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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】圧粉磁心及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/255 20060101AFI20231120BHJP
   H01F 1/26 20060101ALI20231120BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20231120BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231120BHJP
【FI】
H01F27/255
H01F1/26
B22F3/00 B
B22F1/00 Y
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020079748
(22)【出願日】2020-04-28
(65)【公開番号】P2021174943
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明渡 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】田口 理恵
(72)【発明者】
【氏名】村崎 孝則
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 崇央
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/188972(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/194099(WO,A1)
【文献】特開2010-251697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0038532(US,A1)
【文献】特開2001-313208(JP,A)
【文献】特開2018-148103(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
B22F 3/00
B22F 1/00
B22F 1/102
B22F 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子と、
下記式(1):
【化1】
で表され、前記式(1)中のi、j及びkにより求められる、
アセトアセタール化度〔i/(i+j+k)〕が0.50~0.6999の範囲内にあり、アセチル基含有率〔j/(i+j+k)〕が0.0001~0.05の範囲内にあり、
水酸基含有率〔k/(i+j+k)〕が0.30~0.4999の範囲内にあり、
アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計〔i+j+k〕が100~10000の範囲内にあるポリビニルアセトアセタールと、
を含有することを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記ポリビニルアセトアセタールの含有量が圧粉磁心全体に対して0.01~5質量%であることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記磁性ナノ粒子が、Fe含有金属磁性ナノ粒子、Fe含有金属酸化物磁性ナノ粒子、及び表面に絶縁層を備えるFe含有金属磁性ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子と、下記式(1):
【化2】
で表され、前記式(1)中のi、j及びkにより求められる、
アセトアセタール化度〔i/(i+j+k)〕が0.50~0.6999の範囲内にあり、アセチル基含有率〔j/(i+j+k)〕が0.0001~0.05の範囲内にあり、
水酸基含有率〔k/(i+j+k)〕が0.30~0.4999の範囲内にあり、
アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計〔i+j+k〕が100~10000の範囲内にあるポリビニルアセトアセタールとの混合物を加圧しながら300℃以上の温度で加熱することを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項5】
前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとの混合比率が質量比(磁性ナノ粒子/ポリビニルアセトアセタール)で99.99/0.01~95/5であることを特徴とする請求項4に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項6】
300~600℃の範囲内の温度で加熱することを特徴とする請求項4又は5に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
