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特許7387552鋼板温度予測装置および鋼板温度予測方法、ならびに、学習装置および学習方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】鋼板温度予測装置および鋼板温度予測方法、ならびに、学習装置および学習方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/76 20060101AFI20231120BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20231120BHJP
   C21D 11/00 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
B21B37/76 A
B21B45/02 320T
C21D11/00 101
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020126763
(22)【出願日】2020-07-27
(65)【公開番号】P2021035693
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019150362
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100111453
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 智
(72)【発明者】
【氏名】森居 数広
(72)【発明者】
【氏名】逢坂 武次
(72)【発明者】
【氏名】大谷 拓也
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0078394(KR,A)
【文献】特開2007-044715(JP,A)
【文献】特開2018-010521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/74-37/76
B21B 45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延後の鋼板を複数のセクションを順番に通過させて冷却する冷却設備の制御に用いられる鋼板温度予測装置であって、
複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第1入力ユニットを含む第1入力層と、第1中間層と、前記鋼板の温度の予測値を出力する第1出力ユニットを含む第1出力層と、を備える、第1訓練用データで学習したディープラーニングの温度予測モデルを記憶する第1記憶部と、
前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとして、予め定められた値を記憶する第2記憶部と、
前記温度予測モデルを用いて前記予測値を算出する予測フェーズ実行部と、を備え、
前記予測フェーズ実行部は、
前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第1入力ユニットに入力することにより、前記第1出力ユニットから前記予測値を出力させ、
前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第1入力ユニットに入力し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記予め定められた値を前記第1入力ユニットに入力することにより、前記第1出力ユニットから前記予測値を出力させ、
前記第1訓練用データは、前記冷却設備の出側における前記予測値を学習する場合の、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有するデータと、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を学習する場合の、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を有するデータとを備え
前記冷却パラメータは、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の搬送時間および前記鋼板に供給される冷却水の量であり
前記予め定められた値は、ゼロである、
鋼板温度予測装置。
【請求項2】
前記冷却パラメータが大きいとき、前記鋼板に対する冷却量が大きくなり、前記冷却パラメータが小さいとき、前記鋼板に対する冷却量が小さくなる、
請求項1に記載の鋼板温度予測装置。
【請求項3】
前記第1訓練用データで学習したディープラーニングの温度予測モデルは、前記第1訓練用データが第2および第3訓練用データであって、前記第2訓練用データで学習したディープラーニングの概算温度予測モデルおよび前記第3訓練用データで学習したディープラーニングの誤差温度予測モデルであり
前記ディープラーニングの概算温度予測モデルは、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータの合計値を入力する第2入力ユニットを含む第2入力層と、第2中間層と、前記冷却設備による前記鋼板の冷却効果を示す所定の指標値の予測値を出力する第2出力ユニットを含む第2出力層と、を備え、
前記ディープラーニングの誤差温度予測モデルは、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第3入力ユニットを含む第3入力層と、第3中間層と、前記鋼板の誤差温度の予測値を出力する第3出力ユニットを含む第3出力層と、を備え、
前記誤差温度は、前記冷却設備で冷却されている前記鋼板の温度測定で得られた前記鋼板の温度、および、熱伝導方程式で計算された、前記冷却設備で冷却されている前記鋼板の温度の少なくとも一方を基にした前記指標値と、前記概算温度予測モデルで予測された前記指標値との差であり、
前記第2訓練用データは、前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合の、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータの合計値を有するデータと、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合の、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータの合計値を有するデータとを備え
前記第3訓練用データは、前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合の、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有するデータと、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合の、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を有するデータとを備え
前記鋼板の冷却効果を示す所定の指標値は、前記冷却設備の出側における前記鋼板の温度、あるいは、前記冷却設備の入側に対する出側もしくは前記途中箇所における前記鋼板の温度降下量であり
前記予測フェーズ実行部は、
前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータの合計値を前記第2入力ユニットに入力することにより、前記第2出力ユニットから前記指標値を出力させ、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第3入力ユニットに入力することにより、前記第3出力ユニットから前記誤差温度を出力させ、前記指標値と前記誤差温度との和を前記冷却設備の出側における前記予測値として算出し、
前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータの合計値を前記第2入力ユニットに入力することにより、前記第2出力ユニットから前記指標値を出力させ、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第3入力ユニットに入力し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記予め定められた値を前記第3入力ユニットに入力することにより、前記第3出力ユニットから前記誤差温度を出力させ、前記指標値と前記誤差温度との和を前記途中箇所における前記予測値として算出する、
請求項1または2に記載の鋼板温度予測装置。
【請求項4】
前記第1記憶部は、前記複数のセクションを順番が連続する2以上のセクションから成る2以上のグループに予め分けた条件下で、前記2以上のグループのそれぞれに対応して構築された2以上の前記概算温度予測モデルおよび前記誤差温度予測モデルそれぞれを記憶し、
前記予測フェーズ実行部は、前記2以上のグループのそれぞれについて前記指標値および前記誤差温度それぞれを出力させ、前記2以上のグループのそれぞれについて出力させた各前記指標値と各前記誤差温度との各和を算出する、
請求項に記載の鋼板温度予測装置。
【請求項5】
前記第1記憶部は、前記鋼板の長手方向に沿って前記鋼板を2以上の区間に予め分けた条件下で、前記2以上の区間のそれぞれに対応して構築された2以上の前記概算温度予測モデルおよび前記誤差温度予測モデルそれぞれを記憶し、
前記予測フェーズ実行部は、前記2以上の区間のそれぞれについて前記指標値および前記誤差温度それぞれを出力させ、前記2以上の区間のそれぞれについて出力させた各前記指標値と各前記誤差温度との各和を算出する、
請求項に記載の鋼板温度予測装置。
【請求項6】
熱間圧延後の鋼板を複数のセクションを順番に通過させて冷却する冷却設備の制御に用いられる鋼板温度予測方法であって、
複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第1入力ユニットを含む第1入力層と、第1中間層と、前記鋼板の温度の予測値を出力する第1出力ユニットを含む第1出力層と、を備える、第1訓練用データで学習したディープラーニングの温度予測モデルを用いて、前記予測値を算出する予測フェーズ実行ステップを備え、
前記予測フェーズ実行ステップは、
前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第1入力ユニットに入力することにより、前記第1出力ユニットから前記予測値を出力させ、
前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第1入力ユニットに入力し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を前記第1入力ユニットに入力することにより、前記第1出力ユニットから前記予測値を出力させ、
前記第1訓練用データは、前記冷却設備の出側における前記予測値を学習する場合の、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有するデータと、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を学習する場合の、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を有するデータとを備え
