次に、本開示の第2実施形態に係る水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法について説明する。
本実施形態では、冷却水の環境を定期的に変化して固体硫黄の析出を抑制する場合について説明する。以下、本実施形態に係る水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法について、第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0100】
固体硫黄の析出の原因の1つである細菌(硫黄酸化細菌)は、水質状態(内部環境)が一定の場合には増殖する傾向にある。このため、水処理システム60では、細菌の増殖抑制を行う。
【0101】
図14に示すように、水処理システム60は、遷移部63を備える。遷移部63は、冷却水系統における水質状態を、析出範囲Rの範囲外の領域において所定の時間間隔で遷移させる。具体的には、遷移部63は、水質状態として、pH、酸化還元電位、及び酸素濃度の少なくともいずれか1つを遷移させる。本実施形態では、pHと酸化還元電位とを遷移させる場合について説明する。なお、細菌増殖に関係する性質であれば、pH、酸化還元電位、及び酸素濃度に限定されず遷移対象とすることも可能である。
【0102】
具体的には、遷移部63は、ガスクーラ11、インターコンデンサ13、及びアフターコンデンサ15の少なくともいずれか1つに対して、水質状態の遷移制御を行う。ガスクーラ11やインターコンデンサ13等の内部環境(pHや酸化還元電位、酸素濃度)を固定化していると、環境に適応した種類の細菌が増殖しやすくなる。このため、内部環境を定期的(例えば数時間~1日単位)に変化させる。変化前の内部環境に適応した種類の細菌は、変化後の内部環境に適応できずに急速に死滅して減少する傾向にあるため、このことを利用して細菌に起因する硫黄分の化学反応を抑制する。また、変化後は、変化後の内部環境に適応した別種の細菌が増殖しやすくなるため、内部環境を定期的に変化させることで同一種の細菌の増殖を抑制する。
【0103】
固体硫黄の生成場所として、ガスクーラ11やインターコンデンサ13、アフターコンデンサ15が挙げられる。これらの場所では、冷却によりガスが濃縮されてガス濃度が高くなっており、水中に溶解している硫化水素濃度が高くなっているとともに、冷却水が一時的に滞留する構造となっているため滞留時間が長く、化学反応が進行して固体硫黄が析出しやすいものと考えられる。一方、ガスクーラ11やインターコンデンサ13等に供給される冷却水量は、プラント全体で循環している冷却水量の一部であり、これらの部分に集中して水処理を行うことにより水処理コストを下げることが可能となる。
【0104】
なお、遷移制御の対象箇所については、ガスクーラ11、インターコンデンサ13、及びアフターコンデンサ15に限定されず設定することも可能である。
【0105】
遷移制御では、定期的に、水質状態を変化させる。本実施形態での遷移対象は、例えばpH及び酸化還元電位である。図15は、遷移制御の一例を示す図である。図15では、縦軸をそれぞれ硫黄酸化細菌の増殖量、内部環境(水質状態)とし、横軸を時間としている。
【0106】
時刻T1まで、pHがα1、酸化還元電位がβ1であるとする。このため、時刻T1まで環境に適応した細菌γ1が増殖する。このため、時刻T1において、内部環境を遷移させる。すなわち、pHをα2、酸化還元電位をβ2へ変化させる。これにより、増殖していた細菌γ1が死滅して急速に減少してゆき、変化後の環境に適応した別種の細菌γ2が増殖する。
【0107】
このため、時刻T2において、内部環境を遷移させる。すなわち、pHをα3、酸化還元電位をβ3へ変化させる。これにより、増殖していた細菌γ2が死滅して急速に減少してゆき、変化後の環境に適応した別種の細菌γ3が増殖する。このように定期的に遷移制御を行うことによって、同一種類の細菌が増殖することにより、細菌量が増加して、固体硫黄の析出をしやすい水質になることを抑制することができる。
【0108】
なお、変化後の内部環境は、析出範囲Rの範囲外の領域において変化させることが好ましい。すなわち、遷移制御によって変化される水質は、析出範囲Rの範囲内とならないように制御される。
【0109】
また、定期的に遷移制御を行うが、なるべく等しい水質状態とならない方が好ましい。すなわち、図15のように、pHのα1、α2、α3は同一としないことで細菌をより効率的に死滅させることができる。この場合には、例えば、定期的に遷移制御を行う時間を所定時間として、定数(>1)倍の所定時間よりも長い時間に設定された所定期間において、水質状態が同一状態とならないように遷移制御が行われることが好ましい。
