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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】電動車両
(51)【国際特許分類】
   B60L 9/18 20060101AFI20231120BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20231120BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
B60L9/18 J
B60L7/14
H02P27/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020094129
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021191103
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 友樹
(72)【発明者】
【氏名】黒沼 邦彦
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-121256(JP,A)
【文献】特表2005-525070(JP,A)
【文献】特開2014-11812(JP,A)
【文献】特開2014-233109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 9/18
B60L 7/14
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータと、前記インバータに電力を供給するバッテリと、前記バッテリと前記インバータとの間の電力線を開閉するノーマルオープンの第1開閉器と、を備える電動車両であって、
電力変換回路と、
前記電動モータの電力線と前記電力変換回路との間に接続されたノーマルクローズの第2開閉器と、
を備え、
前記電力変換回路は、前記第2開閉器を介して前記電動モータから逆起電圧を受けた場合に、前記逆起電圧から前記第1開閉器を閉駆動する電圧を生成することを特徴とする電動車両。
【請求項2】
前記第1開閉器を制御する制御部を備え、
前記第2開閉器は、前記制御部に入力される電源電圧と同一の電源電圧により閉状態に切り替えられることを特徴とする請求項1記載の電動車両。
【請求項3】
前記電力変換回路は、少なくとも前記逆起電圧が前記インバータの最大定格電圧を越える範囲で前記第1開閉器を閉じる最小励磁電圧以上の電圧を出力し、前記逆起電圧が前記最大定格電圧以下の閾値電圧よりも低い範囲で出力電圧が前記最小励磁電圧より小さくなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動車両。
【請求項4】
前記電力変換回路は、前記逆起電圧が前記電動モータの最大逆起電圧のときに、前記第1開閉器を閉じる最大許容電圧以下の電圧を出力することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動車両。
【請求項5】
前記電力変換回路は、前記逆起電圧を降圧するトランスと、前記トランスの出力を整流する整流回路とを含み、前記整流回路から出力された電圧又は当該電圧を平滑した電圧を、前記第1開閉器の制御線に送ることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、EV(Electric Vehicle)、HEV(Hybrid Electric Vehicle)等の電動車両には、走行用の電力を供給するバッテリと、バッテリに接続された電力線を開閉可能なシステムメインリレーとが設けられる。例えば、特許文献1には、インバータ回路とメインバッテリとの間に電力線を開閉するシステムメインリレーが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-88142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電動モータの動作中、何らかの異常により、システムメインリレーが開状態に切り替わり、かつ、電動モータが回生動作してしまうと、回生電流の行き先がなくなるため、電動モータの電力線に非常に高い逆起電圧が印加されてしまう。
【0005】
本発明は、電動モータの動作中にシステムメインリレーが開状態に切り替わってしまった場合でも、電動モータの電力線に印加される逆起電圧を抑制できる電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、
電動モータと、前記電動モータを駆動するインバータと、前記インバータに電力を供給するバッテリと、前記バッテリと前記インバータとの間の電力線を開閉するノーマルオープンの第1開閉器と、を備える電動車両であって、
