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特許7387633直径方向に対向する感知電極を有する可撓性マルチアームカテーテル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-17
(45)【発行日】2023-11-28
(54)【発明の名称】直径方向に対向する感知電極を有する可撓性マルチアームカテーテル
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/287 20210101AFI20231120BHJP
   A61B 18/14 20060101ALI20231120BHJP
【FI】
A61B5/287 200
A61B18/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020555334
(86)(22)【出願日】2019-04-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 IB2019052928
(87)【国際公開番号】W WO2019197996
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-04-08
(31)【優先権主張番号】15/950,994
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511099630
【氏名又は名称】バイオセンス・ウエブスター・(イスラエル)・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Biosense Webster (Israel), Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ヘレラ・ケビン・ジャスティン
(72)【発明者】
【氏名】ビークラー・クリストファー・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】キース・ジョセフ・トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ゴバリ・アサフ
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-124159(JP,A)
【文献】特表2017-516588(JP,A)
【文献】TANAKA, Y. et al.,Ferrous Polycrystalline Shape-Memory Alloy Showing Huge Superelasticity,SCIENCE,2010年03月19日,Vol. 327, Issue 5972,pp.1488-1490,DOI:10.1126/science.1183169
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/287
A61B 18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用器具であって、
患者の体内に挿入するためのシャフトと、
前記シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有する、複数の可撓性スパインであって、前記可撓性スパインは、前記第2の端部が前記第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲され、前記可撓性スパインのそれぞれが、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成された引張層を備える、可撓性スパインと、
前記可撓性スパインの上に配置された複数の電極と、を備え、
前記可撓性スパイン及び前記電極が、回路基板、及び前記回路基板上に配置された金属要素をそれぞれ含み、
前記回路基板は、前記複数の電極が前記回路基板の直径方向に対向する面の上に配置され、前記対向する面によって前記引張層が挟み込まれるように折り畳まれている、医療用器具。
【請求項2】
前記引張層のそれぞれが、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成された1つ以上の引張繊維を含む、請求項1に記載の医療用器具。
【請求項3】
前記引張層の引張強度が、同じ寸法のニチノール合金層の引張強度よりも大きい、請求項1に記載の医療用器具。
【請求項4】
製造方法であって、
複数の電極が配置された複数の可撓性スパインを製造することと、