【0110】
以上説明したように、本実施形態に係る水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法によれば、細菌量の増加で固体硫黄の析出をしやすい水質になることを抑制し、効果的に固体硫黄の析出を抑制する。析出の原因の1つである細菌は、水質状態(内部環境)が一定の場合には増殖する傾向にあるが、水質状態が変化すると適応できずに死滅する傾向にある。このような傾向を利用して、水質状態を析出範囲Rの範囲外の領域において所定の時間間隔で遷移させることによって、定期的に細菌を死滅させ、同一種類の細菌が増殖することを抑制する。これにより、固体硫黄の析出を抑制する。pH、酸化還元電位、及び酸素濃度の少なくともいずれか1つを遷移させることによって、効果的に細菌の増殖を抑制することが可能となる。
【0111】
本開示は、上述の実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々変形実施が可能である。なお、各実施形態を組み合わせることも可能である。すなわち、上記の第1実施形態、及び第2実施形態については、それぞれ組み合わせることも可能である。
【0112】
以上説明した各実施形態に記載の水処理システム及び地熱発電プラント、並びに水処理方法は例えば以下のように把握される。
本開示に係る水処理システム(60)は、地熱坑井(2)から噴出した地熱流体により回転駆動するタービン(9)と、前記タービン(9)から排出された蒸気を冷却水と接触させて冷却する熱交換器(10、11、13、15)と、冷却水が流通する冷却水系統と、を備える地熱発電プラント(1)に適用される水処理システム(60)であって、硫化水素が溶解した冷却水において固体硫黄が析出する水質の範囲を析出範囲(R)として、前記冷却水系統内における冷却水のpH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方が前記析出範囲(R)外となるように目標値を設定する設定部(61)と、前記目標値に基づいて冷却水の水質を調整する調整部(62)と、を備える。
【0113】
地熱発電プラント(1)において地熱坑井(2)から噴出した地熱流体と冷却水とを接触させて冷却を行うと非凝縮ガスである硫化水素が冷却水に溶解する場合がある。このため、冷却水系統において固体硫黄が析出し、水流の阻害等の原因となる可能性がある。このような場合には、冷却性能低下や、地熱発電プラント(1)全体としての性能低下を引き起こす可能性もある。
【0114】
そこで、硫化水素が溶解した冷却水において固体硫黄が析出する水質の範囲を析出範囲(R)として予め設定しておき、析出範囲(R)外となる目標値になるように、固体硫黄の析出に影響するpH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方を、目標値に対して調整する。このため、冷却水に硫化水素が溶解した場合であっても、効果的に固体硫黄の析出を抑制することが可能となる。すなわち、冷却水系統において固体硫黄が析出し、冷却性能低下などにより地熱プラント(1)全体としての性能低下を抑制し、安定的に運転を行うことが可能となる。
【0115】
また、効率的に調整を行うことが可能となるため、むやみに調整剤等を投入する必要がなく、運転コストの低減を図ることができる。また、調整剤等は必要以上に高い濃度とならないので調整剤等の薬剤の使用量を削減することで、冷却水を系外に排出する際の環境負荷の低減も期待できる。
【0116】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記析出範囲(R)は、固体硫黄が析出する可能性のあるpH及び酸化還元電位の範囲として予め設定されていることとしてもよい。
【0117】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、固体硫黄が析出する可能性のあるpH及び酸化還元電位の範囲として析出範囲(R)が設定されることで、pH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方に対して適切に調整を行うことができる。
【0118】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記調整部(62)は、前記目標値がpHに対して設定されている場合に、冷却水のpHの計測値とpHの前記目標値との差分に基づいてpH調整剤の投入量を決定することとしてもよい。
