(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】半導体装置およびその制御方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20231120BHJP
H01L 29/739 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 653C
H01L29/78 652J
H01L29/78 655B
H01L29/78 655A
(21)【出願番号】P 2020047541
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2021-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】諏訪 剛史
(72)【発明者】
【氏名】末代 知子
(72)【発明者】
【氏名】岩鍜治 陽子
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-109580(JP,A)
【文献】特表2018-515927(JP,A)
【文献】国際公開第2005/065385(WO,A2)
【文献】特開2019-050434(JP,A)
【文献】特開2013-098415(JP,A)
【文献】特開2013-251395(JP,A)
【文献】特開2019-012813(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0006495(US,A1)
【文献】米国特許第09299830(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/739
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体部と、
前記半導体部の裏面側に設けられた第1電極と、
前記半導体部の表面側に設けられた第2電極と、
前記半導体部と前記第2電極との間に設けられ、前記半導体部中に位置し、前記半導体部から第1絶縁部により電気的に絶縁され、前記半導体部から第1層間絶縁膜により電気的に絶縁された第1制御電極と、
前記半導体部と前記第2電極との間において、前記半導体部の前記表面に沿った第1方向に前記第1制御電極と並べて配置され、前記半導体部中に位置し、前記半導体部から第2絶縁部により電気的に絶縁され、前記半導体部から第2層間絶縁膜により電気的に絶縁され、前記第1制御電極から電気的に分離された第2制御電極と、
前記第1制御電極と前記第1電極との間、および、前記第2制御電極と前記第1電極との間のそれぞれ設けられ、前記半導体部中に位置し、前記半導体部から第3絶縁部により電気的に絶縁され、前記第1および第2制御電極から第4絶縁部によりそれぞれ電気的に絶縁された複数の第3制御電極と、
前記第1制御電極に電気的に接続された第1配線と、
前記第2制御電極に電気的に接続された第2配線と、
前記複数の第3制御電極に接続された第3配線と、
を備え、
前記半導体
部は、第1導電形の第1層と、第2導電形の第2層と、前記第1導電形の第3層と、前記第2導電形の第4層と、を含み、
前記第1層は、前記第1電極と前記第2電極との間に延在し、前記複数の第3制御電極は、前記第1層中に位置し、
前記第2層は、前記第1層と前記第2電極との間に設けられ、前記第1絶縁部を介して前記第1制御電極に向き合い、前記第2絶縁部を介して前記第2制御電極に向き合い、
前記第3層は、前記第2層と前記第2電極との間に選択的に設けられ、前記第1絶縁部に接し、前記第2電極に電気的に接続され、
前記第4層は、前記第1層と前記第1電極との間に設けられ、前記第1電極に電気的に接続される半導体装置。
【請求項2】
前記半導体部は、前記第2層と前記第2電極との間に選択的に設けられ、前記第2電極に電気的に接続された第2導電形の第5層をさらに含み、
前記第5層は、前記第2層の第2導電形不純物よりも高濃度の第2導電形不純物を含む請求項1記載の半導体装置。
【請求項3】
前記複数の第3制御電極のうちの1つは、前記第1制御電極の前記第3層と前記第1
層間絶縁膜を介して向き合う部分と前記第1電極との間に位置する第1部分と、前記第1制御電極のそれ以外の部分と前記第1電極との間に位置する第2部分と、を含み、
前記第1部分は、
前記半導体部の前記表面に直交する方向に第1厚さを有し、前記第2部分は、