シャフトの遠位端に前記複数の可撓性スパインを取り付けることであって、前記複数の可撓性スパインが、前記シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有し、前記可撓性スパインは、前記第2の端部が前記第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲され、前記可撓性スパインのそれぞれが、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成された引張層を備える、取り付けることと、を含み、
前記可撓性スパインを製造することが、前記電極を回路基板上に配置することを含み、
前記可撓性スパインを製造することは、前記回路基板を、前記複数の電極が前記回路基板の直径方向に対向する面の上に配置され、前記対向する面によって前記引張層が挟み込まれるように折り畳むことを含む、製造方法。
【請求項5】
前記可撓性スパインを製造することが、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように、前記スパインのそれぞれに1つ以上の引張繊維を適合させることを含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記可撓性スパインを製造することが、同じ寸法のニチノール合金層の引張強度よりも大きい引張強度を有する引張層を含むことを含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
製造方法であって、
複数の可撓性回路基板上に電極及び導電線をパターン形成することと、
引張材料で作られた1つ以上の繊維上で、前記可撓性回路基板のそれぞれの長手方向軸に沿って前記可撓性回路基板を折り畳んで、前記繊維が、パターン形成された前記可撓性回路基板の2つの直径方向に対向するファセット間に挟まれるようにし、可撓性スパインを形成することと、
シャフトの遠位端に複数の前記可撓性スパインを取り付けることであって、前記複数の可撓性スパインが、前記シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有し、前記可撓性スパインは、前記第2の端部が前記第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲され、前記可撓性スパインのそれぞれに含まれる引張層は、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成されている、取り付けることと、を含み、
前記可撓性スパインを形成することが、前記電極を前記可撓性回路基板上に配置することを含み、
前記可撓性スパインを形成することは、前記可撓性回路基板を、複数の記電極が前記可撓性回路基板の直径方向に対向する面の上に配置されるように折り畳むことを含む、製造方法。
【請求項8】
前記複数の電極が、
前記シャフトの長手方向軸に面する前記可撓性スパインの表面上に配置された第1の複数の電極と、
前記長手方向軸から離れる方向に面する前記可撓性スパインの表面上に配置された第2の複数の電極と、を備え、
895MPaを超える引張強度を有する前記第1の複数の電極と前記第2の複数の電極との間に配置された引張部材を備える、請求項1に記載の医療用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、医療用プローブに関し、詳細には、多電極カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な種類の診断カテーテル及び治療用カテーテルは、心臓診断処置において使用されてもよい。例えば、米国特許出願公開第2016/0081746号は、偏向可能な拡張器を備えた2つ以上の位置センサを有するバスケット形状の電極アレイを有する心房内でのマッピング及び/又はアブレーションに適合されたカテーテルを記載している。カテーテルは、カテーテル本体と、カテーテル本体の遠位端にあるバスケット電極アセンブリと、カテーテル本体の近位端にある制御ハンドルと、を備える。バスケット電極アセンブリは、複数の電極保持スパインと、ユーザーによって押されるか又は引かれ得る制御ハンドルを越えて延在する近位端部分を介してアセンブリを拡張及び折り畳むために、カテーテル本体に対して長手方向に移動するように適合された拡張器と、を有する。拡張器はまた、ユーザーがカテーテル本体及び拡張器を通って延在する少なくとも1つの牽引ワイヤを制御することを可能にする、制御ハンドル上のアクチュエータに応答して偏向するように適合されている。
【0003】
別の例として、米国特許第6,669,693号は、後退可能かつ展開可能な傘体を有する装置を記載している。傘体は、標的組織を円周方向に係合し、アブレーションするためのアブレーション要素を含む。傘体は、広範囲の作業直径にわたって展開され得る、調節可能で適合性の円錐形状の部材である。アブレーション要素は、スパインに取り付けられ、スパインに取り付けられた円周ループ又はループセグメントに取り付けられる。したがって、傘体に取り付けられたアブレーション要素は、肺静脈口の形状に適合し、円周方向の接触を提供することができ、これにより、より正確なアブレーション処置を可能にする。
