(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】蛍光を用いた免疫分析法で測定するための試料溶液の調製方法、測定用セル、測定キットおよび試料溶液の調製装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/02 20060101AFI20231120BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231120BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
G01N33/02
G01N33/543 501H
G01N33/543 575
G01N33/569 A
(21)【出願番号】P 2020068486
(22)【出願日】2020-04-06
【審査請求日】2023-03-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発プログラム「オンサイト蛍光偏光イムノアッセイ装置の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】303018827
【氏名又は名称】Tianma Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100183955
【氏名又は名称】齋藤 悟郎
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100180334
【氏名又は名称】山本 洋美
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100174067
【氏名又は名称】湯浅 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136342
【氏名又は名称】中村 成美
(72)【発明者】
【氏名】今井 阿由子
(72)【発明者】
【氏名】住吉 研
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-057301(JP,A)
【文献】特開平09-262097(JP,A)
【文献】米国特許第04344438(US,A)
【文献】米国特許第06395233(US,B1)
【文献】米国特許第05861097(US,A)
【文献】特開昭61-178662(JP,A)
【文献】特表2009-520956(JP,A)
【文献】特開2016-180710(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有される測定対象化合物の濃度を測定するための試料溶液の調製方法であって、
前記測定対象化合物を含む測定対象化合物含有溶液を透析膜を介して透析液と接触させて前記測定対象化合物を前記透析液に移行させる透析工程を含み、
前記透析膜の分画分子量が2×10
2~2×10
5であり、
前記測定対象化合物含有溶液量に対して前記透析液量が少ないことを特徴とする試料溶液の調製方法。
【請求項2】
前記測定対象化合物含有溶液量に対する前記透析液量比(透析液量/測定対象化合物含有溶液量)が1/10~1/1×10
4である、請求項1記載の試料溶液の調製方法。
【請求項3】
前記透析工程は、外周に前記透析膜が配設された透析カートリッジに前記透析液を仕込み、前記測定対象化合物含有溶液に前記透析カートリッジを浸漬させて前記測定対象化合物を前記透析液に移行させるものである、請求項1または2記載の試料溶液の調製方法。
【請求項4】
前記透析液に対する前記測定対象化合物の溶解度は、前記測定対象化合物含有溶液に対する前記測定対象化合物の溶解度よりも高いものである、請求項1~3のいずれかに記載の試料溶液の調製方法。
【請求項5】
前記透析工程は、前記測定対象化合物含有溶液の温度より前記透析液の温度が高い条件で行うものである、請求項1~4のいずれかに記載の試料溶液の調製方法。
【請求項6】
前記透析工程が、
前記測定対象化合物含有溶液と前記透析液との比重を比較して比重の重い液体を下層とし、前記下層の上に前記透析膜を載置し、その上に比重の軽い液体を注ぎ、
前記測定対象化合物を前記透析液に移行させるものである、請求項1記載の試料溶液の調製方法。
【請求項7】
前記透析工程が、銀粒子含有酸化鉄粒子を含む撹拌子で前記測定対象化合物含有溶液および/または前記透析液を撹拌しながら行うものである、請求項1~5のいずれかに記載の試料溶液の調製方法。
【請求項8】
前記透析工程が、前記測定対象化合物含有溶液に夾雑物吸着剤を仕込んで行うものである、請求項1~5のいずれかに記載の試料溶液の調製方法。
【請求項9】
前記測定対象化合物は、カビ毒、貝毒、動物飼育用剤および農作物育成用剤からなる群から選択される1つである、請求項1~8のいずれかに記載の試料溶液の調製方法。
【請求項10】
蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有される測定対象化合物の濃度を測定するための測定用セルであって、
300~800nmの波長を透過する部材からなる測定エリアと、分画分子量2×10
2~2×10
5の透析膜とが配設されるものである、測定用セル。
【請求項11】
蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有されるカビ毒、貝毒、動物飼育用剤、および農作物育成用剤からなる群から選択される1の測定対象化合物の濃度を測定するための測定キットであって、
請求項10記載の測定用セルと、
前記測定用セルに仕込む透析液と、
前記測定対象化合物に特異的に結合する抗体と、
蛍光標識した測定対象化合物誘導体とを含むものである、測定キット。
【請求項12】
蛍光を用いた免疫分析法における試料溶液の調製装置であって、
