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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】トイレットロール製品
(51)【国際特許分類】
   A47K 10/16 20060101AFI20231120BHJP
【FI】
A47K10/16 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020110798
(22)【出願日】2020-06-26
(65)【公開番号】P2022007693
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183462
【氏名又は名称】日本製紙クレシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 創
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-171572(JP,A)
【文献】特開2020-116045(JP,A)
【文献】特開2019-055060(JP,A)
【文献】特開2014-188342(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0297402(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47K 10/16
D21H 27/00
D21H 11/04
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シングルエンボスであるエンボスパターンを有する2plyのトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロール製品であって、
前記トイレットペーパーの1ply当たりの坪量が11g/m以上19g/m以下であり、
巻長が63m以上128m以下であり、
巻直径が103mm以上151mm以下であり、
前記エンボスパターンの面積率が30%以上45%以下、又は55%以上70%以下であり、
振動測定装置を用いて測定される4plyの前記トイレットペーパーの振動特性、及び最低振動検出閾値近似線の値に基づき算出される振動刺激値のうち、周波数が1Hz以上3Hz以下である第1領域における第1振動刺激値が、300V/s以上800V/s以下であり、
前記振動刺激値のうち、周波数が3Hzより大きく40Hz以下である第2領域における第2振動刺激値が、8500V/s以上11000V/s以下であり、
前記振動刺激値のうち、周波数が40Hzより大きく1000Hz以下である第3領域における第3振動刺激値が、8000V/s以上11000V/s以下であり、
前記トイレットペーパーの表面に関する前記第1振動刺激値と前記トイレットペーパーの裏面に関する前記第1振動刺激値との差は、-400V/s以上400V/s以下であり、
前記トイレットペーパーの表面に関する前記第2振動刺激値と前記トイレットペーパーの裏面に関する前記第2振動刺激値との差は、-3000V/s以上3000V/s以下であり、
前記トイレットペーパーの表面に関する前記第3振動刺激値と前記トイレットペーパーの裏面に関する前記第3振動刺激値との差は、-2500V/s以上2500V/s以下である
トイレットロール製品。
【請求項2】
前記エンボスパターンの深さが0.01mm以上0.30mm以下である
請求項1に記載のトイレットロール製品。
【請求項3】
前記エンボスパターンは、凹部である複数のエンボス部を備え、
1つの前記エンボス部の重心と当該エンボス部から最も近いエンボス部の重心を通る直線を第1直線とし、前記第1直線に対して直交する直線を第2直線とした場合、流れ方向と平行な基準線と前記第2直線とがなす角度は、基準線と前記第1直線とがなす角度よりも大きい
請求項1又は2に記載のトイレットロール製品。
【請求項4】
前記基準線と前記第1直線とがなす角度は、0°以上3°以下である
請求項3に記載のトイレットロール製品。
【請求項5】
前記エンボスパターンは、前記第2直線と平行な方向において隣接する2つの前記エンボス部の間に配置され且つ前記エンボス部と繋がる凹部である補助エンボス部を備え、
1つの前記エンボス部及び1つの前記補助エンボス部によって、コンマ形状が描かれている
請求項3又は4に記載のトイレットロール製品。
【請求項6】
前記トイレットペーパーの厚さが0.45mm/10ply以上1.20mm/10ply以下である
請求項1から5のいずれか1項に記載のトイレットロール製品。
【請求項7】
乾燥時の縦方向の引張強さである乾燥縦強度が280gf/25mm以上550gf/25mm以下であり、
乾燥時の横方向の引張強さである乾燥横強度が80gf/25mm以上210gf/25mm以下である
請求項1から6のいずれか1項に記載のトイレットロール製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレットロール製品に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレットロール製品には、ある程度の強度及び嵩高さを有することが求められる。また、輸送及び保管を容易にするために、巻長を大きくし且つ巻直径を小さくすることが求められる。このため、トイレットペーパーの坪量を低下させずに、トイレットロール製品の密度を高められることが多い。一方で、トイレットロール製品には、使用時における触感及び美粧性を良くするため、エンボスパターンが施される。しかし、トイレットロール製品の密度を高めると、トイレットペーパーに大きな圧力がかかることによって、エンボスパターンが潰れることがある。特許文献1のトイレットロールは、エンボスパターンの面積率を所定の範囲に調整することにより、使用時における触感や美粧性を良好に維持し、トイレットロールの巻長を長くしつつも、巻直径が大きくなることを回避している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-97765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使い心地及び美粧性をより向上させるために、トイレットロール製品の表裏差(表面と裏面との間の触感の差)をより低減することが求められている。ティシューの表面性状を測定する装置としてティシューソフトネスアナライザーが知られている。しかし、ティシューソフトネスアナライザーは、エンボスパターンを有するトイレットペーパーの表面性状を十分に測定できないことがある。すなわち、ティシューソフトネスアナライザーによる測定結果と、表裏差に関する官能評価との間の相関が低くなることがある。