【0004】
国際特許出願公開第2016/090175号(PCT/US2015/063807)は、標的神経線維(例えば、肝神経調節)又は他の組織を調節するための様々な実施形態、システム、装置、及び方法を記載している。システムは、隣接する肝血管系の蛇行した解剖学的構造にアクセスするように構成され得る。このシステムは、一般的な肝動脈などの動脈又は他の血管を取り囲む(例えば、外膜又は血管周囲腔内の)神経を標的とするように構成され得る。
【0005】
米国特許出願公開2012/0172697は、可撓性の細長い本体と、細長い本体に接続されたハンドルと、細長い本体に接続された少なくとも1つのスパインと、少なくとも1つのスパインに結合した可撓性シートと、を有する、医療装置を記載する。可撓性シートはその上に複数の電極を有し、可撓性シート及び複数の電極は、組織中の電気的情報をマッピングするためのマッピングアセンブリを画定し、少なくとも1つのスパイン及び可撓性シートは、畳み込まれた構造から展開された構造まで可動である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態は、シャフトと、複数の可撓性スパインと、複数の電極と、を含む医療用器具を提供する。シャフトは、患者の体内に挿入するように構成されている。複数の可撓性スパインは、シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有する。スパインは、第2の端部が第1の端部よりも近位になるように、近位に屈曲される。可撓性スパインのそれぞれは、可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成された引張層を含む。複数の電極は、可撓性スパインの上に配置される。
【0007】
いくつかの実施形態では、複数の電極は、可撓性スパインの直径方向に対向する表面上に配置されている。
【0008】
いくつかの実施形態では、可撓性スパイン及び電極は、回路基板、及び回路基板上に配置された金属要素をそれぞれ含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、回路基板は、複数の電極が回路基板の直径方向に対向するファセットの上に配置されるように折り畳まれている。
【0010】
一実施形態では、引張層のそれぞれは、可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成された1つ以上の引張繊維を含む。別の実施形態では、層の引張強度は、同じ寸法のニチノール合金層の引張強度よりも大きい。一実施例では、層の引張強度は、完全に焼鈍されたニチノール(約895MPa)の極限引張強度よりも大きく、加工硬化ニチノールの引張強度(約1900MPa)よりも大きい。
【0011】
本発明の一実施形態によれば、複数の電極が配置された複数の可撓性スパインを製造することを含む製造方法が更に提供される。複数の可撓性スパインは、シャフトの遠位端に取り付けられる。複数の可撓性スパインは、シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有し、スパインは、第2の端部が第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲される。
【0012】
本発明の実施形態によれば、複数の可撓性回路基板上に電極及び導電線をパターン形成することを含む製造方法が更に提供される。可撓性回路基板の対は、可撓性スパインを形成するように、引張材料の層が各対の回路基板間に挟まれた状態で積層される。複数の可撓性スパインは、シャフトの遠位端に取り付けられる。複数の可撓性スパインは、シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有し、スパインは、第2の端部が第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲される。可撓性スパインのそれぞれに含まれる引張層は、可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成されている。
【0013】
本発明の実施形態によれば、複数の可撓性回路基板上に電極及び導電線をパターン形成することを含む製造方法が更に提供される。可撓性回路基板は、引張材料で作られた1つ以上の繊維上で、回路基板のそれぞれの長手方向軸に沿って可撓性回路基板を折り畳んで、繊維が、パターン形成された可撓性基板の2つの直径方向に対向するファセット間に挟まれるようにし、可撓性スパインを形成する。複数の可撓性スパインは、シャフトの遠位端に取り付けられる。複数の可撓性スパインは、シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有し、スパインは、第2の端部が第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲される。可撓性スパインのそれぞれに含まれる引張層は、可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成されている。