測定対象化合物含有溶液を収容する容器と、
前記容器内に収納される1以上の透析カートリッジとを含み、
前記容器の容量に対する前記透析カートリッジの全容量比(透析カートリッジの全容量/容器の容量)が1/10~1/1×10
4であることを特徴とする試料溶液の調製装置。
【請求項13】
前記透析カートリッジは、透析液注入口に蓋部が配設される、請求項12記載の試料溶液の調製装置。
【請求項14】
更に、前記容器に収納した前記溶液を撹拌する撹拌装置を備える、請求項12または13記載の試料溶液の調製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、蛍光を用いた免疫分析法で食品に含まれる測定対象化合物の濃度を測定するための試料溶液の調製方法、測定用セル、測定キットおよび試料溶液の調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光を用いた免疫分析法として、抗原抗体反応を利用して対象物質の検出を行う蛍光偏光免疫分析法(FPIA;Fluorescence Polarization Immunoassay)がある。特許文献1には、試料に励起光を照射し、試料から発せられた入射光の偏光方向と平行な偏光成分と、入射光の偏光方向と垂直な偏光成分とを計測し、2つの偏光成分を用いて偏光度を算出する蛍光偏光免疫検定法の原理が記載されている。蛍光偏光度は、測定対象物質の実効体積に比例するため、分子量に対応して数値が大きくなる。そのため、測定対象物質は低分子であることが好ましい。特許文献2では、抗原タンパク質より低分子のバンコマイシンを測定対象物質とし、バンコマイシンに特異的に結合するモノクローナル抗体を調製し、バンコマイシン類似体の混合による測定誤差を回避できる、FPIAによるバンコマイシンの測定方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-103765号公報
【文献】特表平11-503521公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
食品に含まれその含有量が問題となる物質として、カビ毒、貝毒、動物飼育用剤、農作物育成用剤などがある。食中毒を防止し、食品中の農薬残留等を評価することは食品の安全を確保するために重要である。従来、麦類に発生するカビ毒のデオキシニバレノール(DON)はLC/MSで測定されてきたが、対応する抗体を調製できればバンコマイシンと同様にFPIAで測定することができる。一方、血中バンコマイシン濃度の測定は、採血後に医療検体専用の検査機関で測定されるが、食品汚染の場合にはオンサイトで測定できることが好ましい。食品には脂肪、糖、タンパク質その他の夾雑物が多く含まれるため、種々の食品からカビ毒を含む画分を抽出し、かつFPIAで測定可能な程度に濃縮した試料を調製する必要がある。また、食品安全法問題とされる測定対象化合物はカビ毒に限定されず、残留農薬もある。更に畜産業、水産業では、健康飼育をモットーとして抗生物質フリー、抗菌剤フリーを謳う商品が存在する。このように育成された食肉や魚類に含まれる抗生物質や抗菌剤を測定対象化合物としてその濃度を測定し、安全性を評価することも重要である。したがって、蛍光を用いた免疫分析法により、食品に含まれるカビ毒や残留農薬などの測定対象化合物をオンサイトで検出できる、試料の調製方法が希求されている。
【0005】
また、蛍光を用いた免疫分析法には、FPIA以外にも、標識物質に酵素で標識した抗原または抗体を用いて抗原抗体反応を行い、蛍光基質を加えて蛍光強度を測定する蛍光酵素免疫測定法(Fluorescence Enzyme Immunoassay:FEIA)、抗原を特異的に認識する抗体を用いてその抗原の分布を調べる蛍光抗体法(Fluorescent Antibody Method:FA)などもある。蛍光を用いる免疫分析法は微量成分を検出できるため、オンサイトで試料を調製する必要性はFPIAに限らず、FEIA、FAその他の蛍光を用いた免疫分析法でも同様である。
【0006】
上記現状から、本開示は、蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有される測定対象化合物の濃度を測定するための試料溶液の調製方法を提供することを目的とする。
【0007】
また本開示は、蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有される測定対象化合物の濃度を測定するための測定用セルおよび測定キット、調製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示者らは蛍光を用いた免疫分析法について詳細に検討したところ、食品に含まれるリボフラビンや分子量2×105以上の物質が光散乱を発生して蛍光の測定誤差となること、所定の分画分子量の透析膜を使用すればこれら測定誤差を生ずる物質を除去できること、および透析液量を適宜選択すれば測定対象化合物を希釈することなくオンサイトで蛍光を用いた免疫分析用の試料を調製できることなどを見出した。
【0009】
すなわち本開示は、蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有される測定対象化合物の濃度を測定するための試料溶液の調製方法であって、
前記測定対象化合物を含む測定対象化合物含有溶液を透析膜を介して透析液と接触させて前記測定対象化合物を前記透析液に移行させる透析工程を含み、
前記透析膜の分画分子量が2×102~2×105であり、
前記測定対象化合物含有溶液量に対して前記透析液量が少ないことを特徴とする試料溶液の調製方法を提供するものである。
【0010】