【0119】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、目標値がpHに対して設定されている場合には、pHの計測値とpHの目標値との差分に基づいてpH調整剤の投入量を決定することで、適切に析出範囲(R)外へ水質調整をして、固体硫黄の析出の抑制を行うことが可能となる。
【0120】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記pH調整剤は、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム、及び硫酸の少なくともいずれか1つであることとしてもよい。
【0121】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、pH調整剤として、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム、及び硫酸の少なくともいずれか1つを用いることで、効果的に水質調整を行うことが可能となる。
【0122】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記調整部(62)は、前記目標値が酸化還元電位に対して設定されている場合に、冷却水の酸化還元電位の計測値と酸化還元電位の前記目標値との差分に基づいて、印加電圧及び酸化還元電位調整剤の投入量の少なくともいずれか一方を決定することとしてもよい。
【0123】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、目標値が酸化還元電位に対して設定されている場合には、酸化還元電位の計測値と酸化還元電位の目標値との差分に基づいて、印加電圧及び酸化還元電位調整剤の投入量の少なくともいずれか一方を決定することで、適切に析出範囲(R)外へ水質調整をして、固体硫黄の析出の抑制を行うことが可能となる。
【0124】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記酸化還元電位調整剤は、酸素、過酸化水素、オゾン、次亜塩素酸、ギ酸及び亜硫酸無機還元剤の少なくともいずれか1つであることとしてもよい。
【0125】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、酸化還元電位調整剤として、酸素及び過酸化水素の少なくともいずれか1つを用いることで、効果的に水質調整を行うことが可能となる。
【0126】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記設定部(61)は、調整前の水質状態に対してより少ない調整量で水質が前記析出範囲(R)外となるように、前記目標値を設定することとしてもよい。
【0127】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、調整前の水質状態に対してより少ない調整量で水質が析出範囲(R)外となるように目標値を設定することで、効率的に固体硫黄の析出の抑制を行うことが可能となる。
【0128】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記調整部(62)は、前記冷却水系統において、冷却水の水質が前記析出範囲(R)内となる可能性があると予め設定された位置を調整位置として、前記調整位置を流通する冷却水の水質を調整することとしてもよい。
【0129】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、水質が析出範囲(R)内となる可能性があると予め設定された冷却水系統における調整位置に対して水質の調整が行われるため、効果的に固体硫黄の析出の抑制を図ることができる。
【0130】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記調整位置は、前記冷却水系統であって、複数の前記熱交換器(10、11、13、15)の少なくともいずれか1つに対して設定されていることとしてもよい。
【0131】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、析出が発生しやすい装置である熱交換器(10、11、13、15)、例えば、ガスクーラ(11)、インターコンデンサ(13)、及びアフターコンデンサ(15)の少なくともいずれか1つに対して水質の調整が行われるため、効果的に固体硫黄の析出の抑制を図ることができる。
【0132】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記熱交換器(10、11、13、15)は、前記地熱流体を前記冷却水と接触させて冷却するガスクーラ(11)、インターコンデンサ(13)、及びアフターコンデンサ(15)の少なくともいずれか1つを含むこととしてもよい。