500MPa~3GPaの範囲内の圧力で加圧することを特徴とする請求項4~6のうちのいずれか一項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁心及びその製造方法に関し、より詳しくは、磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧粉磁心は、表面が絶縁被膜で覆われた磁性粒子を圧縮成形することによって得られるものであり、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等の電磁気を利用した様々な製品に用いられている。このような圧粉磁心としては、例えば、軟磁性材料からなる粒径5~200μmの粉末の表面を、シリコーン樹脂で被覆し、さらに、ステアリン酸又はその金属塩からなる高級脂肪酸潤滑剤で被覆した軟磁性粉末をプレス成形し、熱処理することによって得られる磁心(特開2000-223308号公報(特許文献1))、金属磁性粒子と、その表面を取り囲む、リン酸金属塩及び金属酸化物のうちの少なくとも一方を含む絶縁被膜と、この絶縁被膜の表面を取り囲む、ステアリン酸等の金属塩からなる金属石鹸を含む潤滑剤被膜とを有する複合磁性粒子を備える圧粉磁心(特開2005-129716号公報(特許文献2))、表面にリン酸塩からなる絶縁被膜を有する平均粒径が30~500μmの鉄基粉末と、OH基を有する脂肪酸のエステルを含む潤滑剤とを備える軟磁性材料を加圧成形し、熱処理することによって得られる圧粉磁心(特開2007-211341号公報(特許文献3))、絶縁被膜を備える平均粒径が200~450μmの被覆鉄粉と、脂肪酸アミドからなる潤滑剤とを含む圧粉磁心(特開2016-12688号公報(特許文献4))が知られている。
【0003】
一方、磁性ナノ粒子は、そのサイズが極めて小さいため、バルクの磁性材料とは異なる性質を示し、例えば、粒径が約100nmを超える範囲では、粒径が小さくなるにつれて保磁力が大きくなり、粒径が約100nm付近で保磁力が最大となるが、粒径が約20nm以下になると、超常磁性現象が発現して保持力が極めて小さくなる。このため、粒径が約20nm以下の磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心においては、ヒステリシス損を極めて小さくすることが可能になると考えられる。また、絶縁性の磁性ナノ粒子や表面に絶縁被膜を有する導電性の磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心において、粒径が約300nm以下の磁性ナノ粒子を用いることによって、高周波において渦電流の経路が制限され、渦電流損を小さくすることが可能になると考えられ、特に、粒径が約20nm以下の磁性ナノ粒子を用いることによって、渦電流損を極めて小さくすることができると考えられる。このように、粒径が約20nm以下の磁性ナノ粒子を用いた圧粉磁心は、ヒステリシス損や渦電流損が極めて小さくなるため、電源用途のトランスコア材として期待されている。
【0004】
また、ポリビニルホルマール樹脂やポリビニルアセトアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂は、ボンド磁石の樹脂バインダーとして知られている(特開平5-326231号公報(特許文献5))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-223308号公報
【文献】特開2005-129716号公報
【文献】特開2007-211341号公報
【文献】特開2016-12688号公報
【文献】特開平5-326231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ステアリン酸等又はそれらの金属塩、脂肪酸エステル、或いは脂肪酸アミド等の従来の潤滑剤と磁性ナノ粒子とを混合し、従来の成形条件(例えば、成形温度:150℃、成形圧力:1.4GPa)で圧縮成形しても、得られる圧粉磁心の密度は必ずしも十分に高いものではなかった。これは、磁性粒子がナノサイズまで小さくなると、磁性粒子の塑性変形強度が高くなり、従来の成形条件では磁性ナノ粒子が十分に塑性変形しなかったためと考えられる。そこで、成形温度を高くすることによって、磁性ナノ粒子を十分に塑性変形させることが可能になると考えられるが、成形温度を高くしすぎると、金型の強度が低下するという問題があった。
【0007】
本発明者らは、金属ナノ粒子の融点がバルクの金属の融点よりも低下することに着目し、金属ナノ粒子の塑性変形強度が低くなる温度もバルクの金属の塑性変形強度が低くなる温度よりも低下すると考え、従来の成形温度よりも高い温度であっても、磁性ナノ粒子の塑性変形強度が低くなり、かつ、金型の強度が低下しない温度範囲が存在し、この範囲内の温度で磁性ナノ粒子を加熱することによって、磁性ナノ粒子を十分に塑性変形させることが可能であり、高密度の圧粉磁心を得ることができると考えた。
【0008】
しかしながら、従来の潤滑剤と磁性ナノ粒子とを混合して圧縮成形しても、従来の潤滑剤であるステアリン酸又はそれらの金属塩等が低分子量であるため、十分に高い分子間結合力が得られず、十分に高い機械的強度を有する圧粉磁心は得られなかった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、300℃以上の温度で成形され、密度及び機械的強度が高い圧粉磁心を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、磁性ナノ粒子にアセトアセタール化度、アセチル基含有率、水酸基含有率及びアセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計が特定の範囲内にあるポリビニルアセトアセタールを添加して圧縮成形することによって、300℃以上の温度で成形した場合でも、密度及び機械的強度が高い圧粉磁心が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の圧粉磁心は、平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子と、