これまではトイレットペーパーの表面性を適切に評価する装置が存在しなかった。また、使い心地及び美粧性をより向上させるために、表裏差の低減と同時に、トイレットペーパーのエンボスパターンが潰れる可能性をさらに低減することも求められている。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、適切な強度及び嵩高さを有し、巻長が長く、使用時における触感及び美粧性が良好で、持ち運び性や保管時の省スペース性に優れるうえ、トイレットロール製品の表裏差が小さく且つエンボスパターンの保形性に優れるトイレットロール製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示のトイレットロール製品は、シングルエンボスであるエンボスパターンを有する2plyのトイレットペーパーをロール状に巻き取ったトイレットロール製品であって、前記トイレットペーパーの1ply当たりの坪量が11g/m以上19g/m以下であり、巻長が63m以上128m以下であり、巻直径が103mm以上151mm以下であり、前記エンボスパターンの面積率が30%以上45%以下、又は55%以上70%以下であり、振動測定装置を用いて測定される4plyの前記トイレットペーパーの振動特性、及び最低振動検出閾値近似線の値に基づき算出される振動刺激値のうち、周波数が1Hz以上3Hz以下である第1領域における第1振動刺激値が、300V/s以上800V/s以下であり、前記振動刺激値のうち、周波数が3Hzより大きく40Hz以下である第2領域における第2振動刺激値が、8500V/s以上11000V/s以下であり、前記振動刺激値のうち、周波数が40Hzより大きく1000Hz以下である第3領域における第3振動刺激値が、8000V/s以上11000V/s以下であり、前記トイレットペーパーの表面に関する前記第1振動刺激値と前記トイレットペーパーの裏面に関する前記第1振動刺激値との差は、-400V/s以上400V/s以下であり、前記トイレットペーパーの表面に関する前記第2振動刺激値と前記トイレットペーパーの裏面に関する前記第2振動刺激値との差は、-3000V/s以上3000V/s以下であり、前記トイレットペーパーの表面に関する前記第3振動刺激値と前記トイレットペーパーの裏面に関する前記第3振動刺激値との差は、-2500V/s以上2500V/s以下である。
【0007】
上述した坪量、巻長、及び巻直径を有し且つトイレットペーパーがシングルエンボスであるエンボスパターンを有することによって、トイレットロール製品は、適切な強度及び嵩高さを有し、巻長が長く、使用時における触感及び美粧性が良好で、持ち運び性や保管時の省スペース性に優れる。また、エンボスパターンの面積率が30%以上又は70%以下であることによって、表裏差が小さくなる。エンボスパターンの面積率が45%以下又は55%以上であることによって、エンボスパターンが潰れにくくなる。より具体的には、エンボス部のエッジが維持されやすくなることによって、エンボス部が潰れにくくなる。さらに、第1振動刺激値(ISAI)、第2振動刺激値(IFAI)及び第3振動刺激値(IFAII)がそれぞれ上述した範囲内であることによって、表裏差がより小さくなると共に、エンボスパターンが潰れにくくなる。したがって、本開示のトイレットロール製品は、適切な強度及び嵩高さを有し、巻長が長く、使用時における触感及び美粧性が良好で、持ち運び性や保管時の省スペース性に優れるうえ、表裏差が小さく且つエンボスパターンの保形性に優れる。
【0008】
本開示のトイレットロール製品は、前記エンボスパターンの深さが0.01mm以上0.30mm以下であることが好ましい。
【0009】
これにより、本開示のトイレットロール製品は、使用時における触感及び美粧性をより向上させることができると共に、表裏差をより小さくすることができる。
【0010】
本開示のトイレットロール製品は、前記エンボスパターンは、凹部である複数のエンボス部を備え、1つの前記エンボス部の重心と当該エンボス部から最も近いエンボス部の重心を通る直線を第1直線とし、前記第1直線に対して直交する直線を第2直線とした場合、流れ方向と平行な基準線と前記第2直線とがなす角度は、基準線と前記第1直線とがなす角度よりも大きいことが好ましい。
【0011】
これにより、本開示のトイレットロール製品は、肌触り及び指先へのフィット感を向上させることができる。本開示のトイレットロール製品によれば、使用時の触感が向上する。
【0012】
本開示のトイレットロール製品は、前記基準線と前記第1直線とがなす角度は、0°以上3°以下であることが好ましい。
【0013】
これにより、本開示のトイレットロール製品は、エンボス保形性をより向上させることができる。
【0014】
本開示のトイレットロール製品は、前記エンボスパターンは、前記第2直線と平行な方向において隣接する2つの前記エンボス部の間に配置され且つ前記エンボス部と繋がる凹部である補助エンボス部を備え、1つの前記エンボス部及び1つの前記補助エンボス部によって、コンマ形状が描かれていることが好ましい。
【0015】
エンボス加工によってエンボスパターンを形成する時、トイレットペーパーが、ゴムロールと凸部を有するエンボスロールとの間に挟まれる。トイレットペーパーが補助エンボス部を備えることによって、エンボスロールの凸部がゴムロールに対して均一に接触するようになる。このため、変形例のトイレットペーパーは、エンボス加工に用いられるゴムロールの劣化速度を遅くすることができる。
【0016】
本開示のトイレットロール製品は、前記トイレットペーパーの厚さが0.45mm/10ply以上1.20mm/10ply以下であることが好ましい。
【0017】
これにより、本開示のトイレットロール製品は、上述した坪量、巻長及び巻直径を有しながらも、容易にロール状に巻き取ることができる。
【0018】
本開示のトイレットロール製品は、乾燥時の縦方向の引張強さである乾燥縦強度が280gf/25mm以上550gf/25mm以下であり、乾燥時の横方向の引張強さである乾燥横強度が80gf/25mm以上210gf/25mm以下であることが好ましい。
【0019】
これにより、本開示のトイレットロール製品は、破れづらくなると共に、適切な柔らかさを有することができる。
【発明の効果】
【0020】
本開示のトイレットロール製品は、適切な強度及び嵩高さを有し、巻長が長く、使用時における触感及び美粧性が良好で、持ち運び性や保管時の省スペース性に優れるうえ、トイレットロール製品の表裏差が小さく且つエンボスパターンの保形性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本実施形態のトイレットロール製品の斜視図である。
図2図2は、本実施形態のエンボスパターンの平面図である。
図3図3は、本実施形態の振動測定装置の斜視図である。
図4図4は、摩擦感テスターの性能を示す図である。