前記冷却パラメータは、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の搬送時間および前記鋼板に供給される冷却水の量であり
前記予め定められた値は、ゼロである、
鋼板温度予測方法。
【請求項7】
熱間圧延後の鋼板を複数のセクションを順番に通過させて冷却する冷却設備の制御に用いられる鋼板温度予測装置に備えられる、ディープラーニングの温度予測モデルに学習させる学習装置であって、
複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第1入力ユニットを含む第1入力層と、第1中間層と、前記鋼板の温度の予測値を出力する第1出力ユニットを含む第1出力層と、を備える前記温度予測モデルに、第1訓練用データを学習させる学習フェーズ実行部を備え、
前記学習フェーズ実行部は、
前記冷却設備の出側における前記予測値を学習する場合、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有する前記第1訓練用データを、前記温度予測モデルに学習させ、
前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を学習する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を有する前記第1訓練用データを、前記温度予測モデルに学習させ、
前記冷却パラメータは、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の搬送時間および前記鋼板に供給される冷却水の量であり
前記予め定められた値は、ゼロである、
学習装置。
【請求項8】
前記第1訓練用データに付けられる正解ラベルが示す前記途中箇所の前記予測値は、熱伝導方程式により構成される物理モデルを基にして算出される、
請求項に記載の学習装置。
【請求項9】
前記温度予測モデルは、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータの合計値を入力する第2入力ユニットを含む第2入力層と、第2中間層と、前記冷却設備による前記鋼板の冷却効果を示す所定の指標値の予測値を出力する第2出力ユニットを含む第2出力層と、を備える、ディープラーニングの概算温度予測モデル、および、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第3入力ユニットを含む第3入力層と、第3中間層と、前記鋼板の誤差温度の予測値を出力する第3出力ユニットを含む第3出力層と、を備える、ディープラーニングの誤差温度予測モデルを備え、
前記学習フェーズ実行部は、
前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータの合計値を有する第訓練用データを、前記概算温度予測モデルに学習させ、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有する第訓練用データを、前記誤差温度予測モデルに学習させ、
前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータの合計値を有する第訓練用データを、前記概算温度予測モデルに学習させ、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を有する第訓練用データを、前記誤差温度予測モデルに学習させ、
前記鋼板の冷却効果を示す所定の指標値は、前記冷却設備の出側における前記鋼板の温度、あるいは、前記冷却設備の入側に対する出側もしくは前記途中箇所における前記鋼板の温度降下量である
請求項に記載の学習装置。
【請求項10】
熱間圧延後の鋼板を複数のセクションを順番に通過させて冷却する冷却設備の制御に用いられる鋼板温度予測装置に備えられる、ディープラーニングの温度予測モデルに学習させる学習方法であって、
複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第1入力ユニットを含む第1入力層と、第1中間層と、前記鋼板の温度の予測値を出力する第1出力ユニットを含む第1出力層と、を備える前記温度予測モデルに、第1訓練用データを学習させる学習フェーズ実行ステップを備え、
前記学習フェーズ実行ステップは、
前記冷却設備の出側における前記予測値を学習する場合、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有する前記第1訓練用データを、前記温度予測モデルに学習させ、
前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を学習する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を有する前記第1訓練用データを、前記温度予測モデルに学習させ、
前記冷却パラメータは、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の搬送時間および前記鋼板に供給される冷却水の量であり
前記予め定められた値は、ゼロである、
学習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間圧延後の鋼板を冷却制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
熱間圧延後の鋼板は、冷却プロセスを経て所望の温度まで下げられる。冷却プロセスにおける冷却制御にフィードフォワード制御が用いられる場合、鋼板の温度予測モデルが必要となるので、鋼板製品の製造開始前に温度予測モデルが予め構築される。鋼板の種類に応じて温度予測モデルが異なるので、鋼板の種類に応じて温度予測モデルが構築される。自動車等に用いられる薄鋼板は、多品種なので、温度予測モデルを多数構築しなければならない。
【0003】
例えば、特許文献1は、薄鋼板について、熱伝導方程式により構成される物理モデルを温度予測モデルとして用いて、熱間圧延後の鋼板を冷却制御する技術を開示している。薄鋼板の場合、熱間圧延後の鋼板は、冷却プロセスを経て所望の温度まで下げられて、コイル状に巻き取られる。
【0004】
また、特許文献2は、熱伝達係数を用いた、熱間圧延後の鋼板の冷却制御において、熱伝達係数の推定値をニューラルネットワークから算出する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-663号公報
【文献】特開平4-339511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱伝導方程式により構成される物理モデルを温度予測モデルとして用いる場合、熱伝導方程式の精度およびこの熱伝導方程式に含まれる変態温度予測モデルの精度を高くすれば、温度予測モデルの精度を高くすることができる。しかし、熱伝導方程式が複雑となるので、温度の予測値の計算に時間がかかる。このため、オンライン(数10~100msec周期程度のリアルタイム制御)では、高精度な温度予測モデルを用いることが難しく、計算時間を短くするために、熱伝導方程式を単純化している(すなわち、精度が高くない温度予測モデルを用いる)。
【0007】
本発明者らは、ディープラーニングによって構築された温度予測モデルについて検討した。この温度予測モデルによれば、複雑な熱伝導方程式により構成される物理モデルを温度予測モデルとして用いる場合よりも、温度の予測値の計算時間を短くすることができる。また、この温度予測モデルによれば、設計者は、熱伝導方程式およびこれに含まれる変態発熱予測モデルを考える必要がないので、設計者の負担が軽減される。
【0008】
熱間圧延後の鋼板の冷却において、冷却途中の鋼板の温度が鋼板の品質に影響を与えることがある(特に、薄鋼板)。そこで、冷却設備の出側における温度の予測値に加えて、冷却設備の入側から出側までの途中に位置する途中箇所における温度の予測値(冷却途中における温度の予測値)を算出して冷却制御がされることがある。
【0009】
冷却設備の出側における温度の予測値と、冷却設備の途中箇所における温度の予測値について、温度予測モデルを別々にしたとき、それぞれの温度予測モデルを構築しなければならない。特に、途中箇所が複数あり、この数が多ければ、温度予測モデルの数が増え、温度予測モデルの構築に手間を要することになる。
【0010】
本発明の目的は、ディープラーニングによって構築された温度予測モデルを用いた、熱間圧延後に冷却される鋼板の温度の予測において、冷却設備の出側における温度の予測値および冷却設備の途中箇所における温度の予測値を算出するために、それぞれの温度予測モデルを構築する必要がない鋼板温度予測装置および鋼板温度予測方法、ならびに、学習装置および学習方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1局面に係る鋼板温度予測装置は、熱間圧延後の鋼板を複数のセクションを順番に通過させて冷却する冷却設備の制御に用いられる鋼板温度予測装置であって、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第1入力ユニットを含む第1入力層と、第1中間層と、前記鋼板の温度の予測値を出力する第1出力ユニットを含む第1出力層と、を備える、ディープラーニングの温度予測モデルを記憶する第1記憶部と、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとして、予め定められた値を記憶する第2記憶部と、前記温度予測モデルを用いて前記予測値を算出する予測フェーズ実行部と、を備え、前記予測フェーズ実行部は、前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第1入力ユニットに入力することにより、前記第1出力ユニットから前記予測値を出力させ、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第1入力ユニットに入力し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記予め定められた値を前記第1入力ユニットに入力することにより、前記第1出力ユニットから前記予測値を出力させる。
【0012】
本発明の第1局面に係る鋼板温度予測装置は、鋼板が未通過のセクションに対する冷却パラメータとして、予め定められた値を用意し、冷却設備の途中箇所における予測値を算出する場合、入側から途中箇所までのセクションでの冷却パラメータとして、鋼板が入側から途中箇所までのセクションを通過(実際に通過)したときの冷却パラメータを第1入力ユニットに入力し、かつ、途中箇所から出側までのセクション(鋼板が未通過のセクション)での冷却パラメータとして、予め定められた値を第1入力ユニットに入力している。これにより、冷却設備の出側における予測値を算出する温度予測モデルを、冷却設備の途中箇所における予測値の算出に用いることができる。したがって、本発明の第1局面に係る鋼板温度予測装置によれば、冷却設備の出側における予測値を算出する温度予測モデルと、冷却設備の途中箇所における予測値を算出する温度予測モデルとを共通化することができるので、冷却設備の出側における温度の予測値および冷却設備の途中箇所における温度の予測値を算出するために、それぞれの温度予測モデルを構築する必要がなくなる。
【0013】