下記式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
で表され、前記式(1)中のi、j及びkにより求められる、
アセトアセタール化度〔i/(i+j+k)〕が0.50~0.6999の範囲内にあり、アセチル基含有率〔j/(i+j+k)〕が0.0001~0.05の範囲内にあり、
水酸基含有率〔k/(i+j+k)〕が0.30~0.4999の範囲内にあり、
アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計〔i+j+k〕が100~10000の範囲内にあるポリビニルアセトアセタールと、
を含有することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の圧粉磁心においては、前記ポリビニルアセトアセタールの含有量が圧粉磁心全体に対して0.01~5質量%であることが好ましく、また、前記磁性ナノ粒子が、Fe含有金属磁性ナノ粒子、Fe含有金属酸化物磁性ナノ粒子、及び表面に絶縁層を備えるFe含有金属磁性ナノ粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
本発明の圧粉磁心の製造方法は、平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子と、下記式(1):
【0016】
【化2】
【0017】
で表され、前記式(1)中のi、j及びkにより求められる、
アセトアセタール化度〔i/(i+j+k)〕が0.50~0.6999の範囲内にあり、アセチル基含有率〔j/(i+j+k)〕が0.0001~0.05の範囲内にあり、
水酸基含有率〔k/(i+j+k)〕が0.30~0.4999の範囲内にあり、
アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計〔i+j+k〕が100~10000の範囲内にあるポリビニルアセトアセタールとの混合物を加圧しながら300℃以上の温度で加熱することを特徴とする特徴とする方法である。
【0018】
本発明の圧粉磁心の製造方法においては、前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとの混合比率が質量比(磁性ナノ粒子/ポリビニルアセトアセタール)で99.99/0.01~95/5であることが好ましく、また、300~600℃の範囲内の温度で加熱することが好ましく、500MPa~3GPaの範囲内の圧力で加圧することが好ましい。
【0019】
なお、前記磁性ナノ粒子に前記ポリビニルアセトアセタールを添加することによって、300℃以上の温度で成形した場合でも、前記磁性ナノ粒子を含有し、密度及び機械的強度が高い圧粉磁心が得られる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。
【0020】
すなわち、ポリビニルアセトアセタールは、アセトアセタール化度が高くなると、機械的強度及び柔軟性が向上し、クラックの発生が抑制される。また、水酸基含有率が高くなると、磁性ナノ粒子との間で強い結合力が得られ、磁性ナノ粒子間の結合力を向上させることができる。しかしながら、前記アセトアセタール化度と前記水酸基含有率は相反関係にあるため、アセトアセタール化度が高くなると、相対的に水酸基含有率が低くなり、ポリビニルアセトアセタールと磁性ナノ粒子との間の結合力が低下し、磁性ナノ粒子間の結合力が低下する。また、水酸基含有率が高くなると、相対的にアセトアセタール化度が低くなり、ポリビニルアセトアセタールの機械的強度及び柔軟性が低下してクラックが発生する。
【0021】
本発明においては、アセトアセタール化度及び水酸基含有率がそれぞれ特定の範囲内にあるポリビニルアセトアセタールを用いているため、ポリビニルアセトアセタールと磁性ナノ粒子との間における強い結合力による磁性ナノ粒子間の強い結合力と、ポリビニルアセトアセタールの高い機械的強度及び高い柔軟性の両特性がバランスよく得られ、その結果、密度及び機械的強度に優れた圧粉磁心が得られると推察される。
【0022】
また、本発明においては、前記ポリビニルアセトアセタールが高分子であることから、分子間の絡み合いが大きく、分子同士の結合力が強いため、密度及び機械的強度がより高い圧粉磁心が得られると推察される。
【0023】
さらに、本発明においては、前記ポリビニルアセトアセタールが高温での揮発や分解が起こりにくいため、300℃以上の温度で成形しても、高い密度及び高い機械的強度が維持された圧粉磁心が得られると推察される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、300℃以上の温度で成形した場合でも、密度及び機械的強度が高い圧粉磁心を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0026】
先ず、本発明の圧粉磁心について説明する。本発明の圧粉磁心は、平均粒径が1~300nmの磁性ナノ粒子と、下記式(1):
【0027】
【化3】
【0028】
で表され、前記式(1)中のi、j及びkにより求められる、