【0014】
本発明は、以下の「発明を実施するための形態」を図面と併せて考慮することで、より完全に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態による、カテーテルに基づく電気生理学的マッピングシステムの概略的な絵画図である。
図2】本発明の一実施形態による、軟マルチアームカテーテルの概略的な絵画図である。
図3A】本発明のいくつかの実施形態による、直径方向に対向する電極を備える可撓性スパインの製造段階を例示する概略図である。
図3B】本発明のいくつかの実施形態による、直径方向に対向する電極を備える可撓性スパインの製造段階を例示する概略図である。
図3C】本発明のいくつかの実施形態による、直径方向に対向する電極を備える可撓性スパインの製造段階を例示する概略図である。
図3D】本発明のいくつかの実施形態による、直径方向に対向する電極を備える可撓性スパインの製造段階を例示する概略図である。
図4】本発明の実施形態による、図2の軟マルチアームカテーテルの概略的な詳細絵画図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
概論
心筋内の電気信号は、診断心臓カテーテル上に配置された感知電極によって記録され得る。このような感知電極は、剛性の骨格構造体を含むカテーテル遠位端、又は剛性アームの上に配置されてもよい。剛性の骨格構造は、例えば、両方のそれらの端部でシャフトに固定され、例えばバスケットカテーテルに組み立てられるスパインで作製されてもよい。あるいは、十分に剛性であるアームは、一方の端部のみに保持され得る。
【0017】
しかしながら、場合によっては、剛性の遠位端は問題となり得る。例えば、心筋をマッピングして電気信号を取得する間、剛性構造又は剛性部材で作製された診断用カテーテルは、組織と機械的に接触することによって異所性心拍(すなわち、早期心拍による不規則な心拍リズム)をトリガすることができる。例えば、剛性のスパインの縁部によって心筋の穿孔の危険性もある。
【0018】
以下に記載される本発明の実施形態は、以下では可撓性マルチアームカテーテルと称される、複数の可撓性スパインを備えるマルチアームカテーテルを提供する。可撓性スパインは、高密度の直径方向に対向する感知電極対を含む。複数の可撓性スパインは、シャフトの遠位端の中心から外向きに延在し、軟カテーテルがシャフトに適合された後、シャフトに向かって内側に湾曲し、シャフトの遠位端を越えて近位方向に後方に湾曲する。各可撓性スパインは、例えば、スパイン内に引張材料を埋め込むことによって、その他の端部に固定されることなく屈曲する。
【0019】
換言すれば、所与の可撓性スパインは、シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有し、スパインは、第2の端部が第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲される。
【0020】
いくつかの開示される実施形態は、可撓性回路基板を利用して、上側及び下側(すなわち、可撓性回路基板の直径方向に対向する表面の上に)両方に電極を有するスパインを構築するために、可撓性回路基板を利用する。このような形状により、各電極対位置毎に、2つの対向する方向からの信号を測定することが可能となる。可撓性スパインが完全に延在されると、シャフトに面する電極は、典型的には、組織と接触しない。これらの電極は、スパインが依然としてシースから部分的に前進しているとき、これらの内部の電極が依然として外側にあるときに臨床的に有意であり得、感知は、カテーテルが依然としてコンパクトな形態であり、シース内で部分的に折り畳まれている間に開始することができる。
【0021】
いくつかの実施形態では、回路基板は、2つの対向する側面上に電極を形成するために回路基板を緊密に折り畳むことを可能にする可撓性材料で作製される。Vectran(登録商標)又はUltra High Molecular Weight Polyethylene(UHMWPE)などの高い引張強度を有する薄い材料を、折り曲げられた回路基板の2つのファセット間に挟み込んで、可撓性回路基板を屈曲させることができる。結果として生じるスパイン形状は、心筋との鋭い縁部の接触を回避することによって、更なる構造的及び臨床的安全性を提供する。
【0022】
あるいは、又はそれに加えて、可撓性スパインは、液晶ポリマー(LCP)、カーボンファイバー、グラスファイバー、及び/又はUHMWPEで作製されたものなどの、その屈曲を制御するための1つ以上の高張力強度繊維を含んでもよい。いくつかの実施形態では、可撓性回路は、可撓性スパインの構造的可撓性を維持する方法で、薄膜及び/又は埋め込み糸としてパターン形成された電極導電線を有する。