冷却パラメータは、例えば、複数のセクションのそれぞれでの鋼板の搬送時間、鋼板の搬送速度、鋼板に供給される冷却水の量である。搬送時間、冷却水の量の場合、冷却パラメータが大きいとき、鋼板に対する冷却量が大きくなり、冷却パラメータが小さいとき、鋼板に対する冷却量が小さくなる。搬送速度の場合、冷却パラメータが大きいとき、鋼板に対する冷却量が小さくなり、冷却パラメータが小さいとき、鋼板に対する冷却量が大きくなる。
【0014】
鋼板が未通過のセクションでの冷却パラメータは、予め定められた値である。搬送時間や冷却水の場合、例えば、ゼロであり、搬送速度の場合、例えば、∞である。予め定められた値は、これらに限定されず、搬送時間や冷却水の水量の場合、ゼロに近い極めて小さい値にしてもよいし(例えば、通常の搬送時間や冷却水の水量の1000分の1)、搬送速度の場合、∞に近い極めて大きい値にしてもよい(例えば、通常の搬送速度の1000倍)。冷却パラメータとして、搬送速度よりも搬送時間の方が好ましい。なぜならば、搬送速度の場合、実際にはありえない値(∞)が予め定められた値となるからである。
【0015】
以上の冷却パラメータに関する説明は、本発明の第2局面に係る鋼板温度予測方法、本発明の第3局面に係る学習装置、および、本発明の第4局面に係る学習方法にも言えることである。
【0016】
本発明の第1局面に係る鋼板温度予測装置において、好ましくは、前記第1記憶部は、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータの合計値を入力する第2入力ユニットを含む第2入力層と、第2中間層と、前記冷却設備による前記鋼板の冷却効果を示す所定の指標値の予測値を出力する第2出力ユニットを含む第2出力層と、を備える、ディープラーニングの概算温度予測モデル、および、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第3入力ユニットを含む第3入力層と、第3中間層と、前記鋼板の誤差温度の予測値を出力する第3出力ユニットを含む第3出力層と、を備える、ディープラーニングの誤差温度予測モデルを記憶し、前記誤差温度は、前記冷却設備で冷却されている前記鋼板の温度測定で得られた前記鋼板の温度、および、熱伝導方程式で計算された、前記冷却設備で冷却されている前記鋼板の温度の少なくとも一方を基にした前記指標値と、前記概算温度予測モデルで予測された前記指標値との差であり、前記予測フェーズ実行部は、前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータの合計値を前記第2入力ユニットに入力することにより、前記第2出力ユニットから前記指標値を出力させ、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第3入力ユニットに入力することにより、前記第3出力ユニットから前記誤差温度を出力させ、前記指標値と前記誤差温度との和を前記冷却設備の出側における前記予測値として算出し、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータの合計値を前記第2入力ユニットに入力することにより、前記第2出力ユニットから前記指標値を出力させ、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第3入力ユニットに入力し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記予め定められた値を前記第3入力ユニットに入力することにより、前記第3出力ユニットから前記誤差温度を出力させ、前記指標値と前記誤差温度との和を前記途中箇所における前記予測値として算出する。好ましくは、前記指標値は、前記冷却設備の出側における前記鋼板の温度、または、前記冷却設備の入側に対する出側もしくは途中箇所における前記鋼板の温度降下量である。
【0017】
一般的には、機械学習した予測モデルを用いる場合、前記機械学習に用いた訓練データに類似する初期温度や冷却条件の場合、比較的高い精度で温度が予測できる。一方、訓練データと差異の大きい初期温度や冷却条件の場合、外挿領域での予測となるため、高い精度で温度が予測できない虞がある。上記態様では、外挿領域でも比較的高い精度で温度が予測でき、したがって、上記態様の鋼板温度予測装置は、より高い精度の温度予測が期待できる。
【0018】
本発明の第1局面に係る鋼板温度予測装置における上述の態様において、好ましくは、前記第1記憶部は、前記複数のセクションを順番が連続する2以上のセクションから成る2以上のグループに予め分けた条件下で、前記2以上のグループのそれぞれに対応して構築された2以上の前記概算温度予測モデルおよび前記誤差温度予測モデルそれぞれを記憶し、前記予測フェーズ実行部は、前記2以上のグループのそれぞれについて前記指標値および前記誤差温度それぞれを出力させ、前記2以上のグループのそれぞれについて出力させた各前記指標値と各前記誤差温度との各和を算出する。
【0019】
上記態様では、局所的な設備環境による影響の機械学習が容易になり、予測モデルをグループ分けすることで、一度に機械学習できる訓練用データの容量が増加できる。
【0020】
本発明の第1局面に係る鋼板温度予測装置における上述の態様において、好ましくは、前記第1記憶部は、前記鋼板の長手方向に沿って前記鋼板を2以上の区間に予め分けた条件下で、前記2以上の区間のそれぞれに対応して構築された2以上の前記概算温度予測モデルおよび前記誤差温度予測モデルそれぞれを記憶し、前記予測フェーズ実行部は、前記2以上の区間のそれぞれについて前記指標値および前記誤差温度それぞれを出力させ、前記2以上の区間のそれぞれについて出力させた各前記指標値と各前記誤差温度との各和を算出する。
【0021】
上記態様では、鋼板の長手方向に沿って区分けすることで、鋼板の位置に応じた特徴(例えば先端部が撓んでいることや、先端部付近で温度降下量が大きいこと等)を考慮した機械学習が実施できる。
【0022】
本発明の第2局面に係る鋼板温度予測方法は、熱間圧延後の鋼板を複数のセクションを順番に通過させて冷却する冷却設備の制御に用いられる鋼板温度予測方法であって、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第1入力ユニットを含む第1入力層と、第1中間層と、前記鋼板の温度の予測値を出力する第1出力ユニットを含む第1出力層と、を備える、ディープラーニングの温度予測モデルを用いて、前記予測値を算出する予測フェーズ実行ステップを備え、前記予測フェーズ実行ステップは、前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第1入力ユニットに入力することにより、前記第1出力ユニットから前記予測値を出力させ、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを前記第1入力ユニットに入力し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を前記第1入力ユニットに入力することにより、前記第1出力ユニットから前記予測値を出力させる。
【0023】
本発明の第2局面に係る鋼板温度予測方法は、本発明の第1局面に係る鋼板温度予測装置を方法の観点から規定しており、本発明の第1局面に係る鋼板温度予測装置と同様の作用効果を有する。
【0024】
本発明の第3局面に係る学習装置は、熱間圧延後の鋼板を複数のセクションを順番に通過させて冷却する冷却設備の制御に用いられる鋼板温度予測装置に備えられる、ディープラーニングの温度予測モデルに学習させる学習装置であって、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第1入力ユニットを含む第1入力層と、第1中間層と、前記鋼板の温度の予測値を出力する第1出力ユニットを含む第1出力層と、を備える前記温度予測モデルに、第1訓練用データを学習させる学習フェーズ実行部を備え、前記学習フェーズ実行部は、前記冷却設備の出側における前記予測値を学習する場合、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有する前記第1訓練用データを、前記温度予測モデルに学習させ、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を学習する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を有する前記第1訓練用データを、前記温度予測モデルに学習させる。
【0025】
本発明の第3局面に係る学習装置は、本発明の第1局面に係る鋼板温度予測装置および本発明の第2局面に係る鋼板温度予測方法で用いられる温度予測モデルに学習させる装置である。
【0026】
本発明の第3局面に係る学習装置は、同じ温度予測モデルに、出側における予測値および途中箇所における予測値を学習させている。これを実現するために、出側における予測値を学習する場合、第1訓練用データは、複数のセクションのそれぞれでの冷却パラメータとして、鋼板が複数の前記セクションのそれぞれを通過したときの冷却パラメータを有する。そして、途中箇所における予測値を学習する場合、第1訓練用データは、入側から途中箇所までのセクションでの冷却パラメータとして、鋼板が入側から途中箇所までのセクションを通過したときの冷却パラメータを有し、かつ、途中箇所から出側までのセクションでの冷却パラメータとして、予め定められた値を有する。
【0027】
以上の通り、本発明の第3局面に係る学習装置によれば、冷却設備の出側における予測値を算出する温度予測モデルと、冷却設備の途中箇所における予測値を算出する温度予測モデルとを共通化することができるので、冷却設備の出側における温度の予測値および冷却設備の途中箇所における温度の予測値を算出するために、それぞれの温度予測モデルを構築する必要がなくなる。
【0028】
上記構成において、前記第1訓練用データに付けられる正解ラベルが示す前記途中箇所の前記予測値は、熱伝導方程式により構成される物理モデルを基にして算出される。
【0029】
訓練用データに付けられる正解ラベルが示す途中箇所の予測値が、温度計で測定された値の場合、温度計が設置されていない途中箇所の予測値を算出するための第1訓練用データを作成することができない。この構成によれば、途中箇所の予測値が熱伝導方程式により構成される物理モデルを基にして算出されるので、温度計が設置されていない途中箇所の予測値を算出するための第1訓練用データを作成することができる。この結果、第1訓練用データの数を増やすことができる。
【0030】
本発明の第3局面に係る学習装置における上述の態様において、好ましくは、前記温度予測モデルは、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータの合計値を入力する第2入力ユニットを含む第2入力層と、第2中間層と、前記冷却設備による前記鋼板の冷却効果を示す所定の指標値の予測値を出力する第2出力ユニットを含む第2出力層と、を備える、ディープラーニングの概算温度予測モデル、および、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する第3入力ユニットを含む第3入力層と、第3中間層と、前記鋼板の誤差温度の予測値を出力する第3出力ユニットを含む第3出力層と、を備える、ディープラーニングの誤差温度予測モデルを備え、前記学習フェーズ実行部は、前記冷却設備の出側における前記予測値を算出する場合、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータの合計値を有する第2訓練用データを、前記概算温度予測モデルに学習させ、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有する第3訓練用データを、前記誤差温度予測モデルに学習させ、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を算出する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータの合計値を有する第4訓練用データを、前記概算温度予測モデルに学習させ、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を有する第5訓練用データを、前記誤差温度予測モデルに学習させる。