図5図5は、固定具の分解図である。
図6図6は、センサユニットの分解図である。
図7図7は、センサの性能を示す図である。
図8図8は、振動測定装置によって測定された振動波形を示すグラフである。
図9図9は、算出された振幅スペクトルを示すグラフである。
図10図10は、振動検出閾値曲線を示す図である。
図11図11は、最低振動検出閾値近似線を示す図である。
図12図12は、振幅スペクトル及び最低振動検出閾値近似線を示すグラフである。
図13図13は、サンプルの表面の振動を測定した場合における、算出された第1振動刺激値、第2振動刺激値、及び第3振動刺激値の一例を示す図である。
図14図14は、サンプルの表面の振動を測定した場合における、算出された第1振動刺激値、第2振動刺激値、及び第3振動刺激値の一例を示す図である。
図15図15は、変形例のエンボスパターンの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0023】
(実施形態)
図1は、本実施形態のトイレットロール製品の斜視図である。図2は、本実施形態のエンボスパターンの平面図である。図1に示すように、本実施形態のトイレットロール製品60は、2plyのトイレットペーパー70をロール状に巻き取った製品である。トイレットロール製品60の巻長は、63m以上128m以下である。巻長は、巻き取られたトイレットペーパー70の全長である。巻長は、巻取り長さとも呼ばれる。トイレットロール製品60の巻直径DRは、103mm以上151mm以下である。巻直径DRは、ロール外径とも呼ばれる。巻直径DRが上述した範囲内であることによって、トイレットロール製品60がホルダーに収まりやすくなる。
【0024】
トイレットペーパー70の1ply当たりの坪量は、11g/m以上19g/m以下である。より好ましくは、トイレットペーパー70の1ply当たりの坪量は、12.5g/m以上17.5g/m以下である。トイレットペーパー70の厚さは、0.45mm/10ply以上1.20mm/10ply以下であることが好ましい。より好ましくは、トイレットペーパー70の厚さは、0.60mm/10ply以上1.10mm/10ply以下である。坪量及び厚さが上述した範囲内であることによって、トイレットペーパー70が適切な強度及び嵩高さを備える。
【0025】
トイレットペーパー70の乾燥時の縦方向の引張強さである乾燥縦強度(Dry Machine Direction Tensile strength:DMDT)は、280gf/25mm以上550gf/25mm以下であることが好ましい。より好ましくは、トイレットペーパー70の乾燥縦強度は、330gf/25mm以上480gf/25mm以下である。縦方向は、抄紙機の流れ方向に沿った方向である。トイレットペーパー70の乾燥時の横方向の引張強さである乾燥横強度(Dry Cross Direction Tensile strength:DCDT)は、80gf/25mm以上210gf/25mm以下であることが好ましい。より好ましくは、トイレットペーパー70の乾燥横強度は、110gf/25mm以上190gf/25mm以下である。横方向は、抄紙機の流れ方向に対して直交する方向である。乾燥縦強度及び乾燥横強度は、JIS P8113に基づいて測定される。
【0026】
以下の説明において、トイレットペーパー70のうちトイレットロール製品60の径方向外側に向く面は、表面と記載される。トイレットペーパー70のうちトイレットロール製品60の径方向内側に向く面は、裏面と記載される。トイレットロール製品60の流れ方向は、流れ方向DMと記載される。流れ方向DMは、トイレットペーパー70を巻き取る方向であり、トイレットペーパー70の長手方向である。トイレットロール製品60の幅方向は、幅方向DWと記載される。幅方向DWは、トイレットペーパー70の厚さ方向及び流れ方向DMの両方に対して直交する方向である。
【0027】
図2に示すように、トイレットペーパー70は、エンボスパターン80を有する。エンボスパターン80は、エンボス加工によって形成される。エンボスパターン80は、いわゆるシングルエンボスである。2ply積層されたトイレットペーパー70の一方の面から凸型が押し付けられることによって、エンボスパターン80が形成される。2plyのトイレットペーパー70に同時にエンボスパターン80が形成されるので、エンボスパターン80が潰れにくくなる。エンボスパターン80の深さは、0.01mm以上0.30mm以下であることが好ましい。より好ましくは、エンボスパターン80の深さは、0.03mm以上0.25mm以下である。
【0028】
エンボスパターン80は、凹部である複数のエンボス部81を備える。エンボス部81は、略楕円形である。1つのエンボス部81(エンボス部81a)の重心と当該エンボス部81(エンボス部81a)から最も近いエンボス部81(エンボス部81b)の重心を通る直線を第1直線B1とする。トイレットペーパー70の面と平行な平面状において、第1直線B1に対して直交する直線を第2直線B2とする。この場合、流れ方向DMと平行な第1基準線A1と第2直線B2とがなす角度γは、第1基準線A1と第1直線B1とがなす角度αよりも大きい。以下において、第1直線B1と平行な方向は、第1方向と記載する。第2直線B2と平行な方向は、第2方向と記載する。言い換えると、複数のエンボス部81は、格子状に配置される。エンボス部81の重心は、第1方向D1と平行な直線と第2方向D2と平行な直線とで形成される格子の交点に配置される。
【0029】
図2に示すように、第2方向D2において隣接する2つのエンボス部81の距離G2は、第1方向D1において隣接する2つのエンボス部81の距離G1よりも大きい。流れ方向DMと平行な第1基準線A1と第2直線B2とがなす角度γは、第1基準線A1と第1直線B1とがなす角度αよりも大きい。角度αは、0°以上3°以下である。このため、幅方向DWと平行な第2基準線A2と第2直線B2とがなす角度βも、0°以上3°以下である。角度γは、87°以上90°以下である。
【0030】
エンボスパターン80の面積率は、30%以上45%以下、又は55%以上70%以下である。エンボスパターン80の面積率は、トイレットペーパー70の表面の単位面積に対して、エンボス部81が占める割合である。単位長さのトイレットペーパー70における全てのエンボス部81の面積の和をS1とし、単位長さのトイレットペーパー70の面積をS2とすると、面積率は、(S1/S2)×100で算出される。
【0031】
例えば、エンボスパターン80の面積率が30%である場合、単位長さのトイレットペーパー70の表面の面積のうち、エンボス部81が占める面積の割合が30%であり、エンボス部81を除く部分の面積の割合が70%である。一方、トイレットペーパー70の裏面に注目すると、単位長さのトイレットペーパー70の裏面の面積のうち、エンボス部81の反対側に形成される凸部が占める面積の割合が30%であり、当該凸部を除く部分の面積の割合が70%である。