電力変換回路と、
前記電動モータの電力線と前記電力変換回路との間に接続されたノーマルクローズの第2開閉器と、
を備え、
前記電力変換回路は、前記第2開閉器を介して前記電動モータから逆起電圧を受けた場合に、前記逆起電圧から前記第1開閉器を閉駆動する電圧を生成することを特徴とする電動車両である。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電動車両において、
前記第1開閉器を制御する制御部を備え、
前記第2開閉器は、前記制御部に入力される電源電圧と同一の電源電圧により閉状態に切り替えられることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の電動車両において、
前記電力変換回路は、少なくとも前記逆起電圧が前記インバータの最大定格電圧を越える範囲で前記第1開閉器を閉じる最小励磁電圧以上の電圧を出力し、前記逆起電圧が前記最大定格電圧以下の第1閾値電圧よりも低い範囲で出力電圧が前記最小励磁電圧より小さくなることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電動車両において、
前記電力変換回路は、前記逆起電圧が前記電動モータの最大逆起電圧のときに、前記第1開閉器を閉じる最大許容電圧以下の電圧を出力することを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電動車両において、
前記電力変換回路は、前記逆起電圧を降圧するトランスと、前記トランスの出力を整流する整流回路とを含み、前記整流回路から出力された電圧又は当該電圧を平滑した電圧を、前記第1開閉器の制御線に送ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電動モータの動作中に、第1開閉器が開状態に切り替わり、かつ、電動モータが回生動作し、電動モータの電力線に非常に高い逆起電圧が印加された場合でも、ノーマルクローズの第2開閉器が電力変換回路へ逆起電圧を送ることで、電力変換回路が第1開閉器を閉駆動する電圧を生成する。そして、この電圧により第1開閉器が閉状態に切り替わることで、電動モータの回生電流をバッテリへ流し、電動モータの電力線に非常に高い逆起電圧が印加されてしまうことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る電動車両を示す構成図である。
図2】電力変換回路の入力電圧(A)と出力電圧(B)との一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
本発明の実施形態の電動車両1は、EV、HEV等であり、駆動輪2と、駆動輪2の動力を発生する走行モータ3と、走行用の電力を蓄積する第1バッテリ6と、第1バッテリ6より低い電源電圧を供給する第2バッテリ15と、運転者が運転の操作を行う運転操作部20と、各部の制御を行う制御部5とを備える。第1バッテリ6は、例えばリチウムイオンバッテリ、ニッケル水素バッテリなどであり、走行モータ3を駆動する高い電圧を出力する。第1バッテリ6は、高電圧バッテリと呼んでもよい。第2バッテリ15は、制御部5、補機及びアクセサリー機器へ例えば12V系の電源電圧を供給する。運転操作部20は、アクセルペダル21及びブレーキペダル22などを含む。第1バッテリ6は本発明に係るバッテリの一例に相当する。走行モータ3は本発明に係る電動モータの一例に相当する。
【0015】
さらに、電動車両1は、第1バッテリ6の電力を受けて走行モータ3を駆動するインバータ4と、第1バッテリ6と走行モータ3との間の電力線を開閉する第1開閉器8と、走行モータ3の電力線IL1と下記の電力変換回路10との間に接続された第2開閉器9と、電力線IL1から第2開閉器9を介して入力される走行モータ3の逆起電圧から第1開閉器8を閉駆動する電圧を生成する電力変換回路10と、を備える。
【0016】
第1開閉器8は、第1バッテリ6とインバータ4との間の一対の電力線の各々に設けられている。第1開閉器8はシステムメインリレーと呼んでもよい。第1開閉器8は、ノーマルオープンのコンタクタ又はリレーであり、閉駆動されることで第1バッテリ6を電動車両1の高電圧線に接続する。さらに、第1開閉器8は、閉駆動が解除されて開状態に切り替わることで第1バッテリ6の高電圧を電動車両1の高電圧線から遮断する。第1開閉器8がノーマルオープンであることで、電動車両1のシステム休止中など駆動電圧が停止されることで、第1バッテリ6を電動車両1の高電圧線から切り離すことができる。第1開閉器8は、制御線Lcに駆動電圧が出力されることで、第1開閉器8内のコイルが励磁して閉状態に切り替わる。
【0017】