【0031】
上記態様では、より高い精度の温度予測が期待できる概算温度予測モデルおよび誤差温度予測モデルが機械学習で生成できる。
【0032】
本発明の第4局面に係る学習方法は、熱間圧延後の鋼板を複数のセクションを順番に通過させて冷却する冷却設備の制御に用いられる鋼板温度予測装置に備えられる、ディープラーニングの温度予測モデルに学習させる学習方法であって、複数の前記セクションのそれぞれでの前記鋼板の冷却パラメータを入力する入力ユニットを含む入力層と、中間層と、前記鋼板の温度の予測値を出力する出力ユニットを含む出力層と、を備える前記温度予測モデルに、訓練用データを学習させる学習フェーズ実行ステップを備え、前記学習フェーズ実行ステップは、前記冷却設備の出側における前記予測値を学習する場合、前記鋼板が複数の前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有する前記訓練用データを、前記温度予測モデルに学習させ、前記冷却設備の入側から前記出側までの途中に位置する途中箇所における前記予測値を学習する場合、前記鋼板が前記入側から前記途中箇所までの前記セクションを通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から前記出側までの前記セクションでの前記冷却パラメータとして、前記鋼板が未通過の前記セクションに対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値を有する前記訓練用データを、前記温度予測モデルに学習させる。
【0033】
本発明の第4局面に係る学習方法は、本発明の第3局面に係る学習装置を方法の観点から規定しており、本発明の第3局面に係る学習装置と同様の作用効果を有する。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ディープラーニングによって構築された温度予測モデルを用いた、熱間圧延後に冷却される鋼板の温度の予測において、冷却設備の出側における温度の予測値および冷却設備の途中箇所における温度の予測値を算出するために、それぞれの温度予測モデルを構築する必要をなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施形態における熱間圧延後の鋼板に対する冷却プロセスを示す模式図である。
図2】第1実施形態において、フィードフォワード制御に用いられる、鋼板の温度予測モデルの例を示す模式図である。
図3】実施形態における鋼板温度予測装置のブロック図である。
図4】熱間圧延後の鋼板を冷却した実操業データの例を示す表である。
図5】第1実施形態において、図4に示す実操業データから作成された第1訓練用データの例を示す表である。
図6】訓練用データの作成方法を説明するフローチャートである。
図7】物理モデルを用いて、1番目~11番目のセクションのそれぞれの鋼板の温度を計算した結果である計算温度データの例を示すグラフである。
図8】計算温度データの補正量の例を示すグラフである。
図9】計算温度データと補正温度データの例を示すグラフである。
図10】実施形態における鋼板温度予測装置が実行する学習フェーズのフローチャートである。
図11】実施形態における鋼板温度予測装置が実行する予測フェーズのフローチャートである。
図12】予測値データと補正温度データの例を示すグラフである。
図13】第1実施形態において、平均絶対誤差を算出するためのデータの例を示すグラフである。
図14】第1実施形態において、誤差標準偏差を算出するためのデータの例を示すグラフである。
図15】第2実施形態において、フィードフォワード制御に用いられる、鋼板の概算温度予測モデルの例を示す模式図である。
図16】第2実施形態において、フィードフォワード制御に用いられる、鋼板の誤差温度予測モデルの例を示す模式図である。
図17】第2実施形態において、図4に示す実操業データから作成された第2訓練用データの例を示す表である。
図18】第2実施形態において、図4に示す実操業データから作成された第3訓練用データの例を示す表である。
図19】第1および第2実施形態それぞれの各誤差分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳細に説明する。各図において、同一符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、その構成について、既に説明している内容については、その説明を省略する。なお、符号において、構成を総称で示す場合、数字のみが用いられ(例えば、温度計53)、構成を個別に示す場合、数字の後に英語アルファベットを付加している(例えば、温度計53a、温度計53b、温度計53c)。
【0037】
(第1実施形態)
図1は、実施形態における熱間圧延後の鋼板Wに対する冷却プロセスを示す模式図である。鋼板Wは、薄鋼板である。薄鋼板のサイズは、例えば、長さ100~1000m、幅600~1800mm、厚さ1~20mm)である。
【0038】
圧延機51から出てきた、熱間圧延後の鋼板Wは、冷却設備52で所定の温度まで冷却され、巻取装置(不図示)で巻き取られる。圧延機51と冷却設備52と巻取装置(不図示)は接続されており、これにより、熱間圧延工程と冷却工程と巻取工程とが連続的に実行される。これらの工程において、鋼板Wは、例えば、時速50~60キロの速度で搬送されている。
【0039】
冷却設備52は、鋼板Wの搬送方向Dに沿って、直列に並ぶ複数のセクション521により構成される。図1に示す例では、1番目~11番目の11個のセクション521が示されている。セクション521は、バンクと称されることもある。熱間圧延後の鋼板Wは、11個のセクション521を順番に通過し、各セクション521で冷却される。1番目、5番目、6番目、11番目のセクション521は、空冷方式のセクション521である。これら以外のセクション521は、水冷方式のセクション521である。水冷方式のセクション521では、鋼板Wに供給する冷却水の量を調整することができる。図1に示す例では、2番目、3番目、7番目、9番目のセクション521は、鋼板Wに冷却水を供給していることを示し、4番目、8番目、10番目のセクション521は、鋼板Wへの冷却水の供給を停止していることを示している。
【0040】
各セクション521の長さは、同じであるが、圧延機51による圧延は、加減速を伴うため、各セクション521での鋼板Wの搬送時間(鋼板Wが各セクション521を通過する時間)は異なる。
【0041】
鋼板Wの冷却制御は、鋼板Wの温度を測定する必要があるので、温度計53(例えば、放射温度計)が設置されている。詳しくは、冷却設備52の入側522(1番目のセクション521の入口)に、温度計53aが設置され、冷却設備52の中間箇所524(5番目と6番目のセクション521の間の箇所)に、温度計53bが設置され、冷却設備52の出側523(11番目のセクション521の出口)に、温度計53cが設置されている。冷却設備52の中間箇所524は、入側522から出側523までの途中に位置する途中箇所の例である。
【0042】
鋼板Wの搬送速度は、圧延機51によって決まるため、水冷方式のセクション521で鋼板Wに供給する冷却水の量を調整する冷却制御によって、鋼板Wの出側523の温度が目標温度になるようにする。この冷却制御には、フィードバック制御とフィードフォワード制御が用いられる。鋼板Wが薄鋼板の場合、鋼板Wの長さが大きいので、フィードバック制御で制御が間に合うが、フィードフォワード制御を加えることにより、鋼板Wの温度の制御精度を高めている。
【0043】
図2は、第1実施形態において、フィードフォワード制御に用いられる、鋼板Wの温度予測モデル61の例を示す模式図である。温度予測モデル61は、ディープニューラルネットワーク(Deep Neural Network)であり、入力層(第1入力層)と、中間層(第1中間層)と、出力層(第1出力層)と、を備える。図示を簡略にするために、中間層は、2層で示されているが、4層以上ある。中間層は、全結合である。
【0044】
図1および図2を参照して、入力層は、鋼板データ(サイズ、成分)が入力される入力ユニット(第1入力ユニット)611、初期温度が入力される入力ユニット611、および、11個(複数)のセクション521のそれぞれでの冷却パラメータが入力される入力ユニット611を備える。
【0045】
サイズは、鋼板Wの幅および厚みである。成分は、鋼板Wに添加されている元素(例えば、シリコン、マンガン)および元素の量である。
【0046】
初期温度は、入側522で測定された鋼板Wの温度である。
【0047】
セクション521での冷却パラメータは、搬送時間、上部水量および下部水量である。搬送時間は、セクション521での鋼板Wの搬送時間である。セクション521は、上部と下部とにより構成されている。上部水量は、上部から鋼板Wに供給される冷却水の量である。下部水量は、下部から鋼板Wに供給される冷却水の量である。空冷式のセクション521(1番目、5番目、6番目、11番目のセクション521)では、これらの水量はゼロとなる。
【0048】
出力層は、鋼板Wの温度の予測値を出力する出力ユニット612を備える。
【0049】
図3は、実施形態における鋼板温度予測装置100のブロック図である。鋼板温度予測装置100は、処理部1と、IF部2と、入力部3と、出力部4と、を備える。なお、図3には、第1実施形態における鋼板温度予測装置100のブロック図が図示されているだけでなく、第2実施形態における鋼板温度予測装置100aのブロック図が図示され、第2実施形態における鋼板温度予測装置100aの参照符号は、例えば100(100a)のように、その対応する第1実施形態における鋼板温度予測装置100の参照符号の後に括弧書きで付されている。括弧書きの参照符号のない構成は、第1および第2実施形態で共通な構成である。
【0050】
処理部1は、鋼板温度予測装置100の全体を統括し、鋼板温度予測装置100の動作に必要な処理を行う。処理部1は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、および、HDD(Hard Disk Drive)等のハードウェア、処理部1の機能を実行するためのプログラムおよびデータ等によって実現される。
【0051】
IF部2は、処理部1に接続され、処理部1の制御に従って、外部の機器との間で信号等を入出力する。例えば、IF部2は、温度計53が測定した鋼板温度を受信し、これを処理部1へ送る。IF部2は、各セクション521での冷却パラメータ(上部水量、下部水量、搬送時間)を、冷却設備52の制御部から受信し、これを処理部1へ送る。冷却設備52の制御部は、圧延機51の圧延速度を基にして、搬送時間を算出する。IF部2は、入出力インターフェース回路によって実現される。