前記半導体部の前記表面に直交する方向に前記第1厚さよりも薄い第2厚
さを有する請求項1または2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1電極と前記第2電極との間において、前記半導体部中を
前記半導体部の前記表面に直交する方向に延在し、前記半導体部から絶縁膜により電気的に絶縁され、前記第2電極に電気的に接続された第3電極をさらに含み、
前記第3電極は、前記第1制御電極と前記第2制御電極との間に設けられる請求項1~3のいずれか1つに記載の半導体装置。
【請求項5】
前記複数の第3制御電極は、前記第1電極と前記第3電極との間に設けられた別の1つを含む請求項4記載の半導体装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の半導体装置の制御方法であって、
前記第2電極を前記第1電極の第1電位より低い第2電位にバイアスし、
第1時点において、前記第2電極と前記第1制御電極との間に印加される第1制御電圧を、前記第1制御電極の第1閾値電圧よりも低いレベルから、前記第1閾値電圧よりも高いレベルに変化させ、
前記第1時点において、前記第2電極と前記第2制御電極との間に印加される第2制御電圧を、前記第2制御電極の第2閾値電圧よりも低いレベルから、前記第2閾値電圧よりも高いレベルに変化させ、
前記第1時点において、前記第3制御電極の電位が、前記第2電位よりも低いレベルから前記第2電位よりも高いレベルになるように、前記第2電極と前記第3制御電極との間に印加される第3制御電圧を上昇させ、
前記第1時点よりも後の第2時点において、前記第2制御電圧を、前記第2閾値電圧よりも高いレベルから、前記第2閾値電圧よりも低いレベルに変化させ、
前記第2時点において、前記第3制御電極の電位が、前記第2電位よりも高いレベルから前記第2電位よりも低いレベルになるように、前記第3制御電圧を降下させ、
前記第2時点よりも後の第3時点において、前記第1制御電圧を、前記第1閾値電圧よりも高いレベルから、前記第1閾値電圧よりも低いレベルに変化させる制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、半導体装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用半導体装置には、スイッチング損失を低減することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実施形態は、ターンオフ損失を低減できる半導体装置およびその制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る半導体装置は、半導体部と、前記半導体部の裏面側に設けられた第1電極と、前記半導体部の表面側に設けられた第2電極と、前記半導体部と前記第2電極との間に設けられた第1および第2制御電極と、前記第1および第2制御電極と前記第1電極との間にそれぞれ設けられた複数の第3制御電極と、前記第1制御電極に電気的に接続された第1配線と、前記第2制御電極に電気的に接続された第2配線と、前記複数の第3制御電極に接続された第3配線と、を備える。前記第1制御電極は、前記半導体部中に位置し、前記半導体部から第1絶縁部により電気的に絶縁され、前記半導体部から第1層間絶縁膜により電気的に絶縁される。前記第2制御電極は、前記半導体部と前記第2電極との間において、前記半導体部の前記表面に沿った第1方向に前記第1制御電極と並べて配置され、前記半導体部中に位置し、前記半導体部から第2絶縁部により電気的に絶縁され、前記半導体部から第2層間絶縁膜により電気的に絶縁され、前記第1制御電極から電気的に分離される。前記複数の第3制御電極は、前記半導体部中に位置し、前記半導体部から第3絶縁部によりそれぞれ電気的に絶縁され、前記第1および第2制御電極から第4絶縁部によりそれぞれ電気的に絶縁される。前記半導体部は、第1導電形の第1層と、第2導電形の第2層と、前記第1導電形の第3層と、前記第2導電形の第4層と、を含む。前記第1層は、前記第1電極と前記第2電極との間に延在し、前記複数の第3制御電極は、前記第1層中に位置する。前記第2層は、前記第1層と前記第2電極との間に設けられ、前記第1絶縁部を介して前記第1制御電極に向き合い、前記第2絶縁部を介して前記第2制御電極に向き合う。前記第3層は、前記第2層と前記第2電極との間に選択的に設けられ、前記第1絶縁部に接し、前記第2電極に電気的に接続される。前記第4層は、前記第1層と前記第1電極との間に設けられ、前記第1電極に電気的に接続される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】第1実施形態に係る半導体装置を例示する模式断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る半導体装置の別の断面を例示する模式図である。