【0133】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、ガスクーラ(11)、インターコンデンサ(13)、及びアフターコンデンサ(15)の少なくともいずれか1つにおいて調整位置を設定することができる。
【0134】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記調整位置は、前記ガスクーラ(11)の内部に設けられ、前記冷却水を一時的に滞留することができる複数のトレイの少なくともいずれか1つに対して設定されていることとしてもよい。
【0135】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、熱交換器の内部に設けられた液相を有する複数のトレイでは析出が発生しやすいため、トレイに対して水質の調整を行うことで効果的に固体硫黄の析出の抑制を図ることができる。
【0136】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記冷却水系統における水質状態を、前記析出範囲(R)外の領域において所定の時間間隔で遷移させる遷移部(63)を備えることとしてもよい。
【0137】
析出の原因の1つである細菌は、水質状態(内部環境)が一定の場合には増殖する傾向にあるが、水質状態が変化すると適応できずに死滅する傾向にある。このような傾向を利用して、水質状態を析出範囲(R)外の領域において所定の時間間隔で遷移させることによって、定期的に細菌を死滅させ、同一種類の細菌が増殖することを抑制する。このため、固体硫黄の析出を抑制する。
【0138】
本開示に係る水処理システム(60)は、前記遷移部(63)は、水質状態として、pH、酸化還元電位、及び酸素濃度の少なくともいずれか1つを遷移させることとしてもよい。
【0139】
本開示に係る水処理システム(60)によれば、pH、酸化還元電位、及び酸素濃度の少なくともいずれか1つを遷移させることによって、効果的に細菌の増殖を抑制することが可能となる。
【0140】
本開示に係る地熱発電プラント(1)は、地熱坑井(2)から噴出した地熱流体により回転駆動するタービン(9)と、前記タービンの回転に連結して発電をする発電機と、前記タービン(9)から排出された蒸気を冷却水と接触させて冷却する熱交換器(10、11、13、15)と、冷却水が流通する冷却水系統と、上記の水処理システム(60)と、を備える。
【0141】
本開示に係る水処理方法は、地熱坑井(2)から噴出した地熱流体により回転駆動するタービン(9)と、前記タービン(9)から排出された蒸気を冷却水と接触させて冷却する熱交換器(10、11、13、15)と、冷却水が流通する冷却水系統と、を備える地熱発電プラント(1)に適用される水処理方法であって、硫化水素が溶解した冷却水において固体硫黄が析出する水質の範囲を析出範囲(R)として、前記冷却水系統内における冷却水のpH及び酸化還元電位の少なくともいずれか一方が前記析出範囲(R)外となるように目標値を設定する工程と、前記目標値に基づいて冷却水の水質を調整する工程と、を有する。
【符号の説明】
【0142】
1 :地熱発電プラント
2 :坑井(地熱坑井)
3 :還元井
4 :流量調整弁
5 :地熱流体輸送管
6 :セパレータ
7 :熱水管
8 :蒸気管
9 :蒸気タービン(タービン)
10 :復水器(熱交換器)
11 :ガスクーラ(熱交換器)
12 :エジェクタ
13 :インターコンデンサ(熱交換器)
14 :エジェクタ
15 :アフターコンデンサ(熱交換器)
16 :冷却塔
17 :循環系統
18 :供給系統
19 :復水ポンプ
20 :復水系統
21 :送風機
60 :水処理システム
61 :設定部
62 :調整部
63 :遷移部
110 :CPU
120 :ROM
130 :RAM
140 :ハードディスクドライブ
150 :通信部
180 :バス
C1 :注入装置
C2 :注入装置
C3 :注入装置
M1 :pH計測器
M2 :pH計測器
M3 :pH計測器
M4 :pH計測器
M5 :pH計測器
N1 :酸化還元電位計
N2 :酸化還元電位計
N3 :酸化還元電位計
N4 :酸化還元電位計
R :析出範囲
T1 :上段トレイ
T2 :中段トレイ
T3 :下段トレイ
V1 :電位調整用電極
V2 :電位調整用電極
V3 :電位調整用電極
V4 :電位調整用電極
V5 :電位調整用電極
W1 :調整弁
W2 :調整弁
W3 :調整弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15