【0023】
いくつかの実施形態では、可撓性回路基板を屈曲させるために使用される材料の引張強度は、ニチノール合金の引張強度よりも大きい。すなわち、同じ層又は同じ繊維厚の場合、上記の材料のうちの1つを使用して層又は繊維によって及ぼされる引張力は、ニチノール合金のうちの1つから作製された場合よりも高い。ニチノール合金で作製されるカテーテルアームの例は、Biosense Webster(Irvine,California)製のPentaray(登録商標)感知カテーテルのアームである。
【0024】
そのアームが、シャフトの遠位端から懸架されている間に近位及び内側に自己屈曲する、開示された可撓性マルチアームカテーテルは、高い可撓性及び最小剛性を有する任意の解剖学的構造に適応することができる。この設計により、医師は、心腔内でカテーテルを安全に操作し、異所性拍動又は穿孔の危険性が低い組織からの信号を収集することを可能にする。したがって、軟マルチアームカテーテルは、医師の能力を拡張して、特定の心障害、特に心臓のカテーテル法の上記の副作用に対してより脆弱な患者に診断する。更に、可撓性マルチアーム設計は、既存の設計にアクセスすることが困難な解剖学的部分のマッピングへのアクセス性を高めることができる。
【0025】
システムの説明
図1は、本発明の一実施形態による、カテーテルに基づく電気生理学的マッピングシステム20の概略的な絵画図である。システム20はカテーテル21を含み、カテーテルのシャフト22は、シース23を通って患者28の心臓26に挿入される。カテーテル21の近位端は、制御コンソール31に接続されている。本明細書に記載される実施形態では、カテーテル21は、心臓26の組織の電気生理学的マッピング及び/又は電気解剖学的マッピングなど、任意の好適な診断目的で使用され得る。
【0026】
コンソール31は、典型的には、好適なフロントエンドを有する汎用コンピュータである、プロセッサ38を含む。コンソール31はまた、カテーテル21から信号を受信するとともに、プロセッサ38が制御するシステム20の他の構成要素に接続するためのインターフェース回路41も備える。
【0027】
医師30は、テーブル29に横たわっている患者28の脈管系を通してシャフト22を挿入する。インセット25に見られるように、カテーテル21は、シャフト22の遠位端に適合された(シース23の外側に前進した後)軟マルチアーム感知カテーテル40を備える。シャフト22の挿入中に、軟マルチアームカテーテル40は、シース23によって畳み込まれた構成で維持されている。カテーテル40を畳み込まれた構成で収容することにより、シース23はまた、標的位置までの経路に沿って血管外傷を最小限に抑える働きをする。医師30は、カテーテルの近位端付近にあるマニピュレータ32を用いて、及び/又はシース23からの偏向を用いて、シャフト22を操作することによって、心臓26内の標的位置へ軟マルチアームカテーテル40をナビゲートする。シャフト22の遠位端が標的位置に到達すると、医師30は、シース23を後退させて、又はシャフト22を前進させて、軟マルチアーム感知カテーテル40を膨張させる。次いで、医師は、電極24(図2に見られる)を使用して、標的位置の組織から信号を感知するように、コンソール31を操作する。
【0028】
図示した実施形態は、具体的には、心臓組織の電気生理学的感知のための軟マルチアーム感知カテーテル40の使用に関するものであるが、システム20の要素及び本明細書に記載の方法は、円形アブレーションカテーテル、バルーンアブレーションカテーテル、及びマルチアームアブレーション装置などの多電極アブレーション装置を制御する際に加えて適用されてもよい。
【0029】
直径方向に対向する感知電極を有する軟マルチアームカテーテル
図2は、本発明の一実施形態による、軟マルチアーム感知カテーテル40の概略的な絵画図である。分かるように、軟マルチアームカテーテル40は、シャフト22の遠位端に適合される。カテーテル40は、シャフト22の遠位端の中心から斜め外側に延在する複数の可撓性スパインで作製される。次いで、スパインは、シャフト22の遠位端の上で、近位方向に内側に屈曲し、それらの他方の端部は自立し、固定されていない。矩形の感知電極24の形態の多数の金属要素は、対向する方向からの信号の検出を可能にするように、可撓性スパイン27の2つのファセットの上にパターン形成される。
【0030】
スパインが完全に拡張した後にシャフトに面する電極24は、スパイン27がシースから完全に前進する前に、依然として臨床的に有意であり得る。スパイン27が部分的に前進されると、そのような内部電極は外側にあり、カテーテルが依然としてコンパクトな形態である間に、シース内に部分的に折り畳まれている間に感知が開始され得る。
【0031】