【
図3】第1実施形態に係る半導体装置の制御方法を例示するタイムチャートである。
【
図4】第1実施形態の第1変形例に係る半導体装置を例示する模式断面図である。
【
図5】第1実施形態の第2変形例に係る半導体装置を例示する模式断面図である。
【
図6】第1実施形態の第3変形例に係る半導体装置を例示する模式断面図である。
【
図7】第1実施形態の第4変形例に係る半導体装置を例示する模式断面図である。
【
図8】第2実施形態に係る半導体装置を例示する模式断面図である。
【
図9】第2実施形態の変形例に係る半導体装置を例示する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。図面中の同一部分には、同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
【0008】
さらに、各図中に示すX軸、Y軸およびZ軸を用いて各部分の配置および構成を説明する。X軸、Y軸、Z軸は、相互に直交し、それぞれX方向、Y方向、Z方向を表す。また、Z方向を上方、その反対方向を下方として説明する場合がある。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る半導体装置1を例示する模式断面図である。半導体装置1は、例えば、独立して制御される複数のゲート電極を有するIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。
【0010】
図1に示すように、半導体装置1は、半導体部10と、第1電極(以下、コレクタ電極20)と、第2電極(以下、エミッタ電極30)と、第1制御電極(以下、ゲート電極40)と、第2制御電極(以下、ゲート電極50)と、第3制御電極(以下、ゲート電極60)と、を備える。
【0011】
半導体部10は、例えば、シリコンである。半導体部10は、コレクタ電極20とエミッタ電極30との間に延在する。コレクタ電極20は、半導体部10の裏面側に設けられる。エミッタ電極30は、半導体部10の裏面側に設けられる。コレクタ電極20およびエミッタ電極30は、例えば、アルミニウムを含む金属層である。
【0012】
ゲート電極40および50は、半導体部10とエミッタ電極30との間に設けられる。半導体部10は、その表面側に設けられたゲートトレンチGT1およびGT2を有する。ゲート電極40および50は、ゲートトレンチGT1およびGT2の内部にそれぞれ設けられる。
【0013】
ゲート電極60は、複数設けられ、ゲートトレンチGT1およびGT2の内部にそれぞれ配置される。ゲート電極60は、コレクタ電極20とゲート電極40との間、および、コレクタ電極20とゲート電極50との間にそれぞれ位置する。
【0014】
ゲートトレンチGT1は、ゲート電極40およびゲート電極60を半導体部10から電気的に絶縁する絶縁膜を含む。ゲートトレンチGT2は、ゲート電極50およびゲート電極60を半導体部10から電気的に絶縁する別の絶縁膜を含む。
【0015】
ゲート電極40は、第1絶縁部(以下、ゲート絶縁膜43)により半導体部10から電気的に絶縁される。また、エミッタ電極30とゲート電極40との間には、層間絶縁膜45が設けられる。層間絶縁膜45は、エミッタ電極30からゲート電極40を電気的に絶縁する。
【0016】
ゲート電極50は、第2絶縁部(以下、ゲート絶縁膜53)により半導体部10から電気的に絶縁される。また、エミッタ電極30とゲート電極40との間には、層間絶縁膜55が設けられ、エミッタ電極30からゲート電極50を電気的に絶縁する。
【0017】
ゲート電極60は、第3絶縁部(以下、ゲート絶縁膜63)により半導体部10から電気的に絶縁される。ゲート電極60とゲート電極40との間、および、ゲート電極60とゲート電極50との間には、第4絶縁部(以下、絶縁膜65)がそれぞれ設けられる。絶縁膜65は、ゲート電極40および50からゲート電極60を電気的に絶縁する。