また本開示は、前記測定対象化合物含有溶液量に対する前記透析液量比(透析液量/測定対象化合物含有溶液量)が1/10~1/1×104である、前記試料溶液の調製方法を提供するものである。
【0011】
また本開示は、前記透析工程は、外周に前記透析膜が配設された透析カートリッジに前記透析液を仕込み、前記測定対象化合物含有溶液に前記透析カートリッジを浸漬させて前記測定対象化合物を前記透析液に移行させるものである、前記試料溶液の調製方法を提供するものである。
【0012】
また本開示は、前記透析液に対する前記測定対象化合物の溶解度は、前記測定対象化合物含有溶液に対する前記測定対象化合物の溶解度よりも高いものである、前記試料溶液の調製方法を提供するものである。
【0013】
また本開示は、前記透析工程は、前記測定対象化合物含有溶液の温度より前記透析液の温度が高い条件で行うものである、前記試料溶液の調製方法を提供するものである。
【0014】
また本開示は、前記透析工程が、
前記測定対象化合物含有溶液と前記透析液との比重を比較して比重の重い液体を下層とし、前記下層の上に前記透析膜を載置し、その上に比重の軽い液体を注ぎ
前記測定対象化合物を前記透析液に移行させるものである、前記試料溶液の調製方法を提供するものである。
【0015】
また本開示は、前記透析工程が、銀粒子含有酸化鉄粒子を含む撹拌子で前記測定対象化合物含有溶液および/または前記透析液を撹拌しながら行うものである、前記試料溶液の調製方法を提供するものである。
【0016】
また本開示は、前記透析工程が、前記測定対象化合物含有溶液に夾雑物吸着剤を仕込んで行うものである、前記試料溶液の調製方法を提供するものである。
【0017】
また本開示は、前記測定対象化合物は、カビ毒、貝毒、動物飼育用剤および農作物育成用剤からなる群から選択される1つである、前記試料溶液の調製方法を提供するものである。
【0018】
また本開示は、蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有される測定対象化合物の濃度を測定するための測定用セルであって、
300~800nmの波長を透過する部材からなる測定エリアと、分画分子量2×102~2×105の透析膜とが配設されるものである、測定用セルを提供するものである。
【0019】
また本開示は、蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有されるカビ毒、貝毒、動物飼育用剤、および農作物育成用剤からなる群から選択される1の測定対象化合物の濃度を測定するための測定キットであって、
前記測定用セルと、
前記測定用セルに仕込む透析液と、
前記測定対象化合物に特異的に結合する抗体と、
蛍光標識した測定対象化合物誘導体とを含むものである、測定キットを提供するものである。
【0020】
また本開示は、蛍光を用いた免疫分析法における試料溶液の調製装置であって、
測定対象化合物含有溶液を収容する容器と、
前記容器内に収納される1以上の透析カートリッジとを含み
前記容器の容量に対する前記透析カートリッジの全容量比(透析カートリッジの全容量/容器の容量)が1/10~1/1×104である
ことを特徴とする試料溶液の調製装置を提供するものである。
【0021】
また本開示は、前記透析カートリッジは、透析液注入口に蓋部が配設される、前記試料溶液の調製装置を提供するものである。
【0022】
また本開示は、更に、前記容器に収納した前記溶液を撹拌する撹拌装置を備える、前記試料溶液の調製装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、食品に含まれる測定対象化合物を蛍光を用いた免疫分析法で測定する際の試料を調製する方法が提供される。また、蛍光を用いた免疫分析法で測定するための測定用セルおよび測定キット、および調製装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】測定対象化合物含有溶液が収納された抽出用容器に、透析液を仕込んだ透析カートリッジを浸漬する態様を示す図である。
【
図2】食品を粉砕した試料をろ過袋に収納して溶媒に浸漬して測定対象化合物含有溶液を調製し、同時に透析カートリッジで透析する態様を示す図である。
【
図3】透析カートリッジにヒーターを配設する態様を説明する図である。
【
図4】比重の重い測定対象化合物含有溶液が下層で、その上に透析膜を載置し、透析膜の上面に透析液を仕込む態様を説明する図である。
【
図5】マグネチックスターラーに載置した容器に測定対象化合物含有溶液を収納し、この溶液に透析カートリッジを浸漬し、溶液と透析液の双方に銀粒子含有酸化鉄粒子を投入した態様を説明する図である。マグネチックスターラーを駆動させると、モーターの回転に従って銀粒子含有酸化鉄粒子が回転し、溶液と透析液の双方が撹拌される。
【
図6】容器に収納した測定対象化合物含有溶液に透析カートリッジを浸漬し、かつ容器底部に吸着剤を載置した態様を説明する図である。
【
図7A】方形の測定用セルの好適な態様の1例を説明する図である。測定用セルの上部に励起光を透過させる測定エリアと、その下部に透析膜が配設されている。
【
図7B】測定用セルの使用方法を説明する図である。測定用セルに透析液を仕込み、これを測定対象化合物含有溶液に浸漬する態様を示す図である。
【
図8】試料溶液の調製装置として容器と透析カートリッジ、および撹拌手段を含む態様の1例を説明する図である。
【
図9A】試料溶液の調製装置として、容器に複数の透析カートリッジが配設され、かつ透析カートリッジに係止部や蓋部が配設される態様を説明する図である。
【
図9B】試料溶液の調製装置として、容器に複数の透析カートリッジが配設され、かつ各透析カートリッジが連結部材で連結される態様を説明する図である。
【