【0052】
入力部3は、処理部1に接続され、ユーザが、各種の情報、データ、命令等を入力するための装置である。入力部3は、マウス、キーボード、タッチパネル等により実現される。出力部4は、処理部1に接続され、処理部1の制御に従って、入力部3から入力されたコマンド、データ等を出力する装置である。出力部4は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ(Organic Light Emitting Diode display)等により実現される。
【0053】
処理部1は、機能ブロックとして、第1記憶部11、第2記憶部12、ディープラーニングの学習フェーズ実行部13、ディープラーニングの予測フェーズ実行部14、計算温度データ生成部15、および、補正温度データ生成部16を備える。
【0054】
第1記憶部11は、ディープラーニングの温度予測モデル61を記憶する。
【0055】
第2記憶部12は、鋼板Wが未通過のセクション521に対する冷却パラメータとして、ゼロを示すゼロデータ121(予め定められた値の例)を記憶する。冷却パラメータは、例えば、11個のセクション521のそれぞれでの鋼板Wの搬送時間および鋼板Wに供給される冷却水の量である。鋼板Wが未通過のセクション521に対する冷却パラメータは、ゼロ(ゼロデータ121)である。
【0056】
学習フェーズ実行部13は、温度予測モデル61に、訓練用データ(第1訓練用データ、教師データ)を学習させる。予測フェーズ実行部14は、学習済みの温度予測モデル61を用いて、鋼板Wの温度の予測値を算出する。冷却設備52の制御部は、この予測値を基にして、セクション521が鋼板Wに供給する冷却水の量を調整する。鋼板温度予測装置100は、学習フェーズ実行部13を備えるので、温度予測モデル61に学習させる学習装置として機能する。鋼板温度予測装置100は、学習装置の機能を有していなくてもよい。この場合、別のコンピュータ装置が学習装置となる。
【0057】
計算温度データ生成部15、および、補正温度データ生成部16については、後で説明する。
【0058】
学習フェーズに用いる訓練用データ(第1訓練用データ)の作成について説明する。図4は、熱間圧延後の鋼板Wを冷却した実操業データの例を示す表である。実操業データは、No.1~nまでの鋼板Wに関するものである。各実操業データは、鋼板データ、温度計実測および各セクション冷却実績により構成される。鋼板データについては、既に説明した。温度計実測について説明する。図1および図4を参照して、「入側」は、温度計53aで測定された鋼板Wの温度であり、「中間」は、温度計53bで測定された鋼板Wの温度であり、「出側」は、温度計53cで測定された鋼板Wの温度である。
【0059】
各セクション冷却実績は、上部水量、下部水量、搬送時間により構成される。これらについては、既に説明した。なお、実施形態では、図1に示すように、1番目、5番目、6番目、11番目のセクション521は空冷式なので、これらのセクション521での上部水量、下部水量は、それぞれ、ゼロである。
【0060】
図5は、第1実施形態において、図4に示す実操業データから作成された第1訓練用データの例を示す表である。鋼板データ、初期温度、各セクション冷却パラメータは、入力層(図2)に入力される。予測値は、正解ラベルである。予測値には、中間箇所524(図1)の温度の予測値と出側523(図1)の温度の予測値とがある。中間箇所524は途中箇所の例であり、中間箇所524の温度の予測値は、温度計実測(図4)の「中間」の温度である(温度計53bで測定された鋼板Wの温度)。出側523(図1)の温度の予測値は、温度計実測(図4)の「出側」の温度である(温度計53cで測定された鋼板Wの温度)。
【0061】
図6は、訓練用データの作成方法を説明するフローチャートである。この作成方法には、1個の実操業データから2個の訓練用データを作成する方法と、1個の実操業データから11個の訓練用データを作成する方法とがある。前者について、図4に示す実操業データNo.1を用いて説明する。まず、図4に示す実操業データNo.1が取得される(S11)。
【0062】
次に、実操業データNo.1から、図5に示す訓練用データNo.1Bおよび訓練用データNo.1Cが作成される(S12)。訓練用データNo.1Bは、中間箇所524(途中箇所の例)の温度の予測値を学習する訓練に用いられる。訓練用データNo.1Bにおいて、鋼板データは、実操業データNo.1の鋼板データであり、初期温度は、実操業データNo.1の「入側」の温度であり、1番目~5番目のセクション521の冷却パラメータは、実操業データNo.1の1番目~5番目のセクション521の冷却実績であり、6番目~11番目のセクション521の冷却パラメータは、ゼロであり、予測値は、実操業データNo.1の「中間」の温度(温度計53bで測定された鋼板Wの温度)である。6番目~11番目のセクション521の冷却パラメータが、ゼロ(予め定められた値の例)であるのは、鋼板Wは6番目~11番目のセクション521を未通過だからである。
【0063】
このように、冷却設備52の途中箇所(中間箇所524)における予測値を学習するための訓練用データは、鋼板Wが入側522から途中箇所までのセクション521を通過したときの冷却パラメータ、および、途中箇所から出側523までのセクション521での冷却パラメータとして、鋼板Wが未通過のセクション521に対する冷却パラメータとなる予め定められた値を含む。
【0064】
訓練用データNo.1Cは、出側523の温度の予測値を学習する訓練に用いられる。訓練用データNo.1Cにおいて、鋼板データは、実操業データNo.1の鋼板データであり、初期温度は、実操業データNo.1の「入側」の温度である。ここまでは、訓練用データNo.1Bと同じである。訓練用データNo.1Cにおいて、各セクション冷却パラメータは、実操業データNo.1の各セクション冷却実績であり、予測値は、実操業データNo.1の「出側」の温度(温度計53cで測定された鋼板Wの温度)である。
【0065】
このように、出側523における予測値を学習するための訓練用データは、鋼板Wが11個のセクション521を通過したときの冷却パラメータを含む。
【0066】
1個の実操業データから11個の訓練用データを作成する方法について、実操業データNo.1を用いて説明する。この方法では、熱伝導方程式により構成される、鋼板Wの温度の物理モデルが用いられる。この物理モデルは、例えば、先行技術文献として記載した特開2012-663号公報に開示されている。
【0067】
図6を参照して、実操業データNo.1が取得される(S11)。計算温度データ生成部15(図3)は、この物理モデルを用いて、1番目~11番目のセクション521のそれぞれの鋼板Wの温度を計算する(S13)。図7は、この計算結果の例を示すグラフ(計算温度データのグラフ)である。横軸は、冷却設備52(図1)の入側、途中箇所、出側を示し、縦軸は、鋼板Wの温度を示す。図1を参照して、途中箇所は、1番目~4番目のそれぞれのセクション521の出口、中間箇所524(5番目のセクション521の出口)、6番目~10番目のそれぞれのセクション521の出口である。
【0068】
物理モデルを用いた計算温度と実測温度には、誤差(第1誤差)が生じるので、この誤差を補正した補正温度データが作成される(S14)。詳しく説明する。入側522、中間箇所524、出側523の鋼板Wの温度については、実測温度がある(図4に示す実操業データNo.1の温度計実測)。補正温度データ生成部16(図3)は、これらの実測温度を図7に示すグラフにプロットし、入側522の実測温度と計算温度との差、中間箇所524の実測温度と計算温度との差、出側523の実測温度と計算温度との差を計算する。
【0069】
補正温度データ生成部16は、これらの差を基にして、線形補間することにより、計算温度データの補正量を計算する。図8は、この計算結果を示すグラフの例である。横軸は、図7に示す横軸と同じである。縦軸は、温度補正量を示す。入側522の場合、計算温度と実測温度とが一致していたので、温度補正量はゼロになる。中間箇所524の場合、実測温度が計算温度より小さいので、温度補正量はマイナスとなる。出側523の場合、実測温度が計算温度より大きいので、温度補正量はプラスとなる。入側522の温度補正量と中間箇所524の温度補正量をつなぐ直線と、中間箇所524の温度補正量と出側523の温度補正量をつなぐ直線とが、各途中箇所の温度補正量を示す。
【0070】
補正温度データ生成部16は、図8に示すグラフを用いて、計算温度データを補正することにより、補正温度データを生成する。図9は、計算温度データと補正温度データの例を示すグラフである。横軸、縦軸は、図7に示すグラフの横軸、縦軸と同じである。計算温度データは、図7に示す計算温度データと同じである。
【0071】
補正温度データにより、1番目~10番目のそれぞれのセクション521の出口(途中箇所)における鋼板Wの温度、および、出側523(11番目のセクション521の出口)における鋼板Wの温度が分かる。これらを予測値にすることにより、実操業データNo.1から11個の訓練用データを作成することができる(S12)。
【0072】
図10は、実施形態に係る鋼板温度予測装置100が実行する学習フェーズのフローチャートである。学習フェーズにおいて、鋼板温度予測装置100は、学習装置として機能する。図3および図10を参照して、ユーザは、温度予測モデル61を設計する(S21)。次に、ユーザは、入力部3を操作して、訓練用データを処理部1に記憶させる(S22)。1個の実操業データから2個の訓練用データが作成する方法の場合、この方法で作成された訓練用データが処理部1に記憶される。1個の実操業データから11個の訓練用データを作成する方法の場合、この方法で作成された訓練用データが処理部1に記憶される。
【0073】
学習フェーズ実行部13は、訓練用データを処理S21で設計した温度予測モデル61に学習させる(S23)。詳しく説明する。学習フェーズ実行部13は、出側523における予測値を学習する場合、鋼板Wが11個(複数)のセクション521を通過(実際に通過)したときの冷却パラメータを用いた訓練用データを、温度予測モデル61に学習させる。
【0074】
途中箇所における予測値を学習する場合、鋼板Wが入側522から途中箇所までのセクション521を通過(実際に通過)したときの冷却パラメータを有し、かつ、途中箇所から出側523までのセクション521での冷却パラメータとして、ゼロ(予め定められた値)を有する訓練用データを、温度予測モデル61に学習させる。例えば、途中箇所が3番目のセクション521の出口の場合、鋼板Wが1番目~3番目のセクション521を通過したときの冷却パラメータを有し、かつ、4番目~11番目のセクション521での冷却パラメータとして、ゼロを有する訓練用データを、温度予測モデル61に学習させる。
【0075】
次に、予測フェーズについて説明する。図11は、実施形態に係る鋼板温度予測装置100が実行する予測フェーズのフローチャートである。図1図3および図11を参照して、予測フェーズ実行部14は、オペレータが入力部3を用いて入力した、予測値を算出する対象となる鋼板Wの鋼板データを取得し、記憶する(S1)。
【0076】
予測フェーズ実行部14は、温度計53aが測定した、熱間圧延後のその鋼板Wの温度(初期温度)を、IF部2を介して取得し、記憶する(S2)。