【0018】
ゲート電極40、50および60は、例えば、導電性を有するポリシリコンである。ゲート絶縁膜43、53、63、層間絶縁膜45、55および絶縁膜65は、例えば、シリコン酸化膜である。
【0019】
半導体部10は、例えば、第1層~第5層を含む。
第1層(以下、n形ベース層11)は、コレクタ電極20とエミッタ電極30との間に延在する。ゲートトレンチGT1およびGT2は、半導体部10の表面からn形ベース層11中に延在するように設けられる。ゲート電極60は、n形ベース層11中に位置する。
【0020】
第2層(以下、p形ベース層13)は、n形ベース層11とエミッタ電極30との間に設けられる。p形ベース層13は、ゲート絶縁膜43を介して、ゲート電極40に向き合い、ゲート絶縁膜53を介して、ゲート電極50に向き合うように設けられる。
【0021】
第3層(以下、n形エミッタ層15)は、p形ベース層13とエミッタ電極30との間に設けられる。n形エミッタ層15は、例えば、ゲート絶縁膜43および53に接するように設けられる。n形エミッタ層15は、エミッタ電極30に電気的に接続される。
【0022】
第4層(以下、p形コレクタ層21)は、n形ベース層11とコレクタ電極20との間に設けられる。p形コレクタ層21は、コレクタ電極20に電気的に接続される。
【0023】
第5層(以下、n形バッファ層23)は、n形ベース層11とp形コレクタ層21との間に設けられる。n形バッファ層23は、n形ベース層11のn形不純物よりも高濃度のn形不純物を含む。
【0024】
半導体部10は、n形バリア層25をさらに含む。n形バリア層25は、n形ベース層11とp形ベース層13との間に設けられる。n形バリア層25は、n形ベース層11のn形不純物よりも高濃度のn形不純物を含む。
【0025】
n形バリア層25は、n形ベース層11からp形ベース層13へ移動する正孔に対するポテンシャルバリアを高くして、正孔の移動を抑制する。n形バリア層25は、オン状態において、n形ベース層11中の電子および正孔の密度を高くするために設けられる。
【0026】
図2(a)~(c)は、第1実施形態に係る半導体装置1の別の断面を例示する模式図である。
図2(a)は、
図1中に示すA-A線に沿った断面図である。
図2(b)は、
図1中に示すB-B線に沿った断面図である。
図2(c)は、
図1中に示すC-C線に沿った断面図である。
【0027】
図2(a)に示すように、半導体装置1は、第1配線(以下、ゲート配線33)と、第2配線(以下、ゲート配線35)と、第3配線(以下、ゲート配線37)と、を含む。ゲート配線33、35および37は、例えば、層間絶縁膜45および絶縁膜47により半導体部10から電気的に絶縁される。絶縁膜47は、例えば、シリコン酸化膜である。
【0028】
半導体部10は、p形コンタクト層17をさらに含む。p形コンタクト層17は、p形ベース層13とエミッタ電極30との間に選択的に設けられる。エミッタ電極30は、p形コンタクト層17に電気的に接続される。n形エミッタ層15およびp形コンタクト層17は、それぞれ、複数設けられ、半導体部10の表面に沿った方向(例えば、Y方向)に交互に配置される。
【0029】
図2(b)に示すように、ゲート配線33は、例えば、コンタクト部33cを介して、ゲート電極40に電気的に接続される。コンタクト部33cは、層間絶縁膜45を貫いて、ゲート電極40に接する。さらに、ゲート配線37は、例えば、コンタクト部37cを介して、ゲート電極60に電気的に接続される。コンタクト部37cは、層間絶縁膜45を貫いて、ゲート電極60に接する。
【0030】
ゲート電極60は、例えば、ゲートトレンチGT1の端部に設けられた接続部60cを有する。接続部60cは、ゲート電極40の上端と同じレベルに位置する上端を有し、コンタクト部37cは、接続部60cに接する。
【0031】
図2(c)に示すように、ゲート配線35は、例えば、コンタクト部35cを介して、ゲート電極50に電気的に接続される。コンタクト部35cは、層間絶縁膜55を貫いて、ゲート電極50に接する。さらに、ゲート配線37は、例えば、コンタクト部37dを介して、ゲート電極60に電気的に接続される。コンタクト部37dは、層間絶縁膜55を貫いて、ゲート電極60に接する。
【0032】
ゲート電極60は、例えば、ゲートトレンチGT2の端部に設けられた接続部60dを有する。接続部60dの上端は、ゲート電極50の上端と同じレベルに位置する。コンタクト部37dは、接続部60dに接する。