可撓性スパイン27は、スパインが接触することができる解剖学的構造に優しく適応するように、実質的に半浮遊している。スパイン27の縁部は、スパインの縁部と組織との鋭い接触を回避するように、シャフト22に向かって向いている。
【0032】
スパイン27は、内側に押圧されたときに、例えば組織の表面に押圧されたときに、弾性の対向する力を加えるように設計されている。弾性対向力の強度は、カテーテル40の可撓性を最適化するように設計及び/又は製造中に調整することができる。一実施形態では、対向する弾性力は、電極24と組織との堅固な接触を確実にするのに十分に強いが、依然として、心筋組織とカテーテル40の1つ以上のスパイン27の機械的接触時に異所性心拍などの望ましくない事象を最小限に抑えるのに十分に弱い。
【0033】
図2に示されている例示は、単に概念を分かりやすくする目的で選択されている。可撓性スパインの他の構成が可能である。円形電極などの代替的又は追加的なパターンが可能であり、追加の種類のパターン形成されたセンサ又は電極、例えば、切除、歪み、超音波、又は任意の他の好適な種類のセンサ若しくは電極を適合することが可能である。可撓性スパイン27の断面は、形状が変化してもよい。可撓性スパインを包含し得る電極の分布及び数は、様々であり得る。例えば、リング形状の電極は、円形の断面を有する可撓性スパインの上に配置されてもよい。
【0034】
図3A図3Dは、本発明のいくつかの実施形態による、直径方向に対向する電極を備える可撓性スパイン27の製造段階を例示する概略図である。一般に、可撓性スパイン及び電極は、回路基板、及び回路基板上に配置された金属要素をそれぞれ含む。
【0035】
図3Aは、折り畳まれてスパイン27を形成する前の可撓性回路基板52を示す。感知電極24a及び24bは、それらを物理的及び電気的に分離する折り畳み線51を有する回路基板52上にパターン形成される。可撓性回路基板52が折り畳み線51に沿って折り畳まれると、電極24a及び24bは、以下に更に記載されるように、直径方向に対向する電極形状を形成する。
【0036】
図3Bは、スパイン27上に配置された直径方向に対向する電極を達成するために回路基板52を折り畳むことによって作製された折り畳まれたスパイン27を示す。折り畳まれた回路基板52は、スパインの内部に沿って延在する1つ以上の引張繊維54を包み込み、必要な構造強度及びスパイン27がその端部の一方に固定される際に屈曲する傾向を提供する。
【0037】
図3Cは、可撓性スパイン27が、液晶ポリマー(LCP)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、パラアラミド、炭素繊維、又はガラス繊維などの引張材料50の層で作製された別の実施形態を示しており、この層は、2つの可撓性回路基板52a及び52bの間に積層される(例えば、回路基板52を線51に沿って2つに切断することによって作製された)。感知電極24は、基板52a及び52bの上に、反対方向に対向するようにパターン形成される。
【0038】
図3Dは、可撓性基板65上の電極24のパターン形成スキームの拡大断面図を提供する。一実施形態では、電極層61は、絶縁ポリイミド層64上に堆積された銅で作製される。次にニッケルを銅上に堆積させ、最終的に金をニッケル上に堆積させる。代替実施形態では、電極層61は、絶縁ポリイミド層64上にスパッタリングされたチタンタングステン(TiW)シード層から作製される。次に金をシード層上にスパッタし、その後、金の最終層をめっきプロセスで添加する。電極24の導電トレース63は、電極24をシステム20に接続するようにポリイミド層64の下に埋め込まれており、ポリイミド絶縁層64は、電極層61からトレース63を絶縁する。一実施形態では、導電トレース63は、金の層66内に封入された銅で作製される。ビア62(貫通孔)は、電極24を導電トレース63と電気的に接続するように、(例えば、プリント基板52を介してエッチング又は穿孔することによって)形成され、金でめっきされる。一実施形態では、ビア62は、直径方向に対向する電極を接続するために、可撓性基板65を通ってより深くかつ全ての方法で延在する(図3Dは、電極でコーティングされた1つのファセットのみを示し、一方で、反対側の電極を接続するために、ビアははるかに深く延在して、可撓性基板65の他のファセット上の他の電極に到達する)。
【0039】
接着層66は、ポリイミド層64を可撓性基板65に接合して、追加の耐久性を提供し、多層を製造する助けとなる。
【0040】
図3A図3Dに示される製造設計の例は、概念を明確化する目的のために単に選択されている。代替的な実施形態では、パターン形成された設計は、異なる数及び種類の電極を含んでもよい。可撓性スパイン27の異なる部分及び層の処理技術は、様々であってもよい。
【0041】
一実施形態では、それぞれの可撓性スパイン27上にパターン形成された最大32個の感知電極24(例えば、16個の対向する対)を有する可撓性マルチアームカテーテルが提供される。カテーテル40は、8個のスパインで作製され、カテーテル40に配置された感知電極の総数は、最大256個の電極である。