【0032】
例えば、エンボスパターン80の面積率が70%である場合、単位長さのトイレットペーパー70の表面の面積のうち、エンボス部81が占める面積の割合が70%であり、エンボス部81を除く部分の面積の割合が30%である。一方、トイレットペーパー70の裏面に注目すると、単位長さのトイレットペーパー70の裏面の面積のうち、エンボス部81の反対側に形成される凸部が占める面積の割合が70%であり、当該凸部を除く部分の面積の割合が30%である。エンボスパターン80の面積率がX%のトイレットロール製品60と、エンボスパターン80の面積率が(100-X)%のトイレットロール製品60とは、ほぼ同等の品質を有する。
【0033】
なお、エンボスパターン80において、複数のエンボス部81の配置は、上述した配置に限定されない。また、エンボス部81の形状は、略楕円形でなくてもよく、円形、長円形、又は多角形等であってもよい。
【0034】
4plyのトイレットペーパー70の表面及び裏面に関して、第1振動刺激値(以下、ISAIという)は、300V/s以上800V/s以下である。4plyのトイレットペーパー70の表面に関するISAIと、裏面に関するISAIとの差は、-400V/s以上400V/s以下である。言い換えると、ISAIについて、表面と裏面との差の絶対値は、400V/s以下である。ISAIは、周波数が1Hz以上3Hz以下である第1領域における振動刺激値である。4plyのトイレットペーパー70の表面は、トイレットペーパー70の8つの面のうち最も外側の2面のうちの一方である。4plyのトイレットペーパー70の裏面は、トイレットペーパー70の8つの面のうち最も外側の2面のうちの他方である。
【0035】
4plyのトイレットペーパー70の表面及び裏面に関して、第2振動刺激値(以下、IFAIという)は、8500V/s以上11000V/s以下である。4plyのトイレットペーパー70の表面に関するIFAIと、裏面に関するIFAIとの差は、-3000V/s以上3000V/s以下である。言い換えると、IFAIについて、表面と裏面との差の絶対値は、3000V/s以下である。IFAIは、周波数が3Hzより大きく40Hz以下である第2領域における振動刺激値である。
【0036】
4plyのトイレットペーパー70の表面及び裏面に関して、第3振動刺激値(以下、IFAIIという)は、8000V/s以上11000V/s以下である。4plyのトイレットペーパー70の表面に関するIFAIIと、裏面に関するIFAIIとの差は、-2500V/s以上2500V/s以下である。言い換えると、IFAIIについて、表面と裏面との差の絶対値は、2500V/s以下である。IFAIIは、周波数が40Hzより大きく1000Hz以下である第3領域における振動刺激値である。
【0037】
SAI、IFAI、及びIFAIIは、後述する振動測定装置10を用いて測定される4plyのトイレットペーパー70の振動特性、及び最低振動検出閾値近似線の値に基づき算出される振動刺激値である。4plyのトイレットペーパー70は、1plyのトイレットペーパー70を同じ向きに4枚積層させたものである。なお、4plyのトイレットペーパー70は、折りたたまれることによって4枚重なる状態になったトイレットペーパー70でもよい。
【0038】
具体的には、ISAI、IFAI、及びIFAIIは、以下で説明する方法で算出される。ISAI、IFAI、及びIFAIIは、振動測定ステップと、振幅スペクトル算出ステップと、振動刺激値算出ステップと、を経て算出される。振動測定ステップは、トイレットペーパー70に接する接触子51及び振動を検出するためのセンサ59を備える振動測定装置10を用いて、トイレットペーパー70が移動する時の振動情報を測定する工程である。振幅スペクトル算出ステップは、トイレットペーパー70の振動情報に基づき、周波数ごとの振幅スペクトルを算出する工程である。振動刺激値算出ステップは、振幅スペクトルと最低振動検出閾値近似線の値とに基づき、ISAI、IFAI、及びIFAIIを算出する工程である。
【0039】
図3は、本実施形態の振動測定装置の斜視図である。図4は、摩擦感テスターの性能を示す図である。図5は、固定具の分解図である。図6は、センサユニットの分解図である。図7は、センサの性能を示す図である。図8は、振動測定装置によって測定された振動波形を示すグラフである。
【0040】
SAI、IFAI、及びIFAIIを算出するに当たって、まず振動測定装置10を用いて、サンプル100(4plyのトイレットペーパー70)が移動する時の振動情報が測定される(振動測定ステップ)。図3に示すように、振動測定装置10は、摩擦感テスター20と、固定具40と、センサユニット50と、を備える。振動測定装置10においては、固定具40によって支持されるサンプル100が移動させられる。振動測定装置10は、固定具40が移動する時にサンプル100の表面又は裏面に生じる振動を取得できる。
【0041】
摩擦感テスター20は、図4に示す性能を有する。図3に示すように、摩擦感テスター20は、移動ステージ21と、アーム23と、を備える。移動ステージ21は、水平方向に沿って移動できる。移動ステージ21は、固定具40を水平方向に移動させる。例えば、移動ステージ21は、モータ及びボールねじで駆動する直動機構によって移動する。アーム23は、移動ステージ21の上方に配置され、水平方向に延びている。アーム23は、鉛直方向に移動できる。アーム23は、センサユニット50を支持する。
【0042】
固定具40は、サンプル100を支持するための装置である。図5に示すように、固定具40は、土台41と、抑え板43と、衝撃吸収パッド45と、を備える。土台41は、移動ステージ21に固定される。抑え板43は、土台41に固定部材によって固定される。固定部材は、例えばネジである。土台41及び抑え板43は、例えばアクリルであって、NC加工機を用いて形成される。衝撃吸収パッド45は、土台41と抑え板43との間に設けられる。図7に示すように、土台41と抑え板43との間にサンプル100が配置される。固定部材が締め付けられることによって、サンプル100が土台41と衝撃吸収パッド45とによって挟まれる。衝撃吸収パッド45は、サンプル100が土台41からずれることを抑制する。
【0043】
図3に示すように、センサユニット50は、摩擦感テスター20のアーム23に取り付けられ、所定の高さで位置決めされる。図6に示すように、センサユニット50は、振動板57と、センサ59と、接触子51と、挟み板53と、を備える。
【0044】