【0033】
このように、半導体装置1は、独立して制御されるゲート電極40、50および60を備える。ゲート電極40、50および60は、ゲート配線33、35および37を介して、相互に独立してバイアスされる。ゲート配線33、35および37は、それぞれ、図示しないゲート端子、例えば、ゲートパッドに接続される。
【0034】
図3は、第1実施形態に係る半導体装置1の制御方法を例示するタイムチャートである。
図3は、各ゲート電極40、50および60に印加されるゲート電圧の時間変化と、それに伴うコレクタ電流I
Cおよびコレクタ・エミッタ間電圧V
CEの変化を示している。
【0035】
例えば、コレクタ電極20とエミッタ電極30との間において、コレクタ電極20は、エミッタ電極30の電位よりも高電位となるようにバイアスされる。
エミッタ電極30とゲート電極40との間には、ゲート配線33を介して、ゲート電圧V
G1が印加される。
エミッタ電極30とゲート電極50との間には、ゲート配線35を介して、ゲート電圧V
G2が印加される。
エミッタ電極30とゲート電極60との間には、ゲート配線37を介して、ゲート電圧V
G3が印加される。
以下、
図1および
図3を参照して、半導体装置1の制御方法を説明する。
【0036】
図3に示すように、第1時点t
1において、ゲート電圧V
G1を、ゲート電極40の閾値電圧よりも低いレベル(例えば、マイナス15V)から、閾値電圧よりも高いレベル(例えば、プラス15V)に変化させる。
【0037】
また、第1時点t1において、ゲート電圧VG2を、ゲート電極50の閾値電圧よりも低いレベル(マイナス15V)から、閾値電圧よりも高いレベル(プラス15V)に上昇させる。
【0038】
これにより、p形ベース層13とゲート絶縁膜43との界面、および、p形ベース層13とゲート絶縁膜53との界面にn形反転層が誘起される。これに伴い、コレクタ電流ICが増加し、コレクタ・エミッタ間電圧VCEが低下する。すなわち、半導体装置1は、オフ状態からオン状態に移行される。
【0039】
さらに、第1時点t1において、ゲート電圧VG3を、例えば、マイナス15Vからプラス15Vに上昇させ、n形ベース層11とゲート絶縁膜63との界面に、例えば、n形蓄積層を誘起する。これにより、電子電流は、エミッタ電極30からn形反転層およびn形蓄積層を介してコレクタ電極20へ流れる。すなわち、電子電流は、ゲートトレンチGT1およびGT2の近傍を流れるようになる。一方、コレクタ電極20からエミッタ電極30へ流れる正孔電流は、隣合うゲートトレンチGT1とゲートトレンチGT2との間の中央を流れる。この結果、n形ベース層11中の電子および正孔の流れがスムーズになり、オン抵抗を低減することができる。
【0040】
続いて、第1時点t1よりも後の第2時点t2において、ゲート電圧VG2を、ゲート電極50の閾値電圧よりも高いレベルから、閾値電圧よりも低いレベルに変化させる。また、第2時点t2において、ゲート電圧VG3を、例えば、プラス15Vからマイナス15Vに降下させる。
【0041】
これにより、p形ベース層13とゲート絶縁膜53との界面に誘起されたn形反転層が消え、エミッタ電極30からn形反転層を介したn形ベース層11への電子注入が減少する。このため、n形ベース層11中の電子および正孔の密度が下がる。
【0042】
さらに、ゲート電極60へ印加されたマイナスのゲート電圧VG3により、n形ベース層11とゲート絶縁膜63との間に、p形反転層が誘起される。これにより、コレクタ電極20からエミッタ電極30へ流れる正孔電流は、ゲートトレンチGT1およびGT2の近傍を流れるようになる。一方、エミッタ電極30からn形反転層を介してコレクタ電極20からへ流れる電子電流は、隣合うゲートトレンチGT1とゲートトレンチGT2との間の中央を流れる。これにより、n形ベース層11中の電子および正孔の流れがスムーズになり、オン抵抗を低減することができる。
【0043】
さらに、第2時点t2よりも後の第3時点t3において、ゲート電圧VG1を、ゲート電極40の閾値電圧よりも高いレベル(例えば、プラス15V)から、閾値電圧よりも低いレベル(例えば、マイナス15V)に降下させる。
【0044】
これにより、p形ベース層13とゲート絶縁膜43との界面に誘起されたn形反転層が消え、コレクタ電流ICが減少すると共に、コレクタ・エミッタ間電圧VCEが上昇する。この結果、半導体装置1は、オン状態からオフ状態に移行する。