アセトアセタール化度〔i/(i+j+k)〕が0.50~0.6999の範囲内にあり、アセチル基含有率〔j/(i+j+k)〕が0.0001~0.05の範囲内にあり、
水酸基含有率〔k/(i+j+k)〕が0.30~0.4999の範囲内にあり、
アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計〔i+j+k〕が100~10000の範囲内にあるポリビニルアセトアセタールと、
を含有するものである。
【0029】
本発明に用いられる磁性ナノ粒子としては圧粉磁心に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、Feナノ粒子、Fe含有金属ナノ粒子、Fe含有金属酸化物ナノ粒子が挙げられる。また、前記Feナノ粒子及び前記Fe含有金属ナノ粒子は、表面に絶縁層を備えていてもよい。これらの磁性ナノ粒子は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、Fe含有金属ナノ粒子、Fe含有金属酸化物ナノ粒子、表面に絶縁層を備えるFe含有金属ナノ粒子が好ましく、ヒステリシス損及び渦電流損を低減でき、かつ、飽和磁束密度を比較的大きくでき、高温での特性劣化も比較的少ないという観点から、表面に絶縁層を備えるFe含有金属ナノ粒子が特に好ましい。
【0030】
前記Fe含有合金ナノ粒子としては圧粉磁心に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、FeNi合金ナノ粒子(パーマロイBナノ粒子等)、FeSi合金ナノ粒子(ケイ素鋼ナノ粒子等)、FeCo合金ナノ粒子(パーメンジュールナノ粒子等)、NiFe合金ナノ粒子(パーマロイCナノ粒子等)が挙げられる。また、前記Fe含有金属酸化物ナノ粒子としては圧粉磁心に用いられるものであれば特に制限はないが、例えば、NiZnフェライトナノ粒子、MnZnフェライトナノ粒子等のフェライト系ナノ粒子が挙げられる。
【0031】
前記絶縁層としては、例えば、SiO、Al、Fe、Fe、NiZnフェライト、MnZnフェライト等の金属酸化物からなる絶縁層;脂肪酸(例えば、デカン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノレン酸)、シリコーン系有機化合物(例えば、メチルシリコーン樹脂、メチルフェニルシリコーン樹脂、ジメチルポリシロキサン、シリコーンハイドロゲル)等の有機化合物からなる絶縁層;リン系化合物(例えば、リン酸カルシウム、リン酸鉄、リン酸亜鉛、リン酸マンガン)等の無機化合物からなる絶縁層が挙げられる。
【0032】
また、本発明に用いられる磁性ナノ粒子の平均粒径は1~300nmである。磁性ナノ粒子の平均粒径が前記下限未満になると、粒子表面の影響が大きく、磁性ナノ粒子自体の磁気特性が低下する。他方、磁性ナノ粒子の平均粒径が前記上限を超えると、渦電流損が増大して磁心損失が大きくなる。また、超常磁性現象が発現して保磁力が極めて小さくなり、ヒステリシス損を極めて小さくすることが可能となり、また、高周波において渦電流の経路が制限され、渦電流損を極めて小さくすることが可能となるという観点から、磁性ナノ粒子の平均粒径としては、1~100nmが好ましく、1~20nmがより好ましい。なお、磁性ナノ粒子の平均粒径は、TEM観察において100個の粒子の粒径を測定し、その平均値として求めることができる。
【0033】
本発明に用いられるポリビニルアセトアセタールは、前記式(1)で表される、アセトアセタール基を含有する構成単位とアセチル基を含有する構成単位と水酸基を含有する構成単位とを含むものである。このようなポリビニルアセトアセタールと前記磁性ナノ粒子とを含有する圧粉磁心は、高い密度及び高い機械的強度を有する。一方、アセトアセタール基を含有する構成単位の代わりに、ブチラール基を含有する構成単位を含むポリビニルブチラール又はホルマール基を含有する構成単位を含むポリビニルホルマールと、前記磁性ナノ粒子とを含有する圧粉磁心は、本発明の圧粉磁心に比べて、密度及び機械的強度が低くなる。また、前記ポリビニルホルマールと前記磁性ナノ粒子とを含有する圧粉磁心は、本発明の圧粉磁心に比べて、耐熱性に劣っている。
【0034】
本発明に用いられるポリビニルアセトアセタールにおいては、前記式(1)中のi、j及びkにより求められるアセトアセタール化度〔i/(i+j+k)〕が0.50~0.6999の範囲内にある。前記アセトアセタール化度が前記下限未満になると、ポリビニルアセトアセタールの機械的強度及び柔軟性が低下するため、得られる圧粉磁心に成形歪みによるクラックが発生し、得られる圧粉磁心の密度及び機械的強度が低下する。他方、前記アセトアセタール化度が前記上限を超えると、相対的に水酸基含有率が低下するため、磁性ナノ粒子との間における強い結合力が低下し、得られる圧粉磁心の密度が低下する。また、ポリビニルアセトアセタールの機械的強度及び柔軟性が向上してクラックの発生が抑制され、密度及び機械的強度がより高い圧粉磁心が得られるという観点から、前記アセトアセタール化度の下限としては0.60以上が好ましい。他方、相対的に水酸基含有率が増大するため、磁性ナノ粒子との間における強い結合力が向上し、より高密度の圧粉磁心が得られるという観点から、前記アセトアセタール化度の上限としては0.6799以下が好ましい。
【0035】