【0077】
予測フェーズ実行部14は、冷却設備52の制御部から送信されてきた、1番目のセクション521での冷却パラメータを、IF部2を介して取得し、記憶する(S3)。冷却パラメータは、上述したように、上部水量、下部水量および搬送時間である。1番目のセクション521は空冷式なので、上部水量および下部水量はゼロである。
【0078】
予測フェーズ実行部14は、1番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値を算出する(S4)。詳しく説明する。予測フェーズ実行部14は、処理S1で記憶した鋼板データおよび処理S2で記憶した初期温度を、温度予測モデル61の入力ユニット611(図2)に入力する。また、予測フェーズ実行部14は、1番目のセクション521での冷却パラメータとして、処理S3で記憶した冷却パラメータを入力ユニット611に入力する。さらに、予測フェーズ実行部14は、第2記憶部12からゼロデータ121を読み出し、2番目~11番目のセクション521での冷却パラメータとして、ゼロを入力ユニット611に入力する。以上により、1番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値が出力ユニット612(図2)から出力される。
【0079】
予測フェーズ実行部14は、冷却設備52の制御部から送信されてきた、2番目のセクション521での冷却パラメータを、IF部2を介して取得し、記憶する(S5)。
【0080】
予測フェーズ実行部14は、2番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値を算出する(S6)。詳しく説明する。予測フェーズ実行部14は、処理S1で記憶した鋼板データおよび処理S2で記憶した初期温度を入力ユニット611に入力する。予測フェーズ実行部14は、1番目のセクション521での冷却パラメータとして、処理S3で記憶した冷却パラメータを入力ユニット611に入力し、かつ、2番目のセクション521での冷却パラメータとして、処理S5で記憶した冷却パラメータを入力ユニット611に入力する。さらに、予測フェーズ実行部14は、第2記憶部12からゼロデータ121を読み出し、3番目~11番目のセクション521での冷却パラメータとして、ゼロを入力ユニット611に入力する。以上により、2番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値が出力ユニット612から出力される。
【0081】
予測フェーズ実行部14は、冷却設備52の制御部から送信されてきた、3番目のセクション521での冷却パラメータを、IF部2を介して取得し、記憶する(S7)。
【0082】
予測フェーズ実行部14は、3番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値を算出する(S8)。詳しく説明する。予測フェーズ実行部14は、処理S1で記憶した鋼板データおよび処理S2で記憶した初期温度を入力ユニット611に入力する。予測フェーズ実行部14は、1番目のセクション521での冷却パラメータとして、処理S3で記憶した冷却パラメータを入力ユニット611に入力し、かつ、2番目のセクション521での冷却パラメータとして、処理S5で記憶した冷却パラメータを入力ユニット611に入力し、かつ、3番目のセクション521での冷却パラメータとして、処理S7で記憶した冷却パラメータを入力ユニット611に入力する。さらに、予測フェーズ実行部14は、第2記憶部12からゼロデータ121を読み出し、4番目~11番目のセクション521での冷却パラメータとして、ゼロを入力ユニット611に入力する。以上により、3番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値が出力ユニット612から出力される。
【0083】
同様にして、予測フェーズ実行部14は、4番目~11番目のセクション521のそれぞれで冷却された鋼板Wの温度の予測値を算出する。なお、11番目のセクション521(出側523)の場合、鋼板Wは、全てのセクション521で冷却されるので、第2記憶部12に記憶されているゼロデータ121は、予測値の算出に用いられない。すなわち、出側523における予測値を算出する場合、鋼板が11個のセクションを通過したときの冷却パラメータを入力ユニット611に入力することにより、出力ユニット612から予測値を出力させる。
【0084】
なお、全セクション521の冷却パラメータ(上部水量、下部水量、搬送時間)が事前に計画されている場合、冷却設備52の制御部は、全セクション521の冷却パラメータを予測フェーズ実行部14に送信し、予測フェーズ実行部14は、送信されてきた全セクション521の冷却パラメータを、IF部2を介して取得し、記憶する。この場合、予測フェーズ実行部14は、全セクション521の予測値を一度に算出するので、処理S3以降は不要となる。
【0085】
図12は、予測値データと補正温度データの例を示すグラフである。横軸は、セクション521を示し、縦軸は、鋼板Wの温度を示す。予測値データは、実施形態に係る鋼板温度予測装置100を用いて算出された各セクション521における鋼板Wの温度の予測値である。詳しく説明する。本発明者らは、50本の鋼板コイルの実操業データから訓練用データを作成した。実際の冷却設備52は100以上のセクション521を有するので、1個の実操業データから11個の訓練用データを作成する方法を用いることにより、約5000個の訓練用データが作成された。学習フェーズ実行部13は、これらの訓練用データを学習し、温度予測モデル61を構築した。予測フェーズ実行部14は、51本目の鋼板コイルについて、この温度予測モデル61を用いて図11に示すフローチャートを実行し、各セクション521での予測値を算出した。これが、予測値データである。
【0086】
補正温度データは、図7図9で説明したように、熱伝導方程式により構成される物理モデルで計算された計算温度データを補正したデータである。補正に用いた鋼板Wの温度の実測温度は、51本目の鋼板コイルの実操業データに含まれる温度計実測(図4)である。
【0087】
図12を参照して、予測値データは、補正温度データとほぼ同じであり、予測値データは、補正温度データと比べて、見劣りしないことが分かる。
【0088】
予測フェーズ実行部14は、51本目~100本目の鋼板コイルについて、上記温度予測モデル61(50本の鋼板コイルの実操業データから作成された訓練用データを学習して構築されたモデル)を用いて、図11に示すフローチャートを実行し、出側523での予測値(11番目のセクション521での予測値)を算出した。以下、これを、実施形態を用いて算出された出側523での予測値と記載する。51本目~100本目の鋼板コイルの計算温度データを比較例とする。
【0089】
本発明者らは、実施形態を用いて算出された出側523での予測値、物理モデルを用いる手法で算出された出側523での計算温度のそれぞれについて、平均絶対誤差と誤差標準偏差を算出した。図13は、第1実施形態において、平均絶対誤差を算出するためのデータの例を示すグラフであり、図14は、第1実施形態において、誤差標準偏差を算出するためのデータの例を示すグラフである。
【0090】
図13を参照して、実施形態を用いて算出された出側523での予測値の場合、横軸は、予測値の平均値と温度計実測の平均値の差の絶対値を示し、縦軸は、頻度を示す。物理モデルを用いる手法で算出された出側523での計算温度の場合、横軸は、計算温度の平均値と温度計実測の平均値の差の絶対値を示し、縦軸は、頻度を示す。
【0091】
図14を参照して、実施形態を用いて算出された出側523での予測値の場合、横軸は、予測値と温度計実測の差の標準偏差を示し、縦軸は、頻度を示す。物理モデルを用いる手法で算出された出側523での計算温度の場合、横軸は、計算温度と温度計実測の差の標準偏差を示し、縦軸は、頻度を示す。
【0092】
平均絶対誤差と誤差標準偏差を以下の表に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
実施形態を用いて算出された出側523での予測値の場合、物理モデルを用いる手法で算出された出側523での計算温度の場合よりも、平均絶対誤差、誤差標準偏差がいずれも小さくなった。従って、前者は後者よりも、鋼板Wの温度の予測精度が高いことが分かる。
【0095】
次に、別の実施形態について説明する。
(第2実施形態)
第1実施形態では、出側の温度または途中箇所の温度を予測する1個の温度予測モデルが用いられたが、第2実施形態では、概算の温度を予測する概算温度予測モデルと、温度の真値(実際には実測値または物理モデルの計算値)と前記概算温度予測モデルで予測した概算の温度との誤差(誤差温度、第2誤差)を予測する誤差温度予測モデルとの2個のモデルが用いられる。第1実施形態の温度予測モデルで予測した予測温度は、第2実施形態では、前記概算温度予測モデルで予測した概算の温度と、前記誤差温度予測モデルで予測した誤差温度との和が対応する。
【0096】
ところで、前記特許文献2のように、機械学習した予測モデルを用いる場合、前記機械学習に用いた訓練用データに類似する初期温度や冷却条件の場合、比較的高い精度で温度が予測できる。一方、訓練用データと差異の大きい初期温度や冷却条件の場合、外挿領域での予測となるため、高い精度で温度が予測できない虞がある。この第2実施形態では、概算の温度および誤差温度で温度を予測することで外挿領域でも比較的高い精度で温度が予測でき、したがって、第2実施形態では、第1実施形態に較べ、より高い精度の温度予測が期待できる。
【0097】
図15は、第2実施形態において、フィードフォワード制御に用いられる、鋼板の概算温度予測モデルの例を示す模式図である。図16は、第2実施形態において、フィードフォワード制御に用いられる、鋼板の誤差温度予測モデルの例を示す模式図である。
【0098】
概算温度予測モデル61Aは、ディープニューラルネットワーク(Deep Neural Network)であり、例えば、図15に示すように、入力層(第2入力層)と、中間層(第2中間層)と、出力層(第2出力層)と、を備える。図示を簡略にするために、中間層は、2層で示されているが、4層以上ある。中間層は、全結合である。
【0099】
入力層は、鋼板データ(サイズ、成分)が入力される入力ユニット(第2入力ユニット)611A、初期温度が入力される入力ユニット611A、および、11個(複数)のセクション521のそれぞれでの冷却パラメータの合計値が入力される入力ユニット611Aを備える。
【0100】
セクション521での冷却パラメータは、上述したように、搬送時間、上部水量および下部水量であるので、前記冷却パラメータの合計値は、合計搬送時間、合計上部水量および合計下部水量である。冷却設備52の出側523における予測値を算出する場合や、冷却設備52の出側523における前記予測値を算出するように機械学習させる場合、合計搬送時間は、入側522のセクション521(図1に示す例では1番目のセクション521)から出側523のセクション521(図1に示す例では11番目のセクション521)までの各セクション521の各搬送時間の合計である。合計上部水量は、入側522のセクション521から出側523のセクション521までの各セクション521の各上部水量の合計である。合計下部水量は、入側522のセクション521から出側523のセクション521までの各セクション521の各下部水量の合計である。冷却設備52の入側522から出側523までの途中に位置する途中箇所における予測値を算出する場合や、前記途中箇所における前記予測値を算出するように機械学習させる場合、合計搬送時間は、入側522のセクション521から前記途中箇所のセクション521までのセクション521を通過したときの搬送時間の合計である。合計上部水量は、入側522のセクション521から前記途中箇所のセクション521までのセクション521を通過したときの上部水量の合計である。合計下部水量は、入側522のセクション521から前記途中箇所のセクション521までのセクション521を通過したときの下部水量の合計である。例えば、4番目のセクション521の出側に途中箇所が設定される場合では、冷却パラメータの合計値は、1番目のセクション521から4番目のセクション521までにおける各セクション521の各冷却パラメータを合計することによって求められる。