第2開閉器9は、ノーマルクローズのコンタクタ又はリレーである。第2開閉器9は、走行モータ3の電力線IL1と電力変換回路10の入力端子とを接続する線路を開閉する。具体的には、電力変換回路10の2つの入力端子の一方が走行モータ3の三相の電力線IL1のいずれか1つと線路を介して接続され、第2開閉器9は当該線路に設けられる。電力変換回路10の2つの入力端子の他方は、走行モータ3の接地線又は三相の電力線IL1の別の一つと接続される。
【0018】
制御部5は、第1開閉器8を開閉制御するシステム制御部5aと、運転操作部20の操作に応じて駆動力又は制動力が生じるようにインバータ4を駆動する駆動制御部5bとを備える。システム制御部5aは、電動車両1のシステムの起動要求及び休止要求に応じて第1開閉器8を開閉制御する。システムの起動要求及び休止要求は、例えば電源ボタンのオン操作とオフ操作あるいはエンジンキーによるオン操作とオフ操作など、運転者により与えられる。システム制御部5aは、第1バッテリ6の状態監視及び管理を行うバッテリ制御部を兼ねていてもよい。制御部5は、1つのECU(Electronic Control Unit)から構成されてもよいし、互いに連携して動作する複数のECUから構成されてもよい。例えば、システム制御部5aと駆動制御部5bとは別々のECUにより構成されてもよい。さらに、システム制御部5aとバッテリ制御部とは同一のECUにより構成されてもよいし、システム制御部5aとバッテリ制御部とは兼用されず別々のECUにより構成されてもよい。
【0019】
システム制御部5aは、システムの動作中に、第1開閉器8に駆動電圧を出力し、第1開閉器8を閉状態に切り替える。駆動電圧は、システム制御部5aから直接に出力されてもよいし、システム制御部5aの制御に基づき電流出力用のスイッチ(例えば半導体スイッチ)から出力されてもよい。システム制御部5aは、第1電源E1(例えばイグニション電源)を用いて駆動電圧を出力する。第1電源E1は、電動車両1のシステム動作中にスイッチIG-SWを介して出力される低電圧系(例えば12V系)の電源であり、第2バッテリ15若しくは図示略のジェネレータ又はDC/DCコンバータにより供給される。
【0020】
第2開閉器9は、制御線に第1電源E1の電圧が供給されることで、システム動作中に開状態に切り替えられる。第2開閉器9の制御線は、第1開閉器8の制御線に近い箇所から駆動電圧を引き込むように接続される。例えば、第2開閉器9の制御線は、システム制御部5aの電源引き込み線L1に接続される。また、別の例として、システム制御部5aが電流出力用のスイッチを介して第1開閉器8に駆動電圧を出力する場合には、第2開閉器9の制御線は、当該電流出力用のスイッチの電源入力端子の近くに接続されてもよい。このように制御線が接続されることで、駆動電圧の異常により第1開閉器8が閉状態から開状態へ切り替わってしまう場合に、第1開閉器8と連動して第2開閉器9も開状態から閉状態へ切り替えることができる。
【0021】
なお、第2開閉器9の制御線の接続は、上記の例に限定されない。例えば、第2開閉器9は、第1開閉器8と同様にシステム制御部5aが開閉制御するように接続されてもよいし、第1開閉器8の異常を監視する別の制御部に接続され、制御部が第1開閉器8の異常を検知した場合に第1開閉器8の駆動電圧を低下する構成としてもよい。異常により第1開閉器8への駆動電圧が低下した際に、第2開閉器9の駆動電圧も低下される構成が適用されればよい。
【0022】
図2は、電力変換回路の入力電圧(A)と出力電圧(B)との一例を示す図である。
【0023】
電力変換回路10は、交流電圧Vを受けて、降圧された直流電圧Vを出力する。電力変換回路10は、図1に示すように、交流電圧を降圧するトランスT1と、降圧された交流電圧を整流する整流回路11と、整流された電圧を平滑する平滑コンデンサC1とを備える。電力変換回路10は、スイッチングレギュレータのように制御回路を要さず、整流回路11を除いて、受動素子から構成される。整流回路は全波整流回路であるが、半波整流回路であってもよい。電力変換回路10は平滑コンデンサC1を有さなくてもよい。受動素子と整流回路11とから構成されることで、交流電圧Vが入力された場合に瞬時に交流電圧Vに対応する直流電圧Vを出力できる。
【0024】
電力変換回路10の入力端子は、第2開閉器9を介して走行モータ3とインバータ4との間の電力線IL1に接続され、第2開閉器9が閉状態のとき、電力線IL1の交流電圧が電力変換回路10に入力される。図2(A)に示すように、電力変換回路10には、走行モータ3の最大逆起電圧V1pmax(例えば600V)以下の非常に高い交流電圧Vが入力されることが想定される。
【0025】
電力変換回路10は、第1開閉器8の制御線Lcに直流電圧Vを出力する。第1開閉器8を正常の閉駆動できる駆動電圧の条件は、第1開閉器8のコイルを励磁できる最小励磁電圧Vrmin以上であり、かつ、コイルの劣化(焼損等)の恐れがない最大許容電圧Vrmax以下である。電力変換回路10は、最小励磁電圧Vrmin以上で最大許容電圧Vrmax以下の直流電圧Vを出力した場合に、第1開閉器8を正常に閉駆動できる。
【0026】