【0045】
本実施形態では、第2時点t2から第3時点t3の間に、n形ベース層11の電子および正孔の密度を予め低減しておくことにより、第3時点t3の後、n形ベース層11中の電子がコレクタ電極20に排出され、正孔がエミッタ電極30に排出される時間を短縮することができる。すなわち、半導体装置1のターンオフ過程において、n形ベース層11の空乏化に要する時間を短縮することにより、ターンオフ損失を低減することができる。さらに、ゲート電極60にマイナス電圧を印加することにより、n形ベース層11中の空乏層の広がりを助長し、ターンオフ損失をさらに低減することができる。
【0046】
また、n形ベース層11中の空乏層の広がりを助長するためには、例えば、ゲート電極60を、n形ベース層11の中央に配置することが好ましい。このため、ゲート電極40とゲート電極60との間隔、および、ゲート電極50とゲート電極60との間隔が広くなっても良い。
図1に示すように、ゲート電極40および50とゲート電極60との間隔は、例えば、ゲート電極60のZ方向の幅よりも広い。言い換えれば、ゲート電極40および50とゲート電極60との間にそれぞれ設けられる絶縁膜65は、ゲート電極60のZ方向の幅T
1よりも広いZ方向の幅T
2を有する(
図1参照)。
【0047】
図4(a)および(b)は、第1実施形態の第1変形例に係る半導体装置2および3を例示する模式断面図である。
【0048】
図4(a)に示す半導体装置2では、半導体部10は、n形ベース層11中に設けられたp形半導体領域27をさらに含む。p形半導体領域27は、ゲート絶縁膜63に沿って、ゲート電極60を囲むように設けられる。
【0049】
p形半導体領域27は、例えば、エミッタ電極30とゲート電極60との間に印加されるゲート電圧V
G3により、n形領域に反転することが望ましい。例えば、ゲート電圧V
G3(
図3参照)をプラス15Vとした時、p形半導体領域27とゲート絶縁膜63との界面に引き寄せられる電子によりp形半導体領域27がn形に反転するように、p形半導体領域27のp形不純物濃度を設定することが望ましい。また、p形半導体領域27を設ける場合、ゲート電圧V
G3は、例えば、0Vからプラス15Vに上昇させ、プラス15Vから0Vに降下するように制御される。
【0050】
さらに、p形半導体領域27に代えて、n形半導体領域を配置しても良い。この例では、p形半導体領域27は、トレンチゲートGT1およびGT2の両方の下端に設けられているが、いずれか一方の下端に配置しても良い。
【0051】
図4(b)に示す半導体装置3では、ゲート電極40および50は、それぞれ、ゲート電極60の近傍まで延在する。例えば、ゲート電極40および50のそれぞれとゲート電極60との間に設けられる絶縁膜65のZ方向の幅は、ゲート電極60のZ方向の幅よりも狭い。
【0052】
半導体装置3では、ゲート電極40、50および60のそれぞれにマイナスのゲート電圧を印加すると、n形ベース層11とゲート絶縁膜43との界面、n形ベース層11とゲート絶縁膜53との界面、および、n形ベース層11とゲート絶縁膜63との界面にそれぞれp形反転層が誘起される。このため、p形半導体領域27とp形ベース層13が電気的に接続され、n形ベース層11からエミッタ電極30への正孔の排出経路が形成される。これにより、エミッタ電極30への正孔の移動がスムーズになり、オン抵抗をより低減することができる。
【0053】
図5(a)および(b)は、第1実施形態の第2変形例に係る半導体装置4および5をそれぞれ例示する模式断面図である。半導体装置4および5では、ゲート電極40とゲート電極50との間に、エミッタプレート70が配置される。エミッタプレート70は、エミッタ電極30に電気的に接続される。エミッタプレート70は、例えば、導電性を有するポリシリコンである。
【0054】
図5(a)に示すように、エミッタプレート70は、半導体部10とエミッタ電極30との間に位置する。エミッタプレート70は、半導体部10に設けられたゲートトレンチGT3の内部に配置される。
【0055】
ゲートトレンチGT3は、例えば、半導体部10の表面からn形ベース層11中に延在する。エミッタプレート70もn形ベース層11中に延在する。エミッタプレート70は、例えば、絶縁膜73により半導体部10から電気的に絶縁される。p形ベース層13は、絶縁膜73を介して、エミッタプレート70の向き合う。絶縁膜73は、例えば、シリコン酸化膜である。