【0042】
図4本発明の実施形態による、図2の軟マルチアームカテーテルの概略的な詳細絵画図である。例えば、図4のカテーテル42は、各スパイン27上の12電極対24を示し、各電極対24は、長手方向軸100から離れて面する電極24a、及び長手方向軸100に面する電極24bを有する。スパイン27は、スパイン27が管状シャフト22から完全に延在するとき、曲率半径Rがスパインの内側表面27bの一部分上に形成され得るように構成される。見られるように、スパイン27は外向きに延在し、次いでシャフト22の長手方向軸100に対して近位及び内側に屈曲する。一実施形態では、引張材料50は、可撓性スパイン27を予め設定された長手方向軸100に対して約0.40インチの曲率半径Rで自由に屈曲させるように構成され(すなわち、可撓性スパイン27が有するほぼ円形の弧形状の半径)、肺静脈の口のような同様の典型的な大きさを有する湾曲した解剖学的構造に可撓性スパイン27が適合するようになる。
【0043】
一般に、カテーテル40が完全に展開された後、電極24aの少なくとも一部は組織と物理的に接触する。一方、電極24bは、典型的には、組織と接触していない(むしろ、血液のみで)。電極24bは、スパインが依然としてシースから部分的に前進しているとき、これらの内部の電極が依然として外側にあるときに臨床的に有意であり得、感知は、カテーテルが依然としてコンパクトな形態であり、シース内で部分的に折り畳まれている間に開始することができる。加えて、電極24bは、背景(例えば、遠距離場)電気生理学的信号の収集に使用されてもよく、プロセッサ41は、それぞれの電極24aからの組織電気生理学的信号の分析のために利用することができる。
【0044】
一実施形態では、電極24a及び24bのサイズは、それぞれ幅×長さで、約0.040×約0.027インチである。隣接する電極24間の間隙34の長さは、約0.030インチである。電極及び間隙のサイズは、心内測定電気生理学的信号の医学的に必要とされる空間分解能を提供するように設計される。本明細書に記載及び例示される例示的な構成は、スパイン内のニチノールワイヤなどの剛性の骨格部材を排除する一方で、それぞれの電極対24のための外側電極24a及び内側電極24b(図4)を介したスパイン27の両側からの信号の検出を可能にする。これは、各スパインを可撓性回路基板を有するように構成することによって達成することができる。基板は、電極として基板の外面上に導電性表面を有する。表面間に配置された好適な引張部材(例えば、ポリマー繊維)を有する薄い可撓性回路を使用することによって、医師は、心臓のスパイン27を操作でき、スパイン27の配向並びにスパイン部材による合併症のリスクがより低いことにかかわらず、信号を収集できる。
【0045】
本明細書に記載された実施形態は、主として心臓電気生理学的マッピング及び/又は電気解剖学的マッピング、に対処するものであるが、本明細書に記載された方法及びシステムはまた、例えば、耳鼻咽喉科学又は神経学的な処置術などの他の用途においても用いられ得る。
【0046】
したがって、上記に述べた実施形態は、例として引用したものであり、また本発明は、上記に具体的に示し説明したものに限定されないことが理解されよう。むしろ本発明の範囲は、上記の様々な特徴の組み合わせ及びその部分的組み合わせの両方、並びに上述の説明を読むことで当業者に想到されるであろう、先行技術において開示されていないそれらの変形例及び修正例を含むものである。参照により本特許出願に組み込まれる文献は、これらの組み込まれる文献において、いずれかの用語が本明細書において明示的又は暗示的になされた定義と矛盾する様式で定義されている場合には、本明細書における定義のみを考慮するものとする点を除き、本願の一部とみなすものとする。
【0047】
〔実施の態様〕
(1) 医療用器具であって、
患者の体内に挿入するためのシャフトと、
前記シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有する、複数の可撓性スパインであって、前記スパインは、前記第2の端部が前記第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲され、前記可撓性スパインのそれぞれが、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成された引張層を備える、可撓性スパインと、
前記可撓性スパインの上に配置された複数の電極と、を備える、医療用器具。
(2) 前記複数の電極は、前記可撓性スパインの直径方向に対向する表面上に配置されている、実施態様1に記載の医療用器具。
(3) 前記可撓性スパイン及び前記電極が、回路基板、及び前記回路基板上に配置された金属要素をそれぞれ含む、実施態様1に記載の医療用器具。