電力変換回路10は、入力される交流電圧Vのピーク電圧が、図2の閾値電圧Vth1から閾値電圧Vth2の間にあるときに、第1開閉器8を正常に駆動できる直流電圧Vを出力する。閾値電圧Vth2は、本発明に係る「インバータの最大定格電圧以下の閾値電圧」に相当する。さらに、電力変換回路10は、入力される交流電圧Vが閾値電圧Vth2より低いときに、第1開閉器8を閉駆動できる最小励磁電圧Vrminよりも低い直流電圧Vを出力する。閾値電圧Vth1は、走行モータ3の最大逆起電圧V1pmaxよりもマージンβ’だけ高い電圧である。閾値電圧Vth2は、インバータ4の最大定格電圧VIGBT(例えば400V)よりもマージンα’だけ低い電圧である。なお、マージンα’、β’はゼロとしてもよい。走行モータ3の最大逆起電圧V1pmaxは、走行モータ3の仕様により決定され、例えば走行モータ3が最大回生電力を発生できる回転速度のときに開放された電力線IL1に印加される逆起電圧に相当する。電力変換回路10の上記の動作条件は、電力変換回路10の回路パラメータ、例えばトランスT1の巻き数比n/nを適宜選択することで実現できる。
【0027】
<異常時の動作>
なんらかの異常により、電動車両1の走行中に、システム制御部5aへの第1電源E1(イグニション電源)の供給が失陥したとする。この場合、第1開閉器8の駆動電圧が低下し、第1開閉器8が開状態に切り替わる。さらに、駆動制御部5bが走行モータ3を回生運転するか、あるいは、走行モータ3が回転しているときに駆動制御部5bの電源が失陥してインバータ4の制御が停止したとする。
【0028】
この場合、走行モータ3のモータコイルに逆起電圧が発生する一方、回生電流の行き先が無くなるため、走行モータ3の三相の電力線IL1間に非常に高い逆起電圧が印加される。仮に、逆起電圧がインバータ4の最大定格電圧VIGBTを大きく超えると、インバータ4を構成するパワー半導体(例えばIGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)が破壊される恐れがある。また、インバータ4の直流側に平滑コンデンサを有する場合には、平滑コンデンサが破壊される恐れがある。
【0029】
しかし、本実施形態の電動車両1では、システム制御部5aへの第1電源E1の供給が失陥して第1開閉器8が開状態に切り替わると、同時に、第2開閉器9の駆動電圧が失陥し、第2開閉器9が閉状態に切り替わる。そして、走行モータ3の電力線IL1に高い逆起電圧が印加されると、第2開閉器9を介して逆起電圧が電力変換回路10に入力される。そして、逆起電圧(交流電圧V)のピーク電圧が閾値電圧Vth2以上になると、電力変換回路10から第1開閉器8を閉駆動する電圧Vが出力される。そして、第1開閉器8が閉状態に切り替わることで、インバータ4から第1バッテリ6へ回生電流が流れる。駆動制御部5bが停止している場合でも、パワー半導体のソース-ドレイン間のダイオード成分を介して第1バッテリ6へ回生電流が流れる。回生電流が流れることで、電力線IL1からインバータ4に出力される逆起電圧が低下し、インバータ4に最大定格電圧VIGBT以上の電圧が加わることが抑制され、インバータ4の構成素子の劣化を回避できる。
【0030】
続いて、電動車両1の速度が低下し、走行モータ3に発生する逆起電圧(交流電圧V)のピーク電圧が閾値電圧Vth2より小さくなると、電力変換回路10から出力される直流電圧Vは、第1開閉器8を閉駆動できる最小励磁電圧Vrmin以下となり、第1開閉器8が開状態に切り替わる。したがって、走行モータ3の逆起電圧がインバータ4に悪影響を与えないレベルになった場合に、速やかに第1開閉器8が開状態となって、異常発生時に第1バッテリ6を電動車両1の高電圧線から切り離すことができる。
【0031】
なお、上述した第1電源E1の供給が失陥する状況には、第1電源E1自体が失効した場合、並びに、システム制御部5aへの電源引き込み線L1が断線した場合などが含まれる。第2開閉器9の駆動電圧を、第1開閉器8の制御線に近い箇所から引き込むようにすることで、第1開閉器8の駆動電圧が低下する様々な異常のときに、第1開閉器8の開状態への切り替えと連動させて第2開閉器9を閉状態へ切り替えることができる。
【0032】
<電力変換回路10の回路パラメータの一例>
電力変換回路の上記の動作を実現する回路パラメータは、一例として、次のように求めることができる。ここでは、第1開閉器8のコイルの抵抗成分をRr、電力変換回路10から出力される直流電圧をV、第1開閉器8のコイルに流れる電流をIと記す。さらに、第1開閉器8を閉駆動できる最低電流をIrmin、コイルを劣化(焼損等)する恐れのない最大許容電流をIrmaxと記す。さらに、トランスT1の一次コイルのピーク電圧をV1p、二次コイルのピーク電圧をV2p、一次コイルの巻き数と二次コイルの巻き数とをn、n、トランスT1の一次側の電圧をV、二次側の電圧をVと記す。
【0033】