【0056】
図5(b)に示すように、ゲートトレンチGT3の内部において、ゲート電極60を、コレクタ電極20とエミッタプレート70との間に位置するように配置しても良い。ゲート電極60は、例えば、絶縁膜65により、エミッタプレート70から電気的に絶縁される。
【0057】
この例では、エミッタプレート70を配置することにより、ゲート電極40とゲート電極50によるコレクタ電流制御が相互に干渉することを回避できる。すなわち、n形ベース層11からp形ベース層13への正孔の移動、および、n形反転層を介したエミッタ電極30からn形ベース層11への電子注入がよりスムーズになり、オン抵抗を低減できる。
【0058】
図6は、第1実施形態の第3変形例に係る半導体装置6を例示する模式断面図である。
図6は、
図2(b)に示す断面に対応する断面図である。
【0059】
図6に示すように、ゲート電極40は、ゲート絶縁膜43を介して、n形エミッタ層15に向き合う領域40aを含む(
図1参照)。例えば、オン状態において、エミッタ電極30からn形ベース層11に注入される電子は、n形エミッタ層15とゲート絶縁膜43との間に誘起されたn形反転層を介して流れる。すなわち、電子は、領域40aからn形ベース層11に向かう方向に流れる。
【0060】
図6に示すゲート電極60は、第1部分60aと、第2部分60bと、を含む。第1部分60aおよび第2部分60bは、コレクタ電極20とゲート電極40との間に設けられる。第1部分60aは、ゲート電極40の領域40aとコレクタ電極20との間に位置する。第1部分60aのZ方向の厚さは、第2部分60bのZ方向の厚さよりも厚い。
【0061】
例えば、オン状態において、ゲート電極60に、プラス15Vのゲート電圧V
G3を印加し、n形ベース層11とゲート絶縁膜63との間にn形蓄積層を誘起する(
図3参照)。これにより、エミッタ電極30からn形反転層を介して注入される電子は、n形蓄積層を介して流れるように制御される。この時、ゲート電極40の領域40aとコレクタ電極20との間に第1部分60aを配置することにより、電子の流れを領域40aから第1部分60aに向かう方向に集中させることができる。一方、正孔は、第2部分60bからゲート電極40の領域40a以外の部分に向かって移動する。この結果、n形ベース層11中における電子および正孔の流れを分離して、オン抵抗をさらに低減することが可能となる。
【0062】
なお、
図6では、ゲート電極40と共にゲートトレンチGT1の内部に配置されるゲート電極60を例示しているが、これに限定される訳ではない。例えば、ゲート電極50と共にゲートトレンチGT2の内部に配置されるゲート電極60に、第1部分60aおよび第2部分60を設けても良い。
【0063】
図7(a)および(b)は、第1実施形態の第4変形例に係る半導体装置のゲート電極60を例示する模式断面図である。ゲート電極60の断面形状は、上記の例に限定されず、所望の電流容量および電界効果を実現できる形状であれば良い。
【0064】
図7(a)に示すように、ゲート電極60は、ゲートトレンチGT1の底部において、一方の側壁の近傍に位置するように設けられても良い。例えば、オン電流が流れる領域に面するように配置することにより、正孔と電子の流れを分離し、電流容量を大きくすることができる。
【0065】
また、
図7(b)に示すように、ゲート電極60は、ゲートトレンチGT1の底部において、一方の側壁および底面に沿って設けられても良い。
【0066】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態に係る半導体装置7を例示する模式断面図である。この例では、ゲート電極40、50および60は、1つのゲートトレンチGT1の内部に設けられる。
【0067】
ゲート電極40は、コレクタ電極20とエミッタ電極30との間において、ゲート絶縁膜43を介して、p形ベース層13に向き合うように設けられる。
【0068】
ゲート電極50は、コレクタ電極20とゲート電極40との間において、ゲート絶縁膜53を介して、n形ベース層11に向き合うように設けられる。
【0069】
ゲート電極60は、コレクタ電極20とゲート電極50との間において、ゲート絶縁膜63を介して、n形ベース層11に向き合うように設けられる。
【0070】