また、本発明に用いられるポリビニルアセトアセタールにおいては、前記式(1)中のi、j及びkにより求められるアセチル基含有率〔j/(i+j+k)〕が0.0001~0.05の範囲内にある。前記アセチル基含有率が前記上限を超えると、ポリビニルアセトアセタールの疎水性が高くなるため、磁性ナノ粒子との間における結合力が低下し、得られる圧粉磁心の密度が低下する。さらに、ポリビニルアセトアセタールの耐熱性が低下するため、得られる圧粉磁心の耐熱性も低下する。また、ポリビニルアセトアセタールの疎水性が低くなるため、磁性ナノ粒子との間における結合力が向上し、得られる圧粉磁心の密度が高くなり、さらに、ポリビニルアセトアセタールの耐熱性が向上するため、得られる圧粉磁心の耐熱性も向上するという観点から、前記アセチル基含有率の上限としては0.03以下が好ましい。
【0036】
さらに、本発明に用いられるポリビニルアセトアセタールにおいては、前記式(1)中のi、j及びkにより求められる水酸基含有率〔k/(i+j+k)〕が0.30~0.4999の範囲内にある。前記水酸基含有率が前記下限未満になると、磁性ナノ粒子との間における強い結合力が低下し、得られる圧粉磁心の密度が低下する。他方、前記水酸基含有率が前記上限を超えると、相対的にアセトアセタール化度が低下するため、ポリビニルアセトアセタールの機械的強度及び柔軟性が低下し、得られる圧粉磁心に成形歪みによるクラックが発生し、得られる圧粉磁心の密度及び機械的強度が低下する。また、磁性ナノ粒子との間における強い結合力が向上し、より高密度の圧粉磁心が得られるという観点から、前記水酸基含有率の下限としては0.32以上が好ましい。他方、相対的にアセトアセタール化度が増大するため、ポリビニルアセトアセタールの機械的強度及び柔軟性が向上してクラックの発生が抑制され、密度及び機械的強度がより高い圧粉磁心が得られるという観点から、前記水酸基含有率の上限としては0.3999以下が好ましい。
【0037】
また、本発明に用いられるポリビニルアセトアセタールにおいては、前記式(1)中のi、j及びkにより求められるアセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計〔i+j+k〕が100~10000の範囲内にある。前記アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計が前記下限未満のポリビニルアセトアセタールは分子量が小さすぎるため、得られる圧粉磁心の機械的強度が低下する。他方、前記アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計が前記上限を超えるポリビニルアセトアセタールは分子量が大きすぎるため、ポリビニルアセトアセタール中に前記磁性ナノ粒子を均一に分散させることが困難である。また、得られる圧粉磁心の機械的強度が向上するという観点から、前記アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計の下限としては200以上が好ましい。他方、ポリビニルアセトアセタール中に前記磁性ナノ粒子を均一に分散させることができるという観点から、前記アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計の上限としては3000以下が好ましい。
【0038】
さらに、本発明に用いられるポリビニルアセトアセタールにおいて、末端の構成単位は特に制限はないが、ポリビニルアセトアセタールの合成が容易であるという観点から、アセチル基を含有する構成単位が末端であることが好ましい。
【0039】
本発明の圧粉磁心において、このようなポリビニルアセトアセタールの含有量としては、圧粉磁心全体に対して0.01~5質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましく、0.1~1質量%が更に好ましい。ポリビニルアセトアセタールの含有量が前記下限未満になると、前記磁性ナノ粒子をポリビニルアセトアセタール中に均一に分散させることができず、得られる圧粉磁心の密度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、非磁性成分の割合が多くなり、得られる圧粉磁心の磁気特性が低下する傾向にある。
【0040】
このような本発明の圧粉磁心の密度としては7.0g/cm以上が好ましく、7.2g/cm以上がより好ましい。このような高密度の圧粉磁心は高い比透磁率を有する。
【0041】
本発明の圧粉磁心は、例えば、以下の方法により製造することができる。すなわち、先ず、前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとを所定の混合比率で混合する。前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとの混合物は均一性が高いため、後述する加圧成形において前記磁性ナノ粒子の流動性が確保され、高密度の圧粉磁心を得ることが可能となる。
【0042】
前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとの混合比率としては、質量比(磁性ナノ粒子/ポリビニルアセトアセタール)で99.99/0.01~95/5が好ましく、99.9/0.1~98/2がより好ましい。磁性ナノ粒子/ポリビニルアセトアセタールが前記下限未満になると、前記磁性ナノ粒子をポリビニルアセトアセタール中に均一に分散させることができず、得られる圧粉磁心の密度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、非磁性成分の割合が多くなり、得られる圧粉磁心の磁気特性が低下する傾向にある。
【0043】