【0101】
出力層は、冷却設備52による鋼板Wの冷却効果を示す所定の指標値の予測値を出力する出力ユニット(第2出力ユニット)612Aを備える。前記指標値は、例えば、冷却設備52の出側523における鋼板Wの温度である。あるいは例えば、前記指標値は、冷却設備52の入側522に対する出側523もしくは途中箇所における鋼板Wの温度降下量である。
【0102】
誤差温度予測モデル61Bは、ディープニューラルネットワーク(Deep Neural Network)であり、例えば、図16に示すように、入力層(第3入力層)と、中間層(第3中間層)と、出力層(第3出力層)と、を備える。図示を簡略にするために、中間層は、2層で示されているが、4層以上ある。中間層は、全結合である。
【0103】
入力層は、鋼板データ(サイズ、成分)が入力される入力ユニット(第3入力ユニット)611B、初期温度が入力される入力ユニット611B、および、11個(複数)のセクション521のそれぞれでの冷却パラメータが入力される入力ユニット611Bを備える。
【0104】
出力層は、鋼板Wの誤差温度の予測値を出力する出力ユニット(第3出力ユニット)612Bを備える。前記誤差温度は、冷却設備52で冷却されている鋼板Wの温度測定で得られた前記鋼板Wの温度、および、熱伝導方程式で計算された、前記冷却設備52で冷却されている前記鋼板Wの温度の少なくとも一方に基にした前記指標値と、概算温度予測モデル61Aで予測された前記指標値との差である。
【0105】
セクション521での冷却パラメータは、上述したように、搬送時間、上部水量および下部水量である。冷却設備52の出側523における誤差温度を算出する場合や、冷却設備52の出側523における前記誤差温度を算出するように機械学習させる場合、これら冷却パラメータにおける搬送時間、上部水量および下部水量は、第1実施形態と同様であり、冷却設備52の入側522から出側523までの途中に位置する途中箇所における誤差温度を算出する場合や、前記途中箇所における前記誤差温度を算出するように機械学習させる場合も、これら冷却パラメータにおける搬送時間、上部水量および下部水量は、第1実施形態と同様である。
【0106】
このような第2実施形態では、概算温度予測モデル61Aの入力ユニット611Aの個数は、温度予測モデル61における11個(複数)のセクション521のそれぞれでの冷却パラメータが入力される入力ユニット611の個数と概算温度予測モデル61Aにおける11個(複数)のセクション521のそれぞれでの冷却パラメータの合計値が入力される入力ユニット611Aの個数との差だけ、温度予測モデル61の入力ユニット611Aの個数より少なくなる。このため、第2実施形態における鋼板温度予測装置100aは、第1実施形態における鋼板温度予測装置100に較べて、外挿領域でも比較的高い精度で温度が予測できる。
【0107】
第2実施形態における鋼板温度予測装置100aは、例えば、図3に示すように、処理部1aと、IF部2と、入力部3と、出力部4と、を備える。これら第2実施形態における鋼板温度予測装置100aにおけるIF部2、入力部3および出力部4は、それぞれ、第1実施形態における鋼板温度予測装置100におけるIF部2、入力部3および出力部4と同様であるので、その説明を省略する。
【0108】
処理部1aは、鋼板温度予測装置100aの全体を統括し、鋼板温度予測装置100aの動作に必要な処理を行う。処理部1aは、CPU、RAM、ROMおよびHDD等のハードウェア、処理部1aの機能を実行するためのプログラムおよびデータ等によって実現される。処理部1aは、機能ブロックとして、第1記憶部11a、第2記憶部12、学習フェーズ実行部13a、予測フェーズ実行部14a、計算温度データ生成部15および補正温度データ生成部16を備える。これら第2実施形態における鋼板温度予測装置100aにおける第2記憶部12、計算温度データ生成部15および補正温度データ生成部16は、それぞれ、第1実施形態における鋼板温度予測装置100における第2記憶部12、計算温度データ生成部15および補正温度データ生成部16と同様であるので、その説明を省略する。
【0109】
第1記憶部11aは、ディープラーニングの概算温度予測モデル61Aおよび誤差温度予測モデル61Bを記憶する。
【0110】
学習フェーズ実行部13aは、概算温度予測モデル61Aに、訓練用データ(第2訓練用データ)を学習させ、誤差温度予測モデル61Bに、訓練用データ(第3訓練用データ)を学習させる。予測フェーズ実行部14aは、学習済みの概算温度予測モデル61Aを用いて、鋼板Wの指標値(例えば鋼板Wの温度や温度降下量)の予測値を算出し、学習済みの誤差温度予測モデル61Bを用いて、鋼板Wの誤差温度の予測値を算出する。
【0111】
学習フェーズに用いる第2訓練用データの作成について説明する。図17は、第2実施形態において、図4に示す実操業データから作成された第2訓練用データの例を示す表である。一例として、第1実施形態で用いた図4に示す実操業データから、第2訓練用データを作成する場合について説明する。
【0112】
この第2訓練用データの作成では、まず、実操業データが取得され、そして、第2訓練用データが作成される。例えば、図4に示す実操業データNo.1が取得され、そして、実操業データNo.1から、図17に示す訓練用データNo.1BAおよび訓練用データNo.1CAが作成される。訓練用データNo.1BAは、中間箇所524(途中箇所の例)の予測値を学習する訓練に用いられる。訓練用データNo.1BAにおいて、鋼板データは、実操業データNo.1の鋼板データであり、初期温度は、実操業データNo.1の「入側」の温度であり、冷却パラメータは、1番目~5番目のセクション521の冷却パラメータの合計値である。より具体的には、合計上部水量は、1番目~5番目のセクション521における各上部水量の合計値であり、合計下部水量は、1番目~5番目のセクション521における各下部水量の合計値であり、合計搬送時間は、1番目~5番目のセクション521における各搬送時間の合計値である。指標値は、鋼板Wの温度であってもよいが、ここでは、指標値は、温度降下量であり、訓練用データNo.1BAでは、この温度降下量は、実操業データNo.1の「入側」の温度T1Aを基準に、実操業データNo.1の「入側」の温度T1Aと、実操業データNo.1の「中間」の温度(温度計53bで測定された鋼板Wの温度)T1Bとの差分(=T1B-T1A)である。訓練用データNo.1CAは、出側523の予測値を学習する訓練に用いられる。訓練用データNo.1CAにおいて、鋼板データは、実操業データNo.1の鋼板データであり、初期温度は、実操業データNo.1の「入側」の温度であり、冷却パラメータは、1番目~11番目のセクション521の冷却パラメータの合計値である。より具体的には、合計上部水量は、1番目~11番目のセクション521における各上部水量の合計値であり、合計下部水量は、1番目~11番目のセクション521における各下部水量の合計値であり、合計搬送時間は、1番目~11番目のセクション521における各搬送時間の合計値である。温度降下量は、実操業データNo.1の「入側」の温度T1Aを基準に、実操業データNo.1の「入側」の温度T1Aと、実操業データNo.1の「出側」の温度T1Cとの差分(=T1C-T1A)である。このように各実操業データから各訓練用データが作成される。
【0113】
第2訓練用データにおいて、鋼板データ、初期温度、冷却パラメータ(合計上部水量、合計下部水量、合計搬送時間)は、第2入力層に入力され、温度降下量(指標値の一例)は、正解ラベルである。
【0114】
学習フェーズに用いる第3訓練用データの作成について説明する。図18は、第2実施形態において、図4に示す実操業データから作成された第3訓練用データの例を示す表である。一例として、第1実施形態で用いた図4に示す実操業データから、第3訓練用データを作成する場合について説明する。
【0115】
この第3訓練用データの作成では、上述の第2訓練用データを用いた機械学習によって概算温度予測モデルが作成された後に、まず、実操業データが取得され、そして、第3訓練用データが作成される。例えば、図4に示す実操業データNo.1が取得され、そして、実操業データNo.1から、図18に示す訓練用データNo.1BBおよび訓練用データNo.1CBが作成される。この第3訓練用データの作成は、図5に示す予測値に代え、図18に示す誤差温度を作成する点を除き、第1実施形態における第1訓練用データの作成と同様であるので、その説明を省略する。この誤差温度は、冷却設備52で冷却されている鋼板Wの温度測定で得られた前記鋼板Wの温度、および、熱伝導方程式で計算された、前記冷却設備52で冷却されている前記鋼板Wの温度の少なくとも一方を基にした指標値と、機械学習後の概算温度予測モデル61Aで予測された前記指標値との差である。指標値は、鋼板Wの温度であってもよいが、ここでは、上述のように、指標値は、温度降下量である。訓練用データNo.1BBにおいて、誤差温度は、実操業データNo.1の「出側」の温度T1Cに対する、機械学習後の概算温度予測モデル61Aでの予測値の誤差DT1Bである。訓練用データNo.1CBにおいて、誤差温度は、実操業データNo.1の「中間」の温度(温度計53bで測定された鋼板Wの温度)T1Bに対する、機械学習後の概算温度予測モデル61Aでの予測値の誤差DT1Cである。訓練用データNo.1BBは、中間箇所524(途中箇所の例)の予測値を学習する訓練に用いられ、訓練用データNo.1CBは、出側523の予測値を学習する訓練に用いられる。
【0116】
第3訓練用データにおいて、鋼板データ、初期温度、各セクション冷却パラメータ(上部水量、下部水量、搬送時間)は、第3入力層に入力され、誤差温度は、正解ラベルである。
【0117】
学習フェーズでは、まず、ユーザは、概算温度予測モデル61Aおよび誤差温度予測モデル61Bそれぞれを設計し、次に、ユーザは、入力部3を操作して、第2および第3訓練用データを処理部1aに記憶させる。そして、学習フェーズ実行部13aは、前記概算温度予測モデル61Aに、第2訓練用データを学習させ、誤差温度予測モデル61Bに、第3訓練用データを学習させる。より具体的には、冷却設備52の出側における予測値を算出する場合、学習フェーズ実行部13aは、鋼板Wが11個(複数)のセクション521のそれぞれでの前記鋼板Wの冷却パラメータの合計値を有する第2訓練用データを、前記概算温度予測モデル61Aに学習させ、鋼板Wが11個(複数)のセクション521を通過したときの前記冷却パラメータを有する第3訓練用データを、前記誤差温度予測モデル61Bに学習させる。冷却設備52の入側522から出側523までの途中に位置する途中箇所における予測値を算出する場合、学習フェーズ実行部13aは、鋼板Wが入側522から前記途中箇所までのセクション521を通過したときの冷却パラメータの合計値を有する第2訓練用データ(第4訓練データの一例)を、前記概算温度予測モデル61Aに学習させ、鋼板Wが入側522から前記途中箇所までのセクション521を通過したときの前記冷却パラメータを有し、かつ、前記途中箇所から出側523までのセクション521での前記冷却パラメータとして、ゼロ(前記鋼板Wが未通過のセクション521に対する前記冷却パラメータとなる予め定められた値)を有する第3訓練用データ(第5訓練データの一例)を、前記誤差温度予測モデル61Bに学習させる。