振動板57の上端は、アーム23に固定される。振動板57は、例えばリン青銅で形成される。センサ59は、振動板57に生じる振動を検出する。センサ59は、例えばひずみゲージである。センサ59は、図7に示す性能を有する。センサ59は、振動板57の両面に配置される。センサ59は、例えば接着剤によって振動板57の表面に固定される。センサ59には、動ひずみ測定器が接続される。動ひずみ測定器は、センサ59のひずみ量を電気信号として取り込み、電圧値として表示する。接触子51及び挟み板53は、振動板57の下端に固定される。接触子51及び挟み板53は、例えばアクリルで形成される。接触子51及び挟み板53は、振動板57を挟む。接触子51及び挟み板53は、ネジによって振動板57に固定される。接触子51の底面は、曲面である。水平方向であり且つ移動ステージ21の移動方向に対して直交する方向から見て、接触子51の底面は、半円を描いている。接触子51の底面が、サンプル100に接する。挟み板53は、略直方体状である。
【0045】
以下において、振動測定ステップの一例を示す。本実施形態の振動測定ステップにおいては、振動測定装置10は、サンプル100が水平方向に沿って移動するように設置される。すなわち、本実施形態のISAI、IFAI、及びIFAIIは、サンプル100が水平方向に沿って移動するように振動測定装置10が設置された状態で測定される振動情報に基づいて、算出される。
【0046】
振動測定ステップにおいて、サンプル100(4plyのトイレットペーパー70)の振動情報を測定する時、まずセンサ59の導線が動ひずみ測定器に接続される。次に、サンプル100が、固定具40に固定される。サンプル100は、固定具40と共に移動してもサンプル100のミシン目が接触子51に当たらないように、固定具40に固定される。その後、摩擦感テスター20を駆動することによって、振動の測定が開始される。
【0047】
サンプル100は、接触子51によって所定の力で上から押される。例えば本実施形態において、所定の力は、0.5Nである。サンプル100の表面の振動情報を測定する時、表面が接触子51に接し且つ裏面が土台41に接するようにサンプル100が配置される。サンプル100の裏面の振動情報を測定する時、裏面が接触子51に接し且つ表面が土台41に接するようにサンプル100が配置される。
【0048】
移動ステージ21は、所定の速度で水平方向に移動する。所定の速度は、1mm/sec以上8mm/sec以下であることが望ましい。例えば本実施形態において、所定の速度は、5mm/secである。移動ステージ21は、所定の時間移動させられる。所定の時間は、1秒以上であることが望ましい。例えば本実施形態において、所定の時間は、3秒間である。サンプリング周波数は10kHzである。図8は、振動測定装置10によって測定されたサンプル100の振動波形を示すグラフの一例である。
【0049】
振動測定装置10の各構成の材料は、必ずしも上述した材料に限定されない。振動板57の材料は、リン青銅に限定されず、その他の金属であってもよいし、金属以外の材料であってもよい。接触子51及び挟み板53の材料は、アクリルに限定されず、その他の材料であってもよい。
【0050】
振動測定ステップの後、サンプル100の振動情報に基づき、周波数ごとの振幅スペクトルが算出される(振幅スペクトル算出ステップ)。以下において、振幅スペクトル算出ステップの一例を示す。振幅スペクトルは、例えば、フーリエ変換によって算出される。
【0051】
任意の周期信号f(t)は、三角関数の和で表示できる。周期信号は、フーリエ級数展開を行うことで、構成する三角関数に分解できる。これにより、周期信号に含まれる周波数又はスペクトル等の特徴量がわかるようになる。
【0052】
任意の周期信号f(t)に対し、フーリエ級数展開を行うと、式(1)のように表される。ただし、フーリエ係数a、a、bは、それぞれ式(2)、式(3)、式(4)で表される。
【0053】
【数1】
【0054】
【数2】
【0055】
【数3】
【0056】
【数4】
【0057】
周期信号f(t)は、オイラーの公式である式(5)を用いることによって、式(6)のように複素関数で表される。ただし、フーリエ係数gは、式(7)で表される。
【0058】
【数5】
【0059】
【数6】
【0060】
【数7】
【0061】
デジタル信号の処理には離散的フーリエ変換(DFT)が使用される。離散信号f[n]を用いると式(8)が成り立つ。F[k]は、f[n]の周波数スペクトルと呼ばれる。
【0062】
【数8】
【0063】
DFTの計算から得られるF[k]は一般的に複素数である。F[k]の実部をRe{F[k]]}とし、F[k]の虚部をIm{F[k]]}とすると、式(9)、式(10)及び式(11)が成り立つ。|F[k]|を振幅スペクトルという。argF[k]を位相スペクトルという。
【0064】
【数9】
【0065】
【数10】
【0066】
【数11】
【0067】
振幅スペクトル及び位相スペクトルの算出には、N回の計算が必要になる。高速フーリエ変換(FFT)は、DFTを2点のDFTの組み合わせに分解することによって、計算回数がNlogN回になるため、計算時間を短縮できる。
【0068】
例えば、振動測定ステップで得られた振動情報のうち、移動ステージ21が駆動した直後の最初の1秒間の情報に対して、数値解析ソフトウェアを用いてFFT処理が行われる。例えば、データ点数は8192点であり、窓関数にはハミング窓が用いられる。図9は、算出された振幅スペクトルを示す図である。図9において、縦軸は、振幅スペクトル(Amplitude Spectrum)である。
【0069】
振幅スペクトル算出ステップの後、振幅スペクトルと最低振動検出閾値近似線の値とに基づき、ISAI、IFAI、及びIFAIIが算出される(振動刺激値算出ステップ)。以下において、振動刺激値算出ステップの一例を示す。
【0070】
SAI、IFAI、及びIFAIIは、振幅スペクトルと最低振動検出閾値近似線の値とに基づき算出される。図10は、振動検出閾値曲線を示す図である。人が物を触った際に皮膚に加わる機械的刺激を知覚するものは、機械受容器である。機械受容器は、人の触感覚に大きく関与する。機械受容器としては、マイスナー小体、パチニ小体、メルケル触盤及びルフィニ終末が存在する。機械受容器は、機械受容器とそれに連なる神経線維を合わせた受容野の形態と、機械的刺激への神経発火特性の性質とから、速順応I形(FAI)、速順応II形(FAII)、遅順応I形(SAI)及び遅順応II形(SAII)に分類される。受容野の大きさは、FAIとSAIは直径数mm程度と小さい。これに対し、FAIIとSAIIは、大きく、且つ境界が不鮮明である。また、FAIは加えられた刺激の速度成分に対して神経発火する。FAIIは加えられた刺激の加速度成分に対し神経発火する。SAIとSAIIは加えられた機械刺激の変位に対して神経発火する。マイスナー小体がFAIに分類されている。パチニ小体がFAIIに分類されている。メルケル触盤がSAIに分類されている。ルフィニ終末がSAIIに分類されている。