前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとの混合方法としては特に制限はなく、例えば、ボールミルや乳鉢を用いて混合する方法、溶媒に前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとを分散・溶解させた後、乾燥等により溶媒を除去することによって混合する方法等が挙げられる。また、前記磁性ナノ粒子は再配列性に劣るため、溶媒に前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとを分散・溶解させた後、スプレードライ等により顆粒状の混合物を調製してもよい。これにより、圧縮成形時に顆粒状の混合物が崩れて前記磁性ナノ粒子が再配列しやすくなるため、圧粉磁心の密度が向上する。
【0044】
次に、このようにして得られた前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとの混合物を金型に充填する。前記金型には必要に応じて潤滑剤が塗布されていてもよい。前記潤滑剤としては特に制限はなく、例えば、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸亜鉛等の飽和脂肪酸の金属塩、潤滑グリース(例えば、株式会社ミスミ製「M-HGSSC-H500」)等が挙げられる。
【0045】
次に、金型に充填した前記磁性ナノ粒子と前記ポリビニルアセトアセタールとの混合物を加圧成形する。これにより、本発明の圧粉磁心を得ることができる。成形温度としては、300~600℃が好ましく、300~400℃がより好ましい。成形温度が前記下限未満になると、磁性ナノ粒子の塑性変形強度が十分に低下せず、得られる圧粉磁性の密度が向上しにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、金型の強度が低下し、金型の寿命が短くなる傾向にある。なお、金型は、設定温度(成形温度)に、前記磁性ナノ粒子と前記芳香族化合物との混合物を充填する前に昇温してもよいし、充填後に昇温してもよい。
【0046】
成形圧力としては500MPa~3GPaが好ましく、800MPa~2GPaがより好ましい。成形圧力が前記下限未満になると、前記混合物が十分に圧縮されないため、圧粉磁心の密度が小さくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、スプリングバック現象の影響が大きく、クラックが発生して圧粉磁心の密度が小さくなる傾向にある。
【0047】
また、このようにして製造した圧粉磁心には、必要に応じて熱処理を施してもよい。これにより、加圧により圧粉磁心に生じた歪みを緩和し、磁気特性を改善することができる。このような熱処理の温度は通常500~800℃である。
【実施例
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
磁性ナノ粒子として平均粒径が100nmのFeNiナノ粒子(アルドリッチ社製)4.975gと、ポリビニルアセトアセタールとしてアセトアセタール化度が0.66、アセチル基含有率が0.01、水酸基含有率が0.33、アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計が1640のポリビニルアセトアセタール(積水化学工業株式会社製「エスレック」)0.025gとを混合し、さらに、酢酸エチル2gを添加した。得られた混合物に超音波を印加して酢酸エチル中にFeNiナノ粒子を分散させた後、自転公転ミキサーを用いて更に混合した。得られた混合ペーストを真空乾燥させて酢酸エチルを除去し、得られた固形物を乳鉢で30分間破砕混合した。得られた破砕混合物を、グリース(株式会社ミスミ製「M-HGSSC-H500」)を塗布したペレット試験片用金型に充填し、手動油圧真空加熱プレス機(株式会社井元製作所製「IMC-1946型改」)を用いて真空中、1.4GPaに加圧しながら350℃で1分間加熱した。加圧を停止した後、室温まで冷却して、得られた磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を金型から取り出した。得られた成形体の質量と体積から密度を求めた。その結果を表1に示す。
【0050】
(実施例2)
ポリビニルアセトアセタールとして、アセトアセタール化度が0.61、アセチル基含有率が0.02、水酸基含有率が0.37、アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計が250のポリビニルアセトアセタール(積水化学工業株式会社製「エスレック」)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製し、その密度を求めた。その結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
ポリビニルアセトアセタールとして、アセトアセタール化度が0.53、アセチル基含有率が0.01、水酸基含有率が0.46、アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計が830のポリビニルアセトアセタール(積水化学工業株式会社製「エスレック」)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製し、その密度を求めた。その結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