図10】試料溶液の調製装置として、容器に長尺円筒状の透析カートリッジが配設され、かつ透析カートリッジが透析能を有しない部材と透析能を有する部材とで構成される態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の第1は、蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有される測定対象化合物の濃度を測定するための試料溶液の調製方法であって、
前記測定対象化合物を含む測定対象化合物含有溶液を透析膜を介して透析液と接触させて前記測定対象化合物を前記透析液に移行させる透析工程を含み、
前記透析膜の分画分子量が2×102~2×105であり、
前記測定対象化合物含有溶液量に対して前記透析液量が少ないことを特徴とする試料溶液の調製方法である。
【0026】
蛍光を用いた免疫分析法としてはFEIA、FA、FPIAなどがあり、何れも本開示の対象となる。以下、説明の便宜のため、FPIAの場合で説明する。
FPIAは、競合的結合免疫測定原理に基づいている。測定対象とする分子と同一の分子に蛍光物質を標識した蛍光標識化合物、および測定対象の分子に特異的に結合する抗体の2種を試薬とする。測定用セルにこれら蛍光標識化合物と抗体と測定対象溶液とを加え、セルに励起光を照射し、試料から発せられた入射光の偏光方向と平行な偏光成分(Ih)と、入射光の偏光方向と垂直な偏光成分(Iv)とを計測し、蛍光偏光度P=(Ih-Iv)/(Ih+Iv)を算出する。蛍光偏光度Pは測定対象分子の濃度に対応して変化するため、例えば、予め調製した検量線を用いて測定対象分子の濃度を検出することができる。FPIAは抗体との特異反応を利用するため、従来のLC/MS(/MS)法等と比較し、代謝産物などの類似物質による測定誤差を低減することができる。
【0027】
本開示における測定対象化合物は、食品に含まれ、蛍光を用いた免疫分析法で測定可能な化合物であれば特に制限はない。しかしながら蛍光を用いた免疫分析法は低濃度での検出が可能なため、濃度が低くても生体に影響を与える化合物、例えば食品に含まれるカビ毒、貝毒、動物飼育用剤、農作物育成用剤等の測定に好適である。
カビ毒としては、アフラトキシン、オクラトキシン、デオキシニバレノール、ゼアラレノン、フモニシン、パツリン、シトリニン、T-2トキシン、HT2トキシンなどのマイコトキシンや、麦角アルカロイド、トロパンアルカロイド等のアルカロイドなどがある。
貝毒としては、オカダ酸、ドーモイ酸、サキシトキシンなどがある。
また、動物飼育用剤としては、テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、クロルテトラサイクリン、リメサイクリンなどのテトラサイクリン系抗生物質;ニトロフラゾン、ニトロフラントイン、フラゾリドン、フラルタドンなどのニトロフラン類;クロラムフェニコールなどの抗生物質、マラカイトグリーン、ゲンチアナバイオレット、エンロフロキサシンなどの抗菌剤、ラクトパミン、クレンブテロール、ジエチルスチルベストロール、サルブタモールなどの成長促進剤がある。
また、農作物育成用剤としては、イミダクロプリド、フェニトロチオン、クロルフェナピル、クロロタロニルなどの農薬がある。
【0028】
食品としては、米、麦、豆等の穀類;ホウレンソウ、トマト、人参などの野菜;冷凍ホウレンソウ、冷凍枝豆、冷凍人参などの冷凍食品、牛乳、水、酒などの飲料;醤油、ソースなどの調味料;鶏肉、豚肉などの食肉;ブリ、鯛、マグロ、ウナギなどの魚類;カキ、ホタテなどの貝類;これらを含む加工食品がある。
【0029】
本開示の試料溶液の調製方法では、測定対象化合物を含む溶液を測定対象化合物含有溶液と称し、これを透析膜と接触させて測定対象化合物を透析液に移行させる。測定対象化合物含有溶液としては、食品自体であってもよく、食品やその粉砕物と溶媒とを混合した溶液であってもよい。飲料や液体調味料など溶液状の食品は、そのまま透析膜と接触させることができる。一方、食品が固形物や半固形物の場合には予め溶媒中に測定対象化合物を抽出させておくことが好ましい。例えば、食品に溶媒を添加して混合したもの、予め食品を粉砕して溶媒に混合したもの、食品に溶媒を添加してホモジナイズしたものなどを測定対象化合物含有溶液として使用することができる。食品を粉砕する際の粉砕の程度は、例えば、LC/MS(/MS)法で試料を調製する際の粉砕の程度である。食品から溶媒への抽出時間は、食品や測定対象化合物、使用する溶媒によって相違し、予め抽出時間と抽出率を測定することで至適条件を選択することができる。測定対象化合物含有溶液にセルロース、キチン、キトサンなどの不溶性物質が含まれる場合には、予め遠心分離、静置分離、ろ過などによって除去してもよい。
【0030】
食品に添加する溶媒としては、水;メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール;アセトン、ジエチルケトン、メチルアミルケトンなどのケトン類;ヘキサン、ヘプタンなどのアルカン;ジエチルエーテル等のエーテル類;メチルスルホキシド、アセトニトリル、クロロホルムこれらの混合溶媒などを例示することができる。測定対象化合物の抽出溶媒としては、LC/MS(/MS)法で測定する際の溶媒を適宜選択して使用してもよい。例えば、小麦に含まれるDONの測定用試料を調製するには、アセトニトリル:水:メタノール=5:95:5の混合溶液を使用することができ、動物飼育用剤としてクロラムフェニコールを抽出するには、メタノールを使用することができる。なお、従来のLC/MS(/MS)法のための試料調製と異なる溶媒を使用してもよい。
【0031】