【0071】
受容野に対して加わった機械的刺激の大きさによって機械受容器が神経発火する。これにより、人は触感を得る。人が検出できる振動の閾値に関する情報として、振動検出閾値曲線がある。図10に示すように、SAIに関しては、1Hz以上100Hz以下付近で周波数を変化させても検出閾値は、あまり変動しない。FAIに関しては、10Hz以上40Hz以下で検出閾値が最小になる。FAIIに関しては、100Hz以上1000Hz以下で検出閾値が最小になる。最低振動検出閾値近似線は、各周波数における最小の振動検出閾値を結んだ線である。図10において、最低振動検出閾値近似線は、太い線で示される。最低振動検出閾値曲線よりも大きい振幅の刺激が加われば、いずれかの受容器が神経発火し、人は触感を認識すると考えられる。また、SAIIの振動検出閾値曲線は、いずれの周波数帯においても他のどの受容器よりも閾値が高く、最低振動検出閾値曲線に影響を与えないため省略されている。
【0072】
図11は、最低振動検出閾値近似線を示す図である。図10で示す最低振動検出閾値曲線は、図11に示す最低振動検出閾値近似線で表すことができる。最低振動検出閾値近似線の近似式は、式(12)、式(13)、式(14)及び式(15)で定義される。
【0073】
【数12】
【0074】
【数13】
【0075】
【数14】
【0076】
【数15】
【0077】
ただし、SAIは変位のセンサであることから、LSAIの値は、全てのサンプルにおいて0よりも大きくなる必要がある。3Hz以下の周波数において、最小の振幅スペクトルとなるサンプルの値と一致するようにLSAIの値が決定される。
【0078】
SAI、LFAI、LFAII、はそれぞれSAI、FAI、FAIIの振動検出閾値近似線である。fは振動刺激の周波数である。また、LFAI,40HzとLFAII,250Hzはそれぞれ40Hz時の閾値、250Hz時の閾値を示す。
【0079】
図12は、振幅スペクトル及び最低振動検出閾値近似線を示す図である。図12は、最低振動検出閾値近似線を対数表記したグラフと、図9に示すグラフを対数表記したグラフと、を示す図である。図12において、実線が図9に示すグラフを対数表記したグラフであり、破線が最低振動検出閾値近似線を対数表記したグラフである。図12において、最低振動検出閾値近似線を超えた部分が振動刺激値である。振動刺激値Ii(ISAI、IFAI、及びIFAII)は、式(16)、式(17)及び式(18)によって求められる。
【0080】
【数16】
【0081】
【数17】
【0082】
【数18】
【0083】
はピリオドグラムにおけるi番目のデータの振幅スペクトルである。Lは、最低振動検出閾値近似線のi番目の値である。f及びfは、各周波数帯の周波数における最小値および最大値である。最低振動検出閾値近似線を示す受容野ごとに分割して、ISAI、IFAI、及びIFAIIが算出される。
【0084】
図12に示したグラフにおいて測定された振動が閾値近似線を上回った部分が、式(16)から式(18)を使用して算出された。図13は、サンプル100の表面の振動を測定した場合における、算出されたISAI、IFAI、及びIFAIIの一例を示す図である。図14は、サンプル100の裏面の振動を測定した場合における、算出されたISAI、IFAI、及びIFAIIの一例を示す図である。
【0085】
表1は、本実施形態のトイレットロール製品の一例である実施例に対する官能評価を示す表である。表2は、比較例に対する官能評価を示す表である。表1及び表2において、エンボスパターンの傾き(°)は、図2に示す第1基準線A1と第1直線B1とがなす角度αである。ISAI(表)は、表面のISAIである。ISAI(裏)は、裏面のISAIである。IFAI(表)は、表面のIFAIである。IFAI(裏)は、裏面のIFAIである。IFAII(表)は、表面のIFAIIである。IFAII(裏)は、裏面のIFAIIである。ISAI(差)は、表面のISAIから裏面のISAIを減じた値である。IFAI(差)は、表面のIFAIから裏面のIFAIを減じた値である。IFAII(差)は、表面のIFAIIから裏面のIFAIIを減じた値である。
【0086】
実施例及び比較例について、官能評価が行われた。具体的には、柔らかさ、滑らかさ、表裏差及びエンボス保形性について、官能評価が行われた。官能評価は、60名を対象にして行われた。各実施例及び各比較例の柔らかさ、滑らかさ、表裏差及びエンボス保形性について、60名が1点から5点で評価した。表1及び表2の柔らかさ、滑らかさ、表裏差及びエンボス保形性の欄において、「優」は60名の評価の平均点が4点以上であることを示し、「良」は平均点が3点以上4点未満であることを示し、「不可」は平均点が3点未満であることを示している。柔らかさ、滑らかさ、表裏差及びエンボス保形性の官能評価がすべて「良」以上であることが、トイレットロール製品60が満たすべき条件である。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
柔らかさは、トイレットロール製品60の使用時に感じる柔らかさである。柔らかさに関する官能評価において、「優」は特に柔らかく感じることを意味し、「良」は柔らかく感じることを意味し、「不可」は硬く感じることを意味する。
【0090】
滑らかさは、トイレットロール製品60の使用時に感じる滑らかさである。滑らかさに関する官能評価において、「優」は特に滑らかと感じることを意味し、「良」は滑らかと感じることを意味し、「不可」は滑らかさが足りず皮膚が痛いと感じることを意味する。
【0091】
表裏差は、トイレットロール製品60の使用時に感じる表裏差(表面と裏面との間の触感の差)である。表裏差に関する官能評価において、「優」は表裏差を全く感じないことを意味し、「良」は多少表裏差があるものの気にならないレベルであることを意味し、「不可」は表裏差が大きく使いづらいことを意味する。
【0092】
エンボス保形性は、ロール状のトイレットロール製品60を巻きほどいて使う時の、エンボスパターン80(エンボス部81)の潰れにくさである。エンボス保形性に関する官能評価において、「優」はエンボスパターン80がしっかりと残っていることを意味し、「良」はエンボスパターン80がやや潰れている箇所があるものの気にならないレベルであることを意味し、「不可」はエンボスパターン80が薄く使いづらいことを意味する。
【0093】