ポリビニルアセトアセタールを混合しなかった以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製し、その密度を求めた。その結果を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
ポリビニルアセトアセタールとして、アセトアセタール化度が0.74、アセチル基含有率が0.01、水酸基含有率が0.25、アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計が1640のポリビニルアセトアセタール(積水化学工業株式会社製「エスレック」)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製し、その密度を求めた。その結果を表1に示す。
【0054】
(比較例3)
ポリビニルアセトアセタールとして、アセトアセタール化度が0.30、アセチル基含有率が0.03、水酸基含有率が0.67、アセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計が1260のポリビニルアセトアセタール(積水化学工業株式会社製「エスレック」)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製し、その密度を求めた。その結果を表1に示す。
【0055】
(比較例4)
ポリビニルアセトアセタールの代わりに、下記式(2):
【0056】
【化4】
【0057】
で表され、前記式(2)中のi、j及びkにより求められる、ブチラール化度〔i/(i+j+k)〕が0.65、アセチル基含有率〔j/(i+j+k)〕が0.01、水酸基含有率〔k/(i+j+k)〕が0.34、ブチラール基数とアセチル基数と水酸基数との合計〔i+j+k〕が670のポリビニルブチラール(和光純薬工業株式会社製)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製し、その密度を求めた。その結果を表1に示す。
【0058】
(比較例5)
ポリビニルアセトアセタールの代わりに、下記式(3):
【0059】
【化5】
【0060】
で表され、前記式(3)中のi、j及びkにより求められる、ホルマール化度〔i/(i+j+k)〕が0.66、アセチル基含有率〔j/(i+j+k)〕が0.02、水酸基含有率〔k/(i+j+k)〕が0.32、ホルマール基数とアセチル基数と水酸基数との合計〔i+j+k〕が1360のポリビニルホルマール(和光純薬工業株式会社製)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製し、その密度を求めた。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1に示したように、アセトアセタール化度、アセチル基含有率、水酸基含有率、及びアセトアセタール基数とアセチル基数と水酸基数との合計が特定の範囲内にあるポリビニルアセトアセタールを用いた場合(実施例1~3)には、いずれも高密度(7.0g/cm以上)の圧粉磁心が得られることがわかった。
【0063】
一方、ポリビニルアセトアセタールを用いなかった場合(比較例1)、アセトアセタール化度が特定の範囲より高いポリビニルアセトアセタールを用いた場合(比較例2)、水酸基含有率が特定の範囲より高いポリビニルアセトアセタールを用いた場合(比較例3)、ポリビニルアセトアセタールの代わりにポリビニルブチラールを用いた場合(比較例4)、並びにポリビニルアセトアセタールの代わりにポリビニルホルマールを用いた場合(比較例5)には、得られる圧粉磁心はいずれも低密度(7.0g/cm未満)になることがわかった。
【0064】
(比較例6)
ポリビニルアセトアセタールの代わりに、ステアリン酸リチウム(東京化成工業株式会社製)0.025gを用いた以外は実施例1と同様にして磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))を作製し、その密度を求めた。その結果を表2に示す。
【0065】
<破壊強度>
実施例1、比較例1及び比較例6で得られた磁性ナノ粒子成形体(圧粉磁心ペレット(外径3mmφ))をロードセル付油圧加圧機(株式会社井元製作所製「IMC-1823型改」)に設置し、圧力を徐々に増加させながら成形体の平坦面の両側から圧縮し、成形体が破壊された時点の印加圧力を破壊力とし、これを圧力印加面積で割ることによって破壊強度を求めた。その結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示したように、特定のポリビニルアセトアセタールを配合した場合(実施例1)には、ポリビニルアセトアセタールを配合しなかった場合(比較例1)や低分子潤滑剤(ステアリン酸リチウム)を配合した場合(比較例6)に比べて、得られた圧粉磁心の破壊強度が高くなることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
以上説明したように、本発明によれば、300℃以上の温度で成形した場合でも、密度及び機械的強度が高い圧粉磁心を得ることが可能となる。したがって、本発明の圧粉磁心は、比透磁率が高く、ヒステリシス損や渦電流損が小さくなるため、変圧器(トランス)、電動機(モータ)、発電機、スピーカ、誘導加熱器、各種アクチュエータ等の電磁気を利用した製品のコア材などとして有用である。