本開示で使用する透析膜は、分画分子量が2×102~2×105のものを使用することができる。好ましくは2×102~1.4×105、より好ましくは1.5×104~1.4×105である。測定対象化合物含有溶液には、TrisやPBSなどの塩類、DTT、β-メルカプトエタノールなどの還元剤、アジ化ナトリウム、チメロサールなどの保存剤が含まれる場合があり、FPIAによる測定の際の測定誤差を生じる阻害物質となる。そこで、分画分子量の下限を2×102とした。一方、分子量2×105を超える物質は光散乱性を有するためFPIAでは測定誤差を生じやすい。そこで、透過する分画分子量の上限を2×105とした。このような透析膜としてはセルロースエステル製透析用チューブ、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホンなどの合成高分子性透析用チューブなどがある。
【0032】
本開示で使用する透析膜は、分画分子量の他に、有機溶媒耐性を有するものを好適に使用することができる。
【0033】
測定対象化合物含有溶液量に対して前記透析液量が少ないことを特徴とする。例えば、測定対象化合物の溶解度が、測定対象化合物含有溶液と透析液とで等しく測定対象化合物は双方に均一に移行する場合には、測定対象化合物含有溶液量に対する透析液量比(透析液量/測定対象化合物含有溶液量)を小さくすることで、透析液に含まれる測定対象化合物の含有量を、測定対象化合物含有溶液量に含まれる測定対象化合物の含有量と近似させることができる。例えば、この液量比が1/100であれば、透析平衡時の透析液に含まれる測定対象化合物の濃度は、測定対象化合物含有溶液に含まれる測定対象化合物の濃度の0.99倍となり、ほとんど希釈されることなく測定試料を調製することができる。測定対象化合物含有溶液量に対する透析液量比(透析液量/測定対象化合物含有溶液量)は1/10~1/1×104、好ましくは1/1×102~1/1×104、特に好ましくは1/1×102~1/1×103である。
【0034】
透析時間は、使用する透析膜や使用する溶媒、測定対象化合物によって相違し、予め透析時間と透析率を測定することで至適条件を選択することができる。
【0035】
このような透析膜としては、例えば外周に透析膜が配設された透析カートリッジを使用することができる。この態様の1例を
図1に示す。測定対象化合物含有溶液3が収納された抽出用容器1に、透析液7を仕込んだ透析カートリッジ5が浸漬されている。測定対象化合物含有溶液3に含まれる測定対象化合物は透析膜を介して透析液7側に移行するが塩類等は移行できず、塩類や光核酸物質等が除去された透析液7を得ることができる。また、透析カートリッジ5を使用すれば、測定対象化合物含有溶液量に対する透析液量比を調整することも容易である。
図1では、測定対象化合物含有溶液3の液量が、透析液7の液量より極めて大である態様を示す。これにより測定対象化合物含有溶液に含まれる測定対象化合物の濃度が維持された試料溶液を調製することができる。
【0036】
図2は、測定対象化合物含有溶液3として、食品を粉砕した試料をろ過袋9に収納して溶媒に浸漬される態様を示す。食品からの測定対象化合物の抽出と透析カートリッジ5による透析とを同時に行い、試料溶液調製時間を短縮することができる。
【0037】
透析工程は、測定対象化合物含有溶液の温度より透析液の温度を高い条件で行うこともできる。一般に、溶媒の温度上昇につれ溶解度が向上する。よって透析液の液温を測定対象化合物含有溶液の液温より高めることで、透析液側に測定対象化合物を高濃度に移行させることができる。
図3に、透析カートリッジ5の透析液7をヒーター11で加熱する態様の1例を示す。例えば、透析カートリッジ5内に加熱器具を挿入することで透析液7の液温を高めることができる。測定対象化合物含有溶液3と透析液7の温度差は、測定対象化合物、使用する溶媒、透析膜の種類、透析液7によって相違し、予め各種温度差での透析時間と透析率を測定することで至適条件を選択することができる。
【0038】
本開示では、食品やその粉砕物を溶媒に混合する際に使用する溶媒として、測定対象化合物に対する溶解度が透析液と異なるものを使用してもよい。例えば、溶媒Aの測定対象化合物の溶解度が、溶媒Bの測定対象化合物の溶解度より低い場合、溶媒Aで測定対象化合物含有溶液を調製し、透析液として溶媒Bを使用する。クロラムフェニコールの溶解度は、水<エタノール含有水であるから、牛乳から測定対象化合物クロラムフェニコールを検出する際に、透析液としてエタノール含有水を使用する。測定対象化合物含有溶液量に対する透析液量比(透析液量/測定対象化合物含有溶液量)を1/100で透析しても、透析平衡時の透析液に含まれる測定対象化合物の濃度を、測定対象化合物含有溶液に含まれる測定対象化合物の濃度の0.99倍以上とすることができる。
【0039】
透析膜を介する測定対象化合物含有溶液と透析液との接触は、前記した透析カートリッジの使用に限定されるものではない。特に、測定対象化合物含有溶液と透析液との比重が異なる場合には、比重の重い液体を下層とし、前記下層の上に前記透析膜を載置し、その上に比重の軽い液体を注ぎ測定対象化合物を透析液に移行させるものであってもよい。
図4に、測定対象化合物含有溶液3が下層で、透析膜13の上面に透析液7を仕込んだ態様の1例を示す。たとえば、測定対象化合物としてドキシサイクリンを測定する際に、例えば食品豚肉の粉砕物を水と混合して測定対象化合物含有溶液3とし、これにクロロホルムを透析液7として使用する場合はクロロホルムを下層とし、その上面に透析膜13を静置し、その上部に測定対象化合物含有溶液3を仕込む。測定対象化合物ドキシサイクリンは、その溶解度がクロロホルム>水であるから、このような場合に有効である。
【0040】