【0118】
予測フェーズでは、まず、予測フェーズ実行部14aは、オペレータが入力部3を用いて入力した、予測値を算出する対象となる鋼板Wの鋼板データを取得し、記憶する。次に、予測フェーズ実行部14aは、温度計53aが測定した、熱間圧延後のその鋼板Wの温度(初期温度)を、IF部2を介して取得し、記憶する。
【0119】
各セクション521ごとに順に予測値を求める場合では、次のように各処理が実行される。
【0120】
次に、予測フェーズ実行部14aは、冷却設備52の制御部から送信されてきた、1番目のセクション521での冷却パラメータ(上部水量、下部水量および搬送時間)を、IF部2を介して取得し、記憶する。1番目のセクション521は空冷式なので、上部水量および下部水量はゼロである。次に、予測フェーズ実行部14aは、1番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値を算出する。より具体的には、予測フェーズ実行部14aは、前記記憶した鋼板データ、初期温度、1番目のセクション521での冷却パラメータの合計値(ここでは、1個のセクション521であるので1番目のセクション521での冷却パラメータそのもの)を、概算温度予測モデル61Aの第2入力ユニット611Aに入力して温度降下量を第2出力ユニット612Aから出力させ、前記記憶した鋼板データ、初期温度、1番目のセクション521での冷却パラメータを誤差温度予測モデル61Bの第3入力ユニット611Bに入力すると共に、第2記憶部12からゼロデータ121を読み出して2番目~11番目のセクション521での冷却パラメータとして、ゼロを第3入力ユニット611Bに入力し、誤差温度を第3出力ユニット612Bから出力させ、これら温度降下量と誤差温度との和を求め、この求めた和(より高精度に予測された温度降下量)と前記初期温度(入側522の鋼板Wの温度)とから、1番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値を求める。
【0121】
次に、予測フェーズ実行部14aは、冷却設備52の制御部から送信されてきた、2番目のセクション521での冷却パラメータを、IF部2を介して取得し、記憶する。次に、予測フェーズ実行部14aは、2番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値を算出する。より具体的には、予測フェーズ実行部14aは、前記記憶した鋼板データ、初期温度、1番目および2番目の各セクション521での各冷却パラメータの合計値を、概算温度予測モデル61Aの第2入力ユニット611Aに入力して温度降下量を第2出力ユニット612Aから出力させ、前記記憶した鋼板データ、初期温度、1番目および2番目の各セクション521での各冷却パラメータを誤差温度予測モデル61Bの第3入力ユニット611Bに入力すると共に、第2記憶部12からゼロデータ121を読み出して3番目~11番目のセクション521での冷却パラメータとして、ゼロを第3入力ユニット611Bに入力し、誤差温度を第3出力ユニット612Bから出力させ、これら温度降下量と誤差温度との和を求め、この求めた和と前記初期温度とから、2番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値を求める。
【0122】
次に、予測フェーズ実行部14aは、冷却設備52の制御部から送信されてきた、3番目のセクション521での冷却パラメータを、IF部2を介して取得し、記憶する。次に、予測フェーズ実行部14aは、3番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値を算出する。より具体的には、予測フェーズ実行部14aは、前記記憶した鋼板データ、初期温度、1番目ないし3番目の各セクション521での各冷却パラメータの合計値を、概算温度予測モデル61Aの第2入力ユニット611Aに入力して温度降下量を第2出力ユニット612Aから出力させ、前記記憶した鋼板データ、初期温度、1番目ないし3番目の各セクション521での各冷却パラメータを誤差温度予測モデル61Bの第3入力ユニット611Bに入力すると共に、第2記憶部12からゼロデータ121を読み出して4番目~11番目のセクション521での冷却パラメータとして、ゼロを第3入力ユニット611Bに入力し、誤差温度を第3出力ユニット612Bから出力させ、これら温度降下量と誤差温度との和を求め、この求めた和と前記初期温度とから、3番目のセクション521で冷却された鋼板Wの温度の予測値を求める。
【0123】
以下、同様にして、予測フェーズ実行部14は、4番目~11番目のセクション521のそれぞれで冷却された鋼板Wの温度の予測値を算出する。なお、11番目のセクション521(出側523)の場合、鋼板Wは、全てのセクション521で冷却されるので、第2記憶部12に記憶されているゼロデータ121は、予測値の算出に用いられない。
【0124】
一方、全セクション521の各予測値を一度に求める場合では、冷却設備52の制御部は、全セクション521の冷却パラメータを予測フェーズ実行部14aに送信し、予測フェーズ実行部14aは、送信されてきた全セクション521の冷却パラメータを、IF部2を介して取得し、記憶する。そして、予測フェーズ実行部14aは、各セクション521ごとに、第2および第3入力ユニット611A、611Bに入力する、冷却パラメータの合計値や冷却パラメータ等の各入力データを生成して第2および第3入力ユニット611A、611Bに入力して各温度降下量および各誤差温度を出力させ、全セクション521の各予測値を求める。
【0125】
以上説明したように、第2実施形態における鋼板温度予測装置100aは、外挿領域でも比較的高い精度で温度が予測でき、したがって、上記鋼板温度予測装置100aは、より高い精度の温度予測が期待できる。
【0126】
第2実施形態における鋼板温度予測装置100aでは、より高い精度の温度予測が期待できる概算温度予測モデル61Aおよび誤差温度予測モデル61Bが機械学習で生成できる。
【0127】
図19は、第1および第2実施形態それぞれの各誤差分布を示す図である。図19の横軸は、誤差であり、その縦軸は、その大きさ(レベル)である。曲線αは、第1実施形態の場合の誤差分布を示し、曲線βは、第2実施形態の場合の誤差分布を示す。一例では、まず、コイル64本(64個の鋼板W)における実操業データから第1ないし第3訓練用データが生成され、温度予測モデル61、概算温度予測モデル61Aおよび誤差温度予測モデル61Bが機械学習された。その後に生産された1本のコイルの実操業データを用いて、温度予測モデル61の予測値の誤差分布α(第1実施形態の場合の誤差分布α)、および、概算温度予測モデル61Aおよび誤差温度予測モデル61Bによる予測値の誤差分布β(第2実施形態の場合の誤差分布β)が計算された。その計算結果が図19に示されている。図19から分かるように、第2実施形態の場合の誤差分布βは、第1実施形態の場合の誤差分布αより、0に近づいており、第2実施形態における鋼板温度予測装置100aは、より高い精度で温度予測ができている。
【0128】
また、鋼板Wの温度制御では、出側523における鋼板Wの目標温度は、その種類が少ないため、指標値が鋼板Wの温度である場合、実操業データにおける互いに異なるデータの個数が少なくなり、第2訓練用データの個数が少なくなるが、指標値を温度降下量とすることで、実操業データにおける互いに異なるデータの個数が多くなり、第2訓練用データの個数が多くできる。
【0129】
誤差温度予測モデル61Bは、概算温度予測モデル61Aで使用しない冷却パラメータを用いて機械学習し、予測することで、概算温度予測モデル61Aで予測された予測値に含まれる第2誤差をより適切に修正するように、誤差温度を予測できる。概算温度予測モデル61Aで予測された予測値に含まれる第2誤差は、その分散が温度降下量の分散より小さいため、外挿領域に対する予測精度の悪化を抑制できる。
【0130】
なお、上述の第2実施形態において、複数のセクション521や鋼板Wが所定のルールに従って纏められてもよい。
【0131】
例えば、複数のセクション521は、順番が連続する2以上のセクション521から成る2以上のグループに予め分けられてもよい。このような場合、第1記憶部11aは、複数のセクション521を順番が連続する2以上のセクション521から成る2以上のグループに予め分けた条件下で、前記2以上のグループのそれぞれに対応して構築された2以上の概算温度予測モデル61Aおよび誤差温度予測モデル61Bそれぞれを記憶する。そして、予測フェーズ実行部14aは、前記2以上のグループのそれぞれについて前記指標値および前記誤差温度それぞれを出力させ、前記2以上のグループのそれぞれについて出力させた各前記指標値と各前記誤差温度との各和を算出する。このような鋼板温度予測装置100aでは、局所的な設備環境による影響の機械学習が容易になり、概算温度予測モデル61Aおよび誤差温度予測モデル61Bそれぞれをグループ分けすることで、一度に機械学習できる第2および第3訓練用データの容量が増加できる。
【0132】
あるいは、例えば、鋼板Wは、前記鋼板Wの長手方向に沿って前記鋼板Wを2以上の区間に予め分けられてもよい。このような場合、第1記憶部11aは、鋼板Wの長手方向に沿って前記鋼板Wを2以上の区間に予め分けた条件下で、前記2以上の区間のそれぞれに対応して構築された2以上の概算温度予測モデル61Aおよび誤差温度予測モデル61Bそれぞれを記憶する。予測フェーズ実行部14aは、前記2以上の区間のそれぞれについて前記指標値および前記誤差温度それぞれを出力させ、前記2以上の区間のそれぞれについて出力させた各前記指標値と各前記誤差温度との各和を算出する。このような鋼板温度予測装置100aでは、鋼板Wの長手方向に沿って区分けすることで、鋼板Wの位置に応じた特徴(例えば先端部が撓んでいることや、先端部付近で温度降下量が大きいこと等)を考慮した機械学習が実施できる。
【0133】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0134】
1、1a 処理部
11、11a 第1記憶部
12 第2記憶部
13、13a 学習フェーズ実行部
14、14a 予測フェーズ実行部
51 圧延機
52 冷却設備
53、53a、53b、53c 温度計
521 セクション
522 入側
523 出側
524 中間箇所
61 温度予測モデル
61A 概算温度予測モデル
61B 誤差温度予測モデル
611 第1入力ユニット
611A 第2入力ユニット
611B 第3入力ユニット
612 第1出力ユニット
612A 第2出力ユニット
612B 第3出力ユニット
100、100a 鋼板温度予測装置
W 鋼板
D 搬送方向
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