ゲート電極40とゲート電極50との間は、絶縁膜57により電気的に絶縁される。また、ゲート電極50とゲート電極60との間は、絶縁膜65により電気的に絶縁される。絶縁膜57は、例えば、シリコン酸化膜である。
【0071】
例えば、ゲート電極50にマイナスのゲート電圧V
G2(
図3参照)を印加することにより、n形ベース層11とゲート絶縁膜53との界面にp形反転層を形成する。また、ゲート電極60にマイナスのゲート電圧V
G3(
図3参照)を印加することにより、n形ベース層11とゲート絶縁膜63との界面にp形反転層を形成する。これにより、n形ベース層11からp形ベース層13に至る正孔の排出経路を構成し、n形ベース層11中の正孔の排出を促進することができる。さらに、n形ベース層11の空乏化を促進することができる。
【0072】
また、ゲート電極50にプラスのゲート電圧V
G2(
図3参照)を印加することにより、n形ベース層11とゲート絶縁膜53との界面にn形蓄積層を形成する。また、ゲート電極60にプラスのゲート電圧V
G3(
図3参照)を印加することにより、n形ベース層11とゲート絶縁膜63との界面にn形蓄積層を形成する。これにより、p形ベース層13とゲート絶縁膜43との界面に誘起されるn形反転層に至る電子電流の経路を構成し、オン抵抗を低減することができる。
【0073】
図9(a)および(b)は、第2実施形態の変形例に係る半導体装置8および9を例示する模式断面図である。半導体装置8および9では、ゲート電極40、50および60は、1つのゲートトレンチGT1の内部に設けられる。さらに、隣り合う2つのゲート電極40の間に、エミッタプレート70が設けられる。
【0074】
図9(a)および(b)に示すように、エミッタプレート70は、ゲートトレンチGT3の内部に設けられ、エミッタ電極30に電気的に接続される。エミッタプレート70は、絶縁膜73により、半導体部10から電気的に絶縁される。
【0075】
図9(a)に示す半導体装置8では、コレクタ電極20とエミッタプレート70との間に、ゲート電極50が設けられる。ゲート電極50は、ゲートトレンチGT3内に設けられ、ゲート絶縁膜53により半導体部10から電気的に絶縁される。ゲート電極50とエミッタプレート30との間は、絶縁膜75により電気的に絶縁される。絶縁膜75は、例えば、シリコン酸化膜である。
【0076】
ゲート電極50は、例えば、n形ベース層11中に位置し、n形ベース層11とゲート絶縁膜53との界面にp形反転層を誘起するように制御される。これにより、n形ベース層11中の正孔の排出を促進する。
【0077】
図9(b)に示す半導体装置9では、コレクタ電極20とエミッタプレート70との間に、ゲート電極50が設けられる。さらに、コレクタ電極20とゲート電極50との間に、ゲート電極60が設けられる。ゲート電極50および60は、ゲートトレンチGT3内に設けられる。ゲート電極50および60は、例えば、n形ベース層11中に位置する。
【0078】
ゲート電極50は、ゲート絶縁膜53により半導体部10から電気的に絶縁され、ゲート電極60は、ゲート絶縁膜63により半導体部10から電気的に絶縁される。
【0079】
ゲート電極50は、例えば、n形ベース層11とゲート絶縁膜53との界面にp形反転層を誘起するように制御される。これにより、n形ベース層11中の正孔の排出を促進する。
【0080】
ゲート電極60は、例えば、n形ベース層11とゲート絶縁膜53との界面にp形反転層を誘起するように制御される。これにより、n形ベース層11中の正孔の排出を促進する。さらに、ゲート電極60は、n形ベース層11の空乏化を促進する。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1~9…半導体装置、 10…半導体部、 11…n形ベース層、 13…p形ベース層、 15…n形エミッタ層、 17…p形コンタクト層、 20…コレクタ電極、 21…p形コレクタ層、 23…n形バッファ層、 25…n形バリア層、 27…p形半導体領域、 30…エミッタ電極、 33、35、37…ゲート配線、 33c、35c、37c、37d…コンタクト部、 40、50、60…ゲート電極、 43、53、63…ゲート絶縁膜、 45、55、65…層間絶縁膜、 47、57、73、75…絶縁膜、 60a…第1部分、 60b…第2部分、 60c、60d…接続部、 70…エミッタプレート、 GT1、GT2、GT3…ゲートトレンチ、 IC…コレクタ電流、 VCE…コレクタ・エミッタ間電圧、 VG1、VG2、VG3…ゲート電圧