本開示において、前記透析工程は、銀粒子含有酸化鉄粒子を含む撹拌子で測定対象化合物含有溶液や透析液を撹拌しながら行うものであってもよい。磁力を利用して撹拌子を回転させ、液体を撹拌することは周知の技術である。測定対象化合物含有溶液や透析液を銀粒子含有酸化鉄粒子を使用して撹拌すると、透析平衡時間を短縮することができる。このような銀粒子含有酸化鉄粒子としては、銀コーティング酸化鉄粒子、銀-酸化鉄粒子などがある。粒子径に限定はないが直径0.1~10μmより好ましくは直径1~10μmである。特に、撹拌子として銀粒子含有酸化鉄粒子を使用すると、測定対象化合物含有溶液や透析液に含まれるリボフラビンなどの蛍光物質を吸着できることが判明した。リボフラビンの分子量は376であり測定対象化合物の分子量と近似する。したがって、リボフラビンが透析膜を透過する場合でも、溶液に含まれるリボフラビンを銀粒子含有酸化鉄粒子で吸着させることで、測定誤差の少ない試料溶液を調製することができる。
図5に、マグネチックスターラー17の上面に載置した容器1に測定対象化合物含有溶液3を収納し、この溶液に透析カートリッジ5を浸漬し、溶液と透析液の双方に銀粒子含有酸化鉄粒子15を投入した態様を示す。マグネチックスターラー17を駆動させると、銀粒子含有酸化鉄粒子15が凝集し、停止すると分散し、これらによって溶液と透析液の双方が撹拌される。
【0041】
本開示では、透析工程において測定対象化合物含有溶液に、夾雑物吸着剤を仕込んで行うこともできる。このような夾雑物としては中性脂肪やコレステロール、リン脂質、炭素数5~30の遊離脂肪酸、ビタミンB2などの蛍光性物質、タンパク質ミセルなどの光散乱物質がある。このような吸着剤として、ゼラチン、石灰、タンパク質、ベントナイトなどがある。吸着剤の使用量は、除去目的の夾雑物の種類、その含有量を予め評価することで至適条件を選択することができる。
図6に、容器1に収納した測定対象化合物含有溶液3に透析カートリッジ5を浸漬し、かつ容器1の底部に吸着剤19を載置した態様を示す。吸着剤は、例えば粒径0.1~5mmの粒状等であってもよく、これを測定対象化合物含有溶液に混合する態様であってもよい。この粒子径であれば透析膜を透過せず、かつ夾雑物を効率的に吸着することができる。
【0042】
本開示の第2は、蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有される測定対象化合物の濃度を測定するための測定用セルであって、
300~800nmの波長を透過する部材からなる測定エリアと、分画分子量2×102~2×105の透析膜とが配設される、測定用セルである。本開示では、透析膜として透析カートリッジを使用する例を含めて記載したが、このような透析カートリッジがそのまま測定用セルとして使用できれば、試料調製と測定とを一連の操作で行うことができる。本開示の測定用セルは、試料調製に有用な透析膜と、蛍光を測定する際に有用な測定エリアとを有することを特徴とする。
【0043】
測定用セルの形状は、使用する装置に装着しうる形状を選択することができる。測定用セルの好適な態様の1例を
図7Aに、測定用セルを用いた試料溶液の調製方法の態様の1例を
図7Bに示す。説明のため、測定用セル21の本体27の形状を、幅32mm、高さ50mmの2枚の正面と背面とが、厚さ5mmの2枚の側面および1枚の底面で連結された長方形の場合で説明し、励起光は厚さ1mmの正面と背面とを透過するものとする。
【0044】
本体27の素材は特に限定されず、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチレン・テトラシクロドデセン・コポリマー、ポリアセタール、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、ヒドロキシ安息香酸ポリエステル、ポリエーテルイミド、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブタジエンテレフタレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸等の樹脂、ガラス、石英などを使用することができる。
一方、測定用セル21には、300~800nm、好ましくは400~700nmの波長を透過する部材からなる測定エリア23が形成されている。波長の透過がこの範囲であれば蛍光偏光度を誤差なく測定することができる。このような部材として、ガラス、石英、PMMA、PC、COP、COC、PSなどがある。
【0045】
また、測定用セル21には、分画分子量2×102~2×105、好ましくは1.5×104~1.4×105の透析膜25が配設される。上記範囲の分画分子量の透析膜25を使用することで、塩類および光散乱物質その他の夾雑物を効果的に除去することができる。このような透析膜25として、市販品を使用することもできる。例えば、透析ディスク、メンブレンがある。
【0046】
測定用セル21において、測定エリア23は、使用する測定装置の励起光の入光位置に対応して形成することができる。励起光は測定用セル21を透過するため、測定エリア23は正面の一部と、これに対向する背面の一部に形成される。また、透析膜25は、測定エリア23と重複しない位置であれば、正面、背面に限定されず、側面、底面に配設してもよい。例えば、予め測定エリア23と透析膜25の配設位置が空洞で形成された測定用セル本体27を調製し、これに測定エリア23や透析膜25を接着剤、溶着、嵌着その他の方法で測定用セル21に配設すればよい。
【0047】
図7Bに示すように、測定用セル21に透析液7を仕込み、これを測定対象化合物含有溶液3に浸漬する。所定時間経過後に測定対象化合物含有溶液3から測定用セル21を取出し、外周に付着する測定対象化合物含有溶液3を除去する。また、必要に応じて透析膜25の外周を防水フィルムで被覆してもよい。蛍光偏光度Pを測定する場合は、予め測定対象化合物と同一の分子に蛍光物質を標識した蛍光標識化合物と、測定対象化合物に特異的に結合する抗体とを調製し、測定用セル21にこれら蛍光標識化合物と抗体とを加え、測定装置に装着すればよい。励起光を測定エリア23に入光することで蛍光偏光度Pを算出することができる。
【0048】