直流電圧Vは、トランスT1の二次側電圧Vを整流した電圧なので、次式(1)のように表わせる。式(1)は、第1開閉器8の素子パラメータを用いると、次式(2)のように表わせる。したがって、トランスT1の巻き数比n/nは、式(2)の関係から、次式(3)のように表わせる。
【数1】
【0034】
ここで、第1開閉器8を正常かつ破損なく動作させるためには、電圧下限側の動作条件と、電圧上限側の動作条件を考慮する必要がある。電力変換回路10の電圧下限側の動作条件は、電力変換回路10に入力される逆起電圧が、インバータ4の最大定格電圧VIGBTのときに、第1開閉器8を閉駆動するという条件である。この条件を成立させるには、次式(4)、(5)を満たせばよい。式(3)の関係を用いると、式(4)、(5)の条件は、トランスの巻き数比n/nの条件式(6)を与える。
【数2】
【0035】
電力変換回路10の電圧上限側の動作条件は、電力変換回路10に入力される交流電圧Vが走行モータ3の最大逆起電圧V1pmaxに達したときでも、第1開閉器8のコイルに流れる電流が最大許容電流Irmaxを越えないという条件である。この条件を成立させるには、次式(7)、(8)を満たせばよい。式(3)の関係を用いると、式(7)、(8)の条件は、トランスの巻き数比n/nの条件式(9)を与える。
【数3】
【0036】
したがって、式(6)、(9)から、トランスの巻き数比n/nは、次式(10)のように決定することができる。動作条件にマージンα、βを設けると、トランスの巻き数比n/nの条件は、次式(11)のように決定できる。
【数4】
【0037】
以上のように、本実施形態の電動車両1によれば、走行モータ3の電力線IL1にノーマルクローズの第2開閉器9を介して電力変換回路10が接続されている。そして、何らかの異常により第1開閉器8が開状態に切り替わって走行モータ3の電力線IL1に非常に高い逆起電圧が生じた場合に、この逆起電圧により電力変換回路10が第1開閉器8を閉駆動し、逆起電圧をインバータ4を介して第1バッテリ6へ逃がすことができる。したがって、走行モータ3の電力線IL1に非常に高い逆起電圧が印加されてしまうことを抑制できる。
【0038】
さらに、本実施形態の電動車両1によれば、第1開閉器8を制御する制御部5(システム制御部5a)を備え、第2開閉器9は、システム制御部5aの電源電圧と同一の電源電圧(第1電源E1の電源電圧)を受けて閉駆動される。したがって、システム制御部5aへの電源電圧の供給が失陥するという異常に対して、第1開閉器8と第2開閉器9とを連動して切り替えることができる。また、システム制御部5aが第1開閉器8を正常に切り替え制御しているときに、第2開閉器9に無用な切替えを生じさせない。
【0039】
さらに、本実施形態の電動車両1によれば、電力変換回路10は、走行モータ3の逆起電圧が閾値電圧Vth2を超える大きさの場合に、第1開閉器8の最小励磁電圧Vrmin以上の直流電圧Vを出力する。さらに、走行モータ3の逆起電圧が閾値電圧Vth2を下回る大きさの場合に、直流電圧Vが最小励磁電圧Vrminを下回る。このような構成により、走行モータ3の逆起電圧がインバータ4に悪影響を及ぼしかねないときにそれを抑制する一方、悪影響を及ぼさないレベルになったときには、速やかに第1バッテリ6を電動車両1の高電圧線から切り離すことができる。
【0040】
さらに、本実施形態の電動車両1によれば、電力変換回路10は、走行モータ3の逆起電圧が最大逆起電圧V1pmaxのときに、第1開閉器8の最大許容電圧Vrmax以下の直流電圧Vを出力する。したがって、逆起電圧が非常に高くなった場合でも、電力変換回路10からの出力により第1開閉器8を破損することがない。
【0041】
さらに、本実施形態の電動車両1によれば、電力変換回路10は、トランスT1と、整流回路11とを備え、スイッチングレギュレータのように制御回路を要さず、整流回路11を除いて、受動素子から構成される。したがって、交流電圧Vが入力された場合に少ない遅延で交流電圧Vに対応した直流電圧Vを出力することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、電動モータが走行モータである例を示したが、本発明に係る電動モータは走行以外の動力に使用されるモータであってもよい。その他、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 電動車両
2 駆動輪
3 走行モータ(電動モータ)
4 インバータ
5 制御部
5a システム制御部
5b 駆動制御部
6 第1バッテリ(バッテリ)
8 第1開閉器
9 第2開閉器
10 電力変換回路
15 第2バッテリ
T1 トランス
11 整流回路
C1 平滑コンデンサ
IL1 電力線
Vth2 閾値電圧(第1閾値電圧)
1pmax 最大逆起電圧
IGBT 最大定格電圧
直流電圧
rmin 最小励磁電圧
rmax 最大許容電圧
Lc 制御線
L1 電源引き込み線
図1
図2