(4) 前記回路基板は、前記複数の電極が、前記回路基板の直径方向に対向するファセットの上に配置されるように折り畳まれている、実施態様3に記載の医療用器具。
(5) 前記引張層のそれぞれが、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成された1つ以上の引張繊維を含む、実施態様1に記載の医療用器具。
【0048】
(6) 前記引張層の引張強度が、同じ寸法のニチノール合金層の引張強度よりも大きい、実施態様1に記載の医療用器具。
(7) 製造方法であって、
複数の電極が配置された複数の可撓性スパインを製造することと、
シャフトの遠位端に前記複数の可撓性スパインを取り付けることであって、前記複数の可撓性スパインが、前記シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有し、前記スパインは、前記第2の端部が前記第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲され、前記可撓性スパインのそれぞれが、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成された引張層を備える、取り付けることと、を含む、製造方法。
(8) 前記スパインを製造することが、複数の電極を前記可撓性スパインの直径方向に対向する表面上に配置することを含む、実施態様7に記載の製造方法。
(9) 前記スパインを製造することが、前記電極を回路基板上に配置することを含む、実施態様7に記載の製造方法。
(10) 前記スパインを製造することは、前記複数の電極が前記回路基板の直径方向に対向するファセットの上に配置されるように、前記回路基板を折り畳むことを含む、実施態様9に記載の製造方法。
【0049】
(11) 前記スパインを製造することが、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように、前記スパインのそれぞれに1つ以上の引張繊維を適合させることを含む、実施態様7に記載の製造方法。
(12) 前記スパインを製造することが、同じ寸法のニチノール合金層の引張強度よりも大きい引張強度を有する引張層を含むことを含む、実施態様7に記載の製造方法。
(13) 製造方法であって、
複数の可撓性回路基板上に電極及び導電線をパターン形成することと、
可撓性スパインを形成するように、前記可撓性回路基板の対を、引張材料の層が各対の前記回路基板間に挟まれた状態で積層することと、
シャフトの遠位端に複数の前記可撓性スパインを取り付けることであって、前記複数の可撓性スパインが、前記シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有し、前記スパインは、前記第2の端部が前記第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲され、前記可撓性スパインのそれぞれに含まれる引張層は、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成されている、取り付けることと、を含む、製造方法。
(14) 製造方法であって、
複数の可撓性回路基板上に電極及び導電線をパターン形成することと、
引張材料で作られた1つ以上の繊維上で、前記回路基板のそれぞれの長手方向軸に沿って前記可撓性回路基板を折り畳んで、前記繊維が、パターン形成された前記可撓性基板の2つの直径方向に対向するファセット間に挟まれるようにし、可撓性スパインを形成することと、
シャフトの遠位端に複数の前記可撓性スパインを取り付けることであって、前記複数の可撓性スパインが、前記シャフトの遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部とを有し、前記スパインは、前記第2の端部が前記第1の端部よりも近位になるように近位に屈曲され、前記可撓性スパインのそれぞれに含まれる引張層は、前記可撓性スパインを近位に屈曲させるように構成されている、取り付けることと、を含む、製造方法。
(15) 医療用器具であって、
長手方向軸に沿って近位端から遠位端まで延在する、カテーテルシャフトと、
前記カテーテルシャフトから前記遠位端に向かって延在する複数の可撓性スパインと、を含み、各可撓性スパインは、
前記カテーテルシャフトの前記遠位端に接続されたそれぞれの第1の端部と、自立しかつ固定されていないそれぞれの第2の端部と、
前記長手方向軸に面する前記スパインの表面上に配置された第1の複数の電極と、
前記長手方向軸から離れる方向に面する前記スパインの表面上に配置された第2の複数の電極と、
895MPaを超える引張強度を有する前記第1の複数の電極と前記第2の複数の電極との間に配置された引張部材と、を備える、医療用器具。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4