表1に示すように、第1実施例から第5実施例は、シングルエンボスであるエンボスパターンを有する2plyのトイレットペーパー70をロール状に巻き取ったトイレットロール製品である。第1実施例から第5実施例のトイレットペーパー70の坪量が11g/m以上19g/m以下である。第1実施例から第5実施例においては、巻長が63m以上128m以下であり、巻直径が103mm以上151mm以下である。第1実施例から第5実施例のエンボスパターン80の面積率は、30%以上45%以下、又は55%以上70%以下である。振動測定装置10を用いて測定される4plyのトイレットペーパー70のISAIが、300V/s以上800V/s以下であり、IFAIが8500V/s以上11000V/s以下であり、IFAIIが8000V/s以上11000V/s以下である。トイレットペーパー70の表面に関するISAIと裏面に関するISAIとの差は、-400V/s以上400V/s以下である。トイレットペーパー70の表面に関するIFAIと裏面に関するIFAIとの差は、-3000V/s以上3000V/s以下である。トイレットペーパー70の表面に関するIFAIIと裏面に関するIFAIIとの差は、-2500V/s以上2500V/s以下である。第1実施例から第5実施例においては、柔らかさ、滑らかさ、表裏差及びエンボス保形性の官能評価がすべて「良」以上である。第1実施例から第5実施例は、使い心地が良好なトイレットロール製品である。
【0094】
表2に示すように、第1比較例においては、坪量が19.0g/mよりも高い(11.0g/m以上19.0以下g/mの範囲外である)。表面及び裏面のISAIが800V/sより大きい(300V/s以上800V/s以下の範囲外である)。表面のIFAIが11000V/sより大きい(8500V/s以上11000V/s以下の範囲外である)。表面IFAIIが11000V/s未満である(8000V/s以上11000V/s以下の範囲外である)。第1比較例においては、柔らかさの官能評価が「不可」である。
【0095】
表2に示すように、第2比較例においては、坪量が11.0g/mよりも低い(11.0g/m以上19.0以下g/mの範囲外である)。裏面のISAIが300V/s未満である(300V/s以上800V/s以下の範囲外である)。表面及び裏面のIFAIが8500V/s未満である(8500V/s以上11000V/s以下の範囲外である)。表面のIFAIIが8000V/s未満である(8000V/s以上11000V/s以下の範囲外である)。第2比較例においては、滑らかさ及びエンボス保形性の官能評価が「不可」である。
【0096】
表2に示すように、第3比較例においては、エンボスパターンの面積率が、50%である(30%以上45%以下、又は55%以上70%以下の範囲外である)。エンボスパターンの傾きが、4°である(0°以上3°以下の範囲外である)。第3比較例においては、エンボス保形性の官能評価が「不可」である。
【0097】
表2に示すように、第4比較例においては、エンボスパターンの面積率が、75%である(30%以上45%以下、又は55%以上70%以下の範囲外である)。エンボスパターン80の深さが、0.40mmである(0.01mm以上0.30mm以下の範囲外である)。表面のISAIが800V/sより大きい(300V/s以上800V/s以下の範囲外である)。表面のIFAIが11000V/sより大きい(8500V/s以上11000V/s以下の範囲外である)。表面のIFAIIが11000V/sよりも大きい(8000V/s以上11000V/s以下の範囲外である)。表面のIFAIと裏面のIFAIの差が3000V/sよりも大きい(-3000V/s以上3000V/s以下の範囲外である)。表面のIFAIIと裏面のIFAIIの差が2500V/sよりも大きい(-2500V/s以上2500V/s以下の範囲外である)。第4比較例においては、表裏差の官能評価が「不可」である。
【0098】
表2に示すように、第5比較例においては、エンボスパターンの方式が、ダブルエンボスである。ダブルエンボスのトイレットロール製品では、エンボスパターンのエンボス部の端面同士が向かいあうように2plyのトイレットペーパーが積層される。ダブルエンボスのトイレットロール製品では、2plyのトイレットペーパー間に空隙ができるので吸水性及び柔らかさが向上する一方、ロール状に巻かれることによってエンボスパターンが潰れやすい傾向がある。第5比較例においては、エンボス保形性の官能評価が「不可」である。
【0099】
以上で説明したように、本実施形態のトイレットロール製品60は、シングルエンボスであるエンボスパターン80を有する2plyのトイレットペーパー70をロール状に巻き取った製品である。トイレットペーパー70の1ply当たりの坪量が11g/m以上19g/m以下である。巻長が63m以上128m以下である。巻直径が103mm以上151mm以下である。エンボスパターン80の面積率が30%以上45%以下、又は55%以上70%以下である。振動測定装置10を用いて測定される4plyのトイレットペーパー70の振動特性、及び最低振動検出閾値近似線の値に基づき算出される振動刺激値のうち、周波数が1Hz以上3Hz以下である第1領域における第1振動刺激値(ISAI)が、300V/s以上800V/s以下である。振動刺激値のうち、周波数が3Hzより大きく40Hz以下である第2領域における第2振動刺激値(IFAI)が、8500V/s以上11000V/s以下である。振動刺激値のうち、周波数が40Hzより大きく1000Hz以下である第3領域における第3振動刺激値(IFAII)が、8000V/s以上11000V/s以下である。トイレットペーパー70の表面に関する第1振動刺激値(ISAI)とトイレットペーパー70の裏面に関する第1振動刺激値(ISAI)との差は、-400V/s以上400V/s以下である。トイレットペーパー70の表面に関する第2振動刺激値(IFAI)とトイレットペーパー70の裏面に関する第2振動刺激値(IFAI)との差は、-3000V/s以上3000V/s以下である。トイレットペーパー70の表面に関する第3振動刺激値(IFAII)とトイレットペーパー70の裏面に関する第3振動刺激値(IFAII)との差は、-2500V/s以上2500V/s以下である。
【0100】
上述した坪量、巻長、及び巻直径を有し且つトイレットペーパー70がシングルエンボスであるエンボスパターン80を有することによって、トイレットロール製品60は、適切な強度及び嵩高さを有し、巻長が長く、使用時における触感及び美粧性が良好で、持ち運び性や保管時の省スペース性に優れる。また、エンボスパターン80の面積率が30%以上又は70%以下であることによって、表裏差が小さくなる。エンボスパターン80の面積率が45%以下又は55%以上であることによって、エンボスパターン80が潰れにくくなる。より具体的には、エンボス部81のエッジが維持されやすくなることによって、エンボス部81が潰れにくくなる。さらに、第1振動刺激値(ISAI)、第2振動刺激値(IFAI)及び第3振動刺激値(IFAII)がそれぞれ上述した範囲内であることによって、表裏差がより小さくなると共に、エンボスパターン80がより潰れにくくなる。したがって、本実施形態のトイレットロール製品60は、適切な強度及び嵩高さを有し、巻長が長く、使用時における触感及び美粧性が良好で、持ち運び性や保管時の省スペース性に優れるうえ、表裏差が小さく且つエンボスパターンの保形性に優れる。その結果、トイレットロール製品60は、表1に示すように、柔らかさ、滑らかさ、表裏差、及びエンボス保形性の官能評価の水準を向上させることができる。