本開示の第3は、蛍光を用いた免疫分析法により食品に含有されるカビ毒、貝毒、動物飼育用剤、および農作物育成用剤からなる群から選択される1の測定対象化合物の濃度を測定するための測定キットであって、
前記測定用セルと、
前記測定用セルに仕込む透析液と、
前記測定対象化合物に特異的に結合する抗体と、
蛍光標識した前記測定対象化合物誘導体とを含むものである、測定キットである。試料調製と蛍光偏光度測定との双方に使用できる測定用セルに透析液がセットされていると、試料調製および測定操作を簡便に行うことができる。また、蛍光を用いた免疫分析法のなかでもFPIAは、競合的結合免疫測定原理に基づき、測定対象化合物に特異的に結合する抗体と、蛍光標識した測定対象化合物誘導体とを必須に使用する。このため、更に、測定対象化合物に応じた抗体と、測定対象化合物を蛍光標識した測定対象化合物誘導体とを含む測定キットは極めて有用である。
【0049】
このような抗体が市販されている場合は、市販品を使用することができる。一方、市販されていない場合でも、測定対象化合物に免疫原担体物質が酸アミド結合その他の基を介して結合する免疫原を用いて産生させることができる。免疫原担体物質としては、従来の公知のものから選択することができる。免疫原性のタンパク質、ポリペプチド、炭水化物、ポリサッカライド、リポポリサッカライド、核酸等のいずれであってもよい。好ましくは、蛋白質またはポリペプチドであり、より好ましくは、ウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペット・ヘモシアニン(KLH)、チログロブリンである。このような免疫原は、周知の方法により、ポリクローナル、モノクローナルの調製に用いることができる。通常、ウサギ、ヤギ、マウス、モルモット、またはウマのような宿主動物の1個所以上の種々の部位に免疫原、好ましくは免疫原とアジュバントとの混合物を注射する。同じ部位または異なる部位に規則的または不規則な間隔で更に注射する。適宜、力価を評価して所望の抗体を得る。宿主動物からの採血等により抗体を回収することができる。なお、本開示における抗体とは、完全な免疫グロブリンの他に、Fab、F(ab’)2およびFvなどの免疫グロブリンの断片であってもよい。抗体の少なくとも1つのエピトープが測定対象化合物と結合できればよい。また、これら抗体やその断片は、市販品を使用してもよい。
【0050】
測定対象化合物誘導体は、測定対象化合物のいずれかの官能基に蛍光標識化合物を結合することにより調製することができる。蛍光標識化合物としては、クロロトリアジニルアミノフルオレセイン、4’-アミノメチルフルオレセイン、5-アミノメチルフルオレセイン、6-アミノメチルフルオレセイン、6-カルボキシフルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン、5および6-アミノフルオレセイン、チオウレアフルオレセイン、メトキシトリアジニルアミノフルオレセインなどがある。公知の方法を使用し、測定対象化合物に蛍光標識化合物を結合し、測定対象化合物誘導体を調製することができる。
【0051】
本開示において、測定キットは、測定対象化合物に好適な透析膜が配設された測定用セルと、測定対象化合物に対応する測定対象化合物誘導体、および測定対象化合物に特異的に結合する抗体とを含む。透析液は、測定対象化合物を含有する食品に応じて、適宜選択できるように複数の種類をセットに含むものであってもよい。また、測定対象化合物誘導体や抗体は、予め適当な溶媒に溶解した液状試薬として調製されるものであってもよい。更に、測定を行うのに必要な他の試薬、標準、緩衝液、希釈剤等を含むものであってもよい。
【0052】
また、本開示の第4は、蛍光を用いた免疫分析法における試料溶液の調製装置であって、
測定対象化合物含有溶液を収容する容器と、
前記容器内に収納される1以上の透析カートリッジとを含み
前記容器の容量に対する前記透析カートリッジの全容量比(透析カートリッジの全容量/容器の容量)が1/10~1/1×10
4である
ことを特徴とする試料溶液の調製装置である。例えば、
図1に示す容器1に透析カートリッジ5が配設された装置である。簡単な構成であるためオンサイトで試料を調製する装置として好ましい。
【0053】
容器は、測定対象化合物含有溶液を調製し、または透析時に測定対象化合物含有溶液を仕込むために使用する。容器の容量とは、容器を通常の使用状態で載置した場合に収納しうる全容量を意味する。また、透析カートリッジの容量とは透析カートリッジを通常の使用状態で配設した場合に収納しうる全容量を意味する。透析カートリッジは、容器に複数を配設することもできる。複数の透析カートリッジが配設される場合は、透析カートリッジの全容量を意味する。本開示の試料溶液の調製装置には、容器の下部に撹拌手段を備えるものであってもよい。
図8に、容器1に透析カートリッジ5が収納され、容器1の下部に撹拌手段としてスターラー17が配設される試料溶液の調製装置の1例を示す。容器1の容量に対する透析カートリッジ5の全容量比(透析カートリッジの全容量/容器の容量)は1/10~1/1×10
4であり、好ましくは1/1×10
2~1/1×10
4、より好ましくは1/1×10
2~1/1×10
3である。操作性を考慮して容器1や透析カートリッジ5にその容量の8割まで液体を仕込むと仮定した場合でも、透析カートリッジ5の全容量/容器の容量が1/10~1/1×10
4の範囲内にあれば、透析カートリッジ5による透析の後に、容器1に仕込んだ溶液に含まれる特定成分の濃度と略同濃度の特定成分の濃度の透析液を回収することができる。
【0054】
図8では、容器1に一つの透析カートリッジ5が配設される態様を示したが、複数の透析カートリッジ5が配設されるものであってもよい。更に、各透析カートリッジは、容器1に係止するための係止部や、透析液が投入口から遺漏しないための蓋部を有するものであってもよい。蓋部は、例えばスクリュー式であっても嵌着式であってもよい。
図9Aに、3つの透析カートリッジ5が配設され、係止部5aを有する透析カートリッジ5、蓋部5bを有する透析カートリッジ5が容器1に収納された態様を示す。例えば、蓋部5bを有する透析カートリッジ5に透析液を入れて蓋部5bで覆い、これを蓋付き容器に測定対象化合物含有溶液と共に収納する。蓋付き容器を左右、上下などに振動させることで撹拌装置を使用せずに測定対象化合物含有溶液と透析液との流通性を確保することができる。
【0055】
更に、複数の透析カートリッジは、連結部材で相互に連結されるものであってもよい。
図9Bに、3つの透析カートリッジ5が連結部材5cで連結され、容器1に収納される態様を示す。
【0056】
更に、透析カートリッジは、長尺の円筒状であり、全長に亘って透析膜が配設される形状であってもよく、複数の透析膜が間欠的につながる態様であってもよい。
図10に、円筒状の長尺の透析カートリッジ5であり、透析能を有する部材5dと透析能を有しない部材5’dとで構成され、透析能を有する部材5dを容器1の液体収納部に配置し、透析能を有しない部材5’dで容器1の上部に係止する態様を示す。透析能を有する部材としては透析膜を使用することができる。分画分子量は、2×10
2~2×10
5、好ましくは2×10
3~2×10
5、より好ましくは2×10
4~2×10
5である。透析能を有しない部材5dとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂などがある。
【実施例】
【0057】
次に実施例を挙げて本開示を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本開示を制限するものではない。
【0058】
(実施例1)
ウラニンを添加してウラニン濃度1.06×10
-4Mに調整した牛乳70mLを調製し、これを測定対象化合物含有溶液とした。分画分子量4×10
2~1.4×10
5の透析膜で構成された容量500μLのマイクロ透析カートリッジに純水300μLを仕込み、測定対象化合物含有溶液に2時間浸漬した。浸漬後、透析液および測定対象化合物含有溶液の蛍光スペクトルを観察した。結果を
図11に示す。測定対象化合物含有溶液には470nmと520nmにピークが存在するが、透析液の主ピークは520nmであり、透析膜によってウラニンのピークを分離できることが示された。
【0059】
(実施例2)
玄麦を電動ミルで粉砕したもの7gにウラニンと純水70mLを添加してウラニン濃度1.06×10
-4Mに調整した抽出液を調製し、これを測定対象化合物含有溶液とした。分画分子量4×10
2~1.4×10
5の透析膜で構成された容量300μLのマイクロ透析カートリッジに純水300μLを仕込み、測定対象化合物含有溶液に2時間浸漬した。浸漬30分後、1時間後、2時間後の透析液および測定対象化合物含有溶液の浸漬2時間後の蛍光スペクトルを観察した。結果を
図12に示す。浸漬時間に対応してピーク高さが高くなり、測定対象化合物が透析液側に移行することが示された。
【0060】
(実施例3)
サーモン、豚肉、人参の各10gを小型ミルで粉砕し、網目100メッシュ、容量50mLのろ過膜にそれぞれ収納した。130mL容量の3つの容器にそれぞれ純水100mLと粉砕した食品を含むろ過膜を収納した。
分画分子量4×10
2~1.4×10
5の透析膜で構成された容量300μLのマイクロ透析カートリッジに純水300μLを仕込み、各容器に90分浸漬した。浸漬後に、容器内の食品抽出液と透析液とを回収し、蛍光を測定した。結果を
図13に示す。いずれの食品の場合も、抽出液に含まれるリボフラビンなどの蛍光物質の含有量が低減していた。
【0061】
(実施例4)
純水にクロラムフェニコール(CAP:分子量323.1)を溶解した濃度107ng/mLの試料溶液110mLを、130mL容量の容器に収納した。分画分子量4×102~1.4×105の透析膜で構成された容量300μLのマイクロ透析カートリッジ4本のそれぞれに、透析液として純水250μLを仕込んだ。容器に撹拌子を投入してスターラーで試料溶液を撹拌しつつ透析し、透析開始時、透析後90分、180分、300分、および1,350分後のマイクロ透析カートリッジ内のCAP濃度をLC-MSによって測定した。結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
(実施例5)
牛乳にクロラムフェニコール(CAP:分子量323.1)を溶解した濃度112ng/mLの試料溶液110mLを、130mL容量の容器に収納した。分画分子量4×102~1.4×105の透析膜で構成された容量300μLのマイクロ透析カートリッジ4本のそれぞれに、透析液として純水250μLを仕込んだ。容器に撹拌子を投入してスターラーで試料溶液を撹拌しつつ透析し、透析開始時、透析後90分、180分、300分、および1,260分後のマイクロ透析カートリッジ内のCAP濃度をLC-MSによって測定した。結果を表2に示す。
【0064】
【0065】
本実施例によれば、実施例4に示す純粋を用いた試料溶液に比べて透析液の回収率は低下する。しかしながら、試料溶液に脂肪やたんぱく質が存在する牛乳を用いても、透析によりクロラムフェニコールを回収することができた。
【符号の説明】
【0066】
1・・・容器、3・・・測定対象化合物含有溶液、5・・・透析カートリッジ、5a・・・透析カートリッジ係止部、5b・・・透析カートリッジ蓋部、5c・・・透析カートリッジ連結部材、5d・・・透析能を有する部材、5’d・・・透析能を有しない部材、7・・・透析液、9・・・ろ過袋、11・・・ヒーター、13・・・透析膜、15・・・銀粒子含有酸化鉄粒子、17・・・スターラー、19・・・吸着剤、21・・・測定用セル、23・・・測定エリア、25・・・透析膜、27・・・測定用セル本体