【0101】
本実施形態のトイレットロール製品60において、エンボスパターン80の深さが0.01mm以上0.30mm以下である。
【0102】
これにより、本実施形態のトイレットロール製品60は、使用時における触感及び美粧性をより向上させることができると共に、表裏差をより小さくすることができる。
【0103】
本実施形態のトイレットロール製品60において、エンボスパターン80は、凹部である複数のエンボス部81を備える。1つのエンボス部81の重心と当該エンボス部81から最も近いエンボス部81の重心を通る直線を第1直線B1とし、第1直線B1に対して直交する直線を第2直線B2とした場合、流れ方向DMと平行な第1基準線A1と第2直線B2とがなす角度γは、第1基準線A1と第1直線B1とがなす角度αよりも大きい。
【0104】
これにより、本実施形態のトイレットロール製品60は、肌触り及び指先へのフィット感を向上させることができる。本実施形態のトイレットロール製品60によれば、使用時の触感が向上する。
【0105】
本実施形態のトイレットロール製品60において、第1基準線A1と第1直線B1とがなす角度αは、0°以上3°以下である。
【0106】
これにより、本実施形態のトイレットロール製品60は、エンボス保形性をより向上させることができる。
【0107】
本実施形態のトイレットロール製品60において、トイレットペーパー70の厚さが0.45mm/10ply以上1.20mm/10ply以下である。
【0108】
これにより、本実施形態のトイレットロール製品60は、上述した坪量、巻長及び巻直径を有しながらも、容易にロール状に巻き取ることができる。
【0109】
本実施形態のトイレットロール製品60において、乾燥時の縦方向の引張強さである乾燥縦強度が280gf/25mm以上550gf/25mm以下である。乾燥時の横方向の引張強さである乾燥横強度が80gf/25mm以上210gf/25mm以下である。
【0110】
これにより、本実施形態のトイレットロール製品60は、破れづらくなると共に、適切な柔らかさを有することができる。
【0111】
(変形例)
図15は、変形例のエンボスパターンの平面図である。なお、上述した実施形態で説明したものと同じ構成要素には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0112】
図15に示すように、トイレットペーパー70Aは、エンボスパターン80Aを有する。エンボスパターン80Aは、エンボス加工によって形成される。エンボスパターン80Aは、いわゆるシングルエンボスである。2ply積層されたトイレットペーパー70Aの一方の面から凸型が押し付けられることによって、エンボスパターン80Aが形成される。エンボスパターン80Aの深さは、0.01mm以上0.30mm以下であることが好ましい。より好ましくは、エンボスパターン80Aの深さは、0.03mm以上0.25mm以下である。
【0113】
エンボスパターン80Aは、複数のエンボス部81と、複数の補助エンボス部82と、を備える。トイレットペーパー70Aにおいては、第1直線B1は、第1基準線A1と平行である。すなわち、第1直線B1が第1基準線A1となす角度が0°である。第2直線B2が第1基準線A1となす角度が90°である。このため、トイレットペーパー70Aにおいては、第1方向D1が流れ方向DMと平行であり、第2方向D2が幅方向DWと平行である。
【0114】
エンボスパターン80Aの面積率は、30%以上45%以下、又は55%以上70%以下である。エンボスパターン80Aの面積率は、トイレットペーパー70Aの表面の単位面積に対して、エンボス部81が占める割合である。単位長さのトイレットペーパー70Aにおける全てのエンボス部81の面積の和をS1とし、単位長さのトイレットペーパー70Aの面積をS2とすると、面積率は、(S1/S2)×100で算出される。S1には、補助エンボス部82の面積は含まれない。
【0115】
補助エンボス部82は、エンボス部81よりも小さい凹部である。補助エンボス部82は、第2方向D2において隣接する2つのエンボス部81の間に配置される。補助エンボス部82は、2つのエンボス部81を繋ぐ。補助エンボス部82は、第1方向D1及び第2方向D2に対して角度をなす方向に延びている。補助エンボス部82の一端は、1つのエンボス部81の第1方向D1の端部と繋がっている。補助エンボス部82の他端は、当該エンボス部81に対して第2方向に隣接するエンボス部81の、第1方向D1の中間部と繋がっている。トイレットペーパー70の厚さ方向から見て、1つのエンボス部81と1つの補助エンボス部82によって、略コンマ形状が形成されている。略コンマ形状は、逆方向から見ると略逆コンマ形状である。
【0116】
なお、変形例のトイレットペーパー70Aにおいて、第1直線B1は、必ずしも第1基準線A1と平行でなくてもよい。第1直線B1は、第1基準線A1と角度をなしていてもよい。第1直線B1が第1基準線A1となす角度は、0°以上3°以下であることが好ましい。
【0117】
以上で説明したように、変形例のトイレットペーパー70Aにおいて、エンボスパターン80Aは、第2直線B2と平行な方向において隣接する2つのエンボス部81の間に配置され且つエンボス部81と繋がる凹部である補助エンボス部82を備える。1つのエンボス部81及び1つの補助エンボス部82によって、コンマ形状が描かれている。
【0118】
エンボス加工によってエンボスパターン80Aを形成する時、トイレットペーパー70Aが、ゴムロールと凸部を有するエンボスロールとの間に挟まれる。トイレットペーパー70Aが補助エンボス部82を備えることによって、エンボスロールの凸部がゴムロールに対して均一に接触するようになる。このため、変形例のトイレットペーパー70Aは、エンボス加工に用いられるゴムロールの劣化速度を遅くすることができる。
【符号の説明】
【0119】
10 振動測定装置
20 摩擦感テスター
21 移動ステージ
23 アーム
40 固定具
41 土台
43 抑え板
45 衝撃吸収パッド
50 センサユニット
51 接触子
53 挟み板
57 振動板
59 センサ
60 トイレットロール製品
70、70A トイレットペーパー
80、80A エンボスパターン
81、81a、81b エンボス部
82 補助エンボス部
D1 第1方向
D2 第2方向
DM 流れ方向
DW 幅方向
図1
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